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Healthcare 医療費、労働生産性および経済成長における医療技術の役割 Sponsored by 医療技術と 活気ある日本 エコノミスト・インテリジェンス・ユニット

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医療費、労働生産性および経済成長における医療技術の役割

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医療技術と活気ある日本

エコノミスト・インテリジェンス・ユニット

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ヘルスケア

グローバル ビジネス インテリジェンスの世界的リーダーエコノミスト インテリジェンス ユニット(EIU)は、英国の国際経済誌「The Economist」の兄弟企業であるエコノミストグループの調査・解析部門である。1946年創立のEIUは70年間にわたり世界の変化とそれが生み出す市場機会およびリスクに関する情報を企業、金融機関および政府に提供している。

世界が直面している問題の多くが(地球規模とまではいかなくとも)国際的規模であることを考えると、EIUは急速に影響力を増しているグローバル化現象に関する解説、解釈、予測を行う者として理想的な立場にある。

EIUの配信サービス世界の主要組織は、EIUが配信するデータ、解析および予測により世界中で起きている出来事を常に把握している。EIUは以下に特化している。

• 国別解析:さまざまな市場の事業環境および規制環境の評価のほか、国別の詳細な経済的および政治的予測を定期的に行う。

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• 業界解析:主要経済国60ヵ国の主要6業界に関する5年予測、主要項目の解析およびニュース解析。これらの予測は最新デ-タと緻密な分析による業界動向に基づいて行う。

EIUコンサルティングEIUコンサルティングはクライアントのニーズに応じたソリューションを提供する特注サービスである。EIUは以下の主要部門に特化している。

• 消費者市場:EIUとその経営コンサルティング会社であるEIU Canbackは、消費者向け産業に対してデータに基づいたソリューションを提供し、クライアントの新たな市場への参入と現在の市場での成功を支援する。

• ヘルスケア:EIUはそのコンサルタント専門会社であるBazianおよびClearstateと共に、ヘルスケアエコシステムを通じて医療組織が持続可能な事業を打ち立て、それを維持することを支援する。

• 公共政策:EIUのグローバルな公共政策活動は、当該部門で最も影響力を持つステークホルダーの信頼を得ており、明確で目に見える結果を求めている政策立案者およびステークホルダーに対してエビデンスベースの調査を提供する。

エコノミスト コーポレート ネットワークエコノミスト コーポレート ネットワーク(ECN)は、世界市場の経済環境および事業環境をよりよく理解したいと考えている組織のリーダーを対象としたエコノミストグループの顧問サービスである。ECNは示唆に富む独自の情報を配信し、よりよい情報に基づいた戦略と決定の礎となる知識、洞察および意見交換の場を提供する。

ECNはエコノミスト インテリジェンス ユニットに属し、担当の地域および市場について高い見識を備えた専門家がこのネットワークを牽引している。ECNの会員ベースの活動は、アジア太平洋、中東およびアフリカ地域に及んでいる。インタラクティブ会議、独自のイベント、経営幹部レベルの討論、会員に対するブリーフィング、高品質の調査を組み合わせた独自の活動を通して、ECNは現状と予測動向について業界別に的を絞った解析を行うほか、さまざまなマクロ解析(全世界、地域、国および領土レベル)も行う。

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医療技術と 活気ある日本医療費、労働生産性および経済成長における医療技術の役割

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目次

本調査について 2

要旨 3

1.序文:人口の高齢化、パンク寸前の医療費 8

医療技術の影響のモデル化 9

2.スクリーニングの経済的インパクト 12

モデル化の方法 12

4つの機器のモデル化 13

脳血管疾患(虚血性脳卒中)を検査するコンピュータ断層撮影血管造影(CTA) 13

筋骨格疾患(骨粗鬆症)を検査する二重エネルギーX線吸収測定法(DXA) 14

糖尿病を調べるHbA1c検査 16

肺癌を検査するコンピュータ断層撮影(CT)スキャナ 17

3.治療の経済的インパクト 19

モデル化の方法 20

4つの機器のモデル化 21

脳血管疾患(虚血性脳卒中)治療のためのステントレトリーバーを用いた機械的血栓除去 21

筋骨格疾患の治療に用いる人工股関節インプラント 23

糖尿病の治療に使用するインスリンポンプ 24

切除不能の肺癌の治療に使用する体幹部定位放射線療法(SBRT)用の線形加速器(LINAC) 26

4.結論 28

文献との比較 28

調査の限界 29

添付資料 31

疾患の選択 31

脳血管疾患 34

糖尿病 34

肺癌 35

筋骨格疾患 35

機器の選択 36

調査プログラム 37

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本調査について日本は絶対的および相対的に労働力が縮小する人口転換に直面している。低い出生率、移民の制限および世界有数の長寿が人口の高齢化を招いている。人口の4分の1を超える割合が65歳を超えており1、この割合は10年以内に3分の1に増加する2。この数字を見て、日本を「超高齢化」社会と呼ぶ人もいる。この人口推移の影響により、労働市場の縮小と医療費の高騰が起こると予想される。

このような環境にあり、医療制度がすでにパンク寸前である日本では、ますます制限が厳しくなる予算をどこにどのように投資すれば最善の結果が得られるかについて重要な決定を行う必要がある。この論議の中心となる問題には、当然、機器および診断法などの医療技術への投資が含まれる。政策立案者は、さまざまな医療技術の費用対効果を検討するとき、難しい課題に直面する。直接医療費は簡単に計算できるが、回避された二次的疾患にかかる医療費と間接的な経済的寄与の双方を特定することははるかに困難なためである。

この課題を念頭に置いて、AdvaMedは医療技術が日本に及ぼす経済的インパクトに関する調査をEIUに委託した。この調査では、日本における疾患の経済的負荷を調べ、スクリーニングと治療の技術に関する直接費用と間接費用を、医療技術を用いない対照群と比較して数値化した。要するに、医療技術で得られる節減が費用を上回るかどうかを評価した。

この調査は4段階で実施した。第1段階では、日本社会に対する負荷が最も大きい疾患について数値化を行い、医療技術について医療制度および社会全体が負担する直接費用および間接費用をモデル化する手法を特定するために文献レビューを行った。第2段階では、日本の状況に関連する特定の疾患および医療技術について優先順位を付けた。第3段階では、特定の機器の費用および費用節減を、機器を使用しない場合と比較する枠組みを設定した。第4段階では、日本における医療技術の影響を評価するために経済的影響を数値化した。

今回の手法では、4つの疾患領域および8つの医療機器を例として用い、医療技術のインパクトに関する知見を引き出した。医療技術にはそれぞれ独自の費用と有益性があるが、日本において最も負荷が大きい疾患に使用されるさまざまな医療技術について調査を行うこの包括的な手法により新たな知見が得られると考える。本報告書は、日本の医療サービスを支え、限られた労働力を活用するために医療技術をどのように使用できるかという点に光を当てる機会をタイムリーに提供するものである。

1 “Japan Statistical Yearbook 2017, Chapter 2: Population and Households”, Ministry of Internal Affairs and Communication, Statistics Bureau, 2016.

2 “Population Projections for Japan: 2011 to 2060, table 1-1”, National Institute of Population and Social Security Research, 2012.

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要旨欧州およびアジアの数多くの成熟経済圏において、社会経済的傾向の結果として人口の高齢化が進み、医療制度、労働力および予算に及ぼすインパクトが大きくなっている。日本では人口の「超高齢化」(人口の30%超が60歳以上)に伴い過去5年間で人口が100万人減少したことから考えても、高齢化という点で非常に興味深い市場の一つである3。高齢化の結果として、純労働力が絶対数としても相対数としても減少し、これが生産能力およびGDPの潜在的成長の制約となり、最終的には経済の継続的な繁栄の妨げとなる。同時に、増加する介護負担は、減少する人口に重くのしかかっている。

この第2の人口転換のインパクトを軽減するために、日本は健康な加齢を奨励し、労働参加を拡大し、熟練労働者を活用する構想を通して、潜在的な既存労働力をより効率的に利用する方法を模索している。これらの目標に合わせて、予防介入、早期診断を可能にし、患者の活動性の改善と自立を促進させる医療改革が進められている。医療改革の実現には、さまざまな先制的介入手段(食事、運動、精神的健康の管理など)を使用できるが、この白書では目標達成の過程で医療技術が及ぼすインパクトを明らかにしていきたい。

健康に投資する場合、どのように費用対効果を考慮し、労働生産性を高めるかという問題に注目するのは自然なことである。したがって、医療制度および経済全体が負担する直接および間接費用に医療技術が及ぼすインパクトを考慮することが重要である。例を挙げると、治療または早期診断の進歩により入院期間が短縮された結果は医療費削減に直接寄与し、経済全体に対する間接的なインパクトは、患者が職場に戻り、家族介護者の負担が軽減されることで生じる可能性がある。

日本経済に対する医療技術のインパクトを評価するため、この調査では日本にとって負担の大きい4つの疾患領域、すなわち脳血管疾患、肺癌、糖尿病および筋骨格疾患に焦点を当てた。また、各疾患領域について2つの技術を評価した。一つはスクリーニングまたは早期診断、もう一つは疾患の管理となっている。医療機器の選択は、日本の標準医療および医療機器当たりの経済的な寄与度に関する入手可能なデータの深さに基づいて行った。

表1:調査対象とした医療機器

疾患 医療技術(スクリーニング) 医療技術(治療)

脳血管疾患 カテーテルによる頸動脈血管造影金属メッシュケージ:ステントレトリーバー

筋骨格疾患 二重エネルギーX線吸収測定法人工股関節置換術-人工股関節インプラント

糖尿病 HbA1c検査キット インスリンポンプ

肺癌低線量スパイラルCTスキャン(CTスキャナ)

外部照射療法用のリニアアクセラレータ

医療技術が及ぼす経済的なインパクトをa) 直接医療費、b) 社会全体が負担する間接費用、の面で評価するため、各技術についてモデルを構築した。医療技術関連の費用と医療技術が及ぼすインパクトの定量化は、医療、労働衛生および医療経済に関する発表論文に基づいて行った。可能な場合は、日本の情報源または症例研究から費用を数値化した。そのような情報

3 “Japan Statistical Yearbook 2017, Chapter 2: Population and Households”, Ministry of Internal Affairs and Communication, Statistics Bureau, 2016.

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がない場合は、日本以外の情報源を使用した。また、関連する疾患領域の日本人専門家に詳細なインタビューを行い、それに基づいて医療技術関連費用および医療技術が及ぼすインパクトに関する仮定の検証を行った。日本固有の主な所見は以下の通りである。

医療技術を用いたスクリーニングおよび治療は初期費用が高いものの、以下の効果により、全体として医療制度が負担する費用は節減される。

• 労働参加と労働生産性の向上:治療または早期診断がさまざまな形で進歩することに より入院期間が短縮され、障害の軽減またはより早期の回復が可能となる。その結果 として、患者の早期職場復帰、あるいは障害による離職を減らすことができる。

• 死亡率および罹患率の低下:医療介入の主な目標は、QOLの改善または寿命の延長で ある。目標が達成されれば、生産年齢が延長され、精神的健康の改善など無形の利益 が増加する。

• 二次的な疾患にかかる医療費の削減:医療技術により早期に疾患が発見されるように なり、有効な治療が提供されるため、二次的疾患による経済負荷および治療費を軽減 できる可能性がある。

• より自立した生活:さまざまな形で医学が進歩することにより、患者は活動性および 運動能力を獲得でき、長期的な治療の必要性が減る。その結果として、公的介護およ

び家族介護の必要性が減り、介護者が職場復帰できる。

脳血管疾患で最も多い病型である脳卒中を早期診断することにより、多くは医療費の発生が回避でき、アブセンティズム(疾病や体調不良などによる常習的或いは長期的な欠勤)が減少することにより、費用が約83,000円純節減できる。

• 出血または血栓の位置を短時間で正確に特定することにより、患者の転帰および予後が良好になることが増え、その後の治療にかかる医療費が減少する。脳卒中を迅速に診断することで急性期治療の必要性が減り、計85,607円(820ドル)の費用を減らすことができる。

• また、予後が改善することにより、患者は普通の生活に戻ることができ、離職期間が短縮することから、患者当たり平均20,159円(193ドル)の費用節減となる。

表2:患者当たりの年間平均節減額(2016年)

疾患 医療技術患者当たりの平均費用

節減額 (日本円/米ドル)

脳血管疾患カテーテルによる頸動脈血管造影 ¥83,935 | $804

金属メッシュケージ:ステントレトリーバー ¥649,378 | $6,217

筋骨格疾患二重エネルギーX線吸収測定法 ¥24,347 | $233

人工股関節置換術-人工股関節インプラント ¥2,932,054 | $28,071

糖尿病HbA1c検査キット ¥113,123 | $1,083

インスリンポンプ ¥65,115 | $623

肺癌

低線量スパイラルCTスキャン(CTスキャナ) ¥40,299 | $385

体幹部定位放射線治療(SBRT)用のリニアアクセラレータ(LINAC)

¥448,967 | $4,298

1ドル=104.45円EIUの解析および一次調査

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• これらの削減される費用は、医療制度が負担する直接費用21,830円(209ドル)を相殺して余りある。診断機器は耐用年数が長く、処理速度も早いことにより、設備投資額を患者人口全般に分散できている。

脳卒中の治療に(ステントレトリーバーによる)機械的血栓除去術を用いることで、自立できる患者が増え、アブセンティズムが減るために年間約650,000円の費用が節減される。

• 脳卒中発症後に外科的処置を受けた場合、患者が自立できる可能性が高くなるため、介護の必要性が少なくなる。介護者がより広域で職場復帰することで得られるGDP純増分額は、虚血性脳卒中治療の国際的な基準である組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)療法と比較すると、年間約688,117円(6,588ドル)と推定される。

• また、労働年齢の患者の場合、職場復帰する可能性がより高いことから、患者人口当たりのGDPへの寄与額は年間約33,381円(320ドル)増加する。

• 機械的血栓除去術に対し医療制度が負担する追加費用は、年間72,201円(691ドル)であるが、患者の平均余命を考慮すると、GDP増分はわずかに削減されるのみである。

二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)を用いるスクリーニングにより骨粗鬆症を早期に診断でき、股関節骨折の発生率が低下するため、平均約24,000円の費用が節減される。

• DXAスキャナを用いることで骨粗鬆症の早期診断を行うことができるため、患者はこの疾患の管理がしやすくなる。また、股関節骨折のリスクが低下し、手術、入院、経過観察にかかる関連費用の発生が回避され、結果として患者人口当たり66,666円(638ドル)の費用が節減される。

• この額はDXAスクリーニングの直接医療費42,001円(402ドル)を相殺する以上の価値がある。

• この場合、患者人口の大半は退職年齢を過ぎていることから、GDPへの寄与度はほとんど無い。

慢性筋骨格系疾患患者に対し人工股関節置換術を実施することで患者の活動性が増し、介護者への依存度が減るため直接医療費が相殺され、その結果として約2,900,000円の費用節減となる。

• 鎮痛剤の使用に代えて人工股関節置換術を実施すると、患者は活動性および自立性を維持でき、介護の必要性が少なくなり、介護者は職場復帰できる。職場復帰した介護者がGDP与える影響は、患者当たり年間5,572,616円(53,352ドル)となると推定される。

• また、労働年齢の患者はより生産的な生活を継続できることから、GDPに与える影響は1,350,343円(12,928ドル)となる。

• しかし、他の手術と同様に、入院および疾患固有の死亡リスクがあることからGDPの損失が生じる。これによる損失は2,850,401円(27,290ドル)と推定されている。

• また、人工股関節置換術の一人当たりの治療費は高く、インプラントの費用を患者の余命を考慮した場合、費用は1,140,505円(10,919ドル)となる。

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糖尿病の早期発見により疾患管理が改善されるためアブセンティズムが減り、約113,000円の費用節減となる。

• 糖尿病の確定診断にはHbA1c値を使用するが、HbA1c値を用いて患者に糖尿病教育を行うことができ、疾病管理不良による病気欠勤日を減らすことができる。膀胱感染症、関節痛、眩暈などの血糖コントロール不良に起因する症状によって患者の欠勤がなくなると、GDPが123,568円(1,183ドル)増加すると推定される。

• 糖尿病診断にかかる経過観察診療を行うことにより、計20,890円(200ドル)費用が節減される。これは検査費用として医療制度が負担する直接費用10,445円(100ドル)を相殺する以上の費用節減である。

インスリンが必要な患者については、インスリンポンプを使用することでアブセンティズムが減り、介護の必要性が少なくなることから、患者当たり平均65,000円の節減となる。

• 糖尿病では、インスリンポンプを使用すると、継続投与を事前にプログラムすることができ、緊急時は必要に応じて注入量を計算できることから、インスリン投与がより適切かつ正確になる。労働年齢の患者では、疾病管理が改善され、病気による欠勤日数が減ることから、患者当たり年間で推定91,957円(880ドル)の経済的利益がもたらされる。

• また、インスリンポンプを使用している糖尿病患者は、疾病管理にシリンジを使用している患者に比べ早期死亡のリスクも低下し、患者当たりのGDP純増分は15,332円(147ドル)となる。

• さらに、インスリンポンプは使用しやすい設計であるため、介護の必要性が少なくなる。これによるGDP増分は78,823円(755ドル)と推定される。

• インスリンポンプに関連する費用と長期的な治療費は、従来のバイアルおよびシリンジによる投与法と比較すると高く、120,997円(1,158ドル)と推定されるが、GDP増分でこの費用は補われる。

肺癌を早期発見することにより約40,000円の費用節減となる。節減額の大半は、進行が進んだ癌にかかる費用発生が回避されることによるものである。

• 肺癌の高リスク集団(喫煙者など)を対象として、無症候性の早期肺癌を低線量CTスキャンにより特定することで、検査で陽性と判定された患者の約20%に早期治療を行うことができる。その結果、進行癌に必要となるより高額の治療費の発生が回避できる。治療費はスクリーニング人口当たり平均83,602円(800ドル)である。

• 肺癌の早期発見により、進行癌により生じるであろうアブセンティズムが回避される。肺癌が進行すると、咳や胸部不快感の悪化など衰弱をもたらす非特異的な症状のために患者は欠勤することが多くなるが、その結果として経済が負担する全体的な費用は1,523円(15ドル)にとどまる。

• 手技自体にかかる費用は患者当たり41,780円(400ドル)である。診断機器は耐用年数が長く、処理速度が比較的早いため、設備償却費は相殺されている。

救援療法としてリニアアクセラレータ(LINAC)を用いる体幹部定位放射線治療(SBRT)を行うことで約450,000円の純節減となる。節減額の大半は緩和ケアの必要性が少なくなることによるものである。

• SBRTは切除不能の非小細胞肺癌患者に対する救援療法として使用される。この状態の患者に対する代替療法は緩和ケアである。SBRTを使用することで緩和ケアの必要性が少なくなり、年間924,225円(8,848ドル)の費用節減となる。

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• また、死亡率の低下により、患者人口当たり年間113,004円(1,082ドル)が継続してGDPに計上される。

• 医療制度が負担するSBRT用LINACの直接費用は、機器の費用が高く、診療回数が多く、回復まで長期入院が必要となることから、患者当たり推定で588,262円(5,632ドル)となるが、この直接費用はGDP増分で補われる。

以上の結果により、調査対象とした医療機器の場合、より広範囲の社会的、経済的利益が得られるため、中・長期的には医療制度が負担する直接費用を利益が上回ることが示された。

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1. 序文:人口の高齢化、パンク寸前の医療費世界中で政府と医療従事者は常に増え続ける医療サービスへの要求に対応しつつ、高騰する医療費をサービスの質を落とさずに管理するという相反する事柄への対応を求められている。人口の高齢化、複雑な慢性疾患の有病率の増加、高額な医療技術開発費のために、医療費はGDPの成長と比較して相対的に増加し続けていることから、OECD諸国にとってこのバランスを取ることは一層困難になっている。そのため、保険支払者に大きな負荷がかかっており、日本のような単一支払者制度を採用している国では財政にも大きな負荷がかかっている。

多くの意味で、日本はこの問題の最前線にいる。上記の要因に加え、経済成長の停滞および急速に縮小しつつある社会に対処しなければならない状況にある。1990年代の「失われた10年」の後、2000年代に見られた経済成長のきざしも世界的な財政危機と2011年の大震災と津波に打ち消された。この経済停滞には歴史的な低出生率も関係している。名高い日本の長寿と厳格な移民政策が相まって、今日の「超高齢化」現象を招く結果となった。日本の人口の26%は65歳を超えており4、2024年までにこの割合は30%に増加すると言われている。その間、日本の人口は2015年の1億2700万人から1億2100万人に減少すると予測される5。高まり続ける需要に応えるために医療制度への予算を維持するという課題に加えて、労働力の縮小により将来的に弱体化する税基盤に対する課題にも対処しなければならないため、この状況は日本の医療制度が直面している問題をさらに難しくしている。その結果、日本の手薄な労働市場をうまく活用する方策として、健康な加齢を促進し、労働への女性の参加を促し、熟練労働者を雇用するという構想が牽引力を持つようになった。

新しい治療法や革新的な医療技術は、この第2の人口転換の影響を軽減させる方法となる。このような新たな治療/技術革新の多くは、予防を目的とした早期診断を可能にし、疾患管理を改善し、または処置後の自立度を高めることを目的とするものである。多くの場合初期費用は高いが、このような医療技術を採用することで将来発生するさらに高額な費用を回避できる。より広範囲の経済および社会の利益となるように費用対効果が高い医療技術を取り入れることで、長期的には費用が節減され、健康転帰やQOLの改善、また個人がより長い期間社会に寄与することができ、介護者が正式な雇用から離脱する必要がなくなるため、社会参加が改善されるという利益が生じる。

医療技術とは、広範囲の医療機器を示す包括的な用語である。この用語の定義は流動的と言えるが、本報告書では診断、モニタリングおよび疾患治療に使用する機器に対して医療技術という用語を使用し、高額な資本投資(MRI装置など)、使い捨ての診断ツール(血糖モニターなど)、インターベンション機器(放射線治療機器など)およびインプラントなどを含める。

医療技術とは

医療技術とは、広範囲の医療機器を示す包括的

な用語である。この用語の定義は流動的と言え

るが、本報告書では診断、モニタリングおよび

疾患治療に使用する機器に対して医療技術とい

う用語を使用し、高額な資本投資(MRI装置な

ど)、使い捨ての診断ツール(血糖モニターな

ど)、インターベンション機器(放射線治療機

器など)およびインプラントなどを含める。

4 “Japan Statistical Yearbook 2017, Chapter 2: Population and Households”, Ministry of Internal Affairs and Communication Statistics Bureau, 2016.

5 “Population Projections for Japan: 2011 to 2060, table 1-1”, National Institute of Population and Social Security Research, 2012.

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医療技術の影響のモデル化

日本は世界で最も発展し進展した医療制度を持つ国の一つである。「最善」の医療制度を特定することを目的とした多国間調査で、日本は常に上位にランクされている。たとえば、健康転帰と費用に関するEIUの報告6において日本はトップであり、その優れた結果と高い効率を誇れるだけの多くの理由がある。

成熟経済国である日本の疾患負荷は主に非伝染性疾患、いわゆる生活習慣病によるものである。これは、いくつかのフィードバックループ「20世紀に感染性疾患と戦うために医療への多額の投資が行われたこと、寿命と高齢者人口の伸び、そして日本人の生活習慣の変化」の結果である。日本の医療負荷の代表的なモデルを構築するために、次の基準を使用して日本人に対する影響が大きい4つの疾患領域を選択した。

- 社会的負荷が大きい:有病率または発生率が高く、障害調整生存年数(DALY)の高さの誘因であり、また日本の疾患負荷全体の大きな要因となっている。

- 経済的負荷が大きい:有病率と発生率の高さに伴い、疾患が医療制度に対する費用の大きな原因となっており、大きな資源と投資を必要とする。

- 社会的な関心:すべての疾患に対し政府は大きな関心を寄せるべきであり、すべての疾患が将来の医療計画の重要な柱である。

これらの基準を使用して脳血管疾患、肺癌、糖尿病、筋骨格疾患の4つの疾患領域を選択した。4つの疾患領域の選択に関する詳細および日本における疫学的プロファイルの簡単な説明については添付資料を参照のこと。

「医療技術」には、大型スキャナから使い捨ての診断ツールや手術用インプラントまで広範囲の機器が含まれるため、疾患領域ごとに「スクリーニング」機器と「治療」機器の2つの機器について調査を行った。これらのモデルでは、各機器の直接費用と間接費用を、医療なしの場合または医療技術を使用しない医療の場合と比較して推定した。また、計8つのモデルを使用して、医療機器が日本に与える正味の影響の推定値を実例として算出した。費用モデルに含めた医療技術を表3に示す。

6 “Health outcomes and cost: a 166-country comparison”, Economist Intelligence Unit, 2014.

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表3:モデルに使用された医療技術

疾患 医療技術 使用法

脳血管疾患

カテーテルによる頸動脈血管造影脳卒中の診断および脳卒中の原因の同定

金属メッシュケージ:ステントレトリーバー

血塊の回収および除去による虚血性脳卒中の治療

筋骨格疾患

二重エネルギーX線吸収測定法 早期骨粗鬆症の診断

人工股関節置換術-人工股関節インプラント

慢性股関節痛の治療

肺癌

低線量スパイラルCTスキャン(CTスキャナ)

重大な症状を呈する前の早期肺癌の診断

体幹部定位放射線療法(SBRT)用の線形加速器(LINAC)

代替療法が緩和治療となる切除不能の非小細胞肺癌の治療

糖尿病

HbA1c検査キット 早期発症糖尿病の診断

インスリンポンプ少量のインスリンの時限投与による糖尿病の管理

方法の詳細については、添付資料を参照のこと。

当モデルが、より広範囲な事例的結論を導き出せる典型的な調査結果を提示し、より正確に現状を示すため、医療技術が、医療制度に提供しうる多様な貢献を反映する機器が選択されている。そのため、既存の医療標準、新たに導入された技術、診断および治療ツール、固定資本設備、使い捨ての機器、ならびにインプラトを選択範囲に含めた。また、日本の状況に確実に適用できるように、機器の選別を行った。機器選択の詳細については、添付資料を参照のこと。

これらの機器について、以下の領域に与えうる有益なインパクトに基づいて評価を行った。

医療制度に対する直接的な影響

1. 死亡率および罹患率の低下:医療介入の主な目標は、QOLの改善および/または寿命の延長である。目標が達成されれば、生産年齢が延長し、精神的健康の改善のような無形の利益が増加する。

2. 二次的な疾患にかかる医療費の削減:医療技術により早期に疾患が発見されるようになり、有効な治療が提供されるため、疾患による経済負荷および治療費を軽減できる可能性がある。

経済に対する間接的影響

3. 労働参加と労働生産性の向上:治療または早期診断がさまざまな形で進歩することにより、入院期間の短縮、障害の軽減および/またはより早期の回復が可能となる。その結果として、患者の職場復帰が可能となったり、障害による離職が回避される。

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4. より自立した生活:さまざまな形で医学が進歩することにより、患者は活動性および運動能力を獲得でき、長期的な治療の必要性が減る。その結果として、公的介護および非公的介護の必要性が減り、介護者は介護から解放され、労働に復帰する。

これらの利益を医療技術使用の直接費用および間接費用と比較し、総合的な影響を求めた。

医療制度が負担する医療技術の直接費用は容易に測定できるが、労働への参加、緊急入院の回避、入院期間の短縮といった間接費用を特定および測定することは困難な場合がある。各機器の影響を評価するために、一次資料と二次資料の両方を用いて調査プログラムを実施し、日本固有のモデルを構築した。研究プログラムの詳細については添付資料を参照のこと。

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2. スクリーニングの経済的インパクト高リスク集団を対象として特定の疾患を発症する傾向を特定したり(肺癌を対象とした低線量CTスキャナ)、疾患が疑われる患者の診断を確定する(脳卒中を対象としたCT血管造影)ために使用される医療機器の多くは「スクリーニング」ツールと考えることができる。スクリーニングに使用される機器は、大型の医療機器(骨粗鬆症を対象とするDXAスキャナなど)から使い捨ての試験キット(糖尿病を対象としたHbA1c検査)までが含まれる。この代表的サンプルは、これら4つの機器の直接的影響をモデル化することで、より広範囲のスクリーニング機器での結果の推定が行えるように選択した。

この4つの機器について推定された影響は正味でプラスとなり、その範囲はDXAによる骨粗鬆症スクリーニングの一人当たり年間24,000円から糖尿病を対象としたHbA1c検査の一人当たり年間113,000円までであった。この利益の大半は次の2領域で見られた。

• 二次的疾患にかかる医療費の回避:多くの機器が疾患の早期発見および早期診断につながる。このことで予防措置および早期治療が可能となり、より進行した疾患の治療に比べて医療制度が負担する費用が一般に低くなる。これは医療制度にとって費用節減となるため、直接的な利益である。

• 患者のアブセンティズムの減少:早期診断により、入院期間の短縮、障害の軽減および/またはより早期の回復が可能になる。その結果として、患者の職場復帰が可能となったり、障害による離職が回避される。労働力への寄与に基づくGDP増加が予測される。これは間接的な利益である。

表4:患者当たりの年間平均節減額(2016年)

疾患 医療技術患者当たりの平均費

用節減額

脳血管疾患 カテーテルによる頸動脈血管造影 ¥83,935 | $804

筋骨格疾患 二重エネルギーX線吸収測定法 ¥24,347 | $233

糖尿病 HbA1c検査キット ¥113,123 | $1,083

肺癌 低線量スパイラルCTスキャン(CTスキャナ) ¥40,299 | $385

1ドル=104.45円EIUの解析および一次調査

日本は医療費を効率的に配分する戦略を立てていることから、これらの結果の動向を念頭に置くことが重要である。ここまでの説明の大半は直接費用に焦点を当ててきたが、回避可能な費用と医療制度および経済全体に寄与する総合的な経済評価に着目する必要がある。

以下、4領域の疾患に使用したモデルについて詳しく述べる。

モデル化の方法

スクリーニング技術を使用した際の直接的影響の尺度として、医療制度が負担する総費用(

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および総節減費)を1年単位で検討した。これには、使用回数当たりの機器の費用、一般医および専門医の診療費ならびに継続的な投薬の費用を含めた。さらに、早期診断および早期治療により回避された医療費も含めた。日本では、このような費用項目データベースがあり、そのデータの妥当性を確認するために専門医へのインタビューを行った。

経済全体に発生する費用または節減を考慮する間接的影響を評価するために、典型的な患者集団を65歳で区切り、労働人口と非労働人口に分けた。アブセンティズムおよび生産性低下防止により労働人口に生じる利益(および費用)を労働人口当たりのGDPに基づいてモデル

化し、平均的なインパクトを求めるために患者人口全体で頭割りして平均値を算出した。

図1:スクリーニングモデルの要素

直接的影響 定義 間接的影響 定義

スクリーニング費用

•医療機器の購入費を使用回数で分散

•その他の費用:スクリーニングに必要な試薬、医師の診療費

スクリーニングの時間費用

•初診によるGDPの損失

[非労働人口には適用されない]

治療の回避 •二次的疾患を回避する早期診断アブセンティズムの回避

•疾患診断による労働日数増分(疾患管理の改善または入院の減少による)× GDP

[非労働人口には適用されない]

早期診断

•疾患の進行を予防することによる長期の診断期間にかかる費用の回避

•診断のための追加診療

4つの機器のモデル化

脳血管疾患(虚血性脳卒中)を検査するコンピュータ断層撮影血管造影(CTA)

脳血管疾患は、脳への血液供給の問題に関係する状態を説明するために使用する包括的用語である。脳血管疾患には数種類あるが、最もよくみられるものは一過性脳虚血発作(TIA)、出血性脳卒中および虚血性脳卒中である。特定の医療機器の影響を正確にモデル化するために、この調査では虚血性脳卒中に焦点を絞った。

脳卒中(出血性と虚血性の両方)は、脳の一部への血液供給が制限されるか完全に遮断されたときに生じる。脳への血液供給が欠如すると、脳細胞死が生じ、脳の損傷につながったり、場合によっては死亡することもある。虚血性脳卒中(血塊に起因する脳卒中)は最もよくみられる脳卒中であり、全症例の87%を占める。脳卒中の多くは60歳を超える人で生じるが、20~25%は40~60歳の労働年齢人口で認められる。

日本では、コンピュータ断層撮影血管造影(CTA)が脳卒中診断の至適基準と考えられている。しびれ感や脱力などの症状が特に半身にみられる場合、緊急処置室でこの手法による検査を行うことが多い。CTAにより神経科医は血塊または動脈瘤の位置を迅速に特定し、最も有効な治療法を決めることができる。患者が自立生活能を回復するか生涯にわたって麻痺と障害を抱えることになるかは診断から適時な管理を実施するまでの時間によって決まってく

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るため、脳卒中の診断ではタイミングがきわめて重要である。この手法による検査には約30~40分かかり、診断後すぐに治療に移る。

CT血管造影(CTA)による年間平均正味利益は労働年齢人口で‎399,521円(3,825ドル)であるのに対し、非労働人口では63,819円(611ドル)である。結果として、CTAを使用したときの患者当たりの総節減額は83,935円(804ドル)となる。

脳卒中患者の治療は一次医療ではなく救急科で直ちに行われると考えられることから、診療または外来医療に関する費用はない。同じ理由で、スクリーニング時間に関連するGDPへの影響もない。

CTAの使用で達成された早期診断により、患者の80~90%は自立できるようになると推定される。したがって、早期診断によりその後の治療費が回避され、予後が良好なことで就労日数が増えるためGDPが増加する。また、早期診断と診断の遅れを比較して得られた異なる転帰をモデルに組み込んだ。早期に診断されると、診断が遅れた場合に比べ自立生活に戻れる患者の割合が高くなることを示すために、科学文献のデータを使用した。

筋骨格疾患(骨粗鬆症)を検査する二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)

筋骨格疾患(MSD)は筋肉、骨および関節に影響する慢性疾患を説明するために使用する包括的用語であり、関節リウマチ、変形性関節症、骨粗鬆症、四肢の大外傷、脊椎疾患を含む。本報告書では、特定の医療技術(二重エネルギーX線吸収測定法[DXA])の利益に着目し評価するため、日本の経済に大きな負担となっている骨粗鬆症について調査した。

表5:CTAによる利益(費用)(2016年)

患者当たりの年間影響額 説明 労働年齢 非労働年齢

直接費

用 -スクリーニング費用

医療機器にかかる費用、スクリーニング実施スタッフの時間費用、診療費

(¥21,830) ($209)

+ 回避された治療費適時かつ正確な治療により回避された他の急性期治療の費用

¥85,607 $820

+ 回避された診療費 なし-救急手技 ¥0

間接費用

- スクリーニングの時間費用

なし-救急手技 ¥0 ¥0

+ 回避されたアブセンティズム

より適切な治療による予後改善で得られた労働日数増分 x GDP/日

¥335,702 $3,214 ¥0

患者当たり合計‎¥399,521

$3,825¥63,819

$611

患者当たり平均利益の合計 ¥83,935 | $804

1ドル=104.45円EIUの解析および一次調査

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一般に、骨粗鬆症患者は骨折が生じるまでは無症状である。股関節骨折は骨粗鬆症の最も重篤な合併症であり、日本では寝たきりになる主な原因と認識されている。日本骨粗鬆症ガイドラインを含む複数のガイドラインによれば、DXAは骨粗鬆症診断の至適基準とされている。DXAにより予備診断、早期診断および骨折リスクの予測が可能となる。高リスクとされた患者(一般に50歳を超えた女性)が通常の健康診断の一環として、または関節痛が生じたときにスクリーニングを受ける。スクリーニングの結果から骨粗鬆症を発症するリスクがあるか、あるいはすでに発症していることが明らかになった場合には、患者に注意を促す。リスクがあるとされた患者には、荷重運動やカルシウムとビタミンDの摂取を増やすための非医療的な予防介入を行う。場合によっては薬剤介入が行われることもあるが、これは今回のモデルには含めなかった。

DXAスキャナ技術で得られる年間正味利益は労働年齢の患者当たり19,637円(188ドル)、非労働年齢の患者当たり24,650円(236ドル)で、両集団を平均して24,347円(233ドル)であった。明らかではあるが、調査対象としたスクリーニング技術によって得られる経済的利益は、その費用に比べてかなり大きいものであった。

1ドル=104.45円

EIUの解析および一次調査

日本では、DXAスキャナによるスクリーニングを行う前に、骨粗鬆症の専門医に予約を入れる必要がある。医療制度が負担する費用は診療1回当たり20,890円(200ドル)であり、これには理学的検査と骨バイオマーカーを調べる血液検査の費用が含まれる。機器耐用年数にかかる償却費用をも考慮すると、費用が発生しない対照群と比較したときのスクリーニング技術の直接的影響として患者当たり年間42,001円(402ドル)が発生する。来院から病院を出るまで(つまり、結果が得られるまで)の検査時間は平均約3時間である。したがって、スクリーニングを受けない患者と比較した場合、スクリーニング時間に関係する費用は患者当たり年間8,461円(81ドル)である。

骨粗鬆症の早期診断と適切な介入、ならびに適時かつ適切なリハビリテーションにより、患者は職を持ち続けることができ、疾患管理が改善され、より広範囲の経済および社会に課せ

表6:DXAスクリーニングの利益(費用)(2016年)

患者当たりの年間影響額 説明 労働年齢 非労働年齢

直接費用

-スクリーニング費用使用1回当たりの医療機器の費用(総費用を総使用回数で除した額)、理学的検査、バイオマーカーとしての血液検査

(¥42,001) ($402)

+ 回避された治療費 回避された股関節骨折リスクおよび関連費用¥4,000

$38

+ 回避された診療費 回避された診断前の経過観察診療¥62,670

$600

間接費用

- スクリーニングの時間費用

スクリーニングによる損失時間(3時間)× GDP/時 (¥8,461) ($81) ¥0

+ 回避されたアブセンティズム

股関節骨折の予防により得られた労働日数増分 × GDP/日

¥3,447 $33 ¥0

患者当たり合計‎¥19,637

$188¥24,650

$236

患者当たりの平均利益の合計 ¥24,347 | $233

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られる慢性疾患による負荷が減少する。このことはアブセンティズムの減少に顕著に表れ、それによる正味利益は患者当たり年間3,447円(33ドル)である。DXAによる早期介入により、股関節骨折の発生率が高い患者は人工股関節置換術の費用を回避することで利益を受けることができ、結果として4,000円(38ドル)の医療費節減となる。

糖尿病を調べるHbA1c検査

近年、日本では糖尿病、特に2型糖尿病が急増している。その主な理由は寿命の延長と生活習慣の変化である。2型糖尿病患者の多くは無症状であり、診断を受けないまま長年過ごしている。糖尿病患者においては、予防、適時の診断および治療が重要である。腎症、網膜症、神経障害、心血管疾患、脳卒中、死亡など、糖尿病による合併症の多くは早期介入により遅らせることができる。

HbA1c血液検査は、日本糖尿病学会(JDS)のガイドラインによれば、糖尿病診断の至適基準とされている。疲労、霧視、または体重減少など糖尿病の発症と一致する症状を報告する患者については、血漿血糖値を調べ、HbA1c検査を行う。これらの検査の結果で、糖尿病のボーダーラインにあるか発症しているかを十分に診断できる。ボーダーラインと診断された患者には、糖尿病発症の確率を下げるために生活習慣に関する助言を行う。HbA1c検査は、疾患管理が良好であるかどうかを確認するための糖尿病患者のモニタリングにも使用されるが、これは今回の調査の範囲外である。

今回使用したモデルでは、HbA1c検査による確定診断で得られる年間利益は労働年齢の患者当たり232,088円(2,222ドル)、HbA1c検査の年間費用は非労働年齢の患者で10,445円(100ドル)で、患者集団全体で平均して113,123円(1,083ドル)であった。

機器耐用年数にかかる償却費用をも考慮すると、スクリーニング技術の直接的インパクトとして患者当たり年間31,335円(300ドル)が発生する。また、来院から病院を出るまでの平均検査時間は約2時間であるので、スクリーニング時間に関係する間接費用は患者当たり年間5,640円(54ドル)である。

糖尿病の早期診断と適切な医療介入により、合併症が減少し、患者は職を持ち続け、良好な疾患管理が促され、より広範な経済および社会に課せられる疾患負荷が減少する。このこと

表7:HbA1c検査による利益(費用)(2016年)

患者当たりの年間影響額 説明 労働年齢 非労働年齢

直接費用

-スクリーニング費用 使い捨て医療機器にかかる費用、理学的検査(¥31,335)

($300)

+ 回避された治療費適用外:慎重なモデル(二次的疾患にかかる費用は複数の因子に依存するため) ¥0

+ 回避された診療費 回避された診断前の経過観察診療¥20,890

$200

間接費用

- スクリーニングの時間費用

スクリーニングによる損失時間(2時間) × GDP/時 (¥5,640) ($54) ¥0

+ 回避されたアブセンティズム

疾患管理改善により得られた労働日数増分× GDP/日 ¥248,173 $2,376 ¥0

患者当たり合計‎¥232,088 $2,222

(¥10,445) ($100)

患者当たりの平均利益の合計 ¥113,123 | $1,083

1ドル=104.45円EIUの解析および一次調査

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はアブセンティズムに顕著に表れ、それによる利益は患者当たり年間248,173円 (2,376ドル)となった。糖尿病のリスクが高い患者は、早期医療介入により治療費が回避されることで利益を得られる。全体として、早期診断の患者当たりの間接的影響は労働年齢の患者で263,423円(2,522ドル)、非労働年齢の患者で20,890円(200ドル)であった。

肺癌を検査するコンピュータ断層撮影(CT)スキャナ

低線量コンピュータ断層撮影(CT)スキャナは、ヘリカルCTスキャンとも呼ばれる非侵襲的医療用画像検査装置で、日本では高リスク集団における肺癌の早期発見に1993年から使用されている7。正式には推奨されていないものの、日本では低線量CTスキャナの導入以来その使用は確実に増加している。また、CTスクリーニングに特化した認定医および放射線技師の数も年を追って増加している。低線量CTスキャンは高リスク患者(特に喫煙者)の無症候性早期肺癌の発見に使用できる。結果として、早期治療が可能となることで肺癌の死亡率は低下する。現在、日本では年間数10万件の低線量CTスクリーニングが実施されている。

肺癌が疑われる人を対象とした低線量CTスクリーニングによる年間利益をモデルを用いて推定すると、労働年齢の患者当たり31,648円(303ドル)、非労働年齢の患者当たり41,780円(400ドル)、平均して患者当たり40,299円(385ドル)となる。

この報告書に関する意見を専門家に求めたところ、低線量スキャンは高リスクの人を対象とするということである。患者の大半は60~80歳で、労働年齢の患者は約15~20%、30代の患者は1~2%である。スキャンに実際にかかる時間は1分足らずである。このように処理量が高いことと、機器の耐用年数が5年であることからこの機器のコストは5,000回の使用回数で按分でき、その結果、使用当たりの費用はかなり低くなる。また、緊急の場合には1日の間にスキャンを実施して解析し、結果を得ることができるものの、患者の大半は3回または4回は病院に足を運ぶ必要がある。1回目はスキャンの必要性について合意してスケジュールを決定し、2回目はスキャンを行い、3回目は結果の説明を受けるためである。その結果、すべての来院に費やす時間の合計は平均12時間となる。

この検査はリスクが高い人のみを対象とするため、スクリーニングを受けた集団が無症候性

7 Nawa T., Nakagawa T., Mizoue T., Endo K., “Low-dose computed tomography screening in Japan”, J Thorac Imaging, 2015; 30(2): 108-14.

表8:低線量スパイラルCTスキャンの利益(費用)(2016年)

患者当たりの年間影響額 説明 労働年齢 非労働年齢

直接費用

-スクリーニング費用医療機器にかかる費用、スクリーニング実施スタッフの時間費用、診療費

(¥41,780) ($400)

+ 回避された治療費回避された進行癌(ステージ3)にかかる追加費用(ステージ1の癌と比較して)

¥83,601.8 $800

+ 回避された診療費 なし ¥0

間接費用

- スクリーニングの時間費用

スクリーニングで失った12時間 × GDP/時 (¥33,842) ($324) ¥0

+ 回避されたアブセンティズム

疾患管理が改善することにより得られる労働日数増分 × GDP/日

¥23,690 $227 ¥0

患者当たり合計‎¥31,648

$303¥41,780

$400

患者当たりの平均利益の合計 ¥40,299 | $385

1ドル=104.45円EIUの解析および一次調査

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肺癌陽性となる確率はおよそ20%である。早期に診断された癌(無症状のステージ1)は手術のみで治療できるが、癌が進行した状態で診断された場合、一般に化学療法および放射線療法が数クール必要である。今回使用したモデルでは、スクリーニングを受ける患者はステージ1で診断されると仮定している。スクリーニングを受けなければステージ3へ進行した状態で診断されることが多く、医療費はステージ1の548,885円(5,255ドル)に対し、ステージ3では966,894円(9,257ドル)である8。

肺癌の早期診断は転帰を改善するのみでなく、医療制度および社会全体に対し2つの利益をもたらす。まず、肺癌が未診断の患者は癌が進行するにつれ症状に苦しむことが多い。すなわち、このような患者は最終的に肺癌と診断されるまで苦痛と就労時間の損失を被る。また、進行した段階で治療を受けた場合、欠勤期間が長くなる。専門家へのインタビューおよび二次資料に基づくと、肺癌が未診断の患者は症状の管理不良または誤った管理のために平均35日欠勤する。これには、医療機関受診のための欠勤と、病欠の日数、最終的に治療を受けた場合の治療と回復に要する時間が含まれる。

8 Cipriano L.E., Romanus D., Earle C.C. et al., “Lung cancer treatment costs, including patient responsibility, by stage of disease and treatment modality, 1992–2003”, Value Health, 2011; 14(1): 41-52.

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3. 治療の経済的インパクト前章で述べたスクリーニングツールに加え、多くの医療機器を治療用の介入ツールと考えることもできる。同様に、使用される医療機器には、資本集約的な固定資産(肺癌治療用の線形加速器)も使い捨ての機器(脳卒中治療用のステントレトリーバー)も含まれる。インプラント(筋骨格疾患治療用の人工股関節)や体外装着装置(糖尿病治療用インスリンポンプ)も医療機器である。この代表的サンプルは、これら4つの機器の正味の影響をモデル化することで、より広範囲の介入機器について推定が行えるように選択した。

この4つの機器について推定された利益は、糖尿病治療用インスリンポンプの患者当たり年間65,000円から人工股関節の患者当たり年間2,932,000円までの範囲であった。この利益の大半は次の2領域で見られた。

• 介護者の必要性の低減:通常、医療機器による介入で患者が自立状態に戻れる可能性が高くなる。その結果、介護者への依存度が低下し、介護者は経済社会に戻れる。

• アブセンティズムの減少:上記と同様に、医療機器による介入で患者は自立状態に戻れ、仕事に復帰できる。患者の多くは高齢者であり、退職年齢を超えているため、戻るべき正式な職場がないことから、患者にとってのアブセンティズムのインパクトは介護者にとってのインパクトに比べて小さい。

表9:患者当たりの年間平均節減額(2016年)

疾患 医療技術患者人口当たりの平均費用節減額

脳血管疾患 金属メッシュケージ:ステントレトリーバー ¥649,378 | $6,217

筋骨格疾患 人工股関節置換術-人工股関節インプラント¥2,932,054 |

$28,071

糖尿病 インスリンポンプ ¥65,115 | $623

肺癌体幹部定位放射線治療(SBRT)用のリニアアクセラレータ(LINAC)

¥448,967 | $4,298

1ドル=104.45円EIUの解析および一次調査

スクリーニングとは対照的に、プラスのインパクトの大部分は間接的な利益によるものである。しかし、人口転換の結果である手薄な労働市場への対処を試みている日本の状況を考えると、この利益のインパクトは大きい。既存の労働人口を今後も活用していく方法として医療機器に投資するという考えにはいくつかの利点があり、日本が医療予算を効率的に配分する戦略を立てる際にこの点を考慮に入れる必要がある。

各モデルの詳細を以下に示す。

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モデル化の方法

治療の経済的インパクトについては、スクリーニングのモデル化とは異なり、対照群(脳血管疾患および筋骨格疾患に対する薬物治療、肺癌への医療介入なし、糖尿病に対する他の形の医療介入)と比較する形で医療機器のインパクトをモデル化した。これは、スクリーニングが実施されないというシナリオがある一方で、診断を下された患者がなんらかの治療を求めないということは非常に考えにくいためである。医療技術のインパクトを確実に把握するために、医療技術と代替介入法(薬物療法など)が治療選択肢として存在するという事例を

選択した。選択した医療機器とその対照は次の通りである。

表10:技術モデルと対照との比較

疾患 治療技術 ベースライン/対照群

脳血管疾患 機械的血栓除去用ステントレトリーバー血栓溶解薬(組織プラスミノーゲンアクチベータ、tPA)

筋骨格疾患 人工股関節インプラント NSAIDなどの鎮痛薬

糖尿病 インスリンポンプ バイアルとシリンジ 肺癌 外部照射療法用のリニアアクセラレータ 介入なし

治療介入の直接的および間接的影響を対照群と比較してモデル化し、患者当たりの年間利益を算出した。

医療技術介入の直接医療費(および利益)のモデル化を行うために、患者の生涯にわたる医療介入費用、一般医および専門医の診療費、検査の費用ならびに関連の入院費を考慮に入れた。より長期にわたる回復の費用ならびに合併症にかかる費用もモデルに含めた。

スクリーニングモデルと同様に、間接費用も労働人口と非労働人口に分けて算出し、疾患の結果としての入院による生産性の喪失、早期死亡およびアブセンティズムの長期化をモデルに含めた。治療介入が個々のみならず、経済全体に及ぼすインパクトを把握するため、このモデルには介護者のアブセンティズムも労働人口と非労働人口に分けて含めた。

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図2:治療モデルの要素

直接的影響 定義 間接的影響 定義

介入費用

•医療機器にかかる費用 / 医療機器を生涯にわたって使用することによって生じる費用

•医療機器関連の医師診療費

入院による生産性の損失

手術および回復に要する時間 × 労働日数当たりのGDP

[非労働人口には適用されない]

回復および合併症にかかる費用

•リハビリテーションの回数/月 × 必要なリハビリテーション期間(月) × 1回当たりの費用

•より侵襲的な治療による合併症関連費用

アブセンティズム

疾患のために欠勤する人の割合(%)× 病気欠勤日数 × 労働日数当たりのGDP

[非労働人口には適用されない]

介護者の離職離職する必要がある家族の割合(%)× 年間平均労働日数 × 労働日数当たりのGDP

早期死亡

疾患によるGDP損失年数 vs. 健康人口

[非労働人口には適用されない]

4つの機器のモデル化

脳血管疾患(虚血性脳卒中)治療のためのステントレトリーバーを用いた機械的血栓除去

問題の根本原因が血塊であることが明らかとなった虚血性脳卒中に対しては、一般に2通りの治療法がある。すなわち、血栓溶解を行う薬物治療とステントレトリーバーを用いた機械的血栓除去である。血塊を溶解する作用がある組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)による血栓溶解は虚血性脳卒中の治療に長年使用されている。しかし、機械的血栓除去による転帰は薬物治療よりも良好であり、自立状態に戻る患者の割合が高いことが示されている。

機械的血栓除去用のステントレトリーバーは、診断検査で血塊の位置を特定した後に患者の治療に使用される。ステントレトリーバーをカテーテルを通して血管に挿入し血塊を回収すると、血液が再度脳に流れ始める。救急科への来院から治療を受けるまでの最初の数時間は患者の転帰および予後にとってきわめて重要であるというエビデンスが存在する。機械的血栓除去は6時間以内に行う必要があるが、薬物治療が成功する見込みがある時間枠は4時間である。

ステントレトリーバーを用いた機械的血栓除去に関連する年間利益は労働年齢人口では‎1,173,628円(11,236ドル)、非労働人口については615,915円(5,897ドル)で、全体として649,378円(6,217ドル)の利益である。この利益の大半は、介護者の必要性の減少と、アブセンティズムの減少によるものである。この結果は、機械的技術を使用した治療の場合、初期費用は高いかもしれないが、間接費用に関して得られる利益は薬物治療後に見られる利益に比べてはるかに大きいことを示している。また、このモデルにはQOLおよび精神衛生の改善など他の無形の利益は含めていない。無形の利益を含めると、機械的血栓除去による自立度の向上に関連して利益が増加すると考えられる。

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直接医療費については、機械的血栓除去は薬物介入に比べ72,201円(691ドル)高かった。これは介入費用(手術費)が血塊溶解剤を使用する治療の費用に比べ大幅に高いためである。合併症に関する費用が低いことで、この費用はわずかに相殺される。機械的血栓除去を行うと転帰が改善され、自立状態に戻れる患者の比率が高くなり、致死的な脳卒中が減少する。そのため、急性期医療の費用が若干異なってくる。どちらの介入法でも入院期間は9日前後であり、直後のリハビリテーション期間は7週間であったことから、回復に必要な医療については大きな差は認められなかった。

入院の必要性については2通りの介入法の間で大きな差が見られないことから、経済に対する間接費用の違いの大半は、患者のアブセンティズムと介護者のアブセンティズムによるものである。アブセンティズムをモデル化するために、労働年齢の患者の6%について費用をモデル化した。機械的血栓除去後に完全に回復した労働年齢の患者は、一般に自立状態に戻るまでにさらに2週間を要するが、薬物治療を受けた患者では4週間が必要である。一方、部分的に回復した患者(回復したが、自立状態に戻っていない)が完全に回復するまでに要する期間は、機械的血栓除去後は平均3.5ヵ月、薬物治療後は平均5ヵ月である。その結果、労働年齢人口における費用は557,713円(5,340ドル)、患者人口全体を平均すると33,381円(320ドル)となる。

脳卒中の結果として最も負担に感じられることは、死亡ではなく障害のレベルである。患者の大部分が、脳卒中後に部分的な回復がみられても非自立状態となる。その結果、介護者(公的介護者および非公的介護者)の必要性が高くなり、その場合、患者は終日介護者(多くの場合家族)の世話を受けなくてはならない。このような患者や介護者は経済社会に参加できたはずであることから、これはGDPに対しマイナスの影響を及ぼす。

患者当たりの年間影響額 説明 労働年齢 非労働年齢

直接費用

介入費用高額なステントレトリーバー手術と血栓溶解薬との比較

(¥105,582) ($1,011)

回復および合併症にかかる費用

急性期治療の費用および外来処方薬の費用を含む¥33,381

$320

間接費用

入院による生産性の損失

入院期間の差はなし、より長期の外来回復期をアブセンティズムとしてモデル化

¥0 ¥0

アブセンティズム 外来治療による労働損失日数、病気欠勤日の増加¥557,713 $5,340 ¥0

介護者のアブセンティズム

ステントレトリーバーによる患者の自立、介護の必要性の減少

¥688,117 $6,588

早期死亡全原因による死亡に関する2通りの介入の差について明確なエビデンスは得られていない

¥0 ¥0

患者当たり合計 ¥1,173,628 $11,236

¥615,915 $5,897

患者当たりの平均利益の合計 ¥649,378 | $6,217

1ドル=104.45円EIUの解析および一次調査

表11:機械的血栓除去術と組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)による純利益(費用)の比較(2016年)

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筋骨格疾患の治療に用いる人工股関節インプラント

日本の人口のおよそ15%に、少なくとも6ヵ月は続いている中等度から重度の慢性筋骨格痛が見られる9。筋骨格痛の治療は一般に長年使用されている生物医学的モデルに基づくもので、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、チャネル遮断薬およびオピオイド鎮痛薬により慢性疼痛を軽減する。これらの薬剤は抗炎症作用および鎮痛作用があるために広く使用されている。

一方、医療機器を使用すると疾患管理と治癒の改善が得られる。特に、慢性疼痛の治療を目的とした人工股関節置換術は、病気欠勤日数を劇的に減少させ、生産性を向上させることができる。このテクノロジーにより患者の状態が改善する確率が高まることがよくある。また、生存期間の延長が可能となり、労働への参加が増えて業績が向上することで経済が後押しされる。

人工股関節インプラントの年間正味医療費およびGDPに対するその影響は、労働年齢の患者当たり2,338,883円(22,392ドル)、非労働年齢の患者当たり4,432,112円(42,433ドル)、患者人口全体の平均利益は2,932,054円(28,071ドル)と推定された。

股関節痛を呈する患者は人工股関節置換術を受ける前に医師の診察を受ける。手術のため患者は平均23日入院し、医療制度が負担する費用は入院1日当たり13,474円(129ドル)と考えられる。その後、約12回のリハビリテーションを3ヵ月にわたって受ける。人工股関節置換術の費用は患者当たりおよそ731,150円(7000ドル)で、その他、人工股関節(292,982円/2,805ドル)および術前術後の医師の診療(62,670円/600ドル)にも費用がかかる。一方、慢性股関節痛に対する薬物治療を受ける場合にかかるのは、NSAID、COX-2阻害薬などの疼痛および炎症を緩和する薬物の費用(376,020円/3,600ドル)と3ヵ月ごとの医師の診療の費用のみである。これらの費用を合計すると、人工股関節置換術に関して医療制度が負担する年間直接的

9 Matsuda S., Muramatsu K., Kubo T., Fujino Y., “Disease Burden of MSD for the Japanese Society Fit for Work Scheme as a Solution for This Problem”, Asian Pacific Journal of Disease Management, 2012; 6(2): 37-44.

表12:人工股関節置換および鎮痛薬による純利益(費用)の比較(2016年)

患者当たりの年間影響額 説明 労働年齢 非労働年齢

直接費用 介入費用

インプラントおよび手術費(入院費を含む)と鎮痛薬との比較

(¥715,602) ($6,851)

回復および合併症にかかる費用

人工股関節置換後に必要なリハビリテーションにかかる費用

(¥424,903) ($4,068)

間接費用

入院による生産性の損失

放射線療法および回復にかかる時間(¥1,015,254)

($9,720) ¥0

アブセンティズム 外来治療による労働損失日数、病気欠勤日の増加¥1,884,311

$18,040 ¥0

介護者のアブセンティズム

終末期医療費(介護者のアブセンティズム費用を含む)

¥5,572,616 $53,352

早期死亡 1年間の生存(¥2,962,286)

($28,361) ¥0

患者当たり合計 ¥2,338,883 $22,392

¥4,432,112 $42,433

患者当たりの平均利益の合計 ¥2,932,054 | $28,071

1ドル=104.45円EIUの解析および一次調査

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影響は、労働年齢および非労働年齢の患者当たり1,600,090円(15,319ドル)であった。薬物治療の年間の直接的インパクトは、労働年齢および非労働年齢の患者当たり459,580円(4,400ドル)であった。

間接費用については、薬物治療では入院が必要ないことから、人工股関節術を実施するシナリオについてのみ入院による生産性の損失1,015,254円(9,720ドル)をモデル化した。手術および回復に必要な日数は平均45日と仮定した。アブセンティズムの間接的インパクトによる正味費用は、患者当たり年間1,353,672円(12,960ドル)であった。一方で、薬物治療対照群のアブセンティズムの影響はこれよりも大きく、3,237,981円(31,000ドル)となった。薬物治療早期診断と早期介入、ならびに適時かつ適切なリハビリテーションにより、患者は職を持ち続けることができ、疾患管理が改善され、より広範囲の経済および社会に課せられる慢性疾患による負荷が減少する。

体調不良の間接費用は、生産性の損失および損失所得を超え、しばしば家族の労働負担に影響を及ぼす。人工股関節置換術を受けた家族がいる被雇用者は、多くの場合患者の介護のために仕事を辞めなければならないため、生産性の低下(11,145,233円/106,704ドル)を経験する。一方で、股関節障害のために薬物治療を受けている家族がいる被雇用者では、慢性疼痛がある患者への介護が必要となり、さらに大きな生産性の損失(16,717,849円/160,056ドル)を経験している。

糖尿病の治療に使用するインスリンポンプ

日本の人口のおよそ13.5%に2型糖尿病または耐糖能障害が見られ10、有病率が最も高い集団は労働年齢にある(54~65歳)。血糖値が変動することにより合併症も引き起こされる。また合併症は、糖尿病患者では多数の併存疾患の発症や死亡につながる可能性がある。一般にインスリンは食事、身体活動および血糖値に従って用量を調節して1日に複数回注射する。一方で、インスリンポンプなどの医療機器を使用すると、注射なしで複数回のインスリンボーラス投与を簡単に行えるようになり、インスリン投与の正確さが増すことから、疾患管理が改善される。さらに、インスリンポンプはインスリン活性値を予測できるため、「インスリン・スタッキング」が回避される。

インスリンポンプによる全体的な経済的影響は、平均正味利益として患者当たり年間65,115円(623ドル)である。この値は、労働年齢にある患者の51%に関する利益(168,407円/1,612ドル)と非労働年齢にある患者の49%に関する年間正味費用(42,198円/404ドル)を合わせたものである。

インスリンポンプは、シリンジとバイアルによる投与に比べ、初期費用と関連の医療費が高く、これがインスリンポンプ普及の主な障壁となっている。しかし、インスリンポンプを使用している患者では疾患管理が改善されるため、合併症の費用はインスリン注射に比べて大幅に低い。費用を合計した場合、インスリンポンプについて医療制度が負担する患者当たりの年間直接費用は249,976円(2,393ドル)であり、一方、バイアルとシリンジによる投与の直接費用は患者当たり年間128,979円(1,235ドル)である。医療制度が負担する正味費用120,997円(1,158ドル)は、医療機器の間接的利益によって相殺され、さらに余剰が生じる。どちらの介入法でも患者の介護や入院は必要ないが、インスリンポンプの最適な使用法またはシリンジによるインスリン投与法を理解するために医療施設で最大1日を過ごす必要がある。

10 Neville S.E., Boye K.S., Montgomery W.S. et al., “Diabetes in Japan: a review of disease burden and approaches to treatment.” Diabetes Metab Res Rev., 2009 Nov;25(8):705-16.

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インスリンポンプによる管理やフィードバックがあることで、一般に欠勤日数が減少する。年間の欠勤日数は、インスリンポンプを使用している労働年齢の患者では大抵3日程度であるが、シリンジとバイアルを使用している患者では11日である。その結果、インスリンポンプによるアブセンティズム減少で得られる利益は年間180,490円(1,728ドル)となる。さらに、早期死亡による生産性の損失は、インスリンポンプを使用している患者よりも自己注射法を使用している患者の方が大きい。インスリンポンプを使用することで、合併症にかかる費用および早期死亡のリスクが劇的に減少する。その結果、労働への参加が増え、業績が向上するために経済が後押しされる。

シリンジでインスリンを投与する手間にかかる間接費用は、生産性の損失および所得損失を超え、しばしば家族の労働負担に影響を及ぼす。インスリンポンプによる治療を受けている家族がいる被雇用者の生産性減少は185,148円(1,773ドル)である。一方、シリンジを用いて糖尿病の治療を行っている家族がいる被雇用者では、患者が必要とする介護が多いため、生産性減少はこれよりも高く263,966円(2,527ドル)である。

全体として、インスリンポンプを使用している患者の間接的インパクトは、労働年齢の患者当たり282,362円(2,703ドル)、非労働年齢の患者当たりの介護者アブセンティズムによる間接的インパクトは185,143円(1,772ドル)である。一方、バイアルとシリンジを使用している

表13:インスリンポンプとシリンジ・バイアルによる純利益(費用)の比較(2016年)

患者当たりの年間影響額 説明 労働年齢 非労働年齢

直接費用 介入費用

高額なインスリンポンプにかかる費用を使用年数で除した値と、シリンジ・バイアルにかかる費用との比較(治療費および検査費を含む)

(¥123,260) ($1,180)

回復および合併症にかかる費用

合併症発生の確率および合併症関連費用¥2,263

$22

間接費

入院による生産性の損失

どちらの介入にも入院は必要ない ¥0 ¥0

アブセンティズム 外来治療による労働損失日数、病気欠勤日の増加¥180,490 $1,728 ¥0

介護者のアブセンティズム

インスリンポンプによる患者の自立、介護の必要性が低減

¥78,823 $755

早期死亡インスリンポンプ使用患者では全原因による死亡率が低い

¥30,092 $288 ¥0

患者当たり合計 ¥168,407 $1,612

(¥42,198) ($404)

患者当たりの平均利益の合計 ¥65,115 | $623

1ドル=104.45円EIUの解析および一次調査

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患者の間接的インパクトは、労働年齢の患者当たり571,767円(5,474ドル)、非労働年齢の患者当たりの介護者アブセンティズムによる間接的インパクトは263,966円(2,527ドル)である。結論として、医療技術で医療費は低減しなかった。しかし、QOLの改善と早期死亡率が低下したことから、職場の生産性の向上という大きな経済的利益が生じた。

切除不能の肺癌の治療に使用する体幹部定位放射線療法(SBRT)用の線形加速器(LINAC)

肺癌の治療は複雑で多面的であり、病期、患者の年齢および脆弱性、癌の部位ならびに患者の選択など、さまざまな要因によって左右される。線形加速器は、体幹定位放射線療法(SBRT)に使用される比較的新しいテクノロジーである。SBRTは高エネルギー放射線を焦点を絞って照射する療法で、周囲の正常細胞に障害を与えることなく癌細胞を死滅させることができる。SBRTは手術や化学療法と併用することも単独で使用することも可能である。今回の調査では、SBRTの特定の使用法、すなわち腫瘍の形態のため、またはおそらく患者が手術を受けられないため(たとえば、患者がきわめて脆弱なため)、もしくは手術を受けないことを選択したために手術の適応とならない早期癌に対する救済療法としてのSBRTの使用について検討した。この患者集団に対しては一般に化学療法が単独使用されることはないため、この事例の対照群は治療なしの集団とした。

早期非小細胞肺癌の単独の救済療法として使用したSBRT治療後の最初の1年間の推定年間正味利益は、労働年齢の患者当たり1,298,209円(12,429ドル)、非労働年齢の患者当たり544,811円(5,216ドル)であった。利益は、GDP損失の減少および終末期医療の必要性の低減につながる死亡率の大幅な低下に由来するものであった。

表14:SBRTおよび緩和ケアによる純利益(費用)の比較(2016年)

患者当たりの年間影響額 説明 労働年齢 非労働年齢

直接費用

介入費用機器使用+6回のSBRTの診療+入院で追加される費用と介入なしの場合との比較

(¥483,812) ($4,632)

回復および合併症にかかる費用

治療後1年間の経過観察診療の追加と介入なしの場合との比較

(¥104,450) ($1,000)

間接費用

入院による生産性の損失

放射線療法および回復にかかる時間(¥261,710) ($2,506) ¥0

アブセンティズム 外来治療による労働損失日数、病気欠勤日の増加 (¥224,258) ($2,147) ¥0

介護者のアブセンティズム

終末期医療費(介護者のアブセンティズム費用を含む)

¥924,225 $8,848

早期死亡 1年間の生存¥1,298,209

$11,865 ¥0

患者当たり合計¥1,089,324

$12,429

¥544,811 $5,216

患者当たりの平均利益の合計 ¥448,967 | $4,298

ドル=104.45円EIUの解析および一次調査

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ステージ1の肺癌に対する体幹定位放射線療法は、入院患者に対して、または外来でも実施できる。患者の約40%は入院して治療を受け、60%は外来で治療を受ける。入院患者も外来患者も一般に放射線療法を6回受ける。入院治療の場合、平均20日の入院期間に放射線療法を受け、その費用は107,792円(1,032ドル)と推定される。治療後の1年間、すべての患者が通常5回の経過観察を受け、医療制度が負担する費用は104,450円(1000ドル)である。医療制度が負担する直接費用の合計は、入院患者と外来患者を合わせて計算すると588,262円(5,632ドル)となる。

体幹定位放射線療法の間接費用および利益については、アブセンティズム、早期死亡および終末期医療をモデルに含めた。アブセンティズムの理由として、a) 治療と初期回復にかかる時間(上記のように6回の放射線療法を受け、入院治療の場合は20日間入院する)、b) 5回の経過観察来院、およびc) 治療による合併症が考えられる。合併症による欠勤について見ると、患者の2%が合併症のために仕事に復帰できないと推定される。早期死亡について見ると、治療を受けた患者の1年生存率は97%、治療を受けなかった患者の1年生存率は53%である11。

11 Zheng X., Schipper M., Kidwell K. et al. “Survival Outcome After Stereotactic Body Radiation Therapy and Surgery for Stage I Non-Small Cell Lung Cancer: A Meta-Analysis.” Int J Radiat Oncol Biol Phys., 2014; 90(3): 603-11.

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4. 結論日本では労働年齢人口層に属する個人のうちかなりの割合が、本調査の対象とした疾患の一つ以上に罹患している。この状況は、患者およびその家族介護者に対し重大な社会的・経済的影響を及ぼし、労働力全体の生産能力および日本経済の成長を妨げるおそれがある。

長期慢性疾患患者を支援する目的でさまざまな医療技術が開発されている。本報告書で焦点を当てた技術および医療機器は、医療技術を用いない単なる直接費用と間接費用の算出と比較し、日本経済に費用節減効果がもたらされることが明らかとなった。これらの医療技術により費用の節減は、以下の効果によってもたらされている。

• 二次的疾患にかかる医療費の回避

• QOLの改善と健康で活動的な老い

• 家族介護および公的介護の必要性の減少、家族介護者の負担の減少

• 労働市場への参加の増大、アンセンティズムの減少

• 仕事の生産性の向上、労働損失日数の減少

• 有効な疾患管理と死亡率の低下

日本でも海外でも、医療技術に関する話の多くは医療機器にかかる短期的な費用負担に集中している。今回の調査および広範囲の文献から、このような介入法によって1) 経済全体にもたらされる費用節減、および2) 中・長期的にもたらされる費用節減についても注目する必要があると考えられる。今回の調査で得られた所見から示唆されるように、医療技術への投資なしで得られる短期的な費用節減は見かけだけの節約であろう。

文献との比較

広い範囲を網羅した今回のモデル化手法の結果は、医療技術に関する他のモデル化研究と一致している。ここでは、医療技術の各国経済に対する影響をモデル化した4つの研究について述べる。

Milken研究所の報告では、糖尿病、心疾患、筋骨格疾患および結腸直腸癌領域における多種多様なテクノロジーについて検討が行われている12。この調査のモデル化手法では、医療技術の現在の費用と利益を調べるのみでなく、税金および規制に関する今後のシナリオで想定される影響についてもモデル化されている。報告者は、調査対象とした医療技術によって得られる経済的利益は、その費用に比べてかなり大きいものであったと結論付けている。利益は疾患を管理しない場合に生じる有害作用の回避、入院期間の短縮、ならびに生存率、労働力参加および生産性の改善によって生じた。

ランカスター大学のワークファンデーションも医療技術の全体的インパクトのレビューに着手している13。その調査の最初の部分は、個々のテクノロジーの費用と利益を評価した定量的研究に関する文献レビューであった。次の段階として、定性的インタビュー、ワークショップ、専門家とステークホルダーによるワークショップとフォーカスグループ研究が行われている。ワークファンデーションでは人工股関節/膝関節置換術、植え込み型除細動器、インスリンポンプ療法を含むさまざまなテクノロジーについて調査が行われた。結論として、医療技術から利益が得られる総合分野として1) 医療の改善、2) QOLおよび自立生活の改善、3) 労働市場への参加と生産性の3つが特定された。報告者によると、医学的介入の長期的影響が政策立案者に認識されることがほとんどないことが、調査を進める上での妨げとなっている。

12 Milken Institute, “Healthy Savings: Medical Technology and the Economic Burden of Disease”. Santa Monica (CA): Milken Institute, 2014.

13 The Work Foundation, “Adding Value: The Economic and Societal Benefits of Medical Technology.” Lancaster (UK): Lancaster University; 2011.

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全米経済研究所の調査結果報告書では、医療技術の生涯費用と利益を推定するために異なる手法を採用している14。この調査では、1980年代後半に心臓発作の治療を受けた患者に関するメディケアデータを収集し、介入後17年間の転帰が調査された。その結果、血行再建術により約40,000ドルの費用で平均余命が1年延長したことが明らかになった。平均余命の延長により得られる潜在的な経済的利益の数値化は行われなかったが、「医療技術によって寿命が延長したりQOLが拡充するか、その他の面で社会的利益が生じるのであれば」医療技術はよい買い物であると報告者は述べている。

最後は、Health Affairs誌に掲載された医療技術に関する事例研究のレビューである。このレビューでは、5つの疾患領域における医療技術のインパクトが調査されている15。医療技術の費用は、調査対象とした各疾患の現在および将来の費用を評価することで特定している。将来の費用は3%低く計算されたが、この割引率は質的結果にあまり大きな影響を与えなかった。5つの疾患領域のうち4領域(心臓発作、出生時低体重児、うつ病、白内障)では、医療技術を使用することで得られる利益が費用を上回ることが明らかとなった。利益は寿命の延長、QOLの改善、欠勤時間の減少などの要因から得られたものであった。5つ目の疾患(乳癌)では、費用と利益はほぼ同額であった。

Milken研究所およびワークファンデーションの報告については、その資金の少なくとも一部をAdvaMed(本報告の依頼者)が出資した。しかし、この2件の報告に使用された方法には合理的な仮定と費用推定値が組み込まれており、結果の全体的な方向は学術報告書で特定されたテーマと一致する。合わせて考えると、文献および本調査の結果は、医療技術に的を絞った投資が経済全体の費用を大きく節減するチャンスをもたらすという主張を裏付けるものである。

調査の限界

モデル化調査では仮定を立て単純化することが必然となる。本調査で用いたモデル化手法により、日本における医療技術の経済的インパクトを示す公正で実例的な数字が得られるとEIUは確信しているが、いくつかの限界が残っている。これらの限界について以下で説明し、本報告書の緩和戦略に基づいて位置付けを行う。

• モデル化した疾患領域が4つのみ、医療機器が8つのみ。医療技術全体を対象とした

完全に包括的な調査には桁違いな時間と費用がかかると思われる。代わりに、重要な疾患負荷を確実に把握するために慎重に選別した基準に基づいて4つの疾患領域を選択し、幅広い適用性という点を念頭に置いて8つの機器を選択した。根拠と方法に関する詳細な検討は添付資料に示す。

• モデルは、費用項目、外的影響または臨床転帰の面で網羅的なものではない。同様に、すべての構成要素を網羅的に計上しようとすると、時間と費用が桁違いに大きくなると考えられる。代わりに、包括的な文献レビューを実施して費用の主要な構成要素を特定した。この手順の詳細を添付資料に示す。

• すべてのデータが日本の情報源から得られたわけではない。可能な限り日本の事例研究に関する査読付き論文からデータを抽出するように努めたが、多くの項目について他国の情報源を使用する必要があった。他国の情報源(主に他のOECD諸国のもの)については妥当性の検証を行い、臨床医および日本の医療エコノミストへのインタビューを通して日本の背景に合わせてローカライズした。

• モデルの選択肢。本調査の目的は医療技術の使用で発生する費用と費用節減を調査することであったため、機器の選択に当たっては医療以外の代替法のシナリオを設

14 Cutler D.M., “The lifetime costs and benefits of medical technology. Working paper 13478.” Cambridge (MA): National Bureau of Economic Research, 2007.

15 Cutler D.M., McClellan M., “Is Technological Change In Medicine Worth It?”, Health Affairs, 2001; 20(5): 11-29.

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定する必要があった。そのためにはこのような要件を満たす機器についても慎重な選別を行う必要があり、その結果として一部の事例研究の範囲が狭まった(たとえば、HbA1c検査についてはスクリーニングのみを考慮し、モニタリングは含めなかった)。

本調査に使用した手法により日本における医療技術の費用のみでなく、潜在的な節減についても価値のある評価を行えるとEIUは考える。

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添付資料 疾患の選択

4つの疾患領域のみを使用して日本の医療負荷の代表的モデルを構築するためには、日本人集団に対して大きな影響を及ぼす疾患を確実に選別できるフィルターを用いなければならない。希少疾患にも医療技術がかなり投資されているが、希少疾患をモデルに含めると医療技術の全体的な影響を大局的に見ることはおそらくできないと考えられる。そのため、脳血管疾患、肺癌、糖尿病、および筋骨格疾患の4つの疾患を選択した。

代表的な疾患を確実に選択するために、次の3つの基準を使用した。社会的負荷が大きいこと、経済的負荷が大きいこと、および社会的な関心があること。最初の基準を評価するために、障害調整生存年数(DALY)を使用した。DALYは集団の健康時間ベースの要約指標で、早期死亡による損失生存年数(YLL)と障害による損失年数(YLD)を組み合わせたものであ

る。

図3:DALY、YLLおよびYLD

障害調整生存年数(DALY)

=

損失生存年数(YLL)

+

障害による損失年数(YLD)

疾患に関連する障害の負荷 疾患による総平均損失生存年数

障害による総損失年数

表15:DALYに基づく上位15疾患/障害

2013年 DALY YLD YLL1. 腰痛および頸部痛 2,312,466 2,312,4662. 脳血管疾患 2,084,506 256,951 1,827,5553. 虚血性心疾患 1,720,158 357,781 1,362,3774. 下気道感染症 1,192,792 7,868 1,184,9245. 気管、気管支および肺癌 1,114,777 23,251 1,091,5266. 糖尿病 1,009,618 895,085 114,5337. 抑うつ障害 985,255 985,2558. 胃癌 952,322 25,738 926,5849. 慢性閉塞性肺疾患 872,544 383,464 489,07910. アルツハイマー病および他の認知症 859,838 489,137 370,70111. 結腸直腸癌 806,768 56,805 749,96312. 皮膚および皮下疾患 785,595 768,479 17,11613. 肝癌 743,183 10,179 733,00514. 転倒 722,592 584,403 138,18915. 慢性腎疾患 615496 241,764 374,182情報源:Institute for Health Metrics and Evaluation (Global burden of disease) – Japan (2013)

脳血管疾患肺癌糖尿病筋骨格疾患

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疾患負荷は社会に対する疾患の全体的な影響を見る上で有用な代理指標であるが、疾患の経済的負荷という第二の基準でこれを補足した。この基準は医療費が最も高額な疾患および退院数が最も多い疾患に基づいて評価した。この方法によって、医療予算に大きな影響を及ぼし、医療インフラストラクチャーの大きな部分を占める疾患を費用モデルに確実に組み込んだ。

表16:医療費(100万円単位)に関する上位15の疾患/障害

入院患者 外来患者 合計1. 循環器系疾患 3,159,900 2,500,300 5,660,2002. 腫瘍 2,341,300 1,133,800 3,475,1003. 呼吸器系疾患 855,400 1,258,600 2,114,0004. 筋骨格系および結合組織疾患 852,100 1,174,200 2,026,3005. 内分泌、栄養および代謝性疾患 505,900 1,476,900 1,982,8006. 精神および行動障害 1,459,300 499,800 1,959,1007. 泌尿生殖器系疾患 548,000 1,391,000 1,939,0008. 傷害、中毒および他の外因事象 1,293,200 502,600 1,795,8009. 消化器系疾患 857,900 792,400 1,650,30010. 神経系疾患 805,600 361,000 1,166,60011. 眼および付属器疾患 246,200 710,900 957,10012. 感染症および寄生虫症 265,300 409,000 674,30013. 皮膚および皮下組織疾患 93,800 370,400 464,20014. 症状、徴候および異常臨床所見・異常検査所見 194,400 213,800 408,20015. 血液および造血器疾患 122,900 98,500 221,400

選択した4つの疾患領域はすべて上記の基準を十分に代表するものであり、非伝染性疾患に分類される。一般に「生活習慣病」と言われるこれらの疾患は、日本の死亡および病的状態の主要な原因になっている。この理由の一つは人口の高齢化であるが、これは慢性疾患の負荷は年齢と共に確実に増加するためである。他の理由として「洋風」の食事の普及や、喫煙など健康を害する習慣の増加がある。2013年から現時点までを含む「健康日本21(第二次)」計画で明らかにされているように、このような生活習慣病の対策が厚生労働省の主な優先事項となっている。モデルに含めた4つの疾患領域のうち3領域は、労働厚生省により発症と進行の予防に関する主要対策領域に指定されている。

表17:退院数に関する上位15の疾患/障害(2016年)

退院数1. 脳血管疾患 692,5002. 単胎自然分娩(出産) 542,0003. 肺炎 481,1004. 白内障 452,2005. 結腸、直腸および肛門の悪性腫瘍 404,2006. 気管、気管支および肺の悪性腫瘍 362,9007. 狭心症 343,2008. 出産前の妊娠合併症 272,3009. 大腿骨骨折 267,50010. 心不全 256,30011. 変形性脊柱障害および脊椎症 238,40012. 糖尿病 218,90013. 胆石症 206,30014. 腎不全 186,80015. 伝導障害および心不整脈 174,700

情報源:OECD統計値、System of Health Accounts (SHA)フレームワークを使用

情報源:OECD統計値、System of Health Accounts (SHA)フレームワークを使用

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(1) Cancer

Indicators Current data Target

1 Reduction in age-adjusted mortality rate of cancer under age 75 (per 100,000)

84.3 (2010) 73.9 (2015)

2 Increase in participation rate of cancer screenings

Gastric cancer Male 36.6% Female 28.3% Lung cancer Male 26.4% Female 23.0%Colorectal cancer Male 28.1% Female 23.9% Cervical cancer Female 37.7% Breast cancer Female 39.1% (2010)

50% (40% for gastric, lung, and colorectal cancer)(2016)

Note: These rates represent individuals who are between 40 and 69 years old (for cervical cancer age of individuals is between 20 and 69 years).

Source: Ministry of Health, labour and Welfare. “Health Japan 21 (the second term).” Available at: http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21/en/kenkounippon21/mokuhyou02.html

図4:健康日本21(第二次)の標的

Health Japan 21 (the second term)

List of targets

A list of all targets for Health Japan 21 (the second term) has been published

Table 1: Targets for acheiving extension of healthy life expectancy and reduction of health disparities

Table 2: Targets for the prevention of onset and progression of life-style related diseases

(1) Cancer

(2) Cardiovascular disease

(3) Diabetes

(4) COPD

Table 3: Targets for maintenance and improvement of functions necessary for engaging in social life

(1) Mental health

(2) Children’s health

(3) Health of elderly people

Table 4: Targets for putting in place a social environment to support and protect health

Table 5: Targets for improvement of everyday habits and social environment relating to nutrition and dietary habits, physical activity and exercise, rest, alcohol, and smoking, and dental and oral health

(1) Nutrition and dietary habits

(2) Physical activity and exercise

(3) Rest

(4) Alcohol drinking

(5) Tobacco smoking

(6) Dental and Oral health

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3つの基準を使用するこの方法を用いた結果、日本の疾患負荷を代表するクロスサンプリングになると考えられ、また、医療技術が経済に及ぼす全体的影響をモデル化するための代理指標になると思われる4つの疾患領域が選択された。以下に、4つの疾患領域の日本における疫学的特徴を簡単に述べる。

脳血管疾患

世界保健機関(WHO)によれば、脳卒中は世界中の60歳を超える人の障害の原因として第一位、死亡の原因として第二位である。脳卒中は重大な公衆衛生問題であるのみでなく、脳卒中が医療制度、QOLおよび広範囲の経済に課す負担が増加している。脳卒中の有病率は60歳を超えた人で最も高いが、誰でも罹患する可能性がある。脳卒中は死亡負荷が高いと同時に、障害負荷も高い。急性期を切り抜けても脳卒中患者にはある程度の障害が残ることが多く、そのため多くの患者は介護者に依存した状態が続く。

特に日本では、医療制度に対する脳卒中の負荷がきわめて高い。最近のエビデンスから次のことが言える。

• 日本では脳卒中は障害の原因として第二位であり、2013年の障害生存年数(YLD)は256,951年であった

• 同年の脳卒中による損失生存年数(YLL)は1,827,555年であった

• 日本政府が負担する脳卒中の費用は年間約5,600,200円である

• 日本では脳卒中の有病率が最も高いのは70歳を超える人であるが(2015年には651,621名)、15歳から69歳までの年齢層でも60万人近くが脳卒中に罹患している16

日本では人口の高齢化と共に肥満や糖尿病などの疾患の有病率が上昇していることから、この数字は今後数年間で増加に向かうことは確実である。

糖尿病

糖尿病は、インスリン産生が不十分であるため、もしくは細胞がインスリンに対して正しく反応しないため、またはその両方が重なって高血糖となることで生じる疾患である。糖尿病は死亡およびQOL低下を招くという意味で医療にとって大きな負担であり、糖尿病の有病率は世界的に増加している。

日本では近年、糖尿病が急速に増加している。今日では、日本は世界的に蔓延している糖尿病の影響を最も強く受けている国の一つである。特に人口の高齢化と不活動な生活習慣のため2型糖尿病の有病率は急速に増加しており、重大な影響を及ぼしている。エビデンスに基づくと以下のことが言える。

• 日本の人口のおよそ13.5%に2型糖尿病または耐糖能障害が見られ、有病率が最も高い集団は労働年齢にある(54~65歳)

• 2015年には、720万人の日本人が糖尿病と診断されている17

• 国民健康保険が負担する費用は患者当たり年間約4,000ドルである

• 糖尿病は医療予算全体の最大6%を占める

16 Global Health Data Exchange. Seattle (WA): Institute for Health Metrics and Evaluation, 2016.

17 International Diabetes Federation. Brussels, 2015.

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肺癌

肺癌は最も有病率が高い癌であり、最も重篤な種類の癌の一つでもある。原発性肺癌には非小細胞癌と小細胞癌の2種類がある。非小細胞肺癌のほうが多く見られ、肺癌症例の80%を占める。症例数は比較的少ないが、小細胞肺癌は非小細胞肺癌よりも悪性度が高く、転移が速い。本調査のモデルではより一般的な非小細胞肺癌に焦点を当てている。

喫煙が肺癌の主なリスク因子であることは十分に実証されており、症例の85%が喫煙に関係するとされている。エビデンスに基づくと、以下のことが言える。

• 日本では、2010年には肺癌は死亡原因として第四位であった

• 2015年には、肺癌の発生率は137,135例に達した

• 肺癌に罹患するのは主に高齢者であり、40歳未満ではまれであるが、年齢と共に急激に増加する。肺癌と診断されることが最も多い年齢群は70~74歳である

ただし、日本では肺癌の転帰は良好である。日本癌研究振興財団の最近の報告によれば、国際的に見て日本は肺癌の5年生存率が最も高い国の一つである。

筋骨格疾患

筋骨格疾患(MSD)は全身の筋肉、骨および関節の慢性疾患を説明する包括的用語である。MSDには関節リウマチ、変形性関節症、骨粗鬆症、四肢の大外傷、脊椎疾患が含まれる。腰痛、頸部痛、股関節痛および膝痛の原因となる関節疾患は、障害の主要な原因の一つであり、MSDの有病率は年齢と共に増加する18。つまり、日本の人口が高齢化していることを考えると、MSDの日本人患者数はさらに増加するということになる。MSDは患者の自立生活能および生産的な労働生活を続ける上で大きな負荷となるほか、MSDの有病率の増加は経済的負荷となり、将来の生産性が損なわれる。

エビデンスに基づくと以下のことが言える。

• MSDは世界的に見て障害による損失年数の10%超を占める19

• 日本では労働年齢にある120万人が身体的障害を負っている20

• 2011年の日本の慢性筋骨格痛有病率は15.4%であった21

• 有病率は40歳代で最も高く(18.6%)、次に高いのが30歳代(18.3%)および50歳代(17%)であった

MSDにはさまざまな疾患が含まれ、治療法も多様であるため、本報告書のモデルでは骨粗鬆症と股関節痛に焦点を当てた。

骨粗鬆症は全身の骨量減少、骨塩量の減少、脆弱性骨折につながる微細構造の異常を特徴とする疾患である。股関節障害、特に股関節骨折は骨粗鬆症の最も重篤な合併症であり、日本では寝たきりになる大きな原因として認識されている。骨粗鬆症は股関節痛および股関節骨折の主な原因であるが、関節リウマチ、腱炎、滑液包炎などの他の疾患も股関節痛につながる可能性がある。エビデンスに基づくと以下のことが言える。

• 骨粗鬆症が理由で日常生活における援助と長期的な医療を必要とする日本人患者数は

18 Anthony D. Woolf and Bruce Pfleger. “Burden of major musculoskeletal conditions”, Bone and Joint Decade 2000-2010, Bulletin of the World Health Organization, 2003.

19 World Health Organization, “Death and DALY estimates for 2004 by cause for WHO Member States”, Retrieved on 14 March 2011 from http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/estimates_country/en/index.html.

20 Ministry of Health, Labour and Welfare (MHLW), “Services and Supports for Persons with Disabilities in Japan”, Retrived on 5 April 2012 from http://www.mhlw.go.jp/english/wp/policy/dl/02.pdf.

21 Zheng X., Schipper M., Kidwell K. et al. “Survival Outcome After Stereotactic Body Radiation Therapy and Surgery for Stage I Non-Small Cell Lung Cancer: A Meta-Analysis.” Int J Radiat Oncol Biol Phys., 2014; 90(3):603-11.

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約550万人であり、この数字は確実に増加している22

• 日本では1300万人が股関節骨折を受傷している

• 日本の股関節骨折発生率は男性で1万人当たり5.1人、女性で1万人当たり18.1人である

• また、股関節骨折に関係する死亡率も高く、股関節骨折を受傷した人の15%がその後1年間で死亡する

機器の選択

疾患の選択に加えて、代表的な機器を確実に選択することも必要である。「医療技術」は大きな(さらに範囲を広げつつある)介入カテゴリーを包含する包括的用語であることから、医療技術の多様性を反映する機器を選択した。機器を選択するに当たり、以下の点を考慮に入れた。

- 一般的か、まれか:一般的に用いられる国際的な(および日本の)標準医療か、日本で医療の至適基準とされているテクノロジーか

- 確立されているものか、新しいものか:長く使用されている機器か、日本の市場に最近導入された新しいテクノロジーか

- スクリーニングか、治療か:スクリーニング/診断ツールか、介入/治療機器か

- 大規模か、小規模か:大型医療機器か、使い捨ての単回使用機器か、長期インプラントか

上記の要件に加えて、本調査の手法上、機器選択に当たってデータの深度も考慮に入れた。本調査は主に現場の一次調査によって裏付けられた二次調査に基づくものであるため、医療機器ごとの経済的寄与に関する発表文献(英語および日本語)を入手できることを主な選択要件とした。

表18:調査した医療機器

疾患 医療技術(スクリーニング) 医療技術(治療)

脳血管疾患 カテーテルによる頸動脈血管造影金属メッシュケージ:ステントレトリーバー

肺癌 低線量スパイラルCTスキャン(CTスキャナ) 外照射療法用線形加速器

糖尿病 HbA1c検査キット インスリンポンプ

筋骨格疾患 二重エネルギーX線吸収測定法人工股関節置換術-人工股関節インプラント

22 H. Orimo et al., “Hip fracture incidence in Japan: Estimates of new patients in 2012 and 25-year trends”, Osteoporosis Int, 2016; 27: 1777-1784.

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調査プログラム

各機器の影響を評価するために、一次資料と二次資料の両方を用いて日本固有のモデルを構築する研究プログラムを実施した。この調査プログラムは次の要素で構成される3段階の手法に従って実施した。

A. モデル化の枠組みを構築するために実施する詳細な文献レビュー

B. モデルを完成させ、データ格差を特定するために実施する既存の国際的文献および日本固有の文献の二次調査

C. 結果の妥当性を検証し、国際的資料のローカライズを行うために実施する一次調査

本調査のモデル構築に使用できる異なるモデル化手法を評価するために文献レビューを行った。文献レビューには、データベースの検索、灰色文献の検索、参考文献の収集などのさまざまな実際的な反復検索法を使用した。検索には言語の制限は設けなかった。

この方法で、経済的費用のモデル化の際に使用する主なデータ入力を特定した。

表19:文献レビューで特定したデータ入力

直接医療費

治療費 Chatterjee 201423

Cutler 200124

Skinner 200625

Orlando 201326

Bevan 201127

Baker 200828

疾患管理および長期的治療 Chatterjee 2014

Cutler 2001

Skinner 2006間接費用

労働出力および生産性の損失(アブセンティズム) Chatterjee 2014

Cutler 2001

Skinner 2006

Bevan 2008平均余命の変化(早期死亡) Cutler 2001

Skinner 2006

Orlando 2013放棄GDP Chatterjee 2014

Cutler 2001

Skinner 2006

23 Chatterjee A, King J, Kubendran S, et al. Healthy Savings: Medical Technology and the Economic Burden of Disease. New York: 2014.

24 Cutler D.H., McLellan H., “Is Technological Change In Medicine Worth It?”

25 Skinner J., Staiger D., Fisher E., “Is technological change in medicine always worth it? The case of acute myocardial infarction.” Health Affairs, 2006; 25(2):w34-w47.

26 Orlando R., Pennant M., Rooney S., et al., “Cost-effectiveness of transcatheter aortic valve implantation (TAVI) for aortic stenosis in patients who are high risk or contraindicated for surgery: A model-based economic evaluation.” Health Technology Assessment, 2013.

27 Bevan S, Zheltoukhova K, McGee R. Adding Value: The Economic and Societal Benefits of Medical Technology. 2011.

28 Baker L.C., Atlas S.W., Afendulis C.C., “Expanded use of imaging technology and the challenge of measuring value.” Health Affairs, 2008; 27(6): 1467-78.

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文献レビューで特定した主要データ入力を使用して、経済的な費用と利益を測定するために使用できると思われるパラメータを選択した。この手法では、直接費用、間接費用および利益に対する医療技術の経済的寄与を明らかにするために調整したモデルを使用した。

モデルのデータ点を最終的に決めた後に、発表済みの調査に基づいて関連する費用と利益を

数値化した。一部のデータ点については、机上調査を通して国際的データを特定した。その場合、日本人専門家への詳細なインタビューにより結果の妥当性を検証した。日本人専門家は、日本における費用について深く知り、妥当性の検証を行うために最も有用と思われる当該分野の専門家を特定するためにさまざまな検討を行った上で採用した。

医療制度(直接費用)および社会(間接費用)という2つの観点から経済的評価を実施した。社会全体の福祉に対する介入の影響を理解するために、社会的観点(間接費用)を考慮に入れた。

費用モデルでは、各医療技術が日本の医療制度に及ぼす直接的および間接的な影響を評価するために、各疾患の患者動線を考慮に入れた。モデルには、経済的影響のほか平均的な節減を計算するために機器当たりの費用と利益を組み込んだ。

費用および結果のタイミングは経済的評価における重要な考慮事項であり、特に費用の大半がその都度生じ、利益は将来に生じる医療プログラムを評価する上で重要である。しかし、本調査では分析期間を1年としたため、価値割引は行わなかった。

図5:モデル化の枠組みに使用したパラメータ

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