特別調査 コンテンツを活用した地域振興策の現状と …...要約 平成...

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ɹɹɹΊʹίϯϯπۀʹɹίϯϯπͷɹίϯϯπۀͷنɹւ֎ͱͷɹδύϯͱίϯϯπίϯϯπͱҬڵɹίϯϯπͷҬڵͷ׆ɹΞϝπϦζϜͷՌɹΕΈͷΞϝ88 ͷΞϝɾϚϯΨͷ׆ɹΘϚϯΨϓϩδτɹؠɹԽҕһձɹɹٶݡɹՖרҬڵͷػͱͷՄͱɹͱɹͱίϯϯπΛ׆ҬڵͷݱͱػͱͷΞϝɾϚϯΨͷՄ「三陸コネクトフェスティバル」 平成30年2月11日 会場:大槌町城山公園体育館 (三陸鉄道㈱、三陸聖地化委員会・菅野訓貴氏(左)、声優・鈴村健一氏(中央)、㈱S代表・佐藤ひろ美氏(右)) (提供:三陸聖地化委員会) 岩手経済研究 2019年3月号 4 特別調査

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目   

はじめに

1.コンテンツ産業について

⑴ 

コンテンツの定義

⑵ 

国内コンテンツ産業の市場規模

⑶ 

海外市場と日本の魅力

⑷ 

クールジャパンとコンテンツ

2.コンテンツと地域振興

⑴ 

コンテンツの地域振興策への活用

⑵ 

アニメツーリズム(聖地巡礼)の効果

⑶ 「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」

3.本県のアニメ・マンガ等の活用事例

⑴ 

いわてマンガプロジェクト 

~岩手県~

⑵ 

三陸聖地化委員会 

~大槌町~

⑶ 

宮沢賢治童話村 

~花巻市~

4.他県事例

「政宗ダテニクル」~福島県伊達市~

5.地域振興策の新機軸としての可能性と展望

⑴ 「手段」として

⑵ 「目的」として

コンテンツを活用した地域振興策の現状と展望

~新機軸としてのアニメ・マンガ等の可能性~

「三陸コネクトフェスティバル」 平成30年2月11日 会場:大槌町城山公園体育館(三陸鉄道㈱、三陸聖地化委員会・菅野訓貴氏(左)、声優・鈴村健一氏(中央)、㈱S代表・佐藤ひろ美氏(右))(提供:三陸聖地化委員会)

岩手経済研究 2019年3月号 4

特別調査 特 別 調 査

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要約

● 平成29年のコンテンツ産業の国内市場規模

は全体で12兆4859億円と6年連続のプラ

スとなり、漸増傾向が続いている。

● 海外市場はアジア圏を中心に成長が見込ま

れ、日本のコンテンツ産業の発展に向けては

海外需要を取り込んでいくことが重要である。

● 外国人が日本に興味を持ったきっかけにア

ニメーション(以下、「アニメ」)、マンガ等

が果たす役割は大きく、クールジャパン戦略

のスキームにおいては優位性をもっている。

● それらコンテンツを地域振興に活用するこ

とはクールジャパンの視点による海外展開や

インバウンド振興のほか、国内需要の取り込

みなどにつながることも期待できる。

● 近年はアニメ等の存在感の高まりから、「コ

ンテンツツーリズム」の一種の「アニメツー

リズム」が確立され、インバウンドや若年層

を中心とする観光誘客等につながる地域振興

策の新機軸に取り入れられている。

● 岩手県の「いわてマンガプロジェクト」で

は、達増拓也知事が自ら責任編集するマンガ

コミック「コミックいわて」とWEBマンガ

サイト「コミックいわてWEB」などを用い

て本県の魅力の発信が行われている。

● 大槌町の「三陸聖地化委員会」が主催する

「三陸コネクトフェスティバル」では複合的

なイベントで地域にインパクトを与えてい

る。また、三陸鉄道株式会社が企画制作した

「鉄道ダンシ」を活用した取組みも展開して

いる。

● 

花巻市「宮沢賢治童話村」は、本県で唯

一一般社団法人アニメツーリズム協会の「訪

れてみたいアニメ聖地88」に選出されたオ

フィシャルなアニメ聖地である。

● 福島県伊達市では観光PRアニメ「政宗ダ

テニクル」の活用により、地域がアニメを取

り入れて地域振興につなげていこうとする考

えが官民を問わず浸透している。

● アニメやマンガは情報量に限りはあるもの

の、幅広い層への情報発信の「手段」に適して

いる。本県のフレームワークは情報発信の拠

点として期待できる一方、多言語化などイン

バウンド振興に向けた取組みは途上にある。

● アニメツーリズム等の充実は本県の交流人

口の拡大につながるひとつの方策である。効

果を高めるには地元事業者とのマッチングの

裾野を広げていくことのほか、組織的かつ継

続的な展開によりアニメ等の活用に対する高

い意識を醸成していくことが重要である。

はじめに

平成31年4〜9月に放送予定のNHK連続テ

レビ小説「なつぞら」は、戦後の日本アニメの草

創期を舞台とするオリジナル作品であり、女優の

広瀬すずさんが演じるヒロイン奥原なつが、原画

等を担当するアニメーターとしてアニメの世界

を「開拓」していくストーリーとなっている。

戦後に大きく発展した日本のアニメは、現存

する最古の作品とされる大正6年の「なまくら

刀」の制作から100年以上が経過している。

また、日本のマンガのルーツは12〜13世紀(平

安〜鎌倉時代)の「鳥獣人物戯画」とされ、す

でに江戸時代には大衆文化に浸透しはじめるな

ど、長らく日本人にとってアニメやマンガは娯

楽として、あるいは学習教材などとしても世代

を超えて馴染み深いコンテンツとなっている。

また、その充実ぶりから海外での人気も高いも

のがある。

近年では、インバウンド振興の視点を加えて、

組織的にアニメやマンガなどを地域振興策に取

り入れる事例が増えている。

そこで本稿では、コンテンツ産業を俯瞰した

のち、アニメ、マンガ等を活用した地域振興策

の可能性を展望していく。

5 岩手経済研究 2019年3月号

特 別調 査

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図表1 コンテンツの分類メディア(媒体)別コンテンツ

(分野)別パッケージ ネットワーク 劇場・

専用スペース 放送

動画DVDブルーレイ(セル、レンタル)

動画配信 映画ステージ

地上波BSCSCATV(ケーブルテレビ)

音楽・音声

CDDVDブルーレイ(セル、レンタル)

音楽配信 カラオケコンサート ラジオ

ゲーム ゲーム機向けソフトゲーム機向けソフト配信オンラインゲームソーシャルゲーム

アーケードゲーム

静止画・

テキスト

書籍雑誌新聞フリーペーパー/マガジン

電子書籍各種情報配信サービス他

複合型 インターネット広告モバイル広告

資料:一般財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ白書」より当研究所作成

図表2 コンテンツ産業の市場規模の推移(国内市場)

0

2

4

6

8

10

12

14

0%

20%

40%

60%

80%

100%兆円

平19 29年282726252423222120

12.512.512.312.312.112.112.012.011.811.811.811.811.711.711.911.911.911.912.612.612.912.9

8.78.78.38.38.08.07.87.87.67.67.57.57.37.3

6.86.85.95.9

5.35.34.94.9

38.0%38.0%

デジタル化率(右目盛)デジタル化率(右目盛)

デジタルコンテンツ

デジタルコンテンツ

69.6%69.6%

資料:図表1に同じ

したものが、24年以降は景気の回復局面を受け

漸増傾向が続いている。このうちデジタルコン

テンツはテレビ放送の地上デジタル放送への完

全移行(23年)後に伸びが鈍化したものの、一

貫して増加が続いており、コンテンツ産業全体

に占める割合(デジタル化率)も19年の38・0

%から29年には69・6%に拡大した(図表2)。

なお、コンテンツ産業の市場規模は、29年の

コンビニエンスストア販売額(11兆7451億

円、経済産業省「商業動態統計」)を上回るも

のとなっている。

ンツはアニメ、マンガ、ゲーム、映画、音楽な

どを指す。

また、同協会ではコンテンツを分野により「動

画、音楽・音声、ゲーム、静止画・テキスト、

複合型」の5つに区分し、「パッケージ、ネッ

トワーク、劇場・専用スペース、放送」のメディ

ア(媒体)の4区分との組み合わせにより、計

14分類に整理している(図表1)。

コンテンツのうち、デジタル形式で消費者に

提供されるものを特に「デジタルコンテンツ」

と呼び、WEBを介して提供される動画や音楽

のほか、大半のテレビ放送(地上デジタル放送)

や映画(デジタルスクリーン)が該当し、CD

やDVD、ゲームソフトなどデジタル形式で記

録される媒体も含まれる。一方、デジタルコン

テンツではないものとしては、紙媒体やライブ

のほか、アナログ形式のラジオ放送などが該当

する。

⑵ 

国内コンテンツ産業の市場規模

同協会の「デジタルコンテンツ白書(経済産

業省監修)」によると、平成29年のコンテンツ

産業の国内市場規模は全体で12兆4859億円

(前年比1・4%増)と6年連続のプラスとなっ

た。19年以降の推移をみるとリーマンショック

(20年)や東日本大震災(23年)にかけて減少

1.コンテンツ産業について

⑴ 

コンテンツの定義

「コンテンツ(contents

)」とは、直訳すれば「中

身」や「内容」「目次」といった意味になるが、

一般財団法人デジタルコンテンツ協会の定義の

ように「動画・静止画・音声・文字・プログラ

ムなどによって構成され、あらゆるメディアで

提供される『情報の中身』」という意味で用い

られることがあり、この場合の具体的なコンテ

岩手経済研究 2019年3月号 6

特別調査

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図表3  日本のコンテンツの海外シェア(平成28年)

市場規模

項目

海外市場

うち日本由来

シェア

10億米ドル 10億米ドル

放 送 351 3.2 0.9%

ゲ ー ム 80 16.0 20.0%

映 画 63 0.4 0.6%

ア ニ メ 49 4.8 9.8%

音 楽 33 0.1 0.3%

キャラクター 12 0.9 7.4%

マ ン ガ 1.4 0.5 37.8%

合 計 590 26.0 4.4%

資料:経済産業省

図表4  ジャパンアンバサダーが日本に興味を持ったきっかけ(複数回答)

大陸別

項目

回答者の国籍が属する大陸

欧州 アジア 北米

% % %

ア ニ メ・マ ン ガ・ゲ ー ム 75.00 56.60 23.15

日 本 食 24.00 22.17 27.78

音 楽 27.00 28.30 10.19

観 光 12.00 25.00 23.15

映 画・テ レ ビ 番 組 12.00 24.06 11.11

伝統文化(茶道・歌舞伎・日本画等) 23.00 14.15 16.67

自 然 風 景 10.00 20.28 16.67

歴史(神社・仏閣等の建造物含む) 23.00 5.66 21.30

俳 優・芸 能 人・ア イ ド ル 9.00 21.23 2.78

泫 1. 調査期間は平成29年12月~30年1月、有効回答数は420名(欧州100、アジア212、北米108)

2.20%以上の回答をいずれかに含む項目を抽出した資料:内閣府、特定非営利活動法人映像産業振興機構

内閣府および特定非営利活動法人映像産業振

興機構(VIPO)が実施したクールジャパン

への関心分野等の意識調査(ジャパンアンバサ

ダー※を対象)において、日本に興味を持った

きっかけとして「アニメ・マンガ・ゲーム」を

選択した割合は、欧州で75・0%、アジアで

56・6%と突出し、北米でも「日本食」に次ぐ

2位となっている(図表4)。

※ジャパンアンバサダー:地方自治体、DMO等の海

外展開に関する課題(発信、調査、体験、言語対応)

の解決に携わる外国人、30年11月現在108カ国・

地域、1万398人が登録。

「アニメ・マンガ・ゲーム」は、動機づけと

いう観点では「日本食」や「伝統文化」「歴史」

ただし、細分化したシェアでは放送(テレビ、

ラジオ等)、映画、音楽が1%未満なのに対し、

マンガ(37・8%)やゲーム(20・0%)は高

く、アニメ(9・8%)、キャラクター(7・4%)

もGDP比を上回っている。各々の市場規模に

大小があるため一概にはいえないが、海外にお

ける日本の一部コンテンツの存在感は大きなも

のとなっている。

⑷ 

クールジャパンとコンテンツ

「クールジャパン」とは、外国人がクール(かっ

こいい)と捉える日本固有の魅力を指し、その

対象は前述のアニメ、マンガ、ゲームといった

各種のコンテンツ、ファッション、日本食、伝

統文化のほか、ロボットや環境技術などハイテ

ク分野にまで及び、それら資源を総称して「クー

ルジャパン資源」と呼んでいる。

現在、政府が進める「クールジャパン戦略」は、

クールジャパン資源の情報発信(日本ブームの

創出)、海外展開(海外で稼ぐ)、インバウンド

振興(国内で稼ぐ)に取組むことで経済成長に

つなげることを目的とし、日本のブランド戦略

の一環にもなっている。政府としての取組みは

22年6月に経済産業省が「クールジャパン海外

戦略室(現 

クールジャパン政策課)」を設置

して以降、本格化している。

⑶ 

海外市場と日本の魅力

しかしながら、国内市場は人口動態などを考

慮すると急速な成長を期待し難い状況にあり、

日本のコンテンツ産業の発展に向けては海外需

要を取り込んでいくことが重要であろう。

経済産業省によると、28年の海外のコンテン

ツ産業の市場規模(売上ベース、日本は除く)

は約5900億米ドル、日本円に換算すると約

64兆円(1ドル=109円)となっており、さ

らに2022年には約81兆円に拡大するなど、

アジア圏を中心に成長していくことが見込まれ

ている。一方、日本のコンテンツが28年の海外

市場に占める割合は4・4%で、同年の名目G

DPの世界シェアである6・5%を下回ってお

り、世界経済における日本の割合に比べてやや

低いものとなっている(図表3)。

7 岩手経済研究 2019年3月号

特 別調 査

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客が集中し、そのインパクトから同年の「20

16ユーキャン新語・流行語大賞」に「聖地巡

礼」が入選したことが挙げられる。

飛騨市の統計によると、観光入込み客数は28

年が100万5881人(前年比3・6%増)、

29年が113万852人(同12・4%増)とな

り、また、作中に描かれた公立図書館の入館者

数を基に推計した聖地巡礼者数は28、29年の2

年間で延べ10万人超となるなど、短期的にみれ

ば観光分野を中心に地域振興につながったこと

が数字に表れている。

⑶ 「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」

アニメ聖地は作者、出版社などの権利者(コ

ンテンツホルダー)、施設などの事業者、地域等

の間で合意形成が図られている公式(オフィシャ

ル)のものとファンの間でのみ共有されるよう

な非公式(アンオフィシャル)のものがある。

そのため県や市町村等が関与して地域振興を図

る場合は公式のものでなければ積極的な関与が

難しく、また、IP(知的財産権 Intellectual

Property rights

)保護の観点からも利害関係者

の連携が重要なものとなる。

近年、そのまとめ役として期待されるのは28

年9月設立の一般社団法人アニメツーリズム協

会である。同協会はアニメ聖地をオフィシャル

する調査報告書」で定義されたものであるが、

ドラマのほか映画、文学作品などが観光の動機

づけにつながるケースは定義される以前から一

般的にみられた。

近年はその動機づけにおけるアニメ等の存在

感の高まりからコンテンツツーリズムの一種「ア

ニメツーリズム」が確立され、インバウンドや

若年層を中心とする観光誘客等につながる、地

域振興策の新機軸に取り入れられている。

⑵ 

アニメツーリズム(聖地巡礼)の効果

アニメツーリズムは「アニメ聖地」を巡る観

光行動のことで「聖地巡礼」とも呼ばれる。様々

な宗教における聖地にならって、ファンを引き

寄せるスポットが通俗的に聖地と称されている

ものであり、内閣府の資料等ではアニメ聖地は

「アニメ、マンガの舞台やモデルになった地域、

場所、作家ゆかりの街、生家、記念館、作品に

関係する博物館、建造物、施設」などのことと

される。

聖地巡礼による地域振興としては埼玉県久喜

市(作品名「らき☆すた」)、秩父市(同「あの

日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」ほか)

などがあり、近年では28年8月公開の長編アニ

メ映画「君の名は。」のヒットにより、舞台の

モデルとなった岐阜県飛騨市等へ国内外の観光

などを凌ぐ役割を果たしているほか、前述のよ

うに市場規模でみると海外シェアが相対的に高

いコンテンツであることから、クールジャパン

戦略のスキームにおいては優位性をもっている

と考えられる。

2.コンテンツと地域振興

⑴ 

コンテンツの地域振興策への活用

日本のコンテンツは海外需要をターゲットと

したクールジャパン戦略の一翼を担っているほ

か、国内市場についても底堅い需要が続いてい

る。そのため、コンテンツを地域振興に活用す

ることはクールジャパンの視点による海外展開

やインバウンド振興のほか、国内需要の取り込

みなどにつながることが期待できる。

観光客がコンテンツの舞台となった場所等に

実際に訪れる観光行動(ツーリズム)のことを

総称して「コンテンツツーリズム」と呼ぶ。例

えば、久慈市でNHK連続テレビ小説「あまちゃ

ん(25年)」により観光誘客を図り、入込み客

数が増加したことはコンテンツツーリズムを活

用した地域振興策の一例といえる。

コンテンツツーリズムは17年に国土交通省と

経済産業省、文化庁がまとめた「映像等コンテ

ンツの制作・活用による地域振興のあり方に関

岩手経済研究 2019年3月号 8

特別調査

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図表5  「訪れてみたい日本のアニメ聖地88(2019年版)」の地域分布

地域別 総計 構成比うち舞台・モデル

うち施設・イベント

北 海 道 4 4 0 3.0%

東 北 11 8 3 8.1%

関 東 57 49 8 42.2%

中 部 22 16 6 16.3%

近 畿 14 12 2 10.4%

中 国 9 7 2 6.7%

四 国 7 5 2 5.2%

九州・沖縄 11 8 3 8.1%

総 計 135 109 26 100.0%

資料:一般社団法人アニメツーリズム協会

図表6 東北6県のアニメ聖地88区分 県 市 等 作品・施設名

舞台モデル

青森 むつ市(大湊)艦隊これくしょん -艦これ-

宮城 仙 台 市 Wake Up, Girls! 新章

秋田 横 手 市 釣りキチ三平

山形 尾 花 沢 市 ガーリッシュ ナンバー

山形 尾 花 沢 市 ミス・モノクローム

福島 会津若松市 薄桜鬼 真改

福島 須 賀 川 市 ウルトラマンシリーズ(円谷英二氏生誕の地)

福島 伊 達 市 政宗ダテニクル

施設イベント

岩手 花 巻 市 宮沢賢治童話村

宮城 石 巻 市 石ノ森萬画館

秋田 横 手 市 横手市増田まんが美術館

泫 福島県伊達市を除く10カ所は2年連続の選定資料:図表5に同じ

高いほか、台湾(39%)、中国(33%)、香港(38

%)、アメリカ(34%)でも3割を超えており、

アニメ聖地への興味が実際の観光行動に結びつ

いていることが窺える。

「訪れてみたい」場所として選ばれることは潜

在的需要の裏付けであり、その需要をいかに実

際の観光行動や観光消費に結びつけられるかが

重要である。そのためには、アニメツーリズム

協会の活動の深化はもとより、アニメ聖地に選

定された地域がそれを好機と捉え、自治体や事

業者等が連携して受入れ体制を構築し、観光客

が具体的にアニメツーリズムをイメージしやす

い環境を整備していくことが必要と考えられる。

た直近の2019年版では、「舞台・モデル」

として109カ所(前年比21カ所増)、「施設・

イベント」として26カ所(同4カ所増)の計

135カ所が選ばれた。

地域別では関東が57カ所で約4割を占め、次

いで中部が22カ所、近畿が14カ所、東北と九州・

沖縄が11カ所などとなっている(図表5)。

また、都道府県別では東京が34カ所で突出し、

次いで神奈川の9カ所、埼玉、京都の8カ所な

どと続いた。なお、東北は福島が3カ所、宮城、

秋田、山形が各2カ所、青森、岩手が各1カ所

といずれの県でも選定されている(図表6)。

作品、作者等の存在のほか、あくまで利害関係

者間の合意形成が前提にあるため、選定がない

7県(福井、滋賀、和歌山、島根、山口、佐賀、

宮崎)や著名な作品、作者で選外となっている

ケースはあるものの、概ね、アニメ聖地88は各

地方に点在している。

2019年版の国内外の投票比率をみると、

国内が25%(前回40%)、海外が75%(同60%)

と海外比率がさらに伸びている。また、海外投

票は75の国・地域から投票があり、海外投票者

数は台湾、中国、香港の順で多い結果となった。

さらに、アニメ聖地に実際に「訪れたことが

ある」投票者の割合は、日本(70%)が当然に

なものとして選定するほか、各聖地の組織的な

取組みを支援してインバウンド振興等につなげ

ることを目指す協会である。

同協会の事業は、観光庁が国内外の観光客に

新たな地域への来訪動機を与え地方誘客を図る

ことを目的に28年度から取り組んでいる「テー

マ別観光による地方誘客事業」に2年連続(29

〜30年度)で選ばれており、「アニメツーリズム」

は「エコツーリズム」「サイクルツーリズム」

などとともに、国が支援する効果的な観光振興

策のモデルケースとなっている。

同協会によるアニメ聖地の選定は「訪れてみ

たい日本のアニメ聖地88(以下、「アニメ聖地

88」)」として29年から始まり、新しい作品のほ

か、国内外のファンからの投票や地域の盛り上

がりなどを反映している。2回目の選定となっ

9 岩手経済研究 2019年3月号

特 別調 査

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に取り上げられ、海外にも本県の取組みが紹介

されている。

同プロジェクトの中心として、達増拓也岩手

県知事が自ら責任編集するマンガコミック「コ

ミックいわて」とWEBマンガサイト「コミッ

クいわてWEB」が挙げられる。これらは、本

県の名所やお祭り、妖怪、童話などを題材とす

る描き下ろしマンガをコミックとして発行する

ほか、WEB上でも配信するもので、講談社の

コミック誌「モーニング」で「とりぱん」を連

載中のとりのなん子さん(本県出身)や、岩手

日報朝刊の「イワさんとニッポちゃん」で知ら

れるそのだつくしさん(雫石町在住)など多数

のプロの作品のほか、「いわてマンガ大賞」の

受賞作品などが掲載、配信されている。

コミックいわてWEBは効果的な情報発信を

目的に25年度から運用が始まり、現在は紙版の

コミックいわてのベースとなる作品が中心に配

信されている。さらに29年度からは「岩手さ恋」

として、各作品に関連する観光情報を紹介する

ページを設け観光ガイドブック機能を増設する

など新たな展開が進んでいる。また、紙版のコ

ミックいわてはこれまで第7弾まで発行されて

おり、第1弾の発行部数は3万6000部、第

2弾も1万5000部と東日本大震災からの復

※ソフトパワー:文化的魅力や道義的信頼によって、支

持や理解、共感を得ることにより、相手を動かす力。

その取組みの一環として県では21年度からマ

ンガを活用した地域振興策「いわてマンガプロ

ジェクト」を展開しており、県主導によるマン

ガのコンテスト「いわてマンガ大賞」の開催や

マンガコミックの全国発売、WEBマンガサイ

トの運営といった取組みが、全国的にも先駆性

の高いものとして注目を集めている。最近で

は、世界140カ国に放送されるNHK国際放

送局の日本のポップカルチャーを紹介する番組

「imagine-nation

」において、「ローカルマンガ

の舞台裏(31年1月8日放送)」と題した特集

3.本県のアニメ・マンガ等の活用事例

一般社団法人日本動画協会の調査(平成28年)

では、日本のアニメ制作会社622社のうち、

542社(87・1%)が東京に集中し、本県は

1社のみとなっている。また、本県を拠点とし

て活動するマンガ家等は存在しているものの、大

手出版社が東京中心となっていることなどを踏

まえれば、アニメやマンガの制作などが本県経

済の牽引役となるハードルは高いとみられる。

そのため、本県におけるアニメ、マンガ等を

活用した地域振興策の現実的な展開は、観光分

野を中心にツーリズムや情報発信ツールとして

の利用が主なものとなっている。そこで、ここ

からは本県の活用事例などを考察していく。

⑴ 

いわてマンガプロジェクト 

〜岩手県〜

本県では総合計画である「いわて県民計画(計

画期間21〜30年度)」のなかで、未来を切り拓

く構想のひとつに「ソフトパワー※いわて構想」

を掲げ、歴史や文化、人間性など本県のもつ普

遍的価値を岩手ブランドとして確立し、商品、

サービスの付加価値を高める取組みや、地域活

性化や帰属意識の醸成に向けソフトパワーを掘

り起こし、「岩手の誇り」として磨き上げ、発

信する取組みを進めている。

第1~7弾までの「コミックいわて」(上段左から1~4弾、下段左から5~7弾)(提供 岩手県文化振興課)

岩手経済研究 2019年3月号 10

特別調査

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簡便に認知してもらうスキームとして汎用性が

高いものといえる。マンガの活用は文化振興と

観光振興を図ることが可能であり、交流人口の

拡大に向けて、今後はWEB配信を中心に多言

語化の促進を含め、情報の量、質とも高めてい

くことが重要と考えられる。

三陸聖地化委員会 

〜大槌町〜

大槌町の「三陸聖地化委員会(議長:平ヒラ

舘ダテ

氏)」は、三陸のコンテンツツーリズムの聖地

化を目的に29年4月に設立された会であり、民

間の有志を中心に大槌町内外の県内在住者のほ

か東京在住の三陸地域の出身者などで構成され

る。同委員会は、アニメの声優などが出演する

音楽イベント「三陸コネクトフェスティバル」

の開催のほか、三陸鉄道株式会社が企画制作し

たキャラクター「鉄道ダンシ」の活用を通じて

若年層やインバウンドに訴求するような新しい

基軸の地域振興策を展開している。なお、「鉄

道ダンシ」とは、三陸鉄道株式会社が復興や地

域活性化のために立ち上げたプロジェクトによ

り24年4月に誕生した「田野畑ユウ」「恋コ

し浜ハマ

レン」といった駅名に因んだ名前の公式の社員

キャラクターで、公募によりベースとなるデザ

イン等を決定し、それをもとにイラストレー

ターのカズキヨネさんが仕上げたものである。

いわてマンガプロジェクトの展示(鳥取県との

共同展示)のほか、仏語版のコミックいわて

「Comic IW

ATE petit

」の配布を行い、達増知

事が現地のマンガ専門学校を訪問するなど、フ

ランスでも人気の高いマンガを活用したPRが

展開された。

本県の総合計画は最終年度を迎えているが、

マンガの活用は31年度予算案にも盛り込まれて

おり、これまでの基本的な取組みは継続される

とみられる。マンガは分かり易く物事を伝える

手段として有効であり、いわてマンガプロジェ

クトの情報発信のスタイルは本県のことをより

興応援による底上げもあり部数を伸ばした。そ

の後、第3弾以降は4000〜6500部に落

ち着いたものの、シリーズ累計では7万部を超

え、31年3月には第8弾の発売が予定されるな

ど、継続的な取組みによって着実に実績を積み

重ねている。

もう一つのプロジェクトの柱である「いわて

マンガ大賞」は、様々な視点から本県を捉えた

未発表のマンガ作品を全国から募集するコンテ

ストで、これまで8回(22、24〜30年度)開催

されている。直近(30年度)のコンテストでは、

一般部門および1〜4コマ部門合わせて234

点の応募があり、一般部門大賞には青森市出身

で千葉市在住のマンガ家・イラストレーターの

ザネリさんが二戸市の歴史文化や戦国武将の九

戸政実を題材に描いた「鶴と亀のいちじ」が選

ばれた。

これまでコンテストでは本県の魅力を表現し

た様々な作品が生み出されており、作品の活用、

作者の活躍の場が本県を起点として広がってい

くことが期待される。

また、県は30年10月にフランス、パリで開催

された日本文化を紹介する大型イベント「ジャ

ポニスム2018(30年7月〜31年2月)」の

公式企画「地方の魅力

祭りと文化」に参加し、

「ジャポニスム2018」出展ブースと訪問中の達増拓也岩手県知事(右)(提供 岩手県文化振興課)

11 岩手経済研究 2019年3月号

特 別調 査

Page 9: 特別調査 コンテンツを活用した地域振興策の現状と …...要約 平成 29年のコンテンツ産業の国内市場規模 は全体で 12兆4859億円と6年連続のプラ

縦貫する観光行動のモデルケースとして鉄道ダ

ンシを目的とするツーリズムが提案できると考

えられる。また、デザインや人物設定のほか音

声を担当する声優が決まっているため、その声

優を観光案内などに起用して、スポットに訪れ

る動機づけを狙うことが検討できる。

一方、三陸聖地化委員会が主催するイベント

は公益財団法人さんりく基金の「イベント開催

助成事業」による助成金を利用しており、活動

を継続するためには自主財源の確保が課題と

なってくる。クラウドファンディングの継続や

スポンサー企業の確保のほか、入場無料として

いるイベントの有償化など、提供するコンテン

ツに見合った価格設定をファンの反応を見極め

ながら検討する必要があるだろう。

三陸聖地化委員会の取組みは大槌発の地域振

れる(共催:大槌町、三陸鉄道

株式会社、三陸宮古の明日を映

す実行委員会、後援:岩手県)。

2年連続の出演となる鈴村

健一さん(4ページ参照)や蒼

井翔太さん、金ケ崎町出身の桑

島法ホ

子コ

さんなどの人気声優、歌

手のほか、地元団体の出演が予

定され、また、併催するグルメ

イベントは今回から一般社団法人大槌町観光協

会が主催となり、さらなる充実が見込まれてい

る。なお、来場者数の目標は前年を上回る

3000人としている。

三陸聖地化委員会が活用を図る「鉄道ダンシ」

については、現在、同委員会の働きかけによ

り、3月のイベントに合わせて、新たに「大槌

駅」のキャラクターの制作が進んでいる。これ

により田野畑駅、恋し浜駅(大船渡市)、大槌

駅の駅名を冠したキャラクターが点在すること

となる。

実際にファンが訪れるアニメ聖地のようなス

ポットを確立するには回遊性の高い立地や体感

型のコンテンツの有無が重要である。その点で

鉄道駅のように連続したスポットは活用し易い

ものとみられ、今後の展開によって三陸鉄道を

活動にあたっては大槌町出身で歌手や声優な

どとして活躍した佐藤ひろ美さんおよび同氏が

代表を務める芸能事務所株式会社Sエ

ス(東京都新

宿区)のほか、県や町、地元事業者、首都圏の

エンターテイメント企業などとの協力体制が構

築されていることが大きな推進力となっている。

30年2月11、12日に初開催となった主催行事

の「三陸コネクトフェスティバル」は、大槌町

中央公民館・大槌町城山公園体育館を会場に、

2日間で県内外から延べ2000人の来場者を

集めた。イベントでは人気声優や歌手が出演す

るライブ、トークショー、コスプレ撮影会のほ

か郷土芸能のステージなどが行われ、並行して

「三陸コネクトグルメ」と題した三陸のグルメ

イベントが実施されるなど、若年層に訴求する

コンテンツを柱としながらも、世代を超えて多

くの人が地域とつながる機会が創出された。人

口1万人台の大槌町に若年層の入込みが集中す

ることは異例のことであり、町や周辺地域に大

きなインパクトを与えたといえる。

31年の「三陸コネクトフェスティバル201

9」は、大槌町文化交流センター(おしゃっち)

も会場に加え、三陸鉄道と復活する大槌駅を盛

り上げるイベントとして三陸鉄道リアス線の開

通(31年3月23日)の翌週の30、31日に開催さ

ⓒ2013 SANRIKUTETSUDOUキャラクターデザイン:カズキヨネ

鉄道ダンシ(田野畑ユウ(左)、恋し浜レン(右))(提供 三陸鉄道株式会社)

岩手経済研究 2019年3月号 12

特別調査

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回遊拠点のほか、インバウンド振興にも深く関

連している市内温泉施設やいわて花巻空港など

を含めたより広域的な展開がカギとなろう。

4.他県事例

「政宗ダテニクル」~福島県伊達市~

次に、アニメを活用した地域振興策が評価さ

れ、2019年版で新たにアニメ聖地88として

選定を受けた福島県伊達市「政宗ダテニクル」

の取組みを紹介していく。

福島県北部に位置する伊達市は県庁所在地の

福島市の北東に隣接し、人口は5万9960人

(31年1月1日現在、県推計人口)と県下では

7番目の規模にある。

童話村は8年に童話作家・宮沢賢治の生誕

100周年事業で設立された「楽習施設(賢治

の童話の世界で楽しく学ぶ施設)」であり、賢

治作品の世界を5つのテーマゾーンで表現した

メイン施設「賢治の学校」のほか、ログハウス

展示施設「賢治の教室」、各種コンサート等に

利用する屋外ステージなどがある。

宮沢賢治およびその作品に若年層を継続的に

取り込むことは、観光のみならず文化振興にお

いても理想的であり、アニメ聖地という新たな

基軸が童話村に加わったことは前向きなものと

して捉えられている。

一方、現状のアニメ聖地に関する主な取組み

は、アニメツーリズム協会から贈呈された「ア

ニメ聖地88認定プレート」や、訪れた証として

押印する「ご朱印」の設置などにとどまってお

り、アニメツーリズムの実態把握のほか、アニ

メファンに訴求するイベントやスポットの創出、

拡充などが課題となっている。

ただし、市の直轄施設であることなどから童

話村単独での消費喚起には限界がある。そのた

め、アニメツーリズムに伴う観光消費等を地域

振興につなげるには、童話村以外の施設等と連

携が求められ、隣接する「宮沢賢治記念館」「宮

沢賢治イーハトーブ館」といった賢治ゆかりの

興策として回を重ねるごとに定着が進むとみら

れる。単発のイベントであっても三陸各地での

同時開催など規模拡大の余地もあり、また、鉄

道ダンシはイベントのない時期の観光行動の継

続的な下支えとなるなど、通年で三陸振興につ

ながっていくことが期待される。

宮沢賢治童話村 

〜花巻市〜

花巻市にある「宮沢賢治童話村(以下、「童

話村」)」は、本県で唯一、前述の「訪れてみた

いアニメ聖地88」に2年連続で選定されている

施設である(9ページ図表6)。選定事由は「セ

ロ弾きのゴーシュ(昭和57年)」「銀河鉄道の夜

(60年)」「グスコーブドリの伝記(平成6年、

24年)」などのアニメ作品の原作者ゆかりの施

設という位置付けからである。

作品の世界感が表現された「賢治の学校」の内部

宮沢賢治童話村受付に設置しているアニメ聖地88認定プレート(左)、ご朱印(中央)、ご朱印帳(右)

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特 別調 査

Page 11: 特別調査 コンテンツを活用した地域振興策の現状と …...要約 平成 29年のコンテンツ産業の国内市場規模 は全体で 12兆4859億円と6年連続のプラ

のみならず、様々なシーンでアニメキャラクター

を活用しており、観光パンフレットはもちろん

のこと市の公用車のうち2台はラッピングカー

となっている。また、阿武隈急行株式会社(伊

達市)と沿線市町でつくる沿線開発推進協議会

の連携により、福島

槻木間をラッピング列車

が運行しており、観光誘客への効果のほか、市

民の足として日常に溶け込んでいる。

そのほか、地元事業者による商品のデザイン

にも取り入れられており、特に29年度以降は市

がアニメを活用して商品開発等を行う事業者に

対し補助金を交付し、洋菓子やスマートフォン

ケースといった新商品開発につながっている。

さらに、31年1月からは道の駅「伊達の郷 

りょ

うぜん」に市内の飲食店や観光施設で割引など

ニメ「政宗ダテニクル」の制作を行い、28年5

月に第1話が公開された。

政宗ダテニクルは15歳の17代政宗を主人公と

し、時代を超えて復活した初代朝ト

宗ムネなどの歴代

当主16人とともに謎の忍者集団と戦うストー

リーで、これまで第6話(30年5月〜)までが

動画配信サイト「You Tube

」と「ニコニコ動画」

で公開されている。制作にあたっては、その後

のイベントやツーリズムなどへの発展を見据え、

キャラクターデザイン、声優、歌手などは若年

層や女性人気を意識したものが起用され、実際

に上映会などにはそれらのターゲット層が多く

来場するなど狙い通りの効果がみられている。

また、伊達市ではアニメの映像を用いたPR

同市は農業産出額が

福島市に次いで県で2

番目に多く、モモ、あ

んぽ柿といった果実類

が名産となっているほ

か、江戸時代以降は養

蚕が発展し、現在は

ニット産業が全国有数

のシェアを誇っている

など繊維工業が盛んで

ある。また、主な観光資源として相馬市との境

にある国指定名勝、日本百景の「霊

リョウゼン山」がある。

伊達市は初代仙台藩主「伊達政宗」で知られ

る伊達氏発祥の地で、初代当主朝ト

宗ムネから17代政

宗まで約400年間(1189〜1591年)

の関わりがあり、城跡や神社など多数の伊達氏

ゆかりのスポットが現存している。一方、仙台

市が従来から政宗を観光などの地域振興策に活

用してきたのに対し、伊達市ではその歴史的背

景を押し出した取組みが課題であった。

そこで同市では伊達氏発祥の地をPRし、観

光誘客につなげることを目的に新たな基軸とし

てアニメを取り入れることとし、伊達市と地元

アニメ制作会社の株式会社福島ガイナックス

(現 

株式会社ガイナ)とが共同で観光PRア

福島県伊達市の位置(資料:伊達市ホームページより抜粋)

ⓒガイナ/福島県伊達市

政宗ダテニクル(17代伊達政宗(左)、初代伊達朝宗(右))(提供 伊達市商工観光課)

伊達市の公用車(提供 伊達市商工観光課)

岩手経済研究 2019年3月号 14

特別調査

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ている。一方、誘客に向けた情報発信は全体的

に途上にあると思われることから、ターゲット

層を定めてそれに応じた多言語化を図ることな

どが第一歩となろう。

⑵ 「目的」として

本県の交流人口の拡大に向けては、アニメや

マンガ等に関するスポットを「目的」とするコ

ンテンツツーリズム、アニメツーリズムの充実

を図ることがひとつの方策と考えられる。一方、

それらはきっかけとなるアニメ、マンガ等の要

素のみで成立するものではないため、交通、宿

泊、飲食など地域を支える様々な事業者と観光

行動との結びつきが確立できなければ、地域振

興策としての効果は限定的となる。

より効果を高めるには、伊達市のように商品

開発やクーポンのような形でマッチングの裾野

を広げていくことや、補助金などで採算性を考

慮した支援をしていくことなども必要と考えら

れる。また、自治体や事業者はもちろんのこと

地域住民の理解や参加を得るなど、地域全体を

巻き込みながら組織的かつ継続的に展開しアニ

メ、マンガ等の活用に対する高い意識を醸成し

ていくことが重要であろう。

(研究員 

佐藤 

和孝)

5.地域振興策の新機軸としての可能性と展望

これまでみてきたアニメ、マンガ等を地域振

興策の新機軸とする取組みの内容を踏まえ、そ

れら振興策が持つ可能性を「手段」「目的」の

観点から展望していく。

⑴ 「手段」として

本県の魅力を多くの情報量をもって発信して

も受け手に高い興味がなければ一方通行で終

わってしまう。その点、アニメやマンガは情報

量に限りはあるものの、その簡便さから幅広い

層への情報発信の「手段」に適している。

本県ではコミックいわてWEBのように先駆

的なフレームワークが確立されていることから、

その環境を生かすことが効果的であろう。作品

と現地情報との連携のさらなる強化を図るほ

か、単独での発信が中心の童話村や三陸聖地化

委員会といった趣旨に沿った取組みと結びつき

を強めるなど、県内の多種多様な情報を集約、

拡散するWEB上の拠点として期待できる。

また、本県は花巻

台湾便に加え、31年1月

から上海便の定期運航が始まるなどインバウン

ドに対する機運がさらに高まっており、外国人

が高い興味を持つアニメ、マンガ等を活用した

情報発信の効果を検証するには良い機会が訪れ

が受けられる「みんなダテニクルカード」を置

き、重要な回遊拠点においてもアニメの活用が

浸透している。

このように、伊達市のアニメ活用のポイント

としてはコンテンツホルダーである市とガイナ

が地元事業者等に対しては版権料等を無償にし

て、アニメを使用しやすい仕組みとなっている

ことが挙げられる。また、事業者の参加がなけ

れば成立しない新商品開発やクーポンなどの事

業が具体的に展開できており、地域がアニメを

取り入れて地域振興につなげていこうとする一

致した考えが浸透しているとみられ、本県にお

いても大いに参考となると考えられる。伊達市の良いとこ30選

「みんなダテニクルカード」の設置(須田博行伊達市長(右))(提供 伊達市商工観光課)

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