Post on 07-Feb-2017
本日の発表内容
背景:「人口縮小社会」としての日本
コンテンツによる地域活性化
アニメ産業の従来の産業構造=東京集中
アニメ産業の地理的分散の要因
地方にアニメスタジオを設立するメリット
地方アニメスタジオの経営戦略
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背景: 「人口縮小社会」としての日本
増田寛也編著『地方消滅』(2014年)
地方都市
雇用者数の減少
製造業、公共事業、サービス業
若者の大都市圏への流出
大学が若者を集めても、地方に定着しない
「人口再生産力」低下→子ども減少
税収減→行政サービス低下→人口流出
大都市圏
生活・育児が困難→出生率低下→人口減少
震災リスクの上昇 4
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製造業の
海外流出
公共事業の縮小
若者の
大都市流出
子ども減少 サービス業の縮小
(小売・医療・介護等)
高齢者減少
生活・育児が困難な大都市に人口集中
出生率低下
人口減少
震災リスク
地方都市 大都市圏
アニメ産業の従来の産業構造 (半澤 2016)
東京への産業集積と垂直分業
2001年、全国287社中8割弱が東京に分布
大手制作会社はテレビアニメ開始後に内製化中止
→多数の工程特化型小企業との垂直分業
元請、現像所、テレビのキー局との近接性
情報交換、取引先の把握と信頼構築、動画等の運搬
産業集積・垂直分業(=脱内製化)の要因
①内製化による不必要な固定費用発生を避ける
制作量が不安定、制作者の得意・不得意分野がある
②テレビアニメでは高い質が求められなかった
③当時、歩合給が高かった→制作者もフリーに
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地理的分散の萌芽
東京の生活費(家賃)が高い
デジタル化で近接の必要性が低下
デジタルデータ送受信/遠隔打ち合わせ
仕上げ工程等で特殊機材が不要に→内製
テレビアニメ表現の「質」の要求
質向上には、人材確保や長期育成が不可欠
多数企業が集まり人材流動性が高い東京では困難
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地方にアニメスタジオを設立することのメリット
生活費が安い
地方にあることで注目される
地理的距離という制約をある程度克服
企業が少なく、人材流動性が低いため、人材確保・長期育成が可能
人材や表現の質が「持続的競争優位」を生む「企業固有能力」に
例)京都アニメーション、ピーエーワークス
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ピーエーワークス堀川憲司社長
東京にあったら全然目立たない、埋もれてる小さな会社なんだけど、富山ということで注目してくれる。
1960年代の東映動画みたいに、自社で大勢のアニメーター
を育成しながらじっくり長編アニメーションを作るような、そんな制作現場に憧れるところがすごくあって。かつては、“映画バカ”な連中が集まって、わいわい言いながら大きな達成感を持ってフィルムを作っていた。……僕には、その現場を作ろうと思っても、もう今の東京ではできないし価値観も違う。 「『花咲くいろは』の経営術」『ASCII.JP』
「アニメは地方のほうが人を育てやすい」というのが堀川氏の見解。…スタジオの多い東京だとスタッフが流動的になってしまうが、「地方に来るということは腰を据えてやろうという覚悟がある。彼らに計画をきちんと説明して協力してもらう」ことで、離職率を低く抑え、人材育成してきたのだとか。 「アニメスタジオが地方に定着 富山・徳島など」『日経エンタテインメント!』 11
地方アニメスタジオの経営戦略
人材流動性の低さ(環境)を活用
「内製化」戦略の徹底
人材の長期的・計画的育成
ポリバレント(多能)で付加価値を提示できる人材育成
キャリアプランやカリキュラムの提示、スクール運営
担当カット増加 → 制作者の意欲・自律性向上
社宅などを用意 → 交流機会、キャリアモデル
スケジュール管理(朝礼など)による費用削減
垂直統合: 下請→元請→オリジナル→出版・販売
事業多角化: 海外展開、アプリ、地域活性化
地方を舞台にしたアニメの制作
制作能力をベースに、資産を蓄積すると共に、東京・地域との関係や名声、販売力を持続的に構築 12
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所在 設立 社員 作品の特徴 経営戦略 地元への影響
京都アニメー
ション
京都
(東京・大阪)
1985
年 146名
・版権(ラノベ・PCゲーム・マンガ)
→オリジナル(自社出版作)
・女性向け作品
・人材育成(社員雇用・社宅・スクール)
・垂直統合(出版・ショップ)
・雇用創出
・背景が関西→聖地巡礼
・京アニ&DO
主催ファン感謝イベント
ピーエー
ワークス
富山
(東京)
2000
年 48名
・オリジナル:版権=2:1
・人材育成(社員雇用・社宅)
・事業多角化(海外展開・アプリ・地域振興)
・雇用創出
・舞台・背景が北陸→聖地巡礼
・「湯桶ぼんぼり祭り」(石川)
・南砺市地区限定アニメ「恋旅」
・地域振興のための一般社団法人「PARUS」
出所: 帝国データバンク、各社ウェブサイト
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0
50,000
100,000
150,000
200,000
250,000
2010 2011 2012 2013 2014 2015
京都アニメーション売上 ピーエーワークス売上
京都アニメーションとピーエーワークスの 売上高(単位:万円)
出所: 帝国データバンク
結論
地方での雇用創出や観光促進の手段としてのアニメスタジオ設立には可能性がある
地方アニメスタジオに有利な条件が存在
コンピュータやネットワーク(ICT)の普及
東京の制作環境の厳しさ
地方アニメスタジオの成長には、地方の環境の機会を活かすだけでなく、内製や人材育成を土台とする経営戦略とその持続的実行が必要
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参考文献
Barney, Jay B., 2002, Gaining And Sustaining
Competitive Advantage (Second Edition), Prentice Hall.
(=2003,岡田正大訳『企業戦略論【上】基本編――競争優位の構築と持続』ダイヤモンド社.)
半澤誠司,2016,『コンテンツ産業とイノベーション――テレビ・アニメ・ゲーム産業の集積』勁草書房.
増田寛也編著,2014,『地方消滅――東京一極集中が招く人口急減』中公新書.
高橋光輝,2011,「アニメーションにおける人材育成」高橋光輝・津堅信之編『アニメ学』NTT出版株式会社.
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