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日本呼吸器学会 医学教育用 呼吸器病学コアカリキュラム

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日本呼吸器学会

医学教育用呼吸器病学コアカリキュラム

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作成・編集 社団法人 日本呼吸器学会教育委員会  委員長:西村 正治(北海道大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野) 医学教育用呼吸器病学コアカリキュラム作成ワーキンググループ  委員長:栂  博久(金沢医科大学呼吸器内科学)  委 員:西岡 安彦(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部呼吸器・膠原病内科学分野)      土肥  眞(東京大学大学院医学系研究科アレルギーリウマチ内科学)      小川 浩正(東北大学環境安全推進センター/大学院医学系研究科産業医学分野)      谷口 博之(公立陶生病院呼吸器・アレルギー内科)      門田 淳一(大分大学医学部総合内科学第二講座)      弦間 昭彦(日本医科大学内科学講座呼吸器・感染・腫瘍分野)      佐々木治一郎(北里大学医学部呼吸器内科学)      大平 徹郎(国立病院機構西新潟中央病院呼吸器センター内科)      富井 啓介(神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科)      田邉 信宏(千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学)

作成協力: 佐久間 勉(金沢医科大学呼吸器外科学)      谷田 達男(岩手医科大学呼吸器外科学講座)      近藤  丘(東北大学加齢医学研究所呼吸器外科学分野)      岡田 克典(東北大学加齢医学研究所呼吸器外科学分野)      星川  康(東北大学加齢医学研究所呼吸器外科学分野)

編集協力 社団法人 日本呼吸器学会教育委員会  副委員長:山口 哲生(JR 東京総合病院呼吸器内科)  委  員:坂  英雄(国立病院機構名古屋医療センター呼吸器科)       徳田  均(社会保険中央総合病院呼吸器内科)       田坂 定知(慶應義塾大学医学部呼吸器内科)       矢野 聖二(金沢大学がん進展制御研究所腫瘍内科)       酒井 文和(埼玉医科大学国際医療センター画像診断科)

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目 次I.呼吸器系の構造

1.気道,肺葉,肺区域,肺門‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 12.肺循環‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 13.縦隔と胸膜腔‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 14.気道と肺の防御機構(免疫学的・非免疫学的)と代謝機能‥ ‥‥‥‥ 1

II.呼吸器系の機能1.呼吸筋と呼吸運動‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 22.肺気量,肺・胸郭系の圧・量曲線‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 23.肺胞におけるガス交換と血流の関係‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 24.換気血流比と動脈血ガス‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 25.呼吸中枢を介する呼吸調節‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 26.血液による酸素と二酸化炭素の運搬‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 2

III.症 候1.チアノーゼ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 32.胸水‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 33.胸痛‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 34.息切れ・呼吸困難‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 35.咳・痰‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 36.血痰・喀血‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 37.喘鳴‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 48.嗄声‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 49.ばち指‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 410.上大静脈症候群‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 4

IV.身体診察1.血圧測定‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 42.脈拍‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 43.呼吸数と呼吸パターン‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 4

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4.体温と体温測定‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 55.胸部の視診,触診,打診,聴診‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 56.呼吸音の聴診(異常呼吸音と副雑音)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 5

V.臨床検査1.画像検査(単純X線写真,CT,核医学検査,MRI)‥ ‥‥‥‥‥‥‥ 5

1)胸部単純X線写真(胸部X線写真) 52)CT検査(CT) 53)核医学検査 64)MRI 検査 6

2.動脈血ガス分析‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 63.経皮的酸素飽和度モニター‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 64.呼吸機能検査‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6

1)肺気量分画,努力呼出曲線,抵抗,コンプライアンス,拡散能力 62)気道可逆性,気道過敏性 6

5.気管支鏡診断‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 76.喀痰検査(細菌,抗酸菌)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 77.細胞診,病理組織検査‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 78.腫瘍マーカー‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 79.アレルギー検査‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 710.胸腔鏡検査‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 711.経皮的肺生検・吸引細胞診‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 812.外科的肺生検(VATSを含む)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 813.胸腔穿刺‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 814.睡眠呼吸モニター‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 815.右心カテーテル‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 8

VI.治療とケア1.薬物療法(吸入療法を含む)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 8

1)気管支拡張薬 82)副腎皮質ステロイド 93)抗菌薬 94)抗悪性腫瘍薬(抗癌薬) 9

4)- 1 癌化学療法 94)- 2 分子標的治療 9

2.酸素療法‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 93.気管内挿管‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9

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4.気管切開‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥105.人工呼吸‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥106.非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥107.胸腔ドレナージ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥108.放射線療法‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥109.気管支鏡治療‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1010.気管支動脈塞栓術‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1011.外科療法‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥11

1)肺切除術 112)胸腔鏡手術 113)肺移植 11

12.禁煙指導‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1113.在宅酸素療法,在宅人工呼吸‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1114.呼吸リハビリテーション‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥11

VII.主要疾患1.呼吸器感染症‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12

1)急性上気道感染症(かぜ症候群) 122)気管支炎・肺炎 123)肺結核症 124)非結核性抗酸菌症 125)嚥下性肺炎 126)肺化膿症 127)真菌感染症 138)日和見感染 13

2.閉塞性肺疾患‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥131)慢性閉塞性肺疾患(COPD) 132)気管支喘息 133)びまん性汎細気管支炎 134)閉塞性細気管支炎 13

3.気道・肺胞の形態異常‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥141)気管支拡張症 142)気腫性囊胞(ブラ,ブレブ) 143)無気肺 144)肺リンパ脈管筋腫症(LAM) 14

4.間質性肺疾患‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥141)特発性間質性肺炎(IIPs) 142)膠原病に伴う間質性肺炎 14

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3)放射線肺臓炎 154)じん肺(珪肺,石綿肺) 155)薬剤性肺炎(肺障害) 15

5.肺循環障害‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥151)肺性心 152)急性呼吸窮(促)迫症候群(acuterespiratorydistresssyndrome:ARDS) 153)肺血栓塞栓症 154)肺高血圧症 165)肺水腫 166)肺動静脈瘻 16

6.免疫学的機序による肺疾患‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥161)過敏性肺(臓)炎 162)サルコイドーシス 163)好酸球性肺炎 174)アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergicbronchopulmonary aspergillosis:ABPA) 175)アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss 症候群) 176)Wegener 肉芽腫症[肉芽腫性多発血管炎(granulomatosiswith polyangiitis:GPA)] 177)自己免疫性肺胞蛋白症(pulmonaryalveolarproteinosis:PAP) 17

7.肺腫瘍‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥171)原発性肺癌 172)転移性肺腫瘍 183)良性肺腫瘍 18

8.呼吸不全と異常呼吸‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥181)呼吸不全 182)過換気症候群 183)睡眠時無呼吸症候群(sleepapneasyndrome:SAS) 18

9.胸膜・縦隔疾患‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥181)胸膜炎 182)膿胸 193)気胸 194)縦隔腫瘍 195)縦隔気腫 196)胸膜中皮腫(悪性胸膜中皮腫) 19

索 引‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥20

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I.呼吸器系の構造1.気道,肺葉,肺区域,肺門

肺は,右は 3 つの肺葉(上葉,中葉,下葉),左は 2 つの肺葉(上葉,下葉)からなる.さらに,右上葉は 3 つの肺区域(S1,S2,S3),右中葉は 2つの肺区域(S4,S5),右下葉は 5 つの肺区域(S6,S7,S8,S9,S10)からなり,左上葉については,上区は 2 つの肺区域(S1+2,S3),舌区は 2 つの肺区域(S4,S5),左下葉は 4 つの肺区域(S6,S8,S9,S10)からなる.気道は,気管,左右主気管支,肺葉気管支と分岐し,2 ~ 3 分岐しながら,区域気管支,亜区域気管支となる.肺門は,気管支,肺動脈,肺静脈でつくられる.

2.肺循環右室より駆出された静脈血が,肺動脈,肺毛細

血管,肺静脈を経て左房にもどる系である.肺循環系は,静脈血の動脈血化というガス交換機能に加え,生理活性物質の活性化・不活化などの代謝機能,フィルター機能,線溶機能を有する.健常成人の単位時間あたりの肺循環血流量は体循環に等しく,5 ~ 6 l/ 分である.肺動脈は肺内を気管支系と伴走し,末梢では細気管支とともに小葉中心部を走る.肺胞壁では肺毛細血管が網目構造を構築し,毛細血管床面積は 50 ~ 70 m2 に及ぶ.安静時の平均肺動脈圧は 10 ~ 15 mmHg で,肺血管抵抗は体血管抵抗の 1/5 ~ 1/6 であり,肺循環系は体循環系と比較して,低圧,低抵抗といった特徴を有する.

3.縦隔と胸膜腔縦隔は,左右が肺,下方が横隔膜,背側が胸椎,

前方が胸骨で囲まれた空間で,心,大動脈,大静脈,奇静脈,食道,気管・左右主気管支,肺動脈,肺静脈,リンパ節,胸腺,神経系などの臓器が含まれる.左右胸膜腔は,壁側胸膜と臓側胸膜で囲まれた閉鎖腔であり,5 ~ 10 ml 程度の胸水があり,呼吸運動に伴う 2 枚の胸膜の摩擦を低下させている.

4.気道と肺の防御機構(免疫学的・非免疫学的)と代謝機能

外気からの異物は,その粒子サイズに応じて上・下気道に沈着し,粘膜線毛輸送系により排出される(機械的防御機構).気道分泌中には分泌型IgA が豊富に含まれ,トランスフェリン,補体,SP–A・D なども防御因子として働く(液性成分による防御反応).免疫担当細胞としてリンパ球,好中球,特に肺胞マクロファージが重要な役割を果 た し て い る( 細 胞 成 分 に よ る 防 御 反 応 ).SP-A・D などを含むサーファクタントはⅡ型肺胞上皮細胞で合成・分泌される.肺血管内皮細胞は,アンジオテンシン変換酵素を分泌し,アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換,ブラジキニンを不活化する.また,セロトニン,ノルアドレナリンの分解にも働く.

医学教育用

呼吸器病学コアカリキュラム

■項目塗りつぶし無し:4学年(CBT,OSCE)まで■項目塗りつぶし有り:国試まで

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II.呼吸器系の機能1.呼吸筋と呼吸運動

主として吸気を担当する筋(吸気筋)は横隔膜,外肋間筋,斜角筋であり,努力吸気時や疾患では胸鎖乳突筋などの呼吸補助筋が胸郭を挙上するように吸気を補助する.呼気を担当する(呼気筋)のは内肋間筋とされているが,安静呼気は肺と胸郭の弾性収縮力で受動的に行われ,努力呼気時には外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋の腹筋群が働く.呼吸運動は,主として横隔膜の収縮によるドームのピストン様運動と胸郭の広がりなど,複雑な過程で行われている.

2.肺気量,肺・胸郭系の圧・量曲線肺気量分画には,単一分画である 1 回換気量

(TV),残気量(RV),予備吸気量(IRV),予備呼気量(ERV)と,複数分画である最大吸気量

(IC),機能的残気量(FRC),肺活量(VC),全肺気量(TLC)がある.肺・胸郭系の圧・量特性は,両者の相互作用で決まり,最大吸気位は肺の最大拡張位で,最大呼気位は胸郭の最小収縮位で規定されている.肺の弾性収縮力と胸郭の弾性拡張力が釣り合うところが安静呼気位である.

3.肺胞におけるガス交換と血流の関係末梢気道から肺胞ではガスの受動的拡散でガス

交換が行われている.室内気吸入下では肺胞気酸素分圧(PAO2)は 100 Torr,肺動脈(混合静脈血)酸素分圧(Pv━ O2)は 40 Torr と分圧差があり,肺胞気二酸化炭素分圧(PACO2)は 40 Torr,肺動脈(混合静脈血)二酸化炭素分圧(Pv━CO2)は46 Torr と分圧差があり,この勾配に従って拡散する.肺血流は重力の影響を受けるので,立位 ・坐位においては肺尖では少なく,肺底で多い.換気が悪く PAO2 が低い肺胞への血流を少なくするメカニズムは低酸素性肺血管攣縮(HPV)と呼ばれ,低酸素血症を抑制している.二酸化炭素の拡散能力は大きく,二酸化炭素のガス交換はほとんど肺胞換気量に依存している.

4.換気血流比と動脈血ガス肺での換気は部位による違いが少ないのに対し

て,血流は重力の影響で肺尖では少なく肺底で多いため,換気血流比(V

4

A/Q4

C)は肺尖で大きく肺底で小さい.肺全体では V

4

A/Q4

C = 0.8 である.疾患などで V

4

A/Q4

C 不均等分布があり,V4

A/Q4

C が小さい部位への血流が残っていると,酸素化されない血液が肺静脈へ流入するシャント様効果が表れ,動脈血ガスの低酸素血症が起こる.これを評価するのに肺胞気 - 動脈血酸素分圧較差(A–aDO2)が有用である.

5.呼吸中枢を介する呼吸調節呼吸の基本的なリズム形成機構をつかさどる中

枢は橋・延髄の脳幹部にある.呼吸の神経反射による調節機構として,肺伸展受容器,迷走神経など気道・肺からの反射と,呼吸筋からの反射がある.化学調節には 2 つの主要な系があり,末梢化学受容器である頸動脈体,大動脈体は低酸素刺激に反応して呼吸を促進し,中枢化学受容野は延髄腹側にあって高二酸化炭素血症や H +の上昇で換気を刺激する.呼吸はさらに上位中枢により行動調節も受けている.行動調節には,意識的に呼吸を止めたり換気の大きさを変える随意性調節と,喜び,怒りなどの情動に伴って変化する不随意性調節がある.

6.血液による酸素と二酸化炭素の運搬酸素は血液中ではほとんどがヘモグロビンに結

合しており,酸素分圧と酸素飽和度の関係はヘモグロビンの酸素解離曲線で表現される.酸素解離曲線は体温,pH,二酸化炭素分圧(PCO2)によって右方移動,左方移動する.したがって,酸素の末梢組織への供給は,動脈血酸素分圧(PaO2),ヘモグロビン量,心拍出量で決まる.血液に溶解して運ばれる酸素はごく微量である.二酸化炭素は酸素に比べて拡散能力が大きく,また,血漿や赤血球内の溶液に容易に溶解する.二酸化炭素は血漿中では H2O と反応して HCO3

-として存在したり,赤血球内ではヘモグロビンの NH2 基と反応してカルバミノ化合物をつくっており,血液中を運搬されている.

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3III.症  候

III.症  候1.チアノーゼ

皮膚,粘膜,爪床が青紫色になっている状態をいう.皮膚毛細血管および静脈血を流れる血液中の還元ヘモグロビンが 5 g/dl 以上に増加することにより認められる.このため多血症があると認めやすく,貧血があると認めにくい.呼吸器の異常,シャント性心疾患などによる動脈血の酸素化障害や心拍出量の減少に起因する中心性チアノーゼと末梢循環不全に起因する末梢性チアノーゼに分類される.中心性では舌裏にも認められるが,末梢性では認められない.

2.胸 水臓側・壁側胸膜に囲まれた胸腔内に少量存在し,

胸膜間の摩擦の軽減に働いている.種々の病的状態により,産生と吸収のバランスが崩れることにより貯留し,胸水の構成成分により漏出性胸水,滲出性胸水に分類される.漏出性,滲出性の鑑別に Light の基準が頻用される.胸水の臭い,pH,細胞数・分類,LDH,糖,アミラーゼ,ヒアルロン酸,アデノシンデアミナーゼ(ADA)などが原因診断のため測定される.原因疾患の治療によりコントロールできない場合は,胸腔ドレナージによる治療が行われる.胸部正面写真で確認できるには約 400 ml 以上の貯留が必要と考えられている.

3.胸 痛胸部を構成する組織・臓器に関連する痛みをい

う.胸壁の表在知覚由来の体性痛と胸郭内臓器に由来する内臓痛がある.胸痛を示す疾患には,致死的疾患である緊張性気胸,肺血栓塞栓症,急性冠症候群,大動脈解離などがあり,迅速な対応が必要な場合がある.胸部に器質的異常のないパニック障害でも胸痛を主訴とすることがあり,多くの原因疾患が含まれる.バイタルサインに留意し,胸痛の発症様式,部位,性状,持続時間,経過,増悪・寛解因子,関連症状,基礎疾患などを考慮し鑑別疾患を考える.

4.息切れ・呼吸困難呼吸に際して感じる不快感をいう.機序は不明

な点も多いが,長さ-張力不均衡説では,呼吸中枢での呼吸筋運動に対する指令の強さと実際の呼吸筋運動との不均衡が生じるためと説明される.呼吸器疾患や心疾患症例の呼吸不全に伴うことが多い.低酸素血症や高二酸化炭素血症の程度と呼吸困難の程度とは必ずしも一致せず,慢性呼吸不全患者では,低酸素血症の程度は血液ガス分析などで客観的に判断する必要がある.客観的評価のため Fletcher-Hugh-Jones 分類,MRC 息切れスケール,Borg スケール,VAS(visual analog scale)などが用いられる.

5.咳・痰咳は,爆発的に息を吐き出す呼吸運動で,気道

内異物排除などに働く生体防御反応である.咳受容体からの刺激が延髄の咳中枢に伝わり,遠心性刺激を生じ咳が起こる.痰の有無により乾性・湿性に,また持続期間により急性・遷延性・慢性に分類される.持続期間が短いと感染症が,長いと感染症以外の原因が多くなる.痰とは正常量を超える気道分泌物が気管支腺や 杯

さかずき

細胞より産生される結果自覚される症状である.時に後鼻漏や吸引した唾液が喀出されることもある.その性状により粘液性痰,漿液性痰,膿性痰などに分類される.喀痰中の微生物,細胞の検索が原因確定に重要である.

6.血痰・喀血呼吸器系から出血し痰に血液が付着ないし混在

したものを血痰,血液が喀出されたものを喀血と呼ぶが,明解に区別できないことも多い.気管支拡張症,肺癌,結核などの呼吸器疾患に伴うことが多い.上気道,口腔内,上部消化管からの出血との鑑別を要する.多くは気道粘膜の血管である気管支動脈が関与しているが,急性肺水腫などでは毛細血管の透過性亢進に起因する場合もある.大量喀血は窒息の危険があり,気道確保など迅速な対応が必要となり注意を要する.原疾患の治療や止血剤投与によりコントロールできない場合は,気管支動脈塞栓術,外科的処置なども考慮される.

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7.喘 鳴呼吸に伴い聴取する「ゼーゼー」,「ヒュー

ヒュー」という音を指す.気道の機能的・器質的な狭窄,不完全な閉塞による乱流が振動を起こし聴取される.喘鳴の生じる部位が上気道である場合は stridor と呼び,下気道から発生するwheezes と区別される.原因としては気道の虚脱・攣縮,気道壁の浮腫・肥厚,分泌物の貯留,腫瘍や異物などによる気道の狭小化などがあり,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD),心不全などで聴取される.呼気相で聴取しやすいが,狭窄が強くなると吸気相にも聴取し,さらに狭窄が進むと逆に聴取できなくなる.

8.嗄 声声帯閉鎖運動の障害による音質の異常をいう.

喉頭や声帯の炎症,腫瘍,神経麻痺,甲状腺機能低下症などが原因となる.また,声帯の運動に関与する左反回神経は大動脈弓部で腹側から背側へ反転して上行しているため,縦隔腫瘍,肺癌,縦隔リンパ節腫大,大動脈瘤,食道の異常など縦隔内の疾患が原因となる場合がある.

9.ばち指手指や足趾末節の結合組織の増殖による無痛性

腫大と爪の変形をいう.発生機序は不明で組織低酸素説,指尖の血管拡張説などあるが,最近プロスタグランジン E2 の関与が指摘されている.爪甲基部厚と遠位指節間関節部厚の比が 1 以上,または爪と爪甲基部に続く指背面のなす角度が180 度以上をもって判断される.肺癌や間質性肺炎などの呼吸器疾患,チアノーゼを伴う先天性心疾患などの心疾患が原因であることが多いが,Crohn 病や肝硬変などの消化器疾患,Basedow病などの内分泌疾患などでも認められる.

10.上大静脈症候群上大静脈の狭窄や閉塞により頭頸部または上肢

からの静脈還流障害をきたすことで発症する.所見として頸部や前胸部での静脈怒張,顔面・上肢の浮腫,チアノーゼ,自覚症状として呼吸困難,胸痛,血痰などを認める.原因としては肺癌や縦隔腫瘍など腫瘍性病変がほとんどであるが,中心

静脈カテーテルやペースメーカー挿入による血栓によるものが増加している.治療としては原因疾患に対する治療に加え,血管内ステント挿入が行われるが,安全でかつ有効な治療法とされている.

IV.身体診察1.血圧測定

カフが心臓の高さになるような姿勢とし,まず橈骨動脈を触診しながら脈の消失まで圧を上昇させ,その後ゆっくり圧を低下させて脈拍再現を確認する(触診による収縮期圧).いったん圧をゼロまで下げ,再度触診収縮期圧より 10 mmHg 上まで上昇させ,その後ゆっくり下げながら上腕動脈上の聴診器で Korotkoff 音の出現を聴取する

(聴診による収縮期圧).さらにゆっくり圧を下げて音の消失を確認する(拡張期圧).少なくとも一 度 は 左 右 の 上 腕 動 脈 で 測 定 し, 左 右 差 が10 mmHg 以上あるときは,低い側の動脈圧迫もしくは狭窄が考えられる.収縮期血圧が吸気時に10 mmHg 以上低下するときは奇脈と呼び,心タンポナーデや喘息発作のときなどにしばしば認められる.

2.脈 拍必ず左右の橈骨動脈で第 2 指,第 3 指を用い

て拍動を触知し,左右差,拍動ごとの強弱,呼吸性変動,リズム不整に注意し,1 分間の脈拍数を測定する.100 以上は頻脈,50 以下は徐脈と呼ぶ.リ ズ ム 不 整 に は 予 測 で き る 不 整(regularly irregular)と予測できない不整(irregularly irregular)が存在する.前者には 2 度の房室ブロック,洞性不整脈,期外収縮による二段脈・三段脈,心不全で出現する脈の強弱が交互に起こる交互脈(pulsus alternans)などがある.後者には心房性期外収縮,心室性期外収縮,心房細動,多源性心房頻脈がある.

3.呼吸数と呼吸パターン呼吸を観察するときは回数,深さ,規則性に注

意する.速くて浅い呼吸を tachypnea(多呼吸,頻呼吸)と呼び,拘束性障害,胸膜痛,横隔膜挙

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5V.臨床検査

上などさまざまな病態で生ずる.速くて深い呼吸を hyperpnea,hyperventilation(過呼吸)と呼び,運動,不安,代謝性アシドーシス(Kussmaul呼吸)などで生ずる.呼吸数の低下したものはbradypnea(徐呼吸)と呼び,脳圧亢進,糖尿病性昏睡,薬物などでみられる.呼吸リズムの異常に は 頻 呼 吸 と 無 呼 吸 を 周 期 的 に 繰 り 返 すCheyne-Stokes 呼吸があり,心不全,脳障害,高齢者などに認められる.回数,深さとも不規則な失調性呼吸は Biot 呼吸と呼ばれ,典型的には脳幹障害で認められる.

4.体温と体温測定中心体温の正常値は 36.2℃から 37.5℃とされ,

日内変動が 0.5℃の範囲で認められる.通常38.0℃以上で発熱と考え,35℃以下は低体温である.体温は測定する部位により異なるが,口腔温と比較して直腸温は約 0.6℃高く,腋窩温は 0.4~ 0.5℃低い.発熱のパターンとして回帰熱とは数日間の発熱と平熱を繰り返すもの,弛張熱は毎日 0.3 ~ 1.4℃の変動幅を有するが常時 37.3℃以上のもの,間欠熱は同様に変動するが正常値まで下がるもの,稽留熱は 1 日の変動が 0.3℃以内の発熱である.

5.胸部の視診,触診,打診,聴診視診では坐位での頸静脈の怒張の有無,口すぼ

め呼吸,胸郭の形状からビア樽状胸(胸郭横径より前後径が開大),漏斗胸,側弯,後弯,前弯などを捉える.視診触診で横隔膜筋力低下,疲労により胸郭と腹壁が反対に動く奇異性呼吸,重度COPD における季肋部や下部肋骨の吸気時内方陥凹(Hoover 徴候),呼吸努力時の頸部呼吸補助筋の緊張などを把握する.打診で鼓音を認めるのは気胸,胸壁に接した肺囊胞,空洞,肺気腫などで,濁音は縦隔,心,肝,脾などの正常構造物,無気肺,胸水など含気のない肺で認められる.聴診では気管が胸壁に近い部位で気管支呼吸音,そのほか大部分で肺胞呼吸音が聴取され,呼吸音減弱は気道閉塞による無気肺,換気低下による肺気腫,音伝播が阻害される気胸や胸水貯留で認められる.

6.呼吸音の聴診(異常呼吸音と副雑音)本来聴取されない部位で高調な気管支呼吸音が

聴取される場合は,肺炎,無気肺など肺実質密度の増加するような病変が疑われる.呼吸音以外に呼吸運動で生ずる異常音が副雑音(ラ音)で連続性ラ音と断続性ラ音に大別される.連続音は気道狭窄に伴って生じ,細い気道から発生する高音性連続音(wheezes)と比較的太い気道から発生する低音性連続音(rhonchi)に分けられる.断続音 は 太 い 気 道 内 で 生 ず る 粗 い 調 子 の水 泡 音

(coarse crackles)と,末梢気道の吸気による再開放時に生ずる細かくて高い調子の捻髪音(fine crackles)に分けられる.胸膜炎の初期に吸気,呼気ともに均等に生ずる断続音は胸膜摩擦音

(friction rub)と呼ばれる.

V.臨床検査1.画像検査(単純X線写真,CT,核医学検査,MRI)1)胸部単純X線写真(胸部X線写真)

呼吸器疾患のスクリーニング検査として用いられる.肺野の異常,大血管の異常,胸水や胸膜病変の有無,心臓の大きさ,縦隔の病変の有無,脊椎などの骨の異常などに着目する.病変の部位(上肺野優位,下肺野優位など),性状(結節影,限局性陰影,びまん性陰影など)が鑑別診断に役立つことが多い.また肺野については X 線透過性の変化,肺容積の変化などにも着目する.一方,吸気,呼気,側面像,側臥位など撮影体位や方向などが重要となることもしばしばある.また過去の画像との比較も重要である.呼吸器疾患のみならず他疾患の鑑別にも有用である.

2)CT検査(CT)CT では X 線検査と比較してさらに詳細な診断

が可能となりウィンドウレベル,ウィンドウ幅を変更することで肺野条件・縦隔条件などを設定し,対象とする病変やその部位に応じて使い分ける.また腫瘍の進展の把握,病変の内部性状の把握,肺塞栓などの血管病変の診断などに関しては造影CT が有用となる.2 mm 以下のスライス幅で撮

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像した高分解能 CT(HRCT)は特にびまん性肺疾患の診断,肺の結節陰影の鑑別診断には重要である.

3)核医学検査核医学検査はラジオアイソトープを用いて対象

とした臓器の機能,腫瘍の活動性・広がりなどを調べる検査である.肺換気血流シンチグラフィは肺血栓塞栓症の診断に役立ち,Ga シンチグラフィは腫瘍や炎症の評価に役立つ.また従来の検査では判定が困難な腫瘍性病変の評価や遠隔転移の精査のため FDG-PET 検査も最近よく用いられる.これは悪性度の高い腫瘍細胞ほど正常細胞と比較して糖代謝が活発なことを利用している.ただし,PET 検査にも悪性腫瘍の検出には限界があり,偽陽性・偽陰性例も少なからずあるため注意を要する.

4)MRI 検査MRI は CT と比較して組織間コントラストが

優れており,また多方向からの断層像を直接得ることができる.腫瘍の内部構造をより正確に描出できるため縦隔や胸膜や胸壁の腫瘍性病変の質的診断に有用であり,その局在・進展範囲の把握にも有用である.脳や骨髄への遠隔転移の検索にも有用であるため,腫瘍の病期診断にしばしば用いられる.

2.動脈血ガス分析動脈血ガス分析は,動脈血採取により,動脈血

酸素分圧(PaO2),動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2),pH,[HCO3

-],base excess などを測定するものである.ガス交換能力とともに,生体内の酸塩基バランスを知ることができる.PaO2 は,ガス交換能の指標となる.また酸素解離曲線に従い動脈血中ヘモグロビンの酸素結合能を規定する.PaCO2 は,肺での有効換気状態により変動することより換気状態の指標となる.pH は生体の酸塩基平衡状態を示す指標である.[HCO3

-]と base excess は,代謝性(非呼吸性)の酸塩基平衡状態を示す指標となる.[HCO3

-]は,主に腎からの不揮発性酸の排泄状態を示し,base excess は生体内の塩基(アルカリ)の増減を示している.

3.経皮的酸素飽和度モニター酸素飽和度はヘモグロビン中の酸化ヘモグロビ

ンの割合を示したものである.酸素飽和度は,酸素分圧により規定され,その関係を示したのが酸素解離曲線である.経皮的酸素飽和度モニター(パルスオキシメーター)は,皮膚を通して,酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光度の違いを利用して,経皮的酸素飽和度(SpO2)を測定するもので,拍動により,動脈血と静脈血の組織内吸光度を区別している.SpO2 = 88 ~ 90%がPaO2 = 60 Torr である.測定原理上,末梢循環不全の場合,SpO2 は低い値を示す.SpO2 に対して,動脈血ガス分析より得られる動脈血酸素飽和度をSaO2 と表記する.

4.呼吸機能検査1)肺気量分画,努力呼出曲線,抵抗,コンプライアンス,拡散能力

肺気量の各分画は安静呼吸で測定する.一方,被検者に最大吸気位より強制呼気をさせて得られるのが努力呼出曲線(フローボリューム曲線)であり,1 秒量,1 秒率などを指標とする.最大呼気速度(PEFR)は,気管支喘息で呼気の気流閉塞の指標の一つとして用いられる.抵抗には,気道抵抗,肺抵抗ならびに,肺・胸隔系の粘性抵抗・弾性抵抗・慣性抵抗のすべてを含む(全)呼吸抵抗がある.コンプライアンスは,肺組織の硬さ,広がりやすさの指標である.肺胞壁のガス分子の移動の指標が拡散能力であり,臨床的には一酸化炭素の拡散能力(DLCO)を用いた single breath法が汎用される.

2)気道可逆性,気道過敏性気道可逆性は,気道拡張性の変化を示したもの

である.気管支拡張薬・ステロイド薬など気道収縮に影響を与える薬剤により気道収縮性に変化がみられるかどうかを示す指標である.具体的には,1 秒量を測定し,負荷前に比し負荷後の 1 秒量が200 ml 以上かつ負荷前 1 秒量の 12%以上負荷後1 秒量が増加する場合,気道可逆性ありと判定することもある.気管支喘息の診断に役立つ.一方,気道過敏性は,気道収縮性の敏感度を示すものである.コリン作動性薬剤(アセチルコリンなど)による直接刺激因子,および運動・乾燥気などの間接刺激因子を負荷させることで,気道収縮性の変化を調べる.指標としては 1 秒量を用いるのが標準であるが,呼吸抵抗を用いる場合もある.

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7V.臨床検査

5.気管支鏡診断気管支内視鏡は経口または経鼻的に挿入し,声

帯を経て気管内腔へ達する.通常は画像モニター下に亜区域気管支レベルまでの気管支粘膜の観察が可能である.気管支の分岐異常,閉塞・狭窄や粘膜の性状(出血,びらん,浮腫,毛細血管怒張など)を確認し,病変が疑われる場合には洗浄,擦過,生検などにより検体を採取する.末梢の病変に対しては X 線透視下に擦過法や経気管支肺生検(TBLB)によって検体採取を行うが,合併症として気胸や出血があげられる.びまん性肺疾患などに対しては肺胞領域の細胞成分や液性成分の解析目的に気管支肺胞洗浄(BAL)が施行される.気管支内腔側から壁と壁外を描出するため気管支腔内超音波断層法(EBUS)が用いられる.

6.喀痰検査(細菌,抗酸菌)喀痰検査には,塗抹,培養,遺伝子学的検査が

あり,呼吸器感染症における微生物学的評価を行ううえで欠くことができない.喀痰の肉眼的評価法として Miller & Jones 分類がある.塗抹検査にはグラム染色,抗酸菌染色〔Ziehl-Neelsen 染色〕,Gimenez(ヒメネス)染色(レジオネラ)などがある.日常診療で基本となるのはグラム染色であり,多核白血球の存在,細菌の貪食像,単独菌の増殖を確認できれば原因菌である確率は高くなる.培養検査は原因菌の同定や薬剤感受性を知るうえで重要で,通常は血液寒天培地やチョコレート寒天培地を用いる.抗酸菌には小川培地やMGIT 法(mycobacteria growth indicator tube)が用いられる.

7.細胞診,病理組織検査細胞診,組織診は,悪性腫瘍の診断や,間質性

肺炎や感染症などのびまん性肺疾患の診断を目的として行われる.細胞診の材料は,主に喀痰,胸水,経気管支擦過,気管支洗浄液,気管支肺胞洗浄液,経皮または,経気管支針吸引生検などが用いられる.一方,組織診では,経気管支肺生検,経皮的肺生検,開胸肺生検やビデオ下胸腔鏡手術

(video-assisted thoracic surgery:VATS)による外科的生検,または切除により採取した検体が用いられる.ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)

低分子チロシンキナーゼ阻害薬の効果を予測するために,腫瘍細胞や組織を用いて EGFR 遺伝子変異の同定が行われている.

8.腫瘍マーカー腫瘍マーカーとは,癌細胞自身または癌細胞と

反応を示した患者の正常細胞が産生する物質で,癌胎児性抗原,酵素,ホルモン,癌関連遺伝子産物などがあり,血液中や体液中で測定される.原発性肺癌の腫瘍マーカーとしては,腺癌のマーカーとして CEA,SLX,扁平上皮癌のマーカーとして CYFRA,SCC,小細胞肺癌のマーカーとして Pro–GRP,NSE が汎用される.肺癌患者における腫瘍マーカーはスクリーニング(検診)には用いられず,治療効果判定,術後再発の補助診断に用いられる.

9.アレルギー検査血清中や組織の IgE や IgE 抗体を検出する方法

には,被検者の皮膚を用いる方法としてプリックテスト,スクラッチテスト,皮内テストがあり,血液を用いて試験管内で測定する方法として,RIST 法,CAP–RAST 法,MAST 法,ヒスタミン遊離試験などがある.抗原吸入誘発試験は,病因と推定される抗原の希釈液を被検者に低濃度より吸入させ,呼吸困難の出現や 1 秒量の低下を観察・測定する.過敏性肺臓炎でも,抗原を吸入させて症状や画像所見の異常を誘発し,診断を確定するのに用いられる.一方,肺の生理学的特性は,種々の呼吸機能検査で評価する.

10.胸腔鏡検査胸腔鏡検査は胸壁に 2 ~ 4 か所の孔を開け,

ファイバーを挿入し,モニター画像ガイド下に胸腔面の観察や生検を行う検査である.胸腔鏡下肺生検とは,①局所麻酔下における胸膜病変の観察や胸膜生検と,②全身麻酔下における VATS による肺生検(外科的肺生検)が含まれる.胸水貯留や胸膜肥厚を認め,胸腔穿刺や胸膜生検で確定診断が得られなかった症例では,胸腔鏡による胸膜面の観察や生検が有用である.また,経気管支肺生検では検体が不十分で診断が困難な疾患,特にびまん性肺疾患においても胸腔鏡下肺生検の有用性が高い.

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11.経皮的肺生検・吸引細胞診経皮的肺生検・吸引細胞診は,胸壁から肺病変

に針を穿刺して病変の生検または吸引を行いながら検体を採取し,微生物の検索や組織診または細胞診を行う検査法である.通常,CT ガイド下,X線透視下,または超音波ガイド下に針を誘導し,病変部位に到達しているか確認をしながら行う.対象のほとんどが経気管支肺生検で困難と思われる孤立性病変や気管支鏡検査で診断が得られなかった病変であり,一方で,びまん性病変は適応となりにくい.合併症としては,気胸と肺内出血があり,まれに空気塞栓や腫瘍播種がある.

12.外科的肺生検(VATSを含む)病変組織の一部を外科的に切除して病理組織学

的検査を行う手段を外科的生検(surgical bio psy)と呼ぶ.全身麻酔下に VATS で行うことが多く,自動縫合器で肺の一部を切除する手技が一般的である.対象となる主な疾患は,間質性肺炎などのびまん性肺疾患と,悪性腫瘍が疑われる結節である.後者の場合には,通常術中迅速病理診断を行い,悪性の診断であればそのまま根治術へ移行する.

13.胸腔穿刺胸腔穿刺は診断を目的とした胸水の採取のため

に施行される.通常,超音波にて穿刺部位を確認し,局所麻酔ののち肋間神経や血管を避けるために肋骨上縁より穿刺を行う.採取された胸水の性状(血性,膿性,乳び,漿液性など),一般生化学的検査(細胞数,細胞分画,pH,蛋白,糖,LDH,ADA,アミラーゼ,ヒアルロン酸,CEAなど),細菌学的検査(一般細菌培養,抗酸菌塗抹・培養・PCR,真菌培養など),細胞診検査などにより診断を行う.滲出性胸水と漏出性胸水の鑑別には Light の基準が用いられる.

14.睡眠呼吸モニター睡眠呼吸モニターには,ポリソムノグラフィー

と簡易検査法がある.精密検査であるポリソムノグラフィーでは,脳波,眼球運動図,オトガイ筋電図によって睡眠段階の判定と中途覚醒反応の検出を行い,同時に,鼻と口の気流,胸腹部の換気

運動,いびき音,心電図,酸素飽和度を測定する.前脛骨筋筋電図や食道内圧を計測することもある.簡易検査法は,鼻と口の気流,胸部または腹部の呼吸運動,気管音,酸素飽和度を同時記録するが,脳波の記録がないため睡眠段階の判定はできない.経皮的酸素飽和度モニターを用いて酸素飽和度のみを測定することもある.

15.右心カテーテルバルーンの付いた Swan-Ganz カテーテルなど

を挿入し,右房圧,右室圧,肺動脈圧などを測定(先端孔),さらにバルーンを楔入して,左房圧を反映する肺動脈楔入圧を測定する.近位孔より冷たい生理食塩水などを注入し,熱希釈法による心拍出量の測定を行い,肺血管抵抗を算出し,重症度判定を行う.カテーテル先端より血液を採取してその酸素含量を測定し,ステップアップの存在から,シャント性心疾患の診断を行う.酸素や薬剤に対する血行動態の反応をみる.造影用カテーテルを用いて,肺動脈造影を行うことで,肺血栓塞栓症や肺動脈炎などの確定診断を行う.

VI.治療とケア1.薬物療法(吸入療法を含む)

1)気管支拡張薬気管支拡張薬は,気道狭窄を改善する薬剤で,

閉塞性換気障害治療に用いられる.吸入・貼付・経口β2 刺激薬,吸入用抗コリン薬,経口・静注キサンチンなどがある.β2 刺激薬は,気道平滑筋のβ2 受容体に作用して気管支平滑筋を弛緩させ,気管支拡張作用を発揮する.副作用として振戦,動悸,頻脈などがみられる.吸入用抗コリン薬は気道のコリン作動性神経からのアセチルコリン遊離を抑制し,迷走神経による気管支平滑筋の緊張を抑制・弛緩させ,気管支拡張作用を発揮する.副作用として,前立腺肥大患者での尿閉や,緑内障の悪化があげられる.いずれも長時間作用性の薬剤が開発され,気管支喘息では吸入ステロイド薬との併用がすすめられ,また慢性閉塞性肺疾患(COPD)では,長時間作用性気管支拡張薬が第一選択となっている.

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9VI.治療とケア

2)副腎皮質ステロイド副腎皮質ステロイドは,副腎の皮質でコレステ

ロールから合成されるホルモンである.抗炎症作用・免疫抑制作用,蛋白質の異化作用などの広い生理作用を発揮する.呼吸器疾患のさまざまな病態に応じて,さまざまな投与量で投与される.投与形態も,経口投与に加えて,静脈内投与,筋肉内投与,吸入投与など多様である.短期間の投与では比較的安全性は高い.一方で,長期間投与した場合には,感染症,耐糖能異常,骨粗鬆症,副腎機能抑制(不全)などのさまざまな副作用を生じうる.病態によっては,免疫抑制薬を併用することで,副腎皮質ステロイドの投与量をできる限り減らす努力が必要となる.

3)抗菌薬抗菌薬は作用機序と化学構造によって分類され

る.作用機序別に,①細胞壁合成阻害薬,②蛋白質合成阻害薬,③核酸合成阻害薬,④代謝阻害薬に分けられる.①にはβ ラクタム系とグリコペプチド系があり,さらにβラクタム系は化学構造の基本骨格により,ペニシリン系,セフェム系,カルバペネム系,モノバクタム系に分類される.②として,マクロライド系,アミノグリコシド系,テトラサイクリン系など,③にはキノロン系,リファマイシン系,④にはサルファ剤がある.原因微生物に対する適応,副作用,phar maco kine-tics-pharmacodynamics(PK–PD)理論を考慮して使用する.

4)抗悪性腫瘍薬(抗癌薬)胸部悪性腫瘍に対する薬物療法に用いられる.

抗悪性腫瘍薬とは狭義には癌化学療法薬を指し,多くの癌化学療法薬は正常細胞にもダメージを与えることから細胞障害性抗悪性腫瘍薬とも呼ばれる.最近,癌に特異的な分子や癌の生存に重要な周囲微小環境(血管新生など)を標的とした分子標的治療薬の開発が進み実際の臨床で使用されている.したがって,ここでは抗悪性腫瘍薬とは広義に抗腫瘍薬全般を指し,癌化学療法薬だけでなく分子標的薬も含むものとする.4)−1 癌化学療法

アルキル化薬,プラチナ化合物,代謝拮抗薬,天然物由来薬物などが,DNA 複製や細胞分裂を阻害し癌細胞で有意に高い殺細胞効果を発揮する.胸部悪性腫瘍に用いる初回化学療法薬は,プ

ラチナ化合物と 1990 年代以降に開発された薬剤との 2 剤併用が標準的である.化学療法には,手術や放射線治療と組み合わせて根治を目指す場合と,延命・QOL 維持を目的とする場合がある.化学療法薬は薬剤により毒性が異なり,抗腫瘍効果を示す用量と毒性を引き起こす用量の差が狭いため,添付文書や治療ガイドラインに準じた使用が必要である.4)−2 分子標的治療

癌細胞のもつ機能的標的分子であるヒト上皮成長因子受容体(EGFR)に対する低分子チロシンキナーゼ阻害薬ならびに,癌の増殖や進展に必須の血管新生に関与する血管内皮成長因子(VEGF)に対する抗体が,進行非小細胞肺癌で延命とQOL 維持を目的に使用される.共に効果や毒性で有効な患者集団が特定されており,EGFR 阻害薬では癌細胞のもつ EGFR 遺伝子変異がその効果予測因子となり,抗 VEGF 抗体では血痰の既往や扁平上皮癌などが大量喀血の危険因子であることが判明している.

2.酸素療法酸素は生体の正常な機能や生命の維持に不可欠

である.呼吸器疾患などのために組織への酸素供給が不十分となり細胞の代謝が障害された状態を低酸素症という.低酸素症に対する治療として,吸入気の酸素濃度を高めて,適量の酸素を供給する方法が酸素療法である.酸素療法の適応,酸素濃度と流量を決めるには,低酸素血症の指標である動脈血酸素分圧や酸素飽和度が用いられる.低酸素血症とは,動脈血中の酸素が不足して低酸素症を起こす状態を指すが,低酸素血症がなくとも,組織への酸素供給が不十分ならば低酸素症をきたすことがあるため注意を要する.

3.気管内挿管気管内挿管は,経口的または経鼻的に気管内に

チューブを挿入する最も確実な気道確保の方法である.気管内挿管の適応には,①心肺停止・昏睡患者の救急蘇生,②手術の際の全身麻酔,③気管支内視鏡検査ならびに内視鏡を用いた治療,がある.気管内挿管時の合併症として,歯牙損傷,口唇裂傷,口腔内・扁桃・咽喉頭損傷,食道内挿管,片肺挿管,声門浮腫,声門痙攣,気管支痙攣,誤

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嚥に注意する必要がある.

4.気管切開気管切開は,気管内挿管とともに最も確実な気

道確保の方法である.頸部の皮膚を切開して気管を開窓し,内腔に直接チューブを挿入する.気管切開の適応は,①上気道の炎症・損傷・腫瘍・変形,異物などによる呼吸障害,②長期の人工呼吸管理,③過剰な気道分泌物の除去を要する病態,④口腔内・咽喉頭部の手術,である.手術的手技が加わることによる生体への侵襲を考慮し,慎重に適応を判断しなければならない.

5.人工呼吸人工呼吸は,自発呼吸がない,あるいは低下し

ている患者に対し,機械的に換気を補助することで,肺のガス交換を改善する治療法である.人工呼吸療法によって,低酸素血症や呼吸性アシドーシスの改善を図ることが可能となる.侵襲的人工呼吸と非侵襲的人工呼吸に分類され,前者は気管内挿管や気管切開により気道を確保して行う方法をいい,後者は,鼻マスクやフェイスマスクを装着して換気を補助する非侵襲的陽圧換気療法や,胸郭を覆う胸当てをかぶせ陰圧をかけて行う方法を指す.居宅で人工呼吸療法を行う在宅人工呼吸も普及してきている.

6.非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive

pressure ventilation:NPPV)は,上気道から陽圧をかけて換気を行う人工呼吸法である.“非侵襲的” とは気管内挿管や気管切開を行わないことを意味し,非麻酔下で鼻マスクやフェイスマスクを装着して換気を補助する.急性期の呼吸不全では,気管内挿管を回避することで,人工呼吸器関連肺炎の減少と入院期間の短縮が期待できる.高二酸化炭素血症を伴う慢性呼吸不全では,在宅人工呼吸として NPPV が頻用される.主に睡眠時に使用することにより,予後,非使用時の動脈血ガス,自覚症状の改善が得られる.

7.胸腔ドレナージ胸腔内肺外に貯留した空気(気胸),滲出液(胸

水),膿(膿胸)などを,胸壁から挿入したチュー

ブによって体外の胸腔ドレーンバックに接続・排出させることで,虚脱した肺の再膨張を図る方法である.肺と胸壁の癒着がない自然気胸ではチューブ先端は肺尖部に留置するのが好ましい.胸水の場合は仰臥位で貯留しやすい背側に向けて側胸部から挿入する.肺の虚脱が高度の場合,急激に排気,排液させると再膨張性肺水腫をきたす恐れがある.

8.放射線療法手術不能胸部悪性腫瘍に対して,主に腫瘍の局

所制御を目的に放射線療法が選択される.放射線治療には,手術不能例に対する胸部放射線照射や,縦隔リンパ節転移を有する局所進行非小細胞肺癌や限局型小細胞肺癌で行われる抗癌薬との同時併用療法(化学放射線治療),小細胞肺癌の治療奏効例に対して中枢神経再発予防目的で行われる予防的全脳照射など根治を目的とした治療(根治照射)と,気道狭窄や上大静脈症候群を呈する縦隔リンパ節転移や癌性疼痛を有する骨転移に対する症状緩和を目的とした治療(姑息照射)がある.近年では,高齢者や低肺機能の早期肺癌に対する定位放射線照射が開発され,標準化が期待されている.

9.気管支鏡治療気管支鏡治療には主にレーザー治療,ステント

挿入,高周波スネア,bronchial toilet,異物除去がある.レーザー治療は,高出力レーザーを用いた腫瘍焼灼法と腫瘍親和性光感受性物質を利用した低出力レーザーによる光線力学的治療法

(photodynamic therapy:PDT)に分けられる.腫瘍焼灼法としてアルゴンプラズマ凝固療法も行われる.腫瘍焼灼法は,肺癌などによる気道狭窄の解除目的に,PDT は,中心型早期癌の治療に用いられる.気道ステントは,気道狭窄による呼吸困難改善を図る目的で挿入する.ステントにはシリコン製と金属製が用いられている.

10.気管支動脈塞栓術気管支拡張症,肺結核,肺真菌症,肺癌などの

肺内病変に伴う喀血に対する止血緊急処置で,大腿動脈から血管内カテーテルを挿入し,出血の責任血管となる気管支動脈や肋間動脈などを金属コ

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11VI.治療とケア

イル,ゼラチンスポンジなどで閉塞する.大量に出血している場合はあらかじめ気道確保してから行うべきである.

11.外科療法1)肺切除術

呼吸器疾患の治療あるいは診断目的で肺切除術は施行される.対象疾患は肺癌,転移性肺腫瘍,肺良性腫瘍,気胸・肺囊胞,血胸,肺分画症,間質性肺炎,悪性胸膜中皮腫などである.手術は分離肺換気を用いた全身麻酔下で,主に側臥位で実施される.手術術式は肺葉切除術(1 葉切除,2葉切除),肺全摘術,肺区域切除術,肺部分切除術,試験開胸術,審査開胸術に分類される.肺癌に対しては主に肺葉切除術兼縦隔リンパ節郭清術が施行され,気管分岐部切除術,気管支切除術,周囲臓器の合併切除術が施行されることがある.転移性肺腫瘍に対して肺部分切除術や腫瘍核出術が施行される.気胸や肺囊胞に対しては,主に肺部分切除術や肺縫縮術が施行される.悪性胸膜中皮腫に対しては胸膜肺全摘術が施行される.

2)胸腔鏡手術胸腔鏡手術とは,完全内視鏡(胸腔鏡)下手術

と胸腔鏡補助小開胸下手術の総称である.いずれも標準開胸手術に比し,より低侵襲な手術を供することを目的としている.治療目的の胸腔鏡手術は多くの場合手術室で全身麻酔,分離肺換気下に施行される.胸腔鏡手術の代表的適応疾患と術式には,原発性肺癌→肺葉切除術+リンパ節郭清,転移性肺腫瘍→肺部分切除術,良性肺腫瘍→肺部分切除術,縦隔腫瘍→腫瘍摘出術,気胸→ブラ切除術,血気胸→止血+ブラ切除術,乳び胸→胸管結紮術,急性膿胸→膿胸腔搔爬術,重症筋無力症→拡大胸腺摘出術,手掌多汗症→交感神経遮断術などがある.胸腔鏡手術後には,数時間~数日の胸腔ドレナージを要する.

3)肺移植慢性進行性肺疾患により呼吸不全に陥った患者

(レシピエント)の肺を,他者(ドナー)から提供された肺または肺の一部と置換することによって生命予後の改善を図ろうとする外科的治療法である.死体(脳死と心臓死を含む)から片肺または両側肺の提供を受ける死体肺移植と,近親者などの生体から肺葉の提供を受ける生体肺葉移植に

分けられる.適応疾患は,間質性肺炎,リンパ脈管筋腫症,肺動脈性肺高血圧症などである.移植後には拒絶反応の予防のために免疫抑制療法が必要である.主な合併症に,虚血・再灌流性肺傷害,急性および慢性拒絶反応,感染症,悪性腫瘍などがある.

12.禁煙指導喫煙習慣の本質はニコチン依存症であり,依存

症をもつ喫煙者は積極的禁煙治療の対象である.禁煙に至るまで行動変容の段階があり,それに合った禁煙指導を行う.無関心の患者には,本人のフローボリューム曲線の変化,CT 上の気腫性所見など禁煙の強い動機づけとなる情報の供与が有効である.禁煙の意思が明確な場合,ニコチン製剤によるニコチン置換療法や非ニコチン製剤による薬物療法を行うことが成功率を高める.喫煙は,身体的依存性とともに心理的依存性も高く,再喫煙率は高い.他の依存症と同様に,心理療法などの行動科学的アプローチの併用がさらに効果を高める.

13.在宅酸素療法,在宅人工呼吸在宅酸素療法は,長期にわたって患者が酸素

吸入を居宅で行う治療である.社会保険の適用となる患者基準は,①安静室内空気呼吸時の動脈血酸素分圧(PaO2)が 55 Torr 以下,あるいは PaO2 60 Torr 以下で睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす高度慢性呼吸不全,② 肺 高 血 圧 症, ③ 慢 性 心 不 全( 睡 眠 時 にCheyne–Stokes 呼吸が認められ,無呼吸低呼吸指数が 20 以上であることが睡眠ポリグラフィー上で確認されている症例),④チアノーゼ型先天性心疾患である.在宅酸素療法の効果には,生存期間の延長,運動耐容能の改善,生活の質

(QOL)の向上がある.高二酸化炭素血症を伴う患者に対する換気補助療法として,在宅人工呼吸(home mechanical ventilation:HMV)が行われる.HMV には,非侵襲的人工呼吸と気管切開下人工呼吸がある.

14.呼吸リハビリテーション呼吸リハビリテーションは,呼吸器疾患による

障害を持つ患者に対して,可能な限り機能を回

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復,あるいは維持させ,これにより,患者自身が自立できるように継続的に支援していくための医療である.主として運動療法と患者教育から構成される.運動療法の目的は,呼吸困難の軽減,運動耐容能の向上,健康関連 QOL・日常生活動作

(ADL)の改善である.患者教育の目的は,疾患に対する理解の促進,安定期・増悪期における自己管理能力の獲得である.いずれも多職種が関与し,チーム医療として提供される包括的なプログラムが望ましい.

VII.主要疾患1.呼吸器感染症

1)急性上気道感染症(かぜ症候群)急性上気道感染症には,非特異性上気道炎(か

ぜ症候群),副鼻腔炎,咽頭炎がある.かぜ症候群は主にウイルスによって起こる.主症状は鼻汁,鼻閉,咽頭痛,くしゃみ,咳嗽などで,通常 1週間程度で自然寛解する.臨床症状から診断し,対症療法を行う.A 群 β 溶血性連鎖球菌(溶連菌)による咽頭炎では,咽頭ぬぐい液による抗原迅速検査が有用で,抗菌薬投与が必要となる.インフルエンザは上気道炎症状に加えて,高熱,頭痛,関節痛,筋肉痛などの全身症状がみられる.診断には抗原迅速検査が有用で,治療には抗インフルエンザウイルス薬がある.

2)気管支炎・肺炎急性気管支炎のほとんどはウイルス感染が原因

である.市中肺炎の原因微生物は,肺炎球菌,インフルエンザ菌,Moraxella catarrhalis などの一般細菌,Legionella pneumophila,マイコプラズマや Chlamydophila pneumoniae などの非定型病原体が重要で,院内肺炎では,緑膿菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌が重要である.主な症状は発熱,咳嗽,喀痰で,肺炎では胸部X線写真にて浸潤影を認める.診断は症状,診察に加えて,胸部X線写真,喀痰のグラム染色や培養検査,および血清学的検査,尿中抗原検査(肺炎球菌,Legionella)にて行う.治療は抗インフルエンザウイルス薬や抗菌薬を使用する.

3)肺結核症結核菌を吸入して起こる空気感染であり,症状

は微熱,長引く咳,喀痰で,進展すると発熱,血痰,倦怠感,体重減少などがみられる.診断は喀痰の塗抹(Ziehl–Neelsen 法,蛍光法),培養(小川培地,液体培地)による菌の検出である.核酸増幅法は結核の早期診断に有用で,非結核性抗酸菌との鑑別ができる.全血を用いた Quanti-FERON®(QFT)は補助診断法として推奨される.治療の原則はイソニアジド,リファンピシンを含む多剤併用療法を行う.感染症法の二類感染症に分類され,保健所への届出が必要である.

4)非結核性抗酸菌症非結核性抗酸菌によって起こる感染症である.

Mycobacterium avium と M. intracellulare は併せて M. avium complex(MAC)と呼んでいる.感染経路は水まわりや土壌などの環境から感染するとされているが,ヒトからヒトへの感染はない.診断は患者背景,症状,画像所見,菌の同定で行うが,菌の同定だけでは発症を意味しないため,診断基準(臨床的基準と細菌学的基準)を参考に行う.治療は抗結核薬やマクロライド系薬あるいはニューキノロン系薬を使用するが,無治療で経過観察する場合もある.

5)嚥下性肺炎誤嚥には,摂食嚥下時の顕性誤嚥と,気づかな

いうちに鼻腔,咽喉頭,歯周の分泌物を嚥下する不顕性誤嚥がある.Mendelson 症候群を除けば,顕性誤嚥が嚥下性肺炎を発症することは稀である.不顕性誤嚥は上気道反射が低下する夜間を中心に起こりやすいが,嚥下反射を抑制する薬剤や病態では日中夜間を問わず起こる.予防は,頭位

(ベッド)挙上,口腔ケア,歯科治療,摂食嚥下訓練,栄養保持,嚥下反射改善物質の投与などを行う.

6)肺化膿症肺化膿症は,病原菌感染により肺実質が壊死し,

膿瘍や空洞を形成する疾患で,感染経路は,気管支性(原発性と続発性),血行性,隣接臓器からの波及の 3 つがある.症状は発熱,咳嗽,悪臭を伴う膿性痰,血痰であり,病変が胸膜に達すると胸痛や呼吸困難を伴う.原因菌として嫌気性菌が多い.治療はβ ラクタマーゼ産生菌が多いことを考慮した抗菌薬を選択する.難治性ではドレ

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13VII.主要疾患

ナージや外科治療を考慮する.

7)真菌感染症真菌感染症の原因真菌としてアスペルギルス,

カンジダやクリプトコックスが重要である.呼吸器領域では,特に経気道的に感染する肺アスペルギルス症と肺クリプトコックス症の頻度が多い.肺アスペルギルス症には,侵襲性肺アスペルギルス症,慢性肺アスペルギルス症およびアレルギー性気管支肺アスペルギルス症がある.慢性肺アスペルギルス症のなかのアスペルギローマでは,画像にて空洞内に典型的な菌球(fungus ball)を認める.クリプトコックスはハトなどの糞の中で増殖しやすく,乾燥して空気中に飛散する.健常人にも感染が成立し,肺だけでなく髄膜炎を起こすことがあるので注意が必要である.

8)日和見感染日和見感染とは,健常人に対して病原性のない

弱毒微生物が,感染防御機能の低下している易感染性宿主(compromised host)に対して病原性を有し,発症した感染のことである.HIV 感染症,成人 T 細胞白血病,副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬などの投与に伴って,発熱,乾性咳嗽や呼吸困難で発症し,画像上びまん性にすりガラス陰影を呈するニューモシスチス肺炎とサイトメガロウイルス肺炎が重要である.ニューモシスチス肺炎の原因真菌は Pneumocystis jirovecii で,血清β–D グルカンが高値を示す.治療の第一選択薬は ST 合剤である.サイトメガロウイルス肺炎の治療にはガンシクロビルを用いる.

2.閉塞性肺疾患1)慢性閉塞性肺疾患(COPD)

たばこ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じる肺の炎症性疾患である.進行性の気流閉塞を呈し,徐々に生じる体動時の呼吸困難や慢性の咳・痰を特徴とする.呼吸機能検査で正常に復すことのない気流閉塞を示す.気管支拡張薬吸入後の 1 秒率が 70%未満で,他の疾患が否定されるとき,診断される.肺実質の破壊がすすむ気腫型と末梢気道病変が主体の非気腫型COPD に分けられる.気腫型は,胸部 X 線写真上肺の透過性亢進と過膨張,CT 上気腫化が特徴であるが,非気腫型の場合,画像上特徴的な変化は認められない.治療は,気管支拡張薬が主体で,

長時間作用性気管支拡張薬が第一選択である.禁煙は必須である.

2)気管支喘息好酸球の気道浸潤を特徴とする慢性の気道炎症

性疾患で,繰り返し起こる発作性の呼吸困難・喘鳴・咳を主な症状とする.気道過敏性が亢進し,気道可逆性を有する.さまざまな程度の気流閉塞

(1 秒量低下,最大呼気速度ピークフロー低下)を認め,症状がないときは正常である場合が多い.臨床診断は,繰り返す症状と気道可逆性よりなされる.気道可逆性は,気流閉塞の日内変動や気管支拡張薬吸入による気流閉塞改善度から判断し,1 秒量が 12%以上増加かつ絶対量で 200 ml 以上増加する場合有意とするが,必ずしも認められるとは限らない.痰中好酸球,呼気 NO 値増加は補助診断として有用である.治療は吸入ステロイド薬で,必要に応じて長時間作用性β2 刺激薬の吸入およびロイコトリエン受容体拮抗薬が併用される.

3)びまん性汎細気管支炎呼吸細気管支領域に病変の主座を置くびまん性

の慢性炎症を特徴とし,慢性の咳・痰,労作時息切れを主症状とする疾患である.慢性副鼻腔炎の合併または既往があり,副鼻腔気管支症候群の一つとされる.胸部 X 線写真で両肺のびまん性撒布性粒状陰影,CT でびまん性小葉中心性粒状影が認められる.聴診上断続性ラ音,閉塞性換気障害および低酸素血症,寒冷凝集素価高値なども認められる.東アジアに集積する人種依存性疾患で,日本人症例では HLA–B54 を高率に認める.進行すれば慢性呼吸不全に進行する予後不良の疾患であったが,マクロライド少量長期療法によって予後が著しく改善している.

4)閉塞性細気管支炎細気管支壁の線維性全周性肥厚により気道内腔

が狭窄・閉塞し,高度の閉塞性換気障害をきたす疾患で,持続性の咳,喘鳴,労作時息切れを特徴とする.喀痰症状は少ない.薬剤や感染,特発性,膠原病に伴うものなどが知られているが,近年,骨髄移植や心肺移植後など臓器移植後の慢性移植片対宿主病(GVHD)としての発症例が増加している.胸部 X 線写真では過膨張と透過性亢進を示し,CT では小葉中心性粒状影,中枢気管支拡張所見,呼気 CT でのモザイクパターンが特徴

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である.不可逆性の閉塞性換気障害を呈し,予後はきわめて不良である.

3.気道・肺胞の形態異常1)気管支拡張症

気管支壁が破壊されることにより,不可逆的な気管支の異常な拡張をきたした状態を指す.Williams–Campbell 症候群,原発性線毛機能不全症候群などの先天的な要因によるものや,肺炎・気管支炎,肺結核,非結核性抗酸菌症,びまん性汎細気管支炎に続発するものがある.血痰,喀血の原因となる.副鼻腔炎の合併や大量の膿性痰を喀出する wet type と,症状に乏しい dry type に分類される.拡張した気管支の形態による分類もあるが臨床的な意義は乏しい.治療として去痰薬,マクロライド少量長期投与,体位ドレナージなどの理学療法が行われる.

2)気腫性囊胞(ブラ,ブレブ)どちらも肺内の異常気腔を指す.病理学的に区

別されるが,画像での区別は困難である.ブレブは臓側胸膜の内弾性板の断裂により,胸膜層内から肺組織内にかけて空気が入り気腔が生じたもので,直径 1 cm を超えるものはまれである.ブラは肺胞壁の破壊融合により生じた気腔であり,一般的に 1 cm 以上のものを指す.臓側胸膜の内弾性板より内側に存在し,時に 10 cm を超えることがある.細気管支領域での炎症や瘢痕によりチェックバルブ機構が働くことで生じると考えられている.どちらも自然気胸の原因として重要である.

3)無気肺肺内の含気量が減少し,肺容量が減少した状態

を指す.気道の閉塞による閉塞性無気肺,胸水などの圧迫による圧迫性無気肺,肺結核後などによる肺の収縮による瘢痕性無気肺,肺サーファクタントの減少による粘着性無気肺に分類されており,さまざまな疾患が原因となる.無気肺の部分ではガス交換ができないため,低酸素血症の原因となる.胸部単純 X 線写真所見としては,直接所見としての X 線透過性の低下の他,葉間裂の偏位,気管支・血管影の収束などの肺容量の減少に伴う変化がある.診断,治療目的で気管支鏡検査が頻用される.治療は原因疾患に応じて行われる.

4)肺リンパ脈管筋腫症(LAM)主に妊娠可能な女性に発症する稀少疾患であ

る.LAM 細胞と呼ばれる異常な細胞が肺やリンパ節などで増殖することで起きる.労作時の息切れ,血痰,咳,乳び胸などの症状や所見を呈する.また気胸を反復することが多い.腎血管筋脂肪腫の合併が見られることもある.画像所見としてHRCT(高分解能 CT)では多発する薄壁囊胞が認められる.病型として結節性硬化症に合併する場合と単独で発症する場合があり,いずれのタイプも原因となる遺伝子が判明している.治療としては症状が進行性の症例ではホルモン療法が試みられることがあり,呼吸不全に至った症例では酸素療法や肺移植が適応となる.また繰り返す気胸に対して外科的治療が必要となることがある.

4.間質性肺疾患1)特発性間質性肺炎(IIPs)

肺の間質を炎症の場として生じる間質性肺炎はさまざまな原因で生じるが,その中でも中心的なものは原因不明の特発性間質性肺炎であり 7 つの病型に分けられる.特発性肺線維症(IPF)は代表的疾患であり,50 歳以上に多く,両側下肺野に特徴的な fine crackles を聴取し,慢性経過で線維化が進行する予後不良の疾患である.経過中に IPF の急性増悪を生じるときわめて予後不良となる.高分解能 CT(HRCT)にて明らかな蜂巣肺を認める場合は,組織診断がなくとも臨床的に IPF と診断できる.他の病型では原則的に外科的肺生検が必要である.気管支肺胞洗浄

(BAL)は補助診断として有用な場合がある.肺機能検査では拘束性障害を認め,肺拡散能力

(DLCO)は初期より低下する.間質性肺炎のマーカーとして KL–6,SP–D,SP–A 測定が有用である.IPF に対する新しい治療として世界に先駆けて抗線維化薬であるピルフェニドンが本邦では使用可能になり,肺活量の低下の抑制,無増悪生存期間の延長が示された.IPF 以外の間質性肺炎ではステロイドや免疫抑制薬などが用いられる場合がある.

2)膠原病に伴う間質性肺炎膠原病では多臓器にわたり病変が生じることが

あるが,肺病変を伴うこともしばしばある.基礎となる膠原病の種類により気道,胸膜,血管,間

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15VII.主要疾患

質など病変の主座が異なり,間質性肺炎の病型も異なる.検査としては特発性間質性肺炎の検査と同様に肺機能検査,HRCT,BAL,肺生検などが行われるが,他の合併症の精査も必要となることがしばしばある.皮疹や Raynaud 症状などの身体所見に注意することが重要で,血液検査で自己抗体の結果も参考となる.治療としてはステロイドや免疫抑制薬の投与が中心となる.病理学的検査での病型が同じ場合でも特発性間質性肺炎と比較すると治療反応性が異なることがある.

3)放射線肺臓炎胸部に生じた癌などに対して放射線治療によっ

て発生する間質性肺炎である.放射線照射中から終了後 6 か月以内の比較的早期の時期に発症しやすいとされている.放射線の照射方向と範囲に一致して起きることが多く,正常肺との境界は肺の構造と無関係に直線的に形成される.症状としては発熱,咳,息切れなどがあるが,無症状のこともある.胸部聴診上は fine crackles が聴取される.CRP,LDH,KL–6 などの上昇が見られる.治療としては,軽症であれば無治療にて経過観察とするが,進行性の悪化が見られればステロイド治療を検討する.

4)じん肺(珪肺,石綿肺)粉じんの吸入により起きる肺の線維増殖性変化

を主体とする疾患であり,数年~数十年かけて生じる呼吸器障害である.症状としては呼吸困難が主である.代表的なものとして珪肺,石綿肺などがある.珪肺は陶磁器製造業者などに多く,遊離珪酸の吸入により起きる.肺結核を合併しやすいことが問題となる.石綿肺はアスベストの吸入により起き,肺癌や悪性胸膜中皮腫を合併しやすく問題となる.喀痰や肺組織中にアスベスト小体を認めることがある.胸部 X 線写真上の陰影としては,珪肺は上中肺野に認めることが多く,石綿肺は下肺野に陰影を認めることが多い.症状,胸部 X 線写真,肺機能障害の程度に従い管理区分が決定され,労災補償の対象となることがある.

5)薬剤性肺炎(肺障害)すべての薬剤は肺障害を起こす可能性があり,

投与中のみではなく投与終了後にも起きることに注意を要する.頻度の高い薬剤は分子標的治療薬,抗癌薬,抗リウマチ薬などが挙げられる.症状として咳,呼吸困難感,発熱などを呈する.鑑

別疾患は多彩であり,まず詳細な病歴聴取を行う.血液検査は KL–6 が高値を示すことがあり病勢を反映する.HRCT などの胸部画像所見が有用であるが,決まったパターンは認めない.また薬剤リンパ球刺激試験(DLST)が参考となることがある.さらにびまん性肺疾患の鑑別や感染症の除外のため BAL が有用である.治療としては早急に被疑薬を中止し,重症の場合はステロイドパルス療法を行う.

5.肺循環障害1)肺性心

肺性心とは,「肺,肺血管または肺内ガス交換を障害し,その結果肺高血圧をきたすような疾患に伴う右室拡大または不全がみられる状態」である.左心が一次的に障害される疾患や先天性心疾患に伴うものは除外される.急性肺性心と慢性肺性心に分類され,急性肺性心の代表は急性肺血栓塞栓症であり,単に肺性心と呼ぶ場合は慢性肺性心を指す.慢性肺性心の原因として,COPD など換気障害型の肺高血圧症と,肺動脈性肺高血圧症や慢性血栓塞栓性肺高血圧症など肺血管を一次的に障害する肺血管障害型,に分けられる.

2)急性呼吸窮(促)迫症候群(acuterespi-ratorydistresssyndrome:ARDS)

肺に対する直接的(肺炎,誤嚥など)あるいは間接的(敗血症,外傷,高度の熱傷)侵襲による肺胞領域の非特異的炎症に基づく透過亢進型肺水腫であり,病理学的にはびまん性肺胞損傷が特徴とされる.ARDS と比較的軽症の急性肺損傷

(acute lung injury:ALI)に分類され,①急性発 症, ② 低 酸 素 血 症(ALI:PaO2/FIO2 < 300 Torr,ARDS:PaO2/FIO2 < 200 Torr),③胸部 X線写真にて両側性浸潤影を認める,④左心不全徴候なし,から診断される.治療は,原疾患の治療に加えて酸素投与,呼吸管理法として低容量換気が推奨される.

3)肺血栓塞栓症下肢および骨盤腔などの深部静脈血栓症から遊

離した血栓が肺動脈を閉塞し,急性および慢性の肺循環障害が引き起こされた病態をいう.本症は深部静脈血栓症の二次的合併症であるという認識が肝要で,両疾患を合わせて静脈血栓塞栓症とされる.肺組織末梢に出血性壊死が生じた場合を肺

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梗塞と呼ぶ.急性肺血栓塞栓症で,ショックを伴うものを広範型,右心負荷を認めるものを亜広範型,認めないものを非広範型と呼ぶ.肺換気,血流スキャン,造影 CT で診断される.治療は,抗凝固療法が第一選択で,重症例では,血栓溶解療法を用いる.器質化血栓により肺動脈が慢性的に閉塞され,肺高血圧を呈するものを慢性血栓塞栓性肺高血圧症と呼び,肺血栓内膜摘除術が有効である.

4)肺高血圧症さまざまな原因により肺動脈圧の上昇を認める

病態の総称であり,右心カテーテル検査で,安静時平均肺動脈圧が 25 mmHg 以上と定義され,21 ~ 24 mmHg が境界型とされる.肺動脈楔入圧(左房圧)が 15 mmHg 以下のものを前毛細血管性肺高血圧症,15 mmHg を超えるものを後毛細血管性肺高血圧症と呼ぶ.ダナポイント分類では,大きく 1 群:肺動脈性肺高血圧症(特発性,遺伝性,各種疾患に伴うものなど),2 群:左心疾患による肺高血圧症,3 群:肺疾患および / または低酸素血症による肺高血圧症,4 群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症,5 群:原因不明および / または多因子性肺高血圧症,に分類され,1と 3 ~ 5 群は前毛細血管性,2 群は後毛細血管性に相当する.1 群では,プロスタサイクリン持続静注療法,エンドセリン受容体拮抗薬,ホスホジエステラーゼ–5 阻害薬が有効である.

5)肺水腫肺毛細血管から水分が血管外に漏出し,異常に

貯留している状態である.肺の間質における水分貯留を間質性肺水腫,肺胞腔内への水分貯留を肺胞性肺水腫という.成因によって,濾過圧上昇によるものを静水圧性肺水腫,濾過係数の増加によるものを透過亢進型肺水腫という.前者は,心疾患に基づく心原性肺水腫が大部分を占め,他に補液過多や腎不全などによる静水圧上昇性のものがある.後者は,非心原性のもので,急性呼吸窮迫症候群に代表されるが,そのほかガス吸入によっても起こる.胸部 X 線写真や CT 上の肺門を中心とした蝶形陰影で診断され,心原性では心エコー検査で左心機能の低下を認める.治療は,原疾患の治療,加えて酸素投与,ことに心原性では非侵襲的陽圧換気が推奨される.

6)肺動静脈瘻肺動脈と肺静脈が短絡した血管奇形である.多

くは先天性で,中胚葉性血管形成不全により,病変部で肺毛細血管が欠如し,生後圧負荷で短絡が生じる.まれに肝疾患や外傷,肺高血圧症に続発する後天性のものがある.欧米では,70%が遺伝 性 出 血 性 毛 細 血 管 拡 張 症(HHT,Rendu–Osler–Weber 病ともいう)によるが,わが国では 10 ~ 20%とまれである.右左シャントが病態の基本であり,慢性的低酸素血症および肺動静脈瘻を介した体循環系への塞栓症の原因となりうる.経カテーテル肺動脈塞栓術が有効である.

6.免疫学的機序による肺疾患1)過敏性肺(臓)炎

過敏性肺炎とは,抗原の吸入を繰り返した結果生じる類上皮細胞性肉芽腫性肺炎である.III 型,IV 型アレルギーの機序が想定されている.吸入性抗原としては,真菌,放線菌,鳥類の糞中の蛋白,単純化合物(toluene diisocynanate:TDIなど)が血清蛋白と結合したものなどがある.臨床経過から,急性型と慢性型に分けられる.急性型では,抗原物質の吸入後数時間から十数時間後に発熱,乾性咳,喀痰,呼吸困難,胸痛などを示す.慢性型では,抗原吸入の繰り返しにより,胞隔炎が緩徐に進行し,画像所見上 IPF に類似した線維化をきたす.診断には,抗原吸入誘発試験がしばしば有用である.治療は副腎皮質ステロイドが中心となる.原因抗原が明らかである場合には,これを回避すること.

2)サルコイドーシスサルコイドーシスとは,壊死を伴わない非乾酪

性類上皮細胞肉芽腫が多臓器に形成されることによって,多彩な症状を呈する全身性疾患である.原因については完全には決定されていない.呼吸器病変としては,肺門リンパ節腫脹に加えて,肺野に間質性病変や囊胞形成を生じることがある.無症状で検診時に胸部X線写真上,肺門部リンパ節腫脹を指摘されて発見されることも多い.気管支肺胞洗浄液(BALF)ではリンパ球数と CD4/8比が上昇する.血清のアンジオテンシン変換酵素

(ACE)や可溶性 IL–2 受容体(sIL–2R)が上昇する.治療は副腎皮質ステロイドが中心となるが,免疫抑制薬を併用することもある.

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17VII.主要疾患

3)好酸球性肺炎好酸球性肺炎とは,肺に好酸球が浸潤すること

によって,自他覚症状や検査所見の異常を示す疾患を総称して呼ぶ.発症には I,III,IV 型のアレルギー反応が関与すると考えられている.原因不明の特発性のもの(急性と慢性がある),寄生虫・真菌感染,薬剤性,喫煙(特に急性の場合),肉芽腫性血管炎,そのほかに膠原病,肺線維症,悪性腫瘍などの多様な誘因・原因により発症する.治療は原因疾患の治療と副腎皮質ステロイドが中心である.

4)アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergicbronchopulmonaryaspergillosis:ABPA)

アスペルギルスの菌体成分に対する I 型と III型のアレルギー反応により,気管支肺胞系に好酸球を中心とする炎症を生じる疾患.気管支喘息患者に続発することが多い.わが国では,原因真菌の多くは Aspergillus fumigatus(Af)であり,Afに対する特異的 IgE 抗体と沈降抗体(IgG)が陽性となる.Af 以外のアスペルギルスやカンジダなどの真菌でも発症するため allergic bron cho-pul monary mycosis(ABPM)とも呼ばれている.アスペルギルスそのものによる感染や侵襲(菌球fungus ball や侵襲性肺アスペルギルス症)とは病態が異なる.血清総 IgE 値は病勢と相関し,治療の指標となる.治療は副腎皮質ステロイドが中心となるが,近年では抗真菌薬を併用することが多い.

5)アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss 症候群)

気管支喘息が数年間先行し,末梢血の好酸球増多が存在する症例に全身性の血管炎が発症し,これによる諸症状(多発単神経炎,皮膚の紫斑・潰瘍,消化管出血,心筋梗塞,脳梗塞など)が出現する疾患である.抗好中球細胞質抗体(anti-neu-trophil cytoplasmic antibody:ANCA),特にP–ANCA(MPO–ANCA)が高率に陽性となる.Wegener 肉芽腫症と異なり,腎不全症状はまれである.胸部 X 線写真では,肉芽腫による小結節陰影や,中~下肺野にびまん性浸潤影を認めることがある.3 割で胸水を認める.治療は副腎皮質ステロイドが中心であるが,難治例には免疫抑制薬を併用する.2010 年よりガンマグロブリン

製剤の大量投与が使用可能になった.

6)Wegener 肉芽腫症[肉芽腫性多発血管炎(granulomatosiswithpolyangiitis:GPA)]

上気道(耳,鼻,咽頭,喉頭),下気道(気管,気管支,肺),および腎臓に肉芽腫や壊死性血管炎を生じる疾患で,ANCA の中でも C–ANCA

(PR3–ANCA)は特異性が高く,疾患の活動性と相関する.胸部 X 線写真で多発性の結節影を示すことが多く,空洞病変を示す場合もある.早期に診断し治療すれば寛解に至ることが多いが,急速に進行し予後不良の症例もある.治療は副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬の併用が中心である.治療に反応することが多いが,再発を繰り返す例もある.

7)自己免疫性肺胞蛋白症(pulmonaryalveolarproteinosis:PAP)

自己免疫性肺胞蛋白症は,肺胞腔内にリポ蛋白様物質が貯留する疾患である.顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM–CSF)による肺胞マクロファージの成熟過程に何らかの原因により異常が起き,肺サーファクタントの除去過程が障害された結果,肺胞腔内への沈着が起きると考えられている.先天性のものと後天性があり,後者はさらに血液疾患や HIV 感染,粉じん・化学物質曝露などに伴う二次性のものと,血液中に抗 GM–CSF 抗体が証明される免疫性のものに分類される.進行すると低酸素血症や二次性の肺感 染 症 を 生 じ る. 胸 部 CT で,crazy-paving shadow(不揃いな敷石状陰影)と呼ばれる特徴的な所見を呈する.治療は全身麻酔あるいは気管支鏡を用いた肺洗浄である.近年,免疫性のものに対して GM–CSF の投与も効果をあげている.

7.肺腫瘍1)原発性肺癌

非小細胞肺癌と小細胞肺癌の 2 種類に大別される.非小細胞肺癌は主に腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌からなる.小細胞肺癌と扁平上皮癌は肺の中枢側(肺門部)に発生し,咳・血痰などの症状を呈することが多い.まれにホルモン産生や自己抗体により腫瘍随伴症候群を伴う.腺癌と大細胞癌は肺の末梢側に発生し,進行しない限り症状をみることは少ない.肺癌の治療は組織型,病期,

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18

患者年齢,全身状態などを総合的に考慮し,手術,放射線療法,薬物療法およびその組み合わせから選択される.治療の副作用や転移による症状,病名告知後の精神的落ち込みなど治療開始時点から支持療法・緩和療法を必要とする.

2)転移性肺腫瘍転移性肺腫瘍とは,腫瘍が存在する場所以外の

(肺も含む)臓器に原発の腫瘍があり,主に血行性まれにリンパ行性に腫瘍が運ばれ,肺で腫瘍塊となるものをいう.原発腫瘍としては甲状腺癌,乳癌,肺癌,大腸癌,腎癌,肉腫,胚細胞腫瘍などが多い.癌性リンパ管症は進行性の呼吸困難を呈し,短期間で死に至る.転移性肺腫瘍の診断は,病歴聴取,腫瘍マーカー,画像,病理組織検査などを用い総合的に行う.転移性肺腫瘍の特徴的胸部画像所見としては下肺野優位の大小不同・境界明瞭な多発結節である.転移性肺腫瘍の治療は原発腫瘍の治療に準じる.

3)良性肺腫瘍一般的に無症候性で検診や他疾患の経過観察中

に偶然発見されるが,腫瘍の部位や大きさによって呼吸困難,閉塞性肺炎,無気肺などの原因になる.肺の良性腫瘍は上皮性の腫瘍と非上皮性の腫瘍に分類される.良性上皮性腫瘍には乳頭腫,腺腫があり,それぞれに組織亜型がある.良性非上皮性腫瘍は過誤腫,軟部腫瘍に分類される.過誤腫は最も頻度の高い肺良性腫瘍で,50 ~ 60 歳代の男性に多い.軟部腫瘍のうち血管腫(硬化性血管腫)は 40 ~ 50 歳代の女性に多いのが特徴である.治療は症状がある場合に考慮され,外科切除が第一選択となる.

8.呼吸不全と異常呼吸1)呼吸不全

呼吸不全は,呼吸機能障害のために動脈血ガスが異常値を示し生体が正常な機能を営めない状態のことで,室内空気呼吸時の動脈血酸素分圧

(PaO2)が 60 Torr 以下の低酸素血症を呈する呼吸器系の機能障害,またはそれに相当する状態と定義される.低酸素血症では,組織への酸素供給が不十分となり細胞の代謝が障害される低酸素症をきたす(ただし低酸素血症がなくとも,組織への酸素供給が不十分ならば低酸素症に陥ることがあるため注意を要する).呼吸不全のうち,高二

酸化炭素血症を伴わないもの(PaCO2 ≦ 45 Torr)をⅠ型呼吸不全,高二酸化炭素血症を伴うもの

(PaCO2 > 45 Torr)をⅡ型呼吸不全と分類する.慢性呼吸不全は,病状の安定期において PaO2 60 Torr 以下の状態が 1 か月以上持続する状態を指す.

2)過換気症候群明らかな器質的疾患が存在せず,精神的不安や

緊張などの心理的要因によって発作的に換気の異常な増加をきたす症候群.過換気に伴い動脈血酸素分圧は正常から正常以上に保たれるが,動脈血二酸化炭素分圧が低下するために,呼吸性アルカローシスを呈する.呼吸性アルカローシスによる症状として,めまい,しびれ,テタニー,失神,痙攣などが起こる.過換気状態からの回復過程,すなわち動脈血二酸化炭素分圧が正常化する過程では,動脈血酸素分圧が低下する.

3)睡眠時無呼吸症候群(sleep apneasyndrome:SAS)

SAS は, 上 気 道 閉 塞 を 原 因 と す る 閉 塞 型(OSAS)と,脳幹呼吸中枢の一過性の活動停止に起因する中枢型(CSAS)に分類される.SAS患者の大多数を占める OSAS は,日中の過度な眠気もしくは閉塞型無呼吸に起因するさまざまな症候を伴い,睡眠 1 時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数が 5 以上の病態と定義されている.OSAS には肥満者が多く,二次的な血圧上昇,不整脈の合併,動脈硬化が促進され,生命予後の悪化につながる.また無呼吸に伴って反復する中途覚醒反応が睡眠の質を障害し,日中の作業能率の低下,労働災害,交通事故の原因ともなる.治療には,減量,睡眠中の鼻マスク式持続陽圧呼吸療法(CPAP),口腔内装置,手術的治療法がある.

9.胸膜・縦隔疾患1)胸膜炎

胸膜炎は深吸気時に増強する胸膜痛を主徴とし,画像上の胸水貯留をもって診断される.原因は感染(肺炎随伴性,膿胸,結核,真菌,寄生虫,ウイルスなど),腫瘍(肺癌,中皮腫,悪性リンパ腫など),そのほかの炎症(関節リウマチやSLE などの膠原病,石綿関連,急性膵炎など)など多岐にわたる.胸腔穿刺による胸水の細胞診,培養,生化学検査(蛋白,LDH,糖,ADA,ア

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19VII.主要疾患

ミラーゼ,腫瘍マーカーなど)で原因を推定するが,特定できない場合もある.治療は原疾患の治療が原則であるが,胸水貯留が多量になれば胸腔ドレナージを行う.肺癌などの悪性疾患に伴う胸水で胸水コントロールの必要なときは,抗癌薬胸腔内注入や炎症を惹起する薬剤を用いた胸膜癒着術を行う.

2)膿胸膿胸とは,胸腔内に膿が貯留した状態をいう.

原因は,呼吸器感染症からの波及,胸腔外傷や胸腔ドレナージからの感染,食道穿孔からの感染,血行感染などがある.発熱,咳嗽,胸痛,呼吸困難などを認める.原因菌は嫌気性菌が多いが,そのほかに Streptococcus anginosus group,黄色ブドウ球菌,大腸菌などが重要である.治療はβラクタマーゼ産生菌が多いことを考慮した抗菌薬を選択するが,胸腔ドレナージや手術も考慮する.

3)気胸気胸とは肺の虚脱を伴って胸腔内肺外に空気の

貯留した状態である.自然気胸,外傷性気胸,人工気胸,医原性気胸に分けられるが,自然気胸の中でも基礎疾患を伴わないものを原発性,COPDや間質性肺炎などに伴って生ずるものを続発性とする.原発性自然気胸は若年痩せ型の男性に多く,多くは肺尖部のブラ,ブレブの破裂による.軽度の気胸は安静療養もしくは胸腔穿刺による脱気のみで改善するが,中等度以上もしくは再膨張不良の場合は胸腔ドレナージを行い持続吸引する.それでもリークが止まらず再膨張の得られない場合は胸腔鏡手術を考慮する.超高齢者や合併症,低肺機能の著しい患者などで手術適応とならない場合は胸膜癒着術を考慮する.

4)縦隔腫瘍縦隔腫瘍は縦隔に発生する腫瘍のうち管腔臓器

原発を除いたものと定義される.前縦隔には胸腺上皮腫瘍(胸腺腫や胸腺癌など),胚細胞腫瘍(奇形腫やセミノーマなど),甲状腺腫瘍が多く,胸腺腫では重症筋無力症を合併することがある.中縦隔にはリンパ腫,先天性囊腫(心膜囊腫,気管支囊腫,消化管囊腫),後縦隔には神経原性腫瘍が多い.症状は腫瘍により異なるが,腫瘍増大による管腔狭窄症状,胸痛などを生じる.診断は画像所見,AFP,LDH,SCC などの血中マーカーを参考に,病理検査で確定する.治療はそれぞれの腫瘍により異なる.

5)縦隔気腫縦隔内に空気が貯留する病態で,胸部外傷や医

原性の気管・主気管支・食道損傷によって直接縦隔に空気流入するもの,肺胞破綻によって空気が気管支血管鞘経由で縦隔に至るものがある.後者には喘息や間質性肺炎など疾患に伴う肺胞内圧上昇によるもの,基礎疾患が不明な健常者においてスポーツや力仕事などの際の胸腔内圧上昇によるもの(特発性縦隔気腫)がある.縦隔気腫が進行すると胸郭上部から頸部,顔面に皮下気腫を伴う.

6)胸膜中皮腫(悪性胸膜中皮腫)発症はアスベスト(石綿)曝露と相関がある.

壁側胸膜由来がほとんどで,上皮型,肉腫型,二相性の 3 型に分類される.画像は不整なびまん性胸膜肥厚を示し,胸水の合併が多く,浸潤,リンパ行性転移,血行性転移をきたす.胸水中のヒアルロン酸は診断に用いられるが特異度は低く,組織陽性マーカーとしてカルレチニンが,陰性マーカーとして CEA が有用である.根治的治療は外科切除であり,胸膜切除術+肺剝皮術や胸膜肺全摘術が行われる.手術不能あるいは遠隔転移を認める進行悪性胸膜中皮腫に対しては延命を目的とした化学療法が行われる.

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20

和文索引あ亜区域気管支 1悪性胸膜中皮腫(→胸膜中皮腫)アスベスト 15アスベスト小体 15アスペルギルス 13, 17アスペルギローマ 13圧・量特性 2アデノシンデアミナーゼ 3アミノグリコシド系 9アルキル化薬 9アレルギー性気管支肺アスペルギル

ス症(ABPA) 13, 17アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-

Strauss 症候群) 17アンジオテンシン変換酵素(ACE) 1, 16安静呼気位 2

い易感染性宿主 13息切れ 3息切れ(→呼吸困難)イソニアジド 12遺伝性出血性毛細血管拡張症 16咽頭ぬぐい液 12院内感染 12インフルエンザ(ウイルス) 12 抗インフルエンザウイルス薬 12インフルエンザ菌 12

う右室 1右室圧 8右室拡大 15右心カテーテル 8 ―検査 16右房圧 8右方移動(酸素解離曲線の) 2運動耐容能 11

え腋窩温 5液体培地(抗菌薬の) 12壊死性血管炎 17嚥下性肺炎 12嚥下反射 12 ―改善物質 12エンドセリン受容体拮抗薬 16

お横隔膜 2黄色ブドウ球菌 19

小川培地 7, 12オトガイ筋電図 8

か回帰熱 5開胸肺生検 7化学放射線治療 10過換気症候群 18下気道 1核酸合成阻害薬 9拡散能力 2, 6喀痰 7, 12, 16喀痰検査 7 遺伝子学的検査 7 塗抹検査 7 培養検査 7拡張期圧 4過誤腫 18ガス交換 2, 10 ―能力 6 受動的拡散 2かぜ症候群 12片肺挿管 9喀血 3, 14カテーテル肺動脈塞栓術 16 経― 16過敏性肺(臓)炎 7, 16顆粒球・マクロファージコロニー刺激

因子(GM–CSF) 17カルバペネム系 9カルバミノ化合物 2カルレチニン 19換気血流比 2換気補助 10眼球運動図 8間欠熱 5還元ヘモグロビン 3, 6ガンシクロビル 13カンジダ 13, 17間質性肺炎 4, 7, 11 膠原病に伴う― 14 特発性― 15乾性咳 16癌性リンパ管症 18感染症法 12ガンマグロブリン製剤 17

き奇異性呼吸 5気管 1 ―開窓 10気管音 8気管支拡張症 3, 14 dry type 14

 wet type 14気管支拡張薬 6, 8, 13 長時間作用性― 13気管支鏡 ―検査 14 ―診断 7 ―治療 10気管支腔内超音波断層法(EBUS) 7気管支呼吸音 5気管支喘息 4, 6, 8, 13, 17気管支動脈 3, 10 ―塞栓術 3, 10気管支内視鏡 7 ―検査 9 生検 7 洗浄 7気管支肺胞洗浄(BAL) 7, 14 ―液 7, 16気管支針吸引生検 経皮または経― 7気管切開 10気管内挿管 10気胸 7, 8, 10, 11, 14, 19 医原性― 19 外傷性― 19 自然― 19 人工― 19気胸・肺囊胞 11奇形腫 19キサンチン 8気腫性囊胞(ブラ,ブレブ) 14奇静脈 1気道 ―可逆性 6, 13 ―過敏性 6 ―過敏性亢進 13 ―狭窄 10 ―ステント 10 ―抵抗 6 上・下― 1 亜区域気管支 1 気管 1 区域気管支 1 左右主気管支 1 肺葉気管支 1機能的残気量 2キノロン系 9奇脈 4吸引細胞診 8吸気筋 2急性気管支炎 12 一般細菌 12急性呼吸窮(促)迫症候群(ARDS) 15急性上気道感染症(かぜ症候群) 13

医学教育用呼吸器病学コアカリキュラム

索   引

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21索  引

 抗原迅速検査 12急性肺損傷(ALI) 15吸入ステロイド薬 8, 13胸郭 前弯 5 側弯 5胸腔外傷 19胸腔鏡 ―検査 7 ―手術 11胸腔鏡下肺生検 7胸腔穿刺 7, 8, 18 超音波 8胸腔ドレナージ 3, 10, 11, 19胸鎖乳突筋 2胸水 1, 3, 5, 7, 10, 19 滲出性― 3, 8 漏出性― 3, 8胸水の性状 8 血性 8 漿液性 8 乳び 8 膿性 8胸腺 1胸腺癌 19胸腺腫 19胸痛 3, 12, 16, 19 体性痛 3 内臓痛 3胸部(単純)X 線写真 5, 12 吸気 5 呼気 5 側臥位 5 側面像 5胸膜 ―生検 7 ―肥厚 7, 19 ―摩擦音 5胸膜炎 18 肺炎随伴性 18胸膜腔 1胸膜切除術+肺剝皮術 19胸膜中皮腫(悪性胸膜中皮腫) 19胸膜痛 18胸膜肺全摘術 11, 19胸膜摩擦音(friction rub) 5 胸膜癒着術 19去痰薬 14気流閉塞 進行性の― 13 正常に復すことのない― 13 ―の日内変動 13禁煙 11 ―指導 11菌球 17緊張性気胸 3

く区域気管支 1空気感染 12空気塞栓 8口すぼめ呼吸 5

グラム染色 7, 12グリコペプチド系 9クリプトコックス 13

け経カテーテル肺動脈塞栓術 16経気管支擦過 7経気管支擦過法 7経気管支肺生検(TBLB) 7, 8蛍光法(抗菌薬塗抹検査の) 12頸静脈の怒張 5頸動脈体 2珪肺 15 労災補償 15経皮的酸素飽和度 6 ―モニター 6, 8経皮的肺生検 7, 8経皮または経気管支針吸引生検 7稽留熱 5外科的肺生検 8, 14血圧測定 4血液ガス分析 3血液寒天培地 7結核 3結核菌 12血管炎 17 全身性の― 17血管腫(硬化性血管腫) 18血管内ステント 4血管内皮成長因子 9血気胸 11血胸 11血行感染 19結節性硬化症 14血栓溶解療法 16血痰 3, 12, 14嫌気性菌 12, 19顕性誤嚥 12原発性線毛機能不全症候群 14原発性肺癌 11, 17 小細胞肺癌 17 非小細胞肺癌 17

こ抗インフルエンザウイルス薬 12高音性連続音 5硬化性血管腫 18抗凝固療法 16抗菌薬 9, 12, 19 pharmacokinetics-pharmaco     

 dynamics(PK–PD)理論 9 化学構造 9 作用機序 9 適応 9 副作用 9口腔温 5抗結核薬 12抗原吸入誘発試験 7, 16抗原迅速検査 12膠原病 14, 17抗好中球細胞質抗体 17交互脈 4

気管支拡張薬 8好酸球 13, 17 ―性肺炎 17 痰中― 13抗酸菌 ―染色 7 ―の液体培地 17高周波スネア 10抗真菌薬 17抗線維化薬 14光線力学的治療法(PDT) 10拘束性障害 14行動変容 11高二酸化炭素血症 2, 3, 10, 11, 18後鼻漏 3高分解能 CT(HRCT) 6, 14後毛細血管性肺高血圧症 16後弯(胸郭) 5誤嚥 9, 12 顕性― 12 不顕性― 12鼓音 5呼気 NO 13呼吸 呼吸運動 1, 2 呼吸数 4 呼吸抵抗 6 呼吸の神経反射 2 呼吸パターン 4呼吸音減弱 5呼吸器感染症 12呼吸機能検査 6, 7呼吸筋 2呼吸困難 3, 12, 15, 16, 19 体動時の― 13 発作性― 13呼吸細気管支 13呼吸性アシドーシス 10呼吸性アルカローシス 18呼吸調節 2 化学調節 2 行動調節 2 随意性調節 2 不随意性調節 2呼吸中枢 2呼吸不全 3, 18呼吸補助筋 2, 5呼吸リハビリテーション 11 運動療法 12 患者教育 12コンプライアンス 6

さサーファクタント 1細菌の貪食像 7細菌学的検査 8 一般細菌培養 8 抗酸菌塗抹・培養・PCR 8 真菌培養 8最大吸気位 2, 6最大吸気量 2最大呼気位 2

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最大呼気速度(ピークフロー) 13在宅酸素療法 11在宅人工呼吸(HMV) 10, 11サイトメガロウイルス肺炎 13再膨張性肺水腫 10細胞障害性抗癌薬 9細胞診 7, 8細胞壁合成阻害薬 9嗄声 4左方移動 2サルコイドーシス 16サルファ剤 9酸塩基平衡状態 6 代謝性(非呼吸性)の― 6酸化ヘモグロビン 6残気量 2酸素 9, 16 ―含量(血液) 8 ―吸入 11 ―分圧 2, 6 ―飽和度 2, 6, 8, 9酸素解離曲線 2, 6酸素療法 9, 14

し試験開胸術 11自己抗体 15自己免疫性肺胞蛋白症(PAP) 17 後天性 17 先天性 17 二次性 17自然気胸 ―の原因 14 原発性 19 続発性 19持続吸引 19市中肺炎 12弛張熱 5自発呼吸 10斜角筋 2シャント様効果 2縦隔 1, 5縦隔気腫 19縦隔腫瘍 4, 11, 19縦隔条件 5縦隔リンパ節腫大 4縦隔リンパ節郭清術 11主気管支  左右― 1受動性拡散 2腫瘍 4 ―核出術 11 ―焼灼法 10 ―親和性光感受性物質 10腫瘍随伴症候群 17腫瘍播種 8腫瘍マーカー 7上気道 1 ―の異物 10 ―の炎症・損傷・腫瘍・変形 10上気道反射 12上区(肺葉の) 1

小細胞肺癌 17 限局型― 10上大静脈症候群 4静脈血栓塞栓症 15静脈怒張 頸部や前胸部での― 4小葉中心性粒状影 びまん性― 13小葉中心部 1食道内圧 8徐脈 4真菌感染症 13, 17神経原性腫瘍 19人工呼吸 10 侵襲的― 10 非侵襲的― 10人工呼吸管理 長期の― 10人工呼吸器関連肺炎 10侵襲性肺アスペルギルス症 10, 17侵襲的人工呼吸 14滲出性胸水 3, 8浸潤影 12じん肺(珪肺,石綿肺) 15 管理区分 15 労災補償 15心肺停止 9心拍出量 2, 8 ―の減少 3深部静脈血栓症 15

す随意性調節 2水泡音 5睡眠呼吸モニター 8 ポリソムノグラフィー 8 簡易検査法 8睡眠時 Cheyne–Stokes 呼吸 11睡眠時無呼吸症候群(SAS) 18 中枢型(CSAS)― 18 閉塞型(OSAS)― 18睡眠ポリグラフィー 11スクラッチテスト 7ステロイド 15 ―パルス療法 15 ―薬 6すりガラス陰影 13

せ生活の質(QOL) 11声門痙攣 9声門浮腫 9咳 3, 13 乾性・湿性 3 急性・遷延性・慢性 3咳受容体 3咳中枢 3石綿 ―肺 15 ―曝露 19 労災補償 15舌区(肺葉の) 1

摂食嚥下訓練 12セフェム系 9セミノーマ 19ゼラチンスポンジ 11セロトニン 1腺癌 17腺腫 18全身性血管炎 17全肺気量 2喘鳴 4, 13前毛細血管性肺高血圧症 16前弯(胸郭) 5

そ造影 CT 5臓側胸膜 1, 3, 14側弯(胸郭) 5

た体位ドレナージ 14体温 2, 5大細胞癌 17代謝拮抗薬 9代謝阻害薬 9耐性菌 12体性痛 3大動脈体 2濁音 5多血症 3多剤併用療法 12脱気 19痰 3, 13 細胞の検索 3 微生物 3弾性拡張力 2弾性収縮力 2断続性ラ音 5蛋白質合成阻害薬 9

ちチアノーゼ 3 ―を伴う先天性心疾患 4 中心性― 3 末梢性― 3 還元ヘモグロビン 3 多血症 3 貧血 3 爪床 3 粘膜 3 皮膚 3チェックバルブ機構 14窒息 3中心型早期癌 10中枢化学受容野 2蝶形陰影 16長時間作用性気管支拡張薬 8, 13直腸温 5チョコレート寒天培地 7沈降抗体 17

て定位放射線照射 10

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23索  引

低音性連続音 5低酸素血症 2, 3, 9, 11, 14,

15, 16, 17, 18低酸素症 9, 18低酸素性肺血管攣縮 2低分子チロシンキナーゼ阻害薬 9低容量換気 15テタニー 18テトラサイクリン系薬 9転移性肺腫瘍 11, 18

と頭位(ベッド)挙上 12透過性亢進 毛細血管の― 3透過亢進型肺水腫 15橈骨動脈 4動脈血 1 ―の酸素化障害 3動脈血ガス 2, 18 ―分析 6動脈血酸素分圧(PaO2) 2, 6, 11, 18 ―低下 18動脈血酸素飽和度 6動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2) 6, 18特異的 IgE 抗体 17特発性肺線維症(IPF) 16特発性間質性肺炎 15特発性縦隔気腫 19努力吸気 2努力呼気 2 腹筋群 2努力呼出曲線(フローボリューム曲線) 6

な内弾性板 14内肋間筋 2長さ-張力不均衡説 3

に肉芽腫 17肉芽腫性血管炎 17肉芽腫性多発血管炎 17ニコチン依存症 11ニコチン置換療法 11二酸化炭素 2 拡散能力 2 ガス交換 2二酸化炭素分圧 2ニューキノロン系薬 12乳び胸 11, 14ニューモシスチス肺炎 13尿中抗原検査 12二類感染症 12

ね捻髪音 5粘膜線毛輸送系 1

の膿胸 10, 11, 19膿性痰 3, 14

脳波 8ノルアドレナリン 1

は肺アスペルギルス症 13 侵襲性― 17 慢性― 13肺移植 11, 14肺炎 12, 15 院内― 12 市中― 12肺炎球菌 12肺拡散能力(DLCO) 14肺活量 2肺化膿症 12 難治性 12肺癌 3, 4, 11, 15肺換気血流シンチグラフィ 6肺機能検査 15肺気量 ―分画 2, 6 全― 2肺区域(S1 ~ S10) 1肺区域切除術 11肺クリプトコックス症 13肺結核症 12, 14, 15肺血管抵抗 1, 8肺血管内皮細胞 1敗血症 15肺血栓塞栓症 3, 15 急性― 16肺血栓内膜摘除術 16肺血流 2肺高血圧症 11, 15, 16 後毛細血管性― 16 前毛細血管性― 16 肺疾患および / または低酸素血症に

 よる― 16 肺動脈性― 16 慢性血栓塞栓性― 16肺梗塞(→肺血栓塞栓症)肺サーファクタント 17肺腫瘍 17 転移性― 11, 18肺循環 1 ―血流量 1 ―障害 15 低圧 1 低抵抗 1肺静脈 1 ―(混合静脈血)酸素分圧 2肺水腫 16 間質性― 16 急性― 3 再膨張性― 10 静水圧性― 16 心原性― 16 透過亢進型― 16 肺胞性― 16肺生検 15 外科的― 7肺性心 15

 急性― 15 慢性― 15肺切除術 11肺線維症 17肺洗浄 17肺全摘術 11バイタルサイン 3肺抵抗 6肺動静脈瘻 16肺動脈 1, 15肺動脈圧 8 平均― 1, 16肺動脈酸素分圧(Pv━ O2) 2肺動脈楔入圧 8, 16肺動脈性肺高血圧症 15肺動脈二酸化炭素分圧 2肺内出血 8肺囊胞 11肺部分切除術 11肺分画症 11肺胞 2肺胞換気量 2肺胞気 ―酸素分圧 2 ― – 動脈血酸素分圧較差 2 ―二酸化炭素分圧 2肺胞呼吸音 5肺縫縮術 11肺胞マクロファージ 1, 17肺毛細血管 1肺門 気管支 1 肺静脈 1 肺動脈 1 小葉中心 1肺門リンパ節腫脹 16肺野条件 5肺葉 2 つの― 1 3 つの― 1 左上葉 1 左下葉 1 右上葉 1 右中葉 1 右下葉 1肺葉気管支 1肺葉切除術 11肺良性腫瘍 11肺リンパ脈管筋腫症(LAM) 14薄壁囊胞 14発熱 5, 12, 16, 19鼻マスク 10鼻マスク式持続陽圧呼吸療法(CPAP) 18ばち指 4反回神経 左― 4瘢痕性無気肺 14

ひビア樽状胸 5ヒアルロン酸 3, 8, 19皮下気腫 19

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24

非乾酪性類上皮細胞肉芽腫 16非結核性抗酸菌 12非結核性抗酸菌症 12, 14 診断基準 12非小細胞肺癌 局所進行― 10非侵襲的人工呼吸 10, 11非侵襲的陽圧換気 16非侵襲的陽圧換気療法(NPPV) 10ヒスタミン遊離試験 7ビデオ下胸腔鏡手術(VATS) 7, 8ヒト上皮成長因子受容体 9皮内テスト 7びまん性汎細気管支炎 13ヒメネス染色 7日和見感染 13

ふフェイスマスク 10副雑音(ラ音) 5副腎機能抑制(不全) 9副腎皮質ステロイド 9, 13, 16, 17 吸入投与 9 筋肉内投与 9 経口投与 9 静脈内投与 9副鼻腔炎 12, 14 慢性― 13副鼻腔気管支症候群 13不顕性誤嚥 12ブラ 14, 19ブラジキニン 1プラチナ化合物 9プリックテスト 7ブレブ 14, 19プロスタグランジン E2 4プロスタサイクリン持続静注療法 16フローボリューム曲線 6分子標的治療薬 9粉じん・化学物質曝露 17分泌型 IgA 1分離肺換気 11

へ閉塞性換気障害 8, 13閉塞性細気管支炎 13閉塞性肺炎 18閉塞性肺疾患 13閉塞性無気肺 14壁側胸膜 1, 3ペニシリン系 9ヘモグロビン 2, 6扁平上皮癌 17

ほ胞隔炎 16放射線治療 15放射線肺臓炎 15放射線療法 10蜂巣肺 14ホスホジエステラーゼ–5 阻害薬 16ポリソムノグラフィー 8

まマイコプラズマ 12マクロライド ―少量長期投与 14 ―少量長期療法 13マクロライド系 9マクロライド系薬 12末梢化学受容器 2末梢気道 2末梢性チアノーゼ 3慢性移植片対宿主病(GVHD) 13慢性血栓塞栓性肺高血圧症 15, 16慢性呼吸不全 3, 10, 18 高度― 11慢性閉塞性肺疾患(COPD) 4, 13, 15 気腫型 13 非気腫型 13

み右左シャント 16脈拍 4 呼吸性変動 4

む無気肺 14, 18 圧迫性― 14 粘着性― 14 瘢痕性― 14 閉塞性― 14無呼吸低呼吸指数 11

めメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 12免疫抑制薬 9, 15, 16, 17

もモノバクタム系 9

や薬剤性肺炎(肺障害) 15薬剤リンパ球刺激試験(DLST) 15

ゆ遊離珪酸 15

よ予備吸気量 2予備呼気量 2予防的全脳照射 10

らラ音 5ラジオアイソトープ 6

りリズム不整(呼吸の) 4リファマイシン系 9リファンピシン 12良性肺腫瘍 11, 18緑膿菌 12

る類上皮細胞性肉芽腫 16

れレーザー治療 10連続性ラ音 5

ろ労災補償 じん肺(珪肺,石綿肺) 15漏出性胸水 3, 8漏斗胸 5肋間動脈 10

欧文索引数字1 秒率 61 秒量 61 回換気量 2Ⅰ型と III 型のアレルギー反応 17Ⅰ,III,IV 型のアレルギー反応 17Ⅰ型呼吸不全 18Ⅱ型呼吸不全 18Ⅱ型肺胞上皮 1III 型,IV 型アレルギー 16

AA 群 β 溶血性連鎖球菌(溶連菌) 12A–aDO2 2ABPA 17ACE 1, 16ADA 3, 8ALI 15allergic bronchopulmonary mycosis(ABPM) 17

ANCA 17ARDS 15Aspergillus fumigatus(Af) 17

Bβ–D グルカン 13β2 刺激薬 8βラクタマーゼ産生菌 12, 19βラクタム系 9BAL 7, 14BALF 16base excess 6Biot 呼吸 5Borg スケール 3bronchial toilet 10

CC–ANCA 17CAP–RAST 法 7CD4/8 比 16CEA 7, 8Cheyne-Stokes 呼吸 5, 11

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25索  引

Chlamydophila pneumoniae 12Churg-Strauss 症候群 17coarse crackles 5compromised host 13COPD 4, 13CPAP 18crazy-paving shadow 17CT 5 ―検査 5CYFRA 7

DDLCO 6, 14DLST 15

EEGFR 9 ―低分子チロシンキナーゼ阻害薬 7, 9 ―遺伝子変異 7, 9ERV 2

FFDG–PET 検査 6fine crackles 5, 14, 15Fletcher-Hugh-Jones 分類 3FRC 2 ―位 2fungus ball 13, 17

GGa シンチグラフィ 6GM–CSF 17Gimenez 染色 7granulomatosis with polyangiitis(GPA) 17

HH+ 2HCO3

- 2, 6HIV 感染症 13, 17HMV 11Hoover 徴候 5HPV 2HRCT 6, 14, 15

IIC 2IgE 7 ―抗体 7

 ―値 17IL–2 受容体(sIL–2R) 16IPF 14, 16IRV 2

KKL–5 15Korotkoff 音 4

LLAM 14 ―細胞 14Legionella pneumophila 12Light の基準 3, 8

MMendelson 症候群 12MGIT 法 7Miller & Jones 分類 7Moraxella catarrhalis 12MRC 息切れスケール 3MRI 検査 6MRSA 12mycobacteria growth indicator tube 7Mycobacterium avium 12Mycobacterium avium complex(MAC) 12Mycobacterium intracellulare 12

NNPPV 10NSE 7

PPaCO2 2, 6PACO2 2P–ANCA 17PaO2 2, 6, 15, 18PAO2 2PAP 17PCR 8PDT 10pH 2, 3, 6, 8PK–PD 理論 9Pneumocystis jirovecii 13Pro-GRP 7Pv━CO2 2Pv━O2 2

QQOL 11

QuantiFERON®(QFT) 12

RRaynaud 症状 15rhonchi 5RV 2

SS1 ~ S10 1SaO2 6SAS 18SCC 7sIL–2R 16single breath 法 6SLX 7SP–A 1SP–D 1SpO2 6Streptococcus anginosus group 19stridor 4ST 合剤 13Swan-Ganz カテーテル 8

Ttachypnea 4TBLB 7TDI 16TLC 2TV 2

VV4

A/Q4

C 2

V4

A/Q4

C 不均等分布 2VAS 3VATS 7, 8VC 2VEGF 9

WWegener 肉芽腫症(肉芽腫性多発血管炎) 17wheezes 4, 5Williams-Cambell 症候群 14

ZZiehl-Neelsen ―染色 7 ―法 12

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医学教育用呼吸器病学コアカリキュラム2012 年 4 月 19 日 第1版 1 刷発行

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