フィリピンの結核対策について「世界の結核事情」(4)...

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「世界の結核事情」(4) ( 1 )フィリピンにおける結核 フィリピンでは2002年に全国保健所において結核 患者に対するDOTS(直接服薬確認療法)が可能にな り,DOTSカバー率100%を達成した。しかし,罹患率・ 死亡率は減少傾向にあるものの,新規結核患者数は 2014年度約27万人 1 に及び,依然としてWHOが定め る高蔓延国のひとつである。フィリピン政府は,2015 年 4 月,持続可能な結核対策や研究を推し進めようと 「包括的結核排除計画法(Comprehensive Tubercu- losis Elimination Plan Act)」 2 を制定した。しかし, 経済的貧困層や子どもの結核,喀痰塗抹検査やDOTS の質の担保,医療従事者の目の行き届かないところで のDOTSの中止,薬剤耐性結核やHIV合併患者の増加 など,統計で見えない部分にも多くの問題を抱えてい る状態である。 ( 2 )日本の取り組み 日本はJICAの技術協力プロジェクト(DOTSの全 国展開への支援や質の向上,喀痰塗抹検査や研究を行 う医療技術者へのトレーニング等)や無償資金協力(国 家結核レファレンスラボラトリー(NTRL)建設)等 を通じてフィリピンの結核対策に多大な貢献をしてき た。昨年2015年12月,日本の民間企業が有する優れ た製品を結核診断に活用すべく,栄研化学(株)・ニプ ロ(株)共同提案による「結核診断アルゴリズム普及促 進事業」がJICA民間技術普及促進事業 3 として採択さ れた。この事業は,製品の実証試験などを通じて, 2 社の製品組合せによる技術的優位性を実証し結核検査 の改善を図るものであり,フィリピンの結核診断に大 きな貢献が期待される。さらには2016年 2 月末,官民 合同現地調査実施(厚労省,JICA,大塚製薬,ニプロ, 栄研化学,結核予防会参加)が行われ,デラマニド(大 塚製薬)の活用を含めた支援の可能性についても議論 されており,今後の技術協力が見込まれている。 ( 3 )今後について 日本の結核対策支援に対するフィリピン政府の信頼 はあつく,第 3 回日経アジア感染症会議に出席した フィリピン保健省Vicente Belizario Jr.次官からも期 待の声が寄せられている。 フィリピンは日本に距離も近く人の往来も多いこと から,フィリピンの結核対策をすすめることは日本に とってもメリットが大きいと考えられる。さらに,フィ リピンの医療サービスの市場規模は,2013年までの10 年間で年平均成長率(CAGR)が16%となり,約120 億US$に達しており 4 ,フィリピン国内における日本 の医療機器・技術における信頼は非常にあつい。今後 もさらなる経済成長が見込まれており,医療展開や企 業進出のマーケットとしてのフィリピンは大変魅力的 なものであるといえる。 ODA等を通して日比双方にWin-Winのメリットを もたらす関係が築けるよう,大使館としても引き続き 支援を行っていく予定であり,企業や研究機関等から も積極的なアプローチが望まれる。 1 Global tuberculosis report 2015 WHOhttp://www.who.int/tb/publications/global_report/en/ 2 Comprehensive Tuberculosis Elimination Plan Act http://www.gov.ph/downloads/2016/04apr/20160426-RA-10767-BSA. pdf#search=’Comprehensive+Tuberculosis+Elimination+Plan+Act++phili’ 3 JICA 開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業 http://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/kaihatsu/index.html 4 平成27年度医療技術・サービス拠点化促進事業 20163 月経済産業省 療国際展開カントリーレポート 新興国等のヘルスケア市場環境に関する 基本情報 フィリピン編 http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kokusaika/ 27fy/27fy_countryreport_Philippines.pdf フィリピンの結核対策について 在フィリピン日本国大使館 二等書記官  佐藤 智代 フィリピンのDOTSの現場(保健センター) 7 / 2016 複十字 No.369 7

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Page 1: フィリピンの結核対策について「世界の結核事情」(4) (1)フィリピンにおける結核 フィリピンでは2002年に全国保健所において結核 患者に対するDOTS(直接服薬確認療法)が可能にな

「世界の結核事情」(4)

(1)フィリピンにおける結核 フィリピンでは2002年に全国保健所において結核患者に対するDOTS(直接服薬確認療法)が可能になり,DOTSカバー率100%を達成した。しかし,罹患率・死亡率は減少傾向にあるものの,新規結核患者数は2014年度約27万人 1 に及び,依然としてWHOが定める高蔓延国のひとつである。フィリピン政府は,2015年 4 月,持続可能な結核対策や研究を推し進めようと「包括的結核排除計画法(Comprehensive Tubercu-losis Elimination Plan Act)」2 を制定した。しかし,経済的貧困層や子どもの結核,喀痰塗抹検査やDOTSの質の担保,医療従事者の目の行き届かないところでのDOTSの中止,薬剤耐性結核やHIV合併患者の増加など,統計で見えない部分にも多くの問題を抱えている状態である。(2)日本の取り組み 日本はJICAの技術協力プロジェクト(DOTSの全国展開への支援や質の向上,喀痰塗抹検査や研究を行う医療技術者へのトレーニング等)や無償資金協力(国家結核レファレンスラボラトリー(NTRL)建設)等を通じてフィリピンの結核対策に多大な貢献をしてきた。昨年2015年12月,日本の民間企業が有する優れた製品を結核診断に活用すべく,栄研化学(株)・ニプロ(株)共同提案による「結核診断アルゴリズム普及促進事業」がJICA民間技術普及促進事業 3 として採択された。この事業は,製品の実証試験などを通じて, 2社の製品組合せによる技術的優位性を実証し結核検査の改善を図るものであり,フィリピンの結核診断に大きな貢献が期待される。さらには2016年 2 月末,官民合同現地調査実施(厚労省,JICA,大塚製薬,ニプロ,栄研化学,結核予防会参加)が行われ,デラマニド(大塚製薬)の活用を含めた支援の可能性についても議論されており,今後の技術協力が見込まれている。

(3)今後について 日本の結核対策支援に対するフィリピン政府の信頼はあつく,第 3 回日経アジア感染症会議に出席したフィリピン保健省Vicente Belizario Jr.次官からも期待の声が寄せられている。 フィリピンは日本に距離も近く人の往来も多いことから,フィリピンの結核対策をすすめることは日本にとってもメリットが大きいと考えられる。さらに,フィリピンの医療サービスの市場規模は,2013年までの10年間で年平均成長率(CAGR)が16%となり,約120億US$に達しており 4 ,フィリピン国内における日本の医療機器・技術における信頼は非常にあつい。今後もさらなる経済成長が見込まれており,医療展開や企業進出のマーケットとしてのフィリピンは大変魅力的なものであるといえる。 ODA等を通して日比双方にWin-Winのメリットをもたらす関係が築けるよう,大使館としても引き続き支援を行っていく予定であり,企業や研究機関等からも積極的なアプローチが望まれる。

1 Global tuberculosis report 2015(WHO)http://www.who.int/tb/publications/global_report/en/2 Comprehensive Tuberculosis Elimination Plan Acthttp://www.gov.ph/downloads/2016/04apr/20160426-RA-10767-BSA.pdf#search=’Comprehensive+Tuberculosis+Elimination+Plan+Act++phili’3 JICA 開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業http://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/kaihatsu/index.html4平成27年度医療技術・サービス拠点化促進事業 2016年 3月経済産業省 医療国際展開カントリーレポート 新興国等のヘルスケア市場環境に関する基本情報 フィリピン編http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kokusaika/27fy/27fy_countryreport_Philippines.pdf

フィリピンの結核対策について

在フィリピン日本国大使館� 二等書記官 佐藤 智代

フィリピンのDOTSの現場(保健センター)

7/2016 複十字 No.369 7