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株式会社プルータス・コンサルティング 京都大学経営管理大学院 プルータス・コンサルティング寄附講座 【第4回】企業価値評価における割引率算定の理論と実際 令和元年124

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株式会社プルータス・コンサルティング

京都大学経営管理大学院

プルータス・コンサルティング寄附講座

【第4回】企業価値評価における割引率算定の理論と実際

令和元年12月4日

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目次

I. 割引率の役割 11. 貨幣の時間的価値の反映

2. 投資家の機会費用・期待収益率の反映

3. 企業の資本コスト・ハードルレートの反映

4. まとめ

II. 評価手法と資本コストの関係 51. エンタプライズDCF法2. APV法3. エクイティDCF法4. 配当還元法

5. まとめ

III. 資本コストの評価モデル 91. 企業価値評価における資本コスト評価モデルの特徴

2. 評価モデルに織り込まれるリスク

3. CAPM4. マルチファクターモデル

5. 不確実性が存在する場合の資本コスト

6. まとめ

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目次

IV. 株主資本コストの算定 271. 無リスク利子率

2. β3. 株式リスクプレミアム

4. 追加リスクプレミアム

5. まとめ

V. 負債資本コストの算定 581. 理論的な方法

2. 代替的な方法

3. 簡便的な方法

4. 例外的な方法

VI. 資本構成の見積もり 611. MM理論に基づく資本コストの調整

2. 目標資本構成の推定

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目次

VII. 設例 – 国内編 691. 概要

2. 類似会社の選定

3. リスクフリーレート

4. β5. 株式リスクプレミアム

6. 負債資本コスト

7. 計算例

VIII. 海外企業の割引率の算定 801. 通貨の換算

2. 株主資本コストの評価モデル

3. 新興国企業の評価における問題点

4. まとめ

IX. 設例 – 海外編 981. 無リスク利子率

2. β3. 株式リスクプレミアム

4. カントリー・リスクプレミアム

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I. 割引率の役割

I. 割引率の役割II. 評価手法と資本コストの関係

III.資本コストの評価モデル

IV.株主資本コストの算定

V. 負債資本コストの算定

VI.資本構成の見積もり

VII.設例 – 国内編

VIII.海外企業の割引率の算定

IX.設例 - 海外編

1. 貨幣の時間的価値の反映2. 投資家の機会費用・期待収益率の反映3. 企業の資本コスト・ハードルレートの反映4. まとめ

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1. 貨幣の時間的価値の反映

I. 割引率の役割

• 時間の経過により変化するキャッシュ・フローの価値を貨幣の時間的価値という

• たとえば、金利が1%のとき、現在の100円と1年後の101円は等しい価値を有する

• 異なる時点のキャッシュ・フローを同一の尺度で比較するには、貨幣の時間価値を考慮するため、一定の時点における価値に換算する必要がある

• 一定の時点とは、多くの場合現在

• 現在価値に換算するための比率を示したものが割引率

• 1年後の101円の現在価値は、金利を割引率とすることにより、次のように100円と計算できる

101 1001 0.01

=+

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2. 投資家の機会費用・期待収益率の反映

I. 割引率の役割

• ある目的のため一定の期間にわたり資金を投下すると、その間は他の目的に投下する機会を失う

• それによって失われる利益のうち最大のものを機会費用という

• 「最大」かどうかは、収益率だけでなく、リスクも勘案した上で評価される

• 言い換えると、許容しうるリスクの範囲内で実現しうる最大の収益率が、投資家にとっての機会費用であり、投資家は少なくともそれを下回らない収益率を期待する

• この機会費用、期待収益率を割合で示したものが割引率

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3. 企業の資本コスト・ハードルレートの反映

I. 割引率の役割

• 企業は、投資家が期待する以上の収益率を実現しない限り、企業価値を毀損し、資金調達に支障を来す

• 企業にとって、割引率は資金調達にあたっての資本コストであると同時に、調達した資金の運用により最低限達成しなければならないハードルレートでもある

• 異なる時点のキャッシュ・フローを現在価値に換算するための割合が割引率

• 割引率を投資家の側から捉えた概念が機会費用・期待収益率

• 割引率を企業の側から捉えた概念が資本コスト・ハードルレート

4. まとめ

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II. 評価手法と資本コストの関係I. 割引率の役割

II.評価手法と資本コストの関係III.資本コストの評価モデル

IV.株主資本コストの算定

V. 負債資本コストの算定

VI.資本構成の見積もり

VII.設例 – 国内編

VIII.海外企業の割引率の算定

IX.設例 - 海外編

1. エンタプライズDCF法2. APV法3. エクイティDCF法4. 配当還元法5. まとめ

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1. エンタプライズDCF法

II. 評価手法と資本コストの関係

• 利払前のフリー・キャッシュ・フローから事業価値を求め、非事業用資産を加算し有利子負債を控除する最も一般的な方法

• キャッシュ・フローは株主と債権者の双方に帰属するため、資本コストにも株主と債権者のリスクを反映させる

→加重平均資本コスト(WACC)を適用

• 利払前のフリー・キャッシュ・フロー(FCFF) から事業価値を求める点はエンタプライズDCF法と共通するものの、無負債事業価値を求め、負債の節税効果を別途考慮する点が異なる

• 資本コストにも無負債状態におけるリスクを反映させる

• つまり、全額自己資本で資金調達するとみなして資本コストを求めるということ

→アンレバード株主資本コストを適用

2. APV法

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3. エクイティDCF法

II. 評価手法と資本コストの関係

• 株主に帰属する利払後のキャッシュ・フローから直接株主価値を求める方法

• 資本コストにも株主のリスクを反映させる

→レバード株主資本コストを適用

• 配当は株主に帰属するため、エクイティDCF法と同様にレバード株主資本コストを適用すべきと考えられがち

• 実際、内部留保の再投資を考慮するゴードンモデル法では、レバード株主資本コストで割り引くのが理論的

• ただし、配当のみを割り引いて、内部留保の再投資を考慮しない場合、株主資本コストの適用は価値の過小評価につながる

• 配当のみを受け取るとみなし、株価の変動リスクを無視して評価するならば、配当利回りで割り引く方がむしろ整合的

4. 配当還元法

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5. まとめ

II. 評価手法と資本コストの関係

評価手法キャッシュ・フロー

整合的な資本コスト 算定される価値 負債の節税効果

エンタプライズ

DCF法利払前 株主資本コスト (Levered)

と負債資本コストによる

加重平均資本コスト

事業価値

(Levered)負債資本コストに反映

APV法 利払前 株主資本コスト

(Unlevered)無負債事業価値

(Unlevered)無負債事業価値に別途加算

エクイティ

DCF法利払後 株主資本コスト(Levered) 株式価値 キャッシュ・

フローに反映

配当還元法 利払後 株主資本コスト(Levered)ただし、内部留保の再投資を考慮しない場合は資本コストの過大評価に

株式価値 明示的には考慮されず

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III. 資本コストの評価モデルI. 割引率の役割

II. 評価手法と資本コストの関係

III.資本コストの評価モデルIV.株主資本コストの算定

V. 負債資本コストの算定

VI.資本構成の見積もり

VII.設例 – 国内編

VIII.海外企業の割引率の算定

IX.設例 - 海外編

1. 企業価値評価における資本コスト評価モデルの特徴2. 評価モデルに織り込まれるリスク3. CAPM4. マルチファクターモデル5. 不確実性が存在する場合の資本コスト6. まとめ

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1. 企業価値評価における資本コスト評価モデルの特徴

III. 資本コストの評価モデル

• 精緻さでは資産運用の分野に譲る

• 株主資本コストについてはモデルを用いて評価する一方、負債資本コストについては利回りまたは利率を参照する場合が大半

• したがって、企業価値評価における資本コストの評価モデルとは、株主資本コストの評価モデルとほぼ同義

• 株主資本コストの評価モデルとしても、古典的なCAPM (Capital Asset Pricing Model; 資本資産評価モデル)の利用が大半

• これは、フリー・キャッシュ・フローの算定から株式価値の算定に至る過程を跡付けることに主眼を置くDCF法の性格上、資本コスト自体の推定の正確さよりも、むしろ客観性、論理的な一貫性が重視されるため

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2. 評価モデルに織り込まれるリスク (1/ 3)

III. 資本コストの評価モデル

リスクの意義

• 一期間におけるキャッシュ・フローの変動の大きさであり、通常は年率の分散または標準偏差で示される

• 一般的な資本コストの評価モデルでは、株価の変動性に基づきリスクを測定

リスクと不確実性の違い

• 古典的な考え方では、将来の結果を不確かたらしめる要因のうち、蓄積されたデータに基づき確率分布を測定できるものを「リスク」と呼び、そうでないものを「不確実性」として区別

• 確率分布を測定できる場合、不確かな事象の結果を客観的に予測できる

• 株価の変動性は「リスク」に属する

• 直観的には、将来の株価が一定の範囲に収まる確率を予測できるということ

• これに対し、事業計画の不達成リスク、倒産リスクを始め、分布を測定できない不確定要素は「不確実性」に属し、一般的な評価モデルによっては割引率に織り込まれない

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2. 評価モデルに織り込まれるリスク (2/ 3)

III. 資本コストの評価モデル

リスクと成長率の違い

• リスクとは、一年後のキャッシュ・フローの変動性

• 成長性とは、将来に向かってキャッシュ・フローが趨勢的に変化していくこと

• ただし、成長性の高い企業ではリスクも高いことが多いため、両者は混同されがち

• 典型的な誤解は、「ベンチャー企業が安定成長期に入った後はリスクも低くなるため、それに見合った低い割引率を適用すべき」というもの

• 安定成長期に入った場合、少なくとも不確実性は解消されるといえる

• しかし、不確実性の解消は、事業の成功により事後的に実現するものであり、評価時点において必ずしも期待しうるものではない

• 評価時点における投資家の期待収益率としての割引率を求める観点からは、予測期間とそれ以降で異なる割引率を適用すべきとは限らない

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2. 評価モデルに織り込まれるリスク (3/ 3)

III. 資本コストの評価モデル

固有リスクと市場リスク

• 合理的な投資家は、リスクが等しい代替的な投資機会の収益率を比較して、実現しうる最大限の収益率を機会費用として求める

• ただし、実際に全ての代替的な投資機会のリスクと収益率を比較するのは不可能

• 理論上は、分散投資を通じリスクが合理的に低減されるとの仮定が置かれる

• これにより、所与のリスクで収益率を最大化する資産の組み合わせが一義的に決まり、分析が簡明となる

• CAPMでは、安全資産も含めた分散投資を通じて企業固有の要因に基づく変動が減殺され、市場に共通する変動のみが残るとの結論が導かれる

• 前者を固有リスクまたは非組織的リスク、後者を市場リスクまたは組織的リスクという

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3. CAPM (1/ 7)

III. 資本コストの評価モデル

現代ポートフォリオ理論

• CAPMの背景となる理論

• 分散投資を前提に、所与のリスクの下で実現しうる最大の収益率を平面上に描いたものが効率的フロンティア

• 無リスク利子率を示す平面上の点から、効率的フロンティアへ向かって接線を引くことにより、接点が最適なポートフォリオの収益率として一義的に定まる

• 接線を資本市場線といい、接点に対応する危険資産の組み合わせを市場ポートフォリオという

• 市場ポートフォリオの期待収益率から無リスク利子率を控除したものが株式リスクプレミアム

• 危険資産の最適な組み合わせは市場ポートフォリオによって一義的に決まり、投資家は安全資産と適宜組み合わせることによって効用を最大化する

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3. CAPM (2/ 7)

III. 資本コストの評価モデル

CAPMの概要

• 市場ポートフォリオに新たな証券を追加した場合、当該証券の期待収益率を次式によって示すことができる

• これは、無リスク利子率を切片、株式リスクプレミアムを勾配とするβの一次式によって証券の期待収益率を推定できることを示している

• 当該一次式によって与えられる直線を証券市場線という

• 証券市場線によって株主資本コストを求めるモデルがCAPM

{ }1 2( )e mr Rf E R Rfβ= + × −re: 株主資本コストRf1: 無リスク利子率β: リスク感応度E(Rm)-Rf2: 株式リスクプレミアム

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3. CAPM (3/ 7)

III. 資本コストの評価モデル

CAPMの前提

• 現代ポートフォリオ理論は次のような仮定を満たす効率的な市場を前提としたもの

• これらの仮定が満たされないことにより、CAPMでは株主資本コストを適切に評価できない場合も少なくない

• 特に、小型株の資本コストの推定における限界が顕著に生じる

完全競争に関する仮定 市場は競争的であり、投資家は市場価格を所与として行動

投資期間に関する仮定 全ての投資家の保有期間は等しい

資金調達に関する仮定 投資家は無リスク利子率で無制限に借入可能

取引費用に関する仮定 税金を含む取引費用はない

取引単位に関する仮定 取引は無限に細分化でき、投資家は任意の数量を売買できる

リスクに対する態度 投資家は危険回避的で、一定のリスクに対して最も高い期待収益率を有する投資機会を選好

完全情報に関する仮定 情報の非対称性はなく、投資家はリスク及び期待収益率に関して同質の予想を持つ

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3. CAPM (4/ 7)

III. 資本コストの評価モデル

アノマリー

• CAPMの限界を示唆する現象として知られるのがアノマリー

• アノマリーとは、理論上説明し得ない規則的な変動をいう

• 代表的な例は次の通り

通称 内容 考えられる原因

小型株効果 時価総額の低い株の収益率が理論値よりも高くなりやすい現象

株式の流動性の低さ

ボラティリティとして測定しきれない変動要因の存在

1月効果 1月の収益率が他の月より高くなりやすい現象

年度末に売却が集中することの反動

低PER効果 PERの低い株の収益率がその他の株より高くなりやすい現象

市場における過小評価の定着

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3. CAPM (5/ 7)

III. 資本コストの評価モデル

小型株効果

• CAPMが適合する場合、少なくとも長期的には、全ての証券の収益率が証券市場線上に乗るはず

• 実際には、小型株であればあるほど、実際の収益率が証券市場線で与えられる理論値よりも高くなるとされる

• このように、小型株の収益率が高くなりやすい傾向を小型株効果という

• 理論値と実績値の差をサイズプレミアムとして集計し、CAPMにより算出された理論値に加算する実務が存在

• これは、サイズプレミアムに相当する収益率を無リスクで実現する裁定取引が可能という仮定を置くことを意味する

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3. CAPM (6/ 7)

III. 資本コストの評価モデル

その他の問題点

CAPMが有するその他の問題点として、次の点が指摘される

①市場ポートフォリオの不可視性

• 理論上の市場ポートフォリオは、株式以外のあらゆる危険資産も含む概念

• しかし、そのような条件を満たすポートフォリオを実際に観察することは不可能

• 実際の推定においては、十分に分散された株価指数の変動を市場ポートフォリオの代理変数として用いざるを得ない

②βの過小推定

• 実際の推定において、βは過去の株価変動を株価指数の変動に回帰させることによって求めるのが一般的

• そのため、流動性の低い株においては、βの過小推定という問題が顕著に生じる

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3. CAPM (7/ 7)

III. 資本コストの評価モデル

実務において採用される理由

①理論的な完成度の高さ

• 現代ポートフォリオ理論の裏付けがあり、後発のマルチファクターモデルに比べ理論的に完成されている

②適用の容易さ

• モデルの構造が単純

• 必要となるデータの入手が容易

③拡張の容易さ

• 追加的なプレミアムを考慮したモデルに拡張することにより、問題点を一定程度解消可能

• ただし、安易な適用がなされている実態も

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4. マルチファクターモデル (1/ 3)

III. 資本コストの評価モデル

裁定価格理論(Arbitrage Pricing Theory; APT)

• CAPMは、株式リスクプレミアムを唯一のリスクファクターとするモデル

• CAPMが妥当する市場においては、全ての証券の収益率がβの一次式として与えられる証券市場線上の理論値に収斂し、それを超える収益率は実現し得ない

• ただし、CAPMの前提が必ずしも満たされない現実の市場においては、価格の歪みを利用した裁定取引により、無リスクで利益を得る余地が生じうる

• たとえば、同じリスクにも変わらず、小型株の収益率が大型株のそれより高ければ、割安な小型株を買い、割高な大型株を空売りすることにより、差額を無リスクで利得できる

• 効率的な市場では、そのような裁定の機会を消滅させるよう価格が調整される

• そこで、異なるポートフォリオ間の価格差に着目した裁定取引の余地が存在する場合、それが新たなリスクファクターとなり、裁定の余地をなくすように作用するといるのがAPTの考え方

• ただし、ファクターとして何を追加するかについての先験的な理論がない

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4. マルチファクターモデル (2/ 3)

III. 資本コストの評価モデル

Fama-French 3ファクターモデル

株式リスクプレミアム、SMB (Small Minus Big; 小型株の超過収益率)、HML (High Minus Low; 簿価/時価倍率が高い株式の超過収益率) をファクターとするモデル

①SMB• 小型株からなるポートフォリオSと大型株からなるポートフォリオBの収益率の差

• ポートフォリオSは時価総額で中央値より下位にある銘柄により構成され、ポートフォリオBはその他の銘柄により構成される

②HML• 簿価/時価比率の高い銘柄からなるポートフォリオHと低い銘柄からなるポートフォリオLの収益率の差

• ポートフォリオHとLはそれぞれ上位7割、下位3割の銘柄を等金額加重することにより作成

)()()( 32211 LHBsme RRRRRfRRfr −×+−×+−+= ββββ1: 株式リスクプレミアムに対する感応度 Rm: 株式市場の収益率 Rf2: 無リスク利子率β2: SMBに対する感応度 RS:小型株の収益率 RB: 大型株の収益率β3: HMLに対する感応度 RH- 簿価/時価比率が高い株式の収益率 RL: 簿価/時価比率が低い株式の収益率

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4. マルチファクターモデル (3/ 3)

III. 資本コストの評価モデル

マルチファクターモデルの直観的な理解

• 単純化のため、次式のように株式リスクプレミアムとSMBだけをファクターとするモデルを考え、それぞれのファクターに対する感応度をβ1, β2とする

• このとき、理論上の収益率は、 β1とβ2で構成される平面を底面、収益率を高さとする空間に広がる平面によって与えられる

• この空間を、 β2を0とおいた断面で切り取った、理論上の収益率とβ1で与えられる座標平面上に描かれる平面の切り口が証券市場線

• 平面上の証券市場線と実際の収益率を示す点が乖離しているように見えても、ファクターを追加して空間の奥行きを考慮し、理論値を直線ではなく平面によって求めれば、理論値と実績値の乖離は狭まる

• これは、理論値と実績値の乖離を利用した裁定の余地を狭めるということでもある

1 1 2 2( ) ( )e m s Br Rf R Rf R Rβ β= + − + × −

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III. 資本コストの評価モデル

問題の所在

• 企業価値評価の分野においては、負債資本コストを市場において観察された利回りまたは利率から求めるのが一般的

• これは、負債の時価の変動が極めて小さいとの前提に基づく

• これに対し、株式の時価は常に変動するため、市場における利回りを観察するのではなく、理論モデルから推定する方法が採られる

• ただし、倒産リスクを始め、上場株式の変動性に反映されない不確定要素は、一般的な評価モデルに織り込まれない

5. 不確実性が存在する場合の資本コスト (1/ 2)

原則的な対応と現実的な対応

• このような不確定要素によるキャッシュ・フローの変動については、複数の事業計画を作成し、それぞれを前提とした評価額を加重平均することで対応するのが原則

• もっとも、加重平均する際の発生確率を合理的に見積もるのは困難

• このような場合には、負債に準じて市場における利回りを割引率とするのが現実的な対応

• ただし、利回りを直接観察することはできず、投資家への聞き取りによるほかない

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III. 資本コストの評価モデル

市場における利回りの一例

• ベンチャー企業の成長段階毎に、投資家の期待収益率を聞き取り調査することにより、同一の成長段階に属する企業に対する割引率の水準感を把握できる

• このようにして求められた割引率は、客観的に測定しうるリスクではなく、不確実性に対する投資家の評価が反映された主観的なものではあるが、投資家の経験的判断が織り込まれているという点で一定の合理性をもつ

• AICPAは、ベンチャー企業に対する投資家の期待収益率に関する実証研究を引用することにより、成長段階別の期待収益率を次のように示している

成長段階 文献1 文献2 文献3Startup 50-70% 50-70% 50-100%Early Development

40-60% 40-60% 40-60%

Expansion 35-50% 30-50% 30-40%IPO 25-35% 20-35% 20-30%出典: AICPA “Valuation of Privately Held Company Equity Sequrities Issued As Compensation”

5. 不確実性が存在する場合の資本コスト (2/ 2)

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III. 資本コストの評価モデル

• 企業価値評価における資本コストの評価モデルは、実質的に株主資本コストの評価モデルを指す

• 様々な問題点はあるものの、株主資本コストの評価モデルとして最も多く用いられるのはCAPM

• CAPMは、上場株式の株価変動に基づき定量化されるリスクのうち、分散投資によっても解消されない市場リスクのみを反映させるモデル

• したがって、その他の変動要因を無視し得ない場合には、モデルの拡張または代替的な手法による対応が必要となる場合もある

6. まとめ

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IV. 株主資本コストの算定

1. 無リスク利子率2. β3. 株式リスクプレミアム4. 追加リスクプレミアム5. まとめ

I. 割引率の役割

II. 評価手法と資本コストの関係

III.資本コストの評価モデル

IV.株主資本コストの算定V. 負債資本コストの算定

VI.資本構成の見積もり

VII.設例 – 国内編

VIII.海外企業の割引率の算定

IX.設例 - 海外編

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IV. 株主資本コストの算定

1. 無リスク利子率 (1/ 3)

短期金利と長期金利のいずれを使うか

現在値と平均値のいずれを使うか

• 理論上はキャッシュ・フローの発生時期に一致する期間の金利を用いるべきだが、単純化のため一定の長期金利を用いる

• ただし、超長期の債券の流動性は低く、利回りには流動性プレミアムが含まれるため、10年国債の利回りを用いるのが一般的

• 不履行リスクがないことと、再投資リスクがないことの二点が必要• ゼロクーポンの国債利回りがこれに該当

• 株式リスクプレミアムを求める際に無リスク利子率を控除し、割引率を求める際に再び加算するのは、時点により異なる無リスク利子率の影響を一旦除き、現在の無リスク利子率を前提とした割引率を求めるため

• よって、過去の平均値ではなく現在値を用いる

• 異常値を排除するため平均値の方が望ましいという見解もあるが、無リスク利子率のボラティリティは低く、平均値をとる意義は小さい

「無リスク」とは

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IV. 株主資本コストの算定

1. 無リスク利子率 (2/ 3)

• 我が国における長期金利の指標であることに加え、一般的な割引率の水準を前提とした場合、キャッシュ・フローの重心が10年前後となることが挙げられる

• ここで「重心」とは、キャッシュ・フローの割引現在価値を前後で等しくするような時点のことを指す

• 表は、毎期一定のキャッシュ・フローが発生する場合を前提に、割引率を段階的に変化させたときの「重心」を示したもの

無リスク利子率として10年国債が用いられる理由

割引率全期間の

現在価値係数合計左の50% 50%に達する時点

5% 2000% 1000% 15年目

6% 1667% 833% 12年目

7% 1429% 714% 11年目

8% 1250% 625% 10年目

9% 1111% 556% 9年目

10% 1000% 500% 8年目

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IV. 株主資本コストの算定

1. 無リスク利子率 (3/ 3)

①問題の所在• マイナス金利政策の導入に伴い、長期国債利回りが負となる状況が発生• 株主資本コストの前提となる無リスク利子率をどのように取り扱うかが問題に

②会計上の取扱い• 実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算

における割引率に関する当面の取扱い」では、負の金利をそのまま用いる方法と、0を下限とする方法のいずれをも容認

• そのまま用いる方法は、市場金利の客観性を重視したもので、0を下限とする方法は、現金を保有することにより価値を維持できることに着目したもの

③株主資本コストの算定にあたっての取扱い• 実務対応報告の取扱いは参考となり得る

• ただし、実務対応報告の取扱いは、退職給付債務の計算に用いる割引率としての「安全性の高い債券の利回り」に関するもので、全期間一定の割引率を適用することを前提としていない点に注意

国債利回りが負となった場合の取扱い

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (1/14)

• 市場ポートフォリオの価格が1単位変動したとき、それに組み入れられた証券の価格が何単位変動するかを示した値

• 1より小さければ (大きければ) 市場の平均より変動が小さい (大きい) 証券であることを意味する

• 直観的には、市場ポートフォリオの収益率を横軸、証券の収益率を縦軸にとって散布図を描き、変数の関係を近似する直線を引いたとき、その傾きがβとなる

βの意義

• グラフは、昨年末までの60ヶ月を対象に、TOPIXの収益率を市場ポートフォ

リオの代理変数とみなし、日立製作所株式の収益率との関係を線形近似したもの

• 近似式は、TOPIXが1%変動したとき、株価が約1.4%変動することを示す

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (2/14)

• 分析対象となる株式の変動率を被説明変数、株価指数の変動率を説明変数とし、次式で定義されるモデルを構築し、最小二乗法によりパラメタを推定

• 変動率の算定にあたり対数を用いるかどうか、配当を考慮するかどうか、無リスク利子率を控除するかどうかの違いはあるものの、いずれの方法によっても結果に大差は生じないのが通常

it i mt tR R uα β= + × + t: 時点 Rit: 証券iのt期における株価変動率α: 定数項 βi: 証券iのβRmt: t期における株価指数の変動率 ut: 誤差項

βの導出

imm

i

mi

im

m

i

m

imi ρ

σσ

σσσ

σσ

σσβ ×=×== 2

βi: 証券iのβσim: 証券iと市場ポートフォリオの共分散σm: 市場ポートフォリオの標準偏差σi: 証券iの標準偏差ρim: 証券iと市場ポートフォリオの相関係数

• 推定されたβは次式のように整理できる• ①及び②の意味するところは後述

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (3/14)

• βは、「個別銘柄と市場ポートフォリオのボラティリティの比」(前記①)と、「個別銘柄と市場ポートフォリオの収益率の相関係数」(前記②)の積として求められる

• ①は市場ポートフォリオのリスク1単位で図った個別銘柄の総リスクで、市場リスクと固有リスクの双方を含む

• ②は総リスクに占める市場リスクの割合と解釈できる• 銘柄のリスク自体が高く(低く)とも、市場との相関関係が低い(高い)銘柄のβは相対的に低く(高く)なる

• βはリスクの大きさを直接示すものではなく、市場リスクへの感応度と解釈できる

βの解釈

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (4/14)

数値例-ボラティリティが低く相関係数が高い場合

値幅 (2012年) ボラティリティ※ 相関係数 βキヤノン 2,457円 ~ 3,970円 36.15% 0.768 1.214本田技研工業 2,338円 ~ 3,275円 39.35% 0.801 1.377三菱商事 1,343円 ~ 2,010円 40.10% 0.675 1.183

数値例-ボラティリティが高く相関係数が低い場合

値幅 (2012年) ボラティリティ 相関係数 βA社(非鉄金属) 1円 ~ 6円 203.07% 0.104 0.894B社(建設業) 1円 ~ 5円 161.64% 0.077 0.531C社(不動産業) 10円~34円 135.84% 0.115 0.665D社(卸売業) 10円~52円 133.78% 0.080 0.511

※1 平成20(2008)年1月-平成24(2012)年12月の週次収益率より算定。次の数値例においても同様。※2 上記期間におけるTOPIXのボラティリティは約22.87%, 全上場企業のボラティリティの単純平均は約43.00%.

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (5/14)

βの算定上の問題点

次の理由により、βは過小に評価されやすい

①流動性 (ボラティリティの問題)• 流動性の低い株式については、取引が存在しない時点の値動きが反映されないため、ボラティリティが過小評価され、ひいてはβの過小評価につながる可能性がある

• 流動性が低いと、一旦取引が成立した場合に価格が乱高下するなど、市場との相関関係が低いため、二重にβが低くなる

②時価総額 (相関係数の問題)• 小型株の変動と株価指数の変動の相関性は低いため、小型株のβは大型株に比べて相対的に低く評価される

③負債比率 (資本構成の問題)• 負債比率の高い企業のUnlevered βは過小評価される可能性が

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (6/14)

数値例-流動性の低い株式のβ

企業名 取引成立日 出来高1 出来高2 ボラティリティ 相関係数 β秋川牧園 127 5,618 2,936 19.73% 0.097 0.096不二硝子 138 8,372 4,755 23.47% 0.110 0.128昭和鉄工 87 2,937 1,051 45.36% 0.009 0.020東邦レマック 119 6,857 3,358 17.45% 0.156 0.136ホテルニューグランド 157 1,015 656 23.81% 0.242 0.287平和紙業 170 4,712 3,296 22.35% 0.279 0.279

• 取引成立日は平成28(2016)年の営業日243日中、取引が成立した営業日の数• 出来高1は取引成立日当たりの、出来高2は営業日当たりの平均出来高• ボラティリティ、相関係数及びβは平成29年10月以前5年間の週次データから算出• 売買単位は東邦レマックが1,000株、その他が100株

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (7/14)

数値例-ヒストリカルβの分布

• グラフは、我が国の株式市場に上場している国内企業を対象に、平成30(2018)年4月時点における5年週次のヒストリカルβを集計し、その分布を示したもの

• βが1以下の企業が全体の七割以上を占めており、βの分布は右に歪んでいることが分かる→その理由は次頁を参照

区間 度数 累積 累積%- 0.1 56 56 1.53%

0.1 - 0.2 106 162 4.42%0.2 - 0.3 196 358 9.76%0.3 - 0.4 202 560 15.26%0.4 - 0.5 249 809 22.05%0.5 - 0.6 307 1,116 30.42%0.6 - 0.7 342 1,458 39.74%0.7 - 0.8 416 1,874 51.08%0.8 - 0.9 413 2,287 62.33%0.9 - 1.0 350 2,637 71.87%1.0 - 1.1 331 2,968 80.89%1.1 - 1.2 248 3,216 87.65%1.2 - 1.3 176 3,392 92.45%1.3 - 1.4 92 3,484 94.96%1.4 - 1.5 64 3,548 96.70%1.5 - 1.6 37 3,585 97.71%1.6 - 1.7 22 3,607 98.31%1.7 - 1.8 16 3,623 98.75%1.8 - 1.9 13 3,636 99.10%1.9 - 2.0 4 3,640 99.21%2.0 - 29 3,669 100.00%

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (8/14)

数値例-ヒストリカルβの時価総額別分布

• 次の表は、前頁と同様の母集団を時価総額の低い順に1から10までの階級に分け、それぞれの階級の標準偏差、株価指数との相関係数及びβの平均値を調べたもの

• βは時価総額が大きくなるにつれて小さくなるわけではなく、むしろ逆

• これは、ある銘柄の時価総額が大きくなればなるほど、その値動きが市場に与える影響が大きい (すなわち市場リスクが大きい) ため

• 時価総額の上位30%以内に対応する階級では、βの平均が0.9以上となり、CAPMがおおむね適合していると認められるものの、それ以下の階級ではβが過小に評価されている可能性が窺われる

階級 企業数 Stdev β 階級 企業数 Stdev β1 367 49.05% 0.598 6 367 39.16% 0.7982 367 44.93% 0.658 7 367 38.61% 0.8603 367 44.97% 0.701 8 367 36.53% 0.9004 367 44.03% 0.760 9 367 33.28% 0.9285 367 40.78% 0.795 10 366 30.75% 0.978

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (9/14)

βの統計的分析

算出されたβの信頼性、有用性を吟味するにあたり、主として次の指標が用いられる

①決定係数• 被説明変数の変動のうち説明変数の変動により説明される部分の割合• 決定係数が高いほど、直線の当てはまりはよいと判断され、最大値は1となる• 大雑把な目安として、0.5を超えれば相当高い部類②標準誤差• βの誤差を示す指標で、誤差項の確率分布から導かれる• 推定値の上下1標準誤差以内に真の値の約68%が、上下2標準誤差以内に真の値の約

95%が存在すると推論できる③t値• βの真の値が0であるかどうかを検定するための指標で、βを標準誤差で割ることにより算出される

• t値がおおむね2を超えれば、真のβが0である可能性は十分に低いと推論できる

• これは、株価指数の変動が、合理的な確度をもって株価の変動に影響を及ぼしていると結論付けることに他ならない

• このような状態を「有意」という

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (10/14)

数値例-Excel分析ツールによるβの推定及び統計的分析

• 表は、Excelの分析ツールで回帰分析を行い、日立製作所のβを推定したもの

• 「X値1」の係数がβの推定値に相当• R2は決定係数を意味し、株価変動の約

62%をTOPIXの変動により説明しうることを示している

• 通常は、自由度調整済決定係数を示す「補正R2」を用いる

• βの標準誤差は0.1434であり、1.1165から1.6906までの間に真の値の約95%が含まれることを示している

• t値は9.7820であり、βは有意と結論付けられる

概要

回帰統計重相関 R 0.7892重決定 R2 0.6228補正 R2 0.6163標準誤差 0.0492観測数 60

分散分析表自由度 変動 分散 観測された分散比 有意 F

回帰 1 0.2316 0.2316 95.7845 0.0000残差 58 0.1403 0.0024合計 59 0.3719

係数 標準誤差 t P-値 下限 95% 上限 95%切片 -0.0065 0.0064 -1.0282 0.3081 -0.0193 0.0062X 値 1 1.4035 0.1434 9.7870 0.0000 1.1165 1.6906

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (11/14)

決定係数に関する誤解

• 決定係数は直観的に理解しやすい指標• Bloombergを始めとする情報端末でも、βの推定値とともに決定係数が表示される• そのため、決定係数はβの信頼性に直結する最も重要な指標で、決定係数が高いほどβの信頼性も高いと解釈されがち

• しかし、βの決定係数が高い (低い) とは、株価変動のうち市場の要因で説明される部分の割合が高く (低く)、固有の要因で説明される部分の割合が低い (高い) ことを意味するに過ぎず、統計的な有意性に直結するものではない

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (12/14)

数値例-決定係数の低いβと高いβ

• グラフは、日立製作所とNTTドコモの株式を対象に、過去3年間の決定係数及びβの変動を示したもので、いずれも基準日以前5年間の月次データに基づく

• 日立製作所については、βの決定係数が高い代わりにβの推定値が大きく変動しており、NTTドコモについては逆の現象が観察される

• 決定係数の高いβばかりを選択すると、基準日の違いによりβの推定値が大きく変動し、算出される割引率が安定しなくなる可能性も

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (13/14)

対象会社βと類似会社βのどちらを使うか

対象会社と類似会社の規模は近似している方が望ましいか

• 小型株においては、流動性の低さなど、βの算定上の問題点が顕著• むしろ、市場ポートフォリオを代表する流動性の高い株式のβを採用する方が、

CAPMの前提には合致する場合もある

• 前述のような問題点から、個別企業のβを正確に算定することは困難• 誤差を小さくする観点からは、複数の類似会社のβを平均する方が望ましい

平均値と中央値のどちらを使うか

• 平均値は異常値の影響を受けやすいため、中央値の方が望ましいとする立場もある

• ただし、中央値は特定の値のみを採用し、その他のデータがもたらす情報を無視するもの

• 誤差を平準化して真の値を推定するという目的からは、異常値が存在しない限り平均値の方が適切

• βが過小に評価されやすいという傾向からしても、機械的に中央値を採用することが合理的かという疑問は残る

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IV. 株主資本コストの算定

2. β (14/14)

観察周期

• 日次で観察した場合、流動性の低い株式のβが顕著に歪むため、週次または月次データの利用が一般的

• 周期を週次から月次とすることにより、流動性の低い株のβの決定係数が顕著に向上する場合あり

観察期間

• 採用した観察周期を前提に、信頼に値する十分な数のデータ数を確保する観点から観察期間を設定

• 次の理由により、長期間であればあるほど望ましいというものでもない観察期間の途中で事業内容が大きく変化した場合、リスク感応度も変化しうる上場後の期間が短い企業とその他の企業を比較できない

• McKinsey & Companyは月次データを前提に5年を、Bloombergは週次データを前提に2年を推奨

• 当社が発表しているβは直近5年の週次データに基づき算出

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IV. 株主資本コストの算定

3. 株式リスクプレミアム (1/ 7)

株式リスクプレミアムの分類

ヒストリカル・リスクプレミアム インプライド・リスクプレミアム

算定方法 株式市場の過去の長期間にわたる平均収益率から無リスク利子率を控除

企業の期待収益率と株価の関係を表すモデルから逆算

長所 • 簡明性が高い • 市場環境の変化を反映しやすい

短所 • 観察期間によって結果が大きく異なる

• 市場環境の変化を反映しにくい

• 生存バイアスの存在

• モデルの前提条件により結果が異なる

リスク許容度に関する前提

長期間にわたって不変 市況に応じて変化

市場の効率性に関する前提

市場株価はしばしば適正な水準から乖離するものの、長期的には平均値に回帰する傾向あり

個々の株価が一時的に適正な水準から乖離する場合はあるものの、市場全体としては適正な価格形成が実現

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IV. 株主資本コストの算定

3. 株式リスクプレミアム (2/ 7)

ヒストリカル・リスクプレミアムの特徴と問題点

①特徴• 過去データに基づくという点で客観的• 複雑なモデルに依存せず簡明性が高い

②問題点• 観察期間によって結果が大きく異なる (負にもなりうる)• 長期の平均値であり、短期的な市場環境の変化は反映されない

• 長期間にわたる収益率には、長期間にわたって存続した優良企業の収益率が反映されており、ヒストリカル・リスクプレミアムは真の値に比べて上方に偏っているとする見解がある (生存バイアス)

ヒストリカル・リスクプレミアムの算出方法

• ある期間における株価指数の変化率から、その期間における無リスク利子率を差し引いた超過収益を求め、これを長期間にわたって平均する

• 年々の収益率が独立に発生するという前提で、確率的な誤差を平準化する観点からは単純平均が適合

• 複利の年次収益率を求める観点からは、幾何平均が適合

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IV. 株主資本コストの算定

3. 株式リスクプレミアム (3/ 7)

数値例-観測期間の長短とヒストリカル・リスクプレミアム

期間 リスクプレミアム 備考

1952年-2018年 8.59% 我が国の統計データから算出可能な最長期間

1955年-2018年 7.32% カネボウ事件東京地裁決定を踏襲した期間

1959年-2018年 6.31% 過去60年1969年-2018年 5.80% 過去50年1989年-2018年 0.71% 過去30年1999年-2018年 5.56% 過去20年

• 次の表は、我が国の株式市場におけるヒストリカル・リスクプレミアムを異なる観測期間について示したもの

• 観測期間が短くなると、バブル崩壊後の株価低迷の影響が強まり、ヒストリカル・リスクプレミアムは低下する傾向がある

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IV. 株主資本コストの算定

3. 株式リスクプレミアム (4/ 7)

ヒストリカル・リスクプレミアムの算出に際して異常値を除外すべきか

年 超過収益率 年 超過収益率

1952 115.6% 1990 △45.9%1972 99.9% 2008 △41.2%1999 58.0% 1973 △30.3%

• 長期間の収益率を平均する趣旨は、各年の誤差が独立に発生するという前提で、多数のデータの平均することにより誤差を平準化すること

• 長期間のデータを平均した結果として誤差が平準化されることに意義があり、誤差を縮減するために異常値を除くという発想は本末顛倒

• ただし、我が国の時系列データにおいて、最も古い昭和27(1952)年の超過収益率が著しく高いことから、これを異常値として除くべきとする見解が支配的

• カネボウ事件東京地裁決定も、同様の趣旨で昭和30(1955)年以降の平均値を採用

• もっとも、誤差が独立という前提の下では、最も古いものだけ除くことに必ずしも合理的な理由はない

• 大幅な変動を示した年が他にも存在するところ、特定の一年だけ除くことが適切かという問題がある

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IV. 株主資本コストの算定

3. 株式リスクプレミアム (5/ 7)

インプライド・リスクプレミアムの特徴と問題点

①特徴• インプライド・リスクプレミアムは、観察期間の長短に依存しない• 短期的な市場環境の変化を比較的反映しやすい(予想利益が一定で株価が下落した場合、インプライド・リスクプレミアムは上昇する)

②問題点• モデルの前提条件によって算定結果は異なる予想利益として何を用いるか会社発表の予想利益を用いるか、外部の予測を用いるか予想利益と株価の間にどのような関係を想定するか

• 市場環境の変化に対する感応度が高くなりすぎる場合も

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IV. 株主資本コストの算定

3. 株式リスクプレミアム (6/ 7)

プルータス・コンサルティングが考えるインプライド・リスクプレミアム

• プルータス・コンサルティングが提供している”ValuePro”では、予想当期純利益と株価との関係から逆算したインプライド・リスクプレミアム(IRP)を提供

①個別企業のROEの算出当期の予想利益が永続すると仮定し株主資本コスト(ROE)を算出

②個別企業のIRPの算出算出されたROEからIRPを銘柄ごとに逆算

③異常値の除外算出されたIRPが異常値を示している企業、予想利益を取得できなかった企業等を除外

④IRPの平均値の算出上記企業を除外した後の全企業を対象として、企業別のIRPを業種または市場全体について平均することにより、その業種または市場におけるIRPの平均値を算出

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IV. 株主資本コストの算定

3. 株式リスクプレミアム (7/ 7)

ヒストリカルとインプライドの関係

• いずれの集計方法を用いても、データ数が多くなるに従い算定結果が安定

• ヒストリカル・リスクプレミアムについて、算出可能な最長期間である昭和27(1952)年から平成30(2018)年までの平均値は8.59%

• インプライド・リスクプレミアムについて、集計を開始した平成21(2009)年1月から平成31(2019)年1月までの41四半期のデータを参照すると、最小値は6.69%, 最大値は9.32%, 平均値は8.03%

• 少なくとも現時点においては、ヒストリカル・リスクプレミアムとインプライド・リスクプレミアムは一定程度整合的

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IV. 株主資本コストの算定

4. 追加リスクプレミアム (1/ 5)

意義

• CAPMに基づく理論上の収益率が過小に算定されているとの理由に基づき、理論上の収益率に一定割合を加算する実務が存在

• このとき、株主資本コストは次のように修正される

• サイズ・リスクプレミアムは、小規模企業に対する追加リスクプレミアムで、多くの場合外部機関の求めたデータが用いられる

• 固有リスクプレミアムは、規模以外の要因に基づく追加リスクプレミアムで、多くの場合算定者の主観によって見積もられる

• いずれも、追加リスクプレミアムに相当する収益率を無リスクで獲得できることを暗黙の前提にしており、理論的には疑問が残る

• 主として実務上の要請に基づいて適用されるものと捉え、安易な利用は慎むべき

{ }1 2( )specificsize

e mr Rf E R Rf RP RPβ= + × − + + RPsize: サイズ・リスクプレミアムRPspecific:固有リスクプレミアム

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IV. 株主資本コストの算定

4. 追加リスクプレミアム (2/ 5)

サイズ・リスクプレミアムの論拠

・サイズ・リスクプレミアムの論拠は、小規模企業のリスクは大規模企業に比べて高いため、投資家はCAPMに基づく理論値よりも高い収益率を期待するというもの

• この考え方は直観に合致するものの、正確さを欠く点がある

• 仮に、理論値よりも高い収益率が観察されるとすれば、同じリスクの大型株に比べて高い収益率を上げていることを意味し、リスクとしてはむしろ低いと解釈できる

• サイズ・リスクプレミアムは、市場リスクとしてβに織り込まれない変動要因によって生じた超過的な収益率を意味する

• いわば得体の知れない要因によって生じたものを、機械的に加算することには疑問も残る

サイズ・リスクプレミアムの算定方法

・時価総額分位別のポートフォリオを作成し、その収益率とCAPMによる理論値との乖離を時系列で観察する方法(ヒストリカル手法)

・評価時点における時価総額別の超過収益率の発生をモデル化し、実際の株式市場のデータから算定する方法(インプライド手法)

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IV. 株主資本コストの算定

4. 追加リスクプレミアム (3/ 5)

ヒストリカル手法によるサイズ・リスクプレミアム

• ヒストリカル手法によるサイズ・リスクプレミアムは次式で示される

( )i i f iSRP R R ERPβ= − − ×SRPi: 第i分位のサイズ・リスクプレミアムRi: 第i分位に属するポートフォリオの収益率βi: 第i分位に属するポートフォリオのβERP: 株式リスクプレミアム

• したがって、ヒストリカル手法によるサイズ・リスクプレミアムは、株式リスクプレミアムに応じて一義的に決まるという性質を有する

• SRPは、実際の収益率を示す点と、証券市場線との乖離を縦軸方向に測ったものに他ならず、証券市場線の傾きが株式リスクプレミアムに相当する

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IV. 株主資本コストの算定

4. 追加リスクプレミアム (4/ 5)

インプライド手法によるサイズ・リスクプレミアム

• プルータス・コンサルティングが提供している”ValuePro”では、我が国に株式を上場している全ての国内企業のデータに基づき、サイズ・リスクプレミアムを算定

• 時価総額の小さい分位ほど平均的なボラティリティが高いという関係を利用

• 収益率はボラティリティに比例するという仮定をおき、ある分位のボラティリティの平均値に対応した収益率と、全企業の収益率の平均である株式リスクプレミアムとの差をその分位のサイズ・リスクプレミアムとする

①時価総額分位の設定全ての上場企業を時価総額により10段階に区分

②個別証券の超過収益率の算出個別証券のボラティリティと株式市場の平均ボラティリティの相対比から算出

③時価総額分位別リスク・プレミアムの算出それぞれの分位に含まれる企業の超過収益の平均値を算出

④サイズ・リスクプレミアムの算出

各分位の超過収益率の平均値から、市場全体の超過収益率の平均値である株式リスクプレミアムを控除したものをサイズ・リスクプレミアムとする

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IV. 株主資本コストの算定

4. 追加リスクプレミアム (5/ 5)

数値例-時価総額とボラティリティの関係

階級 企業数 時価総額(百万円)※1 ボラティリティ※2

1 369 ~ 3,146 47.59%2 369 ~ 5,235 45.48%3 369 ~ 7,966 44.73%4 369 ~ 12,073 39.86%5 369 ~ 18,807 39.09%6 369 ~ 29,789 38.27%7 369 ~ 50,582 37.37%8 369 ~102,003 35.67%9 369 ~302,258 32.80%

10 369 303,776~ 30.16%全体 3,690 39.10%

※1 平成31(2019)年1月現在 ※2 同月以前5年間の週次データに基づき算出

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IV. 株主資本コストの算定

5. まとめ

β

株式リスクプレミアム

• ヒストリカル・リスクプレミアムの長所はインプライド・リスクプレミアムの短所であり、逆についても然りといえる

• ヒストリカル・リスクプレミアムの算定にあたり、特定の年を異常値として除外すべきとの見解はあるものの、その論拠には合理性が乏しい部分もある

• 市場リスクに対する感応度であり、固有リスクを含む総リスクの大きさに必ずしも比例しない

• 流動性の低い株式のβは過小に算定される可能性がある

追加リスクプレミアム

• CAPMによる理論上の資本コストに加算される形の追加リスクプレミアムは、相当する割合の収益率を無リスクで獲得できることを暗黙の前提とする

• 理論的な根拠は強固でないことから、安易な利用は避けるべき

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V. 負債資本コストの算定I. 割引率の役割

II. 評価手法と資本コストの関係

III.資本コストの評価モデル

IV.株主資本コストの算定

V.負債資本コストの算定VI.資本構成の見積もり

VII.設例 – 国内編

VIII.海外企業の割引率の算定

IX.設例 - 海外編

1. 理論的な方法2. 代替的な方法3. 簡便的な方法4. 例外的な方法

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V. 負債資本コストの算定

1. 理論的な方法

• CAPMは直接金融を前提にした株主資本コストの評価モデル• 負債資本コストの算定にあたっても、直接金融を前提とするのが整合的• 社債を上場している企業については、社債の流通利回りを参照するのが原則

• 負債資本コストの算定にあたっては、実効税率相当割合を節税効果として利回りから控除する

2. 代替的な方法

• 理論的な方法は、対象会社が長期の社債を発行しており、なおかつそれが上場されている場合にしか採用できない

• ただし、格付を取得している場合には、社債の店頭取引を集計した格付別・残存年数別の利回りを代替的に取得可能http://market.jsda.or.jp/html/saiken/kehai/downloadInput.php

• 格付を取得していない場合でも、便宜的にBBB格相当とみなして適用する実務あり• ただし、残存期間が10年以上の債券の取引数が十分でないため、信頼性は限定的

• 外部機関が独自のモデルにより推定した業種別のデータの例https://www.nikkeimm.co.jp/service/detail/id=451

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V. 負債資本コストの算定

3. 簡便的な方法

• 金融機関の鞘が上乗せされているという点で、理論上の前提に合致しない面はあるものの、簡便的に借入金または社債の利率を用いても、企業価値評価の前提として不合理とまではいえない

• ただし、算定結果が無リスク利子率を下回るなどの矛盾がないかどうか注意

4. 例外的な方法

• 財務内容が悪化した状況が長期的に持続することは、継続企業を前提とするDCF法に相容れない

• 有利子負債による追加的な資金調達ができないものとみなして、株主資本コストで割り引くのも一案

• 市場データから定量化できない不確実性が存在する場合には、主観的な資本コストで割り引くことも要検討

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VI. 資本構成の見積もり

1. MM理論に基づく資本コストの調整2. 目標資本構成の推定

I. 割引率の役割

II. 評価手法と資本コストの関係

III.資本コストの評価モデル

IV.株主資本コストの算定

V. 負債資本コストの算定

VI.資本構成の見積もりVII.設例 – 国内編

VIII.海外企業の割引率の算定

IX.設例 - 海外編

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1. MM理論に基づく資本コストの調整 (1/ 2)

VI. 資本構成の見積もり

• 完全市場を前提にすると、企業価値は期待営業利益に依存し、資本構成の影響を受けない (第一命題)

• 相対的に資本コストの低い負債の組み入れ比率をさせても、財務リスクの上昇を反映して株主の期待収益率が上昇するため、加重平均資本コストは一定に保たれる(第二命題)

• ただし、法人税を考慮する場合、負債利用により支払利息の節税効果分だけ企業価値は増加する (修正第一命題)

MM (Modigliani-Miller) 理論の概要

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1. MM理論に基づく資本コストの調整 (2/ 2)

VI. 資本構成の見積もり

• 修正第一命題によると、株主資本と負債の時価の合計は、負債利用がない場合の企業価値と負債の節税効果を合計したものと一致する

• このとき、負債利用がない場合のβとある場合のβの間に次の関係が成立

Levered βとUnleveredβ

• Vu+Vt=E+Dであることに留意し分子を払うと次のように表せる

• この関係式を利用して、算出されたβを負債利用がない状態のβに変換 (アンレバー)し、評価対象企業の負債比率に応じて再度変換 (リレバー) することで、類似会社と評価対象会社の負債比率の違いを調整する

DED

DEE

VVV

VVV

detu

tt

tu

uu +

×++

×=+

×++

× βββββe: Levered β E: 株主資本の時価βu: Unlevered β D: 負債の時価βd: 負債のβ βt: 節税効果のβ Vu: 無負債事業価値 Vt: 負債の節税効果

DEVV dettuu ×+×=×+× ββββ• Vu+Vt=E+Dに留意しつつ、βd=0とおいてβuについて解くと次式を得る

+÷=

ED

eu 1ββ

×−+÷=

EDteu )1(1ββ(βt=βuの場合) (βt=βdかつDが定数の場合)

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2. 目標資本構成の推定 (1/ 5)

VI. 資本構成の見積もり

• 通常、DCF法においては一定の資本構成に基づくWACCを採用→現在の資本構成ではなく、長期的な目標資本構成を用いる(ただし異論もあり)

• 事業内容あるいは資本政策を勘案し、長期的に無借金が想定される場合には、株主資本100%を想定

• 一定の負債利用が見込まれる場合には、類似上場会社の平均的な資本構成を参考とするのが有用

• 循環計算により算定される株主資本比率は、現在の有利子負債の金額を所与としており、目標資本構成を求めるという観点からは必ずしも合理性を有しない

目標資本構成の採用

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2. 目標資本構成の推定 (2/ 5)

VI. 資本構成の見積もり

• 評価対象会社が上場しているか、類似上場会社の平均的な資本構成を前提とする場合には、普通株式の時価総額を用い、非支配株主持分及び種類株式がある場合はそれらも含める

• ただし、非支配株主持分及び種類株式の時価を算定するのは困難な場合が多いため、簡便的に会計上の金額を用いることも検討

株主資本の金額

• 理論上は時価を用いるが、債務不履行リスクが生じていない限り帳簿価額を用いても差し支えない

• むしろ問題となるのは、現金預金と相殺した純額を用いるか、総額を用いるか• 理論的とされるのは純額を用いる方法• これは、取引費用が発生せず、市場を通じて随時調達・返済できるというCAPMの前提に整合的だから

有利子負債の金額

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2. 目標資本構成の推定 (3/ 5)

VI. 資本構成の見積もり

• 有利子負債を超過する現金預金を保有する場合、計算上の純有利子負債が負の金額となる

• たとえば、株主資本の時価が1,250で、純有利子負債が△250の場合、株主資本比率は125%, 負債比率は-20%と算定される

• その結果、Unlevered βがLevered βを上回るとともに、WACCが株主資本コストを上回る現象が起こる

• ただし、現金預金を多く保有することにより、企業価値の変動が抑えられていることを考慮すると、 Unlevered βがLevered βを上回ることも不合理ではないとされる

純有利子負債が負となる場合の解釈

• いずれの方法を用いてもWACCに大差が生じない

ことについては、右の数値例により確認できる

• ただし、株主資本コストが相当程度異なることに注意

1. 総額の場合 2. 純額の場合現金預金 750 有利子負債 500 純有利子負債 -250事業価値 1,000 株主資本 1,250 事業価値 1,000 株主資本 1,250

株主資本比率 71.4% 上記から算出 株主資本比率 125.0% 上記から算出負債比率 40.0% 上記から算出 負債比率 -20.0% 上記から算出Unleveredβ 0.80 所与 Unleveredβ 0.80 所与Levered β 1.12 公式から算出 Levered β 0.64 公式から算出無リスク利子率 0.50% 所与 無リスク利子率 0.50% 所与株式リスクプレミアム 5.00% 所与 株式リスクプレミアム 5.00% 所与ROE 6.10% CAPMより ROE 3.70% CAPMよりROD 1.00% 所与 ROD 1.00% 所与WACC 4.64% WACC 4.38%

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2. 目標資本構成の推定 (4/ 5)

VI. 資本構成の見積もり

• ヒストリカルβは過去の平均的な資本構成を反映していると考えられるため、理論上はこれに基づきUnleveredβを求めるのが適切

• 計算が煩雑となるため、通常は現在の資本構成を用いる

• ただし、建設業、不動産業など負債依存度の高い業態においては、株主資本比率の変動幅が大きい場合もあるため、複数時点の資本構成を平均することも検討すべき

類似会社の資本構成を参考とする際の留意点

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2. 目標資本構成の推定 (5/ 5)

VI. 資本構成の見積もり

• 通常用いられているβのアンレバーの公式は、有利子負債のβが0であることを前提に成立

• これは、企業が一定の金利で無制限に借入できるということ• 負債比率が極端に高い場合、有利子負債のβは急上昇し、借入コストも高まるはずだが、通常用いられるアンレバーの公式はそれを考慮していない

• その結果、βのアンレバーの段階で財務リスクが過小に評価され、Unleveredβがあるべき値よりも低くなる結果、株主資本コストが過小に評価される可能性がある

• このような弊害は、有利子負債のβを0ではなく定数と想定することで一定程度解消可能だが、あくまで簡便な計算であり、根本的な解決とはならない

負債比率が高い場合の留意点

( )ERP

rtrDE

ED

fdd

deu

−−=

+÷+

+÷=

1

11

β

βββ βu: Unlevered β D: 負債の時価βe: Levered β rd(1-t): 負債資本コストβd: 有利子負債のβ rf: 無リスク利子率E: 株主資本の時価 ERP: 株式リスクプレミアム

(負債比率が一定の場合)

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VII. 設例 - 国内編I. 割引率の役割

II. 評価手法と資本コストの関係

III.資本コストの評価モデル

IV.株主資本コストの算定

V. 負債資本コストの算定

VI.資本構成の見積もり

VII.設例 – 国内編VIII.海外企業の割引率の算定

IX.設例 - 海外編

1. 概要2. 類似会社の選定3. 無リスク利子率4. β5. 株式リスクプレミアム6. 負債資本コスト7. 計算例

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VII. 設例 - 国内編

評価対象会社

住友電気工業 (5802)

1. 概要

評価基準日

平成31(2019)年3月31日

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VII. 設例 - 国内編

2. 類似会社の選定

国内の上場企業一覧

直近年度 直近年度 直近年度 直近終値 直近年度 直近年度決算期 売上高合計 当期純利益 時価総額 PER EV/EBITDA

5802 住友電気工業 2019/03 3,177,985 118,063 1,329,453 11.1 6.05486 日立金属 2019/03 1,023,421 31,370 659,226 20.9 8.85801 古河電気工業 2019/03 991,590 29,108 214,121 7.3 6.65803 フジクラ 2019/03 710,778 1,453 135,801 90.1 6.15805 昭和電線ホールディングス 2019/03 177,174 4,569 31,289 6.6 7.55809 タツタ電線 2019/03 57,995 2,926 41,182 12.4 6.35816 オーナンバ 2018/12 36,431 450 5,664 12.6 3.67931 未来工業 2019/03 36,035 4,114 57,437 9.4 2.25821 平河ヒューテック 2019/03 26,853 2,003 23,868 9.5 3.75807 東京特殊電線 2019/03 18,786 1,851 15,231 8.2 3.95819 カナレ電気 2018/12 11,372 1,029 13,206 12.3 2.85820 三ッ星 2019/03 9,165 613 1,886 2.8 5.15817 JMACS 2019/02 4,920 -103 1,853 N/A N/A

金額単位:百万円 平均値 16.9 5.2出典:SPEEDA 中央値 10.3 5.5

会社名コード

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VII. 設例 - 国内編

3. 無リスク利子率

• 日本証券業協会が公表している「公社債店頭売買参考統計値表」を参照し、評価基準日から満期までの期間が約20年ある国債の複利利回りの平均値を採用

• 本講義開催日現在、次のURLで検索可能http://market.jsda.or.jp/html/saiken/kehai/downloadInput.php

• 表は、評価基準日の直前営業日である3月29日発表のデータを抜粋したもの

単価Price(Yen)

前日比(銭)Change(0.01Yen)

複利利回り(%)Compound

Yield

単利利回り(%)Simple Yield

単価Price(Yen)

前日比(銭)Change(0.01Yen)

複利利回り(%)Compound

Yield

単利利回り(%)Simple Yield

02 000040037 長期国債 WI-04 2029/03/20 ――― ――― ――― -0.085 ――― ――― ――― -0.085 ―――02 001090069 超長期国債 109 2029/03/20 1.9 119.97 +35 -0.091 -0.085 119.97 +35 -0.091 -0.08502 001100069 超長期国債 110 2029/03/20 2.1 121.98 +36 -0.092 -0.085 121.98 +36 -0.092 -0.08502 000300068 超長期国債(30)30 2039/03/20 2.3 137.95 +90 0.334 0.290 137.95 +90 0.334 0.29002 000300068 超長期国債(30)30 2039/03/20 2.3 134.55 -16 0.553 0.485 134.55 -13 0.553 0.485

中央値Median

銘柄種別Issue Type

銘柄コードCode

銘柄名Issues

償還期日Due Date

利率Coupon Rate

平均値Average

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VII. 設例 - 国内編

4. β (1/ 4)

株価の取得(抜粋)

• 評価対象会社、類似会社及びTOPIXの終値を取得• 表は、評価基準日以前5年間の月次データを抜粋したもの

調整後終値 5802 5486 5801 5803 998405単位:円 住友電気工業 日立金属 古河電気工業 フジクラ TOPIX2019/3/31 1,469 1,286 2,791 417 1,591.642019/2/28 1,549 1,134 3,420 471 1,607.662019/1/31 1,547 1,219 3,250 476 1,567.49

2018/12/31 1,462 1,150 2,762 437 1,494.092018/11/30 1,593 1,278 3,315 493 1,667.452018/10/31 1,542 1,332 3,055 487 1,646.122018/9/30 1,782 1,407 3,780 537 1,817.252018/8/31 1,758 1,284 3,825 686 1,735.352018/7/31 1,714 1,208 3,935 717 1,753.29

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VII. 設例 - 国内編

4. β (2/ 4)

Levered β及び関連するデータの計算(抜粋)

• 当月の終値を前月の終値で除し、1を控除することにより収益率を計算• Levered βは、ExcelのSLOPE関数の「Yの範囲」に株式の収益率を、「Xの範囲」にTOPIXの変化率を指定することにより計算可能

Levered β 1.181 1.092 1.265 1.538 1.000標準偏差 23.47% 26.36% 33.91% 36.17% 15.32%相関係数 0.771 0.635 0.572 0.652 1.000

5802 5486 5801 5803 998405住友電気工業 日立金属 古河電気工業 フジクラ TOPIX

2019/3/31 -5.20% 13.40% -18.39% -11.46% -1.00%2019/2/28 0.16% -6.97% 5.23% -1.05% 2.56%2019/1/31 5.78% 6.00% 17.67% 8.92% 4.91%

2018/12/31 -8.19% -10.02% -16.68% -11.36% -10.40%

変化率

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VII. 設例 - 国内編

4. β (3/ 4)

評価対象会社のβ及び関連する統計量を分析ツールで求めると次の通り

分析ツールによる計算結果

回帰統計重相関 R 0.7714重決定 R2 0.5951補正 R2 0.5881標準誤差 0.0435観測数 60

分散分析表自由度 変動 分散 観測された分散比 有意 F

回帰 1 0.1611 0.1611 85.2526 0.0000残差 58 0.1096 0.0019合計 59 0.2708

係数 標準誤差 t P-値 下限 95% 上限 95% 下限 95.0% 上限 95.0%切片 -0.0052 0.0057 -0.9140 0.3645 -0.0165 0.0062 -0.0165 0.0062X 値 1 1.1815 0.1280 9.2332 0.0000 0.9253 1.4376 0.9253 1.4376

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VII. 設例 - 国内編

4. β (4/ 4)

上記で計算されたLeveredβを前提に、直近四半期末の決算情報、並びに3月末の株式時価総額及び純有利子負債から算出した負債比率に基づきUnleveredβを計算

Unlevered βの計算

5802 5486 5801 5803項目 単位 住友電気工業 日立金属 古河電気工業 フジクラ 備考株価 円 1,462 1,150 2,762 437 基準日直近の終値期末発行済株式数 株 779,894,054 427,569,911 70,486,369 285,312,469 自己株式を除く株式時価総額 百万円 1,140,205 491,705 194,683 124,682 上記の積非支配株主持分 百万円 225,430 7,232 32,252 24,245 基準日の金額株主資本 百万円 1,365,635 498,937 226,935 148,927 株式時価総額と非支配株主持分の合計額短期調達債務 百万円 249,678 83,112 106,936 137,623 基準日の金額長期債務 百万円 291,067 118,986 140,057 116,171 基準日の金額現金預金及び同等物 百万円 167,225 41,098 44,628 36,794 基準日の金額純有利子負債 百万円 373,520 161,000 202,365 217,000 短期調達債務及び長期債務の合計額から現金預金及び同等物を控除した額企業価値 百万円 1,739,155 659,937 429,300 365,927 株主資本及び純有利子負債の合計額株主資本比率 65.56% 74.51% 45.35% 34.07% 株主資本を企業価値で除した割合負債比率(D/E) 32.76% 32.74% 103.95% 174.04% 純有利子負債を株式時価総額で除した割合Levered β(βL) 1.181 1.092 1.265 1.538 Leveredβの計算シートから転記Unlevered β(βu) 0.890 0.822 0.620 0.561 βL÷(1+D/E)

平均値 中央値株主資本比率 54.87% 55.45%Unlevered β 0.724 0.721

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VII. 設例 - 国内編

5. 株式リスクプレミアム

• 表は、プルータス・コンサルティングが集計した平成30(2018)年までのヒストリカル・リスクプレミアムを抜粋したもの

• 横軸から開始年を、縦軸から終了年を選ぶことにより、該当する期間のヒストリカル・リスクプレミアムを参照可能

1952年1月から2018年12月までの

ヒストリカル・リスク・プレミアム

1952 1953 1954 1955 1956 1957 1958

2018 8.59 6.97 7.09 7.32 6.94 6.50 6.88

2017 8.96 7.32 7.45 7.69 7.31 6.87 7.26

2016 8.76 7.09 7.22 7.46 7.07 6.62 7.00

2015 8.89 7.20 7.33 7.58 7.18 6.73 7.12

2014 8.85 7.13 7.26 7.51 7.10 6.64 7.04

2013 8.83 7.08 7.21 7.47 7.05 6.58 6.98

2012 8.09 6.30 6.43 6.67 6.23 5.74 6.14

End Year

Start Year

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VII. 設例 - 国内編

6. 負債資本コスト

• 日本証券業協会が公表している格付マトリクス表を参照し、評価基準日から満期までの期間が約20年ある国債の複利利回りの平均値を採用

• 本講義開催日現在、国債利回りと同一のURLから取得可能• 表は、評価基準日の直前営業日である3月29日発表のデータの中から、評価対象会社の格付に相当するAA格の利回りを抜粋したもの

格付マトリクスによる社債利回りの推定

調達金利から、法定実効税率30.6%相当を節税効果として控除

負債資本コストの算定

日付 コード 格付機関 年数 格付 複利利回り 標準偏差 銘柄数20190329 1 格付投資情報センター 5 AA 0.097 0.054 3220190329 1 格付投資情報センター 10 AA 0.239 0.054 1020190329 1 格付投資情報センター 20 AA 0.786 0.124 63

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VII. 設例 - 国内編

7. 計算例 <Releveredβの計算>Unlevered β βu 0.724 Unleveredβの計算シートから転記した平均値負債比率 D/E 82.24% 株主資本比率から逆算した値Releveredβ βe 1.319 βu×(1+D/E)

<株主資本コストの計算>無リスク金利 Rf 0.553% 残存年数20年の国債利回りReleveredβ βe 1.319 上記参照株式リスクプレミアム E(Rm)-Rf 8.593% インプライド・リスクプレミアム株主資本コスト Re 11.882% Rf+βe×{E(Rm)-Rf}

<負債資本コストの計算>調達金利 Rd 0.786% AA格20年債の利回り(R&I)実効税率 t 30.6% 法定実効税率負債資本コスト Rd(1-t) 0.545% 調達金利から実効税率相当割合を控除

<加重平均資本コストの計算>株主資本コスト Re 11.882% 上記参照負債資本コスト Rd(1-t) 0.545% 上記参照株主資本比率 E/(E+D) 54.87% 評価対象会社及び類似会社の平均値加重平均資本コスト WACC 6.766% Re×E/(E+D)+Rd(1-t)×D/(E+D)

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VIII. 海外企業の割引率の算定I. 割引率の役割

II. 評価手法と資本コストの関係

III.資本コストの評価モデル

IV.株主資本コストの算定

V. 負債資本コストの算定

VI.資本構成の見積もり

VII.設例 – 国内編

VIII.海外企業の割引率の算定IX.設例 - 海外編

1. 通貨単位の換算2. 株主資本コストの評価モデル3. 新興国企業の評価における問題点4. カントリー・リスクプレミアムの推定5. まとめ

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1. 通貨単位の換算 (1/ 4)

VIII. 海外企業の割引率の算定

手法 フォワードレート法 スポットレート法キャッシュ・フロー

現地通貨建てのキャッシュ・フローをドル建てまたは円建てに換算

現地通貨建てをそのまま使用

割引率 ドル建てまたは円建て 現地通貨建て換算に用いる為替相場

キャッシュ・フローの発生時点に対応したフォワードレート

評価時点のスポットレート

長所 割引率の算定にあたり、信頼性の高い米国または国内市場のデータを使用できる

キャッシュ・フローの換算を要しない

短所 フォワードレートの計算が必要 現地市場のデータの信頼性が乏しい

フォワードレート法とスポットレート法

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1. 通貨単位の換算 (2/ 4)

VIII. 海外企業の割引率の算定

フォワードレート法とスポットレート法の等価性

(設例)無リスク利子率は毎期一定であり、ドル建で年率2%, 円建てで年率1%キャッシュ・フローは毎期200ドルずつ永久に発生為替のスポットレートは100円/ドル、フォワードレートは次の金利平価式に従う

tUSDf

JPYf

t SRR

F ×+

+=+ 1

11

Ft+1: t+1期のフォワードレート St: t期のスポットレートRf

JPY: 円建ての無リスク利子率 RfUSD: ドル建ての無リスク利子率

このとき、フォワードレート法で算定される現在価値は次の通り

...01.11

02.101.1100200

01.11

02.101.1100200

22

+

×

××+×××=PV

100...02.11200

02.11200

2

×

+

×××=PV

右辺各項の分子と分母から1.01を消去して整理すると次式を得るが、これはスポットレート法により算定される現在価値に一致する

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1. 通貨単位の換算 (3/ 4)

VIII. 海外企業の割引率の算定

金利平価を前提とした割引率の通貨単位の変換

• 国際間の資本市場の効率性を仮定する場合、スポットレート法とフォワードレート法の等価性を利用して、割引率の通貨単位を変換できる

• まず、スポットレート法による現在価値は次式で与えられる

SWACCCFPV USD

USD

×+

=1

CF: ドル建てのキャッシュ・フローWACCUSD: ドル建ての割引率S: スポットレート

• フォワードレート法による現在価値は次式の通り

SRR

WACCCFPV USD

f

JPYf

JPY

USD

×+

+=

11

1

WACCJPY: 円建ての割引率Rf

JPY: 円建ての無リスク利子率Rf

USD: ドル建ての無リスク利子率

• 両式の右辺が等しいものとみなし、CFUSDとSを除いて整理すると次式が成立

USDf

JPYf

USD

JPY

RR

WACCWACC

+

+=

++

11

11 ( ) 1

11

1 −+

+×+= USD

f

JPYfUSDJPY

RR

WACCWACC→

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1. 通貨単位の換算 (4/ 4)

VIII. 海外企業の割引率の算定

割引率の通貨単位の近似的な変換

• 前頁の関係式が成り立つとき、次の近似式を用いることにより、ある割引率の通貨単位を他の通貨に変換できる

• つまり、無リスク利子率の差だけを調整すればよいということ

( )USDf

JPYf

USDJPY RRWACCWACC −+≈

• 表は、前頁の分数を含む式と上記の近似式を用いてドル建ての割引率を円建てに変換し、その結果の差を示したもの

• たとえば、無リスク利子率がドル建てで3%, 円建てで1%のとき、ドル建ての割引率は9%と算定され、前頁の式で変換された円建ての資本コストは次の通り6.88%(1+0.09)×(1+0.01)÷(1+0.03)-1=0.0688

RfUSD β×ERPUSD WACCUSD Rf

JPY WACCJPY

前頁の式 近似式 差2.00% 6.00% 8.00% 1.00% 6.94% 7.00% 0.06%3.00% 6.00% 9.00% 1.00% 6.88% 7.00% 0.12%4.00% 6.00% 10.00% 1.00% 6.83% 7.00% 0.17%5.00% 6.00% 11.00% 1.00% 6.77% 7.00% 0.23%

※単純化のため、米国の無リスク利子率以外の条件を一定に保ち、割引率は株主資本コストに一致するものとみなした

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2. 株主資本コストの評価モデル (1/10)

VIII. 海外企業の割引率の算定

グローバルCAPMとローカルCAPM

手法 グローバルCAPM ローカルCAPM意義 グローバル市場のデータに基づきCAPMを

適用する方法現地市場のデータに基づきCAPMを適用する方法

資本市場に関する前提

国際的に統合 国別に分断

通貨 • グローバル市場の通貨→フォワードレート法と整合的

• ただし、各国の通貨単位にも変換可

現地通貨→スポットレート法と整合的

長所 • 理論的な一貫性を有する

• 割引率の算定にあたり、信頼性の高いグローバル市場のデータを使用できる

• 通貨単位の変換にも対応できる汎用性

直観に合致しやすい

短所 新興国固有のリスクが一切考慮されない 割引率の算定にあたり、現地市場のデータの利用が困難

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2. 株主資本コストの評価モデル (2/10)

VIII. 海外企業の割引率の算定

グローバルCAPM

• 国際的な資本市場の効率性を前提に、各国市場固有のリスクは分散され、投資家は単一のグローバル市場のリスクに直面するとの想定を置いたもの

( ){ }globalf

globalm

globalglobalf

globale RRERR −×+= β

• 無リスク利子率Rfglobal及び株式リスクプレミアムE(Rm

global)-Rfglobalについてはグローバル

市場のデータを参照し、βもグローバル市場の価格変動に対して算出

• ただし、グローバル市場の価格変動を直接観察することはできないため、一般には米国市場の株価指数を代理変数として採用

• この場合、算定される株主資本コストはドル建てとなり、フォワードレート法と整合的

• ただし、国際間の資本市場が効率的であれば、無リスク利子率の差を調整することにより他国の通貨単位に変換でき、スポットレート法にも適用可能

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2. 株主資本コストの評価モデル (3/10)

VIII. 海外企業の割引率の算定

ローカルCAPM

• 資本市場は国別に分断され、各国市場固有のリスクが残るとの想定を置いたもの

( ){ }localf

localm

locallocalf

locale RRERR −×+= β

• 無リスク利子率Rflocal及び株式リスクプレミアムE(Rm

local)-Rflocalについては現地市場の

データを参照し、βも現地市場の価格変動に対して算出

• この場合、算定される株主資本コストは現地建てとなり、スポットレート法と整合的

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2. 株主資本コストの評価モデル (4/10)

VIII. 海外企業の割引率の算定

ローカルCAPMの問題点

• 最大の問題点は、現地市場のデータの信頼性が乏しいこと• 長期間の時系列データが蓄積されておらず、株式リスクプレミアムの算定が困難• 現地の株式市場が十分に分散されておらず、CAPMの想定する市場ポートフォリオとしての条件を満たさないことから、βを適切に求めることも困難

• 表は、平成31(2019)年1月現在の各国のMSCI株価指数を構成する企業数と、時価総額上位10社の構成比を示したもの

Index 企業数 10社構成比 Index 企業数 10社構成比World 1,632 12.08% Korea 115 52.75%Japan 323 18.99% Malaysia 44 54.59%China 459 53.01% Philippines 23 71.45%Hong Kong 47 60.31% Singapore 25 74.79%India 78 52.82% Taiwan 86 55.29%Indonesia 28 75.87% Thailand 36 62.36%

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2. 株主資本コストの評価モデル (5/10)

VIII. 海外企業の割引率の算定

グローバルCAPMに修正を加えたモデル

ソブリンスプレッドモデル 相対リスク比率モデル Damodaranモデル概要 国債の格付に応じたソブリン

スプレッドを加算株式リスクプレミアムを、グローバル市場のボラティリティに対する各国市場のボラティリティの相対比で補正

ソブリンスプレッドを、債券価格のボラティリティに対する株価指数のボラティリティの相対比で補正

カントリーリスクの内容

国債の不履行リスク 株式市場のボラティリティの高さ

ソブリンスプレッドとボラティリティから推定した株式市場のリスク

長所 客観性が高い 国内株式と外国株式を代替的な投資対象と想定する場合に適合

株式と債券を代替的な投資対象と想定する場合に適合

短所 株式のリスクは債券のリスクよりも高いという直観に合致しない

ボラティリティの前提となる現地市場のデータが信頼性に劣る

ボラティリティの前提となる現地市場のデータが信頼性に劣る

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2. 株主資本コストの評価モデル (6/10)

VIII. 海外企業の割引率の算定

ソブリンスプレッドモデル

• グローバルCAPMにより求めた資本コストに対し、国債の格付に応じたソブリンスプレッドを加算する方法

( ){ }local global global global global sovereigne f m fR R E R R RPβ= + × − +

• ソブリンスプレッドは、各国と米国の国債利回りの差をドル建てで測定したもの• ただし、次の理由により、モデル化にあたっては一定の工夫が必要 全ての国がドル建ての長期国債を発行しているわけではない 同一の格付でもソブリンスプレッドは異なる場合がある

• 負債資本コストの部分にもソブリンスプレッド相当が含まれるとすると、算定される割引率は、グローバルCAPMを前提とした加重平均資本コストに対してソブリンスプレッドを加算し、節税効果を控除した値に等しくなる

• これは、カントリー・リスクとして国債の不履行だけを想定しているということ

• 株式のリスクは債券のリスクよりも高いという直観には合致しないものの、データの客観性は比較的高い

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2. 株主資本コストの評価モデル (7/10)

VIII. 海外企業の割引率の算定

相対リスク比率モデル

• グローバルCAPMにおいて用いられる株式リスクプレミアムに対して相対リスク比率を乗じる方法

• 相対リスク比率は現地市場の株価指数のボラティリティをグローバル市場の株価指数のボラティリティで除した値

( ){ } globalm

localmglobal

fglobalm

globalglobalf

locale RRERR

σσβ ×−×+=

• σmlocalは現地市場の株価指数のボラティリティを、σm

globalはグローバル市場の株価指数のボラティリティを意味し、いずれもグローバル市場の通貨単位で測定される

• ただし、現地の株式市場の流動性はグローバル市場に比べて乏しいことから、株価指数のボラティリティが現地市場のリスクを適切に示すとは限らない

• 現地市場の株価指数は、特定の企業または業種の影響を強く受けるため、カントリー・リスク以外の要因が資本コストに混入する可能性もある

• ソブリンスプレッドモデルに準じ、格付が等しい複数の国のボラティリティを平均することで、信頼性を向上させる余地はある

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2. 株主資本コストの評価モデル (8/10)

VIII. 海外企業の割引率の算定

Damodaranモデル

• ソブリンスプレッドに対し相対リスク比率を乗じる方法

• 相対リスク比率は、株価指数のボラティリティを債券価格のボラティリティで除した値

( ){ } localb

localmglobal

fglobalm

globalglobalf

locale DSRRERR

σσβ ×+−×+=

• σmlocalは現地市場の株価指数のボラティリティを、σb

localは現地市場の債券利回りのボラティリティを意味し、いずれもグローバル市場の通貨単位で測定される

• 現地の株式市場の流動性が乏しい、株式市場が特定の企業または業種の影響を受けるという問題点は相対リスク比率モデルと同様

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2. 株主資本コストの評価モデル (9/10)

VIII. 海外企業の割引率の算定

カントリー・リスクプレミアムに対する感応度

• 相対リスク比率モデルの式は、次のように変形できる

• 右辺第3項の株式リスクプレミアム以降がカントリー・リスクプレミアムに相当

• このように、相対リスク比率モデルでは、株式リスクプレミアムとカントリー・リスクプレミアムに対する感応度が等しいとの想定が置かれる

• 一方、ソブリンスプレッドモデルとDamodaranモデルでは、カントリー・リスクプレミアムに対する感応度は1であり、これは全ての企業がカントリー・リスクプレミアムに対して等しい感応度を有することを意味する

• ただし、Damodaran教授は、ソブリンスプレッドモデルとDamodaranモデルについても感応度を考慮する方法を紹介している

• 具体的には、対象会社の現地における売上高割合を、現地の平均的な企業のそれで除した割合を感応度とする

• たとえば、対象会社の現地における売上高割合が50%で、現地企業の平均的な国内売上高割合が40%だったとすれば、感応度は1.25となる

( ){ } ( ){ } 1local

local global global global global global global global me f m f m f global

m

R R E R R E R R σβ βσ

= + × − + × − × −

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2. 株主資本コストの評価モデル (10/10)

VIII. 海外企業の割引率の算定

グローバルCAPMを修正したモデルにおける通貨単位の変換

• 算定される超過収益率はドル建て

• 株式リスクプレミアム以外の追加リスクプレミアムを想定しているということは、資本市場が効率的でないことを意味し、無リスク利子率の調整により割引率の通貨単位を変換しうるとの想定は整合性を欠く

• よって、フォワードレート法を適用し、キャッシュ・フローをドル建てに換算してから割り引くのが原則

• ただし、スポットレート法を前提に、無リスク利子率のみ調整して割引率の通貨単位を変換する方法も、簡便法としては許容されうる

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3. 新興国企業の評価における問題点 (1/ 2)

VIII. 海外企業の割引率の算定

手法 ドル建ての無リスク利子率に対し、現地における現地通貨建て国債とドル建て国債の利回りの差を信用スプレッドとして調整

(例)米国の10年国債利回りが2%, 現地における10年国債利回りが現地通貨建てで4%, ドル建てで3.5%のとき、無リスク利子率は次の通り2.5%と推定できる

2%+(4%-3.5%)=2.5%

ドル建ての長期国債利回りに対し、基軸通貨国と現地の物価上昇率の差を加減

(例)米国の10年国債利回りが2%, 物価上昇率が現地で3%, 米国で1.5%のとき、無リスク利子率は次の通り3.5%と推定できる

2%+(3%-1.5%)=3.5%

長所 理論的には最も適切 データの入手が容易

短所 該当する国債が存在するとは限らない • 物価上昇率の正確な予測が困難

• 実質金利が全ての国・地域で等しいという前提が必要

• 新興国市場のデータの信頼性は乏しいことから、フォワードレート法を前提にグローバルCAPMまたはこれを修正を加えたモデルを適用するのが基本

• 国債を無リスクとみなし難い場合、無リスク利子率に何を用いるかが問題に

無リスク利子率の考え方

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3. 新興国企業の評価における問題点 (2/ 2)

VIII. 海外企業の割引率の算定

• フリー・キャッシュ・フロー及び割引率は、物価上昇率を含む名目値で算定されるのが原則

• ただし、物価上昇率が著しく高い国の場合、中長期的な物価上昇率の水準を合理的に予想しがたい

• この場合、フリー・キャッシュ・フロー及び割引率を実質値で算定すべき

物価上昇率の取扱い

• 一般的な評価モデルにより割引率に織り込まれるリスクは、基本的に標準偏差で測定しうるものに限られる

• 新興国特有の政治的リスクを始めとする不確実性を、一般的な評価モデルにより定量化することは困難

• それらについてはキャッシュ・フローの前提となる事業計画に織り込むのが原則

リスクとして測定不能な不確実性

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4. まとめ

VIII. 海外企業の割引率の算定

• 現地通貨建てのキャッシュ・フローを換算してから割り引く方法と、現地通貨建てのキャッシュ・フローの割引現在価値を換算する方法が存在

• 前者をフォワードレート法といい、後者をスポットレート法という• キャッシュ・フローだけでなく割引率にも通貨単位が存在→両者の整合性を保つ

通貨の換算

• 資本市場が国際的に統合されていると想定する場合にはグローバル市場を基準に、国毎に分断されていると想定する場合には現地市場を基準に評価するのが原則

• ローカル市場のデータの信頼性は低いため、後者を現実に適用するのは困難• グローバル市場のデータを基礎としつつ、一定の修正を加えるのが現実的

株主資本コストの評価モデル

• 国債利回りを無リスクとみなせない場合は、先進国の無リスク利子率に物価上昇率の差を調整する方法が簡明

• 物価上昇率が高い場合は、キャッシュ・フローに名目値を用いる• 政治的リスクを含む不確実性は、割引率ではなく事業計画に織り込むのが原則

新興国企業の評価における問題点

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IX. 設例 – 海外編I. 割引率の役割

II. 評価手法と資本コストの関係

III.資本コストの評価モデル

IV.株主資本コストの算定

V. 負債資本コストの算定

VI.資本構成の見積もり

VII.設例 – 国内編

VIII.海外企業の割引率の算定

IX.設例 - 海外編

1. 無リスク利子率2. β3. 株式リスクプレミアム4. カントリ-・リスクプレミアム

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IX. 設例 - 海外編

1. 無リスク利子率

米国国債利回り

• 株式リスクプレミアムの前提と整合的な米国の10年物Tボンドの利回りを、次のURLから取得可能https://www.federalreserve.gov/datadownload/Choose.aspx?rel=H15

各国の物価上昇率

• 次のURLから条件を指定することにより、各国のGDPデフレータの予測値を取得可能https://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2019/02/weodata/index.aspx

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IX. 設例 - 海外編

2. β (1/ 2)

ドル建てのβの算定

• グローバルCAPMを適用する場合、βもドル建てで求める必要あり

• 次の表は、基礎編で用いた日立製作所及びNTTドコモの株価及びTOPIXをドル建てに換算してβを求めたものの抜粋

• 日立製作所については、βの水準に大差はない一方で、決定係数の低下が顕著

• 逆に、NTTドコモについては、決定係数に大幅な変動はないもののβの水準が上昇

6501 日立製作所 9937 NTTドコモ日付 β 決定係数 β 決定係数2018/12/31 1.31 0.45 0.80 0.222018/11/30 1.35 0.44 0.83 0.222018/10/31 1.36 0.45 0.84 0.232018/9/30 1.39 0.42 0.85 0.212018/8/31 1.37 0.44 0.77 0.192018/7/31 1.38 0.44 0.74 0.18

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IX. 設例 - 海外編

2. β (1/ 2)

業種別のβ

• 米国の業種別のβの平均値を次のURLから取得可能http://www.stern.nyu.edu/~adamodar/pc/datasets/betas.xls

• βの計算方法については次のURLに記載ありhttp://www.stern.nyu.edu/~adamodar/New_Home_Page/datafile/variable.htm

• 対象となった企業の一覧は次のURLから取得可能http://www.stern.nyu.edu/~adamodar/pc/datasets/indname.xls

• 全世界、新興国、中国など、その他の国・地域における業種別βも入手可能だが、現地の株価指数に基づき計算されていることに注意

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IX. 設例 - 海外編

3. 株式リスクプレミアム

米国のヒストリカル・リスクプレミアム

• 次のURLから取得可能http://www.stern.nyu.edu/~adamodar/pc/datasets/histretSP.xls

• Returns by yearのシートで、1928年から2018年までのS&P500及び国債の収益率を参照でき、株式リスクプレミアムも計算可能

• 無リスク利子率として3-month T.Bill及び10-year T.bondを選択できるが、通常は後者を選択

• 開始年については諸説あるが、最も長い期間を参照すべきとの見解が有力• このとき、単純平均により求めたヒストリカル・リスクプレミアムは6.26%

米国のインプライド・リスクプレミアム

• 次のURLから取得可能http://www.stern.nyu.edu/~adamodar/pc/datasets/histimpl.xls

• Historical Impl Premiumsのシートで、1961年から2018年までの各年のインプライド・リスクプレミアムを参照でき、2017年の値は5.96%

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IX. 設例 - 海外編

4. カントリー・リスクプレミアム (1/ 3)

各国のソブリンスプレッド及びカントリー・リスクプレミアム

• 昨年末を基準としたデータを次のURLから取得可能http://www.stern.nyu.edu/~adamodar/pc/datasets/ctryprem.xls

• Country Lookupのシートで国を選択することにより、国債の格付に応じたソブリンスプレッドを参照可能

• ERPs by countryのシートでは、ソブリンスプレッド及びカントリー・リスクプレミアムを国別に参照可能

• たとえば、インドネシアのMoody’sによる格付はBaa2で、これに応じたソブリンスプレッドは2.15%

• ソブリンスプレッドに対し、新興国市場における株価指数と国債利回りのボラティリティの相対比1.23を乗じることにより、カントリー・リスクプレミアムは2.64%と推定される

• これに対し、プルータス・コンサルティングが集計したインドネシアのソブリンスプレッドは2.65%

• 双方のデータの相関係数は0.95超と高く、これはソブリンスプレッドの客観性の高さを示唆するもの

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IX. 設例 - 海外編

4. カントリー・リスクプレミアム (2/ 3)

相対リスク比率モデル

• 次頁の表は、株式会社プルータス・コンサルティングが集計した相対リスク比率モデルに基づく各国のカントリー・リスクプレミアムを抜粋したもの

• 相対リスク比率は、米国の株価指数のボラティリティを1とした場合における各国の株価指数のボラティリティの比

• 株価指数には各国のMSCI指数を用い、ボラティリティの観察期間には10年を採用• カントリー・リスクプレミアムは、相対リスク比率から1を控除し、グローバル市場の株式リスクプレミアムを乗じることにより算定される

• たとえば、株式リスクプレミアムを6.26%に設定した場合、香港のカントリー・リスクプレミアムは約2.5%と推定される

• 株価指数がない国については、株価指数がある国を地域、信用リスクなどに応じカテゴリ化して求めた平均値を適用

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IX. 設例 - 海外編

4. カントリー・リスクプレミアム (3/ 3)

相対リスク比率モデルに基づくカントリー・リスクプレミアムの計算例

基準日 2018/12/31 米国の株式リスクプレミアム※1 6.26%

地域 国カテゴリ※2 ソブリンスプレッド

モデル※5

北米 Developed 米国 USA 1.00 2.68% 0.00% 0.00%カナダ Canada 1.32 2.52% -0.07% 2.02%

アジア Developed 香港 Hong Kong 2 1.40 2.69% 0.24% 2.51%日本 Japan 1.05 1.24% 1.09% 0.29%シンガポール Singapore 1.51 2.04% -0.07% 3.18%

Emerging 中国 China 2 1.57 2.87% 0.99% 3.59%インド India 3 1.89 4.44% 2.80% 5.59%インドネシア Indonesia 3 1.84 3.58% 2.65% 5.23%韓国 Korea 1.74 2.79% 0.50% 4.64%マレーシア Malaysia 2 1.17 3.21% 1.67% 1.06%フィリピン Philippines 3 1.44 3.59% 2.49% 2.76%台湾 Taiwan 1 1.42 2.05% 0.68% 2.63%タイ Thailand 3 1.56 1.96% 2.07% 3.54%パキスタン Pakistan 7 1.67 5.64% 6.55% 4.19%

Frontier バングラデシュ Bangladesh 5 1.73 6.09% 4.64% 4.57%スリランカ Sri Lanka 6 2.25 5.09% 6.03% 7.84%ベトナム Vietnam 5 1.82 4.48% 4.43% 5.16%

追加リスクプレミアム相対リスク比率

モデル※6

市場 Country国無リスク利子率※4

相対リスク比率※3