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LAGuNA(汽水域研究)6,119~122頁(1999年3月) LAGUM6;p.119-122(1999) 湖水環境の人為的改造と底生有孔虫の群集変化 塩分躍層に相当する水深でのハmm0楠イベントの確認 その6 野村律夫1・福田隆弘1 遜鋤鮒C笛⑪醐㎜孟囮臓e醐亙Ch鋤geS孟蛆鵬賊孟⑪舳⑪虹㎜盟蝸Ct孟嚇eSぼ賊6 亙舳SC⑪Very⑪f t㎞e A醐醐0砺泣αeVe蛆t盟t血盟亙⑪C蛆蛆e姐e鯉th 醐ts囲o lN⑪正㎜胆r劉且紐皿d。丁劉k盆胞虹⑪亙胆k阻沮組1 Abst蝸cむBenth1c foramn1ferahave s1gn1f1cant1y changed the1rma decades,massoc1at1onw1thbrac㎞shenv皿onmenta1changes TheA醐㎜o棚αevent,md1catmgarep1acementofprev1ous1ydeve1opedHoμo with recent1y deve1opedA舳㎜o〃加わθcc〃〃,was d-iscovered at3.O-4.O cm su sedmentcoresobt㎜edat30-45mwaterdepthsofLakeNakaum Th w1th a ha1oc1me d-eve1oped m th1s1ake and are1mpo血ant to reconstruc re1at1onships between the sha11ower and deeperpa耐s ofLalke Nakau A閉閉o棚αevent1nd1cates thatthe sed.1ment-watermterfacehas chang a1s01nsha11ower狐eamrecentye孤s Wesuggestthattherecent1ncreaseofA㎜㎜o棚α1nd1catesapro m the sha11ower孤ea ofLake Nakaum Keyw⑪r曲:A舳o棚αe▽ent,forammfera,ha1oc1me,LakeNakaum 筆者らは,中海・宍遺湖のメイオベントスとして代 表的な有孔虫が近年の環境変化のなかで,その群集 をいかに変化させてきたのか,そしてその変化が湖 の利用とどのように関連しているのか検討を進めて いる.これまで,宍道湖において1980年頃にA肋閉o肋 わθ㏄αr〃がHηゆ伽α8㎜0肋∫0伽αガθ〃∫加を置き換えて 優占種となり,大橋川でも同様の優占種の置換現象 が1974年頃に起こっていることを報告した(野村・ 吉川,1995;野村,1996;野村・遠藤,1998).この ようなA舳o〃α加㏄α肋の近年の産出状況は極めて特 徴的であり,宍道湖においてはCOD(化学的酸素要 求量)といった水質環境の変化に呼応して,その頻度 が高まっている。これは湖内生産型の有機物質の増 加を反映した現象と考え,これをアンモニア (λ閉閉0η1α)・イベントと称して注目しているところで ある.また,中海東部においても,湖底下5cm前後 において有孔虫群集の変化を認めている(野村・山 根,1996).この年代は堆積速度を加味した年代見積 もりによって1970-1980年にかけて起こっていること はすでに報告しているところである.しかし,湖底堆 積物中でのこのような有孔虫群集の変化を認めたの は,水深が塩分躍層より深い部分に相当し,躍層以浅 の群集変化については未検討であった。そのため,湖 内の環境の時空変化を理解するためには,分布域を さらに広げてA㎜㎜0加αイベントを追跡する必要が あった.今回,予察的に塩分躍層に相当する水深の群 1島根大学教育学部地学研究室 119

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LAGuNA(汽水域研究)6,119~122頁(1999年3月)

LAGUM6;p.119-122(1999)

湖水環境の人為的改造と底生有孔虫の群集変化

     塩分躍層に相当する水深でのハmm0楠イベントの確認

その6

野村律夫1・福田隆弘1

遜鋤鮒C笛⑪醐㎜孟囮臓e醐亙Ch鋤geS孟蛆鵬賊孟⑪舳⑪虹㎜盟蝸Ct孟嚇eSぼ賊6

     亙舳SC⑪Very⑪f t㎞e A醐醐0砺泣αeVe蛆t盟t血盟亙⑪C蛆蛆e姐e鯉th

醐ts囲o lN⑪正㎜胆r劉且紐皿d。丁劉k盆胞虹⑪亙胆k阻沮組1

Abst蝸cむBenth1c foramn1ferahave s1gn1f1cant1y changed the1rmam const1tuents1nthe1astthエee

decades,massoc1at1onw1thbrac㎞shenv皿onmenta1changesmtwoLakesShi呵1koandN北aum

TheA醐㎜o棚αevent,md1catmgarep1acementofprev1ous1ydeve1opedHoμop加α8榊o〃ωco〃αγ肥〃∫珊

with recent1y deve1opedA舳㎜o〃加わθcc〃〃,was d-iscovered at3.O-4.O cm sub-bottom depths of

sedmentcoresobt㎜edat30-45mwaterdepthsofLakeNakaum Thesewaterd.epths孤eco皿e1ated

w1th a ha1oc1me d-eve1oped m th1s1ake and are1mpo血ant to reconstruct the recent h1story ofthe

re1at1onships between the sha11ower and deeperpa耐s ofLalke Nakaum Thus,the d1scovery ofthe

A閉閉o棚αevent1nd1cates thatthe sed.1ment-watermterfacehas changednoton1y1nd.eeper肛ea,but

a1s01nsha11ower狐eamrecentye孤s

 Wesuggestthattherecent1ncreaseofA㎜㎜o棚α1nd1catesaprogress1ve1oadmgoforgamcma血er

m the sha11ower孤ea ofLake Nakaum

Keyw⑪r曲:A舳o棚αe▽ent,forammfera,ha1oc1me,LakeNakaum

は じ め に

 筆者らは,中海・宍遺湖のメイオベントスとして代

表的な有孔虫が近年の環境変化のなかで,その群集

をいかに変化させてきたのか,そしてその変化が湖

の利用とどのように関連しているのか検討を進めて

いる.これまで,宍道湖において1980年頃にA肋閉o肋

わθ㏄αr〃がHηゆ伽α8㎜0肋∫0伽αガθ〃∫加を置き換えて

優占種となり,大橋川でも同様の優占種の置換現象

が1974年頃に起こっていることを報告した(野村・

吉川,1995;野村,1996;野村・遠藤,1998).この

ようなA舳o〃α加㏄α肋の近年の産出状況は極めて特

徴的であり,宍道湖においてはCOD(化学的酸素要

求量)といった水質環境の変化に呼応して,その頻度

が高まっている。これは湖内生産型の有機物質の増

加を反映した現象と考え,これをアンモニア(λ閉閉0η1α)・イベントと称して注目しているところで

ある.また,中海東部においても,湖底下5cm前後

において有孔虫群集の変化を認めている(野村・山

根,1996).この年代は堆積速度を加味した年代見積

もりによって1970-1980年にかけて起こっていること

はすでに報告しているところである.しかし,湖底堆

積物中でのこのような有孔虫群集の変化を認めたの

は,水深が塩分躍層より深い部分に相当し,躍層以浅

の群集変化については未検討であった。そのため,湖

内の環境の時空変化を理解するためには,分布域を

さらに広げてA㎜㎜0加αイベントを追跡する必要が

あった.今回,予察的に塩分躍層に相当する水深の群

1島根大学教育学部地学研究室

119

120 野村律夫・福田隆弘

集を検討したところ,顕著なA.加㏄α〃の相対的増加

を認めることができた.これはλ㎜㎜0肋イベントに

対応する現象と考えられる.

柱状試料の採取地点と処理

 試料の採取は1998年11月12日に大海崎沖の3mか

ら4.5mにかけて4地点で実施した(図1).中海にお

ける塩分躍層は水深約3~4mにほぼ安定して存在す

ることが明らかにされているが(島根大学環境分析

化学研究室,1998;図2),試料採取時にも躍層の存

在を確認することができた.

 柱状の堆積物試料は湖底下1cmごとに切断し,250

メッシュ(74μm)の飾で水洗の後,残溢物について

生体を識別するためローズベンガルで染色した。多

くの試料は砂質であったため,最初に四塩化炭素に

よって有孔虫を浮選したのち,再度残溢物の中より

直接有孔虫を摘出した.今回の採泥では生体個体の

産出は極めて少なく,湖底下1-2cmでも1%以内であった.

有孔虫の産出結果および考察

 中海の有孔虫は,〃oo肋醐㎜加α肋〃とA.加㏄α〃

によって優占されているが,大橋川河口域から中海

西部にかけてはHηゆ伽α8棚o肋Mα〃αガθ〃8加が優占し

ていることが知られている(NomuraandSeto,1992)。

今回,採泥地点は中海西部に位置するため,H.

oα〃αrゴθ舳沁が認められるとともに,r肋6加やA.

加㏄α肋も含めて3種が基本的な群集を構成している.

 これら3種の湖底下5cm内での分布は図3に示すよ

うに,相対頻度が湖底下3から4cmにかけて大きく変

化している特徴が認められる.いずれの水深でもA.

加㏄α舳の相対的な割合が増加し,τ肋伽ゴやH.

○伽o加〃曲の急激な減少となって示される.躍層の下

部に相当する水深の群集は,湖底下4~5cmでA.

加㏄α肋と尻c伽α地η∫加やτ肋伽との差が20%以内

であったのに対して,特に水深の浅い地点ではA.

わθ㏄α肋によって占有される層準も認められる.また,

躍層最上部に相当する地点では,O~1cmの堆積物1

グラム当たりの全有孔虫数を1とした比較では3~

4cmで2倍を越える比率になり,大きな群集変化が起

こったことが認められる.しかし,他の地点では全有

孔虫数は僅かな増加傾向を示すものの,特異な変化

は認められなかった(図4)。

 以上のことから,躍層の境界付近の有孔虫群集は,

s㍉胃I

境港

餐薫、

・騒淡

 35.30’N

鱗欝

          に松江     燃

          (。色刷)1刷      1・’

35.26’N

図1.柱状試料の採取地点とその水深.括弧内は水

深を示している.

F1g1Locat1onsofsedmentcoresamp1es Waterdepths

1nd1cated m pa工entheses

        sa1m1ty (%・)

   5  10  15  20  25  30  35 0

1

2(亘吻 3遣駐

o4

6

 7

図21998年の塩分の垂直分布と塩分躍層の位置

データは宍道湖・中海水質月報(島根大学環境分析

化学研究室,1998)による.

F1g2Depthprofi1eofs州tymLakeNakau㎜Ongmaユ

data丘om㎞emonth1yrepo血sofwatercharactersmLakes

Shi㎎此oandNakaum1998

湖水環境の人為的改造と底生有孔虫の群集変化 121

一一雷一一A〃ZηZ0〃ゴαわθCCαrカ

→一肋ρ10ρ伽α8伽0肋8Cα〃α地〃∫加

一ロ… τrOCんα〃Z〃〃〃αゐαdαZ

O

(1冒

3遣2首岩冒3◎

自◎

ρ 4ρ箏

 5

6

ca.3.5m

P

P

ca.4.O

d

ca.4.Om

d

ca.4.5m

、←1コ

 0   25   50   75  100 0   20  40   60   80  0  20  40  60  80 100  0  20  40  60  80 100

          (%)         (%)         (%)         (%)

図3有孔虫遺骸の層位的な分布 矢印は,Ammomaイベントの起こっている深さを示している.

F1gl1tra晦ap㎞c11s血1ut1onoffor㎜fera1spec1es1neac1se11mentcore㎞owm11catmgt1eA㎜㎜o〃1αevent

全体として個体数の緩やかな増加傾向を示すが,躍

層の上部の地点のように個体数増加が著しく大きく

なる場合もある.相対的な割合からみると,バランス

のとれていた組成が3~4cmの問で急激な変化をお

越し,A.加㏄αγ〃によって占められる群集へと変化す

ることが明らかになった.

 肋醐o加α加㏄o〃による且oαηαrゴθ〃曲の相対量の置

換は,宍道湖や大橋川でも確認されており,塩分躍層

の発達の弱い環境においても共通して起こった環境

変化を反映しているものと認められる.いずれの地

点でもここ20~30年の間に有孔虫の変化に応じた塩

分の経年的な変化は認められないことから,他の環

境要因がこの変化に関係してることは明らかである.

我々は,各種の環境要因のなかで,堆積物中の炭素:

窒素の比が低くなっていることに注目している.こ

れには一方で有機物質の保存の問題が大きく影響す

るため,単純に有機物質の供給源の変化とは結びつ

けれない点もあるが,A.わθ㏄αr〃の層位的な分布とC/

Nのそれとはかなり調和のとれた分布形態をしている

ことはすでに指摘した(野村・遠藤,1998)。すなわ

ち,1970~1980年にかけて陸域起源の高等植物の供

給が減り,湖内で生産される動物植物プランクトン

の生産量が増加していることを示しているものと考

えている.Aわθ㏄αr〃は内湾~沿岸域で汎世界的に認

められる種で,新生有機物を捕食していることから

9遣芭岩冒

9ぢギ

{の

O

1

2

3

4

5

6

一一[←一cα.3.5m

一一令一一 cα.4.O工皿

一一c←一co.40m

一一企一一 cα.4.5r皿

  O  O.5  1  1,5  2  2.5

  Rat1os offoramm1fera1n㎜1ber

図4.最表層部(O-1cm)の堆積物1gに含まれる有

孔虫の総数を1として比較した有孔虫数の層位的な

分布.最も浅い地点で有孔虫数が増えている.

F1g4Stratigraphicdis血but1onofforan血血1era1mmbers

Eachfor皿mmfera1mmber1s sta皿dard1zed-tothemmber

of血euppemostse凸ment(O-1cm)Notedistmctmcrease

oftheforammfera1mmberatthe sha11owest1ocat1on

122 野村律夫・福田隆弘

推定すると,塩分躍層より浅い部分での有機物質の

沈降・付加がここ20~30年の間に促進され,A.

加㏄α・〃にとって食物を容易に摂取しやすい環境が形

成されつつあるものとみることができよう.塩分躍

層の下では,還元性の環境が維持されやすいことか

ら,有機物質の付加がさらなるフィードバック効果

を促進し,石灰質殻をもった種,すなわちAわθ㏄α閉

にとっては適応しにくい環境へと変貌しつつある.

中海中央部では膠着質のτ肋〃が優占する群集へと

変化しつつあるのと併せて,躍層相当水深でのA.

加㏄αr〃の増加は調和的な群集変化の様子を反映して

おり,極めて興味のある現象といえる.すなわち,A.

加㏄α〃の生態的な浅海部への移行は,躍層以深での

τ肋伽の分布拡大と連動した現象とみなすべきである.

 A榊㎜o肋わ6㏄α棚の躍層に相当する水深での増加

は,浅海域においても湖底泥がより腐泥化を示し始

めた現象の現われとみなされる。つまりA閉〃0肋イ

ベント以前において,躍層上部では酸化や動植物プ

ランクトンによる有機物およびその分解生成物の再

利用が効率的に行われてきたにもかかわらず,イベ

ント以後は生産性の増加と余剰の有機物質が多く沈

降するようになったことを反映しているものと考え

られる。この点について,さらにA.わθcco〃の湖内で

の有機物質の摂取の方法や嗜好性を評価にいれて考

察を進めたい.

引 用 文 献

野村律夫(1996)湖水環境の人為的改造と有孔虫の群

 集変化.その4 有孔虫の群集変化に対応した化学

 的酸素要求量(COD)と宍道湖水の変化.LAGUNA

 (汽水域研究),3:25-31.

野村律夫・遠藤公使(1998)湖水環境の人為的改造と

 有孔虫の群集変化.その5λ伽㎜o〃ゴαイベントの提

 唱と2005年の宍道湖.LAGUNA.(汽水域研究),5:

 15-25.

Nomura,R and Seto,K,1992Benth1c foramn1fera血om

 brachshLakeNaka皿oum,San-md1stnct,southwestem

 Honshu,Japan.In:Cθ〃θ〃αrツψ.1αρoηωθ〃オぴo一

 ρα1θo〃o1o8ツ,227-240,Te皿a Sci.Pub1.Co.,Tokyo.

野村律夫・山根幸夫(1996)湖水環境の人為的改造と

 有孔虫の群集変化.その3 中海東部の過去数10年

 の環境変化.LAGUNA(汽水域研究),3:13-24.

野村律夫・吉川恵吾(1995)湖水環境の人為的改造と

 有孔虫の群集変化.その2宍道湖の中央1測線の

 結果.島根大学教育学部紀要(白然科学編),29:

 31-43。

島根大学環境分析化学研究室(1998)宍遣湖・中海水

 質月報.