市場経済への移行における経済政策 ~総論~ - ESRI3...

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2001年3月 西村 可明 市場経済への移行における経済政策 ~総 論~

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2001年3月

西村 可明

市場経済への移行における経済政策

~総 論~

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- 目 次 -

は じ め に

第1章 市況経済化の政策

1-1 市場経済化………………………………………………………… 2 1-1-1 市場経済化とは何か、また、市場経済とは何か?…… 2 1-1-2 市場経済化に向けた政策課題は何か?………………… 3 1-1-3 移行政策の狙い目、移行政策によって実現されるべき 状況は何か?………………………………………………… 4

1-2 自由化とは何か?………………………………………………… 4 1-2-1 自由化の直接的意味……………………………………… 4 1-2-2 市場経済における自由とは何か?……………………… 5 1-3 私有化とは何か?………………………………………………… 6 1-3-1 私有化の意味は何か?…………………………………… 6 1-3-2 私有化のインセンティヴ………………………………… 7 1-3-3 私有化の方法……………………………………………… 8 1-3-4 所有構造の形成とコーポレート・ガバナンス………… 9 1-3-5 私有化の法的整備(株主の権利)……………………… 9 1-3-6 私有化とマクロ経済政策との整合性…………………… 10

第2章 経済的自立と経済発展

2-1 経済的自立………………………………………………………… 11 2-1-1 経済的自立とは何か?…………………………………… 11 2-1-2 移行国の国際収支………………………………………… 11 2-1-3 戦後日本の経験…………………………………………… 12 2-2 経済発展…………………………………………………………… 13 2-2-1 移行国の経済発展水準…………………………………… 13

第3章 経済政策の諸問題

3-1 マクロ経済政策の重要性………………………………………… 14

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3-2 マクロ政策と企業改革…………………………………………… 16 3-3 政策のミックス…………………………………………………… 17 3-4 政策のシークエンシング………………………………………… 18 3-5 産業政策…………………………………………………………… 18

む す び

[補論1]ロシア以外国における私有化の概観と教訓

1.チェコ…………………………………………………………………… 23 (1)クラウス急進主義政権の方針と企業経営者…………………… 23 (2)私有化の方法……………………………………………………… 23 (3)所有構造の形成とコーポレート・ガバナンス………………… 23 (4)投資ファンド規制の不備と証券市場…………………………… 24 (5)企業リストラの遅延……………………………………………… 24 2.ハンガリー……………………………………………………………… 24 (1)政府方針…………………………………………………………… 24 (2)私有化の方法……………………………………………………… 25 (3)所有構造の形成…………………………………………………… 25 (4)対外債務問題……………………………………………………… 25 3.ポーランド……………………………………………………………… 26 (1)移行期政権と労働組合(連帯運動と従業員評議会制)……… 26 (2)私有化の方法……………………………………………………… 26 (3)私有化の停滞と高い国有比重…………………………………… 26 4.ウズベキスタン………………………………………………………… 26 (1)政権のスタンス…………………………………………………… 26 (2)私有化の方法……………………………………………………… 27 (3)所有構造…………………………………………………………… 27 (4)国家の積極的役割と経済成長…………………………………… 27 5.カザフスタン…………………………………………………………… 28 (1)政権のスタンス…………………………………………………… 28 (2)私有化の方法……………………………………………………… 28 (3)マネジメント・アグリーメントの問題点……………………… 28 (4)第3段階ケースバイケース民営化の動向……………………… 29 6.教訓……………………………………………………………………… 29

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はじめに

市場経済への移行を目指す国の政府にとって、取り組まなければならない基本的課題が

少なくとも3点ある。第1は、市場経済化政策であり、移行国政府はこれまで取り組んで

きたし、また、引き続き取り組む必要のある課題である。第2は、経済的自立の課題であ

る。とくに新しく政治的独立を得た国においては、経済的にも自立することが必須の課題

となっている。第3に、経済発展の課題がある。大部分の移行国は、世界的に見て、低所

得国あるいは低位中所得国に止まっており、EU加盟を目指す中・東欧諸国の政府にとって

も重要である。ここでは、移行国の直面しているこれらの課題の観点から、ロシアをはじ

め旧ソ連・東欧諸国の経済政策の経験について、検討を加える。

市場経済化開始後、約10年が経った現在、旧ソ連・東欧諸国では、どこでも、市場経済

の制度と組織が誕生した。たとえば、私有制度、中央・商業銀行制度、証券市場制度、新

財政・税制度、会社制度、破産制度、自由貿易・通貨制度などを定めた市場経済の法制度

がおおよそ成立している。また、実に多数に昇る私企業が形成され、商業銀行、証券会社

なども生まれた。これは、明らかに、移行の努力の成果である。

しかしそれと同時に、一部の国では、市場経済にはあるまじき現象もまた見られる。た

とえば、「ロシア経済の七不思議」を挙げることが出来よう。イ)市場経済化の努力をし

ているのに、バータ取引が蔓延し、同一商品に多数の計算価格が成立してきた。ロ)何年に

もわたり赤字企業数が高水準に止まり、また返す当てのない、返ってくる見込みのない期限

超過債務が膨張してきたのに、連鎖倒産も起きず、企業破産は微々たる数に過ぎなかった。

ハ)工業生産高が半分以下に減少し、GDPが40%も落ち込んだのに、失業率は一桁台に止

まっている。ニ)ロシアは資本主義経済に移行しつつあるはずなのに、企業経営者は、利

潤最大化動機ではなく、旧態依然として雇用や生産高の維持を主目的として活動してきた。

企業は私的株式会社に転換されたはずなのに、企業経営者は自分個人の利害追求に走って、

システムとしての企業の経営が重視されない。ホ)住民のタンス預金は巨額に達するのに、

商業銀行への預金は少なく、商業銀行は貯蓄と投資を仲介できない。ヘ)バウチャー私有

化を強行して、何千万人という株主と証券市場を創出したのに、株式の取引額はほんの僅

かである。ト)大統領と議会が選挙で選ばれ、政府が成立しているのに、政府は税金をきち

んと集められない。こうした市場経済とは整合的でない現象が頻繁に観察されるのである。

本章の課題は、こうした市場経済化の到達点と問題点を詳しく検討することではない。

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本章の目的は、移行国の経済政策の基本課題に立ち返って、こうした事態の背景にある政

策問題を紹介することにある。

第1章 市場経済化の政策

市場経済への移行を追求している国々の政府が取り組んできた、また、引き続き取り組

むべき課題の一つは、言うまでもなく、市場経済へ移行するための政策である。だが、こ

の市場経済化とは何か、その正しい理解とは何かが、現在も問われている。

1-1 市場経済化

1-1-1 市場経済化とは何か、また、市場経済とは何か?

ここでいう市場経済化とは、社会主義計画経済から市場経済への移行のことであり、市

場経済とは市場が生産と消費、あるいは需要と供給の主要な調整メカニズムとして機能す

るような経済に他ならない。価格メカニズムと自由な資本移動のメカニズムがその中核を

なす。

この様な市場経済が成立するためには、少なくとも次の諸条件が必要となる。

a.社会的分業の発達

移行国の場合、近代的工業が発達しており、社会的分業は成立している。そこには高度

に独占化が進んだ産業組織の存在や中小企業の未発達など、市場経済の観点から見て歪曲

された状況が存在するが、社会的分業自体は成立していたと言える。

b.経済主体による分権的意思決定

市場における様々な取引は、経済主体間の合意という特殊な分権的意思決定から成り立

っており、従って企業、家計など経済主体の経済的意思決定権が保証されなければならな

い。しかもその意思決定の分野は、単に商品やサービスの取引だけでなく、資本に関する

取引も含まれる。従って、その様な個別経済主体の自由な意思決定を保証するためには、

基本的には、私的所有権の確立が不可欠である。また、情報の公開とその自由な流れが必

要になる。所有権や契約遵守の制度が市場経済の基礎となる。

c.自由競争

市場が生産と消費の調整機能を果たすためには、自由競争が必要であり、また参入の自

由の保証がなければならない。

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d.市場経済の円滑な機能を確保するための政府が必要となる。それは、市場における「ゲ

ームのルール」の制定と遵守を保証する「夜警国家」としての機能以外に、現代社会にお

いて求められるその他の機能、例えば「市場の失敗」を補う機能や、社会保障の確立の機

能も果たさなければならないし、さらには開発促進の機能が重要になる場合もある。また、

これらの機能に適した税制が求められる。

1-1-2 市場経済化に向けた政策課題は何か?

社会主義計画経済は、中央政府に経済的意思決定権が相当程度集中し、他の経済主体に

対して、計画実現に向けて指令を与えたり、誘導を行って、経済運営を行うものであった。

そのために、所有は国家的所有が支配的となり、企業は企業経営の基本問題に関する意思

決定権を奪われ、自由な取引や自由競争は排除されるのが通常であった。資本市場は排除

され、企業経営は国家財政と連結させられていた。また、金融制度は国家財政の補完的制

度に止まった。この様な状況から市場経済へ移行するためには、次の諸点が必須課題とな

る。

a.国有企業の私有化

b.内外取引の自由化、通貨の交換性の導入、自由競争の確立

c.中央銀行と商業銀行から成り立つ銀行セクターの確立

d.証券市場の成立

e.市場経済に立脚した国家財政制度や税制の確立

f.破産法、会社法など、その他市場経済が機能するための諸制度の整備

しかし、これらの市場の制度と組織の構築には、その制度を構成し、それに基づいて、

また、市場組織の目的に従って活動することの出来る人的資源が形成されなければならな

い。社会主義計画経済の下で長期間生活してきた人々は、市場経済についての経験・知識・

ノウハウをもっておらず、市場経済への移行は、そうした未知で未経験の世界への跳躍に

他ならない。とくにロシアのように60年にもわたって集権的計画経済を維持してきた国の

場合、この傾向が強い。それ故、移行期、とくにその初期段階においては、市場経済に相

応しい人材育成が必須の課題となるのである。各国政府は、自国の人々を市場経済の担い

手、アクターとして育成する努力を通じて、市場経済の制度作り、組織形成を促進しなけ

ればならない。これを要約すると、次のようにまとめることが出来る。

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g.市場経済に相応しい人材の育成

1-1-3 移行政策の狙い目、移行政策によって実現されるべき状況は何か?

上記の課題は、それぞれ個別に実現されなければならないが、同時に、移行国政府は、

全体として、市場経済化しつつある経済が機能するようにする必要がある。そのためには、

新しい社会は旧社会の遺産を素材としてしか建設しようがないし、そして移行期といえど

も社会は存続していかなければならないのだから、既存の大部分の企業の経営活動の存続

を確保しつつ、これを大前提として、移行政策を行う必要があるのである。すなわち、国

内の既存の大多数の企業が利潤獲得を目指して、日常的に自由競争を行うことのできる条

件と、その企業環境を確保しなけければならない。

1-2 自由化とは何か?

市場経済化政策の中で、自由化は重大な課題の一つであり、移行国政府によっても、IMF

や世界銀行によっても、その必要性が強調されている。それにもかかわらず、この課題は

あまり正確な理解が行われていない。自由化とは何か、改めて述べる所以である。

1-2-1 自由化の直接的意味

自由化の分野として重要なのは、第1に国内取引である。その自由化は、従来、行政的

に決定されていたり制限されていた売り手と買い手の選択の規制を除去し、それぞれによ

る自由な選択に委ねることを意味する。また、自由取引の対象を抜本的に拡大することで

もある。第2の分野は価格である。社会主義のもとでは、固定価格・制限価格などのよう

に、政府が価格を決定あるいは制限していたが、価格自由化はこの様な価格規制を除去す

ることを意味する。第3に、対外取引の自由化がある。かつては、旧ソ連において典型的

に見られるように、外国貿易は国家独占とされ、専門国家機関がこれに排他的に従事する

ことが多かった。ハンガリーのように、国家規制が緩やかで、生産企業が直接外国貿易に

も参加できる場合もあったが、外国貿易に対する国家規制が廃止されたわけではなかった。

対外取引の自由化は、何よりもまず、個人や企業による外国貿易に対する規制の抜本的な

緩和や除去を意味する。また、そうした自由な外国貿易が行われるためには、通貨の国内

的交換性の導入が不可欠である。さらに市場主体の資本取引に対する禁止も除去されなけ

ればならない。第4に、従ってまた、企業の生産や投資や所得分配に対する政府の規制の

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排除でもある。

従って、自由化は、直接的には、社会主義の下で支配的であった企業経営に対する規制

の除去・廃止を意味する。そしてその直接の帰結は、企業などの市場主体に対して、経営

問題に関する意思決定権が与えられることである。

1-2-2 市場経済における自由とは何か?

しかし、意思決定権を持つということと、実際に意思決定できるということとは、全く

別問題である。市場主体が意思決定権を持っていても、合理的な意思決定を行う能力を色々

な意味で持っていないということは、頻繁に生じる。その場合には、市場の主体は決して

自由ではない。従って、規制廃止は自由化の必要条件ではあっても、その十分条件ではな

いのである。従ってまた、企業の経営者が、市場経済の観点から、合理的意思決定を行い

うる条件を整備しなければならないのである。これには少なくとも次の2つの条件が考慮

されなければならない。

第1は、主体的条件である。仮に市場主体が、自己の経営問題に関する意思決定権を持

っていても、それが市場情報、資金や資産、判断能力を持っていなかったならば意思決定

はできないし、市場主体にとって経営活動に自由はないであろう。資金がなければ投資の

自由はないのである。市場情報や判断能力を持っていない市場主体には、経営の自由は存

在しないであろう。この様に普通いわれている自由化とは、経営に対する規制からの自由

を実現するものであっても、実際の経営活動への自由を実現するものではない。とくに長

期間にわたってソ連型の集権的計画経済を維持し、市場を大幅に排除してきた国の場合、

取引に必要な経済情報は中央計画管理機関に集中され、また、企業管理者に市場を前提に

して経営判断を行う能力も欠如していた。さらに多くの移行国においては、投資資金の不

足が顕著であった。このような条件の下では、単に規制を廃止すれば自由化が進むという

のは全くの錯覚である。規制の除去と併せて、このような主体的条件の形成を促進する政

府の意図的・政策的努力が必要不可欠なのである。

第2に、客観的条件も必要である。その一つは、競争的産業組織に他ならない。もしあ

る産業分野に生産者が一つしかないなら、買い手は生産者の意向を押しつけられても、拒

否できないであろう。いわゆる独占的・寡占的産業組織がある場合、とくにロシアにおい

ては、概括的な産業分類ではなく、より具体的な製品種類別に見ると、独占的・寡占的産

業組織が支配的であり、さらには輸送距離が大きくそのコストが著しく高いため、地域的

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独占状況も形成されているから、消費者の側から見ると自由な選択が成立しにくい。この

ような場合、独占的企業に対する政府の規制が必要になる。まさに自由化のために規制が

必要になるのである。

もう一つは、競争力の条件である。たとえば、小学1年生の男子と成年男子が100メート

ル徒競走をしたとしよう。このようなことは、子供に走る喜びを教え、子供の体を鍛えよ

うとする父親がよくやることである。しかし、かわいそうな1年生は、すぐに敗北が分か

って、走るインセンティヴも失ってしまうであろう。このような場合、たとえば、男の子

はゴールから40メ-トル手前をスタート地点とし、成年男子は100メートルを全部走るとす

ると、両者の間に競争が成り立ち得るであろう。このように、ある種の調整が必要になる

であろう。市場主体の間に極端な競争力格差がある場合も同様であって、弱者の側は経営

に関する意思決定権を持っていても、意思実現の可能性が欠如し、事実上自由は持たない

ことになる。それ故、このような弱者が多数に昇る場合、政府による調整が必要になるの

である。

ここでも、客観的条件次第では、自由化自体が政府による介入を求めるものであること

が示されている。この点は、後に述べるように、ロシアの近年の経験が良い例を提供して

いるといえる。

このように、市場経済化における自由化とは、単に規制を除去したり緩和したりするだ

けでなく、経済主体が合理的な意思決定を行いうるための主体的ならびに客観的条件を整

備することでもあるのである。この点は、自由化推進論者が看過しがちな重要問題である。

1-3 私有化とは何か?

上述の通り、当該国の企業の大部分が国有企業となっているようでは、市場経済の円滑

な機能は期待できない。市場経済への移行に際して、私有化は政府の直面する基本的課題

とならざるを得ないのである。しかしその場合も、私有化の目標は、既存の大多数の企業

が私的利潤の獲得を目指して、自由に競争することのできる条件と、その企業環境を確保

する点にあることを看過すべきではない。

1-3-1 私有化の意味は何か?

私有化は、言うまでもなく、国有企業を私的所有に転換することである。それは直接的

には、法律上の変更であり、政府にその意思があり、また社会的同意が得られれば、実行

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可能である。しかしながら、これは私有化の端緒にすぎない。なぜなら、新たに企業の所

有者になった人々が、私的所有者として経営することが可能であるかどうかという別の問

題があるからである。経済的に見て、私有化におけるより本質的な問題はこの点にある。

私有化された企業は、合理的に経営する能力とインセンティヴを持つ人を必要とするとい

う点が看過されてはならない。従って、経営者のやる気を奪わない経営環境の整備と、私

有化後の企業の経営活動を規定する会社法などの法律の整備と、そして市場経済でのアク

ターとしての人材育成が私有化の重要課題となる。言うまでもなく人々は日常生活の中か

ら学ぶことができるし、その意義はきわめて大きいが、日々の体験を経営能力まで昇華さ

せるには、私有化企業の経営者の研修も必要になる。

1-3-2 私有化のインセンティヴ

まず、法律的私有化の面に注目すると、当該国の政治指導部や国家官僚が経済権力の喪

失を恐れるところから、私有化に積極性を持たない場合がある。他方、私有化は社会主義

時代の権力構造にメスを入れることでもあり、過去の既得権益構造が強い場合、とくに旧

ソ連のように長期にわたる計画経済の下で形成されてきた強固な既得権益構造が存在する

場合、市場経済化の推進に対する抵抗を克服する上で、私有化の政治的意義はきわめて大

きいものとなる。市場経済化を推進しようとしたエリツィン・ガイダール政権は、社会主

義体制に既得権益を持つ人々の中で、いわば大海の孤島のような存在であったから、国有

制度と国家管理機構に既得権益を持つ人々の抵抗を排除することは至上命令であったろう

し、そのためには私有化を急ぐ必要があったというのも一理あることである。新しい私的

所有者層を作り出して、政治指導部に対する社会的支持を獲得する必要もあった。しかし、

政治的に見て意味あることが、経済的に見て合理的とは限らない。この点は、1991年当時

の、ロシアにおける体制転換の社会的政治的準備状況の中で理解しなければならない問題

である。

もし、政治指導部自体に私有化への躊躇があるならば、それは後に述べるように、グロ

ーバル化する現代世界で、移行国の経済が自立でき、首尾良く発展できるために、私有化

が不可欠であることを認識しなければならないであろう。1980年代のハンガリー社会主義

労働者党のように、対外累積債務問題を抱え抜本的改革が必須の情勢にあり、自ら体制転

換への道を切り開くことのできた政党もあることを、想起すべきである。

また、国有企業の管理者が、自己の地位の喪失を恐れて私有化に抵抗したり、さらには

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社会諸集団の利害が絡んで私有化の進捗が停滞したりすることがある。換言すると、企業

管理者たちの私有化へのモチベーションの問題がとくに重要なのである。この点を誤ると、

私有化後の企業統治に悪影響が出てくるため、合理的な私有化インセンティヴの構築に努

力しなければならない。

1-3-3 私有化の方法

旧ソ連・東欧における移行国のいずれを見ても、100%有償方式の国とか、100%無償方

式の国とか、極端なケースは存在しない。現実は、国有財産の売却つまり標準的方法と、

バウチャー・クーポン方式を使った無償方式の組み合わせとなっている。しかしどちらが

主要であるかという相違はきわめて重要であり、その結果形成される私有制度と企業経営

に大きな影響を及ぼす。ハンガリーは有償方式を主とした国であり、ロシアやチェコは無

償方式を主とした国の典型例である。また、国内資本の不足の下で私有化を急ぐと、無償

方式が支配的になったり、私有化の対外開放と外国資金への依存が生じる。また、無償方

式による私有化は、資金調達に繋がらないから、企業リストラの停滞を生みがちである。

ロシアにおいては、いわゆるバウチャー(私有化小切手)方式が採用され、額面1万ル

ーブルの小切手が全市民に無償提供され、これを用いたオークションを通じて、私有化が

推進されることになった。その際、企業管理者の私有化に対する抵抗を排除するために、

企業従業員の優遇措置が導入された。とくにその第一バリアントと第二バリアントが大き

な役割を果した。前者は、企業従業員に記名優先株を定款資本の25%まで無償提供し、ま

た、その10%以内で額面価格の30%割引で3カ年以内の分割払いを認め、さらに管理部職

員に対して、全体で定款資本の5%までを購入する権利を認め、合計40%までインサイダ

ーが取得できるというものである。後者は、従業員に定款資本の51%までの普通株の優先

的購入権を認めるというものである。バウチャー私有化の段階で、約75%の企業が第二バ

リアントを選択し、両バリアントだけで、私有化企業の大部分に達した。その上、私有化

小切手から、それを買い集め、さらに企業管理者が合法・違法のあるゆるツールを使って、

自分の企業の株式を自己の下に集積し、外部支配の排除に全力を尽くしたのである。たと

えば、企業経営陣が企業資金を用いて自らの投資ファンドを設立して、小切手を買い集め、

これに自己企業の株を売るなど、ロシアの場合、株式の外部所有がどこまで真に外部所有

であるのか分からない場合が多く形成された。このようにインサイダーによる所有と支配

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の頑固な追求が特徴的であった。

その結果、ロシアで形成された個々の企業の所有構造は、インサイダー所有と国有との

結合体であり、疑似私企業の誕生であった。旧ソ連構成共和国において、無償方式と従業

員優遇措置とを併用した国においては、当初はほぼ同様の傾向が観察される。ロシア政府

は、残存株式の株主としての地位を利用して、企業を監督する政策を持たなかったから、

企業経営における国家の役割はゼロに近かった。

また、この様な私有化は、当該企業従業員による、つまり一部市民による国有資産の「囲

い込み」であって、とくに資源関連産業における企業従業員は巨額の価値の資産を取得し

たことになる。これに対して、国家機関勤務者、年金生活者、衰退産業企業従業員などは、

喪失者となった。ロシアの私有化方式は、巨大な資産格差を作り出したのである。

1-3-4 所有構造の形成とコーポレート・ガバナンス

ロシアの場合、このような私有化の結果として、コーポレート・ガバナンスの喪失が特

徴的であった。政府は既述の通り、株主の権限を行使する意思を持たなかったし、インサ

イダー支配が圧倒的であった上に、企業管理者が様々な手段で、外部株主の経営への影響

力行使を排除したから、外部株主がモニタリングを行う事も不可能であった。また、経済

危機と企業経営の限界的状況の中で、過剰雇用を抱え、解雇の脅威が蔓延する状況では、

企業従業員株主によるモニタリングも形骸化された。したがって、事実上、企業のコーポ

レート・ガバナンスは失われ、企業経営者は「独裁者」となり、彼らによる違法行為の氾

濫が生じた。彼らは、企業資産の良い部分を自分の家族が作った私企業に安く売却したり、

企業資金を内外の個人の口座に振り込んだりするなど、システムとしての企業の利益では

なく、経営者個人の利益を追求するようになったため、ロシア経済は私有化の結果、法人

経済ではなく「自然人経済」(Kleiner)が生まれたと皮肉られるようになった程である。多く

の市民にとって株式所有の意義が失われ、巨大な資産格差が生じたことは、市民の間に、

私的所有の正当性への疑問を生み、私有制度自体の不安定性をもたらしている。

1-3-5 私有化の法的整備(株主の権利)

また、私有化自体の法的整備と、私有化の結果成立する私企業の活動を律する法律の整

備の善し悪しで、私有化の結果に相当な差異が生じる。株主の権利や、企業経営者の法的

地位や、破産の法的扱いなど、重要な問題が多数ある。法制度の整備が私有化に立ち遅れ

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ると、ロシアにおけるように、外部株主の権利を無視した暴挙が蔓延することになる。

1-3-6 私有化とマクロ経済政策との整合性

企業経営を取り巻くマクロ経済環境は、私有化の方式の相違や、その法的整備以上に、

私有化の結果に影響を及ぼすと見ることが出来るかもしれない。私有化しても、インフレ

対策としての粗野な引締め政策によって、企業運転資金の欠乏状況を作り出し、膨大な数

の企業を事実上破産状況に追い込んでしまうと、企業の株式は価値を失い、企業経営者は

システムとしての企業の経営に対する関心を失い、自己の個人的利害の追求に走ることに

なる。ロシアにおける「自然人経済」の成立は、そうしたマクロ経済政策の結果であると

見ることも出来る。

また、輸入自由化を不用意に徹底化すると、ロシアにおける繊維産業などのように、国

際競争力のない産業分野が殆ど消滅してしまう程に生産が落ち込み、多数の企業が倒産状

態に陥ってしまう。そうした場合、インサイダー支配を行う企業経営者にとって、企業を

所有していることの意味が失われてしまうし、外部の所有者にとっても株式所有が無意味

になる。また、国際競争力のある産業分野とそうでない産業分野との間で、たとえば、ロ

シアにおける石油・天然ガスなど天然資源関連産業と、軽工業・機械工業などとの間で、

人々の資産格差が絶大となり、多数の人々が私有化結果に対する不公平感を持つことにな

る。私的所有は、ある人の所有を他の人が正当と見なすことを前提とするものであるから、

社会的承認が揺らぐと、私的所有制度自体が不安定になる。ロシアで天然資源関連分野の

再私有化が執拗に提起されるのはその例の一つと見ることが出来る。さらに、当初私有化

の目的として、中産階級の形成や私企業家の形成が掲げられたが、その実現には成功しな

かった。

このように私有化に際しては、私有化だけを追求しても、その意義は半減してしまうこ

とがあり、また、場合によっては、目指す私有制度自体が歪曲されてしまう恐れもある。

従って、私有化とマクロ経済政策との整合性に注意が向けられなければならないのである。

繰り返しとなるが、国内の既存の大多数の企業が利潤獲得を目指して、自由な競争を行う

ことのできる条件と、その企業環境を確保することが、基本的政策目標とならなければな

らないのである。この点は、移行開始後約10年が経った最近の段階においても、政策当局

が常に念頭に置かなければならない重要事である。

(私有化と産業近代化の関連などロシア以外の国の経験の概観とその教訓については、補

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11

論を参照。)

第2章 経済的自立と経済発展

市場経済への移行とは、国際的に見ると、移行国経済の世界市場への組み入れを意味す

る。旧ソ連・東欧諸国は、技術水準や経済発展水準がかなり低いにもかかわらず、コメコ

ンという閉鎖的な独自市場を失い、世界市場において、世界の企業との競争を強いられる

ようになった。その結果、移行国の経済が国際的に見て自立出来るか否かが、あらためて

問われている。とくに旧ソ連構成国、チェコやスロバキア、旧ユーゴスラビア構成国は、

連邦の崩壊に伴い政治的に独立することになったため、経済的自立の課題にも新たに直面

することになった。

2-1 経済的自立

2-1-1 経済的自立とは何か?

経済的自立とは、ある国の、他国や国際組織との関係が、商業的基礎の上に安定的に維

持されることであり、換言すれば、それは一国の経済運営が、基本的に外部からの経済援

助に依存せずに行われることに他ならない。そのために必要なことは、国際収支が安定的

に均衡し、債務不履行など商業原則に反する事態が回避出来ることである。具体的にいえ

ば、その国の産業の国際競争力が強く、必要な輸入に見合う輸出が出来ることである。ま

た、一国の経済的自立は、国内の産業や企業の自立によって支えられるものであり、企業

の努力によるところが大きい。

2-1-2 移行国の国際収支

移行国の貿易収支と経常収支を概観すると(付表参照)、ロシアやトルクメニスタンな

ど資源産出国を除く大部分の移行国において、貿易収支と経常収支の赤字が続き、毎年の

外国直接投資の流入ではこれを補うことが出来ず、累積債務が増加する傾向が観察される。

その際、累積債務の構成が変化し、政府債務が減少し、民間債務が増加するなど注目すべ

き変化も見られる。こうした対外累積債務の増加は、直ちに移行国がデフォルトに陥るこ

とを意味するものではないが、しかし経常収支や貿易収支の均衡化の目処がまだ立ってい

ないことも確かである。換言すれば、大部分の移行国において、経済的自立の見通しは、

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まだ不透明なのである。

2-1-3 戦後日本の経験

歴史は繰り返されるというが、第2次世界大戦後、植民地からの独立国や敗戦国は、経

済的自立の課題に直面した。日本も、資源小国である上に、分割された市場を喪失し、そ

の上経済は戦争によって疲弊しているという困難な条件の下で経済発展を追求し、それと

同時に、戦時統制経済から自由市場経済への移行を行うという二重の課題に直面した。そ

の際、アメリカの援助を受けない自立した経済を建設することが、基本的政策課題となっ

た。このことは、戦後の政府経済計画を概観すると明らかになる。以下では、それを国際

関係の目標に焦点を当て、簡単に紹介しよう(出所:小浜裕久・渡辺真知子『戦後日本経

済の50年』日本評論社1996年135ページの表より抜粋)。

イ)「経済自立5カ年計画」(1955年12月):貿易自由化の趨勢の中での輸出競争力の強化

ロ)「新長期経済計画」(1957年12月):貿易立国の精神の下での輸出増進

ハ)「国民所得倍増計画」(1960年12月):低開発国への経済協力、輸入自由化計画の推進

ニ)「中期経済計画」(1965年1月):国際的地位の向上と開放体制への移行、輸出拡大・

輸入自由化、経常収支の均衡

ホ)「経済社会発展計画」(1967年3月):資本取引の自由化

ヘ)「新経済社会発展計画」(1970年5月):国際経済社会への貢献、貿易・資本自由化の

積極的推進

ト)「経済社会基本計画」(1973年2月):黒字基調の定着下での国際協調、GNP1%の援

助、基礎収支の均衡

このように、戦後日本政府は、経済的自立を目指して、1960年代半ばまで、国際競争力

の強化と輸出拡大に努力していたことが分かる。そこで行われた諸政策、たとえば長期に

わたった輸入制限など保護主義的政策は、経済自由化が国際的に進展した今日、そのまま

移行国に適用できるか否か、慎重な検討が必要であろう。しかし、多くの移行国において、

積極的輸出促進政策が必要不可欠であることは間違いなく、この面では日本の多くの経験

が参考となりうる。

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2-2 経済発展

20世紀の社会主義計画経済は、世界の後進地域で成立し、そこでの工業化に大きな役割

を果たして、キャッチアップに貢献した。しかしそれは、内発的な技術革新能力に欠如し、

技術革新軌道に乗れないまま、1970年代以降、世界の動向からの遅れが目立つようになっ

た。移行国は、1国も高所得経済の域に達していない。従ってそこでは、経済発展を意識

的に追求し、キャッチアップするという課題が再び提起されているのである。

2-2-1 移行国の経済発展水準

下記の表に見られるように、低所得国と低位中所得国が移行国の大部分を占める。同じ

1995年にEU諸国の人口1人当たりGNPは、ギリシャの8,210ドルからドイツの27,510ドルま

での間にあるから、移行国はギリシャに最も近いスロベニアを除き、EUの中で最も低いギ

リシャの半分以下の水準にある。中・東欧諸国はEU加盟を目指しており、経済発展を加速

化し、EU水準にキャッチアップする課題が提起されている。

第1表 移行国の1人当たりGNP(1995年) (USドル)

低所得国

ベトナム 240 中国 620

モンゴル 310 アルバニア 670

グルジア 440 キルギス 700

アゼルバイジャン 480 アルメニア 730

低位中所得国 上位中所得国

マケドニア 860

モルドバ 920

ウズベキスタン 970

ブルガリア 1330

カザフスタン 1330

ルーマニア 1480

ウクライナ 1630

クロアチア 3250

チェコ 3870

ハンガリー 4120

スロベニア 8200

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リトアニア 1900

ベラルーシ 2070

ロシア 2240

ラトビア 2270

ポーランド 2790

エストニア 2860

(出所)『世界開発報告1997年』pp.354~357.

こうした観点から見たとき、戦後日本の高度成長の経験は、示唆に富み、参考となるで

あろう。

第3章 経済政策の諸問題

以上から明らかなように、移行国政府の役割はきわめて大きい。それはまず第1に、企

業経営者の正しいインセンティヴを確保し、適正な競争条件と競争的環境を作らなければ

ならない。そして第2に、国際競争力を強化し、経済成長を加速化することが求められて

いる。さらに第3に、人々を市場経済のアクターとして育成する必要がある。移行国の経

済政策を概観すると、これらが首尾一貫して追求されているとは必ずしもいえないのが現

状である。ここでは、とくに第1の点に焦点を当てつつ、経済政策のあり方について述べ

ることにする。

3-1 マクロ経済政策の重要性

周知の通り、1998年のロシアにおける金融パニックは、きわめて逆説的であるが、その

後の経済成長の条件を作り出した。それに伴うルーブルの実質1/2の切り下げが、輸入

品の価格上昇をもたらし、国内製品の国内市場における外国製品との競争力を強化し、輸

入代替生産を活性化させたからである。その結果、第2表にあるように、国内小売り販売

高に占める輸入品の割合は劇的に減少した。

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第2表 対ドルレート・輸出入額・小売り販売高に占める輸入品の割合

1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年

1$当たりルーブル

消費者物価上昇率(%)

実質レート(対前年比・倍)

輸出(億$)

輸入(億$)

小売販売高に占める輸入品(%)

0.169 0.415 1.247 3.550 4.640 5.570 5.974 20.65 27.00

161 2506 840 204 129 22 11 84.4 36.5

- 10.6 3.1 1.1 1.7 1.0 1.0 0.5 1.04

536 597 675 811 886 883 742 743

430 443 505 610 688 736 589 411

14 23 29 48 54 52 49 48 27

(注)レートはデノミ後の新ルーブルに統一されている。小売り販売高に占める輸入品

の割合は1999年の場合第3四半期。出所はロシア中央統計局出版物。

また、ルーブルの切り下げは輸出促進・輸出売上増加の効果を持ったこと、さらにイン

フレに伴う実質賃金の大幅減少が企業の生産コストを引き下げたことも、ロシア企業の財

務改善に繋がった。さらにこれが企業の投資を活性化させたことは、ロシア企業の国内向

け投資財生産を刺激したのである。このような改善は、ロシア政府の意図したものでは決

してなく、外部要因を契機とするものであったが、同時に、経済実績の改善におけるマク

ロ政策の重要性を示唆するものである。またそれは、1992年以来の徹底した輸入「自由化」

と1995年以降のその不徹底な軌道修正が、ロシア経済に及ぼした否定的影響を明らかにす

るものである。

もう一つ、この景気回復過程で看過できない点は、ロシア中銀の政策スタンスの変化で

ある。1998年の金融危機以降、ロシアは再びインフレ対策が当面の課題となったが、その

際金融危機後の流動性不足を緩和しつつ、インフレを抑制する努力が行われた。この点は、

ゲラシェンコロシア中銀総裁が掲げた「1999年における新通貨・信用政策への移行」の中

に示されており、そこではインフレ抑制のための通貨供給制限が生産の活性化を阻害しな

い、バランスのとれた政策への移行が強調されている。このようなロシア中銀のスタンス

は、たとえばハンガリー国立銀行がすでに1990年当時維持していた金融政策路線に近い。

当時ハンガリー中銀は、経済の機能に必要な通貨量の保証と、企業・住民にとって耐え得

る程度の通貨圧縮によるインフレの抑制という政策を掲げ、一面的で粗野な通貨引締め政

策は採用しなかった。こうしたバランスのとれた実体経済重視の通貨・信用政策は、期限

超過債務や赤字を抱える企業の数が過剰に増加することを抑制し、破産法(1991年に新破

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産法制定)の施行を実行可能なものにすることが出来たと言える。ロシアの場合、粗野な

通貨供給圧縮政策への決別が、あまりにも遅かったといえよう。

ロシア経済のめざましい回復の状況は、次の表に示される通りであるが、特筆されるべ

きは、1992年以来一貫して低下してきた基本投資が、1999年以降回復し、とくに2000年に

は大幅な成長を示したことである。このように、ミクロの構造的諸問題、たとえば企業の

所有構造の不透明性、商業銀行の機能不全などが実質的改善を見ない内に、経済成長が再

開されたことは、マクロ経済条件、この場合為替レートや貿易条件、さらには中央銀行の

通貨・信用政策が、経済動向にいかに大きな影響を及ぼすかを示すものである。換言すれ

ば、現実にある大多数の企業が日常的に利潤を求めて競争することが出来るノーマルな経

済環境の設定こそが、マクロ経済政策の目標とならなければならないのである。

第3表 ロシアの近年の動向

1997年 1998年 1999年 2000年(推計) 2001年(予測)

GDP

工業生産

投資

住民実質可処分所得

小売り販売高

インフレ率

貿易収支 (億$)

+0.9 -4.6 +3.2 +7.7 +4

+2 -5 +8.1 +9.0 +4.5

-5 -7 +1.1 +17.4 +7.1

+5.8 -18.1 -15.8 +9.1 +5

+4 -4 -7.7 +8.9 +5

10 80 36.5 20.2 12

+147 +152 +333 +610 +400

(注)1997~99年はロシア中央統計局資料による。2000年、2001年はロシア経済省見解。

3-2 マクロ政策と企業改革

ロシア経済における赤字企業・期限超過債務・バータ取引の蔓延、「自然人経済」と呼

ばれるような企業統治における無責任など、企業および企業経営者の行動の問題点は、私

有化方法の欠陥、法整備の遅れ、企業改革の不徹底などに由来し、ロシア経済のマクロ実

績の悪化を説明する要因として位置づけられることが多かった。確かにこのような側面の

あることは事実であるが、しかし同時に、マクロ経済政策による企業経営環境の悪化が、

そうした行動を生み出しているという側面の存在することも、1998年後半以降のロシア経

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済の回復は示しているといえる。市場経済が機能するためには、利潤の獲得や富の私的獲

得などのポジティヴなインセンティヴと、企業破産などのネガティヴなインセンティヴと

の両者が必要であるが、マクロ政策が粗雑で、あまりにも多数の企業を破産状態に陥れる

と、かえって破産の実施が不可能になり、ネガティヴ・インセンティヴが作用しなくなり、

経営が乱脈になるなど、その否定的影響はきわめて大きいことも看過できない。

3-3 政策のミックス

市場経済化の過程で、社会主義時代の様々な規制を廃止したり、緩和しなければならな

いことは、すでに述べたとおりである。しかし、その際言及したように、自由化自体が適

切な政府規制をも要求するのである。

たとえばハンガリーでは、価格自由化が第4表の通り推進された。ここから明らかなよ

うに、消費財取引高に占める自由価格の割合を1987年の41%から1990年の77%まで引き上

げるのに3年間をかけ、しかも独占・寡占対策として、価格の届け出制や協議制を維持し、

また、大量消費の原料や材料に関しては世界市場価格への準拠という規則が適用された。

この様なアプローチの基本的考えは、インフレやその他の混乱のマイナス面が市場価格シ

ステムのメリットを上回ることを避けるためには、全体的な自由市場価格システムの導入

は漸進的にならざるを得ないという点にあった。ここでは、段階的価格自由化と行政的方

法の活用という方式が適用されており、両者の組み合わせが見られるのである。

第4表 ハンガリー消費財価格自由化率 (%)

1980年 1987年 1988年 1989年 1990年

行政的介入

公的価格

報告義務

価格協議

自由価格

インフレ

60 59 48 38 23

45 38 22 19 16

15 21 21 12 6

- - 5 7 1

40 41 52 62 77

- 8.6 11.5 17.0 28.9

(注)販売高に占めるそれぞれの価格の割合.

また、貿易の自由化も漸進的に行われた。輸入ライセンスと割当の適用されない輸入は、

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1989年に輸入総額の40%に止まったが、それは1990年には65%、1991年に90%、1995年に

95%まで引き上げられた。また、ハンガリーは1993年に中欧自由貿易協定を締結し、GATT

およびWTOメンバーであるが、1995年3月には、貿易収支悪化の下で8%の輸入課徴金を

導入した。このように、貿易自由化も、同時に政府規制を伴いつつ実施されている。すで

に述べたように、国内企業と外国企業との間に、競争力の大きな格差がある場合、慎重を

欠く輸入自由化は国内企業から経営の自由を事実上奪い、真の自由化には繋がらないこと

を等閑視すべきではない。

3-4 政策のシークエンシング

1991年から1992年にかけてのロシアのように、一方で過剰流動性があり、他方で独占的

産業組織が支配しているときに、価格自由化を最初に一挙に行うことには無理があった。

当時、一部のエコノミストが主張したように、国有財産の売却を先行させ、過剰流動性を

吸収することから始めるべきであったという考え方には合理性がある。価格自由化をしな

ければ資産価値をはじめ商品の価値が分からないという議論にも一理あるが、歪曲された

市場構造の下で価格自由化しても、合理的価格が形成される保証は何もないのである。価

格体系の形成自体を一つのプロセスとして、段階的に進めるべきなのである。また、独占

対策を強化した上で、価格自由化を進めるという考えも十分成り立つであろう。

さらにロシアのように、私有化後の企業の経営を律する法律を十分整備をしないで、私

有化を先行させることにも無理があった。また、国内産業の競争力強化のための対策をと

らないで、貿易自由化を先行させることにも問題があった。

これらの例は、市場経済化の過程において、政策の順序づけがきわめて重要な問題であ

ることを示しているのである。

3-5 産業政策

移行国の多くは、経済発展の政府プログラムを作成し、産業政策を実施しようとしてい

る。ロシアの場合も、「開発予算」の導入や「ロシア開発銀行」の設立などが試みられて

いるが、まだ産業政策は萌芽的段階である。しかし、多くの移行国にとって、経済的自立

のための国際競争力の強化、輸出振興、経済発展の加速化などは必須課題であり、産業政

策的アプローチが有効だと考えられる。しかし、産業政策の作成・実施を確保するための

情報の流れ、組織、政策用具などが未整備なところが多い。また、EU加盟を目指す国の場

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合、EUが公認する産業政策分野が中小企業振興・技術開発・地域開発などに限定されるた

めに、政策領域が狭くなり、経済の実態や発展水準からみて必要な政策の実施が困難にな

る可能性もある。また、EUは産業政策におけるアプローチも、セクター・アプローチを排

除する傾向が強い。こうした中で、中・東欧諸国の政府は、産業政策に対する実践的でプ

ラグマティックな配慮を要求されているといえよう。また財政困難のために、政策用具が

十分開発できないという困難もある。このような諸問題があるが、とにかく産業政策を実

施し、それが体系的になりつつある例として、ハンガリーのそれを紹介しておこう。

(政府基本文書)

イ)「1990年代の産業政策」(1993年1月)

ロ)「競争力強化のための産業政策」(1995年11月ドラフト)

ハ)「新しいヨーロッパの中のハンガリー」(1997年)

ニ)「セーチェニプラン」(2000年)

(政策)

イ)輸出増加型投資の法人税50%軽減措置(1996年1月WTO加盟直前駆け込み)

ロ)不況地域への投資法人税100%軽減措置(1996年以降)

ハ)加速度減価償却(1996年以降)

ニ)技術開発基金(国家技術開発委員会)

ホ)産業開発基金(商工省、マーケッティング支援)

ヘ)中小企業設備投資支援金融

a.START・Loan

b.REORG・START・Loan

c.日本輸銀ローン

d.省エネルギー投資ローン

e.「25%」融資制度

f.PHARE Loan

h.Micro Credit

ト)中小企業向け信用保証

a.Credit Guarantee Co.Ltd.

b.Start Guarantee Fund

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チ)免税ゾーン

ゾーン企業数は1999年に116、これが外国貿易に占める割合は43%

(組織)

イ)商工省、経済省

ロ)ハンガリー企業振興財団(中小企業振興、1990年)

ハ)国家技術開発委員会

ニ)ハンガリー投資貿易開発公社

ホ)ハンガリー投資貿易情報センター

ヘ)ハンガリー輸出入銀行(1994年)

ト)ハンガリー輸出保険会社(1994年)

チ)ハンガリー投資開発銀行(1991年)

リ)ハンガリー生産性センター

市場経済化の先進国であるハンガリーは、この様に積極的に産業政策を行ってきており、

関税免除ゾーンも示しているように、経済発展に対するその効果も感じられる。

むすび

1980年代末に、旧ソ連・東欧諸国において、市場経済への移行が開始されてから、「自

由化」の必要が強調され、急進的自由主義路線がIMFなど国際金融機関によって、移行国に

対して信用供与のコンディショナリティとして、押しつけられるケースが多かった。

また、移行の進捗状況を評価する際にも「自由化」が基本指標として採用され、たとえ

ば『世界開発報告 計画経済から市場経済へ』のように、「独立後7年、積極的に自由化

を推進するCEE、NISが先行」や「自由化が急速かつ広範に行われている国ほど、回復が早

い」などが主張されている。しかし、これは真実であろうか。というのは、規制の除去と

いう意味での自由化は比較的容易であるが、市場経済における実際の「自由化」を達成す

ることは、第1章で述べたように、決して容易なことではないからである。

この『世界開発報告』(1996年)では、国内取引の自由化、対外取引の自由化、新規企

業の参入(代替指標として私有化)を点数化(0~1)して、その合計から全体としての

自由化度を89年~95年までの各年について算出し、それを7年間平均した上で、この平均

値を基準として、値の高い移行国からグループ化している。こうした評価によれば、ハン

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ガリー、ポーランド、チェコ、スロバキア、スロベニア、マケドニア、クロアチアの7カ

国が先進国となる(同書 pp.31参照)。このグループ分けのベースになった1994年までの自

由化指標が、第5表に示されている。

第5表 自由化指標

1989……1994 差 合計 1989……1994 差 合計

モルドバ

カザフスタン

0.04 0.55 0.51 1.62

0.04 0.39 0.35 1.31

1 スロベニア

ポーランド

ハンガリー

チェコ

スロバキア

0.41 0.82 0.41 4.16

0.24 0.86 0.62 4.14

0.34 0.86 0.52 4.11

0 0.9 0.9 3.61

0 0.83 0.83 3.47

4 ウズベキスタン

ベラルーシ

ウクライナ

トルクメニスタン

0.04 0.43 0.39 1.11

0.04 0.36 0.32 1.07

0.04 0.26 0.22 0.8

0.04 0.22 0.18 0.63 2 エストニア

ブルガリア

リトアニア

ラトビア

アルバニア

ルーマニア

モンゴル

0.07 0.89 0.82 2.93

0.13 0.64 0.51 2.9

0.04 0.89 0.85 2.72

0.04 0.81 0.77 2.45

0 0.7 0.7 2.3

0 0.68 0.68 2.29

0 0.67 0.67 2.27

w アゼルバイジャン

タジキスタン

クロアチア

マケドニア

アルメニア

グルジア

0.04 0.35 0.31 1.03

0.04 0.3 0.26 0.95

0.41 0.82 0.41 3.98

0.41 0.78 0.37 3.92

0.04 0.42 0.38 1.44

0.04 0.35 0.31 1.32

3 ロシア

キルギスタン

0.04 0.66 0.62 1.92

0.04 0.76 0.72 1.81

ベトナム

中 国

0.53 0.62 0.9 3.42

0.46 0.59 0.13 3.08

(出所)de Melo他[17]の Apppendix(Indices of Liberalization)

(注) 1.原表では、1989年から1994年まで各年の自由化の3分野別数値も与えられているが省

略し、さらに1994年と1989年の「差」の列を本稿の筆者が付け加えてある。

2.この表でwに分類された紛争国は、経済実績を修正の上、第1グループから第4グルー

プまでに配分され、中でもクロアチア、マケドニアは第1グループに組み入れられてい

る。

しかし、このような評価の仕方には明らかな間違いがある。というのは、この表に示され

ているように、先進7カ国の内チェコとスロバキアを除く5カ国はすでに1989年以前に自

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由化を推進していたために、1989年の自由化指標の水準が高く、そのため1994年までのそ

の平均値も高くなるが、第5表の差の列を見れば明らかなように、この間の自由化の進捗

度はむしろ他の国に比べて小さいからである。換言すれば、これら5カ国はこの間に、他

の国に比べて、急速な自由化や積極的な自由化を行った訳では決してないのである。旧ソ

連・東欧の経済を多少とも知っている者から見れば、旧ユーゴ構成国であるスロベニアや

クロアチアやマケドニアは、1950年代初頭から自由化を推進してきた国であり、ハンガリ

ーは1968年から商品市場を導入し、ポーランドも同様の改革を1981年から実施してきてお

り、これらの国は市場経済化あるいは自由化の歴史的先進国なのである。経済実績がよい

のは、むしろこうした自由化の歴史的先進国であるからというのが真実である。

しかし、このことはすでに述べたことからみて当然であろう。自由化も私有化も、それ

が経済的に意味のある自由化であり私有化であるためには、主体的条件も客観的条件も整

備される必要があり、それは長い期間を要する課題であるから、短期間にそれらを急いで

実施したからといって、成功するものではないからである。たとえば、経営者の経営マイ

ンドや市場経済的行動様式など、一朝一夕では育たない事を見ただけでも、この点は明ら

かであろう。自由化も私有化も推進されなければならないが、そのための条件の整備とと

もに、堅実に着実に進めなければならないのである。

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[補論1] ロシア以外国における私有化の概観と教訓

1.チェコ

(1) クラウス急進主義政権の方針と企業経営者

1989年の「ビロード革命」とともに政権ついたクラウスは、急進主義者として知られ、

事実、ハンガリーやポーランドと異なり、1989年までソ連型集権的計画経済を維持してき

たチェコスロバキアでの市場経済への移行の政策努力は、アグレッシヴであった。とくに

クーポンを使った無償私有化は、当初、急進主義の成功例のように国際的にもてはやされ、

クラウスの名前を一躍有名にしたのである。しかし後になってIMF自ら、それを否定的に評

価するようになった。また、そうした私有化に国有企業の管理者がさほど大きな抵抗を示

さなかったことが知られており、そこには、クーポン私有化で大きな役割を果たした銀行

と企業経営者との間で結託があったと言われている。

(2) 私有化の方法

チェコスロバキアの私有化はクーポン方式と言われ、18歳以上の市民が手数料として1

千クラウンを支払い、1千投資ポイントを受け取り、これをオークションで投資して、株

式を獲得するというものであった。第1波、第2波のクーポン私有化によって、チェコ産

業の基本的部分が私有化された。これは無償私有化の典型であるが、ロシアの場合と異な

り、クーポンの売買は禁止された。

この私有化においては、投資私有化ファンドが多く設立され、自己の株式と交換にポイ

ントを集め、それをオークションで投資して株式を取得した。その際、商業銀行は自ら設

立した投資会社を通じて投資私有化ファンドを多数持ち、企業の株式を集中し、支配的株

主となった。

(3) 所有構造の形成とコーポレート・ガバナンス

その結果、銀行間の株式の相互持ち合い、銀行の投資会社・投資私有化ファンドを通じ

た企業支配が発生し、一種の「メインバンク制」、あるいは「金融資本主義」が誕生した。

それ故、クーポン私有化は、株式が広範な市民の間に分散し、企業統治が困難になるとい

う批判はチェコの場合当てはまらなかった。また、1995年頃までは、政府が商業銀行の大

株主であったため、政府の影響力が残った。その後、銀行の私有化が進展し、外資の参加

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が広まったから、政府の影響力は小さくなっている。

(4) 投資ファンド規制の不備と証券市場

この様にチェコでは、国有企業の私有化が急速に進められたが、資本市場関連法規が未

整備であるため、資本市場の不透明性が顕著で、株式市場が発展せず、取引が闇で行われ

ていたり、投資私有化ファンドの法規制が不十分であったために、一企業の株式の20%以

上保有禁止条項が投資ファンドの多数設立によって形骸化したりなど、様々な問題点が指

摘されている。ロシアでもチェコでも、概して急進的私有化路線を歩んだところでは、

法的対策に欠陥が多く、後悔先に立たずのケースが頻繁に見られる(池本論文参照)。

(5) 企業リストラの遅延

クーポン私有化の欠陥として、指摘されてきた問題点の一つは、私有化が無償私有化で

あるために、資金調達に繋がらず、したがって企業リストラの貴重な機会を失うという点

である。事実、チェコの経済実績を見ると停滞の傾向が強い。この点は、ハンガリーの私

有化を見ると、一層明らかになる。

2.ハンガリー

(1) 政府方針

ハンガリーは、社会主義政権自らが、1980年代半ばに私有化の道を開いた唯一の国であ

る。政権の動機としては、膨大な対外累積債務を抱えており、国際競争力の強化・経済の

活性化が不可欠だと考えていた点、このまま行けば、技術革新軌道に乗れないまま、世界

経済の辺境に陥るという明確な問題意識を持っていた点などを指摘することが出来る。政

府は、資本の利潤・外貨獲得能力への関心(これは「財産関心」「資本関心」と呼ばれた)

を堅持した経済主体の必要性を痛感し、経済省の機関ではない財産センター、労働者持ち

株制、株式会社制の導入模索し、1989年から会社法が施行され、国有企業の株式会社化と

私有化への道が開かれた。この背景には、政府は社会の諸利害を代表するために、利潤最

大化や効率最大化に第一義的な強い関心を持てないため、「財産関心」や「資本関心」を

持った経済主体を形成する必要があるという認識が有ったこと、また、この様な認識から、

1984年に実施した所有者機能を企業自体に付与する企業改革は、自主管理機関が従業員利

害擁護組織に矮小化されて、その様な主体にならないという経験があった。

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1989年以降、移行期になると、国有財産の売却による外貨の獲得と政府債務返済が私有

化の重要な目的の一つとして位置づけられた。

国有企業の経営陣は、売り主として、売却交渉において自己の地位の維持を図る事が出

来たし、大企業は多数の子会社を設立して、多数の新経営者を誕生させたことは、私有化

の促進要因となった。

(2) 私有化の方法

ハンガリー政府の私有化方式についての考え方は明確で、「棚からぼた餅」は有効でな

く、標準的方法(売却)が正しいというものである。私有化を通じて、企業リストラを推

進し、また、国内資本が不足しているところで外資の参加を得て、企業の設備と経営の近

代化を図ろうとする点に狙いがあった。ただ、旧所有者への資産返還に際して、無償方式

がとられた点など、全てが有償方式であったわけではない点に留意しておく必要がある。

(3) 所有構造の形成

こうした私有化の結果、特徴的な所有構造が誕生した。最も重要な点は、払込資本に占

める外資の割合が、経済全体で3分の1にもおよび、製造業ではそれが60%弱にも達した

ことである。外資の技術移転(経営、技術革新)における役割は実に大きく、輸出主導型

の経済成長が観察されるようになった(工業の成長率は1997年が11.0%、1998年が10.6%)。

成長の中身を吟味すると、私有化がマクロ経済に明確なプラスの影響を与えていることが

判明する。第2に、企業間所有と、大企業を取り巻く惑星体系のような親会社-子会社関

係が形成された。企業間所有は、企業間債務の株式化、企業の私有化過程への参加の容認

などにより形成された。

(4) 対外債務問題

政府は、私有化過程での外貨収入を対外債務返済に充て、その削減に成功してきた。た

だ、外国直接投資の貿易収支や経常収支に対する影響は複雑で、輸入増や貿易赤字の最大

要因は外資参加企業であるし、利潤の本国送金や技術サービス料という名目の本国送金が

増加し、経常収支の赤字要因になりつつある。この意味で、経済的自立の観点からハンガ

リー経済を見たとき、今後の展望はまだ明瞭ではない。また、工業分野における外資の高

い割合は、ハンガリー工業の発展が外資に依存することを意味し、その発展の不安定性を

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危惧する見解もある。

3.ポーランド

(1) 移行期政権と労働組合(連帯運動と従業員評議会制)

バルツェロヴィッチ政権は急進主義として知られるが、私有化はむしろ停滞した。それ

は、従業員評議会(これは「連帯」運動の遺産と見られる)の同意なしには私有化を実施

できないという、国有企業私有化法の規定があるからである。

(2) 私有化の方法

私有化の方式としては、国有企業の株式会社化と株式の売却以外に、清算の活用、国民

投資ファンド方式が重要である。この内「清算」は、赤字小企業だけでなく、優良企業も

一旦清算し、その上で売却するものであるが、その多くは従業員持ち株会社に転化された。

また、国民投資ファンド方式というのは、政府出資の15の国民投資ファンドを設立し、こ

れに、各個別企業の最大安定株主となるように国有企業の株式を割り当て、その運営を資

金運用の内外のプロフェッショナルに委ねようとするものである。国民投資ファンドの株

式は、18才以上のポーランド市民に、20ズウォティ(当時約8US$)の支払いで、15ファン

ドの株式をセットにしたクーポン1枚を分配した。1枚200ドル程度まで上昇するという株

価予想は、現在、数ドルと裏切られた形となっている。この私有化に参加した外資は、ポ

ートフォリオ投資の傾向が強く、ヘッジファンド支配をもたらし、企業リストラに繋がら

ないという批判もある。

(3) 私有化の停滞と高い国有比重

上述の理由で、ポーランドの場合、私有化が停滞してきた結果、国有の比重が中欧諸国

の中では相対的に大きいが、国有企業の経営実績は、私企業に比して遜色がないという見

解も見られる。国有企業のリストラに対する政府の積極的取り組みがその一因であるかも

しれない。いずれにせよ、ポーランドは国有比率が相対的に高くても、経済実績が良いケ

ースとして参考になろう。

4.ウズベキスタン

(1) 政権のスタンス

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ウズベキスタンは、独立国家を建設するという強いナショナリズムが支配しており、そ

の熱気を感じさせる国である。政府は、移行期における国家の役割を強調し、急進主義路

線はとらず、市場経済への段階的移行を模索している。その際、政府はアジアの開発モデ

ルも参考にしていると思われる。私有化については、「資産を利用し効率的利用を確保で

きる所有者の形成」が目標とされるが、経済連合の抵抗などがあり、その歩みは遅い。

(2) 私有化の方法

私有化は遅れがちで、小規模私有化はほぼ完了したが、本格的な大規模私有化は開始し

て間もない。経済連合は国有で、傘下企業の国家所有株式の管理、金融・外貨へアクセス

し、中間管理機関的性格が強かったが、この経済連合とその傘下企業の国有株式会社化(非

公開)をまず行い、次いでそれを公開し、部分的私有化の開始へと、私有化が進められて

きた。さらに、私的投資ファンド方式が1996年末から開始された。これは、政府株式74%

の内、30%を投資ファンドへ、21%を証券取引所へ、23%を従業員へ配分し、投資ファン

ドは「公衆参加株式」を100スム(当時の平均賃金の2%)で市民に売却することが出来、

1ファンドは1企業の株式を最大35%まで保有出来るというものである。実際の状況は、

経済連合(国有株式会社)による私的投資ファンドの設立とそれを通じた傘下企業の株式

の取得が行われている模様である。

従業員優遇措置もあり、企業労働者集団が自己企業の資産を購入する場合、企業の利潤

を一部利用出来たり、分割払いを認めるなど、当該企業の従業員は特別扱いが認められて

いる。

(3) 所有構造

私有化が遅れており、国有企業が広範に残存している。私有化が開始された企業では、

インサイダー所有と国有との結合(企業株式の国家保有部分+経済連合による投資ファン

ド設立を通じた株式所有+企業従業員所有)が見られる。ただし、ロシアと異なり、ウズ

ベキスタンの場合、国家の役割は大きく、国家によるモニタリング、企業近代化促進、経

済連合を通じた資源配分が行われている。

(4) 国家の積極的役割と経済成長

ウズベキスタンは、旧ソ連構成共和国の中では、いち早く1996年から経済回復を開始し、

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プラス成長を維持してきた。政府の積極的経済政策が、ソ連崩壊のショックを緩和し、漸

進的アプローチの下で、企業近代化に取り組んできたことの成果と見ることが出来よう。

ただ、為替レートの一本化が遅れ、自由化や私有化が停滞しているという問題があり、IMF

が事務所を引き上げるなど、国際関係でギクシャクし、困難を抱えている。しかし、移行

経済において、自由化や私有化が経済成長の万能薬では決してなく、それらが遅れていて

も、それなりの経済実績をあげ得るということを、ウズベクの経験は示しており、注目に

値する。

5.カザフスタン

(1) 政権のスタンス

急進的市場経済化路線を歩むカザフスタン政府は、その国有企業の経営に外国資本の参

加を期待したところに、際だった特徴がある。

(2) 私有化の方法

カザフスタンにおける私有化は、3つの私有化プログラムに基づいて、1991年~1992年、

1993年~1996年2月、1996年3月以降と、段階を踏んで行われてきた。その種類は、イ)

小規模私有化、ロ)従業員200人以上5,000人までの大中企業を対象とした一般私有化、ハ)

5,000人以上の大企業で、国家的重要性を持つ企業を対象としたケースバイケース私有化に

分けられる。一般私有化は、配布された投資クーポンを市民が私有化投資ファンドに投資

しその株式を獲得し、諸ファンドがオークションに参加して株式の51%以上を獲得し、残

りは政府が保有するというものであり、基本的に無償方式である。ケースバイケース私有

化は、巨大企業が社会保障を負担し、しかも巨額の債務を抱える状況で、外資導入が困難

であり、また、政府や企業管理者が相当の株式を所有している状況で、私有化に対する抵

抗が強かったため、その進捗状況は思わしくなかった。これを克服するために導入された

のが、マネジメント・アグリーメント(MA)方式で、それはいわば「即席外資導入策」(輪

島論文)であった。これは、当該企業に対する一定額の投資の見返りに、投資家に期限付

きで(5~10年)経営権を譲渡するものである。投資を行った外部企業は、利益配分を受

ける権利と株式に対する優先権をもつ。

(3) マネジメント・アグリーメントの問題点

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この方式は、外資を呼び込み、20件以上成立したが、そこには次の問題点が指摘されて

いる。一つは、外資の関心は、事実上製品の独占的販売権にあり、企業の近代化やリスト

ラにつながらないという点。もう一つは、この方式を律する法律の未整備のために、透明

性が欠如している点である。20余成立したMAのうち、合弁企業に転化されたのは2企業、

他は解約の方向といわれる。

(4) 第3段階ケースバイケース民営化の動向

第3段階のケースバイケース民営化は、その後、エネルギー分野で私有化を対外的に開

放したため急展開をみている。しかし、重要資源の生産・開発を外資に依存することへの

危惧が表明され、また、オランダ病に陥る危険が指摘されている。

6.教訓

以上の概観から、次のような教訓を引き出すことが出来よう。

第1に、モチベーションの視点から見て、政治指導部の私有化の必要性に関する認識が

重要であり、この点は中国やベトナムなどにおいても強調されるべきである。また、私有

化に対する企業経営者の動機付けが重要になる。この問題では、インサイダー所有確立へ

の頑固な傾向があるが、ハンガリーやチェコの経験が示すように、それは必ずしもインサ

イダー所有・支配とはならない。その回避が可能である。

第2に、私有化の方法の点では、経済的には標準的方法の意義が大きく、ロシアやチェ

コの経験が示すように、バウチャーなどを用いた無償方式は企業リストラを促進せず、そ

の限界が明らかになっている。

第3に、私有化の帰結についてであるが、ロシアのようなコーポレート・ガバナンスの

喪失を回避する必要があり、外部モニタリングの構築に努力する必要がある。それは、ハ

ンガリーの場合、外資や他企業であり、チェコでは商業銀行であり、ポーランドとくにウ

ズベキスタンの場合、国家の役割が大きいと言えよう。

第4に、私有化の法的整備の点では、急いだ私有化の場合、何処でも法的整備の遅れが

あり、株主の権利の侵害や、汚職・腐敗の原因となっている。私有化に際しては、私有化

それ自体の法的整備だけでなく、私有化後の企業経営を律する法的環境の整備を予め行っ

ておく必要がある。この点は市場経済化開始10年を経た現在でも、依然として重要な課題

である。

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第5に、私有化と企業経営環境との整合性が保たれる必要があり、ロシアに典型的に見

られるように、私有化してもマクロ経済政策がリアルエコノミーを崩壊させれば、私有化

の意味が失われる。

参考資料

輪島実樹「中央アジア経済改革における多様性:カザフスタンの事例」『ロシア研究』

No.26、1998年4月.

池本修一「チェコ:市場経済化の現状と問題点」同上.

吉野悦雄「EU加盟をめざすポーランド経済とその民営化過程」同上.

同 上 「ポーランドの民営化過程」『東欧諸国の経済改革の動向』日本国際問題研究

所、1996年3月.

西村可明「いわゆる『財産関心』について-ハンガリー経済改革第2段階の理論的考

察-」『経済研究』1989年4月.

同 上 「ロシアにおける私有化政策」同上、1993年4月.

同 上 「ロシアにおける私有化の進捗状況(1)」同上、1994年7月.

同 上 「市場経済への移行期における所有構造」同上、1995年7月.

同 上 「ハンガリーにおける外国直接投資」一橋大学経済研究所、Discussion Paper Series

A No.355,1998年8月.

同 上 「ロシア市場経済化の成果と問題点」『ロシア研究』No.26、1998年4月.

同 上 「市場経済化政策の再検討」『経済研究』1999年10月.

岩崎一郎「中央アジア体制移行経済の制度分析」

Radygin A.,"Ownership and control of the Russian industry",Conference on

"Corporate Governance in Russia", OECD, 31 May-2 June,1999.

G.クレイナー「自然人経済としての現代ロシア経済」『経済の諸問題』(ロシア語)、

1996年4月.

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[付表]旧ソ連・東欧諸国の経常収支・貿易収支・外国直接投資・対外債務

EBRD Transition report 1999年、2000年より作成。1999年は推計値。

[1]旧ソ連構成諸国

アルメニア 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na -67 -104 -218 -291 -307 -390 -277

na na -102 -98 -178 -403 -469 -559 -578 -462

na na na 1 8 25 18 52 221 131

na na na na 200 375 614 786 812 855

アゼルバイジヤン 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na 153 -198 -160 -123 -318 -821 -914 -1363 -600

na -41 -153 -122 -163 -275 -549 -567 -1046 -408

na na na 0 22 282 661 1093 1024 510

na na na 52 239 425 466 406 506 964

ベラルーシ 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na -435 -444 -458 -516 -788 -989 -257

na na na -528 -490 -666 -1149 -1335 -1447 -599

na na na 18 11 15 73 198 142 225

na na na na 2197 2684 2142 2345 2612 2457

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エストニア 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na 22 -167 -158 -398 -563 -478 -294

na na -90 -145 -357 -666 -1019 -1125 -1115 -877

na na na 156 212 199 111 130 574 222

na na na 298 534 785 1387 2562 2900 2871

グルジア 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na -248 -354 -278 -216 -275 -375 -389 -221

na na -378 -448 -365 -338 -351 -559 -685 -528

na na na 0 8 6 54 236 221 96

na na 95 597 999 1212 1352 1516 1636 1754

カザフスタン 十億ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na -1.3 -1.9 -0.4 -0.91 -0.21 -0.75 -0.80 -1.23 -0.17

na -3.2 -1.1 -0.4 -0.92 -0.11 -0.34 -0.28 -0.80 -0.34

na na na 0.47 0.64 0.96 1.14 1.32 1.14 1.59

na na 1.48 1.85 3.27 3.48 4.44 6.34 8.22 7.91

キルギスタン 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na na -84.3 -234.8 -424.8 -139.2 -369.4 -184.9

na na na na -86.1 -122.0 -251.7 -16.0 -220.0 -84.0

na na na na 38.2 96.1 46.8 83.0 108.6 35.4

na na na na 413.8 763.9 1151.2 1356.1 1472.6 1718.7

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ラトヴィア 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na 417 201 -16 -279 -345 -650 -646

na na na 3 -301 -580 -798 -848 -1130 -1027

na na na 50 279 245 379 515 303 331

na na na na na 1415 2025 2731 3060 3803

リトアニア 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na -86 -94 -614 -723 -981 -1298 -1194

na na na -155 -205 -698 -896 -1147 -1518 -1405

na na na 30 31 72 152 328 921 478

na na na na 529 1374 2081 3146 3577 4335

モルドヴァ 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na -39 -150 -82 -98 -202 -285 -323 -33

na na -37 -148 -53 -70 -260 -348 -388 -123

na na 17 14 18 73 23 75 86 33

na na 16 256 620 668 815 1048 1014 1055

ロシア 十億ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na na 5.9 5.0 7.0 0.4 2.1 24.7

na na 10.6 15.3 17.0 20.2 19.8 14.8 16.9 35.3

na na na na 0.5 1.7 1.7 4.0 1.7 0.7

na na na na 120.9 127.0 135.1 134.1 157.7 158.5

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タジキスタン 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na -200 -164 -86 -76 -68 -121 -36

na na na -177 -122 -57 -20 -71 -154 -59

na na na 9 12 20 25 30 24 21

na na na 509 760 817 867 1104 1178 1033

トルクメニスタン 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na 927 776 84 24 2 -580 -935 -527

49 590 1140 1100 485 441 304 -231 -523 -166

na na na 79 103 233 108 108 62 89

na na na na 418 550 668 1356 1750 2050

ウクライナ 十億ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na na -1.2 -1.2 -1.2 -1.3 -1.3 -0.8

na na -0.6 -2.5 -2.6 -2.7 -4.3 -4.2 -2.6 -0.5

na na na na 0.2 0.3 0.5 0.6 0.7 0.5

na na na na 7.2 8.1 9.2 11.8 11.7 11.5

ウズベキスタン 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na -237 -429 119 -21 -979 -548 -39 -202

na na -235 -378 213 237 -706 -72 171 125

na na 9 48 73 -24 90 167 226 201

na 0 62 1039 1107 1771 2381 2594 3484 4289

Page 38: 市場経済への移行における経済政策 ~総論~ - ESRI3 d.市場経済の円滑な機能を確保するための政府が必要となる。それは、市場における「ゲ

35

[2]旧東欧諸国

ブルガリア 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

-1180 -406 -360 -1099 -31 -26 16 428 -62 -681

na 404 -212 -885 -17 121 188 380 -381 -1081

na 56 42 40 105 98 138 507 537 806

100 118 138 138 113 101 96 97 103 100

(注)対外累積債務の単位は1億$。

チェコ 十億ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na 0.5 -0.8 -1.4 -4.3 -3.2 -1.3 -1.1

-0.8 -0.5 -1.9 -0.5 -1.4 -3.7 -5.9 -4.5 -2.6 -2.1

na na 1.0 0.6 0.7 2.5 1.3 1.3 2.6 4.9

6.0 6.7 7.1 8.5 10.7 16.5 20.8 21.4 24.0 22.6

ハンガリー 十億ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

0.1 0.3 0.3 -3.5 -3.9 -2.5 -1.7 -1.0 -2.3 -2.1

0.3 0.2 0.0 -3.2 -3.6 -2.4 -2.6 -2.0 -2.4 -2.2

0.3 1.5 1.5 2.3 1.1 4.5 2.0 1.7 1.5 1.4

na 22.7 21.6 24.6 28.5 31.4 27.6 23.7 26.7 29.3

ポーランド 十億ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

0.6 -2.0 0.9 -0.6 0.7 5.3 -1.4 -4.3 -6.8 -11.6

2.2 0.1 0.5 -2.5 -0.9 -1.9 -8.2 -11.3 -13.7 -14.5

0 0.1 0.3 0.6 0.5 1.1 2.7 3.0 5.0 6.6

49.0 48.0 47.6 47.2 43.6 45.2 47.4 48.9 56.9 59.0

Page 39: 市場経済への移行における経済政策 ~総論~ - ESRI3 d.市場経済の円滑な機能を確保するための政府が必要となる。それは、市場における「ゲ

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ルーマニア 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

-1656 -1290 -1564 -1174 -428 -1774 -2584 -2137 -2917 -1308

-1743 -1345 -1420 -1128 -411 -1577 -2494 -1980 -2625 -1092

18 37 73 87 341 417 415 1267 2079 949

1140 2131 3240 4249 5509 6787 8597 9467 9974 9233

スロバキア 十億ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

na na na -0.60 0.67 0.39 -2.10 -1.95 -2.06 -1.08

na na -0.71 -0.93 0.06 -0.23 -2.29 -2.08 -2.29 -1.10

na 0.08 0.10 0.10 0.24 0.19 0.20 0.08 0.37 0.70

na na 2.83 3.38 4.66 5.68 7.67 9.90 11.90 10.47

アルバニア 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

-122 -249 -427 -357 -279 -177 -245 -276 -186 -293

-150 -208 -454 -490 -460 -475 -692 -518 -621 -846

na 8 20 45 65 89 97 42 45 51

377 628 811 936 1012 683 732 757 874 972

クロアチア 十億ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

1.05 -0.59 0.33 0.61 0.83 -1.45 -1.15 -2.34 -1.55 -1.54

-1.17 -0.54 -0.30 -0.74 -1.17 -3.27 -3.69 -5.22 -4.17 -3.30

na na 0.01 0.08 0.11 0.10 0.51 0.30 0.78 1.35

na 2.98 2.74 2.64 3.02 3.81 5.31 7.45 9.59 9.77

Page 40: 市場経済への移行における経済政策 ~総論~ - ESRI3 d.市場経済の円滑な機能を確保するための政府が必要となる。それは、市場における「ゲ

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マケドニア 百万ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

-400 -262 -19 15 -180 -222 -289 -277 -309 -135

-418 -225 -7 43 -186 -221 -317 -386 -419 -408

na na 0 0 24 12 12 18 175 27

na 744 758 818 844 1062 1118 1139 1437 1484

スロベニア 十億ドル

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

経常収支

貿易収支

外国直接投資

対外累積債務

0.53 0.13 0.93 0.19 0.57 -0.10 0.03 0.01 -0.15 -0.78

-0.61 -0.26 0.79 -0.15 -0.34 -0.95 -0.83 -0.77 -0.79 -1.25

0 0.04 0.11 0.11 0.13 0.18 0.19 0.34 0.25 0.14

na 1.87 1.74 1.87 2.26 2.97 4.01 4.18 4.96 5.49