科学が教える - TAKII · 2017.01. 27. 科学が教える. 園芸方程式. 第1回...

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27 2017.01 科学が教える 園芸方程式 第1回 【植物の分類】 岐阜県立国際園芸アカデミー学長の上田先 生が、園芸の「お約束」を根本から解説 第1回は、植物の分類をひもときます。 Rosa multiflora D N A 2 使岐阜県立国際園芸アカデミー学長。農学博士。大阪 府立大学大学院農学研究科修士課程修了。千葉大学 園芸学部助教授、岐阜県立国際園芸アカデミー教授 を経て現職。専門は花 園芸学、植物育種学、園芸 文化論など。著書に『バラ大図鑑』(NHK出版)、 『園芸「コツ」の科学』(講談社)などがある。 教える人 うえ よし ひろ 花、葉、果実などを観賞する 木本性植物。 花木 本来は宿根草だが、ラ ン科植物は膨大な数の 種を含むため、ラン類 として扱われている。 ラン類 虫を捕らえて栄養源とする植物。 タヌキモ科、ウツボカズラ科、 サラセニア科などに属する。 食虫植物 サボテン科、ベンケイソウ科、ハ マミズナ科など、乾燥地に適応し て葉や茎が多肉化した植物類。 不良環境に耐えるため、根、茎、 葉の一部が肥厚し、養分の貯蔵 器官となった宿根草の特殊形態。 球根植物 植物体全体か、一部が生存し、 長年にわたり生育、開花を繰 り返す多年生の草本植物。 多年草(宿根草) マツ科、スギ科、ヒノキ 科など、球果をつくる葉 が針状になる裸子植物。 いわゆる針葉樹。 コニファー 茎葉に芳香性成分を 含む植物。シソ科、 セリ科が多い。 ハーブ(香料植物) 茎葉を観賞の対象とする草 本、または木本性植物。主 に熱帯・亜熱帯性の植物。 観葉植物 新連載 1 テーマ 【人為的分類】 サボテン、 多肉植物 タネから発芽後、1、2年以内 に開花、結実、枯死する植物。 春まきと秋まきがある。 一・二年草

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Page 1: 科学が教える - TAKII · 2017.01. 27. 科学が教える. 園芸方程式. 第1回 【植物の分類】 岐阜県立国際園芸アカデミー学長の上田先 生が、園芸の「お約束」を根本から解説

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科学が教える園芸方程式

第 1回【植物の分類】

岐阜県立国際園芸アカデミー学長の上田先生が、園芸の「お約束」を根本から解説!第1回は、植物の分類をひもときます。

イバラ」、学名は「Rosa m

ultiflora

となります。

 自然分類に対して、植物を生態的な特

徴や栽培上の特性、利用の目的などによ

って分類する方法を「人為的分類」とい

います。人為的分類は実用的分類とも呼

ばれ、園芸的な視点からみれば、園芸的

分類ということになります。

 園芸的にみた人為的分類では人により

分け方が違いますが、おおよそが上記の

イラストのような分類です。現在育てて

いる植物がどの分類か、おさらいしてみ

てください。

 植物の分類の始まりは、人類が誕生し

た時までさかのぼることができます。人

が森林や草原で生きていくためには、植

物をどのように利用していくかが最も大

切なことでした。自分の周りにある植物

が食べられるかどうか(毒があるかない

か、栄養価が高いか低いか、おいしいか

まずいか)、食用以外に利用価値がある

かどうか(衣類の繊維になるか、薬にな

るか)で、人は植物を分けてきました。

 分類は本来、植物の類縁関係の強さに

基づいて行われるもので、このような分

類を「自然分類」といい、「植物分類学」

はこれに基づいた学問です。似たもの同

士を一つのグループ(群)にまとめ、さ

らにそのグループ間で似たものをまとめ

るという作業を行い、植物(生物)は階

層的につくられる群により構成されてき

ました。

 さらにダーウィンの進化論が認められ

ると、そのグループは植物が進化してき

た道すじ(系統)を反映したものとして

理解されるようになりました。従来は形

態の違いや交雑できるかどうかに基づい

ていましたが、近年は遺伝子解析が進み、

類縁の違いは遺伝情報、つまりDNA内

の塩基配列の違いに基づいていることか

ら、遺伝子解析により類縁関係が組み直

されてきています。 

 自然分類による階層的なグループ(階

級)は上位から、界、門、綱、目、科、

属、種になります。例えば、ノイバラは

植物界、種子植物門、双子葉植物綱、バ

ラ目、バラ科、バラ属に属し、種名がノ

イバラということになります。

 また、名前については「普通名(一般

名)」と、「学名」の2種類あります。普

通名は特定の国で使われるもので、日本

は和名、イギリスなら英名になります。

学名は1700年代にスウェーデンのリ

ンネにより提案され、国際植物命名規約

にしたがって命名された万国共通の名前

です。属名と種小名(種名)からなり、

ラテン語で表記されます。したがってノ

イバラの場合、普通名は種名と同じ「ノ

岐阜県立国際園芸アカデミー学長。農学博士。大阪府立大学大学院農学研究科修士課程修了。千葉大学園芸学部助教授、岐阜県立国際園芸アカデミー教授を経て現職。専門は花

卉き

園芸学、植物育種学、園芸文化論など。著書に『バラ大図鑑』(NHK出版)、『園芸「コツ」の科学』(講談社)などがある。

教える人

上うえ

田だ

善よし

弘ひろ

分類方法は一つじゃない

目的によって違う分け方

花、葉、果実などを観賞する木本性植物。

花木本来は宿根草だが、ラン科植物は膨大な数の種を含むため、ラン類として扱われている。

ラン類

虫を捕らえて栄養源とする植物。タヌキモ科、ウツボカズラ科、サラセニア科などに属する。

食虫植物サボテン科、ベンケイソウ科、ハマミズナ科など、乾燥地に適応して葉や茎が多肉化した植物類。

不良環境に耐えるため、根、茎、葉の一部が肥厚し、養分の貯蔵器官となった宿根草の特殊形態。

球根植物植物体全体か、一部が生存し、長年にわたり生育、開花を繰り返す多年生の草本植物。

多年草(宿根草)

マツ科、スギ科、ヒノキ科など、球果をつくる葉が針状になる裸子植物。いわゆる針葉樹。

コニファー茎葉に芳香性成分を含む植物。シソ科、セリ科が多い。

ハーブ(香料植物)

茎葉を観賞の対象とする草本、または木本性植物。主に熱帯・亜熱帯性の植物。

観葉植物

新連載

なぜ植物は分類されているの?

生物学的分類と人為的分類

1テーマ

【人為的分類】

サボテン、多肉植物

タネから発芽後、1、2年以内に開花、結実、枯死する植物。春まきと秋まきがある。

一・二年草

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 1年以内に枯れる植物「一年草(一年

生植物)」は、タネが発芽してから1年

のうちに開花、結実して枯れる植物です。

一年草は、低温、高温や乾燥など、植物

が生育するのに厳しい環境を耐え抜くた

め、枯れる前にタネという手段をとりま

す。一年草の起源は、アフリカや地中海

沿岸、西アジアといわれています。この

辺りの地域は非常に乾燥する土地で、そ

の過酷な環境下で生き残るために一年草

化したのです。

 一方、1年以上生きる植物の「多年草

(多年生植物)」は、同じように開花、

結実してタネをつくり、生育に不適な環

境では地上部が枯れますが、土の中で地

下茎または根で生き残り、翌シーズンに

また萌ほ

芽が

して生育を繰り返します。この

地下部が球状に肥大するものが「球根植

物」で、それ以外が「宿根草」になりま

す。球根植物は低温、高温、乾燥といっ

た不良環境に耐えるため、地下または地

際部が肥大したもので、チューリップや

スイセンなど園芸的に球根花か

卉き

として利

用されている植物の多くが、一年草と同

じく地中海沿岸や南アフリカなどの乾燥

地を起源としています。

 さらに多年草では、宿根草、球根植物

などの「草本性植物」のほか、厳しい環

境でも地上部が枯れず、木化して生長を

続ける樹木などの「木も

本ほん

性植物」があり

ます。木本性の植物で温帯より北部に分

布するものは、冬の寒さが厳しい期間に

は葉を落とし、休眠芽をつけて休眠する

ことによって冬を乗り越えます。

 草本性植物と木本性植物の違いは、二

次生長(形成層の発達をともなう横方向

の生長)が持続する期間です。つまり、

草本性植物の茎は、ある程度大きくなる

と肥大生長しなくなりますが、木本性植

物では茎や根が肥大し続け、容積のほと

んどを木部が占めるようになります。木

本性植物は大型となり、多年にわたって

繰り返し開花・結実しながら、茎を肥大

生長させます。一方で、草本性植物は小

型で、開花・結実したのち、多くのもの

は地上部が枯れます。

 このように植物は、生き残るために四

季の気候変化や環境に適応しながら、一

年草から多年生植物へと多様な姿に進化

してきたのです。

乾燥や高温、低温といった生育に不向きな厳しい環境下では、枯死してもタネの形態で生き残る。

多年草の木本性植物は冬の時期が近づくと、葉を落として休眠芽をつけ、休眠することで過酷な寒さを乗り越える。

右のチューリップなどの球根植物は、球根の形で地中に生き残り、翌シーズンにまた萌芽して生育する。

植物の一生の長短は

環境によって決まった

「分類」を辿たどれば

現在の問題も見えてくる!基本の分類の知識は、利用方法、栽培管理方法、殖やし方など、園芸に必須の情報につながります。また、トラブルが発生した場合にも、分類の成り立ちや同じ分類に属する植物の生態などから、問題の解決策を見い出せることもあるでしょう。

自然分類+人為的分類=両方知れば、植物の性質、 管理方法のヒントが見つかるタネ、球根、宿根=植物の「生き残りの術」

一年草

球根植物

多年草低温

乾燥・高温

1年以内に枯れる植物と

1年以上生きる植物

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