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2012
CDTLab
iwasawa
file: Headphone Amplifier_A
[ヘンドホーン用アンプの製作-A]
差動増幅回路 2 段&SEPP 電力増幅回路による本格的なヘッドホーン用アンプの製作
事例
電子回路設計技術
回路理論
シミュレーション
回路設計
試作実験
検証
完成
ヘッドホーン用アンプの製作
1.基本仕様とアンプの概要
・出力負荷:25Ω~300Ω
・電力出力:0.2W~0.5W
・電源 :±12V
ヘッドホーン用アンプとして、回路実験 kit
の基板を応用して、ヘッドホーン用アンプの製
作を行った。
また、ヘッドホーンのインピーダンスも 20Ω
程度のもから数百程度のものがあるようです。今回は、手元にある 3 メーカーの事例を
参考に、25Ω~300Ωを目標にして、作成した。したがって、ヘッドホーンのインピーダ
ンスによって、また感度によって、出力は変わってくるが、0.2W~0.5W を目標とし、
電源電圧も±12V として設計した。
■ACE-1C 基板を応用したアンプ基板
ACE-1C 基板はディスクリート部品を用いて、オペア
ンプの内部回路を学習できるようなパターンになって
いるが、今回オペアンプ内部回路では使用されることが
少ない、差動 2 段回路による直流的に安定な回路とした。
さらに出力段もエミッタフォロワー出力のほか、コンプ
リメンタリ FET とコレクタ出力の電流帰還形の出力段
も製作し比較を行った。
■REG-1B 基板を使用した電源基板
REG-1B 基板は、シリーズ・レギュレータ実験 kit
の基板を利用し、±12V デユアル電圧の定電圧回路を
製作した。この基板では、ダーリント・トランジスタ
を放熱器に取り付けてしようしたが、外部放熱器と外
部トランジスタを使用すれば更に出力容量の大きな定
電圧電源とすることができる。
■ヘッドホーンのインピーダンス特性の事例
ヘッドホーンのインピーダンスはスピーカーと比べて設計思想による差が大きい。今
回、手元にある、3 社のヘッドホーンのインピーダンスを測ってみると次のようであった。
また、シミュレーションにより推定した等価回路を示す。
① ソニーMDR-Z1000
②ウルトラゾーン Pro2900
② ンハイザーHD650
C2
200p
50m
L2
C1
100u
5
R2
52u
L1
25
R1
MDR-Z1000 等価回路
C2
260p
50m
L2
C1
100u
22
R2
100u
L1
40
R1
Pro2900 等価回路
300
R1
821u
L1
200
R2
C1
7.5u
500m
L2
C2
860p
HD650 等価回路
2.電圧増幅回路
■電圧増幅段の構成
・JFET 入力による差動 2 段構成
図のような、JFET(Q1,Q3:2SK30A)
の差動入力と、トランジスタ(Q5、
Q8:2SA1015)の差動増幅回路の 2
段接続構成とした。
また、2 段目の差動増幅回路の負荷
として、カレントミラーを使用して、
利得を稼いでいる。
■シミュレーションによる検証
SIMtrix により、図のような回路
にてシミュレーションを行った。
利得は 80dB で、第一次ポールも 1KHz
以上となっており、一般のオペアンプの
10Hz 程度から比べて、広帯域特性が期待で
きる。
+Vcc
-Vee
-InP2
2SA1015
Q5
2SA1015
Q8
CC1
OUTP3
+InP1
2SC1815
Q2
2SC1815
Q4
2SC1015
Q6
2SC1015
Q7
2SK30A
Q32SK30A
Q1
1.8KR3
1.8KR6
1KR11
200
R5
200
R9
1uC3
100uC5
100uC4
1uC2
6.8KR8
47R7
47R4
200VR1100K
R1
1KR2
1KR12
820R10
200k
R9
200
R26
12
V1
1k
R5
Q4
QC1815GR
1.8k
R11
1.8k
R12
1k
R10
Q9
QA1015GR
50
R2
V3
1K
R8
200
R3
J2SK30ATM-Y
Q2
J2SK30ATM-Y
Q1
50
R1
Q3
QC1815GR
6.8k
R4
100k
R7
Q8
QA1015GR
Q5
QC1815GR
1k
R6
C1
10p
12
V2
Q13
QC1815GR
dB
3.出力回路
今回の電源は、電圧増幅段及び出力段ともに±12V を使用している。したがって、
電圧増幅段の出力電圧は±8V 程度、また出力段での保護抵抗や、ドライブ電圧のロ
ス(ベースとエミッタ間電圧)により実際の出力に寄与する電圧は±6V 程度となっ
てしまう。
■回路構成
・Q1 は出力段のバイアス電圧
を作るための定電圧回路で、
VR により終段のアドリング
電流を調整する。
・R5,R6 は終段トランジスタ
の発振防止のためであるが、
Q4 と Q6 の HFE のアンバラ
ンスの補正も行うことができ
る。
■出力の算出
ここで、出力を計算すると、Vo=±6V と仮定すると、𝑃𝑜 =𝑉02
2∗𝑅𝐿により
𝑃𝑜 = 0.72𝑊(𝑅𝐿 = 25𝛺)
𝑃𝑜 = 0.45𝑊(𝑅𝐿 = 40𝛺)
𝑃𝑜 = 0.06𝑊(𝑅𝐿 = 300𝛺)
となり、ヘッドホーンのインピーダンスが 300Ωの場合、出力が不足する可能性があ
る(実際のヒアリングでは全く問題はないが)。
■終段アイドリング電流
アイドリング電流は、約 50mA としている、このため A 級動作の範囲は、300m
W 程度となるが、通常使用する範囲では十分な出力である。
-Vcc
+Vcc
IN
IN
OUT
VR3
VR2SC1815
Q1
2SA1015
Q3
2SC1815
Q2
1K
R3
1K
R4
4.7K
R1
2SC34211Y
Q4
2SA1358Y
Q5
200ΩR5
200ΩR6
5Ω
R7
5Ω
R8
4.全体の回路検証
■負荷を想定した全体の周波数応答
回路図は、ヘッドホーン HD650 の負荷を想定して、等価回路を接続した場合の回路で、
SIMtrix によりシミュレーションを行った。
また、ヘッドホーンでは、ケーブルにシール線などを使用いている場合があり、スピーカ
ーと違い容量負荷が大きい場合があり注意が必要である。この容量性負荷に対しては、出力
にインダクターを入れ、容量成分を打ち消す方法があるが、シミュレーションで確認した。
HD650 では実測の結果、860pF の容量が
接続ケーブルにあり、それがヘッドホーンに
並列に接続させることになる。
そこで、回路図のように、出力に L3(2μ
H)と R16(20Ω)を並列にしたものを入れ
てシミュレーションを行った。
グラフに示すように、無い場合 10MHz
にピークが発生するが、ある場合では素直な
特性となることがわかる。
HD650
300
R25
C3
10n
200
R26
12
V1
dB
58.0192m
200
R215
R19
Q11
Q2SC3421Y
950
R14
1K
R9
Q7
QC1815GR
1k
R5
Q4
QC1815GR
1.8k
R11
1.8k
R12
1k
R10
Q9
QA1015GR
100
R2
AC 1 0 Sine(0 500m 1k 0 0)
V3
1K
R8
200
R3
J2SK30ATM-Y
Q2
J2SK30ATM-Y
Q1
100
R1
Q3
QC1815GR
6.8k
R4
100k
R7
Q8
QA1015GR
Q5
QC1815GR
820
R6
Q6
QC1815GR
1K
R13
4.7k
R15
Q10
QA1015GR
Q12
Q2SA1358Y
5
R20
200
R22
C1
10p
6.7k
R23
12
V2
Q13
QC1815GR
300
R24
821u
L1
200
R18
C4
7.5u
500m
L2
C2
820p
20
R16
2u
L3
同様に、MDR-Z1000、Pro2900
の等価回路を接続した場合の、シ
ミュレーション結果が次図である。
利得は 17dB であり、周波数特性
も 1MHz程度と十分な広帯域な
ヘッドホーン・アンプとなってい
る。
■ボーデ線図により負帰還の安定
性確認
SIMtrix のボーデ・プローブを使用して、HD650 負荷時でのボーデ線図のシミュレーション
を行った。
MZ-1000
LAP1
-1
AC 1
V4
C3
10n
C2
860p
500m
L2
C4
7.5u
200
R18
821u
L1
300
R24
300
R25
Q13
QC1815GR
12
V2
6.7k
R23
C1
10p
200
R22
5
R20
Q12
Q2SA1358Y
Q10
QA1015GR
4.7k
R15
1K
R13
Q6
QC1815GR
820
R6
Q5
QC1815GR
Q8
QA1015GR
100k
R7
6.8k
R4
Q3
QC1815GR
100
R1
J2SK30ATM-Y
Q1
J2SK30ATM-Y
Q2
200
R3
1K
R8
100
R2
Q9
QA1015GR
1k
R101.8k
R12
1.8k
R11
Q4
QC1815GR
1k
R5
Q7
QC1815GR
1K
R9
950
R14
Q11
Q2SC3421Y
5
R19
200
R21 58.0192m
12
V1
200
R26
=OUT/IN
OUTIN
2u
L320
R16
5.基板の組み立て
今回使用した ACE-1C 基板の回路図は、次の図のようになっている。この基板は本来オペ
アンプの内部回路をディスクリート部品で構成し、差動増幅回路やカレントミラーなどオペ
アンプを構成する基本回路を学習する目的の基板である。
ここで、その部品の必要な部分のみ使用し、またジャンパーをして回路を構成したヘッドホ
ーン・アンプの回路図としたものを印刷したものが次図である。
ここでは、必要な部分以外の回路部分は薄い色で表示されている。これは回路図 CAD で、
別の層に移動し必要な部品と配線のみを行い、元の層と一緒に印刷することで得られる。
これに従い、基板の部品番号に従い組み立てることにより、ユニバーサル基板を使用して
組み立てる場合と比較して非常に容易となる。ユニバーサル基板に組み立てる場合では、表
側と裏側の部品配置、結線が逆に見えることになり、少し複雑な回路になると非常に苦労す
る。さらに配線ミスが多くなってしまう。
R35
R60
RR7
CC2
Q3 Q6
D1
Q7Q1
VR1
R8 R10
R9
Q2Q5
R6 R11
R12R25
Q9
Q10
Q11
C4
R18
R19
C3
Q14
R31
Q15
R26
R36
R40
R37
R38
R39
D6
VR2
R41
C9
R46
Q18
Q17
Q16
R58
R45
R61
R59
Q4
R62
123
CN1
C14C12
C11 C13
R42
123
CN3
123
CN2
C5 C7
C6
D2
R28
Q13 123
CN4
T
T2
T
T3
T
T4
T
T6
T
T5
T
T7
T
T8
T
T9
T
T10
T
T11
R30
C8
TO1
T14
TO1
T17
123
CN5
R4
R13
R34
R32
R23
R24
R3
R33
R20
R22
R21
R44
R48
R55
R50
R51
R43 R47
R49
R52
R53
R56
R57
R54
C10
Q12
R27
R29
Q8
R16
R14
Q19
Q20
D3
D4
D5
T
T1
T
T12
T
T13
T
T15
T
T16R5
R17
R15
R1
C1
R2
InputA
InputB
GND
6.電源回路
■回路の構成
±12V 定電圧回路
は、ノイズが少なく、
出力インピーダンス
も高域まで伸びてい
るシリーズ・レギュレ
ータの±デュアル電
源である。部品点数を
考えると三端子レギ
ュレータや誤差増幅
にオペアンプを使用
する方法もあるが、プ
リント基板の汎用性
(オペアンプなどを
使用すると、オペアン
プの電源電圧の制限など影響する)を考慮し、ディスクリート部品で構成している。
■特徴
・基準電圧には、ツェナーダイオードを用い、JFET による定電流駆動にし、安定化を
図っている。
・誤差増幅回路のトランジスタの負荷を JFET による定電流とし、大きな利得を得てい
る。
・誤差増幅回路を、カスコード接続として、周波数特性の改善を図っている。
■電源回路のシミュレー
ション
●入力電圧-出力電圧特
性
・図は、入力-出力の電
圧応答性をシミュレー
ションした回路図で、負
荷は抵抗負荷で行って
いる。
20k
R7
BZX79-4V7
D2
Q7
QC1815GR
C3
2m 100
R1
J2SK30ATM-Y
Q4
Q2
QC1815GR
Q1
Q2SC3421Y
Q3-emitter
22
V1
10k
R6
500m
R4
BZX79-4V7
D1
Q3
QC1815GR
12k
R5
J2SK30ATM-Y
Q5
Q6
QC1815GR
18.9163f
C1
200u
C2
50p
1
R2560
R3
123
CN-3PCN1
123
CN-3PCN2
3300uC3
3300uC4
220uC11
220uC12
DIODED1
DIODED2
DIODED4
DIODED3
HZ5B1-ED5
HZ5B1-ED7
HZ5B1-ED8
HZ5B1-ED6
1uC7
1uC5
1uC1
1uC8
1uC6
1uC2
50p
C9
50p
C10
20KR1
560R3
560
R4
0.5ΩR6
0.5Ω
R5
10KR7
10KR8
10K VR1
10KR9
10KR10
10K VR2
2SC1815Q9
2SC1815Q5
2SA1015Q6
2SA1015Q12
2SC1815Q11
2SA1015
Q10
2SK30A-YQ1
2SK30A-YQ3
2SK30A-YQ4
2SK30A-YQ2
P5
P6
P7
P11
P12
P13
P2
P1
P3
P8
P9
P10
P4
2SB1375Q8
2SD2012
Q7
2SC1815
20K
R2
2SA1015
+OUT
GND
-OUT
AC In1
AC In2
AC In3
AC In4
+OUT
-OUT
GND
・図のように、ディスクリート部品構成
により入力電圧が 1.3V から良好な立ち
上がり特性になっている。定電圧 IC や
オペアンプを使用した場合、立ち上がり
電圧はもっと大きくなる。
●ボーデ線図による負帰還の安定性及び周波数特性
・図は、負帰還時の
安定性を検討するた
めに、ボーデ・プロ
ーブを使用して、ゲ
イン-位相特性をシミ
ュレーションを行う
回路である。
・図の上側は、クローズド
ループの利得-周波数特性
であるが、100KHz までフ
ラット特性なっており、オ
ーディオ周波数帯域での
定電圧回路と応答性とし
ては十分な特性となって
いる。
また、ループゲインが 0
dB における位相は-90°
程度と、90°の位相余裕
と安定であることがわか
る。
560
R3
1
R2
C2
50p
C1
200u
11.8972
Q6
QC1815GR
J2SK30ATM-Y
Q5
12k
R5
Q3
QC1815GR
BZX79-4V7
D1
500m
R4
10k
R6
22
V1
Q1
Q2SC3421Y
Q2
QC1815GRJ2SK30ATM-Y
Q4
=OUT/IN
IN OUT
AC 1
V2
100
R1
C3
2m
Q7
QC1815GR
BZX79-4V7
D2
20k
R7
LAP1
-1
・電源部回路図
電源トランスは、トロイダルトランスを使用し、2次側電圧は 18V×2を使用している。
なお、出力側ケミコンにはオーディオ用ニチコン MUSE タイプを使用している。
■電源部写真
3300uC5
3300uC6
220uC13
220uC14
DIODED6
DIODED7
DIODED9
DIODED8
HZ5B1-ED10
HZ5B1-ED12
HZ5B1-ED13
HZ5B1-ED11
1uC9
1uC7
1uC3
1uC10
1uC8
1uC4
50p
C11
50p
C12
20KR2
560R4
560
R5
0.5ΩR7
0.5Ω
R6
10KR8
10KR9
10KR10
10KR11
P13
P16
1 2
FUSEF1P1
P2
PSWS
POWER_TRANS3
T
123
2SA1015
Q10
2SA1015
Q6
2SC1815
Q9
2SC1815
Q5
2SC1815
Q11
2K VR1
2K VR2
2SK30A-Y
Q42SK30A-Y
Q2
2SK30A-Y
Q1
2SK30A-Y
Q3
2SD2012Q7
2SB1375Q8
2SA1015Q12
2SC1815
2SA101520K
R3
+OUT
GND
-OUT
AC100V
AC100V
+12V
-12V
7.総合特性
■周波数特性
グラフは、利得-周波数特性で、抵抗負荷時
の特性である。シミュレーション結果と同様
にカットオフ周波数約 1MHzと広帯域にな
っている。
■歪率特性
図は、歪率特性である。
300Ω負荷では、最大出力が 0.1W と予想通りであるが、実際のヒアリングで音量の不足は感
じられない。
実際に使用するには数十mW で十分であろう。
8.音質について
今回製作したヘッドホーン用アンプの音の評価は、使用するヘッドホーンによって多
少変わってしまうが、従来から使用していたメーカ製(Luxman)の P-200 を基準に比
較することとした。
また音源は、ヤマハ:ネットワーク・プレーヤーNP-S2000 を使用し、NAS(LAN Disk
A35DF)にリッピングしてある CD 音源を中心に行った。
■P-200 と比較して、歪感が少ない透明度の良い音、色づけが少ない率直な音に感じる。特
に、バイオリンや女性ボーカルの艶やかさはよく表現されているようだ。
■ヘッドホーンの音質
今回、使用したヘッドホーン自体の音質としては、個人の好みで大きく分かれるところで
あるが、次のような感じを持った。またアンプの音質自体を評価するには Pro2900 が良いか
と思う。
●SONY MZ-1000:中音が前に出てくる明るく元気な音だが、音の解像度では Pro2900 に
劣る。
●Pro2900:音の解像度は非常にいいいが、高音と低音にエネルギーが多く、悪く言えばド
ンシャリであるが、一番歪感の少ない音である。
●HD650:音の解像度は Pro2900 と比べて劣るが、全体にバランスは良く落ち着いて聞ける
音、長く音楽に浸るには良い。