20170803 日本経済研究センター講演

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深圳のイノベーションエコシステム ―メイカーズのモノづくり最前線 Masakazu Takasu @ tks メイカーフェア深圳

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深圳のイノベーションエコシステム―メイカーズのモノづくり最前線

Masakazu Takasu @ tksメイカーフェア深圳

自己紹介世界的なDIYの祭典:メイカーフェア深圳(中国)/シンガポールの運営者

現在シンガポール在住世界でいちばん多くアジアのメイカーフェアに参加している

中国、台湾、シンガポールなどでアジアのメイカームーブメントについて講演

More Detail in the book 「メイカーズのエコシステム」

2016年発刊世界で最初の深圳のイノベーション環境解説本

Andrew Bunnie Huang(MIT深圳担当, HAXメンター)いのうち いくお(RICOH つくるーむ)江渡浩一郎(ニコニコ学会β)小笠原治(DMM.Make Akibaプロデューサ)きゅんくん(ロボティクスファッションクリエイター)藤岡淳一(JENESIS 代表深圳でのEMS企業)山形浩生(翻訳家・評論家)

第1章:21世紀になって、イノベーションの方式が変わった

2005年ぐらいから、

イノベーションを生み出す新しい仕組みが生まれはじめた

オープンソースソフトウェアの普及により、ソフト開発・宣伝費が低下した=ソフトウェアスタートアップの隆盛

すべてが置き換わったわけではなく、ユーザがプログラマじゃないソフトは企業が有償で開発してるものが強い

Yコンビネータ2005年創業「まだ起業前」ぐらいの人たちのアイデアに、2万ドルぐらい/株の6%ぐらいを出資して会社にする条件:シリコンバレーに引っ越す週に1回レビュー会/夕食会

Yコンビネータ2005年-現在までで1000社を超えるスタートアップに出資合計時価総額 65億ドルOver

代表的な卒業生:AirBnb, Dropbox, Docker, Herokuなど

Yコンビネータ創業者ポール・グレアム著書:ハッカーと画家,ANSI Common LISP,等もともと伝説的なプログラマであり、世界最初のWebアプリをYahooに売却してその資金でYコンビネータを立ち上げ

「エンジニアでないとわからない、つくって世間に出してみないとわからないものが世界をアップデートする」エンジニアのアイデア/プロトタイプにエンジニアが投資する時代にYコンビネータはそもそも型無しラムダ計算で使われる不動点コンビネータの名前

新しいイノベーションの特徴・エンジニアが考え、エンジニアがやり、エンジニアが売る・動かないもの(プロトタイプないもの)は企画じゃない・賛成する人間が少ないこと(今ないこと)をやる・「市場に出さないとわからない」ことをやる・失敗は必要。失敗しないようなことは小進歩で革命ではない・そのために極力小さく始めてスケールさせる・ゴールは作りながら考える

現時点では市場にない、合理性では判断できないものを、小さくはじめてスケールさせる

合理的なこと=アタマのいい人なら、誰でも同じ結果が出る=コストの高い先進国では難しくなる

世界を変えるようなイノベーションは、最初は「キョトン?」と困惑するような、言葉で説明できない=新聞などで見ても良さがわからないものが多いiPhone,Twitter,Instagram,,

21世紀の価値=大ヒットしても、良さが言葉で合理的に説明できない

今は、「説明できなくてもいいもの」が、インターネットの力で広まり、お金も集まるようになってきた=スタートアップとメイカームーブメント

昔は、世界を巻き込めるのは一部の人宣伝網、巨大な設備、組織、資金調達

これまでのまとめ

2012年ぐらいから、

イノベーションを生み出す新しい仕組みが、ハードウェアにも及びつつある

メイカームーブメント

=発明を生む新しい仕組み

Maker: 新しいカテゴリの発明家

伝統的な発明家 メイカー

Idea/R&D/Prototype

大学や大企業の研究所 インターネットやコミュニティで学び、作る

Produce 会社の企画部が企画し、技術部門が作る

ホビイスト達がコミュニティで作り、評価しあう

Promotion 広告代理店を使って宣伝、プロのセールスマンが売る

クラウドファンディングなどで、愛好家が発明を大きくする

メイカーズ以前と以後(近代と現代)

伝統的な製品とコミュニティベースの違い

伝統的な製品 コミュニティベース

team 大きい組織が承認ハンコを集めながらつくる

小さい組織がagileにつくる

Focus 数値で評価され、機能的 感覚的でセンスの善し悪しで判断される

Customer 自組織のボスor会社外の消費者 自分たち

Typical Product

機能的な製品や、CCD、抵抗、マイクロチップといったコンポーネント

ガジェットや、自分たちのためのプロトタイピングツール

一番いいイノベーションは趣味、ホビーとしての世界で、考えるよりも本能のままに作ることから始まる

Dale Dougherty

Makermedia

http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1206/08/news138.html

計画を立てるのでなく、「すぐに自分たちで」やり、やりながら変更しよう

https://www.ted.com/talks/joi_ito_want_to_innovate_become_a_now_ist?language=ja

第2章:深圳のプレイヤー達

2012年創業ハードウェア専門のアクセラレータサンフランシスコに本拠地、深圳にラボを置く「直観に基づいた投資」

「アーリーステージの投資では、売り上げや具体的数値を評価できる訳ではない。」(創業者ショーン、2017年,Forbus)

http://www.slideshare.net/haxco/hax-intro-and-select-portfolio

HAX(HAXLR8R) サンフランシスコと深圳に拠点 世界から半年に15組のアイデアを集め、9%と引き替えに10万ドル投資、111日間深圳でプロダクト制作合宿を行い、BtoC向け製品はKickstarterへ 現在成功率100%

HAX卒業生の例:Makeblock2013年5人で起業 現在は200人 セコイアキャピタルから出資を受け、世界を代表するロボティクス教育会社に

HAX卒業生の例:TEAMOSA2016年創業、超音波+温度でもっともおいしくお茶を入れられるシステム。台湾で代々茶農園を経営している3代目が家族経営で創業

HAX卒業生の例:DARMA2014年創業、クッション内のセンサーで集中度や姿勢を計測しストレッチなどを促してくれる「非アクティブな状態のトラッカー」

HAX卒業生の例:NextThingHAX卒業生でもっとも調達額が小さいプロジェクトから、最大級のプロジェクトへ1年あまりで転換「早く軽くスタートし、早く失敗し、早く変更する」

資金調達200万ドル2015年7月開始

資金調達7万ドル2014年5月開始

第3章:ほかに先駆ける深圳Seeedとオープンソースハードウェア

Seeed2008年創業 現在は社員200人を超え、アメリカと台湾にも拠点ガーバーデータとBOMリストを送れば、基板を実装して届けてくれるし、EC

サイトで売ってくれる基本オープンソースハードのみ製造、社内のなんでも見せてくれる

20年前と今とで、「プログラマ」は何百倍も増えた。今、あらゆる産業はソフトウェア産業になっている。流通(amazon),広告(Google),テレビ(Hulu,Netflix..)

「ハードウェア設計」も爆発的に増える?

Seeedのビジネス –Fusion PCB,PCBA-

世界中からデジタルデータを受け取り、実際の基板にして送り返す。10枚でわずか$9.9、見積もりはオンライン。さらに、指定のパーツリスト+Digikeyを使うことで実装も。

Seeedのビジネス –Bazaar-

自前の初心者向けキット・ツールの他、メイカーが発明したアイデアの量産・販売サービスも。他人が発明した製品も請け負って販売する

独自製品の例:誰でもDIYで電話が作れるキットOpen Source Hardware, only $39

Seeedは山寨を世界の趣味DIYに開放する

Seeedのビジネスオープンソースハードウェアで、すべての段階の「メイカー」を助ける

DreamerKit, Web tutorial

Prototype MakerArduino, Digital Fablicaion

Veteran MakerOnline PCB, Online CNC

Hardware StartupCrowdfunding,

Mass ProductionOnline promotion, Supply chain

-Seeedstudio

Seeedの目指す「同人デザイン」

-Seeed

第4章:

オープン化した時代とコピー

天使度と悪魔度(By 東京大学暦本純一教授)

もとは映画監督黒澤明の「悪魔のように細心に!天使のように大胆に!」から

アイデアの優れた要素を天使度実装の優れた要素を悪魔度と評す

天使度の高いプロジェクト例思いつきは素晴らしいが、創るのは簡単

悪魔度の高いプロジェクト例誰でも思いつくが、実際に創るのは難しい

Kickstarterに見られる天使度の高いプロジェクト

中国の通販サイトに見られる天使度の高い製品

$20$79$19

$2 $12 $0.6

中国のメイカー達は、自分たちのアイデアをどう考えているのか

具体例1:深圳の発明家Robin Wu, 山寨王と呼ばれる。

彼はiPadの発表後わずか60日でIntel

CPUを積んだコピー製品を発売し、「山寨王」と呼ばれるようになった。もちろんコピー品ばかりでなく、IoTマグやGPSつきジャケットなど、様々な発明品を開発しているほか、彼のブランドのStick

PCはAmazonでも買える。

深圳の発明家Robin Wuの4つのビジネス

ローリスク ハイリスク

中国

エチオピア

Hi360と組んでカーナビの製造(300万台販売)

自社製品(山寨含む)

デジタル機器の製造(EUへの無関税輸出)

プラットフォームビジネス

山寨王が語るコピー対策

たいていのものは、90日もあればコピー品が出回る。

「見れば作れる」ようなものは、大当たりしたらどんどんコピーされて値段が下がっていく。

最初に大量生産して売り抜け、別のものを発明していくのが自分のやりかた。

後追いは競争になるが、最初は競争がない。

具体例2:

Chen Rex, 上海の発明家彼はSTARYという自分たちの電気スケートボードを発明

$742,239 Founded on Kickstarter

Chen Rex が語るコピー対策

COPY STARY

STARYは$899の製品で、コピー品は$150-250ぐらいで売られている。STARYはその金額を、「普通のスケートボードに見える」ように、専用のバッテリやギヤ、様々なところに使っている。コピー会社は「安く作る」ことに注力するから、値段が上がる部分は作らず、僕らの製品をほしがる人はコピーはほしがらないだろう。

DJIのように、高価格に見合った価値を出し続ければ生き残れる。GoProのように、後追い品と価値が変わらなくなれば失敗するだろう。

DTP=同人誌DTM=同人ミュージック

デスクトップファブリケーション=同人ハードウェア

印刷するぐらいの手軽さでハードウェアがつくれることによる、知財の意識の変化

中国に見る「つくる」の

グラデーション

Promote, Produce, Prototypeが揃って「つくる」

Promote, Produceだけの「貼牌」

香港のトレードショーでは、さまざまな「ノーブランド家電」(白牌と呼ばれる)が出展されている。

こうした白牌を自分のブランドで売り出すことを貼牌(TiePaiティエパイ)と呼ぶ。「作らないメーカー」

Prototypeのための部品をつくる「公板」CPU,マザーボードなどの規格品の存在で、多くの人が「自作PC」がつくれる(それなりにノウハウは必要)

チップメーカー(画像処理チップやスマホのCPUなど)+つきあいのあるデザインハウスが作成し流通する「公板」自作PCのように、自作スマホや自作カメラを作れるさまざまなモジュールが流通している

ヒットしたモジュールはコピーされ、価格が(たいていは品質も)下がったものがさらに流通する

第5章:

深圳とはどのような場所なのか

深圳香港の隣人口は1200万人、人口・広さとも、「ざっくり東京ぐらい」近隣の東莞,佛山などとあわせて、「珠江デルタ」と呼ばれる4000万人規模の「世界の工場」

急発展する深圳

http://www.huntersourcing.net/china-cheap-expert/

深圳1980と2017

同じ山が映っている、同じ風景

深圳1985(人口30万人)

当時の中国は計画経済存在しなかった概念・就職・貯金・起業

・会社・スキル

何もない漁村

Leroy W. Demery, Jr. FollowBy the water, Shenzhen, 1980

1980年代 中国の改革開放が始まる

・計画経済から自由経済へ・「お金」「就職」という概念が生まれる・明治維新に匹敵する社会変革

・1969年の毛沢東語録価格は6円当時の中国はお金の要らない国だった

かつては香港に逃げるのは重罪

1980年代 香港との国境が開放される

改革開放後、香港からマネジメントや経営、契約と行ったノウハウが流れ込んでくる黒船に匹敵する改革

深圳博物館

高度成長

株式会社ラブロスhttp://www.labros.co.jp/html/ceobbs_view.php?page=17&number=139&keyfield=&key=

広東省の一人あたりGDP95-04年で三倍年間で3割ずつ給料が上がる

深圳1985(人口30万人) 2012(1200万人)

黒船と明治維新と高度成長が一気に来た地形まで変わるリアルポピュラス

同じ山が映っている、同じ風景

深圳博物館

新しい土地

急発展が生んだ加速世界深セン

深圳の人口構成: (縦軸は合わせたけど、横軸は人口が違うので単位が違う、割合をみてください)

高齢者率2% 20代が大半、30代と合計して65%を占める

深圳2010:(出所)日本総研大泉啓一郎氏提供(原出所)『広東省2010年人口普査資料』

0500,0001,000,0001,500,000

0-4

5-9

10-14

15-19

20-24

25-29

30-34

35-39

40-44

45-49

50-54

55-59

60-64

65-69

70-74

75-79

80-84

85-89

90-94

95-99

100+

男性(千人) (歳)

0 500,000 1,000,000 1,500,000

女性 (千人)

深圳男 深圳女 東京男 東京女

60歳ライン

20歳ライン

東京2015:統計メモ帳https://ecitizen.jp/Population/PrefPyramid/13

今現在も成長がつづいている

2014年の深圳通(Suicaみたいなもの)と2016年地下鉄は4本から11本へ 年に3本地下鉄が通る

テクノロジーで社会が変わる深圳

テクノロジーで社会が変わる:中国

モバイル決済-屋台もストリートミュージシャンもスマホでQR決済

-現金の信用があまりない

-お金がTCP/IPに乗っている

-すべてのトランザクションと行動が紐付けられている

テクノロジーで社会が変わる:中国

シェア自転車-スマホでチェックイン/支払い-どこでも乗り捨て可能

-中国名物の電動バイクに乗る人が一気に減った(荷物を運ぶ人だけ、ぐらい)

-最寄り駅までシェア自転車、途中電車で、またシェア自転車のほうが快適

自転車がTCP/IPに乗っている

2016年ぐらいまで中国の代名詞だった電気スクーターは、火災などによりそれほど見なくなった

シェア自転車-地下鉄までの1kmだけ乗れる

-雨が降ったらタクシー、のように使い分けられる

-なんとなく健康っぽい

電気自転車-荷物載せるには最高

-行きも帰りも乗らないとダメ-外に置いておくと盗まれ、屋内保存(今は禁止)すると燃える

加速世界深圳:シェア自転車の経緯

2015年10月 シェア自転車Mobike資金調達

2016年08月 Mobike大量投入

同時にBluegogo, OfOなどの競合が創業し参入

2016年10月 Mobike Lite大量投入

捨てられたりパクられたりしながら6ヶ月で知見を貯める

毎日新聞 WSJ ドコモのシェアサイクル実験

インターネット時代の規制

規範法律アーキテクチャ損得

変わってる最中変わってる最中

テクノロジーで社会が変わる:中国

信用管理システム-お金の使い方がいい(複数人でご飯を食べる、通販バックレ返品をしない借りたモノをきちんと返す)と、-バッテリ借りるのに保証金が要らない-シンガポールのビザが取りやすい-善男善女だけの出会い系サービスを利用できる-人間の信用がTCP/IPに載る

テクノロジーで社会が変わる:中国

信用管理システム-Alibabaがやっていることで、チートがされづらく信用がある

-「支付宝芝麻信用分PK」という大学対抗

いい人選手権が開かれ、中央銀行から「信用を遊びにしてはならない」と通達が出る

スマホ注文レストラン

加速世界深センとニコ技深圳観察会

-過去7回の観察会実施-月2-4本程度の深圳レポートメディア掲載-深圳と連携してのテクノロジーベンチャー立ち上げ-日本、深圳でのイベント、ワークショップの開催-深圳ベンチャーの日本進出の支援-深圳イノベーション活動に関する官民連携の研究-中国でのメイカーフェア運営協力、深圳、成都、西安-深圳SEG+出張所の運営-ハコスコ,AnyPay, JENESIS,JETROからのスポンサード-深圳ベンチャーへの投資

ニコ技深圳観察会 3年間の実績オープンで非営利でも、自己判断で動ける活動の積み重ねでこういう成果がだせる

昨日のイノベーションが今日はありふれたものに

深圳での1週間はシリコンバレーでの1ヶ月

深圳を見て思ったのは「ビジネスだって遊びになる」ということだ。でなければ、SeeedのエリックやHAXのベンジャミン、そのほかプロジェクト主の皆

さんが、かくもキラキラした目で働くはずがない。消費者の財布を燃料として燎原の火のごとき連鎖反応を引き起こし、世界を革新しようとする――これはそういう遊びなのだ。

そんな遊びができるとは、我々はなんと素晴らしい時代に生きているのだろう。(第1回ニコ技深圳観察会にて SF作家・メイカー野尻抱介)

どうもありがとうございました。詳細はこちら「メイカーズのエコシステム」にて。

今日のスライドはここで公開していますhttps://www.slideshare.net/takasu/20170803-78444240

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