抗菌薬の適正使用 - 日本赤十字社 松山赤十字病院 Control Team...

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Infection Control Team 抗菌薬の適正使用 平成27年度 モーニングレクチャー 2015/05/21 松山赤十字病院 ICT (腎臓内科) 岡 英明

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Infection Control Team

抗菌薬の適正使用

平成27年度 モーニングレクチャー

2015/05/21

松山赤十字病院 ICT

(腎臓内科) 岡 英明

しばしば耳にする上級医の声

「取り敢えずカルバペネム使っとこう!」

「効いてるみたいだからカルバペネム続けよう!」

「ゾシン®が効かないからカルバペネムに変更しよう!」

「カルバペネムで熱が下がらない、どうしよう?」

「CRP ○○mg/dlで下がり止まったけどいつまで続けよう?」

これらに 『正しく』 突っ込み、返答出来るようになろう!

何故、抗菌薬は適正使用が必要なの?

抗菌薬を使うと100%耐性菌が生じる!

耐性菌の歴史

新規抗菌薬は開発され難い!

理由 ①経口薬と比較して、 使用期間が短く 売り上げが伸びない ②使用が制限される ③直ぐに耐性化してしまう ↓ 企業にメリットが少ない

耐性化を回避するために・・・

・ターゲットを絞る = 狭域な抗菌薬を選ぶ

・確実に治癒させる = 十分量を投与

・ダラダラ続けない = 標準的な治療期間を参考にする

耐性化し易い代表的な菌2つは?

緑膿菌・結核菌

緑膿菌が起因菌になることは多くない!

CNS :61件

・コンタミ or

カテ感染

緑膿菌 :6件

カンジダ :4件

・比較的稀

・免疫不全

腸内細菌群 :115件

MRSA/MSSA :51件

連鎖球菌/腸球菌 :44件

嫌気性菌 :26件

血流感染の主要な菌

・術後 or

カテ感染

/総計327件 当院・平成25年度データ

耐性化を回避するためには・・・ 無駄に緑膿菌をカバーしない!

例外)好中球減少、緑膿菌定着あり、 COPD・間質性肺炎等の肺に基礎疾患

抗緑膿菌活性のある抗菌薬

カルバペネム系 :90∼94%

ゾシン®(T/P) :93%

ワイスタール®(C/S) :90%

ピペラシリン(PIPC) :89%

ニューキノロン系 :92~93%

第4世代セフェム :91~95%

セフタジジム®(CAZ) :96%

アミノグリコシド系 :80~99%

当院・平成26年度上半期データ

一旦、休憩・・・

Q1. 風邪ひいて抗菌薬を飲んだことは?

Q2. 風邪を100%治せる自信は?

A1. クスリが要らないのが 『風邪』

A2. 自然に治るのが 『風邪』

『風邪』 診療の唯一のポイントは、 風邪以外の疾患の除外!

•何処の臓器の感染か?

•何という菌が起因菌か?or 起因菌である確率が高いか?

•使用する抗菌薬はどういう菌をカバーするのか?

• 〃 どういう菌をカバーしないのか?

• 〃 の副作用は?相互作用は?

• 〃 の投与量は?腎機能で減量が必要か?

• 〃 の臓器移行性は?

• どの程度の期間治療するのか?

•改善の指標は?その指標の信頼性、特徴は?

•抗菌薬以外の治療:①物理的に菌を減らす ②栄養状態の維持・改善

③免疫力を落とさない

これらを常に考える癖をつける!

抗菌薬を使用する際のポイントお願い

抗菌薬を使用する際のポイントお願い

•臓器 → 起因菌は絞られる。炎症ある箇所は痛い!ことが多い。

臓器症状が乏しい=IE、カテ感染をr/o。血培2セット・UCG・CT等。

•起因菌 → 臓器は絞られる

• (自分も含め非専門医が)日常使いこなすべき抗菌薬は多くない→表を参照

•投与量→表を参照

•移行の悪い臓器は少ない → 中枢神経、眼、前立腺、骨、膿瘍、バイオフィルム

•標準的な治療期間 → 表を参照

•指標はバイタル、Impression、検査の組み合わせ

×:C-Xp、CRP、βD-glu等の正常化は遅い ∴自信あればフォローの検査不要

•抗菌薬以外の治療:①ドレナージ・人工物抜去

②③早期経腸栄養、probiotics/prebiotics、BSコントロール

いつでも参照できるツール

臨床的に重要な細菌分類

嫌気性菌

横隔膜より上 → ペプトストレプトコッカス、フソバクテリウム, 他

横隔膜より下 → バクテロイデス・フラジリス

・・・ほぼ100%βラクタマーゼ産生

グラム陽性桿菌 グラム陰性球菌 コリネバクテリウム

リステリア

(→ 食中毒, 髄膜炎)

ナイセリア(淋菌, 髄膜炎菌)

モラクセラ・カタラーリス

・・・ほぼ100%βラクタマーゼ産生

GNR

腸内細菌群 → E.coli, クレブシエラ, 他

ブドウ糖非発酵菌

→ 緑膿菌, マルトフィリア, 他

GPC ブドウ球菌 → コアグラーゼ試験

陽性 = 黄ブ菌(MSSA,MRSA)

陰性 = CNS(表ブ菌,S.lugdunensis,他)

連鎖球菌 → 肺炎球菌

溶連菌, 腸球菌

その他 耐性が強い

PC感受性

+

-

PC ・

CLDM感 受 性

±

+

各菌に対する抗菌薬選択(=Definitive therapy)

嫌気性菌

横隔膜より上

横隔膜より下

GNR

腸内細菌群

E.coli, クレブシエラ,他・・・ESBL産生(‐),ESBL産生(+)

ブドウ糖非発酵菌 緑膿菌, マルトフィリア

GPC ブドウ球菌 MSSA

MRSA

MR-CNS

連鎖球菌 肺炎球菌 ⇒ PSSP, PISP, PRSP

溶連菌

腸球菌 ⇒ E. faecalis, E. faecium

CEZ(1世代)

VCM

ペニシリン系

PCG大量(1200~2400万U)

カルバペネム系, LVFX, VCM ペニシリン系,CLDM

β-ラクタマーゼ阻害薬配合薬

MNZ, CMZ,カルバペネム系

1~3世代,他

PIPC, CAZ(3世代),4世代,カルバペネム系

ST, MINO

カルバペネム系 (CMZ, βラクタマーゼ阻害薬配合薬が有効なことも多い)

培養検査について

喀痰培養の解釈

・痰培は「質」が大事 1,2 =「唾液培養」・・・評価に値しない

Geckler分類 3 ・・・判断に迷う。誤嚥なら起炎菌と判断可

4,5 =「良質な膿性痰」

6 ・・・判定不可

※ 『 貪食像 』は起炎菌診断の感度は低いが特異度は高い。

しかし100%ではない・・・

◆ 市中発症 ➡ セフトリアキソン®でOK!(∵大抵の口腔内嫌気性菌もカバー)

◆ 口腔内が汚い・膿性痰 ➡ スルバシリン® or ダラシン®

vs 誤嚥性肺炎

•高齢者肺炎の殆どが誤嚥性肺炎

•培養ではGeckler 3:口腔内常在菌

亀田1 ページで読める感染症ガイドライン

抗菌薬の種類よりも予防が予後には影響!!

vs 誤嚥性肺炎

・口腔ケア・・・ 口腔内雑菌の減少 < 口腔内刺激でサブスタンスP放出! 歯が無くても効果あり! ・ACE阻害薬・・・極少量でも効果あり! コバシル®・カプトリル®はアルツハイマー予防効果も! 高齢者にはARB<ACE-I! ・シロスタゾール®・・・アスピリンと比較し肺炎予防効果が有意! 他、半夏厚朴湯®、ガスモチン®も肺炎予防効果あり! ・一方、胃酸抑制薬は肺炎再発リスクあり! CD腸炎含め、感染症予防には粘膜保護薬!

自然に解熱・治癒する 抗菌薬投与せずとも悪化していかない

EARLの医学ノート 抗菌薬以外の誤嚥性肺炎治療

化学性肺臓炎もある!!

培養検査に話を戻して・・・

便培養:入院中に発症した下痢に対しては不要! カンピロバクター・サルモネラ・病原性大腸菌等の検索に使用! (∵ いわゆる 『食中毒菌』 は院内発症はあり得ない・あってはいけない)

院内発症の感染性腸炎➡ Clostridium difficile腸炎(CDI)が殆ど!

➡ CDトキシン(toxin A/B, 抗原) ➡ 軽症:フラジール®、重症:VCM内服 (/10~14日間。再検査は不要)

検出されても起因菌でない可能性あり

・尿培養のCandida,黄ブ菌,腸球菌

・殆どが定着状態で治療対象となり難い ・治療すべき例外的状況は

①症状が強い ②腎移植前後 ③泌尿器科的処置の前後 ④好中球減少症 ⑤妊婦 ⑥菌血症を伴う

・痰培 ・創部 ・長期留置されたドレーン

の Candida,表皮ブ菌

無菌検体以外では・・・

経口抗菌薬について

経口抗菌薬の使い方

①軽症の外来治療

②静注薬からの切り替え

③第一選択薬として

【 選択のポイント 】 Bioavailability(吸収率)が高いこと!

吸収率の高い経口抗菌薬 経口抗菌薬 バイオアベイラビリティ

ペニシリン系 サワシリン®、オーグメンチン® 80% (CVA:30~98%)

第1世代セフェム ケフレックス® 90%

ニューキノロン系 シプロキサン®、クラビット®、アベロックス® 70、99%、89% *

テトラサイクリン系 ミノマイシン® 93~95%

(メトロニダゾール) フラジール® 100%

(ST合剤) バクタ® 85%

リンコマイシン系 ダラシン® 90%

オキサゾリジノン系 ザイボックス® 100%

*制酸剤(Mg、Ca、Al)や鉄剤(Fe)により著明に吸収が低下

サンフォード感染症 治療ガイド2013 マクロライド系 ジスロマック®、クラリス® 37%、50% やや低い:

経口抗菌薬 バイオアベイラビリティ

第3世代セフェム メイアクト®、フロモックス®、(セフゾン®) 16%、不明、(25%)

吸収率の低い経口抗菌薬

サンフォード感染症 治療ガイド2013

第3世代セフェムのその他の特徴 として ・海外では殆ど使われていない=エビデンスに乏しい (IDSAガイドラインでは 『細菌性咽頭炎にセフェム系を使用しないこと』 を推奨) ・日本では大量に誤用されている (例:風邪、気管支炎、咽頭炎、 副鼻腔炎、歯科での予防投与) ・低濃度で広域にカバーする為、耐性化やCDIの原因になる ・副作用も当然ある (重篤な副作用:小児でのカルニチン欠乏による低血糖)

適正使用の第一歩は

適正な診断

非感染性発熱の鑑別

院内発症の非感染性発熱

①アルコール・薬物離脱 ②術後発熱 ③輸血後発熱 ④薬剤熱 ⑤脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血 ⑥副腎不全 ⑦心筋梗塞 ⑧急性膵炎 ⑨無石性胆嚢炎 ⑩腸管虚血・消化管穿孔 ⑪誤嚥性(化学性)肺臓炎 ⑫消化管出血 ⑬急性呼吸促迫症候群 ⑭脂肪塞栓 ⑮深部静脈血栓症・肺塞栓 ⑯痛風・偽痛風 ⑰血腫 ⑱静脈炎・血栓性静脈炎 ⑲造影剤反応 ⑳腫瘍熱 ㉑褥瘡潰瘍

『比較三原則』 ①比較的徐脈 ②比較的元気 ③比較的CRPが低い

ペニシリン系・ セフェム系で多い

症例① •脊損で整形外科入院中

•尿カテ留置中に膿尿と発熱が出現

•抗菌薬投与するも解熱せずコンサルト

症例② •大腸癌に対して腸切+ストーマ造設術後

•術後2週間目、退院前日に発熱とWBC 30000/μlの上昇を認めコンサルト

診断 深部静脈血栓症

診断 Clostridium difficile腸炎

上級医への正しい突っ込み

「取り敢えずカルバペネム使っとこう!」

「効いてるみたいだからカルバペネム続けよう!」

「ゾシン®が効かないからカルバペネムに変更しよう!」

「カルバペネムで熱が下がらない、どうしよう?」

「CRP ○○mg/dlで下がり止まったけどいつまで続けよう?」

➡ カルバペネムはESBL産生菌や 敗血症性ショックに取って置きましょう

➡ 感受性が良く、経過も良いから 狭域な抗菌薬、経口薬に替えましょう

➡ 殆どカバー範囲は変わりません。E.faeciumやMRSA、Candidaの関与を疑いましょう

➡ E.faecium、MRSA、Candida以外にWBC高値・下痢があればCD腸炎 元気なら薬剤熱、偽痛風、DVTなどを鑑別しましょう

➡ 元気そうだし標準治療期間も満たしているのでやめましょう