日赤新労 -日本赤十字新労働組合連合会-発行所 発行責任者 山 本 俊 一 日本赤十字新労働組合連合会 (日赤新労) 東京都港区芝大門1-16-11茶乃木ビル5F
抗菌薬の適正使用 - 日本赤十字社 松山赤十字病院 Control Team...
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しばしば耳にする上級医の声
「取り敢えずカルバペネム使っとこう!」
「効いてるみたいだからカルバペネム続けよう!」
「ゾシン®が効かないからカルバペネムに変更しよう!」
「カルバペネムで熱が下がらない、どうしよう?」
「CRP ○○mg/dlで下がり止まったけどいつまで続けよう?」
これらに 『正しく』 突っ込み、返答出来るようになろう!
耐性化を回避するために・・・
・ターゲットを絞る = 狭域な抗菌薬を選ぶ
・確実に治癒させる = 十分量を投与
・ダラダラ続けない = 標準的な治療期間を参考にする
耐性化し易い代表的な菌2つは?
緑膿菌・結核菌
緑膿菌が起因菌になることは多くない!
CNS :61件
・コンタミ or
カテ感染
緑膿菌 :6件
カンジダ :4件
・比較的稀
・免疫不全
腸内細菌群 :115件
MRSA/MSSA :51件
連鎖球菌/腸球菌 :44件
嫌気性菌 :26件
血流感染の主要な菌
・術後 or
カテ感染
/総計327件 当院・平成25年度データ
耐性化を回避するためには・・・ 無駄に緑膿菌をカバーしない!
例外)好中球減少、緑膿菌定着あり、 COPD・間質性肺炎等の肺に基礎疾患
抗緑膿菌活性のある抗菌薬
カルバペネム系 :90∼94%
ゾシン®(T/P) :93%
ワイスタール®(C/S) :90%
ピペラシリン(PIPC) :89%
ニューキノロン系 :92~93%
第4世代セフェム :91~95%
セフタジジム®(CAZ) :96%
アミノグリコシド系 :80~99%
当院・平成26年度上半期データ
一旦、休憩・・・
Q1. 風邪ひいて抗菌薬を飲んだことは?
Q2. 風邪を100%治せる自信は?
A1. クスリが要らないのが 『風邪』
A2. 自然に治るのが 『風邪』
『風邪』 診療の唯一のポイントは、 風邪以外の疾患の除外!
•何処の臓器の感染か?
•何という菌が起因菌か?or 起因菌である確率が高いか?
•使用する抗菌薬はどういう菌をカバーするのか?
• 〃 どういう菌をカバーしないのか?
• 〃 の副作用は?相互作用は?
• 〃 の投与量は?腎機能で減量が必要か?
• 〃 の臓器移行性は?
• どの程度の期間治療するのか?
•改善の指標は?その指標の信頼性、特徴は?
•抗菌薬以外の治療:①物理的に菌を減らす ②栄養状態の維持・改善
③免疫力を落とさない
これらを常に考える癖をつける!
抗菌薬を使用する際のポイントお願い
抗菌薬を使用する際のポイントお願い
•臓器 → 起因菌は絞られる。炎症ある箇所は痛い!ことが多い。
臓器症状が乏しい=IE、カテ感染をr/o。血培2セット・UCG・CT等。
•起因菌 → 臓器は絞られる
• (自分も含め非専門医が)日常使いこなすべき抗菌薬は多くない→表を参照
•投与量→表を参照
•移行の悪い臓器は少ない → 中枢神経、眼、前立腺、骨、膿瘍、バイオフィルム
•標準的な治療期間 → 表を参照
•指標はバイタル、Impression、検査の組み合わせ
×:C-Xp、CRP、βD-glu等の正常化は遅い ∴自信あればフォローの検査不要
•抗菌薬以外の治療:①ドレナージ・人工物抜去
②③早期経腸栄養、probiotics/prebiotics、BSコントロール
臨床的に重要な細菌分類
嫌気性菌
横隔膜より上 → ペプトストレプトコッカス、フソバクテリウム, 他
横隔膜より下 → バクテロイデス・フラジリス
・・・ほぼ100%βラクタマーゼ産生
グラム陽性桿菌 グラム陰性球菌 コリネバクテリウム
リステリア
(→ 食中毒, 髄膜炎)
ナイセリア(淋菌, 髄膜炎菌)
モラクセラ・カタラーリス
・・・ほぼ100%βラクタマーゼ産生
GNR
腸内細菌群 → E.coli, クレブシエラ, 他
ブドウ糖非発酵菌
→ 緑膿菌, マルトフィリア, 他
GPC ブドウ球菌 → コアグラーゼ試験
陽性 = 黄ブ菌(MSSA,MRSA)
陰性 = CNS(表ブ菌,S.lugdunensis,他)
連鎖球菌 → 肺炎球菌
溶連菌, 腸球菌
その他 耐性が強い
PC感受性
+
-
PC ・
CLDM感 受 性
±
+
各菌に対する抗菌薬選択(=Definitive therapy)
嫌気性菌
横隔膜より上
横隔膜より下
GNR
腸内細菌群
E.coli, クレブシエラ,他・・・ESBL産生(‐),ESBL産生(+)
ブドウ糖非発酵菌 緑膿菌, マルトフィリア
GPC ブドウ球菌 MSSA
MRSA
MR-CNS
連鎖球菌 肺炎球菌 ⇒ PSSP, PISP, PRSP
溶連菌
腸球菌 ⇒ E. faecalis, E. faecium
CEZ(1世代)
VCM
ペニシリン系
PCG大量(1200~2400万U)
カルバペネム系, LVFX, VCM ペニシリン系,CLDM
β-ラクタマーゼ阻害薬配合薬
MNZ, CMZ,カルバペネム系
1~3世代,他
PIPC, CAZ(3世代),4世代,カルバペネム系
ST, MINO
カルバペネム系 (CMZ, βラクタマーゼ阻害薬配合薬が有効なことも多い)
喀痰培養の解釈
・痰培は「質」が大事 1,2 =「唾液培養」・・・評価に値しない
Geckler分類 3 ・・・判断に迷う。誤嚥なら起炎菌と判断可
4,5 =「良質な膿性痰」
6 ・・・判定不可
※ 『 貪食像 』は起炎菌診断の感度は低いが特異度は高い。
しかし100%ではない・・・
◆ 市中発症 ➡ セフトリアキソン®でOK!(∵大抵の口腔内嫌気性菌もカバー)
◆ 口腔内が汚い・膿性痰 ➡ スルバシリン® or ダラシン®
vs 誤嚥性肺炎
•高齢者肺炎の殆どが誤嚥性肺炎
•培養ではGeckler 3:口腔内常在菌
亀田1 ページで読める感染症ガイドライン
抗菌薬の種類よりも予防が予後には影響!!
vs 誤嚥性肺炎
・口腔ケア・・・ 口腔内雑菌の減少 < 口腔内刺激でサブスタンスP放出! 歯が無くても効果あり! ・ACE阻害薬・・・極少量でも効果あり! コバシル®・カプトリル®はアルツハイマー予防効果も! 高齢者にはARB<ACE-I! ・シロスタゾール®・・・アスピリンと比較し肺炎予防効果が有意! 他、半夏厚朴湯®、ガスモチン®も肺炎予防効果あり! ・一方、胃酸抑制薬は肺炎再発リスクあり! CD腸炎含め、感染症予防には粘膜保護薬!
自然に解熱・治癒する 抗菌薬投与せずとも悪化していかない
EARLの医学ノート 抗菌薬以外の誤嚥性肺炎治療
化学性肺臓炎もある!!
培養検査に話を戻して・・・
便培養:入院中に発症した下痢に対しては不要! カンピロバクター・サルモネラ・病原性大腸菌等の検索に使用! (∵ いわゆる 『食中毒菌』 は院内発症はあり得ない・あってはいけない)
院内発症の感染性腸炎➡ Clostridium difficile腸炎(CDI)が殆ど!
➡ CDトキシン(toxin A/B, 抗原) ➡ 軽症:フラジール®、重症:VCM内服 (/10~14日間。再検査は不要)
検出されても起因菌でない可能性あり
・尿培養のCandida,黄ブ菌,腸球菌
・殆どが定着状態で治療対象となり難い ・治療すべき例外的状況は
①症状が強い ②腎移植前後 ③泌尿器科的処置の前後 ④好中球減少症 ⑤妊婦 ⑥菌血症を伴う
・痰培 ・創部 ・長期留置されたドレーン
の Candida,表皮ブ菌
無菌検体以外では・・・
吸収率の高い経口抗菌薬 経口抗菌薬 バイオアベイラビリティ
ペニシリン系 サワシリン®、オーグメンチン® 80% (CVA:30~98%)
第1世代セフェム ケフレックス® 90%
ニューキノロン系 シプロキサン®、クラビット®、アベロックス® 70、99%、89% *
テトラサイクリン系 ミノマイシン® 93~95%
(メトロニダゾール) フラジール® 100%
(ST合剤) バクタ® 85%
リンコマイシン系 ダラシン® 90%
オキサゾリジノン系 ザイボックス® 100%
*制酸剤(Mg、Ca、Al)や鉄剤(Fe)により著明に吸収が低下
サンフォード感染症 治療ガイド2013 マクロライド系 ジスロマック®、クラリス® 37%、50% やや低い:
経口抗菌薬 バイオアベイラビリティ
第3世代セフェム メイアクト®、フロモックス®、(セフゾン®) 16%、不明、(25%)
吸収率の低い経口抗菌薬
サンフォード感染症 治療ガイド2013
第3世代セフェムのその他の特徴 として ・海外では殆ど使われていない=エビデンスに乏しい (IDSAガイドラインでは 『細菌性咽頭炎にセフェム系を使用しないこと』 を推奨) ・日本では大量に誤用されている (例:風邪、気管支炎、咽頭炎、 副鼻腔炎、歯科での予防投与) ・低濃度で広域にカバーする為、耐性化やCDIの原因になる ・副作用も当然ある (重篤な副作用:小児でのカルニチン欠乏による低血糖)
院内発症の非感染性発熱
①アルコール・薬物離脱 ②術後発熱 ③輸血後発熱 ④薬剤熱 ⑤脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血 ⑥副腎不全 ⑦心筋梗塞 ⑧急性膵炎 ⑨無石性胆嚢炎 ⑩腸管虚血・消化管穿孔 ⑪誤嚥性(化学性)肺臓炎 ⑫消化管出血 ⑬急性呼吸促迫症候群 ⑭脂肪塞栓 ⑮深部静脈血栓症・肺塞栓 ⑯痛風・偽痛風 ⑰血腫 ⑱静脈炎・血栓性静脈炎 ⑲造影剤反応 ⑳腫瘍熱 ㉑褥瘡潰瘍
『比較三原則』 ①比較的徐脈 ②比較的元気 ③比較的CRPが低い
ペニシリン系・ セフェム系で多い
症例① •脊損で整形外科入院中
•尿カテ留置中に膿尿と発熱が出現
•抗菌薬投与するも解熱せずコンサルト
症例② •大腸癌に対して腸切+ストーマ造設術後
•術後2週間目、退院前日に発熱とWBC 30000/μlの上昇を認めコンサルト
診断 深部静脈血栓症
診断 Clostridium difficile腸炎
上級医への正しい突っ込み
「取り敢えずカルバペネム使っとこう!」
「効いてるみたいだからカルバペネム続けよう!」
「ゾシン®が効かないからカルバペネムに変更しよう!」
「カルバペネムで熱が下がらない、どうしよう?」
「CRP ○○mg/dlで下がり止まったけどいつまで続けよう?」
➡ カルバペネムはESBL産生菌や 敗血症性ショックに取って置きましょう
➡ 感受性が良く、経過も良いから 狭域な抗菌薬、経口薬に替えましょう
➡ 殆どカバー範囲は変わりません。E.faeciumやMRSA、Candidaの関与を疑いましょう
➡ E.faecium、MRSA、Candida以外にWBC高値・下痢があればCD腸炎 元気なら薬剤熱、偽痛風、DVTなどを鑑別しましょう
➡ 元気そうだし標準治療期間も満たしているのでやめましょう