情報経済システム論 : 第 11 回
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23/04/21 情報経済システム論
情報経済システム論:第 11回
担当教員 黒田敏史
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23/04/21 情報経済システム論
構造推定アプローチ• ミクロデータを用いた経済分析の類型(市村 , 2010)– 1・特定の経済モデルとは直結せず、できる限り現実をそのままに捉えようとする
– 2・特定の経済モデルとは直結しない形で、何かを行った事に対する効果(政策効果)を捉える
– 3・ある経済モデル(選択、意思決定)に関するパラメータを推定し、人々や企業がどのような行動様式を取っているかを捉える
– 4・ある経済モデルの検証、あるいは政策効果がどのような仕組みで効果を持つに至ったかを検証する
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構造推定アプローチ• 構造推定アプローチとは
– 構造モデルの推定とは、理論モデルのパラメータを推定する事である
• エージェントの目的関数を推定する事を構造推定と呼ぶ事もあるが、例えば均衡が複数あるときに、ある均衡が選ばれる確率を推定する場合にはこの定義は当てはまらなくなる
– 理論モデルパラメータの推定の利点• 複雑な反実仮想(反事実的状況)の予測を可能とする
–コスト• モデル・均衡・誤差項等に強い仮定が必要となる• 数値計算負荷が大きい
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構造推定アプローチ• なぜ構造推定アプローチが必要か
– 計量経済分析におけるルーカス批判– 政策効果の測定で効果が認められたものが、多の状況下でも同様の政策効果を期待することができるか?
– 不況に突入する前の貯蓄率を元に、政府が有効需要創出のための財政支出を行ったとしても、人々は不況以前とは異なる貯蓄行動を取るのではないか?
– 制度・政策設計における人々の反応を知るためには、制度・政策に依存しない人々の行動原理を知る事が必要
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構造推定アプローチ• 経済モデルパラメータの推定
– 経済モデルの基礎は人々の意思決定に置かれる
– 市場における価格と人々の購入量の変化を観察することは比較的容易である
– 企業の財務データ・企業活動基本調査等から大まかな財分類ごとの生産量を知る事はできるが、製品レベルの生産量を把握する事はできない事が多い
– 需要関数(個々人の行動原理)の正確な推定と、モデルから表される企業行動の組み合わせによる分析アプローチが行われる事が多い
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– 識別性の問題– 需要関数 – 供給関数– 数量を価格に回帰する線型モデル
– 推定結果は需要曲線か、それとも供給曲線か?
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ss s sq p
dd d dq p
q p
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– 市場で観察されるのは、需要関数と供給関数の交点である
– 需要曲線の推定のためには、– 1・同一の需要曲線上にある、供給曲線のシフトによって得られたデータ
– 2・同一の供給曲線状にある、需要曲線のシフトによって得られたデータ
–を識別する必要がある
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– モデルに一方の関数のみに影響を与える変数を追加する
– 需要関数のみに影響を与える変数 Y– 供給関数のみに影響を与える変数 Z– 価格、数量についてそれぞれ解く
– 価格・数量を Y、 Zに回帰したパラメータより需要曲線、供給曲線のパラメータを得る
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dp y dq p Y
sp z sq p Z
*1 2 1
d sY Z
P P P P P P
p Y Z AY A Z u
*1 2 1
Z p P d P sP Y
P P P P P P
q Y Z BY B Z u
1 1 2 2 1 22 1
1 1 2 2 1 2
, , ,P Z P Y
B B B B B BA A
A A A A A A
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– 識別条件• 複数の内生変数から構成される方程式体系を識別するためには、内生変数と同じ数以上の外生変数が必要である
– 内生変数• 需給同時決定問題における価格・数量のように、モデルの解として得られる変数
– 外生変数• 先の例における Y、 Zのように、モデルから独立に定まる変数
• 特定の財における需給同時決定問題では、 Yに所得、Zに天候や為替等の投入物費用等が用いられる
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– 完全競争市場の場合• 市場の集計量から価格・数量、その他外生変数を取得し、構造方程式を推定すれば良い
– 市場支配力が存在する場合• 企業の価格付け(供給)は、需要関数を所与としたときの、企業間のゲームの解として得られる
• ゲームの違いは供給曲線の関数型の違いとなる• このとき、先の同時方程式モデルで得られたパラメータ群は、異なるゲームの複数の需要・供給曲線の解と解釈されうる
• ゲームの構造の特定化が誤っていれば、推定される需要曲線も誤りとなる
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
–モデルを外生変数に解かず、内生変数を含んだままのモデルから、一致推定量を得る事を考える
– 線形回帰モデル( OLS)が一致性を持つためには、説明変数は誤差項と無相関である事が必要である
– 需給同時決定問題において、需要関数のみを推定する場合、供給曲線が存在する事によって価格が内生変数となる(誤差項と相関を持つ)
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– 需給同時決定による内生性– を単独で推定する場合を考える
– 需給同時決定から得られた均衡価格決定式
–このとき、
– 需要曲線単一の OLSは一致推定量では無い
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* d sY Z
P P P P P P
p Y Z
dp y dq p Y
2
cov( , ) cov , 0d sd d
P P P P
p
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– 2段階最小二乗法– 需要関数の推定において、 の代わりに、 を用いる
– 均衡価格決定式の期待値から、– 従って、
– 二段階最小二乗法 • この推定量は一致性を持つが、不偏性を持たない• 標本数が十分に大きければ、供給曲線を明示せずに需要曲線の一致推定量を得る事ができる
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*p *( )E p
*( ) Y Z
P P P P
E p Y Z
*cov( , ) 0dp
*dp y dq p Y
*2
ˆ arg minSLS p yq p Y
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– 2段階最小二乗法のステップ• 1・需要曲線を定式化する• 2・価格に影響を与えるが、需要に影響を与えない変数(企業のコスト変数など)を用いて、均衡価格決定式を回帰する
• 3・均衡価格決定式の回帰結果から得られた価格の予想値を価格の代わりに用いて、需要関数を OLS推定する
• OLSの分散は真の分散からバイアスを持つので、バイアスを補正する必要がある
• 大抵のパッケージソフトウェアには 2SLSの係数と不偏分散を求めるコマンドが用意されている
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– 価格決定式の回帰のみに用いられる外生変数のことを、操作変数と呼ぶ
– 操作変数の関連性( relevance)• 操作変数は、価格に対して十分な説明力があるか
– 操作変数の妥当性 (validity)• 操作変数は、需要に直接的な影響を持たないか
–いずれかが満たされない場合、推定値はバイアスを持つ
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– 操作変数の関連性の確認• 価格決定式の F検定を行い、回帰式が説明力を持つことを示す
– 操作変数の妥当性の確認• 2SLSのように、操作変数が回帰式に含まれる内生変数の数と等しい場合、妥当性を検証することは不可能である。
• この場合、 OLSと 2SLSの推定結果を比較し、推定結果が変わらない場合はより効率的な OLSを用いればよい。(但し一致性は保証されない)
• GMMと呼ばれるより多くの操作変数を用いるモデルであれば、検定が存在する。
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– その他の推定方法• Stata、 Eviews等には、内生変数を含んだモデルを推定知るためのコマンドとして、 2SLSの他、操作変数法、制限情報最尤法( LIML)、 GMM等が用意されている
– 操作変数推定法• 真のパラメータの元では、誤差項と外生変数は直交するはずである。外生変数と内生変数に強い相関があれば、外生変数の十分な変動は内生変数の変化についての十分な情報を持つはずである。
• 操作編推定量 は確率極限において、であり、 xが yに与える影響の一致推定量となる
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ˆ cov( , ) cov( , )IV z y z x ˆlim( ) lim(cov( , ) cov( , )) cov( , ) cov( , )IVp p z y z x x y z x
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
–その他の推定方法– 一般化積率法( GMM)
• 誤差項と外生変数が直交する事に着目し、
• このとき、操作変数 zが方程式の数より多く存在する時、全ての方程式を満たすパラメータは存在しないが、全体としての誤差を最小にする推定量を求める
• 方程式が 1本、操作変数 zが 1本の時は操作変数推定法と同じ推定量となる
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' '( ' ) 0i i i i iE z E z y x
1 1
1 1ˆ ˆarg min 'I I
GMM i i i ii i
z W zn n
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
–その他の推定方法– 一般化積率法( GMM)における操作変数の妥当性
– 操作変数は を満たすはずである
– 検定統計量
はモーメント条件式の数を自由度とするカイ二乗分布に従う
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'( ' ) 0E z y x
1
2
21 1 1
1 1 1ˆ ˆ ˆ ˆ' ' ' ' ' ' 'I I I
GMM i GMM i i SLS i GMMi i i
Q z y x z z y x z y xn N n
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
–その他の推定方法– 制限情報最尤推定( LIML)
• 2SLSと漸近的には一致するが、操作変数に置くウエイトが異なっており、有限標本において 2SLSやGMMよりもバイアスが少ない事が知られている
• 推定量は以下の k-class estimatorと呼ばれる推定量の特殊ケースである
kは の最小の固有値
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1 1ˆ ' 'LIML z zX I kM X I kM y
1( ' )zM I Z Z Z Z
1
1/2 1/2' ' 'Z X ZY M Y Y M Y Y M Y
1
1( ' )XM I X X X X
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– Angrist and Pischke (2009)による 2SLS、 GMM、LIMLの比較
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– Angrist and Pischke (2009)による 2SLS、 GMM、LIMLの比較
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構造推定アプローチ• 需要関数の推定
– Angrist and Pischke (2009)による 2SLS、 GMM、LIMLの比較
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