(1)題 材 観
本題材は,中学校学習指導要領 第2学年 B 鑑賞(1) 「ア 音楽を形づくっている要素や構造と曲想との
かかわりを理解して聴き,根拠をもって批評するなどして,音楽のよさや美しさを味わうこと」,「イ 音楽の特
徴をその背景となる文化・歴史や他の芸術と関連付けて理解して,鑑賞すること」に関する題材である。
1学期に,「夏の思い出」を学習し,a a‘b a‘の2部形式を学習している。また,小学生の時に,本物のオー
ケストラの音楽を鑑賞する体験もしている。今回取り上げる交響曲第5番,第9番は,誰もが一度は耳にしたこ
とのある,親しみのある曲である。これらの曲が,なぜ国境や時代を越えて人々を惹き付けているのか,歌詞
と音楽から,ベートーヴェンの曲に込めた思いを感じ取ったり,ソナタ形式を知覚・感受しながら,音楽を形作
っている要素や構造と曲想との関わりを理解して,解釈したり価値を考えたりするなど,音楽のよさを感じ取る
ことができ,鑑賞の学習に適している題材である。
(2)本題材において育成しようとする資質・能力とのかかわり
本校として,以下の資質・能力の育成に重点を置いている。
この中から,本題材において育成しようとする資質・能力とのかかわりについて,次の2点に重点を置くものとする。
【意 欲 ・ 態 度 】
⑤ 主 体 性
ベートーヴェンの曲に込めた思いと,曲想との関わりに関心を持ち,鑑賞する学習に主体的に取り組もうと
している。
オーケストラの響き,楽曲構成と曲想の美しさとの関わりに関心を持ち,鑑賞する学習に主体的に取り組も
うとしている。
【価値観・倫理観】
⑦ 感 性
歌詞と音楽から,ベートーヴェンの曲に込めた思いを感じ取る。ベートーヴェンの曲に込めた思いやソナタ
形式を知覚し,それらのことが生み出す特徴や雰囲気を感受することができる。
知覚・感受しながら,音楽を形作っている要素や構造と曲想との関わりを理解して,解釈したり価値を考え
たりするなど,音楽のよさや美しさを味わうことができる。
音楽 第2学年 世羅町立世羅西中学校 指導者 村本 和美
題材名
本題材で育成する資質・能力
主体性, 感性
「ベートーヴェンの音楽」 ~曲の美しさの理由や魅力を探ろう~
1 題材について
【 知 識 】 生きて働く知識・技能
【ス キ ル】 ①課題発見・解決力 ②創 造 力 ③コミュニケーション能力
【意 欲 ・ 態 度】 ④コラボレーション能力 ⑤主 体 性
【価値観・倫理観】 ⑥郷 土 愛 ⑦感 性
(3)生 徒 観(調査結果から見る課題)
アンケートを見ると,鑑賞の活動については,全員が肯
定的な回答をしているが,音楽の構成やまとまりを考えるこ
とについては,否定的な意見が半数を占めている。このこと
から,楽しんで鑑賞する活動は好きだが,構成と曲想との関
わりを考えたり,様々な音楽的要素が生み出す雰囲気を感
じ取り,根拠を持って批評したりすることは苦手としている生
徒が多いことが分かる。また,作曲者について調べたり,思
いを考えたりすることについては,それほど抵抗感はないこ
とが分かる。
(4)指 導 観(指導改善のポイント)
指導にあたっては,1学期に学習した a a‘b a‘の2部形式や,2学期に合唱表現において学習したシンコペー
ションのリズムを思い起こしながら授業を進める。
音楽の形式についての学習はやや難解な部分があるので,学習の意欲付けのためにも,題材の始めに,12
月に日本各地で演奏される「第九」を取り上げ,作曲者の思いや,時代背景,生涯などから興味を持たせ,課題
に取り組ませていきたい。
次に,ソナタ形式の特徴が分かりやすいベートーヴェン作曲「交響曲第 5番ハ短調」を取り上げ,動機の反復
や対比によって音楽が構成されていく特徴を楽しんで学習させ,曲の構成の美しさを感じ取らせたい。
また,指揮者による演奏の違いや,オーケストラの楽器など,を学習することにより,交響曲をより身近に感じ
られるようにしたい。
(1)題材の目標
交響曲の美しさを理解し味わう。
○ ベートーヴェンの生き方を知り,音楽との関わりを感じ取る。
○ 曲の仕組み(ソナタ形式)と曲想の関わりを理解し,全曲を通した統一感などのよさを味わう。
○ 演奏者や指揮者による表現の違いを感じ取る。
(2)題材の評価規準
音楽への
関心・意欲・態度 鑑賞の能力
○ベートーヴェンの曲に込めた思いと,曲想との関わり
に関心を持ち,鑑賞する学習に主体的に取り組もうと
している。
○オーケストラの響き,ソナタ形式と曲想との関わりに
関心を持ち,鑑賞する学習に主体的に取り組もうとし
ている。
○ベートーヴェンの曲に込めた思いやソナタ形式を知
覚し,それらのことが生み出す特徴や雰囲気を感受
している。
○知覚・感受しながら,音楽を形作っている要素や構
造と曲想との関わりを理解して,解釈したり価値を考
えたりするなど,音楽のよさや美しさを味わって聴い
ている。
2 題材の目標と評価規準
10
40
60
50
60
30
30 20
0% 20% 40% 60% 80% 100%
作曲者について調べるの
は好きですか
音楽の構成やまとまりを
考えるのは好きですか
鑑賞の授業は好きですか
生徒アンケート
とても当てはまる やや当てはまる
あまり当てはまらない 全く当てはまらない
(全3時間)
次 学習内容 評価 生徒の
反応 関 工 技 鑑 評価規準 資質・能力の評価
(評価方法)
1
ベートーヴェンの曲はな
ぜ人々を引き付けてい
るのか。
交響曲第九番「合唱」の鑑賞
・ベートーヴェンの曲に込め
た思いや生き方を知る。
【本時】
◎
〇
・ベートーヴェンの曲に
込めた思いと,曲想と
の関わりに関心を持
ち,鑑賞する学習に主
体的に取り組もうとし
ている。
・ベートーヴェンの曲に
込めた思いを知覚し,
それらのことが生み出
す特徴を感受してい
る。
【意欲・態度】
⑤主体性
(行動観察)
【価値観・倫理観】
⑦感性
(ワークシート)
よく聴く曲
だな。
ベートーヴ
ェンは人間
の喜びは何
かというこ
とを表す詩に感動して
音楽を付けたんだね。
2
交響曲の構成の美しさ
の秘密を探ろう。
交響曲第五番ハ短調 1 楽章
の鑑賞
・ソナタ形式について知る。
〇
◎
・ソナタ形式と曲想との
関わりに関心を持ち,
鑑賞する学習に主体的
に取り組もうとしてい
る。
・ソナタ形式を知覚し,
それらのことが生み出
す特徴や雰囲気を感受
している。
【意欲・態度】
⑤主体性
(行動観察)
【価値観・倫理観】
⑦感性
(ワークシート)
ソナタ形式
って何だろ
う?むずか
しいな。
何度も主題が変化しな
がら出てき
て,まとまり
があるな。
3
オーケストラによる演奏の効果
・楽器の役割
・自分の考えをまとめ,交
流する。
〇
◎
・オーケストラの響きと
曲想との関わりに関心
を持ち,鑑賞する学習
に主体的に取り組もう
としている。
・知覚・感受しながら,音
楽を形作っている要素
や構造と曲想との関わ
りを理解して,解釈し
たり価値を考えたりす
るなど,音楽のよさや
美しさを味わって聴い
ている。
【意欲・態度】
⑤主体性
(行動観察)
【価値観・倫理観】
⑦感性
(ワークシート)
オーケスト
ラにはいろ
んな楽器が
あるな。
それぞれの
楽器の特徴
を生かして
役割を持っているんだ
な。指揮者によって同じ
曲でも演奏から受ける
感じが違うんだな。
3 指導と評価の計画
情報の収集
課題の設定
整理・分析
協調学習を
取り入れた授業
情報の収集
まとめ・創造・表現
振り返り
(1)本時の目標
交響曲第九番「合唱」を鑑賞し,ベートーヴェンの曲に込めた思いや生き方を知り,作曲者の思いと歌詞
や曲想との関わりを感じ取ることができる。
(2)準備物
ワークシート(個人,エキスパート資料用,ジグソー活動用),DVD(導入・エキスパート資料用・ジグソー活動用)
(3)本時の学習展開
●ねらい-まとめ ■言語活動 ★発声 ▲熟考・表現タイム □ドリル
学習活動 指導上の留意事項 評価規準
(評価方法) 資質・能力の評価 (評価方法)
○知識を確認する。
・ ベートーヴェンの肖像画を見て,
誰か答える。
・ 知っている曲を発表したり,イント
ロを聞いたりして,自分たちが聞
いたことがある作曲家であることを
確認する。
○毎年行われている「第九広島」の
ビデオを見る。
○ビデオの感想を書く。
〇数名,発表する。
○本時の課題を確認する。
【エキスパート活動】
○エキスパート資料を読み,問いの
答えを考える。
○小さな子供から 90 代の方ま
で 1700 人近くの人が集まっ
て毎年歌っていることを理解
させる。
〇意図的指名で本時の課題に
近づける。
■エキスパート資料について
は,自分の考えを持たせた
いため,グループで話し合う
前に自分で書かせる。
○ベートーヴェンの
曲に込めた思い
と,曲想との関わ
りに関心を持ち,
鑑賞する学習に
主体的に取組もう
としている。
【意欲・態度】
⑤主体性
(行動観察)
1 これまでの復習をする。(5分)
2 本時の課題を設定し,問題を解決する。(35分)
課題の設定
情報の収集
なぜベートーヴェンの第九は,国境や時代を越えて,たくさんの人を惹き付けているのだろう?
A:交響曲第九番ニ短調「合唱」の歌詞を知る。
B:思いを伝えるための作曲の工夫を感じ取る。
C:ベートーヴェンの生き方や時代背景を知る。
4 本時の学習
(4)板書計画
【ジグソー活動】
▲エキスパート活動で分かったこと
を説明し合い,課題に取り組む
【クロストーク】
■各班で話し合ったことを全体で発
表する。
○よくわからないことがあって
も,ジグソー活動で相談さ
せるようにする。
○ジグソー活動での様子を把
握しておき,不十分な答えに
とどまっている班から意図的
に指名し,発表させる。
○もう一度「第九」合唱部分(抜粋)
を聴く。
○再び,個人で解答を書く。
○クロストークまで聞いた解答か
ら,自分なりの言葉で書かせる。
○ベートーヴェンの
曲に込めた思い
を知覚し,それら
のことが生み出
す特徴を感受し
ている。
【価値観・倫理観】
⑦感性
(ワークシート)
○本時での学びを踏まえ,次時の
学習につながる振り返りをする。
○振り返りカードに記入させ
る。
ベートーヴェン作曲
交響曲第九番「合唱」の鑑賞
整理・分析
まとめ・創造・表現
3 本時の学習を振り返り,次時の学習の確認をする。(10分)
実行
振り返り
ジグソー班 配置図
●期待する生徒の解答 ・市民が苦しむ生活を目の当たりにしていたとき,「すべての人々は兄弟になる」という人類の自由
と平等を表現したシラーの詩に感動し,いつか音楽にしたいと思った気持ちが伝わってくる。
・「すべての人々は兄弟になる」という歌詞を入れるために,交響曲に合唱を付けている。
・特に「すべての人々は兄弟になる」という歌詞の部分を強調するために,シンコペーションを使
い,一番大切に思っている言葉が強調することで,気持ちが伝わってくる。
・耳が聞こえないという苦しみを乗り越え,構想から 30年後に演奏が実現したということから,この
曲への強い気持ちが伝わってくる。
ベートーヴェンの曲に込めた思いや生き方を感じ取ろう。
エキスパート班 配置図
🎹🎹年末の風物詩「第九」の魅力を探る🎹🎹
2年 番 氏名( )
交響曲第九番「合唱」の鑑賞
~ベートーヴェンの曲に込めた思いを感じ取ろう~
🌼🌼ジグソー活動前🌼🌼
「第九広島」のビデオを見た感想を書こう。
🌼🌼ジグソー活動後🌼🌼
なぜベートーヴェンの「第九」は,国境や時代を越えて人々を惹きつけているのだろう?
🌼🌼ジグソー活動を終えて🌼🌼
授業の感想を書いてください。
ッハ
ダイネ ツァオベル ビンデン ヴィーデル ヴァス ディー モーデ シュトレン ゲタイルト
Deine Zauber binden wieder, was die Mode streng geteilt;
人間が厳しく分けたもの(身分)は,神の力によって再び一つとなる。
アッレ メンシェン ヴェルデン ブリューデル ヴォー ダイン ザンフテル フリューゲル ヴァイルト
alle Menshen werden Brüder, wo dein sanfter Flügel weilt.
全ての人々は(神様の柔らかな翼のもとで)兄弟になる。
✿エキスパート資料A✿
「第九」の歌詞に使われたのは,
シラー(ドイツの詩人)の詩「歓喜によせて」です。
ベートーヴェンは,十代のころから自分の家族を支えるために働いてきました。
音楽の都ウイーンに出てからは,食べるものも十分にない市民の苦しい生活や,家庭教師で行
った貴族の家のぜいたくな生活を見ているうちに,貴族や平民を分けた身分制度に疑問を持つよ
うになりました。
そんな時に出会った,シラーの詩に感動し,その詩に音楽を付けようと心に決めました。それ
からなんと30年後,ついにその夢を果たすことができたのです。
シラーの詩「歓喜に寄せて 」の,一部歌詞を紹介します。
✿ベートーヴェンはなぜこの詩に感動し,音楽を付けようとしたのだろう。
アッレ メンシェン ヴェルデン ブリューデル
alle Menshen werden Brüder, 全ての 人々 ~になる 兄弟
✿エキスパート資料B✿ 音楽を比べてみよう。
①4拍子を普通に演奏すると次のようになるよ。(音楽データを聞いてみよう)
しかし!
②ベートーヴェンは「アッレメンシェン」の「ア」を前の小節に食い込ませている!
✿資料②で,ベートーヴェンはどの歌詞の部分で,どんな作曲の工夫をしているだろう?
✿なぜベートーヴェンは②のようにしたのだろう?
ダイネ ツァオベル ビンデン ヴィーデル ヴァス ディー モーデ シュトレン ゲタイルト
Deine Zauber binden wieder, was die Mode streng geteilt;
人間が厳しく分けたもの(身分)は,神の力によって再び一つとなる。
アッレ メンシェン ヴェルデン ブリューデル ヴォー ダイン ザンフテル フリューゲル ヴァイルト
alle Menshen werden Brüder, (wo dein sanfter Flügel weilt)
全ての人々は 兄弟になる (神様の柔らかな翼のもとで)
✿エキスパート資料C✿
この曲の作曲者は,
です。
✿どんな人? (教科書P37を見て確認しよう)
・18世紀後半( )(国名)で生まれました。
・十代のころから,自分の家族を支えるために演奏活動をして働いていました。
・貴族のほかにも,市民のために演奏会を開いたり,作曲をしたりして,収入を得ていました。
・20代後半から ( ) の障害に苦しみました。
➡耳をピアノに押し付けて作曲をしていました。
➡音楽家なのに耳が聞こえないことを知られたくない。友達を避け,孤独に・・・
➡一時は遺書まで書きました。
・音楽の中心都市ウイーンに出てからは,食べるものも十分にない市民の苦しい生活や,家庭教師で行った貴
族の家のぜいたくな生活を見ているうちに,貴族や平民を分け,身分が違う人との結婚なども禁じる身分制
度に疑問を持つようになりました。
・このころは,近くの国フランスで,市民が王様を倒す革命が起きたため,取り締まりが厳しく,この作曲者
も常に見張られていました。
・何度も挫折しながら,苦しみを乗り越えて 56才で亡くなるまでに 9 曲の交響曲をはじめとするたくさん
の曲を書きました。(交響曲第 5番「運命」・「エリーゼのために」・「月光」など)
✿この曲の作曲者がどんな気持ちで作曲していたか,かつらをかぶっていない理由と合わせて,考えてみよう。
ヴィヴァルディ J.S.バッハ
約100年前に生まれ
た僕たちは,宮廷や教会
で,王様や神様のために
作曲していたから,かつ
らをかぶっていたよ!
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