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WTC2015への参加報告 岡﨑 健治 1.はじめに 平成27年5月22日~ 28日の日程で、クロアチア共和 国ドブロブニク市において、WTC(世界トンネル会議: World Tunnel Congress)が開催されました。筆者が 参加と発表を行いましたので、その概要を報告します。 2.会議の概要 WTC2015(World Tunnel Congress 2015:世界ト ン ネ ル 会 議2015)は ITA( 国 際 ト ン ネ ル 協 会: International Tunneling and Underground Space Association)が毎年、世界各地で開催国のトンネル協 会とともに共催する国際会議です。41回目となる今回 の会議では、世界71か国から1,540人以上のトンネル 技術者や研究者が集まり、「Promoting Tunnelling in South East European(SEE)Region(南東欧州にお けるトンネル掘削の促進)」をテーマとして、会場と なった Valamar Lacroma Dubrovnik Hotel(写真- )において、活発な議論や意見交換が行われました。 本会議の研究発表では13のセッションが設定され、 391編の研究発表(口頭発表298編、ポスター発表93編) がありました。また、本会議では3つの特別講演があ り、このうち、クロアチアの政府関係者からは、クロ アチア国内の道路、鉄道、港湾および空港施設など、 インフラの整備計画や現在の事業状況に関して話があ り、34の道路トンネルでは年間96ユーロ /m で維持管 理していること、また、高速鉄道の再整備に向けては、 長大トンネルの建設が必要であることが述べられまし た(写真-2)。 3.研究発表 本会議の研究発表において、筆者は「Operation and Maintenance of Tunnels and Underground Structures (トンネルと地下構造物の運用と管理)」のセッション で“Case study of a tunnel with time-dependent behaviour in a volcanic area of Hokkaido (北海道の 写真-1 Valamar Lacroma Dubrovnik Hotel(会場) 写真-2 特別講演の状況 火山岩地山における時間依存性を有する変状の事例)” と“Project study of tunnels with time-dependent behaviour - Geochemical and mechanical characteristic of rock mass(トンネルの時間依存性 を有する変状に関する研究-岩石岩盤の物理強度と化 学的特徴について-)”の2件の口頭発表を行いまし た(写真-3)。 筆者の投稿した発表セッションでは、論文数が37編 と4番目に多く、その内容を区分すると、おもに変状、 管理運営、点検診断、補修対策、機能回復及びコスト 報 告 寒地土木研究所月報 №748 2015年9月 41

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Page 1: WTC2015への参加報告 - ceri.go.jp...なったValamar Lacroma Dubrovnik Hotel(写真- 1)において、活発な議論や意見交換が行われました。 本会議の研究発表では13のセッションが設定され、

WTC2015への参加報告

岡﨑 健治*

1.はじめに

 平成27年5月22日~ 28日の日程で、クロアチア共和国ドブロブニク市において、WTC(世界トンネル会議:World Tunnel Congress)が開催されました。筆者が参加と発表を行いましたので、その概要を報告します。

2.会議の概要

 WTC2015(World Tunnel Congress 2015:世界トン ネ ル 会 議2015)は ITA( 国 際 ト ン ネ ル 協 会:International Tunneling and Underground Space Association)が毎年、世界各地で開催国のトンネル協会とともに共催する国際会議です。41回目となる今回の会議では、世界71か国から1,540人以上のトンネル技術者や研究者が集まり、「Promoting Tunnelling in South East European(SEE)Region(南東欧州におけるトンネル掘削の促進)」をテーマとして、会場となった Valamar Lacroma Dubrovnik Hotel(写真-

1)において、活発な議論や意見交換が行われました。 本会議の研究発表では13のセッションが設定され、391編の研究発表(口頭発表298編、ポスター発表93編)がありました。また、本会議では3つの特別講演があり、このうち、クロアチアの政府関係者からは、クロアチア国内の道路、鉄道、港湾および空港施設など、インフラの整備計画や現在の事業状況に関して話があり、34の道路トンネルでは年間96ユーロ /m で維持管理していること、また、高速鉄道の再整備に向けては、長大トンネルの建設が必要であることが述べられました(写真-2)。

3.研究発表

 本会議の研究発表において、筆者は「Operation and Maintenance of Tunnels and Underground Structures

(トンネルと地下構造物の運用と管理)」のセッションで“Case study of a tunnel with time-dependent behaviour in a volcanic area of Hokkaido (北海道の

写真-1 Valamar Lacroma Dubrovnik Hotel(会場)

写真-2 特別講演の状況

火山岩地山における時間依存性を有する変状の事例)”と“Project study of tunnels with time-dependent behav i our - Geochemica l and mechan i ca l characteristic of rock mass(トンネルの時間依存性を有する変状に関する研究-岩石岩盤の物理強度と化学的特徴について-)”の2件の口頭発表を行いました(写真-3)。 筆者の投稿した発表セッションでは、論文数が37編と4番目に多く、その内容を区分すると、おもに変状、管理運営、点検診断、補修対策、機能回復及びコスト

報 告

寒地土木研究所月報 №748 2015年9月 41

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に関する内容でした(図-1)。ここで、変状に関する論文は、筆者と共同研究者((株)フジタ)の4編(変状)を含む18編であり、これらの発表のうち、覆工の変形予測など数値解析による検討が7編、地質工学的に問題が生じる地山で建設されたトンネルの変状の事例

(地すべりによる覆工クラック発生の経時変化の計測事例や矢板工法によるトンネルに地圧の作用による断面変形など)が4編、水圧の作用による覆工の変状事例が3編発表されており、建設後のトンネルの維持管理や通行に影響を及ぼす変状が世界的にも多く、関心の高さがうかがえました。これらの発表を通じて、防災地質チームのトンネルの維持管理や点検に関する研究を進めるうえで、水が及ぼす影響に着目することが、とくに有効であることが大変参考となりました。

4.おわりに

 クロアチア最南端に位置する本会議の開催地であるドブロブニクでは、1991年からのユーゴスラビア紛争による銃痕などが、建物に未だに残っていましたが、建物の修復や復元は進み、ほぼ再建されている状況でした。今後は隣国のボスニア・ヘルツェゴビナとの高速道路網の整備計画もあり、本会議のテーマにもある当該地域の「トンネル掘削の促進」がより図られ、トンネル建設技術の発展がさらに期待されることと感じました。また、本会議への参加を通じ、とくに維持管理に関する動向を把握できたことは有意義でした。 最後に、本会議への参加と発表の機会を与えて頂いた関係各位に厚くお礼申し上げます。

写真-3 筆者の発表状況

図-1 「トンネルと地下構造物の運用と管理」の

    セッションにおける投稿論文の内容と区分

岡﨑 健治*

OKAZAKI Kenji

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ防災地質チーム主任研究員技術士(応用理学)

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