VOL.48 〝鉄〞で育んだ - Nippon Steel ·...

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8 2010. 4 NIPPON STEEL MONTHLY ものづくりの原点 科学の世界 VOL.48 7 8 4 調5 調90 10 使姿直接溶融 資源化 システム ※本企画では今号から数回にわたり、長年、 製鉄事業で培ってきた経験と技術を基盤 に成長・発展を遂げるグループ各社の保 有技術にスポットを当てて、その原点と 技術開発の最先端を紹介します。

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Page 1: VOL.48 〝鉄〞で育んだ - Nippon Steel · は1雰囲気での溶融が可能で(溶融炉しているため、両炉とも高温還元燃焼力の強いコークスを熱源と

82010. 4 NIPPON STEEL MONTHLY

ものづくりの原点 科学の世界 VOL.48

製鉄事業のDNAを

継承し、ごみ処理技術

を確立する

石炭を蒸し焼きにしたコークス

を利用して、原料の鉄鉱石(酸化

鉄)から酸素を除去(還元)し、溶

かして鉄鋼製品の源となる銑鉄を

生み出す高炉。徳利型をしたこの

シャフト炉(※1)では、炉頂から

炉底に鉄鉱石が下る過程で、固体・

気体・液体が共存するダイナミッ

クな反応プロセスが進行している。

この大型反応炉の知見をもとに、

新日鉄エンジニアリングは不燃物

を含めたごみを高温で溶融して

最終処分量の低減を図るとともに、

資源を回収する「シャフト炉式ガ

ス化溶融炉(以下、溶融炉)を用い

た資源化システム」を開発・実機

化した(図1)。

溶融炉は高炉と同様に、原料の

ごみ、コークスと石灰石を炉頂か

ら装入し、最終的に炉底からスラ

グ(※2)と鉄(メタル)を排出する。

燃焼力の強いコークスを熱源と

しているため、両炉とも高温還元

雰囲気での溶融が可能で(溶融炉

は1700〜1800℃)、炉

内の温度を上げるための送風口(羽

口)を装備している。溶融時間は

高炉の約8時間に対して溶融炉は

その半分だ(図2)。

ごみを熱分解・ガス化して燃焼・

溶融する方式は、その熱分解方

法の違いなどにより分類され(図

3)欧米からの技術導入も含めて

さまざまな企業が取り組んでいる。

その中で、新日鉄エンジニアリ

ングが製鉄事業で培った高温溶

融技術をもとに独自開発した「ガ

ス化と溶融の一体型シャフト炉」

は、ごみを上部で乾燥させた後

に熱分解・ガス化し、下部で熱

分解残渣(※3)を燃焼するととも

にコークスベッドの熱により不

燃残渣(灰分)を溶融する(図4)。

この方式は、高温で多様なごみ

を安定的に溶融処理できることや、

ガス化と溶融一体型で、ごみの質

の変動に左右されない安定操業が

可能という利点がある。

高炉操業の

要素技術を活かす

溶融炉には、高炉操業の要素

技術が散りばめられている。原

料を入れる装置は可燃性のガス

が漏れない二重シール構造になっ

ており、炉頂ではガスの温度や組

成を計測・監視。炉壁には温度・

圧力センサーを設置して、温度計

を入れることができないほど高温

の炉内部での温度分布やガス組成

を把握し、ごみの反応の進み具合

を推定しながら、ごみの装入量や

羽口からの送風量を制御している

(写真1)。

得られるスラグは装入する石灰

石の量で塩基度(※4)を調整した

高品質の水砕スラグ(※5)だ。溶

融スラグのJIS規格に適合させ

るため、ごみに含まれる鉛や亜鉛

などの非鉄金属の酸化物を還元・

揮発させて、さらに重金属含有量

を管理して安全な品質をつくり込

んでいる。

また、溶融物に混在するメタ

ルは、石灰石の量と温度管理で

溶融物の粘性を調整し、排出後

の水槽中でスラグと分離凝固す

るように制御している(写真2)。

スラグやメタルの品質制御に石灰

石を利用する技術は高炉操業の中

で培われてきたものだ。ごみ1ト

ンあたり約90㎏のスラグと約10㎏

のメタルができる。スラグはコ

ンクリートの二次製品やアスファ

ルト合材に使われ、メタルは建

設用機械のカウンターウエイト

や鉄源として流通・利用されて

いる(写真3)。

〝鉄〞で育んだ

高温溶融技術を

社会のために

1700〜1800℃の高温の炉で多様なごみを溶融し、そこ

で生まれるガスや熱、スラグ、メタルを再資源化する「直接溶融・

資源化システム」。現在、ごみの最終処分場の延命や有害物質

の排出抑制などの社会ニーズに応える最先端のごみ処理技術と

して注目を集めている。新日鉄エンジニアリング(株)(元新日

鉄エンジニアリング事業本部)では、1970年代から高炉の

高温溶融技術の知見をもとに研究開発に取り組み、多様なごみ

に適応する処理技術を開発・実機化し、信頼性を高めてきた。

今回は、同技術に活かされた製鉄技術のDNAを紐解くとともに、

さらなる進化への挑戦の姿を紹介する。

直接溶融・資源化システム

※本企画では今号から数回にわたり、長年、製鉄事業で培ってきた経験と技術を基盤に成長・発展を遂げるグループ各社の保有技術にスポットを当てて、その原点と技術開発の最先端を紹介します。

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TechnologyDATA

燃焼帯(1,000℃~1,700℃)

乾燥・予熱帯(約300℃~400℃)

熱分解・ガス化帯(300℃~1,000℃)

溶融帯(1,700℃~1,800℃)

空気

空気+O2

ガス燃焼・エネルギー回収・発電

高温還元雰囲気

ガス化・高温溶融一体型

コークス

石灰石

1972年(昭和47年)1974年(昭和49年)1977年(昭和52年)

1979年(昭和54年)1980年(昭和55年)

1993年(平成 5年)

1995年(平成 7年)1996年(平成 8年)

1998年(平成10年)

2000年(平成12年)

2005年(平成17年)

約30年の実用施設稼働実績

調査研究開始20t/日実証プラント40t/日実証プラント(東京都と共同実証試験)

10t/日研究施設(多段羽口実証)

50t/日釜石市施設改造( 〃 )

20t/日研究施設に増強(現在も稼働中)

150t/日茨木市施設改造(可燃ダスト羽口が吹込実証)

溶融炉のCO2排出量削減に関して各施設実機で実証試験実施(バイオマスコークス等)

補助対象施設としての厚生省認定獲得

1号機稼働 (釜石市)2号機稼働 (茨木市第1工場)

3号機稼働 (茨木市第2工場)

6号機稼働 (飯塚市)大型炉(200t/日・炉)受注(秋田市)

受注・建設実績35件~

研 究 開 発 実 用 施 設鉄鉱石 16,000t/日コークス 4,000t/日石灰石 70t/日

廃棄物 240t/日コークス 12t/日石灰石 9t/日

高 炉 溶融炉

5,000m3 130m3

微粉炭1,000t/日

銑鉄 10,000t/日スラグ 3,000t/日

メタル 4t/日スラグ 26t/日

ガス化溶融炉 ガス燃焼式

ガス改質式

ガス化・溶融一体型

ガス化・溶融分離型 流動床式

キルン式

シャフト炉式

ごみを熱分解・ガス化し、残渣を溶融処理

ガス化と溶融を一つの炉で実施

ガス化炉にて熱分解後、その残渣の一部を溶融炉にて溶融

ご み

スラグ

メタル

炉内状況を基にした制御画面

炉底から排出される溶融物

スラグ、メタル

ガス化溶融炉の分類ごみのガス化溶融方式は、熱分解方法の違いなどにより分類される

シャフト炉式ガス化溶融炉の概要

新日鉄エンジニアリングの溶融技術開発への取り組み 高炉との概要比較図

炉内状況写真1

炉底 排写真2

グ写真3

新1 高2

シ4ガご

3

※1 シャフト炉/原料や燃料などの装入物を上から入れて、炉の下部から溶融物を排出するたて型炉。※2 スラグ/溶融炉で約1,500℃以上の高温で焼却灰などを溶融した結果、生成されるガラス質の固化物。※3 残渣/残りかす※4 塩基度/酸化カルシウム(CaO)とシリカ(SiO2)の重量比。スラグの生成(溶融)条件を決めるための指標。※5 水砕スラグ/溶融スラグを水槽に流し込み急冷することによって粒状化したもの。

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102010. 4 NIPPON STEEL MONTHLY

ものづくりの原点 科学の世界

多様な有機物に

対応する

一方、溶融炉は高炉にはない

熱分解プロセスがある。主に鉄分

と酸素からなる鉄鉱石とは異なり、

ごみには種々の有機物が含まれ

るため多様な有機物を熱分解す

る幅広い対応力が求められるほ

か、ごみに含まれる水分の乾燥・

予熱プロセスも重要になる。

特に熱分解後に発生するガス

の処理は難しい。高炉は装入する

物質が限定されているためガスも

処理しやすい。しかし溶融炉では、

原料(ごみ)を選ぶことができない。

原料の種類は多岐にわたり、夏

になるとスイカの皮が増えるなど

季節によって内容も異なる。また、

塩化ビニルなど塩素含有プラス

チックの燃焼時には、有害な燃焼

ガスの発生を抑えなければならな

い。特に、2002年のダイオキ

シン類特別措置法の施行以降は

有害物に対する規制が厳しくなり、

ガスの処理過程での徹底した分

解・無害化が求められるようになっ

た。そこで有機性の有害物質や重

金属、窒素酸化物(NOx)、硫黄

酸化物(SOx)などへの対応を万

全にするため、独立した燃焼室で

熱分解ガスを完全燃焼させること

と後段での吸着・分解技術との組

み合わせにより、有害ガスの発

生を徹底的に抑えた。さらに燃焼

後にバグフィルタで回収される重

金属を非鉄精錬会社で再利用する

リサイクルシステムも確立した(山

元還元)(図5)。

ごみを燃やす従来のごみ焼却

炉は、固形物が不完全燃焼して有

害物質が発生しやすいが、ガス化

溶融炉は高温で熱分解・ガス化し

たものを燃やすため燃焼室の制

御がしやすいという優位性があり、

従来の焼却設備を代替する「次世

代型のごみ処理技術」として高い

評価を得ている。

現在では国内外で31基の溶融

炉が稼働中。原料を選べないとい

う制約の中で、多彩な技術や工夫

の組み合わせを経験知として蓄積

することで操業技術の向上を図り、

厳しい排ガス基準やスラグ品質基

準を確実にクリアしている。

「小さな一貫製造所」

のレベルアップを

目指す

溶融炉の改善・高度化の努力

は現在も続く。ごみの多様化への

対応策として、北九州市戸畑にあ

る試験プラントでは、ごみの内容

変動を考慮しながら最適なバラン

ス・量・装入方法などを検証して

いる。特に近年、最終処分場の延

命化のため、処分場を掘り起こし

て溶融炉で処理することを進め

ているが、掘り起こしごみや汚

泥の処理では、スラグやメタル

などの品質に悪影響を及ぼさな

い処理方法を確立し、溶融炉の

処理能力の高さを実証した(図6)。

従来処理が困難だったスレートな

ど非飛散性アスベストの処理につ

いても、実証試験により一貫管理・

処理システムを確立して処理事業

者の許認可を取得したほか、オゾ

ン層を破壊するフロンの処理でも

実証試験を重ね、羽口から吹き込

み完全分解する方法を確立した。

また、溶融炉の大型化による

処理能力向上も必須課題だ。操業

実績を積む過程で徐々に大型化を

進め、一炉で人口20〜30万人の中

核都市のごみ処理を実施できる

265トン/日能力まで実機化し

た。高炉と同様に、容量が増えれ

ば増えるほど、炉内中心部のガス

の流れや温度の制御が難しくな

るが、熱力学や流体力学の見地や、

炉内挙動予測制御技術など、高炉

操業で蓄積した多彩な技術が大型

化への布石となっている。

一方、CO2排出量削減のため、

コークス使用量の削減も図ってい

る。送風羽口を多段化して下部

でコークスを燃焼させるとともに、

上部で炭素分の多いごみの熱分解

残渣を直接燃焼させる方式を考案

して熱源利用の効率化を図ると

ともに、炉上部から飛散した微

細な可燃性の熱分解残渣を捕集し、

熱源として羽口から吹き込む技術

を導入。コークス使用量をごみ

1トンあたり50㎏から40㎏まで

低減した(図7)。最近では、コー

クスの代替燃料としてバイオマ

スコークスの活用にも取り組ん

でいる(写真4)。

さらに、ごみ処理時の熱回収

による蒸気タービン発電の高効率

化にも取り組んでいる。通常の火

力発電では500〜600℃まで

蒸気温度を上げられるが、廃棄

物発電ではごみ中の塩素(Cl)や硫

黄(S)などが塩となってボイラー

に付着し、300℃以上になると

一気に腐食性が高まるため温度を

上げることが難しい。発電効率を

高めるために、ボイラー内の過熱

器に耐腐食性の高いステンレス

鋼を採用するとともに、ボイラー

の局部的な温度上昇を抑えダスト

が付着しにくい構造設計を導入し

て、平均400℃までの昇温を可

能にした。

当初、高炉技術の専門チーム

でスタートした溶融炉開発は、そ

の後、化学やエネルギープラント

などの専門家も加わり、さらにシ

ステム制御の技術が融合して現在

に至っている。溶融炉は有価資源

を生むだけではなく、エネルギー、

発電までの技術が集積した「小さ

な一貫製造所」だ。新日鉄エンジ

ニアリングでは今後も溶融炉の性

能を高め、さらに操業やメンテ

ナンス技術を蓄積していくことで、

省資源・エネルギー社会に貢献し

ていく。

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TechnologyDATA

触媒反応塔

ガス化溶融炉

ガス化溶融炉

メタル

スラグ

磁選機

水砕処理設備

クレーン

押込送風機

酸素発生装置(PSA)

排ガス温度調節器

反応助剤

可燃ダスト

アンモニア

ボイラー

燃焼空気送風機

誘引通風機

バグフィルタ

無害化処理装置

資源化

煙突

熱利用

発電

燃焼室

燃焼室

燃焼室

燃焼室

溶融・資源化プロセス溶融・資源化プロセス 排ガス処理・エネルギー回収プロセス排ガス処理・エネルギー回収プロセス

重金属回収(山元還元)

還元剤(コークス)

資源化

埋立

送風羽口

焼却残渣 汚 泥

掘り起こしごみ

シュレッダーダスト

焼却残渣(主灰・飛灰)汚泥

都市ごみ

掘り起こしごみ

Automobileshreddingresidue(ASR)

20

15

10

5

00 20 40 60 80

低位発熱量(MJ/㎏)

灰分 (%)

シュレッダーダスト1980 1993 1997 2002 2005

コークス比(㎏/TR)

140

120

100

80

60

40

20

0

120 80 50~ 40~ 40~

操業改善

羽口多段化 可燃ダスト

吹き込みバイオマスコークス(カーボンニュートラル)

(年)

7 コークス使用量削減に向けた開発の経緯

直接溶融・資源化システムのプロセスフロー

種々のごみ(廃棄物)の性状

バイオマスコークス

直5

種6 7 コ7

バ オ写真4

監修

新日鉄エンジニアリング(株)環境ソリューション事業部 部長 長田 守弘(おさだ・もりひろ)(1977年入社 精密工学専攻)

新日鉄エンジニアリング(株)環境ソリューション事業部 マネジャー 西 猛(にし・たけし)(1997年入社 エネルギー応用工学専攻)