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リプライするかしないか:Twitterと言語(学)研究
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リプライするかしないか:Twitterと言語(学)研究
田川 拓海(TAGAWA Takumi, 筑波大学)
@dlit
1
第8回言語学×自然言語処理合同勉強会(2014/10/31, NII)
発表の目的
言語学的言語研究から見たTwitter研究の可能性について簡単にまとめる
具体的な言語現象について下記を取り上げる
1. システムと言語行為(のずれ)
2. (疑似)独話性
3. スタイルとコミュニケーションの発生あるいは抑制
2
電子メディアの言語研究
色々な研究が出てきている
➥CMC(Computer-Mediated Communication: コンピューターを介したコミュニケーション)研究の視点(佐藤 (2008), 佐藤 (2012), 小比田・宮本(2014)など)
➥Twitter特有の表現(ひらたりえ (2014)など)
ケータイメール、ブログ、チャット(平本 (2008))
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「打ちことば」研究
ここでいう「打ちことば」とは、PCメイル・携帯メイル・ブログ・ミニブログ・SNS (Social Networking Service)のようなインターネットを介したコミュニケーションにおいて、キーボードなどを「打つ」ことによって視覚化されたことばのことを指す。
(田中ゆかり (2014): 37、強調は発表者)
4
コーパスと電子メディア
現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)に「Yahooブログ」と「Yahoo知恵袋」が含まれている
Webコーパスの整備
➥「筑波ウェブコーパス」
NINJAL-LWP for TWC
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言語学の手法の特徴
資料やデータをじっくり見るのが得意だが、(特に新しいメディアに対しては)研究の蓄積が追い付かない側面があるのでは
例)ケータイメールとLINE
6
ケータイメールとLINE
若者間の携帯メールでは、普段の話しことばに近いことば遣いをすることで、親密感を表出し、そのような配慮を示すことを通して人間関係を調整しているのである。
(三宅(2005): 235、強調は発表者)
親しい間柄の携帯メールにおける顔文字の多用
(野田 (2014): 61)
現在もそう言えるのだろうか7
ケータイメールの特徴(三宅(2005)より)• 終助詞:特に「ね」、「よ」のように、相手の反応を引き出す助
詞が頻繁に使われている。
• 助詞の省略:[が]、[を]などの格助詞の省略が多い。
• 疑問文:疑問文で相手に質問したり確認要求をすることで、相手の応答が必要な構造が作り出されている。
• 感動詞、応答詞、あいつぢ的発話:「わあ」「はははは」「うん」「ほんと?」「マジでー?」など相手に反応する発話が多い。
• 擬音語、擬態語:「パンパンにしてやる」「鎖骨バキバキに折れて」「ひゅーんといって」など、生き生きした話しことばらしさを出している。
• いいよどみ:「そ、それは…」「ご、ごめん」など、「話しことば」では実際にはあまり発話されないが、マンガなどではすでに確立されている表現を使って、驚きや困惑を表している。
(三宅(2005): 250、一部改訂)8
ケータイメールの特徴(三宅(2005)より)• 若者ことば:「ってか俺が行ってもいいけど」、「うざいよねえ」など、
普段若者が使う口調を再現している。
• 縮約形:「おはぁ」、「そだね!」、「お疲れ~」、「ありがとね」「んじゃ」など、実際に話しているような口調・音調に近づけている。
• 古語:「かしこまった」、「よく寝てくだされ」など、実際あまり使わない表現をわざと使って、ふざけ半分の楽しさを出している。
• 方言:「予定入ってるねん」、「そうなんや」など方言を入れて、普段の自分を表現したり、反対に自分の方言ではない方言をわざと使っておかしさを作り出したりしている。
• 幼児語:「まだいるにょ?」「おやすみしまふー」「がんばってにゅ~」などは、「まふまふ言葉」とも呼ばれ、幼児のような甘えた発話で、柔らかさを表現している。
• 造語:「「まじんぐ?」(=まじ?)、「おやすまぁ」(=おやすみ)など、元のことばが分かる程度に崩した新たな造語で、相手との親密感をかもしだしている。
(三宅(2005): 250、一部改訂)9
ケータイメールとLINE
親しい人とのコミュニケーションにはLINEを使うので、ケータイメールはごく簡単な事務的連絡にしか使わない
LINEでのつながりはあるが、ケータイメールのアドレスや電話番号は知らない親しい友人がいる
(授業でのリアクションペーパーより)
LINEがケータイメールに取って代わった?
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LINE会話の流れとスタンプ(前回の会話が見られる)
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中間まとめ
電子メディアが多くの人の言語やコミュニケーションに関わっている今、その時その時のデータや記述の蓄積も(ある程度)進めておく方が良いのでは
➥デジタルデータは「保存」という観点から見ると、紙媒体の資料に比べてもろいところがある
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なぜTwitterか過去2年ほど冷凍保存されていたというのでもない限り、Twitterという言葉は間違いなく耳にしたことがあるだろう。(中略) あなたがTwitterを好きであれ嫌いであれ、Twitterがウェブ上でのコミュニケーションの形を大きく変えたということは否定できないだろう。(Russell (2011) (長尾(訳)) : 91、強調は発表者)
ウェブ上のコミュニケーション(の変化)は物理的身体世界(ウェブの外)でのコミュニケーションにも影響があるだろうか?
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Twitterのコミュニケーションモデル
複雑なコミュニケーション関係が簡単に起こる
A B
AとBが会話C AとCが会話BからA-Cの会話は見えない
14
Twitterのコミュニケーションモデル
これぐらいなら電話などでも起こりうる
A B
AとBが電話C AとCは同じ部屋
BからA-Cの会話は聞こえない15
Twitterのコミュニケーションモデル
Twitterではさらに複雑になりうる
D
A B
AとBが会話
C AとCが会話
BからA-Cの会話は見えないDはA-B, A-Cの会話が見えるがBとだけ会話
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Twitterのコミュニケーションモデルどう考えるか➥話者間の距離がフォロー関係や興味のある話題などで決まる(だだっ広い空間での)立食パーティーのようなもの?
Twitterではさらに、リツイート(RT)によって突然距離が遠い話者との会話が生まれる可能性がある
フォロー数20のユーザーと10000のユーザー間でのやりとりも可能
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気になる言語現象
1.システムと言語行為(のずれ)2.(疑似)独話性3.スタイルとコミュニケーションの
発生あるいは抑制
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システムと言語行為(のずれ)
「@ユーザーID」という一つの方法が「呼びかけ」にも「返信」にも使われる(メンション/リプライ)
aaa: @bbb 暇? :呼びかけ
bbb: @aaa ひまー :返信
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システムと言語行為(のずれ)
エアリプライ :システム上はただの発言だが会話のようになることがある
aaaとbbbは相互フォロー関係にある(お互いの発言が見られる)
[aaa]: ダイハード面白かったなーもう新作でないのかな?
[bbb]: 今度ダイハードの最新作、映画でやるんじゃなかったっけ。
[aaa]: あー新作出るのかー気になるな…
[bbb]: @aaa 見に行く?20
システムと言語行為(のずれ)
非公式RT/QTの際の「@」は?
➥それほど強い「呼びかけ」ではないことも
Tagawa, Takumi (Takumi TAGAWA). “ちなみに発表者の1人です。Twitterと言語(学)研究の関係について話します QT @ling_nlp: 前回からかなり間が空きましたが第8回合同勉強会を10/31に開催します.日程等は以下をご参照ください.url.” 8 Oct 2014, 13:08. Tweet.
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システムと言語行為(のずれ)
非公式RT/QTは「引用」か
Tagawa, Takumi (Takumi TAGAWA). “ちなみに発表者の1人です。Twitterと言語(学)研究の関係について話します QT @ling_nlp: 前回からかなり間が空きましたが第8回合同勉強会を10/31に開催します.日程等は以下をご参照ください.url.” 8 Oct 2014, 13:08. Tweet.
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システムと言語行為(のずれ)
非公式RT/QTされた発話は改変、短縮されることはあるが、鎌田 (2000)が示したレトリカルな要素・表現の追加(引用句創造説)は見られないように思われる
(男性の伝達者が妻の発話を同僚に報告する場面)
これが食いたくてね、作れってっても、このすみその具合が分からねえって言うんだよ、うちのやつは。
(鎌田 (2000): 53より抜粋、強調は発表者)
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システムと言語行為(のずれ)
非公式RT/QTについては、コミュニケーションにおける引用の現れ方、機能という観点から見ても面白いかもしれない(cf. 佐藤 (2008)など)
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(疑似)独話性
対話における独話のような表現は、聞き手の存在しない完全な独話や心内発話などとは異なり、聞き手の存在を多少なりとも意識していると考えられる場合が多い。そういう発話を「疑似独話」と呼ぶ。
(野田 (2014): 59)
A: 昨日論文acceptの連絡来たよ
B: いいなー
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(疑似)独話性
音声言語は即時性が求められるため、(中略)「あ、そっか」のような文が疑似性をほとんどもたずに出現することも十分ありうる。一方、文字言語は作成に時間をかけることができ、修正も可能である。にもかかわらず独話のような形が選ばれている場合、疑似性が強いと考えるのが自然であろう。
(野田 (2014): 59-60)
打ちことばは即時性において音声言語に近い性質を持てる。Twitterではどうか?
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(疑似)独話性「つぶやき」と「発信」は一見矛盾しているが、疑似独話のシステム化ともいえそうである。(中略)実際、ツイッターには疑似独話が多くみられる。
(野田 (2014): 64)
本日ラジオ。ラストカウボーイ。。。(有吉弘行(ariyoshihiroiki), 2014/10/26, 22:26,
Tweet)
テキストにおけるスタイルシフト(野田 (2003)など)や読み手への意識(岸本 (2005)など)との関わり 27
スタイルとコミュニケーション
突然知らないユーザーから発言が“飛んできた”場合、どのような反応が起こるのか
[xxx]: 筑波大学はUniversity of Tsukuba RT @yyy: 略語より謎なのが、地名のついた特に国立大学の英語表記が例えば帝大だと東大以外がみな○○universityなこと。なぜ?
➥xxxの発話末がa) ですね b) だったかなあc) だと思う d) だと思います、etc. だとどうか
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スタイルとコミュニケーション他者の発言を引用し、呼びかけまでしているのに、言語上は「独話」のような発話があ(りう)る➥対面会話、電話、チャット、ケータイメールなどと異なり、コミュニケーションの発生/抑制そのものの様子/メカニズムを見ることが可能かもしれない(cf. 三宅 (2009))
他者への働きかけにも関わるイントネーション情報(森山 (1989)など)はどうする?➥補助記号(「?」など)や長音化(「ー」、語末母音の付加表記「なあ/なぁ」)からある程度探れるか
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スタイルとコミュニケーション
「独話(性)」とそれに関連する言語現象を探ることで、つながる/つなげる方のコミュニケーションについても、新しい光を当てることができると面白い
➥中崎 (2002)、田川 (2014)など
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課題
データをどのように集め、どのように処理・分析するのか
➥共同研究、チーム
他の、従来のメディアとの比較も常に検討する
➥cf. 佐竹 (2005)
言語学的な観点・問題の洗い出し
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自然言語処理など他分野との接点
よりコミュニケーションを見る研究へ
➥李 (2014)などコミュニケーションに注目しているものはあるし、Russell (2011)でもリプライのやりとりを継続的にデータ化する方法に触れられているが、ある程度長いコミュニケーションを取り上げたものはまだ少ないように見受けられる
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応用?
近年、ITとそれに伴うメディア の発達 によって、専門家と非専門家 の距離(専門家同士も)が近くなってきている。
➥しかし、それと同時にトラブルも多く なってきているように見える
➢新しいメディアやツールがもたらす言語/コミュニケーション上の混乱・問題に対して、言語学・言語研究から何かできると嬉しい
第二言語習得/教育における「打ちことば」の扱い33
引用文献• 李光鎬 (2014)「ツイッター (Twitter)上におけるニュースをめぐるコミュニケー
ション」『社会イノベーション研究』9(1): 1-16.
• 平本毅(2008)「電子メディアを通じてことばはいかにして話されるのか」岡本能里子・佐藤彰・竹野谷みゆき(編)『メディアとことば 3』, 174-201, ひつじ書房.
• ひらたりえ (2014)「打ちことば試論 Twitterで使われる日本語について」TwiFULL SLiM 27 口頭発表.
• 鎌田修 (2000)『日本語の引用』ひつじ書房.
• 岸本千秋 (2005)「ネット日記における読み手を意識した表現」 三宅和子・岡本能里子・佐藤彰(編)『メディアとことば2』, 204-231, ひつじ書房.
• 小比田涼介・宮本エジソン正 (2014)「Twitter上でのシャイなユーザーの自己開示」『電子情報通信学会技術研究報告 TL 思考と言語』113(440): 7-12.
• 三宅和子(2005)「携帯メールの話しことばと書きことば―電子メディア時代のヴィジュアル・コミュニケーション」三宅和子・岡本能里子・佐藤彰(編)『メディアとことば2』, 234-261, ひつじ書房.
• 三宅和子 (2009)「謝罪メールをめぐる対人関係調整行動 「了解で~す☆」の真意を探る」三宅和子・佐竹秀雄・竹野谷みゆき(編)『メディアとことば 4』, 158-170, ひつじ書房.
• 森山卓郎 (1989) 「文の意味とイントネーション」宮地裕(編)『講座日本語と日本語教育1 日本語学要説』, 172-196, 明治書院.
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引用文献• 中崎崇 (2002)「独話場面における終助詞「ヨ」の機能」『日本語・日本文化研
究』12: 105-115, 大阪外国語大学日本語講座.
• 野田春美 (2014)「疑似独話と読み手意識」石黒圭・橋本行洋(編)『話し言葉と書き言葉の接点』, 57-74, ひつじ書房.
• 野田尚史 (2003) 「テキスト・ディスコースを敬語から見る」『朝倉日本語講座8 敬語』, 朝倉書店.
• Russell, Matthew A. (2011) Mining the Social Web. O’Reilly.(奧野陽(他)(監訳) 長尾貴明(訳) (2011)『入門ソーシャルデータ―データマイニング、分析、可視化のテクニック』オライリー・ジャパン).
• 佐竹秀雄 (2005)「メール文体とそれを支えるもの」橋元良明(編)『講座社会言語学 第2巻 メディア』ひつじ書房.
• 佐藤彰 (2008)「ファンサイトにおけるナラティブと引用 オンライン・コミュニティー構築の視点から」岡本能里子・佐藤彰・竹野谷みゆき(編)『メディアとことば 3』, 204-236, ひつじ書房.
• 佐藤広英 (2012)「CMCにおける他者の匿名性がコミュニケーションの行動に及ぼす影響―情報の種類の観点からの影響―」『社会言語科学』15(1): 17-28.
• 田川拓海 (2014)「愚痴命令文と終助詞」 TwiFULL SLiM 27 口頭発表.
• 田中ゆかり (2014)「ヴァーチャル方言の3用法:「打ちことば」を例として」石黒圭・橋本行洋(編)『話し言葉と書き言葉の接点』, 37-55, ひつじ書房.
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