Title 進行性核上性麻痺における排尿障害の検討と排尿ベルの ......Sphincter...

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Title 進行性核上性麻痺における排尿障害の検討と排尿ベルの 有用性について Author(s) 若月, 晶; 辻畑, 正雄; 三宅, 修; 伊東, 博; 板谷, 宏彬; 宇高, 不可思 Citation 泌尿器科紀要 (1993), 39(10): 891-897 Issue Date 1993-10 URL http://hdl.handle.net/2433/117960 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

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Title 進行性核上性麻痺における排尿障害の検討と排尿ベルの有用性について

Author(s) 若月, 晶; 辻畑, 正雄; 三宅, 修; 伊東, 博; 板谷, 宏彬; 宇高,不可思

Citation 泌尿器科紀要 (1993), 39(10): 891-897

Issue Date 1993-10

URL http://hdl.handle.net/2433/117960

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

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泌 尿 紀 要39:891-897,1993 891

進行性核上性麻痺における排尿障害の検討と

排尿ベルの有用性について

住友病院泌尿器科(主 任部長:板 谷宏彬)

若月 晶*,辻 畑 正雄,三 宅 修

伊 東 博,板 谷 宏 彬

住友病院神経内科

宇 高 不 可 思

VESICOURETHRAL FUNCTION STUDY AND APPLICATION OF

URINARY ALARM IN PROGRESSIVE SUPRANUCLEAR PALSY

Akira Wakatsuki, Masao Tsujihata, Osamu Miyake,

Hiroshi Ito and Hiroaki Itatani

From the Department of Urology, Sumitomo Hospital

Fukashi Udaka

From the Department of Neurology, Sumitomo Hospital

We performed a vesicourethral function study on seven patients with progressive supranuclear

palsy. In storage phase, 6 patients had decreased urinary sensation and overactive detrusor. Although bladder compliance was normal in all patients, maximum cystometric capacity was decreased in 3 patients. In micturition phase, detrusor contraction was underactive in 4 patients and acon-tractile in 1 patient. Sphincter electromyogram showed detrusor-sphincter-dyssynergia in 1 patient, no decrease in 3 patients and synergistic decrease in I patient. Six patients had urinary inconti-nence partially due to those neurological abnormality, partially due to dementia and lower activity of daily living. To facilitate the care of such functional incontinence, we devised a urinary alarm. The urinary alarm is a device to detect urine in a diaper. One can know the micturition in a diaper without being informed of micturition by the patient and change diapers as soon as possi-ble. It was also useful to examine their frequency/volume chart.

(Acta Urol. Jpn. 39: 891-897, 1993)

Key words: Progressive supranuclear palsy, Urinary alarm, Vesicourethral function, Incontinence, Neurogenic bladder

緒 言

進行性核上性麻痺(以 下PSP)は1964年Steele-

Rechardson-Olszewskitlこ よ って 記 載 された原 因 不

明の神経変性疾患で核上性眼球運動麻痺,頭 部過伸展

後屈を伴 う体 幹のdystonia,仮 性球麻痺,痴 呆 およ

び筋固縮な どの特 徴 的な臨床 症 状を呈す る疾 患 であ

る1).そ の神経病理学的所見は淡蒼球,視 床下核,黒

質,上 丘,動 眼神経核,青 斑核,歯 状核な ど特定の部

位 に神経原繊 維変 化,神 経細胞の脱 落,gliosisな ど

がみ られるこ とであ る.

*現:近 畿中央病院泌尿器科

PSPは たいてい排 尿障害を伴 っているが,従 来,

それについての報告 は少ない1・2).さらに 痴呆を 必 ず

伴 い排尿管 理を さらに困難に している.今 回われわれ

はPSP7症 例についてそ の膀胱尿道機能 と,排 尿 ベ

ル3)に よる排尿管理について検討 した.

対 象

PSPの 診 断は さきに述べた特徴的な臨床症状 に よ

ってな されたが,全 例MRIで は 中脳橋被蓋部 に萎

縮を認め脳血流 シンチ グラム(IMP-SPECT)で 前頭

葉 の血流低下 を認めた.

対象症例の年齢は51か ら75歳で男性3例,女 性4例

であ った.発 病 よ りの期間は2年 か ら9年 であったが

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892 泌尿紀要39巻10号1993年

Fig.1。Urinaryalarm

Th三sisadevicetodetecturineinadiaper.

排尿症状の期 間は1ヵ 月か ら8年 であ り,比 較的早期

か ら出現 していた,症 状は6例 が尿失禁であったが,

4例 で排尿困難 もみ られた.痴 呆 は全例にみ られた

が,長 谷川式簡易知能評価 スケールで高度3例(内2

例は膀胱尿道機能検査時には評価不能),中 等度2例,

軽度2例 であった.ADLは 自立1例,歩 行器1例,

車椅子3例,ベ ッ ト上臥床2例 であ った.神 経 内科的

にはbromocriptineやDOPSな どが投与 されてい

たが,検 査はこれ らを続行 した ままで行 った.な お超

音波検査,尿 道造影,尿 道 ブジー,内 視鏡を適宣行 い

下部尿路通過障害は除外 された.

方 法

オ ムツ排 尿で排尿表現が不良の場 合にはFig・1の

様 な排尿 ベルで排尿時期を確認 した.残 尿測定は超音

波 で行 い,残 尿の多い場合 のみ カテーテルに よる測定

をおこなった.

排尿 プ ロ トコールは排尿 の方法(オ ムツ,ポ ータブ

ルあるいは尿器な どの区 別),時 間,排 尿量,尿 意お

よび失禁 の有無について記録す るもので原則的に3日

間記録 した.夜 間0時 か ら朝8時 までを夜間 として,

昼 間,夜 間お よび全 日の平均尿量 と排尿回数を算出 し

た,バ ルーソカテーテル留置例では カテ ーテル抜去数

日後か らおむつ排 尿に して プ ロ トコールを記録 した.

膀胱尿道機能検査 はDISA社 の膀胱尿道機能検査

装置にて膀胱内圧,直 腸内圧,お よび肛門括約筋筋電

図の同時測定を行 った.内 圧測定用 カテ ーテル は12

Fr.doublelumencatheterを 用い温生食 を20~100

m1/minで 注入 し直腸内圧 は18Fr.特 性パル ーソカ

テーテルにて測定 した.筋 電図の測定は表面電極で行

った.結 果はICSの 分類4》に従 って分類 したが,コ ソ

プライアンスは最大膀胱容量 を最大静止圧で除 して算

出 した.

結 果

Tablelは 排 尿 プ ロ トコー ル の結 果 で あ る.2例

TableI.Theresultsofvolumelfrequencychart

symptomurinaryvo且ume(m且)urinaryfrequency

no'scxagc(血。。nti。・n・・)(dy・uri・)(mea・)(maxim・m)(㎡gh・}(d・y)

lm51

2m75

3f55

4f61

5f70

6m74

7f61

128

298

128

154

490

350

500

410

2 7

2,32,3

14

13,5

1,78

Table2-1.Theresultsofvesicourethralfunctionstudyinstoragephase

no.detrusor・吻 懸 櫨 鞭esen8atlontovoid

(m且}

maXimum

cystometric

㎝P灘

c・mplianoe

(maximumc)tstometriccapacity/premicturiton

P竃℃ssure)

EMG

1

2

3

4

5

6

7

ove「active

ove『active

overactive

ove『active

stab且e

oveTactive

ove「acdve

redu㏄d

redu㏄d

redu㏄d

redu㏄d

u「gency

reduced

abscent

80

300

160

290

40

70

200

亘50

3フ0

豊60

290

350

70

200

15(150/10)

45(370/8)

53(160/3)

29(290/10)

35(350/且0)

18(70/4)

亘00(200/2)

normal

decrease

nolnc『ca3C

nolnc「ease

nomc「ca5c

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若 月,ほ か:進 行性核上性麻痺 ・排尿ベル

は外来通院 のため 記 録が困 難で5例 について検 討 し

た.5例 中4例 はおむつ排尿であったが尿意は弱 く,

痴 呆 とADL低 下のため排 尿の確 認が困 難であっ

た.こ のため排 尿ベルを使 って排 尿の確認を行 った.

最大尿量は正常であったが,平 均尿量は3例 で低下 し

2例 で尿回数が増加 していた.

Table2--1は 膀胱尿道機能検査の蓄尿期の 検 査 結

果で ある.症 例1,2で はFDVが 確 認 された が,

症 例1で はFig.2に み るようにMDVの 前に排尿

を伴わない無抑制収縮波が見 られ,症 例2で はMD。

Vで 排尿の抑制 な く排尿反 射が開始 された.症 例3,

6で はADLの 低下のため 口頭 に よる意 思表 示 が不

可能で あったが表情体動 よ り尿意 の有無を判定 した.

症例3,4,6,7で は初発尿意が不 明で最大尿意 で弱

い尿意 の表現があ り排尿 の抑制ができず排尿反射を開

893

始 していた。症例5を 除いて排尿反 射の抑制がで きな

か った ことか ら蓄尿期 の収縮筋については過活動性膀

胱 と判断 した。 コソプライアソスは数値 としては症 例

1と6は 低値 であったが最大静止圧は10cmH20と

4cmH20と 低値であ ったので正常 と考 えた.EMG

は5例 で確認で きた がFig.2の よ うに協調的増大 を

示 した ものは1例 のみで増大 も減少 もしない ものが3

例,Fig.3の よ うにMDVに なる前に減 少 した もの

が1例 であ った.

Table2-2は 排尿期 の検査結果 である.5を 除い

て排尿反射が開始され るとカテーテル の周囲か ら尿漏

を認 め排尿が確認 された.最 大 収 縮 筋 圧 は26~46

cmH20で 収縮時間は15~25秒 であ った.症 例1か

ら4で は,Fig.2,3に 見 られた よ うに排 尿反射 の持

続 が不十分で残尿を伴 っていた ことか ら排尿期 の収縮

E)IG

Intra▼ ●5ical

pressure

cロH20

o

A図o・inal

pr●88ure

c自 開20

10s㏄.

10c■ 闘20

O

D●tn」sor

pressure

c■H20

0

Fig.2.Vesicourethralfunctionstudyincasel

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894 泌尿紀要39巻10号1993年

EHG

Intravesicaユ

preesure

cロH,O

0

A図o置inal

pr●88u℃

oロH20

108㏄.

10c■H20

0

Det】rusor

pressure

c■H20

0 禽.禽 ・

Fig.3.Vesicourethralfunctionstudyincase3

Table2-2 Thcresultsofvesiourethral

inmicturitionphase

functionstudy

detrusorno'

C。nt・aCtility

max見mum

dctrusor

潔犠)

detrusor

contractlon

time

(8㏄ond)

EMGresidua且

urine

(m蓋)

1

2

3

4

5

6

7

underative

undcrative

underative

underative

a◎onctractil¢

norma且

no【ma且

38

46

36

32

26

38

25

15

17

20

15

notrdax

syne『91a

detrusor

sphinFter

dyssynergia

notre且ax

70

110

50

200

0

0

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若月,ほ か:進 行性 核上性麻痺 ・排尿ベル

筋は低活動 と判断 した.症 例1,4で は 括 約 筋 の

EMGがFig.2の ように協 調 性 ではな く排尿障害

の原 因とも考 えられたが,症 例3で はFig.3の よう

に協調性であ り(排 尿時にみ られたスパイ ク状の波形

は排尿に ともな う肛 門筋 の随意収縮に よるもので排尿

前にみ られた波形 は消失 してい る一無抑制膀胱収縮に

伴 うので無抑制弛緩 と考 え られ る),逆 に症 例7の よ

うに残 尿 のなか った症例 でもEMGの 活動は協調的

では なか った.症 例5は 検査時には排尿できず,排 尿

時のEMGも 不明であった.症 例6で は検査室への移

動 が困難で 内圧測定 カテーテルに接 続 した チューブの

水柱圧を測定 したため収縮時間は測定できなか った。

つ ぎに治療結果 を述べ る.症 例7は 未治療のため,

症例1~6で 検討 した.症 例1は 入院治療中の歩行器

使用患老で長期にバルー ンカテ ーテルを留置 され てい

た患 者 で カテーテルを 抜 去 し αプロッカー,抗 コリ

ン薬 および排尿ベルを使用 したが,残 尿 と頻尿が コン

トロールで きず,看 護す る家族 がいない こともあって

排尿 ベルに よる コソトロールは困難であ った.症 例2

は外来通院中の自立症例であったが,抗 コリン薬で 自

覚症状(尿 失禁)は 改善 していた ものの残 尿測定な ど

の経過観察 が不十分であ った ので詳細は不 明であ る.

症例3と6は 入院患者 でベ ッ ト臥床,長 期バル ーンカ

テーテル留置例であ った(留 置の理由は痴呆 とADL

低下 に より排尿が不 明で排尿管理が困難 であったため

と考 え られ る).カ テーテルを 抜 去 し排尿 ベルを使 う

ことで夫あるいは妻によ り,お むつではあ るが排 尿時

間が明確 とな り適切なおむつ交換ができるため,陰 部

は ドライに保たれ,排 尿管理が容易 とな った.症 例3

では αプ ロッカーに よ り最 大 排 尿 量 が350mlか ら

520m1に 増加 し夜 間排尿回数 も2.3回 か ら1,3回 に減

少 し,症 例6で は尿回数が9.7回 か ら8.7回に減少 して

いたが1回 尿量の増加や夜間尿回数の減少はみ られな

かった.症 例4は 外来通院でおむつを使用 してい る車

椅子使用患者 であ った.α プロッカーと排尿ベルを使

用 し,尿 回数は5回 か ら4回 に減 少 した.し か し介護

をす るものが常時は居ないため,ベ ルがなっていて も

おむつが交換で きないなど排尿ベルは十分には利用で

きず,尿 量な どについての詳細は確認 できなか った.

症例5は 入院中の車 椅子使用患者であ った が,α プロ

ッカーを使用 しできるだけ蓄尿 してか ら排尿す るよう

に指導 し排 尿回数 の減少 と1回 尿量 の増加がみ られた.

考 察

PSPは 中脳 および橋に変性 を生 じ,前 頭 葉 の血 流

低下 をおこ して不随意運動 と痴呆 を伴 う変性疾患 であ

895

る1),PSPの 排 尿障害については,榊 原 ら2)は9例 中

8名 に排 尿症状を認め,尿 失 禁は7名,残 尿が3例 に

見 られた と報告 している.膀 胱 内圧測定では膀胱容量

の低下 と無抑制収縮が,括 約筋筋電図 で はDSDな

どの異常活動 が見 られてお り,1例 自律性収縮が見 ら

れた と報告 されてい る.わ れわれ の症例で も尿失禁が

7例 中6例,残 尿が4例 に見 られた.蓄 尿期の膀胱容

量 の低下は3例 のみで コンプライアンス も保たれてい

たが6例 で排尿反射の抑制 がみ られず これが失禁 の一

因とな っていた,膀 胱容量 の減少 していた3例 中2例

はADLが 低下 した進行例 であったので病気 の進行に

伴 って膀胱容量 も減少するのではないか と考 えられた.

蓄尿期の膀胱尿道機能についてみ ると,収 縮筋は7

例中6例 で無抑制収縮 を示 したが尿意 は弱いか不明で

あ った,蓄 尿期の膀胱尿道機能か らみた尿失禁の原因

は尿意 の低下 と不随意 の排尿反射の開始 にあった と考

えられた。6例 で無抑制膀胱収縮に よる排尿が見 られ

たが無抑制括約筋弛緩が筋電図的に確認 できた のは1

例のみであった.1例 で蓄尿期に排 尿を伴わない括約

筋の活動低下がみ られた無抑制括約筋弛緩 と考え られ

たが収縮筋 の収縮前には失禁は見 られなか った,

つぎに排尿期の膀胱尿道機能についてみ ると7例 中

6例 が不 随 意 の排 尿で内4例 が残 尿を ともな ってい

た.残 尿を ともなった症例1-4で は収縮圧,収 縮時

闇では 正常膀胱機能 とした 症例6,7と 差がなか った

が,こ れ ら4症 例では症例3(Fig.3)の よ うに収縮

反 射の持 続 が 不 良なために残尿を伴った排尿を示 し

た.症 例1と4で は,括 約筋 の活動異常 も残尿の原因

と考 えられ た が,収 縮筋圧の カー ブをみ るとFig.3

の症例3と 同様に排 尿反射 の持続が不 良であった.症

例5は 検査時に排 尿反射が な く無収縮 としたが,無 抑

制収縮 を示 した症例6,7と 同様 に残尿 のない排尿が

可能であった.

今回検討 したPSPの ような中 枢変性疾患の病態を

考えるのに他の類縁疾患 との比較が有用 である.さ ら

に変性疾患では中枢の障害部位が比較的一定 してい る

ので膀胱尿道機能 と比較す ることで排尿 の中枢機構を

推 定することも可 能 と考え られた.わ れわれはPSP

と中枢神経の変性疾患 に伴 う神経 因性膀胱(パ ーキ ソ

ソン病 および多系統萎縮)と の比較検討 を報告 した5・6)

ので結果を簡単に述べPSPと の比較を行 ってみた.

パーキ ンソン病 では,大 脳基底核の障害が主体で,前

頭葉や延髄の排 尿中枢 自体には障害 が少な く括約筋の

活動 も正常で頻尿 と切迫性尿失禁を呈す るが排尿効率

は良好であ った.一 方多系統萎縮(Shy-Drager症 候

群,線 状体黒質変性症,オ リーブ核橋小脳変性症を含

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896 泌尿紀要39巻10号1993年

めて検討 した)で は,小 脳症状やパ ーキ ンソソ症状に

加えて脊髄 レベルや末梢神経 障害が加わ っていると考

えられ,コ ソプ ライ アソスの低下や尿意や排尿反射の

低下 もみ られ,腹 圧排尿や尿閉とい った高度の排尿障

害 を 伴って い た.こ れ をPSPと 比 較 してみると,

PSPで は パーキ ソソン病 と同様に収縮筋 の反射充進

を示 し切迫性 尿失禁を ともなっていたが,尿 意が低下

し膀胱容量 も保たれていたので頻尿は軽度であった.

しか し不完全膀胱収縮あ るいは括約筋 の活動異常に よ

る排尿障害を伴 っていたので,パ ーキンソソ病に比 し

排 尿困難が強 く残尿が見 られた.し か し多系統萎縮 の

ような コンプライア ンスの低下 や腹圧排尿は見 られず

脊髄や末梢神経の障害は軽度 と考え られた.

PSPの 障害部位は先に述べた ように中 脳 および 橋

被蓋部 の特定部位,小 脳歯状核お よび黒質な どでさ ら

に前 頭 葉の血 流 低 下 による痴呆を伴ってい る.従 っ

て,前 頭葉あ るいは橋 の排尿中枢の種 々の レベルでの

障害があるために,排 尿中枢 自体には障害 の少ないパ

ーキ ソソソ病 よ りは排尿障害が強いが,脊 髄や末梢神

経障害を伴 う多系統萎縮 よりは排尿障害の程度は軽 度

であ った.し か しなが らPSPで は中枢性 と考え られ

る尿意の低下がみ られた(収 縮筋反射尤進が あるので

末梢性 ではない).こ れ が排尿中枢の障 害か痴 呆 に よ

るのかは不 明で あるが,ADLの 低下 とあい まって機

能性の尿失禁を生 じ,尿 路管理 を 一 層 困 難 に してい

た.こ れに対 しては以下 に述ぺ る排 尿ペルが看護上有

用 と考 え られた.

PSPは 神経 内科的には治療法がな く進 行 性の痴 呆

性疾患であ り泌尿器科 的治療 もか ぎられていた.蓄 尿

期の無抑制収縮 と排 尿期の収縮筋の低活動 を考 えると

コ リソ作動薬や抗 コ リン薬は使用が 困難であった(1

例のみ抗 コリン薬を使用).こ のため5例 で αプ ロッ

カーを使用 し有効 な症例 もみ られたが痴呆 とADLの

低下に よる障害 がもっとも問題であった.こ の ような

4症 例に対 して排尿 ペルを使用 した.介 護者が常時つ

いてい る2例 では排尿 ベルは有効(排 尿時期が明確に

な り,お むつ交換の時期が分か りやす くなるとともに

陰部が ドライに保たれた)で あ り,失 禁 の看護を容易

にす ることができカテーテルの抜去 も可能 とな った.

排尿 ベルは従来 小児の夜尿症 の治療に使われて きた も

のが あるが,今 回われわれが検索 した範 囲では ウ 山ッ

トメイ ト(住 友 ゴムか ら脊髄損傷患者用に開発 されて

いる)の みが購入可能であ った.し か しこれは周 囲に

分か らずに患者のみに排尿 を知 られ るようにベルの音

が小 さ くつ くられていたので,看 護者には関こえ難か

った 。最初風 呂セ ンサーを使用 したがセ ンサー部分が

大 きく尿がでて も作動 しない ことがあ った.こ のため

風 呂セ ンサーのセソサ ー部分をFig.1の ように薄 く

おむつ の中に固定 しやす い ように改 良された ものを作

製 したが,お むつ内での固定は 良好で失禁時に良好に

作 動 した.こ の排 尿ベルの利点は,尿 意が不明で も排

尿の時期がわか るので排尿が あった時だけおむつを交

換すれば よ く,看 護が容易に なることと外陰部を清潔

に保 ちやすい こと,排 尿 プ ロ トコールをつけ る時に排

尿量 と回数の正確な記録 ができることであ った.

今回の検討では括約筋筋電 図が肛門筋電図であ り排

尿状態 とは必ず しも一致 して いなか ったので,排 尿困

難の原 因が膀胱にあ るのか尿道 にあるのかあ るいは両

方なのかを解 明す るためには,今 後は尿道括約筋の検

討 も必要 であろ う.ま た,今 回の症例 では進行例が多

か ったが,PSPは 進行性の変 性疾患 のため病 期 に よ

る変化が当然考 えられ るので早期症例か らの経時的な

観察 も重要 であると考え られる.

結 語

1.進 行性核上性麻痺7例 の膀胱尿道機能 の検査 の結

果,蓄 尿期では6例 が過活動性膀胱で尿意 の低下が見

られた.コ ソプライア ンスは良好であった が3例 で膀

胱容量が低下 していた.

2.排 尿期では4例 が低活動性膀胱で1例 が無収縮 で

あった.括 約筋筋電図は1例 で収縮筋括約筋 協調 障害

3例 で活動の低下 がな く1例 で無 抑 制 弛 緩 がみ られ

た.

3.尿 失禁の原因は神経学的には蓄尿期の過活動性膀

胱 と考え られたが痴 呆 とADLの 障 害 も重 要であ っ

た.残 尿 は排尿期の低活動性膀胱 と括約筋の活動異常

のいずれ かあるいは両者 が原 因と考 えられた.

4.治 療 としては αプロ ッカーがやや有 効 な 症 例 も

あったが,痴 呆 とADLの 障害 も大 きな門題であ り,

排尿ベ ルの使用が尿失禁の看護には有効 であった.

本論文要賃は第139回 日本泌尿器科学会関西地方会にお

いて発表 した.

文 献

D伊 東 清:進 行 性 核 上性 麻 痺.内 科MOOK,

NO23,パ ーキ ソ ソ ン病 とパ ー キ ン ソン症 候 群.

阿 部 正和,尾 前 輝 雄,河 合 忠 一 編,pp.137-149,

金 原 出版,東 京,1984

2)榊 原 隆 次,服 部 孝 道,山 西 友 典,ほ か:進 行 性 核

上 性 麻 痺 に お け る排 尿 障 害.NBS3=14-14,

1992

3)若 月 晶,辻 畑 正 雄,三 宅 修,ほ か=痴 呆患 者

に お け る尿失 禁.住 友 病 医 誌19:9-14,1992

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若月,ほ か=進 行性核上性麻痺 ・排尿ベ ル

4)AbramsP,BlaivasJG,stantonsL,etaL:

StandardisationofterminologyofIower

urinarytractfunction.NeurourolUrodyna-

mics7;403-427,1988

5)若 月 晶,辻 畑 正 雄,三 宅 修,ほ か1進 行 性 核

上 性 麻 痺 と パ ー キ ン ソ ン病 で の 膀 胱 尿 道 機 能 の 比

較 検 討.泌 尿 紀 要39:523-528,1993

897

6)若 月 晶,辻 畑 正 雄,三 宅 修,ほ か:進 行 性 核

上 性 麻 痺 に おけ る膀 胱 尿道 機 能 の 検 討(パ ーキ ソ

ソ ン病 お よび 多系 統 萎 縮 との 比 較 検討)・NBS4:

18-22,1993

ReceivedonNovember16,1992/(AcceptedonMay28,1993ノ