菱刈鉱山におけるSublevel Open Stoping (SLOS)導入に関する …

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f MMI V N ( ) 1) 西 ( KE ) KE-2 ( II ) KE-3 ( III ) KE-2 15 20m KE-3 2 3m (Fig. 1) KE-3 5ML 25ML Bench Stoping (BS) 50 mm 25ML KE-2 BS BS Sublevel Open Stoping (SLOS) SLOS Sublevel ( ) 1 2 3 4 5 6 by Kihwan HYUN a , Jiro YAMATOMI b* , Shinsuke MURAKAMI b , Takahiko KURAKAMI c , Yoshihiro SAGAWA d and Koji TAMADA b a. Department of Geosystem Engineering, University of Tokyo b. Department of Systems Innovation, University of Tokyo (*Corresponding author E-mail: [email protected]) c. Sumitomo Metal Mining Co., Ltd., Hishikari Mine, Kagoshima, Japan d. Sumitomo Metal Mining Co., Ltd., Tokyo, Japan 菱刈鉱山における Sublevel Open Stoping (SLOS)導入に関する研究 * Journal of MMIJ Vol.126 p.519 527 (2010) ©2010 The Mining and Materials Processing Institute of Japan *2010 3 17 2010 5 11 1. 2. 3. ( ) 4. ( ) 5. ( ) 6. [ ] FAX: 03-5841-7029 E-mail: [email protected] Sublevel Open Stoping The Hishikari Mine is the only major gold mine operating in Japan, whose production rate in 2008 was around 184,000 tonnes with the average gold grade of 42.8 g/t. The gold veins are extracted mainly by drifting and bench stoping with backfill. Blasted waste rocks are generally used as backfill materials and crushed waste rocks with cement (cemented rock fill) are used for larger stopes. In order to extract the KE-2 vein with wider mineralization and lower grade, being closely located to the narrower KE-3 vein with higher gold grade, we have studied the applicability of the sublevel open stoping (SLOS) with cemented rock fill through in-situ measurements of rock mass displacements and numerical stress analyses for evaluating the stability of the KE-2 large SLOS stopes and interaction with the KE-3 bench stopes. We have used a bi-linear stress-strain characteristics of backfill for modeling the nonlinear compaction of cemented rock fill, whose stiffness increases with wall displacements of the backfilled stopes. The non-linear compaction may affect support characteristics of backfill, the present paper, therefore, incorporates the two-stage/ bi-linear compaction modeling of backfill in FLAC3D in order to analyze the supporting effects of the cemented rock fill and to investigate the required backfill quality and mining sequence for more stable and steady operations of the KE-2 and KE-3 stopes. KEY WORDS: Backfill, Stope Stability, Sublevel Open Stoping, Numerical Analysis, Cemented Rock Fill A Study on Introducing Sublevel Open Stoping (SLOS) in the Hishikari Mine 519 43 1 1982 1985 2009 180 2008 184 42.8 g/t Bench Stoping

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(破砕ズリ ) を投入している。

 菱刈鉱山の鉱床は浅熱水性含金銀氷長石石英脈鉱床 1) で,本

鉱床,山神鉱床,山田鉱床の三つの鉱床群から構成されており,

それぞれの鉱床には,ほぼ垂直で,おおむね北東-南西にのびた,

平行な鉱脈群が含まれている。本研究の対象となった金鉱脈は山

神鉱床の慶泉脈群 (以下では,KE と略記する ) にある KE-2 (慶

泉 II 脈 ) と KE-3 (慶泉 III 脈 ) である。KE-2が低品位の細脈をネ

ット状に含んでいて幅が 15~ 20m であるのに対して,KE-3は

脈幅が 2~ 3m の高品位の縞状脈である (Fig. 1) 。 KE-3の− 5ML と 25ML の間の鉱画は Bench Stoping (BS) によ

る採掘がすでに終了しており,モルタルを一部含んだ,径 50

mm 程度に粗砕したズリが 25ML より投入されている。隣接する

KE-2は鉱化帯の幅は広いが平均品位は低いので,脈を分けて BS

で採掘することは経済的でなく,脈を一度に BS で採掘すると

安全性に問題があると考え,菱刈鉱山では初めてとなる Sublevel

Open Stoping (SLOS) を導入することになった。SLOS は鉱石と上

下盤が比較的硬くある程度の脈幅を持った急傾斜脈状鉱床ある

いは塊状鉱床に適した採鉱法で,鉱体内に適当な間隔で設けた

Sublevel (中段坑道 ) から長孔発破によって鉱石を起砕し,起砕

玄   崎 煥 1  山 冨 二 郎 2  村 上 進 亮 3

倉 上 貴 彦 4  狭 川 義 弘 5  玉 田 康 二 6

by Kihwan HYUNa, Jiro YAMATOMIb*, Shinsuke MURAKAMIb, Takahiko KURAKAMIc, Yoshihiro SAGAWAd and Koji TAMADAb

a. Department of Geosystem Engineering, University of Tokyob. Department of Systems Innovation, University of Tokyo (*Corresponding author E-mail: [email protected])c. Sumitomo Metal Mining Co., Ltd., Hishikari Mine, Kagoshima, Japand. Sumitomo Metal Mining Co., Ltd., Tokyo, Japan

菱刈鉱山におけるSublevel Open Stoping(SLOS)導入に関する研究 *

Journal of MMIJ Vol.126 p.519 − 527 (2010)

©2010 The Mining and Materials Processing Institute of Japan

*2010年 3月 17日受付 2010年 5月 11日受理1. 学生会員 東京大学 大学院工学系研究科 地球システム工学専攻 大学院

学生2. 普通会員 工学博士 東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻

教授3. 普通会員 博士 (工学 ) 東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻 講師

4. 普通会員 住友金属鉱山 (株 ) 資源事業本部 菱刈鉱山 採鉱課副長5. 普通会員 住友金属鉱山 (株 ) 資源事業本部 資源開発部 担当課長6. 東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻 技術職員[著者連絡先 ] FAX: 03-5841-7029 E-mail: [email protected]キーワード: 充填,空洞安定性,Sublevel Open Stoping,数値解析,セメ

ントモルタル入りロックフィル

The Hishikari Mine is the only major gold mine operating in Japan, whose production rate in 2008 was around 184,000 tonnes with the average gold grade of 42.8 g/t. The gold veins are extracted mainly by drifting and bench stoping with backfill. Blasted waste rocks are generally used as backfill materials and crushed waste rocks with cement (cemented rock fill) are used for larger stopes. In order to extract the KE-2 vein with wider mineralization and lower grade, being closely located to the narrower KE-3 vein with higher gold grade, we have studied the applicability of the sublevel open stoping (SLOS) with cemented rock fill through in-situ measurements of rock mass displacements and numerical stress analyses for evaluating the stability of the KE-2 large SLOS stopes and interaction with the KE-3 bench stopes.

We have used a bi-linear stress-strain characteristics of backfill for modeling the nonlinear compaction of cemented rock fill, whose stiffness increases with wall displacements of the backfilled stopes. The non-linear compaction may affect support characteristics of backfill, the present paper, therefore, incorporates the two-stage/bi-linear compaction modeling of backfill in FLAC3D in order to analyze the supporting effects of the cemented rock fill and to investigate the required backfill quality and mining sequence for more stable and steady operations of the KE-2 and KE-3 stopes.KEY WORDS: Backfill, Stope Stability, Sublevel Open Stoping, Numerical Analysis, Cemented Rock Fill

A Study on Introducing Sublevel Open Stoping (SLOS) in the Hishikari Mine

519 〈43〉

1.緒    言

 菱刈鉱山は鹿児島県伊佐市に所在する金鉱山である。1982年

に坑内の開発工事が始まり,1985年に出鉱を開始した。累計の

産金量は 2009年度末には 180トンを越える見込みであり,2008

年度の粗鉱生産量は 184千トン,出鉱品位は 42.8 g/t であった。

菱刈鉱山では,Bench Stoping と呼ばれる坑内採鉱法が採用され

ており,採掘跡に,通常は発破起砕ズリを投入するが,安定性が

要求される場合には,セメントモルタルを混入したロックフィル

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玄 崎煥・山冨二郎・村上進亮・倉上貴彦・狭川義弘・玉田康二

した鉱石を下位の抽出レベルから抜き取る採鉱法である。名前の

通り,採掘跡を空洞のまま残す採鉱法 (Open Stoping) であるが,

採掘実収率を高めるためと,上下盤を保持するために充填が行わ

れることもある。

 慶泉脈群の採掘範囲は,− 5ML から 55ML まであるので,

KE-3上位鉱画 (25ML ~ 55ML) が受ける KE-2採掘の影響を抑制

し, KE-2と KE-3の安全で完全な採掘が実現できるように,菱刈

鉱山では,鉱石選別工程で発生したズリを粗砕したものに 4.5%

程度のセメントを混入した充填物を,SLOS の採掘跡に投入する

ことにした。

 Fig. 2は本研究の FLAC3D による KE-2と KE-3の採掘シミュ

レーションに使用したモデルを示している。KE-2,KE-3とも鉱

体は膨縮し,両脈は厳密には平行でなく,その幾何学的形状は複

雑であるが,その特長を残しつつ単純化した数値解析モデルであ

る。KE-2は高さ 60 m で垂直,幅 17 m の部分が長さ 105 m ある。

KE-2に平行に KE-3はのびており,その脈幅は 5 m,くの字型で,

KE-2と KE-3の間に残る鉱柱は 55ML と− 5ML では厚さ 10 m,

中央高さの 25ML で厚さ 5 m となっている。

 Fig. 2には,SLOS による KE-2の採掘順序も示されている。

KE-3の下位鉱画 ( − 5ML ~ 25ML) は BS による採掘が終わり,

KE-2の試験採掘が長さ 15 m ×高さ 60 m の P1ブロックから始ま

った。P1は岩盤変位のモニタリングを行いながら何回かに分け

て採掘された。その後,− 5ML ~ 25ML 間の高さ 30 m の P2と

S3のブロックが採掘され現在に至っている。P1以外のブロック

の高さは 30 m である。採掘順序が数字 (P1~ S15) で示され,P

は一次採掘 (Primary Stoping) で前後のブロックは未採掘,S は二

次採掘 (Secondary Stoping) で前後のブロックはすでに採掘され充

填された状態となっている。一次採掘の採掘跡にはセメントモル

タル入りロックフィルが充填されるが,二次採掘の採掘跡にはロ

ックフィルのみが投入される。

 KE-2の充填に使用するロックフィルの適切なセメント (バイ

ンダー ) 混入比を求めることと,KE-2と KE-3上位鉱画の採掘順

序が課題となり,本研究をスタートさせた。

2.岩盤と充填材の力学特性

 2・1 岩盤の力学特性

 金鉱脈の上下盤を構成する主要な岩石は砂岩,頁岩,安山岩で

ある。このうち,砂岩と頁岩について,その強度と変形特性を

把握するために,室内試験を行い,その結果を Table 1に示した。

砂岩は頁岩に比べて一軸圧縮強度,圧裂引張強度,ヤング率が大

きく,一軸圧縮強度は 4.4倍,ヤング率は 2.2倍となっている。

 KE-2と KE-3の坑道に出現した上下盤は主に頁岩であるので,

採掘空洞の安定性に影響を与える岩種は頁岩と判断し,頁岩につ

いて,封圧圧縮試験 (三軸圧縮試験 ) を追加し,数値解析に使用

する Hoek − Brown 破壊規準式のパラメータを得た。

 岩盤は,その中に含まれる不連続面の影響を受けるので,室内

試験で得た力学特性値から解析に使用する岩盤の物性値を推定す

る必要がある。Hoek − Brown 破壊規準式は 1980年の提案以後に

何回かの改訂が行われている。本研究では,亀裂等を含んだ岩盤

の破壊規準として Eq.1を使用した 2) 。

  …………………………………… (1)

ここで,σ '1は最大有効主応力,σ '3は最小有効主応力,σci は岩

石 (インタクトロック ) の一軸圧縮強度で,菱刈鉱山の頁岩の値

として 63.8MPa を使用した。この値は,Table 1に示した一軸圧

縮試験より得られた 66.5 MPa と異なるが,封圧圧縮試験 (三軸

圧縮試験 ) の結果を加えた回帰分析によって得たものである。岩

盤の特性値である mb,s,a は,現位置の岩盤評価から得られる

GSI (Geological Strength Index) 3) を使って,

  ……………………………………… (2)

  …………………………………………… (3)

  ………………………… (4)

より求める。KE-3の現場でロギングを実施し,対象岩盤の GSI

520 〈44〉 521 〈45〉

Fig.2 Modeling of the KE-2 and KE-3 veins for numerical analyses.

Fig.1 Cross-sectional view of the KE-2 (left) and KE-3 (right) veins of the Hishikari Mine.

Table 1   Mechanical properties obtained by laboratory tests on shale and sand-stone of the Hishikari Mine.

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菱刈鉱山における Sublevel Open Stoping(SLOS)導入に関する研究

は 60~ 70の分布を持つことがわかった。Eq.2の mi はインタク

トロックの材料定数で,封圧圧縮試験より得ることができ,D は

発破による岩盤の損傷程度を表すもので,0~ 1の値をとる。本

研究では,損傷程度は少ないとして,D = 0 とした。

 2・2 充填材の力学特性

 菱刈鉱山では充填材の剛性と強度が要求される SLOS の一次

採掘跡に,セメントモルタルを混入したロックフィルを使用す

ることとし,サイズが比較的均一である鉱石選別工程 (Color Ore

Sorting) で発生する大きさが 20~ 50mm の破砕ズリを使用する

ことにした。

 充填材に剛性と強度が要求される場合には,一般に,ロックフ

ィルにバインダーとしてセメントモルタルを混入するが,SLOS

の採掘跡に投入する充填材の適切なバインダー混入比を決定する

必要がある。そのため,バインダー混入比を 2.5%,3.5%,4.5%

に変えた充填材の一軸圧縮試験を行った。菱刈鉱山が外部機関

に委託して行ったが,Fig. 3に,その結果の一つである高さ 600

mm ×直径 300 mm の大型試験片の応力-ひずみ線図を示した。

同図には,一軸圧縮強度と直線部の勾配から求めたヤング率も記

入した。

 Fig. 3によると,バインダーの混入比が増加するにしたがっ

て,圧縮強度が増加することがわかる。また,応力-ひずみ曲線

は下に凸な非線形なものであり,圧縮強度の 30% ~ 40% 程度ま

で応力が増加した後,直線部分が現れる。このように,圧縮応

力がある程度大きくなるまでは,ひずみの増加が著しい。この

部分の勾配を圧縮応力が小さいときのヤング率とすれば,50~

100 MPa となる。圧縮応力がさらに加わって,応力-ひずみ関

係が線形と見なせる部分では,ヤング率は 0.5~ 1.5 GPa となっ

た。これには充填材内部の空隙体積が縮小する Compaction が寄

与していると考えられる。Moreno ら 4) と Lamos ら 5) も充填材は,

Compaction による剛性の増加によって,応力-ひずみ関係が非

線形性を持つことを指摘している。しかし,載荷直後の応力-ひ

ずみ線図の下に凸な非線形部分には,試験片端面に残った小突起

が載荷板と接触することによりつぶされ,接触面積が徐々に増加

したことも影響していると考えられる。

 このような充填材の非線形な圧縮挙動は岩盤との相互作用及び

充填材の支保特性に大きな影響 6) を与える。SLOS を KE-2の採

掘に導入したときに起きる岩盤挙動を把握するためにも,これを

考慮する必要があると考えた。数値解析の最重要項目の一つは使

用する物性値の選択である。そのため,KE-2採掘のシミュレー

ションに先立って,KE-3を単独で採掘したときの変位計測結果

を利用し,解析に使用する物性値の選択を行うことにした。

3.岩盤と充填材物性値の選択

 3・1 岩盤の剛性と充填材の Compaction 特性

 室内実験で得ることができる力学特性値はインタクトロックの

ものであり,これを現場の問題の数値解析に使用することはでき

ない。岩盤の破壊規準式として,解析に使用する Hoek − Brown

式に含まれるパラメータは,Eqs.2~ 4を使って計算したものが

使用できるが,岩盤および充填物の剛性は,現場計測と数値解析

結果を比較して,最もふさわしい値を選ぶことにした。

 セメントモルタル入りロックフィルは,2.2の Fig. 3に示した

ように,非線形な応力-ひずみ関係を有しているので,本研究で

は Fig. 4に示した充填材の非線形圧縮モデルを解析に使用した。

採掘の進行によって空洞に向かう壁面変位が増加し,充填材はこ

れに抵抗する応力を発生させ,支保効果を発揮する 6) 。充填材

の圧縮試験で観察された応力-ひずみ曲線を折れ線に単純化し,

ひずみがある程度発生するまでは剛性が低いが,その後は剛性が

高くなる二段階の応力-ひずみ関係を使用した。

 数値解析には FLAC3D を使用したが,その内部言語である

FISH を用いて,ある体積ひずみ (VSFill) に達したとき,充填材の

剛性が低い初期剛性 (E1Fill) から高い後期剛性 (E2Fill) に増加する

構成モデルを組み込んだ。充填材のポアソン比 (ν Fill) は 0.25で

変化しないものとし,一軸圧縮試験の応力-ひずみ関係から平均

垂直応力-体積ひずみ関係を求め,特性値:E1Fill,E2Fill,VSFill

を決定し,数値解析に使用した。陽形式有限差分法をベースと

する FLAC3D は,FISH を利用して,このような非線形な構成式

を組込むことができる 7) 。FLAC3D の差分計算が 1ステップ進

むたびに,充填材要素では体積ひずみをチェックし,VSFill 以上

の圧縮体積ひずみが発生した場合は,その弾性係数を E1Fill から

E2Fill に変化させた。

 3・2 KE-3採掘時のモニタリング結果

 菱刈鉱山の KE-3の下位鉱画 ( − 5ML ~ 25ML) は,2003年 10

月より 2005年 3月までの間,BS によって採掘された。このとき

の岩盤変位のモニタリング結果と FLAC3D による弾塑性解析結

果を比較して,岩盤のヤング率と充填材の物性を求め,KE-2の

SLOS 切羽の安定性と KE-3への影響を評価することにした。

 倉上ら 8) は,KE-2の 10ML ヒ押坑道より KE-3に向かって

水平に,長さ 10.3 m の岩盤変位計 (SMART − MPBX) を埋設し,

KE-3の BS 採掘中の岩盤変位を測定した。KE-3壁面より,深

さ 0.3m (Anchor 1) ,1.3m (Anchor 2) ,2.3m (Anchor 3) ,3.3m

(Anchor 4) ,4.3m (Anchor 5) ,5.3m (Anchor 6) の 6地点を測定点

520 〈44〉 521 〈45〉

Fig.3 Stress-strain curves of cemented rock fill samples obtained from uniaxial compression tests.

Fig.4 Bi-linear mean stress and volumetric strain relations used for the constitutive model of cemented rock fill.

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玄 崎煥・山冨二郎・村上進亮・倉上貴彦・狭川義弘・玉田康二

とした。変位計を設置し初期値を測定した日からの経過日数を横

軸にとり,測定点 (Anchor 1~ 6) の変位変化をプロットしたもの

を Fig. 5に示す。なお,このとき使用した岩盤変位計とその測定

点の位置をすでに Fig. 1に示した。

 KE-3の BS 採鉱では,10ML のヒ押坑道の通気状態を考慮して,

通気が良好な 1レベル上の 25ML を上部坑道とした。そのため,

起砕空間が通常の 2倍と大きくなるため,充填の一部にセメン

トモルタルを含んだ径 50 mm 程度に粗砕したズリを使用したが,

その支保剛性は KE-2の SLOS に使用するものと同程度に高い。

 Fig. 6は KE-3下部の採掘シミュレーションに用いた FLAC3D

の解析モデルであるが,この図に示されているように,KE-3の

− 5ML ~ 25ML の部分は下半 ( − 5ML ~ 10ML) が上半 (10ML ~

25ML) に先行する形で採掘が進んだ。Fig. 5の中に記入した 印

と 印は,それぞれ,下半と上半で発破が行われた日を示して

いる。特に,黒囲いの A は変位計を設置した断面の下半が発破

で起砕され,黒囲いの B は同じ断面の上半が発破で落とされた

日を示している。それぞれ,初期値計測後 103日と 190日であっ

た。下半起砕時の変位変化は少ないが,上半発破のたびに変位が

階段状に増加していることがわかる。

 3・3 KE-3の BS シミュレーション

 Fig. 6の FLAC3D 解析モデルは 189,904個の要素と 195,576点

の節点を使用しており,採掘・充填部分が見えるように切り出さ

れている。長さ 110 m,高さ 30 m,幅 5 m で傾きが 80.5°の部分

が,図の左から右に後退しながら,33回に分けて採掘・充填さ

れ,採掘部分には図の左から充填物が投入される。Fig. 6の中央

部,10ML の下盤側に,KE-2から岩盤変位計が挿入されており,

その位置が図では SMART − MPBX と記されている。

 以下に,解析に使用した諸条件を箇条書きで記す。

 (a) 過去に実施した応力解放法による地圧測定結果 9) を基に,

σ1 = 8 MPa (上下方向 ) ,σ2 = 8 MPa (走向方向 ) ,σ3 =

2.4MPa (水平面内にあって走向に直交した方向 ) を初期地

圧とした。

 (b) 鉱脈と上下盤の区別はせず,均質な岩盤で構成されている

ものとした。現場ロギングより,GSI は 60とし,Eqs.2~ 4

を使って,Hoek - Brown の破壊規準式に含まれるパラメー

タを計算し,弾塑性解析を行った。Eq.1より,岩盤の圧縮

強度は 6.8 MPa となる。

 (c) 岩盤は Eq.1で与えられる破壊規準式を降伏条件として,こ

れを満たすと弾塑性状態に移行し,強度を失って,残留強

度状態となる。塑性流れ則は随伴型 (Associated) 10) で,塑

性ひずみ増分ベクトルは降伏曲面に直交する。そして,降

伏後は,Eq.1のパラメータ mb と s は,mr と sr に置き換え

られ,mr = mb/2,sr = s/2になるとした。

 (d) 岩盤のヤング率 (ERock) を推定するために,5 GPa,10 GPa,

15 GPa,20 GPa を与えて弾塑性解析を行い,現位置計測結

果と比較する。Hoek ら 2) によれば,岩盤のヤング率:Em

は次式を使って推定できる。

  ……………………… (5a)

 また,Hoek と Diederichs11) は中国と台湾で行われた現位置岩

盤載荷試験と岩盤評価に基づいて,GSI と岩盤ヤング率の関係と

して,

  ……………… (5b)

を提案している。

 菱刈鉱山の頁岩は,インタクトロックの一軸圧縮強度として,

σci = 63.8 MPa を持ち,GSI = 60を使えば,岩盤のヤング率として,

Eq.5a より Em = 14.2 GPa が,Eq.5b より Em = 20.4 GPa が得られる。

 一方,充填物は Fig. 4に示した折れ線の圧縮特性を持つものと

し,E1Fill = 50 MPa,E2Fill = 1 GPa,VSFill = 1.05 × 10 − 3を与えた。

Fig. 3の一軸圧縮試験の応力-ひずみ曲線を平均応力-体積ひず

み曲線に換算して,VSFill = 1.05 × 10 − 3を得た。また,バインダ

ー混入比が 3.5%,4.5% である充填物は,ヤング率として,1.25

GPa,1.58 GPa をそれぞれ持つので,使用した E2Fill = 1 GPa はや

や低めの値と言うことができる。

 3・4 岩盤の剛性と充填材の Compaction 特性値の選定

 Fig. 7は,岩盤に異なるヤング率 (ERock) を与え,計測結果と

比較したものである。図の実線は計測結果で,最も長い区間であ

る KE-3の 10ML 下盤壁面から深さ 0.3 m に設置されたアンカー

(Anchor 1) と読取センサーの間,10 m 間の距離の変化 (伸びがプ

ラス ) を表している。これに対して,△は ERock を 20 GPa,▲は

15 GPa,□は 10 GPa,■は 5 GPa として行ったときの計算結果

を表している。ERock を 15 GPa としたときの計算結果が,計測結

果と最もよく一致しており,BS 進行による階段状の変位増加を

よく再現している。このとき,充填物は VSFill = 1.05 × 10 − 3で,

その剛性が E1Fill = 50 MPa → E2Fill = 1 GPa と変化した。

 Fig. 8は,岩盤に ERock = 15 GPa を与え,セメント入りロック

522 〈46〉 523 〈47〉

Fig.5 Measured rock mass displacements during stoping of the lower KE-3 vein are plotted against the elapsed time. −− blasting records are also presented by and symbols. Blasting between lower − 5ML and 10 ML are expressed by symbols, whereas symbols showing blasting between upper 10ML and 25ML.

Fig.6 FLAC3D model used for BS simulation of the lower KE-3 vein.

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菱刈鉱山における Sublevel Open Stoping(SLOS)導入に関する研究

フィルに異なる剛性 (EFill) を与えて計測結果と比較したものであ

る。図の実線は,Fig. 7と同じ区間の計測結果である。一方,■

は EFill = 0 GPa としたとき,すなわち,BS 後の採掘跡を充填し

なかった場合の計算結果である。そして,□は EFill = 50 MPa,

△は EFill = 1 GPa としたときの解で,ヤング率は Compaction に

よって変化せず一定とした。そして,▲は EFill が Compaction に

よって初期剛性から後期剛性に変化するもので,VSFill = 1.05 ×

10 − 3において,E1Fill = 50 MPa → E2Fill = 1 GPa に増加するとい

う特性を与えたときの計算結果である。これらの中で比較的一致

しているのが, VSFill = 1.05 × 10 − 3で,充填物の剛性が E1Fill =

50 MPa → E2Fill = 1 GPa に増加するという特性を与えたときの計

算結果であった。使用した岩盤変位計の精度 (分解能 ) は,1/100

インチ (0.254 mm) であることから,計算結果と計測結果の違い

は,許容できる範囲内と考えた。

 Fig. 9は,岩盤に ERock = 15 GPa を与え,セメント入りロック

フィルの剛性が E1Fill = 50 MPa から E2Fill = 1 GPa に増加すると

いう特性を与えて計算した結果を計測結果と比較したものであ

る。図の実線は,Fig. 7と同じ区間の計測結果であるが,初期

剛性から後期剛性に増加するときの充填物の圧縮体積ひずみを,

VSFill = 5.25 × 10 − 4 (▲ ) ,1.05 × 10 − 3 (□ ) ,2.1 × 10 − 3 (■ )

として計算を行った。1.05 × 10 − 3以上の VSFill を与えたときの

計算結果には目に見える相違はなく,充填材の体積ひずみが 5.25

× 10 − 4が達したときに EFill が 50 MPa から 1 GPa に上昇すると

した計算結果が,最もよく計測結果と一致することが分かった。

 Fig. 3に示したセメント入りロックフィルの大型試験片の一軸

圧縮試験結果より,充填物の剛性が増加するときの体積ひずみ:

VSFill を 1.05 × 10 − 3と見積もったが,それよりも小さな体積ひ

ずみ,VSFill = 5.25 × 10 − 4で剛性が増加するとした場合の方が計

測結果とよりよく一致した。一軸圧縮試験の応力-ひずみ曲線に

は,試験片端面の小突起が載荷板によってつぶされ,見かけ上,

増加するひずみが含まれているので,試験結果からの VSFill が過

大なものとなったと考えられる。

 Fig. 7~ Fig. 9に示した計算結果と計測結果の比較より,KE-3

下部の BS 採掘時の計測結果を再現するためには,岩盤のヤング

率として,ERock = 15 GPa を与え,充填物には,その圧縮体積ひ

ずみが,VSFill = 5.25 × 10 − 4に達したときに,剛性が初期剛性:

E1Fill = 50 MPa から後期剛性:E2Fill = 1 GPa に増加するという特

性を与えるとよいことがわかった。これを Table 2に示す。

 以上は,最も長い区間の変位計測結果について確認しただけで

あったので,他の区間についても検証する必要がある。Fig. 10はそのために作成されたもので,初期値測定後,147日,201日,

293日目に得られた岩盤内の変位分布と計算結果を比較したもの

である。測定点となるアンカーの固定深度は,既述通り,Anchor

1が KE-3壁面より 0.3 m,Anchor 2が 1.3 m,・・・・・・,Anchor 6

が 5.3 m となっているので,Fig. 10の横軸にこれを使用した。一

方,計算結果は,Table 2の特性値を与えて得られたものである。

 計算で得られた測定開始後 201日目の変位分布は 0.3 m ~ 5.3

m 深さの全体を通してよく一致している。KE-3の壁面に最も近

522 〈46〉 523 〈47〉

Fig.7 Comparison of monitored displacements with calculated ones caused by difference in the rock mass stiffness. −− the solid curve expresses the mea-sured displacement at “Anchor 1”, 0.3 m deep from the wall of KE-3.

Fig.8 Comparison of monitored displacements with calculated ones caused by dif-ference in the cemented rock fill stiffness. −− the solid curve expresses the measured displacement at “Anchor 1”, 0.3 m deep from the wall of KE-3.

Fig.9 Comparison of monitored displacements with calculated ones caused by difference in the volumetric strain at the start of stiffening in cemented rock fill. −− the solid curve expresses the measured displacement at

“Anchor 1”, 0.3 m deep from the wall of KE-3.

Table 2   Mechanical parameters used for the numerical analyses by FLAC3D.

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玄 崎煥・山冨二郎・村上進亮・倉上貴彦・狭川義弘・玉田康二

い深さ 0.3 m の計測結果と計算結果が一致しているのは当然であ

るが,147日目と 293日目の変位分布では計算結果と計測結果の

乖離が認められる。147日目の変位分布は,計算結果が計測結果

を上回り,293日目の変位分布は,逆に,計測結果が計算結果を

上回る。これには,いくつかの原因が考えられる。

 まず,147日目の変位分布について,岩盤は均質とし,発破

による損傷は少ないもの (D = 0) として与えた ERock = 15 GPa よ

りも深部の岩盤のヤング率が高く健全であったと推定できる。

ERock = 15 GPa は壁面に最も近い測定点の計測結果に一致するよ

うに選ばれたものである。したがって,これには KE-3採掘時の

発破によるダメージがいくらか反映されており,壁面から 1 m 程

度よりも奥では,発破の影響が及んでおらず,岩盤のヤング率と

してより高いものに設定すべきであったということを示唆してい

る。

 一方,293日目の変位分布については,変位の計測結果が計算

結果よりも大きく出ている。弾塑性解析を行っているが,深部岩

盤にはそれを上回る非弾性変形が実際には起きていると想像させ

る。Eq.1の Hoek − Brown の破壊規準式を満足すると残留強度状

態まで強度を失う。そして,その後は,mr = mb/2,sr = s/2を特

性値とする塑性流れを生ずるとしたが,降伏後の弾塑性挙動につ

いて,検討を要すると思われる。

 しかし,いずれの場合であっても,これらの変位の違いは 0.5

mm 前後で,使用した変位計の精度を考えると,決して大きなも

のではない。岩盤と充填材の剛性について,上記の設定は合理的

であったと見なし,Table 2に記した特性値を SLOS 切羽の安定

性評価と KE-3への影響評価に使用することにした。

4.SLOS 切羽の安定性評価と KE-3への影響評価

 4・1 SLOS の試験採掘

 2005年 1月より KE-2の SLOS による試験採掘が P1ブロック

で始まった。モニタリングを目的として,Fig. 11に示すように,

KE-3のヒ押坑道から P1の KE-3側の岩盤中に 9本の SMART −

MPBX を挿入した。それぞれの変位計は測定点 (アンカー ) を

6点持っており,測定区間の長さは 10 m から 5 m までの 1 m 間

隔で 6区間となっている。KE-3側から P1へ最も深くセットさ

れ,測定区間長が 10 m となるアンカーを Anchor 1と名付け,測

定区間長が 9 m,8 m,7 m,6 m,5 m となるアンカーを順番に,

Anchor 2,Anchor 3,Anchor 4,Anchor 5,Anchor 6と名付け,測

定結果の識別に使用した。Fig. 11に示した通り,KE-3の 25ML

からは 3本,40ML からは 4本,55ML からは 2本の変位計を挿

入した。しかし,このうち,40ML から挿入した変位計 1本は

挙動が不安定なため,これを除外し,残り 8本に P1 No.1~ P1

No.8の番号をつけ,Table 2に示した物性値を使った数値シミュ

レーションを行い,計測結果と比較した。

 Fig. 12は,KE-2の採掘シミュレーションに用いた FLAC3D 解

析用のモデルで 233,280個の要素と 248,607点の節点を使用して

いる。KE-2の最初の SLOS 導入切羽となった P1ブロックとそ

の後,現在までに採掘が行われた P2及び S3ブロックが見える

ように切り出した。・・・・・・・ 2009年度末で S3の採掘・抜鉱はほ

ぼ終了するが,充填は 2010年度に残る予定であり,ブロック P9

と S10の採掘時期は未定である。

 Fig. 11にあるように,SLOS の対象となっている実際のブロッ

クには鉱化帯の膨縮が存在するが,Fig. 12の FLAC3D 解析モデ

ルでは,SLOS ブロックを垂直に立った直方体に単純化している。

その稼行脈幅は 17 m,高さは 60 m とし,長さは一次採掘ブロッ

クが 15 m,二次採掘ブロックが 20 m である。

 Fig. 13は P1ブロックの採掘中に,P1 No.1の変位計で計測し

た変位の変化を,変位計初期値取得後の経過日数に対してプロッ

トしたものである。この変位計からは他の変位計に比べ,大きな

変位の増加が観測できたので計測結果を代表するものとして選ん

だが,P1に一番近い Anchor 1と二番目に近い Anchor 2の変位を

途中から測定することができなくなった。おそらく,発破による

Fig.10 Comparison of measured and calculated displacement distributions on 147, 201 and 293 days after the start of measurement. −− measured and calculated ones are shown by lines and symbols, respectively.

Fig.11 Monitoring system of the rock mass movements around P1 block of KE-2 vein by extensometers in-stalled from KE-3 drifts on 25ML, 40ML and 55ML.

Fig.12 FLAC3D model used for SLOS simulation of P1, P2 and S3 blocks of the KE-2 vein.

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Journal of MMIJ Vol.126 (2010) No.8,9

菱刈鉱山における Sublevel Open Stoping(SLOS)導入に関する研究

ダメージを受けたものと考えられる。P1ブロックの採掘は,最

下位の− 5ML より始まったが,40ML までが 5区画に分けて行わ

れた。起砕鉱石は側壁を一時的に支えるために次の発破まで切羽

内に留められたので,抜鉱によって空洞が生まれた時点を解析の

タイミングに選んだ。

 25ML 以下の発破を行っても変位変化が現れなかったので,最

初の変位計測が行われたのは設置後 169日目であった。251日目

以降,保安上の理由で読取装置を設置した場所への立入が禁止さ

れ,65日間計測が中断した。安全が確認されたので測定値の読

取りを再開した。− 5ML ~ 40ML 間の抜鉱が 345日目に完了した。

これに相当するのが,Fig. 13の黒抜きで示した“345 days”であ

る。次に,− 5ML ~ 25ML 間が充填され,残った 40ML ~ 55ML

間のさく孔が始まり,発破で落とした鉱石を 25ML より抜鉱し,

抜鉱作業は 488日目に完了した。Fig. 13に黒抜きで示した“488

days”がこれに相当する。その後,513日目から 40ML ~ 55ML

間の充填が始まり,580日目に充填が完了した。一次採掘の空洞

充填には,バインダー混合比 4.5% のセメントモルタル入りロッ

クフィルが使われている。

 Fig. 13の実線,破線,点線,一点鎖線は計測結果を表すが,■,◇,

▲,○は,Table 2の物性値を用いた FLAC3D による弾塑性解析

結果を表している。実線と■は Anchor 3,破線と◇は Anchor 4,

点線と▲は Anchor 5,一点鎖線と○は Anchor 6の計測結果と計

算結果である。Fig. 12の FLAC3D モデルが示しているように,

P1ブロックを垂直に直立した直方体としたが,抜鉱後の採掘空

洞は,KE-3から遠ざかるように傾き,空洞も凹凸を持っている。

これが,計算結果と計測結果にずれを生じた主な原因と考えてい

る。しかし,計算から得られた変位変化は計測結果の全体的な傾

向をほぼ再現していることから,本研究の最終的な課題である

KE-2と KE-3採掘の相互影響,KE-2と KE-3間に残るピラーの

安定性評価に Table 2の特性値を使用した弾塑性解析は問題ない

ものと考えた。

 以上は最も大きな変位変化を観測した P1 No.1変位計について

の検討結果であったが,P1の試験採掘には合計で 8本の変位計

を使用している。P1 No.1以外の変位計についても検討する必要

がある。そのために作成したのが Fig. 14である。

 Fig. 14は,P1ブロック採掘の 345日目と 488日目に観測され

た変位を横軸にとり,縦軸には FLAC3D による数値解析で得ら

れた変位をとって,図化したものである。前述したように,345

日目は− 5ML ~ 40ML 間の抜鉱が完了して− 5ML ~ 40ML 間が

空洞となったとき,488日目は 40ML ~ 55ML 間の起砕鉱石の

25ML からの抜鉱が終わって,25ML ~ 55ML 間が空洞となった

ときである。6点式変位計が 8本使われているが,そのうちの 1本,

P1 No.1変位計は発破によるダメージで測定点を 2点失ったので,

計測点数は 1回当たり 46点となる。2回の測定結果と計算結果

をプロットしたので,Fig. 14には,92点の結果がプロットされ

ている。

 Fig. 13に使用した P1 No.1の計測結果と対応する計算結果を◆

と■で示した。P1 No.1と同様,25ML よりセットされた P1 No.3

の計測結果と対応する計算結果を と で示した。他の 72点の計

測結果と対応する計算結果を◇と□で示した。そして,◇と◆と

は 345日目の結果,□と■と は 488日目の結果である。以下に,

Fig. 14を箇条書きで説明する。

 (a) 計測結果の多くが,変位計の分解能である 0.254 mm (1/100

inch) 以下の値となっており,92点中 49点 (53.3%) がこれ

に該当する。

 (b) (a) に該当するものの多くが,40ML から挿入した 3本の変

位計の計測結果である。40ML には,KE-3と KE-2を結ぶ

クロスカット坑道が既に存在しており,地圧の一部が解放

されていたため,変位の変化が少なかったと見られる。

 (c) 25ML から設置した変位計 3本のうちの 1本,P1 No.2も

観測した変位変化が小さかったが,KE-2と KE-3の間のピ

ラーを狙ったものではなく,Fig. 12の P1ブロックの右奥

(Fig. 2では S15ブロックの位置 ) に設置されたので,変位

変化が予想したものよりも小さかった。計算結果でも,P1

No.2の測定点に生ずる変位変化は最大で 1.14 mm であった。

 (d) 55ML からの 2本の変位計には 40ML 以下の採掘の影響が

現れず,40ML ~ 55ML の採掘に対して変位の変化を示した。

488日目の P1 No.7から最大で 2.29 mm,P1 No.8から最大

で 1.27 mm の変位が観測されたが,計算結果は,それぞれ

2.95 mm と 1.58 mm であった。

 (e) 25ML から設置された P1 No.3の 6点の計測結果と対応する

計算結果が と で示されているが,P1 No.1に比べて観測

された変位変化は少ないものの,P1 No.1の 4点と同様,ほ

ぼ計算結果は計測結果と一致している。

 (f) 変位計の分解能を越える変位変化が観測された 92点中

43点は,非常に大きな変位を測定した P1 No.5変位計の

Anchor 5をのぞき,ほぼ計測結果と計算結果が一致してい

る。計算で得られた変位に対して,変位計の分解能 0.254

Fig.13 Measured rock mass displacements during SLOS of P1 block are plotted against the elapsed time. −− calculated rock mass displacements of the P1 No.1 extensometer are shown by symbols.

Fig.14 Measured and calculated rock mass displacements after 345 and 488 days after the start of measurements during SLOS of P1 block −− rock mass dis-placements of the P1 No.1 extensometer are shown by ◆ and ■ symbols.

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玄 崎煥・山冨二郎・村上進亮・倉上貴彦・狭川義弘・玉田康二

mm (1/100 inch) の 2倍 (2/100 inch) 内に計測結果が納まるも

のが 22点 (51.2 %) ,4倍 (4/100 inch) 内に納まるものが 36

点 (83.7 %) あった。

 4・2 SLOS の採掘が KE-3におよぼす影響

 P1試験採掘期間中の岩盤変位を 8本の変位計を使ってモニタ

リングし,解析結果と比較することにより,Table 2にある特性

値を使った解析が,変位だけであるが P1周辺岩盤の挙動をほぼ

再現していることがわかった。そこで,本研究の最大の課題であ

る KE-2の SLOS による採掘が KE-3の上位鉱画 (25ML ~ 55ML)

におよぼす影響をシミュレーションにより吟味することにした。

 菱刈鉱山の慶泉脈群のように,垂直に近い低品位鉱脈 (KE-2)

と高品位鉱脈 (KE-3) が近接している場合,鉱山技術者の常識と

して,高品位脈をまず採掘し,その後,低品位脈を採掘するであ

ろう。しかし,Fig. 11に示したように KE-2と KE-3の採掘高さ

は最終的に 60 m に達し,両者が一番接近した 25ML でピラーの

幅が 5 m となる。セメントモルタル入りロックフィルによる充填

を行うが,ピラーの安定性に与える充填の効果を評価し,KE-2

と KE-3の採掘順序を検討することにした。そのため,すでにそ

の妥当性を検証した Table 2にある岩盤および充填材の特性値を

入力データとして,Fig. 12のモデルを使った FLAC3D による弾

塑性解析を行った。

 Fig. 12に示される KE-2の部分を,P1→ P2→ S3→ P9→ S10

の順に採掘する。採掘が終わるとセメントモルタル入りロックフ

ィルで採掘跡を充填し,次の採掘に移る。一方,Fig. 12に示さ

れる KE-3の長さ 110 m の部分は,まず,− 5ML ~ 25ML の下部

を採掘・充填した後,25ML ~ 55ML の上部を採掘・充填する。

すでに,KE-3の− 5ML ~ 25ML 間の採掘と充填は終了している。

また , 2009年度末の時点で,P1,P2,S3の採掘と充填も終了し

ている。KE-2と KE-3の採掘順序が問題となるのは,未採掘で

ある KE-3の上部 25ML ~ 55ML と KE-2の 25ML 以上に残って

いる P9→ S10のどちらを先に採掘・充填するかである。KE-2 の

P9→ S10を先行させる採掘順序を“KE-2➡ KE-3”,KE-3上部

を先行させるものを“KE-3➡ KE-2”と表して,採掘順序を検討

することにした。

 計算結果を比較するときに,Eq.6a で定義する相当塑性ひずみ

(Equivalent Plastic Strain) ,ε−p

を使用した。

  ……………………………………………………… (6a)

ここで, は相当塑性ひずみ増分であり,

  ……………………………… (6b)

によって定義されるもの 12) で,dε ijpはテンソル定義にしたがう

塑性ひずみ増分であり,Eq.6b には,アインシュタインの総和規

約が適用されている。FLAC3D の 1ステップの計算のたびに,塑

性変形を行っている要素について,1ステップ進む間の塑性ひず

み増分 dε ijpを計算し,Eq.6bにより,相当塑性ひずみ増分を求める。

Eq.6a の積分は,収束までの繰返計算中に発生した相当塑性ひず

み増分を積算し,収束したときに累積した相当塑性ひずみ増分を

相当塑性ひずみに置き換えることで代替する。FLAC3D には,相

当塑性ひずみ増分と相当塑性ひずみを計算する機能が付いていな

いので,FLAC3D の内部言語である FISH を利用してコーディン

グを行い,この機能を追加した。

 Fig. 15は KE-2と KE-3の間に残るピラー内に発生する相当塑

性ひずみの分布を表すものであり,左が“KE-2➡ KE-3”,右が

“KE-3➡ KE-2”である。分布を示している断面は,Fig. 12で S3

と S10の中央で,KE-2と KE-3を横切るものである。“KE-2➡

KE-3”,“KE-3➡ KE-2”とも,相当塑性ひずみの最大値が現れる

のは,S3の採掘空洞が開いた時で,S3の壁面中央高さに出現する。

 25ML 以下の採掘順序は,“KE-2➡ KE-3”と“KE-3➡ KE-2”

の間に違いがないから,25ML 以下の相当塑性ひずみ分布は同じ

ものである。

 25ML ~ 55ML 間のピラーの相当塑性ひずみ分布には,採掘順

序の違いが現れている。すなわち,“KE-3➡ KE-2”の場合,ピ

ラーを斜めに横切る相当塑性ひずみの帯 (破線で囲まれた楕円

状の部分 ) が現れており,KE-3の 25ML 壁面に最大の相当塑性

ひずみ (8.88 × 10 − 3) が認められる。一方,“KE-2➡ KE-3”の

場合,25ML 以上のピラーに現れる相当塑性ひずみは“KE-3➡

KE-2”よりも小さく,斜めに横切る相当塑性ひずみの帯は見え

ない。KE-2の 40ML 壁面に最大の相当塑性ひずみ (5.53 × 10 − 3)

が認められる。したがって,数値シミュレーションからは,鉱

山技術者の常識とは逆の結論が得られたことになり,“KE-2➡

KE-3”の方がピラーの安定性は高いと評価できる。ただし,“KE-2

➡ KE-3”の場合,KE-2の最上部 (55ML) に天盤を覆う塑性域が

出現するが,“KE-3➡ KE-2”の場合には,塑性域は狭いものと

なっている。

 以上の解析は,後期剛性として E2Fill = 1 GPa を与えたときの

結果であった。充填材の剛性は,SLOS 切羽とピラーの安定性に

大きな影響を持つものと考え,充填材の後期剛性を 50 MPa,200

MPa,500 MPa とした計算も行った。いずれの場合も,初期剛性

を E1Fill = 50 MPa とし,初期剛性から後期剛性に変化するときの

体積ひずみを VSFill = 5.25 × 10 − 4とした。

 Fig. 16は,横軸の充填材の後期剛性:E2Fill に対して,25ML

以上に出現する最大相当塑性ひずみ (Maximum Equivalent Plastic

Strain) と 25ML のピラー膨張量 (Pillar Expansion) をプロットした

ものである。■あるいは◆が付いた折れ線は最大相当塑性ひずみ,

□あるいは◇の記号のみはピラー膨張量を表している。■と□は

採掘順序を“KE-3➡ KE-2”とした場合,◆と◇は採掘順序を“KE-2

➡ KE-3”とした場合の結果である。最大相当塑性ひずみもピラ

ー膨張量も使用する充填材の剛性が劣ると増加する。そして,こ

の図からも,採掘順序として,“KE-2➡ KE-3”の方が“KE-3➡

KE-2”よりも,ピラーの安定性の観点から,優位であると言える。

5.結    言

 菱刈鉱山が充填材として使用しているセメントモルタル入りロ

Fig.15 Distribution of the equivalent plastic strain within the pillar between KE-2 and KE-3 stopes −− left: KE-2 ➡ KE-3 mining sequence and right: KE-3 ➡ KE-2 mining sequence.

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Journal of MMIJ Vol.126 (2010) No.8,9

菱刈鉱山における Sublevel Open Stoping(SLOS)導入に関する研究

ックフィルの力学試験によって明らかとなった非線形な圧縮特性

(Compaction) を組み込んだ数値解析手法を,本研究では提案した。

そして,現場で測定された岩盤変位計の計測結果と FLAC3D に

よる 3次元弾塑性解析の計算結果を比較して,解析に使用する岩

盤と充填材の特性値 (Table 2) を求めた。これを隣接する鉱脈の

間に残るピラーの安定性評価と隣接する鉱脈の採掘順序の検討に

供したので,これらについて報告した。

 菱刈鉱山の破砕ズリにセメントモルタルを加えた充填材は,一

軸圧縮試験によって,ひずみ (または応力 ) がある程度大きくな

ると,剛性が増加することがわかった。このような充填材の非線

形な Compaction 特性を数値解析に取り入れるために,初期剛性

と後期剛性,剛性変化時の体積ひずみの 3つによって定義される

折れ線型の応力-ひずみ関係を FLAC3D 解析に組み込んだ。変

位の計測結果と数値解析結果の比較検討を行って,岩盤のヤング

率は 15 GPa,体積ひずみが 5.25× 10 − 4に達したときに,充填

材のヤング率は 50 MPa から 1 GPa に増加すると設定すると現場

計測結果をほぼ再現できることがわかった。

 脈幅は狭いが高品位である KE-3と低品位だが広い脈幅の

KE-2が近接しており,菱刈鉱山では初めてとなる Sublevel Open

Fig.16 Differences in maximum equivalent plastic strain and pillar expansion caused by changes of stiffness of backfill and mining sequence.

Stoping (SLOS) が KE-2の採掘に導入された。KE-2と KE-3の

間に残るピラーの安定性を維持し,高品位で経済価値が大きい

KE-3採掘への影響を抑制するために,3次元弾塑性解析によって,

充填材の剛性を高めるための適正なバインダー混入比と採掘順序

について検討した。その結果,採鉱規模の大きい KE-2を先行し

て採掘する方がピラー内の塑性変形が少なく,有利であるという

ことがわかった。

 本研究では,充填材は弾性挙動のみを行うと仮定した。しか

し,KE-2の二次採掘ブロックは採掘が終わった充填跡に挟まれ

ているので,発破・抜鉱を行うと充填物が二次採掘切羽に露出す

る。露出した充填物が,二次採掘中,安定に自立できるかどうか

が課題となる。そのためには,充填材の降伏・破壊を許す弾塑性

解析が必要となる。 また,ピラーの安定性評価を,今回は Fig. 12

に示したモデルで行ったが,KE-2の一部を採掘・充填したのみ

であった。Fig. 2に描いたように KE-2の採掘は今後も続けて行

われる予定で,最終的には採掘ブロックの合計長さが 100 m を越

えるものとなる。採掘順序について,Fig. 2の解析モデルを使っ

た本格的検討が必要となる。これら,本研究で取り扱わなかった

ものについては,KE-2の SLOS がさらに進んだ段階で得られる

であろう知見を加え,別の機会に報告したいと考えている。

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