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1 ビジネスデザイン論考―イノベーションの実現 2011/06/25 要旨 ビジネスデザインの重要性が語られ、幾つかの大学に当該学科・研究科が設けられている が、デザインそのもの講義はほとんどない。また、マネジメント(PDCA) サイクルについて も、評価(Check)とくに定量的評価についてはほとんど語られない。さらに、イノベーショ ンについても、事例分析にもとづく論議は多いが、その実現についてはあまり語られない。 そこで、企業業績の定量的(財務的)評価を基点にしてビジネスデザインについて考える。 目次 1. はじめに 2. イノベーション 3. マネジメントサイクル 4. ビジネスアセスメント 5. ビジネスデザイン 6. イノベーションの実現 7. まとめ 1. はじめに 今から遡ること約 160 年前に、著名なマルクス・エンゲルスが共産党宣言(1848)で、 「生 産の絶えまない変革、あらゆる社会状態の止むことのない変化、永遠の不安定・・、以前 に確立された国内の古い産業のすべては、すでに破壊されたかもしくは日々破壊されつつ ある、それらは新しい産業によって駆逐され・・新しい産業の製品はわれわれの家庭ばか りか世界の隅々において消費されている。国内の生産物によって満たされていた昔の欲望 に代わりに、新しい欲望が現れ・・諸国民の知的な創造力が共有の財産となる。」と述べて いる(Tidd, Bessant & Pavitt (2001) 1 )。 あたかも、今現在のイノベーション時代を予言しているといえよう。しかし、彼らとい えども、情報通信技術がもたらしたイノベーションの頻繁な交代とグローバル化の進展は 予測していなかったのではなかろうか。さらに、そのイノベーションは、製品に限らず、 シュムペーター(1912)のいう①新製品、②新生産方式、③新販路、④新供給源、そして⑤ 新組織のすべてにわたるものであり、またそのグローバル化は販路に限らず、生産も従来 の先進国群に限らず、いわゆる新興国群が主導権を握りつつあるともいえよう。 しかし、このようなイノベーションが情報通信技術のみによりもたらしたわけではない。 何故ならインターネットが普及し始めた 1990 年代半ば以前に、ダベンポートのプロセス・ イノベーション(1993) 2 やアッターバックのイノベーション・ダイナミクス(1994) 3 などの序 文に、我が国の新プロセスの開発とか生産イノベーションでリードしていると述べている からである。明らかに我が国の 1980 年代の経済的な躍進を意識しているものといえよう。

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ビジネスデザイン論考―イノベーションの実現 2011/06/25 小松昭英 要旨 ビジネスデザインの重要性が語られ、幾つかの大学に当該学科・研究科が設けられている

が、デザインそのもの講義はほとんどない。また、マネジメント(PDCA)サイクルについて

も、評価(Check)とくに定量的評価についてはほとんど語られない。さらに、イノベーショ

ンについても、事例分析にもとづく論議は多いが、その実現についてはあまり語られない。

そこで、企業業績の定量的(財務的)評価を基点にしてビジネスデザインについて考える。

目次 1. はじめに 2. イノベーション 3. マネジメントサイクル 4. ビジネスアセスメント 5. ビジネスデザイン 6. イノベーションの実現 7. まとめ 1. はじめに 今から遡ること約 160 年前に、著名なマルクス・エンゲルスが共産党宣言(1848)で、「生

産の絶えまない変革、あらゆる社会状態の止むことのない変化、永遠の不安定・・、以前

に確立された国内の古い産業のすべては、すでに破壊されたかもしくは日々破壊されつつ

ある、それらは新しい産業によって駆逐され・・新しい産業の製品はわれわれの家庭ばか

りか世界の隅々において消費されている。国内の生産物によって満たされていた昔の欲望

に代わりに、新しい欲望が現れ・・諸国民の知的な創造力が共有の財産となる。」と述べて

いる(Tidd, Bessant & Pavitt (2001)1)。

あたかも、今現在のイノベーション時代を予言しているといえよう。しかし、彼らとい

えども、情報通信技術がもたらしたイノベーションの頻繁な交代とグローバル化の進展は

予測していなかったのではなかろうか。さらに、そのイノベーションは、製品に限らず、

シュムペーター(1912)のいう①新製品、②新生産方式、③新販路、④新供給源、そして⑤

新組織のすべてにわたるものであり、またそのグローバル化は販路に限らず、生産も従来

の先進国群に限らず、いわゆる新興国群が主導権を握りつつあるともいえよう。

しかし、このようなイノベーションが情報通信技術のみによりもたらしたわけではない。

何故ならインターネットが普及し始めた 1990 年代半ば以前に、ダベンポートのプロセス・

イノベーション(1993)2やアッターバックのイノベーション・ダイナミクス(1994)3などの序

文に、我が国の新プロセスの開発とか生産イノベーションでリードしていると述べている

からである。明らかに我が国の 1980 年代の経済的な躍進を意識しているものといえよう。

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そして、クリステンセンの著名なイノベーションのジレンマ(1997)4の序文では、「企業の

伝統から、経験豊富な技術者が大企業を辞めることがほとんどなく、また、新企業に出資

するような金融市場のしくみができていないからだ、本書の理論から考えて、現在のシス

テムが続くなら、日本経済が勢いを取り戻すことは二度とないかもしれない。」と勝利宣言

ともとれる記述を眼にすることになり、その予言が当ったかのように、我が国は「失われ

た 10 年あるいは 20 年」といわれるような時期を迎えている。本当にそうなのであろうか。

2. イノベーション イノベーションの定義は、シュムペーターのいう「①新製品、②生産方式、③新販路、

④新供給源、そして⑤新組織のすべてにわたる」(前出)ものとする」は今でも十分に通用

し妥当と思われる。 サローは、「日本の企業は、研究開発予算の三分の二を新プロセスの開発に、三分の一を

新製品の開発に使う。アメリカの企業では、これらの比率が逆転している」としているが、

おそらくこの場合の「新プロセス」は、生産プロセスを念頭において、いわれた言葉であ

ろうが、我が国と米国の違いを端的に指摘したものというよう。 したがって、イノベーションといっても、シュムペーターの五つのどの範疇のものかに

留意する必要があろう。しかし、ただイノベーションというとき、新製品を念頭において

述べていることが多いように感じる。そして、さらに問題なのは、戦略、ビジネスモデル、

生産プロセス、ビジネスプロセスとイノベーション(製品かプロセスか)かが、明確に差

別されて議論されていない場合もあるように思われる。 なお、チェスブロウらによると、今や「オープンイノベーション」(2006)5の時代である

とい、従来のイノベーションとの比較して、その特徴を表 1、図 1 のように示している。こ

れも、おそらく新製品開発を念頭においたもののように思われる。

表 1 オープンイノベーションの特徴

1. 社外の知識に対して社内で蓄積した知識と同等の重要性を認める。 2. R&D から商業的な価値を引き出すに当って、ビジネスモデルを軸に据えている。 3. R&D プロジェクトの評価において、二つのタイプの「計測ミス」を考慮にいれる。 4. 知識やテクノロジーの目的にかなうように流出。 5. 潤沢な知識という風景の想定。 6. 知財管理の先取り的な役割。 7. イノベーション仲介者の役割の重視。 8. イノベーションの能力、達成度の新しい評価指数。

ここで、「計測ミス」として、タイプⅠエラーとして、R&D プロジェクトがプロセスの

最後まで到達し、企業のビジネスモデルを通じて市場に到達したのに、失敗した場合のこ

とで、タイプⅡエラーとは、プロジェクトが企業のビジネスモデルに適合せず、企業にと

って価値あるものを見抜けなかった場合のことであるとしている。プロジェクトの評価基

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クローズドイノベーションモデル

科学/技術的基盤 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・市場・・・・・・

研究調査 開発 新製品/サービス

R D

・・・・・・・・・・

オープンイノベーションパラダイム

スピンオフベンチャー社内の ・

技術的基盤 ・・ ・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ 従来の市場・・・・・・ ・・

社外の技術的基盤

R D

技術のインソーシング

新しい市場・・・・・・・・・・

図 1 イノベーションパラダイムの比較

準としてビジネスモデルを持ち出しているのは卓見といえよう。 そして、知識の取り込みについて、オープンイノベーションを可能にするネットワーク

関係を、深いネットワークと広いネットワークに分類し、深いネットワークは漸進的なイ

ノベーションに効果を発揮することが多く、広いネットワークは従来の知識と重なり合わ

ない斬新な情報をもたらし、画期的なイノベーションを起こす潜在能力が高いとしている。 一方、知識やテクノロジーの流出について、労働力の流動性を通じて知識の流動性が高

くなり、ベンチャー資本が登場して、そのような知識やテクノロジーを活用する企業を立

ち上げるようになったとしている。つまり、流出もオープン化することにより、イノベー

ションの社会的生産性も上げ、イノベーションのジレンマも避けることになるのではなか

ろうか。ただし、我が国の場合は、労働力の流動性による効果は米国ほど期待できないの

ではなかろうか。 すなわち、このオープンイノベーションの背景には、米国むしろシリコンバレーといっ

た方がよいのかも知れないが、図 2 に示すような、ベンチャー事業のステークホルダーと

NASA などから供給されるベンチャー企業を立ち上げようとする大勢の技術者の存在があ

ることに留意する必要があろう(廣瀬正(2011)6)。さらに、ベンチャー企業間だけでなく、

投資家間にでも熾烈な競争があるという、我が国の文化、伝統、制度からは全く想像もで

きない環境があるといわれている。

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図 2 ベンチャー事業のステークホルダー

また、このオープンイノベーションパラダイムをみると、一種の入出力モデルであるよ

うに思われる。それに対し、ザオバー、チルキーは「イノベーションアーキテクチャ」(2006)7 で、その構成要素として、「顧客と市場の世界」と「科学と技術の世界」で構成され、イノ

ベーションアーキテクチャの中心的なものは、・・具体的ソリューションに縛られない状態

の「製品の機能」である。・・さらにイノベーションアーキテクチャによって、マーケット

プルのアプローチとテクノロジープッシュのアプローチを使って革新的な製品のアイディ

アを作り上げていくことができる」としている。まさに、理論的・学究的な考え方と思わ

れる。 しかし一方、イノベーションのマネジメントという観点から、ティッドらは「イノベー

ションの経営学」(前出(2001))で「イノベーション・マネジメントの主要な研究プロジェ

クトやコンセプトは、日本の主要な企業の組織とマネジメントを理解することによって生

まれている。1980 年代には米国やヨーロッパの研究者は、耐久消費財(とりわけエレクト

ロニクスと自動車)、工作機械、ソフトウェア、医薬品におけるイノベーションの方法につ

いて焦点を当てた。・・日本には日本の組織や企業による優れたイノベーションの進め方に

ついての良い例が豊富に存在している。」という、我々を喜ばせる記述がある。 さらに「新しい製品こそが最先端のイノベーション(プロダクト・イノベーション)の

成果であると受け取られることが多いが、戦略的な役割としてはプロセス・イノベーショ

ンも同様に重要である。・・例えば、20 世紀終盤の幾つかの産業分野で見られた日本企業に

よる市場支配は、その優れた生産能力に負うところが大きいが、これは一貫して続けられ

たプロセス・イノベーションの成果の一つである。」と我国のことが書かれている。そして、

「たとえ将来がどのようになるにせよ、将来の勝者について確かにいえることの1つは、

その勝者は自らの製品やプロセスを変化させた者の中から生まれるだろうということであ

る。」と述べている。また、イノベーションの構成要素として表 2 に示すものをあげている。

表 2 イノベーションの構成要素

・ 製品またはサービスの新規性 ・ プロセスの新規性

事業資金

育成指導 Raising企業追加資金事業機会 Raising企業

投資家(VC) 先進技術・ Raising企業アイディア

事業会社市場開拓投資リターン投資資金の種類に注意

シンジケート投資家(VC)投資家(VC)

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・ 複雑性 ・ 知的財産の法的保護 ・ 競走上の要因の追加/拡大 ・ タイミング ・ ロバストなデザイン(次ぎの時代のプラットフォームになりうる) ・ ルールの書き換え(全く新しい製品やプロセスの概念) ・ 構成要素の再構成(サプライ・チェーン・マネジメントのトヨタ) ・ その他?

そして、「イノベーションのマネジメントに関する研究の多くは、いわゆるベスト・プラ

クティスを明らかにしようとしてきたが、それらのほとんどが特定セクターにおける経験

を基礎においている。例えば、技術マネジメントの主要なモデルは米国のハイテク企業の

経験に基づくものであり、一方、商品開発における法則の多くは日本の耐久消費財製造メ

ーカーの業務慣行に関する研究に基づいている。」とし、「組織の構造とプロセスと文化と

の間のリンクの探索や、技術的イノベーションの性質とそれを生じさせる機会、組織が直

面する競争や市場の環境などを追求する。」としている。我々にとって、力強い励ましの言

葉ともいえよう。 それぞれの「イノベーション」を見ると、それぞれのお国柄が反映されている。たとえ

ば、米国は実用的・独断的であり、欧州は理論的・学究的であり、英国は一味違って中立

的・鳥瞰的であるような気がする。我が国も何か特徴的、たとえば求道的・職能的なイノ

ベーション観を発信すべきではなかろうか。 3. マネジメントサイクル マネジメントサイクル、つまり P(Plan、計画)-D(Do、実行)-C(Check、評価)-A(Action、

改善)サイクルは、良く知られ良くいわれていることではあるが、「自分たちの活動する分

野で、改良製品を作っていくという「強み伝い」は、会社が潰れるのをくい止める効果は

あるかもしれないが、斜陽産業になるのをくい止めることはできない(石井淳蔵(2009)8)。」

とか、他方では、「誰にでも予想できるようなことから利益を上げるのは難しいといわれて

いるが、分析力こそ強力な武器になる(Davenport & Harris(2007)9)。」といわれたりして

いる。

また、クリステンセンは、この両方の考え方を統合するとも思われる戦略プロセスを図 3

のように示している(Christensen(2003)前出)。この図では、戦略プロセスとして述べら

れているが、戦略をビジネスモデルとかイノベーションとかに読み替えてもいいのではな

かろうか。そりにしても、分析ルートに加えて、創発ルートを認めているのは、米国の実

用主義とそぐわない気がするが、逆に実用主義的なのかもしれない。

しかし、実際には我が国の生産現場の改善活動を除いて、一般的には「評価」はあまりお

こなわれていないように思われる。たとえば、企業業績の財務的評価、特に情報投資の事

前事後の財務的評価は、ブリニョルフソンの IT 投資の生産性についての統計的研究を除い

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意図的戦略 有効な戦略と非有効な戦略に関する理解が進む

資源配分 現実の戦略プロセス

予期しない機会、問題、成功創発的戦略

新製品サービスプロセス

買収への投資

 組織の価値基準

図 3 戦略策定の PDCA サイクル

て、あまり行われていないのではなかろうか。雑誌記事からみて、少なくとも、日常的に

企業では行われていないように思える。たとえば、情報投資の経済性評価に一時期リアル

オプションの適用が試みられたが、その計算に必要なボラティリティの実測値がなく、今

や忘れ去られようとしているといえよう。

その実測値がない原因は、一旦投下した資金は埋没費用として省みないという会計上の

慣習が災いしているのであろうか。あるいは、情報投資単独の投資効果を求めるという困

難な課題によるものなのであろうか。さらに、肝心の企業業績の分析計算式が確立されて

いないとしていることにあるのではなかろうか。

そもそも、我が国では、もともと何故かエンジニアリングエコノミクスについての関心

が低く、したがってフィージビリティスタディすなわちマネジメントサイクルの「計画」

すら、あまり行われていないことから、その事後評価も行われないのは当然ともいえよう。

そこで、ここで筆者のマネジメントサイクルモデルについて述べる。そもそも、製造業

の企業活動における価値連鎖という観点からみると、情報は生産に関わる主要活動だけで

なく、主要活動の支援あるいは企業活動の基盤的な役割を担っている。したがって、設備

の効果はほとんど製品に集中していると考えられるが、情報の効果はサービスだけでなく

製品にも及んでいると考えられる。しかも、製品とサービスの両者の経営成果としての評

価は合計されたものが計測されるだけで、それぞれ単独に計測することは出来ない。すな

わち、両者の効果を分けて評価するには、合計値としての経営成果を、それぞれの投資額

に基づいて何らかの方法で配分するしかないことになる。 もし、それが可能になれば、設備投資と情報投資のそれぞれについて、図 4、図 5 に示す

マネジメントサイクルを構築することができる(筆者(2009)10)。ここで、エコノミーボッ

クスは、情報システムプロジェクトについて、企画段階で正味現在価値あるいはリアルオ

プションで経済性評価をし、ついで設計・構築段階では回収期間法で予算管理をし、タイ

ムボックスと同じように、予算を超過する場合は優先順位の低い要件の開発を後回し、さ

らに運用段階で実現されたキャッシュフローにもとづいて正味原価比により投資効果を評

価し、引き続き後回しにした要件も含め新たなプロジェととして発足させるものである。

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試用 運用

統合テスト 監視・分析

注:NPV:正味現在価値、RO:リアルオプション、Payout:回収期間、NPVR:正味現在価値比

タイムボツクス

NPV/RO Payout NPVRエコノミーボックス

企画・定義段階 設計・構築段階 試用・運用段階

事業定義(基本設計)

詳細設計・調達・建設

企業環境変化

技術変化リエンジ

ニアリング

選別調査実現性調査

事業化準備

プロジェクト細分構造

試用 運用

統合テスト 監視・分析

注:NPV:正味現在価値、RO:リアルオプション、Payout:回収期間、NPVR:正味現在価値比

システム設計

コーディング・テスト

企業環境変化

システム技術変化リエンジ

ニアリング

スコープビジネスモデル

アーキテクチャ設計

プロジェクト細分構造

エコノミーボックス

企画・定義段階 設計・構築段階 試用・運用段階

ビジネスデザイン ビジネスアセスメントエコノミックデザイン

タイムボツクス

NPV/RO Payout NPVR

図 4 設備投資マネジメントサイクル

図 5 情報投資マネジメントサイクル

4. ビジネスアセスメント 4.1 企業業績分析計算式 Brynjolfsson & Hitt (2003)11は、「資本、労働、エネルギー、研究開発などの投入要素

に広く利用されている標準的な成長会計分析の枠組み」を適用するとして、次式を示して

いる。

)1(),,,,( LLLLLLLLtjiCLKFQ itititit =

ここで、企業の生産プロセスが、企業の付加価値(Q)と、通常の資本ストック(K)、コン

ピュータ資本ストック(C)、労働(L)の3投入要素との関係で表現された生産関数(F)で表す

ことができると仮定している。また、生産関数は、時間(t)および企業(i)が事業を行う産

業(j)の影響を受けるものと仮定している。

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そして、彼らはコブ・ダクラス型生産関数が適用できると仮定しているが、筆者は企業の

正味現在価値が、各投入要素によりもたらされるとした上で、各投入要素の投資利益率を

求めるため、線形生産関数を仮定し、各投入要素投資利益率の合計が全投入要素の投資利

益率(正味現価比)に等しくなるように、最適配分している(小松昭英(2010)12,13)。その

企業業績分析計算式(1)を次にしめす。

⋅+++++

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+++−+++

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+++++=

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法人所得税

)利益調整指数基準利益調整率利益調整係数(

利益係数人件費経費

係数ソフトウェア投資利益

機械装置投資利益係数

)正味現価比人件費費ソフトウェア投資+経総投資(機械装置投資

正味現価比偏差二乗和

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δδδεβαγφ

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ェア法定耐用年数:機械装置、ソフトウ

人件費:経費

加額)(ソフトウェア資産増:ソフトウェア投資額

械装置資産増加額):機械装置投資額(機

:資本コスト

:連結経常利益

年数マイナス1年T:実績データ利用年

:年度

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効果タイムラグ人件費経費:

果のタイムラグ:ソフトウェア投資効

イムラグ:機械装置投資効果タ

数:割引平均年額換算係

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eLLsLm

ξνµλκ

上式(1)による計算結果にもとづいて算出する各投資利益率の計算式を式(2)に示す。

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種類 資産 償却法 耐用年数器具備品 定率 5機械装置 定率 8

無形 ソフトウェア 定額 5

有形

NPVmsxcER

NPVmsxcIsRs

NPVmsxcR

NPVmsxNPVcEIsJmNPVRmsx

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∑∑ +∑+

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L

:経費正味現価利益率

味現価利益率:ソフトウェア投資正

価利益率:機械装置投資正味現

率:全投資正味現価利益

RxRsRmRmsx

4.2 企業業績分析表計算モデル 上記の計算式(1)の表計算モデルを表 3 に示す。事例として「商業」を取上げる(筆者

(2011)14)。 計算基準として、現在価値(現価)計算のための資本コストは金融機関の長期貸出金利

を参照して”0.05”とする。つぎに、最近話題になっている法人所得税率については、そ

の見掛税率を東証1部上場情報通信業 61 社の有価証券報告書について次式で計算すると、

平均見掛法人所得税率=(1-(Σ連結正味利益/Σ連結経常利益))=1-0.519=0.481

であった。そこで、見掛所得税率として、まるめて”0.50”とする。

さらに、減価償却については、「報告書」の各企業の「重要な会計方針」には、「減価償

却法は有形固定資産には殆ど定率法が、無形固定資産(ソフトウェア)には定額法が適用

されている。

そして、耐用年数については、工具・器具・備品(以下器具備品という)は「2 年から

20 年」あるいは「5 年から 22 年」、機械装置は「4年から 17 年」あるいは「5 年から 20 年」

と幅広く記載されている。そこで、法定耐用年数をとって、器具備品は5年(たとえばパ

ソコン)、機械装置は8年とする。それに対し、ソフトウェアについては、ほとんどが「5

年」としているので、そのままとし以上をまとめて次に示す。

なお、もう一つの投入要素労働(L)は、「報告書」の「従業員の状況」の年収(=従業員

数×平均年間給与)とする。

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利益現価 投資現価 CF現価 正味現価 総合利率 設備利率 情報利率 組織利率 調整率3,511 1,356 4,120 2,765 0.204 0.055 0.061 0.088 1.000

746 1,356 1,356 0 0.000 (0.013) (0.008) 0.022 0.2121,423 1,356 2,032 677 0.050 0.003 0.009 0.038 0.4052,099 1,356 2,709 1,353 0.100 0.020 0.025 0.054 0.5982,776 1,356 3,386 2,030 0.150 0.037 0.042 0.071 0.7913,453 1,356 4,062 2,707 0.200 0.054 0.059 0.087 0.983

A B C D E F G H I J K L M N O P Q2 ニトリ ラグ D-O 10.773 C-O 11.989 機器装置 0.4823 2004-08年度 機器装置 0.5 2 C-G 5.526 ソフトウェア 0.4824 0.05 0.50 ソフトウェア 0.2 1 1.000 E-O 9.616 経費 0.0125 (4) (3) (2) (1) 0 1 2 3 4 5 6 7 86 連結経常利益 19,034 23,101 26,568 33,969 47,4307 -税引後利益 9,517 11,551 13,284 16,985 23,7158 -増加額 2,034 1,734 3,701 6,731 3,550 3,550 3,550 3,550 3,550 3,550 3,550 3,5509  -増加額現在価値 2,354 1,911 3,886 6,731 3,380 3,220 3,066 2,920 2,781 2,649 2,523 2,402 37,822 3,511

10 機装前期末資産額11 機装資産増加額 89 122 261 1,001 2,29912 -減価償却額 45 22 11 6 313 -減価償却額 61 31 15 8 414 -減価償却額 131 65 33 16 815 -減価償却額 501 250 125 63 3116 -減価償却額 1,150 575 287 144 7217 ソフト前期末試算額18 ソフト資産増加額 193 286 370 1,213 1,35619 -減価償却額 39 39 39 39 3920 -減価償却額 57 57 57 57 5721 -減価償却額 74 74 74 74 7422 -減価償却額 243 243 243 243 24323 -減価償却額 271 271 271 271 2712425 キャッシュフロー 2,117 1,913 4,042 7,729 5,676 4,915 4,495 4,238 3,893 3,550 3,550 3,55026 -現在価値 2,450 2,109 4,245 7,729 5,406 4,458 3,883 3,487 3,050 2,649 2,523 2,402 44,390 4,12027 投資現在価値28  -機器装置 108 141 288 1,051 2,299 3,887 70329  -ソフトウェア 235 331 408 1,274 1,356 3,603 65230  -合計 7,490 1,35631 人件費 8,953 10,025 12,228 13,960 16,664 13,219 13,219 13,219 13,219 13,219 13,219 13,219 13,21932 10,882 11,605 13,481 14,658 16,664 12,590 11,990 11,419 10,876 10,358 9,864 9,395 8,947 141,847 11,83233  -人件費現価 10,882 11,605 13,481 14,658 16,664 67,291 12,17834 現価総合計 74,781 13,53435 企業投資正味現価 36,899 2,76536 企業正味現価利益率 0.493 0.20437 連結経常利益回帰分析38  -機械装置投資利益 43 43 43 43 43 43 43 43 43 43 4339  -機械装置投資利益 59 59 59 59 59 59 59 59 59 5940  -機械装置投資利益 126 126 126 126 126 126 126 126 12641  -機械装置投資利益 483 483 483 483 483 483 483 48342  -機械装置投資利益 1,108 1,108 1,108 1,108 1,108 1,108 1,10843  -機械装置合計 43 102 228 710 1,818 1,818 1,818 1,818 1,818 1,818 1,81844  ー現在価値合計 47 107 228 676 1,649 1,571 1,496 1,425 1,357 1,292 1,231 11,079 0.05545  -正味現在価値 7,192 74846  -ソフトウェア投資利益 93 93 93 93 93 93 93 93 93 93 93 9347  -ソフトウェア投資利益 138 138 138 138 138 138 138 138 138 138 13848  -ソフトウェア投資利益 178 178 178 178 178 178 178 178 178 17849  -ソフトウェア投資利益 585 585 585 585 585 585 585 585 58550  -ソフトウェア投資利益 654 654 654 654 654 654 654 65451  -ソフトウェア合計 93 231 409 994 1,648 1,648 1,648 1,648 1,648 1,648 1,648 1,64852  ー現在価値合計 108 255 430 994 1,569 1,495 1,423 1,356 1,291 1,230 1,171 1,115 12,435 0.06153  ー正味現在価値 8,832 82054  -正味現在価値合計 108 302 531 1,222 2,279 3,313 3,242 3,174 3,109 3,048 2,989 2,934 16,024 1,56855  -人件費利益 128 128 128 128 128 128 128 128 128 128 128 12856  -人件費利益 137 137 137 137 137 137 137 137 137 137 13757  -人件費利益 159 159 159 159 159 159 159 159 159 15958  -人件費利益 173 173 173 173 173 173 173 173 17359  -人件費利益 197 197 197 197 197 197 197 19760  -人件費合計 128 265 424 597 794 794 794 794 794 794 794 794 0.08861  -現在価値合計 149 292 446 597 756 720 686 653 622 592 564 537 6,614 1,19762 現在価値総合計 22,638 2,76563  -差額の二乗*2 0.232 0.15464 正味価値分析 利益現価 投資現価 CF現価 正味現価 総合利率 設備利率 情報利率 組織利率 調整率65 ニトリ 3,511 1,356 4,120 2,765 0.204 0.055 0.061 0.088 1.000

利益調整率

年額換算係数

利益係数計算結果

計算基準資本コスト 税率

償却率

表 3 業績分析表計算モデル

なお、入力個所は、連結経常利益(C6-G6)、機器資産(器具備品)増加額(C11-G11)、ソフト資産増加額(C-18-G18)、人件費(C31-G31)の黄色で塗りつぶした欄である。 次に、下記のよう総合利率(Q36)を制約値として利益調整率(I4)を変化させて求めた計算

結果を次に示し、その計算結果にもとづく収益構造を図 2 に示す。

この「ニトリ」の事例は、設備、情報、組織の各投資が、ほぼ等しく企業業績に貢献し

ている稀な例である。さらに、東京証券取引所第一部上場の商業の総合利率、設備利率、

情報利率の各利率上位 19 社の類型的収益構造と該当企業と業務内容を表 4 と表 5 に示す。

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11

ニトリHD 収益構造(標準調整率=0.212)

(0.050)

0.000

0.050

0.100

0.150

0.200

0.250

0.212 0.405 0.598 0.791 0.983

調整率

利益

総合利率

設備利率

情報利率

組織利率

総合利率

組織利率

情報利率

設備利率

数 要素名設備 (F) ヤマダ電機 アルテック情報 (I) ゲオ

エービーシー・マート ポイント くらあさひ 高速 丸紅サンマルク ワタミ ケーズHDファーストリテイリング

組織-設備 カッパクリエート組織-設備-情報 コスモス薬品 G-7HD組織-情報-設備 ニトリHD情報-設備-組織 イマージュHD情報-組織-設備 アークス

3

2

該当企業

1組織 (O)

情報-設備

主導要素

No. コード 企業名 主な事業内容1 1-F アルテック 機械・機器、食品・飲料容器の生産・販売

2 1-F ヤマダ電機 家電・情報家電などの販売3 1-I ゲオ パッケージソフトのレンタル・リサイクル

4 1-O ポイント カジュアル衣料品及び雑貨販売5 1-O エービーシー・マート 靴を中心とした商品の販売6 1-O 丸紅 総合商社7 1-O あさひ 自転車およびパーツ・アクセサリの販売

8 1-O くら 回転ずし店のチェーン展開9 1-O 高速 食品軽包装、工業包装資材の製造販売

10 2-I-F ファーストリテイリング カジュアルイ衣料品販売11 2-I-F サンマルクHD 洋食レストラン、高級回転ずし12 2-I-F ワタミ 外食・介護・高齢者向け宅配13 2-I-F ケーズHD 電気製品、パソコン、携帯電話などの販売

14 2-O-F カッパクリエート 寿司、コンビニエンス・ストア15 3-I-F-O イマージュHD 通信販売による衣料品販売16 3-I-O-F アークス スーパーマーケット17 3-O-F-I G-7HD 車関連用品・部品などの販売18 3-O-F-I コスモス薬品 ドラッグストア19 3-O-I-F ニトリHD 家具・インテリア用品の販売注 I: Information, F: Facilities, O: Organization

図 6 収益構造図

表 4 類型的収益構造と該当企業

表 5 収益構造類型と業務内容

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12

正味利益 投資現価 正味現価 研究開発No. 2003-07年度 全投資 設備 情報 研究開発

1 アステラス製薬 23,075 6,298 144,600 125,201 1.219 0.339 0.017 0.8632 武田薬品工業 11,374 7,516 201,714 194,741 1.080 0.282 0.000 0.7983 日本新薬 444 458 8,851 8,672 0.978 0.232 0.030 0.7164 エーザイ (7,716) 7,349 113,298 125,224 0.953 0.216 0.099 0.6375 参天製薬 630 915 13,119 13,010 0.948 0.181 0.137 0.6306 中外製薬 3,035 3,692 52,591 51,713 0.982 0.400 0.012 0.5707 あすか製薬 189 389 4,521 4,559 0.932 0.345 0.047 0.5408 塩野義製薬 2,786 3,545 35,511 34,760 0.957 0.356 0.139 0.4629 生化学工業 361 401 4,445 4,316 0.927 0.409 0.056 0.462

10 キッセイ薬品工業 (407) 1,396 8,987 10,185 0.736 0.189 0.206 0.34211 大正製薬 (2,468) 3,633 20,316 24,864 0.717 0.338 0.152 0.22712 ゼリア新薬工業 5 848 5,431 5,917 0.844 0.549 0.100 0.19413 持田製薬 854 1,403 9,103 9,069 0.913 0.695 0.023 0.19414 田辺三菱製薬 3,143 6,840 35,615 36,436 0.881 0.628 0.123 0.13115 日水製薬 (2) 162 807 904 0.743 0.539 0.088 0.11716 わかもと製薬 29 239 860 969 0.723 0.518 0.193 0.01217 エスエス製薬 (316) 656 1,784 2,481 0.517 0.493 0.059 (0.036)18 鳥居薬品 (449) 801 321 1,227 0.176 0.213 0.166 (0.203)19 大日本住友製薬 3,460 11,612 30,273 33,557 0.738 0.800 0.143 (0.205)20 扶桑薬品工業 (194) 779 1,680 2,329 0.560 0.738 0.036 (0.214)21 沢井製薬 (29) 1,232 1,767 2,515 0.490 0.727 0.059 (0.296)22 科研製薬 467 698 1,290 1,227 0.750 0.805 0.253 (0.308)23 ロート製薬 812 1,303 3,451 3,398 0.767 1.013 0.087 (0.333)24 東和薬品 417 815 1,788 1,845 0.673 0.929 0.134 (0.389)25 久光製薬 1,477 1,740 3,858 3,398 0.782 1.135 0.040 (0.394)

平均 1,639 2,589 28,239 28,101 0.799 0.523 0.096 0.181

製薬業百万円

正味現価利益率

この表 4 で、組織が主導的要素となっているのは 10 社で、情報は 7社、設備は 2 社であ

り、組織が主導する企業が情報を主導する企業より多いとというのは意外といえよう。ま

た、組織単独の企業は 6 社、ついで情報と設備の両者が主導する企業が 5 社である。そし

て、各グループとも、収益構造と業務内容との間には明確な関連は認められなかった。 しかし、飛び抜けて業績の良い企業 5 社は、何れも情報を第一の主導要素としているの

は、情報化時代を象徴しているといえよう。すなわち、ポーターのいう競争戦略の一つ、

同業他社との比較をする上で、情報は第一にまず考えるべき要素であり、プロセスイノベ

ーションの核の一つといえよう。

一方、プロダクトイノベーションの例として製薬業を取上げる(筆者(2010)15)。ここで

は、第三の要素である人件費の代わりに研究開発費を選びその結果を表 6 に示す。

表 6 製薬企業の業績分析結果

ここで、全投資とは設備投資、情報投資、研究開発費の合計である。この図から明らか

なように、全社平均で投資総額の約 10 倍、上位 5 社平均で約 20 倍の研究開発費が投じら

れていることがわかる。いうまでもなく、製薬業にとっては研究開発の成否が企業業績を

左右しているのである。 本稿では、事例として商業と製薬業しか取上げていないが、大雑把にいって、商業では情報が、

製薬業では研究開発が主導的な役割を担っているといえよう。すなわち、別の言い方をするなら

ば、商業ではプロセスイノベーションが、製薬業ではプロダクトイノベーションが主体であるともい

えよう。

いずれにしても、たとえ情報化時代であるとしても、情報システムが、各業種、各企業に一様に

貢献するものではないともいえよう。ただし、情報が寄与しない業種あるいは企業があるという意

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システムの種類問題レベル

意味レベル 自然の 可変的な 特有なそれはどのような意味を持つか 自己価値 社会的目的 人間の意図

機能的レベル 自然の 人間の協議の 目的志向的に設計それはどのように機能するか 循環作用 形成可能な循環 されるメカニズム

物質的レベル 自然の 人間と 設計されたそれは何で構成されているか 生物と物質 「構成部品」 「構成部品」

自然のシステム

機械論的システム

文化のシステム

生存能力あるシステム

生態系 社会システム 技術システム

フェイズ 備考1 プロジェクトアイデアの検証 予備的分析2 予備的選択3 フィージビリティスタディ 公式化4 評価と投資決定

開始、スケジューリング &プロジェクトエンジニアリング

6 契約 & 調達7 建設 & 試運転 

運転 8 商用運転 プロジェクト外

準備・着手

5実施(建設)

ステージ

味ではない。常識を破るのがイノベーションであるから。 5. ビジネスデザイン 一般には、デザインという言葉は、表 7 に示すように、ウルリッヒ、プロープスト (1991)16

がいうハードウェアなどの技術システムには使われても、企業などの人間を含む社会シス

テムには分析(Analysis)が使われているようである。 まず、技術システムの代表的なデザ

イン手順として、クリーランド、キング(1983)17)の例を表 8 に示す。

表 7 システムの体系的分類

表 8 技術システム・プロジェクト・フェーズ

現実にメジャーオイルで実施されている。しかし、準備・着手段階については、何故か

我が国ではあまり行われていないようである。もちろん、実施フェーズでは、我が国でも

1960 年代からコントラクタが実施している。そして、このプロセスは、社会システムに対

しても準用されてきたといえよう。 社会システムについては、どうあるべきなのであろうか。ここに、セージ Sage(1983)18の

例を図 7 に示す。 この図でも、明らかなように、デザインの代わりに分析という言葉が使われている。そ

して、このプロセスは表 9 の領域に適用されるとしている。

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問題認識

Yes No

No

No Yes

主要問題または成果要素の同定

(問題定義)

成果要素の構造化による

問題解釈の促進

目的/設計目的(価値システム設計)

の同定

代替行動コースの期待効果査定

(システム分析とモデリング)

分析

ニーズに合致する代替行動コース/システムの同定(システム合成)

代替案の定義または詳細仕様化

最有望代替案と、その代替案の詳細な検討

具体化

実行へ成果の公式化が論理的/合理的に完結しているか?

成果の公式化

全代替案/順位付代替案の

目的満足度評価

実行代替案の選択

実行計画の策定

資源の配分

代替案の評価結果は遂行可能か/すべきか?

各代替案を最良可能案に洗練/最適化

適切な目的の計量または属性

が得られるか?

図 7 システムズ・エンジニアリング・プロセス

表 9 システム・エンジニアリング・プロセスの適用領域

(1) 多くの考慮事項と相関関係がある。 (2) 広範囲にわたる、議論を呼ぶような価値判断がある。 (3) 多くの学問領域にわたる、諸学関連的な考慮事項がある。 (4) 将来事象が予測困難である。 (5) 構造的、制度的考慮が重要な役割を果たす。

ここで、両プロセスについて大雑把な対応関係を表 10 に示す。この対応関係をみると、

最初のステージの内容が最も異なっているといえよう。 すなわち、技術システムの場合は、すでに共通のシステムの枠組みにもとづく幾つかの

システム代替案があるの対し、社会システムの場合は、異なるシステムの枠組みにもとづ

くシステム代替案を当該ステージで試行錯誤を繰り返しながら策定するという違いがある。 社会システム自体を特徴づけるのは、その多面性(Multi-, Inter- & Trans-Disciplinary)

である。さらに、もう一つの特徴はそのプロジェクトを社会的に位置付ける「フレーミン

グ」という行為の存在である。このフレーミングについては、アイエンガー(2010)19は「問

題を違う枠組み(フレーム)でとらえ直すことによって視野を広げ、独創的な考え方をす

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主要問題または成果要素の同定  (問題定義)成果要素の構造化による問題解釈の促進目的/設計目的 (価値システム設計)の同定適切な目的の計量または属性が得られるか?

代替案の定義または詳細仕様化成果の公式化が論理的に/合理的に完結しているか?

各代替案を最良可能案に洗練/最適化代替案の評価結果は遂行可能か/すべきか?全代替案/順位付代替案の目的満足度評価実行代替案の選択実行計画の策定資源の分配

成果の公式化

分析

技術システム

社会システム

具体化

アイディアの検証

予備的選択

フィージビリティスタディ

実施

ニーズに合致する代替行動コース/システムの同定(システムの合成)

代替行動コースの期待効果査定(システム分析とモデリング)

主要問題または成果要素の同定  (問題定義)成果要素の構造化による問題解釈の促進目的/設計目的 (価値システム設計)の同定適切な目的の計量または属性が得られるか?

代替案の定義または詳細仕様化成果の公式化が論理的に/合理的に完結しているか?

各代替案を最良可能案に洗練/最適化代替案の評価結果は遂行可能か/すべきか?全代替案/順位付代替案の目的満足度評価実行代替案の選択実行計画の策定資源の分配

社会システム・プロジェクト・フェーズ

フレーミング

公式化

事業化

フェイズ ステージ

選択・実施

ニーズに合致する代替行動コース/システムの同定(システムの合成)

代替行動コースの期待効果査定(システム分析とモデリング)

表 10 システムズアプローチの比較

る」ことといい、その例としてコカコーラ社をあげている。すなわち、「ソフトドリンクの

市場ではなく、飲料市場全体を考えるとマーケットシェアは 45%ではなく 2%に過ぎない

ことがわかり、劇的に戦略を展開することによって驚異的な成果をあげた」と述べている。 これは、システムズアプローチの観点から、「フレーミングとは、システムの境界とシス

テムの属性を検討し、システムを定義し直すことである」と解釈できるといえよう。そう

であれば、表 11 のような社会システム・プロジェクト・フェーズが考えられる。

表 11 社会システム・プロジェクト・フェーズ

そして、フレーミングから事業化決定に至るまでの間、何回となく、特に事業化段階で

は詳細に、「代替行動コースの期待効果査定」が行われる。

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A B C D E F G H I J K L M N O P Q2 ニトリ ラグ D-O 10.773 C-O 11.989 機器装置 0.3803 2004-08年度 機器装置 0.5 2 C-G 5.526 機装係数 1.00 ソフトウェア 0.4254 0.05 0.50 ソフトウェア 0.2 1 1.187 E-O 9.616 ソフト係数 1.00 経費 0.0125 (4) (3) (2) (1) 0 1 2 3 4 5 6 7 86 連結経常利益 23,101 26,568 33,969 47,430 56,3057 -税引後利益 11,551 13,284 16,985 23,715 28,1528 -増加額 1,734 3,701 6,731 5,268 4,358 4,358 4,358 4,358 4,358 4,358 4,358 4,3589  -増加額現在価値 2,007 4,080 7,067 5,268 4,151 3,953 3,765 3,585 3,415 3,252 3,097 2,950 46,589 4,324

10 機装前期末資産額11 機装資産増加額 122 261 1,001 2,299 2,29912 -減価償却額 61 31 15 8 413 -減価償却額 131 65 33 16 814 -減価償却額 501 250 125 63 3115 -減価償却額 1,150 575 287 144 7216 -減価償却額 1,150 575 287 144 7217 ソフト前期末試算額18 ソフト資産増加額 286 370 1,213 1,356 1,35619 -減価償却額 57 57 57 57 5720 -減価償却額 74 74 74 74 7421 -減価償却額 243 243 243 243 24322 -減価償却額 271 271 271 271 27123 -減価償却額 271 271 271 271 2712425 キャッシュフロー 1,852 3,993 7,685 7,353 7,144 6,150 5,605 5,116 4,701 4,358 4,358 4,35826 -現在価値 2,144 4,402 8,070 7,353 6,804 5,578 4,842 4,209 3,683 3,252 3,097 2,950 56,383 5,23427 投資現在価値28  -機器装置 148 302 1,104 2,414 2,299 6,267 1,13429  -ソフトウェア 348 428 1,337 1,424 1,356 4,893 88630  -合計 11,160 2,02031 人件費 10,025 12,228 13,960 16,664 16,664 14,879 14,879 14,879 14,879 14,879 14,879 14,879 14,87932 12,185 14,155 15,391 17,497 16,664 14,170 13,496 12,853 12,241 11,658 11,103 10,574 10,071 159,874 13,33533  -人件費現価 12,185 14,155 15,391 17,497 16,664 75,893 13,73534 現価総合計 87,053 15,75435 企業投資正味現価 45,223 3,21436 企業正味現価利益率 0.519 0.20437 連結経常利益回帰分析38  -機械装置投資利益 46 46 46 46 46 46 46 46 46 46 4639  -機械装置投資利益 99 99 99 99 99 99 99 99 99 9940  -機械装置投資利益 381 381 381 381 381 381 381 381 38141  -機械装置投資利益 874 874 874 874 874 874 874 87442  -機械装置投資利益 874 874 874 874 874 874 87443  -機械装置合計 46 146 526 1,400 2,275 2,275 2,275 2,275 2,275 2,275 2,27544  ー現在価値合計 51 153 526 1,334 2,063 1,965 1,871 1,782 1,697 1,617 1,540 14,599 0.05545  -正味現在価値 8,332 86646  -ソフトウェア投資利益 122 122 122 122 122 122 122 122 122 122 122 12247  -ソフトウェア投資利益 157 157 157 157 157 157 157 157 157 157 15748  -ソフトウェア投資利益 516 516 516 516 516 516 516 516 516 51649  -ソフトウェア投資利益 577 577 577 577 577 577 577 577 57750  -ソフトウェア投資利益 577 577 577 577 577 577 577 57751  -ソフトウェア合計 122 279 795 1,372 1,948 1,948 1,948 1,948 1,948 1,948 1,948 1,94852  ー現在価値合計 141 308 835 1,372 1,855 1,767 1,683 1,603 1,527 1,454 1,385 1,319 15,246 0.06153  ー正味現在価値 10,353 96154  -正味現在価値合計 141 359 980 1,898 3,256 4,042 3,958 3,877 3,801 3,728 3,659 3,593 18,685 1,82855  -人件費利益 147 147 147 147 147 147 147 147 147 147 147 14756  -人件費利益 170 170 170 170 170 170 170 170 170 170 17057  -人件費利益 185 185 185 185 185 185 185 185 185 18558  -人件費利益 211 211 211 211 211 211 211 211 21159  -人件費利益 200 200 200 200 200 200 200 20060  -人件費合計 147 317 502 713 913 913 913 913 913 913 913 913 0.08861  -現在価値合計 170 349 527 713 870 828 789 751 715 681 649 618 7,661 1,38662 現在価値総合計 26,346 3,21463  -差額の二乗*2 0.286 0.08064 正味価値分析 利益現価 投資現価 CF現価 正味現価 総合利率 設備利率 情報利率 組織利率 調整率65 ニトリ 4,324 2,020 5,234 3,214 0.204 0.055 0.061 0.088 1.187

利益調整率

年額換算係数

利益係数計算結果

計算基準資本コスト 税率

償却率

ケース 設備 情報 調整率 百万円基本 1.00 1.00 1.187 56,305ケース1 1.10 1.00 1.228 58,222ケース2 1.00 1.10 1.225 58,119ケース3 1.10 1.10 1.231 58,376

資産増加率 連結経常利益

たとえば、前述の「ニトリ」の事例であれば、アセスメント使用した表 12 に示す表計算

モデルにより、収益構造、すなわち総合利率、設備利率、情報利率が変わらないとして、

新年度の両資産増加率を変えた場合の新年度の連結経常利益を求めると表 13に示す結果が

得られる。 なお、収益構造が変わる場合、すなわちビジネスモデルが変わる場合には、収益構造の

変化を予測、すなわち、設備利率と情報利率を新たに設定すれば、この表計算モデルが適

用できるものと考える。

表 12 新年度連結経常利益推算表計算モデル

表 13 連結経常利益計算結果

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そして、収益構造が変化しない場合と比較すれば、収益構造を変化させるイノベーショ

ンの評価をすることができることになる。 6. イノベーションの実現 チェスブローらは「オープンイノベーション」(2006)で、「プロジェクト(筆者注:イノ

ベーション)が企業のビジネスモデルに適合せず、企業にとって価値のあるものを見抜け

なかった場合をタイプⅡエラーと呼んでいる。これは、クリステンセンのいう「イノベー

ションのジレンマ」に相当するものと思われるが、いずれにしてもイノベーションの実現

にはビジネスモデルが大いに関わっているといえよう。 一方、ジョンソンは「ホワイトスペース戦略」(2010)20で、ビジネスモデルが図 8 に示す

ように、四つの箱(要素)から構成されているとしている。

図 8 ビジネスモデルの「四つの箱」

ビジネスモデルの要素として「利益方程式」をあからさまに取上げているのは珍しいこ

とではなかろうか。もちろん、企業であれば暗黙の中に考慮されているのであろうが。し

かし、ここでいう利益方程式はコストという視点で述べられており、少なくともあからさ

まには利益そのものを取上げていないといえよう。 また、「主要経営資源」と「主要業務プロセス」の二つをあげているのも、もっともなこ

とであるが、情報があからさまに取上げて議論されていないのは、上述の商業企業分析結

果からみても満足できない点である。 また、ビジネスモデルの実現を、育成期、加速期、移行期に分けて論じている。これは、

未知なる分野への進出を目的とする以上、合意し得るものではあるが、それがどの期であ

れ、アプローチは同じであるべきものと考える。すなわち、前期の結果を踏まえて、フレ

ーミング、公式化、事業化、選択・実施の手順は踏むべきものと考えるからである。 さらに、経営資源と業務プロセスについても、このジョンソンに限らず、一般に有価証

券報告書でいう事業系統図(これこそ、物理的ではあるが、ビジネスアーキテクチャであ

り、あるいはエンタープライズアーキテクチャであるのではなかろうか)を念頭においた

議論がされていないように思われる。 すなわち、ポーターの「グローバル企業の競争戦略」(1986)21を紐解くと、グローバル企

業は、購買物流-製造-出荷物流-販売・マーケティング、サービスという価値連鎖内の

活動をどのように国別に展開すべきかを決定しなければならない。そして、購買物流-製

主要業務プロセス

主要経営資源

顧客価値提案

利益方程式

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価値活動 配置問題 調整問題

コンポーネントおよび最終製 分散した工場それぞれにどんな役割品の工場をどこに置くか を与えるか。

世界中の工場をどう連結させるか。製法技術と生産ノウハウを各工場間でどう交流させるか。

製品ラインの選定。 ブランド名を世界共通にするか。国(市場)の選定。 売上高を国別勘定間で調整する。広告と販促資材の制作場所。チャネルと製品ポジションを世界中

似たものにする。国が異なっても価格は同じとする。

サービス拠点をどこに置くか。サービス基準と手順を世界中同じにする。

R&Dセンターの数と場所。 R&Dセンター間に研究課題を配分する。各R&Dセンター間の人事交流。国別のニーズに応じた製品を開発する。国別に新製品販売の順序を決める。

資材購入拠点の場所。 国別に資材供給者の場所を決め、管理する。資材市場の情報を交換する。共通資材の購入を調整する。

調達

製造

販売・マーケティング

サービス

技術開発

造-出荷物流までの上流活動、出荷物流-販売・マーケティング-サービスの下流活動、

そして調達、技術開発、人事・労務管理、全般管理の支援活動の間ではその区別は明らか

である。下流活動は買い手との関係が深いから、その場所は買い手の近くになる。そして、

上流活動と支援活動は、理論的には、買い手の場所とは無関係に行うことが可能であると

している。 これらのポーターの考え方は、さすが四半世紀を経過しても、その輝きは失われていな

いように思われる。ただし、上流活動と支援活動については、実際的には、異なる展開を

見せているといえよう。すなわち、熾烈な競争に耐えるコスト逓減を図るための生産拠点

あるいは支援拠点の最適配置が行われつつあるからである。それを可能にしている要因の

一つが情報技術の進歩・普及であり、これはポーターにとっても、少なくとも当時として

は、予想外のことであったのではなかろうか。とはいっても、表 14 に示す活動別の配置・

調整問題は現在でも十分通用する見識といえよう。

表 14 活動別の配置・調整問題

そして、我国のグローバル企業はどのようにグループを形成しているのであろうか。代

表的製薬 4 企業のグループ編成と、その中の一社である武田薬品の事業系統図を表 15 と図

5 に示す(筆者(2009)22)。 なお、グローバル企業組織についての古典的な課題は、事業別と地域別のどちらを優先

するかであったが、いまや情報通信技術の発達と普及はその有様に大きな影響を与えてい

る。すなわち、グローバル化と新興国の台頭あるいは M&A の日常化は、日常のマネジメン

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連結 持分 関連

1国内、北米、

欧州国内、北米、欧州、アジア

北米、欧州 製造、販売北米、欧州、

アジア

製造、販売国内、北米、欧州、アジア

国内、米国、欧州、アジア

北米、欧州

製造、販売 中国

研究委託先 開発委託先 製造委託先 企業機能 販売委託先

9 米国、欧州 国内、中国7大日本住友製薬

参天製薬

エーザイ

2

11

63

国内、米州、欧州、アジア

武田薬品工業

企業名

47 17

子会社数

国内、米州、欧州、アジア

国内、米州、欧州

国内、欧州、アジア

製造、販売

表 15 製薬 4 企業のグループ編成

図 9 武田薬品事業系統図

トに、あるいは製品であれ、プロセスであれ、イノベーションマネジメントにも新たな課

題を突きつけているといえよう。 しかし、文書情報がなく、正確さを欠くが、すでに建設機械業コマツでは、国内で機械

の主要部分、たとえば国内でエンジン周りを生産し、現地の海外子会社で重量物の「ドン

ガラ」部分の生産と最終組立を行う。生産拠点のないところには、為替レートを配慮して、

医薬事業 医薬事業[医療用医薬品事業] [医療用医薬品事業]★日本製薬(株) [製造・販売 <米州>

・研究開発] ★武田アメリカ・ホールディングス(株) <持株会社>★武田バイオ開発 [開発] ★武田ファーマシューティカルズ・ <販売> センター(株)  ノースアメリカ(株)他 武 ★武田グローバル <開発>

[ヘルスケア事業] 薬 ★武田サンディエゴ(株) <研究>★武田ヘルスケア(株)[製造] 品 ★武田サンフランシスコ(株) <研究>他 工 ★武田研究開発投資(株) <研究開発

株 ◎TAPファーマシューティカル・ <販売・開発>その他事業 式 プロダクツ(株)

会☆和光純薬工業(株) [製造・販売] 社 <欧州>☆水澤化学工業(株) [製造・販売] ★武田ヨーロッパ・ホールディングス(株<持株会社>◎(株)日立インス [情報システム ★武田ファーマシューティカルズ・ <販売統括会社> ファーマ 開発・運用] ヨーロッパ(株)他 ★ラボラトワール・タケダ(株) <販売>

★タケダ・ファルマ・オーストリア(株<販売>製品の販売 ★タケダ・ファルマ・スイス(株) <販売>製造委託 ★タケダ・イタリア・ <販売>原材料の供給 ファルマチュティチ(株)その他 ★武田ケンブリッジ(株) <:研究>

★ 連結子会社 ★武田グローバル研究開発センター <開発>◎ 持分法適用関連会社 (欧州)(株)

★武田アイルランド(株) <製造>★武田アイルランド製薬(株) <製造>

<アジア>★台湾武田(株) <販売>★天津武田(株) <製造・販売>★インドネシア武田(株) <製造・販売>★武田シンガポール(株) <販売>★ボイエ武田(株) <販売>★タイ武田(株) <販売>

ベンチャー投資>

★英国武田(株) <販売>

国内

研究開発センター(株)

海外

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最適な生産拠点から供給する。販売後は、稼動状況を把握しておいて、必要な部品を必要

な時期に供給する。販売後、支払いが遅延した場合には、遠隔操作でエンジンを停止する。

この事例は、まさにプロダクトの、プロセスの、あるいはビジネスモデルのイノベーシ

ョン、すなわち立派なグローバルイノベーションのモデルといえよう。世界に向けて発信

してもいいのではなかろうか。 7. まとめ 我が国の 1980 年代の経済発展が一つの切っ掛けになったものと思われるが、1990 年代

に入ってイノベーションの議論が活発になった。そして、今やオープンイノベーションの

時代であるといわれるようになった。 一方で、新しい製品こそイノベーションと受け取られるがちであるが、戦略的な役割と

してはプロセスイノベーションも重要であるといわれている。我が国としては、わが国な

りにオープンイノベーションに取組み、得意のプロセスイノベーションを進化・深化すべ

きではなかろうか。 また、マネジメントサイクルについても、世界に誇れる現場型のトヨタ生産方式がある

のであるから、他の分野に拡大していけば道が開けると思われる。しかし、エンジニアリ

ングエコノミクスについては、グローバル標準にも達していないといえよう。企業活動に

おける日常的なマネジメントサイクルを、少なくとも財務的に完結させるためには、せめ

て本日述べたようなことは実施して欲しいところである。 イノベーションの実現にいても、社会的システムに対するシステムズアプローチである、

フレーミング、公式化、事業化、選択・実施という標準的ともいえる手順を踏んで欲しい

ところである。 謝辞 本稿は、経営情報学会「組織・人・情報とイノベーション」研究部会、2011 年 6 月度研

究部会での発表に備えて書いたものである。研究発表の機会をいただいた当研究部会に深

く感謝するものである。 参考文献 1 Ted,J., Bessant,J. Pavitt,K., Managing Innovation, Integrating Technological, Market

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発表大会予稿、2010 14 小松昭英、ビジネスアセスメント序説―商業の生産性、経営情報学会 2011 年春季全国発表大

会予稿、2011 15 小松昭英、ビジネスアセスメント序説―研究開発利益率の検討、国際プロジェクト・プログ

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