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ブリッジメイカー:オープン・イノベーションによる創造的破壊へ

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はじめに今日の、ますますテクノロジーが主導する世界において、自らのビジネスを再創造しようとする企業があります。これらの企業は、新たなテクノロジーを活用して顧客により良い製品やサービス、より適切な情報、そしてパーソナライズされたシームレスな体験を提供します。彼らは、これまでにないテクノロジーを開発し、ときには他社の優位性を自社の強みに変えることによって、既存の市場に創造的破壊をもたらす、あるいは新規市場に参入を果たし、「デジタルビジネス」へと変化を遂げつつあります。

このようなデジタル化の波は、業界の枠を飛び越えた相互のイノベーションを生み出し、そこから生み出される製品やサービスは顧客の期待を高めています。デジタルビジネスへと進化した企業は、パートナー企業と共に、新市場の最前線に立とうとしています。多種多様なパートナーとの連携を模索し、革新的なソリューションを創出する、言い換えるなら、オープン・イノベーションに取り組んでいるのです。

オープン・イノベーションとは、他社のテクノロジーやソリューション、知識、リソースなどを自社に取り込み、活用することで革新的な製品やサービスを生み出す手法です。多くの場合、企業はエコシステム内のさまざまなパートナーと、ときにはグローバルに連携して、新たなプラットフォームやアプリケーションを共同開発したり、コアとなる製品・サービスを拡張したり、あるいは新規市場への参入を試みた

りします。この手法では、企業は自社の枠組みから外へと目を向けることで新たなアイデアを、より迅速に取り入れることができます。また、ビジネス領域を拡張しながらも時間とコストを節約できるのです。この手法は、巨額の自社研究開発費を投じるのではなく、ベンチャー・キャピタリストの投資を用い、より短い時間でテクノロジーやソリューションを自社に取り入れることを可能にします。

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オープン・イノベーションの潮流「オープン・イノベーション」という言葉は、2003年にカリフォルニア大学バークレー校 ハース・スクール・オブ・ビジネスの組織理論家、ヘンリー・チェスブロウによって考案され、広く提唱されてきました1。この概念は長きにわたり実践され、いくつもの成功事例によってその有用性が実証されてきました。では、なぜ「オープン・イノベーション」は、現代においてこれほどまでに重要性を増してきたのでしょうか?

アクセンチュアでは、複数の要因によって、オープン・イノベーションが注目されていると考えます。例えば、演算処理能力の向上やクラウド・インフラへのアクセス、オープンソース・コードやオープン・プラットフォーム、APIといった技術の発展は、新興企業が市場参入する際の障壁を取り払ってきました。また、新興企業であるスタートアップは、イノベーションのアイデアをかつてないほどのスピードで発案し、市場展開することであらゆる業界でデジタル・イノベーションによる競争を生み出しています。例えば、2008年に設立されたエアビーアンドビー(Airbnb)は、2013年11月の時点で世界最大級のホテル予約会社へと成長を遂げつつあり、これまでの宿泊事業者は自身のビジネス・モデルの再考を迫られています 2。アジアでは百度(Baidu)やオーラキャブス(Olacabs)が、タクシーサービスの利用方法に変革を起こし、規制が残るタクシー業界に多大な影響を及ぼしています。また、2010年に設立された、シャオミ(Xiaomi)はわずか4年間でスマートフォン販売世界第3位の地位を確立するまでに急成長し、多くの大手モバイルメーカーから注目されています。このようなイノベーションがもたらした新たな競争環境は、これまでの大企業におけるイノベーションと競争のあり方に変革をもたらしています。多大なコストと時間をかける自社に閉じた研究開発というモデルは、もはや革新的なスタートアップがもたらす脅威に、ついていくことができません。

しかし、アクセンチュアはオープン・イノベーションによって、大企業は「デジタル時代の創造的破壊者」としての地位を復権できると考えています。なぜならば、大企業には新興企業と協働し、新しいビジネスを大規模に展開することを可能にする、事業規模や顧客基盤、およびリソースが備わっているためです3。

かつてオープン・イノベーションの活動は、計画性に乏しく、日和見的に行われていました。しかし今日、オープン・イノベーションをこれまでのビジネスに組み込み、より体系的に実践しようとする流れがあります。これは、大企業が他社とコラボレーションすることの価値を認め、その価値が他社に情報を開示するリスクを超えたため可能となりました。このような、抜本的な企業風土の変化は、オープン・イノベーションを事業戦略の一部と捉え、計画性を伴ったイノベーションを試みる動きへとつながりました。また、それはコ・イノベーション(共創型イノベーション)の実践、外部とのテクノロジー共用や情報の共有をも促しています。

しかし、オープン・イノベーションの実践は容易ではありません。例えばイノベーションに伴う文化の違いや、技術的リスク、セキュリティ懸念、ビジネスを大規模に展開するまでの時間といった問題は、大企業がオープン・イノベーションの潜在価値を最大限に引き出す妨げとなるかもしれ

ません。このように、実現は容易ではありませんが、オープン・イノベーションは創造的破壊者を創出し、大企業をさらなる成功へと導く可能性も秘めています。このメリットを100%享受するためには、アクセンチュアのようなブリッジメイカーとの協働が有用です。ブリッジメイカーは業界内の特性と、イノベーション・トレンドを理解し、業界外エコシステムへの橋渡しとして機能したりします。また、ブリッジメイカーは、確立されたイノベーション手法を用いて企業内のイノベーション・プロセスを先導し、ビジネス変革を可能にします。また、変革に準ずるソリューションの構築、検証、展開を促し、イノベーションを拡大させます(P4「ブリッジメイカーとは」を参照)。このような加速度的なオープン・イノベーションのアプローチを、アクセンチュアでは「ガイド型の創造的破壊」注1と呼んでいます。

企業は、社内グループや社外のブリッジメイカーとの協働により、さらに大きなパートナー・エコシステムとつながり、リスクを最小化しながら、迅速に新たなテクノロジーを取り入ることができます。すなわちオープン・イノベーションによって、ビジネスの変革を加速させるのです。

オープン・イノベーションから、ガイド型の創造的破壊へアクセンチュアのお客様の多くは、長年にわたりバックオフィス業務の効率化を実現するITソリューションを求めていました。しかし今日、マーケティングやカスタマー・サービスといったフロントオフィス業務にも、テクノロジー・イノベーションを必要としています。お客様自身が、自社業界に創造的破壊を起こし、そのリーダーシップを維持するために、この劇的な変化に対応しなければなりません。ITソリューションの例では、IT部門がパートナーシップ精神を発揮して、部門を横断したテクノロジーの活用を主導する必要があります。多くの場合、アクセンチュアがお客様をサポートし全社規模のテクノロジー・イノベーションを促進しています。そしてガイド型の創造的破壊プロセスを経て、テクノロジー・イノベーションをグローバルで利用可能なソリューションへと転換させているのです。

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注1: 英名 ”Guided Disruption”: 業界横断的なイノベーションを、業界特性を理解しながら企業内に浸透させ、ビジネスに変革をもたらすようなイノベーション実現手法のこと

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ブリッジメイカーとは

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ブリッジメイカーはイノベーション・エコシステムにおいて、企業がオープン・イノベーションを、より簡単に取り込めるように支援する役割を担います。

企業は継続的に新たなイノベーションを生み出し、ビジネスを発展させなければなりません。ブリッジメイカーは企業のイノベーション需要と、大学や研究機関、スタートアップ、起業家といったイノベーションの供給元を結び付けます。

ブリッジメイカーは仲介者として、適切なパートナーとの連携を創発し、文化が異なる両者の緩衝材として機能するほか、提携リスクの軽減、実証実験、あるいはテクノロジーの試験導入や展開をも支援します。

さまざまなブリッジメイカーの形態1つめの形態は社内のブリッジメイカーです。外部イノベーション・コミュニティの耳目となる社内部門を設立することによって、企業は継続的にイノベーションを取り入れることができます。このような社内部門は、自社ビジネスやテクノロジー・ニーズについて深い知見を有している反面、異業種を含むより大きなイノベーション・エ

コシステムの視点を持っていない場合があります。

2つめは、ベンチャー・キャピタルやアクセラレーターです。ベンチャー・キャピタルやアクセラレーターは、多くの業界をまたがってパートナーの紹介やパートナーシップ構築を支援し、さまざまなイノベーション・トレンドについての知見を提供してくれます。ただし、企業活動を支援する能力には限りがあり、彼ら自身が事業開発パートナーと提携して、適切なスタートアップを探し、育成する事例も増えています。

3つめのブリッジメイカーは、イノベーションの発見から展開に至るまでの全てのプロセスを通して企業を支援する、独自の立ち位置を確立していると言えるかもしれません。アクセンチュアでは、オープン・イノベーションの手法に、業界をまたがった知見と技術的な知識、グローバルな人材、およびチェンジ・マネジメントの豊富な経験

を組み合わせています。これによって、お客様がリスクを軽減しながら、オープン・イノベーションの成功率を高めることを支援します。例えば、南米最大のメディア・グループ、グローボ(Grupo Globo)がデジタル時代の創造的破壊者としてのポテンシャルを活かすことを支援しました。具体的には、今後5~10年間で彼らのビジネスや、メディア業界全体に変革をもたらすトレンドと、新たなテクノロジーの調査・特定を行いました。その上で、グローボのビジネス戦略の展開に資する、未来を見据えたテクノロジー・ビジョンを設計しました。さらに革新的なテクノロジーを選定、導入、展開するための継続的なプロセスをつくり、創造的破壊を実現するイノベーションの活用を支援しました4。最終的には、同社の企業風土にも変革をもたらし、スタートアップとの協働は適切に管理できれば、目を見張る成果を上げることができるという視点の転換をも促しました。

図1:ブリッジメイカーはテクノロジー・エコシステムの重要な構成要素として、イノベーションの供給と需要をグローバルに結び付ける

ブリッジメイカーは、企業のニーズに合致した最適なイノベーションを集め、リスクを軽減しながら、拡大させ展開する。変化を制御しながら創造的破壊へと企業を導き、イノベーションの供給と需要のギャップを埋める。

スタートアップ・リスクが高い・変化のスピードが速い・経済的価値を創出するまでには時間がかかる・創造的破壊を追求

フォーブス・グローバル2000企業・リスクが低い・変化のスピードが遅い・経済的価値を直ちに創出したい・ガイド型の創造的破壊を追求

発見開発

展開

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イノベーション・エコシステムとブリッジメイカーイノベーション・エコシステムはスタートアップや大学、それらを取り巻くプレイヤーによって構成され、企業の研究・開発計画のサポートや、戦略やロードマップを形成するトレンドの特定、新たな製品やソリューションの開発、新市場の掘り起こしなどに寄与するアイデアを提供します。いずれにおいても、ブリッジメイカーは、企業とそのパートナーとの重要なファシリテーターとしての役割を果たすことが可能です。

オープン・イノベーションのプレイヤーを結び付けるブリッジメイカーは、複数のスタートアップや大学、大企業とつながり、これらプレイヤーの連携を促すことで、個々のプレイヤーが今以上の成果を発揮できるようなソリューションの創発を促します。エコシステム内でのブリッジメイカーの役割は流動的で、絶えず変化します。例えば、あるプロジェクトではブリッジメイカーの役割を担った外部の組織が、次のプロジェクトではパートナーやベンダーになる場合もあるでしょう。あるいは、その逆も然りです。従って、企業がオープン・イノベーションを実践する際には、自社の目的に即してどのようにブリッジメイカーを活用するか見極めることが重要です。

スタートアップ

スタートアップとは、コアとなる技術や製品、あるいはサービスを開発し、急速な成長を遂げつつある新興企業のことです。大企業が、新たなテクノロジーを活用して既存のビジネスを拡張したり、新規にソリューションを共同開発したり、市場に共同参入したりするためのコ・イノベーションを生み出すパートナーとして位置づけられます。大企業とスタートアップのオープン・イノベーション・パートナーシップは、ビジネス・モデルやスタートアップの成熟度、テクノロジーの特徴、そしてスタートアップの成長ステージなど、さまざまな要因によって形態を変えます。

成長の初期段階(アーリーステージ)にあるスタートアップの多くは、製品・サービス改良と並行し、適切な市場を探してその製品・サービスを検証し、ビジネス・モデルと販売戦略を確立することに焦点を当てます。スタートアップはその発展段階において、頻繁な軌道修正を行うのが一般的です。優秀なスタートアップは、出資してくれる投資家・支援者からも学習し、ビジネスの軌道修正を行います。このような段階のスタートアップとの協働は、明確なビジネス・ゴールの達成を目指す大企業にとっては、リスクを伴う場合があるでしょう。

しかし、このように初期段階にあるスタートアップから、大企業が自社のビジネス変革に活かせる発想や思考方法もあります。いわば、このような段階にあるスタートアップは未来を創生するダイヤモンドの原石、あるいはリスクを取ることをいとわない勇敢な起業

家精神のかたまりです。そのため、アイデアの創出をする際に、スタートアップと大企業が討議・発案をしあうことで相互に作用することがあります。ブリッジメイカーは常にオープン・イノベーション市場にアンテナを張り、大企業が協働にふさわしいスタートアップを発見することを支援します。また、初期段階のスタートアップとの協働リスクを軽減して、迅速な協働を可能にします。

成長段階(グロースステージ)に差し掛かったスタートアップは、すでに対象市場と市場でのポジションを確立した製品やサービス、および販売戦略を有しています。これは、さらなる成長に向けた準備が整った段階です。このようなスタートアップは、大企業のパートナーとして有力な候補だと言えるでしょう。対象市場での成功が実証され、初期段階のスタートアップほどの協働リスクがないからです。また、大企業が必要とするビジネス規模にも対応でき、セールスのような、アウトバウンド機能だけではなく、カスタマー・サポートのようなインバウンド機能を備えていることもあるためです。

ブリッジメイカーはトレンドや大企業のニーズに基づいて、最も有望なテクノロジーを提案することができます。またブリッジメイカーによるパートナーシップは、従来の市場参入時のパートナーシップ組成を凌駕します。さらなる成長の機会を積極的に模索するスタートアップとの情報共有や技術共用、ビジネス・モデルの検討といった局面で大企業を支援します。

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大学

2社以上の大企業

初期段階のスタートアップ同様、大学もビジネスの未来を創造し、長期的な可能性を秘めたイノベーション・パートナーと言えるでしょう。大企業の研究開発部門は、大学と協働することで技術・科学的な研究を加速して研究計画を策定したり、ビジネス上の課題を解決したり、未来の製品やサービスを生み出すことができます。産学連携の対象は、理系の大学だけにとどまりません。経営や法律に特化した大学であれば、マーケティングやセールスといった領域でのビジネス課題について、新たな解決の視点を提供してくれることでしょう。

他方で、大学にとっては企業と提携することによって、日ごろの研究を実際に試す、実地検証の機会を得られることになります。近年では、大学が起業家を育成するプログラムを取り入れ、そこからスタートアップが誕生するケースも増えてきました。例えば、過去30年間でMITメディアラボからは140以上のスタートアップが生まれています6。

企業が大学と協働する場合、文化の違いが表面化することがあります。例えば、大学のラボでは基礎研究が主流なのに対し、企業はビジネス上の明確な成果が得られる応用研究を好む傾向があります。ブリッジメイカーが全ての研究領域に精通しているわけではありませんが、大学のラボが組み立てた概念を個々の業界に適したアイデアへと転換させる上で、ブリッジメイカーとの提携は有益です。ブリッジメイカーは、大学発の研究やアイデアを企業のビジネス・ゴールやイノベーションプランに組み込むことを支援できます。また、研究成果に基づいた実証実験や包括的なソリューションの導入を促し、このような産学連携に他の外部パートナーを呼び込むこともできます。このような役割を担うのは、パートナー間の関係や実証実験の管理を行える社内リソースであることもあれば、戦略的な視座と幅広いネットワークを備えた、社外のブリッジメイカーであることもあります。

イノベーション・センターやR&Dセンターを有している大企業同士が協働することもあります。共通のゴールを目指してコ・イノベーションを実践し、市場に製品やサービスを投入することで、各社が大きな成長を実現できます。こういった場合、大企業はテクノロジー企業とも協働でプロジェクトを推進します。全体の方向性と製品・サービス戦略、顧客データを共有し、事例を共有することで、パートナー間でシナジーが生まれます。そして、コ・イノベーションを実践して、製品やサービスおよびプラットフォームを開発します。これにより、相互メリットを享受しつつ、新たな市場への参入を果たすことも可能です。その際、いずれの企業も競争優位性を維持し、成長の機会を捉える座組みをとることが肝要です。そのために、業界の垣根を越えた新たなパートナーを特定し、協働を進めます。例えば、照明や医療機器メーカーであるロイヤルフィリップス(Royal Philips)は、クラウドアプリケーション・プラットフォームを提供するセールスフォース・ドットコム(salesforce.com)との戦

略的提携を発表しました。これによりロイヤルフィリップスは、オープン・クラウドベースのデジタル・ヘルス・プラットフォームを介した臨床アプリケーションを開発しました。また、同プラットフォームを用いて、個々の患者に焦点を置いたソリューションや治療体験を提供できるアプリケーションを開発し、患者の治療体験を改善しました7。このように、従来であればパートナーになり得ない企業の組み合わせでも、両社の協働活動はヘルスケア業界に大きな変化をもたらしています。

ブリッジメイカーは、このような先進的なイノベーションのシナリオにおいて、有益な接点として機能し、さまざまな企業が共同でR&D戦略を策定したり、コ・イノベーションの機会を探ったり、業界を横断したパートナーシップを結んだりするのをサポートします。

製品からプラットフォームへの転換企業によっては、スタートアップを活用して、既存ビジネスの拡大に取り組むケースもあります。その好例がアップルのiOSプラットフォーム、セールスフォース・ドットコムのAppExchange、およびSAPのHANA等のプラットフォームです。例えば、インメモリ・データベース/アプリケーション・プラットフォームのSAP® HANAは、スタートアップ・フォーカス・プログラムを発表しました。同プログラムは、開発者が互いに助け合うフォーラムや開発者支援教材、販促支援や各種イベントの機会などを提供し、スタートアップによるHANAプラットフォームの活用を促進するものです。また、オープン・イノベーションによって、SAPの製品やサービスの強化とにつながった好事例にもなっています。具体例を挙げれば、コンバージェンス・シーティー(Convergence CT)というスタートアップは、SAP HANAテクノロジーと大量の臨床データおよびヘルスケア分野の専門知識を組み合わせて、放射線治療や乳がん手術を受けた百万人のがん患者に関する分析データや、分析から得られた知見を提供するようになりました5。

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オープン・イノベーションの成功要因

図2:オープン・イノベーションの成功要因

基盤イノベーションと投資を推進し、新たなテクノロジーを大規模に展開する文化

ビジネス戦略ビジネス・ゴールと課題の明確化

現在では、社内のイノベーション展開を支援する、充実したイノベーション・エコシステムが存在します。新たなソリューションやテクノロジーの供給を可能にするイノベーション・エコシステムを効果的に活用し、オープン・イノベーションを実行に移すには、検討するべき要素があります。図2は、そのためのアプローチと実現方法をまとめたものです。

基盤を固めるまず、企業はオープン・イノベーションを支援する文化を醸成し、投資によってバックアップしなければなりません。企業が大きくなればなるほど、新しいアイデアを柔軟に取り入れることが困難になるため、イノベーションを可能にする土壌整備が重要になります。あるオープン・イノベーション関連のイベントで、リンクトイン(LinkedIn)のマーケティングソリューション統括が自社について言及しました。会社の規模が大きくなるにつれて、その規模と組織構造に縛られるようになったと打ち明けています。そのため、リンクトインではオープン・イノベーションを追求し、スタートアップ精神の再興に努めています。外部の知見を組み込んだパイロット・プロジェクトを通じて、より迅速にイノベーションを展開できるように取り組んでいます8。

イノベーションの鍵を握るのは投資です。これには、知識や技術を社外パートナーと従業員が安心して共有できるよう支援すること、および正当なインセンティブや報酬の準備・提供も含まれます。多くの企業はオープン・イノベーション活動を支援、促進する組織構造と、社外パートナーとの協働を成功に導くプログラムやツールを構築しています。これにはパイロット・プログラムに従業員が参加するための労働時間の割り当てや、R&Dラボの設立、協働を可能にするツールやテクノロジー・プラットフォームの導入といったものが含まれます。このようなイノベーション基盤を確立することによって、企業はビジネス戦略に則し、パートナーと共に新しいアイデアを発見、開発、展開し、イノベーションを自社に組み込むことができるようになるでしょう。

ビジネス・ゴールの定義次のステップでは、市場を理解し、異業種でのイノベーションを自社に適用できるかどうかを検討します。ここでは、社外パートナーは異業種で起きているトレンドと、自社に及ぼし得る影響の特定を支援してくれるでしょう。こうして得た知見をもとに、ハイレベルなビジネス・ゴールを定義し、それを加速させるテクノロジー・イノベーションを見分けることができます。このゴールを部門単体で実現しようとするのではなく、全社に浸透させることが理想的ですが、それには時間と投資が必要です。しかし、一度ビジネス・ゴールを全社浸透できれば、各部門に権限委譲しながら、ゴールに向かって段階を分けて活動を継続的に進められるようになります。

オープン・イノベーションが成功する環境を構築するには、明確に定義されたビジネス・ゴールに沿って、未来へのビジョンとイノベーションを推進する文化、人的/資金的なリソースを含む強固な基盤を築かなければなりません。これらの基礎を確立することによって、オープン・イノベーションは3つの段階を経て展開することが可能となります。

創造することを追い求め、イノベーション・エコシステムのパートナーとテクノロジー候補を特定する

活用事例を明らかにし、迅速なプロトタイピングを行い、ソリューションを開発する

業務改革、テクノロジーの統合・カスタマイズ、チェンジ・マネジメントを通じて、ソリューションを大規模に展開する

発見 開発 展開

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「オープン・イノベーションのポテンシャルを最大に引き上げる要素は、強固なイノベーション基盤と明確に定義されたビジネス・ゴールである」

発見発見の工程では、ビジョン実現のためのさまざまなパートナーと出会い、関係を築く機会を模索します。ただし、自社のイノベーションの方向性に適したパートナーの選定と、パートナーが果たす役割を明確化できるかどうかは個々の企業次第です。ここでは、社内のブリッジメイカー、社外のブリッジメイカー、あるいはその両方と協働することが肝要です。大切なのは、この工程において、オープン・イノベーションの手法を理解し、適切なフレームワークを用いることです。効果的なイノベーション発見の進め方とは、ビジネス・ゴールを定義し、創造することを追い求めながらイノベーション・エコシステムと関わることです。この工程の成果としては、ビジネス・ケースの検討、イノベーション・パートナーの特定とテクノロジー活用事例の策定、社内ステークホルダーの巻き込み等があります。多くの場合、複数のテクノロジーおよびパートナーが特定され、その結集によってより強力なソリューションの創出が可能となります。例えば、アクセンチュアは、イノベーションの方向性を模索していた大手銀行と協働し、関連するエコシステムを特定して、同行のビジネス変革を加速させるスタートアップを見つけ出しました。ソーシャル、決済、分析等の異なる領域で得た知見を組み合わせ、金融サービス業界向けのソリューションを開発し、同行が新たなオペレーションとサービス、製品を採用するのを支援しました。

開発開発の工程では、社内外のブリッジメイカーと共に、発見の工程で挙げたプレイヤーの中から最有力候補を選び、協働の可能性を探ります。ここでは、アジャイル開発モデルのように、複数のアイデアを高速で試行し、成功への方程式を見つけなければなりません。オープン・イノベーションの魅力は、時間的、金銭的に大きな投資をせずに多くのソリューションを試せる点です。そして、コ・イノベーションのプロセスに多くの参加者が加わることで関係者の

巻き込みが行われる点です。開発工程のゴールは、ソリューション案が技術的な観点、およびエンドユーザーの観点で問題に対応しているかどうか、そして最も重要なことは、ビジネス・ゴールが達成できるかどうかを再度検証することです。その先は、小規模かつ試験的に実践していたソリューションを、全社的にあるいは顧客基盤全体に対して展開することが期待されます。次の工程に至るまでには、継続投資によって、ソリューションが大規模に展開できること、ならびに、ソリューション展開時のリスク要因(応用性、セキュリティ、サポートの有無、スタートアップの継続性等)を緩和できるかが要点となります。

展開展開の工程では、これまでの工程で得てきた成果を、自社またはその顧客のためのイノベーションとして展開させることに焦点が置かれます。多くの企業は、発見と開発の工程は順調に進められるものの、展開の工程では立ち往生しがちです。ソリューションを大規模に展開するには、テクノロジー・イノベーションが社内システムやビジネス・プロセスに及ぼす影響に加え、ブランド認知度や顧客要求に与える影響についても検討しなければなりません。まず、イノベーションと既存のテクノロジー・アーキテクチャーおよびビジネス・プロセスを融合するアプローチを全社的に明らかにし、必要に応じたカスタマイズを行う必要があります。そして、全社規模の変革において必要とされるチェンジ・マネジメントプランを策定し、従業員が日常の業務プロセスにイノベーションを導入できるようにサポートすることも大切です。具体的には、社内システムの見直しや、ビジネス・プロセスの再構築、役割や業務の再定義、従業員研修の実施などです。優れたブリッジメイカーは、事前計画からチェンジ・マネジメントとサポートを通じて自社とその顧客にとってのビジネス・ゴール達成を支援する包括的なイノベーション展開サポートを行います。

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結論アクセンチュアは、グローバルなテクノロジー・イノベーション・エコシステムを活用して、質的にも、そして量的にも十分なソリューションを提供できると考えています。さまざまな企業、企業のR&Dチーム、大学、初期段階や成長段階のスタートアップとパートナーシップを組成し、企業および組織の成長を加速させることができます。

イノベーション・エコシステム間の結び付きが深まり、企業にとってエコシステムへの参加は成功要因の1つになっています。オープン・イノベーションによって個々の企業だけでは成しえない、新たな成長機会を捉ることができます。それにより、ビジネス変革の実現へと大きく前進できるのです。イノベーション・エコシステムに体系的に接続することで、ビジネス課題の解決に資する、最適なイノベーションを発見し、包括的な戦略を策定して、リスクを管理しながらイノベーションをビジネス変革へとつなげることができるでしょう。

アクセンチュアは、私たちのお客様であるフォーブス・グローバル2000企業とスタートアップ・コミュニティ間のブリッジメイカーとして機能します。優れたアクセラレーターやスタートアップ、ベンチャー・キャピタリスト、大学、企業の研究開発部門と連携し、深い専門知識と幅広い業界知

識を駆使して、市場にとって革新的なソリューションを構築、提供します。今後もそれらの組織と提携し、初期段階のスタートアップをも選りすぐり、アクセンチュアのR&Dパイプラインを通じてお客様に紹介していきます。

アクセンチュアはブリッジメイカーとして、スタートアップ・エコシステムが提供するイノベーションの集合体を大企業に活用して頂くことを目指します。新たなアイデアや低コストのソリューションを迅速に発見し、ビジネス課題を解決することもサポートします。しかし、イノベーションの自社への組み込みを進めるには、新たなアイデアを取り入れ、試験的に導入し、その結果を活かす社内工程を見直さなければなりません。さらに、イノベーションを組織内の大規模かつ複雑なインフラにどのように適応させるかについても、考える必要があります。

さらにアクセンチュアは、ビジネスの変革を目指すお客様に、コンサルティング、テクノロジー、オペレーションスキルとサービスの提供を行っています。ここには、個々のテクノロジー(ビッグデータ、モバイル、クラウド、データの視覚化などに特化したスタートアップ)を統合して、先駆的なデジタル・ソリューションを開発することも含まれます。アクセンチュアは、お客様のコア・コンピテンシーに焦点を当て、オープン・イノベーションがもたらすメリットを享受できるよう、ブリッジメイカーとしてサポートします。

このほかにも、複数の研究開発部門・機関と共同でR&Dプログラムを設けるなど、グローバルなイノベーション・エコシステム・パートナーと有望な市場や成長の機会を結び付けるオープン・イノベーションへの取り組みを支援しています。

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参考資料1 Open Innovation: The New Imperative for Creating and Profiting from Technology by Henry Chesbrough, September 30, 2005.

2 “Airbnb Is on Track to Be the World’s Largest Hotelier,” by Andrew Cave, Business Insider, November 16, 2013. http://www.businessinsider.com/airbnb-largest-hotelier-2013-11.

3 Accenture Technology Vision 2014.

4 Globo and Accenture: Tracking the Future of Technology, Accenture, 2014. http://www.accenture.com/us-en/Pages/success-grupo-globo-tracking-future-technology.aspx.

5 “SAP Hana is the Future of Business,” SAP.com, http://www.saphana.com/community/about-hana/sap-hana-outperforms.

6 MIT Media Labs, http://www.media.mit.edu/.

7 “Philips and Salesfore.com Announce a Strategic Alliance to Deliver Cloud-Based Healthcare Information Technology,” press release. http://www.salesforce.com/company/news-press/press-releases/2014/06/140626.jsp; “Philips: ECareCoordinator & ECareCompanion Applications Receive 510(k) Clearance,” RTT News, October 1, 2014. http://www.rttnews.com/2391682/philips-ecarecoordinator-ecarecompanion-applications-receive-510-k-clearance.aspx.

8 Valter Sciarrillo, LinkedIn’s Head of Measurement, Marketing Solutions at Accenture Open Innovation event, “Open Innovation Power Couples.”

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アクセンチュアについてアクセンチュアは「ストラテジー」「コンサルティング」「デジタル」「テクノロジー」「オペレーションズ」の5つの領域で幅広いサービスとソリューションを提供する世界最大級の総合コンサルティング企業です。世界最大の規模を誇るデリバリーネットワークに裏打ちされた、40を超す業界とあらゆる業務に対応可能な豊富な経験と専門スキルなどの強みを生かし、ビジネスとテクノロジーを融合させて、お客様のハイパフォーマンス実現と、持続可能な価値創出を支援しています。世界120カ国以上のお客様にサービスを提供する35万8,000人以上の社員が、イノベーションの創出と世界中の人々のより豊かな生活の実現に取り組んでいます。

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