〜「民公産学」の連携で健康なまちづくりの産業化...

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Page 1: 〜「民公産学」の連携で健康なまちづくりの産業化 …platinum.mri.co.jp/sites/default/files/page/senior...転の発想がキーワードになります。「介護にさせないことで儲ける」という逆こでは「介護で儲けるのではなく、介従来の高齢者住宅ではありません。そ業」の活性化です。日本版CCRCは

はなく、「担い手」として積極的に自治

に参加し、近隣の大学や教育機関に通

い、地域交流や多世代交流を通じて生

きがいを得ることができます。

2つめの「公共」では、地域に雇用

を創出し、税収をふやすことが期待さ

れます。日本版CCRCによる雇用創

出は、若年層の転出を抑制し、働き世

代の転入をふやします。健康なまちづ

くりが地方創生になり、人口減少の対

応策になります。

そして3つめ、これが最も重要な「産

業」の活性化です。日本版CCRCは

従来の高齢者住宅ではありません。そ

こでは「介護で儲けるのではなく、介

護にさせないことで儲ける」という逆

転の発想がキーワードになります。「介

護にさせない」ための予防医療や健康

支援の新ビジネスの創造が期待され、

この商機をつかむことができるかどう

かが鍵になるでしょう。いわば「健康

なまちづくり」の産業化ですね。

たとえば、いま私が注目しているの

が、介護にさせないための健康支援、

運動、食事、予防医療を緻密にプログ

ラム化し、居住者の血圧、血糖値、日々

のバイタルデータから遺伝子解析まで

含めた健康データを分析する新市場で

す。米

国のCCRCの事業主体は、大学

の医学部と共同で健康アセスメントツ

ールを開発しています。数万人のシニ

アの健康データを基に、過去の病歴、

現在服用している薬、行なっている運

「介護状態にさせない」

仕組みづくりに商機あり

――松田さんは、最近刊行された著書

『日本版CCRCがわかる本』(法研)

でも、日本版CCRCについて「民公

産学の四方一両得」と明言されていま

すね。

松田●日本版CCRC(生涯活躍のまち)

は一部の人や組織だけでなく、あらゆ

る方面にメリットをもたらす可能性を

秘めています(図表1)。

まず、居住者となる「市民」は、日

本版CCRCで予防医療や健康支援を

受けながら、介護や看取り時まで継続

的なケアが提供されるという安心を得

られます。居住者は支えられる存在で

日本版CCRCに潜む

ビジネスチャンスの芽

〜「民公産学」の連携で健康なまちづくりの産業化を

わが国が直面する超高齢社会、人口減少といったピンチをチャンスに変える切り札として期待を集める日本版CCRC。

一方で、運営ノウハウやリスクへの不安から事業主体としての一歩を踏み出せないケースも多い。日本版CCRC研究の第一人者である

㈱三菱総合研究所の松田智生氏に、ビジネスチャンスのありか、その見極めポイントと関わり方、課題などについて聞いた。

[インタビュー]

㈱三菱総合研究所

プラチナ社会センター

主席研究員

松田

智生氏

Matsuda T

omoo

動などのデータを入力するだけで、こ

れからどんな運動をしなければならな

いか、今後起こりうる健康状態や病気

を予測できるまでになっています。日

本と米国では疾病構造の違いや、個人

情報の取扱いなどクリアすべきハード

ルはありますが、ビッグデータを扱う

IT企業などが事業に参画し、そこに

データを分析する大学が加わるという

仕組みが実現すれば、圧倒的なビッグ

ビジネスが生まれると思います。

――日本では長らく不動産ビジネスと

して高齢者の住まいやコミュニティが

発達してきた歴史がありますので、こ

れまでそういった部分に目が届かない、

関心が薄いというのが現実ですね。

松田●米国のCCRC事業者の言葉で

038Senior Business Market2017. JUN.

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特集 日本版CCRC――事業化に向けた課題と可能性

等の制度設計の組合せが重要なのです。

たとえば、「フィットネスクラブ連携

型CCRC」などはどうでしょう。事

業主体がプールやジムをつくり運営す

るのは簡単ではありませんが、既存の

フィットネスクラブの近隣にCCRC

をつくり、運動好きなシニアを呼び込

む手法です。さらに、会員の健康デー

タを蓄積して、食事や予防医療、IT

を使ったサービスを複合することで、

付加価値の高いサービスが提供できま

す。また、会員1人ひとりに健康アド

バイザー、健康コンシェルジュといった

“伴走者”を付けることで、会員が途中

で飽きたり諦めたりせずに続けてもら

うことも可能です。

お金の安心を担保する

新商品の開発が鍵を握る

――事業主体側からすると、開発はし

たものの、肝心の入居者が集まらなか

ったら、という不安は常に付きまとい

ます。

松田●CCRCは本来、健康時から介

護時、終末期に至るまで移転すること

なく安心して住み続けられることが前

提ですが、そこには「オカネ」「カラダ」

「ココロ」の3つの安心が必ず担保さ

れなければなりません。

なかでも重要なのが「オカネの安心」

でしょう。いまの低金利時代では、シ

ニアの安心を呼び込む金融商品にビジ

ネスチャンスがあるといえます。

好事例としてあげられるのが、長野

県の松本信用金庫の「健康寿命延伸特

別金利定期積金」です。これは健康診

断を毎年受診することを条件に、通常

の金利(0・0‌

2%)が10倍(0・2%)

になるというもので、2014年の販

売開始時に、7カ月で約12億円を集め

る大ヒット商品となりました。ほかに

も、たとえば死亡時に5000万円の

生命保険の契約に特約をつけて、要介

護1になったとき、その6割の

3000万円が支払われ、それを日本

印象的だったのは、“C

CRC‌is‌not‌a‌

real‌estate‌business‌but‌a‌lifestyle‌

business”と称したことでした。つま

りCCRCは単なる不動産事業ではな

く、「組合せ型のライフスタイルビジ

ネス」と位置づけているのです。ハコ

モノだけでなく、ソフトとしてのライ

フスタイルと、減税や規制緩和、補助

■図表1 日本版CCRC(生涯活躍のまち)は四方一両得

▶市民:健康・生きがい

日本版CCRC

▶公共:雇用・税収増・    医療費抑制

▶産業:住宅・ヘルスケア・    食事・生涯学習・IT・    金融・不動産流通・    交通

▶学校:キャリア教育・    地域貢献・    ブランディング

民シニア、学生

公自治体

学大学

産企業

●知的好奇心 ●頭と体の活性化●老化防止  ●医療費抑制●世代間交流 ●脱孤独・つながり

●地域活性化 ●雇用増●税収増   ●医療費減

教育医療・ヘルスケア

住宅環境・エネルギー交通・移動ファイナンス

シニア向けカリキュラム、E-ラーニング、キャリアアドバイザー遠隔通信医療、健康増進プログラム、機能性食品高齢者向けバリアフリー住宅リサイクル・循環システム、地域冷暖房高齢者用エコカー、カーシェアリング、新移動機器高齢者向け資産活用相談、リバースモーケージ

新ビジネス創造

●学生増●収益安定●世代間交流

出所:㈱三菱総合研究所 プラチナ社会センター

■図表2 CCRCは組合せ型のライフスタイルビジネス

CCRC is not a real estate business but a lifestyle business単なる不動産事業ではない

地域活性化、産業・雇用

健康・医療・介護

街づくり社会参加

多世代共創

街づくり 地域活性化 新産業創出

予防医療

ヘルスケアデータ活用

日本版CCRCサステナブル

プラチナコミュニティ(高齢化・環境サステナブル)

健康寿命延伸

シニア住宅

不動産流通

省エネ住宅

低炭素社会

地方移住

地域間連携

雇用・税収

生涯学習

社会参加

大学連携

軽就労

出所:図表1に同じ

039 2017年6月

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版CCRCへの住替えや生活費用に充

当するような商品も、シニアにとって

は魅力ではないでしょうか。

――いまのシニアは生きている間はお

金を使わず、貯め込んだまま亡くなる

と言われます。シニアに消費を促し、

日本の経済を回すにはどうしたらよい

でしょうか。

松田●使わない理由は2つあり、1つ

は介護になったらいくら必要かわから

ないという「不安」からくるもの。し

かしCCRCの基本理念は、介護にな

っても入居費用は変わらないというこ

とです。そこに価値を見出し、通常の

家賃より20%高くても住むシニアが現

れるのです。要介護者がふえれば事業

主体のオペレーションコストがふえて

しまうので、事業主体は介護状態にさ

せないよう努力をします。シニアのお

金に対する安心を担保すれば、そのた

めの消費を促すことができるはずです。

もう1つの理由が、「使いたいものが

ない」というものです。その解決策の

1つとしてあげられるのが、誰かのた

めに役立ちたいという、シニアの承認

欲求、貢献欲求を満たすものです。た

とえば「シングルマザー連携型

CCRC」。これは敷地内にシングルマ

ザー向けの住まいを併設し、CCRC

の予防医療、食事、運動、介護分野で

彼女たちの雇用を創造するアイデアで

すが、その一方で、居住者が1口数万

円でシングルマザーの子どもたちの奨

学金を供出し、「あしながおじさん(お

ばさん)」になってもらいます。

同様に、「若手起業家・若手アーティ

スト連携型CCRC」なども有望です。

1口数万円のファンドをつくり、居住

者が出資して彼らを支援することでシ

ニアにとってはよい刺激になるばかり

か、もし彼らが株式公開した場合は、

配当で億万長者という、「ちょっとした

夢を買う」ことにもつながるでしょう。

一方、シニアにとっては地域社会と

のつながりも重要です。私は「社会活

動ポイント制度」と名付けているので

すが、日本版CCRC内で誰かのため

に働いたら、その労働時間がポイント

化され、自分の将来の介護サービスに

使えるようにしたり、地域通貨として

食事や買い物に使えるようにするとい

うアイデアです。近隣の子育て支援や

ボランティアなど、地域の誰かのため

に貢献することができれば、地域全体

にもメリットがあるはずです。また、「イ

オンモール下田店」(青森県おいらせ町)

ではモール内を楽しくタッチラリー方

式でウォーキングしながら健康ポイン

トを貯めることができ、貯まった健康

ポイントはWAONポイントへ交換し

たり、健康クーポンがもらえるサービ

スも実施されており、こうした官民連

携の制度設計も今後必要になってくる

でしょう。

初期ユーザーの情報発信しだいで

住替え需要は喚起できる

――CCRCへの住替えは「元気なう

ちに」というのが前提ですが、自立向

けサ高住などの場合「まだ早い」と躊

躇するシニアが多いのが現状です。住

替えを喚起する秘策などはありますか。

松田●ヒントは、はじめてスマートフ

ォンを使った人、はじめてSNSを使

ったような人にあります。彼らが日常

をスマホで写真に撮り、見た人の「い

いね!」の声によって急速に広まって

いくように、日本版CCRCも、初期

ユーザーのいきいきとしたライフスタ

イルがいかに広まるかが重要だと考え

ています。どんな不動産に住んでいる

かではなく、そこに住む人がどんな生

き方をしているかを発信することで、

後に続くユーザーは自然にふえていく

と思います。ですからなおさら、初期

のCCRCが成功することが必須なの

です。

私がCCRCの有望性を提唱しはじ

めたころに訴求したのは、「アクティブ

シニアの新しいライフスタイル」であ

り、それは「オカネの安心、カラダの

安心、ココロの安心」が担保されたコ

ミュニティであり、立地も都市のタワ

ー型、近郊ニュータウン型、海や山の

リゾート型と多彩でした。それがある

時期から「日本版CCRC=高齢者の

地方移住、介護難民の救済策」へと変

わってしまい、「姥捨て山」の誤解や先

入観が生まれました。誤解を生んだ原

因は主語です。主語が「東京の介護難

民が」「地方の疲弊が」では心に響かな

いでしょう。日本版CCRCの主語は、

あくまで「私」です。主語が「私が輝

出所:『日本版CCRCがわかる本-ピンチをチャンスに変える生涯活躍のまち-』(法研)

■図表3 日本版CCRCにおける事業主体のイメージ

事業主体:単体モデルと共同出資モデル

単体モデル企業または

社会福祉法人

共同出資モデル

地元企業

公的ファンド、地域金融機関

地元社会福祉法人

首都圏大手企業

地方自治体も出資するケース

地元企業首都圏大手企業

地元地方自治体

040Senior Business Market2017. JUN.

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特集 日本版CCRC――事業化に向けた課題と可能性

松田 智生(まつだ・ともお)㈱三菱総合研究所プラチナ社会センター 主席研究員 チーフプロデューサー1966年東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。専門は超高齢社会における新産業創造・地域活性化、アクティブシニアのライフスタイル。2010年、三菱総合研究所の新たな政策提言プロジェクト「プラチナ社会研究会」を創設。著書に『これから30年。日本の課題を解決する先進技術』、『3万人調査で読み解く。日本の生活者市場』(共著)など。17年2月に最新著書『日本版CCRCがわかる本-ピンチをチャンスに変える生涯活躍のまち-』(法研)を上梓。政府日本版CCRC構想有識者会議委員、内閣府高齢社会フォーラム企画委員、OECD都市の国際フォーラム・リードスピーカー、高知県移住推進促進協議会委員、石川県ニッチトップ企業評価委員、国際ホテル・レストランショー企画委員などを務める。

くためのセカンドライフ」であったな

ら、もっと前向きな議論になるでしょ

う。夢や憧れや「ワクワク感」が必要

なのです。

理想的なセカンドライフのモデルと

して私がよくご紹介しているのは、高

知県庁の移住推進協議会や高知版

CCRCでご一緒している、高知市に

住む黒笹慈幾さんです。黒笹さんは漫

画『釣りバカ日誌』の初代編集担当だ

った方で、東京から高知市の中心市街

地に移り住み、近年は、趣味の釣りを

楽しみながら、高知大学の特任教授と

しても活躍しています。彼の目指す高

知版CCRCは、日本中の釣り好きが

集まる「高知釣りバカビレッジ」。いわ

ゆる「趣味型CCRC」の理想形ですね。

単独方式から共同出資方式へ

とりまとめ役の育成も課題に

スマートコミュニティ、「ゆいま〜る」

シリーズは㈱コミュニティネットと、

いずれも単独法人です。しかし、1つ

の事業主体がすべてを担うのは大きな

リスクになります。

このリスクを解決するために、事業

主体の共同出資方式があります(図表

3)。単独方式よりこのほうがリスクヘ

ッジや安定性に優れるといえるでしょ

う。ただし多く集まればよいわけでは

なく、「三人寄れば文殊の知恵、五人集

まれば無責任」となりがちです。少数

の志のある主体が連携し、これに地銀

や地域経済活性化支援機構(REVIC)

のようなファンドの支援を仰ぐといっ

たことも可能ですので、ぜひ検討して

みていただきたいですね。

また、私がいま危惧しているのは、

劣悪な品質の「なんちゃってCCRC」

の粗製濫造です。米国では中立機関に

よるCCRCの認証規格制度がありま

す。消費者保護や投資家への説明責任

のためにも、日本版CCRCのハード(建

物・設備)、ソフト(健康・介護支援)、財

務の健全性を示す認証規格制度をつく

るべきです。

――いずれにしても、日本版CCRC

市場は、大きなマーケットであること

は間違いありませんね。

松田●図表4にあるとおり、アクテ

ィブシニアの市場は、2023年に30

兆円と三菱総研では試算しています。

CCRCは、このなかの多くのビジネ

スと関連性があります。ビジネス領域

は多岐にわたりますが、ITはIT、

フィットネスはフィットネスというよ

うなプロダクトの単品売りのようにな

ってしまっては意味がないので、これ

らをトータルでコーディネートできる

ような存在、つまり、「プロジェクトマ

ネジャー」のような人材が不可欠にな

ると考えます。そういう人材育成もこ

れからはビジネスになると思います。

突き詰めていけば「まちづくりは人づ

くり」であるということです。

――本日はありがとうございました。

�――日本版CCRC

の計画は各地で進め

られていますが、今

後さらに普及させて

いくためには、どの

ような課題を克服し

なければならないの

でしょうか。

松田●1つは、日本

版CCRCに挑戦し

ようという、新たな

事業主体の開拓です。

先進事例の事業主体

を見ると、たとえば

「シェア金沢」(石川

県金沢市)は社会福

祉法人、「スマート

コミュニティ稲毛」

(千葉市稲毛区)は㈱

出所:図表1に同じ

■図表4 アクティブシニアの市場規模

ビジネス領域 キーワード ビジネス

セカンドチャレンジ学ぶ(1.6兆円) シニアビジネススクール

働く(0.8兆円) プチ就労・起業支援

ライフスタイル演出極める(10.7兆円) コト追求ビジネス

装う(3.6兆円) こだわりお洒落ビジネス

スマートライフ応援暮らす(0.7兆円) ホームコンビニエンスサービス

出かける(0.8兆円) 高齢者モビリティ

生活空間リノベーション改める(4.9兆円) 健幸リフォームビジネス

住み替える(2.3兆円) 健幸移住支援ビジネス

ヘルスライフ応援 若返る(2.1兆円) アンチエイジングビジネス

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