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- 1 - 佐久市有機農業研究協議会講演会 2011 2 15 日 佐久大学講堂で講演) 土にとって有機とはなんだ 東御市御牧ヶ原 中村 真一 中村真一氏プロフィール:昭和 291954)年生まれ、東御市御牧ヶ原に在住。地域営農集 団の「南部農業研究会」会員。生産技術・出荷を担当。土づくりに取り組み、有機農業の普 及を進めている。農業経営面積;薬用人参 130 アール、センブリ 90 アール、馬鈴薯 40 アール、水稲 100 アール。 御牧ヶ原大地の農業環境 東御市御牧ヶ原の中村です。いまご紹介いただきましたように、私の住んでいる御牧ヶ 原大地は、完全な独立大地で、どこから行くにも坂を上らなければ行けません。私は昭和 29 年生まれですが、大正の末ぐらいから先代がそこに住んで、その当時は養蚕や雑穀、若 干の家畜というような農業だったようです。周り中、山だらけ、年間に雤が 900mm しか 降らないので、 8 月、 5 月には大干ばつになりやすいところです。土質も御牧ヶ原全体が重 粘土壌です。ため池が大小 400 ぐらいあり、水源はそのため池とそれぞれ庭に、裕福な家 は井戸があるという環境です。 昭和 245 年頃に千曲川沿いに川辺地区というのがあって、当初は種芋でしたが、種芋 としての生産集団は発足して、278 年頃種芋としての品質が非常に悪くなってしまって 流通できなくなりました。急きょ生食用に転換したら、それが思いの外、好評で、そこか ら生食用のジャガイモ生産が始まりました。それが昭和 2829 年に御牧ヶ原まで普及して、 御牧ヶ原馬鈴薯出荷組合、「まるはら」という銘柄でしたが、「まるはら」の白いもが大 阪をメインの出荷先に生産活動が始まったようです。 昭和 32 年、当時は養蚕が主体でしたので、あちこち桑園、桑畑でしたが、それをバッコ ンしてジャガイモを作付けするようになりました。御牧ヶ原を含めた出荷組合が新しくで きて、昭和 40 年頃には一面見渡す限りジャガイモ畑でした。8 月、9 月、10 月の 3 か月ぐ らいは大阪の市場は御牧ヶ原のジャガイモだらけの状態で、最大ピークは昭和 40 年代から 50 年直前ぐらいでした。 蓼科山から水を引く 昭和 36 年に、県の総合開発事業、北佐久一円の総合開発事業という大きな事業であった ようですが、蓼科山からサイフォンで御牧ヶ原に水を引くという事業が始まりました。当 時は池の下にある 23 枚の田んぼが穫れ、秋を迎えられれば、その年はよかったというこ

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佐久市有機農業研究協議会講演会

(2011 年 2 月 15 日 佐久大学講堂で講演)

土にとって有機とはなんだ

東御市御牧ヶ原 中村 真一

中村真一氏プロフィール:昭和 29(1954)年生まれ、東御市御牧ヶ原に在住。地域営農集

団の「南部農業研究会」会員。生産技術・出荷を担当。土づくりに取り組み、有機農業の普

及を進めている。農業経営面積;薬用人参 130 アール、センブリ 90 アール、馬鈴薯 40

アール、水稲 100 アール。

御牧ヶ原大地の農業環境

東御市御牧ヶ原の中村です。いまご紹介いただきましたように、私の住んでいる御牧ヶ

原大地は、完全な独立大地で、どこから行くにも坂を上らなければ行けません。私は昭和

29 年生まれですが、大正の末ぐらいから先代がそこに住んで、その当時は養蚕や雑穀、若

干の家畜というような農業だったようです。周り中、山だらけ、年間に雤が 900mm しか

降らないので、8 月、5 月には大干ばつになりやすいところです。土質も御牧ヶ原全体が重

粘土壌です。ため池が大小 400 ぐらいあり、水源はそのため池とそれぞれ庭に、裕福な家

は井戸があるという環境です。

昭和 24,5 年頃に千曲川沿いに川辺地区というのがあって、当初は種芋でしたが、種芋

としての生産集団は発足して、27,8 年頃種芋としての品質が非常に悪くなってしまって

流通できなくなりました。急きょ生食用に転換したら、それが思いの外、好評で、そこか

ら生食用のジャガイモ生産が始まりました。それが昭和 28,29 年に御牧ヶ原まで普及して、

御牧ヶ原馬鈴薯出荷組合、「まるはら」という銘柄でしたが、「まるはら」の白いもが大

阪をメインの出荷先に生産活動が始まったようです。

昭和 32 年、当時は養蚕が主体でしたので、あちこち桑園、桑畑でしたが、それをバッコ

ンしてジャガイモを作付けするようになりました。御牧ヶ原を含めた出荷組合が新しくで

きて、昭和 40 年頃には一面見渡す限りジャガイモ畑でした。8 月、9 月、10 月の 3 か月ぐ

らいは大阪の市場は御牧ヶ原のジャガイモだらけの状態で、最大ピークは昭和 40 年代から

50 年直前ぐらいでした。

蓼科山から水を引く

昭和 36 年に、県の総合開発事業、北佐久一円の総合開発事業という大きな事業であった

ようですが、蓼科山からサイフォンで御牧ヶ原に水を引くという事業が始まりました。当

時は池の下にある 2,3 枚の田んぼが穫れ、秋を迎えられれば、その年はよかったというこ

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とが通例であった稲作ですが、その開発事業で水が来るようになってどんどん開田が進み

ました。

それと同時に昭和 48、9 年には田植機や耕作機械も新しく出てきて、ジャガイモと稲作

が盛んになっていきました。それから古来からの薬用ニンジンがありますが、これは御牧

ヶ原であれば、どこの農家もつくっていました。栽培レシピ、栽培のマニュアルがない作

物で、穫れたり穫れなかったりが極端でした。先人の知恵に従った作り方しか出来ません

でしたが、非常に高価な作物なので、現金収入の一つとして皆さん取り組んでおられたよ

うです。

そういった薬用ニンジン、ジャガイモが普及したことで、輪作体系に小麦が栽培される

ようになりました。畜産も鶏、豚、牛、山羊もありましたが、それも含めて 29 品目ぐらい。

非常に多くの作物で、それぞれの中から 3 品目、4 品目を組み合わせた複合形態をとった

地域です。

私はそのジャガイモと朝鮮人参で学校へ行かせてもらい、北佐久農業高校を昭和 48 年に

卒業しましたが、その頃がジャガイモの最大ピークの頃でした。私の住んでいる集落は 80

戸ぐらいあるんですが、周り中、皆さん農家でしたので、後継者世代の皆さんを中心に、

いわゆる生産集団が出来ていて、卒業してすぐにその農業研究会のメンバーに入れてもら

いました。

農業優遇政策の時代

当初はいわゆる国庫補助 5 割というような農業優遇政策が盛んで、そういういろいろな

資金を活用して機械を入れたり、設備をつくったり、農業の環境条件の整備というような

ことでみんなでやっていた時代でした。

それから昭和 50 年代に入って最初に起こったのは、お米の転作、減反事業でした。水も

来たことで開田が進んでいましたが、減反事業で急に農業の環境悪化というような方向に

なってしまいました。当初、その農業研究会も 13,4 人いましたが、その中の半分くらい

は農業を止めたわけではありませんが、勤めに出て兼業化というような状態になりました。

残った専業農家の皆さんは、ジャガイモもだんだん穫れなくなったり、品質が悪くなっ

てきたり、市場価格も全然動かないという状況のなかで、作物の転換を余儀なくされてい

きました。お米が作れない部分を、スイートコーンやブロッコリーなどの干ばつに強い作

物への転換が計られて、現在、スイートコーン、ブロッコリー、薬用ニンジン、お米、若

干の馬鈴薯などが主体の複合経営になってきています。

薬用ニンジンを主体に

私の家は先代が薬用ニンジンが好きで、それほどの収益性はなかったのですが、ジャガ

イモの副業的に薬用ニンジンを作っていたようです。あるとき、その薬用ニンジンがぽっ

と突然いいものが穫れた。ジャガイモがかなり多かったのですが、ジャガイモは病気が出

たり、いいものが穫れなくなったり、収量も減ってきたり、そして歳をしてきて重いもの

を扱うのは大変になったというようなことで、一気に馬鈴薯を止めてしまいました。そし

て、突然たくさんのお金が手元に入った薬用ニンジンを追求した方が生活安定の一番近道

ではないかという分析だったようですが、薬用ニンジンに切り替わって、薬用ニンジンを

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本気でずっとつくっています。

昭和 49、50 年頃、薬用のセンブリの栽培が始まりました。これは長野県農業試験場の出

張所の先生が、山取の種から栽培の技術をつくり、研究して畑で作れるようにしたので、

最初の圃場試験を私のところでやってくれないかという話になって、そこで畑で作る栽培

センブリが始まって、それもずっと続いています。

化学肥料に頼っていた農作物づくり

今日の主題の「有機とはなんだ」ということですが、昭和 60 年代、先程来、ジャガイモ

の品質が悪くなってきたという話をしましたが、一番のそのわけは化学肥料だと思ってい

ます。

ジャガイモは粘土質でつくると、基本的に美味しいものが出来ます。御牧ヶ原というと

ころは、標高 700~800mあって、日格差といって昼と夜の温度差がすごくあるところです。

その日格差があることで美味しくなる。昼と夜の温度差がない地域に行くと、昼間光合成

で蓄積したものを、夜に消費してしまう。日格差がある地帯なら昼と夜の温度差があるこ

とで、昼間蓄積された養分が夜使われなくて蓄えられる。そういうことで味がよくなる。

その日格差と粘土の条件で非常に美味しいジャガイモが穫れていました。

ところが、たくさん穫りたいということで化学肥料をどんどんくれる。昭和 30 年代、40

年代の最盛期のときには、畜産もやっていたので、若干の堆肥を入れながらやっていまし

たが、そういうものも量産化ということで追いつかなくなってきて、必然的に化学肥料一

本槍という状態になりました。

化学肥料は窒素、リン酸、カリ。これらは安定化させるために塩と結びつけて、作物が

すぐ吸いやすい形にしてあります。これを窒素だけでも 15kg、16kg、そういうレベルで毎

年大量投与を繰り返してきた。昭和 30 年代、40 年代を経て、50 年代に品質が悪くなって

きたなと言われたときにはもう、化学肥料をくれたことによって、肥料成分は吸われるけ

れども、それを生成するために、安定化させるために結びついていた塩、それだけが畑に

残った。そして塩基障害、生育障害を引き起こす状態になってきていました。

反当たり 3 トン、4 トン穫れていたジャガイモが 2 トンに減って、それと同時に白いも

と言われていたブランドが「肌がごつごつではないか」、という話になってきてしまった。

切ってみると、中が空洞になっていたり、黒くなっていたり、そういう芋が多くなってい

た。市場性が非常に悪くなってきた。それが化学肥料の障害だった。

最初は分からなかった。だんだん塩基障害ということが、世に言われるようになって、

EC(電気伝導度)が高いといわれるようになりました。いわゆる化学肥料をくれたことに

よる生育障害、ジャガイモに限らず他の品物も御牧ヶ原の粘土で作っているのに何でこん

なに美味しくないんだという状況になってきた。昭和 50 年代後半ぐらいからは、そういう

ことに対する対応策ということで、いろいろな有機手法がとられるようになってきました。

EM 菌など優等生菌を試してみたが

全国的にも例えば内城菌だとか EM 菌だとか、そんな微生物、バクテリア利用の有機体、

そういう農業が盛んに言われるようになってきました。私たちもバクテリア利用、アミノ

酸資材を利用したり、一部 EM 菌の活用を手掛けてみました。当初は、有機の中身というか、

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なぜ有機なのか、有機とはどういうことなのかを全く知らないまま、世間で言われるバク

テリア利用の有機ということに走っていきました。

けれどもジャガイモにしても何にしても、やってもなかなか昔のような品物に戻ってこ

ない。そんなことで何年も、一つの方法にのめり込んでいきましたが、結果が出ない、収

益性が上がってこないということで、こちらの体力が持たなくなってくる。そういうこと

を何度か味わいました。これはだめだから次はこれ。これもだめだから次はこれ。3 種類

ぐらいをやっているうちに 10 年が過ぎてしまった。その 10 年のなかで、体力がなくなっ

た上にさらに体力がなくなって、何をやってもだめだという考えしか持てなくなってしま

いました。

それと並行して収益性を追求しなければいけないということで、ちょっと邪な考えで、

販売を優位販売すればいいんだという、そういう方向に一部走った経緯もありました。ち

ょうど平成との境目ぐらいから産直型の流通体系ということに問題意識をすり替えてしま

ったという経過があります。

伊藤常務さんとの出会い

産直型というのは、ちょっと前から流行りだしていましたが、生産者と消費者が直接結

びつく販売体型で、我々はいま流行の「道の駅」がやっている直売所のようなタイプでは

なく、農協の一手流通から離れた、いわゆる消費者の窓口の量販店と直接取引をすること

で優位販売という方法をとってみました。これは研究会というグループがあったことで、

ものすごく大型の量販店とは付き合えないが、従業員が何十人とか百名以内の量販店はお

客の数も限定されているので、生産物のロットが販売ロットにつり合うところを付き合い

の対象にしていました。

その中につるやさんがありました。つるやさんの経営者は掛川さんという方ですが、掛

川さんの弟子になる格好で、創業当時から、つるやを大きくするために一所懸命やった人

に、伊藤さん、その当時はバイヤーマネージャーでしたが、後に常務さんになった人で、

昨年定年なのかはっきりしませんが、勇退されて今、つるやさんの相談役という立場の伊

藤さんという方がおられます。

産直を取り始めた頃から親しくお付き合いをさせていただきましたが、この方に平成 14

年に「おまえたちのつくった作物はまたまずくなった」と指摘され、えらく怒られました。

「いったい、どういう作り方をしているんだ」と。これはジャガイモの話なんですが、そ

のジャガイモがまずくなったと言われたことがショックで、「これでつるやさんとの取引

も終わってもしょうがねえな」と思っていたら、「作り方を教えてやるから、一緒に北海道

へ行こう」という話になって、北海道に連れて行ってもらいました。

北海道・小清水町に学ぶ

北海道は網走に近い小清水町という町がありますが、ジャガイモや小麦、甜菜の産地で、

とくにジャガイモのデンプンをとる頃には町中がその廃液で臭くなる。そこへ連れて行っ

てもらいました。デンプンをとるとジャガイモの廃液が出ますが、それを 1 町歩もある池

に集めて、そこで有機発酵、廃液をバクテリアのエサにした有機発酵をやっている。その

町には酪農家もありますが、酪農家の皆さんも有機発酵をしていました。

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女満別という空港に降りて、そこから小清水町まで町を二つぐらい越えていくんですが、

1 枚の畑が 2 町 5 反という区画の畑です。向こうの端にいる人が豆粒くらいにしか見えな

い畑ですが、女満別から小清水町へ向かうその間の畑にも小麦やジャガイモや甜菜がいっ

ぱいありましたが、1 枚の畑のなかでいいところと落ちころびがある。これが小清水町に

入ったら、その 2 町 5 反の畑に落ち転びがない。これにはびっくりしました。いろいろ話

を聞いたらデンプン廃液の発酵溶液を畑に返しているという。これを見てきて、我々もま

た有機に立ち返って、昔の畑に、土を昔の土に戻さなければいけないと思いました。ここ

から我々の有機が始まりました。

複合発酵に取り組む

最初は何に手をつけていいのか、全く分かりませんでした。そこで伊藤常務に聞いたら、

複合発酵という手法があることを教わって、この複合発酵でつくられた複合発酵溶液、い

ま酵素液と呼んでいますが、その複合発酵溶液を売っている会社があるから、それを紹介

してやると言われて、その複合発酵溶液をまず、牛に飲ませることから始めました。

研究会のグループ、現状 16 人いて専業農家 8、その中に酪農家が一人いて、有機に発進

するにはとてもいい環境にあると言われました。そこで、牛に複合発酵溶液、酵素液を飲

ませる。飲ませ方は水道のパイプラインに途中を断ち切って、そこに酵素液を点滴するこ

とにしました。

すると 1 週間ぐらい牛が下痢をしてしまった。これは調子悪いのではないかと言ってい

るうちに、だんだん回復してきて、一月ぐらいしてきたらハエがいなくなった。牛舎にハ

エがいなくなった。臭いもなくなった。それまではハエはすごかった。軽トラックでいけ

ば軽トラックが真っ黒になるくらい。臭いは近所の皆さんから文句が言えないくらい辟易

とした状態ですごしていた。畑に撒くと村中が臭くなるくらいの堆肥でした。

臭いがなくなり、ハエがいなくなった

それが臭いがなくなった。ハエがいなくなった。この段階でこれはいいのではないかと

言っているうちに、牛の状態がよくなった。濃厚飼料で飼育していたので、牛の体調がと

ても悪かった。しっぽは毛がチョポチョポしかないような状態だった。それが尻尾が房に

なってきたり、子どりからの一環の酪農家、つまり自分のところで種をつけて子牛をとる

というやり方だが、その雌の発生率が高くなった。そこで、これはきちんとした体系にし

ていかなければいけないということになった。

それと並行してやっていたのが、近くに「ちゃたまや」さんという卵をやっている養鶏

場があるんですが、同じ複合発酵の溶液を鶏に飲ませていて、その堆肥がかなりいい堆肥

なので、使ってみろと言われて、牛にその水をもませた翌年でしたが、ちゃたまやさんか

ら鶏糞を分けてもらった。

我々の地域では、鶏糞は反当 50kg 以上入れると転ぶよ、というのが常識ですが、1反

300kg から 600kg 入れた。ライムソワーといって、トラクターにアタッチメントを後ろに

つけて堆肥や肥料を撒く機械ですが、それで撒いたので 1 反当たりどのくらい入ったか全

く分からないが、たくさん入ったところ、全く入らないところ、かなりムラのある状態で

したが、1 反当たり 300kg から 600kg はゆうに入ってしまった。それだけ鶏糞を入れた田

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んぼが穫れ、秋になったら転ばない。

化学肥料を撒く例年であれば、肥料ムラがあって結構丈の高いところ低いところとムラ

があるのだが、そういうムラが分からない。その穫れた米を食べてみたら、ちょっと味が

よかった。そんなことがあって、有機にはすごく傾斜していかなければいけないというこ

とで、その酪農家を基地にして、牛の糞尿を有機化する事業に取り組もうということにな

りました。

酵素液・牛水をつくる過程

写真で見ていただきたいと思います。

我々の仲間で小林さんという酪農家がいて、小高い丘に牛舎があります。牛舎には搾乳

牛が 100 頭いて、常時 40 頭前後搾っています。育成舎には、ぬか、排オガ、のこぎりくず

を使っていて、1 週間、2 週間踏まれたものを機械で外に出して、また新しく入れるという

方法です。

牛舎本舎のほうは、バンクリーナーという穴向き合いに牛が並んでいて、糞尿は朝夕、

ボタンを押すと、コンベアが回って、それで牛舎の外へはき出すというシステムになって

います。牛舎本体に関連してつくった発酵施設には、牛の尿を有機化するプラントが入っ

ている。牛舎本体にゲヤを出してそこに有機プラントが入っています。その向こう側の素

通しの屋根がかかっているところが堆肥舎で、その堆肥舎のなかで牛糞を切り返したりす

るために、間伐材のバーク、木の皮などを大量に使います。

複合発酵溶液を飲ませていることで、体調がよくなった牛は夏場などはとくに、水の飲

み込みがすごい。コンベアで糞尿を外に出すが、ベチャベチャ状態の糞尿が出てくる。堆

肥舎は 1 反歩近くあっても、そういう状態ではダレてしまって、積み上がらない。積み上

げて糞尿分離をするために、バークを混ぜ込んでいます。バーンクリーナーの出てくると

ころはベチャベチャ状態。育成舎の方から出てくるのは、牛が踏んで固くなっているので

積み上がるので、混ぜるために運んでいます。

バークとそのベチャベチャ状態の糞尿を混ぜて積み上げると、絞れて尿だけが出てくる。

その堆肥舎の一番低いところに尿溜がつくってあって、この尿溜から吸い上げて発酵プラ

ントに移されていく。そこに入った尿を1槽目から曝気をします。曝気の状態は写真では

分からないが、ブラアーで空気を尿の中に送り込んで、泡状態になっています。尿を発酵

分解させるためにバクテリアが必要ですが、バクテリアを活性化させるということで、エ

アーを送り込んで曝気するというスタイルをとっています。

これが尿の発酵プラントです。これは酒屋さんの醸造樽で、一つ 5000 リットルぐらいあ

るんですが、これが 6 個並んでいます。それぞれのタンクはパイプで繋がれていて、オー

バーフローで全部のタンクが同じ水面になるようになっています。6 個で順々に移ってき

た水が最後のタンクから 2 トンのトラックに 1000 リットル、500 リットルのポリタンクを

積んで、自然に流れ落ちて汲めるようになっています。6 個のタンク全てで曝気をしてい

ます。こういう設備で酪農家の尿の部分を分解する体制をとっています。

有機物が分解される過程は二通り、腐敗と発酵

一連の複合発酵について説明させていただきます。

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有機物というのは、それが分解されていくと、最後の有機物の姿にアミノ酸があります。

タンパク質まで分解して数時間のうちにアミノ酸に分解されて、さらにアミノ酸が数時間

のうちに分解されて無機になっていく。

有機物が分解される過程には腐敗と発酵がある。この二通りしかない。自然界では腐敗

が主体的に介在する分解過程になっている。姿ある有機物がアミノ酸の姿になるのに 6 年

もかかる。これは腐っていくと、そこに腐敗菌が活性化して分解速度がすごく遅くなる。

発酵という世界で分解させていくと、味噌、醤油の世界と同じだが、麹菌などはその環境

を整えてやると、何日かで米をアミノ酸の世界に分解する。酒の世界です。

有機物は、いかに早く分解させてやるかということがとても大事です。そのために発酵

という手法だけで分解をさせることが大事です。この酪農家につくったプラント、尿を分

解させるプラント、牛に複合発酵溶液を飲ませる手法、これは全て有機物をいかに早く分

解させるかを追求したのが、この有機プラントです。

毛細根の出る環境作りが「有機」

それではなぜ有機物を早く分解させなければいけないのか。

植物、作物はみなそうですが、窒素、リン酸、カリのほかにマグネシウム、カルシウム、

鉄など、ごく微量にあるミネラルがとても大事です。動物の身体も主要要素のほかに微量

要素が必要です。この微量要素を吸うために何が必要かということです。植物のなかで一

番大事なのは根っこです。その根には目に見えるものとして主根、側根、毛根があるが、

それぞれの根の表面に毛細根という目に見えない根っこがある。よく見れば分かります。

この毛細根が微量要素を吸うことができる唯一の根っこだと聞いています。

化学肥料、三大要素、窒素、リン酸、カリは塩と結びつけて作物が吸収しやすいような

形にしてあるので、この毛細根がなくてもそこそこ吸収できるが、ほかの必要とされるミ

ネラル、微量要素は毛細根でなければ吸収できないという性質がある。肥料というのは元

素体で、浸透圧で吸収される部分もあるが、ほとんどはイオン化されて吸収されるのが特

徴です。

植物の細胞膜に孔が空いていて水が通る。それが微量成分のなかではカルシウムの元素

体の大きさと比べると、細胞膜の方が小さい。だから元素体では入らない。電気的に分解

されたイオンの形で入る。イオン化がどうして引き起こるのかは分からないが、ここに介

在しているのが有機であると思う。

植物がミネラルをなぜ大切しなければいけないのか。ミネラル分の中に、マグネシウム

があるが、植物の場合このマグネシウムがミネラル分の司令塔だといわれています。ほか

の有用なミネラルがいっぱいあっても、マグネシウムが欠乏していると、ほかのミネラル

が働かない。状態よくマグネシウムが吸収されて働いた場合、植物の身体は健康体になる。

健康体になった作物は、病気になりずらい、虫もつきずらい。人間もそうだが健康体は病

気にもなりずらい、ケガをしてもすぐ回復するという特性がある。だから健康体になるた

めに、ミネラルを吸収できる毛細根が重要なんです。

アミノ酸はミネラルを吸収する毛細根を活性化させる力がある

先ほどからお話ししている複合発酵の世界の発酵ということで、短時間に有機物が分解

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されたアミノ酸は、ミネラルを吸収する毛細根を活性化させる力がある。アミノ酸にもい

ろいろな種類があり、どれがということは特定できないが、いろいろな種類のアミノ酸が

あって、それぞれのアミノ酸がそれぞれの働きをして毛細根を出させる。土壌の中にアミ

ノ酸の環境をつくることが植物にとってとても大事です。北海道の小清水町以来、いろい

ろ話を聞いたり、見たりしている中で、複合発酵に行き着いたんです。

我々の酪農家のプラント基地は、牛に酵素液を飲ませていることで、その糞は発酵分解

がしやすいというか、すでに発酵分解が始まっています。腐敗が介在しないで、発酵分解

が進んでいる段階の素材であるということができる。その牛の尿も曝気をすることで発酵

分解しやすい環境をつくっていることで、簡単に尿が分解され、有益な水になっていきま

す。

複合発酵というのは、分解させるための一つの方法論で、それまで取り組んできたバク

テリア利用型の有機手法のなかでは全く気がつかなかったが、特定菌の優等生を使って有

機物を分解させることに走っていたことからみると、全く目から鱗のようなことでした。

その地域に住んでいる大腸菌、いい働きをする菌、悪い働きをする菌、全てを取り込んで、

その生息バランスを整えてやる。そうすると、発酵だけの世界が誘導される。それが複合

発酵という手法。これは言っただけでは難しいことだが、尿を分解発酵させた、ただ曝気

をするだけの設備で実現されています。

これは、もともと BMW 協会というのがあって、いわゆる生活排水だとか、家畜の糞尿

を分解するための設備ということで、我々の取り組んだプラントも BMW 協会に加盟して

いるメーカーさんのノウハウをいただいて造った設備です。この施設 450 万円かかったん

ですが、知っていれば、そんなところにお金をたくさん使わないで、自分たちの知恵と技

術力だけで出来たと振り返ってみているが、簡単なタンクがあって、そこへ強制的にエア

を送って曝気をかける、これだけの設備で発酵が出来ています。

すべてに酵素が関わっている

中身はどうかというと、いろいろなことをやったり、聞いたりしたが、これだというは

っきりした理論的な説明をすることは出来ません。ただひとつ大事なことは、有機物を分

解するのはバクテリアであると言われるなかで、バクテリアが有機物を食べているのでは

なく、バクテリアが本来持っていたり、作り出す酵素が有機物を分解する。いろいろなバ

クテリアを取り混ぜて複合発酵するなかで曝気をすると、それぞれのバクテリアがそれぞ

れの酵素を作り出す。それぞれの酵素が有機物を発酵させる。これが複合発酵の中で、一番

大事なことです。

とくに酵素の世界、これもまた難しい世界ですが、この酵素があることによって、塩基

障害、化学肥料の蓄積した塩の分解とその害を軽減することができる。要は毛細根の発生

を最大限に促せる環境を演出できる。これが酵素の力だということに行き着いた。いま、

いわゆる有機という中身の中で、バクテリアの話だとかアミノ酸の話だとかは大事な世界

であるが、全てはそこに酵素が関わっているということを頭に入れておく必要があると思

います。

アミノ酸酵素の世界

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有機とはなにか。有機というのは、我々も昔は有機物を畑に入れてバクテリアに分解さ

せる、それが有機だと考えていたが、実はそうではない。畑のなかに毛細根のできやすい

環境をつくってやる。それが有機として一番大事なとらえ方だと思います。

植物の健康な身体づくりのためにも毛細根の出やすい環境をつくってやることが一番大

切なことだということは何回も申し上げましたので、お分かりいただいていると思います

が、この毛細根の出やすい環境、それが塩付け、化学肥料連多用の土をどう改善してやる

か、改善しなければ毛細根はでないということを理解すれば、必然的に毛細根の出やすい

環境づくりのなかで、一番大事なのは酵素であって、アミノ酸酵素は表裏の関係で、アミ

ノ酸酵素の世界にいきつくには酵素以外にない。それくらいに考えてもいい。畑の作物に

とっては、とくにその酵素環境をつくることが有機であると考えていただきたいと思いま

す。

ジャガイモも米も味が良くなった

畑の環境づくりで大切なことは、昔の土に戻したいという思いで、農家の糞尿を使って、

最短距離で発酵分解させ、アミノ酸酵素の世界をつくりあげることだと私は理解していま

す。やっていることは、酵素液を牛に飲ませて、出てきた尿を曝気して酵素化している、

それだけのこと。それが今までの堆肥の利用の仕方から比較すると、堆肥は 7 回も 8 回も

切り返しをして熱がでないと、湯気がでないと発酵していないんだと理解をしていたが、

今の設備のなかでの堆肥は、尿をバークと混ぜて 1 回積み上げて、それをもう一度絞り出

すように積み替えて、別の堆肥舎へ移して、畑に移して、撒いてしまう。4 回か 5 回ぐら

いの動きしかないが、結構生状態に見えるものもあるが、畑の中でまた発酵している。そ

ういう特性がある。早いものは、その 5 回動かす中で、完熟堆肥に仕上がっている。

今までは生の状態のものを撒けば腐敗が関わった。いわゆる雑菌が繁殖して作物に病気

が出たり、虫が付きやすかったりしたが、今使っているものは、そういうことはほとんど

ない。むしろ、ジャガイモにしても、お米にしても味も品質もよくなっている状態にあり

ます。

ジャガイモの 4年連作も可能

それを使った結果の話は、まだ取り組み始めて 7 年ぐらいなので、これだという話はあ

まりありませんが、強いて言えば、ジャガイモは、4 回連作をやってみたが状態が変わら

ない。また、単年度で結果が出る。今まで使っていなかった畑も、堆肥を入れてその尿を

活水、葉面散布してやることで、子どもの頭ぐらいのジャガイモができても空洞化がない。

それと塩基性の生育障害、そうか病などが極端になくなっている。肌の白いいい艶々した

ジャガイモができる。お米は、食味計という道具、何種類かあって統一した答えは出ない

ようですが、食味値が 90 以上あれば美味しいという評価があって、そういうものに当てて

みても、天候のいい年、悪い年でも食味にぶれが出ない。そんなことがかなりあります。

農薬の使用も激減

あと部分的ですが、農薬を使わなくなった。私の経営規模で過去には 100 万円近く扱っ

ていたが、酵素液の葉面散布に切り替えるようになってから、農薬の使用量はがくんと減

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って、昨年でも 20~30 万円に減った。やはり作物体が健康になると、病気の付き方が違う。

その酵素の世界で環境を整えてやると、病害を引き起こす病原菌のリスクが下がるのでは

ないかと、とくにアルタナリアという病原菌、葉枯れや斑点病を引き起こす病気だが、こ

のアルタナリアの病気は全くなくなった。ただ、ポトエチスだとか子嚢菌類、サビなどは

対応出来ないでいる。子嚢菌類の類のうどんこ病だとかフザリウムが引き起こす立ち枯れ

などは酵素液を使うことで全く被害がなくなってきているという現状もあります。

虫が付くのは窒素の違い

人の話によると、虫が付くのは、その作物が吸収している窒素の形で、「付く」「付か

ない」が決まるといわれていますが、我々がくれる窒素肥料は大体硝酸態の窒素、アンモ

ニア態の窒素でくれることもある。硝酸態の窒素になって、それが吸収される。吸収され

るときには亜硝酸態の窒素になっているといわれている。約 1 か月ぐらいそういう期間が

あり、硝酸態の期間を経て亜硝酸態に変わるようだが、その亜硝酸態の窒素を吸収してい

る作物はとくに虫が付く、やってみると分かるんだそうだが、亜硝酸態の窒素を吸わせた

作物と硝酸態の窒素を吸わせた作物を並べておくと、虫が寄ってきて食べるのは、亜硝酸

態の窒素を吸わせた作物だというんです。

化学肥料による弊害もなくなる

昔は家畜の糞尿というのは、肥料代わりという感覚でくれていたが、それが有機という

認識というか、言葉として切り替わってきたのは化学肥料の弊害が見え始めた昭和 40 年

代、50 年代後半ぐらいだと思います。今の発酵による分解された有機というのは、窒素成

分はほとんど計測できないところまで分解してしまう。

堆肥を肥料として勘定するということはしていないが、うちの年寄りに言わせれば、そ

んなに堆肥を入れたらホケ過ぎてだめだ、転ぶだとか、腐るなど、過去の経験の中からそ

んな話が出てきます。

実際にやってみると、肥料としては全く勘定できないので、化学肥料なり有機質肥料な

ど勘定できるもので追っかけてやらないとだめで、全くの無化学肥料では、その酵素が出

来ただけでは、収量ががくんと減るというのが現状です。だから化学肥料も併用していま

すが、化学肥料による弊害というのは、酵素環境のできた圃場では、全くでていない。

概ね経験した流れを話をしましたが、できれば写真で見ていただいた施設、いまは口蹄

疫の問題で牛舎に近寄るのを遠慮していただいていますが、いずれ機会をつくって、そこ

を見ながらこれをどう使ったらいいかなどの話をさせていただければもっと分かりやすい

有機の現状になると思います。

とにかく、畑にとって、毛細根の出やすい環境づくり、それが有機だ、ということを主

体にお話しをさせていただいて、今後の私たちの取り組みも、そこを外さないように、新

たな資材を使う方向に行くと思いますし、倅が一人いるので次の世代の皆さんが安心して

生産活動が出来る、そういう体制づくりを目指しています。

先ほど産直に邪な考え方で流通に係わった話をしましたが、現在は、産直を含めてその

有機活用でつくられた良質品、これを市場は求めているということは農家にとって絶対に

外せないので、流通にも関わって、なおかつ、畑も昔の畑に戻していく、その両建てで次

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の世代が農業に安心して取り組める環境づくりに向かっているところです。

ご清聴ありがとうございました。

質疑応答

質問:小海から来た井出です。化学肥料や農薬での栽培ではうまくいかなかったために、

その反省から有機農業にきりかえたという過程と、最終的にいきついたところは、液肥を

散布することだという順序は分かった。私の知りたいのは、有機野菜をやって失敗はなか

ったのか、失敗談というか、どのような有機質肥料を撒いてもうまくいかなかったのか、

それらをお聞かせ願えればと思います。

中村: この複合発酵という手法に辿り着いてから分かったことですが、先ほど写真でご覧

いただいた尿の酵素化するタンクでつくられた酵素液を撒くと、そのタンクの中でバクテ

リアバランスが整えられる。その地域にいる菌の生息バランスが整えられる。そういうふ

うに環境整備、バランスのとれた酵素液を畑に入れることで、畑の中のバクテリアバラン

スが整えられるんです。だから、土質や土の環境を選ばないで、その圃場環境を整備、整

えることが出来る。

今まで取り組んでいた有機、とくに特定菌、優性菌群を使った素材を畑に入れてきてい

た場合、その畑の中の塩基性が悪さを発生させてきたばい菌、作物にとって良くない働き

をする環境がもともとあるんですが、育てた素材を畑に入れてやると、優等生菌群がその

畑に負けてしまって結果が出ないのではないかという考えに、何回かやるうちに行き着き

ました。

実際にやってみると、使っていい畑と、何年使い込んでも状況が良くならない畑と両方

あって、その当時は、結果が出たところには、この土はいい土だから、この畑はいい畑だ

から、とそういう評価の仕方をしていました。有機とは何だということを知らなかった、

良く理解していなかった時期でした。とくに施設園芸の場合は極端にいい結果が出やすい

ことなどを噛み合わせて振り返ってみると、そこに投入する有機素材、とくに酵素アミノ

酸の世界がその畑の環境に負けるか、負けないか、負けない素材に行き着いたんです。

質問:液肥というのは私たちには簡単に作れないし、畑に撒くという発想もまだ湧いてこ

ないんですが、結局、有機質肥料をやっているから有機農業をやっているということでは、

正式な有機農業をやっていないんではないかと、今日お話しを聞きながら思ったんです。

中村:有機物を使っていれば、そのこと自体が悪いことではなくて、いい結果が出れば、こ

れは有機の農産物だという評価ができると思います。しかし、なかなか安定してそのいい

結果が出ないというのが現状だと思います。土の場合、その塩基性の障害が出にくい土、

化学肥料がない、開墾したばかりの土だとか、山の土を客土したとか、そういうところで

は比較的その有機効果というのは出やすいと思います。もともと有機を邪魔にするような

条件がない畑は、有機によってさらに良くなるという条件の土だからだという考え方が出

来ると思います。

ところが化学肥料で追っかけたところは、ちょっとやそっとの有機の使用量だとか、投

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入量では、畑自体の環境は変わらないんです。塩や塩基は残っていますから、これを分解

させられるという感覚の持てる素材を使う、これがアミノ酸酵素の世界なんです。

酵素自体のいろいろな分解力は、鍵と鍵穴の関係にあって、1 種類の物質に対して 1 種

類の酵素が結びつくんだそうですが、、これで物質の性格が変わるんです。これが塩基の

世界を分解、改善していくという考え方をしていいと思います。その土壌を改善する力と、

それから塩基はあってもバランスの整えられた環境をつくる酵素の力によって、環境の悪

くなった畑でも体力なる作物が育ちやすい、と考えると、ただ投入する有機だけでは心許

ないというところにいくと思います。

いろいろなバクテリアが作り出す酵素の中に、数億年前に栄えて今は陰を潜めているよ

うなバクテリアで、なおかつ、作り出した酵素が発酵を短時間で、極端な言い方をすれば、

無機まで分解できるような、発酵能力を持った酵素を作り出すバクテリアがいるんだそう

ですが、それが大気中の中で、空気と一緒に、牛の尿に取り込まれて、その中で、生息バ

ランスの環境が整えられていくと、今まで活動していなかった、活躍できていなかった酵

素なども、その中で活躍できる形になる、そういうことがある。だから圃場の中で、電気

分解する。

今、発酵分解の世界では、塩を利用した電気分解ということが最先端の技術だといわれ

てきているんですが、塩を入れてやる。これは化学塩ではなく、天然塩をミネラルと一緒

に入れてやる。天然塩に入っているミネラルと、これを一緒に利用してやることで、発酵

速度をさらに速くする。それも無機のところまで演出出来るのではないかといわれている。

だから有機物を発酵させて、分解するこということが、有機物の利用過程のなかで、とて

も大切な世界で、腐敗が介在すると、腐敗菌だとか雑菌が繁殖しやすい環境、それも塩基

の世界では腐敗が介在すると、病気になる菌だとか、腐る菌だとかが活躍していい結果が

出ない。

そういうことを分けて考えられれば、畑に入れてやる有機は、どういう有機でなければ

いけないかというところに行くのではないかと思います。我々もそういう経緯のなかで、

ただ単に有機物を使ったから有機だという理解だったけれど、実はそうではなくて、有機

の形は毛細根の出やすい環境作りが出来る有機でなければいけないというところに行き着

いたということです。

質問:私(川妻)司会者ですけれども、先日浅沼さんたちと中村さんたちがやっているプ

ラントをみせていただいたり、お話しを伺いました。今日のお話もその延長で、大変詳し

く聞いて、つまり有機農業の場合は、自然循環機能ということ、生き物と生きていくとい

うこととが一つの考え方で、もう一つは身土不二という昔からの言葉があって、人間の身

体と土は分けがたい、分けて考えられない、分けない、身土不二という考え方からして、

中村さんが苦労されて今到達されたというのは、いずれも合致しているというふうに思い

ました。

外から何かを持ってきたのではなく、牛の飼育とともに出てくる糞や尿を生かしながら、

それを複合発酵させて、それを飲ませたり、畑に撒いたり、堆肥に使ったり、いろいろや

りながらやっているのは、地元の自然循環を生かしているのだと思いますし、土壌動物を

生かしながらやっている、その結果が現在のところは持続性があって、連作障害も起こら

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ないで、味も良く、品質もいいものが出来るようになったという点では、非常に注目される

実践なのではないかと思います。

そういう点では、この成果を生かしていくには、もっと中村さんご自身のグループだけ

ではなく、外部からの援助が必要なのではないか、と私はずっと思っておりました。要す

るに、この複合発酵をされている牛水といわれている中身は、一体何があるのか、それから

畑や土のなかでは、どういう構造がつくられているのか、その結果として作物にそれが生

かされているのかという中身を、もっと科学的に分析してみる必要があるのではないか、

と思いました。そうすることによって、もう尐し見えてくる世界があって、同じ方法では

なくても、同じ考え方で自分の畑や田んぼの周辺で出来ているものを、何かの形でいい状

態にして、畑や田んぼに還元していくという、そういう循環が活発に出来るようになるの

ではないかと思っているんです。

その点で、これからの取り組みとして、こういう活動をするには長野県だとか農協だと

か、まさにここでやっている有機農業研究協議会になっていくのではないかという気がし

て、これがうまくいけば、その成果がもっと普及して、同じやり方でやってもいいか、ヒ

ントをえて違うやり方で持続性のある農業に繋げていけるのではないか、という感じがし

ています。

その辺で、中村さんにこれから、中村さんはこれを普及させたいためにやっているので

はなく、安定した経営を次代に繋げたいということなんでしょうけれども、しかし、折角

のこれまでのご苦労の成果をもう尐し皆の力で、その意味というものを見えるものにすれ

ば、この地域の共通の財産になっていくのではないか、という気がするんです。その辺に

ついて、ご意見なり感想がありましたら、お聞かせいただきたいと思います。

中村:今ご指摘のとおりだと思います。私は一介の百姓なんで、なかなかその中身が何な

のかということになると、稚拙な部分しかないんですが、実はこの酵素液の中身は本当は

よく分からない。現実のその酵素液を事業として作って、我々はそこから酵素液を買って

牛に飲ませるのも、尿から作った酵素液と混ぜて、その買った粉を尐し入れたり、1 万倍

ぐらいに入れたりして、あるいはその尿を作るプラントの中にも、1000 倍くらいの酵素液

を入れたり、細工しているんですが、会社では中身が分かっているのかも知れませんがそ

れは公表されません。そんなようなことで、裏付けがえられないので、なかなか取り組み

づらいというようなことが、普及の足かせになっているようです。

「ときわ」という 250 戸ぐらいの集落があるんですが、ここが集落排水を設備しており

まして、そこに酵素液を使うという話が 7,8 年ぐらい前からあったんです。そこで行政に

資金援助をお願いしたいと言ったら、その中身を数字を持って証明をしないとお金が出せ

ないという話になった。

農業委員さんが中心になってやったようですが、行政が金を出せないなら組合の皆で出

資してやるという話になって、曝気をする設備を増やしたり、酵素液を点滴する設備を入

れたりしてかなりお金がかかったようです。その結果がすごく良かった。普通は汚泥の引

き抜きというのがあるんですが、これが未だに一回もない。全て水とガスに分解していっ

てしまう。まあ、人糞尿ですから家畜の糞尿と比べると、エネルギー量はずっと低いんで、

かなりの曝気施設のようですが、水とガスに分解してします。そこから出てくる廃液は、

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田んぼでも畑でもとてもいい作物の状態になっている。

当初、あの飯山みゆき農協という管内はアスパラの産地なんですが、アスパラの畑にそ

れを使ったら、とても良かった。アスパラと同時にエノキダケなどの茸の大型の設備があ

って、その茸の廃材残渣がすごく出る。それを酵素液処理して、畑に 50 トンぐらい入れる。

50 トン入れるともう土が見えない。そのくらい厚く入れるそうです。普通そんなことをす

れば草も生えない状態になってしまうんですが、その畑は素晴らしい。行ってみたら、周

りのアスパラと格段に違う。

これを普及するためにということですが、手法が見つからない。どこへ行って聞いてみ

てもちゃんと中身を解明できるところがない。そんなことで、それを言い訳にするのでは

ないんですが、我々は結果論で見えてきた現実を大事にしたいと思っています。

要は地域の生産が、次の世代にとっても安心して安定した生産活動ができていければい

いのではないか、ということでやっています。できればその中身を解明する手法をどこか

で確立していただければ、我々の作っているものも、同じ地域のなかで、農業の振興して

いくために役立てることが、もっと加速度的に出来るんではないかと、今指摘していただ

いて改めて考えました。以上です。