製造業のサービス化-その類型化と論理- URL...

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Meiji University Title �-�- Author(s) �,Citation MBS Review, 10: 3-12 URL http://hdl.handle.net/10291/17403 Rights Issue Date 2014/3/31 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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  • Meiji University

     

    Title 製造業のサービス化-その類型化と論理-

    Author(s) 近藤,隆雄

    Citation MBS Review, 10: 3-12

    URL http://hdl.handle.net/10291/17403

    Rights

    Issue Date 2014/3/31

    Text version publisher

    Type Departmental Bulletin Paper

    DOI

                               https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

  • 製造業のサービス化

    問題意識

    2000年の終わりごろから、特に欧米において、製造業

    企業、とりわけ産業財を生産する企業において、提供す

    る商品に有償のサーピス商品を含める動きが活発となっ

    た。今日においても多くの企業において行われている

    が、これまでは BtoBの製造業では、生産しているモノ

    製品の販売に一定のサーピスを付帯させて無償で提供す

    ることが一般的であった。

    こうした変化は、いわゆる「製造業のサーピス化」と

    いわれている。(欧米では Servicization1または

    Servitization, Service logic 2、From products to

    sevices3、Servicefor企eeto service for fee 4など様々な

    表現が使われているが、意味は本論における「製造業の

    サーピス化」とほぼ同じ範囲を指している)。

    くり返せば、従来モノ製品を販売していた製造業が、

    その企業オファーの中にサーピスを含め、そのサーピス

    を商品として販売し、利潤を上げようとする企業活動が

    製造業のサーピス化と言われる現象である。

    従来から製造業はその企業オファーの中に、機器の設

    置や利用方法の訓練、苦情受け付け等のサーピスを提供

    していた。それはモノ製品を消費者に問題なく販売する

    ために必要とされる最低限のサービス提供活動であっ

    た。(この穂のサーピスは、顧客側から見て、 entitle-

    ment services 5つまり、顧客が当然の権利としてその提

    供を期待することのできるサービスである)。こうした

    サービス提供は、製造業にとっては、いわば余計なコス

    トを発生させるコスト・センターであり、そうしたサー

    1 Tim Baines & H.LighぜootMade to Serve 1962, Wiley p.l

    その類型化と論理

    グローバル・ビジネス研究科近 藤 隆 雄

    ピスの需要が起こるのは、製品が完全でないためである

    と見なされていた(製品が完全であれば、販売後の補修

    やクレームなどは起きないという発想である)。

    製造業のサービス化には、したがって、サーピス提供

    をコストの源泉とみるか利益の源泉と見るかという線に

    明確な境界があり、製造業のサーピス化とはこの境をど

    のように乗り越えるかという課題に取り組む活動でもあ

    った。

    本論の目的は、欧米およびわが国を間わず、さまざま

    のジャーナルや著書に収録された製造業のサーピス化の

    ケースを集め類期化することで、企業が取り組むサーピ

    ス化にはどんなやり方や方法が存在し、どのように有償

    化の境界線を乗り越えているかを明らかにし、例示する

    ことを目指している 60

    1. サービス化の背景

    1 )コモデイチイ化

    さて、製造業のサーピス化のケース分析を始める前に、

    なぜこうした動きが、特に工業先進国において始まった

    のか、という問題を考えておこう。いくつか存在する要

    因の中で、最も注目すべきは、モノ製品のコモデイテイ

    化という現象である。コモデイティとは元々自然界から

    の麗物である素材、つまり第一次産品(米、コ}ヒー豆、

    木材等)を指している。コモデイテイは自然界から産出

    されたままのものであり、その商品は品質による等級化

    は可能だが、同じ等級内では差別化することができな

    い7。価格による差異が存在するだけである。したがっ

    2 Christian Gronroos & P. Helle “Adapting a service logic in manufacturing" Journal 01 Service Management Vo1.21 No.5 2010

    p.564

    3 Stephen Brown “From products to services", Research World Nov.lDec. 2010 p.47

    4 Lars Witell & M. Lofgren“From service for free to service for fee: business model innovation in manufacturing firms"

    J ournal 01 Service Management V 01.24 N 0.5 2013 p.520

    5 S.Brown, ibid.,

    6 なお、ケースの収集については、特別統計的な系統だったやり方を取っていない。入手可能なケースを無作為に集めたもの

    なので、サンプルの代表性に問題がないとは言えない。

    ( 3 ) MBS Review No.lO

  • 製造業のサーピス化ーその類型化と論理

    て、モノ製品のコモデイテイ化とは、「ある商品カテゴリ

    ーにおける競合企業聞で、製品の違いが価格以外にはな

    いと顧客が考えている状態J8のことを指す。そこで、

    「顧客のマインドに差別性が認識されていないなら、商

    品はたえずコモデイテイの宿命であるデイスカウントの

    圧力に直面することになる」九つまり差別化を達成で

    きない商品は絶えざる値下げ競争に入らざるを得ないこ

    とになるのである。そして十分に差別化が主張できず、

    価格競争に負けてしまったのが、最近のわが国の電気製

    品のグローパルマーケットでの実情である。

    楠木と阿久津は、脱コモデイテイ化を図るには、顧客

    が比較しにくい特徴や優位性を持つ商品を提供すること

    だとして、それをカテゴリー・イノベーション10と呼ん

    でいる。そして、顧客が比較しにくい特徴を持つことを

    価値次元の可視性の低さとして、ぞれを実現する発想と

    して、客観的で現解しやすい商品の属性からその商品の

    使用文脈での価値への転換を主張している。 90年代のパ

    ソコン業界は、可視性の高い製品属性、例えば処理速度

    やメモリーの大きさ、モニターの画質などで競争してい

    た。上市した時にはユニ}クで独自性をもっていたそれ

    らの特徴が、しばらくすると競合企業が同種の製品を販

    売するようになってしまう。それらの製品属性は、ある

    水準に逮して、使い勝手に蔑がなくなると、消費者は関

    心を失い、重要な訴求要因は価格になってしまった。

    そこで、モノ製品の使用価値に注目した先進的な企業

    は、モノ製品にサーピスを付加したり融合することで、

    全体的な使用価値を高める方法によって差別化を増進し

    ようと試みた。サーピスは元々その本質的な特徴から可

    視性が低い。そのためモノ製品とザーピスを統合するこ

    とは、その全体的オフア}の可視性を低める作用を持つ

    からである。

    サーピスは先に述べたごとく可視性の水準が低く、体

    験した者にしかその効用や意味が理解できない。例え

    ば、あるパソコンメーカーのコールセンターでは、係員

    の多くが、優れた顧客志向の態度を身につけていて、親

    身になって相談に乗ってくれたとすると、そのサーピス

    価値は非常に大きなものであろう。しかしそれは外部か

    らは見えない。せいぜい口コミで伝わるだけである。ま

    たそのサーピス価値を外部の人聞が仕組みとして再構成

    することも難しい。

    製造業がそのモノ製品と優れたサーピスを組み合わせ

    て、一つの商品として提供するとすれば、その商品自体

    の価値の高さは伝わっていくが、その全体としての可視

    性は低いままである。この意味で、製品のコモデイテイ

    化に対応する一つの有力な方法は、モノ製品とサービス

    を一体化したソリューション商品の提供だということに

    なる。

    2)サービス化を促進するその他の要因

    商品の差別化の達成だけが、コモデイテイ化に対抗し

    てサービス化を進める要因ではない。次に述べるような

    様々な要因が、製造業のサービス化を進めるその他の促

    進要因となっている。

    ①新たな収益源としてのサ}ピス化

    モノ製品のコモデイティ化は製造業の収益を庄迫

    する原因となっている。モノ製品は激しい価格競争

    にさらされるために、十分な利益をあげられなくな

    っているのだ。そこで従来はモノ製品に付随して提

    供されていたサービスを独立した商品として有償で

    提供することで新たな収益源とすることができる。

    例えば、従来、無償でおこなってきた機械の修理を

    有償にするといった方法である。

    このやり方は言わば安易な方法であるが、一つ大

    きな乗り越えなくてはならない課題をもっている。

    ぞれは欧米でもわが国でも似た状況があるが、従来、

    無償で提供していたサービスを、顧客は簡単には有

    償にすることを受け入れないという点である110 そ

    こでこの問題に対する新しいビジネス・モデルとし

    て、サービス商品自体のイノベーションが求められ

    る場合が多い。新しいサーピス・イノベーションと

    は、例えば、新しい活動を含めることでサーピス内

    容を変革すること、新しい方法でサ}ピス活動の関

    係を再構成する構造的なアプローチ、また、サーピ

    ス生産に関係する複数の機能グループの一つまたは

    複数を変更してサービス全体の構成を変更するアプ

    ローチなどによって、サーピスを収益源とする方法

    である120

    サーピスの収益構造は、モノ製品とは異なり、ー

    7 B.],パインと ].H.ギルモア著電通「経験経済」研究会訳『経験経済』、流通科学大学出版 2000年、 p.35

    8 楠木建、阿久津聡「カテゴリー・イノベーション:脱コモデイテイ化の論理」組織科学Vol.39No.3 2006 p.4

    9 パイン&ギJレモア Opcit., p.38

    10 楠木&阿久津 Opcit., p.5

    11 Lars Witell and M. Lofgren Opcit., pp520-521

    12 ibid., p.522

    MBS Review No.lO ( 4 )

  • 近藤隆雄

    度に高額の売上が計上されるというよりも、継続的

    な契約によって(例えば、警備保障や保険サーピス)、

    長期間の取引になることが多い。その意味で、一般

    に収入が安定的で、マージンも高く、景気の変動に

    もあまり左右きれないという特徴をもっている。こ

    うした収益構造の違いも、サ}ピス販売の大きな魅

    力のーっとなっている。

    ② 近年、モノ製品の性能が平均的に高度化し、より専

    門的になってきていて、付加-lj--ピスを必要とする

    ようなモノ製品の場合、従来よりも高度のサ」ピス

    が必要となってきている。そのため、一般に顧客が

    購入したモノ製品に関して、より大きな援助を求め

    る傾向が出てきた。また、専門的なサービス提供は

    有償化する理由になりやすい。

    ③ サーピス商品は可視性が低いので、外部から分かり

    にくい。そのため競合企業が真似しにくく、競争優

    位を築きやすい。

    ④ サーピスでは、新規に事業を展開する場合でも、モ

    ノ製品に比べて投下資本が少なくて済む場合が多

    ,, ~13 0

    ⑤ 従来生産販売していたモノ製品が持っているプラン

    ド力や顧客ベースを利用できること。新しいサーピ

    ス商品を販売する場合に、これまで作りあげてきた

    モノ製品のブランドやカスタマー・エクイティを利

    用することができる。

    ⑥ 従来から上市していたモノ製品と一体化した販売を

    行うことで、新しいサーピス商品や企業に対するロ

    イヤリティを築きやすい。

    それでは、製造業のサービス化にはどんなパターンが

    存在するのだろうか。次の節はこの問題を検討してみよ

    つ。

    2.サービス化のカテゴリー

    1)タイプ1

    サーピス提供の目的 製品の不完全性を補う収益かコストか コスト・センター企業内の位置付け 必要悪サーピスの種類 エンタイトルメント・サーピス有償か無償か 無償企業例 従来の製造業一般、例えばバンドー化学

    タイプlは、従来の製造業に一般的にみられるサービ

    スの位置づけである。ここでは、サーピスはモノ製品の

    販売の必要上発生した必要悪であり、それは広い意味で

    の製品の不完全性を補う目的で準備されたもので、いわ

    ゆるエンタイトルメント・サービスと呼ばれるタイプが

    ここに含まれる。つまり機械の設置や整備・補修、また

    使い方の講習や購入者が発見した問題を企業に連絡して

    対応を求める苦情処理対応などである。顧客はこの種サ

    }ピスは当然、無償であると思っており、企業側からす

    るとこれらのサーピス生産に必要なコストは回収されな

    Uミ。

    -バンドー化学の事例分析

    タイプ1では、企業例としてハンドー化学を取り上げ

    てみたい。この企業は、神戸に本社を置き、ゴム・プラ

    スティック製品を開発販売している会社であり、 2008年

    の売上高は約544億円である。この企業はベルト・コン

    ペアを製造販売しており、このベルト・コンベア製品の

    サーピス化がここでの検討の内容である。

    ベルト・コンベアは、輪状にした幅広のゴム製のベル

    トを台車の上で回転させて、その上に運搬物を載せて移

    動させる装置である。重量があり、取り扱いが危険な材

    料を連続して高速で移動させることができる。工事現場

    での土砂の排出などでよく見かけるが、製品組立工場で

    も製品の搬出、部品の搬入などモノが移動するほとんど

    の場面で利用されている14。ベルト・コンペアは、場合

    によっては激しい使い方がされ、消耗が激しい。またベ

    ルトが消耗して切れたりすると、ベルト・コンベアは止

    まってしまい、作業が中止せざると得ないことになる。

    利用者である高炉鉄鋼会社や電力会社では、ベルトの破

    損に備えて、もう一本のベルトを併走させて不臓の事故

    に備えている場合が多い。バンドーは、このベルトのメ

    ンタナンス作業の一部を有料化してサーピス商品化する

    ことを金蘭・検討した。

    ベルト・コンペアの安定的な操業を支えるメンタナン

    ス作業は、不良が起こりそうな箇所を点検、保守し、必

    要なら修繕する。また顧客の使用するコンペア・ベルト

    が今後どのくらいの期間使用し続けられるかを予測する

    といった作業が含まれる。従来は、こうしたサーピスは、

    ベルトの交換以外は、すべて無償で行われてきた。

    バンドーはこのメンタナンス作業の一部を有償化しよ

    うと試みた。特にベルトの寿命予測をするという「予測

    サーピス」を商品化することを考えた150生産体制の中

    13 Stephen Brown, A.Gustafsson, L.Witell "Manufacturers Branch Out into Services" Wall Street Journal June 22, 2009

    14 竹村正明「生産財企業のザーピス事業化は、なぜ失敗するのかJr明大商業論叢』第92巻第4号、 63頁15 ibid.,65頁

    ( 5 ) MBS Review No.10

  • 製造業のサーピス化ーその類型化と論理

    で、コンペア・ベルトの安定稼働がもっ重要性を考える

    と実現性の高い企画であると考えられる。しかし、現実

    には市場から受け入れられることはなかヮたようであ

    る160

    このバンドーのサーピス化の失敗について、王と竹村

    が原因を特定する作業を別々に行っている。王は17、一

    つには日本の社会構造論から、および「構造的空隙」と

    いう概念を使って、共に社会関係からの分析をした。一

    方、竹村はこの問題を市場の類型論から分析し、顧客企

    業がいだく商品のあるべきモデル、つまり付属サービス

    はモノ商品の一部であり一体と見なされている、(この

    立場からは、付属サーピスは当然、無償ということにな

    る)という観点から分析している(竹村によれば、バン

    ドーの社内でもこうした議論があったという)。この場

    合、竹村の立論がより具体的で納得性が高いと思われる。

    2)タイプ2-1

    サーピス提供の目的 モノ製品の差別化

    収益かコストか コスト・センター企業内の位置付け 販売促進のためのマーケテイング投資

    サーピスの種類アフター・サ』ピス、コールセンタ等エンタイトルメントサーピス

    有償か無償か 無償ホギ・メデイカル、デル・コンピュー夕、

    企業例 ワタシか(資生堂)サンドピック(スウェーデンの切削工具メーカー)

    2番目のタイプのサーピス化は、製造業企業の従来の

    姿勢であったタイプ lよりも一歩踏み出したものであ

    る。そのサーピス化の目的は、特定のサ}ピスをモノ商

    品に付加することで、製品の差別化を図ろうとするもの

    だ。タイプ1との違いは、付加するサーピスの内容を高

    度化したという点に求められる。井関利明は、タイプ1

    は、すき焼きの際の脂身のようにあってもなくてもよい

    が、タイプ2の場合にはサーロイン・ステーキの脂身の

    ように肉に端にシッカリと付いて、存在を主張している

    サービスだと述べている18。差別化が目的であるから目

    につかなくては意味がないのである。

    タイプ2-1は、モノ製品に付帯しているサーピス(タ

    イプ1と同じ種類のサーピスが多い)の品質を高めるこ

    とで、モノ製品の差別化をねらったものである。例えば、

    情報通信機器はその使用目的が日用品よりも高度なた

    め、その使用方法や修理などについてコールセンターを

    16 ibid..

    設置することが当然と考えられ、処理能力も大きく効率

    も高い。しかし、コ}ルセンターは、例えば電話を介し

    てであっても接客サービスであるため、そのサーピス品

    質はさまざまである。コンピュータが世間に広がり始め

    た最初の時期では、電話を掛けても滅多につながらない

    といった程度のサーピス提供が一般的であった。そこで

    デル・コンビュータはコールセンターのサービス水準を

    顕著に高めることで良い評判を得て、モノ製品自体の差

    別化を達成しようとした。デルは、他のコンピユ}タ・

    メーカーとは違い、ダイレクト・マーケテイングの手法

    で、出来合いではなく、細かく顧客の要望にそったマス・

    カスタマイゼーションで製品を提供することを特徴とし

    ていた。この方法は、顧客にとっては品質の高いサービ

    スではあるが、同時に、心理的には購買リスクが高くな

    り、顧客のそうした気持ちに対応する必要があった。デ

    Jレは親切で、丹念なコールセンターを準備することで、そ

    うした顧客の心理に応えたのである。

    -ホギ・メデイカルの事例分析

    ホギ・メデイカルは、 60年代に医療用記録用紙の販売

    から事業を始め、順次事業内容を拡大し、 1990年代から

    手術に必要なさまざまな医療器具(手術着、メス、カテ

    ーテル、シリンジ等)をセットで提供し、使用した後は

    臆棄することのできるキット製品の販売を始めた。手術

    に必要なアイテムは数千にのぼり、手術前に看護師が必

    要に応じていちいち用意し、手術後にまた整理するのは

    大きな手間であったが、ホギ・メデイカルは最低限のア

    イテムをセットで提供し、手術後はまとめて廃棄できる

    ようにした。これによって準備を含めた手術時聞が短縮

    し、手術室の利用も効率化することができるようになっ

    た。ホギメデイカルは、もともとこうした医療器具を個

    別に製造・販売していたが、製品の使用プロセスに注目

    して、事前に、手術の種類ごとに必要医療器具をまとめ

    て、使用後に廃棄するというサーピスを付加することで、

    病院内の業務の効率化を達成することに貢献した。ま

    た、手術を担当する医師によっては個々の医療器具に関

    する好みも違うので、担当医師に対応したキットを用意

    することも可能にした。これはサーピス・ドミナント・

    ロジックの文脈価値(手術の種類や医師の個人的好み等)

    を活かして医療器具の使用価値を高め、医療組織の効果

    性と効率性を高めた例として考えられる190

    17 王恰人「産業財企業のサーピス有償化に関する理論的考察Jr流通科学大学論集』第22巻第1号 2009年 111-114頁18 近藤隆雄『サーピス・イノベーションの理論と方法J生産性出版 2012年 235頁19 ibid..84頁

    MBS Review No.lO ( 6 )

  • 近藤隆雄

    3)タイプ2-2

    サーピス提供の目的 差別化と収益

    収益かコストか プロフィット・センター

    企業の位置付け サーピス販売による収益の確保

    ザーピスの種類 新たなザプ・-lTーピス商品の提供

    有償か無償か 有償

    企業例コマツ、 GEヘルスケア、アジア技研、プリジストン

    次のタイプは先のタイプ2-1と同じく、モノ製品の

    コアの作業に直接関連するというよりも、業務遂行に関

    連する周辺的なサブ・サーピスを対象とし、その内容を

    従来よりも充実させることで他の競合製品に対する差別

    化を達成しようとするものである。先のタイプ2-1と

    の大きな違いは、サーピスの提供によって収益を得ょう

    という意図を基盤とし、そのための仕組みを作っている

    点である。

    製造業企業がそれまで無償で提供していたサーピスを

    有償化しようということは、大きな転換である。なぜな

    ら、受けていたサーピスを無償から有償に褒えられた顧

    客は、当然民発し、ある場合には取引を失うといったネ

    ガテイプな結果を生じる可能性があるからである20。慎

    重に計画を立てても、先にみたバンドウー化学のように

    失敗に更る例も少なくない。この穂の製造業によるサ}

    ピス化の具体的プロセスについてはいくつかの研究があ

    る21が、例えば、モノ製品の取引では l回ごとの取引ベ

    ースで行われることが多いが、サーピス取引では関係ベ

    ースになりやすいので、従来の製造業的ビジネスアプロ

    ーチが役立たないといった点からも従来とは異なったア

    プローチが求められることになる。

    -コマツの事例分析

    コマツはブルドーザーや油圧ショベルなどの建機機械

    メーカーであるが、アメリカのキャタピラー社とならん

    で、この産業での世界の2大メーカーである。建機の部

    品は激しいカカ雪加わるので、劣化が激しく、 3-5年使

    用すると部品単位まで分解し洗給して必要な部品は取り

    替えるオーバーホールが必要となる。しかも、もし機械

    が故障したりするとなるべく早期に修繕を行わなければ

    仕事がストップしてしまう。したがって建機の販売後の

    メインテナンスは必須のサーピスとなる。コマツの建機

    には GPS機能を備えたコムトラックと呼ばれるセンサ

    ーと通信機器が標準装備されており、交換が必要な部品

    の連絡や販売とこうしたアフター・サーピス関連による

    収益は、コマツの場合、第二の大きな収入源となってい

    20 Lars W. opcit噌 20日p.52121 竹村.opcit, pp59-62

    ( 7 )

    る。

    ・ブリジストン(タイヤ・ソリューション)の事例分析

    流通業界においてトラック輸送はますます重要性を高

    めており、正確なタイムスケジュールにしたがった運送

    が求められるようになっている。きて、 トラック・トラ

    ブルの60%はタイヤに起因するものである。従来は、夜

    間にトラブルが発生すると、翌日まで待って対応するこ

    とが多かった。それにたいしてプリジストンのタイヤソ

    リユ}ションは、タイヤトラブルを24時間対応のコール

    センターに連絡するとコールセンターから最寄りの登録

    庖(全国956箇所)に連絡が行って、登録庖が時聞に関係

    なく現地に急行し作業を行う。料金後払いで数時間で問

    題を解決する仕組みを構築している。

    -その他の事例分析

    GEヘルスケアは、 MRIやCTなど大型医療検査機器

    を販売しているが、これらの機械類では不具合が発生す

    ると大問題となる可能性があるので、本部から ICTに

    よって常時機械の稼働具合をモニターしており、ある程

    度の問題は遠隔で修現・保守を行っている。これらのメ

    ンタナンスサービスは、機械の販売時に本体に付鳳する

    必須のものとして契約され提供される。

    アジア技研は北九州の中堅企業であるが、スタッド格

    接機、熔接ガン、熔接ロポットなどの製品を製浩販売し

    ており、東南アジアや中固など海外市場にも進出してい

    る。 ICTを使って遠隔でも機械を管理するシステムを

    構築し、海外の機械の稼働率を常時確認し、問題が発生

    するとただちに対応する体制を用意している。

    4)タイプ2-3

    サーピス提供の目的業務遂行の定常状態を維持し、生産性を維持する。

    収益かコストか プロフィット・センター

    企業での位置付け マーケテイング投資

    サービスの種類コア業務の遂行に不可欠な促進的サブサーピス群

    有償か無償か 有償

    GE (ジェットエンジン)、 SKF、ケージ・企業例 プロダクション、いす T自動車、アスピ

    Jレ、ポルポ・トラック

    このタイプのサーピス化と前述のタイプ2-2のサー

    ピス化は非常に近く、同種のグループとしてもよいかも

    しれない。両方とも結局、コア業務が定常状態を保って

    順調に行われることを目的として提供されるサーピスで

    ある。ただし、前者は手段的な役割を担う接被類へのサ

    ーピスであるのに対し、本タイプは、いわば本筋の業務

    MBS Review No.10

  • 製造業のサーピス化ーその類型化と論理

    そのものの遂行を助けるサーピス群である。起きてしま

    った故障やトラブルに対する回復サービスであるコマツ

    やブリジストン・タイヤソユーションに対して、このタ

    イプのサービスは同じく業務遂行での異常事態に対応す

    るものであるが、コア業務の遂行中に、同時に凹復サー

    ビスが実行されることが特徴である。

    .SKFの事例分析

    ボールベアリングメーカーの SKFは、振動分析デー

    タの分析に基づいてベアリングの異常を感知するシステ

    ムを作り、インターネット経由でこの電子モニタリング

    ツールを提供している。ベアリングの故障は機械のダウ

    ンを来し、作業が止まってしまうので重大問題だが、こ

    のシステムによって、たんにベアリングを販売するとい

    うアプローチから顧客と一緒になって機械の稼働率を上

    げて、生産性を高めるというビジネス・モデルに切り替

    えた。

    -ケージ・プロダクションの事例分析

    シェル石油の化学製品の販売からスタートしたが、自

    動車会社の塗料に関する化学品の混合プロセスに業務を

    特化し、自動車会社のペイント作業の職場に入って塗装

    業務に深く関与するようになった。その後、コブラとい

    うペイントの洗浄溶剤を閲発し、政府の環境基準の対応

    に大きな力を発揮するようになった。 1996年にクライス

    ラー杜は政府の環境基準を超えそうになったが、ゲ}ジ

    が関与して新溶剤の利用や塗料の効率的使用方法の指導

    などによって、基準内に化学物質の利用を抑えることが

    できた0

    ・いすず自動車の「みまもりくんJの事例分析いすず自動車では、輸送用車両(他社でも OK)に

    GPS機能のついたコントローラーを設置して、さまざま

    の車両情報を提供するサ}ピスを有料で、行っている。位

    置情報、運行時間分析、車両状況の連絡、また省エネ運

    転のドライパーザポ}ト、事故情報などである。コント

    ローラーの設置費用106,260円、月額945円でこうした車

    両情報を契約者の運送業者に連絡するサービスを実施し

    ている。

    -その他の事例分析

    ボルボはフスーエル・ウォッチというサーピスを実施

    している。トラック運送の効率化を実現するサービス

    で、契約前に、運送ルート、地域、荷物などの情報を事

    前に収集し、適切な仕様のトラックを推薦する。またそ

    の後も車両のメンテナンスや効率的なルートや適切な走

    り方を連絡し、運転スキル等の情報提供を行号。また燃

    22 日経新聞2013年10月17日「ネット駆使サーピス磨く」23 近藤隆雄 2012年 opcit..

    MBS Review No.lO ( 8 )

    料節約型の走行方法を連絡し、訓練なども提供する。

    GEは、モノ製品の販売とそれに付随するサーピスを

    一体で販売している。製品だけサービスだけの販売では

    なく、製品の契約時にサービスの契約も一体として行う

    システムである。製品のメンテナンスを ICTによって

    おこない「インダストリアル・インターネット」と呼ん

    で、いる。製品に搭載した通信機能付きのセンサ}で、常

    時稼働状態を監視し、そのデータを分析して壊れる前に

    直すサービスである(先の GEヘルスケアの場合も同

    じ)。航空機の運航の遅れによる世界の航空会社の損失

    は年間3兆9000億円にのぼり、うち 1割は予期せぬ機体

    トラブルが原凶とされる。そこで、センサーで不具合を

    早期に発見できれば、航空会社のコスト削減効果は大き

    なものとなる O

    GEのサービス収入は、この10年間で210億ドルから

    430億に拡大し、利益は全産業分野全体の4分の 3を占

    めている22。製造業のサービス化では IBMに並び最も

    進だ形で展開している企業と言えよう。

    5)タイプ3

    サーピス提供の日的組織全体または一部の特定領域へのソリューションの提供

    収益かコストか ブロフィット・センター

    位置付け 新しい価値の創造と生産性の向上サービスの種類 ソリューション有償か無償か 有償

    IBM、ゼロックス、デュポン、コクヨの企業例 オフィス・ソリューション、寓士通フィ

    }ルド・イノベーション

    5番目のサービス化は、モノ製品とサービスとの関連

    が深く、各々独立したものではない。。井関23はこうした

    状態を肉質に脂肪がさしになっている霜降り肉のようだ

    と表現している。つまりモノ製品とサーピスが一体にな

    ってソリューションを提供し、一体であることが相乗効

    果を生んでいる状態である。組織でなく単品の製品でい

    えば、 iPad、iPhone、iPadのように、サ}ピスである

    iTuneとこれらモノ製品の組合せで一定の機能(例えば、

    音楽の編集、録音、再生)を発揮するモノとサービスが

    融合した状態で、あって、言わば、サービス化の最も進化

    した形であろう。

    . I臼Mの事例分析

    IBMは、 20年前は製造業の代表選手であったが、同時

    に悩めるコンピュータ・メイカーでもあった。コンピュ

    ータの小型化(ダウンサイジング)とそれに伴い製品が

    どんどん安価になっていき、 IBMの独墳場であった

  • 近藤隆雄

    ICT領域の BtoB市場も、小さくて素早い他のコンピュ

    ター企業に奪われ始めた。そこで IBMは大きな決断を

    行った。 IBMの最大の企業資産とは、モノ製品のコンピ

    ュータを生産することではなく、そのオベレイション能

    力と組織対応の力だという認識を確立し24、自社を情報

    技術サ}ピスの提供者として再定義したのである。コン

    ピュータを製造販売する企業から、顧客が抱くさまざま

    な情報技術の謀題に対するソリューション提供企業に転

    換したのである。 (1996年にグローパル・サービス部門

    を設立し、 2004年にパソコン部門を中国のレノボに売却

    した。パソコンは捨ててしまったが、大規模なソリュー

    ションのハード部分の核となるメインフレームについて

    は、相変わらず最大の生産量を誇っている。 IBMは、そ

    れまで蓄積した技術やノウハウを活用して、企業オファ

    ー(売り物)をモノ製品からソリューション(モノ製品

    +サーピス)に変えてしまったのである。言わば、ブラ

    ウンの言うサ}ビス・ロジック25にしたがったことにな

    る。

    -ゼロックスの事例分析

    ゼロックスは1994年から TheDocument Companyを

    標携し、 2001年からゼロックス・グローパル・サービス

    を開始した。目的は、モノ製品の製造・販売・レンタル

    の会社であるにも関わらず、印刷機器の使用を削減し、

    プリント用材の使用量を減らし、より情報が速やかに流

    れるようにすることである。そのため OfficeDocument

    Assessment Too!を開発し、情報の流れに注目して製品

    の数を削減し、結果としてプリント用材の使用を大幅に

    削減することに成功したo 蓄積してきた知識やノウハウ

    等のコンピテンスを活用して、全体システムの最適化と

    効率化を計り、情報の流れを整備することに成功したの

    である。企業組織の情報の流れを最適化するソリューシ

    ヨンの提供事業である。

    -テ、ユポンの事例分析

    デュポンは13の事業体を有している O その内12の事業

    体は、化学製品の製造および関連するエンタイトルメン

    ト・サービスを提供している。 13番目の事業体は、全社

    の安全管理を担っている。石油や天然ガスといった原料

    から化学製品を作り出しているが、作業の基礎をなして

    いるのが、安全管理である。デュポンは長年かけて、こ

    うした内部的な知識や経験で形成されていた安全管理

    を、それ自体で販売できるように態勢を整えた。

    DuPont Sustainable Solutionsという商品名のこのサー

    ビスは、長年蓄積したこの分野での知識・経験・ノウハ

    ウを Expertと呼ばれるコンサルタントを通じて、

    Emp!oyee Safety. Process Safety Managementおよび

    Contractor Safety Managementの3つの分野について

    提供している。安全管理は職員の意識改革が重要である

    から安全文化の組織への定着に重点、が置かれている。

    -その他の事例分析

    富士通フィールド・イノベーションは、富士通が納入

    した ITシステムと現実に稼働する業務システムとの隙

    聞を埋めるための一種の BPR(ピジネス・プロセス・リ

    エンジ、ニアリング)の活動である。 ITシステム導入後

    に顧客の職場で具体的に起きている問題を富士通の職員

    と現場の職員が協力して洗い出し改善策を話し合う。な

    るべく「見える化」の技術を使いながら関係者の参加意

    識を高めて、具体的な改善策を案出して実行する。有償

    のアフター・サービスの一種である。

    3.製造業のサービス化のキッカケ

    サ}ピス化を促進する背景については先に検討した。

    モノ製品のコモデイデイ化に対応する差別化の実現や収

    益化などがサービス化の基盤となる環境的な諸要因であ

    った。そこでここでは、事例の具体的な検討から抽出さ

    れた、サーピス化の具体的なキッカケとなった要因につ

    いて検討してみたい。

    (1)製造業が生産しているモノ製品の内在的な

    特徴

    ① コマツの建機機械のように、激しい作業によって機

    械に物理的に大きな力がかかり、そのため機械が故

    障しやすく、また復帰に素早い修理や部品の交換が

    必要な場合。バンドー化学のコンベア・ベルトや

    SKFのボールベアリングの場合も同様の条件が存

    在する。

    ② 機械の稼働水準を一定に保つことが非常に重要な場

    合。例えば、人命に関わるような場合。 GEのジェ

    ットエンジン、 CTや MRIのような医療検査機器

    等。

    (2)外部環境の変化

    ①行政の環境基準の厳;格化

    例えば、化学物質の環境への影響をコントロールす

    24 ルイス・ガーナー著、山岡洋一、高遠裕子訳『巨象も踊る』日本経済新聞社 2011年 153頁

    25 Stephen W.Brown. A.Gustafsson. L.Witell“Service Logic: Transforming Product-Focused Bussinesses" 2011 Center for

    Service Leadership W.P.Carey School of Business ASU

    ( 9 ) MBS Review No.IO

  • 製造業のサーピス化ーその類型化と論理

    る(ケイジ・プロダクションやデユポンの安全管理)

    ⑨顧客の事業上の課題の変化

    'ICTの組織への浸透と一般化にともなう課題の変化

    (連結、システム化、効率化、最適化、等)IBM、コ

    クヨのオフィスソリューション

    ・企業活動の一層の効率化

    ゼロックス、アズピルの ESCO

    (3)組織コンビテンスの活用

    組織コンピテンスのより一層の活用はすべての企業組

    織に求められることであるが、経済環境や企業が関連す

    る特定市場の状況が悪化したりすると、組織コンピテン

    スの活用が一層重要性が増すことになる。特に組織内で

    暗黙知であったものを形式知化して、商品化するアプロ

    ーチは、事業に対する感覚の鋭さが求められ、しばしば

    経営グループのイニシャテイブで行われることが多い。

    (テクノロジープッシュ型)デユポン、ホギ・メデイカル

    (4)商品のソリューション化(企業オファーの

    高度化)

    より一層深く顧客ニーズを充たすために、モノ製品と

    サーピスを一体化したソリューションの新たな提供は、

    多くの企業が展開しており、特に ICT関係企業などに

    顕著に見られる。(市場プル型)

    IBM、ゼロックス、コマツ、富士通フィーJレド・イノベ

    ーシヨン

    (5)経営層のイニシャティブ

    一般にイノベーションは経営層のイニシャテイブから

    生まれることが多い。シュンペ}夕}も企業家の果たす

    役割を強調している26。われわれの検討した事例では

    IBMのガーナーや GEのウェルチなどがリーダーシッ

    プを発揮して、製造業をサ}ピス化の方向へ舵を切らせ

    た。ただ一般に製造業は製造業なりの企業文化をもって

    おり、経営層はそれにどっぷり浸かっている場合が多い。

    サーピス化を進めて企業を変革するには大いなる卓見と

    果断に実行するリーダーシップが求められ、通常はなか

    なかこうした経営陣はでてこない。ただ、わが国では経

    営中間層クラスが新しい企画を生み出すイニシャティプ

    を発揮することが少なくないので、そのグループに期待

    を寄せることができょう。その場合は、より上層の経営

    層の人材を評価する目の善し悪しが方向を左右すること

    になる。

    (6)情報通信技術の利用

    最後の促進要因は、企業の外部環境要因である ICT

    の力である。前節で検討したサービスのほとんどすべて

    の事例で、 ICTがサーピス化の乎段的な要素になってい

    る場合が多い。 ICTなかりせば、他の条件は整っていた

    としても実現は不可能であったであろう。

    4.サービス化の成功要因

    サーピス化の事例を検討すると、以上のようなさまざ

    まの条件がキッカケとなって製造業のサービス化が始ま

    ったことが理解できる。しかしこれらは必要条件である

    かもしれないが、十分条件ではない。さまざまなキッカ

    ケで出発したサ}ピス化の事例は、次に見るようないく

    つかの経営的な施策や意思決定27を得て花聞いたもので

    ある。こうした要因は、サーピス化のもつ困難性を克服

    するための方策でもある。

    ( 1 )サービス・ロジックの理解

    最初の課題は、具体的な意思決定ではなく、その基盤

    となるモノの見方を理解することである。サ}ピス・ロ

    ジックはサーピス・ドミナント・ロジック28の理論と相

    互に影響を与えているが、どちらかと言えば、前者は産

    業場面での現実の事例が先行して展開される中で、後追

    い的にまとめられてきた原別である。それらは①顧客に

    提供される価値はモノ製品とザーピスを融合したソリユ

    ーションであり、いわばより高度のサーピス商品として

    具体化されたものである。②価値提供の仕組みは、モノ

    製品を中心とする構成ではなく、顧客と顧客の課題を中

    心に構成されるものである。③価値交換関係は一度の取

    引ではなく、継続的な関係として捉えられる。④幅値の

    生産は一方的なものではなく、関係者が所有する資源を

    提供し合う双方向の価値共創的 (valueco-creation)なも

    のである。⑤企業が生産する価値は、それ自体で存在す

    るものではなく、顧客のその時、その場の KPIと関係す

    る文脈価値を持ったものでなくてはならず、それは顧客

    に提案され、顧客が受け入れた時に使用価値を発揮する

    ものである。サーピス化の具体化として検討した多くの

    事例は、こうしたサーピス・ロジックを内包したものと

    なっている。

    26 一橋イノベーシヨンセンター編『イノベーション・マネジメント入門.12008年、日本経済新聞 78頁27 近藤隆雄 opcit., 2012年 235-238頁28 Vargo.S.L. and R.F.Lush “Evolving to New Dominant Logic of Marketing" 2004 Journal 01 Marketin,ιvo1.68. no.l

    MBS Review No.I0 (10)

  • 近藤隆雄

    (2)組織文化の改変

    先のサーピス・ロジックとも関連があるが、サービス

    化をすすめるには、組織文化をザービス化に適したもの

    に変えることが必要で、ある。バンドー化学の事例で見た

    ように、製造業の文化は強固である。従来は「おまけ」

    として付加していたサービスを今度は、それ自体で独立

    した商品として販売するのであるから、サーピス(また

    はソリューション)そのものが顧客にとってどんな価値

    を生むかを十分に理解しなくてはならない。機械のよう

    に具体的な形を持ち説明しやすい一定の機能を発揮する

    ものから、目に見えないサービスが、大きな機能的目標

    達成にどのようにシステム的に貢献するかを分析的に理

    解し、説明できなくてはならない(サーピスのスペック

    と効果)。

    また、機械の販売の場合は一台何億といった取引もあ

    るであろうから、明確に成果も出るし、組織への貢献も

    明らかである O 一方、サービスの販売は、内容が説明し

    にくいだけでなく、取引の成果も継続的な長期的収益構

    造となる。組織内の評価も対応するように長期的な理解

    が求められる

    (3)サービス専任の別組織の必要性

    先に述べたように、サービスの場合とそノ製品では収

    益構造が異なるので、営業員へのインセンテイブの質も

    異なることになる。また効果の説明の仕方も違い、販売

    のためにアプローチするクライアントの担当者の階層が

    (サーピス商品の方が安価であっても長期の契約になる

    ので、)サーピスの方が上位階層となる可能性がある。

    こうした理由から製造業のサービス化では、従来の組織

    をそのままにして、サービス商品を含んだ取り扱い商品

    を拡大するのでは組織が順調に機能しない可能性があ

    る。したがって新たにサービス商品担当の別組織を立ち

    上げることが、関連する問題の処理に適切となる。サー

    ピス・ロジックをしっかり理解し、新たに訓練したサー

    ピス担当の営業員を用意すべきである。またサーピスの

    販売では相手側の仕事の問題を深く理解している必要が

    ある場合が多い。モノ製品の場合では、その製品が直接

    関係する業務上の問題を理解していれば済むが、サービ

    スの場合にはより広い関連する業務のシステム的な理解

    を求められるからである。サーピス化を実施した組織の

    経営層も、たんに小さな新たな収入源が増えたといった

    次元でなく、サービスを中心とする新たなビジネス・モ

    29 Brown. Opcit, 2011

    30 Lars. Opcit, 2013 p.531

    (11 )

    デルを理解し、新次元に移行したことを理解しておかね

    ばならない。

    (4)サービス商品のモジュール化

    新たに提供するサービス商品は、可能な限りある割合

    で、事前にいくつかの標準化されたモデユールとして構

    成すべきである。顧客企業のニーズと状況に合わせてカ

    スタマイズすることは重要であるが、可能ならばモデユ

    ールを利用したマス・カスタマイズが望ましい(エリク

    ソンでは提供しているサービスの四分の去をモデューJレ

    化している290 マス・カスタマイズできない課題は個別

    対応が必要になるが、モデユール化はサービス生産の効

    率性を大きく高めることになる。

    結語 ~ 限界と課題

    本論は、製造業のサービス化について、現状の広がり

    とその類型をまとめたものである O 先に触れたように、

    本論でのサービス化のデータは直接的な調査に基づいて

    いるわけではなく、これまでに発表された資料を基礎と

    する、言わば二次資料による研究である。そうした限界

    はあるが、ザーピス化にはどんなパターンが存在するか、

    サ}ピス化を実施するうえでの問題点などを明らかにす

    ることができたと思われる。しかし、サービス化の結果

    的な側面、例えば売上高の伸びなどについては情報を得

    ることができなかった。

    欧米の場合、製造業のサーピス化はかなりの広がりを

    見せてはいるが、すべてが成功しているわけではない。

    ラーズは、主要な二つの問題として、まず、製品にサー

    ビスを無償で付加するモデルが相変わらず強力で、経営

    層がやはり抵抗を見せる場合が多いこと。次に製造業企

    業のサービス化を推進していない内部組織の協力が十分

    に得られず、実行責任を取ることにも跨膳しがちだとい

    う点を指摘している300 しかし、サ}ピス化を押し進め

    る背景的要因は相変わらず強力であり、改革の方向は示

    されているので、今後はより大きな広がりを見せること

    が予測される。

    わが国でもサーピス化の状況は停滞していると言える

    だろう。製品に関連するサーピス事業で収益をあげてい

    る企業は多くはない。(ある調査では8割の企業で失敗

    しているということである)。この理由は、仮説として

    はいくつかの妥困を挙げることができる。まず、新たな

    サーピス事業がそれまでの既存製品と十分な関連性がな

    MBS Review Nu10

  • 製造業のサービス化

    く、範囲の経済が活かされていない事があるのではない

    か、という点である。(かつて新日鉄がウナギの養殖を

    試みたが成功したという話は聞こえてこない)。第二は、

    サーピス・デリパリーに工夫がなく、コストが高くなり

    すぎる、という点である。サーピス生産のコスト削減に

    は、経験と技術が必要で、あり、鋭い洞察が求められる。

    それらが集積するまで我慢できずに居るという状態が考

    えられる。最後は、マーケテイング・コミュニケ}ショ

    ンの不備である。モノ製品の場合には、特に BtoB市場

    では、顧客との聞に一定の関係性が成立していることが

    多く、そんなに広告・宣伝の必要はない。しかし、新し

    いサーピス商品の場合には、従来とは違った課題と問題

    が存在する。サーピス商品が良いものであっても、それ

    を上手に顧客へ訴求する能力が求められるのである。

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