昇圧コンバータにおける平滑化コンデンサの小型化を目的と...

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SPC-14-038,MD-14-038 昇圧コンバータにおける平滑化コンデンサの小型化を目的とした 負荷電流フィードフォワード制御 武井 大輔 * ,藤本 博志,堀 洋一(東京大学) Load Current Feedforward Control of Boost Converter for Minimizing Output Filter Capacitor Daisuke Takei * , Hiroshi Fujimoto, Yoichi Hori (The University of Tokyo) Abstract Boost converter is used for various industrial applications to supply high voltage to the load. Generally, boost converter has a large output filter capacitor to suppress output voltage variation and it causes the size of system much larger. In this paper, load current feedforward control of boost converter is proposed. Proposed methods suppress voltage variation compared with feedback control and enable to reduce output filter capacity. Simulation and experimental results show the effectiveness of proposed methods. キーワード:昇圧コンバータ, 非最小位相連続時間システム,平滑化コンデンサ小型化,電圧変動抑制, 負荷電流フィード フォワード制御 (boost converternonminimum-phase continuous-time systemminimization of output filter capacitorvoltage variation suppressionload current feedforward control ) 1. はじめに 昇圧コンバータは直流電圧を昇圧して出力する電力変換 器であり,ハイブリッド車や太陽光モジュール等の産業機 器に用いられている。一般に,コンバータに用いられてい る平滑化コンデンサは出力電圧変動を抑制するために大容 量のものが用いられており,システム全体に対する体積占 有率が高く,システムの小型化を阻害している。 平滑化コンデンサ小型化の研究として,制御による小型 化がある。一例として,AC-DC-AC システムにおける,コ ンバータとインバータを用いた平滑化コンデンサの入出力 電流制御 (1) (2) や, モータドライブにおけるインバータ制 (3) (4) がある。これらは,システムの入力電力と出力電力 を常に等しくするように変換器を制御し,平滑化コンデン サ小型化を実現している。また,文献 (5)– (6) では過渡応答 時の電圧変動量と平滑化コンデンサ容量小型化の関係につ いて述べられている。ここで,文献 (5) では,AC-DC-AC システムにおいて,片方の変換器の情報をもう片方の変換 器にフィードフォワードすることで平滑化コンデンサの小 容量化が可能になることが示唆されている。また,文献 (6) では電圧変動を高速に抑圧することにより,平滑化コンデ ンサ容量を小型化できることが述べられている。そのため 昇圧コンバータにおいては,負荷電流によるフィードフォ ワード制御により電圧変動を抑制し,平滑化コンデンサを 小型化することができると考えられる。しかしながら,これ らの文献では電圧変動を抑制するためのフィードフォワー ド制御と平滑化コンデンサ小容量化の関係については述べ られていない。また,昇圧コンバータには制御入力から出 力電圧の連続時間での伝達関数に不安定零点が存在するた E r L in i load i c v C 1 昇圧コンバータの構成 Fig. 1. Configuration of boost converter (7) ,単純に逆プラントを用いてフィードフォワード制御 をすることができない。 本稿では,不安定零点を持つ昇圧コンバータにおける電 圧変動に対して,フィードフォワードを実現するための近 似逆モデルを用いたフィードフォワード制御器により電圧 変動抑制を行う。また,本稿で提案するフィードフォワード 制御器は未来の値を入力する必要があるため,センサで計 測した値をそのまま扱うと遅れが発生してしまう。そのた め,フィードフォワード制御器の遅れが生じないよう,負 荷電流の未来値予見して制御に用いる。提案したフィード フォワード制御器により電圧変動をより高速に抑制し,平 滑化コンデンサの小型化が実現できることを示す。シミュ レーションと実験により,提案法の有効性を確認する。 2. 昇圧コンバータのモデル化 昇圧コンバータの回路図を図 1 に示す。ここで,E:入力 電圧,r:リアクトル巻線抵抗, L:リアクトルのインダクタ ンス, C:コンデンサ容量, i in :昇圧コンバータ入力電流, 1/6

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  • SPC-14-038,MD-14-038

    昇圧コンバータにおける平滑化コンデンサの小型化を目的とした

    負荷電流フィードフォワード制御

    武井 大輔∗,藤本 博志,堀 洋一(東京大学)

    Load Current Feedforward Control of Boost Converter

    for Minimizing Output Filter Capacitor

    Daisuke Takei∗, Hiroshi Fujimoto, Yoichi Hori (The University of Tokyo)

    Abstract

    Boost converter is used for various industrial applications to supply high voltage to the load. Generally, boost

    converter has a large output filter capacitor to suppress output voltage variation and it causes the size of system

    much larger. In this paper, load current feedforward control of boost converter is proposed. Proposed methods

    suppress voltage variation compared with feedback control and enable to reduce output filter capacity. Simulation

    and experimental results show the effectiveness of proposed methods.

    キーワード:昇圧コンバータ, 非最小位相連続時間システム,平滑化コンデンサ小型化,電圧変動抑制, 負荷電流フィード

    フォワード制御

    (boost converter, nonminimum-phase continuous-time system,minimization of output filter capacitor, voltage variation

    suppression, load current feedforward control )

    1. はじめに

    昇圧コンバータは直流電圧を昇圧して出力する電力変換

    器であり,ハイブリッド車や太陽光モジュール等の産業機

    器に用いられている。一般に,コンバータに用いられてい

    る平滑化コンデンサは出力電圧変動を抑制するために大容

    量のものが用いられており,システム全体に対する体積占

    有率が高く,システムの小型化を阻害している。

    平滑化コンデンサ小型化の研究として,制御による小型

    化がある。一例として,AC-DC-ACシステムにおける,コ

    ンバータとインバータを用いた平滑化コンデンサの入出力

    電流制御 (1) (2) や, モータドライブにおけるインバータ制

    御 (3) (4)がある。これらは,システムの入力電力と出力電力

    を常に等しくするように変換器を制御し,平滑化コンデン

    サ小型化を実現している。また,文献 (5)– (6)では過渡応答

    時の電圧変動量と平滑化コンデンサ容量小型化の関係につ

    いて述べられている。ここで,文献 (5)では,AC-DC-AC

    システムにおいて,片方の変換器の情報をもう片方の変換

    器にフィードフォワードすることで平滑化コンデンサの小

    容量化が可能になることが示唆されている。また,文献 (6)

    では電圧変動を高速に抑圧することにより,平滑化コンデ

    ンサ容量を小型化できることが述べられている。そのため

    昇圧コンバータにおいては,負荷電流によるフィードフォ

    ワード制御により電圧変動を抑制し,平滑化コンデンサを

    小型化することができると考えられる。しかしながら,これ

    らの文献では電圧変動を抑制するためのフィードフォワー

    ド制御と平滑化コンデンサ小容量化の関係については述べ

    られていない。また,昇圧コンバータには制御入力から出

    力電圧の連続時間での伝達関数に不安定零点が存在するた

    E

    r L

    ini

    loadi

    cvC

    ����

    図 1 昇圧コンバータの構成

    Fig. 1. Configuration of boost converter

    め (7),単純に逆プラントを用いてフィードフォワード制御

    をすることができない。

    本稿では,不安定零点を持つ昇圧コンバータにおける電

    圧変動に対して,フィードフォワードを実現するための近

    似逆モデルを用いたフィードフォワード制御器により電圧

    変動抑制を行う。また,本稿で提案するフィードフォワード

    制御器は未来の値を入力する必要があるため,センサで計

    測した値をそのまま扱うと遅れが発生してしまう。そのた

    め,フィードフォワード制御器の遅れが生じないよう,負

    荷電流の未来値予見して制御に用いる。提案したフィード

    フォワード制御器により電圧変動をより高速に抑制し,平

    滑化コンデンサの小型化が実現できることを示す。シミュ

    レーションと実験により,提案法の有効性を確認する。

    2. 昇圧コンバータのモデル化

    昇圧コンバータの回路図を図 1に示す。ここで,E:入力

    電圧,r:リアクトル巻線抵抗, L:リアクトルのインダクタ

    ンス, C:コンデンサ容量, iin:昇圧コンバータ入力電流,

    1/6

  • vc:昇圧コンバータ出力電圧, iload:昇圧コンバータ負荷電

    流である。昇圧コンバータの二次側に変動する負荷が接続

    されていると仮定し,状態空間平均化法を用いてモデル化

    すると式 (1), (2)を得る。ただし,本稿では電流連続モー

    ドのみでの動作,すなわち,iin(t) > 0とする。

    d

    dtx(t) = A(d(t))x(t) +B

    [E

    iload(t)

    ]· · · (1)

    vc(t) = cx(t) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (2)

    x(t) := [iin(t) vc(t)]T

    [A B

    c O

    ]:=

    −rL

    − d(t)L

    1L

    0d(t)C

    0 0 − 1C

    0 1 O

    ここで,d(t)はデューティ比と定義し,d(t) = 1 − d(t)とする。式 (1),(2)より,昇圧コンバータは非線形システム

    である。本稿では,線形制御理論を用いて制御器を設計す

    るために平衡点周りで線形化し,式 (3),(4)を得る。

    d

    dt∆x(t) = ∆A∆x(t) + ∆B∆u(t) · · · · · · · · · · · · · (3)

    ∆vc(t) = ∆c∆x(t) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (4)[∆A ∆B

    ∆c O

    ]:=

    −rL

    −DL

    −VcL

    0DC

    0 IinC

    − 1C

    0 1 O

    x(t) := X +∆x(t), ∆x(t) := [∆iin(t) ∆vc(t)]

    T

    u(t) := U +∆u(t), ∆u(t) := [∆d(t) ∆iload(t)]T

    X := [Iin Vc]T ,U := [D Iload]

    T

    Iin =Iload

    D· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (5)

    Vc =ED − rIload

    D2 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (6)

    式 (3),(4)より,∆d(s),∆iload(s)から∆iin(s),∆vc(s)ま

    での伝達関数を求めると,式 (7)を得る。[∆iin(s)

    ∆vc(s)

    ]=

    [∆Pi1(s) ∆Pi2(s)

    ∆Pv1(s) ∆Pv2(s)

    ][∆d(s)

    ∆iload(s)

    ]· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (7)

    ∆Pi1(s) =bi1s+ bi0

    s2 + a1s+ a0· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (8)

    ∆Pi2(s) =ci0

    s2 + a1s+ a0· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (9)

    ∆Pv1(s) =bv1s+ bv0

    s2 + a1s+ a0· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (10)

    ∆Pv2(s) =cv1s+ cv0

    s2 + a1s+ a0· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (11)

    a1 :=r

    L,a0 :=

    D2

    LC,bi1 := −

    VcL

    bi0 := −IinD

    LC,bv1 =

    IinC,bv0 =

    rIin −DVcLC

    ci0 :=D

    LC,cv1 := −

    1

    C,cv0 := −

    r

    LC

    lR lL

    invi

    invv

    loadi

    cv

    (a) Circuit

    ][kv

    T

    c

    inverter][kiinv][kT∆

    ][zCinv

    + −

    ++

    ]1[* +kiinv

    invcz1−

    )]([ 1 invinv azIkb−−

    ][kvc

    T

    1 ][kiload

    (b) Block diagram 

    図 2 負荷電流の模擬

    Fig. 2. Load current simulator

    さらに,式 (3),(4) を周期 T にて零次ホールドに基い

    て離散化すると,状態方程式と伝達関数は以下の式で表さ

    れる。

    ∆x[k + 1] = ∆Ad∆x[k] + ∆Bd∆u[k] · · · · · · · · · (12)

    ∆vc[k] = ∆cd∆x[k] · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (13)[∆Ad ∆Bd

    ∆cd O

    ]

    :=

    [e∆AT ∆A−1(e∆AT − I)∆B∆c O

    ]

    :=

    ∆ad11 ∆ad12 ∆bd11 ∆bd12∆ad21 ∆ad22 ∆bd21 ∆bd220 1 O

    3. 負荷電流の模擬

    本稿では昇圧コンバータの負荷を電流でモデル化して制

    御系設計を行うため,任意の負荷変動に対して有効である

    と考えられる。そこで,本稿ではフルブリッジインバータ

    で任意の負荷変動を発生させる。ハイブリッド車や太陽光

    モジュールのように昇圧コンバータの負荷側にインバータ

    が接続される例があるため,負荷をインバータで模擬する

    のは妥当であると考える。

    回路図を図 2(a)で示す。ここで,Rl:負荷抵抗, Ll:負荷

    リアクトルのインダクタンス, vinv:インバータ出力電圧,

    iinv:インバータ出力電流である。以下ではフルブリッジイ

    ンバータのモデル化と制御系について説明する。連続時間

    の状態方程式は以下の式で表される。

    diinv(t)

    dt= −Rl

    Lliinv(t) +

    1

    Llvinv(t) · · · · · · · · · · · (14)

    式 (14)を PWMホールドによって離散化する (8)。

    2/6

  • BoostConverter

    +−

    ][* kvc ][kvc][zCfb+

    ][kd fb∆D

    +

    ][kiload

    Current source load simulator

    ]1[* +kiinv

    �����

    図 3 従来法の電圧制御

    Fig. 3. Voltage control of the conventional method

    xinv[k + 1] = ainvxinv[k] + binv[k]∆T [k] · · · · · · (15)

    yinv[k] = cinvxinv[k] · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (16)

    ainv = e−RlT

    Ll ,binv[k] =vc[k]

    Lle−RlT

    2Ll

    cinv = 1,xinv[k] = iinv[k]

    また,昇圧コンバータ負荷電流 iload[k]はキャリア周期のリ

    プルが生じ,計測が困難である。しかしながら,iload[k]は

    キャリア周期 T のうちのオン時間 ∆T [k] に流れる iinv[k]

    の平均値であると考えられる。そのため,iload[k]は以下の

    式で表される。

    iload[k] =∆T [k]

    Tiinv[k] · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (17)

    フルブリッジインバータは図 2(b)で示される 2自由度制

    御系により,インバータ電流 iinv[k]を制御する。フィード

    フォワード制御器には式 (15),(16)より,シングルレート

    PTC (9)で設計する。また,フィードバック制御器は式 (14)

    のプラントモデルと制御器が極零相殺するように式 (18)の

    PI制御器とした。これを周期 T で Tustin変換により離散

    化したものをフィードバック制御器として用いる。

    Cinv(s) =Lls+Rlτinvs

    , τinv = 1 [ms] · · · · · · · · · · ·(18)

    4. 制御器設計

    本章では従来のフィードバック制御器に加え,負荷変動

    に伴う電圧変動を抑制するためのフィードフォワード制御

    器設計について述べる。

    〈4・1〉 従 来 法 従来法として,∆d(s)から ∆vc(s)

    までの伝達関数である式 (10)に対して,フィードバック制

    御器として PID制御器を 4重根配置するように設計する。

    ブロック図は図 3で表される。

    Cfb(s) = Kp +Kis

    +Kds

    τbcs+ 1· · · · · · · · · · · · · · · · (19)

    式 (19)を制御周期 T で Tustin変換し,Cfb[z]を得る。

    〈4・2〉 提案法1 一般に,昇圧コンバータには連続系

    において不安定零点があり,デューティ比∆d(s)から出力

    電圧 ∆vc(s)までの伝達関数である式 (10)の零点は不安定

    零点である。不安定零点をもつシステムに対するフィード

    フォワード制御器として,提案法 1では零位相差追従制御

    BoostConverter

    +−

    ][* kvc ][kvc][kd][zCfb+

    ][kd fb∆D

    +

    Current source load simulator

    ]1[* +kiinv

    ][kd ff∆

    ][zCff

    +

    ][kiload∆

    +−

    �����

    ][kiload

    loadI

    図 4 負荷電流フィードフォワードを用いた電圧制御

    Fig. 4. Voltage control with load current feedforward

    (ZPETC) (10) によってフィードフォワード制御器を設計す

    る。状態空間平均化法と零次ホールドを用いて表される式

    (12)の離散時間状態方程式より,デューティ比 ∆d[k]と負

    荷電流 ∆iload[k]から電圧 ∆vc[k]までの伝達関数は次式で

    表される。

    ∆vc[k] =bdv1z + bdv0

    z2 + ad1z + ad0∆d[k]

    +cdv1z + cdv0

    z2 + ad1z + ad0∆iload[k] · · · · · · · · · · · · (20)

    ad1 = −(∆ad11 +∆ad22)

    ad0 = ∆ad11∆ad22 −∆ad12∆ad21bdv1 = ∆bd21, bdv0 = ∆ad21∆bd11 −∆ad11∆bd21cdv1 = ∆bd22, cdv0 = ∆ad21∆bd12 −∆ad11∆bd22

    式 (20)より,∆iload[k]から ∆vc[k]への応答を ∆d[k]に

    よって相殺することを考える。すわなち,∆vc[k] = 0とお

    いたとき,∆iload[k]の変動に対して∆d[k]によって補償す

    る。このとき,∆d[k]から∆iload[k]までの伝達関数は次式

    で表される。

    ∆P [z] =∆iload[k]

    ∆d[k]= − bdv1z + bdv0

    cdv1z + cdv0=

    N [z]

    D[z]· · ·(21)

    フィードフォワード制御器の伝達関数は以下の式で表される。

    Czpetc[z] =D[z]N [z−1]

    z2N2[1]

    〈4・3〉 提案法2 提案法 1は零位相特性を持つが,振

    幅特性には誤差が生じる。一方で,不安定零点が非常に速

    い場合,不安定零点によるシステムへの影響は小さい。そ

    のため,不安定零点を無視したモデルに対して完全追従制

    御法 (11)によってフィードフォワード制御器設計を行う。式

    (7),(10),(11)より,∆d(s)と∆iload(s)から∆vc(s)まで

    の伝達関数は式 (22)で表される。

    ∆vc(s) =bv1s+ bv0

    s2 + a1s+ a0∆d(s)

    +cv1s+ cv0

    s2 + a1s+ a0∆iload(s) · · · · · · · · · · · · · (22)

    ∆iload(s)から∆vc(s)への応答を∆d(s)により相殺するこ

    とを考える。このとき,∆d(s)から∆iload(s)までの伝達関

    数は次式で表される。

    3/6

  • BoostConverter

    +−

    ][* kvc ][ kvc][kd][zCfb+

    ][kd fb∆D

    +

    Current source load simulator

    ]1[* +kiinv

    Converter load current prediction

    1−z

    ]2[* +kiinv

    ]1[ˆ +kiload

    ][kd ff∆

    ][zCff

    +

    +−

    �����

    ][kiload

    loadI

    ][kd ff∆

    Error compensation

    + + ][kicomp

    ]1[* +kiload

    図 5 負荷電流予測値を用いたフィードフォワード制御

    Fig. 5. Feedforward control using load current predicted

    value

    ∆P (s) =∆iload(s)

    ∆d(s)= − bv1s+ bv0

    cv1s+ cv0· · · · · · · · · · · · (23)

    ∆P (s)は不安定零点をもつ。そこで,最小位相系の伝達関

    数∆PMP (s)と nu(s)に分解し,∆PMP (s)に対するフィー

    ドフォワード制御器を設計する。

    ∆P (s) = ∆PMP (s)nu(s) · · · · · · · · · · · · · · · · · · (24)

    ∆PMP (s) = −bv0

    cv1s+ cv0· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (25)

    nu(s) =bv1bv0

    s+ 1 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (26)

    ∆PMP (s)を周期 T で零次ホールドで離散化すると式 (27),

    (28)になる。

    xptc[k + 1] = adxptc[k] + bduptc[k] · · · · · · · · · · · (27)

    yptc[k] = cdxptc[k] · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (28)[ad bd

    cd 0

    ]=

    [e− cv0

    cv1T − bv0

    cv1(e

    − cv0cv1

    T − 1)1 0

    ]

    式 (27), (28)より,フィードフォワード制御器 Cptc[z]は式

    (29)となる。

    ∆dff [k] = Cptc[z]∆iload[k + 1] · · · · · · · · · · · · · · · (29)

    Cptc[z] =

    [O 1

    −adbd

    1bd

    ]

    ここで,∆iload[k + 1]は 1サンプル先の負荷電流を用いる

    ため,実際に計測することはできない。そのため,実際に

    は 1サンプルの制御入力の遅れが生じてしまう。

    〈4・4〉 提案法3 提案法 2 では現サンプルの負荷電

    流 iload[k] を昇圧コンバータのフィードフォワード制御に

    用いており,遅れが生じていた。そこで,提案法 3ではフ

    ルブリッジインバータの電流指令値から 1サンプル先の負

    荷電流を推定し,遅れなく昇圧コンバータのフィードバッ

    ク制御器に用いる。与えられた 2サンプル先のインバータ

    電流指令値 i∗inv[k+ 2]から 1サンプル先のコンバータ負荷

    電流 îload[k+1]を推定する。ただし,îload[k+1]の計算に

    は vc[k+ 1]が必要となるが,1サンプル先の値であり計測

    できない。このため,サンプル間での電圧変動は小さいも

    のとみなし,代わりに vc[k]を計算に用いる。

    îload[k + 1] =∆T ∗[k + 1]

    Ti∗inv[k + 1] · · · · · · · · · · (30)

    ∆T ∗[k + 1] =1− ainvz−1

    Tbinv[k]i∗inv[k + 2] · · · · · · · · · (31)

    ここで,実際にはプラントのモデル化誤差が存在するため,

    推定値に誤差が含まれてしまう。そこで,推定値に現サン

    プルにおけるコンバータ負荷電流 iinv[k]とコンバータ負荷

    電流推定値の差分 icomp[k]を補償する。icomp[k]は以下の

    式で計算される。

    icomp[k] = iinv[k]− i∗load[k] · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·(32)

    îload[k+1]と icomp[k]の和である i∗load[k+1]を提案法 2で

    用いたフィードフォワード制御器に入力する。i∗load[k + 1]

    は次式で表される。

    i∗load[k + 1] = îload[k + 1] + icomp[k]· · · · · · · · · · · (33)

    以上の提案法 3のブロック図を図 5に示す。

    〈4・5〉 平衡点の設定 以上のモデルは平衡点まわり

    の小信号モデルであるため,平衡点を設定する必要がある。

    本稿では,すべての平衡点は負荷変動前のものを用いる。

    Vc,Iload はそれぞれ指令値電圧 vc∗ と負荷変動前の負荷電

    流 i∗load を扱う。また,残り 2つの平衡点D,Iin に関して

    は,式 (5),(6)を満たすように導出する。なお,Dは二通

    りあるが,0≤D≤1かつ値が大きい方を選択する。以上をまとめると,式 (34)–(37)となる。

    Vc = v∗c · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (34)

    Iload = i∗load =

    ∆T ∗

    Ti∗inv · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (35)

    D =E +

    √E2 − 4rVcIload

    2Vc· · · · · · · · · · · · · · · · (36)

    Iin =Iload

    D· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (37)

    5. シミュレーション

    フィードフォワード制御器による電圧変動抑制効果につ

    いて,シミュレーション結果から評価する。昇圧コンバー

    タのパラメータは表 1のものを用いる。昇圧コンバータの

    閉ループ極は −1000 rad/s (4重根)とした。〈5・1〉 負荷変動に対する応答性 t = 0 ms で負荷変

    動を発生させたときのシミュレーションの結果を図 6に示

    す。フルブリッジインバータにおけるインバータ電流を図

    6(d)のよう指令値に対して追従するように制御し,昇圧コ

    ンバータの負荷変動を模擬している。本節では平滑化コン

    4/6

  • −5 0 5 10 15 2089

    89.5

    90

    90.5

    Time [ms]

    Vol

    tage

    [V]

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (a) Output Voltage

    −5 0 5 10 15 200.44

    0.45

    0.46

    0.47

    0.48

    0.49

    Time [ms]

    Dut

    y ra

    tio

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (b) Duty ratio

    −5 0 5 10 15 205

    5.5

    6

    6.5

    7

    7.5

    8

    8.5

    Time [ms]

    Cur

    rent

    [A]

    conventionalproposed1proposed2proposed3proposed3(prediction)

    (c) Converter load current

    −5 0 5 10 15 207.5

    8

    8.5

    9

    9.5

    10

    10.5

    Time [ms]

    Cur

    rent

    [A]

    conventionalproposed1proposed2proposed3ref

    (d) Inverter current

    図 6 負荷変動に対する電圧変動抑制 (C = 1600 µF)(シミュレーション)

    Fig. 6. Simulation results of voltage variation suppression against load variation (C = 1600 µF)

    −5 0 5 10 15 2086

    87

    88

    89

    90

    91

    Time [ms]

    Vol

    tage

    [V]

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (a) C = 1600 µF

    −5 0 5 10 15 2086

    87

    88

    89

    90

    91

    Time [ms]

    Vol

    tage

    [V]

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (b) C = 1200 µF

    −5 0 5 10 15 2086

    87

    88

    89

    90

    91

    Time [ms]

    Vol

    tage

    [V]

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (c) C = 800 µF

    −5 0 5 10 15 2086

    87

    88

    89

    90

    91

    Time [ms]

    Vol

    tage

    [V]

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (d) C = 400 µF

    図 7 小容量平滑化コンデンサでの比較 (シミュレーション)

    Fig. 7. Simulation results of voltage variation suppression when small output filter capacitor is used

    表 1 昇圧コンバータパラメータ

    Table 1. Parameters of boost converter

    DC-bus voltage E 50 V

    Output voltage reference v∗c 90 V

    Winding resistance r 20 mΩ

    Inductance L 250 µH

    Carrier Frequency fc 10 kHz

    Load Inductance Ll 7.463 mH

    Load Resistance Rl 7.374 Ω

    デンサの容量を C = 1600 µFとした。

    従来法では出力電圧 FB制御のみであり,大きな電圧変

    動が起こっている。これは,負荷変動の速さに対してフィー

    ドバック制御器の帯域が十分高くないためである。一方,提

    案法では電圧変動が大きく減少している。電圧変動抑制の

    効果は提案法 1, 提案法 2, 提案法 3の順に大きい。従来法

    と電圧指令値からの電圧変動幅を比較すると,提案法 1は

    58.6 %, 提案法 2は 75.8 %, 提案法 3は 93.1 %の電圧変動

    が抑制された提案法 1に比べると提案法 2では,無視した

    不安定零点が 2.1 krad/sの速い零点であり,逆システムと

    しての精度が高いと考えられる。また,提案法 1, 提案法 2

    ではフィードフォワード制御器に対して遅れのある iload[k]

    を入力として用いたのに対して,提案法 3では遅れのない

    i∗load[k+1]を用いているため,電圧変動が更に抑制された。

    〈5・2〉 小容量平滑化コンデンサでの比較 平滑化コ

    ンデンサの容量を 1600µFから 1200,800,400µFに変え,

    各制御手法を比較する。シミュレーション結果を図 7に示

    す。平滑化コンデンサの容量が小さいほど,電圧変動が大

    きくなっていく。しかしながら,いずれの条件においても,

    従来法より提案法の方が電圧変動を抑制している。1600µF

    の時の従来法の電圧変動の大きさと,400µFの時の提案法

    1の電圧変動の大きさがほぼ同じであり,提案法 2では電

    圧変動の大きさは 1600 µFの時の従来法のものより更に小

    さく,提案法 3では平滑化コンデンサの容量を小型化して

    も電圧変動がほどんと起こらない。そのため,平滑化コン

    デンサの容量を小さくしても提案法を用いることで電圧変

    動を抑制が可能となり,平滑化コンデンサの小容量化が実

    現できる。

    6. 実 験

    〈6・1〉 負荷変動に対する応答性 5.1節と同じ条件で

    実験を行った。結果を図 8に示す。従来法と比べて提案法

    では電圧変動は抑制している。ここで提案法 3では,モデ

    ル化誤差を補償した 1 サンプル先の推定値を用いており,

    昇圧コンバータの出力電圧推定値は計測値と一致している。

    しかしながら,シミュレーションと比べると提案法の効果

    の差が小さく,提案法 1,提案法 2,提案法 3の電圧変動抑

    制効果に違いが見られなかった。また,デューティ比とコ

    ンバータ負荷電流の負荷変動前後での定常値や提案法の整

    定時間がシミュレーションと実験で異なっている。これら

    の原因としては,昇圧コンバータやフルブリッジインバー

    タのパラメータのモデル化誤差が考えられる。

    〈6・2〉 小容量平滑化コンデンサでの比較 5.2節のシ

    ミュレーションと同じ条件で実験を行った。結果を図 9に

    示す。シミュレーションの場合と同じく,コンデンサの容量

    を小さくしていくと電圧変動幅が大きくなっているが,従

    来法に比べると提案法を用いたほうが電圧変動が抑制され

    ている。どのコンデンサ容量においても,提案法の電圧変

    5/6

  • −5 0 5 10 15 2088.5

    89

    89.5

    90

    90.5

    Time [ms]

    Vol

    tage

    [V]

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (a) Output Voltage

    −5 0 5 10 15 20

    0.44

    0.46

    0.48

    0.5

    Time [ms]

    Dut

    y ra

    tio

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (b) Duty ratio

    −5 0 5 10 15 205

    6

    7

    8

    9

    Time [ms]

    Cur

    rent

    [A]

    conventionalproposed1proposed2proposed3proposed3(prediction)

    (c) Converter load current

    −5 0 5 10 15 207.5

    8

    8.5

    9

    9.5

    10

    10.5

    Time [ms]

    Cur

    rent

    [A]

    conventionalproposed1proposed2proposed3ref

    (d) Inverter current

    図 8 負荷変動に対する電圧変動抑制 (C = 1600 µF)(実験)

    Fig. 8. Experiment results of voltage variation suppression against load variation (C = 1600 µF)

    −5 0 5 10 15 2085

    86

    87

    88

    89

    90

    91

    Time [ms]

    Vol

    tage

    [V]

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (a) C = 1600 µF

    −5 0 5 10 15 2085

    86

    87

    88

    89

    90

    91

    Time [ms]

    Vol

    tage

    [V]

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (b) C = 1200 µF

    −5 0 5 10 15 2085

    86

    87

    88

    89

    90

    91

    Time [ms]

    Vol

    tage

    [V]

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (c) C = 800 µF

    −5 0 5 10 15 2085

    86

    87

    88

    89

    90

    91

    Time [ms]

    Vol

    tage

    [V]

    conventionalproposed1proposed2proposed3

    (d) C = 400 µF

    図 9 小容量平滑化コンデンサでの比較 (実験)

    Fig. 9. Experiment results of voltage variation suppression when small output filter capacitor is used

    動は従来法の変動幅の半分に抑えられている。

    7. ま と め

    本稿では,非最小位相系である昇圧コンバータに対して,

    近似的な逆システムを用いたフィードフォワード制御によ

    り,負荷変動に伴う電圧変動を抑制効果できることをシミュ

    レーション及び実験により検証した。また,昇圧コンバー

    タの負荷電流が予見できる場合,フィードフォワード制御

    器の入力とすることでさらに電圧変動が抑制できることを

    確認した。さらに小容量平滑化コンデンサを用いた検討も

    行い,平滑化コンデンサが小容量の場合でも提案法が有効

    であることが示された。

    しかしながら,実験では提案法がシミュレーションほど

    効果が確認できなかった。今後の課題としてはパラメータ

    変動に対しても十分な効果が得られるような制御系設計を

    行う。

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    6/6