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地域イノベーションとエクイティ文化 地方でビジネスを起こすためにー 2014年10月6日 富士通総研 経済研究所 主席研究員 榎並利博 [email protected]

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地域イノベーションとエクイティ文化

-地方でビジネスを起こすためにー

2014年10月6日 富士通総研 経済研究所 主席研究員 榎並利博 [email protected]

「地域活性化」という取組み

1980年~:大分県の一村一品運動

1980年代前半の大分県は人口増加。

都市部では企業誘致政策。中山間地の生残り策として実施。

2000年頃~:まちづくり・B級グルメ

シャッター通り商店街。中心市街地の活性化。

1.地方の経済力を高めるには

→ 余裕のある時代の取組み 1

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あやふやな「地域活性化」という概念

「地方が元気になる」という言葉での自己満足

交流の活性化と経済の活性化を区別せずに失敗

これからは、地方が「生残れるかどうか」

人口減少・自治体消滅の危機に立ち向かう

国の財政に依存できない

地方の第二次産業への依存も期待できない

•地方の第二次産業はグローバル競争のなかへ

•企業誘致もままならず

経済の活性化という目標を明確に

経済効果をもたらすイノベーションを起こす 2

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【地域経済活性化5段階モデル】 ※経済的価値を測定して分析

※成功モデルにおけるIT活用分析

第1段階 第2段階 第3段階 第4段階 第5段階

アイデア

ビジネスモデル

の確立

イノベーション

の実現

時間軸

経済的価値

イノベーション前夜

イノベーションのきっかけ

イノベーションの普及

ビジネスモデルの確立

イノベーションの実現

2.地域イノベーションの具体的方策

①アイデアを作る

事業が黒字になるライン

【売上が黒字ラインの3倍以上】

②事業を黒字にする努力

③事業を増幅

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(1)徳島県上勝町:つまもの

1979年

①1986年

②1986-90年

③1998年

横石氏着任、代替作物の開発、地域の支持を得る

つまもの販売を思いつく

賛同者は少なく、市場からも受け入れられずに失敗

料亭通いでマーケティング、生産者の啓蒙活動

パソコンとイントラネットを導入、生産農家・品揃えの拡大

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(2)愛媛県内子町:

フレッシュパークからり(農産物直売所)

1986年

①1992年

②1993-96年

知的農村塾を開講

フルーツパーク構想(農業の総合産業化)

農家の主人は反対。主婦・高齢者を中心に直売実験(特別栽培認証制度)。そのノウハウをもとに、フレッシュパークからり開設。

売上情報システム、トレーサビリティシステムの導入で事業拡大。現在では食品加工まで。

③2003-04年

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(3)高知県馬路村:ゆず

①1965年 ゆず栽培研究開始

②1979年 ゆず加工品開発

1980年 ゆず加工品の全国行脚

1989年 ゆず事業黒字化

③1989年 伝票処理システム導入

2000年 コールセンター開設、30数億の売上へ。 6

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(1)徳島県 上勝町

(2)愛媛県 内子町

(3)高知県 馬路村

つまもの (葉っぱ)

少量多品種 農産物

ゆず ①アイデア

を作る

料亭通いで マーケティング

と啓蒙

農村部の 座談会

全国行脚 ②事業を

黒字にする 努力

パソコンや イントラネット

を導入

トレーサ ビリティ システム

オフコン導入 コールセンター

開設

③事業を 増幅

一番苦しいのは②の段階。ITの導入は③の段階で。

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ITが持つ2つの力

現状のプロセスを増幅する力

事務の合理化、効率化

まったく新しいプロセスを創りだす力

これまでにないビジネス:amazon, google, iPod/iPhone/iPad

• 地方が活用できるITの力は前者の力

• 後者の力を活用する前提として、技術力、高度な人材、資金などが必要

• 高齢者でも経済的な動機付けがあれば、ITくらい使う

ITの導入は、なぜ③の段階なのか

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なぜ上勝町は、つまもの販売を失敗したにも関わらず、

4年という短期間でビジネスモデルを確立できたのか。

なぜ内子町は、フルーツパーク構想が反対にあったにも

関わらず、4年という短期間で農産物直売所のビジネスを

実現できたのか。

なぜ馬路村は、栽培研究から24年間(商品開発から

10年間)もゆず事業の赤字を支えることができたのか。 リーダー(よそもの、わかもの、ばかもの)だけの問題ではない

これらの地域には、エクイティ文化が醸成されていたからではないか

イノベーションを実現するには、

苦しい②の段階を乗り切ることが鍵

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エクイティ文化とは

equity: 公正、公平、無私無欲、株式、出資部分など

地域のために、自らリスクを取り、自ら関与していく文化

シリコンバレーの研究から見出された概念

【1980年代後半:壊滅状態からの復活】

自らプロジェクトに関与、自ら投資

投資への見返りは、地域の若者が育つこと

地域への恩返し(give back)

ソーシャル・キャピタルとは異なる

「周囲の人を信用できるか」という感覚ではない

地方においては、ソーシャル・キャピタルの悪い面(ボンディング、

派閥・しがらみ)が出ることがある

3.地域イノベーションの鍵を握る エクイティ文化

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各地域の苦しい時期を支えたエクイティ文化

上勝町

つまもの販売に失敗 → 料亭通いでマーケティングと啓蒙

過去7年間に及ぶ代替作物開発における農家との対話

内子町

農家主人の反対 → 主婦・高齢者が主体に

町役場と農家の過去6年間に及ぶ知的農村塾での対話

馬路村

研究から商品開発(15年)、全国行脚による販路開拓(9年)と、黒字化するまで24年間

森林組合(魚梁瀬杉)による投資

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第1段階 第2段階 第3段階 第4段階 第5段階

アイデア

ビジネスモデル

の確立

イノベーション

の実現

時間軸

経済的価値

ビジネスモデルの確立

エクイティ

文化

IT

①地域資源を使ってアイデアを作る

②苦しい時期をエクイティ文化で支える

③事業を増幅するために、ITを活用する

地域資源

地域経済活性化のポイント

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上勝町・内子町・馬路村の比較(社会指標と経済指標)

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木の花ガルテン(直売所) オーガニック農園(レストラン)

エクイティ文化→経済的自立、イノベーションの継続

①大分県大山町(現、日田市):大山町農協 ・1961年 第1次NPC※運動:所得追求 ※New Plum and Chestnut

「ウメ、クリ植えてハワイへ行こう」 ・1965年 第2次NPC運動:人づくり 後継者を海外へ派遣 ・1969年 第3次NPC運動:環境づくり 若者をイスラエルのキブツに派遣、共同体意識の醸成 基幹作物をより付加価値の高いものへと次々と転換

4.エクイティ文化がもたらすものと その醸成方法

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みなべ町のイノベーション ・江戸時代初期 梅のブランド化「紀伊田辺産」 ・1951年~1965年 南高梅の開発 ・1975年 味付け梅(カツオウメ) ・現在 紀州うめどり、紀州うめたまご

②和歌山県みなべ町:梅ビジネス

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和歌山県みなべ町の社会指標と経済指標

※大山町は日田市に合併されたためデータが入手できず

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エクイティ文化を醸成するには

→ 地域における対話と行動

現状を把握する

•データに基づく危機感の共有:客観的に見る

•対話(ダイアローグ):相互に現実を理解する

→ 実際にはあまり対話がない。既存の組織やグループ

の枠組みを脱していない。

行動を起こす

•仲間を集める、ネットワーク化

(既存の組織に縛られず、誰でも参加)

•ビジョンを共有し、身近なところから行動を起こす

→ 地道な努力、時間がかかる(最低10年)ことを肝に銘じる

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