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東海大学医学部専門診療学系小児科学 抄読会 1 2012 年 04 月 02 日 担当:石黒寛之 Title: Impact of a Guideline on Management of Children Hospitalized With Community-Acquired Pneumonia Authors: Ross E. Newman, Erin B. Hedican, Joshua C. Herigon, David D. Williams, Arthur R. Williams and Jason G. Newland Journal: Pediatrics 2012;129;e597-604 まとめ 肺炎球菌による市中肺炎は、小児感染症の代表的疾患の一つである。New pediatric Infectious Diseases Society of America Community-Acquired Pneumonia Guidelines(参考文献 1)では、小児 市中肺炎における第一選択薬として ampicillin の使用を推奨している(ただし使用期間は言及して いない)。今回のガイドライン改定において、今までより ampicillin 使用が増加し、退院時の抗菌薬 処方も amoxicillin 使用へと変化した。しかし、これらの治療変更にも関わらず、新たな有害事象、 臨床的な問題点の出現はなかった。 略語など ASPantimicrobial stewardship program CAPcommunity-acquired pneumonia CPGclinical practice guideline ampicillin アンピシリン ビクシリン® ceftriaxone セフトリアキソン ロセフィン® cefdinir セフジニル セフゾン® amoxicillin/clavulanate アモキシシリン/クラブラン酸 クラバモックス® amoxicillin アモキシシリン サワシリン® azithromycin アジスロマイシン ジスロマック® はじめに 小児市中肺炎の発症率は年間約 2%程度で、起炎菌としては肺炎球菌が最も多い。 新しく改訂されたガイドラインでは市中肺炎に対する第一選択薬として ampicillin(200– 300mg/kg/day)と cefriaxone を推奨している。 患者背景 後方視的に検討された臨床研究である。 対象は基礎疾患を有しない健康な小児。 2007 年 7 月から 2009 年 7 月まで(この間にガイドラインの改訂が行われた)に市中肺炎で小児病 院に入院した 1,033 名で検討された。

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東海大学医学部専門診療学系小児科学 抄読会

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2012 年 04 月 02 日

担当:石黒寛之

Title: Impact of a Guideline on Management of Children Hospitalized With

Community-Acquired Pneumonia

Authors: Ross E. Newman, Erin B. Hedican, Joshua C. Herigon, David D. Williams, Arthur R.

Williams and Jason G. Newland

Journal: Pediatrics 2012;129;e597-604

まとめ

肺炎球菌による市中肺炎は、小児感染症の代表的疾患の一つである。New pediatric Infectious

Diseases Society of America Community-Acquired Pneumonia Guidelines(参考文献 1)では、小児

市中肺炎における第一選択薬として ampicillin の使用を推奨している(ただし使用期間は言及して

いない)。今回のガイドライン改定において、今までより ampicillin 使用が増加し、退院時の抗菌薬

処方も amoxicillin 使用へと変化した。しかし、これらの治療変更にも関わらず、新たな有害事象、

臨床的な問題点の出現はなかった。

略語など

ASP—antimicrobial stewardship program

CAP—community-acquired pneumonia

CPG—clinical practice guideline

ampicillin アンピシリン ビクシリン®

ceftriaxone セフトリアキソン ロセフィン®

cefdinir セフジニル セフゾン®

amoxicillin/clavulanate

アモキシシリン/クラブラン酸 クラバモックス®

amoxicillin アモキシシリン サワシリン®

azithromycin アジスロマイシン ジスロマック®

はじめに

小児市中肺炎の発症率は年間約 2%程度で、起炎菌としては肺炎球菌が最も多い。

新しく改訂されたガイドラインでは市中肺炎に対する第一選択薬として ampicillin(200–

300mg/kg/day)と cefriaxone を推奨している。

患者背景

後方視的に検討された臨床研究である。

対象は基礎疾患を有しない健康な小児。

2007 年 7 月から 2009 年 7 月まで(この間にガイドラインの改訂が行われた)に市中肺炎で小児病

院に入院した 1,033 名で検討された。

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結果

【入院治療前の抗菌薬投与に関して】

改訂前は

ceftriaxone、amoxicillin が 11%、azithromycin、amoxicillin/clavulanate が 8%、cefdinir が 5%

改定後は

amoxicillin が 11%、azithromycin が 8%、ceftriaxone が 6%、amoxicillin/clavulanate、cefdinir が 5%

【ガイドライン改定前の抗菌薬投与に関して】

改定前の 530 名中、72%が ceftriaxone、13%が ampicillin を入院時治療薬として選択

退院時は cefdinir、amoxicillin/clavulanate の治療を受けた。

【ガイドライン改定後の抗菌薬投与に関して】

改定後の 503 名中、63%が ampicillin を入院時治療薬として選択

退院時は amoxicillin(80–100 mg/kg/day for 5-7 days)の治療を受けた。

全体としての治療不成功率はそれぞれ 1.5%と 1.0%で有意差はなし。

改定後のガイドラインでは血培採取を推奨している。血培陽性率は約 5%で、肺炎球菌が圧倒的

に多かった。

この論文から言えること

• 健康な小児における市中肺炎、特に肺炎球菌感染症では ampicillin 使用で十分な治療効果

が得られる。しかし、投与量に関しては検討が必要である。

• アメリカでは、入院での市中肺炎治療に引き続き、抗菌薬の内服療法も継続治療として行わ

れている。我が国においても同様の方法で治療を行えば、入院期間の短縮が図れる可能性

がある。

• 臨床的なガイドラインは、臨床医に対する絶大な力を持っている。しかし、ガイドラインの使用

方法には十分に吟味して使用する必要がある。

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