名古屋大学医学部附属病院病棟等...

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── 実 施 例 ── ヒートポンプとその応用 2011.10.No.82 ─ 38 ─ ■キーワード/病院・リニューアル・熱回収・省エネルギー・氷蓄熱 国立大学法人名古屋大学 藤 丸 隆 志 三機工業㈱ エネルギーソリューションセンター 高 井 裕 紀 名古屋大学医学部附属病院病棟等 ESCO事業の紹介 1.はじめに 名古屋大学は,東山,鶴舞および大幸キャンパスなど を有し,人間と社会と自然に関する研究と教育を通じて, 人々の幸福に貢献することを使命としている。 鶴舞キャンパスは,教育研究施設,附属病院を兼ね備 えた複合医療施設としての役割を担っている。 本学は年間約80,000tのCO2を排出しており,東山キャ ンパスは,名古屋市の工場などを除く業務部門の事業所 で最大の排出者である。今回紹介する鶴舞キャンパスは, CO2排出量が,年間33,716tで名古屋市2番目のCO2出者である。大学は教育・研究の活性化をはかり,世界 最高水準の研究成果や人材の養成を行うことが使命であ り,そのためには大量のエネルギーを消費するが,一方 でCO2削減は社会の要請であり,大学の社会的責務でも あり,この二律背反の課題の解決が求められている。 本学としては,2005年3月に「名古屋大学におけるエ ネルギーの使用の合理化に関する規程」を定め,低炭素 エコキャンパス(サスティナブルキャンパス)を実現する ため,エネルギー使用量の「見える化」や省エネ改修な どに積極的に取り組んでいる。 その成果を「施設白書」「エネルギーマネージメント 研究会・検討会(EM研)成果報告会」「施設管理部ホー ムページ」などで公開し,さらにチャレンジ25への参加, 名古屋市エコ事業所の認定など,地域社会と連携して省 CO2に取り組んできた。 写真-1 鶴舞キャンパス全景 そして,さらなる省エネルギーの推進,環境負荷の低 減および光熱水費の効果的な削減をはかるため,民間の 技術的ノウハウ,資金,経営能力および運転管理能力を 活用するESCO(Energy Service Company)事業の導入 を検討した。 ESCO事業者には,三菱UFJリース㈱,三機工業㈱, ㈱トヨタエンタプライズのグループが最優秀提案者と して選定され,2010年度第1回の住宅・建築物省CO2 推進モデル事業(国土交通省)に採択された。本学では, 2008年度に東山の附属図書館,鶴舞の動物実験施設にも ESCO事業を導入しており,その効果は,2009年度から 2年間ともに予定以上の削減量を達成している。 2.事業概要 名 名古屋大学医学部附属病院 病棟等ESCO事業 地 名古屋市昭和区鶴舞町65 敷 地 面 積 89,137㎡ 用 途 地 域 第1種住居地域 数 1,035床 対 象 建 物 病棟    S14-2 42,254㎡ (構造階数) 中央診療棟 SRC7-2 43,612㎡ (延床面積) 医系研究棟1号館 S13-2 18,779㎡ エネルギーセンター RC3-1 3,199㎡

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── 実 施 例 ──

ヒートポンプとその応用 2011.10.No.82─ 38 ─

■キーワード/病院・リニューアル・熱回収・省エネルギー・氷蓄熱

国立大学法人名古屋大学 藤 丸 隆 志三機工業㈱ エネルギーソリューションセンター 高 井 裕 紀

名古屋大学医学部附属病院病棟等ESCO事業の紹介

1.はじめに 名古屋大学は,東山,鶴舞および大幸キャンパスなどを有し,人間と社会と自然に関する研究と教育を通じて,人々の幸福に貢献することを使命としている。 鶴舞キャンパスは,教育研究施設,附属病院を兼ね備えた複合医療施設としての役割を担っている。 本学は年間約80,000tのCO2を排出しており,東山キャンパスは,名古屋市の工場などを除く業務部門の事業所で最大の排出者である。今回紹介する鶴舞キャンパスは,CO2排出量が,年間33,716tで名古屋市2番目のCO2排出者である。大学は教育・研究の活性化をはかり,世界最高水準の研究成果や人材の養成を行うことが使命であり,そのためには大量のエネルギーを消費するが,一方でCO2削減は社会の要請であり,大学の社会的責務でもあり,この二律背反の課題の解決が求められている。 本学としては,2005年3月に「名古屋大学におけるエネルギーの使用の合理化に関する規程」を定め,低炭素エコキャンパス(サスティナブルキャンパス)を実現するため,エネルギー使用量の「見える化」や省エネ改修などに積極的に取り組んでいる。 その成果を「施設白書」「エネルギーマネージメント研究会・検討会(EM研)成果報告会」「施設管理部ホームページ」などで公開し,さらにチャレンジ25への参加,名古屋市エコ事業所の認定など,地域社会と連携して省CO2に取り組んできた。

写真-1 鶴舞キャンパス全景

 そして,さらなる省エネルギーの推進,環境負荷の低減および光熱水費の効果的な削減をはかるため,民間の技術的ノウハウ,資金,経営能力および運転管理能力を活用するESCO(Energy Service Company)事業の導入を検討した。 ESCO事業者には,三菱UFJリース㈱,三機工業㈱,㈱トヨタエンタプライズのグループが最優秀提案者として選定され,2010年度第1回の住宅・建築物省CO2

推進モデル事業(国土交通省)に採択された。本学では,2008年度に東山の附属図書館,鶴舞の動物実験施設にもESCO事業を導入しており,その効果は,2009年度から2年間ともに予定以上の削減量を達成している。 2.事業概要事 業 名 名古屋大学医学部附属病院      病棟等ESCO事業所 在 地 名古屋市昭和区鶴舞町65敷 地 面 積 89,137㎡用 途 地 域 第1種住居地域病 床 数 1,035床対 象 建 物 病棟    S14-2 42,254㎡(構造階数) 中央診療棟 SRC7-2 43,612㎡(延床面積) 医系研究棟1号館            S13-2 18,779㎡      エネルギーセンター            RC3-1 3,199㎡

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ヒートポンプとその応用 2011.10.No.82─ 39 ─

── 実 施 例 ──

 そこで,エネルギー熱単価と省エネルギー率を,熱源別,システム別に比較検討をした結果,病棟,中央診療棟,医系研究棟1号館,エネルギーセンターの各建物で電気式の高効率熱源機を導入し,各建物の蒸気使用を最適化し,電気とガスのベストミックスシステムとして総合効率向上をめざすべきと判断した。 今回の事業は,初期投資,エネルギー費用,運転・日常管理およびメンテナンス費用までのLCCを総合的に評価した結果,ESCO業務に施設・運転管理を含めて一元的に運用し,通常と比較して,より高い省CO2・省エネ効率を求めるプロジェクトとした,全国に先駆けた取り組みである。

4.省CO2技術について4-1 複合型高効率熱源システム 中央診療棟は,既存の蒸気吸収式冷凍機と増設の熱回収冷凍機との複合システムとした(図-2)。改修前は夜間のコージェネレーションの余剰蒸気で連結型冷水蓄熱槽(2,500㎥)に蓄熱をしていたが,蓄熱ロスやコストを検討した結果,水冷チラー 360RT×2台で蓄熱を行い,熱回収冷凍機をベース運転するように改修した。蒸気吸収式冷凍機690RT×2台は,主としてデマンドカット時に運転するほか,負荷が多いときのバックアップ運転が行えるシステムに変更した。また,年間を通して冷水と温水を大量に使用しているので,熱回収冷凍機150RT×3台を増設し,冷水温水同時取り出しを行い,既設熱源を含めた最適運転システムを構築した。 熱回収冷凍機の効果については,「5.熱回収冷凍機システムの検証」で,蓄熱槽の効率について「6.蓄熱槽の効果検証」で述べる。 病棟は,高効率冷凍機とモジュール化した冷凍機を導入したシステムとした(図-3)。中央診療棟と同様に年

竣 工 年 病棟        1996年(西病棟)                1999年(東病棟)      中央診療棟     2005年      医系研究棟1号館  2001年      エネルギーセンター 1994年代表事業者 三菱UFJリース㈱設計施工者 三機工業㈱施設管理者 ㈱トヨタエンタプライズ施 工 工 期 2009年8月~ 2010年2月契 約 工 期 2010年4月~ 2019年3月エネルギー量 都 市 ガ ス   7,996,759㎥/年(2007年度)      電力使用量 31,357,047kWh/年(2007年度)CO2排出量           33,716t/年(2007年度)

3.ESCO事業の計画コンセプト 名古屋大学医学部附属病院の熱源供給システムは,中央診療棟の水冷チラー 360RT×2台を除き,その他すべてが蒸気を主体としたガス熱源であった(図-1)。1994年にエネルギーセンターが建設され,大規模なコージェネレーションと大型ボイラが導入され,これらで生成する蒸気を,各建物へ熱源として供給していた。導入当時はガス単価も安価であり,また冷凍機の高効率化が進む前で,非常にメリットの大きい省エネルギー・省コストシステムであった。 しかし,近年の原油価格高騰とエネルギー自由化からコストメリットが減少したことと,蒸気を使用する業務の一部外注化が進み,蒸気に対する絶対的なニーズが薄れてきた。また近年,蒸気吸収式冷凍機に比較して,電気式水熱源ヒートポンプ・空気熱源ヒートポンプが,効率が高くCO2排出量の少ない機器が開発されたこと,さらには蒸気のシステムロスが,過去のデータから相当大きいことも確認できた。

都市ガス

電気

蒸気

冷水

温水

給湯

加湿 減菌

CGS

蒸気ボイラ

その他

蒸気

蒸気焚冷凍機

蒸気熱交換器

動物実験施設図書館アイソトープ総合センター

未計測・損失

37%

27%

5%

13%

4%

14%

中央診療棟・病棟・医系研究棟1号館 蒸気使用比率

図-1 鶴舞キャンパスガス使用状況

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ヒートポンプとその応用 2011.10.No.82─ 40 ─

── 実 施 例 ──

間を通して冷水と温水を必要とするが,夏の温水,冬の冷水の使用量が非常に少ないのが特徴である。 このため使用水量に比して,ポンプの搬送動力が大きく,システムCOPが低い結果となっていた。そこで,冷水は高効率水冷スクリューチラー,温水は高効率ヒートポンプチラーを導入し,すべてモジュール化対応とし,高効率な部分負荷運転を可能とした。ポンプは,小容量でかつインバータを採用したことにより,低負荷にも効率的に追従でき,搬送動力の大幅な削減ができた。削減割合は,冷凍機の高効率化が75%,搬送動力の削減が25%となり,トータル的に大幅な削減をはかることができた。 また,各階に浴室が設置されており,お湯を大量に使うため,給湯の一次加温に冷凍機の排熱を活用し,エネルギーの削減をはかった。4-2 自動自然換気システム 中央診療棟西面の階段室は日射により高温となり,居室などに及ぼす影響が大きかった。これを低減させるため,吹き抜け階段室の窓ガラスを改修し,自然換気システムを導入した(図-4)。導入前は,階段室が50℃にも上昇したが,この夏の測定で35℃前後となり,大きな効果が得られた。同様に中間期にも効果が得られた。

4-3 パッシブリズミング空調 パッシブリズミング空調は,第6回国土技術開発賞の

「優秀賞」を受賞し,独立行政法人建築研究所・㈱奥村組・三機工業㈱で共同開発したシステムである(図-5)。室内環境測定を行いながら空調機を定期的に「運転・停止」させることにより,室内の快適性を損なうことなく搬送動力を低減することで,省CO2をはかるものである。搬送動力の大きい空調機ほど導入効果が大きい。

(可変制御)・風雨 センサ・温度 センサ等

6F

電動窓

全面ガラス

可変電動ガラリ取付

階段室

廊下居室

1F

2F

導入箇所

ドラフト効果

・・・・・

蓄熱槽 2,500㎥

蒸気焚冷凍機690RT×2

水冷チラー360RT×2

熱回収(増設)150RT×3

蒸気 熱交換器

貯湯槽

冷水電気

蒸気 給湯

温水

増設を表す

貯湯槽

電気 冷水

蒸気 給湯

温水

150RT×1

新設を示す

蒸気 熱交換器

高効率チラー150RT×2

高効率チラー150RT×3

熱回収冷凍機

空冷HP チラー30RT×6

高効率チラー150RT×3

制御コントローラ

送風機

(発停制御)

送風・・・ 周期的に発停

炭酸ガス・温度センサ

(室内状態計測)

図-4 自動自然換気システム

図-2 中央診療棟熱源フロー図

図-3 病棟熱源フロー図

図-5 パッシブリズミング空調

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── 実 施 例 ──

4-4 コージェネレーションの運用変更 熱源をガス主体から電気主体に変更したことにともない,コージェネレーションの運用形態も見直すことが必要となった。余剰蒸気による蓄熱の必要がなくなったことや発電単価の上昇もあり,現状の連続運転から部分運転かピークカット運転または非常時運転の選択となった。導入されている発電機は1,500kWと大型で,部分運転には不向き,かつピークカット運転でもメンテナンスコストが高くなる状況にあった。このことからエネルギー費,メンテナンス費と日常点検費を総合評価した結果,非常時運転を選択した。契約電力が,2,400RT相当の冷凍機の電化,発電機の停止を行ったにもかかわらず,約1,000kWの上昇で抑えられたのは,病院の省エネルギーへの取り組み(節電)を含め,複合型高効率熱源化とし,最適運転システムを構築したことで,搬送動力やシステムロスを大幅に抑えることができた証である。

5.熱回収冷凍機システムの検証 今回導入した熱回収冷凍機は,高効率インバータスクリューチラーである。 2010年8月の運転データの検証結果から,導入システムを総合評価した。まず,冷凍機の単体COPは猛暑にもかかわらず1カ月平均で6.19,システムCOPは4.60であった。熱回収冷凍機の負荷率ごとCOPを冷水,温水,総合COP別で図-6に,高効率冷凍機と熱回収冷凍機のシステムCOP比較を図-7に示す。これらから,部分負荷特性の良さと熱回収冷凍機のシステムCOPが標準冷凍機に比較して,抜群に優れているのがよく理解できる。このシステムは,2005年に岐阜県のホテルに初めて導入し,設定や調整のノウハウを積み重ね,今回は理想的な熱回収システムが構築できたと思う。導入は鶴舞キャンパスの動物実験施設を含め今回で8事例目となる。このシステムは,病院だけでなくホテルや百貨店などでも十分活用できると考える。

6.蓄熱槽の効果検証 2,500㎥の連結型冷水蓄熱槽は,運用見直しにより休止していたが,ヒートポンプシステムで再運用できるように改修した。本来,蓄熱槽は夜間蓄熱を行い,昼間ピークカットを行いながら電力デマンドを抑制する。しかし,鶴舞キャンパスは9:00から18:00ごろまでがピークと長い時間調整する必要があり,電気冷凍機を最大限活用することが年間を通して省エネルギーにつながるため,運転方法を工夫した。 今回導入した熱回収冷凍機をベース運転として,既設の水冷チラー 360RT×2台をピーク時間以外の15時間すべてフル運転し,2次側の熱量に合わせながら蓄熱量とデマンドに考慮して,変則的な運用(図-8)を行った。蓄熱効率は77%と連結型にしては良好な結果となった。蓄熱槽を活用した最適運転システムの構築ができたと思う。平成23年度は,さらなる効率UP,さらなる省エネルギーをめざして運転改善に取り組んでいる。

0

24

6

8

1012

14

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%)冷却熱量-負荷率

冷房時システムCOP 熱回収時システムCOP

冷房時システムCOP

熱回収時システムCOPシステムCOP

平均:10.7

平均:4.6

0

2

4

6

8

10

12

14

0 20 40 60 80 100冷却熱量-負荷率

冷却COP基準値加熱COP基準値熱回収COP基準値冷却COP実測値加熱COP実測値熱回収COP実測値

熱源COP

(%) -10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

蓄熱 直接利用 放熱(昼)

蓄熱効率 77%

時 刻 (時)

冷水熱量

0 21 3 54 6 87 9 1110 1312 1514 1716 1918 2120 2322

(GJ)

図-7 システムCOP比較

図-6 熱回収冷凍機の負荷率ごとCOP

図-8 蓄熱槽の運転状況

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── 実 施 例 ──

8.省エネルギー効果の評価 2010年度は猛暑・厳冬にもかかわらず,CO2削減予定量7,090t/年に対して,削減実績は7,207t/年であった。鶴舞キャンパス全体では2007年度に比較して6,377t/年の削減結果となり,進化しつつある中,大きな効果が得られた。2007年度からの推移(図-10)からみても,蓄熱槽,ヒートポンプを最大限活用して大きな実績が出たことが明らかになった。鶴舞キャンパスのエネルギー原単位が2009年度3,523MJ/㎡・年から2010年度2,943MJ/㎡・年に,16.5%削減することができた。

7.施設管理一体型の効果検証 通常のESCO事業は,建物内のエネルギーを消費する部分を改修や増設などを行って,省エネルギー効果を生み出していく。ESCO事業で導入した熱源機器については,運転管理者を配置せず,運転指導を行いながら計測検証を実施するのが一般的である。しかし今回は,ESCO事業で導入した部分のみでなく,既設部分を含めた建物全体の施設管理をESCO事業者で行う。これは,国内初の取り組みであり,非常に画期的な事業である。 設計施工を行った三機工業㈱事務所内で,熱源機器を含めたエネルギー使用量の遠隔監視を行っている。さらに,附属病院にESCO事業者が常駐し,既設設備を含めたトータル的な省エネルギー管理を行い,BEMSと遠隔監視システムを含めた包括的なPDCAサイクルを確立させた。 2010年4月からESCO事業を開始し,毎月計測検証結果の定例報告会を開催している。省エネルギー量の解析や改善,削減の進ちょく状況の把握にとどまらず,施設管理における異常処置の工数,内容を分析し,施設管理の見える化を推進している。ESCO対象を含めた施設全体から省エネルギーに関する改善提案が1年間で56件,施設管理側からも17件上がった。稼働している病院の変化が見えつつあり,省エネルギー改修による効果以上の削減が期待できる。 主な内容としては,設定温度の見直し,換気風量の見直し,稼働時間の見直し,小便器手洗いの流量調整,照明の見直しなどである。通常の施設管理と違い,省エネルギーを推進する役割を担っているため,常に新しい項目が生み出されている。省エネルギー技術と管理を一体化しての推進,これこそが本来のESCO事業ではないかと強く感じる。今回のESCO事業体制を図-9に示し,項目ごとの削減予定量を表-1に示す。

国立大学法人名古屋大学

三菱UFJリース株式会社(事業代表者・資金調達担当)

三機工業株式会社(設計・施工担当)

株式会社トヨタエンタプライズ(施設管理担当)

33,716

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

2007 2008 2009 2010(年)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

電気料金 ガス料金水道料金 CO2排出量(tーCO2)

 金

CO2排出量

(百万円)32,874 33,086

(t-CO2)

27,339

図-9 ESCO事業体制

図-10 鶴舞キャンパス全体の年度比較

省エネルギー手法

2,4198819162

2,018314144795646384-1303757,090

新設・更新設備

既存設備

中央診療棟

病棟

医系研究棟1号館

エネルギーセンター

CO削減量

対 象 建 屋

t/年

合   計

○○○○○   ○   ○   ○     ○         ○○         ○         ○

排熱回収型水冷チラー給湯一次加温システムパッシブリズミング空調自動自然換気システム遮熱フィルム高効率水冷チラー高効率空冷ヒートポンプ給湯一次加温システム高効率水冷チラー高効率貫流ボイラ既存機器・蓄熱槽運用変更CGS運用変更その他省エネ手法

²

表-1 CO2削減予定量

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ヒートポンプとその応用 2011.10.No.82─ 43 ─

── 実 施 例 ──

10.おわりに 名古屋大学は,エネルギー使用量を含めたエネルギー・施設管理情報などを対外的に発表している。 Yahoo,goo,Googleで「施設管理部」で検索するとトップに掲載されるので,ぜひ参考にしていただきたい。 最後に,ESCO事業の企画,募集要項の作成ならびに設計,施工,試運転調整から運用後の計測検証にご協力いただいた関係者各位に,誌面をお借りして御礼申しあげます。

9.これからの課題 名古屋大学は「キャンパスマスタープラン2010」にCO2排出量削減のためのアクションプラン(図-11)を策定しており,2014年度におけるCO2排出量を,2005年度より20%以上削減をめざすと定めてある。 この削減量は,本ESCO事業予定削減量の2倍以上の目標であり,施設管理の省エネルギー活動を含め,国内初の管理運用型ESCO事業として,さらなる副次効果を生み出せるようPDCAサイクルを継続しながら,この大きな目標の達成をめざし,事業を推進していきたいと考える。 東日本大震災以降,電力不足による節電が全国的に求められる中,名古屋大学も,今後一層省エネルギーに取り組み,地球温暖化に貢献できるよう,その成果を,大学ネットワーク,地域社会およびその他総合病院へ積極的に発信し,水平展開するように努めていきたい。

実施済みの

取り組み

計画中の

取り組み

今後の

取り組み

その他の

取り組み※ただし, 2006年以降の施設面積増加, および, 大型実験装置等の 導入によるCO2排出量の増加分は加算しない

学内外への周知徹底

エネルギー使用量の

グリーンITの推進

新築・改修建物での

各部局の計画的取り組み

新たな全学的

中長期保全計画による  

ESCO事業の推進 CO2排出量

削減目標

2014年度時点で

2005年比

20%以上

の削減

これまでの省エネの 複層ガラス, 断熱強化等高圧変圧器統廃合等

空調機運転見直し等実験装置高効率化等

中央図書館ESCO鶴舞・動物実験施設ESCO

附属病院ESCO

GHP(ヒートポンプ空調機)の更新屋上防水・遮熱塗装の改修

ギャランティドESCOの導入エネルギーの計量システム導入 等

空調機の集中監視ドラフトチャンバのインバータ化高圧変圧器統廃合

照明器具の高効率化実験装置等の高効率化フリーザー類の統廃合

空調機の時間帯・温度集中制御鶴舞・病院の省エネ徹底    等

2005年度CO2排出量 71,137t

大きな役割を担っている

待機電力の節減マイ・テーブルタップスクリーンセーバー設定

サーバの統合省電力型機器への更新大型計算機の利用促進と電力低減 等

再生可能エネルギーの導入高断熱, 日射遮へい, 設計基準見直し高効率機器, 計測機器の導入等

トップダウン型の啓発活動室温管理のガイドラインボトムアップ型の活動, 教育の推進等

エネルギーの計量システム導入研究室単位での目標設定受益者負担導入の検討等

図-11 CO2排出量削減のためのアクションプラン