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有効電荷と最局在ワニエ軌道を用いた TTF-CAの強誘電性発現機構の研究 産業技術総合研究所 ナノシステム研究部門 計算科学領域” 相関材料シミュレーショングループ 石橋 章司, 寺倉 清之 謝辞 堀内 佐智雄,品岡 寛,小杉 太一,三宅

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有効電荷と最局在ワニエ軌道を用いたTTF-CAの強誘電性発現機構の研究

産業技術総合研究所 ナノシステム研究部門“計算科学領域”

相関材料シミュレーショングループ

石橋 章司, 寺倉 清之

謝辞

堀内 佐智雄,品岡 寛,小杉 太一,三宅 隆

a-axis projection

c-axis projection

b-axis projection

TTF-CAの結晶構造

40 K (強誘電・イオン性相) 300 K (常誘電・中性相)

M. LeCointe et al., Phys. Rev. B 51, 3374 (1995).

背景

cf. Giovannetti et al., Phys. Rev. Lett. 103, 266401 (2009)

計算では、10μC/cm2近くの自発分極値が予測されていた。S. Ishibashi and K. Terakura,

Physica B 405, (2010) Supplement 1, S338.

実験値0.4μC/cm2

E. Collet, Ph.D thesis, University of Rennes 1, (1999).

6.3μC/cm2

K. Kobayashi et al., Phys. Rev. Lett. 108, 237601 (2012).

TTF-CAの自発分極は、古典点電荷モデルで予想される値より20倍以上大きく、向きが逆であった。

有効電荷は、TTF: -13.9, CA: +13.9 (荷電状態と逆符合)。

固体における分極の変化の求め方

eliontot PPP

分極の変化は、イオンからの寄与と電子からの寄与の和として表わすことができる。

イオンからの寄与は単純に

atomN

ii

v

iion ZΩ

e

1

||τP

と表わされる。ここで、e は電子電荷、 は単位胞の体積、Natom は単位胞中の原子数、|e|Zi

vはi番目の原子のイオン電荷、iはi番目の原子の変位である。

自発分極における電子からの寄与

無限周期系では、電子分極変化 Pel は、電荷密度変化 から求めることはできず(どの部分がどのセルに帰属するか明示できない)、

Ωel

ΩrrrP d)(

1

分極電流の流量から求められる。それは、「Zak位相」あるいはより一般的に「Berry位相」と呼ばれる幾何学的量子位相の計算によって得られる。(King-Smith and Vanderbilt, Phys. Rev. B 47,

1651 (1993), Resta, Rev. Mod. Phys. 66, 899 (1994)).

・電荷密度では Pel を求めるには不十分で、全ての価電子バンドのk点依存のブロッホ関数のセットが必要となる。

・Berry位相は、後述のワニエ軌道の中心の和と対応している。

QMAS

Ni(tmdt)2のフェルミ面 SiO2 ガラス中の酸素欠損の電子分布

・MPI・スレッド(ハイブリッド)並列とk点・バンド/G点二重並列による高効率並列計算・全エネルギー、安定な原子位置(力)と格子定数(応力)の計算・ “TSPACE”機能を用いた空間群の取り扱い・局所密度近似 (LDA) / 一般化勾配近似 (GGA)による交換相関エネルギー記述・電子相関効果(オンサイトCoulomb相互作用U)を考慮した計算 (LDA+U, GGA+U)

・ 波動関数、電子密度分布、スピン密度分布の解析・ TDOS、LDOS、PDOSの解析・Mulliken/Voronoi/Bader電荷解析・ Berry位相を用いた電子分極の計算・Wannier軌道の計算とバンドパラメータの抽出・静電場下での電子状態計算・原子スケールでの誘電率分布の計算・ ESR超微細相互作用パラメータ計算・線形光学スペクトル ( 誘電関数、光吸収、反射率、屈折率など ) の計算・ EELS/XANESスペクトル計算・ エネルギー密度、応力密度の解析・ スーパーセル計算におけるセル間相互作用除去による有限系の正確な取り扱い・有効遮蔽体 (ESM) 法による電気化学反応計算・ スピン軌道相互作用・ノンコリニア磁性を考慮した計算・ コンプトン散乱スペクトル計算・陽電子状態・消滅パラメータ計算

QMAS は、平面波基底と Projector Augmented-Wave (PAW) 法を用いて、密度汎関数理論に基づき、物質の電子状態および各種物性値を高精度に計算できるツール。新規な計算技術をいち早く導入し活用するためのプラットフォームでもある。産総研ナノシステム研究部門、産総研ユビキタスエネルギー研究部門、他、内外の研究機関と共同して開発を進めている。

第一原理材料シミュレータ

QMASの特徴

(Quantum MAterials Simulator)

Au/Pd コア・シェル微粒子 SiC表面の電子分布

要件・高速ネットワークを有する並列計算機・Fortran90+MPI(+スレッド)並列ミドルウェア・BLAS・LAPACK(+SCALAPACK)・FFTW3(に準ずるサブルーティンパッケージ)

http://qmas.jp

-0.6

-0.4

-0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

DEC YZ YX

En

erg

y (

eV)

k

A-0.6

-0.4

-0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

DEC YZ YX

En

erg

y (

eV)

k

A

40 K (強誘電・イオン性相) 90 K (常誘電・中性相)

TTF-CAの電子バンド構造

cf. V. Oison et al.,

Phys. Rev. B 67, 035120 (2003).

非磁性状態が最安定Experimental band gap: 0.63 eV

C.S. Jacobsen and J.B. Torrance,

J. Chem. Phys. 78, 112 (1983).

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.00.00

0.02

0.04

0.06

(A

L|2-|

AR|2)(

')

'

4バンドワニエ軌道を用いた占有2バンドワニエ軌道の展開 rrrr

CARCALTTF0 AACa

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.00.45

0.50

0.55

0.60

0.65

m

ull

iken

Mulliken電荷

Experimental CA

0.20-0.30 (N phase), 0.60-0.70 (I phase)

A. Girlando et al., J. Chem. Phys. 79, 1075 (1983). 振動分光C.S. Jacobsen and J.B. Torrance, J. Chem. Phys. 78, 112 (1983). 赤外反射

Theoretical estimation: 0.6 (N phase)

C. Katan, C. Koenig and P.E. Blöchl, Solid State Commun. 102, 589 (1997).

中性相の電荷移動量に差異 => 強誘電性の発現描像は?

TTF-CA間よりCA-CA間の方が状態移動が大きい。

at λ=0

RL AA

2

0TTF 12 Cq

= 0.59 (λ=0)

= 0.75 (λ=1)

2

1

20

R

21

R

20

0

21

0 /2

n

aAAaCCe

P 2

第1項:2.4μC/cm2, 第2項:7.1 μC/cm2

ペロフスカイト遷移金属酸化物との比較

まとめ

・4バンド解析で得られる最局在ワニエ軌道は、TTF-HOMO的、あるいは、CA-LUMO的なものであった。・対称性の相違により、強誘電相(40 K)と常誘電相(90 K)では、TTF-HOMO状態とCA-

LUMO状態の混成のk依存性が異なる。・最高占有2バンドについての解析で得られる最局在ワニエ軌道は、中心のTTF-HOMO的な軌道を両側からCA-LUMO的な軌道が挟む形状をしているが、左右のCA-LUMO状態の重みは、λによって大きく変化する。・2バンドワニエ軌道を4バンドワニエ軌道で展開して、系統的・定量的にλ依存性を調べた。・上記の分子電荷の振舞は、最高占有2バンドに由来することが明らかとなった。・分子の有効電荷は、a軸方向の分極に寄与する成分について、低λ領域で大きな値をとり、また、顕著なλ依存性を示した。・有効電荷×変位(格子固定)の積をλについて積分するとBerry位相で得たものとほぼ同じ値が得られた(格子定数変化の効果は無視しうるくらい小さかった)。・最高占有2バンドにおける、軌道混成の変化(特に、CA間での重みの移動)が、有効電荷の振舞、ひいては、TTF-CAの特殊な強誘電性の発現に主原因と考えられる(ただし、常誘電・中性相と強誘電・イオン性相でのTTF/CA荷電状態の変化が、実験で主張されている数値通りであるとすると、それによる効果は、上述の計算で得られたCA間での状態の重みの移動の効果と同程度と考えられる)。

将来の課題:スピン一重項状態の取り扱い方・有限温度効果など