北陸大学における臨床教育 ─実務実習への参画(2)─ ·...

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北陸大学における臨床教育 ─実務実習への参画(2)─ 斉 藤 和 幸 ,毎 田 千恵子 ,荒 川 由紀美 ,池 田 ゆかり 礒 部 隆 史 ,大 賀津夫 ,河崎屋 秀 敏 ,紺 谷   仁 佐 藤 友 紀 ,高 野 克 彦 ,中 川 輝 昭 ,野 村 政 明 宗 像 浩 樹 ,室 山 明 子 ,脇 屋 義 文 ,宮 本 悦 子 実務実習委員会 Clinical Education in Hokuriku University commitment to clinical pharmacy practice Kazuyuki Saito , Chieko Maida , Yukimi Arakawa , Yukari Ikeda , Takashi Isobe , Kazuo Ohyanagi , Hidetoshi Kawasakiya , Hitoshi Kontani , Yuki Sato , Katsuhiko Takano , Teruaki Nakagawa , Masaaki Nomura , Hiroki Munakata , Akiko Muroyama , Yoshifumi Wakiya , Etsuko Miyamoto , The Committee of Clinical Pharmacy Practice Received September 20, 2007 Abstract Clinical training is the one of required subjects for the students who major in six years system pharmacy education that has started from April, 2006. The target of education for the students in Hokuriku University is training of pharmacists who have gentleness for patients. We have performed clinical training and made the students experience the duties of a pharmacist in the medical facilities from 1991. Then, we programmed and conducted the clinical training which has committed to teaching staffs of Yamanaka Onsen Medical Center adjacent to the Hokuriku University Seminar House from last year. We have reported the clinical education system in Yamanaka Onsen Medical Center. We had some problems in each clinical education, and had reformed them each time. In this report, we described how to commit our university teachers employed as part-time pharmacists to the teaching pharmacists in Yamanaka Onsen Medical Center, and solve the problems clarified from results of the questionnaires to students and the staffs of Medical Center. 1 67 薬 学 部 Faculty of Pharmaceutical Sciences 北陸大学 紀要 31号(2007pp. 6778 〔調査研究〕

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北陸大学における臨床教育─実務実習への参画(2)─

斉 藤 和 幸 *,毎 田 千恵子 *,荒 川 由紀美 *,池 田 ゆかり *,礒 部 隆 史 *,大 賀津夫 *,河崎屋 秀 敏 *,紺 谷   仁 *,佐 藤 友 紀 *,高 野 克 彦 *,中 川 輝 昭 *,野 村 政 明 *,宗 像 浩 樹 *,室 山 明 子 *,脇 屋 義 文 *,宮 本 悦 子 *,

実務実習委員会 *

Clinical Education in Hokuriku University— commitment to clinical pharmacy practice—

Kazuyuki Saito *, Chieko Maida *, Yukimi Arakawa *, Yukari Ikeda *, Takashi Isobe *, Kazuo Ohyanagi *, Hidetoshi Kawasakiya *, Hitoshi Kontani *, Yuki Sato *, Katsuhiko Takano *, Teruaki Nakagawa *, Masaaki Nomura *,

Hiroki Munakata *, Akiko Muroyama *, Yoshifumi Wakiya *, Etsuko Miyamoto *, The Committee of Clinical Pharmacy Practice *

Received September 20, 2007

Abstract

Clinical training is the one of required subjects for the students who major in six years

system pharmacy education that has started from April, 2006. The target of education for the

students in Hokuriku University is training of pharmacists who have gentleness for patients. We

have performed clinical training and made the students experience the duties of a pharmacist in

the medical facilities from 1991. Then, we programmed and conducted the clinical training which

has committed to teaching staffs of Yamanaka Onsen Medical Center adjacent to the Hokuriku

University Seminar House from last year. We have reported the clinical education system in

Yamanaka Onsen Medical Center. We had some problems in each clinical education, and had

reformed them each time.

In this report, we described how to commit our university teachers employed as part-time

pharmacists to the teaching pharmacists in Yamanaka Onsen Medical Center, and solve the

problems clarified from results of the questionnaires to students and the staffs of Medical Center.

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*薬 学 部Faculty of Pharmaceutical Sciences

北陸大学 紀要第31号(2007)

pp. 67~78〔調査研究〕

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1. はじめに

平成18年度より薬学部の教育年限が6年に延長され,平成18年4月から薬学部6年制の学生

が入学し,本年度で2年目となる。これにあわせるように全国的規模で薬学部が新設され,平

成19年9月末日現在,国公私立あわせて72大学に薬学部が設置されている。さらに,平成20年

度にも複数の開校が予定されていることから,薬学部学生の実務実習先確保が大きな問題とな

り日本病院薬剤師会による“薬学教育6年制における長期実務実習受入れに関するアンケート

調査も実施されている1)。また,20単位の実務実習において1,400以上もの項目2)を実務実習に

どのように組み込むかについて,大学と実務実習先医療機関との連携が重要な課題となってい

る3)。そこで,大学の中には病院勤務薬剤師を大学職員として採用し,勤務は従来通り病院に

常駐して学生実務実習教員として対応する方法を実施しているところもある4)。

本学では,平成3年から病院における実務実習を必修科目として取り入れてきているが,6

年制移行直前の2年間は一学年定員数の急増を行ったことから,これに対応すべく実務実習方

法を修正しなければならない状況となり,本年度がその1年目(実務実習実施学生476名)で

ある。この増員に対応するために学部教育自体のカリキュラムの見直しを行い,4年次におけ

る必修科目は実務実習と特別演習・特別実習・卒業試験の2科目のみなっている。これにより

4年次進級前の春期休暇中及び4年次5月から8月までの約5ヶ月間が実務実習実施可能期間

となった。しかし,全国的な薬学部学生の増加により特に東京,大阪,名古屋,福岡などの大

都市及びその近隣県における実務実習施設の確保が困難な状況になりつつある。このような状

況下で附属医療機関を有しない本学で約500名の実務実習を実施するには,一度に10名以上の

実務実習生を受け入れられる新たな実習施設の確保が喫緊の課題である。

山中温泉医療センターでの大学教員参画型の実務実習についてはすでに報告したが5),本年

度は図らずも先に記した大都市およびその近隣県の出身学生が出身地での実務実習(「ふるさ

と」実習)が不可能とされた場合の実践的実習となってしまった。このような方法による実習

は6年制薬学部生に対する実務実習の事前対策と捉えるだけでなく,一医療機関でより多くの

学生が実務実習を行う場合の方策検討に有意義な経験であると考えられる。

斉藤和幸,毎田千恵子,荒川由紀美,池田ゆかり,礒部隆史,大枷賀津夫,河崎屋秀敏,紺谷 仁,佐藤友紀,高野克彦,中川輝昭,野村政明,宗像浩樹,室山明子,脇屋義文,宮本悦子,実務実習委員会

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写真1 北陸大学山中町セミナーハウス(左4階建て建物)と山中温泉医療センター(右)

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2. 目的及び実務実習実施医療施設の概要

山中温泉医療センターは,その運営管理が社団法人地域医療振興協会に委託されており,10

診療科(内科,小児科,外科,整形外科,産婦人科,皮膚科,泌尿器科,眼科,耳鼻科,リハ

ビリテーション科)を有し,5病棟195床に薬剤師3名が勤務する医療機関(財団法人日本医

療機能評価機構認定病院)である。したがって,このような規模の医療機関で1回に複数名以

上の学生の実務実習を実施するには薬剤師数が不足しており,病院勤務薬剤師が薬学部学生の

実習の指導を実施することは現実的に不可能である。実際,これまでも毎年1~2名(実習期

間2週間)の実務実習生を受け入れているに過ぎない。そこで,薬剤師免許を有する北陸大学

教員のうち実務家教員(みなし教員を含む),病院勤務経験者が実務実習を指導する薬剤師

(非常勤薬剤師)として当該医療センターに勤務し,一人が約5名の学生を指導する方法を考

案し,平成18年度春期及び夏期実務実習において試行した。しかし,このような方法による実

務実習でも,病院勤務薬剤師及び病棟の看護師に負担がかかることが問題となった5)。さらに,

指導教員にも通常の大学における講義・実習を行いながら実務実習を指導するという過大な業

務と責任が発生することとなった。そこで,本年度はこれらの問題点について,学生数の調整

や実施方法等を見直し,また,指導する教員数の増加を図りながら実務実習を試行することに

よりその問題点の解決の可能性を含めて検討した。

3. 方法

3-1. 実習期間

平成19年度の実務実習期間は,平成19年2月26日(月)から平成19年3月9日(金)(以下

「第1期」という),平成19年5月14日(月)から平成19年5月25日(金)(以下「第2期」と

いう),及び平成19年6月25日(月)から平成19年7月6日(金)(以下「第3期」という)で

実施した。

3-2. 実習学生

第1期実施学生は4年次進級予定者9名とした。実施時期が3月であることから,4年次進

級予定者としているが,新年度開始前に実務実習にエントリーできる学生については学内で一

定の基準(例えば,3年次前期までの未修得単位がなく,かつこれまでの専門科目の平均点が

ある点数以上など)を設けている。

第2期および第3期実施学生は,それぞれ9名及び7名とした。これらの学生は金沢地区で

の実習を希望した学生及び帰省先での実習受け入れが不可能であった学生から選択した。

3-3. 指導教員

指導教員は,実務家教員の要件を満足する教員6名(見なし教員を含む),旧国立大学附属

病院勤務経験職員1名,及び病院研修終了教員9名の計16名で実施した。第1期は学生を4名

と5名の2グループに分け,それぞれのグループを指導教員1名が指導した。一方,第2期及

び第3期では学生を2~3名の3グループに分け,それぞれのグループを1名の指導教員が指導

北陸大学における臨床教育─実務実習への参画(2)─

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した。

なお,6年制薬学部生実務実習では大学教員が指導教員として全国の実習先医療機関へ出向

き,学生の指導を行うことが求められている。病院研修終了教員とは,これに対応するために

教員が大学の指定した医療機関で4週間の薬剤科研修を受けるものであり,平成18年度から本

学独自に開始したシステムである6)。

3-4. 医療機関との打ち合わせ

第1期開始前に実務担当者(本学臨床薬学教室教員,山中温泉医療センター副センター長,

医療技術部長,看護部長,看護師長,看護師主任)の打ち合わせを行い,①薬剤室と病棟(3

病棟)を1週間でローテーションする,②医療機関で実施されている禁煙教室,糖尿病教室等

の各種カンファランスに参加する,③救急患者搬入時は処置を見学する,④薬剤部門,看護部

門,検査部門,栄養部門,放射線部門,リハビリテーション部門及び事務部門(地域医療連携

室を含む)の座学を行うなどを決定した。第1期終了後,反省会を兼ねた実務実習検討会を実

務担当者を対象として開催した。

第2期及び第3期では,第1期終了後開催された実務実習検討会での意見を参考に,①各調

剤室で一度に実施する学生数を最高2~3名に減らす,②病棟では期間中同一病棟の同一患者

を担当する,③患者への配薬,服薬確認を行うために病棟での実習時間を14:00までに延長す

ること,など修正を加えた。また,第1期で実施された救急車搬入時見学や薬剤室及び看護部

以外の部門による講義・見学はこれまでどおり実施することとした。なお,第2期と第3期に

おいてプログラムに大きな変更がないことから,医療センターよりこの期間における検討会は

開催の必要がないとされたため開催していない。

3-5. 実務実習成績評価

通常,薬学生に対する実務実習は薬剤科内だけで実施され,薬剤師だけによって評価される

ことから,総合的評価は薬剤部長あるいはそれに相当する職位の医療機関側職員(本稿では

「医療技術部長」という)が実施している。しかし,今回実施したような大学教員が医療機関

で学生を直接指導する方法では医療技術部長が学生全員について全ての事項を評価することは

不可能である。そこで,薬剤科における実習については実際に学生を指導した指導教員,又は

病院常勤薬剤師が毎日コメントを記載し(図1),その記載内容を医療技術部長が閲覧・検討

して評価した。また,病棟における評価については,指導担当看護師による5段階の評価表

(図2)の記載をお願いした。この看護師による評価と先の薬剤科に関する評価を参考として,

医療技術部長が総合的に評価することとした。

3-6. スケジュール

3-6-1. 第1期(表1)

第1期では,前半の一週間は薬剤科での実習,後半の一週間は病棟での実習とし,各週の初

めの一日は薬剤科,病棟における業務説明を行った。また,薬剤科における実習時間を多くす

るため,事務部門などによる講義(以下「座1」,「座2」,…とする)・見学(以下「見1」,

「見2」,…とする)は二週目の午後に集中させた。

斉藤和幸,毎田千恵子,荒川由紀美,池田ゆかり,礒部隆史,大枷賀津夫,河崎屋秀敏,紺谷 仁,佐藤友紀,高野克彦,中川輝昭,野村政明,宗像浩樹,室山明子,脇屋義文,宮本悦子,実務実習委員会

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実務実習に関する講義が合計6時間(座1,2,4),薬剤科に関する講義及び見学が合計

1.5時間(座3,見1),実務が4日間,看護部に関する講義及び見学が合計2時間(座5,見

2),実務が3日間,検査部門に関する講義及び見学が合計1.5時間(座6,見3),栄養部門

に関する講義が1時間(座13),放射線部門に関する講義及び見学が合計2時間(座9,見5),

事務部門に関する講義(地域医療連携,医療情報に関する講義を含む)が合計3時間(座7,

10,11),リハビリテーション部門に関する講義及び見学が合計1時間(座8,見4),救急部

門に関する講義及び見学が合計1時間(座12,見6)実施された。また,最終日には昨年度夏

期と同様,報告会を開催した。

その他,自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)研修の実施,外

来・入院患者を対象に実施されている糖尿病(DM:Diabetes Mellitus)教室,禁煙外来(禁

煙)への参加,さらに,栄養サポート(NST:Nutrition Support Team)会議,リスクマネ

ージメントに関する院内会議(リスク)へも出席させた。

3-6-2. 第2期(表2)

第2期では,第1期において1グループの学生数が多く(1グループ4~5名)薬剤科での

北陸大学における臨床教育─実務実習への参画(2)─

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表1 第1期実務実習スケジュール表

1

2

3

4

5

6

7

8

9

共 通

1日目

座1,2,3

見1

2日目

薬・急

薬・急

薬・急

DM

3日目

薬・急

薬・急

薬・急

4日目

薬・急

薬・急

薬・急

AED

10日目

リスク

5日目

薬・急

薬・急

薬・急

AED

7日目

病棟1・急

病棟1・急

病棟1・急

病棟2

病棟2

病棟2

病棟3

病棟3

病棟3

座7,8,9

見4,5

8日目

病棟1

病棟1

病棟1

病棟2・急

病棟2・急

病棟2・急

病棟3

病棟3

病棟3

座10,11,12

見6

9日目

病棟1

病棟1

病棟1

病棟2

病棟2

病棟2

病棟3・急

病棟3・急

病棟3・急

座13

6日目

褥瘡

座4,5,6

見2,3

表2 第2期実務実習スケジュール表

1

2

3

4

5

6

7

8

9

共 通

10日目

リスク

7日目

薬・急

薬・急

薬・急

病棟3

病棟3

病棟3

座9,10

説1

6日目

病棟3

病棟3

病棟3

座8

見2

5日目

病棟1

病棟1

病棟1

4日目

病棟1

病棟1

病棟1

AED

9日目

病棟2

病棟2

病棟2

病棟3・急

病棟3・急

病棟3・急

座13

見5

8日目

病棟2・急

病棟2・急

病棟2・急

病棟3

病棟3

病棟3

座11,12

見3,4

3日目

病棟1

病棟1

病棟1

病棟2・急

病棟2・急

病棟2・急

座6,7

2日目

病棟1・急

病棟1・急

病棟1・急

病棟2

病棟2

病棟2

DM教室

1日目

座1,2,3,4,5

見1

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実習に支障をきたしたことから,薬剤科における実習が終了した後病棟における実習を開始す

るという方法を見直し,実習開始頭初から病棟での実習を開始するグループや,薬剤科の実習

の間に病棟での実習を組み込むグループを設けた。

実務実習に関する講義が合計3.5時間(座1,3,5),薬剤科に関する講義が1.5時間(座2),

実務が4日間,看護部に関する講義及び見学が合計2時間(座4,見1),実務が4日間

(14:00まで),検査部門に関する講義及び見学が合計1時間(座12,見4),栄養部門に関する

講義が1時間(座7),放射線部門に関する講義及び見学が合計2時間(座13,見5),事務部

門に関する講義(地域医療連携,医療情報に関する講義を含む)が合計3時間(座6,9,10),

リハビリテーション部門に関する講義及び見学が合計1時間(座8,見2),救急部門に関す

る講義及び見学が合計1時間(座11,見3)実施された。また,製薬企業による製品説明会に

も出席させた。なお,最終日には第1期同様報告会を開催した。

その他,AED研修を実施し,外来・入院患者対象に実施されているDM教室に参加した。

なお,毎回参加している褥瘡回診,NST会議,リスクマネージメントに関する院内会議は,

実習期間中の実施あるいは開催がなかったため参加の機会を与えることができなかった。

3-6-3. 第3期(表3)

第3期では第2期のスケジュールと同様に実施した。

なお,第2期で実施されなかった褥瘡回診に参加させた。一方,製薬企業による製品説明会,

禁煙外来,NST会議,リスクマネージメントに関する院内会議は実習期間中の開催がなかっ

たため参加の機会を与えることができなかった。

4. 結果及び考察

山中温泉セミナーハウスに寄宿して,隣接する山中温泉医療センターで実習を行うプログラ

ムは今年で2年目であり,昨年度明らかとなった問題点を踏まえ,実施方法など試行錯誤を繰

り返し実務実習を実施した。本年度も実習学生及び医療センター職員に対するアンケート調査

を実施した(表4,5)。

斉藤和幸,毎田千恵子,荒川由紀美,池田ゆかり,礒部隆史,大枷賀津夫,河崎屋秀敏,紺谷 仁,佐藤友紀,高野克彦,中川輝昭,野村政明,宗像浩樹,室山明子,脇屋義文,宮本悦子,実務実習委員会

6

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表3 第3期実務実習スケジュール表

1

2

3

4

5

6

7

8

共 通

10日目

リスク

6日目

病棟2

病棟2

病棟2

病棟3

病棟3

褥瘡

座5,6

見2,3

5日目

病棟1

病棟1

病棟1

病棟2

病棟2

病棟2

NST

禁煙教室

4日目

病棟1

病棟1

病棟1

病棟2

病棟2

病棟2

薬・急

薬・急

AED

3日目

病棟1

病棟1

病棟1

薬・急

薬・急

薬・急

9日目

病棟3・急

病棟3・急

座13

8日目

薬・急

薬・急

薬・急

病棟3

病棟3

座10,11,12

見6

7日目

薬・急

薬・急

薬・急

病棟2

病棟2

病棟2

病棟3

病棟3

座7,8,9

見4,5

2日目

病棟1・急

病棟1・急

病棟1・急

DM教室

1日目

座1,2,3,4

見1

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北陸大学における臨床教育─実務実習への参画(2)─

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表4医療機関職員に対するアンケート調査結果

第1期

1.スケジュールについて(括弧内は件数,重複可)

・妥当である(10)

・2週間と短く病院にとって負担はなくよい

・病棟全体を見学できたスケジュールである

・チーム医療という観点から適切である(2)

・短い(3)

・実習目的が明確ではない

・一グループの人数が多い

2.学生について

・発表はわかりやすくよかった

・事前学習も含めて積極的に情報収集をしていた(4)

・患者様とのコミュニケーションも円滑であった(3)

・前向きな姿勢で表情も明るくよかった(4)

・興味深く質問していてよかった(2)

・マナーよい,礼儀正しく,好感が持てた(4)

・患者様からも好印象との意見あり

3.引率教員について

・もっと積極的に指導してほしい

・印象が薄い(2)

・適切な時間帯に訪問し,引率ができていた

・学生にも職員にも優しい態度であった

・頻回に病棟を巡回していた

・学生をよく把握していた

4.全体について

・一グループの人数の割り振りに工夫をしてほしい

・電子カルテからの情報収集の早さに関心した

・患者様の薬に関する理解や思い,知識の程度について

よく把握していた

・看護師からの指導が不十分であった(2)

・楽しそうに実習している態度がよかった

・今回の学生は全体的に積極的であった

・病棟での実習時間がもう少し長いと更によい実習がで

きると思う(2)

・受持ち患者を決めることで,患者の言葉を受け止め考

えることができたと思う

・病棟も薬剤師の実習に慣れてきた

・他部門の講義の際などは,事前に質問を考えていただ

ければもう少し詳しい説明も可能(3)

第2期

・4日間連続ではなく,週末を挟んでいたのでリフレッ

シュできてよかった

・病棟での実習は昼食後の服薬確認まででよい

・特になし(6)

・病態の把握が難しいようであった

・説明に対して反応がないので,理解しているのか否か

が判断できない(2)

・よくわからない

・もう少し元気に実習してほしい(2)

・特になし(2)

・講義,実習が円滑に運営されるよう目立たないように

努力していた

・薬剤についての指導も積極的にすべき

・学生に質問に対してのアドバイスをすべき

・他病棟の見学などの引率は指導教員が実施すべき

・特になし(4)

・この病院で何を実習させたいのかまだわからない

・担当患者を決めることは体験実習としてはよい

・症例報告は電子カルテの情報がほとんどであり,患者

様との接触による情報が少ない

・余り頻繁に実習が行われると疲労する

・病棟でのオリエンテーションの実施内容を検討します

・特になし(4)

第3期

・月1回の実務実習受け入れは負担が多い

・カリキュラムについては問題ない

・講義や見学は16:00以降を希望する

・特になし(4)

・学生らしく好感が持てた(2)

・医療機関内では職員,患者様を問わず挨拶をすること

・はきはきしていてよかった

・講義以外の時間でも積極的に質問に来ていた

・特になし(4)

・学生の質問が職員への動機付けとなるなど,院内に学

生がいることで職員にとっても意味がある

・内容について意見があれば申し出てほしい

・散剤分包機の使用方法は覚えてほしい

・学生にアドバイスする姿は見かけなかった

・学生の自主性を重んじているところはよい

・特になし(4)

・看護ケアを無理に体験しないことはよいことである

・自主的に患者様に接する機会を与えたい

・受持ち患者様をどれほど理解できているのか理解でき

ない

・報告する症例を巧く選択している

・看護師1名に学生1名でうまくいった

・患者の選択が適切だった

・特になし(2)

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斉藤和幸,毎田千恵子,荒川由紀美,池田ゆかり,礒部隆史,大枷賀津夫,河崎屋秀敏,紺谷 仁,佐藤友紀,高野克彦,中川輝昭,野村政明,宗像浩樹,室山明子,脇屋義文,宮本悦子,実務実習委員会

8

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表5学生に対するアンケート調査結果

第1期

1.薬剤部門の実習について(括弧内は件数,重複可)

・もう少し長く調剤したかった(3)

・調剤業務を実際に体験できたのはよかった(4)

・薬剤科の先生に親切に教えていただいた(2)

・軟膏剤を作る機会がなかった

・全て商品名であることに困惑した

・実際の処方せんを使って調剤できたのでよかった(2)

2.病棟での実習について

・担当の患者さんをつけてもらい自分でいろいろ調べる

ことで医療を体験できたように思った

・担当の患者さんだけでなく他の患者さんにも関わりた

かった

・看護師やヘルパーの仕事をすると思って望まなければ

ならないと思った

・患者さんと直接話しをしたり,看護師の仕事を見るこ

とができとてもよかった(2)

・薬にこだわらずにいろいろ教えてもらい勉強になった

・何をすればよいのか指示がほしかった(2)

・いろいろ経験できてよかった

・自主的に動かなければならないと感じたが,看護師の

邪魔になっているようなこともあった

・看護実習を行った印象しかなく,薬に関することも勉

強したかった

3.セミナーハウスでの講義(座学)について

・スライドで見やすかった

・大学教員も参加してほしい

・よかった

・宿泊施設と講義室が同じなので朝は助かる

4.指導教員について

・病院のことを知っている先生と知らない先生で差があ

ったが,知らない先生は一緒に勉強していた

・やさしくしてもらった(5)

・心強かった(2)

第2期

・いろいろ体験できてよかった(2)

・もう少し長く実習したかった

・実際の処方せんで調剤でき勉強になった(2)

・注射剤調剤ができてよかった(2)

・薬局実習とはまた違った観点で実習できよかった

・薬剤科の先生が忙しい中丁寧に教えていただき大変勉

強になった(2)

・薬剤師の先生には感動した

・実際の処方せんで配合変化を説明してもらえてわかり

易かった

・実習する機会があまりなかった

・患者さんを受け持つことができてよかった(2)

・看護師さんが忙しく放置される時間が多かった(2)

・患者さんとゆっくり話せる機会がありよかった(2)

・看護師の仕事も少し理解できた(2)

・看護師さんに親切に説明していただいた

・糖尿病教室を患者さんと一緒に受けられてよかった

・個性的で居心地がよかった

・敵意を感じた

・一方的な講義は印象に残らない(2)

・薬剤師以外の病院職員の仕事を知ることができよかっ

た・AED体験を行えてとてもよかった

・どの講義も面白かった

・座学だけでなく見学もあったのでよく理解できた

・ある教員には困った(2)

・教員によって発言内容が異なることがあった

・教員が補足説明をしてくれてよかった

第3期

・実際の調剤業務は楽しかった(2)

・丁寧に指導してくれ,何でもできたので充実していた

・注射剤調剤を体験できてよかった(2)

・臨時処方などを見られてよかった

・もう少し多くの調剤を行いたかった

・調剤時の決まりごとを教員間で徹底しておいてほしい

・実習内容が余り明確にされていないのでどうしていい

か戸惑った

・看護師業務,救急外来,リハビリ,放射線など多くの

職種について理解できよかった

・患者と話をすることで,コミュニケーションの取り方

の難しさを実感した(2)

・患者さんとコミュニケーションを取れたことがよい経

験となった(2)

・もう少し長く実習したかった

・病棟カンファランスに参加したかった

・受持ち患者は2名までにしてほしい

・適当であった

・座学より,実際の現場で説明してもらったほうがわか

り易かった

・多くの職種の話が聞けて有意義であった(3)

・スライドのプリントがあるとよかった(2)

・全て興味深い内容であった

・やさしくしてもらった(2)

・何でも教えてくれた(2)

・安心して実習ができた(3)

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4-1. 薬剤科

4-1-1. 学生からの意見について

学生からのアンケート調査によれば,第1期から第3期において薬剤科での実習時間が短す

ぎるとの意見が多かった。しかし,それ以外には特に要望は記載されていなかった。むしろ,

調剤を実際の処方せんに基づいて実施できたことに対して満足しているようである。また,薬

剤科常勤薬剤師の先生方に丁寧に指導されたことが印象深く記憶されているようである。なお,

昨年度のアンケート調査で多かった薬物治療管理(TDM:Therapeutic Drug Monitoring)の

実践,高カロリー輸液(IVH:Intravenous Hyperalimentation),完全静脈栄養(TPN:

Total Parenteral Nutrition)の調整についての要望は,一日目のオリエンテーションで今回の

実務実習プログラムには含まれていないことを伝えている。

4-1-2. 常勤薬剤師からの意見について

当該医療センター勤務薬剤師からは,おとなしくまじめに実習を実施していたという意見が

聞かれた。しかし,昨年度同様,常勤薬剤師と学生の接点は少なく,適切に評価するには情報

が不足していると思われる。

4-2. 病棟

4-2-1. 学生からの意見について

病棟での実習に対しては,①看護師の業務を見学しても薬剤師にどのように役立つのかわか

らない,②薬学生が行う病院実習として病棟での目的が明確ではないように思えた,③看護師

の邪魔になっているように思えた,④看護師が忙しくて放置されたなどの意見があり,指導教

員のフォローが不足していた。しかし一方では,①看護師の業務が理解できた,②普段見学で

きないものが見学できたという前向きな回答も見られた。また,①担当患者を受持ち自分でい

ろいろ調べることで医療の実際を体験できたように感じた,②患者さんとゆっくり話せる機会

がありよかった,③患者さんとコミュニケーションを取ることの難しさを実感したなどの意見

があり,学生一人一人に担当患者を指定して薬物療法を中心に調査させたことは有意義であっ

たと思われる。

4-2-2. 看護師からの意見について

実習担当の看護師からは相変わらず実習目標が不明確であるという意見があり,実習を実際

に担当する病棟スタッフへの大学側の説明方法を再検討する必要があると考えられる。また,

第1期及び第3期では,①前向きな実習態度である,②積極的であった,③患者とのコミュニ

ケーションは円滑であるなど好印象とする意見が大半を占めていたが,第2期では①説明に対

して反応がない,②元気がない,あるいは意見そのものが記載されていなかった。このように,

実施時期により医療機関職員の意見が大きく異なっていたことは重要な課題として今後検討す

る必要があると考える。

北陸大学における臨床教育─実務実習への参画(2)─

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斉藤和幸,毎田千恵子,荒川由紀美,池田ゆかり,礒部隆史,大枷賀津夫,河崎屋秀敏,紺谷 仁,佐藤友紀,高野克彦,中川輝昭,野村政明,宗像浩樹,室山明子,脇屋義文,宮本悦子,実務実習委員会

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表6 自己評価結果説明有 評 価(n=16)A B C

H101 ◎患者の診療過程に同行し,その体験を通じて診療システムを概説できる 13 4 7 2◎病院内での患者情報の流れを図式化できる 16 1 12 3◎病院に所属する医療スタッフの職種名を列挙し,その業務内容を相互に関連付けて 16 4 10 2説明できる◎生命に関わる職種であることを自覚し,ふさわしい態度で行動する 16 8 8 0◎医療の担い手が守るべき倫理規範を遵守する 16 11 5 0◎職務上知り得た情報について守秘義務を守る 16 15 1 0

H103 ◎処方せん(麻薬,注射剤を含む)の形式,種類及び記載事項について説明できる 16 11 4 1◎処方せんの記載事項(医薬品名,分量,用法・用量など)が整っているか確認できる 16 7 7 2

H104 ◎代表的な処方せんについて,処方内容が適正であるか判断できる 16 0 11 5◎薬歴に基づき,処方内容が適正であるか判断できる 16 0 12 4

H106 ◎薬袋,薬札に記載すべき事項を列挙し,記入できる 16 11 2 3H114 ◎患者向けの説明文書の必要性を理解して,作成,交付できる 14 4 8 2H115 ◎患者に使用上の説明が必要な眼軟膏,坐剤,吸入剤などの取扱い方を説明できる 15 10 4 1H116 ◎自己注射が承認されている代表的な医薬品を調剤し,その取扱い方を説明できる 15 9 6 0H117 ◎お薬り受け渡し窓口において,薬剤の服用方法,保管管理方法及び使用上の注意に 10 4 6 0

ついて適切に説明できる。◎期待する効果が十分に現れていないか,あるいは副作用が疑われる場合のお薬受け 10 1 7 2渡し窓口における適切な対処法について提案する

H118 ◎注射剤調剤の流れを概説できる 16 11 4 1H119 ◎注射処方せんの記載事項(医薬品名,分量,用法・用量など)が整っているか確認 16 8 7 1

できる◎代表的な注射処方せんについて,処方内容が適正であるか判断できる 16 0 9 7

H121 ◎処方せんの記載に従って正しく注射剤の取りそろえができる 16 9 7 0H302 ◎医薬品の基本的な情報を,文献,MR(医薬情報担当者)などの様々な情報源から収 13 5 7 1

集できるH306 ◎患者のニーズに合った情報の収集,加工及び提供を体験する 11 3 6 2H401 ◎病棟業務における薬剤師の業務(薬剤管理,予薬,リスクマネージメント,供給管 16 6 8 2

理など)を概説できる◎薬剤師の業務内容について,正確に記録をとり,報告することの目的で説明できる 13 6 7 0◎病棟における薬剤の管理と取扱いを体験する 16 9 7 0

H402 ◎医療スタッフが日常使っている専門用語を適切に使用できる 12 1 6 5◎病棟において医療チームの一員として他のスタッフとコミュニケートする 14 4 7 3

H403 ◎診療録,看護記録,重要な検査所見など,種々の情報源から必要な情報を収集できる 14 6 8 0◎報告に必要な要素(5W1H)に留意して,収集した情報を正確に記載できる(薬歴, 12 5 5 2服薬指導歴など)◎収集した情報ごとに誰に報告すべきか判断できる 11 4 3 4◎患者の診断名,病態から薬物治療方針を把握できる 16 1 11 4

H405 ◎医師の治療方針を理解したうえで,患者への適切な服薬指導を体験する 10 4 4 2◎患者の薬に対する理解を確かめるための開放型質問方法を実施する 16 5 6 5◎薬に関する患者の質問に分かり易く答える 12 3 5 4◎患者との会話を通して,服薬状況を把握することができる 16 8 7 1◎代表的な医薬品の効き目を,患者との会話や患者の様子から確かめることができる 16 7 8 1◎代表的な医薬品の副作用を,患者との会話や患者の様子から気づくことができる 13 4 4 5◎患者がリラックスし自らすすんで話ができるようなコミュニケーションを実施できる 16 8 4 2◎患者に共感的態度で接する 15 10 3 2

H407 ◎期待する効果が現れていないか,あるいは不十分と思われる場合の対処法について 13 2 8 3提案する◎副作用が疑われる場合の適切な対処法について提案する 13 2 10 1

H601 ◎患者及び医薬品に関連する情報の授受と共有の重要性を感じとる 16 8 8 0◎患者にとって薬に関する窓口である薬剤師の果たすべき役割を討議し,その重要性 13 8 4 1を感じとる◎患者の健康の回復と維持に薬剤師が積極的に貢献することの重要性を討議する 15 9 5 1◎生命に関わる職種であることを自覚し,ふさわしい態度で行動する 16 12 4 0◎医療の担い手が守るべき倫理規範を遵守する 16 11 5 0◎職務上知り得た情報について守秘義務を守る 16 13 3 0

*項目は,実務実習モデル・コアカリキュラムから,山中温泉医療センターで実施済みと大学で判断したものを抜粋A:理解できた(習得できた),B:ある程度理解できた(習得できた),C:理解できていない(習得できていない)

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4-3. 自己評価(表6)

第2期より新たに学生による自己評価を実施することとした。評価項目及び内容は「実務実

習モデル・コアカリキュラム」(薬学教育改善・充実に関する調査研究協力者会議 実務実習

モデル・コアカリキュラムの作成に関する小委員会 作成)の「(Ⅱ)病院実習」から,山中

温泉医療センターの実状に合わせて北陸大学実務実習委員会で抜粋した。(表中「説明有

(n=16)」とは,学生が実務実習中に医療機関職員あるいは指導教員から説明を受けたと思う

事項を示し,全員が説明を受けたと判断すると「16」と記載される。また,評価に当たっては,

「A:理解できた,B:大体理解できた,C:理解できなかった」を示している。)

多くの学生が説明を受けていないと判断したのは,「お薬受け渡し窓口において,薬剤の服

用方法,保管管理方法及び使用上の注意について適切に説明できる」,「期待する効果が十分に

現れていないか,あるいは副作用が疑われる場合のお薬受け渡し窓口における適切な対処法に

ついて提案する」及び「医師の治療方針を理解したうえで,患者への適切な服薬指導を体験す

る」であった。しかし,前2項目については,山中温泉医療センターのように薬剤師自らが外

来患者への受け渡しを行わない場合には体験できないものである。また,医師の処方意図の理

解については現役薬剤師でも困難な場合があり,学生に理解させるには指導教員の十分な経験

あるいは医師による直接の解説が必要であると考えられた。

一方,全ての学生が理解できたと評価した事項として,「生命に関わる職種であることを自

覚し,ふさわしい態度で行動する」,「医療の担い手が守るべき倫理規範を遵守する」,「職務上

知り得た情報について守秘義務を守る」といった薬剤師としての倫理観に関する事項があった

が,これらについては実際に薬剤師として働きながら身につけることができる事項であろう。

また,自己注射が承認されている医薬品の取扱いなどについての理解ができている点について

は,医療機関の常勤薬剤師による十分な説明がなされていたためであると考えられる。

5. 考察及び今後の課題

昨年度及び今年度で計5回(1回あたり2週間),延べ49名の学生の実務実習を終了した。

本学近隣において,一医療機関で年間約25名の実務実習を実施できる施設は,独立行政法人国

立大学機構附属病院,私立大学病院,あるいは独立行政法人国立病院機構医療機関をはじめと

した大規模医療機関だけであり,山中温泉医療センター規模の医療機関では不可能である。し

北陸大学における臨床教育─実務実習への参画(2)─

11

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写真2

座学(病院紹介) 報告会

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たがって,当然ながら実務実習内容に関してこれら大規模医療機関とは大きく異なっている箇

所が存在する。特に,病棟において看護師の指導による実務実習を実施し,薬剤に特化しない,

より患者に接近した医療を体験させている。このことが,学生の将来にどのように役立つか現

段階では不明であるが,学生に実施したアンケート調査から考えると,少なくとも薬剤師以外

の職種を体感できたことは有意義であると考える。

山中温泉医療センターでの実務実習を6年制実務実習コアカリキュラムにあてはめてみると

「薬物モニタリング」,「医薬品情報」,「注射剤混合」など不足している項目が存在する。また,

その他実施済み項目に関しても,それらの実習量自体の不足は重要な問題である。山中温泉医

療センターにおいて6年制薬学生実務実習を実施するのであれば,これら不足している項目,

実習量が足りない項目について新たな対策を検討し,6年制薬学部制実務実習そのものが実施

可能か否かを含めて,4年生薬学部生の最終実務実習年度となる来年度はその方策を実際に検

証する必要がある。

謝  辞

本実務実習の実施に多大なご協力とご理解をいただきました山中温泉医療センター職員の皆

様方に厚く御礼申し上げます。

参考文献

1) Anonymous,薬事日報第10259(1),平成18年8月7日.2) 「実務実習モデル・コアカリキュラム」,薬学教育改善・充実に関する調査研究協力者会議 実務

実習モデル・コアカリキュラムの作成に関する小委員会作成3) 高見功,薬事日報第10276(3),平成18年9月20日.4) 野田幸裕,鍋島俊隆,実務家教員の活動例 名古屋大学との医薬連携によるチーム医療教育・研究

の実践と臨床現場での薬学教育の構築,弟16回日本医療薬学会講演要旨集,P.269(2006).5) 斉藤和幸,毎田千恵子他,北陸大学における臨床教育,北陸大学紀要第30号,1-12(2006).6) 北陸大学薬学部,高大連携と教員の病院研修がもたらす効果,学都Vol.19,PP.90-92,㈱アドマッ

ク(金沢).

斉藤和幸,毎田千恵子,荒川由紀美,池田ゆかり,礒部隆史,大枷賀津夫,河崎屋秀敏,紺谷 仁,佐藤友紀,高野克彦,中川輝昭,野村政明,宗像浩樹,室山明子,脇屋義文,宮本悦子,実務実習委員会

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