分光化学 - 学習院20100088/bunko/2012/...2 2012.9.17 分光化学 1回目...

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1 分光化学 第二学期 月曜2限 河野淳也 1回目 物質のエネルギー構造 2回目 光の本性 3回目 2原子分子の回転準位とスペクトル 4回目 多原子分子の回転準位とスペクトル 5回目 2原子分子の振動スペクトル 6回目 非調和性と多原子分子の振動スペクトル 7回目 ラマンスペクトル 8回目 前半のまとめと演習 9回目 電子スペクトル(1):原子軌道と遷移 10回目 電子スペクトル(2):分子軌道と遷移 11回目 電子スペクトル(3):フランクーコンドン原理 12回目 光励起分子の動的過程 13回目 レーザー 14回目 光と分子の相互作用

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1

分光化学

第二学期 月曜2限 河野淳也

1回目 物質のエネルギー構造

2回目 光の本性

3回目 2原子分子の回転準位とスペクトル

4回目 多原子分子の回転準位とスペクトル

5回目 2原子分子の振動スペクトル

6回目 非調和性と多原子分子の振動スペクトル

7回目 ラマンスペクトル

8回目 前半のまとめと演習

9回目 電子スペクトル(1):原子軌道と遷移

10回目 電子スペクトル(2):分子軌道と遷移

11回目 電子スペクトル(3):フランクーコンドン原理

12回目 光励起分子の動的過程

13回目 レーザー

14回目 光と分子の相互作用

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2012.9.17

分光化学

1回目 物質のエネルギー構造

今日の目標

講義の全体像を展望しよう。

物質のエネルギー構造について理解しよう。

今日の内容

(1)講義について

○講義の全体像

○講義の進め方,参考書,評価方法の説明

(2)分子分光学について

○分子分光学の意義

○分子分光学の歴史

(3)前提とする知識の確認

○単位,接頭辞(T, G, M,…etc)

○波長,波数

○エネルギーの単位と換算

(4)物質のエネルギー構造

○エネルギーとは

○エネルギーの量子化

○分子の運動

○ボルツマン分布

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(1)講義について

1-1. 目的

物質と光のかかわりあいについて,分子の回転,振動,および分子内電子の

運動に由来するスペクトルを中心にして,そこから物質の構造,性質を理解す

ることを学ぶ。光と物質の相互作用を通して,物質の構造や化学現象を研究す

る学問分野のことを,分子分光学という。

1-2. スケジュール

1-3. 参考書

P.W. Atkins『物理化学』(上),(下)東京化学同人

D.A. McQuarrie, J.D. Simon『物理化学』(上)東京化学同人

大野公一『量子物理化学』東京大学出版会

近藤保編,小谷正博・幸田清一郎・染田清彦著『大学院講義物理化学』東京化

学同人

実験化学講座第 5版『物質の構造 I』など

1-4. 評価方法

レポート,期末試験によって理解度を評価する。

1-5. この資料について

この資料は 1-3.の参考書に加え,各章末に示す参考書から作成したものである。

太字下線部分は,いわゆる専門用語,あるいは重要な部分を示している。

回数

1 イントロダクション

2      物質のエネルギー構造、光の本性

3 分子の振動、回転とスペクトル

4      分子の回転スペクトル

5      分子の振動スペクトル

6      振動回転スペクトル

7      ラマンスペクトル

8 復習と演習

9 電子の運動とスペクトル

10      分子軌道と遷移

11      フランク-コンドン原理

12      光励起分子の動的過程

13      レーザー

14 光と分子の相互作用

15 試験

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(2)分子分光学について

2-1. 分子分光学の意義

分子は正電荷を持つ原子核と負電荷を持つ電子によって構成されているため,

分子レベルで起こる事象は電磁相互作用に支配されている。従って,それらを

観察するためには電磁相互作用の媒体である光子を使うことは極めて自然であ

り,もっとも有効である。(実験化学講座第 5 版より)

その応用は,物質のエネルギー準位を精密に求めることによる物質の構造研

究から,スペクトルの時間変化から光物理・化学素過程を実時間追跡すること

など,多岐にわたる。分光学なくして化学の研究は進まない。分光学の手法そ

のものについても,エネルギー分解能,時間分解能,空間分解能などが近年著

しく向上しており,分子に対する新しい知見が続々と生み出されている。

2.2. 分子分光学の歴史

分光学は,Newton のプリズム実験

(1666)に端を発する。

表 1-1. 分光学に関連するノーベル賞

年度 部門 受賞者 受賞理由

1902 物理LorentzZeeman

ゼーマン効果の発見

1930 物理 Raman ラマン効果の発見1944 物理 Rabi NMRの研究

1952 物理BlochPurcell

NMRの研究

1955 物理LambKusch

スペクトル微細構造の研究

1964 物理TowensBasovProkhorov

レーザーの発明

1966 物理 Kastler 光ポンピングの発見1971 化学 Herzberg 遊離基の電子構造と幾何学的構造の研究

1981 物理BloembergenSchawlowSiegbahn

レーザー分光学光電子分光学

1989 物理 Ramsey ラムゼー共鳴の研究1991 化学 Ernst FT-NMRの開発1999 化学 Zewail フェムト秒分光学の開発

図 1-1. 1722 年出版のニュートン「光学」フ

ランス語版の図。「(第 2 プリズムでの)屈折

光の色は変わらない」とラテン語で書き込ま

れている(そうである)。島尾永康訳(岩波)

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(3)前提とする知識の確認

3-1. 単位

SI基本単位

長さ [m],質量 [kg],時間 [s],電流 [A],熱力学温度 [K],物質量 [mol],

光度 [cd]

SI組立単位

SI接頭語

3.2. エネルギーの単位と換算

エネルギーの SI単位:J = kgm2s

-2

分子分光学では,電子ボルト(eV)がよく使用される。

eV: 電子が 1 Vの電位差で加速されるときに獲得する運動エネルギー

1 eV = 1.6×10-19

J

3.3. 光の波長,波数,振動数,角振動数と光子エネルギー

波長:波の空間的周期

波数 k:単位長の間に繰り返される波の数

振動数:周期現象の同じ状態が毎秒繰り返される回数

角振動数:振動数×2

cc

k

21

波長 532 nm の光

k = 18800 cm-1

= 564 THz

= 3.54 PHz

倍数 記号 倍数 記号

101 デカ deca da 10

−1 デシ deci d

102 ヘクト hecto h 10

−2 センチ centi c

103 キロ kilo k 10−3 ミリ milli m

106 メガ mega M 10−6 マイクロ micro µ

109 ギガ giga G 10

−9 ナノ nano n

1012 テラ tera T 10

−12 ピコ pico p

1015 ペタ peta P 10−15 フェムト femto f

1018 エクサ exa E 10−18 アト atto a

1021 ゼタ zetta Z 10

−21 ゼプト zepto z

1024 ヨタ yotta Y 10−24 ヨクト yocto y

接頭語 接頭語

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3.4. 量子化学

Schrödinger方程式

EH (1-1)

Vm

H 22

(1-2)

2

2

2

2

2

22

zyx

(1-3)

(4)物質のエネルギー構造

4.1. エネルギーの様々な形

エネルギー:仕事をする能力。エネルギーは保存される。

運動エネルギー

位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)

クーロンポテンシャルエネルギー

r

qqV

0

21

4 (1-4)

4.2. エネルギーの量子化

量子力学:物質は粒々であると同時に波である。

p

h (de Broglie relation) (1-5)

定常状態に対しては,エネルギーが量子化され,離散的な値をとる。とりう

るエネルギーの値をエネルギー準位という。

一方,光は波であると同時に粒々である。この粒を光子(フォトン,photon)

という。光子1個のエネルギーは次式で与えられる。

hE (1-6)

h = 6.626×10-34

Js (プランク定数)

1 eVの光子 波長 532 nm の光子

= 1.24 m E =

k = 8066 cm-1

k =

分子の持つエネルギーなども cm-1の単位で表すことがある。

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4.3. 分子のエネルギー

分子の持つエネルギー

並進,回転,振動,電子

エネルギー準位の間隔

並進 回転 振動 電子

連続 1 cm-1

102-10

3 cm

-1 10

4 cm

-1

0.1 meV 0.01-0.1 eV 1 eV

1 cm 10-100 m 1000 nm

30 GHz 3-30 THz 300 THz

4.4. ボルツマン分布

温度 T > 0の状態で,分子は熱運動をしている。分子は互いにエネルギーのや

り取りをしているが,温度 T が一定のとき,各状態にある分子の割合は一定で

ある。この割合を状態の占有率という。

エネルギー状態の占有率は,ボルツマン分布により与えられる。エネルギー

が Eiと Ejの状態にある粒子数(占有数)をそれぞれ Ni,Njとすると次式が成り

立つ。

kT

EE

j

i

ji

eN

N

(1-7)

k = 1.38×10-23

JK-1 (ボルツマン定数)

ボルツマン分布によれば,状態の占有率はそのエネルギーが大きいほど小さい。

また,エネルギー準位の占有率は,(1-7)で与えられる状態の占有率に,状態の

縮退度を乗じたものになる。

表 1.1. 隣り合うエネルギー準位の占有数の比と温度の関係

3 K 30 K 300 K 3000 K

回転 0.619 0.953 0.995 0.9995

振動 1.45×10-21

8.2×10-3

0.619 0.953

電子 4.2×10-209

1.45×10-21

8.2×10-3

0.619

図 1-2. 並進,回転,振動,電子のエネルギー。

(アトキンス物理化学)

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参考書

ニュートン『光学』堀伸夫,田中一郎訳 槇書店

ニュートン『光学』島尾永康訳 岩波書店

理解のための課題

(1)電子レンジのマイクロ波の周波数は 2.45 GHz である。この光の波長,波

数を求めよ。

(2)回転エネルギー準位の占有率が,最低のエネルギー準位で最大になって

いない理由を考えよ。

(3)「負の温度」の状態とはどんなものか。

図 1-3. ボルツマン分布によるエネルギー準

位の占有率。(アトキンス物理化学)

図 1-4. 回転,振動,電子エネルギー準位の

占有率。(アトキンス物理化学)

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2012.9.24

分光化学

2回目 光の本性

前回の復習

講義の全体像を展望した。

物質のエネルギー構造について述べた。

今日の目標

光とは何かについて理解しよう。

今日の内容

(1)波長による光の分類

(2)電磁場の量子化

○黒体放射

○レイリー-ジーンズの法則:紫外部破綻

○プランク分布→量子論(光子の考え方)

(3)光の波長,エネルギー,波数,振動数,角振動数

(4)遷移による光の吸収と放出

○吸収強度:ベール-ランベルトの法則

○Einstein の A係数,B係数

○遷移モーメントと選択律

(5)波長による光の分類と分子の応答

○回転:マイクロ波,振動:赤外(ラマン),電子:可視紫外

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(1)波長による光の分類

光は電磁波である。 光には,波長によっていろいろな名前がついている。

図 2-1. 光の分類

(2)電磁場の量子化

光は波であると同時に粒々である。この粒を光子(フォトン,photon)という。

光子1個のエネルギーは次式で与えられる。

hE (2-1)

h = 6.626×10-34

Js (プランク定数)

光の粒子性を示す実験事実について確認しよう。

2.1. 黒体放射

黒体:すべての振動数の放射(光)を一様に放射したり吸収したりできる物

体。そのスペクトルを説明することは,19世紀の科学者にとって重大な問題

であった。これを古典物理学で説明しようとした試みに,Rayleigh-Jeans の法則

がある。

d

kTd

4

8 (2-2)

k = 1.38×10-23

JK-1 (ボルツマン定数)

この式は,長波長側では非常にうまくいくが,短波長側で合わなくなり,短波

長極限では発散するという問題があった。(これを紫外部破綻という。)

この問題を解決したのが Planck であった。個々の電磁振動子のエネルギーが

離散的な値に限られていると考えると(2-3)式が導かれ,黒体放射のスペクトル

を完全に説明できることが示された。エネルギーが離散的な値になることを,

エネルギーの量子化という。

波長 / m

10-14 10-13 10-12 10-11 10-10 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 110-1310-14 10-13 10-12 10-11 10-10 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 110-13

γ 線 X線真空紫外

紫外可視

近赤外 遠赤外 マイクロ波

ラジオ波

420 nm 700 nm

硬X線 軟X線X線

分子振動電子励起 分子回転内核励起

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d

e

hcd

kThc

1

185

(2-3)

h = 6.62×10-34

Js :プランク定数

2.2. 光電効果

金属に紫外線を照射すると,表面から電子が

放出される。この現象を光電効果という。光電

効果には,次のような性質がある。

① 紫外線の振動数がその金属固有のしきい値

を超えない限り,紫外線の強度に関わらず電

子は放出されない。

② 放出される電子の運動エネルギーは紫外線

の振動数に対して直線的に増加するが,その

強度には無関係である。

③ 弱い光でも,振動数がしきい値以上であれば

電子が放出される。

これらの実験事実は,光がその振動数に対応するエネルギーhをもつ粒子(光

子)であると考えると説明できる。放出される電子(光電子と呼ぶ)の質量を

me,速度を veとすると,次式が成り立つ。

Φhvm ee 2

2

1 (2-4)

Φは金属に固有の値を持つ。これを,その金属の仕事関数という。

(3)光の波長,エネルギー,波数,振動数

表 2-1. 分光学に登場する光のパラメータ

波長 波数 周波数 エネルギー

マイクロ波 0.001 – 1 m 0.01 – 10 cm-1

0.3 – 300 GHz 1.24 eV – 1.24 meV

赤外 2.5 – 25 m 400 – 4000 cm-1

12 – 120 THz 0.05 – 0.5 eV

可視・紫外 200 – 800 nm 12500 – 50000 cm-1

0.375 – 1.5 PHz 1.55 – 6.2 eV

図 2-2. 光電効果

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(4)遷移による光の吸収と放出

4-1. 光の吸収と放出

放出:高いエネルギーE1 の状態から低いエネルギーE2 の状態に遷移し,あま

ったエネルギーを光子として放出する。

吸収:低いエネルギーE2 の状態の分子が光を吸収し,高いエネルギーE1 の状

態に遷移する

ボーアの振動数条件

21 EEh (2-5)

4-2. 吸収強度:ベール-ランベルトの法則

試料に光を照射し,透過した光の強度を測定したとする。入射光強度を I0,透

過光強度を Iとする。透過光強度は,試料の長さ l と吸収化学種 J のモル濃度[J]

に関して,次の関係にしたがって変化する。

lII J

0 10 (2-6)

これをベール-ランベルトの法則(ランベルト-ベールの法則)という。ここに現

れるを,モル吸光係数という。

4-3. 遷移の仕方:Einstein の A係数,B係数

光による状態間の遷移には,3種類ある。

(誘導)吸収 自然放出 誘導放出

図 2-3. 誘導吸収,自然放出,誘導放出

(誘導)吸収:低いエネルギー状態の分子が光を吸収し,高いエネルギー状態に遷

移する

自然放出:高いエネルギー状態の分子が光と無関係に,低いエネルギー状態に

遷移して光を放出する

誘導放出:高いエネルギー状態の分子が光に誘発され,低いエネルギー状態に

遷移して光を放出する

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13

誘導吸収の遷移速度 w は,その遷移の振動数をとしたとき,~+ dの振

動数範囲にある光のエネルギー密度をとして,次式で与えられる。

Bw (2-7)

定数 B を誘導吸収のアインシュタイン係数(アインシュタインの B係数)とい

う。分子が温度 T の黒体放射にさらされていれば,はプランクの分布で与えら

れる。

1

183

3

kThec

h

(2-8)

注:(2-3)と(2-8)の違いは次のように説明できる。

c

より,

dd2

c

d

ec

hd

c

echcd

e

hcd

kThckThckThc

1

18

1

18

1

183

3

2

5

5

一方,誘導放出の遷移速度 w’もに比例する。

Bw (2-9)

自然放出の遷移速度は光の強度と無関係なので,定数 A で与えられる。これ

を考慮すると,エネルギーの高い状態から低い状態への遷移速度は次のように

なる。

BAw (2-10)

定数Aのことを自然放出のアインシュタイン係数(アインシュタインのA係数)

という。

低いエネルギー状態,高いエネルギー状態にある分子の数をそれぞれ N,N’

とすると,吸収,放出の速度はそれぞれ NB , BAN となる。熱平衡状

態ではこれらが等しい。

BANNB (2-11)

ボルツマン分布の式, kTheN

N

を用いると,(2-11)から次式が得られる。

BBe

BAkTh /

/

(2-12)

これを(2-8)と比較すると,

BB (2-13)

Bc

hA

3

38 (2-14)

であることがわかる。

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14

4-4. 遷移モーメントと選択律

光による遷移の量子力学的考察(第14回に予定)から,Einstain の B係数は

次式で与えられる。

126

12

0

μ

B (2-15)

ここで, 0 は真空の誘電率である。 12 μ は次式で定義される。

d1

*

212 μμ (2-16)

ここで, 1 , 2 はそれぞれ状態1,2の波動関数,μは電気双極子モーメント

演算子である。 12 μ のことを遷移モーメントといい,本講義全体

で重要な意味を持つ量である。

エネルギー準位間の光の吸収,放出は(2-5)に従うが,すべてのエネルギー準

位間で起こるわけではない。光吸収の前後の状態(それぞれ始状態,終状態と

いう)について,遷移モーメントの値が 0 でない値を持つ必要がある。その条

件のことを,選択律という。選択律を考慮した結果,可能な遷移を許容遷移,

不可能な遷移を禁制遷移という。

選択律には2種類ある。

選択概律:分子がスペクトルを持つために備えているべき一般的特徴をいう。

個別選択律:許容遷移を量子数の変化で表したもの。

理解のための課題

(1)ある試料を 1 cm のセルに入れたときの透過率が 0.1だったとき,セルを

2 cm にすると透過率はいくつになるか。

(2)双極子モーメント演算子を終状態の波動関数と始状態の波動関数ではさ

んで積分したものは何か。

(3)波長の短い順に並べよ。(X線,マイクロ波,赤外,可視,紫外)

(4)次の光は何に分類されるか。(波数 3000 cm-1,波長 633 nm,振動数 3 GHz)

次回のための課題(量子化学の復習)

(1)ポテンシャル V(x, y, z)の中を運動する質量 mの粒子の Schrödinger 方程式

を記せ。

(2)極座標の図を描き,(x, y, z)を(r, , )で表せ。

(3)極座標のハミルトニアンを記せ。

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15

2012.10.1

分光化学

3回目 2原子分子の回転準位とスペクトル

前回の復習

光の本性について述べた。

キーワード:遷移モーメント(遷移双極子モーメント),

選択律,許容遷移,禁制遷移

今日の目標

先週の補足:選択律,波長による光の分類と分子の応答

2原子分子の回転エネルギー準位とスペクトルについて理解しよう。

今日の内容

(0)選択律と波長による光の分類と分子の応答

(1)ボルン-オッペンハイマー近似

(2)2原子分子の剛体回転

○運動エネルギーと慣性モーメント

○剛体回転子の Schrödinger方程式とその解

(3)遠心歪み

○遠心歪み定数

(4)回転遷移

○選択律

○スペクトル形状

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(0)復習+α(選択律,波長による光の分類と分子の応答)

0-1. 選択律

状態 1から 2への遷移の際,次の値を考える。

d1

*

212 μμ (2-16)

ここで, 1 , 2 はそれぞれ状態1,2の波動関数,μは電気双極子モーメント

演算子である。 12 μ のことを遷移モーメントといい,本講義全体

で重要な意味を持つ量である。

エネルギー準位間の光の吸収,放出は,ボーアの振動数条件( 12 EEh )

に従うが,すべてのエネルギー準位間で起こるわけではない。光吸収の前後の

状態(それぞれ始状態,終状態という)について,遷移モーメントの値が 0 で

ない値を持つ必要がある。その条件のことを,選択律という。選択律を考慮し

た結果,可能な遷移を許容遷移,不可能な遷移を禁制遷移という。

選択律には2種類ある。

選択概律:分子がスペクトルを持つために備えているべき一般的特徴をいう。

個別選択律:許容遷移を量子数の変化で表したもの。

0-2. 光の分類と分子の運動

回転:マイクロ波,振動:赤外(ラマン),電子:可視紫外

波長 / m

10-14 10-13 10-12 10-11 10-10 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 110-1310-14 10-13 10-12 10-11 10-10 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 110-13

γ 線 X線真空紫外

紫外可視

近赤外 遠赤外 マイクロ波

ラジオ波

420 nm 700 nm

硬X線 軟X線X線

分子振動電子励起 分子回転内核励起

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17

(1)ボルン-オッペンハイマー近似

電子の運動(Eel),分子振動(Evib),分子回転(Erot)は,おおよそ 1:0.01:0.0001

の比になっている。量子論では運動の時間スケールは h/(エネルギー)となる

ので,電子,振動,回転の時間スケールの比は 1:100:10000 である。つまり,原

子核の運動は電子の運動より遅い。これを利用して,原子核の運動と電子の運

動を別々に考える近似をボルン-オッペンハイマー近似という。

ボルン-オッペンハイマー近似の下では,核の位置を固定し,その位置にお

ける電子エネルギーを計算する。核の位置の関数として電子エネルギーを表し

たものを,ポテンシャルエネルギー曲線(曲面)という。

以下では,電子,振動,回転を分離し,それぞれに対して考えていくが,こ

れは近似的な扱いである。この近似においては, rotvibeltotal EEEE ,

rotvibeltotal である。

(2)2原子分子の剛体回転

2-1. 2原子分子の回転運動

質量中心(重心)から r1と r2離れたところにある2つの質点 m1と m2を考え

る。これらの質点の距離は固定されていると考える。これを剛体回転モデルと

いう。

この質点が角速度で回転しているとする。このとき,質点 m1と m2の速度はそ

れぞれ r1,r2となるので,運動エネルギーは下式となる。

22

22

2

112

1

2

1

2

1 IrmrmK

2

22

2

11 rmrmI

Iを慣性モーメントという。質量中心の位置は 2211 rmrm で与えられる。これと

原子間距離 r( 21 rrr )から,Iは次のように書くことができる。

図 3-1. 質量中心の周りに回転する2つの質点 m1と m2 (マッカーリサイモン物理化学)

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18

2rI

21

21

mm

mm

を換算質量という。つまり,2質点の回転運動は,換算質量を持つ1つの質

点の回転運動として記述することができる。

この回転運動のハミルトニアンを考える。いま,外力を考えていないので,

ポテンシャルエネルギーV0となる。従って,ハミルトニアンは次のようにな

る。

2

2

H

ラプラシアン2 は直交座標および極座標で,次式で与えられる。

2

2

2

2

2

22

zyx

2

2

222

22

sin

1sin

sin

11

rrrr

rr

r は一定なので 0

r。 (3-3),(3-5),(3-7)から,ハミルトニアンを求める。

2

2

2

2

sin

1sin

sin

1

IH

これが2原子分子の剛体回転子のハミルトニアンである。これは,水素原子の

ハミルトニアンの角度部分と同じ形をしている。

後は結果のみ記すことにする。Schrödinger 方程式 EH を解くと,波動

関数は球面調和関数となる。エネルギーE は離散的な値を持ち,次式で与え

られる。

12

2

JJI

EJ

,2,1,0J (3-9)

J 番目のエネルギー準位は, 12 J 重に縮重(縮退)している。この J を,

回転の量子数という。

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19

回転エネルギーを波数(単位 [cm-1

])で表したものを,回転項 JF という。

1 JBJJF (3-10)

Bを回転定数という。(回転定数は振動数で表すこともある。)

cI

B4

(3-11)

隣接する準位の間隔は,

BJJFJF 21 (3-12)

である。

2-2. 角運動量

粒子の角運動量(ベクトル)Jは,以下のように定義される。

prJ (3-13)

ここで,rは粒子の座標,p は粒子の運動量である。1-1.の問題では,角運動量,

運動エネルギーK は次のようになる。

IJ (3-14)

I

JK

2

2

(3-15)

量子論では,物理量を演算子で表す。角運動量の2乗を表す演算子2J は次のよ

うになる。

2

222

sin

1sin

sin

J

ハミルトニアンは,運動エネルギーK を演算子で表したものである。(3-15),(3-16)

から(3-8)が得られることを確認しよう。

(3)遠心歪み

ここまでは分子を剛体として扱った。しかし,回転する分子中の原子は遠心

力を受けているため,分子構造が歪み,慣性モーメントが変化する。これを遠

心歪みという。

2原子分子においては,遠心歪みのために結合が伸び,慣性モーメントが増

加する。その結果,回転定数がわずかに減尐する。この効果は,経験的に次の

ように表すことができる。

22 11 JJDJBJJF J (3-17)

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20

パラメータ DJを,遠心歪み定数(遠心力歪み定数)という。

2原子分子の遠心歪み定数は,結合の振動の波数~と,次のような近似的関

係を持っている。

2

3

~4

BDJ (3-18)

定性的には,振動数が小さい→結合が弱い→歪みやすい→遠心歪み定数が大き

い,ということで理解できる。

(4)回転遷移

4-1. 選択概律

小さな分子について,Bの値は 0.1~10 cm-1の領域にある。従って,回転遷移

のエネルギーはマイクロ波領域にある。

分子の波動関数は,振動回転相互作用を無視すると次のように書ける。

rev (3-19)

ここで, ev :電子と振動の波動関数, r :回転の波動関数である。電子,振

動の状態は変化せず,回転状態が r から rへ変化する遷移(純回転遷移とい

う)を考える。このとき,分子の双極子モーメントの z 成分をzとすると,遷

移モーメントの z 成分 if zμ は次のようになる。

dddif zzz revevrrev

*

rev μμμ

drr cos (3-20)

は分子の永久双極子モーメントである。従って,ある分子が純回転スペクト

ルを与えるためには,その分子は極性でなければならない。等核2原子分子は

純回転スペクトルを示さない。

4-2. 個別選択律

遷移モーメントの解析から,個別選択律が求まる。

直線分子の個別選択律

1J (3-21)

1J の遷移は吸収, 1J の遷移は放出過程を表す。この選択律は,光

子がスピン1を持っていることに由来する。

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21

4-3. 回転スペクトルの形と構造の決定

直線分子に対する許容遷移である JJ 1 の吸収の波数~は次のようにな

る。

12~ JB (3-22)

遠心歪みを考えた場合は,次のようになる。

31412~ JDJB J (3-23)

(3-22)から予測されるスペクトルの形は,図 3-2.のようになる。スペクトル線の

間隔は 2Bである。スペクトルの強度に極大があるのは,回転状態の占有率に極

大があるためである。(ただし,占有率の極大を与える Jと,スペクトル線がも

っとも強くなる Jの値は一致しない。)

占有率について考えよう。

回転のエネルギー準位は 1JhcBJ で与えられる。量子数 J の状態は 12 J 重に縮

退しているので,占有数を NJとすると,

kT

JhcBJ

J eJAN

1

12

となる。これを

Jで微分して 0と置き,極大値を与える Jを求めると,

2

1

2

21

max

hcB

kTJ となる。

2原子分子の場合は,換算質量を,結合距離を r として,24 rc

B

となる。

つまり,マイクロ波スペクトルの間隔から,結合距離が求まる。

参考書

近藤保編,小谷正博・幸田清一郎・染田清彦著『大学院講義物理化学』東京化

学同人

図 3-2. 直線回転子の回転エネルギー準位

と選択律J=±1によって許される遷移。

(アトキンス物理化学 P.510)

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22

理解のための課題

(1)(3-2)と 2211 rmrm から,(3-3),(3-4)を導け。

(2) hE を使って(3-11)を導け。

(3)(3-22),(3-23)を導け。

(4)1H

81Brの J=1←0の回転遷移の波数が 16.93 cm

-1であるとき,この分子を

剛体回転子と考えて慣性モーメントと結合長を求めよ。

(5)20Ne

40Arの回転スペクトルから,その回転定数が 2914.9 MHz と求まった。

この分子の核間距離はいくらか。ただし,m(20

Ne)=19.992 u,m(40

Ar)=39.963

uである。

(6)1H

35Cl の回転スペクトルは,次の波数にあることが見出された。:83.32,

104.13,124.73,145.37,165.89,186.23,206.60,226.86 cm-1。この分子

の回転定数と遠心歪み定数を求め,そこから分子の慣性モーメントと結

合長を求めよ。また,それぞれの回転線は Jのどのような変化に対応して

いるか。ただし,m(1H)=1.0078 u,m(

35Cl)=34.969 u である。(手計算では

難しい。)

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23

2012.10.8

分光化学

4回目 多原子分子の回転準位とスペクトル

前回の復習

2原子分子の回転エネルギー準位と回転スペクトルについて述べた。

キーワード:慣性モーメント,回転定数,遠心歪み定数,選択律

今日の目標

多原子分子の純回転スペクトルについて理解しよう。

今日の内容

(1)多原子分子の慣性モーメント

○慣性モーメントの定義

○球対称回転子,対称回転子,直線回転子,非対称回転子

(2)回転エネルギー準位

○球対称回転子,対称回転子,直線回転子,非対称回転子

(3)回転スペクトル

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24

(1)多原子分子の慣性モーメント

1-1. 慣性モーメントの定義

分子の慣性モーメントは,各原子の質量に,分子の重心を通る回転軸からそ

の原子までの距離の2乗を掛けたものの和である。

i

iirmI2

(4-1)

3つの直交する回転軸をとり,各回転軸に対する回転運動の角運動量がその

回転軸と平行になるようにすることができる。このとき,この回転軸を慣性主

軸という。通常,慣性モーメントは,3つの慣性主軸に対して定義され,3つ

の値を持つ。すべての分子の回転運動は,この3つの慣性モーメント Ia,Ib,Ic

によって記述することができる。約束として, cba III とする。後述する,

慣性モーメントの逆数に単位換算の因子を掛けたものである回転定数を用いれ

ば, CBA である。

1-2. 剛体回転子の分類

分子の結合距離が回転によって変化しないと仮定する。これを剛体回転子と

いう。剛体回転子は以下の4つに分類できる。

球対称回転子:3つの慣性モーメントが等しい

対称回転子: 2つの慣性モーメントが等しい

直線回転子: 1つの慣性モーメントが0

非対称回転子:3つの慣性モーメントがどれも違う値をもつ

(2)回転エネルギー準位

2-1. 回転エネルギー準位の考え方

すべての剛体回転子の回転運動は,3つの慣性モーメントによって記述でき

る。軸 aのまわりに回転している慣性モーメント Iaの物体のエネルギーはEaは,

角速度をaとして次のようになる。

2

2

1aaa IE (4-2)

これを角運動量 aaa IJ であらわすと,

a

aa

I

JE

2

2

(4-3)

となる。3つの軸をすべて考えると,次のようになる。

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25

c

c

b

b

a

a

I

J

I

J

I

JE

222

222

(4-4)

量子論的に考える場合は,2J の部分を量子力学的演算子に置き換えてハミルト

ニアンを作り,Schrödinger 方程式からエネルギーと波動関数を求める。

2-2. 球対称回転子のエネルギー準位

球対称回転子では, cba III である。古典的なエネルギーは次のようにな

る。

I

J

I

J

I

J

I

JE cba

2222

2222

(4-5)

この場合,次のような置き換えを行うと,量子力学的エネルギーが得られる。

22 1 JJJ ,2,1,0J (4-6)

従って,球対称回転子のエネルギーは次のようになる。

I

JJEJ2

12

(4-7)

回転エネルギーを波数(単位 [cm-1

])で表したものを,回転項 JF という。

1 JBJJF (4-8)

Bを回転定数という。

cI

B4

(4-9)

隣接する準位の間隔は,

BJJFJF 21 (4-10)

である。

2-3. 対称回転子のエネルギー準位

3つの慣性モーメントのうち2つが等しいものを対称回転子という。対称回

転子には2種類ある。

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26

扁平 (oblate): cba III 扁長 (prolate): cba III

扁長の分子の場合,エネルギーは次のようになる。

2

2222

2

1

2

1

222a

babb

cb

a

a JIII

J

I

JJ

I

JE

(4-11)

ここで, 22 1 JJJ と置き換える。また,2

aJ については,以下の書き

換えが可能である。

222 KJa JK ,2,1,0 (4-12)

従って,回転項は次のようになる。

21, KBAJBJKJF (4-13)

,2,1,0J , JK ,2,1,0

扁平対称回転子の場合は,次のようになる。

21, KBCJBJKJF (4-14)

2-4. 直線回転子のエネルギー準位

直線状分子の場合,結合軸まわりの角運動量は 0である。(4-13)で K = 0 とお

けば,次式が得られる。

1 JBJJF ,2,1,0J (4-15)

2-5. 非対称回転子のエネルギー準位

非対称回転子は,3つの慣性モーメントがすべて異なる値をもつ。非対称回

転子のエネルギー準位および固有関数は解析的に表すことができないため,数

値計算によってこれを求める。

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27

2-6. 回転エネルギー準位のまとめ

2原子分子 22 11 JJDJBJJF J

球対称回転子 1 JBJJF

扁長対称回転子 21, KBAJBJKJF

扁平対称回転子 21, KBCJBJKJF

直線回転子 1 JBJJF

非対称回転子 解析的には表せない

,2,1,0J , JK ,2,1,0

注意:球対称回転子以下にも遠心歪みは存在する。

(3)回転スペクトル

3-1. 選択概律

多原子分子についても,2原子分子と同様の選択概律がある。つまり,ある

分子が純回転スペクトルを与えるためには,その分子は極性でなければならな

い。CO2,CH4のような無極性分子は純回転スペクトルに対して不活性である。

3-2. 個別選択律

遷移モーメントの解析から,個別選択律が求まる。

2原子分子 1J

球対称回転子 禁制

対称回転子 0K で, 0K のとき 1,0  J

0K で, 0K のとき 1J

直線回転子 1J

参考書

近藤保編,小谷正博・幸田清一郎・染田清彦著『大学院講義物理化学』東京化

学同人

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28

理解のための課題

(1)次の分子の中で,純回転マイクロ波吸収スペクトルを示す可能性のある

ものはどれか。

H2,HCl,CH4,CH3Cl,CH2Cl2,H2O,H2O2,NH3,N2O

(2)直線3原子分子 A-B-C の慣性モーメントを求めよ。ただし,AB,BC の

結合距離をそれぞれ R,R’,原子 A, B, C の質量をそれぞれ mA,mB,mC

とする。

(3)16O

12CSのマイクロ波スペクトルは次のような吸収線を与える。(単位GHz)

J 1 2 3 4 32

S 24.32592 36.48882 48.65164 60.81408 34

S 23.73233 47.46240

S 原子の同位体置換によって結合長が変化しないものと仮定して,OCS

における COと CS の結合長を計算せよ。

次回のための課題

(1)テイラー展開

関数 xf が無限回微分可能であれば,次の式が成り立つ。

ax

afxf

0 !

右辺を,f のテイラー展開という。a = 0として,ex,sin x,cos x のテイラー展開

を求めよ。

(2)シュレーディンガー方程式

質量mの粒子がポテンシャル V の中で運動するときのシュレーディンガー方

程式を書け。

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付録:最近の研究例

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31

2012.10.15

分光化学

5回目 2原子分子の振動スペクトル

前回の復習

多原子分子の回転準位とスペクトルについて述べました。

キーワード:慣性モーメント,球対称回転子,対称回転子,直線回転子,

非対称回転子,回転エネルギー準位,選択律

今日の目標

2原子分子の振動スペクトルについて理解しよう。

今日の内容

(1)2原子分子のポテンシャルエネルギーと調和近似

(2)調和振動子のエネルギー準位

○振動エネルギーの量子化

(3)赤外吸収スペクトルの選択律

○振動による双極子モーメントの変化

○振動量子数

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32

(1)2原子分子のポテンシャルエネルギーと調和近似

2原子分子の振動を考える。原子間距離 r に対するポテンシャルエネルギーを

図に示す。原子間距離を小さくすると,原子同士の反発力のため,ポテンシャ

ルエネルギーは大きくなる。一方,原子間距離が大きくなると,原子同士の間

に力が働かなくなり,2つの独立な原子となる。(結合の解離という。)なお,

ポテンシャルエネルギーVと力 Fの間には次の関係がある。

dr

dVF (5-1)

このポテンシャルエネルギーの極小部に近い領域で,ポテンシャルを放物線で

近似する。この近似を調和近似という。放物線のポテンシャル内で運動する物

体を調和振動子という。

ポテンシャルエネルギーを極小値からのズレ eRRx に対してテイラー

展開すると以下の式が得られる。

2

0

2

2

0 2

10 x

dx

Vdx

dx

dVVxV

xx

(5-2)

ここで,ポテンシャルエネルギーの基準を極小値の部分におけば, 00 V と

してよい。また,極小値では 00

xdx

dVである。従って,x に関する高次の

項を無視した場合, 2

0

2

2

2

1x

dx

VdxV

x

となり,調和近似が自然な近似であ

図 5-1. 分子のポテンシャルエネルギー曲線。

ポテンシャルの底は放物線で近似できる。

(アトキンス物理化学 P.516)

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33

ることがわかる。 kdx

Vd

x

0

2

2

とおけば,

2

2

1kxxV (5-3)

となる。(5-1),(5-3)から, kxF となる。これは,変位に比例する復元力で

あり,古典的には単振動運動となるポテンシャルである。k を力の定数という。

(2)調和振動子のエネルギー準位と波動関数

(5-3)を用いると,2原子分子の振動運動に関する Schrödinger 方程式は次のよ

うになる。

Ekxdx

d 2

2

22

2

1

2

(5-4)

21

21

mm

mm

(5-5)

ただし,m1,m2 は原子の質量である。この方程式は,質量がの粒子の調和振

動の式である。

(5-4)を解いて得られるエネルギー準位は,次のような離散的な値を持つ。次

式のを,振動の量子数という。

2

1E 2,1,0 (5-6)

2

1

k (5-7)

隣り合う準位の間隔は

EE 1 (5-8)

となり,に依存しない定数となる。

E は, 0 のとき最小値を持つ。

2

10 E (5-9)

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34

エネルギーの最小値を零点エネルギーという。エネルギーが 0 にならない(粒

子が完全に静止することがない)ことは,量子論の特徴的な結論の一つである。

波数で表した振動のエネルギーを分子の振動項という。振動項は次式で表さ

れる。

~

2

1

G

2

1

2

1~

k

c (5-10)

一方,(5-4)の解として得られる波動関数は次のようになる。

2

2

1y

eyHNx

(5-11)

xy ,

4

12

k

(5-12)

2121 !2

N は規格化定数, yH はエルミート多項式である。エル

ミート多項式のいくつかを表に示す。

表 5-1. エルミート多項式

yH

0 1

1 2y

2 4y2-2

3 8y3-12y

4 16y4-48y

2+12

5 32y5-160y

3-120y

6 64y6-480y

4+720y

2-120

波動関数のいくつかを示す。

22

22

22

22

223212/173

222212/152

2212/1311

2212/10

323

22

2

x

x

x

x

exxx

exx

xex

ex

(5-13)

これらの波動関数は,規格直交系をつくる。

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35

nmmnmn d *

(5-14)

mn

mnnm

0

1 (5-15)

nm を Kroneckerのデルタという。波動関数を図示すると次のようになる。

(3)赤外吸収スペクトルの選択律

振動エネルギー準位間の光による遷移の選択律を示す。結論からまとめると,

次のようになる。

選択概律:振動によって双極子モーメントが変化する。

個別選択律: 1 (5-16)

1 の遷移は吸収, 1 の遷移は放出過程を表す。

2原子分子の各原子に q , q の電荷があるとする。

結合距離を xRR e とすると,双極子モーメント演

算子は次のようになる。

qxqxqRqR e 0

(5-17)

図 5-2. (a) 規格化された調和振動子の波動関数。

(b) 調和振動子の確率密度。(マッカーリサイモン物理化学)

R

q -q

図 5-3. 2原子分子

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36

ここで,0 は平衡核間距離における双極子モーメント(演算子)である。従っ

て,遷移モーメント iμf は次のようになる。

ifif xqiμf 0 (5-18)

振動波動関数の直交性から, 0if なので, if xqiμf となる。

一方,dx

dq

なので,次のことがわかる。

dx

dxiμf if

(5-19)

遷移モーメントがdx

dに比例することから,光による振動エネルギー準位間の遷

移が起こるためには,振動による変位によって双極子モーメントが変化しなけ

ればならないことがわかる。従って,等核2原子分子では振動エネルギー間の

光吸収が起こらない。振動エネルギーは赤外部に相当するので,これを赤外不

活性であるという。

一方, if x について考える。(5-10),(5-11)から,次の式が得られる。

dyeyHHNNdxexHHNNx y

ifify

ififif

22 2 (5-20)

エルミート多項式には,次の関係が成り立つ。

112

1 HHyH (5-21)

(5-19),(5-20)から,

dyeHHdyeHHNNx yif

yifiifif

22

112

2

1 (5-22)

一方,エルミート多項式の積分について,次の関係が成り立つ。

if

ifdyeHH yif

!2

0

2/1

2

(5-23)

(5-22),(5-23)から, if x が 0でない値を持つためには, 1 if でなけ

ればならないことがわかる。つまり, 1 の選択律があることがわかる。

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37

理解のための課題

(1)(5-13)の 1 , 2 が調和振動子の Schrödinger 方程式(5-4)を満たすことを確

かめよ。

(2)(5-22),(5-23)から, x1 を求めよ。

(3)次の分子の中で,赤外吸収スペクトルを示す可能性のあるものはどれか。

(a) H2,(b) HCl,(c) N2

(4)1H

35Cl の力の定数は 516 Nm

-1である。ここから,振動の角周波数,振

動数,および~を求めよ。また, 01 の遷移の波長はいくら

か。

(5)1H

35Cl と 2

H35

Clの力の定数が同じだとして,2H

35Cl の~を求めよ。

(6)1H

35Cl と 1

H37

Cl の力の定数が同じだとして,1H

35Cl と 1

H37

Cl の~の比を

求めよ。

(7)(a) 298 K,(b) 500 K において,振動の基底状態と第一励起状態にある HCl

分子の相対的な数の比はいくらか。

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38

2012.10.22

分光化学

6回目 非調和性と多原子分子の振動スペクトル

前回の復習

2原子分子の振動スペクトルについて述べました。

キーワード:調和振動子,振動による双極子モーメントの変化,

1

今日の目標

2原子分子の振動の非調和性,振動回転スペクトル,多原子分子の振動スペ

クトルについて理解しよう。

今日の内容

(1)非調和性

(2)2原子分子の振動回転スペクトル

○P 枝,Q枝,R 枝

(3)多原子分子の振動の自由度

(4)基準振動

(5)多原子分子の振動スペクトル

○基準振動の活性

○選択律

(6)振動回転スペクトル

○P 枝,Q枝,R 枝

レポート

(1)3回目:理解のための課題(4)と(5)(p. 22) を解く。

(2)PC のグラフソフトを利用して,図 5-2. (p. 34) を描く。

(1)は A4用紙に手書きして提出してください。

(2)は G-Port 経由でファイルを提出してください。ファイル名に自分の名前

を入れてください。

締め切り:11月 12日講義開始前

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39

(1)非調和性

2原子分子の実際のポテンシャルエネルギーは,放物線ではない。エネルギ

ーの高い領域では,放物線による近似が悪くなる。分子振動の調和近似に対す

る違いを非調和性という。非調和性を考慮すると,エネルギーが高い領域では,

エネルギー準位の間隔が小さくなる。

調和振動子のエネルギーは力の定数 k の値が小さいほど小さい。k の値が小さいということ

は,ポテンシャルエネルギーが広がっていることを意味する。ここで,実際のポテンシャルエ

ネルギーを見ると,エネルギーの高い領域でポテンシャルが広がっている。ここから,エネル

ギーの高い領域ではエネルギー準位の間隔が小さくなることが定性的に理解できる。

非調和性があると,波動関数がエルミート多項式からずれてくる。そのため,

調和近似では選択律により 02 や 03 の遷移は禁制であるが,実際には弱

い強度で観測される。これらの吸収を倍音という。

(2)2原子分子の振動回転スペクトル

2-1. 選択律

光の吸収,放出によって,振動状態と回転状態は同時に変化しうる。異核2

原子分子の振動スペクトルを高分解能に測定すると,たくさんの成分からなっ

ている。これは様々な振動回転状態間の遷移が観測されているからである。こ

のようなスペクトルを振動回転スペクトルという。

振動回転スペクトルは,振動-回転結合項で考える。

JFGJS , (6-1)

非調和性と遠心歪みを無視すると,次のようになる。

図 6-1. 分子のポテンシャルエネルギー曲線

とエネルギー準位。(アトキンス物理化学

P.519)

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40

1~

2

1,

JBJJS (6-2)

選択律は以下のようになる。

1 , 1J (6-3)

(NO分子のように,結合軸のまわりに角運動量を持っている場合は, 0J も

許容遷移となる。)

2-2. スペクトル枝

ある振動遷移(例えば 1 )を考える。このとき,J の変化に応じて,

スペクトル線をスペクトル枝と呼ばれる3つのグループに分ける。

P 枝: 1J

Q枝: 0J (6-4)

R 枝: 1J

図 6-2. 2原子分子のスペクトル枝(大学院物理化学)

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41

遷移波数は次のようになる。

P 枝: BJJSJSP 2~,1,1~ (6-5)

Q枝: ~,,1~ JSJSP (6-6)

R 枝: BJJSJSP 2~,1,1~ (6-7)

従って,P 枝は中心波数から低波数側に,R 枝は中心波数から高波数側に 2B 間

隔でスペクトル線を与え,Q枝は Jによらず中心波数にスペクトル線を与えるこ

とがわかる。(実際には,振動準位により回転定数がわずかに異なるため,上に

述べた形からずれたものになる。とくに,Q枝は単一の線ではなくなる。)

2原子分子の場合は,NOのような特殊な場合を除いて Q枝は観測されない。

(3)多原子分子の振動の自由度

2原子分子には,振動様式(振動モード)が1種しかない。しかし,多原子分

子には複数の振動モードがある。

系を指定するのに必要な座標のうち,独立なものの数を自由度という。原子

一つの自由度は3であり,N 個の原子の自由度は 3N である。これらの自由度の

うち,系の重心の位置を決めるために3つの座標が必要である。この座標の変

化に基づく運動は系全体の並進運動である。この並進運動を除く 3N-3が系の内

部運動を指定する自由度である。

一方,系全体の向きを指定するために,直線分子では2個,非直線分子では

3個の座標を必要とする。この座標の変化に基づく運動は系全体の回転運動で

ある。この自由度を除いたものが分子内振動の自由度であり,次のようになる。

直線分子の振動自由度: 3N-5

非直線分子の振動自由度:3N-6

図 6-3. COの振動回転スペクトル。

(大学院物理化学)

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42

(4)基準振動

CO2 の振動を考える。CO2 は直線分子なので,振動の自由度は4である。図

6-4(a)において,左側の COのみが振動する振動モード L ,右側の CO のみが振

動する振動モード R を考えると,もし L のみが振動していたとしても,C 原子

の振動を通じて R も振動するであろう。つまり, L と R との間にエネルギー

のやりとりがある。また,分子の重心も変化する。

これに対し, RL , RL という振動を考える。(図 6-4(b))この場合,

分子の重心は変化せず,また,一方が励起されても,他方が励起されることが

ない。つまり2つの振動モードが独立となる。このような振動モードの選び方

を基準振動という。CO2の場合には,図 6-2に示す4つの基準振動がある。

図 6-4. CO2の振動。(アトキンス物理化学 P525.)

一般に,多原子分子の振動は,自由度の数の基準振動の集まりと考えること

ができる。個々の基準振動は,振動の非調和性を無視した場合,独立の調和振

動子として考えることができる。その振動項は次のように書ける。

qqG ~2

1

2

1

2

1~

q

q

qm

k

c (6-8)

kq,mqは,それぞれそのモードの力の定数および有効質量である。

(5)多原子分子の振動回転スペクトル

振動スペクトルについての選択概律は,基準振動に対応する運動によって,

双極子モーメントが変化することである。CO2については,対称伸縮振動は赤

外不活性,反対称伸縮振動と変角振動は赤外活性となる。個別選択律について

は,調和近似の範囲では2原子分子の場合と同様に, 1 となる。

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43

多原子分子の場合も,Jの変化に応じたスペクトル枝がある。

P 枝: 1J

Q枝: 0J (6-9)

R 枝: 1J

図 6-5. 多原子分子のスペクトル枝(大学院物理化学)

以下では,直線分子と対称回転子分子について,振動回転スペクトルを考察

する。遷移モーメントがこれらの分子の主軸に平行の場合,平行バンド,分子

軸に垂直の場合,垂直バンドという。それぞれの個別選択律は次のようになる。

平行バンド: 0K , 1,0 J (6-9)

(ただし K=0 のとき 1J )

垂直バンド: 1K , 1,0 J (6-10)

CO2分子の振動基底状態では K=0 なので,平行バンドの選択律は 1J とな

る。従って,スペクトルには P 枝,R 枝のみが観測される。それに対して垂直

バンドでは P,Q,R 枝が観測される。

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44

図 6-6. CO2の振動スペクトルの回転構造。(a) 逆対称伸縮振動,(b)変角振動。(大学院物理化学)

参考書

近藤保編,小谷正博・幸田清一郎・染田清彦著『大学院講義物理化学』東京化

学同人

理解のための課題

(1)図 6-3 のピークを P 枝と R 枝に分類せよ。右側の吸収強度のほうが左側

よりも大きいのはなぜか。

(2)ナフタレン,アセチレンの振動自由度はいくらか。

(3)次の分子の中で,赤外吸収スペクトルを示す可能性のあるものはどれか。

(a) H2,(b) HCl,(c) CO2,(d) H2O,(e) CH3CH3,(f) CH4,(g) CH3Cl,(h) N2

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45

2012.10.29

分光化学

7回目 ラマンスペクトル

前回の復習

多原子分子の振動スペクトルについて述べました。

キーワード:非調和性,振動の自由度,基準振動,振動回転スペクトル,

P 枝,Q枝,R 枝

今日の目標

ラマンスペクトルについて理解しよう。

今日の内容

(1)ラマン散乱

(2)ラマンスペクトルの選択律

○振動による分極率の変化

○振動量子数の変化

○相互禁制律(対称心のある場合)

(3)共鳴ラマンスペクトル

(4)コヒーレントアンチストークスラマン分光法

(5)時間分解ラマン分光法

次回

前半のまとめと演習

これまでの資料と電卓をもってきてください。

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46

(1)ラマン散乱

1-1. ラマン散乱

光が物質に散乱されるとき,散乱光の大部分は元の光と同じ波長(振動数)

をもつ。この散乱を,レイリー散乱という。一方,わずかではあるが,散乱光

の中に,入射光と異なる波長の光が含まれる。これをラマン散乱という。ラマ

ン散乱は,光子が物質に当たってエネルギーを変化させる非弾性衝突過程であ

る。エネルギー保存則から,光子エネルギーの変化は,分子のエネルギー準位

間の遷移と同じになる。

12 EEh (7-1)

ラマン散乱光の振動数を ,入射光の振動数を とすると,次のようになる。

(7-2)

したがって,ラマン散乱光の解析から分子のエネルギー準位を知ることができ

る。ラマン散乱は,赤外吸収スペクトルと相補的な情報を与える点で重要であ

る。この点については後述する。また,近赤外~紫外領域の光を用いて測定さ

れるので,赤外光を使う場合と比べて使用できる材料の範囲が広いという利点

がある。また,今日では入射光としてレーザー光が用いられる。レーザー光の

コヒーレンスを利用した分光法や,短パルスレーザーを用いた時間分解測定が

可能なのもラマン分光法の特長である。

入射光よりも低振動数(低エネルギー)の散乱光をストークス線,高振動数

(高エネルギー)の散乱光を反ストークス線(アンチストークス線)という。

ラマン散乱と蛍光とは全く異なる過程である。蛍光が1光子を吸収し,励起状

態となった分子が光を放出する現象である。(第 11 回に詳述)一方,ラマン散

図 7-1. ラマン散乱分光装置の

概略図。

(アトキンス物理化学 P494)

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47

乱は始状態から中間状態を経て終状態への2光子遷移が同時に進行する過程で

ある。蛍光の場合には,分子が入射光を吸収して励起状態に遷移する必要があ

るが,ラマン散乱の場合には入射光の波長は分子のエネルギー準位に共鳴して

いる必要はない。ただし実験的には,蛍光とラマン散乱光の両者が同時に得ら

れてしまい,信号雑音比が低下する場合がある。

1-2. ラマン散乱の古典論

ラマン散乱の発生原理を考察する。

分子が電場 E の中に置かれると,分極 Pが誘起される。

αEP (7-3)

を分極率という。分子に振動数 の光が照射されているとき,電場の時間 t に

よる変化は次のようになる。

t2cos0EE (7-4)

従って,分極 Pも時間変化することになる。

t2cos0αEP (7-5)

ここで,分子が振動数 で振動しているとすると,

t 2cos10 ααα (7-6)

となる。ただし, 0α は平衡核間距離における分極率である。 (7-5),(7-6)から,

次式が得られる。

ttt 2cos2

12cos

2

12cos 010100 EαEαEαP

(7-7)

ここから,振動数 のレイリー散乱に加え,振動数 のラマン散乱光

が発生することが理解できる。

(2)ラマンスペクトルの選択律

ラマン散乱の選択概律は,(7-6)で示すように,振動によって分極率が変化す

ることである。

(7-6)において考えている,分子の基準振動の座標を Q とすると,微小振動に

ついて以下の式が得られる。(Qの2次以上の項を無視している。)

QQ

1 (7-8)

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48

(7-7),(7-8)から,ラマン散乱が観測されるためには, 0

Q

でなければなら

ないことがわかる。ストークスラマン散乱とアンチストークスラマン散乱の選

択律は同じである。

光により分極した分子の持つ双極子モーメントは(7-3)で与えられる。従って,

遷移モーメントが

iQfQ

EifEiPf

(7-9)

となることが予想される。(7-9)は非共鳴のラマン散乱において近似的に成り立

つ式である。このことから,調和近似においてラマン散乱の個別選択律は次の

ようになる。

1 (7-10)

多原子分子の場合,分極率が変化する振動モードを目で見て判断するのは難

しい場合がある。しかし,分子が対称心を持っていれば,赤外,ラマンの両方

とも活性な振動モードは存在しないことが知られている。(両方とも不活性でも

よい。)これを相互禁制律といい,ラマン活性の振動モードを判断するのに役立

つ。

表 7-1. XYX 型直線分子の赤外,ラマン散乱活性(実験化学講座)

(3)共鳴ラマンスペクトル

入射光が電子遷移の振動数にほぼ共鳴する場合,ラマン散乱光の強度が非常

に大きくなる。これを利用したラマンスペクトルの測定法を共鳴ラマン分光法

という。入射光の波長を興味のある分子の吸収波長に合わせることによって,

高選択的に高感度の分光分析ができるのが共鳴ラマン散乱分光法の特徴である。

共鳴ラマン分光法では,電子励起状態と基底状態の遷移が許容である振動モー

ドが強度増加を起こすので,尐数の振動モードだけが強度の増大に関与する場

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49

合がある。その結果として単純なスペクトルが得られることがあるのも特徴の

ひとつである。

(4)コヒーレントアンチストークスラマン分光法

試料に,レーザー光を2つ入射すると,下の2つの条件を満たすとき,コヒ

ーレントな第3の光が生成する。

①ひとつの入射光(振動数 1 )のストークス線と,もうひとつの入射光

の振動数( 2 )が同じである。

12 (7-11)

②波数ベクトルが次の関係を満たす。(図 7-1参照)

213 2 kkk

図 7-4. kベクトルの図(第 4版実験化学講座 P442)

生成する光は,k3ベクトルの方向にコヒーレントに生成し,強度が非常に強い。

その振動数は, 1213 2 となり, 1 に対するアンチストークス線

の振動数となる。この光を利用した分光法をコヒーレントアンチストークスラ

マン分光法(CARS)という。

図 7-3. 光合成細菌膜標品の共鳴ラマンスペク

トル。(a) 363.8 nm励起,(b) 514.5 nm励

起,(c) 588.0 nm励起。(a)ではバクテリ

オクロロフィル,(b)ではカロテノイド

のラマンスペクトルが共鳴効果により

選択的に観測されている。(c)では両方

が観測されている。(浜口,平川編,ラ

マン分光法)

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50

(5)時間分解ラマン分光法

今日のラマン分光法には,入射光としてレーザー光が使われる。そのレーザ

ー光に,非常にパルス幅の短い光を用いた場合,高速の変化をラマン分光法に

よって捉えることができる。このとき,変化のきっかけも同様のパルスレーザ

ー光により与えることが多い。変化のきっかけのレーザー,その後の時間変化

を追いかけるレーザーをそれぞれポンプ光,プローブ光という。このような分

光法を時間分解分光法,あるいはポンプ-プローブ分光法という。

参考書

日本分光学会測定法シリーズ17『ラマン分光法』浜口宏夫・平川暁子編

理解のための課題

(1)ストークス線とアンチストークス線はどちらの強度が強いか。

(2)(7-5),(7-6)から(7-7)を導け。

(3)ベンゼン環の均一な膨張に相当する振動モードはラマン活性か,あるい

は赤外活性か。

(4)ベンゼン環のボート様の変角に相当する振動モードはラマン活性か,あ

るいは赤外活性か。

(5)16O2の伸縮振動に基づくラマン線は 1555 cm

-1に観測される。調和振動を

仮定して伸縮振動の力の定数を求めよ。

(6)波長 532 nmのレーザー光を用いてラマン散乱を測定したところ,3400 cm-1

の位置に Stokes 線が観測された。このラマン散乱光の波長を求めよ。

図 7-4. スチルベン励起状態の時間分解ラマン

スペクトル。

K. Iwata et al., J. Phys. Chem. A 101,

632(1997).

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51

2012.11.12

分光化学

8回目 前半のまとめと演習

前回の復習

ラマン分光法について述べました。

キーワード:ラマン散乱,レイリー散乱,ストークス線,アンチストークス

線,相互禁制律,共鳴ラマン散乱,(CARS)

今日の目標

前半のまとめと演習をしよう。

今日の内容

(1)前半のまとめ

(2)演習

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52

1回目 物質のエネルギー構造

キーワード

ボルツマン分布,占有率

3.3. 光の波長,波数,振動数,角振動数と光子エネルギー

波長:波の空間的周期

波数 k:単位長の間に繰り返される波の数

振動数:周期現象の同じ状態が毎秒繰り返される回数

角振動数:振動数×2

cc

k

21

波長 532 nm の光

k = 18800 cm-1

= 564 THz

= 3.54 PHz

課題

(4)電子レンジのマイクロ波の周波数は 2.45 GHz である。この光の波長,波

数を求めよ。

2回目 光の本性

キーワード

光子,光電効果,仕事関数,ボーアの振動数条件,ベール-ランベルトの法則,

遷移モーメント

4-2. 吸収強度:ベール-ランベルトの法則

試料に光を照射し,透過した光の強度を測定したとする。入射光強度を I0,透

過光強度を Iとする。透過光強度は,試料の長さ l と吸収化学種 J のモル濃度[J]

に関して,次の関係にしたがって変化する。

lII J

0 10 (2-6)

これをベール-ランベルトの法則(ランベルト-ベールの法則)という。ここに現

れるを,モル吸光係数という。

課題

(1)ある試料を 1 cm のセルに入れたときの透過率が 0.1だったとき,セルを

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53

2 cm にすると透過率はいくつになるか。

3回目 2原子分子の回転準位とスペクトル

キーワード

慣性モーメント,換算質量,回転定数,遠心歪み定数,選択律

1-1. 2原子分子の回転運動

Iは次のように書くことができる。

2rI

21

21

mm

mm

エネルギーEは離散的な値を持ち,次式で与えられる。

12

2

JJI

EJ

,2,1,0J (3-9)

回転エネルギーを波数(単位 [cm-1

])で表したものを,回転項 JF という。

1 JBJJF (3-10)

Bを回転定数という。

cI

B4

(3-11)

隣接する準位の間隔は,

BJJFJF 21 (3-12)

である。

(3)回転遷移

3-1. 選択概律

ある分子が純回転スペクトルを与えるためには,その分子は極性でなければな

らない。等核2原子分子は純回転スペクトルを示さない。

3-2. 個別選択律

遷移モーメントの解析から,個別選択律が求まる。

直線分子の個別選択律

1J (3-21)

課題

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54

(5)20Ne

40Arの回転スペクトルから,その回転定数が 2914.9 MHz と求まった。

この分子の核間距離はいくらか。ただし,m(20

Ne)=19.992 u,m(40

Ar)=39.963

uである。

4回目 多原子分子の回転準位とスペクトル

キーワード

慣性モーメント,回転定数,球対称回転子,対称回転子,直線回転子,非対称

回転子,選択律

(1)多原子分子の慣性モーメント

1-1. 慣性モーメントの定義

i

iirmI2

(4-1)

回転定数を用いれば, CBA である。

1-2. 剛体回転子の分類

球対称回転子:3つの慣性モーメントが等しい

対称回転子: 2つの慣性モーメントが等しい

直線回転子: 1つの慣性モーメントが0

非対称回転子:3つの慣性モーメントがどれも違う値をもつ

(2)回転エネルギー準位

2-1. 回転エネルギー準位の考え方

2-2. 球対称回転子のエネルギー準位

球対称回転子のエネルギーは次のようになる。

I

JJEJ2

12

(4-7)

2-3. 対称回転子のエネルギー準位

扁平 (oblate): cba III 扁長 (prolate): cba III

2-4. 直線回転子のエネルギー準位

1 JBJJF ,2,1,0J (4-15)

2-5. 非対称回転子のエネルギー準位

非対称回転子のエネルギー準位および固有関数は解析的に表すことができな

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55

いため,数値計算によってこれを求める。

3-1. 選択概律

多原子分子についても,2原子分子と同様の選択概律がある。つまり,ある

分子が純回転スペクトルを与えるためには,その分子は極性でなければならな

い。CO2,CH4のような無極性分子は純回転スペクトルに対して不活性である。

3-2. 個別選択律

遷移モーメントの解析から,個別選択律が求まる。

2原子分子 1J

球対称回転子 禁制

対称回転子 0K で, 0K のとき 1,0  J

0K で, 0K のとき 1J

直線回転子 1J

課題

(1)次の分子の中で,純回転マイクロ波吸収スペクトルを示す可能性のある

ものはどれか。

H2,HCl,CH4,CH3Cl,CH2Cl2,H2O,H2O2,NH3,N2O

5回目 2原子分子の振動スペクトル

キーワード

2原子分子のポテンシャルエネルギー,調和振動子,零点エネルギー,選択律

(1)2原子分子のポテンシャルエネルギーと調和近似

調和近似,調和振動子

2

2

1kxxV (5-3)

(2)調和振動子のエネルギー準位と波動関数

2原子分子の振動運動に関する Schrödinger 方程式は次のようになる。

Ekxdx

d 2

2

22

2

1

2

(5-4)

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56

21

21

mm

mm

(5-5)

2

1E 2,1,0 (5-6)

2

1

k (5-7)

EE 1 (5-8)

2

10 E (5-9)

エネルギーの最小値を零点エネルギーという。

波数で表した振動のエネルギーを分子の振動項という。振動項は次式で表さ

れる。

~

2

1

G

2

1

2

1~

k

c (5-10)

(3)赤外吸収スペクトルの選択律

振動エネルギー準位間の光による遷移の選択律を示す。結論からまとめると,

次のようになる。

選択概律:振動によって双極子モーメントが変化する。

個別選択律: 1 (5-16)

1 の遷移は吸収, 1 の遷移は放出過程を表す。

4.4. ボルツマン分布(1回目)

kT

EE

j

i

ji

eN

N

(1-7)

k = 1.38×10-23

JK-1 (ボルツマン定数)

課題

(4)1H

35Cl の力の定数は 516 Nm

-1である。ここから,振動の角周波数,振

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57

動数,および~を求めよ。また, 01 の遷移の波長はいくら

か。

(5)1H

35Cl と 2

H35

Clの力の定数が同じだとして,2H

35Cl の~を求めよ。

(7)(a) 298 K,(b) 500 K において,振動の基底状態と第一励起状態にある HCl

分子の相対的な数の比はいくらか。

6回目 非調和性と多原子分子の振動スペクトル

キーワード

非調和性,振動回転スペクトル,P 枝,Q 枝,R 枝,振動の自由度,基準振動,

選択律

(1)非調和性

分子振動の調和近似に対する違いを非調和性という。非調和性を考慮すると,

エネルギーが高い領域では,エネルギー準位の間隔が小さくなる。

(2)2原子分子の振動回転スペクトル

2-1. 選択律

1 , 1J (6-3)

2-2. スペクトル枝

P 枝: 1J

Q枝: 0J (6-4)

R 枝: 1J

遷移波数は次のようになる。

P 枝: BJJSJSP 2~,1,1~ (6-5)

Q枝: ~,,1~ JSJSP (6-6)

R 枝: BJJSJSP 2~,1,1~ (6-7)

2原子分子の場合は,NOのような特殊な場合を除いて Q枝は観測されない。

(3)多原子分子の振動の自由度

系を指定するのに必要な座標のうち,独立なものの数を自由度という。

直線分子の振動自由度: 3N-5

非直線分子の振動自由度:3N-6

(4)基準振動

この場合,分子の重心は変化せず,また,一方が励起されても,他方が励起

されることがない。つまり2つの振動モードが独立となる。このような振動モ

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58

ードの選び方を基準振動という。

(5)多原子分子の振動回転スペクトル

選択概律は,基準振動に対応する運動によって,双極子モーメントが変化す

ることである。個別選択律については,調和近似の範囲では2原子分子の場合

と同様に, 1 となる。

多原子分子の場合も,Jの変化に応じたスペクトル枝がある。

課題

(3)次の分子の中で,赤外吸収スペクトルを示す可能性のあるものはどれか。

(a) H2,(b) HCl,(c) CO2,(d) H2O,(e) CH3CH3,(f) CH4,(g) CH3Cl,(h) N2

7回目 ラマンスペクトル

(1)ラマン散乱

1-1. ラマン散乱

光が物質に散乱されるとき,散乱光の大部分は元の光と同じ波長(振動数)

をもつ。この散乱を,レイリー散乱という。一方,わずかではあるが,散乱光

の中に,入射光と異なる波長の光が含まれる。これをラマン散乱という。

入射光よりも低振動数(低エネルギー)の散乱光をストークス線,高振動数

(高エネルギー)の散乱光を反ストークス線(アンチストークス線)という。

1-2. ラマン散乱の古典論

(2)ラマンスペクトルの選択律

ラマン散乱の選択概律は,振動によって分極率が変化することである。

調和近似においてラマン散乱の個別選択律は次のようになる。

1 (7-10)

多原子分子の場合,分極率が変化する振動モードを目で見て判断するのは難

しい場合がある。しかし,分子が対称心を持っていれば,赤外,ラマンの両方

とも活性な振動モードは存在しないことが知られている。(両方とも不活性でも

よい。)これを相互禁制律といい,ラマン活性の振動モードを判断するのに役立

つ。

課題

(5)16O2の伸縮振動に基づくラマン線は 1555 cm

-1に観測される。調和振動を

仮定して伸縮振動の力の定数を求めよ。

(6)波長 488 nmのレーザー光を用いてラマン散乱を測定したところ,1600 cm-1

の位置に Stokes 線が観測された。このラマン散乱光の波長を求めよ。

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59

分光化学演習

2010.11.12

学籍番号 名前

5回目(4)1H

35Cl の力の定数は 516 Nm

-1である。ここから,振動の角周波数,

振動数,および~を求めよ。また, 01 の遷移の波長はいく

らか。

(5)1H

35Cl と 2

H35

Clの力の定数が同じだとして,2H

35Cl の~を求めよ。

(7)(a) 298 K,(b) 500 K において,振動の基底状態と第一励起状態にある HCl

分子の相対的な数の比はいくらか。

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60

2012.11.19

分光化学

9回目 電子スペクトル(1):原子軌道と遷移

前回の復習

前半のまとめと演習をしました。

今日の目標

原子軌道と軌道間の遷移について理解しよう。

今日の内容

(1)水素原子のスペクトル

(2)多電子原子

○構成原理

(3)電子スピン

○スピン

○一重項,三重項

○スピン-軌道カップリング

○項記号

○原子のスペクトル

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61

(1)水素原子のスペクトル

水素原子のオービタルは,主量子数 n,角運動量量子数 l,磁気量子数 mlの3

つの量子数で決まる。それぞれは,次のような値を持つ。

llllm

nl

n

l

,,2,1,

1,,2,1,0

,3,2,1

(9-1)

主量子数 nに対応するオービタルは,殻を形成するという。

n = 1 2 3 4

殻 K L M N

nが同じで,l の異なるオービタルをその殻の副殻という。

l = 1 2 3 4

副殻 s p d f

これらの2つを用いて,水素原子のオービタルは 1s,2s,2p,のように表現す

ることができる。水素原子においては,同じ殻に属するオービタルは同じエネ

ルギーを持つ。これを縮退という。主量子数 nの殻は n2重に縮退している。

原子のエネルギー準位間で,光の吸収,放出による遷移が起こる。水素原子

については,その選択律は以下のようになる。主量子数に対する制限はない。

1l 1,0 lm (9-2)

水素原子の波動関数 ,,r は,動径波動関数 rR と球面調和関数 ,, lmlY を用いて

以下のように表される。

,,, , lmlYrRr (9-3)

(9-2)の選択律を考える。

Z方向の遷移モーメントを考える。10

2

1

3

4rYZ

を用いて,次式が得られる。

ddYYYdrrrRRr

dzeizfeif

liilff mlmlif

ifz

sin,100

*

,2*

*

(9-4)

球面調和関数の性質から,(9-4)が 0でない値を持つためには,

10 if ll ,lilf mm 0 (9-5)

が必要である。X 方向,Y方向の遷移モーメントも考慮すると,(9-2)が得られる。

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62

水素原子のエネルギー準位は,次式で与えられる。

222

0

41

8 nh

emE e

n

(9-6)

主量子数 n2の準位から n1の準位に遷移して発光が起こる場合(n2> n1),発光の

振動数をとすると

2

2

2

1

22

0

411

812 nnh

emEEh e

nn

(9-7)

となる。ここから,実際のスペクトルを説明することができる。(図 9-1.)

n1=1,2,3 の発光線をそれぞれライマン系列,バルマー系列,パッシェン系列

と呼ぶ。

図 9-1. 水素原子のエネルギー準位と発光スペクトル(マッカーリサイモン物理化学)

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63

(2)多電子原子のスペクトル

2-1. 構成原理

水素原子以外の原子については,パウリの排他原理と電子の遮蔽効果によっ

て決まる,構成原理に従って電子配置を考えることができる。

副殻のエネルギーは,電子の遮蔽効果の大きさによって次のようになる。

fdps (9-8)

原子番号 Zの裸の原子核を考え,そのオービタルに Z個の電子を順番に入れる。

オービタルが占有される順序は以下のようになる。

1s 2s 2p 3s 3p 4s 3d 4p 5s 4d 5p 6s ∙∙∙

p 副殻は3個,d 副殻は5個のオービタルからなる。ひとつのオービタルには,

電子スピンの異なる2個の電子がはいることができる。

2-2. 電子スピン

電子は,原子核のまわりを運動することによる角運動量のほかに,固有の角

運動量をもっている。これをスピンという。電子のスピン角運動量は 2

3の大

きさを持つ。スピン状態は,2

1 の値を持つスピン量子数で規定される2つの

状態をもつ。これを,で表す。

2-3. 一重項状態と三重項状態

2個の電子の波動関数 2,1 を考える。波動関数には,粒子の交換に対する

反対称性が必要である。

1,22,1 (9-9)

これを満たす波動関数として,以下のものが考えられる。

12212

112212,1 (9-10)

21

12212

121

12212,1

(9-11)

ここで,, は軌道関数である。つまり,波動関数の反対称性(9-9)を満たす

ために,軌道関数が対称,スピン関数が反対称となる組み合わせ(9-10)と,軌道

関数が反対称でスピン関数が対称となる組み合わせ(9-11)がある。

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64

電子数が2個の場合,スピン関数が反対称になる組み合わせは1個しかない。

これを一重項状態という。スピン関数が対称になる組み合わせは3個ある。こ

れを三重項状態という。一般的に,同じ配置から生じる状態については,三重

項状態のほうが一重項状態よりエネルギーが低い(安定である)。

2-4. スピン-軌道カップリング

電子のスピン角運動量による磁気モーメントと,電子の軌道運動による磁気

モーメントは相互作用し,全体の角運動量に変化を与える。この相互作用をス

ピン-軌道カップリングという。

電子が複数ある場合には,以下のようにして全オービタル角運動量量子数 L,

全スピン量子数 S,全角運動量量子数 Jを考える。

2つの電子がオービタル角運動量量子数 l1,l2をもつ場合,L の値は

212121 ,,1, llllllL (9-8)

となる。同様にして,全スピン量子数は次のようになる。

212121 ,,1, ssssssS (9-9)

12 S という値のことを,系の多重度という。前項に述べた一重項状態,三重

項状態の多重度はそれぞれ1,3である。

全角運動量量子数は,スピン-軌道相互作用の大きさによって異なる考え方

をする必要がある。スピン-軌道相互作用が小さい場合は,全オービタル角運

動量と全スピン角運動量の相互作用を考える。これをラッセル-ソンダース結

合という。一方,スピン-軌道相互作用が大きい場合は,個々の電子のオービ

タル角運動量とスピン角運動量の相互作用を考え,それを足し合わせたものに

なる。これを jj結合という。ラッセル-ソンダース結合は軽原子,jj 結合は重原

子を記述する。

ラッセル-ソンダース結合の場合,全角運動量量子数 Jは次のようになる。

SLSLSLJ ,,1, (9-10)

2-5. 項記号

原子の状態を表すのに,項の記号が用いられる。項記号は次の形をしている。

JS L12

(9-11)

L は全オービタル角運動量量子数,S は全スピン量子数,J は全角運動量量子数

である。Jについては,ラッセル-ソンダース結合を考える。

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65

全オービタル角運動量 L は,以下の記号で表す。

L: 0 1 2 3 4 5 …

S P D F G F …

2-6. 原子のスペクトル

ラッセル-ソンダース結合の当てはまる多電子原子については,以下の選択

律が成り立つ。

0S 1,0 L

1,0 J (ただし 0J から 0J への遷移は禁制) (9-16)

例えば,ナトリウムの 2重線の遷移は,次のようになる。

2/121

2/321 33 SsPp (9-17)

2/121

2/121 33 SsPp (9-18)

(吸収の場合も高いエネルギー準位を先に書く。例えば, 2/121

2/121 33 SsPp

となる。)

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66

2012.11.26

分光化学

10 回目 電子スペクトル(2):分子軌道と遷移

前回の復習

原子軌道と軌道間の遷移について述べました。

今日の目標

分子軌道と軌道間の遷移について理解しよう。

今日の内容

(1)分子軌道法

○LCAO-MO 法

○σオービタル

○反結合オービタル

○πオービタル

○等角2原子分子

パリティ→対称心のある分子

○項記号

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67

(1)分子軌道法

1-1. 1s 軌道による分子軌道

裸の原子核のオービタルに電子を順番に入れていく考えを分子に応用したの

が分子軌道法である。分子軌道法では,分子全体にわたって広がるオービタル

に順番に電子を入れていくと考える。分子のオービタルとして,原子オービタ

ルの一次結合をとる方法(LCAO-MO 法)がよく用いられる。

2つの原子 A,Bの 1s オービタルによる分子軌道を考える。全波動関数 は,

2つの原子のオービタル A,Bの一次結合になる。

BAN (10-1)

ただし,A,Bは 1s 波動関数,N は規格化定数である。このように,原子核同士

を結ぶ軸のまわりに円筒形の対称をもつ分子オービタルをオービタルという。

と から電子密度を求めると次のようになる。

ABBAN 22222 (10-2)

のオービタルは,2つの原子が安定な化学結合をもつ状態を表しているの

で結合オービタル(結合性オービタル)という。このオービタルは最低エネル

ギーのオービタルなので,1オービタルという。一方, は よりも高いエ

ネルギー準位を与える。これを 2オービタルという。2オービタルを電子が占

めると原子間の結合が弱まるため,これを反結合オービタル(反結合性オービ

タル)という。反結合性オービタルには*の記号をつける。つまり, のオー

ビタルは 2オービタルと表せる。

1-2. 周期表第 2周期の2原子分子

周期表第 2周期では,2s,2px,2py,2pzオービタルが関与する。このうち,2s

図 10-1. 分子オービタル(マッカーリサイモン物理化学)

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68

オービタルは 1s オービタルと同様にして 1,2*オービタルを形成する。また,

2pzオービタルも図に示すような 3,4*オービタルを形成する。

図 10-2. 2Pzオービタルの一次結合からできる分子オービタル

(マッカーリサイモン物理化学)

2px,2pyオービタルを考える。これらのオービタルは結合軸に垂直で,側面同士

の重なりがある。その結果,結合,反結合オービタルを形成する。これをオー

ビタルという。オービタルは結合軸のまわりに角運動量をもっている。2px,2py

が形成するオービタルは縮退しており,結果として2個の結合性オービタル

(1)と2個の反結合性オービタル(2)を形成する。

図 10-3. 2Pxオービタルの一次結合からできる分子オービタル

(マッカーリサイモン物理化学)

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69

図 10-4. 等核 2原子分子の電子配置(大野公一 量子物理化学)

酸素分子の電子配置は,2*422*2 2ππ13σ2σ1σ となる。

*2π の2つの電子は,スピンを

平行にそろえる。このため,酸素分子の基底状態は3重項となり,常磁性を示す。

1-3. パリティ

対称心のある分子について,反転に対する波動関数の変化を考える。反転中

心に対する反転操作に対してオービタルが同じ符号を持つ場合を g,反対の符号

を持つ場合を u と表記する。これを,その分子のパリティという。g,u はそれ

ぞれ,偶数,奇数を表すドイツ語,geradeと ungeradeからきている。

結合性オービタルは gのパリティをもつので,これをgで表す。一方,反結

合性オービタルは u のパリティであり,これをuで表す。結合性,反結合性

オービタルは,それぞれu,gである。

図 10-5. 分子軌道とパリティ(アトキンス物理化学 P436)

1-4. 項記号

等核二原子分子の状態を表すのに,項の記号が用いられる。結合軸のまわり

の角運動量量子数に対して,次の記号を使う。

L: 1 2 3 …

… (10-3)

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70

項記号の左上に分子の多重度 2S+1をつける。分子のパリティを項記号の右下に

表記する。項については核を含む面における鏡映によって波動関数が符号を変

えるかどうかによって,右上に±を表記する。

図 9-7. 分子軌道の鏡映対称性(アトキンス物理化学 P437)

1-5. 分子軌道間の遷移の選択律

等核二原子における遷移の選択律は,以下のようになる。

0S 1,0 L

ug は許容, gg , uu は禁制 (10-4) ,

は許容, は禁制

理解のための課題

(1)酸素分子の基底状態の電子配置と項記号を求めよ。

表 9-1. 等核2原子分子の電子配置と項記号

分子 電子配置 項の記号

H2+ (1g)

1

2g

+

H2 (1g)2

1g

+

He2+ (1g)

2(1u)

1

2u

+

Li2 (1g)2(1u)

2(2g)

2

1g

+

B2 (1g)2(1u)

2(2g)

2(2u)

2(1u)

1(1u)

1

3g

C2 (1g)2(1u)

2(2g)

2(2u)

2(1u)

2(1u)

2

1g

+

N2+ (1g)

2(1u)

2(2g)

2(2u)

2(1u)

2(1u)

2(3g)

1

2g

+

N2 (1g)2(1u)

2(2g)

2(2u)

2(1u)

2(1u)

2(3g)

2

1g

+

O2+ (1g)

2(1u)

2(2g)

2(2u)

2(3g)

2 (1u)

2(1u)

2(1g)

1

2g

O2 (1g)2(1u)

2(2g)

2(2u)

2(3g)

2 (1u)

2(1u)

2(1g)

1(1g)

1

3g

F2 (1g)2(1u)

2(2g)

2(2u)

2(3g)

2 (1u)

2(1u)

2(1g)

2(1g)

2

1g

+

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2012.12.3

分光化学

11回目 電子スペクトル(3):フランクーコンドン原理

前回の復習

分子軌道と軌道間の遷移について述べました。

今日の目標

フランク-コンドン原理について理解しよう。

今日の内容

(1)電子のエネルギー準位間の遷移

(2)フランク-コンドンの原理

○ボルン-オッペンハイマー近似

○ポテンシャルエネルギー曲面

○振動帯列

○フランク-コンドン因子

(3)原子・分子の軌道と遷移

○dd遷移

○電荷移動遷移

○π*←π,π*←n

(4)電子状態の記号

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図 11-1. ポテンシャルエネルギー

(アトキンス物理化学 P418)

(1)電子のエネルギー準位間の遷移

分子が光を吸収,放出することによって,電子エネルギー準位間の遷移が起

こる。この遷移のエネルギーは,数 eV程度である。(1 eV = 8000 cm-1

=100 kJmol-1)

したがって,電子遷移に関連する光は,可視または紫外領域の光である。電子

遷移では,電子,振動,回転状態のすべてが変化する。

(2)フランク-コンドンの原理

2-1. ボルン-オッペンハイマー近似

一般に,分子の中の電子の運動については,

厳密解を得ることができない。従って,近似

を用いることになる。ボルン-オッペンハイ

マー近似では,原子核は電子よりもずっと重

いので,その運動はゆっくりであり,電子が

原子核に対して相対的に動いている間は原子

核が静止しているものと考える。この近似の

上では,分子をある構造に固定し,電子の波

動関数を計算することができる。

ボルン-オッペンハイマー近似のもとでは,

分子の構造(核間距離など)の関数として電

子エネルギーを計算することができる。これ

を,分子のポテンシャルエネルギー曲面(一次

元の場合は曲線)という。

2-2. フランク-コンドンの原理

電子遷移に対しても,ボルン-オッペンハイマー近似と同様のことを考える。

つまり,原子核は電子よりはるかに重いので,電子遷移は原子核の応答よりず

っと速く起こる。これを,フランク-コンドンの原理という。電子遷移は,原

子核のつくる静止した骨組みの中で起こる,という考え方である。

フランク-コンドン原理に従うと,ポテンシャルエネルギーの図において遷

移は垂直な線に沿って進行する。これを垂直遷移と呼ぶ。

通常,室温程度以下の分子は電子基底状態の振動基底状態を占有している。

電子励起状態の構造が基底状態の構造と異なる場合,電子励起状態のさまざま

な振動状態への遷移がおこる。スペクトル上に振動状態の異なる準位への遷移

が観測される場合,スペクトルの構造を振動構造と呼び,規則的な振動構造が

現れる場合にそれを振動帯列(プログレッション)という。

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図 11-4. フランク-コンドン原理と振動のプログレッション

(日本分光学会編「分光測定の基礎」P. 96)

図 11-2. 基底状態と励起状態のポテンシャルと遷移

(アトキンス物理化学 P540) 図 11-3. 振動帯列

(マッカーリ・サイモン物理化学)

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2-3. フランク-コンドン因子

電子遷移の遷移強度は,始状態と終状態の振動波動関数の重なり積分の2乗

2

if に比例する。2

if を,フランク-コンドン因子という。

遷移モーメントの考察から,フランク-コンドン因子を導く。分子の双極子

モーメント演算子は次のようになる。

j I

IIj Zee Rrμ (11-1)

ベクトルは,分子の電荷の中心からの座標を表す。ボルン-オッペンハイマー

近似を用い,分子の波動関数 を電子の部分 と振動の部分 に分離し,次

のように表す。

(11-2)

遷移モーメントは以下のようになる。

iIf

j I

ifIifijf

ii

j I

IIjff

Zee

Zeeif

Rr

Rrμ

(11-3)

2つの異なる電子状態の波動関数は直交する。

0if (11-4)

したがって,

j

ifijfeif rμ

(11-5)

となる。遷移強度は遷移モーメントの大きさの2

乗に比例するので,2

if に比例することが

説明できる。

図 11-5. フランク-コンドン因子

(アトキンス物理化学)

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(3)原子・分子の軌道と遷移

3-1. π*←π遷移とπ*←n遷移

C=C 二重結合による光の吸収が起こると,電子が*オービタルに励起する。

これをπ*←π遷移という。非共役二重結合では,遷移のエネルギーは 7 eV 程

度であり,紫外部(180 nm)の吸収に相当する。二重結合が共役している場合

はエネルギー準位が接近するので,遷移波長は長波長側に動く。共役鎖長が十

分長い場合は,可視部に吸収が現れる。芳香環の形成についても長波長シフト

が見られ,ベンゼンは 250 nm 付近に吸収を持つ。

カルボニル化合物は,O 原子の非共有電子対の電子がカルボニル基の*オー

ビタルに励起する。これをπ*←n 遷移という。この遷移は禁制遷移なので,吸

収強度は小さい。

3-2. d-d遷移

孤立原子中の dオービタルは縮退している。一方,d金属(遷移金属)錯体で

は,配位子の効果によって縮退が解け,そのエネルギー準位間の遷移が現れる。

これを d-d 遷移という。[Ti(OH2)6]3+のような八面体の錯体では,図に示すよう

な分裂が起き,500 nm 付近に吸収が現れる。この遷移は一般に可視領域にあり,

遷移金属錯体の多彩な色の原因となる。八面体錯体の場合,吸収は禁制である

ために,吸収強度は弱い。

3-3. 電荷移動遷移

錯体において,配位子から中心金属原子の d オービタルへ,もしくはその逆

方向に電子が移動して光を吸収する場合がある。このような遷移を電荷移動遷

移という。電子が長距離を移動するため,遷移モーメントが大きくなり,非常

に強い吸収強度を示すことがある。

過マンガン酸イオン,MnO4-の吸収が例として挙げられる。このイオンの可視

部(420-700 nm)の吸収は,O原子の電子が Mn 原子に移動する。

図 11-6. 八面体錯体におけるdオービタルの分裂

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(2)電子状態の記号

基底状態および励起状態を以下の記号で表すことがある。

○基底状態:S0,最低励起一重項状態:S1,n 番目の励起一重項状態:Sn

最低励起三重項状態:T1,n番目の励起三重項状態:Tn

○基底状態:X状態

基底状態と同じスピン多重度の励起状態:エネルギーの低い順に A,B…状態

基底状態と異なるスピン多重度の励起状態:エネルギーの低い順に a,b…状態

理解のための課題

(1)下の図の(i)~(iv)の電子遷移に相当する吸収スペクトルを①~④の中から

選べ。ただし,(i)~(iv)の横軸は基準座標を,縦軸は各電子状態のポテン

シャルエネルギーを表し,①~④の横軸は右向きに波数に比例する量を,

縦軸は吸収スペクトルの強度を表す。

図 11-7. 分子の基底状態と最低励起一

重項,三重項状態 図 11-8. 酸素分子のポテンシャル曲線

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2012.12.10

分光化学

12回目 光励起分子の動的過程

前回の復習

フランク-コンドン原理について述べました。

今日の目標

光励起分子の動的過程について理解しよう。

今日の内容

(1)光励起分子の運命

○放射減衰(輻射緩和)

○無放射減衰(無輻射緩和)

(2)蛍光

(3)りん光

○系間交差(項間交差)

○りん光

(4)無輻射遷移

(5)解離

○内部転換,内部振動緩和

(6)光化学反応

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(1)光励起分子の運命

光を吸収した励起状態の分子は何らかの道筋をたどって基底状態へと遷移す

る。これを緩和(減衰)という。輻射緩和過程は,光励起エネルギーを光子と

して放出する過程である。また,無輻射緩和過程は,光励起エネルギーが分子

の振動や回転,並進などに移動する過程である。輻射のことを放射と呼ぶこと

がある。光励起分子は化学反応を引き起こす場合もある。これを光化学反応と

いう。このように,光励起分子はさまざまな運命を持つ。光を吸収した分子の

うち,ある運命(例えば蛍光を発するという運命)をたどる分子の割合を(蛍

光の)量子収率という。

(2)蛍光

蛍光は,分子が光を吸収して生成した励起状態

から,光を放出して基底状態に戻る際に発する光

である。

光の吸収と放出はフランク-コンドン原理に従

って起きるが,光吸収から蛍光放出までの時間に,

励起状態のポテンシャル曲面上で無輻射緩和が起

き,エネルギーを失う。このため,蛍光は入射光

の振動数よりも低振動数になる。(長波長になる)

吸収スペクトルは励起状態の振動構造を示す。

一方,蛍光スペクトルは基底状態の振動構造を示

す。このため,基底状態と励起状態の振動構造が

近い場合,吸収スペクトルと蛍光スペクトルは鏡

像に近い形になる。

光吸収から,蛍光放出が続く時間を蛍光の寿命という。分子によって異なるが,

蛍光寿命は数 ns から数 10 ns である。

図 12-1. 蛍光

(アトキンス物理化学 P547)

図 12-2. 吸収スペクトルと蛍光スペクトル

(可視・紫外分光法)

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表 12-1. 蛍光寿命(化学便覧)

(3)りん光

分子が光を吸収すると,励起一重項状態となる。通常は,高い励起状態に遷

移しても速やかに最低励起一重項状態(S1 状態)へ遷移する。ここで,電子ス

ピンを転換する機構があると,分子は三重項状態(通常は最低励起三重項状態,

T1 状態)へと遷移する。これを項間交差(系間交差)という。項間交差は,ス

ピン軌道相互作用の大きな重原子を含む場合に起こりやすい。

項間交差を経た分子は,三重項状態のポテンシャル曲面上を運動し,T1 状態

の振動基底状態へと遷移する。T1 状態から基底状態への光による遷移は禁制の

ため,T1 状態の寿命は長くなる。このため,光の放出が長い時間続くことにな

る。これをりん光という。りん光の寿命は長く,数秒になる場合もある。

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80

表 12-2. りん光寿命(化学便覧)

(4)無輻射遷移

蛍光,りん光のように光を放出する過程を含まない緩和過程を無輻射遷移と

いう。項間交差は無輻射遷移の一種である。スピン多重度が同じ,他の電子状

態(の振動励起状態)に遷移する過程を内部転換(internal conversion, IC)とい

う。また,振動励起状態の分子は,振動緩和(vibrational relaxation)によって振

動基底状態へと遷移する。高振動励起状態では,同じエネルギー領域にほかの

振動準位が多く存在するので,それらへの遷移が起

こる。これを分子内振動エネルギー再分配(internal

vibrational energy redistribution, IVR)という。このよ

うにして,無輻射遷移によって基底状態へと遷移す

る場合がある。

(5)解離

電子励起された分子のたどる過程として,結合が

切れる場合がある。これを解離という。解離性のポ

テンシャルと束縛状態のポテンシャルが重なる場合,

束縛状態のポテンシャル上の振動状態へと遷移し,

図 12-3. 蛍光,項間交差,りん光

(可視・紫外分光法)

図 11-4. 前期解離

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その後解離が進行する場合がある。これを前期解離という。前期解離が起こる

と,分子の寿命が短くなるのでスペクトルの線幅が太くなり,振動構造がなく

なる。一方,その振動数よりも高い振動数に束縛状態が生まれ,振動構造が表

れるようになる。

(6)光化学反応

光励起分子が,化学反応を引き起こすことがある。分子が高いエネルギーを

持つこと,励起状態の電子分布が基底状態と異なることなどから,光化学反応

は,基底状態の分子の反応とは全く異なったものになる。光化学反応の例を示

す。

6-1. 励起分子の高いエネルギーによるもの

分子の結合エネルギーよりも高いエネルギーの光を吸収すると,分子が解離

する。(光解離という。)解離して生成した反応物がさらに化学反応が進む場合

がある。

ClClCl2 h

(12-1)

上の反応が,水素との混合気体中で起こった場合は,連鎖反応が誘起され,塩

化水素を生じる。

2 H C lClH 22 h

(12-2)

ClHClClH

HHClClH

ClClCl

2

2

2h

(12-3)

6-2. 基底状態と異なる電子分布によるもの

m 個のπ電子を持つ鎖状化合物と n 個のπ電子を持つ鎖状化合物のそれぞれ

の両端の間に,新たに2つのσ結合が生成する反応を[m + n]付加環化反応とい

う。代表例は,[4+2]の場合,すなわちブタジエンとエチレンからシクロヘキセ

ンが生成する Diels-Alder 反応である。これは,基底状態で進行する化学反応で

ある。

(12-4)

+

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82

図 12-5.

Diels-Alder 反応の軌道相関図ブタジエ

ンの最高占有軌道(HOMO)と最低非

占有軌道(LUMO)の位相がそろってい

るために反応が進行しやすい。

一方,エチレン2分子からシクロブタンを生成する反応は,基底状態では進行

しないが,電子励起状態では進行する反応である。これは,電子励起状態にお

いて分子軌道の位相が一致するためである。

(12-5)

参考書

分光測定入門シリーズ1『分光測定の基礎』日本分光学会編

分光測定入門シリーズ5『可視・紫外分光法』日本分光学会編

化学選書『有機光化学』杉森彰 裳華房

理解のための課題

(1)Cl2の結合エネルギーは 239.2 kJ/molである。(11-1)の反応が起こるために

は,どのような波長の光が必要か。

(2)O2の結合エネルギーは 493.6 kJ/mol である。O2の光解離が起こるために

は,どのような波長の光が必要か。

(3)成層圏オゾン層生成機構として提案されている Chapman 機構について調

べよ。

+

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2012.12.17

分光化学

13回目 レーザー

前回の復習

光励起分子の動的過程について述べました。

今日の目標

レーザーについて理解しよう。

今日の内容

(1)レーザー光

○レーザー光はどんな光か

(2)レーザー発振の原理

○レーザーの基本構成

○レーザー発振の原理

(3)レーザーの具体例

○固体レーザー

○気体レーザー

○エキシマーレーザー

○ダイオードレーザー

○色素レーザー

(4)レーザー分光学

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(1)レーザー光

1-1. Laser

レーザーは,「放射の誘導放出による光の増幅」(Light Amplification by

Stimulated Emission of Radiation)から作られた頭字語である。プリンタ,CD,ポ

インタなど,たくさんの応用があり,日常でも親しまれている光であるレーザ

ーの原理について理解しよう。

1-2. 指向性

レーザー光は,ほとんど一直線に進む。理想的なレーザーでは,レーザーの

指向性を表す広がりの角 は,ビームの直径を d,レーザー光の波長をとす

ると,

d

(13-1)

となる。波長 600 nm,直径 2 mm の光であれば, は~0.3 mrad となり,10 m

進んでも約 3 mm しか広がらない。

レーザーの指向性がよいのは,レーザービーム断面で各部分の位相がそろっ

ているからである。一般に,波の位相がそろっていることをコヒーレントであ

るという。

1-3. 単色性

レーザー光は,空間的にコヒーレントであるだけでなく,時間的にもコヒー

レントである。時間的に波の位相が変化しないということは,波の波長が等し

いことを意味する。このため,レーザー光は,波長の広がりが尐ない,単色性

の高い光となる。実際には,共振器の機械的な安定性や媒質の励起条件に揺ら

ぎがあり,一定の線幅を持つ。

1-4. エネルギー密度

レーザーの効率は高くない。通常のレーザーの出力は,入力電力の 0.1%以下

であり,最高でも 40%に達しない。大出力のレーザーでも 10 – 100 W 程度であ

る。しかし,レーザー光は指向性が高いので,レンズで集光した場合,そのエ

ネルギー密度が非常に高い。エネルギー密度の高い領域では,光子の密度も非

常に大きいため,1つの原子,分子と複数個の光子が相互作用することがしば

しば起きる。

1-5. 光パルス

レーザー光は,Qスイッチ,あるいはモードロックという技術を利用すると,

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85

パルス幅をそれぞれ数 ns,あるいは数 10 fs という短い幅にすることができる。

パルス発振するレーザーをパルスレーザーと呼ぶのに対し,連続的に発振する

レーザーを連続発振レーザー(CW レーザー)と呼ぶ。大出力,超短パルスの

レーザーでは,その尖頭出力が 1 PW に達する場合がある。

(2)レーザー発振の原理

2-1. レーザーの基本構成

レーザーの基本構成は,2枚の反射鏡の間に反転分布を持つ増幅媒質を入れ

たものである。2枚の反射鏡はファブリ・ペロー共振器を構成して,共振周波

数の光を閉じ込める。閉じ込められた光は発振し,レーザーとなる。

図 13-1. レーザーの基本構成

2-2. レーザー発振の原理

励起状態と,そこから光放出により遷移する下の状態があったとき,励起状

態の占有数がその下の状態の占有数よりも多いとき,占有数の逆転が起こって

いるという。また,その状態を反転分布という。レーザー作用には,反転分布

を持つ媒質が必要である。

エネルギー準位が2つしかなかった場合は,励起状態の占有数が増えるほど

励起状態から基底状態への遷移が起こりやすくなり,結果として反転分布は形

成されない。レーザーには,3準位以上を持つ媒質が必要である。

3準位レーザーでは,光によるポンピングによって基底状態 X から励起状態

I へと遷移させると,別の励起状態 A に高速に遷移するが,A から X への遷移

はそれほど速くないことが要求される。このとき,A 状態の占有数が大きくな

り,反転分布が形成される。

一方,3準位レーザーでは,本質的に占有数の多い基底状態のよりも励起状

態の占有数を高める必要がある。4準位レーザーでは,レーザー遷移の行き先

として空の準位 A’を用いることにより,反転分布が形成しやすくなっている。

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図 13-2. 3準位レーザー,4準位レーザー

反転分布を持つ媒質を光が通過すると,誘導放出により励起状態から下の状

態への遷移が誘起され,光の強度が増幅される。この作用は,下の状態の占有

数が多い場合に光の吸収が起こるのと逆の作用である。

光が共振器内に閉じ込められていると,定在波を生じる。共振器の損失より

も反転分布媒質による増幅効果の方が大きい場合,光の増幅,発振がおこる。

これがレーザーの発振原理である。

2-3. Qスイッチ

連続発振レーザーでは,持続的な励起によって反転分布を維持している。こ

れに対し,パルスレーザーでは,尖頭値の大きな光パルスを作ることができる。

パルスを作り出すひとつの方法として,Q スイッチ法がある。これは,レーザ

ー共振器(キャビティ)の共振特性を変化させる方法である。

共振器の Q 値とは,キャビティに蓄えられたエネルギーとキャビティの損失

の比である。Q スイッチ法では,まずレーザー共振器の Q 値を低い値にしてお

き,共振器にエネルギーが蓄えられたときに急速に Q 値を高め,たまったエネ

ルギーを一気に光として放出させるものである。通常は,パルス幅は約 10 ns と

なる。

2-4. モード同期

ファブリ・ペロー共振器では,向かい合う鏡面の距離が光の半波長の整数倍

であったときに共振が起こる。あるひとつの整数に対する共振状態のことを,

共振器の縦モードという。一方,共振器を光の進行方向から見た際,光が強く

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87

なっている場所が複数存在する場合がある。その基本的な形の一つ一つを,共

振器の横モードという。たいていのレーザーは,いくつかのモードが同時に発

振している。

レーザーの縦モードを考える。通常は,異なる縦モードはランダムな位相で

発振している。この位相を同期させ,隣り合う縦モードの位相差が一定になる

ようにすると,共振器内での干渉により,一連の鋭いピークが生じる。これを

モード同期という。モード同期レーザーでは,最短で数 fs という時間幅のパル

スが得られている。

(3)レーザーの具体例

3-1. 固体レーザー

レーザー媒質が固体のレーザーを固体レーザーという。世界で最初に成功し

たレーザーであるルビーレーザーは,固体レーザーの一種である。近年では,

Nd:YAG レーザーが非常によく用いられる。これは,イットリウムアルミニウ

ムガーネット(YAG)に Nd3+をドープした媒質を用いたレーザーである。Nd:YAG

レーザーは4準位レーザーであり,基本波として 1064 nm の光を発生する。レ

ーザーポインタなどで日常目にする緑色の光は,この 1064 nm の光の2倍波で

ある,532 nm の光である。

Ti原子をドープしたサファイアをレーザー媒質とするレーザーをTi:サファイ

アレーザーという。Ti:サファイアレーザーは,非常に広い発振波長幅を持つた

め,波長可変レーザー,もしくはモード同期を利用した超短パルスレーザーと

して利用される。

3-2. 気体レーザー

媒質が気体のレーザーを気体レーザーという。冷却が容易なため,高出力の

レーザーが得られる。気体の励起には,放電が用いられることが多い。

ヘリウム-ネオンレーザーは,ネオン原子のエネルギー準位を利用し,633 nm

のレーザー光を生じる。

アルゴンイオンレーザーは,Ar+,Ar

2+のエネルギー準位を利用し,488 nm,

514 nm のほか,多数の波長のレーザー光を生じる。

CO2レーザーは,CO2分子の振動状態を利用しており,10.6 m のレーザー光

を生じる。

N2レーザーでは,337 nm のレーザー光を生じる。

3-3. エキシマーレーザー

XeClレーザーについて説明する。キセノン原子と塩素原子は,基底状態では

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不安定であるが,励起状態では安定な2原子分子

を作る系である。このような分子を,励起錯体(エ

キシマー)という。この励起錯体は約 10 ns の寿

命を持ち,レーザー媒体として作用する。これが

基底状態へと遷移することによって,308 nm のレ

ーザー光を生じる。

エキシマーレーザーにはこの他に,KrF レーザ

ー(249 nm),ArFレーザー(193 nm)などがあ

る。

図 13-3. Xe2のポテンシャルエネルギー

3-4. 半導体レーザー

発光ダイオードは半導体の pn接合における電子とホールの結合によって光を

発する。半導体としては,GaAsを基礎としたものが利用される。半導体レーザ

ーは,この光をレーザーとして発振させたものである。通常,700-1000 nm の波

長を持つ。

3-5. 波長可変レーザー

色素溶液をレーザー媒質としたレーザーを,色素レーザーという。通常,他

のレーザー光を色素溶液に照射し,色素から生じる蛍光を発振,増幅してレー

ザーとする。蛍光のスペクトルの中から,発振する波長を選べるようにするこ

とによって,波長が変えられるのが大きな特長である。

波長可変レーザーには,非線形光学結晶を用いた,光パラメトリックレーザ

ー(OPO レーザー)がある。色素レーザーが色素の务化を伴うのに対し,OPO

レーザーは寿命が長いのが特長である。

パワーメーター

Nd:YAG

レーザー

分光器

レンズ

液滴ノズル

回折格子

フロントミラー

色素セル

バックミラー

シリンドリカルレンズ

液滴

CCD

カメラ

図 13-4. 研究室で開発した液滴共

振増強ラマン分光装置の概略図

図 13-5. 色素レーザー部分

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(4)レーザー分光学

指向性,高出力,高分解能,短パルスなどといったレーザー光の特長は,分

光学に広く利用されている。ごく一部の例を示す。

高分解能: ラマン分光

超音速分子線分光

高出力: 2光子イオン化分光

イオン光解離分光

短パルス: 時間分解分光(ポンプ-プローブ分光)

参考書

『レーザー物理入門』霜田光一(岩波書店)

理解のための課題

(1)レーザーの実例で紹介したレーザーを,可視,赤外,紫外のレーザーに

分類せよ。

(2)100 fs の時間に光はどのくらいの距離進むか。

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2012.12.24

分光化学

14回目 光と分子の相互作用

前回の復習

レーザーの発振原理や,実際のレーザーの種類について学んだ。

今日の目標

光の吸収,放出による電子状態間の遷移確率を摂動論から考察し,遷移モー

メントを導こう。

今日の内容

(1)時間を含む定常状態の波動関数

時間を含む Schrödinger方程式

時間を含む定常状態の波動関数

(2)非定常状態の摂動と遷移モーメント

(3)全体の復習と試験対策

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(1)時間を含む定常状態の波動関数

定常状態の Schrödinger 方程式

EH (13-1)

Uzyxm

Um

H

22222

2

22ˆ

(13-2)

時間に依存する Schrödinger 方程式

H

ti ˆ (13-3)

定常状態における(13-3)の解を求める。定常状態のエネルギーは時間に依存し

ないので, EH ˆ とおくことができる。

E

ti (13-4)

(13-4)を解くと,以下の式が得られる。

Etixtx exp, (13-5)

これが,時間を含む定常状態の波動関数である。

(13-5)から, 22, xtx となり,粒子の存在確率は時間に依存しない

ことが確認できる。また,(13-5)を(13-3)に代入して整理すれば,

0expˆ

EtiEH (13-6)

となるので EH が得られる。

(2)非定常状態の摂動と遷移モーメント

非定常状態であっても,時間的に短く見れば近似的に定常状態とみなせる。

光の吸収・放出過程を近似的な定常状態間の遷移と考え,摂動法によって考察

する。

2-1. 問題設定

H が,定常解 nnE , を持つ 0H と時間に依存する摂動H ˆ からなる場合につ

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いて考える。

H

ti ˆ (13-3)

HHH ˆˆˆ0 (13-7)

nnn EH 0ˆ (13-8)

波動関数を,定常状態の波動関数

tEix n

n exp で展開する。

tEixtctx n

n

n

n exp, (13-9)

これを(13-3)に代入し,*

j を左からかけて積分すると次のようになる。

n

nj

n

jnHj

tEEitc

dt

dci ˆexp

(13-10)

ただし,

dVHnHj njˆˆ *

(13-11)

2-2. 2準位系への単純化

定常状態が 1 と 2 の2個だけしかない系を考える。また,時刻 t = 0におい

て,系が 1 の状態にあるとする。(この状態を初期状態または始状態という)

このとき,(13-10)から,次式が得られる。

2ˆ1exp1ˆ1 2121

1 HtEE

itcHtcdt

dci

(13-12)

2ˆ21ˆ2exp 212

12 HtcH

tEEitc

dt

dci

(13-13)

101 c , 002 c (13-14)

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摂動H ˆ の効果が比較的小さければ, tcn は徐々に変化するので,近似として

1011 ctc , 0022 ctc と置き換えると,(13-13)式は次のようにな

る。

1ˆ2exp 122 H

tEEi

dt

dci

(13-15)

2-3. 光学遷移の摂動計算

(13-15)式を使って,光学遷移の遷移確率を求める。

z 軸方向に進行する振動数,波長,電場の振幅 E をもつ光によって電子が受

ける力は次式で与えられる。

z

teF 2cosE (13-16)

ここで,電子の運動する領域に比べて,光の波長が長い場合には,z/を無視

することができる。(双極子近似)

ここから,光の電場による電子の位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)

を求めると,電子の座標を rとして次のようになる。

teU 2cosEr (13-17)

物質系に含まれる荷電粒子を考慮する場合,(13-17)の er を,すべての荷電粒子

からの寄与の総和に置き換える。は,電気双極子モーメントである。

iirQμ (13-18)

tU 2cosEμ (13-19)

(13-19)式を摂動H ˆ と考え,非定常状態の摂動論を適用する。(13-15)から,

tEEit

ttEE

idt

dci

12

122

exp2cos12

12cos2exp

(13-20)

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2/2exp2exp2cos titit を用いて変形する。

thEEi

thEEi

dt

dci

12122 expexp122

1Eμ

(13-21)

第1,2項目はそれぞれ光の放出,吸収を表している。ここでは光の吸収を考

えることにし,第2項目だけを使い,積分する。

hEE

thEEi

ic

12

12

2

exp1

122

1

Eμ (13-22)

光の吸収確率(吸収強度)は,分子を 2 の状態に見出す確率 2

*

2 cc に比例する。

212

122

2

22

*

2

2sin

121

hEE

thEE

cc

Eμ (13-23)

(13-23)に見られる, 12 μ という量が遷移双極子モーメントである。また,

sin2x/x

2は,x = 0の付近のみ大きな値をとる関数である。ここから,Bohrの振動

数条件 hEE 12 が導かれる。

参考書

大野公一『量子物理化学』東京大学出版会

マッカリ・サイモン『物理化学』東京化学同人

理解のための課題

(1)(13-3),(13-9)から(13-10)を求めよ。

(2)(13-22)から(13-23)を求めよ。

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分光化学の試験について

2012.12.24

(1)日時 1月21日(月)2限

(2)場所

(3)試験範囲 1回目~?回目の内容から出題します

(4)持ち込み 不可