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IGDA日本 SIG-AI研究会で話した内容(2010年)
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社会シミュレーションの現状とこれから
小山友介(芝浦工業大学)
社会シミュレーションって? シミュレーションという手法を使って,社会のさまざまな現象を分析・議論する学際的な学問分野 まだ学問的に発展途上で,経済学,経営学,政治学...などの分野別に分かれるほどの人数はいません
主に使われる手法:エージェントシミュレーション
理系出身者と文系出身者が混じっています 理系:主にコンピュータ系
技術の応用先のひとつとして参入 文系:経済学,社会学,経営学,政治学,...さまざま 問題解決のツールがたまたまシミュレーションだった 講演者(小山)は文系(経済学)出身です
エージェント 社会シミュレーションでの基本単位
ゲームで言うところのキャラクター 内部状態と意思決定ルールを持つ
全キャラが NPCのデモがシミュレーションと思ってください
RPGを例にエージェントを説明すると 内部状態
HPやMPのように,刻々と変化するパラメータ 種族のように,ゲーム中変化しないもの
意思決定ルール エージェントが直面するすべての環境で定義 環境には自分の内部状態( HP,MP)も含まれる
イメージを持ってもらうために NHK(爆問学問)で前の職場(東工大・出口研)が紹介されたときのビデオ(一部)を流します 15分ぐらい(長くてスミマセン) 社会シミュレーションのイメージが少し湧くはずです
ビデオの内容をものすごく単純に言うと: マルチエージェント技術を使って, 箱庭世界(ただし,すごく単純)で, 感染症がどれぐらい広がるか, どういった政策が有効か
を議論しています 以下,ビデオの補足スライドを並べます
背景&想定(1) あなたはA市の防災担当責任者です.アメリカの炭疽菌テロ( 2001年)以降,細菌兵器によるバイオテロへの対策を立てることが求められています.
しかし,資金や人的および物的資源の限界から,準備できることは限られています.
どういった対策が有効か,事前のシミュレーションで検討しておきましょう.
背景&想定(2)
仮想都市の想定(1)
人口: 1万人 右図:世代と人口構成
免疫ベース感染確率に影響 あり:0% 少しあり: 30 % なし: 80 %
世代 年齢 人口構成比
免疫
幼児 0-5 10% なし
子供 6-12 20%
学生 13-18 20%
若者 19-34 20%
中年 35-59 20% あり or少しあり
高齢者 60- 10%
仮想都市の想定(2) 世帯構成
一人暮らし or 核家族世帯が多い 施設など
交通:就労者・学生が移動で利用 小・中・高校:それぞれ 3 会社
大規模: 4,中規模: 7,小規模: 7 病院: 1 (院内感染は考えない)
世帯構成 人口比
1人 20%
2人 30%
3人 15%
4人 10%
5人 10%
6人 5%
7人 3%
8人 2%
9人 2%
10人 3%
病態遷移モデル
未感染
潜伏期 症状ありウィルス排出
症状なしウィルス排出(不顕性感染)
症状悪化入院
重体 死亡
軽快
回復 免疫獲得
軽い症状
20%
80%
14 日 3 日 3 日
3 日
3 日
2 日1 日
2 日 今回は考えない
政策カードの選択順序
政策パラメータ一覧
政策名 パラメータ
ワクチン備蓄(人口比) 30%,60%,100%
1 日当たりワクチン接種人数 20人, 300人
感染確認からワクチン接種開始までの時間遅れ日数
0 日, 10 日(今回は考えない)
ワクチン対象者 社会全体,若者のみ,若者・感染者周囲のみ
学校閉鎖の有無 あり,なし
※ ワクチン対象者:「若者・感染者周囲のみ」のワクチン対象者 感染者・感染者の家族・感染者の会社の同僚(もしくは学校の同級生)のうち,若者のみ
100 %, 20人,学校閉鎖あり,ランダム
100 %, 20人,学校閉鎖あり,ランダム
30 %, 300人,学校閉鎖無し, young_red
30 %, 300人,学校閉鎖無し, young_red
シミュレーション裏話 感染確率の設定:かなり苦し紛れ
数分間の接触で感染する/しない確率のデータはない!
動物実験のデータを援用 エージェントの行動:すごく単純
学校や会社に行って帰るだけ 重要な接触ポイントさえ押さえられれば,政策には十分 最重要は学校の閉鎖
ゴール:予測ではない! 現実味のあるあらゆる「シナリオ」の洗い出し 理解を共有して,実のある議論を補助するツール
社会シミュレーションの面白さ フラグ管理でない「イベント」を読み解く面白さ NPC 同士の連鎖反応で発生する予想外の現象
感染症の爆発的蔓延,ある製品のブーム,株価の暴騰・暴落...
これを創発( emergence)と呼びます 鍵となるパラメータを操作すると,結果が劇的に変化
これを洗い出すのが研究目的 ランダム性があるので不完全だが,ある程度結果を操れるように(結果の作り込み)
予想外の結果に「振り回される」楽しさ カイヨワの 4分類だと,イリンクス(めまい)
話を戻します
社会シミュレーションの2つのながれ(1) 第 1世代:既存理論拡張
元ネタの理論モデルがある:モデルは数式の集合体 研究者単独の研究が多い:プログラム的にはシンプル 内容をリッチにしたら数学的に解けなくなった
→コンピュータシミュレーション シンプルなモデルが多い(下表):詳細は文献リスト参照 セル型 GA・学習型 市場型
相互作用空間 格子空間(均質的な空間)
特になし(ランダムマッチング)
市場(取引所型/均衡型)
相互作用形態 1対 1× 周囲 1対 1 N対 N
備考 周辺とのみ相互作用
内部モデルを充実させる
集計量を通じた相互作用
代表モデル ・ Segregation
・ SugarScape
・くりかえしPD・ Normの発生
Santa Fe人工市場
第 1世代(補足) エージェントシミュレーション以外だとシムシティ システムダイナミクスの理論が下敷き
画像の出典 http://en.wikipedia.org/wiki/SimCity図の出典 Langley and Larson(1994)
第 1世代(おまけ) ガンパレード・マーチ
学園モード: 26人のキャラによるマルチエージェントシミュレーション(風ゲーム) 発言力を消費して,他のキャラに影響を
与えることで,部隊の士気やパフォーマンスに影響
2種類(?)のイベント フラグ管理によるシナリオイベント
通常のゲームでよくあるもの エージェント間の相互作用で創発した,思いもかけない状態(妄想イベント?) FC 版 DQ4の AI 戦闘への妄想に近い?
画像の出典:アルファシステムWeb ページ http://www.alfasystem.net/game/gp/main.html
社会シミュレーションの2つのながれ(2) 第 2世代:フルスク
ラッチ 既存の理論とは全く関係なく,現実の一部を再現するモデルを作ったもの 政策への応用を目指す
個人研究者レベルを超えた,大規模プロジェクトが多い
箱庭系ゲームに近い シェンムー, GTA( 3以降)
Sims画像(シェンムー, GTA)の出典: wikipedia 英語版
第 1世代と第 2世代 世代区分:便宜的なもの(第 1世代も現役)
第 1世代の社会シミュレーションブーム: 80 ~ 90年代 複雑系ブーム( 90年代初頭)が後押し
第 2世代: 2000年頃~ コンピュータ性能の向上→もっとリアルを!
指向性の違い 第 1世代:モデルがシンプル→理論指向 第 2世代:モデルがリッチ→政策指向
科学的理論志向
工学的政策志向
第 1世代 第 2世代
第 2世代の特徴 誰がつくる?誰が使う?
文系の研究者では,イチからつくるのは厳しい 複雑さ:「シロウトのにわか勉強で何とか出来る」レベルを
超える 理工系とコラボするか,使いやすい開発ツールが必要
研究者というよりは,実務者向け モデルの粒度が実際の現場レベル
研究モードの変化 第 1世代: PCで研究可能
→シミュレーションを Small Scienceにした 第 2世代:様々な分野の研究者のコラボが不可欠
→再び Big Scienceに
第 2世代の困難まとめ1. モデル化
社会科学系研究者のセンスがモデル化に不可欠
2. 実装 第 2世代はモデルが複雑で敷居が高い
3. 計算時間 パラメータの自由度が巨大化し,総計算時間が莫大に
4. データマイニング さまざまな条件で多数回実行されたシミュレーションのログデータは莫大
ヤッコー研究とゲーム ヤッコー(業界用語)
「シミュレーションをやったらこうなりました」の意味
過去の伝統と全く接続しない,やり逃げ 研究とゲームの違い
研究:裏付けが求められる 政策に使いたい→研究者のノリだけでは許されない 見た目は地味(クソゲーレベル)でも OK
ゲーム:それっぽければ OK 歴史シミュレーションゲーム:背後に理論があるわけではない
現実より派手な演出が好まれる つまらないリアルより楽しいヤッコー
まとめ? 社会シミュレーションのキモ 2つのレベルのルール
エージェント間のインタラクションのさせ方 システムの基礎仕様を決定
エージェントの意思決定のアルゴリズム エージェントのパラメータ値と併せて,個性を決定
シミュレーションでやってること:すごく単純 以下の内容を規定ターン数繰り返す
エージェント同士が何らかの方法でインタラクションする インタラクションの結果,エージェントのパラメータの値が変化する
配列と Forループさえわかっていれば,社会シミュレーションは書ける! ・・・と,学生には言ってます
参考文献(邦語中心) 人工社会(シュガースケープとセル系)
エピスタイン&アクステル,『人工社会』,共立出版 山影進,服部正太,『コンピュータの中の人工社会』,構造計画研究所
繰り返し囚人のジレンマ アクセルロッド,『つきあい方の科学』,ミネルヴァ書房
アクセルロッド,『対立と協調の科学』,ダイヤモンド社
人工市場 和泉潔,『人工市場』,森北出版