ICTによる捕獲技術を活用した、 サル群の選択的捕...

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新たな捕獲手法の開発 悪質個体を特定した選択的捕獲の実証試験 サル対策では、捕獲が進んでも被害が減少しない 場合がある。そこで、被害軽減に効果的な捕獲技 術の体系化を目指し、ICT捕獲と選択的捕獲を 組み合わせた捕獲手法を考案するとともに、IC T捕獲後に残存する悪質個体を選択的に捕獲する ための技術開発を行った。 サル群の中から悪質な行動特性をもつ個体を個体識別法により特定し、社会的な順位を判定した。次に、捕獲効率を高めるた め、嗜好性の高い誘引餌による誘引と捕獲環境への順化を行った。最後に、捕獲効率を低下させないため、低順位の個体から 狙撃するよう配慮し、狙撃を認知されないよう誘引餌とブラインドを用いた誘引狙撃と忍びによる麻酔銃での捕獲を実施した。 ICTによる捕獲技術を活用した、 サル群の選択的捕獲手法の開発研究 ICTによる捕獲システムと連携した、麻酔銃捕獲等による サル群の選択的捕獲手法の開発 研究機関:株式会社野生動物保護管理事務所 サル群の捕獲による効果的な被害軽減を目指し、ICT を活用した檻捕獲を実施した後に残存する悪 質個体を麻酔銃等によって選択的に捕獲する手法を開発した。 個体識別と順位判定による個体の特定し、誘引狙撃等よって複数の群れで悪質個体の除去に成功 した。 ICT 捕獲と選択的捕獲を組み合わせた段階的な捕獲によって加害レベルの半減を達成し、被害を 大幅に減少できた。今後のサル対策での技術導入が期待される。 捕獲前 ICT 捕獲後 悪質個体 選択捕獲後 高位 高位 ステップ④ 捕獲試験 ステップ① 悪質個体の特定 ステップ② 誘引試験 ステップ③ 捕獲環境への順化 誘引狙撃 誘引狙撃 特定した 悪質個体 忍び 誘引狙撃 忍び 誘引狙撃 誘引狙撃 誘引狙撃 忍び 誘引狙撃 低位 低位 オス M1 F1 M2 F2 M3 F3 M4 F4 M5 メス 選択的捕獲 (麻酔銃) 個体識別 加害性の客観評価 出没環境 被害内容 人への慣れ 大型檻 + まるみえホカクン

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新たな捕獲手法の開発

悪質個体を特定した選択的捕獲の実証試験

サル対策では、捕獲が進んでも被害が減少しない場合がある。そこで、被害軽減に効果的な捕獲技術の体系化を目指し、ICT捕獲と選択的捕獲を組み合わせた捕獲手法を考案するとともに、ICT捕獲後に残存する悪質個体を選択的に捕獲するための技術開発を行った。

サル群の中から悪質な行動特性をもつ個体を個体識別法により特定し、社会的な順位を判定した。次に、捕獲効率を高めるため、嗜好性の高い誘引餌による誘引と捕獲環境への順化を行った。最後に、捕獲効率を低下させないため、低順位の個体から狙撃するよう配慮し、狙撃を認知されないよう誘引餌とブラインドを用いた誘引狙撃と忍びによる麻酔銃での捕獲を実施した。

ICTによる捕獲技術を活用した、サル群の選択的捕獲手法の開発研究ICTによる捕獲システムと連携した、麻酔銃捕獲等によるサル群の選択的捕獲手法の開発

研究機関:株式会社野生動物保護管理事務所

サル群の捕獲による効果的な被害軽減を目指し、ICT を活用した檻捕獲を実施した後に残存する悪質個体を麻酔銃等によって選択的に捕獲する手法を開発した。個体識別と順位判定による個体の特定し、誘引狙撃等よって複数の群れで悪質個体の除去に成功した。ICT 捕獲と選択的捕獲を組み合わせた段階的な捕獲によって加害レベルの半減を達成し、被害を大幅に減少できた。今後のサル対策での技術導入が期待される。

要 約

捕獲前 ICT 捕獲後

悪質個体

選択捕獲後

高位 高位

ステップ④ 捕獲試験

ステップ① 悪質個体の特定 ステップ② 誘引試験 ステップ③ 捕獲環境への順化

誘引狙撃

誘引狙撃

特定した 悪質個体

忍び

誘引狙撃

忍び

誘引狙撃

誘引狙撃

誘引狙撃

忍び

誘引狙撃

低位 低位

オス

M1

F1

M2

F2

M3

F3

M4

F4

M5

メス

選択的捕獲(麻酔銃)

個体識別

加害性の客観評価

出没環境 被害内容 人への慣れ

大型檻 +まるみえホカクン

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P ﹤ 0.001

本研究成果の一部は、霊長類研究 2018 年34巻2号「ニホンザル加害群を対象とした計画的な個体群管理の有効性」(清野ほか ,2018)に論文として公表しています。本研究成果の一部は、霊長類研究 2018 年34巻2号「ニホンザル加害群を対象とした計画的な個体群管理の有効性」(清野ほか ,2018)に論文として公表しています。

ICTシステムを活用した大型檻による捕獲後に、悪質個体を選択的に捕獲することにより、群れの加害レベルが低下し、被害を大幅に減少させることができる。ただし、本手法の導入にあたっては、技術適用する群れの特性を事前に把握し、適切な捕獲計画の立案が求められる。また、悪質個体の特定と効率的な銃器での捕獲においては、専門技能を習得した捕獲技術者への依頼が必要である。

まとめ

加害レベル半減を達成(伊賀実証地区)

手法の導入に向けて

伊賀実証地では、約150頭のサル群から ICT 捕獲で116頭、選択的捕獲で9頭を除去した結果、サル群の人への警戒心は 5 倍に増加、集落出現は 87%減少した。加害レベルは、レベル 5 からレベル 2 に低下し、レベル半減を達成した。

悪質個体を特定した麻酔銃による選択的捕獲

本手法の導入時は、適切な捕獲計画の立案と高度な捕獲技能をもった専門技術者が必要である。

80

40

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1.0

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0.5

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加害レベル半減を達成

集落依存性の低下

警戒心上昇

群れ全体が通年頻繁に出没。人と集落環境への慣れが進み生活環境被害が大きく、人身被害の恐れがある。

n=1483

山林 市街地・農耕地

n=1079 n=57

群れは、季節的に群れの大半の個体が耕作地に出てきて、農作物の被害を出す。

群れは集落にたまに出没するが、ほとんど被害はない。

群れ全体が通年耕作地の近くに出没し常時被害がある。人と集落環境への慣れが進み、生活環境被害が発生する。

群れの出没は季節的で農作物の被害はあるが、耕作地に群れの全体が出てくることはない。

群れは山奥に生息しており、集落に出没することがないので被害はない。

加害レベル5

加害レベル3

加害レベル1

加害レベル4

加害レベル2

加害レベル0

選択捕獲後

ICT 捕獲後

捕獲前

捕獲前

捕獲前 部分捕獲後 選択捕獲後

捕獲後

接近

可能

距離

(m

加害レベル5

加害レベル3

加害レベル1

加害レベル4

加害レベル2

加害レベル0

選択捕獲後

ICT 捕獲後

捕獲前

加害レベルを-2.5達成

事前のモニタリングと適切な捕獲計画 高度な技能を持った専門技術者

地域での技術導入により被害軽減効果を確認(篠山実証地区)

χ2=178.582P < 0.001

χ2=5.473P < 0.019

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ICTによる捕獲技術を活用した、サル群の選択的捕獲手法の開発研究ICTによる遠隔監視システムを用いた選択的捕獲手法の確立

研究機関:特定非営利活動法人里地里山問題研究所

小型檻を用いた捕獲では、捕獲されずに残った個体が捕獲檻に対して警戒を高めてしまい、捕獲個体が若齢個体に偏るのに対し、ICT 遠隔監視システムを用いた大型捕獲檻では、小型檻では捕獲できないオトナを含めた目標個体を選択して捕獲できることを明らかにした。また檻に進入してきた個体を順番に捕獲したり、捕獲檻の設置場所を工夫したりすることで、人や人為的建造物に対して馴化程度の高い個体を選択的に捕獲できることを示した。ICT 大型捕獲檻でまとまった捕獲(26 頭)を実施して以降、10 頭以上の群れの出没規模機会が半減するなどの効果も確認された。

要 約

平成 25 年度以降篠山市内で小型檻(35 基)

により捕獲された個体を性年齢構成に区分し

て集計した結果、小型檻による捕獲数は年々

減少傾向にあり、約 87%がコドモの個体で

あったのに対し、ICT 遠隔監視大型捕獲檻

による捕獲は、オトナオス 20%、オトナメス

15.4%、コドモ 50.8%であり、遠隔監視する

捕獲者の意思により、目標個体を選択的に捕

獲を行うことができた。

加害レベルが高い群れ(篠山 C 群)に対して、設

置条件の異なる以下の ICT 大型捕獲檻を 2 基設置

した。

檻 A:車道が近く人目につきやすい場所に設置

檻 B:車道から離れた人目につきづらい場所に設置

捕獲檻に対するサルの行動分析から、ICT 遠隔捕

獲檻による選択捕獲の可能性を検討した

ICT による遠隔監視により性・年齢を判断しながら捕獲が可能

左上:オトナオス右上:オトナメスとコドモ左下:発信機を装着したオトナメス

❶ ICT 遠隔監視装置を用いながら、性・年齢を判断しながら選択

的に捕獲することができるので、効率的な個体数調整が実施可能

❷「捕獲しない」という判断ができるので、捕獲の上限がある場

合や発信機装着目的など、無用な捕獲を避けたい場合にも有効。

ICT 遠隔監視によって効率的・計画的な個体数調整の推進が可能

成果①

検証①

検証②

檻 B 大上人家が近くにある車道から見える

檻 B 倉谷付近に人家がない車道から見えない

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ICT 遠隔監視システムを用いた大型捕獲檻では、小型檻では捕獲できないオトナを含めた目標個体を選択して捕獲できることも示された。捕獲をするか否かの決定が動物まかせではなく、捕獲者が選択できるため、保全上捕獲頭数の制限がある場合、発信機装着目的の捕獲を行いたい場合、性年齢を判断しながら捕獲したい場合等に、ICT 遠隔監視システムは有効な方法であるといえる。

まとめ

群れが最初に各檻に接触した際に、

監視カメラに映る頭数(檻外、檻

内)を経過時間(1 分ごと)に集

計した結果、檻 A に対しては、檻

内に最大 7 頭、檻外も含めると最

大 15 頭が檻付近に接近したのに対

し、檻 B に対しては、檻内に侵入

した個体は最大で 2 頭(檻外も含

めて同時間帯の接近頭数は 2 頭が

最大)であった。

檻 B 内に侵入した個 体は立ち上

がって周りを見渡すなどの警戒行動

が観察されたが、檻 A 内に侵入し

た個体ではそのような警戒行動は

見られなかった。

A 群れサイズが大きくて数を減らしたいとき※捕獲数を優先(非選択的捕獲)

付近に人家がない、車道から見えないなど、人目に付きにくい場

所に ICT 大型捕獲檻を設置。

十分な餌付けを行い、多くの個体が捕獲檻内に侵入するようになっ

てから、頭数を確認しながら捕獲

B 群れサイズを維持しながら捕獲したいとき※人馴れ程度の高い個体を選択的に捕獲

人目に付きやすい場所に ICT 大型捕獲檻を設置。中に入ってきた

個体から順番に捕獲していくことで、選択的な捕獲を実施可能

設置場所の違いによる ICT 捕獲檻を用いた選択的捕獲の可能性

成果②

2013 年時に 91 頭いた群れ(篠山群 A)に対して小型檻と大型檻を併用した捕獲を行い、2016 年時には 41 頭まで群れサイズを減少させた結果、特に ICT 大型捕獲檻でまとまった捕獲(26 頭)を実施して以降、10 頭以上の群れの出没規模機会が半減した。

檻Bに対するサルの反応捕獲檻(内・外)へのアプローチ頭数が少ない

檻Aに対するサルの反応捕獲檻(内・外)へのアプローチ頭数が多く時間も長い

ICT 大型檻で出没規模が半減!

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研究機関:(株)野生動物保護管理事務所、(特非)里地里山問題研究所、兵庫県立大学

厳正な選択捕獲(麻酔銃等)

緩やかな選択捕獲 (ITC捕獲システム檻)

□ 長期間ICT檻を運用できる体制がある

□ 個体を識別できる実務者がいる

□ 群れが銃捕獲者を忌避している

三重県伊賀市の実証例(P38)では、ICT 捕獲システムを用い大まかな頭数削減を行った後、麻酔銃による選択的捕獲を行っ

た。群れの加害レベルが低下し、地域の被害も減少した。

サル対策のサポート:(一社)ニホンザル管理協会 ※ 2019 年6月設立予定

本プロジェクトの成果も含め、サル捕獲や対策全般に関するご相談をお受けします。連絡先 [email protected]

ICTによる捕獲技術を活用した、サル群の選択的捕獲手法の開発研究サル群管理における選択的捕獲技術の適用方法

大集団の場合

加害レベルを低下

小さい

大きい

□ 短期間で問題解決したい

□ 悪質個体が檻を忌避している

□ ICT檻の運用体制がなく、実務者がいない

ICT捕獲システム(檻)と選択捕獲(銃)で大幅な被害軽減に成功

☞Choice ☞ Choice

加害レベル小 中 大

群れのサイズ

選択捕獲

悪質個体が残存し、加害レベルがまだ高い状態の場合は

ICT 捕獲システムは、頭数や性別などを確認しつつ捕獲が可能であり、ニホンザルの群れ単位の管理に有用な捕獲手法である。ICT による大まかな選択的捕獲と、頭数を大きく減らさず、悪質な個体のみを捕獲する麻酔銃等による選択的捕獲を組み合わせることで、多様な群れに対する個体数管理が可能となる。

要 約

MVP

許容頭数

30〜40頭

ICT捕獲システムによる部分捕獲(頭数の削減)