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乱流工学(空力音響学の基礎) 1 基礎方程式 1.1 連続の式 V V 1 ρ Dt + ρdiv(v)=0 (1.1) D Dt = ∂t + v ·∇≡ ∂t + v j ∂x j (1.2) 1.2 運動量の式 p σ ij F ρ Dv Dt = p + μ 2 v + 1 3 div(v) + F (1.3) 1.3 エネルギー方程式 s p ρ γ (1.4) 1.4 線形化 v a p a ρ 0 c (1.5) v a p a ρ 0 c cm/s 1

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乱流工学(空力音響学の基礎)豊橋技術科学大学

機械工学系 飯田明由

 

1 基礎方程式

1.1 連続の式

質量保存則より,領域 V内の流体質量の増分は,領域 Vを通過する質量流量に等しくなることから

Dt+ ρdiv(v) = 0 (1.1)

ここで,D

Dt=

∂t+ v · ∇ ≡ ∂

∂t+ vj

∂xj(1.2)

1.2 運動量の式

流体の運動量変化が単位体積当たりの圧力 p,粘性応力 σij,体積力 F と等しいとすると,流体

の運動方程式は

ρDv

Dt= ∇p + µ

(∇2v +

13div(v)

)+ F (1.3)

1.3 エネルギー方程式

一般に空力音が問題となるような流れ場では,エントロピー sは一定とみなせる.すなわち,本

解説では衝撃波や燃焼場,温度変動を伴う流れは扱わない.エントロピー一定の条件では圧力は密

度の関数として扱える.たとえば,理想気体では

p ∼ ργ (1.4)

である.

1.4 線形化

音波の粒子速度と圧力,密度との間には以下の関係が成り立つ

va ∼ pa

ρ0c(1.5)

ここで,vaは音波の粒子速度,paは音圧,ρ0は平均密度,cは音速である.分母に音速があること

からわかるように通常大気圧・温度の空気の場合,粒子速度は非常に小さく,数 cm/sのオーダー

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である.非線形音波のレベルである音圧 160dBにおいても粒子速度は 5m/s程度であり,空力騒音が問題となる流れ場の速度に比べると小さいことがわかる.

同様に流体の動圧と音の圧力を比較すると音の圧力は流体の圧力に比べて非常に小さいことがわ

かる.たとえば,音圧の基準レベルとなる 94dBは 1Paに相当するが,94dBは騒音レベルとしてはかなり大きなレベルであり,製品開発では非常に問題となるレベルである.一方,主流速度 40m/sの動圧は 1000Paであり,流体運動に起因する圧力変動が動圧の 10%t程度であるから,94dBの音であっても流体による圧力変動の 100分の 1程度である.一般に流れの圧力変動に対して空力音の圧力変動レベルは 1000分の 1程度のオーダーである.このことから音波による圧力変動も粒子速度も流体の運動に起因する圧力変動及び速度に比べて

非常に小さいことがわかる.今,密度及び圧力を平均値 ρ0, p0と変動値 ρ′, p′に分け,粘性項を無

視すると,運動方程式 (1.3)は

(ρ0 + ρ)∂v

∂t+ vj

∂v

∂t= ∇ (p0 + p′) + F (1.6)

ρ0∂v

∂t= ∇p′ + F (1.7)

ここで単位体積当りのソース項 qを導入すると,連続の式 (1.1)は

Dt+ divv = q (1.8)

と表すことができる.たとえば,流体中で微小体積の物体が振動しているような場合を想定したも

のである.この式についても平均値と変動値に分けると

1ρ0

∂ρ′

∂t+ divv = q (1.9)

が得られる.式 (1.11)と式 (1.9)から vを消去するため,式 (1.9)の時間微分

∂t

(∂ρ′

∂t

)+ ρ0

∂t(divv) = ρ0

∂q

∂t(1.10)

から式 (1.11)の空間微分

ρ0∂

∂tdivv +∇2p′ = divF (1.11)

を引くと

∂2ρ′

∂t2−∇2p′ = ρ0

∂q

∂t− divF (1.12)

が得られる.

ここで,圧力 p′ は密度とエントロピー sが一定の条件において

p0 + p′ = p(ρ0, s) +(

∂p

∂ρ(ρ, s)

)

0

ρ′ (1.13)

と表せる.また,式 (1.13)の右辺第 2項の微分項は速度の二乗の次元を持つことから,

c0 =

√(∂p

∂ρ s

)(1.14)

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をエントロピー s一定条件における音速と定義する.この関係式から

ρ′ =p′

c0(1.15)

と表すことができる.したがって,式 (1.12)は

(1c20

∂2

∂t2−∇2

)p = ρ0

∂q

∂t− divF (1.16)

と変形することができる(p′ を音波の圧力変動 pに置き換える).いま,体積力 F = 0とし,速度ポテンシャル v = ∇ψを導入すると,音圧は

p = −ρ0∂ψ

∂t(1.17)

と書けるから,式 (1.16)は

(1c20

∂2

∂t2−∇2

)(−ρ0

∂ψ

∂t

)= ρ0

∂q

∂t− divF (1.18)

(1c20

∂2

∂t2−∇2

)ψ = −q(x, t) (1.19)

が得られる.この式は音源項 qとする波動方程式である.

2 Lighthill理論

2.1 Acoustic Analogy

外力項を除いた流れ場の運動方程式を元に Lighthill方程式を理論的に導く.運動方程式

ρ∂vi

∂t+ ρvj

∂vi

∂xj= − ∂p

∂xj= − ∂

∂xj(pδij − σij) (2.1)

σij = 2ν

(eij − 1

3ekkδij

)(2.2)

eij =12

(∂vi

∂xj

)+

∂vj

∂xi(2.3)

に,連続の式に vi をかけた次式を

vi∂ρ

∂t+ vi

∂(ρvj

∂xj= 0 (2.4)

加えると(∂ρvi)

∂t= −∂πij

∂xj(2.5)

が得られる.ここで πij はmomentum fluxテンソルである.

πij = ρvivj + (p− p0)δij − σij (2.6)

理想流体における線形音響方程式では

πij = π0ij = (p− p0)δij ≡ c2

0(ρ− ρ0)δij (2.7)

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したがって,(∂ρvi)

∂t+

∂xi

[c20(ρ− ρ0)

]= 0 (2.8)

連続の式∂

∂t(ρ− ρ0) +

∂(ρvi)∂xi

= 0 (2.9)

第 1章と同様に運動方程式と連続の式から速度の項を消去する.

∂t

∂xiρvi +

∂2

∂x2i

[c20(ρ− ρ0)

]= 0 (2.10)

∂2

∂t2[(ρ− ρ0)] +

∂t

∂xiρvi = 0 (2.11)

よって,密度変動に関する線形の音響方程式は,(

1c20

∂2

∂t2−∇2

) [c20(ρ− ρ0)

]= 0 (2.12)

となる.

次に流れが乱流の場合について考える.線形方程式で π0ij を用いたように,流れが乱流の場合は

以下の Lighthillテンソルを用いる.

Tij = πij − π0ij = ρvivj +

((p− p0)− c2

0(ρ− ρ0))δij − σij (2.13)

(∂ρvi)∂t

+∂π0

ij

∂xj= − ∂

∂xj(πij − π0

ij) (2.14)

すなわち,∂(ρvi)

∂t+

∂xi

[c20(ρ− ρ0

]= −∂Tij

∂xj(2.15)

与式を空間微分し,∂

∂t

∂xi(ρvi) +

∂2

∂x2i

[c20(ρ− ρ0

]= − ∂2Tij

∂xixj(2.16)

式(2.9)から上式を引いて

(1c20

∂2

∂t2−∇2

) [c20(ρ− ρ0)

]=

∂2Tij

∂xi∂xj(2.17)

が得られる.この式が流れから放射される音の基礎方程式である Lighthill方程式である.この式は乱流場の乱れによって生成されるLighthillテンソル Tijを音源項とする波動方程式である.式 (1.19)が線形方程式であるのに対して,式 (2.17)は音源項に非線形項を含んでいる.ここで Lighthillテンソル Tij の第 1項 ρvivj は Reynolds Stressテンソルと呼ばれ,乱流現象を考える上で重要なテンソルである.第 2項は密度 ρ0,音速 c0の理想流体における圧力による運動量輸送項であり,圧

力振幅の非線形性によって生成される.第 3項 σij は音波を減衰させる効果を持つ線形項である.

レイノルズ数の大きな流れ場では第 3項は省略することができる.ここで,レイノルズ数が大きく,マッハ数 M の小さな流れ場では,局所の音速を c とすると

c20/c = 1 + O(M2)という関係が成り立つので,第 2項のオーダーは

p− p0 − c20(ρ− ρ0) ∼ (p− p0)

(1− c2

0

c2

)∼ O(ρv2M2) (2.18)

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となる.一方,第 1項のレイノルズ応力は

ρvivj = ρ0(1 + O(M2))vivj ∼ ρ0vivj (2.19)

粘性項を無視すれば,マッハ数M ¿ 1のとき,

Tij = ρ0vivj (2.20)

となる.

2.2 音源の分類

  Lighthill はロンドンに向かう列車の中で Lighthill 方程式 (2.17) を導いたと言われている.Lighthillが偉大な点は単に基礎方程式を導いただけではなく,その式の持つ物理的な点を明確にした点である.  Lighthill方程式 (2.17)を積分すると

∆ρ = − 14πc3

xj

r

∂t

∫Fi(y, tau)d3y +

14πc4

xixj

r3

∂t2

∫Tij(y, τ)d3y (2.21)

が得られる.ここで,

r = |x− y| (2.22)

τ = t− |x− y|r

(2.23)

である.xは音の観測点,yは音源位置を示す.また,音の波長に比べて音源となる流れの変動ス

ケールが十分に小さいと仮定した.

式 (2.21)第 1項は外力による音の発生を,第 2項は乱れによる音の生成を表す.ここで,外力による影響は,流体の湧き出しによるものと運動量の変化による2つの成分に分けることができる.

今,流体の時間スケールを渦スケール lと速度 uの比で表すことができるとすると,単位面積あ

たりの湧き出し流量は ul2,単位体積当たりの運動量の変化は u/(l/u)l3となる.その時間変化は,それぞれ u2l, u3lとかける.一方,単位体積あたりの Lighthillテンソル Tij のオーダーは u2l3

となる.このとき音圧 p = c2ρより,遠方における放射音は

p2 = 4πr2c2 ρ2

ρ0∼ ρ0

cu4l2 +

ρ0

c3u6l2 +

ρ0

c5u8l2 (2.24)

と表される.この式から湧き出しによる音(単極子:monopole)は速度の 4乗,運動量変化による音(二重極子:dipole)は速度の 6乗,渦の非定常運動による音(四重極子:quadorpole)は速度の 8乗に比例することがわかる. 単位時間当たり体積 l3に流入する運動エネルギは,1/2ρu2l3/t = 1/2ρu3l2

である.このことから,音の放射効率は,それぞれマッハ数M = u/cの 1乗,3乗,5乗に比例する.したがって,二重極音と四重極音の比はM−2のオーダーとなる.このため,マッハ数の大

きな(M > 0.3)流れでは渦音が支配的となるが,マッハ数の小さな流れ場では渦から直接放射される音の寄与は小さく,二重極音源の寄与が大きいことがわかる.また,この式から,渦から直接

放射される空力音は速度の 8乗則に比例することがわかる.一方,新幹線や自動車騒音で問題となる物体がある場合の低マッハ数流れでは二重極音源が卓越し,空力音は速度の 6乗に比例する.もちろん,運動量変化に伴う騒音と渦音は同時に存在する.しかし,マッハ数の大きさによって音

の放射効率が異なるため,マッハ数によってどちらかの音が卓越することになる.

(a) 単極子音源:(湧き出し,吸込み) 空間のある点から空気が噴出している場合やある点に

空気が吸込まれているような場合,その点で体積の変化が生じる.この体積変化は周囲の気流の密

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度を変えることから,密度変化が空気の粗密波として周囲に伝播する.拍手をすると,手と手の間

の空気は縮められて,体積が変化する.このような場合に発生する空力音は速度の 4乗に比例する.一般に代表速度が遅い場合に限られる.空力音の放射効率としてはきわめて高い.このため,

拍手のような気体の運動としては代表速度が遅い場合でも比較的大きな音が発生する.音波は音源

を中心に同心円上に広がっていく.

単極子音源の音波の広がり        噴出し・吸込み

図 1: 単極子音源のイメージ図

(b) 双極子音源流れの中に物体が置かれると物体には流体力が作用する.この流体力が時間的に

変化すると,物体から音が放射される.たとえば,流れの中に円柱が置かれると円柱の後ろにはカ

ルマン渦ができて,流体力が周期的に変動する.このため,物体に作用する力が時間的に変化す

る.マッハ数が小さい場合,物体に作用する流体力による空力音の放射効率が高くなる.このた

め,マッハ数の低い流れでは,流体力に起因する音が放射される(流体力が変化するということ

は,運動量が時間的に変化することを意味し,この運動量変化に伴い媒質(空気)の粗密波が生成

される).流速が音速に比べて小さな流れ場の中に物体がある場合に発生する.この場合の空力音

は速度の 6乗に比例する. 物体を音源とみなすと音源は流体力の作用する方向を軸として 8の字上に広がる.実際には流れの影響により 8の字の形が傾くこともある.また,音場に比べて流れの渦は小さいので,渦によって音場が乱されることもある.

双極子音源の音波の広がり        双極子音源

図 2: 双極子音源のイメージ図

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(c) 四重極子音源 マッハ数の大きな流れでは,渦の強さも強くなり,渦の非定常運動により空

力騒音が発生する.渦が変形することにより,渦度場の作る圧力場が変化するため,空力音が発生

する.超音速噴流などではショックセルが形成され,ショックセルのおける密度の不連続面が原因

となって音が発生する.流れが超音速に達しなくとも,マッハ数が速い場合は渦による音が支配的

になる.通常M¿0.3の流れでは四重極音が卓越する.空力音のレベルはマッハ数の 8乗に比例する.速度依存性は空力音の中でももっとも大きいが,放射効率が低いため,高速の流れで問題と

なる.

四重極子音源の音波の広がり        四重極子音源

図 3: 四重極子音源のイメージ図

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2.3 音源項の性質

Lighthill方程式より,流れ場のレイノルズ応力の空間的な不均一によって音波が発生することが導かれるが,音源の性質がやや不明確である.Powell[5]は Lighthill方程式 (2.17)の音源項を以下のように書き換えた Powellの式を導いた.

(∂2

∂t2+ c2∇2

)ρ = −ρ0div (ω × v) (2.25)

また,空間微分と時間微分の関係式から

∂xj⇐⇒ 1

c0

xj

x

∂t(2.26)

が成り立つ.この関係式を利用して空力音を求めると

p =−ρ0xj

4πc0|x|2∂

∂t

∫(ω ∧ v)∇Yj(y)dy3 (2.27)

ただし,

ω ∧ v = ω ∧ v

(y, t− |x|

c0

)(2.28)

が得られる.式(2.27) から渦度と速度の外積の時間微分が音源となることがわかる.ここで関数 Yj(y) は音場を表す関数であり,Kirchhoff vector と呼ばれる.この関数は物体表面において∇2Yj(y) = 0を満たす.この式から空力音が渦の非定常運動に起因し,流れの中に物体がある場合は,物体表面においてラプラス方程式∇2Yj(y) = 0を満たすことを示している.したがって,流れ場に物体が存在することによって Lighthillテンソルが境界面で制約を受けるため,新たな音源項が現れる.Curleはこの項を理論的に求め,物体表面の圧力変動が音源となることを示した.マッハ数の小さな流れ場では流れ場から直接放射される項よりも物体表面の圧力変動項のほうが大きい

ため,通常,低マッハ数流れ場に物体が置かれた場合は,物体表面の圧力分布から放射される項が

卓越する.ここで物体表面からの放射音は双極子音源,Lighthillテンソルあるいは渦から直接放射される音は四重極子音源の性質を持つ.式 (2.25)または式 (2.27)を数値解析によって計算する場合,2つの方法が考えられる.一つは流れから音は発生するが,発生した音は流れに対して影響

を与えないとする場合であり,もう一つは流れから発生した音自身が流れ場を変える場合である.

前者の条件では,音波として伝播する密度の変動は流れ場の平均密度場に比べて十分小さく,流れ

場を非圧縮と仮定して解くことができるため,流れ場の計算と音場の計算は別々に行える.このよ

うな解析手法は分離解法と呼ばれ,工業製品の開発で広く利用されている.これに対して,流れ場

と音場を分離せずに同時に解析する方法を直接解放と呼んでいる.分離解法では流れ場と音場が連

成する場合やフィードバック音が発生するような場合の解析も可能となる.ただし,流れ場と音場

は代表寸法や特性時間が異なるため,低マッハ数流れでは計算の安定性の問題,計算規模(特に時

間ステップ)が膨大となり,製品開発で必要とされる複雑物体周りの高レイノルズ数流れの解析に

は大規模な数値解析が必要となるなどの問題がある.たとえば,直径 10mmの円柱が流速 50m/s程度の流れ場に置かれた場合,発生する音の周波数は 1kHz程度であり,音の波長は 30cm程度となる.通常,このような音場を解析する場合,メッシュサイズは数 cm程度となる.これに対して,流れ場の最小渦スケールは 0.1mmのオーダーである.乱流モデルを用いるような場合でも 1mm程度であり,音の解析メッシュに比べて小さい.また,音速を基準に考えると流体解析のタイムス

テップは流体解析に必要な時間刻みに比べて 10倍以上となることもあり,膨大なタイムステップの解析が必要となる.流れ場と音場のスケールが異なる(流れ場のスケールは円柱直径と同程度

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の 10mmから 100m程度に対して音場のスケールは波長であるmm程度)ため,音場を含めて計算しようとすると流体解析の規模は通常のものに比べて非常に大きなものとなってしまう.通常,

この問題を回避するため,音場に比べて小さな領域での流れ場解析を行い,物体近傍の音場の様子

を調べることとし,メッシュ外部境界での音波の反射を抑制するための無反射境界を設定した計算

が行なわれる.無反射境界の設定には各種の手法が提案されており,一定の成果を収めているが,

数値解析において境界での物理量の操作は計算精度に影響を及ぼす因子であり,解析の精度に影響

を及ぼす可能性がある.特に渦が流出していく部位の境界では音源である渦の挙動に影響を及ぼす

可能性がある.

また,流れ場から発生する音の圧力変動の大きさと流体の変動の大きさを比較すると,流体の運

動に起因する圧力変動は動圧の 10%程度と見積もられる.先の例で考えるとおおよそ流れ場の圧力変動は 150Pa程度なのに対して,発生する音圧レベルは 0.1~1Pa程度であり,1000分の1程度の大きさである.このため,空力音を直接計算する場合は,高い精度の非定常流れ解析が必要と

なる.この点が工業製品の開発において,分離解法が利用される理由のひとつとなっている.初期

の分離解法では音場を自由音場として解析する例が多かったが,近年では分離解法においても音響

解析が行なわれている.

非圧縮性流れの仮定の下では音速は無限に速いとみなされる.数値解析でも非圧縮解析の場合,

圧力は瞬時にして解析領域全体に影響を及ぼす (図 4).このような解析では音の伝播を考えることはできない.分離解法に対して批判的な意見の多くはこの点を指摘している.しかし,

今,流体の運動領域に比べて音の波長が十分に長い領域を考える場合,非圧縮性を仮定している

流体領域は局所的な領域に限定される.この領域では音速は無限大で圧力変動は瞬時に伝わるが,

音を観測している領域はこの領域の外部の非常に広い領域であるとすると,音源領域の非常に局所

的な空間の揺らぎを外部領域で観察することになり,内部領域の空間的な揺らぎは時間遅れを伴っ

て観察される (図 5).Lighthill方程式の右辺の音源項が十分コンパクトな空間に限定される場合は,局所空間での変動が非圧縮性であるか圧縮性であるかに関わらず,その変動は音速で空間中を

伝播する見なしても問題ないと考えられる

図 4: 圧縮性解析と非圧縮性解析における圧力の伝播

一方,伝播そのものではなく,密度が一定であるならば縦波が発生するのは矛盾であるという指

摘もある.伝播に関してはコンパクトの仮定から説明ができるが,そもそも非圧縮性ながれでは密

度の変動そのものが存在しないので,分離解法を用いることは不適切であると批判することもでき

る.しかし,非圧縮性流れでは divv = 0であり,密度変動を伴わない.速度場のフーリエ成分は

vi(x) =∫

Ai(k)eikxdk (2.29)

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図 5: 分離解法において計算している場

と書くことができる.したがって,連続の式は,

div(vi(x)) = i

∫k ·Ai(k)eikxdk = 0 (2.30)

となる.ここで iは虚数単位を示す.上式から波数 kと振幅 Aiが直交することがわかる.非圧縮

性流れの条件では,連続の式において密度の変化が含まれないため,速度場の連続条件から導かれ

るのは横波だけである.一方,Lighthill方程式の右辺 ρvivj を波数空間で2階微分すると

ρ∂

∂xi

∂xjvivj = −ρ

∫ ((ki + kj)cAi(ki)

)((ki + kj)cAj(kj)

)ei(ki+kj)xdkidkj (2.31)

となる.この式は((ki + kj)cAi(ki)

) ((ki + kj)cAj(kj)

)振幅 の波動を表すものである.結局,非

圧縮の条件においても,速度場の非線形効果によって波動が発生することを表している..空力音

は渦の非定常運動に起因する現象であり,このことから空力音の解析には基本的には非定常流れ解

析を用いる必要がある.圧縮性か非圧縮性かについては,音響フィードバックや音響的な共鳴がな

い場合はそれほど大きな問題ではない.しかし,非定常性に関しては本質的な問題である.一方,

コンピュータが高速になったとはいえ,DNSや LESに代表される非定常流れ解析は計算負荷が高く,実用問題に利用するには高性能のコンピュータが必要なことも事実である.

3 分離解法の事例と問題点

空力音の解析手法としてもっとも広く利用されているのは Lighthill-Curleの理論に基づく表面圧力変動を元にした空力音計算である.この手法は物体表面の圧力変動が遠方場に伝播する音にな

るという理論的な背景を利用した計算法である.マッハ数が低く,物体の大きさが波長に比べて小

さい(コンパクトである)場合は,高い精度で空力音の予測が可能である. 図 6は角柱周りの流れ場の流れ解析結果から得られた物体表面圧力変動を元に境界要素法を用いて音場を計算した例で

ある.角柱を中心とした双極子音場となっていることがわかる.

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図 6: 角柱周りの空力音の解析結果(分離解法:音源項 [表面圧力変動])

Curleの理論は計算が簡単で計算による予測精度が高いことから広く利用されているが,流れ場のどのような変動が音に起因しているのかわかりにくいという問題がある.このため,流体力学的

には流れ場そのものから音を計算する方法が重要視されている.具体的には式(2.13)や式 (2.27)で表される空間音源を流体解析によって求め,それらを音源項として音場を計算する方法である.

この方法の場合,たとえばどのような渦の変動から音が放射されているか,速度変動成分のど

のような変化が音に寄与するかを明らかにすることができる.ただし,空間積分を伴うことから,

空間中の渦度から放出される各音源項からの打ち消しあいなども考慮する必要があり,Cruleの理論に比べ,予測精度が低いという問題がある.このため,流れ解析から得られた音源項を音響解析

メッシュにマッピングする際の補間の問題や流れ場と音場の境界条件の与え方などに課題が残され

ている.

空間音源を用いて音場を計算した事例として一様流中に角柱(レイノルズ数 40,000)をおいた場合の空力音の解析結果の一例を示す.図 7に St=0.13における角柱周りの Lighthillテンソルの分布を示す.角柱下流側に角柱の辺の長さ Dの 1~2倍付近に Lighthillテンソルの強い領域が観察される.このことから,角柱下流側D~2D付近が主要な音源であることがわかる.迎角 α = 0度では音源分布も対称となっているが,α = 15度では,はく離した流れの再付着の影響により音源項の強さが角柱上下で非対称となっていることがわかる.風洞実験により角柱の迎え角が 15度付近になると空力音が小さくなることが確認されており,騒音レベルの違いが音源項の構造の違いに

起因することを示唆している.このように空間音源を計算する手法では空力音がどのように発生し

ているかを評価することが可能である.ただし,前述したように遠方場の予測レベルという点では

Cruleの理論との大きな差はなく(図 8参照),計算負荷などを考えると,音圧レベルの予測にはCurleの理論,音源の性質を議論する場合は空間音源を利用するなどの場合わけが必要である.図 9に St=0.13における各迎え角での角柱周りの音圧分布を示す.図 6に示した Curleの理論

では渦から放出される音場が考慮されていないことから,角柱近傍の音場が異なることがわかる.

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(a) α = 0度 (b) α = 15度

図 7: 角柱周りの Lighthillテンソルの分布(分離解法)

図 8: 分離解法による空力音スペクトル予測結果の比較

物体が十分に小さく,物体と音場の干渉が無視できる場合は問題がないが,自動車などの音響解

析では,たとえば,ドアミラーによって作られた音場が車体に及ぼす影響を考慮するような場合,

Curleの理論では評価ができない場合も考えられる.空間音源を用いた解析で注意しなければいけない点として,流れが流出する部分における音響境

界条件の取り扱いの問題がある.通常,流れ場の解析領域に比べて,音場解析領域のほうが大きい

ため,流れ場の解析領域は音響解析領域の内部領域となる.流れが流入する部位などでは,音源と

なる Lighthillテンソルの値が小さいため,特に問題とならないが,流れが流出する部分では流れ解析を打ち切った部分で音源項がゼロとなってしまうため,境界面が擬似的な音源が生じる可能性

がある.

先に示した図 9は流体解析領域を十分広く (角柱長さの 50倍)した結果である.これに対して

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図 9: 角柱周りの空力音の解析結果(分離解法:音源項 [Lighthillテンソル])

流体解析領域を角柱の長さの 10倍,20倍とした図 10では,流体解析領域の下流境界部分に角柱表面と同じ程度の音源が生じているため,正しい結果が得られていない.流体解析領域の大きさが

音の解析結果に影響を及ぼすことがわかる.流体解析では物体代表寸法の 10倍程度の解析領域で流れ場を計算することは一般的であり,解析規模を考えるとあまり大きな空間を解析することがで

きない場合も多い.このことも空間音源を用いる解析を行う場合に注意すべき点である.

Hardin[6]や Shen[7]は,Curleの理論のように流れ場と音場を方程式の上で分離するのではなく,圧縮性 Navier-Stokes方程式を圧縮性の変数と非圧縮性の変数に分離して計算する方法を提案している.たとえば,圧縮性流れ場の速度場 ui と圧力場 pi を

ui = ui∗ + u′i, pi = pi∗ + p

′i (3.1)

非圧縮性流れ場の変数 ui∗, pi∗と圧縮性成分との差 u′i, p

′iに分離し,u

′i, p

′iを音場の成分と見な

す方法である.実際の解析ではまず非圧縮の流れ解析を行い,ui∗,pi∗を計算する.音場を計算す

る際に必要となる密度変動は

ρ = ρ0 + ρa + ρ′, ρ0 =p∗ + p∗

c2(3.2)

という関係式を仮定して計算する.この方法の利点は流れ場の解析が非圧縮性解析で行なえるた

め,流れ場の計算に適したメッシュやタイムステップを適用することができることとである.音場

を計算する場合は式 (3.2)を用いて波動方程式を計算すれば良い.この方法を用いてドアミラーからの音場の計算など [8][9]が行なわれている.この方法は物体による音の回折効果なども取り組むことが可能である.ただし,圧縮性流れ場と非圧縮性流れ場を形式的に分離し,その差分を音場と

しているため,どのように両者を分離するかが課題となっている.圧縮性流れ場と非圧縮性流れ場

を系統的に分離することができれば,この方法は空力音予測に適したものであると考えられる.

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流体解析領域 (a) x/D = 10 (b) x/D = 20

図 10: 音源解析領域の大きさが解析結果に及ぼす影響

4 直接解法の事例と問題点

ここまでは流れ場と音場を分離した解析について紹介してきたが,流れと音が連成する場合が問

題となることも多い.分離解法では流れ場から発生した音場は流れ場に影響を与えないと仮定して

モデル化しているため,フィードバック音を扱うことはできない.圧縮性流れ解析を行い,密度変

動を直接計算すればフィードバック音を含めた音場の計算が可能である.図 11は自動車のドアミラー周りの流れ場と音場をモデル化したものである.

図 11: ドアミラー周りの音源モデル

ドアミラー表面の段差によって作られた微小速度変動がドアミラー端部ではく離し,音を発生さ

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せる.この音波が上流に伝播し,段差部の微小速度変動を励起し,強いフィードバック音を発生さ

せる.このモデルはキャビティから放射される空力自励音と良く似ており,定性的には音の発生メ

カニズムが理解されていた.ただし,音の発生周波数などを予測する際には経験値に基づく実験定

数が必要であり,また,この定数が条件によって異なることが知られていた.実験によって段差か

らドアミラー端部までの長さ,上流の境界層厚さと段差高さの比が音の発生に寄与していることは

確認されていたが,フィードバック音であることを間接的に証明するのみであった.また,分離解

法では流れと音のフィードバックが解けないため,音の予測ができないだけでなく,フィードバッ

ク音が発生している場合の流れの状態を推定することもできなかった.

Yokoyamaら [10]はこの問題を明らかにするため,直接解法による音の予測を試みた.図 12に解析結果を示す.

図 12: 直接計算によるドアミラー周りの密度場と渦度の解析結果 [10]

低マッハ数流れ場における圧縮性流れ計算は音の伝播速度を基準に流れ場を解く必要があるた

め,計算ステップが膨大になるだけでなく,計算も不安定になる.そこで,3次元 Navier-Stokes方程式を Favreフィルタ平均化し,フィルタリングにより計算の安定性を高めた.解析は空間微係数に 6時精度のコンパクトスキーム,時間発展には 3次精度の Runge-Kutta法を用いて評価した.このような手法により,波の分散・散逸を防ぎ, 微小な音波を捉えることを可能としている.ドアミラーモデルの壁面では断熱・すべりなし条件,遠方境界には Poinsotら [11]による無反射境界条件を用い,波を計算領域外へ滑らかに通過させる工夫を施している.解析結果から密度変動と渦の

関係,音場によって渦がどのように励起されるかが明らかとなった.その結果,図 11に示したドアミラーからのフィードバック音の発生メカニズムが確認されるとともに,実験によって与えてい

た経験値に基づく定数を解析結果から定量的に評価することが可能となった [12].この知見は実際のドアミラーの開発にも取り入れられ,直接解法によって空力音を低減するための設計指針が得

られている.空力音の直接計算は計算負荷が大きく,製品開発のすべてに適用できるわけではない

が,問題を適切にモデル化し,明らかにすべき現象を絞りこめば非常に強力なツールになりうる.

今後,直接計算が空力音解析や製品開発に役立てられていくと考えられる.

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5 Linearlized Euler Equation

速度,圧力,密度をそれぞれ,u,p,ρ,音波による変動成分をそれぞれ u′, p′, ρ′として,変動値

に対する連続の式,圧縮性流れの運動方程式を考える.ここで,単位体積あたりの全エネルギー e

と圧力 p,比熱比 γ,乱流エネルギーu2

i

2との間には e =

p

(γ − 1)+

u2i

2の関係が成り立つことに注

意し,Lighthillテンソルに基づく音源項を S付加すると音波による変動成分に対する LinearlizedEuler Equationは以下のように表すことができる.

∂Q

∂t+

∂F

∂xj+ D = S (5.1)

Q =

ρ′

ρu′ip′

(5.2)

F =

ρu′i + ρ′ui

uj ρu′i +′ +p′δij

uip′ + γpui

(5.3)

S =

0(ρu′j + ρ′uj

)∂ui

∂xj

(γ − 1)p′∇ · u− (γ − 1)u′ · ∇p

(5.4)

S =

0

− ∂∂xj

(ρu′iu

′j − ρu′iu

′j

)

0

(5.5)

ここで,Qは流れ場に対する保存量,F は流束ベクトル(非粘性項),Dは流れ場による音場の

散乱効果を表すベクトルである.

流れから発生する音及び流れ場による音の散乱効果を計算するには,圧縮性または非圧縮性の流

れ場の計算結果から音源項 Sを推定し,上記の LEEを数値解析的に解くことによって求めることができる.

音源項を推定する場合,(1)圧縮性の流れ場を直接計算する場合,(2)非圧縮の流れ解析データを使う場合,(3)非圧縮定常流れ解析のデータを使う場合の3つのケースが考えられる.(1)の場合,LEEの音源項を使った解析を使う必然性は必ずしもなく,圧縮性解析結果の密度の空間部分から音を直接求めることも可能であるが,流れ場の解析領域と音場の解析領域の違いから,音響計

算を LEEで求める場合に利用される.(3)の場合,音源項の平均値のみが求められる.変動値は平均値の値を元に一様等方性乱流の理論などを用いて変動場を推定する方法が用いられる.この場

合,変動値の振幅はエネルギースペクトル分布から推定し,位相は連続の式を満たすように一様乱

数を用いて算出するのが一般的である.(2)の場合は,変動成分が得られているので,計算データから適切な平均時間を推定し,平均値と変動値を求めることになるが,平均値の取り方によって解

析結果が異なるため,どの程度の平均時間を取る必要があるかを検討する必要がある.

LEEの解析の場合,対流項にはMUSCL,時間積分には LU-SGS陰解法などが用いられている例が多い.圧縮性流れ解析による直接解析の場合と同様に計算を安定化させるために高次精度の

フィルターを必要とする場合が多い.また,遠方境界には無反射境界が必要となる場合が多い.ま

た,Lighthillテンソルを用いた解析と同じように流れ場の変動の大きな部分(音源項となる成分の

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値が大きい)部分が解析領域の境界にあると境界部で擬似的な音源ができるため,数値フィルター

などによる処理が必要となる場合もある.

参考文献

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[2] Lighthill, M.J., ”On sound generated aerodynamically. Part II:Turbulence as a source ofsound,” Proc. Roy Soc. London., A222, pp.1-32 (1954)

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[6] Hardin, J.C., and Pope, D.S., ”An acoustic /viscous spliting technique for computatinalaeroacoustics,”Theoretical Computational Fluid Dynamics. Vol.6,pp.323-340 (1994)

[7] Shen, W.Z. and Sorensen, J.N., ”Aeroacoustic modeling of low-speed flows,” TheoreticalComputational Fluid Dynamics. Vol.13, pp.271-289 (1999)

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[9] 加藤由博, Igor. M.S., 中村佳朗, ”自動車のドアミラーから発生する空力音の計算,” 日本機械学会流体工学部門講演会論文集,pp.283-284 (2009)

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[12] 飯田 明由,小久保あゆみ, 塚本裕一,本田 拓, 横山博史, 貴島 敬,加藤千幸,”ドアミラーから放射される空力・音響フィードバック音の発生条件,”日本機械学会論文集 B編 73-732,pp.1637-1646 (2007)

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