(2019年11月現在) DMO 型 · 101 11月 111 2017年 1月 123 3月 134 5月 145 8月 157 11月...

Destination Management/Marketing Organiza tion DMODMCDestination Manage ment/Marketing Company Association of Des tination Management Executives International 2015201911 252201911 47 27 46213823調3姿DMO20193DMODMODMO1 1 4

Transcript of (2019年11月現在) DMO 型 · 101 11月 111 2017年 1月 123 3月 134 5月 145 8月 157 11月...

Page 1: (2019年11月現在) DMO 型 · 101 11月 111 2017年 1月 123 3月 134 5月 145 8月 157 11月 133 174 2018年 3月 128 198 7月 122 208 12月 121 223 2019年 3月 114 237 10月

営利13.5 %

非営利85.7 %

非営利法人の内訳

一社67.5 %

公社6.7 %

公財4.0 %

一財4.0 %

協組0.4 %

特非3.2 %

未取得0.8 %

2016年

日本版DMO法人日本版DMO候補法人

DMO候補法人登録開始

DMO法人登録開始

2月

24

4月

61

5月

81

7月

88

8月

101

11月

111

2017年1月

123

3月

134

5月

145

8月

157

11月

133

174

2018年3月

128

198

7月

122

208

12月

121

223

2019年3月

114

237

10月

116

41 70 86 102 123 136

252

公益財団法人日本交通公社

観光経済研究部

上席主任研究員 

中野文彦

図 1 日本版DMO登録数の推移(2019年11月現在)

図 2 日本版DMOの概要

図 3 日本版DMOの法人格割合(候補法人含む)

出典:日本版DMO登録一覧(観光庁)より筆者作成

出典:日本版DMOの役割(観光庁、2019年)

DMOは非営利約9割、営利約1割

 2019年11月現在の登録されてい

るDMOを見ると、その法人格は一般

社団法人を中心とする非営利法人が

85・7%、株式会社・合同会社からな

 観光地のマネジメントやマーケティ

ングを担う組織、DMO(D

estination

Man

agemen

t/Marketin

gO

rganiza

tion

)は、観光を通した地域活性化の

担い手として各地で設立されているが、

その一部に、株式会社であるDMOや

DMOが設立した株式会社が見られる。

 特集1では、株式会社であるDMO

やDMOが設立した株式会社を「株式

会社型DMO」として概観する。また、

これまで観光施策として進められてき

た地域の観光推進組織における、株式

会社の位置づけについて整理する。

 なお、既往文献には株式会社である

DMOをDMC(D

estinationM

anage

ment/M

arketing Com

pany

)とする例

もあるが、国際的にはDMCはMIC

E等のビジネスミーティングを円滑に

開催するためのマネジメントを担う企

業(ADMEI(A

ssociation o

f Des

tinatio

n M

anagem

ent

Execu

tives

Intern

atio

nal

)による定義)とされ

る場合も多く、混乱を避けるために本

特集では「株式会社型DMO」とする。

全国に拡大するDMO

 観光庁は、新しい地域の観光推進組

織として、日本版DMO(以下、DM

Oとする)の形成を促進している。2

015年の登録制度開始以降、年々増

加し、2019年11月現在で候補法人

を含めて252法人が登録されている。

 DMOは北海道、沖縄県と複数都道

府県に跨る区域の「広域連携DMO」、

単独都道府県や複数市区町村に跨る

「地域連携DMO」、単独市区町村や

温泉地等の「地域DMO」に分類され

る。2019年11月の段階では、47都

道府県全てが広域連携DMOを設置し、

加えて27都府県が単独の地域連携DM

Oを設置している。市区町村単位では、

462市区町村が地域連携DMOを、

138市区町村が地域DMOを設置す

る等、全国的に拡大している。

DMOの役割・機能と課題

 観光庁は、DMOが必ず実施する基

礎的な役割・機能(観光地域マーケテ

ィング・マネジメント)として、(1)

多様な関係者の合意形成、(2)各種デ

ータ等の継続的な収集・分析、データ

に基づく戦略(ブランディング)の策

定、KPIの設定・PDCAサイクル

の確立、(3)地域内の関係者による観

光関連事業とDMO戦略の調整・連携

の3点をあげている。また「地域の実

情に応じて」としながらも、「着地型

旅行商品の造成・販売、ランドオペレ

ーター業務等を、一主体として実施す

ることも考えられる」と、DMOが収

益事業に取り組む可能性についても言

及している。

 しかし、これらはあくまでもDMO

の役割・機能のミニマムスタンダードに

過ぎない。現状においては各々のDM

Oは、地域での取り組みの中で自身の

あるべき姿を模索している段階にある。

 実際に、観光庁は「世界水準のDM

Oのあり方に関する検討会

中間とり

まとめ(2019年3月)」の中で、

「各地域においてDMOに関する取り

組みが進められる一方、地域において

はDMOに関してその役割や組織のあ

り方について戸惑う声も少なからず聞

かれる」と課題をあげ、その対応方針

を検討している。

る営利法人が13・5%となっている。

 一般社団法人が最も多い要因の一つ

には、DMOの形成において既存の一

般社団法人である観光協会を再編する

例が多いことがある。

 一方、株式会社であるDMOは、

13・5%と少数派ではあるものの、一

般社団法人に次ぐ割合を占める。また、

(一社)せとうち観光推進機構、NPO

法人阿寒観光協会まちづくり推進機構、

(一社)ノオト、(一社)物部川DMO協

議会のように、非営利法人であるDM

Oが一体として活動する株式会社を設

立する例も見られる。

事業で地域をけん引する

株式会社型DMO

 株式会社であるDMO及びDMOが

設立した株式会社を「株式会社型DM

O」として、会社概要、事業内容等が

比較的明示されている30社について、

設立年や出資者、事業内容等を整理し

た(図4、図5)。

 設立年代を見ると、2015年以降

に22社が設立され、特に2016年以

降に設立数が拡大している。これは

2015年以降の「地方創生」施策の

展開によって全国の自治体で「地方版

総合戦略」の策定が進み、さらに

2016年に策定された「明日の日本

を支える観光ビジョン」において「観

光はわが国の成長戦略と地方創生の

柱」と位置づけられる等、政策面にお

いて観光による地域の経済面の活性化

がより強く打ち出されたことが背景に

ある。

 株式会社型DMOの出資者は、地域

の民間団体のみの出資は2社と少なく、

最も多いのは地域の民間団体と当該自

治体(市町村)が出資したもので13社

である。金融機関(地方銀行、日本政

策投資銀行、株式会社地域経済活性化

支援機構(REVIC)等のファン

ド)等が出資に加わったものが7社、

2016年以降には地域外の企業から

の出資が加わったものが8社あり、株

式会社型DMOの設立には当該地域以

外からの参画が増えている。

 事業内容を見ると、地域で提供する

宿泊、飲食、物販、体験コンテンツの

運営、それらの提供の核となる観光施

設の運営、地域商社等の地域外への物

販、着地型旅行の販売といった多様な

収益事業に携わっており、DMOとし

て直接収益事業を行うことで、地域の

活性化をけん引していることがわかる。

 現在の日本版DMOは、約7割の一

般社団法人と、1割強の株式会社に大

別されるが、それぞれの法人格の違い

によって、どのようなメリット・デメ

リットが存在するのかを整理する。

一般社団法人のメリット・デメリット

 一般社団法人は、観光協会のような

同業者が集まる団体の多くが選択する

ことが多い。

 メリットとしては、同業者全体のメ

リットになる事業の推進を掲げること

によって行政等の支援を受けやすいこ

と、非営利法人であっても収益事業の

実施も可能であり柔軟な組織設計がで

きること、設立・運営の事務が簡便で

労力・費用が比較的かからないことが

あげられる。

 一方で、同業者全体のメリットを追

求することによるデメリットも生じる。

選択・集中した施策よりも網羅的・広

範な施策になる傾向や、多数・多様な

会員間の調整が必要であり状況の変化

 株式会社型DMOは、地方創

生、特に観光振興による地域経

済の活性化への期待を背景に、

少数ながらも近年その数は拡大

している。また、その設立には

地域の民間団体、行政のみなら

ず、金融機関、時には地域外の

企業が出資等の形で参画してい

る例も増えている。

 しかし、リスクもある収益事

業を実現し、持続的に運営する

には、実際には多くの困難が伴

う。

 そうした株式会社型DMOの実態を

把握するため、特集2では7社を事例

として取り上げた。

 事例の選定は、出資者や設立過程に

着目し、地元企業有志による設立、地

元の民間団体と行政が連携した設立、

地元の民間団体、行政に金融機関が加

わった設立、さらに地域外からの資本

参加を得た設立といった4つの分類を

基に選定した。また、一般社団法人と

して収益事業にも取り組む1社を参考

事例として取り上げた。

 特集3では、特に人材、組織づくり、

財源の面から見た株式会社型DMOに

ついて、実際にその設立に携わった金

融や人材育成の専門家にインタビュー

を行った。

 こうした事例、インタビューをもと

に、株式会社型DMOの実態、課題や

展望について考察を行う。

に応じたスピーディな経営判断がしづ

らいといった点は、特に収益事業を実

施する際にはデメリットとなる。また、

行政等の支援への依存度が高くなると、

単年度主義的な事業運営にならざるを

得ない。

 しかし、相応の権限を有する少人数

の意思決定機関(理事会等)を設ける、

会費や参加団体からの負担金、相応の

収益事業を持つといった独自の財源を

設けることによってこうしたデメリッ

トを緩和することも可能である。

株式会社のメリット・デメリット

 株式会社は、事業の目的や計画に賛

同した発起人、出資者が会社を設立し、

事業の運営はプロの経営者に委ねるこ

ともできることから、収益事業を担う

には最適な法人格とされる。

 強い権限を委ねられた経営者によっ

て、選択・集中、スピーディな経営判

断が可能となり、出資者に対する緊張

感のある経営が期待できる。また、利

益の一部を配当できることから、出資

という形での資金調達が可能であるこ

とも大きなメリットである。

 デメリットとしては、収益事業であ

るからには相応のリスクがあり、そう

したリスクを乗り越えながら事業を持

続させる経営手腕が求められる。事前

の実現性の高い事業計画がなければ出

資を募ることも難しい。

 また、収益目的の組織であることが

DMOとしてマイナスに作用すること

もある。例えば、公益性を重視する行

政等の支援が受けられるか、地域のコ

ンセンサスが得られるか、出資者の影

響が大きく地域の意向が反映されるか

といった点が懸念される。

 こうしたデメリットを解消するため

には、DMOとして地域の活性化に寄

与する収益事業に取り組む、行政や地

域の団体・住民、出資者等と十分にコ

ンセンサスを図る、出資者の権限を信

頼性の高い出資者に制限する(議決権

が制限される種類株式の導入等)、運

営に携わる優秀な経営者を獲得する等

が必要となる。

 最後に、これまで観光庁が推進して

きた、地域の観光振興に取り組む組織

形成やその事業支援といった、観光地

域づくり施策において、株式会社がど

のように位置づけられてきたかについ

て触れたい。

「協議会」と「民間組織」

 これまでの観光地域づくり施策は、

「協議会」もしくは法人格を有する

「民間組織」に対する支援を中心にな

されてきた。

 協議会は、行政、観光事業者、農商

工、NPO等の地域づくり・まちづく

り団体等の多様な地域の団体が観光地

域づくりに参画し、計画の策定等を通

した合意形成を重視する事業に対して

採用される場合が多い。

 しかし、協議会自体は法人格がなく、

事業を継続して実施する主体にはなり

づらいことから、観光地域づくりの実

行段階や事業の継続を担う組織として、

民間組織(社団法人、財団法人、NP

O法人、株式会社等)の主体的な参画

の必要性が高まり、法人格を有するD

MOの形成へとつながった。

「株式会社」への支援

「観光立国宣言」が出された2003

年以降の観光地域づくり施策において、

株式会社が支援対象となるのは「観光

ルネサンス事業(2005〜2007

年度)」が最初である。同事業は「観

光カリスマ等、意欲の高い民間人によ

る活性化の成功事例を促進する」こと

を意図し、当該自治体によって認定さ

れた地域の民間組織を直接の支援対象

とした事業で、株式会社も第三セクタ

ーに限り支援対象に含めた(図6)。

 以降、民間組織が支援対象となる事

業においては、行政との連携、協議会

との連携等を前提に、株式会社を含め

て支援対象とされてきた。しかし、実

際に株式会社が観光庁等の支援対象に

なった例は、着地型旅行等による収益

事業の確立が重視された「観光地域づ

くりプラットフォーム支援事業(20

11〜2012)」における3団体の

みであった。

 しかし、「「稼ぐ力」を引き出す観光

地域づくり、「稼ぐ力」を地域の中で

生み出していく取り組みの推進(観光

立国推進基本計画(2017年))」以

降の支援事業では、政府系金融機関に

よるDMOの設立・事業への資金や経

営面での支援実施が示され、株式会社

への支援策としても活用されている。

DMOを概観する

株式会社型

1

日本版DMOの

現状と課題

1

株式会社型

DMOの特徴

2

出典:日本版DMO登録一覧(観光庁、2019年11月時点)より筆者作成

株式会社型DMOを概観する1

4

Page 2: (2019年11月現在) DMO 型 · 101 11月 111 2017年 1月 123 3月 134 5月 145 8月 157 11月 133 174 2018年 3月 128 198 7月 122 208 12月 121 223 2019年 3月 114 237 10月

営利13.5 %

非営利85.7 %

非営利法人の内訳

一社67.5 %

公社6.7 %

公財4.0 %

一財4.0 %

協組0.4 %

特非3.2 %

未取得0.8 %

2016年

日本版DMO法人日本版DMO候補法人

DMO候補法人登録開始

DMO法人登録開始

2月

24

4月

61

5月

81

7月

88

8月

101

11月

111

2017年1月

123

3月

134

5月

145

8月

157

11月

133

174

2018年3月

128

198

7月

122

208

12月

121

223

2019年3月

114

237

10月

116

41 70 86 102 123 136

252

公益財団法人日本交通公社

観光経済研究部

上席主任研究員 

中野文彦

図 1 日本版DMO登録数の推移(2019年11月現在)

図 2 日本版DMOの概要

図 3 日本版DMOの法人格割合(候補法人含む)

出典:日本版DMO登録一覧(観光庁)より筆者作成

出典:日本版DMOの役割(観光庁、2019年)

DMOは非営利約9割、営利約1割

 2019年11月現在の登録されてい

るDMOを見ると、その法人格は一般

社団法人を中心とする非営利法人が

85・7%、株式会社・合同会社からな

 観光地のマネジメントやマーケティ

ングを担う組織、DMO(D

estination

Man

agemen

t/Marketin

gO

rganiza

tion

)は、観光を通した地域活性化の

担い手として各地で設立されているが、

その一部に、株式会社であるDMOや

DMOが設立した株式会社が見られる。

 特集1では、株式会社であるDMO

やDMOが設立した株式会社を「株式

会社型DMO」として概観する。また、

これまで観光施策として進められてき

た地域の観光推進組織における、株式

会社の位置づけについて整理する。

 なお、既往文献には株式会社である

DMOをDMC(D

estinationM

anage

ment/M

arketing Com

pany

)とする例

もあるが、国際的にはDMCはMIC

E等のビジネスミーティングを円滑に

開催するためのマネジメントを担う企

業(ADMEI(A

ssociation o

f Des

tinatio

n M

anagem

ent

Execu

tives

Intern

atio

nal

)による定義)とされ

る場合も多く、混乱を避けるために本

特集では「株式会社型DMO」とする。

全国に拡大するDMO

 観光庁は、新しい地域の観光推進組

織として、日本版DMO(以下、DM

Oとする)の形成を促進している。2

015年の登録制度開始以降、年々増

加し、2019年11月現在で候補法人

を含めて252法人が登録されている。

 DMOは北海道、沖縄県と複数都道

府県に跨る区域の「広域連携DMO」、

単独都道府県や複数市区町村に跨る

「地域連携DMO」、単独市区町村や

温泉地等の「地域DMO」に分類され

る。2019年11月の段階では、47都

道府県全てが広域連携DMOを設置し、

加えて27都府県が単独の地域連携DM

Oを設置している。市区町村単位では、

462市区町村が地域連携DMOを、

138市区町村が地域DMOを設置す

る等、全国的に拡大している。

DMOの役割・機能と課題

 観光庁は、DMOが必ず実施する基

礎的な役割・機能(観光地域マーケテ

ィング・マネジメント)として、(1)

多様な関係者の合意形成、(2)各種デ

ータ等の継続的な収集・分析、データ

に基づく戦略(ブランディング)の策

定、KPIの設定・PDCAサイクル

の確立、(3)地域内の関係者による観

光関連事業とDMO戦略の調整・連携

の3点をあげている。また「地域の実

情に応じて」としながらも、「着地型

旅行商品の造成・販売、ランドオペレ

ーター業務等を、一主体として実施す

ることも考えられる」と、DMOが収

益事業に取り組む可能性についても言

及している。

 しかし、これらはあくまでもDMO

の役割・機能のミニマムスタンダードに

過ぎない。現状においては各々のDM

Oは、地域での取り組みの中で自身の

あるべき姿を模索している段階にある。

 実際に、観光庁は「世界水準のDM

Oのあり方に関する検討会

中間とり

まとめ(2019年3月)」の中で、

「各地域においてDMOに関する取り

組みが進められる一方、地域において

はDMOに関してその役割や組織のあ

り方について戸惑う声も少なからず聞

かれる」と課題をあげ、その対応方針

を検討している。

る営利法人が13・5%となっている。

 一般社団法人が最も多い要因の一つ

には、DMOの形成において既存の一

般社団法人である観光協会を再編する

例が多いことがある。

 一方、株式会社であるDMOは、

13・5%と少数派ではあるものの、一

般社団法人に次ぐ割合を占める。また、

(一社)せとうち観光推進機構、NPO

法人阿寒観光協会まちづくり推進機構、

(一社)ノオト、(一社)物部川DMO協

議会のように、非営利法人であるDM

Oが一体として活動する株式会社を設

立する例も見られる。

事業で地域をけん引する

株式会社型DMO

 株式会社であるDMO及びDMOが

設立した株式会社を「株式会社型DM

O」として、会社概要、事業内容等が

比較的明示されている30社について、

設立年や出資者、事業内容等を整理し

た(図4、図5)。

 設立年代を見ると、2015年以降

に22社が設立され、特に2016年以

降に設立数が拡大している。これは

2015年以降の「地方創生」施策の

展開によって全国の自治体で「地方版

総合戦略」の策定が進み、さらに

2016年に策定された「明日の日本

を支える観光ビジョン」において「観

光はわが国の成長戦略と地方創生の

柱」と位置づけられる等、政策面にお

いて観光による地域の経済面の活性化

がより強く打ち出されたことが背景に

ある。

 株式会社型DMOの出資者は、地域

の民間団体のみの出資は2社と少なく、

最も多いのは地域の民間団体と当該自

治体(市町村)が出資したもので13社

である。金融機関(地方銀行、日本政

策投資銀行、株式会社地域経済活性化

支援機構(REVIC)等のファン

ド)等が出資に加わったものが7社、

2016年以降には地域外の企業から

の出資が加わったものが8社あり、株

式会社型DMOの設立には当該地域以

外からの参画が増えている。

 事業内容を見ると、地域で提供する

宿泊、飲食、物販、体験コンテンツの

運営、それらの提供の核となる観光施

設の運営、地域商社等の地域外への物

販、着地型旅行の販売といった多様な

収益事業に携わっており、DMOとし

て直接収益事業を行うことで、地域の

活性化をけん引していることがわかる。

 現在の日本版DMOは、約7割の一

般社団法人と、1割強の株式会社に大

別されるが、それぞれの法人格の違い

によって、どのようなメリット・デメ

リットが存在するのかを整理する。

一般社団法人のメリット・デメリット

 一般社団法人は、観光協会のような

同業者が集まる団体の多くが選択する

ことが多い。

 メリットとしては、同業者全体のメ

リットになる事業の推進を掲げること

によって行政等の支援を受けやすいこ

と、非営利法人であっても収益事業の

実施も可能であり柔軟な組織設計がで

きること、設立・運営の事務が簡便で

労力・費用が比較的かからないことが

あげられる。

 一方で、同業者全体のメリットを追

求することによるデメリットも生じる。

選択・集中した施策よりも網羅的・広

範な施策になる傾向や、多数・多様な

会員間の調整が必要であり状況の変化

 株式会社型DMOは、地方創

生、特に観光振興による地域経

済の活性化への期待を背景に、

少数ながらも近年その数は拡大

している。また、その設立には

地域の民間団体、行政のみなら

ず、金融機関、時には地域外の

企業が出資等の形で参画してい

る例も増えている。

 しかし、リスクもある収益事

業を実現し、持続的に運営する

には、実際には多くの困難が伴

う。

 そうした株式会社型DMOの実態を

把握するため、特集2では7社を事例

として取り上げた。

 事例の選定は、出資者や設立過程に

着目し、地元企業有志による設立、地

元の民間団体と行政が連携した設立、

地元の民間団体、行政に金融機関が加

わった設立、さらに地域外からの資本

参加を得た設立といった4つの分類を

基に選定した。また、一般社団法人と

して収益事業にも取り組む1社を参考

事例として取り上げた。

 特集3では、特に人材、組織づくり、

財源の面から見た株式会社型DMOに

ついて、実際にその設立に携わった金

融や人材育成の専門家にインタビュー

を行った。

 こうした事例、インタビューをもと

に、株式会社型DMOの実態、課題や

展望について考察を行う。

に応じたスピーディな経営判断がしづ

らいといった点は、特に収益事業を実

施する際にはデメリットとなる。また、

行政等の支援への依存度が高くなると、

単年度主義的な事業運営にならざるを

得ない。

 しかし、相応の権限を有する少人数

の意思決定機関(理事会等)を設ける、

会費や参加団体からの負担金、相応の

収益事業を持つといった独自の財源を

設けることによってこうしたデメリッ

トを緩和することも可能である。

株式会社のメリット・デメリット

 株式会社は、事業の目的や計画に賛

同した発起人、出資者が会社を設立し、

事業の運営はプロの経営者に委ねるこ

ともできることから、収益事業を担う

には最適な法人格とされる。

 強い権限を委ねられた経営者によっ

て、選択・集中、スピーディな経営判

断が可能となり、出資者に対する緊張

感のある経営が期待できる。また、利

益の一部を配当できることから、出資

という形での資金調達が可能であるこ

とも大きなメリットである。

 デメリットとしては、収益事業であ

るからには相応のリスクがあり、そう

したリスクを乗り越えながら事業を持

続させる経営手腕が求められる。事前

の実現性の高い事業計画がなければ出

資を募ることも難しい。

 また、収益目的の組織であることが

DMOとしてマイナスに作用すること

もある。例えば、公益性を重視する行

政等の支援が受けられるか、地域のコ

ンセンサスが得られるか、出資者の影

響が大きく地域の意向が反映されるか

といった点が懸念される。

 こうしたデメリットを解消するため

には、DMOとして地域の活性化に寄

与する収益事業に取り組む、行政や地

域の団体・住民、出資者等と十分にコ

ンセンサスを図る、出資者の権限を信

頼性の高い出資者に制限する(議決権

が制限される種類株式の導入等)、運

営に携わる優秀な経営者を獲得する等

が必要となる。

 最後に、これまで観光庁が推進して

きた、地域の観光振興に取り組む組織

形成やその事業支援といった、観光地

域づくり施策において、株式会社がど

のように位置づけられてきたかについ

て触れたい。

「協議会」と「民間組織」

 これまでの観光地域づくり施策は、

「協議会」もしくは法人格を有する

「民間組織」に対する支援を中心にな

されてきた。

 協議会は、行政、観光事業者、農商

工、NPO等の地域づくり・まちづく

り団体等の多様な地域の団体が観光地

域づくりに参画し、計画の策定等を通

した合意形成を重視する事業に対して

採用される場合が多い。

 しかし、協議会自体は法人格がなく、

事業を継続して実施する主体にはなり

づらいことから、観光地域づくりの実

行段階や事業の継続を担う組織として、

民間組織(社団法人、財団法人、NP

O法人、株式会社等)の主体的な参画

の必要性が高まり、法人格を有するD

MOの形成へとつながった。

「株式会社」への支援

「観光立国宣言」が出された2003

年以降の観光地域づくり施策において、

株式会社が支援対象となるのは「観光

ルネサンス事業(2005〜2007

年度)」が最初である。同事業は「観

光カリスマ等、意欲の高い民間人によ

る活性化の成功事例を促進する」こと

を意図し、当該自治体によって認定さ

れた地域の民間組織を直接の支援対象

とした事業で、株式会社も第三セクタ

ーに限り支援対象に含めた(図6)。

 以降、民間組織が支援対象となる事

業においては、行政との連携、協議会

との連携等を前提に、株式会社を含め

て支援対象とされてきた。しかし、実

際に株式会社が観光庁等の支援対象に

なった例は、着地型旅行等による収益

事業の確立が重視された「観光地域づ

くりプラットフォーム支援事業(20

11〜2012)」における3団体の

みであった。

 しかし、「「稼ぐ力」を引き出す観光

地域づくり、「稼ぐ力」を地域の中で

生み出していく取り組みの推進(観光

立国推進基本計画(2017年))」以

降の支援事業では、政府系金融機関に

よるDMOの設立・事業への資金や経

営面での支援実施が示され、株式会社

への支援策としても活用されている。

DMOを概観する

株式会社型

1

日本版DMOの

現状と課題

1

株式会社型

DMOの特徴

2

出典:日本版DMO登録一覧(観光庁、2019年11月時点)より筆者作成

株式会社型DMOを概観する1

第244号 January 20205

Page 3: (2019年11月現在) DMO 型 · 101 11月 111 2017年 1月 123 3月 134 5月 145 8月 157 11月 133 174 2018年 3月 128 198 7月 122 208 12月 121 223 2019年 3月 114 237 10月

阿寒アドベンチャーツーリズム(株)

(株)デスティネーション十勝

(株)かづの観光物産公社

おもてなし山形(株)

(株)さかいまちづくり公社

(株)大田原ツーリズム

(株)まちづくり小浜

(株)阿智昼神観光局

伊勢まちづくり(株)

(株)Verde大台ツーリズム

(株)NOTE

(株)島原観光ビューロー

(株)くまもとDMC

(株)KASSE JAPAN

(株)SMO南小国

(株)コーストライフ

小林まちづくり(株)

勝山市観光まちづくり(株)

(株)南信州観光公社

(株)鴨川観光プラットフォーム

(株)瀬戸内ブランドコーポレーション

(株)ディスカバーリンクせとうち

(株)ものべみらい

(株)有田まちづくり公社

(株)薩摩川内市観光物産協会

(株)おおすみ観光未来会議

2018年1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

組織名 設立 主要収益事業 対象区域等資本金

(千円)出資者タイプ(凡例参照)

No.

4,000 ●

A B C D

2017年 30,500 ●

大雪山ツアーズ(株) 2018年 2,500 ●

(株)karch 2018年 8,400 ●

(株)八幡平DMO 2018年 3,000 ●

(株)かまいしDMC

経営支援、資金支援(ファンド業務)、地域商社(グループ会社として宿泊事業、観光施設運営(龍河洞)、物販・飲食、農業事業等)

観光施設運営(グランピング、キャンプ場)着地型旅行

着地型旅行、地域商社、観光施設運営(宿泊、公園、飲食、キャンプ場等)

観光施設運営(道の駅)、現地での飲食・物販提供

着地型旅行、商社事業、エネルギー事業(売電事業)

観光施設運営(道の駅)

農泊・農業体験

着地型旅行

観光施設運営(道の駅)、空き家・古民家再生及び運営(宿泊施設)

観光施設運営(ジオターミナル、花月楼建物管理)

農泊・農業体験

着地型旅行、地域内二次交通運営

着地型旅行、空き家・古民家再生及び運営

着地型旅行(アウトドアプログラム)

空き家・古民家再生及び運営の全国展開支援

経営支援等コンサルティング、資金支援(ファンド業務)

着地型旅行(FIT外国人向け、広域連携)、経営支援等コンサルティング

観光施設運営(ナイタイ高原牧場・テラス等)、着地型旅行

観光施設運営(大雪森のガーデン等)、着地型旅行

観光施設運営(森のナイトウォーク体験)、着地型旅行

着地型旅行(インバウンド向け、ロングイベント実施等)、空き家・古民家再生及び運営

(飲食・物販提供)

【熊本県】八代市、人吉市、水俣市、氷川町、芦北町、津奈木町、錦町、あさぎり町、多良木町、湯前町、水上村、相良村、五木村、山江村、球磨村

【鹿児島県】鹿屋市、垂水市、曽於市、志布志市、大崎町、東串良町、錦江町、南大隅町、肝付町

【鹿児島県】薩摩川内市

※広域連携DMOである(一社)せとうち観光推進機構(兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県)を中心に設立

空き家・古民家再生及び運営、宿泊、物販、飲食、レンタサイクル等 【広島県】尾道市

※地域DMOである(一社)ノオト(兵庫県豊岡市、養父市、朝来市、丹波篠山市)を中心に設立

観光施設運営(島原城等)、物販・飲食施設の運営 【長崎県】島原市

経営支援等コンサルティング、着地型旅行、地域商社

地域商社

【熊本県】

地域商社、着地型旅行(里山体験) 【熊本県】南小国町

着地型旅行(シーカヤック等) 【宮崎県】日南市、串間市

観光施設運営(まちなか複合ビル「TENAMUビル」運営)

着地型旅行(大隅半島体験等)

着地型旅行(体験通年プログラム、グリーンツーリズム等)

【宮崎県】小林市

【三重県】大台町

【三重県】伊勢市

【長野県】阿智村

【北海道】上川町

【北海道】上士幌町

【岩手県】八幡平市

【岩手県】釡石市

【秋田県】鹿角市

【山形県】山形市、上山市、天童市

【茨城県】境町

【栃木県】大田原市

【千葉県】鴨川市

【福井県】小浜市

【福井県】勝山市

※地域連携DMOである(一社)物部川DMO協議会(高知県南国市、香南市、香美市)と並行して設立

【佐賀県】有田町

【長野県】飯田市、松川町、高森町、阿南町、阿智村、平谷村、根羽村、下條村、売木村、天龍村、泰阜村、喬木村、豊丘村、大鹿村

※地域DMOであるNPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構(北海道釧路市阿寒湖温泉)を中心に設立

【北海道】帯広市、音更町、士幌町、上士幌町、鹿追町、新得町、清水町、芽室町、中札内村、更別村、大樹町、広尾町、幕別町、池田町、豊頃町、本別町、足寄町、陸別町、浦幌町

2018年 22,500 ●

1994年 50,000 ●

2017年 19,250 ●

2016年 500 ●

2012年 65,000 ●

2017年 9,000 ●

2010年 25,000 ●

2016年 10,000 ●

2001年 29,650 ●

2006年 20,000 ●

2015年 20,000 ●

2016年 6,000 ●

2016年 72,000 ●

2016年 450,000 ●

2012年 3,000 ●

2016年 16,350 ●

2015年 13,000 ●

2016年 60,000 ●

2016年 50,000 ●

2017年 10,000 ●

2018年 85,400 ●

2017年 2,000 ●

2014年 50,000 ●

2018年 5,000 ●

2013年 9,000 ●

図 5 株式会社型DMOの概要(都道府県・市町村番号順)

図 4 株式会社型DMOの出資者及び設立年

出典:日本版DMO登録一覧、各社事業概要等より筆者作成

DMOは非営利約9割、営利約1割

 2019年11月現在の登録されてい

るDMOを見ると、その法人格は一般

社団法人を中心とする非営利法人が

85・7%、株式会社・合同会社からな

 観光地のマネジメントやマーケティ

ングを担う組織、DMO(D

estination

Man

agemen

t/Marketin

gO

rganiza

tion

)は、観光を通した地域活性化の

担い手として各地で設立されているが、

その一部に、株式会社であるDMOや

DMOが設立した株式会社が見られる。

 特集1では、株式会社であるDMO

やDMOが設立した株式会社を「株式

会社型DMO」として概観する。また、

これまで観光施策として進められてき

た地域の観光推進組織における、株式

会社の位置づけについて整理する。

 なお、既往文献には株式会社である

DMOをDMC(D

estinationM

anage

ment/M

arketing Com

pany

)とする例

もあるが、国際的にはDMCはMIC

E等のビジネスミーティングを円滑に

開催するためのマネジメントを担う企

業(ADMEI(A

ssociation o

f Des

tinatio

n M

anagem

ent

Execu

tives

Intern

atio

nal

)による定義)とされ

る場合も多く、混乱を避けるために本

特集では「株式会社型DMO」とする。

全国に拡大するDMO

 観光庁は、新しい地域の観光推進組

織として、日本版DMO(以下、DM

Oとする)の形成を促進している。2

015年の登録制度開始以降、年々増

加し、2019年11月現在で候補法人

を含めて252法人が登録されている。

 DMOは北海道、沖縄県と複数都道

府県に跨る区域の「広域連携DMO」、

単独都道府県や複数市区町村に跨る

「地域連携DMO」、単独市区町村や

温泉地等の「地域DMO」に分類され

る。2019年11月の段階では、47都

道府県全てが広域連携DMOを設置し、

加えて27都府県が単独の地域連携DM

Oを設置している。市区町村単位では、

462市区町村が地域連携DMOを、

138市区町村が地域DMOを設置す

る等、全国的に拡大している。

DMOの役割・機能と課題

 観光庁は、DMOが必ず実施する基

礎的な役割・機能(観光地域マーケテ

ィング・マネジメント)として、(1)

多様な関係者の合意形成、(2)各種デ

ータ等の継続的な収集・分析、データ

に基づく戦略(ブランディング)の策

定、KPIの設定・PDCAサイクル

の確立、(3)地域内の関係者による観

光関連事業とDMO戦略の調整・連携

の3点をあげている。また「地域の実

情に応じて」としながらも、「着地型

旅行商品の造成・販売、ランドオペレ

ーター業務等を、一主体として実施す

ることも考えられる」と、DMOが収

益事業に取り組む可能性についても言

及している。

 しかし、これらはあくまでもDMO

の役割・機能のミニマムスタンダードに

過ぎない。現状においては各々のDM

Oは、地域での取り組みの中で自身の

あるべき姿を模索している段階にある。

 実際に、観光庁は「世界水準のDM

Oのあり方に関する検討会

中間とり

まとめ(2019年3月)」の中で、

「各地域においてDMOに関する取り

組みが進められる一方、地域において

はDMOに関してその役割や組織のあ

り方について戸惑う声も少なからず聞

かれる」と課題をあげ、その対応方針

を検討している。

る営利法人が13・5%となっている。

 一般社団法人が最も多い要因の一つ

には、DMOの形成において既存の一

般社団法人である観光協会を再編する

例が多いことがある。

 一方、株式会社であるDMOは、

13・5%と少数派ではあるものの、一

般社団法人に次ぐ割合を占める。また、

(一社)せとうち観光推進機構、NPO

法人阿寒観光協会まちづくり推進機構、

(一社)ノオト、(一社)物部川DMO協

議会のように、非営利法人であるDM

Oが一体として活動する株式会社を設

立する例も見られる。

事業で地域をけん引する

株式会社型DMO

 株式会社であるDMO及びDMOが

設立した株式会社を「株式会社型DM

O」として、会社概要、事業内容等が

比較的明示されている30社について、

設立年や出資者、事業内容等を整理し

た(図4、図5)。

 設立年代を見ると、2015年以降

に22社が設立され、特に2016年以

降に設立数が拡大している。これは

2015年以降の「地方創生」施策の

展開によって全国の自治体で「地方版

総合戦略」の策定が進み、さらに

2016年に策定された「明日の日本

を支える観光ビジョン」において「観

光はわが国の成長戦略と地方創生の

柱」と位置づけられる等、政策面にお

いて観光による地域の経済面の活性化

がより強く打ち出されたことが背景に

ある。

 株式会社型DMOの出資者は、地域

の民間団体のみの出資は2社と少なく、

最も多いのは地域の民間団体と当該自

治体(市町村)が出資したもので13社

である。金融機関(地方銀行、日本政

策投資銀行、株式会社地域経済活性化

支援機構(REVIC)等のファン

ド)等が出資に加わったものが7社、

2016年以降には地域外の企業から

の出資が加わったものが8社あり、株

式会社型DMOの設立には当該地域以

外からの参画が増えている。

 事業内容を見ると、地域で提供する

宿泊、飲食、物販、体験コンテンツの

運営、それらの提供の核となる観光施

設の運営、地域商社等の地域外への物

販、着地型旅行の販売といった多様な

収益事業に携わっており、DMOとし

て直接収益事業を行うことで、地域の

活性化をけん引していることがわかる。

 現在の日本版DMOは、約7割の一

般社団法人と、1割強の株式会社に大

別されるが、それぞれの法人格の違い

によって、どのようなメリット・デメ

リットが存在するのかを整理する。

一般社団法人のメリット・デメリット

 一般社団法人は、観光協会のような

同業者が集まる団体の多くが選択する

ことが多い。

 メリットとしては、同業者全体のメ

リットになる事業の推進を掲げること

によって行政等の支援を受けやすいこ

と、非営利法人であっても収益事業の

実施も可能であり柔軟な組織設計がで

きること、設立・運営の事務が簡便で

労力・費用が比較的かからないことが

あげられる。

 一方で、同業者全体のメリットを追

求することによるデメリットも生じる。

選択・集中した施策よりも網羅的・広

範な施策になる傾向や、多数・多様な

会員間の調整が必要であり状況の変化

 株式会社型DMOは、地方創

生、特に観光振興による地域経

済の活性化への期待を背景に、

少数ながらも近年その数は拡大

している。また、その設立には

地域の民間団体、行政のみなら

ず、金融機関、時には地域外の

企業が出資等の形で参画してい

る例も増えている。

 しかし、リスクもある収益事

業を実現し、持続的に運営する

には、実際には多くの困難が伴

う。

 そうした株式会社型DMOの実態を

把握するため、特集2では7社を事例

として取り上げた。

 事例の選定は、出資者や設立過程に

着目し、地元企業有志による設立、地

元の民間団体と行政が連携した設立、

地元の民間団体、行政に金融機関が加

わった設立、さらに地域外からの資本

参加を得た設立といった4つの分類を

基に選定した。また、一般社団法人と

して収益事業にも取り組む1社を参考

事例として取り上げた。

 特集3では、特に人材、組織づくり、

財源の面から見た株式会社型DMOに

ついて、実際にその設立に携わった金

融や人材育成の専門家にインタビュー

を行った。

 こうした事例、インタビューをもと

に、株式会社型DMOの実態、課題や

展望について考察を行う。

に応じたスピーディな経営判断がしづ

らいといった点は、特に収益事業を実

施する際にはデメリットとなる。また、

行政等の支援への依存度が高くなると、

単年度主義的な事業運営にならざるを

得ない。

 しかし、相応の権限を有する少人数

の意思決定機関(理事会等)を設ける、

会費や参加団体からの負担金、相応の

収益事業を持つといった独自の財源を

設けることによってこうしたデメリッ

トを緩和することも可能である。

株式会社のメリット・デメリット

 株式会社は、事業の目的や計画に賛

同した発起人、出資者が会社を設立し、

事業の運営はプロの経営者に委ねるこ

ともできることから、収益事業を担う

には最適な法人格とされる。

 強い権限を委ねられた経営者によっ

て、選択・集中、スピーディな経営判

断が可能となり、出資者に対する緊張

感のある経営が期待できる。また、利

益の一部を配当できることから、出資

という形での資金調達が可能であるこ

とも大きなメリットである。

 デメリットとしては、収益事業であ

るからには相応のリスクがあり、そう

したリスクを乗り越えながら事業を持

続させる経営手腕が求められる。事前

の実現性の高い事業計画がなければ出

資を募ることも難しい。

 また、収益目的の組織であることが

DMOとしてマイナスに作用すること

もある。例えば、公益性を重視する行

政等の支援が受けられるか、地域のコ

ンセンサスが得られるか、出資者の影

響が大きく地域の意向が反映されるか

といった点が懸念される。

 こうしたデメリットを解消するため

には、DMOとして地域の活性化に寄

与する収益事業に取り組む、行政や地

域の団体・住民、出資者等と十分にコ

ンセンサスを図る、出資者の権限を信

頼性の高い出資者に制限する(議決権

が制限される種類株式の導入等)、運

営に携わる優秀な経営者を獲得する等

が必要となる。

 最後に、これまで観光庁が推進して

きた、地域の観光振興に取り組む組織

形成やその事業支援といった、観光地

域づくり施策において、株式会社がど

のように位置づけられてきたかについ

て触れたい。

「協議会」と「民間組織」

 これまでの観光地域づくり施策は、

「協議会」もしくは法人格を有する

「民間組織」に対する支援を中心にな

されてきた。

 協議会は、行政、観光事業者、農商

工、NPO等の地域づくり・まちづく

り団体等の多様な地域の団体が観光地

域づくりに参画し、計画の策定等を通

した合意形成を重視する事業に対して

採用される場合が多い。

 しかし、協議会自体は法人格がなく、

事業を継続して実施する主体にはなり

づらいことから、観光地域づくりの実

行段階や事業の継続を担う組織として、

民間組織(社団法人、財団法人、NP

O法人、株式会社等)の主体的な参画

の必要性が高まり、法人格を有するD

MOの形成へとつながった。

「株式会社」への支援

「観光立国宣言」が出された2003

年以降の観光地域づくり施策において、

株式会社が支援対象となるのは「観光

ルネサンス事業(2005〜2007

年度)」が最初である。同事業は「観

光カリスマ等、意欲の高い民間人によ

る活性化の成功事例を促進する」こと

を意図し、当該自治体によって認定さ

れた地域の民間組織を直接の支援対象

とした事業で、株式会社も第三セクタ

ーに限り支援対象に含めた(図6)。

 以降、民間組織が支援対象となる事

業においては、行政との連携、協議会

との連携等を前提に、株式会社を含め

て支援対象とされてきた。しかし、実

際に株式会社が観光庁等の支援対象に

なった例は、着地型旅行等による収益

事業の確立が重視された「観光地域づ

くりプラットフォーム支援事業(20

11〜2012)」における3団体の

みであった。

 しかし、「「稼ぐ力」を引き出す観光

地域づくり、「稼ぐ力」を地域の中で

生み出していく取り組みの推進(観光

立国推進基本計画(2017年))」以

降の支援事業では、政府系金融機関に

よるDMOの設立・事業への資金や経

営面での支援実施が示され、株式会社

への支援策としても活用されている。

A

B

C

D

当該自治体内の民間団体・企業・個人等による出資

Aに加えて当該自治体による出資

A・Bに加えて金融機関も出資

A・B・Cに加えて地域外部企業からも出資

総計

1

1

1994年

1

1

2001年

1

1

2006年

1

1

2010年

1

1

2

2012年

1

1

2013年

1

1

2014年

1

1

2

2015年

3

3

2

8

2016年

1

2

2

5

2017年

3

4

7

2018年

2

13

7

8

30

総計

一般社団法人と

株式会社

3

※出資タイプの凡例:A:当該自治体内の民間団体・企業・個人等による出資、B:Aに加えて当該自治体による出資、C:A・Bに加えて金融機関も出資、D:A・B・Cに加 えて地域外部企業からも出資 出典:各DMOの形成確立計画、会社概要等を基に筆者作成

株式会社型DMOを概観する1

6

Page 4: (2019年11月現在) DMO 型 · 101 11月 111 2017年 1月 123 3月 134 5月 145 8月 157 11月 133 174 2018年 3月 128 198 7月 122 208 12月 121 223 2019年 3月 114 237 10月

阿寒アドベンチャーツーリズム(株)

(株)デスティネーション十勝

(株)かづの観光物産公社

おもてなし山形(株)

(株)さかいまちづくり公社

(株)大田原ツーリズム

(株)まちづくり小浜

(株)阿智昼神観光局

伊勢まちづくり(株)

(株)Verde大台ツーリズム

(株)NOTE

(株)島原観光ビューロー

(株)くまもとDMC

(株)KASSE JAPAN

(株)SMO南小国

(株)コーストライフ

小林まちづくり(株)

勝山市観光まちづくり(株)

(株)南信州観光公社

(株)鴨川観光プラットフォーム

(株)瀬戸内ブランドコーポレーション

(株)ディスカバーリンクせとうち

(株)ものべみらい

(株)有田まちづくり公社

(株)薩摩川内市観光物産協会

(株)おおすみ観光未来会議

2018年1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

組織名 設立 主要収益事業 対象区域等資本金

(千円)出資者タイプ(凡例参照)

No.

4,000 ●

A B C D

2017年 30,500 ●

大雪山ツアーズ(株) 2018年 2,500 ●

(株)karch 2018年 8,400 ●

(株)八幡平DMO 2018年 3,000 ●

(株)かまいしDMC

経営支援、資金支援(ファンド業務)、地域商社(グループ会社として宿泊事業、観光施設運営(龍河洞)、物販・飲食、農業事業等)

観光施設運営(グランピング、キャンプ場)着地型旅行

着地型旅行、地域商社、観光施設運営(宿泊、公園、飲食、キャンプ場等)

観光施設運営(道の駅)、現地での飲食・物販提供

着地型旅行、商社事業、エネルギー事業(売電事業)

観光施設運営(道の駅)

農泊・農業体験

着地型旅行

観光施設運営(道の駅)、空き家・古民家再生及び運営(宿泊施設)

観光施設運営(ジオターミナル、花月楼建物管理)

農泊・農業体験

着地型旅行、地域内二次交通運営

着地型旅行、空き家・古民家再生及び運営

着地型旅行(アウトドアプログラム)

空き家・古民家再生及び運営の全国展開支援

経営支援等コンサルティング、資金支援(ファンド業務)

着地型旅行(FIT外国人向け、広域連携)、経営支援等コンサルティング

観光施設運営(ナイタイ高原牧場・テラス等)、着地型旅行

観光施設運営(大雪森のガーデン等)、着地型旅行

観光施設運営(森のナイトウォーク体験)、着地型旅行

着地型旅行(インバウンド向け、ロングイベント実施等)、空き家・古民家再生及び運営

(飲食・物販提供)

【熊本県】八代市、人吉市、水俣市、氷川町、芦北町、津奈木町、錦町、あさぎり町、多良木町、湯前町、水上村、相良村、五木村、山江村、球磨村

【鹿児島県】鹿屋市、垂水市、曽於市、志布志市、大崎町、東串良町、錦江町、南大隅町、肝付町

【鹿児島県】薩摩川内市

※広域連携DMOである(一社)せとうち観光推進機構(兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県)を中心に設立

空き家・古民家再生及び運営、宿泊、物販、飲食、レンタサイクル等 【広島県】尾道市

※地域DMOである(一社)ノオト(兵庫県豊岡市、養父市、朝来市、丹波篠山市)を中心に設立

観光施設運営(島原城等)、物販・飲食施設の運営 【長崎県】島原市

経営支援等コンサルティング、着地型旅行、地域商社

地域商社

【熊本県】

地域商社、着地型旅行(里山体験) 【熊本県】南小国町

着地型旅行(シーカヤック等) 【宮崎県】日南市、串間市

観光施設運営(まちなか複合ビル「TENAMUビル」運営)

着地型旅行(大隅半島体験等)

着地型旅行(体験通年プログラム、グリーンツーリズム等)

【宮崎県】小林市

【三重県】大台町

【三重県】伊勢市

【長野県】阿智村

【北海道】上川町

【北海道】上士幌町

【岩手県】八幡平市

【岩手県】釡石市

【秋田県】鹿角市

【山形県】山形市、上山市、天童市

【茨城県】境町

【栃木県】大田原市

【千葉県】鴨川市

【福井県】小浜市

【福井県】勝山市

※地域連携DMOである(一社)物部川DMO協議会(高知県南国市、香南市、香美市)と並行して設立

【佐賀県】有田町

【長野県】飯田市、松川町、高森町、阿南町、阿智村、平谷村、根羽村、下條村、売木村、天龍村、泰阜村、喬木村、豊丘村、大鹿村

※地域DMOであるNPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構(北海道釧路市阿寒湖温泉)を中心に設立

【北海道】帯広市、音更町、士幌町、上士幌町、鹿追町、新得町、清水町、芽室町、中札内村、更別村、大樹町、広尾町、幕別町、池田町、豊頃町、本別町、足寄町、陸別町、浦幌町

2018年 22,500 ●

1994年 50,000 ●

2017年 19,250 ●

2016年 500 ●

2012年 65,000 ●

2017年 9,000 ●

2010年 25,000 ●

2016年 10,000 ●

2001年 29,650 ●

2006年 20,000 ●

2015年 20,000 ●

2016年 6,000 ●

2016年 72,000 ●

2016年 450,000 ●

2012年 3,000 ●

2016年 16,350 ●

2015年 13,000 ●

2016年 60,000 ●

2016年 50,000 ●

2017年 10,000 ●

2018年 85,400 ●

2017年 2,000 ●

2014年 50,000 ●

2018年 5,000 ●

2013年 9,000 ●

図 5 株式会社型DMOの概要(都道府県・市町村番号順)

図 4 株式会社型DMOの出資者及び設立年

出典:日本版DMO登録一覧、各社事業概要等より筆者作成

DMOは非営利約9割、営利約1割

 2019年11月現在の登録されてい

るDMOを見ると、その法人格は一般

社団法人を中心とする非営利法人が

85・7%、株式会社・合同会社からな

 観光地のマネジメントやマーケティ

ングを担う組織、DMO(D

estination

Man

agemen

t/Marketin

gO

rganiza

tion

)は、観光を通した地域活性化の

担い手として各地で設立されているが、

その一部に、株式会社であるDMOや

DMOが設立した株式会社が見られる。

 特集1では、株式会社であるDMO

やDMOが設立した株式会社を「株式

会社型DMO」として概観する。また、

これまで観光施策として進められてき

た地域の観光推進組織における、株式

会社の位置づけについて整理する。

 なお、既往文献には株式会社である

DMOをDMC(D

estinationM

anage

ment/M

arketing Com

pany

)とする例

もあるが、国際的にはDMCはMIC

E等のビジネスミーティングを円滑に

開催するためのマネジメントを担う企

業(ADMEI(A

ssociation o

f Des

tinatio

n M

anagem

ent

Execu

tives

Intern

atio

nal

)による定義)とされ

る場合も多く、混乱を避けるために本

特集では「株式会社型DMO」とする。

全国に拡大するDMO

 観光庁は、新しい地域の観光推進組

織として、日本版DMO(以下、DM

Oとする)の形成を促進している。2

015年の登録制度開始以降、年々増

加し、2019年11月現在で候補法人

を含めて252法人が登録されている。

 DMOは北海道、沖縄県と複数都道

府県に跨る区域の「広域連携DMO」、

単独都道府県や複数市区町村に跨る

「地域連携DMO」、単独市区町村や

温泉地等の「地域DMO」に分類され

る。2019年11月の段階では、47都

道府県全てが広域連携DMOを設置し、

加えて27都府県が単独の地域連携DM

Oを設置している。市区町村単位では、

462市区町村が地域連携DMOを、

138市区町村が地域DMOを設置す

る等、全国的に拡大している。

DMOの役割・機能と課題

 観光庁は、DMOが必ず実施する基

礎的な役割・機能(観光地域マーケテ

ィング・マネジメント)として、(1)

多様な関係者の合意形成、(2)各種デ

ータ等の継続的な収集・分析、データ

に基づく戦略(ブランディング)の策

定、KPIの設定・PDCAサイクル

の確立、(3)地域内の関係者による観

光関連事業とDMO戦略の調整・連携

の3点をあげている。また「地域の実

情に応じて」としながらも、「着地型

旅行商品の造成・販売、ランドオペレ

ーター業務等を、一主体として実施す

ることも考えられる」と、DMOが収

益事業に取り組む可能性についても言

及している。

 しかし、これらはあくまでもDMO

の役割・機能のミニマムスタンダードに

過ぎない。現状においては各々のDM

Oは、地域での取り組みの中で自身の

あるべき姿を模索している段階にある。

 実際に、観光庁は「世界水準のDM

Oのあり方に関する検討会

中間とり

まとめ(2019年3月)」の中で、

「各地域においてDMOに関する取り

組みが進められる一方、地域において

はDMOに関してその役割や組織のあ

り方について戸惑う声も少なからず聞

かれる」と課題をあげ、その対応方針

を検討している。

る営利法人が13・5%となっている。

 一般社団法人が最も多い要因の一つ

には、DMOの形成において既存の一

般社団法人である観光協会を再編する

例が多いことがある。

 一方、株式会社であるDMOは、

13・5%と少数派ではあるものの、一

般社団法人に次ぐ割合を占める。また、

(一社)せとうち観光推進機構、NPO

法人阿寒観光協会まちづくり推進機構、

(一社)ノオト、(一社)物部川DMO協

議会のように、非営利法人であるDM

Oが一体として活動する株式会社を設

立する例も見られる。

事業で地域をけん引する

株式会社型DMO

 株式会社であるDMO及びDMOが

設立した株式会社を「株式会社型DM

O」として、会社概要、事業内容等が

比較的明示されている30社について、

設立年や出資者、事業内容等を整理し

た(図4、図5)。

 設立年代を見ると、2015年以降

に22社が設立され、特に2016年以

降に設立数が拡大している。これは

2015年以降の「地方創生」施策の

展開によって全国の自治体で「地方版

総合戦略」の策定が進み、さらに

2016年に策定された「明日の日本

を支える観光ビジョン」において「観

光はわが国の成長戦略と地方創生の

柱」と位置づけられる等、政策面にお

いて観光による地域の経済面の活性化

がより強く打ち出されたことが背景に

ある。

 株式会社型DMOの出資者は、地域

の民間団体のみの出資は2社と少なく、

最も多いのは地域の民間団体と当該自

治体(市町村)が出資したもので13社

である。金融機関(地方銀行、日本政

策投資銀行、株式会社地域経済活性化

支援機構(REVIC)等のファン

ド)等が出資に加わったものが7社、

2016年以降には地域外の企業から

の出資が加わったものが8社あり、株

式会社型DMOの設立には当該地域以

外からの参画が増えている。

 事業内容を見ると、地域で提供する

宿泊、飲食、物販、体験コンテンツの

運営、それらの提供の核となる観光施

設の運営、地域商社等の地域外への物

販、着地型旅行の販売といった多様な

収益事業に携わっており、DMOとし

て直接収益事業を行うことで、地域の

活性化をけん引していることがわかる。

 現在の日本版DMOは、約7割の一

般社団法人と、1割強の株式会社に大

別されるが、それぞれの法人格の違い

によって、どのようなメリット・デメ

リットが存在するのかを整理する。

一般社団法人のメリット・デメリット

 一般社団法人は、観光協会のような

同業者が集まる団体の多くが選択する

ことが多い。

 メリットとしては、同業者全体のメ

リットになる事業の推進を掲げること

によって行政等の支援を受けやすいこ

と、非営利法人であっても収益事業の

実施も可能であり柔軟な組織設計がで

きること、設立・運営の事務が簡便で

労力・費用が比較的かからないことが

あげられる。

 一方で、同業者全体のメリットを追

求することによるデメリットも生じる。

選択・集中した施策よりも網羅的・広

範な施策になる傾向や、多数・多様な

会員間の調整が必要であり状況の変化

 株式会社型DMOは、地方創

生、特に観光振興による地域経

済の活性化への期待を背景に、

少数ながらも近年その数は拡大

している。また、その設立には

地域の民間団体、行政のみなら

ず、金融機関、時には地域外の

企業が出資等の形で参画してい

る例も増えている。

 しかし、リスクもある収益事

業を実現し、持続的に運営する

には、実際には多くの困難が伴

う。

 そうした株式会社型DMOの実態を

把握するため、特集2では7社を事例

として取り上げた。

 事例の選定は、出資者や設立過程に

着目し、地元企業有志による設立、地

元の民間団体と行政が連携した設立、

地元の民間団体、行政に金融機関が加

わった設立、さらに地域外からの資本

参加を得た設立といった4つの分類を

基に選定した。また、一般社団法人と

して収益事業にも取り組む1社を参考

事例として取り上げた。

 特集3では、特に人材、組織づくり、

財源の面から見た株式会社型DMOに

ついて、実際にその設立に携わった金

融や人材育成の専門家にインタビュー

を行った。

 こうした事例、インタビューをもと

に、株式会社型DMOの実態、課題や

展望について考察を行う。

に応じたスピーディな経営判断がしづ

らいといった点は、特に収益事業を実

施する際にはデメリットとなる。また、

行政等の支援への依存度が高くなると、

単年度主義的な事業運営にならざるを

得ない。

 しかし、相応の権限を有する少人数

の意思決定機関(理事会等)を設ける、

会費や参加団体からの負担金、相応の

収益事業を持つといった独自の財源を

設けることによってこうしたデメリッ

トを緩和することも可能である。

株式会社のメリット・デメリット

 株式会社は、事業の目的や計画に賛

同した発起人、出資者が会社を設立し、

事業の運営はプロの経営者に委ねるこ

ともできることから、収益事業を担う

には最適な法人格とされる。

 強い権限を委ねられた経営者によっ

て、選択・集中、スピーディな経営判

断が可能となり、出資者に対する緊張

感のある経営が期待できる。また、利

益の一部を配当できることから、出資

という形での資金調達が可能であるこ

とも大きなメリットである。

 デメリットとしては、収益事業であ

るからには相応のリスクがあり、そう

したリスクを乗り越えながら事業を持

続させる経営手腕が求められる。事前

の実現性の高い事業計画がなければ出

資を募ることも難しい。

 また、収益目的の組織であることが

DMOとしてマイナスに作用すること

もある。例えば、公益性を重視する行

政等の支援が受けられるか、地域のコ

ンセンサスが得られるか、出資者の影

響が大きく地域の意向が反映されるか

といった点が懸念される。

 こうしたデメリットを解消するため

には、DMOとして地域の活性化に寄

与する収益事業に取り組む、行政や地

域の団体・住民、出資者等と十分にコ

ンセンサスを図る、出資者の権限を信

頼性の高い出資者に制限する(議決権

が制限される種類株式の導入等)、運

営に携わる優秀な経営者を獲得する等

が必要となる。

 最後に、これまで観光庁が推進して

きた、地域の観光振興に取り組む組織

形成やその事業支援といった、観光地

域づくり施策において、株式会社がど

のように位置づけられてきたかについ

て触れたい。

「協議会」と「民間組織」

 これまでの観光地域づくり施策は、

「協議会」もしくは法人格を有する

「民間組織」に対する支援を中心にな

されてきた。

 協議会は、行政、観光事業者、農商

工、NPO等の地域づくり・まちづく

り団体等の多様な地域の団体が観光地

域づくりに参画し、計画の策定等を通

した合意形成を重視する事業に対して

採用される場合が多い。

 しかし、協議会自体は法人格がなく、

事業を継続して実施する主体にはなり

づらいことから、観光地域づくりの実

行段階や事業の継続を担う組織として、

民間組織(社団法人、財団法人、NP

O法人、株式会社等)の主体的な参画

の必要性が高まり、法人格を有するD

MOの形成へとつながった。

「株式会社」への支援

「観光立国宣言」が出された2003

年以降の観光地域づくり施策において、

株式会社が支援対象となるのは「観光

ルネサンス事業(2005〜2007

年度)」が最初である。同事業は「観

光カリスマ等、意欲の高い民間人によ

る活性化の成功事例を促進する」こと

を意図し、当該自治体によって認定さ

れた地域の民間組織を直接の支援対象

とした事業で、株式会社も第三セクタ

ーに限り支援対象に含めた(図6)。

 以降、民間組織が支援対象となる事

業においては、行政との連携、協議会

との連携等を前提に、株式会社を含め

て支援対象とされてきた。しかし、実

際に株式会社が観光庁等の支援対象に

なった例は、着地型旅行等による収益

事業の確立が重視された「観光地域づ

くりプラットフォーム支援事業(20

11〜2012)」における3団体の

みであった。

 しかし、「「稼ぐ力」を引き出す観光

地域づくり、「稼ぐ力」を地域の中で

生み出していく取り組みの推進(観光

立国推進基本計画(2017年))」以

降の支援事業では、政府系金融機関に

よるDMOの設立・事業への資金や経

営面での支援実施が示され、株式会社

への支援策としても活用されている。

A

B

C

D

当該自治体内の民間団体・企業・個人等による出資

Aに加えて当該自治体による出資

A・Bに加えて金融機関も出資

A・B・Cに加えて地域外部企業からも出資

総計

1

1

1994年

1

1

2001年

1

1

2006年

1

1

2010年

1

1

2

2012年

1

1

2013年

1

1

2014年

1

1

2

2015年

3

3

2

8

2016年

1

2

2

5

2017年

3

4

7

2018年

2

13

7

8

30

総計

一般社団法人と

株式会社

3

※出資タイプの凡例:A:当該自治体内の民間団体・企業・個人等による出資、B:Aに加えて当該自治体による出資、C:A・Bに加えて金融機関も出資、D:A・B・Cに加 えて地域外部企業からも出資 出典:各DMOの形成確立計画、会社概要等を基に筆者作成

株式会社型DMOを概観する1

第244号 January 20207

Page 5: (2019年11月現在) DMO 型 · 101 11月 111 2017年 1月 123 3月 134 5月 145 8月 157 11月 133 174 2018年 3月 128 198 7月 122 208 12月 121 223 2019年 3月 114 237 10月

観光交流空間づくりモデル事業

実施年代

2003 ~2004年度 ○

観光地域づくり施策

支援対象民間組織

民間組織

収益事業の必要性非営利

(一般社団等)協議会等 営利

(株式会社等)

市町村の設置する「広域連携観光交流推進協議会」

観光ルネサンス補助制度2005 ~2007年度 △ ○ ○

(第3セクター)市町村の定める「地域観光振興計画」に取組む民間組織(社団・財団、NPO、三セクなどを想定)

観光地域づくり実践プラン2005 ~2011年度 ○ 市町村の設置する「広域連携観光交流推進協議会」

観光圏整備事業補助制度2008 ~2010年度 ○ ○

都道府県、市町村、観光関係団体、農林漁業団体、商工会議所、NPO等からなる法定協議会及び法人格を有する協議会の代表等

観光地域づくりプラットフォーム支援事業

2011 ~2012年度 △ ○ ○ 必須

法人格を有し、着地型旅行商品の企画・販売機能を有する。着地型旅行販売、受託事業、飲食・物販事業等により持続的に収益を確保できる仕組みを有する等

観光地域ブランド確立支援事業

2013 ~2017年度 △ ○ ○ 一部観光圏整備法に基づく協議会もしくは法人格を有する

「観光地域づくり プラットフォーム」

広域観光周遊ルート形成促進事業

2015年度 ~2017年度 ○ △ △

法人格を有し、着地型旅行商品の企画・販売機能を有する。着地型旅行販売、受託事業、飲食・物販事業等により持続的に収益を確保できる仕組みを有する等

日本版DMO登録制度(各省庁の補助事業等)2015年度~ △ ○ ○ 一部地方公共団体と連携して観光地域づくりを担う法人(別

途に協議会等の構築、行政と連名の計画が必要)

地域資源を活用した観光地魅力創造事業

2015 ~2017年度 ○ △ △ 市町村及び複数の民間事業者で構成する協議会

テーマ別観光による地方誘客事業

2016 ~2018年度 ○ △ △ 5地域以上かつ複数都道府県からなる各地域の関係組

織される「地域連携協議会」

広域周遊観光促進のための新たな観光地域支援事業2018年度~ △ ○ ○ 一部

各DMO策定事業計画に位置付けられた事業実施主体(DMO、その他民間事業者、地方公共団体)ただし、連絡調整会議で調整が行われたものに限る

図 6 これまでの主な観光地域づくり施策と支援対象

凡例:〇・・・事業の支援対象となる組織・法人 △・・・直接の支援対象ではないが、設置や参画が必要とされている組織・法人出典:観光庁資料より筆者作成

DMOは非営利約9割、営利約1割

 2019年11月現在の登録されてい

るDMOを見ると、その法人格は一般

社団法人を中心とする非営利法人が

85・7%、株式会社・合同会社からな

 観光地のマネジメントやマーケティ

ングを担う組織、DMO(D

estination

Man

agemen

t/Marketin

gO

rganiza

tion

)は、観光を通した地域活性化の

担い手として各地で設立されているが、

その一部に、株式会社であるDMOや

DMOが設立した株式会社が見られる。

 特集1では、株式会社であるDMO

やDMOが設立した株式会社を「株式

会社型DMO」として概観する。また、

これまで観光施策として進められてき

た地域の観光推進組織における、株式

会社の位置づけについて整理する。

 なお、既往文献には株式会社である

DMOをDMC(D

estinationM

anage

ment/M

arketing Com

pany

)とする例

もあるが、国際的にはDMCはMIC

E等のビジネスミーティングを円滑に

開催するためのマネジメントを担う企

業(ADMEI(A

ssociation o

f Des

tinatio

n M

anagem

ent

Execu

tives

Intern

atio

nal

)による定義)とされ

る場合も多く、混乱を避けるために本

特集では「株式会社型DMO」とする。

全国に拡大するDMO

 観光庁は、新しい地域の観光推進組

織として、日本版DMO(以下、DM

Oとする)の形成を促進している。2

015年の登録制度開始以降、年々増

加し、2019年11月現在で候補法人

を含めて252法人が登録されている。

 DMOは北海道、沖縄県と複数都道

府県に跨る区域の「広域連携DMO」、

単独都道府県や複数市区町村に跨る

「地域連携DMO」、単独市区町村や

温泉地等の「地域DMO」に分類され

る。2019年11月の段階では、47都

道府県全てが広域連携DMOを設置し、

加えて27都府県が単独の地域連携DM

Oを設置している。市区町村単位では、

462市区町村が地域連携DMOを、

138市区町村が地域DMOを設置す

る等、全国的に拡大している。

DMOの役割・機能と課題

 観光庁は、DMOが必ず実施する基

礎的な役割・機能(観光地域マーケテ

ィング・マネジメント)として、(1)

多様な関係者の合意形成、(2)各種デ

ータ等の継続的な収集・分析、データ

に基づく戦略(ブランディング)の策

定、KPIの設定・PDCAサイクル

の確立、(3)地域内の関係者による観

光関連事業とDMO戦略の調整・連携

の3点をあげている。また「地域の実

情に応じて」としながらも、「着地型

旅行商品の造成・販売、ランドオペレ

ーター業務等を、一主体として実施す

ることも考えられる」と、DMOが収

益事業に取り組む可能性についても言

及している。

 しかし、これらはあくまでもDMO

の役割・機能のミニマムスタンダードに

過ぎない。現状においては各々のDM

Oは、地域での取り組みの中で自身の

あるべき姿を模索している段階にある。

 実際に、観光庁は「世界水準のDM

Oのあり方に関する検討会

中間とり

まとめ(2019年3月)」の中で、

「各地域においてDMOに関する取り

組みが進められる一方、地域において

はDMOに関してその役割や組織のあ

り方について戸惑う声も少なからず聞

かれる」と課題をあげ、その対応方針

を検討している。

る営利法人が13・5%となっている。

 一般社団法人が最も多い要因の一つ

には、DMOの形成において既存の一

般社団法人である観光協会を再編する

例が多いことがある。

 一方、株式会社であるDMOは、

13・5%と少数派ではあるものの、一

般社団法人に次ぐ割合を占める。また、

(一社)せとうち観光推進機構、NPO

法人阿寒観光協会まちづくり推進機構、

(一社)ノオト、(一社)物部川DMO協

議会のように、非営利法人であるDM

Oが一体として活動する株式会社を設

立する例も見られる。

事業で地域をけん引する

株式会社型DMO

 株式会社であるDMO及びDMOが

設立した株式会社を「株式会社型DM

O」として、会社概要、事業内容等が

比較的明示されている30社について、

設立年や出資者、事業内容等を整理し

た(図4、図5)。

 設立年代を見ると、2015年以降

に22社が設立され、特に2016年以

降に設立数が拡大している。これは

2015年以降の「地方創生」施策の

展開によって全国の自治体で「地方版

総合戦略」の策定が進み、さらに

2016年に策定された「明日の日本

を支える観光ビジョン」において「観

光はわが国の成長戦略と地方創生の

柱」と位置づけられる等、政策面にお

いて観光による地域の経済面の活性化

がより強く打ち出されたことが背景に

ある。

 株式会社型DMOの出資者は、地域

の民間団体のみの出資は2社と少なく、

最も多いのは地域の民間団体と当該自

治体(市町村)が出資したもので13社

である。金融機関(地方銀行、日本政

策投資銀行、株式会社地域経済活性化

支援機構(REVIC)等のファン

ド)等が出資に加わったものが7社、

2016年以降には地域外の企業から

の出資が加わったものが8社あり、株

式会社型DMOの設立には当該地域以

外からの参画が増えている。

 事業内容を見ると、地域で提供する

宿泊、飲食、物販、体験コンテンツの

運営、それらの提供の核となる観光施

設の運営、地域商社等の地域外への物

販、着地型旅行の販売といった多様な

収益事業に携わっており、DMOとし

て直接収益事業を行うことで、地域の

活性化をけん引していることがわかる。

 現在の日本版DMOは、約7割の一

般社団法人と、1割強の株式会社に大

別されるが、それぞれの法人格の違い

によって、どのようなメリット・デメ

リットが存在するのかを整理する。

一般社団法人のメリット・デメリット

 一般社団法人は、観光協会のような

同業者が集まる団体の多くが選択する

ことが多い。

 メリットとしては、同業者全体のメ

リットになる事業の推進を掲げること

によって行政等の支援を受けやすいこ

と、非営利法人であっても収益事業の

実施も可能であり柔軟な組織設計がで

きること、設立・運営の事務が簡便で

労力・費用が比較的かからないことが

あげられる。

 一方で、同業者全体のメリットを追

求することによるデメリットも生じる。

選択・集中した施策よりも網羅的・広

範な施策になる傾向や、多数・多様な

会員間の調整が必要であり状況の変化

 株式会社型DMOは、地方創

生、特に観光振興による地域経

済の活性化への期待を背景に、

少数ながらも近年その数は拡大

している。また、その設立には

地域の民間団体、行政のみなら

ず、金融機関、時には地域外の

企業が出資等の形で参画してい

る例も増えている。

 しかし、リスクもある収益事

業を実現し、持続的に運営する

には、実際には多くの困難が伴

う。

 そうした株式会社型DMOの実態を

把握するため、特集2では7社を事例

として取り上げた。

 事例の選定は、出資者や設立過程に

着目し、地元企業有志による設立、地

元の民間団体と行政が連携した設立、

地元の民間団体、行政に金融機関が加

わった設立、さらに地域外からの資本

参加を得た設立といった4つの分類を

基に選定した。また、一般社団法人と

して収益事業にも取り組む1社を参考

事例として取り上げた。

 特集3では、特に人材、組織づくり、

財源の面から見た株式会社型DMOに

ついて、実際にその設立に携わった金

融や人材育成の専門家にインタビュー

を行った。

 こうした事例、インタビューをもと

に、株式会社型DMOの実態、課題や

展望について考察を行う。

に応じたスピーディな経営判断がしづ

らいといった点は、特に収益事業を実

施する際にはデメリットとなる。また、

行政等の支援への依存度が高くなると、

単年度主義的な事業運営にならざるを

得ない。

 しかし、相応の権限を有する少人数

の意思決定機関(理事会等)を設ける、

会費や参加団体からの負担金、相応の

収益事業を持つといった独自の財源を

設けることによってこうしたデメリッ

トを緩和することも可能である。

株式会社のメリット・デメリット

 株式会社は、事業の目的や計画に賛

同した発起人、出資者が会社を設立し、

事業の運営はプロの経営者に委ねるこ

ともできることから、収益事業を担う

には最適な法人格とされる。

 強い権限を委ねられた経営者によっ

て、選択・集中、スピーディな経営判

断が可能となり、出資者に対する緊張

感のある経営が期待できる。また、利

益の一部を配当できることから、出資

という形での資金調達が可能であるこ

とも大きなメリットである。

 デメリットとしては、収益事業であ

るからには相応のリスクがあり、そう

したリスクを乗り越えながら事業を持

続させる経営手腕が求められる。事前

の実現性の高い事業計画がなければ出

資を募ることも難しい。

 また、収益目的の組織であることが

DMOとしてマイナスに作用すること

もある。例えば、公益性を重視する行

政等の支援が受けられるか、地域のコ

ンセンサスが得られるか、出資者の影

響が大きく地域の意向が反映されるか

といった点が懸念される。

 こうしたデメリットを解消するため

には、DMOとして地域の活性化に寄

与する収益事業に取り組む、行政や地

域の団体・住民、出資者等と十分にコ

ンセンサスを図る、出資者の権限を信

頼性の高い出資者に制限する(議決権

が制限される種類株式の導入等)、運

営に携わる優秀な経営者を獲得する等

が必要となる。

 最後に、これまで観光庁が推進して

きた、地域の観光振興に取り組む組織

形成やその事業支援といった、観光地

域づくり施策において、株式会社がど

のように位置づけられてきたかについ

て触れたい。

「協議会」と「民間組織」

 これまでの観光地域づくり施策は、

「協議会」もしくは法人格を有する

「民間組織」に対する支援を中心にな

されてきた。

 協議会は、行政、観光事業者、農商

工、NPO等の地域づくり・まちづく

り団体等の多様な地域の団体が観光地

域づくりに参画し、計画の策定等を通

した合意形成を重視する事業に対して

採用される場合が多い。

 しかし、協議会自体は法人格がなく、

事業を継続して実施する主体にはなり

づらいことから、観光地域づくりの実

行段階や事業の継続を担う組織として、

民間組織(社団法人、財団法人、NP

O法人、株式会社等)の主体的な参画

の必要性が高まり、法人格を有するD

MOの形成へとつながった。

「株式会社」への支援

「観光立国宣言」が出された2003

年以降の観光地域づくり施策において、

株式会社が支援対象となるのは「観光

ルネサンス事業(2005〜2007

年度)」が最初である。同事業は「観

光カリスマ等、意欲の高い民間人によ

る活性化の成功事例を促進する」こと

を意図し、当該自治体によって認定さ

れた地域の民間組織を直接の支援対象

とした事業で、株式会社も第三セクタ

ーに限り支援対象に含めた(図6)。

 以降、民間組織が支援対象となる事

業においては、行政との連携、協議会

との連携等を前提に、株式会社を含め

て支援対象とされてきた。しかし、実

際に株式会社が観光庁等の支援対象に

なった例は、着地型旅行等による収益

事業の確立が重視された「観光地域づ

くりプラットフォーム支援事業(20

11〜2012)」における3団体の

みであった。

 しかし、「「稼ぐ力」を引き出す観光

地域づくり、「稼ぐ力」を地域の中で

生み出していく取り組みの推進(観光

立国推進基本計画(2017年))」以

降の支援事業では、政府系金融機関に

よるDMOの設立・事業への資金や経

営面での支援実施が示され、株式会社

への支援策としても活用されている。

事例調査、

関係者

インタビュー

のねらい

5

観光地域づくり

施策における

株式会社

4

【主要参考文献】

○観光庁(2019年)世界水準のDMOのあり方に関する検討会中間とりまとめ

○観光庁(2018年)「日本版DMO」形成・確立に係る手引き

○株式会社日本政策投資銀行(2017年)観光DMO設計・運営のポイント

株式会社型DMOを概観する1

8

Page 6: (2019年11月現在) DMO 型 · 101 11月 111 2017年 1月 123 3月 134 5月 145 8月 157 11月 133 174 2018年 3月 128 198 7月 122 208 12月 121 223 2019年 3月 114 237 10月

観光交流空間づくりモデル事業

実施年代

2003 ~2004年度 ○

観光地域づくり施策

支援対象民間組織

民間組織

収益事業の必要性非営利

(一般社団等)協議会等 営利

(株式会社等)

市町村の設置する「広域連携観光交流推進協議会」

観光ルネサンス補助制度2005 ~2007年度 △ ○ ○

(第3セクター)市町村の定める「地域観光振興計画」に取組む民間組織(社団・財団、NPO、三セクなどを想定)

観光地域づくり実践プラン2005 ~2011年度 ○ 市町村の設置する「広域連携観光交流推進協議会」

観光圏整備事業補助制度2008 ~2010年度 ○ ○

都道府県、市町村、観光関係団体、農林漁業団体、商工会議所、NPO等からなる法定協議会及び法人格を有する協議会の代表等

観光地域づくりプラットフォーム支援事業

2011 ~2012年度 △ ○ ○ 必須

法人格を有し、着地型旅行商品の企画・販売機能を有する。着地型旅行販売、受託事業、飲食・物販事業等により持続的に収益を確保できる仕組みを有する等

観光地域ブランド確立支援事業

2013 ~2017年度 △ ○ ○ 一部観光圏整備法に基づく協議会もしくは法人格を有する

「観光地域づくり プラットフォーム」

広域観光周遊ルート形成促進事業

2015年度 ~2017年度 ○ △ △

法人格を有し、着地型旅行商品の企画・販売機能を有する。着地型旅行販売、受託事業、飲食・物販事業等により持続的に収益を確保できる仕組みを有する等

日本版DMO登録制度(各省庁の補助事業等)2015年度~ △ ○ ○ 一部地方公共団体と連携して観光地域づくりを担う法人(別

途に協議会等の構築、行政と連名の計画が必要)

地域資源を活用した観光地魅力創造事業

2015 ~2017年度 ○ △ △ 市町村及び複数の民間事業者で構成する協議会

テーマ別観光による地方誘客事業

2016 ~2018年度 ○ △ △ 5地域以上かつ複数都道府県からなる各地域の関係組

織される「地域連携協議会」

広域周遊観光促進のための新たな観光地域支援事業2018年度~ △ ○ ○ 一部

各DMO策定事業計画に位置付けられた事業実施主体(DMO、その他民間事業者、地方公共団体)ただし、連絡調整会議で調整が行われたものに限る

図 6 これまでの主な観光地域づくり施策と支援対象

凡例:〇・・・事業の支援対象となる組織・法人 △・・・直接の支援対象ではないが、設置や参画が必要とされている組織・法人出典:観光庁資料より筆者作成

DMOは非営利約9割、営利約1割

 2019年11月現在の登録されてい

るDMOを見ると、その法人格は一般

社団法人を中心とする非営利法人が

85・7%、株式会社・合同会社からな

 観光地のマネジメントやマーケティ

ングを担う組織、DMO(D

estination

Man

agemen

t/Marketin

gO

rganiza

tion

)は、観光を通した地域活性化の

担い手として各地で設立されているが、

その一部に、株式会社であるDMOや

DMOが設立した株式会社が見られる。

 特集1では、株式会社であるDMO

やDMOが設立した株式会社を「株式

会社型DMO」として概観する。また、

これまで観光施策として進められてき

た地域の観光推進組織における、株式

会社の位置づけについて整理する。

 なお、既往文献には株式会社である

DMOをDMC(D

estinationM

anage

ment/M

arketing Com

pany

)とする例

もあるが、国際的にはDMCはMIC

E等のビジネスミーティングを円滑に

開催するためのマネジメントを担う企

業(ADMEI(A

ssociation o

f Des

tinatio

n M

anagem

ent

Execu

tives

Intern

atio

nal

)による定義)とされ

る場合も多く、混乱を避けるために本

特集では「株式会社型DMO」とする。

全国に拡大するDMO

 観光庁は、新しい地域の観光推進組

織として、日本版DMO(以下、DM

Oとする)の形成を促進している。2

015年の登録制度開始以降、年々増

加し、2019年11月現在で候補法人

を含めて252法人が登録されている。

 DMOは北海道、沖縄県と複数都道

府県に跨る区域の「広域連携DMO」、

単独都道府県や複数市区町村に跨る

「地域連携DMO」、単独市区町村や

温泉地等の「地域DMO」に分類され

る。2019年11月の段階では、47都

道府県全てが広域連携DMOを設置し、

加えて27都府県が単独の地域連携DM

Oを設置している。市区町村単位では、

462市区町村が地域連携DMOを、

138市区町村が地域DMOを設置す

る等、全国的に拡大している。

DMOの役割・機能と課題

 観光庁は、DMOが必ず実施する基

礎的な役割・機能(観光地域マーケテ

ィング・マネジメント)として、(1)

多様な関係者の合意形成、(2)各種デ

ータ等の継続的な収集・分析、データ

に基づく戦略(ブランディング)の策

定、KPIの設定・PDCAサイクル

の確立、(3)地域内の関係者による観

光関連事業とDMO戦略の調整・連携

の3点をあげている。また「地域の実

情に応じて」としながらも、「着地型

旅行商品の造成・販売、ランドオペレ

ーター業務等を、一主体として実施す

ることも考えられる」と、DMOが収

益事業に取り組む可能性についても言

及している。

 しかし、これらはあくまでもDMO

の役割・機能のミニマムスタンダードに

過ぎない。現状においては各々のDM

Oは、地域での取り組みの中で自身の

あるべき姿を模索している段階にある。

 実際に、観光庁は「世界水準のDM

Oのあり方に関する検討会

中間とり

まとめ(2019年3月)」の中で、

「各地域においてDMOに関する取り

組みが進められる一方、地域において

はDMOに関してその役割や組織のあ

り方について戸惑う声も少なからず聞

かれる」と課題をあげ、その対応方針

を検討している。

る営利法人が13・5%となっている。

 一般社団法人が最も多い要因の一つ

には、DMOの形成において既存の一

般社団法人である観光協会を再編する

例が多いことがある。

 一方、株式会社であるDMOは、

13・5%と少数派ではあるものの、一

般社団法人に次ぐ割合を占める。また、

(一社)せとうち観光推進機構、NPO

法人阿寒観光協会まちづくり推進機構、

(一社)ノオト、(一社)物部川DMO協

議会のように、非営利法人であるDM

Oが一体として活動する株式会社を設

立する例も見られる。

事業で地域をけん引する

株式会社型DMO

 株式会社であるDMO及びDMOが

設立した株式会社を「株式会社型DM

O」として、会社概要、事業内容等が

比較的明示されている30社について、

設立年や出資者、事業内容等を整理し

た(図4、図5)。

 設立年代を見ると、2015年以降

に22社が設立され、特に2016年以

降に設立数が拡大している。これは

2015年以降の「地方創生」施策の

展開によって全国の自治体で「地方版

総合戦略」の策定が進み、さらに

2016年に策定された「明日の日本

を支える観光ビジョン」において「観

光はわが国の成長戦略と地方創生の

柱」と位置づけられる等、政策面にお

いて観光による地域の経済面の活性化

がより強く打ち出されたことが背景に

ある。

 株式会社型DMOの出資者は、地域

の民間団体のみの出資は2社と少なく、

最も多いのは地域の民間団体と当該自

治体(市町村)が出資したもので13社

である。金融機関(地方銀行、日本政

策投資銀行、株式会社地域経済活性化

支援機構(REVIC)等のファン

ド)等が出資に加わったものが7社、

2016年以降には地域外の企業から

の出資が加わったものが8社あり、株

式会社型DMOの設立には当該地域以

外からの参画が増えている。

 事業内容を見ると、地域で提供する

宿泊、飲食、物販、体験コンテンツの

運営、それらの提供の核となる観光施

設の運営、地域商社等の地域外への物

販、着地型旅行の販売といった多様な

収益事業に携わっており、DMOとし

て直接収益事業を行うことで、地域の

活性化をけん引していることがわかる。

 現在の日本版DMOは、約7割の一

般社団法人と、1割強の株式会社に大

別されるが、それぞれの法人格の違い

によって、どのようなメリット・デメ

リットが存在するのかを整理する。

一般社団法人のメリット・デメリット

 一般社団法人は、観光協会のような

同業者が集まる団体の多くが選択する

ことが多い。

 メリットとしては、同業者全体のメ

リットになる事業の推進を掲げること

によって行政等の支援を受けやすいこ

と、非営利法人であっても収益事業の

実施も可能であり柔軟な組織設計がで

きること、設立・運営の事務が簡便で

労力・費用が比較的かからないことが

あげられる。

 一方で、同業者全体のメリットを追

求することによるデメリットも生じる。

選択・集中した施策よりも網羅的・広

範な施策になる傾向や、多数・多様な

会員間の調整が必要であり状況の変化

 株式会社型DMOは、地方創

生、特に観光振興による地域経

済の活性化への期待を背景に、

少数ながらも近年その数は拡大

している。また、その設立には

地域の民間団体、行政のみなら

ず、金融機関、時には地域外の

企業が出資等の形で参画してい

る例も増えている。

 しかし、リスクもある収益事

業を実現し、持続的に運営する

には、実際には多くの困難が伴

う。

 そうした株式会社型DMOの実態を

把握するため、特集2では7社を事例

として取り上げた。

 事例の選定は、出資者や設立過程に

着目し、地元企業有志による設立、地

元の民間団体と行政が連携した設立、

地元の民間団体、行政に金融機関が加

わった設立、さらに地域外からの資本

参加を得た設立といった4つの分類を

基に選定した。また、一般社団法人と

して収益事業にも取り組む1社を参考

事例として取り上げた。

 特集3では、特に人材、組織づくり、

財源の面から見た株式会社型DMOに

ついて、実際にその設立に携わった金

融や人材育成の専門家にインタビュー

を行った。

 こうした事例、インタビューをもと

に、株式会社型DMOの実態、課題や

展望について考察を行う。

に応じたスピーディな経営判断がしづ

らいといった点は、特に収益事業を実

施する際にはデメリットとなる。また、

行政等の支援への依存度が高くなると、

単年度主義的な事業運営にならざるを

得ない。

 しかし、相応の権限を有する少人数

の意思決定機関(理事会等)を設ける、

会費や参加団体からの負担金、相応の

収益事業を持つといった独自の財源を

設けることによってこうしたデメリッ

トを緩和することも可能である。

株式会社のメリット・デメリット

 株式会社は、事業の目的や計画に賛

同した発起人、出資者が会社を設立し、

事業の運営はプロの経営者に委ねるこ

ともできることから、収益事業を担う

には最適な法人格とされる。

 強い権限を委ねられた経営者によっ

て、選択・集中、スピーディな経営判

断が可能となり、出資者に対する緊張

感のある経営が期待できる。また、利

益の一部を配当できることから、出資

という形での資金調達が可能であるこ

とも大きなメリットである。

 デメリットとしては、収益事業であ

るからには相応のリスクがあり、そう

したリスクを乗り越えながら事業を持

続させる経営手腕が求められる。事前

の実現性の高い事業計画がなければ出

資を募ることも難しい。

 また、収益目的の組織であることが

DMOとしてマイナスに作用すること

もある。例えば、公益性を重視する行

政等の支援が受けられるか、地域のコ

ンセンサスが得られるか、出資者の影

響が大きく地域の意向が反映されるか

といった点が懸念される。

 こうしたデメリットを解消するため

には、DMOとして地域の活性化に寄

与する収益事業に取り組む、行政や地

域の団体・住民、出資者等と十分にコ

ンセンサスを図る、出資者の権限を信

頼性の高い出資者に制限する(議決権

が制限される種類株式の導入等)、運

営に携わる優秀な経営者を獲得する等

が必要となる。

 最後に、これまで観光庁が推進して

きた、地域の観光振興に取り組む組織

形成やその事業支援といった、観光地

域づくり施策において、株式会社がど

のように位置づけられてきたかについ

て触れたい。

「協議会」と「民間組織」

 これまでの観光地域づくり施策は、

「協議会」もしくは法人格を有する

「民間組織」に対する支援を中心にな

されてきた。

 協議会は、行政、観光事業者、農商

工、NPO等の地域づくり・まちづく

り団体等の多様な地域の団体が観光地

域づくりに参画し、計画の策定等を通

した合意形成を重視する事業に対して

採用される場合が多い。

 しかし、協議会自体は法人格がなく、

事業を継続して実施する主体にはなり

づらいことから、観光地域づくりの実

行段階や事業の継続を担う組織として、

民間組織(社団法人、財団法人、NP

O法人、株式会社等)の主体的な参画

の必要性が高まり、法人格を有するD

MOの形成へとつながった。

「株式会社」への支援

「観光立国宣言」が出された2003

年以降の観光地域づくり施策において、

株式会社が支援対象となるのは「観光

ルネサンス事業(2005〜2007

年度)」が最初である。同事業は「観

光カリスマ等、意欲の高い民間人によ

る活性化の成功事例を促進する」こと

を意図し、当該自治体によって認定さ

れた地域の民間組織を直接の支援対象

とした事業で、株式会社も第三セクタ

ーに限り支援対象に含めた(図6)。

 以降、民間組織が支援対象となる事

業においては、行政との連携、協議会

との連携等を前提に、株式会社を含め

て支援対象とされてきた。しかし、実

際に株式会社が観光庁等の支援対象に

なった例は、着地型旅行等による収益

事業の確立が重視された「観光地域づ

くりプラットフォーム支援事業(20

11〜2012)」における3団体の

みであった。

 しかし、「「稼ぐ力」を引き出す観光

地域づくり、「稼ぐ力」を地域の中で

生み出していく取り組みの推進(観光

立国推進基本計画(2017年))」以

降の支援事業では、政府系金融機関に

よるDMOの設立・事業への資金や経

営面での支援実施が示され、株式会社

への支援策としても活用されている。

事例調査、

関係者

インタビュー

のねらい

5

観光地域づくり

施策における

株式会社

4

【主要参考文献】

○観光庁(2019年)世界水準のDMOのあり方に関する検討会中間とりまとめ

○観光庁(2018年)「日本版DMO」形成・確立に係る手引き

○株式会社日本政策投資銀行(2017年)観光DMO設計・運営のポイント

株式会社型DMOを概観する1

第244号 January 20209