Headlineを読む - Toyo UniversityHeadlineを読む ― 317 ― 1 はじめに...

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Headlineを読む ― 317 ― 1 はじめに 本稿はheadlineの読み方について述べたものである。Headlineは見出しのことであるが、 一般紙の場合にはその語数はおよそ4語から8語で構成されている場合が多い。かつて、見 出しだけを約3,000収集してコーパス化したことがある。そのときのことを思い起こすと、 4語から8語くらいが多かった。ここで扱う見出しはThe Daily Telegraphの電子版のなかに あるexpat feedからのものである。デイリーテレグラフの紙面にはearth feed, education feed, news feed, fashion feed, sport feedなど様々なジャンルがあるが、expat feedはそのな かの一つである。Expatはexpatriateのことである。Patriateは自分が生まれた国や土地のこ とで、ここでは英国を指している。Ex-は「外」の意味であるから、expatriateは英国の外 に暮らす英国人を指す。これをexpatと短縮して紙面のジャンル分けに使っている。expat feedのfeedは「餌を与える、供給する」が基本的な意味である。 デイリーテレグラフ紙に はいろいろな部署からなるネットワークがあり、それぞれの部署からネットワークを通して 情報を提供する。これがfeedの意味である。部署の一つ一つをfeedといい、名詞として使う。 Expat feedは「海外ニュース、海外報告、海外版、海外面、海外便り」くらいの意味になろ う。 特にデイリーテレグラフ紙を選んだ理由はないけれど、記事にユーモアがあり、楽しめる 新聞であると思っていたことがあるかもしれない。長く読んでいるために親しみやすかった というのもその理由の一つである。なかでもExpat feedの記事は私がこれから書こうとして いる目的を満たしてくれるものだった。 Headlineを読む目的であるが、headlineにはbe動詞の省略、冠詞の省略、未来を表すto不 定詞、現在時制の使用、略記の多様、パンクチュエーションなどに特徴があるが、これらの ことを検証するために読むのではない。Leadやbodyと違って、headlineは語数が限られて いるので、情報的には不十分になりがちである。この不十分であることが本稿の狙い目にな っている。通常、英文を読むときには充分過ぎる情報が与えられる。正確に細かく伝達しよ Headlineを読む 文学部英文学科教授 埋橋 勇三

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Headlineを読む

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1 はじめに

 本稿はheadlineの読み方について述べたものである。Headlineは見出しのことであるが、

一般紙の場合にはその語数はおよそ4語から8語で構成されている場合が多い。かつて、見

出しだけを約3,000収集してコーパス化したことがある。そのときのことを思い起こすと、

4語から8語くらいが多かった。ここで扱う見出しはThe Daily Telegraphの電子版のなかに

あるexpat feedからのものである。デイリーテレグラフの紙面にはearth feed, education

feed, news feed, fashion feed, sport feedなど様々なジャンルがあるが、expat feedはそのな

かの一つである。Expatはexpatriateのことである。Patriateは自分が生まれた国や土地のこ

とで、ここでは英国を指している。Ex-は「外」の意味であるから、expatriateは英国の外

に暮らす英国人を指す。これをexpatと短縮して紙面のジャンル分けに使っている。expat

feedのfeedは「餌を与える、供給する」が基本的な意味である。 デイリーテレグラフ紙に

はいろいろな部署からなるネットワークがあり、それぞれの部署からネットワークを通して

情報を提供する。これがfeedの意味である。部署の一つ一つをfeedといい、名詞として使う。

Expat feedは「海外ニュース、海外報告、海外版、海外面、海外便り」くらいの意味になろ

う。

 特にデイリーテレグラフ紙を選んだ理由はないけれど、記事にユーモアがあり、楽しめる

新聞であると思っていたことがあるかもしれない。長く読んでいるために親しみやすかった

というのもその理由の一つである。なかでもExpat feedの記事は私がこれから書こうとして

いる目的を満たしてくれるものだった。

 Headlineを読む目的であるが、headlineにはbe動詞の省略、冠詞の省略、未来を表すto不

定詞、現在時制の使用、略記の多様、パンクチュエーションなどに特徴があるが、これらの

ことを検証するために読むのではない。Leadやbodyと違って、headlineは語数が限られて

いるので、情報的には不十分になりがちである。この不十分であることが本稿の狙い目にな

っている。通常、英文を読むときには充分過ぎる情報が与えられる。正確に細かく伝達しよ

Headlineを読む

文学部英文学科教授

埋橋 勇三

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うとすれば、情報量は自ずと増えてくる。われわれはどちらかといえば多過ぎる情報の整理

に四苦八苦している。物事を考える時間よりも、情報の整理に時間をとられる。あるいは、

単に知識を得ることに専心している。そのために、じっくり考える時間が取れない。多くの

文字を読みながら、結果的にはその内容を理解することもなく、ただ曖昧さだけがあとに残

ることも珍しくない。情報の過多はありがたい面もあるが、緊張感が薄れて読み方がいい加

減になりがちである。本稿においてはheadlineを読むことにより、われわれがどのように想

像力を働かせたらよいのかについて具体的に述べてみたい。ここに示すような極めて神経質

な読みを、日頃、行なうことは不可能であるが、厳密に英語を読み、一定の枠組みのなかで

想像力を正しく働かせる訓練を一度はしてみる価値があると考える。曖昧な根拠に基づいて

いい加減に想像力を働かせると、結果的には幻想しか生じてこない。正しく想像力を働かせ

ることはheadlineだけの問題ではない。たとえば、詩を考えてみよう。詩は散文に比べては

るかに語数が少ない。4行くらいからなる詩もたくさんある。8行もあればそうとう深いこ

とが表現できる。不要な語句をすべて削ぎ落として書かれた詩を読むときにはかなりの想像

力を必要とする。Headlineに比べればどの詩も長いので、語や行が織り成す模様はより複雑

になる。いきなり詩の複雑な世界に飛び込む前の訓練としてもheadlineを読むことは有益で

ある。私は「見出し文と詩」と題する一文が書けるほど、headlineと詩は密接な関係にある

と考えている。このようなことを視野に入れながら、headlineを読んでみたい。なお、

headlineの意味内容を突き詰めて答えを出すのではなく、ただ、読むときの心や頭の動きに

ついて述べる。力任せに読みきろうという意図は全くない。ただ、流れに任せて自然に読む。

想像力の及ぶ範囲をできる限り明確にしてみたい。

2 Returning home for the summer

 意味のわからない語はないように思う。語の意味がわかればその文の示す意味がわかった

と言えるのだろうか。語の意味がわかったからと言って、必ずしも書き手の意図がわかった

とは言えないことが少なくない。書き手の意図を推測することがもっとも重要なことであり、

そこが理解できなければ語の意味がわかっても何の意味もない。

 Returningは動名詞か分詞か。動名詞であれば「戻ること、もとの場所に帰ること」とな

る。動名詞であれば主語か目的語か補語かになるはずである。主語であると考えれば、それ

に対する動詞が考えられるはずである。たとえば、「戻ることは……である」のような意味

が考えられる。同様に目的語であれば「戻ることを……する」となるであろうし、補語であ

れば「……は戻ることである」が考えられる。あるいは主語、目的語、補語を意識しないで、

ただ、テーマとして動名詞を置いただけかもしれない。見出し文であればその可能性も充分

にある。一方、分詞の場合には、returningを動詞として解釈することになるから、I am(/

We are)returningが考えられる。この場合には近接未来を表わし、「近々、戻ります」くら

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いの意味になる。分詞構文の一部と考えれば、「戻るとき」くらいの意味になろう。

Returningに関してはこの程度のことが推測できるのではないか。つぎにhomeについてであ

る。Homeは副詞で戻る方向を示している。Homeの基本的な意味は定住する家を指すので、

return homeは出張先からのことを述べているのかもしれない。もう少しスケールを広げて、

生まれ育った国のことをhomeと言っていることも考えられる。この記事は最初にも述べた

ようにThe Daily TelegraphのExpatの記事であるから、筆者は海外在住者である。For the

summerは「夏の間」である。なぜ、夏の間かと言えば、夏休みがあるからであろう。

Summer holidaysを利用してhome countryである英国に戻ること、これがheadlineの文字通

りの意味である。これより先のことはいろいろな可能性がありすぎて絞りきれない。推測の

域を出ないが、いくつかをあげてみよう。英国に友人がいて、その友人に会う約束をしてい

る。友人に会うことが重要な意味を持っている。Headlineとして取り上げるくらいであるか

ら、読者が読んで納得するような楽しい、あるいは辛い話にならないといけない。このこと

を考えると、友人との会合がどのような意味を持つのか、興味がわいてくる。また、別のこ

とを考えてみる。この英国人は日本に住んでいる。家族は子ども2人の4人家族である。故

国に帰りたいが、不況の中にあって4人分の旅費を捻出できない。だから、帰りたいのは

山々だが諦めざるをえない。帰国の願いがかなわないことの辛さを述べているのかもしれな

い。また、別のことも想像できる。旅費には余裕があるが、家族、特に子どもが英国に行き

たがらない。子どもは日本で生まれ育ち日本人の友達がいる。夏休みの計画を友達とすでに

立ててしまっている。子どもは英国に住んだことがないので、英国に行くことになんの魅力

も感じない。親は一時帰国をしたいが、子どもがまったくその気にならない。詳しいことは

本文を読んでみないとわからないが、「夏休みに帰国」がheadlineになるためには、それが

どのような楽しみ(よいこと)を、どのような問題(わるいこと)を引き起こすのかが書か

れていなければならない。これがなければ読者の期待感をそぐことになる。平凡な人間が平

凡に国に帰るだけではニュースヴァリューがない。平凡でない人間、たとえば大統領などで

あればニュースになる。平凡な人間でも帰り方が平凡でなければ、たとえば、気球で帰ると

かすれば、それはニュースになる。推測しながら読むのであるが、そのときにただ推測する

のではなく書き手の意図をさぐりながら推測する。推測にも方向性がある。Returning

home for the summerのreturningは動名詞であり、夏の一時帰国がテーマになっているよ

うに感ずる。英国に夏戻ることにどんな楽しみがあるのか、どんな困難があるのか、特別な

何かとは?このような前提のもとに本文記事を読めば、勝手に情報が向こうから飛び込んで

くるのではないか。

3 Dubai: sun, sand, and a solitary cell

 Dubaiの発音を片仮名で表記するとドゥバイかダバイぐらいになりそうである。音からく

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る臭いには英語的なものが感じられない。かりに自分自身を日本人から英国人に置き換えて

みる。すると、やはり英語的な感じはしないように思う。再び、身柄を日本に戻してみると、

ダバイという音には違和感を覚える。たとえ、日本人であっても二つの発音が考えられる場

合に音としてどちらが自然かを判断できることが多い。万国共通の普遍的な感性とでもいう

べきものがあると私は信じている。それに照らし合わせてみるとダバイには妙な響きがある

気がする。私以外の人もおそらくドゥバイの響きのほうがよいと感ずるのではないか。少し

思い起こすと、ドゥバイと音が近いものにドバイがある。サッカーファンであれば知ってい

る可能性が高い。ドゥバイは地名であるが、日本の新聞などで一度やニ度は読んだことがあ

るのではないか。よほど特殊な地名でない限り、新聞を普通に読んでいれば地名に関する情

報を得ている可能性がある。同じ固有名詞でも人の名前は無限に出てくるが、地名には限り

がある。それだけに人名に比べれば処理しやすいのではないか。Dubaiがわからなければ「ド

ゥバイ」か「ドバイ」のままにしておく。地名の固有名詞が面白いのは"Dubai"を知ってい

ても知らなくても「ドゥバイ」か「ドバイ」くらいにしかならないということである。固有

名詞以外の語はカタカナに置き換えても訳として完成品にはならないが、固有名詞は完成品

になる。固有名詞を扱うときには綴り字や発音など厄介な面もあるが、日本語に置き換える

ときには、比較的、楽である。Dubaiを理解するために必要とされる知識は英語から得た知

識ではなく、日本語を通して得た知識である。英語を読むときに英語そのものと関係ない情

報が重要になる。普通の生活をしながらいかに幅広い情報を手に入れるか。このことが重要

である。英語と直接関係しない毎日の生活をおろそかにしていることが英語を読む上でもっ

とも恐ろしいことなのである。

 つぎに進む。sunは太陽であるが、これはわれわれが、日頃、目にしているものなので特

に問題はない。Sandについてもわれわれは知っている。個々の意味は問題ないが、sun,

sandと並列すると、また別のイメージが浮かんでくる。そして、人によって想像するもの

が異なる可能性がある。どのような世界を思い浮かべるかは英語とは関係ない。これまでの

経験や知識の問題である。しかし、sun, sandの場合には大方の人々が同じようなイメージ

を抱くのではないか。もしそうでないとするなら、この見出し自体が意味をなさない。文化

が違えば必ずしもイメージを共有できるとは限らないが、sunもsandも自然界のものなので

それほどイメージが違わないのではないか。さらによりよく理解するためには漠然と考える

のではなく、われわれがよく知っているところ、すなわち、日本にsunとsandを持ち込んで

みる。「太陽」と「砂」が一つのイメージをつくるところは日本のなかにあるだろうか。

Sunとsandを縁もゆかりもない遠い国の言葉と考えないで、われわれの身近にsunとsandを

引き寄せて考えてみる。Sandはsea-sandと考えるのが自然ではないか。そして、太陽がある

という。Sun, sandで北海道の海辺を思う人は少ないのではないか。沖縄など南の暖かい地

方の海辺をイメージするのではないか。暖かい太陽の照る海辺の砂を思い浮かべるのが普通

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ではないか。南の国を思うのではないか。すると、Dubaiは南の国、赤道に近い国ではない

か。Dubai, sun, sandは一線上に並んでいるので、Dubaiを知っていればsun, sandが、sun,

sandのイメージがうまく描ければDubaiが想像できる可能性がある。

 残りはa solitary cellです。Cellはわれわれの周辺にはヒントになるようなものがなさそう

である。それでも表計算ソフトを使う人であれば、縦横の線で区切られた桝目をセルと呼ん

でいることを思い起こすかもしれない。数字を書き込むようにしきられた桝目の一つ一つが

cellである。蜂の巣を見たことがある人は、蜂の子が入っている仕切りを思い浮かべること

ができるであろうが、蜂巣もcellという。刑務所のなかにも小さな部屋がたくさんある。独

房である。あれもcellという。Cellの意味をわれわれは辞書を引かずに知ることは少しむず

かしいかもしれない。Solitaryも辞書を引かないとわからないかもしれない。しかし、cellか

solitaryのどちらかの意味がわかれば、残りを類推できることが多い。Cellが独房であるこ

とがわかれば、それを修飾する形容詞は独房の属性を述べるのであるから、それほどうきう

きした意味になるはずがない。独房がわかるなら、とりあえずあなたの身柄を独房に置いて

みる。想像上であっても、狭い、殺風景、圧迫感、窮屈、孤独、寂しいなど様々な感情が起

こるであろう。これは、皆、独房の属性を述べているので、これらの属性をsolitaryから感

じ取ればよい。独房に身を置いてみること、これが想像力である。想像力とは身柄をそこに

置いたときに見えてくるもののことなのである。

 個々の意味がわかったところで、Dubai: sun, sand, and a solitary cellはどんなことを述べ

ているのかを想像してみる。「ドバイ:太陽、砂浜、それからさびしい独房」と訳すだけで

は意味がない。独房は犯罪者が収容されるところであるから、sun, sandが犯罪に関係して

いることになる。太陽が降り注ぐ海辺で行なう犯罪とはどのようなものであろうか。われわ

れが考えるのは痴漢や盗撮などではないか。風俗関係に関するものではないか。Sun, sand

についてもう一つ考えられるのは太陽の降り注ぐドバイの砂浜は北の国に住む英国人にはあ

こがれの場所である。われわれの場合であれば、かつてのハワイのような場所を想起する。

しかし、実際に行ってみると海辺の戯れなどなく、警察の鋭い視線が注がれていて、挙句の

果ては留置場にぶち込まれる。このようなことも想像される。

 最後になるが、sun, sand, and a solitary cellはsun, sand, solitary, cellと[s]の音で始まる。

つまり、[s]の頭韻(alliteration)が効果的に使われている。トントン拍子に調子よく読める。

よどんだり、引っかかったりするところがない。暗い感じもしない。あっという間に、いと

も簡単に留置所へ入れられるような調子の良さも感じられる。ハワイにバカンスとしゃれ込

んで行ったまではよいが、気づいたら留置所の中だったというような感じもある。このよう

な意味が感じられるのは[s]の頭韻が効果的に働いているからである。

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4 African paradise tainted by corruption

 Paradiseは日本語では「パラダイス」である。その意味を正確に知っていなくとも「よい

ところ」であることは雰囲気としてわかっているのではないか。パラダイスがあるなら行っ

てみたい、パラダイスがあるなら住んでみたいと思うところではないか。Africanとあるの

でアフリカのパラダイスである。Japanese paradiseといえば、「日本のパラダイス」である。

日本のパラダイス、日本の楽園とは「日本にある楽園」か「日本的な楽園」のことであろ

う。前者の意味はParadise in Japanであるが、後者の意味はAfrican paradise, American

paradise, Chinese paradiseなどと対比されるものである。この解釈であればいろいろな国に

その国らしいパラダイス、楽園が存在することが前提になる。もう少しくわしく見てみよう。

Africanは「アフリカの」意味である。アフリカには数十の国があるが、African paradiseは

特定の国のことを言っているのではない。アフリカ大陸に関して述べている。したがって、

African paradiseはAsian paradise, Continental paradise, North American paradiseなどに

対する表現であり、先にあげたJapanese paradise, Chinese paradiseと同列のものではない。

アフリカ大陸に「アフリカ的なパラダイス」があるが、それをAfrican paradiseと言ってい

るのではないか。通常の考え方からすると、African paradiseといえば、それが存在してい

ることが前提になろう。もちろん、今後に期待されるものとして考えることもできるのであ

るが、存在することになるものよりも、すでに存在しているものを問題にすることが多い。

お そ ら く、 現 在、 存 在 し て い るAfrican paradiseの 話 で は な い か。 つ ぎ にtainted by

corruptionについてである。Tainted, corruptionの意味が分からない。このような場合には

語の意味が分からないことに意識が集中しがちであるが、わかるところはないかをさがして

みる。語の意味は恣意的に付与されたものがほとんどであり、考えてもどうにもならない。

どこかわかるところはないかと考えてみるとtainted byがある。Taintは-edがあるので動詞

であろう。Byが続くことを考えるとtaintは動詞に違いない。知っている範囲で同じような

表現をさがしてみると、たとえば、the house painted by youなどが浮かぶかもしれない。

あなたにペンキを塗ってもらった家であり、受動態表現である。能動形にすればyou

painted the house.になろう。これを問題の見出し文に当てはめるとcorruption tainted

African paradiseとなる。コラプションがアフリカの楽園をテイントした。受動態であれば

コラプションによってテイントされたアフリカの楽園くらいの意味になる。Taint,

corruptionの意味がわからないときにはこのあたりが限界であり、あとは辞書を調べなけれ

ばならない。もう一歩踏み込んで考えてみると、アフリカの楽園は楽園というくらいである

からすばらしいものであろう。それが「…によって…された」とある。この文脈からすると、

悪い意味に傾いているのではないか。たとえば、汚されたとか、損なわれたとか、悪くされ

たなどが浮かぶ。その逆は良くされたである。常識的に考えると、どうも悪い方向に傾いて

いるように思える。意味を推測するときに正確な意味まで行き着けなくても、良いことを述

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べているのか、悪いこと、困ったことについて述べているのかを考えてみることも必要であ

る。暗いことなのか明るいことなのか。夢のある話なのかそうでないのか。愉快で楽しい話

なのか、不愉快で悲しい話なのか。二項分類的に意味を推測する。するとアフリカの楽園が

困ったことになっているくらいの意味が浮かび上がってこないだろうか。これだけのことが

わかるだけでも大きな成果なのである。もしかしたら、ヘッドラインの意味はアフリカの楽

園が危機に面しているということを言っているのではないか。Taint, corruptionの意味が分

からないので推測にすぎないが、推測した意味がより本質をついているということも起こり

得る。もしそうであるなら、taint, corruptionを飛び越えて、それ以上に重要で本質的な意

味を汲み取ったことになる。語の意味が分からないからと言って諦めてはならない。語の意

味がすべて分かったときよりも、より適切に深く読めることもある。その結果として、語を

調べるという過程を踏んだ場合には出てこない、こなれた日本語訳に辿りつくこともある。

英語はあまりできないけれど、日本語の訳が立派だということがある。逆に英語ができるか

らこなれた日本語訳ができるという保証はどこにもない。英語を見て、鋭くその本質を見抜

く洞察力や直観力があるかどうかが問題なのである。

5 How to become an accidental linguist, in three strange lessons

 How to become a linguistは「どのようにしてlinguistになるか」であり、仕方を表わす。

How toは日本語にもなっていて「ハウツーもの」などと言うのを耳にする。How to

becomeを使う前提として正しい方法を使えばlinguistになれるということがある。まったく

不可能なことに対して"how to"を問題にすることはない。したがって、あなたもlinguistにな

れるのだが、その方法はどのようにしたらよいかという話である。Accidental linguistとは

どのようなものであろうか。Linguistは言語学者、つまり言語を専門に研究する人である。

Linguistに関連する日本語としては、ちょっとむずかしいが、バイリンガル(bilingual)があ

る。Bi-は2の意味でbicycleといえば2+cycle、つまり輪が2つということで2輪車(自転車)

のことである。Bilinguistは言葉が2つで、二ヶ国語を使える人のことである。Linguistも日

本語のバイリンガル、リンガフォンから類推できる人もいるかもしれない。英語を読むとき

に日本語の知識を使えるだけ使うようにする。Accidental linguistにおけるlinguistは言語学

者か言葉を使う人の意味であろうが、可能性としては後者になる確率が高そうである。なぜ

なら、言語学者は修業を積まないとなれないからである。もし、言語学者の意味で使うなら、

それは純粋に言語学者の意味ではなく言語学者的な人くらいの意味であろう。このように

linguistには意味の幅を持たせておく。現段階においては意味を決定できるほどの充分な根

拠がない。そうであるなら、それ以上踏み込むことは却ってマイナスになる。判断材料が少

ないために曖昧になっているものは、その曖昧さをゆがめることなく残しておく。正確に推

測するという行為は常に明瞭な結果に結びつくと考えがちであるが、実はそうではない。正

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確に推測するとは曖昧なものを曖昧なものとして無傷のまま残すということも含まれる。わ

けもなく曖昧なのは困るけれど、いくつかの要素を考えると判断を下しかねるところがある

から曖昧であるというのであれば、曖昧ではあるけれど曖昧さが明瞭になっている。

Linguistの意味は今のところ曖昧であるが、accidentalを加えるとどうなるだろうか。

Accidental、これも「アクシデント」として日本語になっている。アクシデントは予想外の

事故、出合い頭の事故のことである。車を運転していたら急に自転車が道に出てきて接触事

故を起こしてしまった。これがアクシデントである。本来はlinguistになるはずもなかった

のだが、何かのめぐり合わせでlinguistになること、これがaccidental linguistの意味であろ

う。何かのめぐり合わせで言語学者になる場面があったときにどのようにしてなったらよい

のか。言葉に関して何かしなければならない状況が生じたときに、それに対してどのように

対処したらよいか。これがhow to become an accidental linguistの意味であると推測する。

今、「何かしなければならない状況」と述べたが、それがin three strange lessonsである。

Threeはそのまま受け入れる。Strangeは見なれていないことである。見なれていないから

変なもの、奇妙なものとして映るのである。Lessonは授業である。授業とは先生と生徒が

いて何かを勉強することである。ここはこのように考えるのですよ。そこはそのように考え

てはいけないのですよ。これが授業である。In three strange lessonsの前にカンマがあるの

で、この前置詞句は情報の観点から見るとかなり重い。どのようなレッスンなのかが重い意

味を持っている。この記事の書き手は自らstrange lessonsを経験しているのである。

Strangeでないlessonは学校の授業である。かりに学校の授業であるとするなら、よほど普

通の授業とかけ離れた授業のことを指すであろう。「出合い頭でもすぐに言葉を使えるよう

になるには」と言っているようにも思える。英国人が行ったことのない(strange)国、スペ

インに行く。スペイン語を使わなければならない。スペインという社会がスペイン語の教室

である。すぐにスペイン語を使わなければならない。さて、どうしたら使えるようになるの

か。ドイツに転勤になる。そうしたら、すぐにドイツ語を使わなければならない。教室はド

イツの社会である。さて、どのようにしてドイツ語を覚えたら良いのか。そうこうしている

うちにモスクワに転勤を命じられる。ロシア語をどのように話したものか。筆者はこのよう

に3国を渡り歩いて、それぞれの国の言葉を覚えるコツを学んだようである。このようなこ

とを見出し文は述べているように思える。

6 Cricket and cucumber sandwiches in North Korea

 Cricketは英語の字面を見てピント来ないのであれば、クリケットと表記してみる。する

と、野球に似た英国のゲームを思いつくかもしれない。常に役立つとは限らないが、多くの

外来語が日本語のなかに見られるようになってきているので、片仮名表記でヒントを得る機

会が以前より多くなっている。Moratoriumでわからなくてもモラトリアムならわかるとい

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うこともあり得る。片仮名でもなんでも動員できるものはすべて動員して推測してみる。つ

ぎにcucumber sandwichesである。サンドイッチが複数形になっている。したがって、サン

ドイッチが複数個ある。クリケットが複数の人々(11人)で行なわれることを知っているの

であれば、少なくとも11個のサンドイッチがあることになる。厳密な数はどうでもよいがた

くさんのサンドイッチがあるようだ。Cucumberがわからなければそれはそれで仕方がない。

しかし、キューカンバーサンドイッチといえば、サンドイッチの種類をキューカンバーが述

べていることは想像できるであろう。Cucumberを読み間違えてカカムバーとすると、想像

力は正常に働かなくなる可能性が高い。意味が分からなくても英語的な読みができることが

重要である。これが上記の見出し文を読むための出発点になる。ところで、cucumberがキ

ュウリであることがわかった場合にはどんなことが考えられるだろうか。カツやハムのサン

ドイッチにくらべれば、キュウリのサンドイッチは質素なものではないか。クリケットがあ

るので恐らくは昼飯かお茶くらいに食べるのであろう。英国人が一番好きなクリケットをす

る。お腹がすいたところでキュウリのサンドイッチを食べる。日本におきかえれば、皆で野

球をして握り飯をほおばるような光景が目に浮かぶ。North Koreaとあるので北朝鮮の話で

ある。ご承知の通り、北朝鮮は閉鎖的な国情から世界の国々から非難されている。暗いイメ

ージが付きまとう国である。その国で楽しいクリケットをしてキュウリのサンドイッチを食

べるという。暗いイメージと楽しい雰囲気のコントラストが感じられる。それからcricket,

cucumber, Koreaはいずれも[k]の音で始まり頭韻を踏んでいる。また、合わせて5つの[k]の

音が含まれている。これが一層楽しいのどかな雰囲気を醸し出すのに役立っている。とかく

世界から冷たい目で見られる暗い国、北朝鮮でも、楽しいことが行なわれているのだと述べ

ているようにも思える。韻はその音が意味を持っているので、この点にも注意を払わなけれ

ばならない。言葉から得られる情報はすべて得る。そのことが正確で深い想像力につながる。

7 Building a home in Spain with a dictionary and hand signals

 Buildはゲルマン系の語でbowerと関係があると言われている。Bowerは木陰が原義で「夏

の家、別荘」などの意味がある。このように考えるとbuildは家につながる意味をOEの昔か

ら持っていたようだ。家は柱や板などの材料を組み合わせて作る。部分を結合させて一つの

ものを作る。Buildの対象になるのがhomeである。Houseは建物のことであるが、homeは人

が「住む場所」のことで生活の拠点となる。Homeは人を感じさせる。したがって、「家庭」

のようなものを想像させる。Homeとhouseの語感は異なるが、building a homeをbuilding a

houseの意味で使うこともあるので、building a homeがノコギリやカンナを使わないという

ことではない。「根城をつくる」くらいの意味になろう。これならば、building a homeの含

意が日本語に組み込まれるように感ずる。家をつくる道具となるものがwith以下に示されて

いる。Andが接続するのはdictionaryとhand signalsである。等位接続詞のandが接続するも

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のは文法的共通性がなければならない。Dictionary, hand signalsは共に名詞であり共通性が

ある。また、意味的にも共通性があることが多い。辞書は言葉を知らない人が使い、hand

signalsは言葉をしゃべれない人が使う身振りである。スペイン語ができない英国人がスペ

インに行くと、辞書と首っ引きで身振り手振りを交えて家を(苦労して)少しずつ作りあげ

る。これが表題の見出し文の意味であろうが、「家を作り上げること」としか書いてない。

ある英国人がスペインへ行き、苦労しながらも何とか生活の場を得たという話なのか、言葉

の知らない国へ行っても何とかなるものだと述べているのかはさらに詳しい記事を読んでみ

ないとわからない。

8 Moving abroad means taking the plunge

 まず、目につくのは同一の語尾を持つmoving, takingである。Abroad, the plungeを削除

するとMoving means taking.となる。おそらくmeansは動詞であろうから、movingするこ

とはtakingすることであると言っているようだ。動詞を挟んで同一語尾の語が配置されてい

ることに見た目の美、形式的な均衡美のようなものを感ずる。語の並びに関してあまり問題

にされないが、均衡美、形式美はかなり重要である。書き手もこの種の美意識を持って書い

ていることが多いのであり、文によってはこの美意識だけから読み解くことができることも

ある。そして、このような現象は決してめずらしいことではない。つぎにmoving abroadの

意味を考えてみる。Moveは動くことである。人がその身柄を動かすことである。動かす以

上はどの方向に動かすかが問題になる。運動と方向は密接な関係にある。動かす方向は

abroadであるから外国である。外国は自国がないと存在しない概念である。自分の国、こ

の場合は英国であるが、英国からそれ以外の国へ身柄を動かすことがmoving abroadの意味

である。われわれの場合に当てはめると日本という国から中国や韓国に身柄を移すことにな

る。Movingはあくまでも移動のみを表わすので外国へ移動するという行為を問題にしてい

る。その行為が意味することが taking the plungeなのである。Takingは「つかむ」ことで

あるが、the plungeはどういう意味なのか。Theがあるので特定のplungeを述べている。例

の、いわゆる、お決まりのなどの意味が考えられる。ところでplungeの意味がわからない。

主語がmoving abroadであるから、それと並行する意味をtaking the plungeからくみ取りた

い。例のプランジ、特定のプランジをつかむことくらいの解釈になろう。すでに述べたこと

であるが、plungeの意味がわからないのであれば、間違った推測により間違った意味付け

をするよりも、わからないままにしておく。人が意味を取ろうとする本能はわれわれの想像

をはるかに超えて強いものがある。たとえ、かなり間違った意味であっても何とか意味を読

み取ろうとする。狂ったような意味でもないよりはましだから、意味をとろうとする。すべ

ての人のなかにある抗し難い欲求なのである。意味を取ろうとする本能は常に危険と隣り合

わせである。危険を避けるためにはplungeをプランジにとどめて、それ以上、深入りしな

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いことである。結局、plungeの意味はわからないままであるが、収穫がまったくないわけ

ではない。プランジという音が残るではないか。解決に向かうか否かは別にして、すべての

語が提供してくれる情報は音である。声を出して読めれば音情報だけはすべての語に関して

得られる。Plungeの音が残れば、それで充分なのである。われわれが日本語を覚える過程

を考えてみよう。意味が最初から分かっていて使用した語などはほとんどないのである。最

初は音が耳から入り、それがどのようなことを意味するかを理解するのである。あの時もプ

ランジと言った。あの場面でもプランジだった。今度もプランジと言ったではないか。どう

やら、プランジの意味はこんなものではないか。意味がわからない語はいくらでも出てくる

のだから、いちいち動揺しているわけにいかない。わからない語は音を残し意味付けが行な

われるまで無傷のまま保存しておく。外国へ移動することはあのプランジをつかむことであ

る。この程度におさめてよしとしよう。

9 Savers vote for Manx bank's liquidation

 機能語は前置詞のforのみで、それ以外はすべて内容語である。まず、もっともわかりや

すい語はvoteである。「投票する(vote)」は選挙のときに使う。選ぶ前提としては議員数が

決まっていて、だれを議員とするかを有権者の意思で選出・決定することである。あるいは

ある重要な事柄を決定するために市民に賛成・反対の意思表示を求めるために投票するとき

にも使う。まだ決定されていない事柄に一票を投じて意思表示をすることであるが、何のた

めに投票するかといえば、Manx bank’s liquidationであるという。Manxは大文字であり固

有名詞と思われるので考えても埒があかない。しかし、固有名詞だということが想像できる

ことは重要である。なぜなら、Japan bankのようなものを考えることができるからである。

Manx Bankのようにbankが大文字になっていれば「マンクス銀行」のようなものを想像す

る。Japan Bankであれば「日本銀行」のようなものを想像する。実際には小文字になって

いるのでbankは普通名詞である。Japan bankは日本にある銀行ということになる。Manx

bankはマンクスという場所に関連する一銀行であると考えられる。もう一つ考えられるの

はManxが固有名詞の形容詞形の場合である。たとえば、Japanese bankといえば、日本に

ある銀行ということである。これをあてはめるとManx bankはマンクスにある銀行という

だけで銀行名はわからない。さらに考えておきたいのはManxが形容詞であるとするなら、

名詞形はまた別の語で、たとえばMan, Maなどがあるかもしれない。Japaneseは形容詞であ

りJapanという名詞形があるのと同じである。Manx bankがどういう銀行かはわからないが、

Japan bankやJapanese bankを考えるとManx bankらしきものが想像できる。知らない語で

あるManxが出てくると、辞書で調べよと言う。あるいはManxも知らないのかとなるかも

しれない。しかし、知っているか知らないかをすぐに問題にするのはたいへんおろかしいこ

とである。知らないことはいくらでもある。自分が知っていることについてはその知識を誇

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るようにそんなことも知らないのかと言う。そこで知識をいくらひけらかしてもはじまらな

い。知識を誇る人でも知らないことばかりなのだから。Manx bankに関してあれやこれや

考えるうちに、おぼろげながらもどのようなものであるかがわかることが大切なのである。

 つぎにliquidationについてである。一つの語としてみるといかめしいが、liquidであれば

わかるかもしれない。Liquidがわからなければ取り付く島がないので、さっさと辞書で調べ

ればよい。liquidが液体であることがわかれば、かなり解明できそうである。-ationについて

はcivilization, automation, examinationなどの語尾が思いつくかもしれない。くわしいこと

はよしとして、どうやら動詞につく語尾のようである。Civilize, automate, examineを連想

することにより、うまくいけばliquidateが浮かぶかもしれない。しかし、liquidateがわかっ

たからと言って、それだけではあまり意味がない。重要なところは「液体」と動詞の語尾の

ところである。液体を動詞にすると、「液体にする、液体化する」となろう。Manx bank's

liquidationは銀行が液体化される、あるいは銀行を液体化することである。ここで問題にな

るのは「液体化」である。一般的に考えると、氷や鉄などの固形物であることが「液体化」

の前提になる。液体化とは形状をなくすることであるから、bankが液体化されると銀行と

いう形態が消えることになる。銀行の液体化は銀行という固体の消滅を意味するか、個体が

消滅したあとに残る液体に意味の重きがあるかのいずれかである。想像しやすいのは前者で

ある。簡単にいえば、bank's liquidationは銀行を潰すということではないかと考える。銀行

を存続させるか、潰すかを巡って投票するということであるらしい。だれが投票するかとい

えばsaversである。Saverとは危ないところにいる人を救う人もsaverであるし、金を使わず

に貯める人もsaverである。この2者のうちでは銀行の話なので後者の意味のほうがふさわ

しいであろう。もうすこし分解するとsaversはpeople who save…のことであるから、

saversは「人々」を指している。Saveの意味がはっきりしなければ、人々がマンクス銀行

を潰す云々を決定するために投票をするらしいくらいでおさめておく。最後にforであるが、

forは「…のために、…を目指して」で、いずれにせよ、前向きなことをいう。銀行の液化

に前向きに投票するくらいの意味になろう。液化は大変なことで、貯金が戻るのかなど様々

な問題を含むが、液化に前向きだということは、貯金が全額かどうかわからないが戻るので

あろう。そうでなければ賛成するはずがない。詳しいことはわからないが、銀行の存続をめ

ぐる話のようである。

10 How to retire back in Britain

 How to retireは引退の仕方である。長い間、仕事をしてきて一定の年齢に達すると身を

引くことになる。そのときの身の引き方について述べている。疑問符はついていないが、

howがあるので疑問の意味がある。この場合の可能性を考えてみると、how to retireが間接

疑問文になっているのかもしれない。たとえば、I will teach you how to retire.のような文

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である。平叙文であるから疑問符はいらない。I will teach youを削除すれば、今、問題にし

ている疑問符の付かない文ができる。I will teach youの部分は、もしかするとAsk meかも

しれないし、I wonderかもしれない。また、そのほかの可能性も考えられる。いろいろな

可能性があるが、それを一々考えることはやめて、単にhow to retireとしている。そして、

結果的にはa way(/ ways)to retireのような意味で使っていることが考えられる。そうであ

れば、疑問符がなくても問題はない。問題文はそれ自体がテーマになっているので、As to

how to retireのように考えると、引退の仕方に関する諸々の話くらいの意味になる可能性が

高いように思う。前提として以前は一定の年齢になると当然のように退職をして、そのあと

はぶらぶらと時を過ごすだけであったが、平均寿命がのびた今日では定年後のかなり長い時

間をどのように過ごすかが問われている。定年退職の問題がライフスタイルのなかに組み込

まれてきたことが前提としてあるのかも知れない。

 つぎにbackである。とりあえず、backを削除するとretire in Britainとなる。この意味は

英国以外で身を引く可能性のある人が英国を引退の地として選ぶことを意味する。日本にず

っと住んでいる日本人はretire in Japanとは言わない。なぜなら、日本に住んでいるのだか

らin Japanと言っても情報価値がまったく認められないからである。東京に住んでいる人に

対して、「ここは東京だ」というのに等しい。Retire in Britainは日本やフランスやドイツな

どで引退する可能性がある人にしか当てはまらない。「海外にいる人が英国に戻って引退す

る」で意味が通じる。これにbackの意味が加わる。「英国に戻って」の「戻って」がbackの

意味である。Retire backではなくback in Britainとなり、backはin Britainと結びついてい

る。もし、retire backと結びつくとretire back to Britainのようになるのが普通であろう。

11 Enjoy the flight – luxury is travelling long-haul

 命令文である。人に強制できるのは何らかの自信があるからである。喜びを得られるから

やってみなさいと、端から言い切っている。そこまで言われれば、われわれもひとつやって

みようという気になる。何をやれと言っているのか。The flightである。Flightはflyの名詞

形であるから、空を飛ぶことである。飛行機で飛ぶのか気球で飛ぶのかわからないが、the

が付いているので特定の飛行を指している。書いている人の目には飛ぶ様子がはっきりと見

えているし、自らとんだ経験もありそうである。読者としてはどんなものに乗って飛ぶのか

に関心が集まる。つぎにダッシュがある。このダッシュは書き手がEnjoy the flightまで書

いたところで、さて、次はどのように書いたものかと思案していることを示している。この

ダッシュのなかで書き手は読み手を裏切らないためには、あるいは読み手がその気になるよ

うにするためにはどのように表現したらよいのかを考えている。この考えている間が読者を

苛立たせる。逆に言えば、この間によって読者の期待感が高まる。さらりと流さないで、わ

ざと文字を使わずにダッシュという記号を使うことによって読者に書き手の思いを想像させ

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る。Flightとは何のflightのことでしょうとクイズを出しているようにも感ずる。このダッ

シュを通過している時間のなかで読者はいろいろなことを考える。いろいろなことを弥が上

にも考えさせられる。そして、読者の心が様々な思いで、特に飛行とは何だろうという期待

感で満たされたところで、堰を切ったようにluxury is travelling long-haulと言う。Luxury

は豪華さである。特に食べ物や着る物やホテルなどの豪華さを言うことが多い。贅沢三昧が

luxuryである。普段は味わえない豪華な気分を味わえますと述べているようにも思う。Is

travellingはどういうことなのか。Travellingは現在分詞なのか動名詞なのか。現在分詞であ

れば進行形だからluxuryが、現在、旅行中であるということになる。豪華さが飛行機で旅を

続けている最中である。進行形は動作の一時的な継続を表わすので、今は続いているがその

うちに終わることを意味する。豪華さが旅しているのは今だけで、この機会を逃すなと述べ

ているようにも思える。一方、動名詞にすると豪華さは旅することであるという解釈になる。

Travelling is a luxuryとすると、旅することは贅沢なこととなる。通常の発想と反対になっ

ている。もしかしたら、この反対の発想を引き出すためにダッシュの間を利用したのかもし

れない。ダッシュ以下の表現にはひとひねり加えられているようにも感ずる。Travellingを

動名詞と考えて、旅をすることは贅沢なことである。豪華さはイコール旅をすることである

と述べているととりあえず考えておく。さて、long-haulはどういう意味なのか。Longは

shortの反対で、時間や距離が長いことである。Haulの意味が分からないので、longだけで

解釈すると、長い時間、あるいは長い距離を旅するくらいの意味になりそうである。Long-

haulで強勢があるのはlongのほうであるから、haulの意味はそれほど重要には思えない。空

の旅を楽しみなさい。飛行機の長旅は贅沢なものですから。このようなことを述べているの

ではないか。おそらく、空の長旅は大変だと言う一般の風潮があり、これに対抗する意味も

あるのかもしれない。

12 Pedal power rules the roads in Mallorca

 Pedalは日本語でも使う。自転車のペダルである。これもすでに触れたところであるが、

多くの英語が片仮名になっているので、英語を読むときも片仮名力を使うようにする。

Pedal powerはベダルが持っている力なのか、ペダルを踏む人の力なのか。ペダルには動力

がついていないので、人の足の力で動かす。すると、pedal powerは人がペダルを踏む力の

意味になり、人の存在がクローズアップされてくる。タイツを履き、ヘルメットをかぶり、

サングラスをして力強く自転車を走らせる姿が浮ぶ。The roadsで冠詞がついているので、

すべての道路である。多くの道があるが、そのすべてを言っている。Roadとはどのような

ものだろうか。町中にあるような通りはstreetである。Roadは町から出て別の町に行くよう

な道を連想する。昔でいえば大型馬車が走っていたであろうし、今ではタンクローリーのよ

うな大型車が行き来するような道を考える。当然、こういう道の主は大型車に限定しないま

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でも車である。そういう道をruleしているのがペダルパワーだと言う。Ruleはstraight stick

(まっすぐな棒)のことで、この棒を使って長さを測る。ある種、絶対的な尺度を示す棒が

ruleである。Ruleで測った長さは絶対的なもので、すべての人が認めなければならない。こ

れより、国家であれ国民であれ、すべてのものを絶対的に支配することを意味する。裁判所

は一定の物差しで測り判断を下す。だから、判決を下すことがruleである。一本のまっすぐ

な棒からはじまったruleは強力な権限の意味を持つようになった。道という道を絶対的な権

限を持って押さえ込んでいるのは、本来、権限を持っていた車ではなく、自転車と自転車に

乗る人々だと述べているようである。車もひれ伏して頭を下げているような場面が想像され

る。あるいは車は道の横で小さくなり、自転車が通り過ぎるのを待っているようにも思える。

「お殿様のお通りじゃ」ではなく、「自転車様のお通りじゃ」という声が聞えてくるような気

さえする。これはどこの国の話なのか。Mallorcaだと言う。固有名詞を出されても、固有名

詞を切り崩すのはむずかしい。文法的解析ができない。しかし、それでも想像できることも

ある。前置詞のinがあるので、ある程度の広さを持った場所の名前であろう。どこにあるか

わからないがこの記事を読む人、特にイギリス人はMallorcaがどんなところかを知っている

と思われる。そうでなければ見出しにしづらいであろう。Mallorcaはマリョルカと読むが、

以前はMajorca(マジョルカ)と言っていたのである。

 だれでもご存知のMallorcaでは道という道が自転車に乗っ取られているという話のようだ。

Mallorcaのイメージはcyclingのイメージである。これは正しいイメージであると思うが、

その実体がどのようなものであるかは記事を読んでみないとわからない。自転車に乗るので

あるから、Mallorcaは暖かいところであろう。Cyclingは娯楽であろう。暖かいところで、

ラテン系の名前となれば、やはりMallorcaは地中海あたりを連想させるのではないか。

13 Hunt suppers with wild boar – spring has arrived in France

 後半の意味は「春がフランスに到着した」である。Arriveは「出発」に対するものである

から、春がどこかの地を出発して旅を続けてきたが、(やっと)フランスに到着した。これ

が後半の意味である。ダッシュがあるので、後半部分は前半部分と密接に関係している。ど

のような関係かは前半の意味によって決まる。前半をみるとboarという語があり、これが何

のことかよくわからない。わかりやすいのはsuppersではないか。Huntは日本語でも「ハン

トする」というから想像しやすい。キツネをハントするとは「キツネ狩り」のことだから、

これを適用するとhunt suppersは「夕飯狩りをせよ」となる。With wild boarがわからない

のでこれを除外して意味を想像してみる。春になるまではやりたくてもできなかったけれど、

春が来たので夕食をハントしなさい。wild boarとは何なのか。Wild flower, wild animalな

どというからboarは野生のものである。花か動物であろうが、食べるということを考えると、

huntという語を見ると、おそらく動物であろう。Boarはどんな動物であろうか。ライオン

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や象がフランスにいるわけがないから、これは違う。危険を及ぼすような動物ではなく、ど

こでも見られるような比較的おとなしい動物であろう。しかも、狩りの対象になるような動

物ではないか。ほかの可能性を考えてみよう。With wild boarを野生のboarを捕り、それを

売ってその金で夕食をhuntする。あまりしっくりこない。また別の意味を考えてみる。こ

れが一番わかりやすい。夕食を街に出て食べてみなさい。夕食そのものをハントしてご覧な

さい。Wild boarが料理に使われている夕食をハントして御覧なさい。Boarは「野生」とあ

り、直接関係はないが「ハント」も間接的に影響がありそうなので、boarの意味は動物であ

ろう。そして、牛や馬や羊などのドメスティックな動物ではなく、春に食べごろになるよう

な動物であろう。春の名物らしいので、フランスに住んでいれば察しがつくであろうが、意

味は「wild boarを食べましょう。春になったのだから」くらいではないか。

14 Chinese New Year and a new start

 この英語をそのまま日本語におきかえると「中国の新年と新しい出発」となる。英語を離

れて、この日本語をもとにして訳文を工夫すると、「中国、新年に新出発」くらいになろう。

訳語としてはこちらの訳の方がよいと思うが、英語そのものの意味は「中国の新年と新しい

出発」である。上記の英語の意味はこれ以外にはなく、「中国、新年に新出発」はあくまで

二次的推論より生じた意味である。上記の英語には不明な語はなく、日本語訳にも問題がな

いと思われる。したがって、この英語に関する詮索は終りということになるが、ほんとうに

そうであろうか。もう少し、上記の英語を詳しく確認してみよう。

 Chineseが大文字ではじまるのは固有名詞だからである。大文字ではじめることによって、

Chineseが普通の語と異なり、ほかの語の中に置くと頭一つ飛び出している感じがする。

New Yearも大文字ではじまっている。new yearではない。すると、New Yearも固有名詞

である。古い年に対する「新しい年」ではない。固有名詞のNew Yearは「新年、あけまし

ておめでとうございます」などというときの「新年」である。New Yearは「新しい年」で

はなく、「新年」とすべきである。ところで、上記の英語は月に1,800万人が読むとされる英

国の新聞The Daily Telegraphの電子版からのもので、日付は2009年2月13日(金)となって

いる。2月に「新年」はおかしい。われわれの感覚からすれば「新年」は1月1日である。

2月に1月1日のことを現在時で報ずるはずがないから、この「新年」はわれわれの「新年」

と異なる。2月を「新年」というは旧正月の場合である。したがって、Chinese New Year

は旧暦の正月である。中国、台湾、韓国などでは旧正月を祝い、出稼ぎの人々が故郷に帰る

のは2月の旧正月である。この旧正月をChinese New Year(CNY)という。CNYには2つの

意味があり、一つは旧正月のことである。台湾でも韓国でもCNYを祝う。もうひとつは「中

国の正月」の意味で、これは韓国であればKorean New Yearという。平凡に見える英語ほ

ど気をつけて読まなければならない。

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15 Raising a mix-raced family in Japan can be hard

 can be hardが述部である。Is hardであれば、きびしい、むずかしいとなるが、canがあ

るので断定を避けている。むずかしくなる可能性がある。もちろん、canは能力の意味では

ない。Canの左側が主部にならざるを得ない。そのなかの中心となる語がraisingである。

Raiseは「上げる」であるが、この場合には「育て上げる」の意味である。育て上げるとは

一人前になるまで育てることである。その目的語がfamilyである。Familyは親と子どもから

なるが、raiseの目的語になるのは子どもである。父親や母親ではどうみてもおかしい。し

たがって、familyの中心的意味として子どもの存在があるようだ。子どもを日本で育て上げ

るには苦労が多いという意味のようである。Mixedは「混ざり合った」であり、何が混ざり

合うかといえば、raceであるという。Raceは「人種」であるから、mix-raced familyはイギ

リス人と日本人の間に生まれたような子ども、国際結婚で生まれた子ども、混血児のことで

ある。とかく人種に過敏な日本では英国と異なり、子育てがむずかしい。このようなことを

述べているのではないか。

16 おわりに

 本稿ではデイリーテレグラフ電子版のexpat feedのヘッドラインをいくつか取り上げて、

その読み方について述べた。通常読む文には充分な情報量が含まれているが、ヘッドライン

は語数が少なく充分な情報が含まれていない。情報量の不足を補うためには一語一語をより

正確に理解して、語が織り成すイメージをより忠実に想像することが求められる。想像力は

単に英語力の問題ではなく、その人が持っている経験と知識をいかにダイナミックに活用す

るかという問題である。英語のヘッドラインを読むときに真に必要とされるのは想像力であ

る。英語のヘッドラインが読めないのは英語力の不足によるものと短絡的に考えがちである

が、実はそうではなく経験と知識のダイナミズムに基づく想像力の欠如が原因であることが

多い。ヘッドラインを読みながら、想像力の重要性を具体的に示したのが本稿である。

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This short paper of mine says how we should read newspaper headlines, composed of

roughly 4 to 8 words according to my private research into them. I have taken examples

treated here from the expat feed in the online Daily Telegraph. A headline has usually a very

small number of words; therefore we must supplement the lack of information with our

own logical imagination by experience and knowledge. This process of supplementing is

very important to us when we read English, particularly English poems. In this paper I

have shown concretely how we should exercise our power of imagination when we read

English, using actual examples from the Daily Telegraph. This will in some sense help us

Japanese open up a new way to cope with reading English.

How to Read Newspaper Headlines

UZUHASHI, Yuzo