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31 The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, Vol.19, No.1 The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, vol.19, no.1, 31-44 論文: メディア変革期における「メディアミックス」の新展開 ――『妖怪ウォッチ』を事例に―― 野口 光一(日本大学大学院総合社会情報研究科) 抄録: 2000 年以降、アニメーション作品の人気 1 は『ポケットモン スター』、『ドラえもん』、『名探偵コナン』などの作品に固定 化していた。しかし、ゲーム主導のコンテンツである『妖怪 ウォッチ』が TV アニメーション化され、2014 1 月から放 映されると、ゲーム、映画、漫画、玩具などを連携させたメ ディアミックスを一挙に進めることで、人気コンテンツの仲間 入りを果たした。 日本のコンテンツ産業における「メディアミックス」につい ては、マーク・スタインバーグらの研究によって国内外に周知 されているところだが、本稿では、『妖怪ウォッチ』を取り上 げて、近年の進化に注目する。日本のメディアミックスは、ア メリカのトランスメディア・ストーリーテリングとは異なり、 キャラクター中心のフランチャイズであることは指摘され、議 論されている。本稿では、レベルファイブによる『妖怪ウォッ チ』のメディアミックスはこれを踏襲しつつも、近年のメディ ア変革を受けた 1970 年代半ば以降の角川春樹によるメディア ミックスのアップデート・バージョンであると提案する。同じ ゲーム主導の『ポケットモンスター』と比較し、また角川春樹 の戦略との類縁性も再確認しつつ、『妖怪ウォッチ』における 新たなメディアミックスの展開を、ハードウェア、ソフトウェ ア、そして市場面から分析し、考察する。 キーワード: TV アニメーション、カドカワ、メディアミックス、『ポケッ トモンスター』、『妖怪ウォッチ』 Yo-kai Watch: A New Development of Media Mix in the Age of Media Innovation Koichi Noguchi (Nihon University) Abstract: Since the year of 2000, Pokémon, Doraemon, and Detective Conan have been regularly popular works of media contents. However, when the animated TV series Yo-kai Watch began being broadcasted in January 2014, with media mix deployment including TV and games, cinemas, manga, and toys, Yo-kai Watch became one of the most popular media franchises. (Media mix is the Japanese-made English term which means transmedia or media convergence.) As a technological innovation advances, media forms have increased in number, and the media platform has also undergone a change. In this new media environment, I show that Yo-kai Watch updated Haruki Kadokawa’s media mix in the mid-1970s. The Yo- kai Watch production team has produced media contents in a multiple and simultaneous way. In this essay, I analyze and examine the way in which the Yo-kai Watch series has revised the strategy of media mix in the age of media revolution, in terms of hardware, software, and marketing, in contrast to Pokémon and Haruki Kadokawa’s media mix. Keywords: Kadokawa, media mix, Pokémon, TV animation, Yo-kai Watch はじめに                         2000 年以降、コンテンツ産業におけるメディアの環境変化も あり、大規模な消費者をターゲットとしたコンテンツが生まれ にくい環境にあった。そうした中、『妖怪ウォッチ』(レベル ファイブ企画・原作)(2012- )が人気コンテンツの仲間入り を果たしたことは、日本におけるメディアミックスの重要な事 象の一つと捉えられる。 マーク・スタインバーグは『なぜ日本は〈メディアミックス する国〉なのか』(原著 2012 /日本語版 2015)において、日 本のメディアミックスを検証し、アメリカのトランスメディ アやメディア・コンバージェンスとは異なる日本のコンテン ツ産業の特殊性を指摘している。とくに、アメリカにおいて は、『スター・ウォーズ(Star Wars)』(1977-)や『マトリック ス(The Matrix)』(1999-2003)に代表されるようなトランスメ ディア・ストーリーテリングが中心であることに対し、日本で は「キャラクター中心のメディアミックス」が展開されてきた と示している(スタインバーグ、2015228)。さらに、1963 年の TV アニメーション『鉄腕アトム』による発祥から、1970 年代半ば以降の角川春樹率いる角川書店(現カドカワ)による 展開を経て、その後も段階的に変容を遂げてきているが、日本 におけるメディミックスは、「日常化した現象であり、もはや 人の目の前にメディアミックスが展開されていることに気を止 めることが難しくなっている」というくらい日常に溶け込んで いることをスタインバーグ(20159)は指摘している。そこ で本稿では、近年、社会現象 2 ともなった『妖怪ウォッチ』を 取り上げ、スタインバーグの分析を踏襲しつつも、メディア変 革期における日本のメディアミックスの新たな様相を検証す る。 近年、ハードウェア面において、メディアの種類が増え、プ ラットフォーム 3 が大きく変化して視聴方法とインターアク ションのスタイルが多様化した。TV アニメーション、映画、 ゲーム、漫画、ネット配信、ライトノベル、遊技機、2.5 次元 ミュージカル、玩具など、視聴者が参加し、また、キャラク ターに触れて遊べるチャンネルも急増している。『妖怪ウォッ

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31The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, Vol.19, No.1

The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, vol.19, no.1, 31-44

論文:メディア変革期における「メディアミックス」の新展開――『妖怪ウォッチ』を事例に――野口 光一(日本大学大学院総合社会情報研究科)

抄録:2000 年以降、アニメーション作品の人気 1 は『ポケットモンスター』、『ドラえもん』、『名探偵コナン』などの作品に固定化していた。しかし、ゲーム主導のコンテンツである『妖怪ウォッチ』が TV アニメーション化され、2014 年 1 月から放映されると、ゲーム、映画、漫画、玩具などを連携させたメディアミックスを一挙に進めることで、人気コンテンツの仲間入りを果たした。 日本のコンテンツ産業における「メディアミックス」については、マーク・スタインバーグらの研究によって国内外に周知されているところだが、本稿では、『妖怪ウォッチ』を取り上げて、近年の進化に注目する。日本のメディアミックスは、アメリカのトランスメディア・ストーリーテリングとは異なり、キャラクター中心のフランチャイズであることは指摘され、議論されている。本稿では、レベルファイブによる『妖怪ウォッチ』のメディアミックスはこれを踏襲しつつも、近年のメディア変革を受けた 1970 年代半ば以降の角川春樹によるメディアミックスのアップデート・バージョンであると提案する。同じゲーム主導の『ポケットモンスター』と比較し、また角川春樹の戦略との類縁性も再確認しつつ、『妖怪ウォッチ』における新たなメディアミックスの展開を、ハードウェア、ソフトウェア、そして市場面から分析し、考察する。

キーワード:TV アニメーション、カドカワ、メディアミックス、『ポケットモンスター』、『妖怪ウォッチ』

■ Yo-kai Watch: A New Development of Media Mix in the Age of Media InnovationKoichi Noguchi (Nihon University)

Abstract:Since the year of 2000, Pokémon, Doraemon, and Detective Conan have been regularly popular works of media contents. However, when the animated TV series Yo-kai Watch began being broadcasted in January 2014, with media mix deployment including TV and games, cinemas, manga, and toys, Yo-kai Watch became one of the most popular media franchises. (Media mix is the Japanese-made English term which means transmedia or media convergence.) As a technological innovation advances, media forms have increased in number, and the media platform has also undergone a change. In this new media environment, I show that Yo-kai Watch updated Haruki Kadokawa’s media mix in the mid-1970s. The Yo-kai Watch production team has produced media contents in a multiple and simultaneous way. In this essay, I analyze and examine the way in which the Yo-kai Watch series has revised the strategy of media mix in the age of media revolution, in terms of hardware, software, and marketing, in contrast to Pokémon and Haruki Kadokawa’s media mix.

Keywords:Kadokawa, media mix, Pokémon, TV animation, Yo-kai Watch

はじめに                        

2000 年以降、コンテンツ産業におけるメディアの環境変化も

あり、大規模な消費者をターゲットとしたコンテンツが生まれ

にくい環境にあった。そうした中、『妖怪ウォッチ』(レベル

ファイブ企画・原作)(2012- )が人気コンテンツの仲間入り

を果たしたことは、日本におけるメディアミックスの重要な事

象の一つと捉えられる。

 マーク・スタインバーグは『なぜ日本は〈メディアミックス

する国〉なのか』(原著 2012 /日本語版 2015)において、日

本のメディアミックスを検証し、アメリカのトランスメディ

アやメディア・コンバージェンスとは異なる日本のコンテン

ツ産業の特殊性を指摘している。とくに、アメリカにおいて

は、『スター・ウォーズ(Star Wars)』(1977-)や『マトリック

ス(The Matrix)』(1999-2003)に代表されるようなトランスメ

ディア・ストーリーテリングが中心であることに対し、日本で

は「キャラクター中心のメディアミックス」が展開されてきた

と示している(スタインバーグ、2015:228)。さらに、1963

年の TV アニメーション『鉄腕アトム』による発祥から、1970

年代半ば以降の角川春樹率いる角川書店(現カドカワ)による

展開を経て、その後も段階的に変容を遂げてきているが、日本

におけるメディミックスは、「日常化した現象であり、もはや

人の目の前にメディアミックスが展開されていることに気を止

めることが難しくなっている」というくらい日常に溶け込んで

いることをスタインバーグ(2015:9)は指摘している。そこ

で本稿では、近年、社会現象 2 ともなった『妖怪ウォッチ』を

取り上げ、スタインバーグの分析を踏襲しつつも、メディア変

革期における日本のメディアミックスの新たな様相を検証す

る。

 近年、ハードウェア面において、メディアの種類が増え、プ

ラットフォーム 3 が大きく変化して視聴方法とインターアク

ションのスタイルが多様化した。TV アニメーション、映画、

ゲーム、漫画、ネット配信、ライトノベル、遊技機、2.5 次元

ミュージカル、玩具など、視聴者が参加し、また、キャラク

ターに触れて遊べるチャンネルも急増している。『妖怪ウォッ

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メディア変革期における「メディアミックス」の新展開――『妖怪ウォッチ』を事例に――野口 光一

チ』の場合、2014 年 1 月からの TV アニメーション放映と共

に、体操、音楽、バラエティ番組、パロディなど、原作が包摂

する様々な要素を取り出して、コンテンツを制作し供給した。

さらに、漫画やゲームも含めた複数のコンテンツを束ねる取り

組みも行われている。ソフトウェア面では、エピソードを基本

とする物語で構成されていることから、キャラクターを次々に

増殖させることが可能である。これによって制作と供給を安定

的に継続できる。そして市場においては、コンテンツが多様な

メディアの特質を具現化し、それぞれのメディア自体を原作と

して流通させることで消費を支えている。

 以下、『妖怪ウォッチ』を日本におけるメディアミックスの

新展開と捉え、検証を進める。そこでまず、2000 年以降の TV

アニメーションを含めたメディアミックスの状況を確認する。

そして『妖怪ウォッチ』のメディアミックスの起源をレベル

ファイブ社長日野晃博の発言から探る。その上で、『ポケット

モンスター』及び 70 年代半ば以降の角川春樹によるメディア

ミックスに遡って比較し、分析する。

1. 2000 年以降の TV アニメーションとメディアミックス 

近年、漫画やライトノベルから TV アニメーション、そして劇

場アニメーションやゲームへと相乗効果を狙ったメディアミッ

クスが定番化していた。例えば、ライトノベル『灼眼のシャ

ナ』(2005)は TV アニメーション放映前の累計発行部数 120

万部(9 巻)を放映後には 450 万部(16 巻)に増やした。『ソー

ドアート・オンライン』(2012)の場合は、165 万部(8 巻)に

対して 620 万部(11 巻)と約 4 倍となっている(三木一馬、2015:260)。飯田一史は、「このライトノベル → コミカライズ→ アニメ化というモデルが出版社からみておいしい点は、ア

ニメ化決定の告知を打った時点から放映時までのわりと長い期

間、書店での扱いが良くなり、読者の関心が集まり続けること

だ」(2012:303)と、TV アニメーション化の影響力について

述べている。また TV アニメーションは無料で視聴可能である

ため、それ自体がコンテンツの「宣伝」だと言える。つまり放

映自体は Blu-ray Disc / DVD の販売のための宣伝であり、ゲー

ム主導のメディアミックスであればゲーム販売のための宣伝で

もある。このように TV アニメーションはメディア戦略の重要

かつ中心的な存在になっている。

 そこで、コンテンツの人気度を知るために、メディア戦略の

中心的な存在であるアニメーションのヒット作品を定義し、そ

の傾向を検証する。アニメーション作品の人気度を計るには、TV アニメーションであれば視聴率、劇場アニメーションであ

れば興行収入が目安となる。しかし近年、TV アニメーション

については、深夜帯の放映の作品や、全国ネットでの放映でな

い場合も多く、これらの人気度を計るには、視聴率のみで把握

するのは困難である。それに比べ、劇場アニメーションの興行

収入は観客動員数に比例するため、そのまま人気度を知る目安

となる。また TV アニメーションで人気となれば映画化へとメ

ディアの展開が行なわれ、この場合も劇場作品の興行収入がそ

のままコンテンツの人気度を提示していると考えられる。一般

的に、興行収入が 10 億円や 20 億円でヒット作品といわれる

が、本稿では大規模な消費者に向けた作品を取り上げること

から、確実なヒット作品であることを示す 30 億円の興行収入

を一つの目安とする(補遺:表 6)。その状況から見えてきた

ことは、『ポケットモンスター』、『ドラえもん』、『名探偵コナ

ン』、そしてスタジオジブリ作品とヒット作品が固定化してい

ることである。またスタジオジブリ作品を除いては、TV アニ

メーションからの映画化であり、大規模な消費者に向け、キャ

ラクターを浸透させた作品群である。

 一方、2000 年における劇場アニメーションは 31 本、TV ア

ニメーションは 109 本であったことに対し、2015 年の劇場ア

ニメーションは 77 本、TV アニメーションも 341 本と、どち

らも過去最高となった(表1)。2000 年代に入り、漫画やライ

トノベルからの TV アニメーション化が主流のメディアミック

スとなっていた。このビジネスモデルにより「深夜アニメ」と

呼ばれるゴールデンタイム以降に TV アニメーションが放映さ

れるケースが増え、作品数が大幅に増加したのである。また

趣味の多様化により様々な新規コンテンツが製作 4 されたもの

の、表 6 から興行収入が 30 億円を超えるような人気作品が固

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定化していたことは、大規模な消費者をターゲットにしたヒッ

ト作品は生まれにくい環境になっていたと言える。このような

状況の中、2014 年に『妖怪ウォッチ』が登場し、映画の興行

収入が 78 億円、観客動員数約 700 万人 5 という、突如の大ヒッ

ト作品となった。

劇場作品 TV 作品 合計2000 年 31 本 109 本 140 本2001 年 33 本 167 本 200 本2002 年 46 本 154 本 200 本2003 年 25 本 189 本 214 本2004 年 31 本 203 本 234 本2005 年 36 本 208 本 244 本2006 年 45 本 279 本 324 本2007 年 51 本 250 本 301 本2008 年 31 本 231 本 262 本2009 年 46 本 218 本 264 本2010 年 55 本 195 本 250 本2011 年 54 本 220 本 274 本2012 年 59 本 222 本 281 本2013 年 63 本 271 本 334 本2014 年 73 本 322 本 395 本2015 年 77 本 341 本 418 本

表 1. アニメーション作品の年別タイトル本数(「アニメ産業レポート 2016」より算出)

 コンテンツ産業において、TV アニメーション、映画、ゲー

ム、漫画、コンサートなどエンターテインメントのメディアが

様々ある中で、最も気軽に楽しめるものは漫画や TV アニメー

ションである。漫画は子供が購入し易い価格であり、TV アニ

メーションにいたっては既述のように無料で視聴可能である。

一方、ゲームはソフトウェアを購入しようとすると1本 5,000

円前後の出費となる。映画やコンサートの通常料金も子供に

とっては高額である。さらに映画館や公演会場まで時間を掛け

て出向く動機付けも必要となる。キャラクターに広く親しんで

もらうための導入として手軽な漫画や TV アニメーションの重

要度は高い。そこで『妖怪ウォッチ』を数字で確認する。漫画

を掲載している『コロコロコミック』は、2013 年 1 月(漫画

『妖怪ウォッチ』の連載が始まった翌月)から 3 月にかけての

平均印刷部数が 616,667 部 6 であった。同年 7 月発売のゲーム

『妖怪ウォッチ』の販売本数は 53,654 本 7、そして、2014 年 1

月から放映を開始した TV アニメーションの視聴率は、関東で6.1%8 であった。その後、2014 年 12 月の劇場アニメーション

を経た 2015 年 1 月 25 日時点で、2 作目のゲーム『妖怪ウォッ

チ 2 元祖/本家』の販売累計が 3,088,387 枚 9 となった。気軽

に楽しめる漫画や TV アニメーションからゲーム、映画など他

メディアに展開した。漫画では約 60 万人が購読し、1 作目の

ゲームでは約 5 万人が購入した。そこから劇場アニメーション

は 700 万人が鑑賞し、2 作目のゲームでは約 300 万人が手にし

たことになる。コンテンツの参加人口がこの数字のように大幅

に増加した『妖怪ウォッチ』は、メディアミックスとしては

成功である。さらに、表 2 のゲーム『妖怪ウォッチ』累計販

売本数の推移から考察すると、2013 年 7 月 11 日発売の第 1 弾

ゲーム『妖怪ウォッチ』の販売本数は TV アニメーションが放

映された 2014 年 1 月から増加し、同年 7 月 10 日発売の第 2 弾

ゲーム『妖怪ウォッチ 2 元祖/本家』は発売直後から加速して

いる。また『妖怪ウォッチ』関連の玩具も 2014 年後期には品

薄状態 10 となるほどの売れ行きで、市場規模は 2015 年 3 月の

時点で 2,000 億円 11 であると報告されている。『妖怪ウォッチ』

において、TV アニメーション化はメディアミックスを加速さ

せ、コンテンツ産業においては有効であるということだ。

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

2,500,000

3,000,000

3,500,000

2 /

2

表 2. ゲーム『妖怪ウォッチ』累計販売本数の推移 12

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メディア変革期における「メディアミックス」の新展開――『妖怪ウォッチ』を事例に――野口 光一

2. 日野晃博の戦略と『妖怪ウォッチ』のキャラクター展開 

社会現象にもなった『妖怪ウォッチ』であるが、まず日野晃博

がいかにメディアミックスを行ったか、発言から検証する。日

野はメディアミックスとキャラクターについて次のように述べ

ている。

自分の幼少時代にもいろんなものが派生した “ クロスメ

ディア的 ” なものはあったと思うんですけど、子供の感覚

で本物と偽物を嗅ぎ分けていたんですね。(中略)僕が最

初に考えたのは、すべてを本物にするということです。イ

ナズマイレブンの頃から常に注意していたのは、例えば、

キャラクターの持つ雰囲気とか絵の描かれ方。ゲームはも

ちろん僕らが作るものですが、マンガでもテレビアニメで

も、いろんなメディアに展開する作品群に対して、「これ

は OK、これは NG」というようなことをやっていく。キャ

ラクターの顔のバランス一つにしても、すべてを本物にし

なければ連動する意味がない。そうした点に気をつけてき

ました。(二階堂遼馬、2014)

 幼少時代にメディアミックスが存在し、その中でも本物と偽

物を感じていたということである。つまり 1968 年生まれの日

野にとって幼少時代からメディアミックスは存在し、そこには

本物と偽物が存在し、見分けていた。ここに日野のメディア

ミックスの原点があるとするならば、スタインバーグのメディ

アミックスの分析に当てはめると、70 年代半ば以降の角川春

樹のメディアミックスを踏襲し、「アップデート」したと捉え

る。そしてその取り組みとして、複数のメディア展開を加速さ

せ、スターキャラクターの創出などを行った『妖怪ウォッチ』

のメディアミックスは、メディア変革期における新展開である

ことを検証していく。

 まず『妖怪ウォッチ』のメディアミックスにおけるキャラク

ター展開を考察する。日本のコンテンツ産業には一般的にキャ

ラクター展開が存在している。また、スタインバーグは日本の

メディアミックスはキャラクター中心と論じた。そして、トー

マス・ラマールは、「男性オタクの消費者が、キャラクターや

キャラクター中心の活動の方を選んで、物語を完全に無用のも

のとする」(2013: 359)と述べるなど、日本のメディアミック

スがキャラクター中心に展開していることが指摘されている。

『妖怪ウォッチ』も例外ではない。日野は『イナズマイレブ

ン』、『ダンボール戦機』に続く『妖怪ウォッチ』からキャラク

ター戦略を明確にしている。『妖怪ウォッチ』の主役キャラク

ターである赤い妖怪ジバニャンは、まだ作品が認知されていな

い初出の『月刊コロコロコミック』の漫画において、1 ページ

目にケータやウィスパーより大きく描かれている。またゲーム

『妖怪ウォッチ』のジャケットもカラーで描かれているのはジ

バニャンだけである。映画『妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャ

ン!』においてもジバニャンをセンターに据え、その後ろに青

い妖怪フユニャンを配置した。また TV アニメーションのエン

ディング曲である『妖怪体操第一』の映像においてもジバニャ

ンをセンターにし、後ろにケータとフミちゃんを立たせた、ジ

バニャン中心の構成となっている。同曲は人気曲となり、2014

年暮れの第 65 回 NHK 紅白歌合戦では企画コーナー 13 にてオー

プニング曲の『ゲラゲラポーのうた』とともに歌われた。また

『妖怪体操第一』においては、インターネット・SNS の発達

によりファンが「歌ってみた」「踊ってみた」として次々歌い

踊った動画を公開してバイラルに広がっていったのもこの時代

の特徴であり、この現象は人気コンテンツの証となった。さら

に妖怪の様々なキャラクターが描かれた「妖怪メダル」を収集

させることにより、コンテンツの楽しみ方の幅を広げた。映像

上やデジタルデータ上だけのキャラクター遊びのみならず、実

際のモノによってキャラクターを認知・拡散・定着させたので

ある。

 一方、角川春樹のメディアミックスは、小説、映画、音楽に

よる同時展開をしたが、もう 1 つ、スター俳優の創出が特徴と

なっている。角川映画は当時、「角川 3 人娘」として薬師丸ひ

ろ子、原田知世、渡辺典子をスターに押し上げた。その第 1 弾

となったのが『野性の証明』(1978)で、公開オーディション

を行い、当時 13 歳であった薬師丸ひろ子を見いだして、映画

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デビューさせた。角川書店(現カドカワ)はメディアクロスマ

ガジンと銘打ち、1977 年に、映画、音楽、小説などを扱う雑

誌『バラエティ』を創刊し、薬師丸を幾度となく登場させた。

彼女は『セーラー服と機関銃』(1981)では主演と共に主題歌

も歌い、ヒットさせている 14。特に薬師丸のメディア戦略につ

いて角川春樹は次のように述べている。

テレビは週刊誌と同じだと。いっときバッと注目度は上が

るが、すぐ落ちてしまう。出演させないことによって神話

になる。テレビに出せば神話が崩れる。いつでも会える人

間、これはスターじゃない。タレントです。(中略)そし

て制作発表記者会見から、一気にメディア露出を上げてい

くわけです。薬師丸という素材だからこその戦略でもあり

ました。(角川春樹ほか、2016:131)

 単純に露出を増やすことでスター俳優を作りあげるわけでは

ない。そこには「角川映画 = 薬師丸ひろ子」と連想させるほ

どの戦略があった。これと同様に『妖怪ウォッチ』のキャラク

ター戦略も、数多く存在する妖怪の中、ジバニャンをまず市場

に集中供給し、歌とも連動させつつ、長く愛されるキャラク

ターとしてのスター化、及びブランド化を図った。つまり「妖

怪ウォッチ = ジバニャン」という認知と露出戦略と共にキャ

ラクターの「本物感」を追求することにより、漫画、ゲーム、TV アニメーションと共にキャラクター独自の人気を拡散・定

着させたと言える。結果、大規模な消費者に向けたキャラク

ターのブランド化に奏功し、『ドラえもん』のドラえもんや

『ポケットモンスター』のピカチュウと同様に『妖怪ウォッチ』

のジバニャンが人気キャラクターとして承認されたのである。

3.『ポケットモンスター』と『妖怪ウォッチ』の相違   

『ポケットモンスター』と『妖怪ウォッチ』は共にゲーム主導

によるメディアミックスであり 15、大規模な消費者をターゲッ

トとした作品である。これら 2 作品を比較検証する。『ポケッ

トモンスター』は田尻智(ゲームフリーク)がクリエイティブ

面、ゲームフリークがゲーム開発、ゲームプロデュースのク

リーチャーズがビジネス面、そして任天堂がゲームの販売・流

通を担当した。その他には、小学館プロダクション(現小学館

集英社プロダクション)がアニメーション関連の版権管理を担

当し、株式会社ポケモンがそれ以外の全ての権利管理を行って

いる。「クリエイターをビジネスサイドの雑事から切り離し、

クリエイティブな業務に集中させる」(イデア探検隊、2001:79)ことを目的に、『ポケットモンスター』はクリエイターと

ビジネスが分離している。一方、『妖怪ウォッチ』はレベル

ファイブ 1 社ですべてを行っている。

 1996 年 2 月 27 日に任天堂のゲームボーイ用のゲームとし

て『ポケットモンスター 赤・緑』が発売され、その翌日、2 月28 日発売の『別冊コロコロコミック』4 月号より漫画の連載

が始まった。そして翌年 4 月 1 日より TV アニメーションの放

映が開始された。その当時の関係者は、「通常はマンガを起点

に、TV アニメーション化されることで認知度を高め、その後

にゲーム化、映画化、小説化などと展開していく。ポケモンの

場合は、まずゲームソフトから始まっており、異質なスタート

であった」(イデア探検隊、2001:36)と述べている。ゲーム

からの TV アニメーション化及びメディアミックスという流れ

は、1990 年代としては新たな試みであった。加えて、「ポケッ

トモンスターは発売当初、任天堂からも問屋筋からも、それほ

ど期待された商品ではなかった」(瀬戸環ほか、2002:80)と

言う。また『コロコロコミック』編集部の久保雅一は、「1996

年にコロコロコミックで『ポケモン』をとり上げたときは、

「おもしろいからやってみよう」といったノリでした。世界制

覇どころか、大きな映像展開も考えていませんでした」(瀬戸

環ほか、2002:85)と述べている。『ポケットモンスター』は、

当初はゲーム以外のメディアへの展開は想定されておらず、

ゲーム、漫画、カードゲーム、TV アニメーション化と、徐々

にメディアミックスへシフトしたコンテンツであったというこ

とだ。

 『ポケットモンスター』と『妖怪ウォッチ』のメディアミッ

クス展開を時系列で比較すると、後者の方がゲーム発売から

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メディア変革期における「メディアミックス」の新展開――『妖怪ウォッチ』を事例に――野口 光一

TV アニメーションの放映までに要した期間が 7 ヶ月短く、映

画化までは 1 年も短いことがわかる(表 3)。『妖怪ウォッチ』

は漫画が先行展開してからのゲーム展開、TV アニメーション

展開となっているが、両作品に関わっている企業の多くが共通

している。小学館(漫画雑誌『コロコロコミック』)、テレビ東

京、任天堂、東宝、OLM(アニメーション制作)等であるが、

こうした企業による『ポケットモンスター』成功のノウハウが

『妖怪ウォッチ』のメディアミックスを加速させたと言える。

『ポケットモンスター』 『妖怪ウォッチ』1996 年 2 月 27 日 ゲームボーイ用のゲーム 『ポケットモンスター 赤・緑』1996 年 2 月 28 日 『別冊コロコロコミック』4 月

号より漫画の連載1996 年 10 月 15 日  ゲーム『ポケットモンスター

青』1996 年 10 月 20 日  ポケモンカードゲーム1997 年 4 月 1 日   テレビ東京にてアニメーショ

ン作品が放映(ゲーム発売から 1 年 1 ヶ月)

1998 年 7 月 18 日  『劇場版ポケットモンスター

ミュウツーの逆襲』公開 興行収入 72.4 億円 16

(ゲーム発売から 2 年 5 ヶ月)

2012 年 12 月 15 日 『月刊コロコロコミック』より

漫画連載2013 年 7 月 11 日  ニンテンドー 3DS 用のゲーム

を発売2013 年 12 月 27 日 『月刊ちゃお』より漫画連載2014 年 1 月 8 日  テレビ東京にてアニメーショ

ン作品が放映(ゲーム発売から 6 ヶ月)

2014 年 1 月 11 日 「DX 妖怪ウォッチ」バンダイ

より発売 「妖怪メダル」の発売2014 年 4 月 30 日 『ゲラゲラポーのうた』CD 発

売2014 年 7 月 10 日 ゲーム『妖怪ウォッチ 2 元祖

/本家』2014 年 12 月 20 日 『映画妖怪ウォッチ 誕生の秘

密だニャン!』公開 興行収入 78 億円

(ゲーム発売から 1 年 5 ヶ月)表 3. 『ポケットモンスター』と『妖怪ウォッチ』のメディアミックス展開履歴

 次に指摘したいのは、『ポケットモンスター』は第 1 作目の

ゲームが一番売れたことに対して、『妖怪ウォッチ』は第 2 作

目が一番売れているという点である(表 4)。『ポケットモンス

ター』は1作目のゲームが売れたことにより、他メディアに展

開したのに対し、『妖怪ウォッチ』は、当初から連続展開とし

てのメディアミックスを計画しており、TV アニメーションが

始まった後の 2 作目の方が 2 倍以上の販売数になっている。

ゲーム『ポケットモンスター』シリーズ

出荷数ゲーム『妖怪ウォッ

チ』シリーズ販売数

『ポケットモンスター 赤・緑』

1996.2.27 発売822 万本

『妖怪ウォッチ』2013.7.11 発売

134.0 万本

『ポケットモンスター 青』

1996.10.15 発売201 万本

『妖怪ウォッチ 2 元祖/本家』

2014.7.10 発売316.7 万本

『ポケットモンスター ピカチュウ』

1998.8.12 発売316 万本

『妖怪ウォッチ 2 真打』

2014.12.13 発売264.8 万本

『ポケットモンスター 金・銀』

1999.11.21 発売717 万本

『妖怪ウォッチ 3 スシ/テンプラ』

2015.7.16 発売130.1 万本

表 4. 『ポケットモンスター』と『妖怪ウォッチ』のゲームの販売数 17(※ゲームの筐体は共に任天堂であるが、『ポケットモンスター』はゲームボーイであり、『妖怪ウォッチ』はニンテンドー 3DS である)

4. メディアミックスの管制塔としての日野晃博―角川春樹か

らレベルファイブへ                   

角川春樹のメディアミックスが、小説、映画、音楽の同時展

開であったことに対して、レベルファイブの『妖怪ウォッチ』

は、TV アニメーション、映画、ゲーム、漫画、玩具など多岐

にわたるメディアミックスであり、時代と共にメディアが増加

した。

 角川春樹のメディアミックス展開は、『犬神家の一族』(1976)

から始まった。映画公開に合わせて角川文庫が「横溝正史フェ

ア」を開催するという映画と書籍の同時展開である。次に手が

けた『人間の証明』(1977)では、映画の公開と同時に文庫と

主題歌を売るという映画、小説、音楽の 3 つのメディアによる

同時展開を行った。その後、『野性の証明』(1978)、『戦国自衛

隊』(1979)などを製作したが、いずれも小説からの映画化で

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37The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, Vol.19, No.1

The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, vol.19, no.1, 31-44

あり、小説、映画、音楽の連携が主軸である。「角川春樹が打

ち出したのは、字と音と絵を組み合わせた「三位一体」の戦略

であった。この戦略は、一般的に「角川商法」として知られて

いる。(中略)角川が出版するメジャーな小説家の作品から映

画を製作し、そのサウンドトラックを販売し、さらに小説を再

販する」(スタインバーグ、2015:194-195)と、3 つのメディ

アの同時展開による相乗効果を狙った戦略であった。また大量

の TV 宣伝を行い、メディアミックスとして新しい形を提示し

た。

 角川春樹のメディアミックスを現代に進化させたという点に

おいて、その原動力であるレベルファイブ社長日野の存在は大

きい。角川春樹のメディアミックスの中核が映画であったこと

に対し、日野はゲームを販売するための TV アニメーションで

あり、そこからの複数のメディア制作と供給を他企業と連携し

同時展開する方向へシフトしたと言える。また、角川春樹が

映画製作に積極的に関わったように、日野は TV アニメーショ

ンの制作にコミットしている。日野の立場は、「企画」、「シナ

リオ原案」、そして「クリエイティブプロデューサー」である。

日野はシナリオ会議にも参加 18 して、第 25 話の「ジバニャン

の秘密」や第 77 話の「USA ピョンが来た!」など数話のシ

ナリオも担当し、作品の内容に深く関わっている。また日野

は、コンテンツ全体の企画・立案やゲームの骨格作りはもち

ろん TV アニメーションや映画、グッズの展開に至るまで指揮

を執っている。「あらゆるクリエイターが、自分の思ったとお

りに仕事をしたがりますが、そうすると、たいていがバラバ

ラになってしまいます。そこでクロスメディアの管制塔が必

要になります。僕がいまその役割を果たしています」(古賀寛

明、2015:35-36)と述べている。海外では、「トランスメディ

ア・プロデューサー」というコンテンツをトータルに管理する

責任者が存在する(スタインバーグ、2015:22-23)。それが、

かつては角川春樹であり、『妖怪ウォッチ』では日野晃博であ

る。日野自身が、「一人で物を作れるわけではないので、みん

なとコミュニケーションをとって初めて良い物が作れる」19 と

も述べている。2000 年以降のメディアミックスは、漫画やラ

イトノベルからの TV アニメーション化への展開であった。漫

画やライトノベルは、作家担当編集者が中心にコンテンツを開

発し、TV アニメーションに関してはアニメーション制作のプ

ロデューサーが中心で制作するため、中心となる人物が分離し

ていた。日野は、複雑に絡み合うプロジェクトをスタッフとの

連携を強化しつつ、速やかな決断とリーダーシップで作業を推

進することにより、コンテンツの統合性を維持し、同時展開を

可能にした。

 レベルファイブと同業のゲーム会社、サイバーコネクトツー

社長の松山洋は近年のメディアミックスの課題を次のように

語っている。

『.hack//』プロジェクトはゲーム・OVA(オリジナル・ビ

デオ・アニメーション)・TV アニメ・漫画・小説・ラジ

オと様々なメディアで同時多発展開をさせるために 3 年半

近くの開発期間がかかった。(中略)それは(いくら努力

しても)さすがに 1 年半には縮まらない。ましてや、同時

多発展開というクロスメディアの性質上、ウチだけの問題

ではすまない。関係者が多い分、どうしても時間がかかる

部分は絶対出てくる。ウチだけが頑張ればなんとかなる部

分と、ならない部分が必ずある。(2015:140-141)

 近年、メディアの多様化により、1 社で複数のメディアを連

携し展開することが困難となった。1 つのコンテンツを複数社

でメディアミックス展開するには、各社の調整が必要となり、

同時性を確保するのは難しい。しかしそれを可能としたのが日

野のリーダーシップである。日野は、クリエイターとビジネス

を分離させず迅速に判断し、プロジェクトを推進した。その結

果が市場における『妖怪ウォッチ』の成功である。

 ハードウェア面として、メディアが増え、プラットフォー

ムも携帯端末での視聴や SNS によるコミュニケーションなど

様々な変化が起こった。またメディアが増えればそれに応じて

制作側の参加人数も増える。アニメーションやゲームは漫画を

上回って 50 人以上の規模のスタッフが参加することになる。

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38 The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, Vol.19, No.1

The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, vol.19, no.1, 31-44

メディア変革期における「メディアミックス」の新展開――『妖怪ウォッチ』を事例に――野口 光一

このような制作環境の中、スタッフを統制し、ひとつの方向に

向かわせることが重要となってくる。日野はメディアミックス

の管制塔の役割を担い、多メディア多プラットフォーム多人数

によるメディアミックスを推進したのである。

5. レベルファイブによるメディアミックス展開と『妖怪ウォッ

チ』の世界観                      

1998 年 10 月に設立のレベルファイブは、プレイステーショ

ン 2 のゲーム『ダーククラウド』(2000)や、『ドラゴンクエ

ストⅧ 空と海と大地と呪われし姫君』(2004)を制作したが、

『レイトン教授と不思議な町』から複数メディアでコンテンツ

展開が出来る体制へシフトした。しかし最初はゲーム、漫画、

そして劇場アニメーションと限られたメディアでの取り組み

であった。その後、初めてのメディアミックス作品(レベル

ファイブは「クロスメディアプロジェクト」と名付けた)と

して『イナズマイレブン』を制作し、ここから漫画、ゲーム、TV アニメーション、カードゲーム、そして劇場アニメーショ

ンとメディアを増やし、展開 20 した。メディアミックスの第2 弾としての『ダンボール戦機』は、漫画、TV アニメーショ

ン、ゲーム、プラモデル(バンダイから発売)、そして劇場ア

ニメーションまで展開 21 した(表 5)。

タイトル メディアミックス 発売日『レイトン教授と不思

議な町』ゲーム漫画『月刊コロコロコミック』劇場アニメーション

2007 年 2 月 15 日発売2007 年 12 月 28 日発売2009 年 12 月 19 日公開

『イナズマイレブン』 漫画『月刊コロコロコミック』ゲームTV アニメーションカードゲーム劇場アニメーション

2008 年 5 月 15 日発売2008 年 8 月 22 日発売2008 年 10 月 5 日放映開始2008 年 11 月 15 日発売2010 年 12 月 23 日公開

『ダンボール戦機』 『月刊コロコロコミック』TV アニメーションゲームプラモデル(ゲームと同梱)劇場アニメーション

2011 年 1 月 15 日発売2011 年 3 月 2 日放映開始2011 年 6 月 16 日発売2011 年 6 月 16 日発売2012 年 12 月 1 日公開

表 5. レベルファイブの作品とメディアミックス

 2011 年 10 月 15 日のレベルファイブによるイベント「LEVEL5

VISON 2011」において、『イナズマイレブン』、『ダンボール戦

機』に続く第 3 弾のメディアミックス作品として『妖怪ウォッ

チ』が初めて紹介された。日野は『レイトン教授と不思議な

町』を経験したことにより「ゲームとアニメの融合はイケ

る」22 と確信したと言うが、むしろ『イナズマイレブン』と

『ダンボール戦機』において経験した他企業との連携と同時展

開の成果の積み重ねこそが『妖怪ウォッチ』の大ヒットに繋

がったとみるべきであろう。

 また、レベルファイブのメディアミックスにおいては、ソフ

トウェア ― 作品内容 ― にも進化が見られる。日野はプロジェ

クトを進めるにあたり、最初にパイロットフィルムと呼ばれ

るテスト映像を制作する。そのパイロットフィルムについて、

「こういう世界観、こういうカラーとか、みんなが一瞬に理解

して、さらにその世界観を膨らますためのアイデアをみんなが

出せるようになる。僕が考えつく最初の物が 1 だとするとそれ

が 10 にも 20 にもなって、短期間で一気に世界の面白さが膨れ

上がるという現象を作れる」23 と言う。日野の「世界観」は、

イアン・コンドリーの「キャラクターや設定が生み出すドラマ

が繰り広げられる舞台としての世界を決定するのが世界観だ」

(2014:110)という説明に共通するものだ。コンテンツを作る

上で世界観を作ることは時間を要するが、重要な作業である。

アニメーション作品においては監督主導で作品を作り上げるこ

とが一般的だが、委員会方式により様々な立場のスタッフ(プ

ロデューサー)が意見を出し合いまとめることも多少ある。日

野の場合は、その折衷とも言えよう。日野は様々な意見に耳を

傾けつつ、作品の世界観を作り上げる中心人物となっている。

『妖怪ウォッチ』の場合、「さくらニュータウン」という平凡な

街に妖怪が存在する世界を構築し、それを箱庭的な遊び場とし

て消費者に提供している。そこで繰り広げられる出来事が TV

アニメーションであり、ゲームの敷地となっている。また日

野は物語のマンネリ化回避について、次のように述べている。

「イナズマイレブンはもう 6 年やっているのですが、ストー

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39The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, Vol.19, No.1

The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, vol.19, no.1, 31-44

リーが進むにつれて、もっと強い敵が出てこなくては面白くな

くなったりしてマンネリ化してしまいました」(週刊ダイヤモ

ンド編集部、2014)。つまり次々と新しい敵と戦うフォーマッ

トの物語は過去の作品において既に成立していた。そこで『妖

怪ウォッチ』ではマンネリ化を防ぐために、1つの大きな物語

ではなく小さな物語/エピソードの集合を目指すことになっ

た。またこうした小さな物語にバラエティ番組の要素も付加さ

れた。「作品に対して僕らが行っているのは、毎年、毎年、テ

レビのバラエティ番組のように新しいキャスティングで、新し

い企画を入れていく。時代にあったその時のネタでしっかり勝

負していくことです」(古賀寛明、2015:34)と日野が語って

いるように、2000 年以降、多様化する消費者を広く取り込む

ためのレベルファイブの新たな施策が、TV アニメーションの

構成をバラエティ番組化することであった。日野が、「家族で

一緒に楽しんでもらいたいので、大人だけが気付くネタを仕込

んで、大人が笑ったら、子どもが「いま、なんで笑ったの」と

聞くような仕掛けですね」(古賀寛明、2015:35)と言うよう

に、日常的な問題から時事問題まで取り上げている。興味対象

の間口を広げ、多くの視聴層を取り込む作品に仕上げているの

である。例えば子供がトイレの大に行けないこと(2 話)や、

授業中におならをしてしまうこと(12 話)、また iPhone の発

売をパロディ化したもの(27 話)など様々である。このよう

な仕掛けは、『イナズマイレブン』と『ダンボール戦機』には

無かったものである。これについて、日野は次のように述べて

いる。

イナズマイレブンは 6 年間続き、ダンボール戦機も 3 年間

続けた。(中略)今度はやっぱり、普遍的なもの、長く愛

されるものを作りたいなというのがあった。そこで、僕の

イメージで超えなきゃいけない目標は『ドラえもん』や

『ちびまる子ちゃん』、『ポケットモンスター』だったり。20 年、30 年と続けているものに対抗しうるものを、どう

やったら作れるだろうというところから発想が始まってい

るんです。(二階堂遼馬、2014)

 『妖怪ウォッチ』はキャラクターが生息する世界という場を

与え、そこで、どうキャラクターを遊ばせるか、そしてどう楽

しませるかを重要視した作りになっている。また TV アニメー

ションとゲームの世界観、つまり「世界/場」は同じである

が、物語展開は独立しているのが特徴である。妖怪を収集(妖

怪メダルを獲得)・召喚する(妖怪メダルから妖怪を取り出す)

ことや、登場するキャラクターは同じであるが TV アニメー

ションはバラエティ番組のようにコント(寸劇)であるのに対

して、ゲームはミニゲームと妖怪の収集(友達になる)のため

のバトルが中心である。また漫画は、男の子向けの『月刊コロ

コロコミック』と女の子向けの『月刊ちゃお』で連載されてい

るが、「男の子用は、ギャグ重視。はじけた絵と展開で笑わせ

る。女の子用は主人公も女の子。恋愛やおしゃれを盛り込み、

より物語を重視した作りとなっている」24 と説明しているよう

に、TV アニメーションやゲームとは異なる要素での展開であ

る。

 そして妖怪メダルのキャラクター展開は、メディア間の連携

を強固にするために有効であった。アナログである玩具として

の時計とメダル、漫画やアニメーションにおける虚構のメダ

ル、そして QR コードを使いアナログのメダルに付随するデー

タをゲーム内に読み込むなど、遊び方の幅を広げた。この現実

と虚構を横断・往来し、連続させるリアル感・臨場感が相乗効

果を生み、消費者を楽しませたのである。キャラクター商品を

所持し、身の回りに置くこと、そしてそれで遊ぶことを選択さ

せるには、日野が幼少時に感じ取った「本物感」が商品に投影

できているかどうかが重要であり、その境界を制作側が管理で

きるかに拠ると言える。そこには明確な仕様がないため、作り

手側によるキャラクターの「本物感」の追求があり、その基底

をどのレベルにするかが作品力でもある。角川春樹は小説に始

まる物語に重きを置いていたが、日野は『妖怪ウォッチ』の

ゲーム、漫画、アニメーションなど、それぞれのメディアの特

徴を重視している。そして物語よりもキャラクターが生息す

る「世界/場」を共有するコンテンツ制作に注力した。氷川竜

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The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, vol.19, no.1, 31-44

メディア変革期における「メディアミックス」の新展開――『妖怪ウォッチ』を事例に――野口 光一

介は、『妖怪ウォッチ』について、「原作と二次商品という構

図ではなく、「メディア全体が原作」である」(日本動画協会、2015:23)と述べている。メディア文化の所産として、また消

費材として、一つ一つがオリジナルであり、共通の「世界/

場」でエピソードを展開し、またそれらのメディアを繋ぐよう

に妖怪メダルというアナログとデジタル、現実と虚構を横断す

るモノでメディア間のコミュニケーションを成立させたことが

時代性と合致したということである。

おわりに                        

『妖怪ウォッチ』がいかに人気コンテンツになったのかを理解

するために、そのメディアミックス展開を分析してきた。日本

のコンテンツ産業も新たな時代を迎え、多種多様なメディアへ

の展開も加速している。角川春樹は小説、映画、音楽を三位一

体とし、映画を主軸に小説をベストセラーにし、映画スター俳

優を創出して映画産業の一つの時代を築いた。それに対して

レベルファイブの『妖怪ウォッチ』は、ゲーム、TV アニメー

ション、玩具から、映画アニメーション、漫画、音楽にまで展

開を広げつつ、スターキャラクターの創出と共に様々なキャラ

クターと触れて遊べるようにもした。さらに、コンテンツ管理

者/トランスメディア・プロデューサーとしての日野晃博の存

在が大きく影響した。日野のリーダーシップが他企業と協働

し、複数メディアの同時展開や連続展開を可能にした。メディ

ア変革期ならではの文化生産と消費の事象であるが、以下、改

めて『妖怪ウォッチ』がいかに角川春樹によるメディアミック

スを、「アップデート」したかをまとめておく。

ハードウェア面:

メディアが増え、プラットフォームが変化し視聴方法とイン

ターアクションのスタイルが多様化した中でも、メディアの

展開を加速させた。また QR コードの利用など環境変化を活

用した。

ソフトウェア面:

大きな物語ではなく、小さな物語/エピソードの集合体の制

作を目指し、さらにバラエティ番組の要素を付加した。大き

な物語よりも、その「世界/場」の構築と、そこに生息して

小さな物語を展開する個性的なキャラクターの創出を重視し

た。さらに、妖怪メダルのような、アナログとデジタル、現

実世界と仮想空間を横断・往来するモノによって、メディア

間のコミュニケーションを成立させた。

市場面:

子供から大人までの大規模消費者を対象とし、各メディアの

産物をそれぞれオリジナルとして市場供給することで、消費

活動の継続を図り、ICT の時代ならではの文化消費財を生産

した。

 2000 年以降、大規模な消費者に向けた新たなヒット作が生

まれにくい環境の中、突如として『妖怪ウォッチ』が仲間入り

した。そこには時代と合致した戦略がありつつも過去の事例を

参考にしたものでもあった。2015 年 9 月 1 日より Netflix の配

信事業サービスが始まった。そして、Amazon も Amazon プラ

イム・ビデオとして同年 9 月 24 日から動画定額見放題のサー

ビスをスタートさせた。成熟し、飽和状態にあるように見えた2000 年以降のコンテンツ産業であるが、プラットフォームの

変化や AR など新たな技術革新によるメディアの発達が、更な

るメディアミックスの進化をもたらすことが期待できよう。

注 1)人気作品の定義として、劇場アニメーション作品の興行収入が

30 億円を超えるものとする。TV アニメーションで人気となれば劇場アニメーションを製作するメディアの展開が行なわれ、劇場作品の興行収入がそのままコンテンツの人気度を示していると考えられる。詳細は第 1 節 2000 年以降の TV アニメーションとメディアミックスにて検証を行う。

2)「日本ゲーム大賞 2014」大賞の受賞、「第 27 回 2014 小学館DIME トレンド大賞」レジャー・エンターテインメント賞大賞受賞、「デジタル・コンテンツ・オブ・ジ・イヤー ’14 /第 20 回記念 AMD アワード」年間コンテンツ賞大賞及び総務大臣賞受賞、2014 ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ 10 などに選ばれた。レベルファイブ社 HP の「受賞作品リスト」http://www.level5.co.jp/

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41The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, Vol.19, No.1

The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, vol.19, no.1, 31-44

company/prize.html(2016 年 9 月 12 日確認) を参照。 3)「コンテンツ」はアニメーション、漫画、小説などの文化の情

報源の実体を言う。「メディア」はコンテンツを送るものであり、書籍、雑誌、TV、映画などの媒体を言う。「メディアミックス」は、マーケティング戦略として、複数のメディアを連動させて宣伝展開することである。その上で本稿では1つの作品が複数のメディアを通して展開される現象も含める。「クロスメディア」はメディアミックスの宣伝展開を進化させ、インターネット展開をも利用した宣伝展開として区別する場合もある。またレベルファイブは「メディアミックス」を「クロスメディア」と呼んでいるが、本稿では「メディアミックス」で統一する。「プラットフォーム」は、コンテンツを提供するメディアの枠組みを言う。

4)本稿では、「製作」と「制作」を次の定義によって使い分ける。「製作は作品の企画を出し、資金と人材を集めて作品を作り、宣伝・販売・興行を行う事。プロデュースとも言う。制作は、作品を実際に作ること」(山口康男、2004:167)。

5)「『映画妖怪ウォッチ エンマ大王と 5 つの物語だニャン!』エンディングテーマ決定」、『ガジェット通信』http://getnews.jp/archives/1288608 (2015 年 1 月 2 日確認) を参照。

6)日本雑誌協会 HP の印刷部数公表検索から確認。http://www.j-magazine.or.jp/magadata/index.php?module=list&action=list&period_cd=20(2017 年 4 月 15 日確認)。

7)「週間販売ランキング +」、『4Gamer.net』 からの算出である。http://www.4gamer.net/games/117/G011794/20130717073/(2016 年 5月 1 日確認) を参照。

8)ビデオリサーチ「視聴率データ週間高世帯視聴率 10」2015 年 1月 5 日〜 1 月 11 日から、『妖怪ウォッチ』の視聴率が関東地区で6.1%とわかる。https://www.videor.co.jp/data/ratedata/backnum/2015/vol2.htm(2017 年 4 月 15 日確認)。

9)「週間販売ランキング +」、『4Gamer.net』 からの算出である。http://www.4gamer.net/games/117/G011794/20150128078/(2016 年 5月 1 日確認)。

10)「『妖怪ウォッチ』関連商品の品薄問題などについてバンダイ ナ ム コ が 回 答、 上 期 で 100 億 円 超 の 見 込 み 」、『 最 速 ゲ ーム 情 報 メ デ ィ ア: イ ン サ イ ド 』http://www.inside-games.jp/article/2014/08/06/79251.html(2016 年 5 月 2 日確認) を参照。

11)「『妖怪ウォッチ』商品市場規模が 2000 億円突破!第 3 弾の舞台は USA、スマホゲームも 3 本発表、海外展開はハズブロ社が担当 」、『Social Game Info』http://gamebiz.jp/?p=142384(2016 年 5 月1 日確認) を参照。

12)『妖怪ウォッチ」の国内累計販売本数は、 「週間販売ランキン グ +」、『4Gamer.net』 か ら 算 出 で あ る。http://www.4gamer.net/games/117/G011794/20150128078/(2016 年 5 月 1 日確認)から「先週の「週間販売ランキング」を遡り調査し、http://www.4gamer.net/

games/117/G011794/20130717073/(2016 年 5 月 1 日確認) まで参照。

13)第 65 回 NHK 紅白歌合戦では企画コーナーにて『妖怪体操第一』が歌われた。「紅白、曲目・曲順 “ 異例 ” の同時発表 トリは嵐 大トリは聖子」、『オリコンスタイル』http://www.oricon.co.jp/news/2046347/full/(2016 年 9 月 4 日確認)を参照。

14)音楽『セーラー服と機関銃』は、オリコンで最高 1 位(濱口英樹、2016:26)、1982 年の年間ランキング 2 位の大ヒットであった。「セーラー服と機関銃」、長澤カバーで、24 年ぶり TOP10 返り咲き」、『オリコンスタイル』http://www.oricon.co.jp/news/38335/full/(2016 年 9 月 4 日確認) を参照。

14)『ポケットモンスター』はゲーム主導のコンテンツであり原作者は、ゲームフリーク、クリーチャーズ、任天堂の 3 社である。『妖怪ウォッチ』の原作者はレベルファイブ 1 社である。

16)「劇場版「ポケモン」シリーズ累計興行収入 700 億円突破」、『映画 .com』http://eiga.com/news/20130811/3/ (2016 年 1 月 1 日確認) を参照。『ミュウツーの逆襲』(1998)が 72.4 億円とある。

17)「国内歴代ミリオン出荷タイトル」(2000)『2000 CESA ゲーム白書』社団法人コンピュータエンターテインメントソフトウェア協会(CESA)、38-39 より、『ポケットモンスター』シリーズの国内出荷本数を算出。「販売本数 Best1000」(2016)『2016 ゲーム産業白書』株式会社メディアクリエイト、108-112 より『妖怪ウォッチ』シリーズの販売本数を算出。「週間販売ランキング +」、『4Gamer.net』 から 2016 年 11 月 6 日までの『妖怪ウォッチ 3 スシ/テンプラ』の累計本数が 1,301,522 本とわかる。http://www.4gamer.net/games/117/G011794/20161109086/(2016 年 12 月 1日確認)を参照。

18)NHK E テレ(2015)「SWITCH インタビュー 達人達(たち)「大泉洋 × 日野晃博」」(2015 年 5 月 2 日放映)から参照。

19)TBS(2015)「情熱大陸 ゲームクリエイター/日野晃博」(2015年 5 月 31 日放映)から参照。

20)「LEVEL5 VISON 2007」にて『イナズマイレブン』(2007) 及び「『イナズマイレブン』発表会レポート!」(2008)のメディアミックスが発表された。http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070829/lv5.htm(2016 年 6 月 11 日確認)と http://www.inazuma.jp/inazuma/kickoff.html(2016 年 1 月 2 日確認) を参照。

21)「レベルファイブ、「LEVEL5 VISION 2008」開催 完全新作や新規プロジェクトを多数発表」、『GAME Watch』http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080926/lv5.htm(2016 年 6 月 11 日 確 認 ) 及び、「“LEVEL5 VISION 2009” 追加レポート:「ダンボール戦機」のアニメ化+プラモデル化が発売前に決定&「二ノ国」体験版のプレイレポートを掲載」、『4Gamer.net』http://www.4gamer.net/games/074/G007480/20090903056/(2016 年 1 月 2 日確認)を参照。

22)「CEDEC 2015」日野晃博氏の基調講演での発言。「[CEDEC

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The Japanese Journal of Animation Studies, 2017, vol.19, no.1, 31-44

メディア変革期における「メディアミックス」の新展開――『妖怪ウォッチ』を事例に――野口 光一

2015]レベルファイブの日野晃博氏が,開催 3 日めの基調講演で「妖怪ウォッチ」のヒットの理由と、9 年間のクロスメディア展開で得た教訓を披露」、『4Gamer.net』http://www.4gamer.net/games/999/G999905/20150829011/(2016 年 1 月 9 日確認) を参照。

23)TBS(2015)「情熱大陸 ゲームクリエイター/日野晃博」(2015年 5 月 31 日放映)から参照。

24)NHK E テレ(2015)「SWITCH インタビュー 達人達(たち)「大泉洋 × 日野晃博」」(2015 年 5 月 2 日放映)から参照。

25)「日本映画産業統計」、『一般社団法人日本映画製作者連盟』より算出。http://www.eiren.org/toukei/(2016 年 4 月 2 日確認) を参照。

参照文献阿部ピロシ(2015)「ヒット連発のレベルファイブ日野晃博氏が

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増田弘道(2011)『もっとわかるアニメビジネス』NTT 出版。松山洋(2015)『熱狂する現場の作り方 サイバーコネクトツー流

ゲームクリエイター超十則』星海社。三木一馬(2015)『面白ければなんでもあり 発行部数累計 −6000 万

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柳澤里佳(2014)「韓国を手始めに世界に進出妖怪ウォッチ海外展開の正否」、『週刊ダイヤモンド』ダイヤモンド社、18。

山田井ユウキ(2014)「『妖怪ウォッチ』はなぜヒットしたのか ? 爆発的ヒットの裏にあるクロスメディアの公式」、『マイナビニュース』http://news.mynavi.jp/articles/2014/03/30/youkaiwatch/(2016 年 1月 11 日確認)。

山口康男(2004)『日本のアニメ全史 世界を制した日本アニメの奇跡』テンブックス。

ラマール、トーマス(2013)『アニメ・マシーン』藤木秀朗監訳、木崎晴美訳、名古屋大学出版会。

略歴(野口光一):

東映アニメーション(株)プロデューサー。日本大学大学院 総合

社会情報研究科在籍。専門分野はコンピュータグラフィックス及び

CG アニメーション。『ウォーターワールド』(1995)、『エアフォー

ス・ワン』(1997)、『男たちの大和/ YAMATO』(2005)、『坂の上の

雲(第 1 部)』(2009)、『はやぶさ 遥かなる帰還』(2012)、『楽園追

放 Expelled from Paradise』(2014)、『正解するカド』(2017)などの

制作に携わる。研究テーマは「日本アニメの成立と変容にみる日米

文化関係」。

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メディア変革期における「メディアミックス」の新展開――『妖怪ウォッチ』を事例に――野口 光一

補遺

公開年 作 品 名 興行収入2000 年 劇場版ポケットモンスター 結晶塔の帝王

ドラえもん のび太の太陽王伝説48.5 億円30.5 億円

2001 年 千と千尋の神隠し劇場版ポケットモンスター セレビィ 時を

越えた遭遇映画ドラえもん のび太と翼の勇者たちONE PIECE ねじまき島の冒険

304.0 億円39.0 億円

30.0 億円30.0 億円

2002 年 猫の恩返し名探偵コナン ベイカー街の亡霊

64.6 億円34.0 億円

2003 年 劇場版ポケットモンスター アドバンスジェネレーション 七夜の願いの星ジラーチ

名探偵コナン 迷宮の十字路

45.0 億円

32.0 億円2004 年 劇場版ポケットモンスター アドバンスジェ

ネレーション  裂空の訪問者デオキシス劇場版ドラえもん のび太のワンニャン時空

43.8 億円

30.5 億円

2005 年 ハウルの動く城劇場版ポケットモンスター アドバンスジェ

ネレーション  ミュウと波導の勇者ルカリオ

196.0 億円43.0 億円

2006 年 劇場版ポケットモンスター アドバンスジェネレーション

  ポケレンジャーと蒼海の王子マナフィ映画ドラえもん のび太の恐竜 2006名探偵コナン 探偵の鎮魂歌

34.0 億円

32.8 億円30.3 億円

2007 年 劇場版ポケットモンスター ダイアモンド&パール

  ディアルガ VS パルキア VS ダークライ映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険 7 人

の魔法使い

50.2 億円

35.4 億円

2008 年 崖の上のポニョ劇場版ポケットモンスター ダイアモンド&

パール  ギラティナと氷空の花束シェイミ映画ドラえもん のび太と緑の巨人伝

155.0 億円48.0 億円

33.7 億円2009 年 劇場版ポケットモンスター ダイアモンド&

パール  アルセウス 超克の時空へヱヴァンゲリヲン新劇場版:破名探偵コナン 漆黒の追跡者

46.7 億円

40.0 億円35.0 億円

2010 年 借りぐらしのアリエッティワンピース フィルム ストロングワールド劇場版ポケットモンスター ダイアモンド&

パール  幻影の覇者 ゾロアーク名探偵コナン 天空の難破船映画ドラえもん のび太の人魚大海戦

92.5 億円48.0 億円41.6 億円

32.0 億円31.6 億円

2011 年 コクリコ坂から劇場版ポケットモンスター ベストウイッ

シュ  ビクティニと黒き英雄 ゼクロム名探偵コナン 沈黙の 15 分

44.6 億円43.3 億円

31.5 億円2012 年 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

おおかみこどもの雨と雪映画ドラえもん のび太と奇跡の島  〜アニマルアドベンチャー〜劇場版ポケットモンスター ベストウイッ

シュ  キュレム VS 聖剣士ケルディオ名探偵コナン 11 人目のストライカー

53.0 億円42.2 億円36.2 億円

36.1 億円

32.9 億円2013 年 風立ちぬ

ONE PIECE FILM Z映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館名探偵コナン 絶海の探偵劇場版ポケットモンスター ベストウイッ

シュ  神速のゲノセクト ミュウツー覚醒

120.2 億円68.7 億円39.8 億円36.3 億円31.7 億円

2014 年 STAND BY ME ドラえもんルパン三世 VS 名探偵コナン THE MOVIE名探偵コナン 異次元の狙撃手映画ドラえもん 新 • のび太の大魔境  〜ペコと 5 人の探検隊〜思い出のマーニー

83.8 億円42.6 億円41.1 億円35.8 億円

35.3 億円2015 年 映画妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!

バケモノの子名探偵コナン 業火の向日葵映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記ドラゴンボール Z 復活の『F』

78.8 億円58.5 億円44.8 億円39.3 億円37.4 億円

表 6. 年間興行収入 25 が 30 億円以上の劇場アニメーション作品(※『映画妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』は 2014 年 12 月 20 日公開作品であるが、公開期間が年をまたいでいるため興行収入の集計は 2015 年となる)