カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008...

22
40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ ジアに存在するという事実は、多くの人々に信じ難いといった驚きの印象を与えるに違いな い。今日、同国華人社会の多数派である潮州系華人が運営する端華学校が生徒数から東南 アジアで最大規模の華人学校となっている。また同校の規模は、華人学校の範疇には括られ ないものの、中国や香港、または台湾における国民学校のそれを凌駕している(蔡、2001b現在端華学校は、本校と分校に分かれており、中国僑網2002によれば、本校と分校を合 わせた教室数と開講クラス数は、それぞれ 124 205、教員数は 230 名余りとなっている。ま 2002 9 月開講時点の在籍生徒数は計 1 1700 名で、本校が 3200 名、分校が 8500 名と なっており、同時点における分校の開講クラス数は、幼稚部 12、小学部の1 2 年が 233 4 年が 335 6 年が 32、中学部 35、専修科 7 の計 142 クラスとなっている(野澤、2004: 95本稿では、東南アジアで最大規模の華人学校が存在するカンボジアにおける華語教育の再 興と発展について、まずはプノンペンおよび地方における華人学校の再建を中心に概観した 上で、同国の華語教育発展を促進する種々の積極的要因について現状考察を行う。他方、 華語教育の発展によって逐一引き起こされる種々の深層な問題について考察することも目的 としている。同国の華語教育について現状考察を行う際には、同国の華人社会全体を鳥瞰す る必要があるという点を看過してはならない。なぜならばカンボジアの華人社会は、僑生華 人社団 1) 、新客華僑社団 2) 、駐カンボジア中国大使館 中国国務院僑務弁公室(以下、国務 院僑務弁公室と略称) 、そしてカンボジア王国政府といった各勢力が共存した上で相互に補完 し合うことで形成されており、そこには華語教育事業(華人学校)に対する各勢力による物 人的支援や社団組織を媒介とした僑生華人と新客華僑の共生関係、あるいは合弁によ るビジネス提携といったような社団活動の延長線上における僑生華人と新客華僑の共生関係 など各勢力間における種々の堅固な紐帯の構築が見出せるからである(図 1一般的に華語教育の発展に伴う華人学校の繁栄は、当該国家の政治体制、即ち対中関係 や対華人政策といった敏感な問題に影響される部分が少なくないが、カンボジアの場合、図 1 からも明白なように、同国華人社会において華語教育が、究極的には僑生華人社団が今後

Transcript of カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008...

Page 1: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

カンボジアの華人社会華語教育の再興と発展

野澤知弘

はじめに

東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

ジアに存在するという事実は、多くの人々に信じ難いといった驚きの印象を与えるに違いな

い。今日、同国華人社会の多数派である潮州系華人が運営する端華学校が生徒数から東南

アジアで最大規模の華人学校となっている。また同校の規模は、華人学校の範疇には括られ

ないものの、中国や香港、または台湾における国民学校のそれを凌駕している(蔡、2001b)。

現在端華学校は、本校と分校に分かれており、中国僑網(2002)によれば、本校と分校を合

わせた教室数と開講クラス数は、それぞれ 124と 205、教員数は 230名余りとなっている。ま

た 2002年 9月開講時点の在籍生徒数は計 1万 1700名で、本校が 3200名、分校が 8500名と

なっており、同時点における分校の開講クラス数は、幼稚部12、小学部の1 ・ 2年が23、3 ・

4年が 33、5 ・ 6年が 32、中学部 35、専修科 7の計 142クラスとなっている(野澤、2004:

95)。

本稿では、東南アジアで最大規模の華人学校が存在するカンボジアにおける華語教育の再

興と発展について、まずはプノンペンおよび地方における華人学校の再建を中心に概観した

上で、同国の華語教育発展を促進する種々の積極的要因について現状考察を行う。他方、

華語教育の発展によって逐一引き起こされる種々の深層な問題について考察することも目的

としている。同国の華語教育について現状考察を行う際には、同国の華人社会全体を鳥瞰す

る必要があるという点を看過してはならない。なぜならばカンボジアの華人社会は、僑生華

人社団1)、新客華僑社団2)、駐カンボジア中国大使館・中国国務院僑務弁公室(以下、国務

院僑務弁公室と略称)、そしてカンボジア王国政府といった各勢力が共存した上で相互に補完

し合うことで形成されており、そこには華語教育事業(華人学校)に対する各勢力による物

的・人的支援や社団組織を媒介とした僑生華人と新客華僑の共生関係、あるいは合弁によ

るビジネス提携といったような社団活動の延長線上における僑生華人と新客華僑の共生関係

など各勢力間における種々の堅固な紐帯の構築が見出せるからである(図 1)。

一般的に華語教育の発展に伴う華人学校の繁栄は、当該国家の政治体制、即ち対中関係

や対華人政策といった敏感な問題に影響される部分が少なくないが、カンボジアの場合、図

1からも明白なように、同国華人社会において華語教育が、究極的には僑生華人社団が今後

Page 2: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 41

とも拡大発展していく上では、新客華僑社団、駐カンボジア中国大使館・国務院僑務弁公

室、そしてカンボジア政府といった各勢力との積極的な関わりが必要不可欠であり、また新

客華僑社団が拡大発展していく上でも僑生華人社団などの各勢力との積極的な関わりが不可

欠になっているということである。また同時にこれは、①~⑫のいずれかに不和が生じた場

合、同国華人社会で構築されている共生関係が崩壊してしまいかねないという流動的な一面

を有していることも意味する。したがって、カンボジアの華語教育の現状について考察するこ

とは、同国華人が今日置かれている社会的境遇や居住国政府と華人社団間の相互補完関係

といったように華人社会全体を鳥瞰することにもなり、重要な意義を有するものと筆者は考

える。なお文中で散見する僑生や新客の明記がない華人(社団)、あるいはカンボジア華人(社

団)と称しているものについては、僑生華人(社団)を指している。また本稿で述べる華語教

育とは、華人学校における公式な華語教育を指しており、家庭における華語教育は包含しな

い。

Ⅰ カンボジア華人の国内分布現況および華人社会を構成する方言別集団の人口概観

カンボジアには 2002年 8月時点で 70万人の華人がおり、総人口の 5.2%(2002年央の推計

(出所) 筆者が作成。

図 1 カンボジア華人社会における 4勢力のバランス関係

Page 3: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

42 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

総人口は 1350万人)を占める。主に首都プノンペンおよびバッタンバン、カンダール、コンポー

ト、コンポンチャーム、コンポントム、プレイヴェーン、タケオなどの州に分布しているが、

このうちプノンペン市内に居住する華人が最も多い。これに関しては、カンボジア全土にお

ける華人総数の約半数程度がプノンペン市内に居住するという意見もあれば、3分の 1が居

住するという意見もある。また今日カンボジアの華人の 90%が既にカンボジア国籍を取得し

ており、カンボジアの華人社会では現地化が着実に進行しているが、同時にそれは同国全土

における華人人口数の正確な把握を困難にさせていることも事実である。即ち、先に挙げた

70万人という数字も現地各華人社団より聴取した非公式データということである(野澤、

2004: 64, 2006b: 30)。

カンボジアの華人社会は潮州系、広肇系、客家系、海南系、福建系という5つの方言別集

団に分類される。そのうち潮州系は同国華人総数の 80%を占めており、彼らは主に掲陽、

潮陽、普寧、饒平などの出身である。以下多い順に、広肇系(主に南海、三水、東莞、新会、

宝安、花県などの出身)、海南系(主に文昌、諒山、万寧などの出身)、客家系(主に興寧、紫金、

梅県、大埔などの出身)、福建系(主に泉州、同安、漳州、厦門などの出身)となっている。筆者

がカンボジアにおける華人方言別集団の人口概数(2002年 8月時点)について各同郷会館か

ら聴取した情報によれば、潮州系 56万人、広肇系 10万 5000人、海南系 3万人、客家系

4000人、福建系 1000人となっている(野澤、2004: 66, 2006b: 30)。

Ⅱ カンボジア華人学校の概観

1958年に中国とカンボジアが国交関係を樹立すると、カンボジアの華人の地位は次第に向

上するようになった。また政府の華語教育に対する規制緩和に伴って、同国の華語教育は急

速な発展を始めるようになった(廖、1995; 傳・張、2000)。そして華語教育の急速な発展に

伴い、60年代になると華人学校は発展のピークに達することとなり(廖、1995; 国務院僑辦僑務

幹部学校、2005)、華人学校は国内全土で 231校まで増え、プノンペンだけでも 50校(中学 4

校を含む)が存在した。当時国内全土の華人学校生徒数は計 5万名に達し、プノンペンにお

ける小中学生は 6000名余りに達した(傳・張、2000; 華商日報社、2003; 国務院僑辦僑務幹部学

校、2005)。しかし 70年になると、同国の華人学校は内戦や政府の対華人政策変更により深

刻な打撃を被った(華商日報社、2003)。同年 3月 18日、クーデターにより政権を掌握したロ

ンノルは、華人の華語使用と華人学校における華語教育を全面的に禁止し、国内全土の華

人学校に対して閉鎖命令を下した。これにより国内全ての華人学校が授業停止に追い込ま

れ、閉鎖や立ち退きを余儀なくされた(廖、1995; 傳・張、2000; 杜、2003; 国務院僑辦僑務幹部

学校、2005)。これ以降 1990年末期までの 20数年間、華人学校における華語教育は中断する

ことになった(傳・張、2000; 杜、2003)。

1990年代になると、カンボジア政府は華人の地位と華語の実用価値3)を重視し始め、華人

Page 4: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 43

社団は復活することとなった。これは、1990年 8月に政府が華人社団の復活と華人学校の再

開を許可したことに起因する(廖、1995; 莫、2000; 傳・張、2000; 邢、2001)。同年 8月 3日に

カンボジア王国政府が「第 248号法令」を発布し、①カンボジア華人理事会の設立許可、②

華人学校の設立ならびに華人廟宇や華人の伝統的慶祝活動の復活許可、を規定した(柬埔寨

華人理事総会、2004)。同法令の発布を受けて、同年 10月にはコンポンチャーム州棉末市啓華

学校が国内で最初に再開された(邢、2001; 華商日報社、2003)。一方プノンペン4)では、1992

年 9月 4日に潮州会館が端華学校を再開させると、同年 9月 7日には海南同郷会が集成学校

を、1993年 8月 20日には客属会館が崇正学校を、1995年 8月 25日には広肇会館が広肇学

校を、そして 1999年 8月 28日には福建会館が民生学校を各々再開させた。またプノンペン

以外では、バッタンバン州バッタンバン市聯華学校、コンポート州逢咋叨市覚群学校、クロ

チェ州クロチェ市中山学校がそれぞれ相次いで再開された。このような地方における華人学

校の再開は、カンボジア華人理事総会がプノンペンで発足して以降、各州(中国では省)、特

別市、市(県)において地方分会組織であるカンボジア華人理事会が相次いで設立されたこ

とと密接な関係がある。2003年 12月時点で、カンボジア華人理事総会は 15州、3特別市、

65市(県)においてカンボジア華人理事会を発足させている(表1、2および柬埔寨華人理事総会、

2003)。州や市(県)にカンボジア華人理事会を設置した主な目的は、華人学校建設のためで

あり、カンボジア華人理事会の設立を通して現地の華人組織を団結させ、資金の準備や現地

政府との折衝といった華人学校建設に関わる種々の問題解決を図るためとなっている(柬埔

表 1 プノンペン(特別市)市内にある公立・私立華人学校および運営管理華人社団の概況

学校名 設置課程 授業再開 運営管理華人社団 会長 社団設立

公立端華学校本校 専修・中学・小学 1992年 9月 4日 潮州会館 楊啓秋 1994年 4月 10日公立端華学校分校 1995年 7月 18日公立民生学校 中学・小学 1999年 8月 28日 福建会館 林財金 1992年 11月 8日公立広肇学校 中学・小学 1995年 8月 25日 広肇会館 蔡迪華 1993年 1月 1日公立集成学校 中学・小学 1992年 9月 7日 海南同郷会 邢詒宝 1992年 8月 9日公立崇正学校 専修・中学・小学 1993年 8月 20日 客属会館 羅達興 1993年 8月 20日

公立華明学校 中学・小学 2001年 2月 10日 鉄橋頭柬華理事会※ 1 方展煕 1999年 9月 19日

公立培華学校 小学 1995年 2月 11日 雷西郊柬華理事会※ 1 楊万源 2003年 1月 23日

立群学校 本校分校 小学 1992年 ※

聯友学校 中学・小学 1994年 2月 19日培英学校 中学・小学 不明中央学校 不明 不明計 12校

(注)網掛けは公立学校を示す。※ 1 :プノンペン特別市に設置された区レベルの柬華理事会(野澤、2004)。※ 2 :柬埔寨華人理事総会(2004)によると、立群学校本校の開校は春季となっている。※ 3 :柬埔寨華人理事総会(2003)では、立群学校分校について明記がないため、本校に含めた。

(出所) 野澤(2004: 67)を修正加筆。

Page 5: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

44 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

寨華人理事総会、2004)。カンボジア華人理事総会と各地方のカンボジア華人理事会では、華

語教育事業を社団の主要業務に位置づけており、カンボジア華人理事総会では、従来から華

人学校建設、華語教員養成、教科書支給などの支援業務を通して各地方のカンボジア華人

理事会と緊密な連携を図っている(莫、2000)。

2003年 6月時点で、カンボジア全土の華人学校で学ぶ生徒数は計 5万 6000名余りおり、

うち中学生が 1万名近くとなっている(杜、2003)。華人子弟全体の華人学校への就学率に関

しては一次資料が皆無なため算出は不能だが、クメール系公立学校を含んだカンボジア全体

における各校種の就学率は分かるので、ある程度の指標にはなろう(表 3)。一般的に華人家

表 2 各省(特別市)におけるカンボジア華人理事会と華人学校の数(2003.12.16時点)

省柬華理事会 州名(日本語) 設 立 会 長各省内にある市柬華理事会数※ 1

各省・特別市内にある華人学校数※ 2

磅針(磅湛) コンポンチャーム 1993年 12月 23日 許豪安 16 15

干拉(干丹) カンダール 1991年 王遠明 10 7貢不(貢布) コンポート 1992年 3月 13日 符国強 7 7

実 居 コンポンスプー 1993年 李揚豊 4 4国 公 コッコン 1990年 周徳利 2 2

波 羅 勉 プレイヴェーン 1998年 陳志清 3 3

桔 井 クロチェ 1992年 黄林松 3 3

磅通(磅同) コンポントム 1999年 9月 12日 劉 坤 4 4暹 粒 シアムリアプ 1995年 5月 1日 謝南興 6 6

馬 徳 望 バッタンバン 1992年 9月 1日  李 明 3 3ト迭棉芷 ボンティアイ 1994年 5月 4日 江金渓 3 3

ミアンチェイ

菩 薩 ポーサット 1995年 3月 5日 倪木栄 1 1

上 丁 ストゥントラエン 1993年 1月 11日 蔡耀順 1 1

拉達那基里 ラッタナキリー 不明 張玉芬 1 1

磅 清 揚 コンポンチナン 1998年 5月 29日 劉順利 1 1

西哈努克港 シハヌークヴィル 不明 林恵龍 = 1

珠山 ※ 3 パイリン 2002年 2月 23日 王来意 =

総 計 65 62

(注) 本表における“省柬華理事会” “市柬華理事会” “華人学校”についての表記は、一次資料に掲載されていた中国語表記をそのまま用いていることをご了解いただきたい。網掛けは特別市に設置された柬華理事会。

※ 1 :特別市の中には、下部機関となる市柬華理事会は設置されていない。※ 2 :プノンペン特別市については、前出表 1を参照のこと。

※ 3 : 2003年 12月 16日時点において、パイリン特別市には華人学校が 1校もないが、珠山市柬華理事会(2003年度理事会)では、10教室を備えた華人学校の建設決議案が成立しており、既に学校建設用地(面積 2700平方メートル)も購入している(柬埔寨華人理事総会、2004)。

(出所) 華商日報社編(2002)、柬埔寨華人理事総会弁公庁編(2001; 2003)より作成。

Page 6: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 45

庭の子女に対する教育熱が非常に高いことはよく知られており、カンボジアも決して例外で

はなく、これは潮州系端華学校に通う生徒の 96%が学習塾に通っているという事実(坂梨、

2004: 103)からも明白である。したがって華人子弟の華人学校への就学率は校種を問わず相

当高いものと思われる。また同年 12月 16日時点で、国内全土には計 74の華人学校が設置

されており5)(柬埔寨華人理事総会、2003)、2003年 6月時点ではうち 20余りの華人学校で中

学部が設置されている(杜、2003)。ここから同時点での華人学校数は、1960年代当時と比

較すると 3分の 1程度であるが、生徒数は 30年前当時に匹敵していることが分かる。現在国

内全土の華人学校教職員は 900名余りおり、うち 150名近くが中国大陸出身者で、一部の華

人学校では、中国大陸での教育経験者を校長職に招聘するなどして、教育の規範化と近代

化を推進している(華商日報社、2003)。一方で教員の給与については、1990年の授業再開当

初、学校運営資金の欠乏により、その給与水準はかなり低かったが、その後段階的な調整を

図ったことで、現在小学校教員の月収は 150~ 200米ドルで推移しており、基本的な生活は

維持可能になったとされる(柬埔寨華人理事総会、2004)。また華人学校の学費は低廉に設定

されており、小学部低学年から専修クラスまで半期ごとに 30~ 80米ドルとなっている(蔡、

2001b)。

2003年 12月 16日時点で、プノンペン市内にある華人学校 12のうち、公立が 8校、私立

が 4校となっている(前出表 1)。但しカンボジアの華人学校の場合、公立学校とはあくまで会

館などの華人社団が創立したものであり、私立学校とは有力華人など個人が創立したもので

あるということである。即ち公立という呼称が冠せられていても、それは政府が創立した学

校ではないということである(蔡、2001a; b)。したがって本来は前者を「会館立」または「機

関立」、後者を「個人立」または「私人立」と解釈すべきであろうが、現地華人社団刊行の

一次資料ではほぼ例外なく華人学校の種別を公立ならびに私立と表記していることから、筆

者も文中での表記方式はそれを踏襲することにした(野澤、2004: 95)。目下カンボジアでは、

公立(私立も同様)の華人学校は非正規学校扱いのため、国家教育省の卒業資格認定が得ら

れない仕組みになっている。そのため例えば公立学校の潮州系端華学校に在籍する生徒の

90%以上が正規のクメール系公立学校にも通学している(坂梨、2004: 102)。これはクメール

系公立学校が学校設備と教師の不足から午前(7~ 11時)と午後(13~ 17時)の 2部制を敷

いているため(上田・岡田、2006)、華人学校でもクメール系公立学校の教育制度に従って午

表 3 生徒の就学率

小学校 中学校 高 校

全 国 91.9(90.7) 26.1(24.8) 9.3(7.9)都 市 部 91.6(90.4) 41.3(40.5) 22.7(21.1)地 方 92.4(91.2) 23.7(22.2) 6.1(4.7)過 疎 地 82.5(79.4) 3.9(4.1) 0.2(0.1)

(注) カッコ内は女子。ここでいう就学率とは「生徒総数÷当該年齢の総人口×100」の純就学率を指す。(出所) 上田広美・岡田知子(2006)『カンボジアを知るための 60章』明石書店。

Page 7: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

46 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

前・ 午後の半日制(4時間授業)を敷いていることから(莫、2000; 端華学校、2000; 蔡、

2001c)、華人系生徒が双方の学校で在籍することを可能にしているのである(坂梨、2004:

102)。しかし今後クメール系公立学校における設備・教員不足問題が解消されて全日制と

なった場合、華人学校側が存続を図るべく政府に対して正規学校への昇格を求めることは必

至だろう。ちなみに公立の潮州系端華学校には 2002年 9月開講時点で本校 3200名、分校

8500名、本校、分校を合わせて 1万 1700名の生徒が、広肇系広肇学校6)には 2004年下半

期時点で 1142名の生徒が(野澤、2004: 95, 2006a: 54)、海南系集成学校7)には 1000名余りの生

徒が各々在籍している(『柬華日報』、2002年 8月 1日)。私立の立群学校には、2001年 3月時

点で本校、分校を合わせて生徒が 3700名在籍しており、市内最大規模の私立学校となって

いる(蔡、2001c)。また資料不足の中央学校を除く11校の設置課程を見ると、小学部は全 11

校で設置、中学部は 9校で設置されている。中卒者を対象とした専修クラス(高校課程)を

併設する 3校は全て公立となっている。

Ⅲ カンボジアにおける華語教育の発展要因

前節では、主に 1958年の中国とカンボジアとの国交関係樹立以降のカンボジアの華語教育

について概観したが、莫(2000)および柬埔寨華人理事総会(2004)は、同国の華語教育が

急速な発展を遂げた要因として、以下の点を挙げている。

(1)中国経済の繁栄およびそれに照応した国際的地位の向上が形成した世界的華語ブー

ムの影響。

(2)1989年のカンボジアにおける対外開放政策の実施。

(3)カンボジア政府指導者による積極的な奨励。

(4)現地華人社団や有力華人による積極的な推進。

(5)広範な華人の民族感情やアイデンティティーといった文化意識の所以。

(6)中国や諸外国の各種機関、団体、有力人による支援。

本節では、冒頭で示した「カンボジア華人社会における 4勢力のバランス関係」という視

点から、特に今日のカンボジア華語教育の発展要因となっているものと思われる(3)、(4)

および(6)について、各々の具体的事例に基づいた現状考察を行うことにする。

1. カンボジアの対外開放政策実施と政府指導者による積極的な奨励

莫(2000)は、同国の華語教育が急速に発展した要因の 1つとして、華語教育の対経済発

展効果を政府指導者が十分に認識していることと密接な関連があり、その証左として、華人

学校再興には華人社団に限らず、政府側の積極的な関与があることを挙げる。例えば、フン

セン首相はコンポンチャーム州の培華学校とシハヌークヴィル特別市の港華学校に対して

各々学校建設用地を、カンダール州大金欧市の興中学校や迪澤市の育才学校(現在休校)に

Page 8: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 47

対して各々数教室ずつ寄贈しており8)(莫、2000)、さらにシアムリアプ州シアムリアプ市中山

学校や他 4ヶ所(県級)の華人学校に対しても各々 5教室ずつ寄贈している(柬埔寨華人理事

総会、2004)。この他に国会(上院)議長・謝辛がカンダール州国基市国基学校に対して建

設資金費用 1万米ドルを、また政府副総理・蘇慶はバッタンバン州嗎咪市樹群学校がかつ

て資金不足だった頃に 1000米ドルを、チアソパラ・現プノンペン市長は鉄橋頭華明学校に

対して建設資金費用 1万米ドルをそれぞれ資金援助している(柬埔寨華人理事総会、2004)。こ

れらの事実は、政府指導者の華語教育事業(華人学校)に対する積極的な支援や奨励を具現

していると同時に、カンボジアでは、中央政府の総理大臣、国会主席をはじめとして、地方

政府の州知事・市(村)長までもが一律に華語教育の経済発展に対する重要な役割を共通

認識しており、政府指導者による華人学校に対する学校建設用地の提供や校舎および教室の

寄贈が同国の華語教育発展に重要な影響を及ぼしていることは間違いない(莫、2000; 柬埔寨

華人理事総会、2004)。そして駐カンボジア中国大使館でも、近年のカンボジアにおける華語教

育の顕著な発展は、同国政府および政府指導者による華語教育事業への支援奨励政策なら

びに政府指導者を含む社会各界による華語教育の同国経済発展と中柬両国の文化交流促進

面で果たす重要な役割への共通認識を具現している、と述べている(王、2002)。これに関連

して杜(2003)は、フンセン首相や謝チア・シム

辛国会(上院)議長らによる華人学校に対する学校建

設用地の提供や校舎・教室の寄贈、あるいは命名といった華人学校再興に対する一連の支

援は、政府側が現地華人らに海外の血縁・地縁ネットワークを利用して積極的な外資誘致

を図り、経済発展の懸け橋を担うことを期待しているからであり、そのためには華語に精通

した人材を育成する華人学校の再興が先決であると認識しているからだ、としている。実際

カンボジアでは、1989年の対外開放政策実施に伴う市場経済開放や多元的文化政策促進が

外国人投資家の誘致を招くこととなり、特に今日アジア各国からの華人投資が同国の外資導

入の主流を占めることから(莫、2000; 杜、2003; 柬埔寨華人理事総会、2004)9)、政府側の現地華

人に託する経済的期待が甚大なものであることは間違いない。

現在カンボジアでは、政府要職に就いている華人が少なくなく、例えば、副総理大臣(内

務大臣・国家保安省共同大臣を兼務)、国務大臣、経済・財務相、情報相、公共事業・運輸

相、国会上院議長など半数を超える閣僚が華人であり、さらに政府行政機関の数多くの高官

も、第 2世代または第 3世代に属する華人である。このほか、前プノンペン市長の秦錫龍も

潮州系華人であり、1993年 11月の市長就任前は宗教相であった。またフンセン首相夫人の

ブン・ソム・ヒアンも数世代前に先祖が中国大陸から渡って来た海南系華裔である。華人

系閣僚や政府高官の中には血縁・地縁関係を媒介として華人社団や有力華人実業家と堅固

な関係を構築している者が少なくない(野澤、2004: 84–86, 96, 2006a: 51–52)10)。したがってこの

ような血縁・地縁関係を媒介とした両者の堅固な結合が、華人系政府指導者による華語教

育事業(華人学校)に対する積極的な支援や奨励に少なからずの影響を与えていることは否

定できないと筆者は考える。

Page 9: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

48 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

2. 現地華人社団や有力華人による積極的な推進

(1)僑生華人社団や有力僑生華人による対華語教育支援

プノンペンではカンボジア華人理事総会をはじめとして、各同郷会館も華語教育事業を会

館の主要業務に位置づけている。特に同総会では重要な影響力を行使しており、文教部では

長年に亘って何度か各同郷会館の指導者や華人学校長を組織して状況調査のために各州・

特別市・市の華人学校訪問を実施しているほか、さらに財政困難な地域に対しては就学困

難生徒向けの奨学金給付を実施しており、華語教育の発展を積極的に促進している(莫、

2000; 柬埔寨華人理事総会、2004)。

地方の僻地農村では経済基盤が脆弱であり、居住華人も少なく、学校設立は困難なのが

現状である。そのためカンボジア華人理事総会では、国内全土における華人学校の普及、そ

して貧困地域に居住する華人子弟の就学機会創出のための討議と検討を何度か重ねた結果、

総会理事らが地方における華人学校の運営状況を調査すべく、現地視察の実施を決定した。

そして同総会では理事らを中心とした視察団を組織した上で、2003年 5月 3日から 7日まで

の日程で西北 6州各地方の華人学校(計 12校)の視察を行った。メンバーはカンボジア華人

理事総会会長の楊啓秋を団長として、同総会文教部、文教基金部、教材師訓部(教材・教

員養成部)などの正副各部長、そして華字紙随行記者 2名を含んだ計 13名から構成された。

楊啓秋は、同総会が華語教育の推進と発展を主要業務としており、現地視察の目的は今後

の華語教育発展戦略を決定するためであり、特に華語教育の発展が新たな状況や課題に直

面している今日、現実を出発点として華語教育問題の調査や検討を行い、華語教育の新たな

局面を打開することが切実に要求されている、としている(柬埔寨華人理事総会、2004)。視察

第 1日目の 2003年 5月 3日、一行はコンポントム州コンポントム市中華学校11)、同州実凍市

植英学校、そしてシアムリアプ州シアムリアプ市中山学校の 3校を訪問した。中山学校に対

してカンボジア華人理事総会が 1000米ドルの資金援助と学習参考書の寄贈を行っている。

視察 2日目の 5月 4日は、シアムリアプ州大篤市振華学校12)、ボンティアイミアンチェイ州吾

哥比里市中華学校13)、そして同州士詩芬市培成学校の 3校を訪問した。中華学校に対しては

文教基金部がバスケットボールコート建設費用を、楊啓秋も自己および蔡巧娥夫人名義で正

門建設費用を資金援助している。また培成学校に対しては同総会が 1500米ドルを資金援助

している。視察 3日目の 5月 5日は、ボンティアイミアンチェイ州烏祖市明華学校14)、バッタ

ンバン州深毛亀市光華学校15)、そして同州バッタンバン市聯華学校16)の 3校を訪問した。明

華学校に対しては同総会が年間諸経費として 2000米ドルを資金援助、楊啓秋も自己および

夫人名義で 3000米ドル相当のスクールバス寄贈を表明した。また光華学校に対しては文教

基金部が学校周囲のブロック塀建設と土木工事費用として 1200米ドルを、楊啓秋も 2000米

ドルを資金援助している。このほか同総会では、バッタンバン州カンボジア華人理事会に対

して学校施設拡充費用として2000米ドルを資金援助している。視察4日目の5月6日は、バッ

タンバン州嗎咪市樹群学校17)を訪問した。同総会が同校に対してスクールバス購入費用とし

Page 10: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 49

て 1500米ドルを、文教基金部が 1000米ドルを、また楊啓秋も自己および夫人名義で 1500

米ドルを資金援助している。視察最終日の 5月 7日は、ポーサット州ポーサット市培華学校18)

およびコンポンチナン州コンポンチナン市華僑学校19)の 2校を訪問した。培華学校に対して

は同総会と文教基金部がスクールバス購入費用としてそれぞれ 1500米ドルずつを、楊啓秋

も自己および夫人名義で 2000米ドルを資金援助している。また華僑学校に対しては同総会

と文教基金部がバスケットボールコート建設費用として共同で 2500米ドルを資金援助してい

る(柬埔寨華人理事総会、2004)。

以上のように、現地視察の過程では、同総会および総会役員個人によって各華人学校の実

情に合わせた資金援助や物品寄贈が積極的に行われており、当該事例はカンボジア華人社団

の華語教育事業に対する自助努力を具現しているものと言えよう。

(2)元カンボジア人による対華語教育支援

一方で、戦乱後に第 3国へ移住した元カンボジア華人(本稿における元カンボジア華人とは、

海外在住のカンボジア出身華人を指しており、現地国籍取得の有無については不問としている)も故郷

や母校再建のために多くの寄付金を投じている。例えばクロチェ州川龍市中華学校の場合、

再建資金の約半分が米国、フランス、カナダ等に居住する同郷人の寄付金によるものとされ

る。近年では、クロチェ州クロチェ市中山学校同総会が結成した「中山学校校舎回収委員会」

や福建会館が結成した「民生学校再建委員会」による募金呼びかけにも、世界各地に居住

する同窓生や同郷人が寄付金を投じており、カンダール州三角路市振民学校の再建では、海

外に居住する三角路出身華人が寄付金を投じている。またボンティアイミアンチェイ州吾哥

比里市中華学校でも、同地域から米国、フランス、カナダへ移住した同窓生の寄付金(総額

22万米ドル)によって建設されている(柬埔寨華人理事総会、2004)。

3. 中国や諸外国の各種機関、団体、有力人による支援

駐カンボジア中国大使館、新客華僑社団、中国海外交流協会、国務院僑務弁公室、およ

び各国の有力華人がカンボジアの華語教育発展に関心を寄せている(莫、2000; 柬埔寨華人理

事総会、2004)。その証左として、近年来、駐カンボジア中国大使館や国務院僑務弁公室では、

同国の華語教育事業においてカンボジア華人理事総会の要請に基づき、教科書編集や教員養

成、さらには華人学校建設のための資金援助など多方面に及んだ支援を行ってきている(王、

2002; 「端華分校新校舎落成典礼 /寧賦魁:中国支持柬華教」『柬埔寨星洲日報』、2002年 4月 8日)。

(1)駐カンボジア中国大使館および新客華僑社団による対華語教育支援

駐カンボジア中国大使館では 1997年から同総会や国内華人学校に対して資金援助を行っ

ているが、その金額は 2002年 4月時点までで総額約 14万米ドルに達しており、資金援助を

行った華人学校は既に数十に上る(表 4)。柬埔寨華人理事総会(2004)では、駐カンボジア

中国大使館による対華人学校支援が 1998年より本格的に始まり、毎年数万米ドルがクロチェ

州、コンポントム州、コンポンチナン州、シハヌークヴィル特別市、三角路、鉄橋頭、プノ

ンペン民生学校などの華人学校建設資金として各々供与されている、と王(2002)の述べる

Page 11: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

50 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

支援開始時期と若干の誤差が見られるものの、支援内容については概ね同様なことが述べら

れている。このほか 2002年 7月、カンボジア華人理事総会では華語教育発展に供するための

基金、「カンボジア華人文化教育基金会」20)を正式に発足させているが、その際特に注目すべ

きことは、発足にあたって国内各地の広範な僑生華人社団や当該社団役員からの資金援助だ

けではなく、駐カンボジア中国大使館や新客華僑社団(社団名または役員個人名で)といった

中国政府機関や中国系(香港を含む)の新客華僑社団からも資金援助が行われているという

事実である(表 5照)。資金援助総額 5万 4018米ドルと 1840万リエルのうち、資金援助ドル

総額の約36%(計1万9350米ドル)を占めており(「中国大使館與楊啓秋捐款柬華成立文教基金」『柬

埔寨星洲日報』、2002年 4月 8日; 「柬華文教基金獲熱烈回響 /籌獲逾 5萬美元」『柬埔寨星洲日報』、

2002年 11月 27日)、同事例は、華語教育事業(華人学校)に対する駐カンボジア中国大使館

による物的支援や社団組織を媒介とした僑生華人と新客華僑の共生関係を具現しているもの

と言えよう。

(2)中国海外交流協会による対華語教育支援

カンボジア華人理事総会と中国海外交流協会の双方が調印した契約に基づき、広州曁南

大学華文学院では、専門家を派遣して同総会文教部と共同で教科書編集支援を行うなど、

文教部に対する華語教育研究活動の支援を通して、同国の華語教育レベルを向上させている

(莫、2000; 柬埔寨華人理事総会、2004)。

1994年 8月、広州で開催された「海外華語教育交流会」に参加したカンボジア華語教育

代表団が同国の華人学校における華語教育概況について報告を行った際、現場で華語教育

表 4 駐カンボジア中国大使館による対カンボジア華語教育支援

年月日 援助内容 援助金額

1997年 柬埔寨華人理事総会図書館建設のための資金援助 20,000米ドル1998年 コンポンチナン州コンポンチナン市華僑学校、クロチェ州川龍市中華学

校、コンポントム州東谷市振東学校の 3校再建のために資金援助40,000米ドル

1998年 華語教育基金に対する資金援助 5,000米ドル1999年 8月 プノンペン特別市公立民生中学回復のための資金援助 20,000米ドル2000年 5月 ①コンポンチャーム州逢坡市華僑学校新校舎建設のための資金援助 6,000米ドル〃  〃 ②カンダール州三角路市振民学校建設のための資金援助 5,000米ドル〃  〃 ③ボンティアイミアンチェイ州士詩芬(シソポン)市培成学校のための

資金援助5,000米ドル

〃  〃 ④プノンペン特別市鉄橋頭華明学校建設のための資金援助 5,000米ドル〃  〃 ⑤シハヌークヴィル特別市港華学校建設のための資金援助 3,000米ドル2001年 3月 柬華理事総会の華語教育発展のための資金援助 8,000米ドル2001年 11月 コンポート州速富市興民学校など華人学校 18校に対する資金援助 16,800米ドル2002年 2月 カンダール州加江市培英学校講堂建設のための資金援助(柬埔寨華人

理事総会経由で)2,000米ドル

2002年 4月 柬華理事総会の華語教育発展のための資金援助 3,000米ドル総額 138,800米ドル

(注) 上記資金援助のほかに、1998年、駐カンボジア中国大使館では多くの学校に音響器材を寄贈している(柬埔寨華人理事総会、2004)。

(出所) 柬埔寨華人理事総会編(2004)および王(2002)より作成。

Page 12: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 51

表 5 カンボジア華人文化教育基金会設立時における各方面からの資金援助

機関・社団・企業・個人名称 金 額 備 考

1 駐カンボジア中国大使館 US$15,000 在外公館2 楊啓秋会長 US$10,000 僑生華人社団役員3 楊啓秋会長岳父遺産 RIEL8000000 有力僑生華人4 柬埔寨中国和平統一促進会 US$1,000 僑生・新客複合組織5 柬埔寨中国商会 US$1,000 新客華僑社団6 〃   〃 高華会長 US$500 〃   〃 役員7 〃   〃 趙衛国副会長 US$300 〃   〃 役員8 〃   〃 潘東風副会長 US$300 〃   〃 役員9 〃   〃 陳宝珠理事 US$200 〃   〃 役員10 〃   〃 倪紅生理事 US$50 〃   〃 役員11 柬埔寨中国港澳僑商総会 US$1,000 新客華僑社団12 〃   〃     任瑞生会長 US$500 〃   〃 役員13 〃   〃     馮利発秘書長 US$500 〃   〃 役員14 潮州会館 US$5,000 同郷団体15 広肇会館 US$2,000 〃  〃16 海南同郷会 US$2,000 〃  〃17 福建会館 US$2,000 〃  〃18 〃 〃 陳明利副会長 US$500 〃  〃 役員19 客属会館 US$2,000 〃  〃20 浙江同郷会 RIEL 100000021 楊氏宗親総会 US$500 同姓団体22 黄氏宗親総会 US$500 〃  〃23 呉氏宗親総会 US$500 〃  〃24 林氏宗親総会 US$500 〃  〃25 李氏宗親総会 US$500 〃  〃26 陳氏宗親総会 US$500 〃  〃27 饒平鳳凰同郷会 US$500 〃  〃28 蔡氏宗親総会 US$500 〃  〃29 羅氏宗親総会 US$500 〃  〃30 郭氏宗親総会 RIEL 2000000 〃  〃31 〃  〃 郭漢標会長 RIEL 2000000 〃  〃 役員32 符氏宗親総会 RIEL 1000000 〃  〃33 鉄橋頭柬華理事会 US$500 柬華理事総会分会34 干拉省柬華理事会 US$500 〃   〃35 〃 〃加江市柬華理事会 US$100 〃   〃36 〃 〃三角路市柬華理事会 RIEL 200000 〃   〃37 貢不省柬華理事会 $200 〃   〃38 〃 〃逢咋叨市柬華理事会 $50 〃   〃39 〃 〃白馬市明徳学校 RIEL 200000 〃   〃40 磅針省柬華理事会 $200 〃   〃41 〃 〃実広市柬華理事会 $100 〃   〃42 〃 〃実碑市柬華理事会 $100 〃   〃43 〃 〃逢坡市柬華理事会 RIEL 200000 〃   〃44 〃 〃成東市柬華理事会 RIEL 200000 〃   〃45 西哈努克港市柬華理事会 $200 〃   〃46 国公省塩田市柬華理事会 $50 〃   〃47 磅清揚省柬華理事会 $100 〃   〃

Page 13: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

52 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

の実情に合致した教科書が必要とされている現状を訴えた。そして会議終了後、中国駐カン

ボジア大使館の協力の下、カンボジア華人理事総会と中国海外交流協会が「カンボジア華人

学校版教科書編集委員会」(実務は広州曁南大学華文学院との業務提携)発足に関する契約に調

印した。そして広州曁南大学華文学院による教科書編集支援の結果、95年 12月に小学生用

華文(国語)および数学の教科書、ワーク、さらに教授用指導書が出版されることになった(柬

埔寨華人理事総会、2004)。現在同国の華人学校小学部では全てこの教科書が使用されており

(王、2002)21)、同教科書の出版によって教材と授業要綱の統一化が図られることとなり、また

授業における簡体字とピンインの導入が始まったことで、中国大陸の教育と連動した条件を

創出している(華商日報社、2003)。但し華人学校における教材の統一化については、カンボ

ジア政府の意向があることも否定できない。これは 1990年 8月、同国政府が華人学校の再

開を正式に許可すると同時に、華語教育を国家教育の重要な構成要素の 1つに位置づけ、

華人学校の管理権を華人社団に委譲した際、全国の華人学校が統一された教材を使用する

ことを要求し、また統一教材の使用にあたっては事前に国家教育省の承認を経ることを義務

表 5 (つづき)

機関・社団・企業・個人名称 金 額 備 考

48 磅通省柬華理事会 $100 〃   〃49 水浄華柬華理事会 $100 〃   〃50 安暦符柬華理事会 $100 〃   〃51 立群学校 $100 私立華人学校52 培英学校 $100 〃   〃53 聯友学校董事会 $100 〃   〃54 〃 〃 郭如興校長 $100 〃   〃 管理職55 中央学校 $100 〃   〃56 培文学校 $100 不明57 新華社プノンペン支社 $100 新聞社(大陸系)58 柬華日報 曽広栄経理 $100 〃 〃(土着系)幹部59 媽祖廟値事会 $100 廟 宇60 白粒福徳廟 RIEL 400000 〃 〃61 勝義堂醒獅団 $50 獅子舞団62 林伯祥廟獅団 $30 〃 〃63 柬埔寨製薬廠 $1,000 新客華僑社団会員企業64 新嘉坡飛龍公司 $888 不明65 永隆建築公司 RIEL 1000000 不明66 李園公寓潘愛珍女史 RIEL 1000000 個 人67 呉朝文 $200 〃 〃68 徐坤城 $200 〃 〃69 李照青 RIEL 1000000 〃 〃70 範正成 RIEL 200000 〃 〃

総 計 $54,018 & RIEL 18400000

(注) 1米ドルは 3973リエル(2003年)。網掛けは中国政府機関または新客華僑社団を示す。

(出所) 柬埔寨星洲日報(2002d)を基に筆者が作成。

Page 14: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 53

づけた(廖、1995)ことから窺える。教科書にはカンボジア国情とリンケージした題材22)、そ

して簡体字とピンインの採用について配慮がされているが、一方で華文教科書巻末にある新

出漢字では簡体字と繁体字が併記されており、授業で使用する簡体字のほか、繁体字にも通

暁すべしとした配慮もされている。これは現在のカンボジア華人社会における簡繁併用とい

う実情を考慮したものである(柬埔寨華人理事総会、2004)。例えば 2003年 12月時点で、同国

では『華商日報』(1993年創刊)、『柬華日報』(2000年 8月 10日創刊)、『柬埔寨星洲日報』(2000

年創刊)の計 3社が華字紙を発行しているが、これらの新聞社ではいずれも紙面の字体に繁

体字を用いており(野澤、2004: 69)、これは同国華人社会での繁体字の使用頻度の高さを具

現しているものと言えよう。華人学校における統一教材の使用に関連して教授言語について

補足しておくと、政府は中国語(普通話)の使用を認めている一方で、カリキュラムにクメー

ル語の授業を導入することを義務づけており、端華学校専修課程では週 3時間を充てている

(坂梨、2004: 113)。

以上から我々が留意すべき点は、カンボジアでは既述したように公立華人学校は華人社団

が創立しているという性質上、同教科書編集支援協定が中国関係機関による他国の公教育機

関の教育内容への関与や干渉には当たらないということ、また華人社団が華人学校の運営権

を保障されてはいても、使用教材および授業内容に関しては政府のコントロールを一定程度

受けているということの 2点であろう。

(3)国務院僑務弁公室による対華語教育支援

国務院僑務弁公室では、1999年 3月より大陸系教員 3名のカンボジアへの派遣を始めるな

どカンボジア華人理事総会の小中学校教員養成に対する支援を行っている(王、2002)。これ

に関して柬埔寨華人理事総会(2004)では、同総会が 1999年より「カンボジア華人学校師範

専修(小学校教員養成)クラス」を開講したことで、半年ごとに一定数の生徒を募集し、華人

学校新世代教員の養成を継続的に行うことになったため、これに対する人的支援として、駐

カンボジア中国大使館や国務院僑務弁公室から 3名の教員が派遣されることになった、と述

べている。杜(2003)は、このような華人学校新世代教員の養成は、華人学校再開初期から

在職する大量の高齢かつ教学知識が欠乏した教員の新旧交替を促し、同国の華語教育レベ

ル向上推進の上で積極的な効果を上げている、としている。また省級僑務弁公室(広西省僑

務弁公室)でも国務院僑務弁公室の委任を受けてカンボジアへ教員 19名を派遣しており、各

人がプノンペンや各州の華人学校で教鞭を執っている(2002年 5月時点)。このほか国務院僑

務弁公室では、教員不足解消や教員の指導技術向上を図るための人材育成の一環として、

2002年 8月、教員養成研修特別講義団としてメンバー 5名をカンボジアに派遣し、同国の華

人学校で華語教育に従事する現職教員に対して養成研修を実施したり、あるいは同国の華人

学校から選抜された華語教員に対して中国大陸において養成研修を実施したりしている(こ

れらについては次節で詳述)。当該事例は、国務院僑務弁公室による華語教育事業(華人学校)

に対する人的支援を具現しているものと言えよう。

Page 15: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

54 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

Ⅳ 華語教育発展によりもたらされる諸問題とその解決策

1997年以来、カンボジアでは華語教育事業の不断なる発展と拡大に伴い、各州の華人学

校が相次いで再開している(王、2002)。しかし一方で、華語教育の急速な発展が種々の深層

な問題を逐一出現させていることも事実である(蔡、2001b)。例えば、(1)華人学校の施設

老朽化に伴う修繕工事、校舎・施設不足に伴う拡張工事、あるいは慢性的に不足している

教育器材拡充などを行うための資金捻出、(2)教員不足解消や教員の指導技術向上を図る

ための人材育成、(3)授業レベル改善を図るためのカリキュラム改革23)や教育管理強化、と

いったような種々の問題を孕んでいる(莫、2000; 蔡、2001b; 杜、2003)。莫(2000)は、これら

の問題解決に関しては、同国華人あるいは社団の自助努力の他、外部からの継続支援も必要

であり、華人学校の建設資金や高度な指導技術を有する教員の確保といった諸問題が解決で

きれば、同国の華語教育事業はより健全な発展が遂げられよう、と述べている。社団の自助

努力に関しては、当然のことながら同国華人社団の最高指導機関としてカンボジア華人理事

総会でも華人学校の教員養成を図るべく、現職教員に対する各種スタイル研修の実施、教育

交流や短期研修講座の開催、あるいは前節でも述べた師範専修(小学校教員養成)クラス開

設による新規人材育成といった方策を講じている(蔡、2001b)。上記(1)から(3)までの

華語教育発展によりもたらされる諸問題の中で、今日特に各華人学校において早急な対応が

求められているのが(2)の問題である。例えば、前出の端華学校では教員 230名余りのうち、

74.3%が高卒以下の学歴であり、大卒の学歴を有する人材の獲得は難しいのが現状である

(蔡、2001c)。実際に潮州会館では、学校運営の強化と授業レベルの向上を図るために、1998

年下半期より中国広州から教学経験豊富な校長と教務主任の招聘を始めており、端華学校の

校務運営と教務管理を任せている(柬埔寨潮州会館、2003)。2000年 8月より2002年 7月まで

校長を務めた張燦堅も、同校就任前は中国の学校において 20年以上のマネージメント経験

を有している(蔡、2001c)。また同校では、管理職以外に中学部教員の 70%を中国大陸出身

者が占めているが、そのうちの一部は国務院僑務弁公室より派遣された教員が教鞭を執って

いる(『柬華日報』、2002年 8月 1日)。

国務院僑務弁公室では、教員不足解消や教員の指導技術向上を図るための人材育成の一

環として、2002年 8月、教員養成研修特別講義団としてメンバー 5名をカンボジアに派遣し、

同国の華人学校で華語教育に従事する現職教員に対して養成研修を実施している。当該 5名

は、何れも国務院僑務弁公室の対外養成施設学校出身者で、中国国内で豊富な教授経験を

有しており、教育心理学や情報処理演習、あるいは中国語基礎教育を専門とする者などが含

まれる(『華商日報』、2002年 7月 31日; 杜、2003)24)。

教員養成研修特別講義団は 2グループに分かれ、Aグループはプノンペン端華学校分校に

おいて 2002年 8月 2日から同月 16日まで、Bグループはバッタンバン州聯華学校において 8

月 4日から同月 18日まで、それぞれが実施された。また当該養成研修では、教育心理学、

Page 16: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 55

パソコン教育講座、小中学校華語教授法(朗読教授法に重点を置く)、小中学校教授法(教授

法基礎知識に重点を置く)、文章読解・作文表現技法といった科目が開講された。当該研修に

参加した現職教員は計 406名であり(『華商日報』、2002年 8月 2日)、うち研修参加申込者の

274名がプノンペンの華人学校教員、69名が各州の華人学校教員となっている(『華商日報』、

2002年 7月 31日; 『柬埔寨星洲日報』、2002年 7月 31日)。なお研修修了者に対しては、国務院僑

務弁公室文化教育宣伝局より修了証が交付される仕組みになっている。国務院僑務弁公室に

よる教員養成研修特別講義団派遣について、受益者側であるカンボジア華人社団は、「華人

学校の授業再開から 10数年が経過したが、この間駐カンボジア中国大使館や国務院僑務弁

公室の支援の下で、華語教育は大きな発展を遂げる一方、教員不足が華語教育の授業レベ

ル向上に影響を与えているのが現状である。今回駐カンボジア中国大使館や国務院僑務弁公

室による支援の下、国内華人学校の現職教員を対象に指導技術向上を図るべく教員養成研

修特別講義団が派遣されたことは、華語教育に多大な成果をもたらすものである」と歓迎し

ている(『華商日報』、2002年 7月 30日)。一方で国務院僑務弁公室文化教育宣伝局文化教育部

部長の李民は、「華語教育レベル向上のための対海外華人社団支援は、国務院僑務弁公室が

担うべき責務である。現在国務院僑務弁公室では、海外華人学校の華語教員に対する中国

大陸での研修実施のほか、専門家の海外特別講義派遣といった試みを始めており、現場の

ニーズを調査し、そして実情に合わせた養成研修を行っているが、これは海外華人社団によ

る中堅華語教員養成のための支援を目的としている」と述べており(『華商日報』、2002年 7月

30日)、ここから今後も人材活性化を一層図るべく、人的支援を継続させていこうという国務

院僑務弁公室の積極的な姿勢が見て取れる。ちなみに、国務院僑務弁公室による海外華人

学校の華語教員に対する中国大陸での研修実施に関しては、2002年 7月 27日~ 8月 26日ま

でカンボジア全土の華人学校から選抜された 10校 10名の教員が、広西民族学院で開催され

た「2002年度第 1回夏季中級クラス華語教員養成研修」に参加している。研修期間は 4週

間で、中国語基礎知識(音声・文法・漢字・語彙)、中国語教授法(音声・文法・漢字・

語彙)、音声教育実践に関する授業を聴講し、研修終了後に実施される試験に合格した者に

合格証書が交付される仕組みになっている。また当該教員 10名の広西民族学院における養

成研修に関わる一切の費用(渡航費を含む)は国務院僑務弁公室が全額負担している(「10華

校教師獲全額資助赴広西受訓 1個月」『柬埔寨星洲日報』、2002年 6月 3日; 杜、2003)。

以上国務院僑務弁公室による人的支援には、中国大陸からカンボジアへ教員を派遣して同

国の華人学校教員のために養成研修を行うもの(派遣教員が教鞭を執るケースも含む)、あるい

はカンボジアの華人学校教員を中国大陸へ一定期間派遣して養成研修を受けさせるものの 2

通りがあることが分かった。この種の人的支援は資金援助といった物的支援と比較すると、

確かに即効的な対教学効果は現れ難いかも知れないが、しかし華人学校の継続的な拡大発

展という長期的視野で見た場合は、むしろ人的支援の方が後進育成といったように指導技術

の伝達継承を図るという点でより堅実な効果が得られるものと筆者は考える。したがって、

今後も継続的な人的支援を行っていくという国務院僑務弁公室の姿勢表明は、重要な意味を

Page 17: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

56 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

持つものとして評価できよう。

Ⅴ カンボジアにおける華語教育の今後の展望について

カンボジアの華語教育発展の背景には、同国華人社団の自助努力および政府指導者からの

支援や奨励のほか、駐カンボジア中国大使館、国務院僑務弁公室、中国海外交流協会といっ

た海外政府機関による継続的支援もあることが明らかになった。筆者は、このうちやはり政

府指導者による支援や奨励が同国の華語教育発展を促進する最大の原動力になっていると考

える。これについては、血縁・ 地縁関係を媒介とした華人系閣僚・ 政府高官と華人社

団・有力華人実業家との堅固な結合といった要因だけではなく、華人社団の一貫した対政

府支援活動や中立的政治立場の堅持といった社団業務・宗旨に対する政府指導者からの評

価も大きく影響していることが考えられる。例えば対政府支援活動については、カンボジア

華人理事総会では発足以降、国家再建・罹災民救済といった社会慈善事業にも積極的に参

与しており、政府による辺境部隊への生活物資、災害救援・慶祝活動のための義捐金呼び

かけに対して、毎回積極的に応じている。1994年時点で、総額 1億 9419万リエルおよび 7

万 4919米ドルの義捐金を供出しており、以降ほぼ毎年貢献実績がある(巻末付録)。このよ

うな同総会による継続的な社会慈善活動は政府からの賞賛を得ることとなり、2001年 6月 4

日には内務・国家保安省が同総会に対してクメール語名称の対外的使用を批准している(柬

埔寨華人理事総会、2004)。

次に中立的政治立場の堅持に関してだが、東南アジアの華人社会には「莫談政治」(政治

には口出ししない方が得策だとする考え)という思想が今でも根強く残っている。実際、カンボ

ジア華人理事総会でも華人社会の良好な環境維持には居住国の法律遵守、政治への不介入、

党派間紛争への不介入が不可欠であること、また自分たちは華人であると同時にカンボジア

国民でもあり、居住国の経済繁栄や社会安定のために貢献することが、政府の対華人評価を

高めることにつながると認識している(柬埔寨華人理事総会、2004)。カンボジア華人理事総会

がこのような立場を堅持する背景には、カンボジアの華語教育が中国政府からの支援だけで

なく、台湾の民間組織からの支援も享受してきている(華商日報社、2003)という事情がある

からと思われる。1992年前後に台湾側では、カンボジア華人社団に対して僑務委員会や教育

省など政府機関による公的援助提供の用意があると申し出たが、同国華人社団側ではこれを

全て拒絶し、華人学校に対する台湾版教科書の無償提供申し出についても、内容が国情と符

合しないとして採用を見送った経緯がある。これは、カンボジア華人社団が一貫した中立的

政治立場を採り、華人社会再建に資するものに関しては一律に受け入れを歓迎するが、政治

関連の活動や言論に関しては完全に拒絶するという姿勢を堅持したことによるものである。

即ちカンボジア華人社団では、民間団体による経費援助や教員派遣に関しては歓迎の意を表

明していたため、1998年には、台湾知風草文教サービス協会という民間団体による支援が、

Page 18: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 57

前後期の 2回に亘ってカンボジア華人理事総会経由で行われており、カンダール州、コンポ

ンスプー州、コンポート州、ストゥントラエン州、ラッタナキリー州など経営困難な華人学校

に対して各々数千から 1万米ドル余りが教員の生活補助金や生徒向け奨学金(返済義務なし)

といった名目で支給されたり、コンポート州とラッタナキリー州に教員 7名が派遣されたりす

るなど、華語教育発展に一定の貢献をしている。同支援は、翌 99年には停止されることに

なったが、現在でも同総会を経由せずにプノンペン以外の辺境地域にある華人学校に対する

ダイレクトな支援は続いている。ここ数年同協会では、教員を直接派遣するスタイルから収

支不均衡な一部の州・市に対する教員招聘のための資金援助や貧困家庭の生徒への奨学金

交付といったスタイルに改めている。カンボジア華人社団では、このような選別性を持った

台湾からの文化援助の受け入れが中国政府首脳の感情を害するといった敏感な問題を引き起

こすことはない、という認識に立っている(柬埔寨華人理事総会、2004)。

これらの事例は、カンボジア華人社団(指導者を含め)によるこのような長期性を持った政

治的視野および成熟した政治的経験こそが、中国政府との円滑な関係を維持するだけでな

く、さらにはカンボジア政府の外交政策に歩調を揃えることで居住国政府との円滑な関係も

維持することになり、結果的にそれが華人のホスト社会への定着化、即ち落地生根(居住国

に根を張る)を一層促進すると同時に、カンボジアの華語教育を一層拡大発展させる原動力に

なり得るものであるということを我々に教示している。

おわりに

2002年 8月、プノンペンにおける 3週間の滞在期間中、筆者は楊啓秋氏の配慮であるパー

ティーに招待される幸運な機会を得た。そのパーティーとは、駐カンボジア中国大使館で 3

年半勤務した張金鳳参事の任期満了帰任に伴う歓送会で、市内のレストランにて開催され

た。同歓送会は、僑生華人社団であるカンボジア華人理事総会と新客華僑社団であるカンボ

ジア中国商会および中国港澳僑商総会の共催により挙行され、各社団の会長が列座した。こ

こから僑生華人社団、新客華僑社団、そして駐カンボジア中国大使館が社団組織を媒介とし

て平生から相互に堅固な紐帯を構築していることが見出せる。カンボジアの華語教育事業に

おいては、僑生華人社団の自助努力だけではなく、駐カンボジア中国大使館や国務院僑務弁

公室による物的・人的支援が果たしている役割も大きく、また対華語教育支援において、

社団組織を媒介として僑生華人と新客華僑が共生関係を構築していることも既述した。換言

すれば、冒頭で示したように、カンボジアの華人社会は僑生華人社団、新客華僑社団、駐カ

ンボジア中国大使館・国務院僑務弁公室、そしてカンボジア王国政府といった各勢力が共

起した上で相互に補完し合うことで形成されており、そこには華語教育事業(華人学校)に

対する各勢力による物的・人的支援や社団組織を媒介とした僑生華人と新客華僑の共生関

係、あるいは合弁によるビジネス提携といったような社団活動の延長線上における僑生華人

Page 19: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

58 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

と新客華僑の共生関係など各勢力間における種々の堅固な紐帯の構築が見出せるということ

である。しかし一方でカンボジアにおけるこの共生関係は、例えば前節で言及した華人学校

での使用教材および授業内容(教授言語の統制を含む)に関する政府の方針転換(コントロール

の強化)や、恒常化している僑生華人社団の同国政府に対する献金供与・国家建設関連の

財政支援のあり方をめぐる両者間の対立、あるいは国家間レベルの資金・技術援助のあり

方をめぐる中柬両国の政治的利害関係の対立など、各勢力間でセンシティブな問題が生じた

場合、容易に崩壊しかねないことを意味している。同時にそれは同国の華語教育事業の存続

については勿論のこと、究極的には同国華人社会の今後の発展に対しても深刻な影響を与え

かねないことを意味している。

(注)1) 僑生華人とは、現地出生で現地国籍を持ち現地語も操るといった 3要素を同時に満たす 2世、3世以降の世代の華人を指すが、筆者はこれにカンボジアに定住する第 1世代の老華僑も含めて同じ範疇で括っている(野澤、2004: 94, 2006a: 53)。2) 新客華僑とは、カンボジアに投資してビジネスを展開させている香港、マカオ、台湾、大陸(中国)系投資家のことを指している。カンボジアでは 1989年の新政府による対外開放政策の実施や 1994年 8月 4日に発布された王国投資法の施行に伴い、中国大陸を始め、香港や台湾などの企業や投資家が同国に投資してビジネス展開させるケースが増加している(野澤、2004: 94, 2006a: 53; 柬埔寨華人理事総会、2004: 131–132)。

3) 改革開放以降の 20数年、経済が飛躍的に発展した中国と世界各国特に東南アジア各国との貿易往来や、香港、マカオ、台湾、シンガポール、マレーシア、タイなどにおける中国人や華人の顕著な貿易活動は、華語の実用価値を日増しに向上させている(莫、2000; 柬埔寨華人理事総会、2004)。

4) 1992年 5月、カンボジア華人理事総会では「プノンペン華人学校授業再開委員会」を結成した(柬埔寨華人理事総会、2004)。

5) 表 1、2から同時点でカンボジア国内の 15州・ 2特別市・ 61一般市において計 74の華人学校が設立されており、またコンポンチャーム州の華人学校数が同国全土で最多であることが分かる。ここから現在カンボジア華人は国内の広範囲に分布しており、かつコンポンチャーム州の華人人口がプノンペンを除く国内全土の中で最多であることが推察される(野澤、2004: 64–65)。

6) 2002年 7月時点での広肇学校の教員数は27名で、うち7名の教員が中国大陸出身者である(『柬華日報』、2002年 7月 31日)。

7) 2002年 8月時点での集成学校の教室数は16、開講クラス数は32であり、中国大陸出身の教員が7名いる。また最盛期には 1700名余りの生徒が在籍していた(『柬華日報』、2002年 8月 1日)。

8) シアムリアプ州大篤市振華学校もフンセンが建設贈呈している(柬埔寨華人理事総会、2004)。9) 1989年の対外開放政策の実施や 1994年 8月の王国投資法の公布に伴い、中国大陸を始め、香港や台湾などの企業や投資家が同国に投資してビジネス展開させるケースが増加しているが、投資家の大半は華語を使用するため、市場や工場では、華語が主要伝達言語となっている。実際華字紙掲載の求人広告には、職員採用条件の 1つに華語能力必須が挙げられている(莫、2000)。

10) 2001年 3月 19日にカンボジア華人理事総会が第 3期理事会を発足させた際、情報相の楊来盛と農業相の呉和順(曽仕倫)、そして現プノンペン市長のチアソパラといった 3名の政府閣僚が、同総会の招聘に応じて最高名誉顧問として就任している(柬埔寨華人理事総会、2004)。

11) 生徒数は 90名前後(柬埔寨華人理事総会、2004)。12) 生徒数 30名余り、教室数 5(柬埔寨華人理事総会、2004)。13) 教室数 26(柬埔寨華人理事総会、2004)。14) 生徒数 256名、教員 13名、クラス数 12、教室数 19(柬埔寨華人理事総会、2004)。15) 生徒数 38名(柬埔寨華人理事総会、2004)。16) 生徒数 750名余り。最盛期は 1300名の生徒が在籍していた(柬埔寨華人理事総会、2004)。17) 生徒数 215名、教員 6名(柬埔寨華人理事総会、2004)。18) 生徒数 80名、1教室のみ(柬埔寨華人理事総会、2004)。19) 生徒数 80名、教室数 10、小学 4年生まで設置(柬埔寨華人理事総会、2004)。20) 同基金会は、総会文教基金部が運用上の具体的責任を負っている(『柬埔寨星洲日報』、2002年 4月 8日

Page 20: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 59

「中国大使館與楊啓秋捐款柬華成立文教基金」)。21) 2001年 3月時点で、中学部の教科書はまだ編集段階にあり、各校ごとに異なった教科書が使用されているため、教育交流や教育科学研究を行う上での支障が指摘されている(蔡、2001b)。

22) 例えば高学年向け華文(国語)の教科書(第11 ・ 12冊)には、「勤労的柬埔寨人(勤勉なカンボジア人)」や「美麗的国土―柬埔寨(美しい国土―カンボジア)」といったように居住国文化に関する様々な題材が取り扱われている(中国曁南大学華文学院・柬埔寨華人理事総会編、1995)。

23) 坂梨(2004)は、カンボジアの華人学校の中学校段階において、理科など正規学校で教えるべき科目が欠如しており、科目の総合的な提供がままならない現状を挙げて、華人学校が、同国のみならず他国の学校教育システムと同等となるようにするには、カリキュラムの再編成とそれに見合った教員の充実が最重要課題であるとしており、華人学校は、華語の習得および中国文化の伝達という側面は強固だが、正規な学校教育機関として維持・運営するには解決すべき課題が多々あるとしている。

24) 国務院僑務弁公室教員養成研修特別講義団メンバーは次の通り。団長の李民(同弁公室文化教育宣伝局文化教育部部長)を筆頭に、団員は陳麗卿(雲南大学文学院教授)、馬克力(雲南大学成人教育学院助教授)、徐暁霞(浙江大学教育学院講師)、周秋敏(杭州学軍中学 1級教員)、秦忠米(張家口第 6中学 1級教員)の 5名(『柬華日報』、2002年 7月 30日; 『華商日報』、2002年 7月 30日)。

(参考文献)日本語

上田広美・岡田知子(2006)、『カンボジアを知るための 60章』明石書店。坂梨由紀子(2004)、「カンボジアにおける華人社会の教育―プノンペン市端華学校の事例から」『華僑華人研究』創刊号(9月)、96–114ページ。

野澤知弘(2003)、「特集:華人社会を学ぶ カンボジアの華人社会」『地理』第 48巻第 8号(8月)、29–34ページ。―(2004)、「カンボジアの華人社会―僑生華人と新客華僑の共生関係」『アジア経済』第 45巻第

8号(8月)、63–99ページ。―(2005a)、「カンボジアの華人社会―五大幇の従事職業傾向」山下清海編著『華人社会がわかる本―中国から世界へ広がるネットワークの歴史、社会、文化』明石書店、182–186ページ。―(2005b)、「カンボジアの華人社会―潮州会館と陳氏宗親総会に見る華人社団のグローバリゼーション」『華僑華人研究』第 2号(11月)、88–102ページ。―(2006a)、「カンボジアの華人社会―新客華僑社会動態に関する考察」『アジア経済』第 47巻第 3号(3月)、35–72ページ。―(2006b)、「カンボジアの華人社会―プノンペンにおける僑生華人および新客華僑集住区域に関する調査報告」『アジア経済』第 47巻第 12号(12月)、2–27ページ。

中国語

蔡振裕(2001a)、「柬埔寨華人系列(三) 設理事会結合族群 /柬華社重新凝集力量」『柬埔寨星洲日報』3月 23日。―(2001b)、「柬埔寨華人系列(四) 重生後復辦 75所学校 /柬華教欣欣向栄」『柬埔寨星洲日報』

3月 23日。―(2001c)、「柬埔寨華人系列(完結編) 学生一万四千名冠全球最大華文学校在金辺」『柬埔寨星洲日報』3月 23日。傳曦・張兪(2000)、「柬埔寨華僑華人的過去與現状」『八桂僑刊』(広西華僑歴史学会)第 3期(8月)、

34–38ページ。杜瑞通(柬埔寨華人理事総会副会長兼文教処処長)(2003)、「柬埔寨華僑華人的歴史変遷」『華統論壇』(柬埔寨中国和平統一促進会)第 1期(6月 28日)、40–42ページ。国務院僑辦僑務幹部学校編著(2005)、「第 4節 1.柬埔寨的華僑華人」(国務院僑辦僑務幹部学校編著『華僑華人概述』北京:九州出版社)、77–80ページ。

華商日報社編(2002)、『柬埔寨華商資訊』金辺。―(2003)、「十.華社」(華商日報社編『東南亜明珠柬埔寨』金辺)、85–97ページ。

Page 21: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

60 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008

柬埔寨潮州会館編(2003)、『柬埔寨潮州会館成立十周年記念特刊』金辺。柬埔寨潮州会館公立端華学校編(2000)、『柬埔寨潮州会館公立端華学校 概況』金辺。柬埔寨華人理事総会編(2001)、「柬埔寨華人理事総会付属単位」6月 13日、金辺。―(2003)、「柬埔寨華人理事総会付属単位」12月 16日、金辺。―(2004)、『柬華理事総会成立十三周年記念特刊』金辺。柬埔寨中国和平統一促進会編(2003)、『華統論壇』第 1期(6月 28日)金辺。廖小健(1995)、「柬埔寨」(廖小健『戦後各国華僑華人政策』広州・曁南大学出版社)、149–159ページ。莫家耀(2000)、「柬埔寨華人近況」『八桂僑刊』(広西華僑歴史学会)第 3期(8月)、30–33ページ。王俊聖(2002)、「中国駐柬使館支援華教 /4年逾 14萬美元」(『柬埔寨星洲日報』5月 28日)。邢和平(2001)、「第二十三章 華人政策」(邢和平『柬埔寨三朝総理』金辺:柬埔寨華商日報社)、

188–193ページ。張曄(2001)、『東南亜華僑華人 歴史與現状』北京:旅游教育出版社。中国曁南大学華文学院・柬埔寨華人理事総会編(1995)、『華文 第十一冊』金辺。―(1995)、『華文 第十二冊』金辺。

[インターネット]『中国僑網』(2002)、「華文教育 柬埔寨潮州会館公立端華学校」、2003年 11月 12日、http://www.

hsm.com.cnよりダウンロード。

(のざわ・ともひろ 朋友柔道整復専門学校 E-mail: [email protected]

Page 22: カンボジアの華人社会 - JAAS40 アジア研究 Vol. 54, No. 1, January 2008 カンボジアの華人社会 華語教育の再興と発展 野澤知弘 はじめに 東南アジアで最大規模の華人学校がシンガポールやマレーシアなどではなく、実はカンボ

カンボジアの華人社会 61

【付録】 カンボジア華人理事総会の変遷史

華 語 教 育 活 動 社 会 奉 仕 慈 善 事 業 対 外 関 連 活 動

1990 総会理事らによるラナリット第 1首相(当時)、フンセン第 2首相(当時)、内務大臣蘇慶、如福記への表敬訪問

1991 政府の王宮前海神廟建設支援のため320万リエルを寄付

1992 買戻した端華中学大楼と協天大帝廟に 8教室を建造

1992 シハヌーク陛下および王妃を表敬訪問

1992.5 過去の華語教員を招集した「プノンペン華人学校授業再開委員会」が発足

1992.9 端華学校授業再開(1994年潮州会館が接収管理)

1993 西天念仏社の取戻し。客属会館には崇正学校、広肇会館には広肇学校の創設を、輝徳善堂には慈善組織化を通達

1994 鉄橋頭大火災およびバッタンバン州水害救援のための大規模な義捐金呼びかけ

1994.2 総会理事全員によるシハヌーク陛下への新年挨拶

1994.8 広州で開催の「海外華語教育交流会」に柬埔寨華語教育代表団を派遣 ※ 1

1995 カンボジア華人学校版教科書編集委員会が発足。中国広州曁南大学文学院との提携で同国華人学校に対応した《華文》《数学》の教科書、指導書、ワーク一式を編纂

1995.8 第 1回全国華語教員教育交流会を開催1995.12 ラナリット王子とフンセン首相が許鋭騰

永遠名誉会長と楊啓秋秘書長(当時)に接見

1996 教育省の承認を経て新教材を正式発行。華人学校での使用統一化が図られる

1996 ストゥントラエン州、クロチェ州、コンポンチャーム州、スヴァーイリアン州、プレイヴェーン州などの水害に対する組織的救援の呼びかけ

1996 中国国家教育委員会認定主催「世界華人少年作文コンクール」への参加を開始。同総会では 2000、2001年連続で組織賞獲得

1997.7 楊啓秋会長、倪良信名誉会長が中国政府主催香港主権行使回復記念式典出席

1997.8 全国教員夏期養成講習を開講(参加者 630名強)

1997.12 マレーシアで開催の「東南アジア華語教育研究討論会」に柬埔寨華語教育関係者代表団を派遣 ※ 2

1998 中国大洪水の罹災民援助のための義捐金呼びかけ

1998 柬埔寨華人青少年学生夏季キャンプ団による中国観光旅行、郷里訪問の開始

1998.6 香港新空港落成式に参加1999 華人学校中専師範(小学校教員養成)

クラスの設置1999 台湾で発生した 921地震罹災民に対

する援助2000 カンボジア水害の罹災民に対する救

援2000.8 国務院僑務事務室の招請で中国西部大開

発観光に参加2000.11 政府組織の中国国家主席江沢民夫妻訪

柬歓迎式典に参加(1万人強の華人学校学生、8龍獅団を動員)

2000.12 華人学校学生現地絵画コンテストの主催

2000.12 蔡迪華秘書長が楊啓秋会長を代表して中国政府主催マカオ主権行使回復記念式典出席

2001.3 第 1回大使賞華人学校学生作文コンクールを中国大使館と共催 2001.5 中国人民代表大会委員長李鵬夫妻訪柬歓

迎式典に参加

(注) ※ 1 :これ以降、継続的に上海や厦門などで開催の海外華語教育に関する交流会、研究討論会に参加。※ 2 :これ以降、継続的にフィリピンやタイで開催する同様の歴代会議に参加。

(出所) 柬埔寨華人理事総会編(2004)。