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東京外国語大学論集第 85 号(201251 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策 石田 和彦 はじめに 1. ユーロ危機の概観と政策対応の現状 2. ユーロ圏の経済構造の均質性の再検証 3. ユーロ圏の金融・財政政策運営の今後の課題 おわりに はじめに 2009 年秋のギリシャにおける「財政赤字隠し」の発覚に端を発した、欧州共通通貨ユーロの 動揺は、その後、ユーロ圏の他国へも波及し、「ユーロ危機」、あるいは「欧州金融危機」とも 呼ばれるような大きな問題にまで発展した。これに対して、ユーロ圏ないし EU 各国は、喫緊 の対応としては、危機に陥った国に対して緊急の財政・金融支援を実施して、ユーロ制度の崩 壊を防止するとともに、将来に亘ってユーロ制度を安定的に維持・運営するための抜本的な対 策の検討を進めてきた。 現時点 1) では、まだその対策の全容が固まっているわけでは必ずしもないが、いずれにして も、今回のユーロ危機の最大の原因が、一部の国の財政赤字問題であることから、危機に陥っ た国への緊急の支援・救済メカニズムと並んで、ユーロ圏各国に対する財政規律やその監視策 の強化が、対策の 1 つの中心となることは、ほぼ確かであろう。元々、EU 加盟国のユーロへ の参加に際しては、各種の厳しい条件が定められており 2) 、その中には「財政赤字の対 GDP 率が 3%以下」という条件が含まれている 3) 。そもそも、ユーロ参加国の一部の国 4) の財政規律 の緩みから、ユーロ圏全体が通貨危機や高インフレに見舞われることを事前に防止する目的で、 こうした規定が設けられたという歴史的経緯を考慮すれば、参加国の財政規律を確保する仕組 みの再建・強化が、ユーロ危機への抜本的対応策の中心になるのは、自然な結末のようにも思 われる。 しかし、一方で、ユーロという共通通貨の導入や、そのユーロを発行する欧州中央銀行(ECBによるユーロ圏内共通の金融政策運営の大前提となる、ユーロ圏各国の経済構造の「均質性」 は、ユーロ制度の発足から 10 年以上が経過した現時点でも、十分に満たされているかどうかは

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 51

ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策

石田 和彦

はじめに

1. ユーロ危機の概観と政策対応の現状

2. ユーロ圏の経済構造の均質性の再検証

3. ユーロ圏の金融・財政政策運営の今後の課題

おわりに

はじめに

2009 年秋のギリシャにおける「財政赤字隠し」の発覚に端を発した、欧州共通通貨ユーロの

動揺は、その後、ユーロ圏の他国へも波及し、「ユーロ危機」、あるいは「欧州金融危機」とも

呼ばれるような大きな問題にまで発展した。これに対して、ユーロ圏ないし EU 各国は、喫緊

の対応としては、危機に陥った国に対して緊急の財政・金融支援を実施して、ユーロ制度の崩

壊を防止するとともに、将来に亘ってユーロ制度を安定的に維持・運営するための抜本的な対

策の検討を進めてきた。

現時点1)では、まだその対策の全容が固まっているわけでは必ずしもないが、いずれにして

も、今回のユーロ危機の 大の原因が、一部の国の財政赤字問題であることから、危機に陥っ

た国への緊急の支援・救済メカニズムと並んで、ユーロ圏各国に対する財政規律やその監視策

の強化が、対策の 1 つの中心となることは、ほぼ確かであろう。元々、EU 加盟国のユーロへ

の参加に際しては、各種の厳しい条件が定められており2)、その中には「財政赤字の対 GDP 比

率が 3%以下」という条件が含まれている3)。そもそも、ユーロ参加国の一部の国4)の財政規律

の緩みから、ユーロ圏全体が通貨危機や高インフレに見舞われることを事前に防止する目的で、

こうした規定が設けられたという歴史的経緯を考慮すれば、参加国の財政規律を確保する仕組

みの再建・強化が、ユーロ危機への抜本的対応策の中心になるのは、自然な結末のようにも思

われる。

しかし、一方で、ユーロという共通通貨の導入や、そのユーロを発行する欧州中央銀行(ECB)

によるユーロ圏内共通の金融政策運営の大前提となる、ユーロ圏各国の経済構造の「均質性」

は、ユーロ制度の発足から 10 年以上が経過した現時点でも、十分に満たされているかどうかは

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52 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策:石田 和彦

疑問が残る。経済構造が十分に均質ではない状況で共通通貨・共通金融政策が実施された場合、

各国には景気・インフレ格差が生ずるが、そのギャップを埋めることは財政政策の課題である。

従って、財政政策に過度の規制を課すことは、こうした財政政策の基本的な調整機能を損ない、

却って、長期的にみたユーロ圏経済の安定性を阻害することにもなりかねない。

本稿は、こうした問題意識の下に、ユーロ圏諸国の経済構造の均質性が実際にどの程度充足

されているのかを、いくつかのデータから再検証し、それを踏まえて今後のユーロ圏の財政・

金融政策のあり方を検討することを試みたものである。まず、第 1 章では、ユーロ危機の発生

から、政策対応の現状に至るまでの経緯を概観する。次に、第 2 章では、 近までのデータを

用いて、ユーロ圏各国の経済構造の均質性がどの程度充足されているのかを再検証する。 後

に、第 3 章では、こうした検証結果に基づいて、ユーロ圏の財政・金融政策のあり方を検討す

る。

1. ユーロ危機の概観と政策対応の現状

ギリシャにおける 2009/10 月の政権交代の後、旧政権下で行われてきた財政赤字の隠ぺい工

作(財政赤字に関する統計の、一種の不正操作等)が明るみに出され、それまで財政赤字の対

GDP比率は3~4%程度で、ユーロ参加基準をほぼ満たしていると考えられて来たものが、実は、

2009 年で約 13%にも達していたことが判明した5)。これが、足許まで続く「ユーロ危機」ない

し「欧州金融危機」のそもそもの発端であった。こうした不正の発覚を受けて、金融市場では、

2009 年末頃からギリシャ国債の格付け引下げや、海外投資家のギリシャ国債に対する信認低下

が発生し、2010 年 4 月頃には、ギリシャ国債に対する売りが殺到して、国債価格が暴落(ギリ

シャ国債の金利が急騰)するに至った。

無論、類似の事態は、過去に他国でも生じており、このような場合、海外投資家の国債売り

→その国の通貨の売り→通貨価値の下落・暴落→その国の通貨危機、というパターンを辿るの

が通例である。一方で、市場メカニズムの観点から言えば、こうした通貨価値の下落は、その

国の国際競争力を向上させ、輸出の増加→輸出主導の景気回復→財政赤字の縮小、という、危

機からの回復メカニズムが働き始めることにもなる。しかし、ギリシャはユーロ圏の一員であ

り、その通貨は、ギリシャ独自の通貨6)ではなく、欧州共通通貨のユーロである。このことが、

その後の問題を大きく、かつ複雑なものにした。

まず、ギリシャ国債の売りは、ギリシャの通貨(ギリシャ国債はユーロ建て)であると同時

に欧州共通通貨であるユーロの売りに繋がり、ユーロの為替相場が円やドルに対して大幅に下

落した。自国の財政赤字等に大きな問題のない他のユーロ参加国からみれば、自国経済に何ら

問題はないにもかかわらず、突然の通貨価値下落に見舞われたこととなる。さらに、ギリシャ

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 53

国債は、①ユーロ建てであるため為替リスクがないこと、②ユーロ圏諸国の中では相対的に信

用力が低いため、ドイツ等の国債に比べ金利が高いこと、③そうは言っても、ユーロ制度の仕

組み上、財政赤字は GDP 比 3%程度に抑えられているはずであるため、大きなリスクはないと

みなされていたこと、等から、欧州他国の金融機関に大量に保有されていた。このため、ギリ

シャ国債価格の暴落は、ギリシャ国債を保有している欧州各国の金融機関の資産内容悪化をも

たらした。その結果、欧州の金融機関は、取引相手方の金融機関がどの程度の損失を抱えてい

るのか、あるいはどの程度のリスクを有しているのかに関して、一種の「疑心暗鬼」状態にな

り、ギリシャだけでなく、ユーロ圏全体の短期金融市場の機能停止に至ってしまった7)。

こうしたギリシャの問題に加えて、ギリシャにおける危機の発生は、ギリシャ以外のユーロ

圏諸国の中で同様に財政赤字が大きい国に対する信用不安を、金融市場で拡大させることとな

った。ギリシャも含めて通称「PIIGS」と言われる、ポルトガル、イタリア、アイルランド、

スペインが主にその対象であった8)。イタリアは、元々財政赤字体質が強く、ユーロ制度の創

設時にも、イタリアの財政赤字をいかにコントロールするかが大きな問題となったと言われて

いる。また、ポルトガルやスペインの経済構造は、ギリシャと共通する面が多く、後述のよう

にユーロ導入の結果として財政赤字が拡大せざるを得なかった面もある。金融市場は、これら

の国の財政赤字も粉飾されているのではないか、あるいは、国債の償還が順調に行われなくな

る可能性が高いのではないか、との疑念を増大させ、これら諸国の国債価格も下落(金利上昇)

傾向となった。当然のことながら、こうした事態は、これら諸国の国債を保有している欧州の

金融機関に対する信用不安を一段と拡大させた。

こうした 2009~2010 年にかけてのギリシャ危機は、IMF 及び他の EU 諸国が共同で、緊急

の対策としてギリシャに金融・財政支援(約 1,100 億ユーロの融資、等)を行うことで、一旦

は収束したかに見えた(2010 年 5 月)。その後、アイルランド(11 月)、ポルトガル(2011 年 5

月)に対しても同様の緊急支援が実施された。

しかし、2011 年に入ると、ギリシャへの緊急の金融・財政支援の条件である「抜本的な財政

赤字削減策」の進捗遅延が明らかとなってきた。すなわち、ギリシャ国内では、財政赤字削減

のための公務員数削減や年金削減等に反対するゼネストが生じ、政権が崩壊する等して、危機

が一気に表面化した。もし、支援条件を満たすことが出来ず、EU 等からの追加的な財政支援

が得られなければ、ギリシャ国債にデフォルト(債務の返済不能)が発生するおそれがあると

いうことで、危機の再燃へと至った(2011 年のギリシャ危機再燃)。

ギリシャにおけるこのような事態に対しては、紆余曲折の末に、ギリシャが緊縮的な財政政

策の維持を約束したこともあって、民間金融機関を巻き込んだ第 2 次支援(民間金融機関が保

有するギリシャ国債の一部を、自主的に債権放棄)が成立し(2011 年 7 月)何とか 悪の事態

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54 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策:石田 和彦

は回避された。しかし、これを契機に、「PIIGS」諸国等の国債に関する金融市場の見方はさら

に厳しくなり、ユーロ圏諸国の国債の相次ぐ格下げが実施された。また、ギリシャへの金融支

援が民間金融機関(特に、欧州の銀行)の参加を伴って行われたことで、今後、他の PIIGS 諸

国等で問題が発生した場合にも、民間金融機関に一定の負担(債権放棄)が求められる可能性

があるとの懸念が拡大し、金融機関の資産内容悪化に対する「疑心暗鬼」→短期金融市場の機

能低下・停止というリスクがさらに増大した。

こうしたことから、EU を中心に、包括的・抜本的な対応策に関する議論が進められた。議

論は、各国の考え方の相違や利害対立、さらには、各国の財政制度の違いなどもあって、様々

な紆余曲折を経たが、 終的には、ほぼ以下のような形で対策が固まり、欧州金融市場は小康

状態を保っている。

① 緊急・一時的対策としての金融支援を強化すること。そのために、特別のファンドを設

けること(ギリシャへの緊急支援のために 2010 年 5 月に創設された「欧州安定化基金

(EFSF)」を、恒久的な仕組みである「欧州安定メカニズム(ESM)」に移行)。

② 抜本的な対策として、ユーロ参加国の財政赤字に関する監視体制を強化すること。

③ 短期金融市場の機能低下に対しては、緊急対応として ECB が強力な流動性供給(一種

の、量的金融緩和)を行うこと。

④ 資産内容の悪化した金融機関に対しては、公的資金投入等も含めた支援を実施し、金融

システムの安定化を図ること。その一環として、ユーロ圏全体での銀行監督の統合も、1

つの可能性として検討すること。

しかし、このような一連の政策対応で、本当にユーロ圏の問題を克服できるか、というのが

本稿の問題意識である。特に、本稿が問題とするのは、②の財政赤字に対する監視の強化であ

る。財政赤字の監視強化は、確かに、加盟国の財政規律を維持し、非効率な構造的財政赤字の

発生を抑制する効果はあるものと考えられるが、同時に、財政政策による景気調整機能を失わ

せてしまう可能性がある。「ユーロ」という共通通貨の下で、各国に ECB による共通の金融政

策が実施されるユーロ圏においては、各国間の経済構造が十分に均質でない限り、その差異に

起因する成長率やインフレ率格差が発生し、それを埋めるため、財政政策による景気調整機能

が不可欠と考えられる。そうした機能を欠いたままでは、ユーロ圏内で成長率・インフレ率に

大きな差が生じたり、その結果、一部の国がスタグフレーション的状況に陥ったりして、ユー

ロ圏全体の経済政策運営が行き詰る可能性もある。

以下では、まず、こうした問題意識に基づき、いくつかのデータから、ユーロ圏の経済構造

の均質性を再検証することとしたい。

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 55

2. ユーロ圏の経済構造の均質性の再検証

そもそも、共通通貨・共通金融政策導入の前提条件が、「加盟国の経済構造や外的ショックに

対する反応等が相当程度に均質であること」なのは言うまでもないであろう9)。仮に、加盟国

の経済構造が均質でない下で共通の通貨・金融政策を導入した場合、共通の金融政策(単一の

金利水準)が「緩和的」になる国と、「引締め的」になる国が生じ、その結果、各国の景気動向

やインフレ率に格差が生ずる可能性が高い。さらに、こうした成長率・インフレ率格差が、各

国の労働市場等の硬直性と相俟って、スタグフレーション的な状況を発生させ、域内の政策運

営を一段と困難にするリスクも否定できない。

では、ユーロ圏諸国は、こうした均質性の条件をどこまで満たしているのであろうか。この

点に関し、石田・森本・森[2004]は、ユーロ圏各国における成長率と物価の関係(フィリッ

プス曲線、NAIRU)の観点から均質性を実証的に検証し、以下のような結論を導いている。

① ユーロ圏諸国には、成長率と賃金・物価の関係に依然大きな差異が存在する

② そうした格差が存在する下での単一の金融政策運営は、金融政策が過度に緩和的になって

いる国と、引締め過ぎの国を作り出し、これが賃金・物価の下方硬直性などの非対称性と

相俟って、ユーロ圏全体での成長率低下とインフレ率の高止まりの並存を生じさせる可能

性がある

③ 従って、景気循環局面での各国間での成長率や失業率格差をエリア全体に跨る財政政策で

埋めるようなメカニズムが必要である。

第 1 章で概観したような、ギリシャの財政赤字問題に端を発する一連のユーロ危機の流れを

みると、ユーロ導入後間もない 2004 年の時点での同論文のこうした結論は、現時点で振り返っ

ても極めて妥当なものであったように窺われるが、そこでの実証分析に用いられているデータ

は、ユーロ導入直後の 2002 年までのものである。その後、10 年以上の期間に亘り、現実に、

共通通貨ユーロの下で各国経済が運営され、統一の金融政策が実施されてきたことを考えれば、

この間に、経済構造の均質化が進んだり、外的なショックに対する反応の同質性が高まってい

る可能性も、十分に考えられる。

そこで、以下では、現時点でのユーロ圏経済の均質性を再検証することとしたい。

2.1. ユーロ圏主要国の成長率・インフレ率格差

まず、出発点として、ユーロ圏主要国の成長率、およびインフレ率(HICP10)ベース)がどの

程度連動しているのかを確認しておこう(図 1、図 2)。図 1 をみると、各国の GDP 成長率に

は、依然として大きな格差が存在することがわかる。例えば、米国の IT バブル崩壊後の 2001

~2003 年頃にかけての成長率の動きをみると、ドイツやオランダ、フランス等が米国の景気後

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56 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策:石田 和彦

(図 1) ユーロ圏主要国の GDP 成長率

(1)独・仏・蘭

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

ユーロ圏(12カ国)

ドイツ

フランス

オランダ

(2)PIGS

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

ユーロ圏(12か国)

ギリシャ

スペイン

イタリア

ポルトガル

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 57

(図 2)ユーロ圏主要国のインフレ率(HICP 前年比)

(1)独・仏・蘭

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

ユーロ圏(17か国)

ドイツ

フランス

オランダ

(2)PIGS

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

ユーロ圏(17か国)

ギリシャ

スペイン

イタリア

ポルトガル

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58 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策:石田 和彦

退の影響を受けて、成長率を大きく低下させているのに対して、スペインやギリシャは、比較

的高めの成長率を維持している。しかし、世界経済の成長が続いた 2006~2007 年頃にかけては、

逆に、ドイツ、オランダ、フランス等の成長率が上昇する一方で、PIIGS 諸国には、その恩恵

は余り及んでいないように窺われる。また、当然のことであるが、いわゆるリーマン・ショッ

ク後の落ち込みは、ドイツ等の方が大きい。このように、世界経済の変動を受けたユーロ圏各

国の景気循環の動きには、通貨統合から 10 年を経た近年においても、大きな差異が存在する。

一方、インフレ率をみると(図 2)、ユーロ圏全体では、「2%程度」を物価安定の定義とし、

それを目標に ECB が金融政策運営を行ってきた結果、いわゆるリーマン・ショック時の急変

動を除けば、2%をやや上回る程度のインフレ率が維持されてきている。しかし、国によるイン

フレ率格差は依然として大きい。特に、PIIGS 諸国の中の、スペインやギリシャ、ポルトガル

等では、インフレ率が高止まりする傾向にある。一方、ドイツのインフレ率は、いわゆるリー

マン・ショック時の急変動を除けば、2%を下回っている。

このように、ユーロ圏主要国には、依然として、大きな成長率やインフレ率の格差が存在し

ており、経済構造の均質化が進展したようには、窺われない。このような格差が存在するのは、

①各国における成長率・失業率とインフレ率の関係(いわゆるフィリップス曲線)や、②外的

なショックに対する反応度合いに、依然として大きな差が存在するためと考えられる。以下で

は、この点を確認する。

2.2. ユーロ圏主要国におけるフィリップス曲線

ユーロ圏主要国における成長と物価の構造的な関係を確認するために、各国におけるフィリ

ップス曲線(ここでは、失業率とインフレ率の関係で描いている)を示したのが図 3 である。

言うまでもなく、もし、失業率とインフレ率の間に、少なくとも短期的に、トレード・オフの

関係があれば、図 3 の散布図において各点は右下がりに並ぶ傾向を示すはずであり11)、また、

トレード・オフの関係が強いほど、その傾きは緩やかになるものと考えられる(僅かなインフ

レ率の上昇を許容することで、大幅に失業率を低下させることができる)。

図 3 をみると、ユーロ圏全体では、ある程度右下がりの安定した関係が存在するようにみえ

るが、各国ごとにみると、その差は依然として大きく、各国における成長と物価の関係の均質

化は余り進んでいないように窺われる。例えば、フランスやオランダでは、ある程度右下がり

の関係がみられるが、その傾きは大きい。ドイツでは、そもそも右下がりの関係があまり明確

ではない12)。すなわち、これら諸国では、インフレ率と失業率の間のトレード・オフ関係はあ

まり強いものではないものと考えられる。

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 59

(図 3)ユーロ圏主要国のフィリップス曲線

(1)ユーロ圏 17 カ国

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0

失業率

インフレ率

(2)ドイツ

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0

失業率

インフレ率

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60 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策:石田 和彦

(3)フランス

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 11.5

失業率

インフレ率

(4)オランダ

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0

失業率

インフレ率

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 61

(5)ポルトガル

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0

失業率

インフレ率

(6)イタリア

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0失業率

インフレ率

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62 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策:石田 和彦

(7)ギリシャ

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 11.5 12.0

失業率

インフレ率

(8)スペイン

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

7.0 9.0 11.0 13.0 15.0 17.0 19.0 21.0 23.0

失業率

インフレ率

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 63

一方、スペインやイタリア、ポルトガルでは、右下がりの関係がかなり明確に看取され、そ

の傾きも緩やかである。ギリシャでも、一部の異常値とみられる点を除けば、右下がりの関係

がみられる13)。すなわち、これらの国で、ユーロ圏全体での目標に即したインフレ率の引き下

げを実現しようとすれば、失業率の大幅な上昇が必要であることが示唆される。実際、散布図

からも看て取れるように、「2%のインフレ率」に対応する各国の失業率は、ギリシャやスペイ

ン、イタリアでは 10%台の高いものになっている。

このようにフィリップス曲線の傾きに国ごとに依然として大きな差が存在するもとで、2%イ

ンフレ率の実現を目標としたユーロ圏共通の金融政策が運営されると、ギリシャ、スペイン、

イタリア等の国では、失業率が大幅に上昇する。この結果、特に景気刺激のための積極財政策

等を採らない場合でも、失業保険給付等の増加を通じて財政支出が増加し、財政赤字拡大要因

になるものと考えられる14)。

さらに、雇用の安定化を目指して失業率の引き下げを図るためには、景気刺激を目的とした

積極的・意図的な財政支出の増加が必要となる場合もあろう。実際、これらの国の散布図をみ

ると、点の大半は、インフレ率が 2%を超える部分に分布している。すなわち、2%のインフレ

率目標に対応する高い失業率は容認できない→しかし、金融政策はユーロ圏共通なので個別国

には対応しない→結果として、財政面から景気を支えて失業率を引き下げるしかない、という

形で、目標より高めのインフレ率と財政赤字の拡大が並存してきた可能性が高いものとみられ

る。

言い換えれば、第 1 章でみたように、これらの国で財政赤字が増大し、結果として危機に見

舞われたのは、このように均質化が進んでいない中で金融政策のみが統一的に運営されてきた

こと自体が、その一因であるものと考えられるのである。

さらに、こうしたフィリップス曲線等の経済構造の差異に基づく、各国のインフレ率格差の

持続は、長期的にみると、ECB による統一金融政策の運営を一層困難にする可能性が高いこと

にも注意が必要である。すなわち、各国間で、ある程度構造的なインフレ率格差が持続する結

果、各国の「物価水準」の間の乖離は拡大して行く。実際、ユーロ導入直前の 1998 年時点を

100 とする各国の物価水準(HICP ベース)の変動をグラフにしてみると(図 4)、時間の経過

に連れて、物価水準の乖離が大幅に拡大していることがわかる。実際、 も物価上昇の小さい

ドイツと、 も大きいギリシャの間には、2010 年時点で約 2 割という大幅な水準の差が生じて

いる。

各国がそれぞれ独自の通貨を用いている場合、こうした国ごとの物価水準の差は、国際的に

見れば、長期的には為替レートの変動で調整されるはずである。例えば、物価水準が上昇した

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64 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策:石田 和彦

(図 4)ユーロ圏主要国の物価水準(1998 年=100)

(1)独・仏・蘭

100.00

105.00

110.00

115.00

120.00

125.00

130.00

135.00

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

ユーロ圏(17か国)

ドイツ

フランス

オランダ

(2)PIGS

100.00

105.00

110.00

115.00

120.00

125.00

130.00

135.00

140.00

145.00

150.00

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

ユーロ圏(17か国)

ギリシャ

スペイン

イタリア

ポルトガル

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 65

国では、為替レートが減価し、それによって、対外的な競争力が維持されるというのが、市場

メカニズムの働きである。しかし、共通の通貨を用いるユーロ圏においては、このような為替

レート変動による調整が働く余地はない。従って、ギリシャ、スペイン、ポルトガルのような

ユーロ圏内で相対的にインフレ率の高い国の国際競争力は次第に低下していく。その結果、輸

出の減少や輸入の増加が生じ15)、景気の押し下げ要因となる。すなわち、これら諸国では、為

替レート調整が働かない結果として、インフレ率の高止まりと不況の併存という、一種のスタ

グフレーション的な状況が生じやすくなっているのである。こうした状況に政策的に対応する

ためには、財政支出の増加が必要であり、その結果、さらに財政赤字状況が悪化するという悪

循環が生じてきていた可能性も、十分に考えられるのである。

2.3. 外生的なショックに対する反応と景気循環

後に、経済に対して外生的なショックが加わった場合の、それに対する反応が、ユーロ圏

諸国でどの程度同質化しているかを、確認しておこう。もし、ショックに対する各国経済の反

応に同質性が高いのであれば、ショックの結果、各国にはほぼ同様の景気循環が生ずるものと

考えられ、統一金融政策の運営はそれだけ容易になるはずである。一方、同質性が低い場合に

は、各国の景気循環局面と金融政策スタンスに乖離が生じやすく、その結果、成長率やインフ

レ率の格差も大きくなるものと考えられる。

経済に対する外生的なショックには、無論、様々なものが考えられるが、ここでは、実際に

近年の世界の景気循環を大きく規定してきた要因である、米国経済動向に対する反応度合いを

みることとした。具体的には、ユーロ圏主要国の輸出の、米国 GDP 成長率に対する連動度合

いを比較してみた(図 5)。

図 5 を見ると、大きくみれば、どの国の輸出も、米国の成長率にほぼ連動しているように見

える。特に、いわゆるリーマン・ショック後は、米国の成長率の落ち込みにほぼ並行して、各

国の輸出が大きく落ち込んでおり、一見、連動性が高まったように窺われる。しかし、グラフ

を仔細にみると、その連動度合いには、依然として国により差異があることがわかる。総じて

言えば、ドイツ、オランダ等の連動性が高く、ポルトガル、ギリシャ、スペイン等は低い。ド

イツ、オランダ等が、国際競争力を持つ製造業を有し、米国市場(ないしは、世界市場)に向

けて多くの製品を輸出しているのに対して、PIIGS 諸国にはそうした製造業が少ないことを考

えれば、こうした傾向は当然のこととも言えよう16)。

注目すべきは、ユーロ導入以降、こうした米国経済との連動性が、各国間で同質化してきた

か否かである。この点を確かめるために、期間を区切って、各国の輸出の増加率と米国の GDP

成長率の間の相関係数を計算してみたのが、表 1 である。まず、通期(1996 年 1Q~2012 年 2Q)

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66 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策:石田 和彦

(図 5)米国経済とユーロ圏主要国の輸出の連動性

(1)ドイツ

-12.0

-10.0

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

1996Q1

1996Q3

1997Q1

1997Q3

1998Q1

1998Q3

1999Q1

1999Q3

2000Q1

2000Q3

2001Q1

2001Q3

2002Q1

2002Q3

2003Q1

2003Q3

2004Q1

2004Q3

2005Q1

2005Q3

2006Q1

2006Q3

2007Q1

2007Q3

2008Q1

2008Q3

2009Q1

2009Q3

2010Q1

2010Q3

2011Q1

2011Q3

2012Q1

-3.0

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

ドイツの輸出増加率

米国GDP成長率

(2)フランス

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

1996Q1

1996Q3

1997Q1

1997Q3

1998Q1

1998Q3

1999Q1

1999Q3

2000Q1

2000Q3

2001Q1

2001Q3

2002Q1

2002Q3

2003Q1

2003Q3

2004Q1

2004Q3

2005Q1

2005Q3

2006Q1

2006Q3

2007Q1

2007Q3

2008Q1

2008Q3

2009Q1

2009Q3

2010Q1

2010Q3

2011Q1

2011Q3

2012Q1

-3.0

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

フランスの輸出増加率

米国GDP成長率

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 67

(3)オランダ

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

1996Q1

1996Q3

1997Q1

1997Q3

1998Q1

1998Q3

1999Q1

1999Q3

2000Q1

2000Q3

2001Q1

2001Q3

2002Q1

2002Q3

2003Q1

2003Q3

2004Q1

2004Q3

2005Q1

2005Q3

2006Q1

2006Q3

2007Q1

2007Q3

2008Q1

2008Q3

2009Q1

2009Q3

2010Q1

2010Q3

2011Q1

2011Q3

2012Q1

-3.0

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

オランダの輸出増加率

米国GDP成長率

(4)ポルトガル

-10.0

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

1996Q

1

1996Q

3

1997Q

1

1997Q

3

1998Q

1

1998Q

3

1999Q

1

1999Q

3

2000Q

1

2000Q

3

2001Q

1

2001Q

3

2002Q

1

2002Q

3

2003Q

1

2003Q

3

2004Q

1

2004Q

3

2005Q

1

2005Q

3

2006Q

1

2006Q

3

2007Q

1

2007Q

3

2008Q

1

2008Q

3

2009Q

1

2009Q

3

2010Q

1

2010Q

3

2011Q

1

2011Q

3

2012Q

1

-3.0

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

ポルトガルの輸出増加率

米国GDP成長率

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68 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策:石田 和彦

(5)イタリア

-15.0

-10.0

-5.0

0.0

5.0

10.0

1996Q

1

1996Q

3

1997Q

1

1997Q

3

1998Q

1

1998Q

3

1999Q

1

1999Q

3

2000Q

1

2000Q

3

2001Q

1

2001Q

3

2002Q

1

2002Q

3

2003Q

1

2003Q

3

2004Q

1

2004Q

3

2005Q

1

2005Q

3

2006Q

1

2006Q

3

2007Q

1

2007Q

3

2008Q

1

2008Q

3

2009Q

1

2009Q

3

2010Q

1

2010Q

3

2011Q

1

2011Q

3

2012Q

1

-3.0

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

イタリアの輸出増加率

米国GDP成長率

(6)ギリシャ

-15

-10

-5

0

5

10

15

1996Q1

1996Q4

1997Q3

1998Q2

1999Q1

1999Q4

2000Q3

2001Q2

2002Q1

2002Q4

2003Q3

2004Q2

2005Q1

2005Q4

2006Q3

2007Q2

2008Q1

2008Q4

2009Q3

2010Q2

2011Q1

2011Q4

-3.0

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

ギリシャの輸出増加率

米国GDP成長率

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 69

(7)スペイン

-10.0

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

1996Q1

1996Q3

1997Q1

1997Q3

1998Q1

1998Q3

1999Q1

1999Q3

2000Q1

2000Q3

2001Q1

2001Q3

2002Q1

2002Q3

2003Q1

2003Q3

2004Q1

2004Q3

2005Q1

2005Q3

2006Q1

2006Q3

2007Q1

2007Q3

2008Q1

2008Q3

2009Q1

2009Q3

2010Q1

2010Q3

2011Q1

2011Q3

2012Q1

-3.0

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

スペインの輸出増加率

米国GDP成長率

(表 1)ユーロ圏主要国の輸出と米国 GDP 成長率の相関係数

1996Q1~2012Q2 2001Q1~2012Q2 2006Q1~2012Q2

ドイツ 0.484 0.613 0.720

フランス 0.579 0.619 0.757

オランダ 0.550 0.564 0.767

ポルトガル 0.340 0.517 0.682

イタリア 0.479 0.648 0.733

ギリシャ 0.301*. 0.279 0.322

スペイン 0.486 0.479 0.677

* ギリシャは、2000Q1~

の計数を見ると、グラフの観察結果通りに、ドイツ、フランス、オランダの方が、ポルトガル

やギリシャ、スペイン等よりも高い。一方、ユーロ統合後の変化をみる意味で、2001 年 1Q~

2012 年 2Q の期間の計数をみると、多くの国で連動度合いが高まっており、PIIGS の中でも、

イタリアやポルトガルはそれなりに計数が上昇しているが、スペインは余り上昇していない。

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70 ユーロ圏の経済構造の均質性と財政・金融政策:石田 和彦

ギリシャに関しては、データの制約があるが、2000 年 1Q 以降の計数や、リーマン・ショック

の影響の大きい 2006 年 1Q 以降の計数をみても、ほとんど計数が変化してないことからみて、

やはり、統合後にも連動性は余り変わっていないものと推察される。

このように、外生的なショック(ここでは、米国経済の変動)に対するユーロ圏各国の反応

は、依然として国により差異が存在し、その差異は、通貨統合後も必ずしも縮小はしていない。

このような状況の下では、ショックに対応した景気循環の動向が、各国によって異なることと

なる。その下で共通の金融政策運営が行われれば、例えば、マイナスの外生的ショックが生じ

た場合、その影響が大きい国では、金融緩和が不足して不況や景気後退に陥りやすくなる一方

で、ショックの影響の小さい国では、逆に緩和が行き過ぎて、景気過熱やインフレ率が高まる

可能性が高い。こうした形で、ユーロ圏諸国間の成長率やインフレ率には格差が発生し得る。

3. ユーロ圏の金融・財政政策運営の今後の課題

第 2 章でみてきたように、ユーロ圏主要国の経済構造は、通貨統合から 10 年以上を経た現時

点においても、依然として大きく異なっている可能性が高い。しかも、今後、さらにユーロ加

盟国が増加すれば、こうした差異は一段と拡大していくことも考えられる。

前述のように、通貨統合や統一金融政策がうまく機能するためには、加盟国の経済構造や外

的ショックに対する反応等が相当程度に均質であることが、不可欠な前提条件である。ユーロ

圏は、既に「事実」として通貨統合と統一金融政策の導入を実施してしまったにもかかわらず、

実は、こうした前提条件が十分には満たされていない可能性が高い。

このため、米国の景気変動のような外生的ショックが生じた場合、それに対する反応の違い

によって各国の実体経済活動の動向や景気循環局面に差が生じ、それぞれの国で異なったマク

ロ経済政策対応が求められる局面も多い。しかし、このような場合でも、金融政策は共通であ

り、ユーロ圏の「平均的」な景気・物価動向に対応して運営されざるを得ない(通貨が共通の

下では、例えば、一部の国の景気が悪いからと言って、それらの国だけ金利を下げられないの

は言うまでもない)。

また、成長率と物価の関係が各国で依然として大きく異なる中で、単一のインフレ目標を掲

げて金融政策が運営されれば、そのこと自身が、国ごとの成長率や失業率の格差を生み出すこ

とに繋がる。

この様な場合、純粋に、経済理論だけから考えれば、「だから、ユーロなど止めてしまえばよ

い」という結論が導かれるのも自然なことである。実際、ユーロ危機発生以降、急速に増加し

たように見えるユーロに対する懐疑論者の中には、一部の極端な「ユーロ解体論」のようなも

のも含めて、こうした主張も見られるようである。そこまで極端にならなくとも、ギリシャの

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東京外国語大学論集第 85 号(2012) 71

離脱、あるいは、ポルトガルやスペインも離脱することを主張する(あるいは、放っておいて

もいずれは離脱せざるを得なくなる、といった見方)向きは少なくない。

しかし、現実には、ユーロ圏の解体が容易に行い得るとは考えにくい。仮に、ある国が離脱

を決定すれば、その瞬間から、離脱後のその国の通貨価値下落を見込んで、その国金融システ

ムからの預金の流出(ユーロ現金化、ないし他のユーロ圏銀行への移転)が始まり、金融シス

テムは大混乱に陥ることが想定される。また、現に、ユーロ建てで発行され、国際市場で流通

している国債や社債等の扱いをどうするかも、大きな問題である17)。さらに言えば、「通貨統合

は、単なる経済的な問題ではなく、ヨーロッパの恒久平和に向けた重要な道筋」という高尚な

理想を棄て去ってしまうことへの抵抗感も大きいものと予想される18)。

従って、現時点で必要とされているのは、こうしたユーロ圏各国間の経済構造や、外生的シ

ョックに対する反応度合いに依然として存在する大きな差異を認めつつ、その中で、ユーロ圏

の適切なマクロ経済政策運営を模索することである。その際に鍵となるのが、財政政策である

ことは言うまでもない。即ち、統一金融政策の下で、前述のような理由から生ずる国ごとの経

済動向の差異には、財政政策が対応することが必要である。このことは、一国内での景気の地

域間格差を埋めるのは、金融政策ではなく財政政策であることを考えれば、現行の至極当然の

ことと言えよう19)。

しかし、現実のユーロ圏の財政政策は、「原則として GDP 比 3%以下」というユーロ統合の

ための財政赤字基準で縛られて、こうした調整のために発動する余地が乏しいのが実情である。

こうした基準の下では、2009 年以前のギリシャのように、様々な会計・金融的操作をして表面

上の財政赤字を小さく見せかけながら財政政策発動を行うこと(言わば、「闇の」財政政策発動・

赤字拡大)も考えうるが、こうした政策には持続性がない。極論すれば、現行のユーロの制度

には、各国ごとの経済構造の差と、その下で行われる共通金融政策に起因する、各国の景気・

物価動向の差を均すメカニズムが備わっていないのである。

構造的な財政赤字や、その原因となっている財政運営の非効率性をカットすることは重要で

あるが、必要な場合には、機動的に財政政策を発動して、統一金融政策から生ずる成長率格差

や失業率格差に対応することも不可欠である。このように考えれば、現行の機械的な「3%基準」

は、大幅に見直すことが必要であり、非効率なまま財政赤字を拡大させがちな国に対する抑止

力としての「3%基準」と、地域間調整のための財政赤字の格差を認めるような制度の接点を探

るべきであろう。

具体的には、 も望ましいのは、財政政策も、金融政策同様にユーロ圏で共通化し、単一の

意思決定主体が、ユーロ圏全体での財政赤字比率には配意しつつ、その各国への分配を行うこ

とであろう。しかし、各国政府が徴税や支出の権限を容易に手離すことは、現実的には考えに

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くい。従って、分野を、景気・物価変動の調整策としてのマクロ財政政策に限定し、こうした

目的のために、ユーロ圏共通の財政資金プールのようなものを設置し、その運営のための統一

機関(金融政策における ECB のようなもの)を置くことが、1 つの解決策ではないかと考えら

れる20)。

こうした抜本的な政策対応がないと、今回の危機は、緊急の対策で何とか収めることができ

たとしても、いずれ、また同じ問題が生ずるおそれが強い。

おわりに

後に、本稿での考察から得られた結論を簡単に要約しておくと、以下のようになる。

① 通貨統合から 10 年以上の時間を経た現時点でも、ユーロ圏各国の経済構造(成長と物価の

関係や、外生的なショックに対する反応度)には依然として大きな差異が存在し、その結果、

各国間の成長率やインフレ率格差も依然として大きい。

② このように経済構造が十分に均質的でない中で、2%のインフレ率を目標にユーロ圏共通の

金融政策が実施されてきた結果、PIIGS 諸国等では失業率が高止まりし、それが財政赤字の増

加要因になって、ユーロ危機発生の一因となっている可能性がある。

③ ユーロ圏各国の経済構造が依然として十分に均質化していないことを前提に考えると、そ

うした非均質性と統一金融政策の組み合わせによって生ずる各国間の成長率やインフレ率格差

は、財政政策が埋める必要がある。

④ 従って、問題国の財政赤字を抑制するために、単に、財政赤字規律やその監視を強化する

だけの危機対策では、長期的にみて、将来再び危機が発生したり、ユーロ制度が不安定化する

危険性を取り除くことは出来ない。

⑤ ユーロ制度を安定的に機能させるためには、財政の非効率性や構造的な財政赤字の増加を

排除しつつも、財政政策による調整機能が円滑に働くための仕組みを作る必要がある。財政政

策全体をユーロ圏で統合することは無理としても、マクロ財政政策機能のための一定の財政資

金プールを設け、それを ECB と同じ様なユーロ圏統一の意思決定主体が管理して、独立的な

財政政策運営を行うことは、そうした仕組みの一案ではないかと考えられる。

1) 本稿の 終執筆は、2012 年 11 月 1 日。 2) 経済構造がユーロ圏各国とほぼ均質であることを形式的に確認するもので、convergence criteria と呼ばれる。

基本的には、以下の 4 条件の充足が必要である。 ①インフレ率が、ユーロ圏で もインフレ率が低い 3 カ国の平均から 1.5%以内であること。 ②長期金利(10 年物国債)が、同じ 3 カ国の平均値から 2%以内であること。 ③ユーロとの為替相場の安定

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④財政赤字が GDP 比 3%以下、かつ政府債務残高が同 60%以下であること。 3) 無論、加盟後の事態の変化等に対する、いくつかの例外規定は存在している。 4) ユーロ創設当初の頃には、こうした国の代表として、イタリアが想定されていたと言われている。 5) その後の欧州統計局の発表では、財政赤字幅はさらに拡大した。 6) ユーロ導入前のギリシャの通貨は「ドラクマ」と呼ばれていた。現在でも、ギリシャのユーロ離脱を主張す

る議論の中では、「ドラクマ復帰」等の表現がしばしば登場する。 7) この点に関しては、元々、アメリカ発のサブプライム問題(いわゆる、リーマン・ショック)の処理がまだ

完了していない処へ、新たな危機が発生したため、必要以上に不安が増大した側面もあると言われている。 8) 当初はユーロ圏の南欧諸国(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)の頭文字をとって PIGS と言わ

れた。後に、アイルランドの国債にも問題が生じたことから、I が 1 つ加わって PIIGS とも称されるように

なった。ただ、アイルランド国債の問題には、いわゆるリーマン・ショックにより、短期資金に依存した金

融立国政策が破綻したという背景もあり(その意味では、リーマン・ショック後のアイスランドの問題に近

い)、他の国とはやや異質な面もある。 9) 理論的に言えば(いわゆる 適通貨圏の理論)、仮に経済構造が均質でなくとも、資本・労働の異動が自由

であれば、それらの移動によって格差は解消に向うはずである。ユーロ圏は、形式的には、資本や労働の異

動の自由という条件を満たしている。しかし、実際には、各国ごとの言語、文化、習慣や労働慣行等の差異

が依然大きく、労働力はスムーズには移動しないと言われている。 10) Harmonised Index of Consumer Prices:物価指数作成にかかる算式・定義等を統一した、EU 圏共通の消費

者物価指数。 11) 図 3 には、参考として、各点のデータから推計された回帰式を直線で示してある。 12) 回帰式を当てはめると、一応係数はマイナスになるが、適合度はきわめて低い。 13) 図 3 では、ギリシャ危機発生後のデータを除いてある。 14) こうした財政支出の増加は、通常、built-in stabilizer と呼ばれるものである。 15) 実際には、これらの国は余り有力な輸出型製造業を有しておらず、国際競争力の低下で主要製品の輸出減に

陥ったというよりも、コスト増から、下請け的な生産が、よりコストの低い東欧とに移転したことの影響が

大きかったものとみられる。また、これら南欧諸国においては、観光・サービス業も重要な産業となってお

り、物価上昇で、北欧等からの観光客にとって、これらの国での休暇が割高になったことも影響も無視でき

ないものと考えられる。 16) 因みに、各国ごとに輸出と米国 GDP を変数とする簡単な 2 変数 VAR を推計し、米国 GDP に対する各国の

輸出の累積インパルス反応関数を描いてみたものが、図 6 である。こうした推計結果には十分な幅を持って

みる必要があるのは言うまでもないが、図 6 をみても、共通の外生的なショックに対する各国の輸出の反応

には、依然として大きな差異が存在することが推察されよう。 17) 例えば、ギリシャの企業がユーロ建てで発行した社債を、万が一、ギリシャがユーロを離脱した場合にどの

ように扱うかの問題。ギリシャの銀行にある預金と同様に、離脱時点でギリシャ独自通貨に変換することに

すれば、海外投資家が大きな損失を被ることになる。一方で、原債務がユーロ建てなのだからあくまでもユ

ーロで償還することを求めれば、デフォルトが多発しかねない。 18) 実際、ドイツやオランダ等の国民が、南欧諸国救済のために大きな負担を求められることに大きな不満を持

ちつつも、 終的には、救済策が政治的に認められてきたことの背景には、こうした「政治的理想」の存在

が大きいものと推察される。 19) 因みに、わが国では、構造改革路線以降の財政効率化・赤字削減の中で、財政政策のこうした調整機能が著

しく低下させられた結果、地域格差やそれに伴う所得格差の問題が拡大しているものとみられる。 20) ESM の創設は、こうした方向に向けた 1 つのステップと言うこともできるが、本当に必要なのは、危機対応

のための基金だけではなく、第 2 章でみた様なユーロ圏の非同質性から頻繁に発生する景気格差を調整・平

準化するために、経常的な財政支出をユーロ圏各国間で機動的に配分する仕組みである。

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(図 6)米国 GDP の変化に対するユーロ圏主要国の輸出の反応

──VAR 推計に基づく累積インパルス応答関数

(1)独・仏・蘭

0

0.01

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0.05

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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

ユーロ圏

ドイツ

フランス

オランダ

(2)PIIGS(データ数の少ないギリシャは除外)

0

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0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

0.08

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

ユーロ圏

スペイン

イタリア

ポルトガル

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参考文献

石田和彦・森本喜和・森知子、2004、「景気循環と欧州中央銀行の金融政策」、下記『欧州中央銀行金融政策とユ

ーロ』所収 田中素香・春井久志・藤田誠一編、2004、『欧州中央銀行の金融政策とユーロ』、有斐閣 田中素香、2010、『ユーロ──危機の中の統一通貨』、岩波書店 馬場啓一・木村福成・田中素香編、2010、『検証・金融危機と世界経済』、勁草書房

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Homogeneity of the Economic Structure in the Euro Area and the Challenges for Monetary and Fiscal Policy

ISHIDA Kazuhiko

Given the fact that the current crisis of the Euro system has been caused by the excessive

fiscal deficits of the several member countries often called as PIIGS, it seems inevitable that the

proposed prescriptions proposed for it include stricter control and monitoring of fiscal deficits.

However, if the homogeneity of the economic structure among the member countries, which

theoretically is the optimal condition for the unified currency and monetary policy, is not

sufficiently fulfilled, the single monetary policy of ECB for all the member countries would result

in a significant discrepancy of economic activities, such as growth, unemployment and inflation.

In such a case, it is an essential role for fiscal policy to reduce this discrepancy by flexibly

changing the level of fiscal expenditures. The proposed stricter control of deficits is likely to

severely restrict this important adjustment mechanism by fiscal policy.

In this context, this paper examines the extent of the homogeneity of economic structure

among the Euro area countries. Homogeneity is checked mainly in two aspects, that is; i) the

relation between unemployment rates and inflation rates (the Phillips curve), and ii) the response

of the economic activities to external shocks. For the latter, the response of exports to the

developments in the US economy is tested. The data shows that in both aspects the Euro area

countries are not yet sufficiently homogeneous, even though more than ten years have passed

since the introduction of the Euro. In fact, a significant discrepancy in GDP growth rates and

inflation rates exists among the member countries, and at least a certain part of the discrepancy is

likely to have been caused by the combination of the non-homogeneity of the Phillips curves and

the single monetary policy aiming at relatively low inflation rates of around two per cent.

These findings suggest that the prescriptions for the Euro crisis should include a mechanism

for fiscal policy to flexibly adjust the expenditures so as to fill the gaps in growth and inflation

among member countries. It is most important to create a system under which this flexibility is

able to cope with the stricter control of structural fiscal deficits resulting from various

inefficiencies in the public sector. A separated fund for conducting macro-economic fiscal policy

for the whole area and an independent unified organization to take this responsibility could be a

possible solution.