スマートなワークプレイスの実現を目指す リコーのマシンビジョ … ·...

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スマートなワークプレイスの実現を目指す リコーのマシンビジョン 2nd ステージ マシンビジョンを通してさまざまな分野での自動化/省力化のシステムを提供してきたリコーは、 そのセカンドステージとして、ワークプレイスを「知の創造」空間へと高めていく取り組みを進め ています。システムが自律的にルールを生成し、状況を把握しながら、最適な方法を提示して、働 く人々の迅速な意思決定を促します。 “賢い”マシンビジョンと人のナレッジワークとの協調から生 まれるスマートなワークプレイスの実現を目指します。 2017 10 18 Version 1.1.0 White Paper

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スマートなワークプレイスの実現を目指す

リコーのマシンビジョン 2nd ステージ

マシンビジョンを通してさまざまな分野での自動化/省力化のシステムを提供してきたリコーは、

そのセカンドステージとして、ワークプレイスを「知の創造」空間へと高めていく取り組みを進め

ています。システムが自律的にルールを生成し、状況を把握しながら、最適な方法を提示して、働

く人々の迅速な意思決定を促します。“賢い”マシンビジョンと人のナレッジワークとの協調から生

まれるスマートなワークプレイスの実現を目指します。

2017 年 10 月 18 日 Version 1.1.0

White

Paper

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目 次

1. 「知の創造」を通してワークプレイスを変革 ..................................................... 2

2. マシンビジョンをあらゆるワークプレイスへ ..................................................... 3

3. リコーのマシンビジョン2ndステージの取り組み .............................................. 4

3.1. 社会インフラ分野でのマシンビジョン 2ndステージ ........................................ 5

・ステレオカメラとAIを用いた路面性状モニタリングシステム ............................... 5

・球殻ドローンを用いた公共構造物点検システム ............................................................ 9

・超広角ステレオカメラを用いた3Dビジョンシステムによる自動飛行ドローン 12

3.2. FA分野でのマシンビジョン 2ndステージ ............................................................ 14

・ステレオカメラによる自動ランダムピッキングシステム ...................................... 14

・機械学習による外観検査向け画像認識・解析技術 ..................................................... 16

3.3. 物流分野でのマシンビジョン 2ndステージ ......................................................... 17

・ステレオカメラを用いた動線モニタリング.................................................................... 17

4. オープンイノベーションで挑むマシンビジョン2ndステージ............................. 19

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1. 「知の創造」を通してワークプレイスを変革

急速なデジタル変革の進展により、人々の働く空間(ワークプレイス)が大きく変

わろうとしています。生産性の向上やコスト削減、業務スピードの向上はいうに及

ばず、それらを担う企業組織のありようや、そこで働く人々の意識も、わずか数年

の間に様変わりしました。

デジタル変革は人々を時間的、物理的制約から解き放ち、新たな価値創造の機会を

もたらしました。その変革の波は、一般オフィスにとどまらず、さまざまな業種の現

場、すなわち製造、物流、小売り、ヘルスケア、教育などへも広がりつつあります。

この動きをより加速させる技術の一つに、現在大きな関心を集めている人工知能

(Artificial Intelligence:AI)があります。中でも、機械学習技術1の一つで多層ニュ

ーラルネットワークによるディープラーニングを応用した種々事例の登場は、多

くの人々に AI を身近なものとして認知させる契機となりました。機械(システム)

に人間のような知能をもたせる時代がやってくるかも知れない、そんな期待が高

まっているのです。

システムが“賢さ”を備えるようになると、これまで人間がしていたこと、あるいは

人間にはできなかったことを代行させることが可能になります。その端的な例が、

クルマの自動運転技術でしょう。これは、運転者の負荷軽減だけでなく、安全性を

高めるという点で極めて価値のある技術といえます。また、照明やエアコンなどに

センシング機能をもたせて、人の動きに応じてエネルギー消費量を自動制御し、快

適な環境をつくり出す取り組みも進められています。

しかし、単に“賢さ”を備えたシステムを導入するだけではワークプレイスの変革は成し遂げら

れません。変革は、価値判断や課題設定といった「知の創造」が必要とされ、これはいかに優

れた AI といえども代替することはできません。ワークプレイスは、そこで働く人々の絶えざる

「知の創造」によって変革され、新たな価値を産み出す場へと進化してきます。“賢い”システム

の価値は、人々の「知の創造」にどれだけ寄与できるかによって決まるのです。

1 大量のデータの中から反復学習(統計的処理)を通じて特徴的なパターンを見つけ出す手

法。

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ワークプレイスでの「知の創造」を支援するためのシステムには、人々が普段無意

識で行っている一連の処理を、有機的に連携させることが必要となります。ワーク

プレイスでの「知の創造」を実現するためには、入力から処理、出力までの幅広い

技術を有し、利用しやすいスマートなソリューションシステムにまとめ上げるノ

ウハウが求められるのです。

2. マシンビジョンをあらゆるワークプレイスへ

リコーは、長年にわたり培ってきた光学、画像処理、電子デバイス技術などを融合

した新たな価値提供として、マシンビジョン領域での取り組みを進めてきました。

すでに生産自動化(FA)、車載、セキュリティ、流通などの分野で重要なポジショ

ンを占めるまでになっています。

そのコンセプトを紹介したホワイトペーパー『リコーの新世代マシンビジョン』の

中で、リコーは、「人の指示通りに動くだけでなく、人に代わって状況を迅速に把

握した上で、的確な対応がとれるインテリジェントな技術」を目指していくことを

明らかにしました。

リコーのマシンビジョンは、それまで視覚で捉えることのできなかったものを可

視化する、あるいは人手に頼らざるを得なかった工程を自動化するといったこと

を容易に行えるようにします。それにより人々がいっそう生産的で付加価値の高

い活動に携われるようにしていきます。

これを可能にするために、Capture から Analytics、Visualize までを自律的に処理

できる“賢い”システムが必要となります。リコーはこれを「マシンビジョンのセカ

ンド(2nd)ステージ」と捉え、取り組みを進めています。これにより、ビジョン

を通して取得した情報をもとに、システムが最適な判断・行動を導き出し、それを

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人々に分かりやすいかたちで提示できるようになります。さらにシステム自らが

学習を繰り返すことで、提示する情報の精度が向上していきます。

マシンビジョン 2ndステージの主な要素技術

Capture Analytics Visualize

・ステレオカメラ(超広角含む)

・マルチ分光カメラ

・被写界深度拡大カメラ

・偏光カメラ

・全天球カメラ

・画像処理

・音声処理

・自然言語処理

・データマイニング

・電子デバイス

・プリンティング

・表示

・自律制御

・3D造形

2nd ステージのマシンビジョンは、単なる人間の代替手段ではなく、人間の価値判

断や課題設定の質を高め、高度な意思決定を可能にしていきます。それによって価

値判断や課題設定などを行えるよう支援しワークプレイスを「知の創造」空間へと

変革します。

2nd ステージでの挑戦は、すでにはじまっています。対象分野も、社会インフラ、

生産自動化(Factory Automation:FA)、物流、セキュリティなど多岐にわたって

います。本ホワイトペーパーでは、リコーのマシンビジョン 2nd ステージの現況

と、この取り組みによって生み出される価値について紹介いたします。

3. リコーのマシンビジョン 2ndステージの取り組み

リコーは、マシンビジョン 2nd ステージの取り組みが、スマートなワークプレイ

ス実現につながると考えています。リコーのマシンビジョン 2nd ステージの応用

範囲はきわめて広く、多種多様な分野でのソリューションが可能となります。今回

はその中から、社会インフラと FA、そして物流分野での事例2を取り上げます。

2 一部開発中のものも含みます。

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3.1. 社会インフラ分野でのマシンビジョン 2ndステージ

・ステレオカメラと AIを用いた路面性状モニタリングシステム

道路は、クルマや歩行者の通行を確保する交通機能を有するとともに、社会経済活

動や地域生活を支えるインフラとしてたいへん重要な役割を果たしています。し

かし、その道路では、車両の走行荷重などにより、路面の経時劣化や損傷が進行し

ています。これを放置しておくと、クルマの走行時にハンドルをとられるなどで交

通事故となる可能性があります。そうした事態を未然に防ぐには、早期に路面性状

の調査、すなわち劣化・損傷の進行度合いを点検し、それに応じた修繕対策を施す

必要があります。

路面性状は「ひび割れ率」「わだち掘れ量」「平たん性(縦断凹凸おうとつ

量)」の 3 要素で

評価します。そのための調査は、レーザー計測器やデジタルカメラなどを搭載した

専用の大型測定車が用いられています。しかし、測定専用車は費用面での負担が大

きく、車両数を増やしにくいため、調査頻度を増したり、範囲を広げたりすること

が難しいのが現状です。また、道幅の狭い生活道路には入れないため、十分な測定

を行えていません。

リコーの路面性状モニタリングシステムは、複数台のステレオカメラで構成され

路面性状を表す 3 要素●左から「ひび割れ率」「わだち掘れ量」「平たん性」

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たコンパクトなシステムで、一般車両

に搭載することができます。これまで

の測定専用車に比較して、生活道路の

測定も行えます。また、ステレオカメラ

での撮影から調査結果作成までの業務

プロセスを自動化することも可能なた

め、測定作業の負荷軽減を図ることが

できます。

このシステムの特長は、路面性状の 3 要素の調査を複数台のステレオカメラのみ

で簡便に実施できるところにあります3。たとえば、路面に生じた舗装の亀裂を測

定する「ひび割れ率」については、複数台のステレオカメラで路面を撮影した画像

から、特徴点同士を結合して 2 次元画像を生成し、「ひび割れ率」を自動で判定す

ることができます。

この自動判定には、AI(人工知能)手法の一つである「機械学習」4が用いられて

います。生成された 2 次元画像を 50 センチ角にメッシュ状に処理し、「機械学習」

によってひび割れレベル(本数)を自動で判定するのです。目視による判定工程を、

機械学習によるモデルへと置き換えたことで、判定作業の効率と精度を大幅に向

上させることが可能となります。

「わだち掘れ量」は、舗装路面の摩擦や路床の沈下、さらには舗装材の変容などで

発生するタイヤ走行位置のへこみ状態(掘れ量)のことです。リコーのモニタリン

3 ステレオカメラを使った路面性状モニタリングの様子を動画(こちら)でご覧いただけます。 4 機械学習:リコーは、画像認識技術を高める要素開発テーマとして機械学習の研究や応用開

発を進めています。

AI による「ひび割れ率」レベルの判定

一般車両に搭載可能な

路面性状モニタリングシステム

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グシステムでは、複数台のステレオカメラで路面を走査しながら、その画像を道幅

(幅員)方向に自動結合し、道路断面の 3 次元形状を 20 メートル走行ごとに測定

します。

「平たん性(縦断凹凸量)」は、クルマの走行時の乗り心地を左右する舗装路面の

凹凸量です。リコーのモニタリングシステムでは、ステレオカメラで撮影した進行

方向の結合画像から連続的に 3 次元形状を測定することができます。測定のため

に個別の計測器や装置を使い分ける煩雑さがなくなり、車載ステレオカメラによ

り路面を走査するだけでその性状を測定することが可能となったのです。

測定した路面性状の 3 要素については、総合的な評価を行い、舗装補修の要否お

よび優先箇所などを判断する必要があります。その評価指標となるのが、舗装の維

持管理指数である Maintenance Control Index(MCI)値です。リコーのモニタリン

グシステムは、一回の撮影走行で 3 要素をまとめて測定できるので、MCI 値を一

度に算出することができます。

MCI 値は路面性状の 3 要素を総合的に評価する上で不可欠なものですが、測定専

用車が進入できず目視測定に頼っていた生活道路などでは、MCI 値のような数値

化されたデータでの管理はなされていませんでした。こうした問題も解決できる

ようになります。

さらに、リコーのモニタリングシステムは、測定結果から舗装の状態をマッピング

して、路面性状を可視化することも可能です。マッピング画像は MCI 値により色

分け表示されるため、舗装補修の迅速な判定が行えるようになります。

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このリコーのモニタリングシステムを使って、2016 年 7 月より、国土交通省、秋

田県、仙北市、そしてリコーが参画して実証実験が行われました。実証実験は、秋

田県仙北市の国道、県道、市道の計約 3 キロの路面性状を、降雪前(2016 年 11

月)と降雪後(翌年 3 月)の 2 回にわたって一般車両で測定しました。その結果、

路面性状を表す 3 要素の MCI 値について、測定専用車での測定とほぼ遜色のない

結果を得られることが証明されました。「ひび割れ率」については、機械学習で多

数のサンプルデータを学習させることにより、目視判定相当の高い精度を得るこ

とができました。

また、今回の実証実験を通して、雪・凍結・除雪車などによる除雪作業ならびに融

雪剤などでの融雪作業が路面舗装に与える影響も確認できました。これにより、た

とえば経時変化を定期的に把握する必要性などが認めら、一般車両による測定の

有効性が明らかになったのです。

実証実験の結果や課題については 2017 年 8 月 4 日、「路面性状モニタリング実証

路面性状マッピング(イメージ)●測定データを MCI 値別に色分け表示

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実験コンソーシアム5」の最終報告会で、仙北市市長に報告されました。リコーは

今後も、これらの技術的課題を克服しながら、よりいっそう簡便で高精度のモニタ

リングシステムの実用化に努め、安心・安全な道路維持管理の実現に取り組んでい

きます。

・球殻ドローンを用いた公共構造物点検システム

昨今、国や自治体にとって社会インフラの老朽化が大きな問題となっています。主

に高度経済成長期(1960 年代)以降に整備された道路橋やトンネル、建造物など

の多くが耐用年数とされる 50 年を越え、維持補修の時期を迎えているのです。こ

れに対して内閣府は、国家的プロジェクト『戦略的イノベーション創造プログラム』

(SIP)のテーマの一つとして「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」を

設け、老朽化したインフラの維持管理・更新・マネジメントなどのための新たな技

術開発を進めています。

リコーもこのプログラムの支援にもとづき、

東北大学、㈱千代田コンサルタント、(一財)航

空宇宙技術振興財団、東急建設㈱と共同で、

「橋梁の近接目視点検を支援する球殻ドロー

ン6と点検調書作成システム」の開発に取り組

んでいます。これは、ドローンに撮影装置(カ

メラ)を搭載して点検箇所の撮影を行い、現

在は人が行っている点検作業の負荷を軽減さ

せようという試みです。現在、国内には全長

2メートル以上の橋梁がおよそ70万橋ありま

すが、約 2 割近くが建設後 50 年を経過しており、今後その割合は増加する一方で

5 路面性状モニタリング実証実験コンソーシアム:国土交通省、秋田県、仙北市、リコーが立

ち上げた路面性状モニタリング実証実験のための共同事業体。

6 撮影装置を搭載したドローンを橋梁点検に利用する際は、撮影対象とドローンとの距離を一

定に保つ必要があります。また梁や添架物(橋に取り付けられたケーブルや照明、水道管な

ど)との接触を避けながら狭所へ侵入して内部を点検します。そこで、ドローンを直径約 1 メ

ートルの球殻フレームで覆い、点検個所にフレームを接触させることで距離を保つとともにド

ローンの衝突を防ぐようにしました。東北大学 田所研究室が開発しました。

球殻ドローンを利用した

点検の様子

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す(2014 年国土交通省道路局調べ)。そこで、国土交通省は 2014 年 7 月より、各

自治体に対して、5 年に一回の定期点検を義務づけました(国土交通省令第 39 号)。

しかし、実施にあたっては人員や予算面での負荷軽減が課題となっています。

橋梁の保守点検プロセスは、現地での作業と、オフィスでの作業に大別されます。

まず、現地で点検要員による近接目視などを行い、損傷個所に目印をつけて(チョ

ーキング)写真撮影すると共に、実地調査ノート(野帳やちょう

)にその記録を残します。

その後、オフィスに戻り、野帳の記録を参照しながらデータを整理し、損傷状態に

関する詳細な調査報告書を作成します。報告書には、写真やスケッチも添付します。

これは工数のかかる作業となる上、作成者によって報告結果にばらつきが生じる

可能性もあります。

橋梁点検作業は、立地条件や橋梁の構造などにより困難を伴います。点検員が近寄

りにくい橋梁では、点検車の出動や、大がかりな足場が必要となります。また、点

検要員以外にも、交通整理などを行う人員も必要となり、さらに交通規制による生

活や経済への影響も懸念されます。こうした保守点検時の負荷を大幅に軽減する

手段として、ドローンに撮影装置を搭載させて橋梁の状態を確認する取り組みが

進められているのです。ドローンの利用は人員やコストの削減はもちろん、安全面

の確保にも効果をもたらします。

橋梁点検プロセス

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リコーの橋梁点検支援は、繁雑で多大な時間を費やしていたオフィスでの損傷個

所抽出や報告書作成作業についても、最新の画像処理技術を駆使して大幅な負荷

低減を図っています。すなわち、撮影した画像(接写画像7)から橋梁全体の展開

図を自動的に 3 次元(3D)で復元し、さらに点検する部分を俯瞰できる展開画像

を生成することで、損傷個所の特定(検出)と損傷程度の判定を容易にしたほか、

その結果を国土交通省の点検要領に沿った報告書としてまとめるためのドキュメ

ント作成支援ツールも提供します。報告書作成プロセスの自動化は、作成作業の負

荷を軽減するだけでなく、報告品質のばらつきをなくし、作業時間の大幅な削減に

もつながります。

球殻ドローンの活用は橋梁のみに限りません。トンネルをはじめとする公共構造

物や超高層建造物、プラント施設など、人手による保守点検が難しい場所での、安

全な利用が可能です。リコーは今後、さらに、多様な損傷に対する効率的な判定な

ど、報告書作成プロセスの自動化を進めていくことで、構造物点検のトータルソリ

ューションの提供を目指していきます。

7 球殻ドローンを用いた橋梁点検では、現場においてドローンを飛行させて点検したい部分を

網羅するように接写して撮影します。

撮影画像からの損傷個所抽出、および調査報告書作成のプロセス

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・超広角ステレオカメラを用いた 3Dビジョンシステムによる自動飛行ドローン

ビジネス分野でのドローンの利用が広がっています。その背景には、機体の信頼性

や耐環境性、航法精度などの急速な向上があります。一方で、ドローンの本格運用

に伴い、飛行空間の拡大、すなわち目視外や全地球測位システム(GPS)範囲外で

の安定飛行への期待が高まっています。

現在、ビジネス向けドローンのほとんどは、専門のオペレーターによる操縦を必要

としています。しかし、ドローン利用の進展に伴い、オペレーター不足が懸念され

ている上、飛行空間の拡大を図っていくためには、自動飛行できるドローンの登場

が望まれます。ドローンには一般に GPS が搭載されていますが、数メートルの測

位特定誤差があり、入り組んだ場所での飛行は難しく、特に施設内やトンネル内な

どGPS信号の受信が不安定、あるいは受信ができない場所では飛行ができません。

またノイズ発生環境での飛行も不向きです。

リコーが東京大学およびブルーイノベーション㈱と共同開発8した「3D ビジョン

システムによるドローンの自動飛行」は、こうした課題を解決しました。超広角ス

テレオカメラで構成された独自の 3D ビジョンシステムと慣性測定装置(IMU9)を

組み合わせることにより、オペレーターなしに、ドローンが自動で障害物を回避し

て安定的な飛行を行えるようにしたのです。周囲の状態を捉える広視野の「目」と、

飛行時の平衡感覚を保つ「三半規管」を連動させて、非 GPS 環境下でもユーザー

が事前設定した経路を正確に自動飛行することができます。

自動飛行のドローンシステムは、飛行制御については東京大学が、3D ビジョンシ

ステム10についてはリコーが開発を担当しています。ドローンの自己位置把握は、

3D ビジョンシステムの超広角ステレオカメラにより、広い視野で周囲の空間を測

距し、その中の特徴的なポイントとその距離から自身の移動推定を行うことで実

現しています。これにより、非 GPS 環境下での安定した自動飛行が可能になりま

した。カメラが広視野角のため、飛行姿勢が変化した際も、ポイントを見失わず、

8 ニュースリリース「障害物を自動で回避できる小型無人航空機(ドローン)の自動飛行シス

テムを開発」 9 角速度(ジャイロ)と加速度を検出するセンサー。Inertial Measurement Unit 10 RICOH 3D Vision System × Drone(動画はこちら)

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安定的に自身の移動推定を行うことができます。

また、ドローンを自動飛行させる際には、ユーザーが事前に経路を指定しますが、

経路上に予期しない障害物が存在する可能性もあります。3D ビジョンシステムで

は、移動推定に加えて、飛行経路周辺の 3D マップ生成を同時に行うため、経路上

に予期せぬ障害物が出現した場合でも、それをすばやく検出し、ドローンの接触を

自動回避することができます。

この 3D ビジョンシステムは、撮像から自己位置推定、および 3D マップ生成まで

の一連のプロセスをカメラユニット内でリアルタイム処理11しているところに大

きな特長があります。優れた光学設計技術と高度な画像処理技術、さらには精緻な

システム制御の融合から生まれた新技術です。

リコーの 3D ビジョンシステムによって屋内外を問わず、オペレーターなしにドロ

ーンを活用できるようになり、さらに障害物を自動で回避しながら自動飛行させ

ることも可能になりました。今後も 3D ビジョンシステムの“賢さ”をさらに高め、

リコーは、ドローン利用の可能性を広げていきます。

11 特徴点抽出などの画像処理やステレオカメラの視差演算処理を、設計目的に応じて構成設定

可能な集積回路である FPGA(Field-Programmable Gate Array)に実装することで、高速処理

を実現しています。

3D ビジョンシステムによるドローンの障害物自動回避のイメージ図

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3.2. FA分野でのマシンビジョン 2ndステージ

・ステレオカメラによる自動ランダムピッキングシステム

リコーは、処理速度が速く高精度のステレオカメラを開発し、主に産業分野向けに

提供しています。被写体の奥行き情報を取得できるステレオカメラの開発には、高

度なキャリブレーション技術と視差演算技術12、高精度の部品組立技術などが求め

られます。とりわけ、品質要求の厳しい産業分野向けのモジュールに仕上げるには、

高い技術力と豊富な実績・ノウハウが必須といえます。

リコーは 1970 年代後半から自社生産設備の自動化(FA)に取り組みつづけ、この

分野での技術ノウハウを蓄積してきました。そしてマシンビジョンなど、その成果

の一端を社外に提供すると共に、FA メーカーとの協業なども進めてきました。複

合機(MFP)やプリンターなどでオフィスの生産性向上(OA)に寄与してきたリ

コーは、実は FA でも多くの実績を上げてきたのです。

FA 化が進む生産分野の中で、今なお人手に頼っている工程の一つに「ばら積み工

程(ランダムピッキング)」があります。部品がランダムに積まれたラックから、部

品供給装置(パーツフィーダー)や組み立てラインに部品を載せるためには、ラッ

ク内にある部品の状態をすばやく見極め、効率的に把持して、必要な位置に配列し

ていく必要があります。

従来のピッキング自動化システムは、複数の装置やロボットを用いるため、スペー

ス効率が悪く、コスト削減も図りにくいという課題がありました。また、撮像カメ

ラの多くは 2D で認識率が低く、人手の代替手段とするには信頼性が十分ではあり

ません。そのほか、投影機(プロジェクター)を組み合わせた 3D ビジョンシステム

も開発されていますが、装置が大型になる上、処理時間も要する13ため、生産ライン

に組み込みにくい面があります。

12 キャリブレーションは撮影対象物を検出・測定するための調整機能、視差演算は撮影対象物

位置・形状などを認識するための処理のこと。 13 3D 計測法の一種である位相シフト方式を用いているため、プロジェクターでのパターン投

影とカメラでの点像データ処理などが必要になります。

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リコーの「産業用ステレオカメラ『RICOH SV-M-S1』によるピッキングシステム

『RICOH RL シリーズ』」は、この難題を解決しました。被写体を 3D 座標でリア

ルタイムに捉えることができるステレオカメラの特長を生かし、従来のピッキン

グ用カメラでは形や向きが判別しづらい部品もすばやく認識することができます。

ピッキングロボットは、リコーと協業実績のあるロボットメーカーと連携し、高

速・高精度ステレオカメラの性能を最大限発揮できるシステムに仕上げました。導

入に際しては、FA システムインテグレーターとして豊富な実績をもつリコーイン

ダストリアルソリューションズ ㈱が、お客様と密接な連携を図りながら、全体最

適の観点から効果的なシステム提案を行います。すでに複数のお客様の生産ライ

ンに導入され、生産効率化に寄与しています。

さらに、IoT 時代を迎えつつある中、ピッキ

ングシステムに求められる機能が変わろう

としています。製品のライフサイクル全体を

一元的に管理する PLM(Products Lifecycle

Management)の動きが国際レベルで進展し

ているのです。パーツフィーダーで一括処理

する従来の方法ではこのニーズに十分応え

ることができません。リコーのランダムピッ

キングシステムは、ステレオカメラにより個々の部品を認識できるため、こうした

高度な要求にも柔軟に対応することができます。リコーはこれからも、FA 化に伴

うさまざまな課題を解決する“賢い”システム技術と、お客様起点に立ったソリュー

ションの提供を通して、ものづくりイノベーションに貢献していきます。

ロボットピッキングシステム

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・機械学習による外観検査向け画像認識・解析技術

生産プロセスの FA 化で“最後の難関”とされているのが、部品の検査工程です。近

年の撮像技術や画像認識技術の向上により、マシンビジョンによる外観検査装置

の利用が広がっていますが、十分な効果が得られていないのが現状です。その要因

は、良品と欠陥品の見極めの難しさにあります。損傷や欠陥の確認だけでなく、多

種多様な条件にもとづいた総合的な判定が求められる上、良・不良の境界線が曖昧

な場合には、知見や経験などをもとにして判別する必要があります。

一方で、人手に頼った検査にはばらつきが生じやすく、また、部品によっては検査

要員に負荷がかかる(目の酷使や、重量物の移動など)場合もあります。生産効率

の向上やコスト削減、要員の活用(付加価値の高い業務への再配置)には、検査工

程の自動化は避けては通れない課題といえます。その解決策として、リコーは「機

械学習による外観検査向け画像認識・解析技術」の研究開発に取り組んでいます。

リコーは、画像認識技術を高める要素開発テーマとして、機械学習の研究を行って

きました。その一つに「半教師あり」学習法を用いた異常検知があります。これは、

機械に正解の値(ラベル)のみを学習させ、判定にあたってそれ以外のデータが含

まれていた場合には「異常」として検知するものです。判定を繰り返していく(反

復学習)に従って精度が高まり、また、一般的に用いられる「教師あり」学習(全

データにラベル付けされたデータ集合を用いて学習)に比べて学習に用いるデー

タ量(サンプル画像の数)が少なくてすむという特長があります。

リコーは、この学習法に、部品の撮像データから特徴量を算出する画像認識アルゴ

リズム14を応用して、欠陥品を自動で見分ける高精度な外観検査システムの開発を

進めています。画像認識に関する豊富なノウハウが、機械学習の精度向上に生かさ

れています。製造部品は、良品に比べて欠陥品のほうが少なく、全ての欠陥種類に

ついて学習に用いる欠陥品のサンプルを用意するのも困難です。従って、良品の特

徴量データのみで学習させていくこの手法が適しています。未知の欠陥へも対応

が可能で、良品の形状にばらつきが大きい部品(1 次加工段階の部品など)を検査

14 画像の特徴点(画像の境目や角)抽出と特徴量(回転やスケール、照度などに対して堅牢な

情報)算出を行う SIFT(Scale-Invariant Feature Transform)および SURF(Speeded-Up

Robust Features)。

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17 © 2017 Ricoh Company, Ltd.

する場合にも、高精度の判定が可能となります。

「半教師あり」学習法による外観検査向け画像認識・解析技術は、公益社団法人 精

密工学会 画像応用技術専門委員会主催

の『外観検査アルゴリズムコンテスト』で

2014 年、2015 年と 2 年連続で優秀賞を

受賞しました。機械学習は、さまざまな分

野での応用が可能です。ビッグデータの時

代を迎え、その価値はいっそう高まってい

ます。今後、リコーでは学習精度や処理速

度のさらなる向上を図りながら、人間の判

断力に迫れる高度な画像認識・解析技術を

目指していきます。

3.3. 物流分野でのマシンビジョン 2ndステージ

・ステレオカメラを用いた動線モニタリング

マシンビジョンの進展により、さまざまな分野で大量の画像情報を扱えるように

なった反面、有用な情報をいかに取得するかという課題が出てきました。大量の情

報を必要に応じて分析し、その結果を視覚情報として提示する「可視化」技術が、

これを解決します。中でも、動的な情報をリアルタイムに可視化する技術は、迅速

な意思決定を支援し、目視や静止画像では気づかなかった新たな知見の発見にも

つながります。

外観検査システムの機能ブロック

検出結果例

(外観アルゴリズムコンテスト 2014)

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たとえば物流倉庫では、収納棚などのレイアウト変更を行った際、その変更が適切

かどうかを判断するために、人の動き(動線)を観察したいというニーズがありま

す。リコーは、「ステレオカメラを用いた動線モニタリングシステム15」を開発し、

Ricoh Europe SCM B.V.(ベルヘン・オプ・ゾーム、オランダ)の物流倉庫の最適

配置に活用しています。

これは、複数のステレオカメラを配置して、倉庫内での搬送作業の状況を 3D でリ

アルタイムに観察し、その結果を視覚的に表示するシステムです。作業がスムーズ

に行われている(流れている)のか、人や荷が集中しがちな場所はどこなのかとい

った情報が、濃淡カラーで分類表示されるので、一目で状態を把握することができ

ます。さらに、取得した情報をさまざまな観点で分析することで、より効率的で作

業負担の少ないレイアウトを割り出すことが可能になりました。

従来、こうした動線モニタリングはビデオカメラで定点観測する方法が用いられ

てきました。しかし、確認に時間を要し、また早送りで見落としが生じるなどの問

題がありました。これに対して、リコーの動線モニタリングシステムに搭載された

ステレオカメラは、位置や流れなどの情報を 3D で精緻に捉え、見やすく可視化で

15 「ステレオカメラによる人の位置検出および動作分析技術」, Ricoh Technical Report No.40

物流倉庫での動線可視化例(ヒートマップ)

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きるため、迅速かつ的確な意思決定が可能になります。さらに、可視化された画像

を、必要に応じて条件を変えながら多角的に分析することで、効率的なレイアウト

設計を導き出すこともできます。

動線モニタリングシステムの活躍の場は物流倉庫に限りません。たとえば、オフィ

スでは、動線に対応してエネルギーを制御するエコロジーシステムや、人の出入に

伴う異常を検知して警告するといったセキュリティシステムへの応用などが考え

られます。リコーは、今後も利用範囲のいっそうの拡大を図ると共に、モニタリン

グ結果の自動解析なども行える“賢い”意思決定支援システムへの発展を目指して

いきます。

4. オープンイノベーションで挑むマシンビジョン2ndステージ

リコーのマシンビジョン 2nd ステージについて、一部開発中のものも含めて紹介

いたしました。いずれも、単なる自動化や省力化にとどまらず、いかにして人々の

知的生産性を高めていくか、ということを見据えながら開発されているものばか

りです。この“賢い”システムづくりへの挑戦ははじまったばかりですが、実地での

検証などを重ねながら、着実にその性能を高めています。光学や画像処理、精密実

装といった技術はもちろんのこと、リコーが長年蓄積してきた多種多様な技術が

今、破壊的イノベーション16として時代を動かそうとしているのです。

しかし、リコーは、こうした取り組みを、自社のみで行おうとは考えていません。

今回ご紹介した事例にもある通り、その開発の多くは、研究機関や複数企業との協

業、あるいはお客様の協力によって進められています。リコーの固有技術やノウハ

ウと、協業先や提携先の技術、知見、ノウハウを融合させることでイノベーション

を起こし、新たな価値の創造を目指しているのです。今後とも、スマートなワーク

プレイスの実現を目指したオープンイノベーションによる、リコーのマシンビジ

ョン 2nd ステージの取り組みにご期待ください。

16 革新的な技術により既存のビジネスモデルや産業構造に劇的な変化をもたらすこと。

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改訂履歴

Ver1.0.0 2017/07/12 初版発行

Ver1.1.0 2017/10/16 改訂