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オステオスペルマム新品種「ヴィエントフラミンゴ」の育成 誌名 誌名 群馬県農業技術センター研究報告 ISSN ISSN 13489054 巻/号 巻/号 8 掲載ページ 掲載ページ p. 89-92 発行年月 発行年月 2011年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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オステオスペルマム新品種「ヴィエントフラミンゴ」の育成

誌名誌名 群馬県農業技術センター研究報告

ISSNISSN 13489054

巻/号巻/号 8

掲載ページ掲載ページ p. 89-92

発行年月発行年月 2011年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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群馬県農業技術センター研究報告 第 8号 (2011) : 89 ~92

検索誇 オステオスペルマム・イオンビーム・育種・ヴィエントフラミンゴ

オステオスペルマム新品種「ヴィエントフラミンゴJの育成

飯塚正英・木村康夫・岡田智行・長谷純宏九田中 淳*・関口政行叫

要 '= 回

オステオスペノレマム「マザーシンフォニー」の培養葉片にイオンビームを照射し、再分化した約

3000個体から選抜し、新品種を育成した。花色はこれまでにないヒ。ンク系のパステノレカラーで、開

花期は 1~6 月と長く、耐寒性および耐暑性(- 6 ~350C) を有 する 。 2009 年 10 月 30 Hに 「ヴィエ

ントフラミンゴ」として品種登録された。

緒 日

オステオスペルマム属品、teosper!JJU/JJL.はキク科

の多年草で、約 70種を含み、主に南アフリカに原産

する 1)。園芸植物として知られるようになって 40年

ほどしか経っていないが、長い開花}~J (約 6ヵ月)

と栽情のしやすさからヨーロッパや北アメリカで人

気が高い。 1970年代から O.ba品目前、 αcθulescens、

O. θcklonis, α fi~uticosum、 α jucundu/Jl 等との種間

交雑によって多くの園芸Jill種が生まれた 2)。原種は

白色や紫系の花色であったが、今 日ではオレンジ色

やクリーム色、 i主|、黄色など様々な色を楽しむこと

ができるようになった。日本では群馬県前橋市に住

む関口政行氏によって多くの品種が生み出され、シ

ンフオニーシリーズとして品種登録されている。オ

ステオスペノレマムの育種は通常の交配の他、枝変わ

り(自然突然変異個体)を選抜する方法がある。シ

ンフオニーシリーズでも多くの品種が枝変わりから

育成された。 一一方、人為的に変異を誘導する突然変

異育種ではガンマ線やX線など放射線の利用が知ら

れている 3)。放射線による突然変異育種はその植物

にない新しい形質を創り出すことや、 JIll種の特性を

維持しながらある ー形質だけを改良することがで

き、多くの農作物J51種育成に利用されている 九 近

年、放射線の一つであるイオンビームが実用化され、

キク 5,6)、カーネーション 7,8)、ペチュニア 9)等で新品

種が育成された。そこで、オステオスペノレマムにイ

木報告の一部は、園芸学会平成 19年J支春季大会で発表した

" (独)口木原子力研究機構 叫(有)はなせきぐち

オンビームを照射し、人為的な変異誘導を行い、品

種育成を試みた。植物へのイオンビーム照射は種子

の他、業片、花弁、 プロトプラスト等の培養細胞が

用いられているが、種子ではキメラの発生が問題と

なるため 10)、木村 11)が開発した葉片からの存分化系

を用いた。本研究では関 11政行氏より、国際園芸博

覧会(フロリアード 2002)において銀賞を受賞した

オステオスペノレマム品種「マザーシンフォニー」の

提供を受け、~片にイオンビームを照射し、再生さ

れた植物体から多くの花色変異個体を得た l九木稿

ではこの中から黄色地にピンクの縦筋とぼかしが入

り、 パステノレ調でこれまでにない色調を持つ新品種

「ヴィエントフラミンゴJ13)について述べる。

育成経過

育種材料として黄色のオステオスペノレマム品種

「マザーシンフオニー」を用いた。 ["マザーシンフ

オニー」の持つ長期開花性、耐寒性、病害抵抗性を

害することなく、色彩や形状が通常の交配育種では

達成困難と思われる個体の作出を目標とし、 2004年

から育成を開始した。

1 イオンビームの照射

6cm径のシャーレに 1.Omg/L Benzyladenine (BA)

とO.lmg/L ~aphthaleneacetic Acid (¥AA)を添加し

た 1/2Murashige and Skoog (MS)培地を入れ、 「マ

ザーシンフォニー」の;情養葉片切片を重ならないよ

うに敷き詰めてイオンビーム照射材料とした。イオ

ンビーム照射は日本原子力研究開発機構高崎量子

応用研究所の AzimuthallyVarying Field (AVF)サ

イクロトロンで行った。照射は LETの異なる、220MeV

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群馬県農業技術センター研究報告 第 8-lす (2011)

の炭素イオン 12C5+と320MeVの炭素イオン 12C6+を用い

て、 1~5Gy の線量を段階的に照射した。

2 変具体の選抜

イオンビーム照射された葉片は、照射時と同じ組

成の培地に継代し、不定芽を誘導した。約 1カ月後

に伸長した不定芽を 1/2MS培地に移植し、植物体を

育成した。

生長した植物体は順化後温室内で育成し、約 6~9

カ月後に花色および形態を調査した。

これまでに約 3000個体を育成し、この中から黄色

地にピンクの縦筋とぼかしが入り、パステル調でこ

れまでに出現したことのない色調を持つ個体を選抜

し新新白J1Hl

この新品種の優位性が認認、められ、平成 19年 3月

30日付ーけで「ヴィエントフラミンゴJとして品種登

録出願した。平成 19年 9月に県内生産者に種苗配布

を行一った。平成 21年 10月 30日に登録番号 18549と

して品種登録された。

品種特性

「グィエントフラミンゴ」の草姿は半直立で、草

丈、葉身長は「マザーシンフォニー」よりやや大き

く、開花期は 1~6 月で、耐暑性、耐寒性に優れる(表

l、図1)。一重咲きで、分枝数及び節間長は中程度

である。葉序は互生、葉身の全形はへら形、鋸歯を

有し、毛はかなり少ない。花器の特性は、花は上向

き、花型は一重、花弁の開度は斜上で開閉し、舌状

花の長さはやや長く、花粉稔性は無し、(表 2)。舌状

花の表面縁部の色は隠赤(183D)、舌状花の表面中央

部の色は浅櫨 (29D)、舌状花の表面基部の色は隠青味

紫 (83A) 、~状花の裏目i中央部の主な色は黄茶、花盤

の色は紫で(表 3、図 2) 、 「マザーシンフオニー」

が明黄色のli3.色であるのに対して、復色により淡い

色調となっている(カラーチャートは rmsを使用) 0

表lヴィエントフラミンゴの生育特性

品種名 草丈(叩) 葉身長(ITln) 開花期間 耐暑ぽ1 而、|寒性b

iグイエントフラミンゴ 29 27 1 ~6月 35CC -60C

マザーシンフオニ一日 2'1 24 1 ~6月 35CC -6cC

注)2007年1月25日調査、数値は10株の平主主バ直

a原品種

h耐暑性、市様性は2007年1月までの計測値

表2 グィエントフラミンゴの花器特性

品種名花径(rnm)

舌状1E長 舌:伏花の ~J~ .=c..,Ll..'.. !-!-;+fJ.,. +.I-;I!/¥-:!.b...

(mm) (mm) 田 舌状花数 花粉稔性

ヴィエントフラミンゴ 25.6 25 51. 4

マザーシンブオニ-" 51. 7 30.3

注)2007年1月25日調査、数値は10株の平均値

a原品種

6.5 1Hf:

6.3 4庇21

表3 ヴイエントフラミンゴの花色特性

舌状花の 舌:伏花 舌状花パターン 地色 表面縁部表面中央部

コ色 の色

グィエントフラミンゴストライプ 浅黄 隠赤 浅憧(15D) (183D) (29D) 明黄 明黄 明黄(13A) (l3A) Cl3A)

注)2007年l月25日調査、()内はRHSカラーチャートNo

品種名花色

マザーシンフオニ 単色

a原品種

z部紫

)

叩基色一味

ω味肝一

町面の-青舷青白

(

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飯塚他オステオスペルマム新品種 fヴィエントフラミンゴ」の育成

Isll rグィエントフラミンゴjの革姿

考察

実用品種の育成では、親品種の優良形質を残しつ

つ、 1t色や栽培特性のみを改良する必要があるが、

「ヴィエントフラミンゴJは原品種の「マザーシン

フォニー」の長期間花性、 joj;r寒性、病害抵抗性を有

し、花色のみを改変することができた。

i壬|鳥はシンフオニーの系統がオステオスペノレマム

とディモルフォセカの交配により生まれたもので、

両者の特性を併せ持つと している l九 「マザーシン

フオニー」は 1988年に「クリーム」の枝変わりとし

て誕生した。 rクリ ームj の来歴は明らかにされて

いないが、オステオスペルマムには存在しない黄色

系の色素を持つことから、オステオスペノレマムとデ

イモノレフォセカの雑種と考えられる。 rマザーシン

フオニーJから fミルクシンフォニーJ (淡黄緑色)、

「シスターシンフオニーJ (オレンジ)が技変わり

品種として生まれた。さらに 「シス ターシンフオニ

ー」から「オリモムシンフオニーJ (淡黄ピンク)

が変異株として育成されている。 rヴィエン卜フラ

ミンゴj はパステノレ開で、これまでのオステオスペ

ルマムにはない花色となっている。このことは永富

らのが報告したイオンビームの広い変異スペクトノレ

が効果的に作用したと考えられる。

「ヴィエントフラミンゴj は不稔性である。不稔

図2 rヴィエントフラミンゴjの花

の機構は I~J ら かでないが、花粉稔性は#\~し、。 !東品種

の「マザーシンフォニー」も不稔性であることから、

イオンビームが原因の不稔性ではないと思われる。

このため、増殖は栄養繁殖で行い、さし芽によって

種苗を供給する。さし芽による発恨率は高く、増殖

は容易である。

「ヴィ エントフラミンゴ」の開花期間は鉢植では、

伊勢崎で、 1~6 月となっているが、 6 月以降も花芽を

形成する。オステオスペノレマムの花芽形成は低温で

誘導されるとされ、Pearsonaらは 120C、2週間で形

成すると報告している l九田島は「マザーシンフォ

ニーjは低温期間を経なくても開花し、低温遭遇で、

開花数が増すと述べている 1.1)。このことは開花に低

調を必要としないディモノレフオセカの特性とオステ

オスペノレマムの花芽形成条件を併せ持つものと考え

られる。 「グィエントフラミンゴjの花芽分化も「マ

ザーシンフオニー」に準ずるが、花芽分化を促進す

る正確な低温要求量は明らかになっていなし、。また、

花芽形成は翌年の 9月頃まで続き、その後、栄養成

長に転じる。 しかし、栄養成長への移行の要因は解

明されていない。 日本では、 9月以降にさし芽によ

る増殖を行い、 1月から開花期を迎えるが、 「ヴィ

エントフラミンゴ」の開花特性を更に詳しく解明す

ることができれば、開花調節や栄養成長の維持によ

る増殖の効率化に貢献することが予想される。

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群馬県農業技術センター研究報告 第 8号 (2011)

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Horb cu1 turae. 62. 225-235

(Key Words: Osteospermum, lon Beam, Breeding, Viento Flamingo, Mutation)

A New Cultivar ‘Viento Flamingo' of Osteospermum

Masahide IIZUKA, Yasuo KIMURA, Tomoyuki OKADA, Yoshihiro HASE, Atushi TANAKA and Masayuki SEKIGUCHI

Summary

lon beam breeding was used to produce a new cultivar of Osteosperl11Z1I11, Viento f1amingo. lon beam irradiation on

"Mother Symphony" leaf cultivation, and mutants were selected from approximately 3,000 regenerated plants. This

f10wer is unprecedented pastel pink. The f10wering time is long, from January to June, and the plant is tolerant to both

low temperature and heat (-60C to 350C). The cultivation ofViento Flamingo showed that ion beam breeding produces

f10wer colors that are not obtained by crossing or blld mutation. The varieties were registered in October 2009.

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