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パルスレーザー堆積法による BiFeO 3 CaFeO x 単相膜および人工超格子の作製と評価 Preparation and Evaluation of BiFeO 3 , CaFeO x Single Phase Thin Films and Artificial Superlattice by Pulsed Laser Deposition Method 日本大学理工学部 理工学研究科 電子工学専攻 M0036 野呂田健人 Department of Electronics & Computer Science College of Science & Technology, Nihon University M0036, Kento Norota Abstract : 表面処理を施した STO 基板上に BFOCFO をそれぞれパルスレーザー堆積法によって成膜した。BFO 膜は RHHED 振動を成膜が終わるまで観測した。これより BFO 薄膜は Layer by Layer 成長をした。また 10 分間の成 膜で 42 層成膜した。DFM による基板表面像からも STO 基板と同様なステップ-テラス構造を確認した。1 ステッ プあたりの高低差も 0.37 nm STO1 ユニットに近い値を取ったことからも BFO 薄膜は Layer by Layer 成長したと言 える。XRD パターン結果より BFO のピークがバルク BFO に比べ低角側へシフトしていた。これは基板ストレスを 受けて基板面内方向の格子定数が減少したため、基板面直方向の格子定数が上昇したことを示唆している。 BFO (001) 周辺から薄膜全体が均一に作製したことを示すラウエ振動を観測したことから非常に膜厚分布の良い BFO 薄膜が作 製出来た。BFO (001)ピークのロッキングカーブ結果より、FWHM の値が 0.052°と非常に結晶性の高い結果を得た。 BFO (001) から算出した基板面直方向の格子定数は 0.406 nm だった。この値及び RHEED 振動から観測した層数か BFO 薄膜の膜厚を算出したところ 16.9 nm であった。また低角側 XRD パターン結果から膜厚を算出したところ 17.0 nm BFO 面直の格子間隔及び層数から算出した膜厚と一致した。 CFO 薄膜は RHEED 振動から成膜が終わるまで振動を観測した。これより CFO 薄膜も Layer by Layer 成長をした。 しかし 1 層あたりの成長時間の周期を見ると 6 層目以降の周期が倍になっていることがわかった。 RHEED 振動結果 からは 10 分間に平均 21 秒周期で成膜した層が 5 層、倍の周期性で成膜した層が 11 層の計 16 層成膜した。DFM よる薄膜表面像から STO 基板と同様なステップ-テラス構造が確認された。 CFO 薄膜 1 ステップあたりの高低差が 0.38 nm STO1 ユニットに近い値を取ったことからも CFO 薄膜は Layer by Layer 成長したと言える。 XRD パターン の結果から CFO ピークはバルク CFO ピークに比べ高角側へシフトした。これは基板ストレスを受けて基板面内方向 の格子定数が上昇したため、基板面直方向の格子定数が減少したことを示唆している。 CFO (002) から基板面直方向 の格子定数を算出したところ 0.369 nm だった。また CFO ピークそれぞれ中間にもピークを確認したことから成膜途 中で CFO が酸素欠損を起こし、Ca 2 Fe 2 O 5 が成長していることがわかった。このことから 6 層目以降は Ca 2 Fe 2 O 5 が成 長したと言える。この結果より算出した膜厚は 10.0 nm であった。また、低角側 XRD 結果から算出した膜厚は 10.36 nm CFO 面直の格子定数及び層数から算出した膜厚と一致した。 これらの結果より、 BFO CFO 薄膜は同条件にてそれぞれ Layer by Layer 成長をした。しかし CFO 酸素欠損を起こ しており、Fe の価数が 3+Ca 2 Fe 2 O 5 として成長していることがわかった。 1.背景 半導体を基盤とするエレクトロニクスは 1947 年のト ランジスタの発明以来、IC(:Integrated Circuit:集積回路) LSI(:Large Scale Integrated :大規模集積)、超 LSI へとシリ コンの微細化・集積化とともに発展してきた。しかし、 素子寸法がナノを単位とする寸法を議論し始めるように なった現在、CMOS( Complementary Metal-Oxide Semiconductor )の動作の限界が見え始め、新しい原理に基 づくデバイスに関する研究がいろいろ行われている。ス ピンエレクトロニクスもその 1 つであり、その骨子は半 導体技術で利用されてきた電荷の制御にくわえ、電子の 持つ、もう 1 つの自由度であるスピンをも制御して、新 しい機能をもつエレクトロニクスを創造しようというも のである。なかでも MRAM( Magnetic Random Access Memory )は強磁性薄膜の磁化の反転速度が読み書き速度 を決定する。 現在の機械システムにおける主メモリの DRAM( dynamic random-access memory )は高性能・低価格 である反面、電源を切ると記憶していたデータを消失し てしまう欠点を備えている。このため DRAM を使った機 械システムでは待機状態でも DRAM のメモリ機能を維 持するために電力を消費しているのが現状であり、電子 情報機器・機械システムの高性能化などにより、これら の消費電力が無視できない大きさになっている。これに 対し、 MRAM は電源を切っても情報が消えない不揮発性 メモリは機械システムの待機電力を大幅に削減し、また 小型・高性能化をもたらすキーデバイスである。 今日において従来の電界効果型による粒子性を利用し たデバイスから、位相といった波動性を応用するデバイ スに変わりつつあるのが電気磁気材料やマルチフェロイ ック材料に注目を集めている背景である。 近年、強弾性、強磁性、強誘電性などの性質を複数有 するマルチフェロイック材料が精力的に研究されている [1] 。各性質は密接な関係を持ち、新規機能性酸化物デバ イスの開発が注目されている。しかし、転移温度が室温 以上のマルチフェロイック材料として知られている物は 強誘電体であるが反強磁性体のもののみである。本研究 の最終目的は、酸化物人工超格子構造によって、強誘電 性強磁性体マルチフェロイック材料を作製し、室温にお いて電界による磁気的性質の制御を可能にし、巨大電気 磁気効果を示すことである。 代表的なマルチフェロイック材料である BiFeO 3 (BFO) は室温で反強磁性、強誘電性を持つ。また、強誘電転移 温度(T C )1100K、ネール温度(T N )640K と室温よりも 非常に高い。そのため、BFO の磁性を反強磁性から強磁 性へ相変化させることで室温での強磁性強誘電性マルチ フェロイックが発現すると考えた。 BFO を用いた強磁性強誘電性マルチフェロイック発現 のため、我々は図 1 のような酸化物人工超格子モデルを 考案した。このモデルはペロブスカイト構造を持つ SrTiO 3 (STO) 基板上に擬似ペロブスカイト構造を持つ BFOCaFeO 3 を数層ごと交互に積層させた人工超格子で

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パルスレーザー堆積法による BiFeO3、CaFeOx単相膜および人工超格子の作製と評価

Preparation and Evaluation of BiFeO3, CaFeOx Single Phase Thin Films

and Artificial Superlattice by Pulsed Laser Deposition Method

日本大学理工学部 理工学研究科 電子工学専攻

M0036 野呂田健人

Department of Electronics & Computer Science

College of Science & Technology, Nihon University

M0036, Kento Norota

Abstract : 表面処理を施した STO基板上に BFO、CFOをそれぞれパルスレーザー堆積法によって成膜した。BFO薄膜は RHHED振動を成膜が終わるまで観測した。これより BFO薄膜は Layer by Layer 成長をした。また 10分間の成膜で 42層成膜した。DFMによる基板表面像からも STO基板と同様なステップ-テラス構造を確認した。1ステップあたりの高低差も 0.37 nmと STO1ユニットに近い値を取ったことからも BFO薄膜は Layer by Layer成長したと言える。XRDパターン結果より BFOのピークがバルク BFOに比べ低角側へシフトしていた。これは基板ストレスを受けて基板面内方向の格子定数が減少したため、基板面直方向の格子定数が上昇したことを示唆している。BFO (001)

周辺から薄膜全体が均一に作製したことを示すラウエ振動を観測したことから非常に膜厚分布の良い BFO薄膜が作製出来た。BFO (001)ピークのロッキングカーブ結果より、FWHMの値が 0.052°と非常に結晶性の高い結果を得た。BFO (001) から算出した基板面直方向の格子定数は 0.406 nmだった。この値及び RHEED振動から観測した層数から BFO薄膜の膜厚を算出したところ 16.9 nmであった。また低角側 XRDパターン結果から膜厚を算出したところ17.0 nmと BFO面直の格子間隔及び層数から算出した膜厚と一致した。

CFO薄膜は RHEED振動から成膜が終わるまで振動を観測した。これより CFO薄膜も Layer by Layer成長をした。しかし 1層あたりの成長時間の周期を見ると 6層目以降の周期が倍になっていることがわかった。RHEED振動結果からは 10分間に平均 21秒周期で成膜した層が 5層、倍の周期性で成膜した層が 11層の計 16層成膜した。DFMによる薄膜表面像から STO基板と同様なステップ-テラス構造が確認された。CFO薄膜 1ステップあたりの高低差が0.38 nmと STO1ユニットに近い値を取ったことからも CFO薄膜は Layer by Layer 成長したと言える。XRDパターンの結果から CFOピークはバルク CFOピークに比べ高角側へシフトした。これは基板ストレスを受けて基板面内方向の格子定数が上昇したため、基板面直方向の格子定数が減少したことを示唆している。CFO (002) から基板面直方向の格子定数を算出したところ 0.369 nmだった。また CFOピークそれぞれ中間にもピークを確認したことから成膜途中で CFOが酸素欠損を起こし、Ca2Fe2O5が成長していることがわかった。このことから 6層目以降は Ca2Fe2O5が成長したと言える。この結果より算出した膜厚は 10.0 nmであった。また、低角側 XRD結果から算出した膜厚は 10.36

nmと CFO面直の格子定数及び層数から算出した膜厚と一致した。

これらの結果より、BFO CFO薄膜は同条件にてそれぞれ Layer by Layer 成長をした。しかし CFO酸素欠損を起こしており、Feの価数が 3+の Ca2Fe2O5として成長していることがわかった。

1.背景

半導体を基盤とするエレクトロニクスは 1947年のトランジスタの発明以来、IC(:Integrated Circuit:集積回路) 、LSI(:Large Scale Integrated :大規模集積)、超 LSIへとシリコンの微細化・集積化とともに発展してきた。しかし、素子寸法がナノを単位とする寸法を議論し始めるようになった現在、CMOS( Complementary Metal-Oxide

Semiconductor )の動作の限界が見え始め、新しい原理に基づくデバイスに関する研究がいろいろ行われている。スピンエレクトロニクスもその 1つであり、その骨子は半導体技術で利用されてきた電荷の制御にくわえ、電子の持つ、もう 1つの自由度であるスピンをも制御して、新しい機能をもつエレクトロニクスを創造しようというものである。なかでもMRAM( Magnetic Random Access

Memory )は強磁性薄膜の磁化の反転速度が読み書き速度を決定する。

現在の機械システムにおける主メモリのDRAM( dynamic random-access memory )は高性能・低価格である反面、電源を切ると記憶していたデータを消失してしまう欠点を備えている。このため DRAMを使った機械システムでは待機状態でも DRAMのメモリ機能を維持するために電力を消費しているのが現状であり、電子情報機器・機械システムの高性能化などにより、これらの消費電力が無視できない大きさになっている。これに対し、MRAMは電源を切っても情報が消えない不揮発性メモリは機械システムの待機電力を大幅に削減し、また

小型・高性能化をもたらすキーデバイスである。

今日において従来の電界効果型による粒子性を利用したデバイスから、位相といった波動性を応用するデバイスに変わりつつあるのが電気磁気材料やマルチフェロイック材料に注目を集めている背景である。

近年、強弾性、強磁性、強誘電性などの性質を複数有するマルチフェロイック材料が精力的に研究されている[1]。各性質は密接な関係を持ち、新規機能性酸化物デバイスの開発が注目されている。しかし、転移温度が室温以上のマルチフェロイック材料として知られている物は強誘電体であるが反強磁性体のもののみである。本研究の最終目的は、酸化物人工超格子構造によって、強誘電性強磁性体マルチフェロイック材料を作製し、室温において電界による磁気的性質の制御を可能にし、巨大電気磁気効果を示すことである。

代表的なマルチフェロイック材料である BiFeO3 (BFO)

は室温で反強磁性、強誘電性を持つ。また、強誘電転移温度(TC)が 1100K、ネール温度(TN)は 640Kと室温よりも非常に高い。そのため、BFOの磁性を反強磁性から強磁性へ相変化させることで室温での強磁性強誘電性マルチフェロイックが発現すると考えた。

BFO を用いた強磁性強誘電性マルチフェロイック発現のため、我々は図 1 のような酸化物人工超格子モデルを考案した。このモデルはペロブスカイト構造を持つSrTiO3(STO)基板上に擬似ペロブスカイト構造を持つBFO、CaFeO3を数層ごと交互に積層させた人工超格子で

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モデルとなっている。BFO の Fe の価数は 3 価、CFO のFe の価数は 4 価である。BFO と CFO との人工超格子構造を作製し、界面に位置する Fe3+と Fe4+のイオン間で電界印加によって電子を移動させ、BFOの Feの電子軌道をFe3+(3d)5 から Fe4+(3d)4へと変化させる。金森グッドイナフの法則より電子軌道が変化することで反強磁性から強磁性へ相変化すると考えた。このような電子移動による界面物性の変化は、両者とも絶縁体の超格子構造(LaAlO3

/ SrTiO3)界面で 2次元伝導性を示し、低温では超伝導にさえなること、さらに強磁性を示唆する特性が発現していることからも期待できる。[2]

STO基板に対し、擬似ペロブスカイト構造で考えた際のBFO及びCFOの格子定数は、それぞれ 0.3905 nm、0.398

nm、0.378 nmである。STO基板に対し、BFO及び CFO

は、+1.92%、-3.2%の格子不整合を持つ。格子間の不整合性は小さいことから、積層による超格子構造は大いに期待できる。また、基板に対し格子定数が大きい物質、小さい物質を交互に積層することで図 2に示すように基板及び積層間で薄膜がストレスを受け、最終的に薄膜面内の格子間隔は STOとほぼ同じ値を取ると予想される。STO、SFO、BFO、それぞれの格子モデルを図 3、図 4、図 5に示す。

図 1 強磁性強誘電性マルチフェロイック発現のためのBFO / CFO人工超格子モデル図

図 2 BFO / CFO人工超格子の格子間隔の

変化イメージ図

図 3 SrTiO3結晶格子モデル図

図 4 CaFeO3結晶格子モデル図

図 5 BiFeO3結晶格子モデル図

2.目的

BFO / CFOのような人工超格子を作製するためにはBFO及び CFOの成膜条件を同条件にしなければならない。また数層単位で薄膜総数及び膜厚を制御する必要がある。我々はパルスレーザー堆積法(Pulsed Laser

Deposition:PLD)を用いて成膜を行う。そこで STO (100)

基板上に BFO、CFO単相膜を同条件で成膜し、共に Layer

3.905Å

3.78Å

89.432°

3.98Å

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by Layer 成長する条件探索を行った。BFO、CFO単相膜の成膜条件最適化を行い、BFO / CFO人工超格子積層膜作製のための指針を得ることを目的とした。

3.実験方法・条件

3.1 PLD法

使用する PLD装置の概要図を図 6に示す。今回成膜に使用したのは波長 248 nmの KrFエキシマレーザーである。図 4のようにレーザー照射後長方形型のマスクを挟みレーザー中心部のレーザー密度が均一の部分のレーザーのみを通す。その後反射レンズ 2枚を用いて上からレーザーを打ち下ろすようにし、集光レンズによって集光されたレーザーがターゲットに照射される。このときうち下ろしたレーザーの角度は 45°となっている。ターゲットは成膜する成分のターゲットである。ターゲットのレーザーに照射された部分がメルト、飛散し、ターゲット真上にある基板に転写される。またターゲットは回転しており、ターゲット中心から輪を描くようにレーザーによって削られていくようになっている。今回の成膜には図 7

の PLD用成膜装置を使用した。

PLD法のメリットとしてパルス数による細かい膜厚制御が可能である点、成膜雰囲気の自由度がスパッタ法や分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy : MBE)法に比べ非常に高い点、また、使用するターゲットの組成のまま転写されるため薄膜の組成ずれが起きにくい点が上げられる。そのため PLD法は今回成膜する CFOのようにFeの価数が 4価の非常に不安定な物質の成膜に適している。

図 6 PLD法概要図

図 7 PLD装置全体図

3.2 PLD法ターゲット

PLD法は使用するセラミックターゲットの質に非常に依存する。この場合の質とはセラミックターゲットの密度及びセラミックターゲット作製に使用した粉末の粒径である。セラミックターゲット用の粉末は主に固相反応法を用いて作製している。固相反応法とは主成分を含む粉末同士を乳棒、乳鉢で混合し、仮焼きすることで目的の成分の粉末を得る方法である。この方法は簡易に目的の成分の粉末を作製出来るという利点を持つ。しかし欠点として使用粉末に粒径が依存する点、粒径にばらつきが出る点、降温で仮焼するため粒径が大きくなる点が欠点としてあげられる。固相反応法で作製した CFOターゲットを用いて成膜した後のセラミックターゲット表面の走査型電子顕微鏡 (Scanning Electron Microscope : SEM)

像図を図 8に示す。これを見るとセラミックターゲット表面がコーン状の非常に凸凹した表面となっている。これはセラミックターゲットの密度が低い部分が先に飛散していくことにより高密度の部分がメルト、粒成長することでこのような表面になる。成膜中に表面に大きな変化があるとレーザーが照射される表面積が変化し、成膜レートが遅くなる問題が発生する。

また、粒径が大きい場合粒径が大きい粒子がレーザーに照射された際に一部の粒子がレーザーで分解しきれずグレインとなって基板に付着してしまう。グレインは薄膜を結晶成長させるうえで阻害してしまうため、少ないほうが良い。このように固相反応法で作製した粉末はPLD法で使用するセラミックターゲットの作製に適していない。

そこでペチーニ法で粉末を作製し、PLD法用のセラミックターゲットとした。ペチーニ法は使用粉末を一度液相にし、液相同士を混合した後、マントルヒーターを用いて粉末に戻し仮焼を行う方法である。この方法は溶液同士を混合するため分子レベルでの混合が可能なため組成ずれが起きにくい点、固相反応法に比べ低い仮焼で物質同士を反応させることが出来るため熱による粒成長を抑えることが出来るといった利点を持つ。そのため粒径が小さく、ばらつきの少ない粉末の作製が出来、結果として密度も高めることが出来る。また、成形及び本焼もホットプレス法という方法を用いた。ホットプレス法は圧縮しながら本焼を行う方法でこちらも密度を向上させることが出来る。

図 9、図 10に固相反応法で作製した CFO粉末とペチーニ法で作製した粉末の粒度分布図を示す。これを見ると固相反応法で作製した粒子は 4 ~ 60 μm粒径が集中しているのに対して、ペチーニ法で作製した粉末は 0.3 ~

6 μmと粒径分布が 1/10以下にシフトしていることがわかる。

今回 CFO及び LFOの成膜ではペチーニ法で作製した粉末をホットプレス法で成型したセラミックターゲットを使用した。BFOではペチーニ法で作製した場合組成ずれが大きく起きてしまったため、固相反応法で作製した粉末をホットプレス法で成型したセラミックターゲットを使用した。

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図 8 固相反応法で作製した CFOターゲットの

成膜後表面像

図 9 固相反応法による CFO粉末の粒度分布図

図 10 ペチーニ法による CFO粉末の粒度分布図

3.3 基板処理

本実験では 5 mm × 10 mmにカットした STO (100) 基板を使用した。STO基板を表面の油成分と微細な付着物の除去、及び酸化膜の除去のために、アセトン 5分、アセトン溶液を交換し 15分、エタノール 5分の順番で超音波洗浄を行った。これらのプロセスにおいて、その都度終了するごとに光学顕微鏡を用いて基板表面を観察し、付着物等の汚染の有無を慎重に確認した。次に、緩衝フッ酸溶液 (Buffered Hydrogen Fluoride : BHF) を用いた表面のエッチング処理を行った。BHF処理の前に、純水中において 30分超音波洗浄を行った。BHFによるエッチングプロセスの条件は、HF、NH4F混合溶液 (pH=5.0) を

用いて 45秒間超音波洗浄を行った。その後、純水で数回リンスした後、窒素ブロワにて乾燥させ、エッチングを終了とした。BHFでの洗浄処理後、基板をアルミナ坩堝(新和科学株式会社:RESCO04 純度 99.98% 20 ml)に入れ、電気マッフル炉で大気中、920℃、6時間のアニール処理を施した。

3.4 成膜条件

PLD法による成膜条件を表 1に示す。成膜には KrFのエキシマレーザーをターゲットに照射し成膜した。成膜はターボ分子ポンプ (Turbo Molecular Pump : TMP) を使用し、一旦 10-5 Paオーダーまで真空状態にし、その後酸素雰囲気で使用している。基板温度、成膜中の雰囲気酸素圧力、レーザーエネルギー密度は、それぞれ、670ºC、20 Pa、2.5 J / cm2である。その他成膜条件は以下に示す通りである。成膜時のターゲットの回転数は 8 rpmである。また、プレアブレーションとして、10 Hz、3分間、シャッターを閉めたままアブレーションを行った。成膜後はヒーターを切らずに、排気しているバルブをすべて閉まっていることを確認し、チャンバー内を大気圧まで O2

で満たし、その後ヒーターを 5˚ / minで降温した。これにより試料作製を完了とした。

表 1 PLD成膜条件

4.評価方法・条件

4.1反射高速電子回折 (Reflection High Energy Electron

Diffraction : RHEED)

基板に対して極低角に電子線を入射することで図 11

のような RHEEDパターンが現れる。RHEEDパターンの中の反射スポット強度を成膜中に測定することで薄膜状態を明らかにし得る。強度比が振動した場合、図 12のように振動ピーク頂点から次の振動ピーク頂点までの時間間隔が薄膜一層の形成時間となり Layer by Layer 成長していることを示す。また、成長途中で RHEEDパターンが消える、もしくは強度比の振動がなくなり直線上となった場合薄膜の成長がアモルファス的に成長したことを示す。

今回の成膜では成膜中に RHEED解析し、製膜時間内全てにおいてLayer by Layer成長を示すRHEED振動が観測出来るか、また、観測した際の 1層成膜のレートの算出を行った。RHEED振動の観察の条件は表 2に示す。また、強度比が低下して見づらくなった場合は加速電圧を上昇させ、強度比を上げた。

ターゲット CFO/BFO

基板温度[℃] 670

使用レーザー KrF

レーザー波長[nm] 248

レーザー周波数[Hz] 4

レーザーエネルギー密度

[J/cm2] 2.5

レーザー照射面積[mm2] 1.5

雰囲気 O2

圧力[Pa] 20

流量[ccm] 20

成膜時間[min] 10

0.1 1 10 1000

2

4

6

8

10

分布

(%)

粒径 (μ m)

0.1 1 10 1000

2

4

6

8

10

12

分布

(%

)

粒径 (μ m)

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図 11 RHEEDによってスクリーンに投影される

STO基板反射パターン

図 12 RHEED解析による成膜過程図

表 2 RHEED解析観測条件

電流[A] 2.8

加速電圧[kV] 20

4.2 原子間力顕微鏡 (Atomic Force Microscope : AFM)

基板表面及び成膜後の薄膜の表面形状像を、原子間力顕微鏡 (SII社製 SPA400筐体 ワークステーションSPI3800N) のダイナミックフォースモード (DFM) で行った。基板をそれぞれ 1、2、5 μmで 3点観測した。これにより薄膜表面像を観察することで成膜前のようなステップテラス構造が確認出来るか、そのステップの高低差と成膜前のステップの値との比較を行った。

4.3X線回折 (X‐ray diffraction : XRD)

結晶成長の配向評価として X 線回折 (XRD) を行った。2θ-θ 測定時は STO (002) でオフセットを取り測定し、CFO及び BFOのピークからロッキングカーブを測定し半値幅 (Full Width at Half Maximum : FWHM ) を算出した。

また、2θを 0.6˚ でオフセットを取り基板低角側の 2θ-θ

を測定し、ブラッグの反射条件から膜厚を算出した。

詳細な条件は表 3に示す。

表 3 XRD測定条件

基板全体 基板低角側

測定範囲[degrees]

10~90 0.1~5

測定電流 [mA] 30 20

加速電圧 [kV] 40 30

DSスリット 1/2 0.05

測定速度

[degrees / min]

1 0.2

測定間隔

[degrees]

0.01 0.004

5.結果

5.1 BFO

5.1.1 RHEED解析

図 13に成膜中の反射スポットの RHEED強度比の振動図を示す。図 13より 10分間 RHEED振動が観測した。この図からは成膜時間内全てにおいて振動が観測したことから BFOは Layer by Layer 成長したと言える。成膜 10

分間中平均 14秒周期で 42個の RHEED振動による波を観測したことから BFOは 42層成膜したといえる。2~6

層と 7層以降を比較すると前者のほうが 1層成膜の時間が短いことがわかった。

図 13 BFO成膜中の RHEED解析結果図

5.1.2 薄膜表面像

図 14 (a) (b) に STO基板表面及び BFO薄膜表面の DFM

像を示す。この DFM像は 2 μm × 2 μm 範囲で測定した。CFO同様に (a) 、(b) どちらからも STOステップテラス構造が確認できた。基板表面像の高低差を図 15 に示す。これを見ると 1ステップあたりの平均値は 3.88 nmとSTO1ユニットとほぼ同じ値をとっている。次に成膜後の薄膜表面の高低差を図 16に示す。こちらから 1ステップあたりの平均値は 3.46 nmと STO 1ユニットに近い値をとっている。よって DFM像結果からも Layer by Layer 成長をした。

0 100 200 300 400 500 600150

200

250

300

350

400

Time (sec)

RH

EE

D I

nte

nsi

ty (

a.u

.)

5

10

15

20

25

Gro

wth

Tim

e (s

ec /

un

it)

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図 14 (a) STO基板表面像

図 14 (b) BFO薄膜表面像

図 15 STO基板表面高低差図

図 16 BFO薄膜表面高低差図

5.1.3 XRDパターン

図 17に BFO薄膜全体の XRD結果を示す。これを見ると STO (001) (002) (003) それぞれ低角側に BFO (001)

(002) (003) ピークが確認できる。これより BFOが成膜したと言える。

図 18に BFO (001) 部分拡大図を示す。図中赤線で示し

ているラインはバルク BFO (001) のピークである。XRDパターン結果の BFO (001) と比較するとバルクBFO (001) に比べ 0.5˚低角側にシフトしていることがわかる。これは基板である STOの格子からストレスを受けBFO薄膜面内の格子が基板の格子に合わせて減少し、BFO薄膜面直の格子が上昇したことを示唆している。XRD結果によるピークをブラッグの回折式に当てはめることで基板及び薄膜の格子定数を算出することが出来る。ブラッグの回折式を式(1)に示す。

2d sin θ = nλ (1)

d : 格子間隔

BFO (001) から式(1)を用いて格子定数を算出したところ4.08 nmだった。この格子定数に RHEED解析より測定した層数をかけ膜厚を算出したところ 16.9 nmだった。

また、BFO (001) ピーク周辺に波のようなピークを観察した。これはラウエ振動といい薄膜が基板全体均一に成膜出来たときに見られる振動である。よってこの BFO

薄膜は非常に膜厚分布が良いと言える。

図 19に BFO (001) のロッキングカーブ測定結果図を示す。この結果から得られた FWHMは 0.052˚と非常に結晶性の高い薄膜が得られたことがわかった。

図 20に基板低角側の XRDパターン結果を示す。これより膜厚に依存したピークを 8つ観測した。それぞれのピークが出た角度をそれぞれ 2θ1~2θ5と置き、膜厚を d

とした場合ブラッグの反射条件式より

2d sin (2θ1 / 2) = n λ (2)

2d sin (2θ2 / 2) = (n+1) λ (3)

2d sin (2θ3 / 2) = (n+2) λ (4)

d : 膜厚

という式に入れることが出来る。よってこれらの式から以下の式のように膜厚が算出出来る。

d = λ / 2 (sin (2θ2 / 2) – sin (2θ1 / 2) ) (5)

これらのピークが出た角度を式(5)に当て嵌め、膜厚を算出したところ 17.0 nmであった。これは RHEED解析より算出した層数及び膜厚と一致しており、これより今回の成膜条件では RHEEDによる層数及び膜厚制御が行えることを示している。

図 17 BFO薄膜 XRDパターン結果図

500 nm

0.00 nm 1.81 nm

500nm

10 20 30 40 50 60 70 80 901

10

100

1k

10k

BF

O(0

03)

BF

O(0

02)

BF

O(0

01)

inte

nsi

ty (

a.u

.)

2-Theta (degrees)

0.00 nm 2.92 nm

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図 18 XRD結果 BFO(001)付近アップ図

図 19 BFO (001) ロッキングカーブ結果図

図 20 BFO薄膜低角側 XRD結果

5.2 CFO

5.2.1 RHEED解析

図 21に成膜中のスクリーンスポットの RHEED解析図を示す。図 21を見るとより成膜時間内全てにおいて強度比が振動したため、CFOは Layer by Layer 成長したと言える。RHEEDによる振動結果から 16個の振動を観測したことから CFOは 10分間で 16層成膜した。また図中に

示しているプロットは波の頂点から次の波の頂点までにかかった時間を示している。これを見ると 5層目までは平均 21秒周期で 1層形成されていたが、それ以降は倍の周期で 1層形成されていることがわかった。

成膜後のCFO薄膜のRHEEDパターンを図22に示す。成膜後からもこのようにパターンが確認出来ることからCFO薄膜はアモルファス的に成長せず、特定の結晶成長したことを示している。

図 21 CFO成膜中の RHEED振動図

図 22 成膜後の CFO薄膜 RHEEDパターン図

5.2.2 薄膜表面像結果

図 23 (a) (b) に STO基板表面像、CFO薄膜試料の DFM

像を示す。このDFM像は 2 μm × 2 μmである。図 23 (a) ではステップテラス構造が確認した。図 23 (b) においてもSTO基板表面と同様な、ステップ‐テラス構造を確認した。基板表面像の高低差を図 24に示す。これを見ると 1

ステップあたりの平均値は4.02 nmとSTO1ユニットの値とほぼ同じ値をとっていることからエッチング処理によってステップが形成したことを示している。次に成膜後の薄膜表面の高低差を図 14に示す。こちらから 1ステップあたりの高低差を測定したところ 3.40 nmと STO 1ユニットに近い値をとっている。よって CFO薄膜は Layer

by Layer 成長した。

14.0 16.0 18.0 20.0 22.0 24.0 26.0 28.0 30.01

10

100

1k

10k

in

tensi

ty (

a.u.)

2-Theta (degrees)

バルク BFO (001) ピーク

10.8 11.0 11.20

2k

4k

6k

8k

inte

nsi

ty (

a.u

.)

Theta (degrees)

10.974 11.026

FWHM =

0.052 degrees

1 2 3 4 51

10

100

1k

10k

2θ8

2θ7

2θ6

2θ5

2θ4

2θ3

2θ2

inte

nsi

ty (

a.u.)

2-Theta (degrees)

2θ1

0 100 200 300 400 500 600

600

800

1000

Time (sec)

RH

EE

D I

nte

nsi

ty (

a.u.)

15

20

25

30

35

40

45

50

Gro

wth

Tim

e (s

ec /

unit

)

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図 23 (a) STO基板表面像

図 23 (b) CFO薄膜表面像

図 24 STO基板表面高低差図

図 25 CFO薄膜表面高低差図

5.2.3 XRD結果

図 26に CFO薄膜の XRDパターン結果を示す。これを見ると STO 基板ピークそれぞれ高角側に CFO (001)

(002) (003) ピークを確認した。しかし CFOピークそれぞれの中間部位に別のピークを確認した。これは CFOの

結晶性が変化し格子の周期性に変化があったことを示している。CaFeO3は Feの価数が 4+で非常に不安定なため価数が安定した3+になりやすい。そのため、酸素欠損し、Ca2Fe2O5が成長したと考えられる。

図 27に CFO (002) 部分をアップした図を示す。図中赤線で示しているラインはバルク CFO (002) のピークである。XRDパターン結果と比較するとバルク CFOに比べ1.0˚高角側にシフトしていることがわかる。これは基板である STOの格子と比べ小さい CFOが基板からストレスを受け、基板面内方向へ格子が上昇し、それによって基板面直方向の格子が減少したためである。CFO (002) ピークより式(1)を用いて CFOの基板面直方向の格子定数を算出したところ 0369 nm だった。

図 28に CFO (002) ピークのロッキングカーブ測定結果図を示す。こちらから算出した半値幅は 0.167°と薄膜の結晶性は高くなかった。

図 29に低角側の XRDパターン結果図を示す。この図からはCFO薄膜の反射に依存したピークを計 5個観測した。(4)より隣り合ったピークから膜厚を算出し、平均膜厚を出したところ 10.36 nmであった。

図 26 CFO薄膜 XRDパターン結果図

図 27 CFO薄膜 XRDパターン CFO (002) 付近アップ図

10 20 30 40 50 60 70 80 901

10

100

CF

O(0

03

)CF

O(0

02

)

CF

O(0

01

)

Inte

nsi

ty (

a.u

.)

2-Theta (degrees)

500nm

0.00 nm 2.93 nm

0.00 nm 3.79 nm

500nm

47 48 49 50 51 521

10

100

1k

Inte

nsi

ty (

a.u

.)

2-Theta (degrees)

バルク CFO (002) ピーク

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図 28 CFO (002) ピークロッキングカーブ測定結果図

図 29 CFO薄膜低角側 XRDパターン結果図

6 考察

6.1 BFO

図 13より成膜レートが安定していないことが伺える。これは、ターゲットに依存した問題であると考えている。上記でも述べたがBFOターゲットは固相反応法で作製したセラミックターゲットを用いている。そのため、成膜レートが低い 5層目までは平らな表面からコーン状の表面になっていると考えられる。6層以降も 11秒周期の成膜と 16秒周期の成膜を交互に繰り返しているがこれはコーン状になった表面がレーザーからエネルギーを受け一旦メルトし平らな表面に戻りかけ、さらにそこからレーザーを受けることでコーン状へと戻った成長を繰り返しているためと考えられる。

6.1 CFO

図 21より、CFOの成膜周期が 6層目以降倍になっている。これは図 26の XRD結果より CFOが酸素欠損を起こしていることから 5層目までは CaFeO3として成長し、6

層目以降は Ca2Fe2O5として成長していると考えられる。Ca2Fe2O5は CFOの倍の格子定数を持つため、成膜の周期性が倍になった。よって図 21の RHEED解析結果からは10分間で CFOが 5層、Ca2Fe2O5が 11層成膜したと言える。我々は最終的に Feの価数が 4価の CFOと Feの価数が 3価の BFOを積層する。そのため、ガス雰囲気をより酸化力の高い O3へ変更して成膜する必要があると考え

ている。

また、Ca2Fe2O5は CFOの倍の周期性を持つため CFO

二層と仮定することが出来る。よって RHEED解析結果より CFOが 27層成膜したと仮定した際の膜厚を算出したところ 10.0 nmとなった。この値は図 29の XRD結果から算出した膜厚と比較するとCFO約 1層分の誤差があるがほぼ一致している。1層分の膜厚の誤差は図 21より17層成膜途中で成膜が終了したため、それによってCa2Fe2O5半層分の膜厚が付いたと考えられる。

また図 28から算出した CFO (002) の FWHMの値は0167°と結晶性は高くなかった。これは膜厚が薄いためである。薄膜の FWHMは 30 nm程度までは膜厚によって変化するという報告がある。このとき膜厚が厚くなるほどFWHMは小さくなり、膜厚が薄いほど FWHMは大きくなる。今回 10分間で成膜した膜厚は 10.0 nmと非常に薄い膜厚である。よって FWHMが大きかったと予想される。これはより長時間成膜し膜厚を厚くすることで半値幅の改善はすると考えている。

これらの結果より RHEED振動を見ることで CFOの層数による膜厚制御が成膜中リアルタイムで行えるということを証明した。BFO / CFO積層膜を作製する上ではこれらの薄膜を数層単位で交互に積層しなければならない。よってこれらの結果は人口超格子積層膜を作製する上で大きな指標となった。

8.まとめ

表面処理を施した STO基板上に BFO、CFOをそれぞれパルスレーザー堆積法によって成膜した。

BFO薄膜は RHEED振動から成膜が終わるまで振動を観測出来た。そのため薄膜が Layer by Layer 成長したと言える。DFM像から成膜前後共にステップ-テラス構造が確認され 1ステップあたりの高低差が STO1ユニットの値と一致していることからも BFO薄膜は Layer by Layer

成長した。XRDパターン結果から BFOピークがバルクBFOと比較して低角側へシフトしており、基板ストレスの影響を受けて結晶格子が歪んでいるということが分かった。BFO (001) ピークのロッキングカーブ測定結果から結晶性の良い膜が得られた。また、低角側 XRDパターン結果から算出した膜厚とBFO面直の格子定数と層数から算出した膜厚が一致した。

CFO薄膜は RHHED振動を成膜が終わるまで観測した。これはBFO同様Layer by Layer成長をしたといえる。DFM像から成膜前後共にステップ-テラス構造が確認され 1ステップあたりの高低差が STO1ユニットの値と一致していることからも CFO薄膜は Layer by Layer 成長した。XRDパターン結果から CFOピークはバルク CFO

に比べ高角側へシフトしているため、基板ストレスを受けて結晶格子が歪んでいることが分かった。また CFOピーク中間からもピークが発生したため、CFOは酸素欠損を起こし成長していることがわかった。CFO (002) ロッキングカーブ測定結果は、結晶性はあまり高くなかった。CFO面直の格子間隔及び RHEED解析による層数から算出した膜厚と低角側 XRDパターン結果から算出した膜厚が一致した。これらの結果より、CFO薄膜はエピタキシャル成長している可能性が非常に高いと考えられる。しかし、酸素欠損を起こしており、CFOは Feの価数が 3

価の Ca2Fe2O5として成長しているためより酸化させる必要があること。

以上の結果より、層数による膜厚制御に RHEED振動の観測を使用することは非常に有効であると言える。これを観測しながら成膜をすることで BFO / CFO人口超格子積層膜の作製における層数制御の指標となりえる。

24.30 24.35 24.40 24.45 24.50 24.55 24.600

100

200

300

400

500

600

700

In

ten

sity

(a.

u.)

Theta (degrees)

24.384 24.551

FWHM=0.167 degrees

1 2 3 4 51

10

100

1k

10k

100k

Inte

nsi

ty (

a.u

.)

2-Theta (degrees)

2θ12θ

22θ

32θ

42θ

5

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