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還流法による金属微粒子の直径制御
Diameter control of metallic microparticle with return current method
日本大学理工学部 電子情報工学科(岩田研究室)、
8042 斎藤 勇次
Department of Electronics & Computer Science,
College of Science & Technology, Nihon University,
B4, Yuji Saito
Abstract: SWNT のナノスケール電子デバイスでの応用を目指し、SWNT の直径が金属触媒粒子の直径に依存していることから触媒粒子の作製を行った。金属の酸化物又は塩をポリオール中で加熱還元する方法であるポリオール法を用い Coと Feを触媒にモル比を変え金属ナノ微粒子を作製し、TEMにより粒子形状観察を行った。直径4.9±0.3nmの CoFe2粒子を作製することができた。作製した粒子を用いて ACCVD 法により成長させたところ長さ3μmの SWNTの確認ができた。Raman 分光装置で振動解析した結果 RBMの確認から SWNT であることがわかった。また SWNTの品質を表す G/D 比は 11.9であった。SWNTの直径は 1.77nm,1.47nm,1.32nm,1.04nmであることがわかった。粒径の制御には低温での反応を避けるために金属触媒を反応させる温度と還元させる温度、粒子合成では二つの金属の性質を合わせるため合成する触媒の種類が関係すると考えた。温度上昇速度も一定に保つことで均一な粒子の作製ができると考えた。触媒の種類は遷移金属の中で Co,Fe,Pt,Ni がよく用いられている。SWNTは核となる粒子の性質、炭素源を取り込むことでナノチューブは成長することが知られているのでエタノールの流量、CNT 成長時エタノールを分解する成長温度を変えることで制御できると考えた。
1.背景 近年まで半導体デバイスはデバイスを小型化すること
によってその性能を向上させてきた。その結果、現在では Si による 100 nm未満の回路最小寸法が実現されている。しかし、Si のさらなる小型化は技術面やコスト面で非常に困難になっている。そのため、半導体デバイスのさらなる発展のために新材料の採用など小型化による性能向上とは違った切り口が必要とされている。[1][2] その新材料の一つとして期待されているのがカーボン
ナノチューブ(Carbon Nanotube :CNT)である。CNT は炭素の同素体であり、炭素が 6角形に配列されているグラフェンシートを円筒形に巻いた構造をした物質である。そのグラフェンシートが 1層からなるものは単層カーボンナノチューブ (Single-Walled Nanotubes : SWNT)と呼ばれ、複数の層からできているものが多層カーボンナノチューブ(Multi-Walled Nanotubes : MWNT)と呼ばれている。SWNT はナノスケールの大きさで、優れた電気特性、熱伝導性などの特徴を持ち、また直径とグラフェンの巻き方(カイラリティ)の組み合わせごとに電気特性が変化し、金属性や半導体性に成る。この半導体性の SWNTはSi の 10倍以上の電子移動度を持ち、SWNT を用いて電界効果トランジスタ(Field effect transistor : FET)を作製することで、高速動作の FET が作製可能であると期待されている。[3][4] しかし、SWNT はカイラリティによって、電気特性が
変わり、一般的には SWNT 成長中に半導体的性質のものと金属的性質のものが混在してしまう。SWNT を電子デバイスとして利用するためにはこの電気特性の制御が必要であり、そのためには SWNT のカイラリティを制御する必要がある。[5]
CNT の合成法の一つに化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法がある。触媒金属を核に CNT が成長し、SWNT の直径は金属触媒粒子の直径に依存している。金属微粒子の直径を細くすると、それを核に成長している SWNT の直径も細くなり、存在できるカイラリティの種類が減る。[6] そこで私たちは金属粒子の直径を制御することにより
カイラリティを制限することにした。 金属ナノ粒子の直径制御には還流法を用いた。今回の実験では CNTの触媒となる金属ナノ粒子に CoFe2粒子を用いた。これは Co 粒子には CNT の触媒能力があり、Fe
を混ぜることで CNT 成長時に炭素を多く取り込むことを期待している。また Feにも Co より低いが CNT としての触媒能力がある。CVD を行った結果 SWNT の成長を確認することができた。
2.目的 電子デバイスへの応用へ向けてカイラリティの制御を目指し、SWNT の電気特性制御の前段階としてポリオール法を用いて直径の揃った触媒ナノ粒子の合成を行う。作製したナノ粒子を用いてアルコール CVD 法を用い直径の揃った SWNT の成長を目指す。
3.実験方法・条件 3.1 触媒微粒子作成 還流装置の概略図を図 1に示す。触媒微粒子の作製は還流装置により行った。 表 1に今回行った粒子の作製条件を示す。今回の実験では金属源として鉄(Ⅲ)アセチルアセトナト(同仁化学研究所:344-01232:≧98%)とコバルトアセチルアセトナト(同仁化学研究所:344-01232)を鉄とコバルトのモル比を2:1 で使用し、還元剤として 1.2-ヘキサデカンジオール(SIGMA-ALDRICH 製:213748-50G:90%)を用いた。配位子としてオレイン酸(東京化成工業株式会社:00011:85%)、オレイルアミン(東京化成株式会社:00059:70%)を使用した。 図 2に粒子作製手順のフローチャートを示す。
① 計量計より Fe(acac)3を、1mmol(353mg)計り、三口フラスコの中に入れた。マイクロピペットで配位子兼溶媒であるオレイン酸 0.5mmol(1.6ml)とオレイルアミン0.5mmol(1.5ml)を取り、加えた。
② オレイン酸の発火点が 363℃と低いので酸素を取り除くために、三口フラスコに栓をし、ロータリーポンプを用いて三口フラスコ内を真空にし、窒素置換をした。その後Fe(acac)3とCo(acac)2を溶媒中でイオン化させるために 150℃まで上昇させ 10 分間加熱した。温度は図1 の電圧調整器により制御した。 溶媒中で金属源である Fe (acac)2は 150℃まで熱すると以下のような反応によりイオン化する。
Fe (acac)3→Fe3+
+3e(acac)-
Co(acac)2→Co2+
+2e(acac)-
-
③ 空気が入らないように窒素ガスの供給を強くしてから三口フラスコのふたを開けて、還元剤である 1-2ヘキサデカンジオールを加え、錯体を還元した。
この時還元剤は以下のような反応により電子を排出する。 (C14H29-CHOH-CH2OH)→(C14H29-CH2-CHO)+H2O
2(C14H29-CH2-CHO)→(C15H31-CO-CO-H31C15)+2H++2e
-
金属イオンがその電子を受け取り還元される。 Fe
3++e
- →Fe Co
2++e
- →Co
④ 窒素ガスの供給を少なくし、攪拌しつつ 250℃まで昇温し 30分間加熱した
⑤ マントルヒーターから三口フラスコを離し、溶液を室温まで降温した。
⑥ 作製した溶液に対しエタノール(和光純薬工業株式会社:051-06135:99:5%)とヘキサン(SIGMA-ALDRICH:H1197:99%)を加え、4000rpmで 10分間遠心分離を行った。
⑦ エタノールとヘキサンにより溶けた堆積物を取り除き、エタノールのみで再度 4000rpmで 10分間遠心分離を行った。
表 1 Fe 分量条件
薬品名 分量
オレイルアミン 1.5 ml
オレイン酸 1.6 ml
コバルト(Ⅱ)アセチルアセトナト 84.81mg
鉄(Ⅲ)アセチルアセトナト 232.98 mg
1.2-ヘキサデカンジオール 5.16 g
図 1 還流装置概略図
図 2 粒子作成手順
3.2 基板洗浄 基板は石英基板(10×10mm)を使用した。まず、基板をビーカーに入れ、アセトンで 5分、15 分、エタノールで5 分超音波洗浄を行った。またブロアーにより乾燥させた。次に UV/オゾンクリーナーに基板を入れて 30分 O3処理をした。
3.3触媒成膜 ① O3処理
UV/オゾンクリーナー(メイワフォーシス株式会社:PC4402)に基板を入れて 30分 O3処理をした。
② ディップコート(モリブデン:Mo) ナノディップコーター(株式会社あすみ技研製:ND-0407-S1)を用いて基板への成膜を行った。濃度0.01wt%のMo(ALDAICH社製:232076-1G)溶液に 300秒浸し、600μm/sで基板を引き上げ、ディップコートを行った。
③ アニール 電気炉(山田電気製:YKC-32)で 400°C、5分間アニール処理した。
④ ディップコート(コバルト:CoFe2) Co で 3.2(b)と同様の条件でディップコートを行った
1,2-hexadecanediol(C16H34O2)
(C14H29-CHOH-CH2OH)
→(C14H29-CH2-CHO)+H2O
2(C14H29-CH2-CHO)
→(C15H31-CO-CO-H31C15)+2H++2e
-
Ethanol(C2H5OH)
hexane(C6H14)
N2保護下で撹拌しながら 溶液を150℃まで温め、10分間維持
N2保護下で撹拌しながら 溶液を250℃まで温め、30分間維持
溶液を室温まで冷ます
hexane(C6H14)
CoFe2がhexane中に蓄えられる
三口フラスコ Oleyl amine(C18H37N)
Oleic acid(C18H34O2)
Fe(acac)3
Co(acac)2
④
②
①
③
⑤
⑦
遠心分離(10分間,4000rpm) 上澄み液を取り除く
⑥
-
⑤ アニール 3.2③と同様の条件でアニール処理した。
3.4 CVD 法 CNT成長はコールドウォール型の CVD装置で行った。
CVD 装置の概略図を図 3に示す。また、CVD 条件を図 4に示す。 ① 基板をチャンバ内の基板ホルダにセットする。
② ロータリーポンプでチャンバ内を約 1.0 Pa にする。
③ H2を 20 ccm、Ar を 200 ccmの流量で流し、基板ヒーターを 1000 °Cまで昇温する。
④ 30 分間還元した後、H2、Ar の供給を止める。
⑤ C2H5OH を 200ccmの流量で流し、チャンバ内の圧力を 350Pa に保つ。
⑥ 30 分間 ACCVD を行う。
⑦ C2H5OH を止め、Ar を 200 ccm流して室温まで降温する。
図 3 CVD 装置概略図
全圧(Pa) 1k 1k 1k 614
Ar(ccm) 178 178 0 178
H2(ccm) 22 22 0 22
C2H4(ccm) 0 0 2k 0
図 4 CVD 条件
4.評価方法・条件 4.1透過型電子顕微鏡による粒子形状観察 作製した触媒微粒子を日立製作所製 FE2000の透過型
電子顕微鏡により粒子形状の観察を行った。この時の加速電圧は 200kV に設定した。 ① 真空計を動作させて真空度を確認した。
② 試料ホールダをホールダセット位置から取り出した。
③ 試料ホールダに測定試料を付けホールダセット位置まで挿入しセット位置内を真空にした。
④ セット位置が真空になったら、試料を試料観察位置まで挿入した。
⑤ 画像ソフトを起動し、軸調整、非点収差補正を行い画像を保存した。
4. 2 原子間力顕微鏡による表面形状観察 ACCVD で作製したサンプルにはレーザーラマン分光高度計(日本分光株式会社; NRS-3000)による振動解析を行った。図 5に AFM の原理図を示す。 ① 暗室で分光装置本体、YAG レーザ (Hololab 5000Rは 532nm)、可視画像カメラ (CCD)、顕微境、パソコンの電源をいれ、測定ソフト (HoloGRAMS532)と解析ソフト (GRAMS AI)を起動した。
② ソフトを起動した後スライドガラスにサンプルを置き、光学顕微鏡のステージに乗せた。
③ 測定ソフトにて CCD を起動し、光学顕微鏡の焦点を合わせた。この際にレーザ光を照射し、画像を確認しながら照射されるポイントのレーザ密度を調整し、レーザ光をサンプルに照射した。
④ GRAMS AI に出力された測定結果を保存した。
図 5 AFM 原理図
4.3 Raman分光装置による振動解析 CVD 後の試料を Raman 分光装置(カイザー社製のHoloLab5000R)による振動解析を行った。使用した励起波長は 532nmで、測定は対物レンズ 100倍、積算回数 50回で行った。図 6に Raman分光装置の原理図を示す。
700
温度
(℃)
時間
(分)
30 15 20
60 60
昇温 還元 CNT成長 降温
-
図 6 Raman原理図
5.結果 5.1 触媒微粒子 還流法により作製した触媒微粒子のTEM像を図 7に示
す。図 7 から多くの粒子が作製できていることがわかった。図 8 に粒子分布を示す。図 8から粒径 4.9±0.3nmの粒子が確認できた。図 9 に原子像、図 10 に逆格子像を示す。
図 7 作製した CoFe2の TEM 像
図 8 粒子分布図
図 9 CoFe2原子像
図 10 CoFe2逆格子像
5.2触媒成膜 CoFe2成膜後の基板表面の DFM 像を図 9に示す。図 9
より CoFe2成膜後に高低差が約 5nmの粒子が付着していることを確認した。
図 9 CoFe2成膜後の基板表面像
5.3 CVD 結果 基板のラマンスペクトルを図 10 に示す。約 1590cm-1
と約 1350cm-1にピークが確認できた。Radial Breathing Mode(RBM)に相当するピークも確認できた。CVD 後のDFM像を図 11に示す。また、走査エリアを変更した DFM像を図 12に示す。図 11から CNT が成長していることがわかった。
20nm
[nm]
7.53
0.0
0
4.8 5.0 5.2 5.4 5.6 5.8 6.00
200
400
粒子
数[個
]
粒径[nm]
-
図 10 Ramanpeak
図 11 2×2μmCoFe2表面像
図 12 5×5μmCoFe2表面像
6.考察 6.1 粒子合成 図 7より、粒子状の物体は CoFe2の粒子と考えた。4.9
±0.2nm程度の粒子が分散されていることから、凝集せずに微粒子が作製されていると考えた。粒子同士が凝集しない理由としてはオレイン酸とオレイルアミンによるアルキル基の生成されることにより凝集せずに微粒子が作製されたと考えた。図 8より 4.8nmの粒子が多く作製されたことがわかった。しかし、6nmと粒径が大きくなっているものが確認されたことから、一部凝集してしまった粒子があると考えた。低温での反応が起きてしまったと考え金属触媒を反応させる温度や還元時の温度、温度上昇速度が関係していると考えた。
また、金属触媒の種類によっても直径制御に関係していると考えた。CNT 成長に用いられる遷移金属はCo,Fe,Pt,Ni がよく用いられている。
6.2 触媒成膜 図 9より CoFe2の成膜がされていることがわかった。濃度が 0.04wt%と高かったため多くの粒子が付着したと考えた。CNT 成長時に粒子間隔が狭いと重なってしまいお互いの粒子が成長を妨げてしまうと予想されるため濃度を下げる必要があると考えた。
6.3 CVD 法 図 10より G-bandと D-bandが確認されていることからCNT 成長はしている。また、RBM の確認から成長したCNT は SWNT であることがわかった。SWNT の品質の高さを表すG-bandとD-bandの比は 11.9であるとわかった。RBM から直径 1.77nm,1.47nm,1.32nm.1.04nm の SWNT が成長していることがわかった。図 12より SWNT の長さは最大約 3μmであることがわかった。
7.課題と解決方法 7.1 粒子合成 今回の実験での問題点は 5.4nmにも多く粒子が作製さ
れていたことから均一な粒子が作製できなかったことである。低温で反応を始めないように温度を上げてから触媒金属をいれることで均一にできると考えた。このことから金属触媒の種類と触媒、還元剤を入れる温度を変えることで解決を目指す。
7.2 CVD 法 表面像をみると SWNTが重なっていることがわかった。
これは成膜時に粒子が多く付着したことで成長時に重なってしまったと考えた。この問題は成膜時の濃度を下げて付着する粒子の数を抑えることで解決を目指す。
G/D 比はエタノール流量を変えることで最適化を目指す。
8.まとめ CNTは将来を大きく期待されている物質ではあるもの
の、SWNT はカイラリティによって性質が変わってしまう。これは電子デバイスなどに使う場合の障害になってしまう。そこで CVD 法で CNT が金属粒子を核として成長してくることより、成長前の金属粒子の直径を制御することで間接的にカイラリティを制御する。 粒子合成には金属の酸化物又は塩をポリオール中で加
熱還元する方法であるポリオール法を用いた。金属ナノ粒子は CoFe2微粒子を作製することにした。結果よりCoFe2微粒子は 4.9±0.3nmで多く作製することができたが 5.4nmと 6nmの粒子も確認されたため、目的の均一な粒子を得ることはできなかった。
CVD 法はアルコールを用いる ACCVD 法を用いた。G-band、D-band、RBM の確認ができた。G/D 比は 11.9であり、SWNT の直径は 1.77nm,1.47nm,1.32nm,1.04nm で成長していることがわかった。長さは最大約 3μmのナノチューブが確認できた。 本実験の解決策として、粒子合成では触媒の変更、触
媒混入時の温度の変更を考えた。CNT 成長では成膜時の濃度変更、成長時のエタノール流量の変更を考えた。
9.参考文献
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3.50
0.00
[nm]
0 500 1000 1500 20000
1000
2000 CVD後 基板
In
tensi
ty (
arb.
un
its)
Wavenumber [ cm-1
]
6.30
[nm]
0.00
-
[2] Z. Yao, C. L. Kane, and C. Dekker, Phys. Rev. Lett., 84,
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