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技術紹介 プレストレス導入の精度向上と緊張管理の効率化 *1 川田建設㈱東日本統括支店事業推進部 次長 *2 川田建設㈱東日本統括支店事業推進部工事課 係長 *3 川田建設㈱事業統括本部事業企画部(東日本統括支店) 係長 川田技報 Vol.32 2013 技術紹介 10-1 技術紹介 プレストレス導入の精度向上と緊張管理の効率化 ~無線 LAN を用いた自動 PC 緊張管理システムの開発~ Development of an Automatic Control System for PC Tension by Using the Wireless LAN 今井 平佳 *1 法貴 裕 *2 鹿嶋 圭介 *3 Hirayoshi IMAI Yutaka HOKI Keisuke KASHIMA はじめに プレストレストコンクリート橋(以下, PC )において, PC 鋼材の緊張は構造物の耐荷性能や耐久性能などに大 きく影響する極めて重要な施工プロセスの一つです。ポ ストテンション方式 PC 橋の現場施工において, PC 鋼材 の緊張作業・管理の手法は確立されています。しかし,そ の過程には人為作業が多く,管理精度や作業効率の観点 から改善できる余地が大きいと考えられます。これに対 して,緊張管理における既往の取り組みとして,油圧ポ ンプ圧力と PC 鋼材伸び量のセンサ測定によるデジタル 化技術を実用化し、施工実績を重ねています。 今回, PC 緊張におけるプレストレス導入のさらなる精 度向上と緊張作業・管理の効率化を目的として,無線 LAN を用いた自動 PC 緊張管理システムを開発しました。 1.自動 PC 緊張管理システムの概要 (1)システムの構成 本システムは,緊張管理用制御装置(以下,制御装置)タブレット型パソコン,油圧ポンプ,緊張ジャッキで構 成されます(図-1)制御装置には,電磁弁およびデジタル圧力センサ,無 LAN ユニットなどが内蔵されており,油圧ポンプと緊 張ジャッキとは油圧ホースで,デジタル変位センサとは 通信ケーブルで,それぞれ接続します。タブレット型パ ソコンには管理プログラムが組み込まれており,制御装 置と無線 LAN で繋がれます。油圧ポンプと緊張ジャッキ は,従来から緊張作業に用いている機器が使用できます。 (2)システムの動作概要 本システムは, 緊張ジャッキのセ ット・撤去を除き, タブレット型パソ コンによって緊張 作業・管理を行う ことができます (図-2)管理プログラム による緊張ジャッ キの制御命令や, 圧力と伸びの計測 データの取得は, 制御装置を介して 無線 LAN による 通信で行います。 緊張ジャッキの制御は,制御装置の電磁弁とデジタル 圧力センサによる油圧の調整で行い, PC 鋼材の伸び量は, 緊張ジャッキに取り付けたデジタル変位センサでシリン ダのストロークを計測します。 2.自動 PC 緊張管理システムの特徴 (1)プレストレス導入の精度向上 従来, PC 鋼材の緊張作業は,目視によって油圧ポンプ のマノメータで圧力示度を読みとり,手動での油圧ポン プ操作によって緊張ジャッキの動作を停止してから,同 じく手動で PC 鋼材の伸び計測を実施しています(図-3)緊張ジャッキのセット 緊張ジャッキの撤去 緊張(初期緊張力) 緊張(緊張力の増加) 最終緊張力算出 緊張(最終緊張力) 圧入(定着作業) 解放(圧力解放) 戻し(ストローク0) 管理プログラム による 自動制御 ステップ毎データ取得 プログラムで 自動算出 機械制御自動引止タブレット パソコン 緊張ジャッキ 油圧ポンプ 無線LANによる通信 伸び デー 油圧ホース 油圧ホース デジタル圧力センサ 電磁弁 伸び計測 圧力計測 管理プログラム デジタル変位センサ 制御命令 計測データ 制御装置 手動操作引き止め 目視で 圧力計測 油圧ポンプ ポンプ 操作者 緊張ジャッキ 作動を 一時停止 して計測 スケールで 伸び計測 図-3 緊張作業時の誤差の発生要因 図-1 自動 PC 緊張管理システムの構成 図-2 システムの自動制御範囲

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技術紹介 プレストレス導入の精度向上と緊張管理の効率化

*1 川田建設㈱東日本統括支店事業推進部 次長

*2 川田建設㈱東日本統括支店事業推進部工事課 係長

*3 川田建設㈱事業統括本部事業企画部(東日本統括支店) 係長

川田技報 Vol.32 2013 技術紹介10-1

技術紹介

プレストレス導入の精度向上と緊張管理の効率化 ~無線 LAN を用いた自動 PC 緊張管理システムの開発~ Development of an Automatic Control System for PC Tension by Using the Wireless LAN

今井 平佳 *1 法貴 裕 *2 鹿嶋 圭介 *3

Hirayoshi IMAI Yutaka HOKI Keisuke KASHIMA

はじめに

プレストレストコンクリート橋(以下,PC 橋)において,

PC 鋼材の緊張は構造物の耐荷性能や耐久性能などに大

きく影響する極めて重要な施工プロセスの一つです。ポ

ストテンション方式 PC 橋の現場施工において,PC 鋼材

の緊張作業・管理の手法は確立されています。しかし,そ

の過程には人為作業が多く,管理精度や作業効率の観点

から改善できる余地が大きいと考えられます。これに対

して,緊張管理における既往の取り組みとして,油圧ポ

ンプ圧力と PC 鋼材伸び量のセンサ測定によるデジタル

化技術を実用化し、施工実績を重ねています。 今回,PC 緊張におけるプレストレス導入のさらなる精

度向上と緊張作業・管理の効率化を目的として,無線LANを用いた自動 PC 緊張管理システムを開発しました。

1.自動 PC 緊張管理システムの概要

(1)システムの構成

本システムは,緊張管理用制御装置(以下,制御装置),タブレット型パソコン,油圧ポンプ,緊張ジャッキで構

成されます(図-1)。

制御装置には,電磁弁およびデジタル圧力センサ,無

線 LAN ユニットなどが内蔵されており,油圧ポンプと緊

張ジャッキとは油圧ホースで,デジタル変位センサとは

通信ケーブルで,それぞれ接続します。タブレット型パ

ソコンには管理プログラムが組み込まれており,制御装

置と無線 LAN で繋がれます。油圧ポンプと緊張ジャッキ

は,従来から緊張作業に用いている機器が使用できます。

(2)システムの動作概要

本システムは,

緊張ジャッキのセ

ット・撤去を除き,

タブレット型パソ

コンによって緊張

作業・管理を行う

ことができます

(図-2)。 管理プログラム

による緊張ジャッ

キの制御命令や,

圧力と伸びの計測

データの取得は,

制御装置を介して

無線 LAN による

通信で行います。 緊張ジャッキの制御は,制御装置の電磁弁とデジタル

圧力センサによる油圧の調整で行い,PC 鋼材の伸び量は,

緊張ジャッキに取り付けたデジタル変位センサでシリン

ダのストロークを計測します。

2.自動 PC 緊張管理システムの特徴

(1)プレストレス導入の精度向上

従来,PC 鋼材の緊張作業は,目視によって油圧ポンプ

のマノメータで圧力示度を読みとり,手動での油圧ポン

プ操作によって緊張ジャッキの動作を停止してから,同

じく手動で PC 鋼材の伸び計測を実施しています(図-3)。

緊張ジャッキのセット

緊張ジャッキの撤去

緊張(初期緊張力)

緊張(緊張力の増加)

最終緊張力の算出

緊張(最終緊張力)

圧入(定着作業)

解放(圧力解放)

戻し(ストローク0)

管理プログラム

による

自動制御

ステップ毎の

データ取得

プログラムで

自動算出

機械制御で

自動引止め

タブレット型

パソコン

緊張ジャッキ油圧ポンプ

無線LANによる通信

伸び

デー

油圧

ホー

油圧

ホー

デジタル圧力センサ

電磁弁

伸び計測

圧力計測

管理プログラム

デジタル変位センサ

制御命令

計測データ

制御装置

手動操作で

引き止め

目視で

圧力計測油圧ポンプ

ポンプ

操作者緊張ジャッキ

作動を

一時停止

して計測

スケールで

伸び計測

図-3 緊張作業時の誤差の発生要因

図-1 自動 PC 緊張管理システムの構成

図-2 システムの自動制御範囲

技術紹介 プレストレス導入の精度向上と緊張管理の効率化

川田技報 Vol.32 2013 技術紹介10-2

この過程で,圧力示度の読みとり誤差や手動操作によ

る緊張停止のタイミングのずれで生じる圧力誤差,PC 鋼

材の伸びの計測誤差,圧力と伸びの計測タイミングのず

れによるばらつき誤差などが発生する可能性があります。 これらの緊張作業時における誤差の発生を低減し,PC

鋼材へのプレストレス導入の精度を向上するための,本

システムの特徴を以下に挙げます。 ① デジタル圧力センサおよびデジタル変位センサを

用いて,緊張ジャッキの圧力および PC 鋼材の伸び

を計測することで,読みとり誤差や個人差によるば

らつきを回避できます(図-4)。 ② 圧力計測値をシステム作動基準とすることで,伸び

と圧力を同時にタイムラグなく計測できます。 ③ 最終緊張力は,圧力と伸びの計測値を基にプログラ

ムで算出し,油圧電磁弁を機械的に制御することで,

自動で引き止めることができます(図-5)。 ④ PC 鋼材 1 本ごとの緊張管理に加えて,PC 鋼材の

グループごとの緊張管理も行うことができます。

(2)緊張作業および緊張管理の効率化

現在,PC 鋼材の緊張作業には,作業指揮者や管理グラ

フ作成者,油圧ポンプ操作者,PC 鋼材の伸び計測者など,

最低 4~5 人の人員を要します(図-6)。また,緊張時の圧

力-伸び挙動の傾向を確認するため,最終緊張力に至るま

での間に,圧力 5MPa 毎に緊張を一時停止し,伸びを計

測し,管理グラフを作成する必要があることから,緊張

作業が断続的となり時間を要します。さらに,作業指揮

者は管理グラフを確認しながら作業指揮をとるため,緊

張ジャッキや油圧ポンプの作動状態および挙動を確認す

る際には,緊張を一時停止する必要があります。

これらの現状に対して,緊張作業および緊張管理にお

ける人的や時間的な効率を向上させるための,本システ

ムの特徴を以下に挙げます。 ① 緊張ジャッキを自動制御し,PC 鋼材の伸びを自動

計測するため,油圧ポンプ操作者や伸び計測者が不

要となります。さらに,管理グラフを自動作成でき

ることで,管理グラフ作成の専任者が不要となり,

作業指揮者が負担無く直接実施できます。これらに

より,緊張作業を 2 人の人員で実施できます(図-7)。

② 圧力や伸びなどの計測データが集約される制御装

置と,管理プログラムが内蔵されたタブレット型パ

ソコンは,有線ではなく,無線で通信するため,作

業指揮者が自由に移動することができます(図-8)。

緊張

ジャッキの

挙動確認

油圧ポンプの

挙動確認

緊張ジャッキ

油圧ポンプ

圧力・伸び計測

管理図作成

少人数で

緊張作業

が可能

作業員

緊張ジャッキの

セット・撤去

油圧ポンプ

制御装置

作業指揮者

緊張ジャッキ

最終緊張力を

自動算出

緊張作業に

多数の

人員が必要伸び計測者

ポンプ操作者

管理グラフ

作成者

作業指揮者が機器と

管理グラフとを確認

緊張ジャッキの

ストロークを計測

緊張ジャッキの

圧力を計測

油圧ポンプ

緊張ジャッキ

デジタル

変位センサ

制御装置

デジタル

圧力センサ

図-5 管理プログラム

図-7 少人数での緊張作業

図-8 作業指揮者による機器の挙動確認

図-4 圧力と伸びの自動計測

図-6 多人数での緊張作業

技術紹介 プレストレス導入の精度向上と緊張管理の効率化

川田技報 Vol.32 2013 技術紹介10-3

③ 緊張管理データは,逐次,タブレット型パソコンに

蓄積されるため,緊張作業終了とともに,緊張管理

図の自動作成が完了します(図-9)。

④ PC 鋼材の長さや配置形状がほぼ同様で多数配置さ

れている床版横締め鋼材などの場合,最初の数本で

圧力-伸び挙動の傾向を確認した後は,最終緊張力の

直前まで連続的な動作が可能です。

3.実施工への適用事例

現在,施工中の圏央道 上太田橋において,本システム

を用いた床版横締め(1S21.8,CCL シングルストランド工

法)の施工を実施しています(図-10)。

本システム(図-11)を用いることで,緊張作業を作業指

揮者と作業員 1 人のみで実施でき(図-12),加えて,作業

指揮者が自由に移動しながら緊張ジャッキの挙動確認で

き(図-13),緊張作業・管理の効率化が確認されました。

また,緊張作業終了と同時に作成される緊張管理図(グループ管理)が示すように,最終圧力は設計値に対する実

測値のバラツキが小さく(図-14),正確な最終緊張力の安

定的な導入が確認されました。

おわりに

今後,現場施工における検証により,利便性のさらな

る向上を目指し,管理プログラムや制御装置などの改良

を実施していく予定です。 最後に,本システムの開発に関してご協力をいただい

た関係各位に,また現場施工への導入にご協力いただい

た方々に感謝の意を表します。

参考文献

1) 今井,鹿嶋:無線LANを用いた自動PC緊張管理システムの開発,土木学会第67回年次学術講演会講演概要集,Ⅵ-360,2012.9.

張出し施工全景

張出し施工

圏央道 上太田橋 ( 施工中 ) □橋種 プレストレストコンクリート道路橋

 □形式 PRC2径間連続ラーメン箱桁橋

 □橋長 123.0m ( 支間 60.3m + 60.3m )

 □全幅員 11.15m ( 有効幅員 10.5m )

 □床版横締めPC鋼材 SWPR19 1S21.8

タブレットPC

緊張ジャッキ

デジタル

変位センサ

油圧ポンプ 制御装置

作業指揮者

作業員

緊張

ジャッキの

セットと

撤去

圧力・伸び計測

管理図作成

油圧ポンプ

制御装置

緊張ジャッキ

タブレットPC

緊張作業を

人員2名

で実施

グループ管理図

設計値に対する

実測値の

バラツキが小さい

緊張ジャッキの

挙動確認

緊張

ジャッキの

挙動確認

緊張完了と

同時に管理図の

自動作成完了

図-10 圏央道 上太田橋(施工中)

図-11 使用機材

図-14 緊張管理図(グループ管理)

図-13 緊張ジャッキの挙動確認

図-12 緊張作業状況

図-9 自動作成した緊張管理図