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1 ジオポリマーを用いた熱処理残渣 中セシウムの不溶化技術の開発 京都大学大学院地球環境学堂(工学研究科兼担) 教授 高岡昌輝、 准教授 大下和徹 京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻 修士2回生 中村尊郁、技術職員 塩田憲司

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ジオポリマーを用いた熱処理残渣中セシウムの不溶化技術の開発

京都大学大学院地球環境学堂(工学研究科兼担)

教授 高岡昌輝、 准教授 大下和徹

京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻

修士2回生 中村尊郁、技術職員 塩田憲司

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放射性物質を含む廃棄物等の問題の構造

放射性物質放出 (Cs134・137)

移流・拡散

土壌等への沈着

降雨

Cs付着・吸収

浄水汚泥

最終処分場

焼却・溶融施設

一般ごみ

焼却主灰・飛灰

Cs等沈着土壌粒子流出・濃集 草木類

焼却減量に伴う濃集(主灰)、揮発・凝集による濃集(飛灰)

By 国立環境研究所 大迫政浩センター長

下水汚泥

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従来技術とその問題点 • 福島第一原発における事故以降、8,000Bq/kgを超える

高濃度の放射性セシウム(Cs) が焼却残渣に含まれ、埋立処分に問題が残る

セメント固化によってCsを不溶化されているが、溶出率は60~90%とあまり不溶化でき

ていない

単純でCsを不溶化する技術が求められる

Csを除去する技術が開発されているが、クリアランス以下にすることは難しい。複雑なプロセスが

必要

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焼却飛灰の溶出性

飛灰処理物とは焼却飛灰にセメントを添加したもの 国立環境研究所データ

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セメントと同様な物でより安定的に 本研究ではジオポリマーに着目

ジオポリマーとは

・アルミノケイ酸塩

(メタカオリン、石炭灰、スラグ、焼却飛灰)

・アルカリ溶液(水酸化ナトリウム)

・ケイ酸水溶液(水ガラス)

が反応して生成される固化体である

都市ごみ焼却飛灰中のCsをジオポリマーを用いて不溶化し、最適な条件を見出す

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ジオポリマーの先行研究・活用例 セメントを使用しないコンクリート製品 • セメントに比べ8割のCO2削

減 • コストは1.5倍 • 圧縮強度は従来製品と同

等まで発言可能 • 酸への抵抗性高い

外構ブロックとその施工例 西松建設ホームページ

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ジオポリマーの反応プロセス

溶解した金属イオン(Mm+)はAlの役割を果たす

Csはゲル化、再組織化において、取り込まれる(上図でNaの代り)

CsAlSi2O6:ポルックス石(天然鉱物)

NaOH 水ガラス水溶液

アルミノケイ酸塩

O

O

Si O O

O

O

Si O O Al

O

O - Na+

Alイオン溶出 Mm+イオン溶出

3次元 網目構造

ゲル化、再組織化、縮重合

ジオポリマー

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実験方法 ジオポリマー作成とその評価

• 14mol

ケイ酸ナトリウム(水ガラス) • JIS規格1号

• BF灰(消石灰噴霧有 or 無)

• メタカオリン(2SiO₂・Al₂O₃)

フィラー

アルカリ活性剤

フィラーとアルカリ活性剤を混合

養生期間3日間 (室温→105℃→室温)

過度のNaOH除去のために洗浄

洗浄液 ジオポリマー 固化体

分析へ 溶出試験へ

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飛灰/フィラー(FA)=30,40,50,60,100%

に設定

フィラー/全体(Fi)=45,50,60,70%に設定

別途、CsCl、Cs2CO3の試薬を飛灰に添加

して、実施

実験条件

0

20

40

60

80

FA30 FA40 FA50 FA60 FA100

飛灰

の混

合割合

(%)

飛灰割合

Fi45

Fi50

Fi60

Fi70

• アルカリ灰(消石灰噴霧):1.8mg/kg

• 中性灰:7.1mg/kg

• メタカオリン(2SiO₂,Al₂O₃)

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溶出試験 環境庁告示46号試験

・土壌の汚染に係る環境基準を定める試験

・安全側で評価をするために、成型後のジオポリマーを粉砕してから試験

固液比10(ml/g)で6時間振とう

静置、遠心分離

ろ過

検液

ICP-MS分析

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評価指標:固定化率(不溶化率)

各条件で飛灰割合が異なる

元素全量が異なる

溶出濃度の比較困難

固定化率 • 洗浄による流出も考慮し、作成から試験後まで全体を通して残っている割合

固定化率(%)= 元素全量-(溶出量+洗浄流出量)

元素全量 ×100

=不溶化率

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結果(飛灰の場合)

中性灰

Fi50FA50 94.0

Fi50FA70 77.6

Fi50FA90 80.1

Fi70FA50 84.5

Fi70FA70 83.2

Fi70FA90 58.1

Fi90FA50 59.6

Fi90FA70 51.6

Fi90FA90 35.4

アルカリ灰

Fi45FA30 60.0 Fi45FA40 68.1 Fi45FA50 78.4 Fi45FA60 81.7 Fi45FA100 25.7 Fi50FA30 70.3 Fi50FA40 75.4 Fi50FA50 81.1 Fi50FA60 83.2 Fi50FA70 81.2 Fi50FA90 80.1 Fi50FA100 15.4 Fi60FA30 76.1 Fi60FA40 82.1 Fi60FA50 85.1 Fi60FA60 87.0 Fi60FA100 0 Fi70FA30 79.5 Fi70FA40 84.6 Fi70FA50 86.9 Fi70FA60 89.0 Fi70FA90 40.7 Fi70FA100 0

Fi:50-70(全体の中でアルカリ剤が少ないFi90でもダメ。またフィラーが少なくてもダメ。) FA:40-90(メタカオリンを入れず、飛灰だけだとだめ。90でも80%を超えている場合があるが、適度なメタカオリンが必要。飛灰が少なすぎてもだめ。)

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標準試薬添加ケースの結果

Fi50FA50 CsCl

CsCl

中性灰

1000mg/kg (CsCl or

Cs2CO3)の 飛灰をフィラー

に使用。 乳鉢で混合

96.1 Fi50FA90 CsCl 65.5 Fi70FA50 CsCl 84.9 Fi70FA90 CsCl 78.2 CaFA Fi50FA50 CsCl

アルカリ灰 95.8

CaFA Fi50FA90 CsCl 94.2 CaFA Fi70FA50 CsCl 87.0 Fi50FA50 Cs2CO3

Cs2CO3

中性灰

98.6 Fi50FA90 Cs2CO3 88.0 Fi70FA50 Cs2CO3 94.8 Fi70FA90 Cs2CO3 80.7 CaFA Fi50FA50 Cs2CO3

アルカリ灰

96.4 CaFA Fi50FA90 Cs2CO3 88.3 CaFA Fi70FA50 Cs2CO3 88.0 CaFA Fi70FA90 Cs2CO3 85.3

Fi50FA50のケースではいずれの飛灰、化合物でも95%以上固定化 Fi70FA50のケースではいずれの飛灰、化合物でも84%以上固定化

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X線吸収微細構造による化学状態分析

8800 9000 9200 9400 9600 9800

エネルギー(eV)

XANES EXAFS

単体の銅 (銅薄膜)

I0 I

X線を物質に照射するとX線の一部が物質に吸収さ。入射X線のエネルギーを変化させて、X線の吸収率を測定 XAFSは、以下の2つの部分に大別される XANES・・・吸収端近傍の吸収スペクトル EXAFS・・・吸収端から右側の波打ち部分 これらの部分の解析から、測定対象原子(元素)の周囲の構造に関する情報を得る。

アモルファスなものでも化学状態を知ることができる。

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Csの化学形態変化

CsのXANESスペクトルは変化が小

さいが確実に、処理前後ではスペクトルが変化し、酸素が周りに配位したものに変化している。

ポルックス石CsAlSi2O6に近い形 36000 36050 36100

Nor

mal

ized

abs

orpt

ion

(-)

Photon energy (eV)

CsCl

Cs2CO3

CsAlSi2O6

CsCl混合中性灰

ジオポリマー 処理後

SPring-8 BL01B1にて試薬添加ケースを測定 蛍光XAFSにより測定

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新技術の特徴・従来技術との比較

• 従来のセメント添加による方法では焼却飛灰中セシウムの溶出性は高く(65-90%程度)、

根本的な不溶化がなされていない。本方法によれば、多くの処理条件で80%以上の固定化

率を達成可能であり、埋立処分場におけるセシウムの流出防止に有効である。

• 従来はジオポリマーとしてはセメントを使用しないコンクリート製品といった用途に限られていたが、飛灰処理に適用可能となった。

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想定される用途 • 本技術の特徴を生かすためには、焼却飛灰を前処理せずにそのまま不溶化できるため、複雑な装置などが必要ないことが大きなメリットと考えられる。

• 対象元素はセシウムだけでなく他の重金属、たとえば鉛の不溶化にも効果が得られる。

• 本来の用いられてきた分野(コンクリート製品)に着目すると、焼却飛灰や他の残さの再生利用(建設資材利用)に展開可能。

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鉛の不溶化への効果 元飛灰中濃度:820mg/kg 46号溶出試験結果:33mg/L ジオポリマーの溶出試験結果(mg/L)

Fi45 Fi50 Fi60 Fi70 FA30 0.081 0.032 <0.0073 <0.0073 FA40 0.011 <0.0073 <0.0073 <0.0073 FA50 0.52 <0.0073 0.12 <0.0073 FA60 0.0098 <0.0073 <0.0073 <0.0073 FA100 0.19 0.12 0.033 0.014

1条件のみ埋立判定基準(0.3mg/L)を超えたケースあり(厳密には試験方法が異なるが)。 Fi50以上であれば、埋立判定基準は守ること可能。

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実用化に向けた課題 • 現在、基本的なセシウムの不溶化メカニズムについては明らかにしているが、より高効率での不溶化に関する検討や各種パラメータの影響については不十分である。

• 今後、溶出性についての実験データだけでなく、強度、耐酸性データ等を取得し、現場に適用していく場合の条件設定を行っていく。

• 実用化に向けて、放射性セシウムでの検討とコストの試算が必要。

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企業への期待 • 放射性セシウムに汚染された実際の現場試験を提供してくれる企業、スケールアップした製造を行ってくれる企業との共同研究を希望。

• セシウムとは関係なく、有害金属の不溶化について本技術の適用を検討している会社との共同研究を希望。

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本技術に関する知的財産権

• 発明の名称 :セシウム含有廃棄物の処 理方法

• 出願番号 :特願2012-170952 • 出願人 :京都大学 • 発明者 :高岡昌輝、中村尊郁、 大下和徹、塩田憲司

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産学連携の経歴

• 2007年以降 多数共同研究実施 • 大阪ガス、タクマ、JFEエンジニアリング、新日鉄住金

エンジニアリング、神鋼環境ソリューション、メタウォーターなど

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お問い合わせ先

関西ティー・エル・オー株式会社 安部 英理子

TEL 075-753-9150

FAX 075-753-9169

e-mail [email protected]