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修士論文 ケプラー衛星データに基づくハビタブル惑星候補に関する考察 明星大学大学院理工学研究科物理学専攻 博士前期課程 12M1001 堂ヶ崎知誠 2014 2 5

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修士論文

ケプラー衛星データに基づくハビタブル惑星候補に関する考察

明星大学大学院理工学研究科物理学専攻 博士前期課程

12M1001

堂ヶ崎知誠

2014 年 2 月 5 日

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概要

目的: ハビタブルゾーンの基本的な構造は Kasting+(1993) で提案された. 星に近い方か

ら, 暴走温室効果, 湿潤温室効果, 最大温室効果と温室効果を及ぼす領域の種類が存在している

ことが考案された. 最近になって Kopparapu+(2013) に基づいて, ハビタブルゾーンの構造

が明確化されるようになった.

ハビタブルゾーンの両端からの距離から惑星の軌道までの距離を調べることにより, その惑

星がどれだけの温室効果の影響を受けているか, 大気の状態を推定できる. ハビタブル惑星検

出の際に液体の水の保有率を考える必要が出てくる. 惑星が受ける温室効果の影響の可否は液

体の水の保有に影響するからである. したがって暴走温室効果領域, 湿潤温室効果領域及び最

大温室効果領域からの各距離によっておおよそ惑星の大気の状態を推定することが可能である.

このような背景から, ハビタブルゾーンの両端からの距離と惑星の物理パラメータとの関係を

調べ考察する.

方法: 平衡温度が 180~260Kの Kepler/KOIの惑星候補天体 44個, これ以外の惑星 29個,

地球の合計 73個の惑星に対して Kopparapuモデルを適用し, 暴走温室効果領域, 湿潤温室効

果領域, 最大温室効果領域の 3種類の温室効果で構成されているハビタブルゾーンの構造を計

算で導く. そのハビタブルゾーンの構造を基にして暴走温室効果領域, 湿潤温室効果領域及び

最大温室効果領域からの各距離と惑星のパラメータを比較する.

考察: 暴走温室効果領域及び湿潤温室効果領域, 最大温室効果領域からの距離と惑星半径は,

地球の 3倍以下の大半のスーパーアースが最大温室効果領域よりも特にハビタブルゾーンの内

端の領域寄りに集中していることが分かった.

結論: 150日以内の短周期惑星は地球半径の 3倍以下のスーパーアースが多い傾向にあり, 暴

走温室効果領域及び湿潤温室効果領域寄りに非常に多く集中している. これは観測バイアスに

よるものであり, ハビタブルゾーンの外端付近には比較的重い惑星が存在するのではないかと

考えられる.

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目次

1 導入 4

1.1 系外惑星について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.2 系外惑星探査の歴史 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.3 系外惑星の種類と特徴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

1.4 系外惑星の検出方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

1.5 ケプラー衛星 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

1.6 ハビタブルゾーンとその性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

1.7 ハビタブルゾーンとその付近の構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

1.8 星の有効フラックスと惑星の放射フラックス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

1.9 星の有効フラックス関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

1.10 論文の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

2 研究の目的と意義 16

2.1 研究の背景 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

2.2 研究の目的と意義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3 研究の方法 17

3.1 ハビタブル惑星候補選びのルール . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.2 計算に使用した式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.3 使用したソフトウェア・参考Webサイト . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.4 入力パラメータ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

4 結果 20

4.1 自作ソフトウェアによる結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

5 考察 23

5.1 本研究から分かったこと . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

6 まとめ 26

6.1 新提案:ハビタブル指数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33

3

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1 導入

1.1 系外惑星について

惑星とは自ら赤外放射 (IR)しながら, 恒星を周回する木星質量の 13倍 *1 以下の天体のことで

ある. 太陽系外惑星 (以下, 系外惑星) とは太陽系以外の恒星の周りを公転する惑星のことである.

1995年の主系列星周りの系外惑星の初検出以来 2014年現在でその検出数は 1000個を超えた.

系外惑星天文学 (Exoplanetary Astronomy)は, 系外惑星の検出と諸現象などを解明する系外惑星

に関する天文学の一分野である.

1995年に主系列星ペガサス座 51番星周りに巨大ガス惑星を検出したことを機に急速に発展してい

る. 2000年代に突入し, トランジット法による観測が盛んに行われるようになり検出数が急激に増

えた. 2009年 3月にはケプラー衛星が打ち上げられ, 5400個以上のケプラー惑星候補があり, その

うち 3500個以上が惑星候補として確認されているといわれている.

2013年 8月には, 「第 2の木星」の直接撮像に成功するなど成果を上げている.

1.2 系外惑星探査の歴史

太陽系外の惑星探査への試みは 1930年代後半に始まった.

20 世紀前半, 我々の太陽が銀河系の数千億の恒星の一つであることが認識され始めるようになる

と, 観測装置の精度が向上し技術が発達し, 地球外生命探査への興味も強まり, 系外惑星探査への試

みが盛んになった.

1940年代以降になると, アストロメトリ法による探査が行われるようになった. これは恒星が惑

星の影響を受けてふらつく位置を精密に測定することによって惑星を検出する方法である. 1944

年にはスプロール天文台のピーター・バンデカンプがバーナード星に惑星がありそうだという中間

報告をし, 10数年議論が続いた.

1960年代にはバーナード星周りの惑星に期待が高まる中, 他の恒星周りにも惑星があって, そこ

に知的生命体がいるかもしれないという発想から, 知的生命体から電波をキャッチするための「オ

ズマ計画」がアメリカのフランク・ドレイクによって始まった.

1972 年にはついに, バーナード星周りの惑星の存在への批判が出始め, 翌年にはとうとうバー

ナード星周りの惑星の存在を完全否定する論文がジョージ・ゲートウッドによって発表された.

バーナード星周りの惑星は観測した天文台の望遠鏡の固有の誤差が原因で, 観測ミスだったと判明

した. 実際他の天文台がバーナード星周りの惑星の観測を行っても成功しなかった.

アストロメトリ法では恒星のふれが小さく観測が困難であり, 現在も成功例は無い.

1980 年代に入り, 系外惑星天文学者の「恒星の振れの変化が小さい位置ではなく速度で測る」

*1 太陽の 1.3%, 地球質量の 4132倍に相当.

4

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という発想転換から, ドップラー法による探査が始まったが, 当時の観測機器の精度では秒速 200

メートルが限度であった為これ以上の惑星しか検出できなかった. 太陽系の木星でさえも太陽をふ

らつかせる速度が秒速 13メートルであることから観測精度として不十分だった.

1995年まで系外惑星の発見は無かった. 当時のプラネット・ハンターたちが相次いで敗北宣言を

し, 惑星形成理論研究者は「観測不能」と述べるなど, 悲観的な雰囲気が続いた.

ところが一転して同年 10月 6日, ミッシェル・マイヨールとディディエ・ケロスはペガサス座

51番星周りに, わずか 4.2日で公転する木星型の巨大ガス惑星を発見したと発表した. この惑星は

恒星から 0.051AU という至近距離を公転するため, 高温な木星であることから「ホット・ジュピ

ター」と呼ばれるようになった. このように想像を絶する姿の惑星が発見され, 系外惑星天文学者

にとってはまさに「寝耳に水」だった.

当時の観測精度は秒速 15メートルで, この惑星は秒速 55メートルだった. 直ぐに他の天文台でも

追観測が行われ相次いで観測に成功し初の系外惑星検出へと繋がった.

但し,「恒星の黒点を見ているだけではないのか」あるいは「特に変光星の場合なら, 恒星の脈動を

見ているだけではないのか」というクレームが殺到し多くの研究者が調べ上げたがこれらの効果で

は説明できず, やはり何かが回っているとしか考えられないという結論に至った.

惑星が回っていることが実証されたのは 1999年にドップラー法によって発見されたHD209458b

だった. 翌年にはトランジット法で観測され惑星の存在が確実なものとなった. トランジット法は

惑星が恒星の前を通過するときの影を捉えることによって存在を検出する方法であり, 何らかの天

体が周回していることは確実となった. 惑星のサイズや軌道面傾斜角など多くの情報を得られると

いう利点から 2000年代に入って以来, 現在もこの方法による系外惑星探査が盛んに行われている.

2009年 3月には NASA(米国航空宇宙局)がケプラー宇宙望遠鏡を搭載したケプラー衛星を打ち

上げた. これもトランジット法による観測手段を使い, 宇宙空間からのサーベイを行っている.

系外惑星の初の発見から 19年を迎えたばかりの 2014年 1月現在では, 発見数は 1000個を超え

た. ドップラー法による観測精度は数 m/sであり, 現時点でのハビタブル惑星である地球が太陽を

ふらつかせる速度が 0.09m/sであることから, 地球型惑星を検出するには現在の精度では困難であ

る.

1.3 系外惑星の種類と特徴

1.3.1 系外惑星の種類

太陽系内では, 地球型惑星 *2, 巨大ガス惑星 *3, 巨大氷惑星 *4 に大きく分類される.

一方太陽系以外では, 巨大ガス惑星が星の至近距離を公転するホットジュピター, 地球の数倍の

質量と半径を持つスーパーアース, 地球の 14倍の質量の惑星であるスーパーネプチューン, 軌道離

*2 水星, 金星, 地球, 火星*3 木星, 土星*4 天王星, 海王星

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心率が大きいエキセントリック・プラネット, ハビタブルゾーン内に軌道を持ち公転するハビタブ

ル惑星などがある.

1.3.2 系外惑星の特徴

地球を含む地球型惑星は, 中心部分のコアを覆う岩石でできており, 比重が大きい. 太陽系内, 太

陽系外共に小型の惑星が多い. 太陽系外では, 質量, 半径共に地球の数倍から 10 倍程度の惑星を

スーパーアースと呼んでいる.

木星型惑星は地表が無くガスでできており, 内部は液化した部分, 中心部分はコアでできている

と考えられている. 太陽系外では太陽系の木星型惑星に反し中心星から至近距離を公転している

ホットジュピターが多数存在する.

また巨大氷惑星は外側には大気があるが, 表面を氷で覆い岩石惑星とガス惑星の中間ぐらいの密

度を持つ惑星である.

太陽系の場合は太陽に近い方から順に, 地球型惑星, ガス惑星, 巨大氷惑星と並んでいる. 他の系

ではこの順番が普遍的であるかどうかはまだ解明されていない.

1.4 系外惑星の検出方法

系外惑星は, 1995年のペガサス座 51番星周りの惑星検出以来, ドップラー法が用いられてきた.

2000 年代に突入し, トランジット法という観測手法が登場して以来系外惑星の検出数は急上昇し

た. 2011年には惑星の直接撮像に成功するなど系外惑星の存在が確実になってきている.

以下では上述した系外惑星検出法について述べる.

• 直接法 - 直接撮像 (direct imaging)

• 間接法 - indirect method

– ドップラー法 (RV法)

– トランジット法

– 重力レンズ法

– アストロメトリ法

直接撮像では「第 2の木星」が 2013年 8月に発見された. 他にはドップラー法は 1995年に主系

列星を周回する惑星が, トランジット法での観測は 2009年 3月に打ち上げられたケプラー宇宙望

遠鏡をはじめとして非常に多くの惑星が発見されている.

6

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1.4.1 直接法- 直接撮像法

直接撮像法とは惑星を撮影することによって, その存在を検出する方法. 最近では 2013年 8月

に「第 2の木星」が発見された.

図 1 地球 (ハビタブル惑星)

の直接撮像

これはボイジャー 1号による地球の直接撮像である. 地球が白く

輝いているのは高層大気の成分によるものと考えられる. 太陽系

外でハビタブル惑星を直接撮像した場合, そこの大気の成分が地

球に類似する場合には白く見えるのかもしれない.

1.4.2 間接法

間接法には, ドップラー法 *5, トランジット法, アストロメト

リ法, 重力レンズ法, パルサータイミング法がある.

ここでは上記 2つのドップラー法とトランジット法について示す.

ドップラー法は恒星が公転するときにスペクトルが変化する. 惑星が付近にあれば, 一緒にふら

つき星のスペクトルにも変化が出てくる. そのときのブレを利用して惑星の存在を検出する方法.

ペガサス座 51番星が持つ惑星が世界初の主系列星周りの系外惑星の発見となった. ドップラー法

から以下のパラメータを得ることができる.

1. 公転周期 P [days]:スペクトルの変化の周期から分かる.

2. 軌道長半径 a[AU]:ケプラー第 3法則 *6 より,

a =

(4π2

GM⋆P 2

) 13

(1)

から導く.

3. 離心率 e:恒星のスペクトルの変化を調べることによって地球に対する相対速度を得る. こ

の時間的変化から求めることができる.

4. 惑星の質量下限値M sin i:地球からの視線方向に対し惑星の公転面の傾きが分からない為,

質量下限値しか推定できない為, 他の観測手法と併用する必要がある.

*5 視線速度法/RV法と呼ばれることもある.*6 調和の法則

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トランジット法は, 星の前を惑星が通過するときに影になる. その影を捉えて惑星を検出する方

法. 先ず物理的に惑星の大きさが分かる.惑星の半径が分かると密度が推定できる為惑星の種類が

分かる.

2000年代に入って盛んに利用されるようになった観測手法で, Kepler衛星による多くの惑星発見

に繋がり急成長を遂げている.

図 2 トランジット法の原理

減光時に暗さがピークに達することが光度曲線によって示

されている.

トランジット法による観測により, 次のパラメータを得るこ

とができる.

1. 公転周期 P [days]:トランジット現象が終わってから次のトランジットが起こるまでの一周

期が惑星の公転周期になる.

P = Ttransit

2. 軌道長半径 a[AU]:ドップラー法の場合と同様に 7ページの式 (1) に同じ.

3. 惑星半径 RP:トランジット現象が起きているときの星の光度曲線から惑星半径を推定する.

(RP

R⋆

)2

= 1− Lmid

Lbef

= 1− 10mbef−mmid

2.5

Lbef :トランジット前の星の光度 , Lmid:トランジット中の星の光度

4. 離心率 e:惑星の恒星面への出入りの際の速度を求め, 恒星の前を通過するのに要する時間

を考慮して求める.

軌道面のある一区間 ABにおける公転速度 v は,

v =2πa(1 + e cos f)

P√1− e2

と表される. 光度曲線から得たトランジット現象が起こっている時間と惑星半径から公転

速度を求めると, 離心率 eと近星点離角 f を決定することができる.

5. 軌道面傾斜角 i[deg]:地球からの視線方向に対する傾斜角は, 恒星の前を通過するときの速

8

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度と時間, 恒星の直径から惑星が恒星面のどの位置を通過したかが判明することから推定さ

れる.

6. 惑星大気組成:恒星の前を惑星が通過するときとしない時のスペクトルの差分を取り, そこ

から得た惑星大気の吸収線から大気成分を推定できる.

実はトランジット法にも問題点がある. それは惑星以外にも影ができる場合があり見分けがつかな

いことがある. 特に連星の場合, 地球から観測して主星に伴星がかする場合にも減光の時の明るさ

が, 惑星の通過時と類似し区別が困難であるといわれている.

またドップラー法とトランジット法を併用することもできる. これらを併用すると惑星の多くの

情報を得ることができる.

図 3 ドップラー法とトラン

ジット法の併用

ドップラー法によって視線速度曲線から質量が分かり, トラン

ジット法で惑星の半径が分かるので両方を組み合わせると例

えば密度が分かる. 地球に対してどれぐらいの密度なのかが分

かれば, その惑星が岩石質なのか, それともガス惑星なのかが

推定できる.

恒星の前をトランジットする天体が無い場合は, 視線速度曲線

も特に光度曲線のカーブにも変化はないが, トランジットする

天体が通過するときには, 星の光度が一時的に落ち光度曲線が

少し凹む.

また, 恒星の後ろを惑星が通過する現象 *7 を検出することで, 惑星の熱輸送や大気構造を詳しく調

べることができる.

ドップラー法とトランジット法から得られる情報を組み合わせると, 惑星に関するより多くの情報

を得ることができる (表 2).

惑星質量はトランジット法から軌道面傾斜角 iを決定するため, ドップラー法による観測から分か

るMP / sin iから質量MP を決定できる.

*7 セカンダリ・エクリプス

9

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Parameter Doppler Method Transit Method Doppler+Transit

Period ○ ○ ◎

Orbital distance ○ ○ ◎

Eccentricity ○ ○ ◎

Inclination × ○ ○

Planet Mass ▲ × ○

Planet Radius × ○ ○

Density × × ○

Atmosphere × ▲ ▲

表 1 ドップラー法とトランジット法の併用により得られる情報

1.5 ケプラー衛星

ケプラー計画は NASAが 2009年 3月に打ち上げたケプラー衛星による観測を通じて, 銀河系内

で地球の数倍の半径を持つハビタブルゾーン内及び近傍に軌道を持つ惑星を検出するために立ち上

げたプロジェクトである.

図 4 ケプラー宇宙望遠鏡

また, 地球の数倍の半径の惑星及びハビタブルゾーン内及び近傍に

軌道を持つ惑星の存在を追及する目的がある. 最終的には生命の起

源を探る為の生命探査に向けて *8 観測が行われている.

ケプラー計画の目的には以下の 6項目が挙げられる.

1. 星のハビタブルゾーンに及びその近傍にある地球類似惑星及

びそれよりも大きい惑星の数の決定

2. 惑星の軌道系と大きさの分類の決定

3. 惑星系の数の決定

4. 惑星の軌道の大きさと反射率, 半径, 質量, 短周期巨大惑星の

密度の多様性とその決定

5. 他の観測技法を用いた惑星系の発見と認定

6. 惑星系に隠れた星の特性の決定

先ずは惑星と惑星系の数を推定することで, 惑星の数を統計にする. そこから細かく惑星を分類し

ようとしている.

*8 主に, アストロバイオロジー (Astrobiology)で取り扱われる.

10

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1.6 ハビタブルゾーンとその性質

ハビタブルゾーン (HZ)*9 とは惑星の表面で水が凍らず蒸発しない, 液体で存在し得る星の周り

の領域 *10 である.

図 5 星のスペクトル型とハビタブル

ゾーンの外観

ハビタブルゾーン内に軌道が在る惑星表面では漠然

として, 「液体の水を持つ可能性がある」ということ

であり, ハビタブルゾーン内の惑星同士を比較しても,

地球と火星のように液体の水の保有率は必ずしも一

定ではない. 惑星が表面で液体の水を獲得するにも複

数の条件が必要である.

太陽系のハビタブルゾーンと星のスペクトル型によるハビタブルゾーンの位置と範囲は図のよう

になる。但し,これは水 (H2O)に限ったハビタブルゾーンである.

太陽系のハビタブルゾーンはおおよそ地球の付近から火星の手前までを領域で満たしている. 但し

ハビタブルゾーン内に在る天体でも火星のように液体の水がない惑星 *11 も太陽系外には多いと見

込まれている.

太陽系外では, 小型の惑星にハビタブル惑星候補が多く, 地球もその一つで普遍的であると考え

られる. 地球半径の数倍程度の小型の惑星こそハビタブル惑星候補として期待できるかもしれない.

ハビタブルゾーンには一般的に, 以下のような性質 *12 がある.

1. ハビタブルゾーンは中心星 (太陽系では, 太陽)からの距離によって決まり, 星のスペクトル

型により規模が異なる.

2. ハビタブルゾーン内に存在する惑星はその表面で液体の水を保持できる.

下の図は, 太陽系におけるハビタブルゾーンの位置と幅を表している.

ただ, ハビタブルゾーン内に惑星が在るだけでは地球のようなハビタブル惑星にはなれない. これ

らの惑星や衛星に進化するにはハビタブル度 *13 が必要である.

*9 現在では, 液体の水の存在領域を定義している. メタン CH4 などの海も指摘されるが, 解明されていないことが多い.

*10 惑星表面の保有率など細かな条件は前提とせず, 天体表面の「液体の水の有無」にのみ言及している.*11 火星には昔, 液体の水が存在していた痕跡が相次いで見つかっている.*12 Exoplanets - Detection, Formation, Properties, Habitability - Chapter10*13 これを惑星表面の「液体の水の保有率」で表現する.

11

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1.7 ハビタブルゾーンとその付近の構造

ハビタブルゾーンの標準モデルが 2013年 2月に公表された論文 *14 で大幅に見直された.

太陽系のハビタブルゾーンの構造と地球の関係を示している.

図 6 ハビタブルゾーンの構造

モデルが改定されたことにより, ハビタブル

ゾーンの構造がより明確化された. 地球の液体

の水の保有率 *15は湿潤温室効果領域より少し

以遠の現在の場所が最大であると考えられる.

つまり, 温室効果の影響がない領域では大気の

状態が一番安定しており, 今後これ以上液体の水の増減が無いことを表している.

ハビタブルゾーンの構造は, 星に近い方から暴走温室効果, 湿潤温室効果, ハビタブルゾーンの外端

と温室効果の度合いによってハビタブルゾーンが表現されている. 但し, 暴走温室効果と湿潤温室

効果は星のスペクトル型や質量, 大きさなどの物理量によって順番が逆になったり, あるいは一方

のみなど環境が異なってくる.

1.8 星の有効フラックスと惑星の放射フラックス

惑星は星のフラックスを受け取った分, 特に赤外放射することでバランスを保っている.

Kasting et al.(1993)では星の有効フラックス Seff をその惑星の赤外線の放出量及び吸収量で表

し,

FP =FIR

FS≡ S

S0(3)

と定義 *16 した. FIR は惑星の赤外放射, つまり惑星の放射エネルギーであり, FS は惑星が受ける

星の放射エネルギーである. 太陽定数は S0=1370[W/m2]である.

*14 Kopparapu et al.(2013)*15 第 2章を参照*16 Kasting et al.(1993) 及び Kopparapu et al.(2013) では Seff と表記されているが混同する為, この論文では惑星の放射フラックスを FP , 各種温室効果でのフラックスを Seff と区別している.

12

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また惑星のアルベド *17 は,

AP = 1− 4FS

S0(4)

= 1− 4FIR

S

= 1−(

a

R⋆

)2 (Teq

Teff

)4

と表される.

1.8.1 暴走温室効果 (Runaway Greenhouse)

湿潤温室効果領域 *18 よりも左側の領域では星から受ける光度が強く惑星が在っても水が消失し

ていると考えられる領域である. 特に暴走温室効果の領域では惑星大気中で温室効果がかなり進行

し, 気温が高い状態を表している.

特に Kopparapu+(2013)の中では地球が現在は液体の水を保持していたとしても, 温室効果が進

み暴走温室効果領域に達すると水を消失しているであろうと考えられるレッドラインである.

1.8.2 ハビタブルゾーンの内端 (湿潤温室効果/Moist Greenhouse)

上図のように, ハビタブルゾーンの内端 (IHZ) では「液体の水の消失限界 (湿潤温室効果)」と

「液体の水の蒸発域 (暴走温室効果)」の 2種類がある. 地球は水の消失限界よりも外側に在る.

Kasting et al.(1988) によると, 雲の影響を無視すれば太陽系では 0.95[AU ] で海洋は蒸発を始

め, 0.84[AU ]で完全に消失するだろうと考えられていた. ところが今回の論文では地球標準モデル

が 0.99[AU]で水が蒸発し始め, 0.97[AU]では完全に水が消失していると改定された.

上の図のように IHZ(inner edge of HZ)付近に 2種類の温室効果 *19 があり, IHZにこそ水を保持

するか否かの紙一重の境界が存在していることになる.つまり,「 湿潤温室効果領域=液体の水の消

失限界」である.

この限界があるという判っているということは, 裏を返せば太陽系の場合地球が「液体の水の保有

限界」であるという表現が可能である.

*17 天体 (特に惑星)が日の光を浴びるときの反射能. 0 =黒体, 1 =全反射を表す. 附録で証明*18 次節 1.8.2節を参照.*19 暴走温室効果 (Runaway Greenhouse)と湿潤温室効果 (Moist Greenhouse). この順番などは星の物理量 (スペクトル型, 質量, 半径)などによって異なる.

13

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1.8.3 ハビタブルゾーンの外端 (Outer edge of HZ/Maximum Greenhouse)

CO2 の大気が「散逸温室効果」をもたらす. 雲の影響から, 外端は 2.5[AU ](軌道距離の上限値)

で, 温室効果ガス CO2 が多く存在する領域と推定されている.つまり, ハビタブルゾーンの外端付

近の天体も温室効果が進行しやすいことを意味している.

1.9 星の有効フラックス関数

Kopparapu et al.(2013)では星の有効フラックス関数が提案された.

あらゆる主系列星 (M-F型星の有効温度 2600 ≤ Teff ≤ 7200 [K] の範囲で)ハビタブルゾーンが

太陽系に対しどの辺りに位置するのかより細かく知ることができる. その星の有効フラックス関数

Seff は,

Seff = Seff⊙ + aT⋆ + bT 2⋆ + cT 3

⋆ + dT 4⋆ (5)

と表される.

T⋆ = Teff − 5780 [K] (2600 ≤ Teff ≤ 7200) (6)

T⋆は太陽に対する星の相対有効温度差である.

特に本研究では式 (5)を使って推定できる温室効果の進行度を計算している.

1.9.1 星からハビタブルゾーンまでの距離

光度 L⋆ の星から各種温室効果を起こしているであろう地点までの距離を d, 星の有効フラック

スを Seff とすると,

d =

√L⋆

Seff(7)

と表される.

1.10 論文の構成

第 1章では上述の通り, 系外惑星天文学とハビタブルゾーン及び先行研究について述べた. 第 2

章では改めて研究目的と意義について述べ, 第 3章では研究の方法についてどのようなルールで計

算したかを述べる. 第 4章では結果について, 第 5章・第 6章では考察及び結論を示す.

14

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副研究としてハビタブル指数というパラメータを導入し, 惑星表面の液体の水の保有率を推定し

た. 地球を超える液体の水を持つと考えられる惑星候補が 5個見つかっている. 但しこのハビタブ

ル指数は, 2014年 1月現在で未完成であり議論中である.

15

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2 研究の目的と意義

2.1 研究の背景

Kasting+(1993)では 1-D対流輻射モデルを提案し, 暴走温室効果, 湿潤温室効果, 最大温室効果

が定義され, ハビタブルゾーンを温室効果で区切っていることを明示した.

Kopparapu+(2013)ではこれをさらに明確化して, 具体的にフラックスで温室効果を表現してい

る. 特に地球の場合, 湿潤温室効果付近で成層圏の気温が 340Kに達し, 暴走温室効果領域に達すれ

ば液体の水は消失しているだろうと論じている.

2.2 研究の目的と意義

明確化されたハビタブルゾーンの構造を前提として, 惑星の軌道距離に着目しハビタブルゾーン

の両端 *20 のそれぞれの領域から惑星がどれだけ離れているかを調べることで検出された惑星の観

測バイアスを知ることができる. また, ハビタブルゾーン内に軌道を持つ惑星の質量・半径の傾向

を調べることができる.

*20 暴走温室効果領域と湿潤温室効果領域及び最大温室効果領域

16

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3 研究の方法

自作のソフトウェア *21 を用いて過去に発見されている惑星の中からハビタブル惑星候補として

挙がっているものや公表されているデータを, NASA Exoplanet Archive *22 から参考にして選択

した.

3.1 ハビタブル惑星候補選びのルール

Webサイトに掲載されている惑星の中で, 特に惑星の質量や星の半径を適宜計算する為ルールを

設定した. 本研究で取り扱う NASA Exoplanet Archiveに掲載の惑星の中からハビタブル惑星候

補を選ぶまでのプロセスを以下に示す.

1. Kepler/KOIの惑星に対しては, 2013年度版の最新のデータを用いた.

2. 900 個以上のすべての惑星の中から, ハビタブル惑星候補としておおよそ 180 ≤ Teq[K] ≤260の範囲の惑星を選んだ.

3. Kepler/KOI惑星に対しての質量計算は, Weiss&Marcy(2013)の次節の 2つの式 (11-1)及

び式 (11-2)を用いた.

3.2 計算に使用した式

Kepler/KOIの惑星に対し質量を計算する為, 以下の式を使った.

M⋆ =4π2

GP 2a3 (8)

以下は Kepler/KOIの惑星に使用した質量 *23 の式である.

MP = M sin i = K

(P 2M⋆

2πG

) 13

(9)

*21 系外惑星計算用ソフトウェア「Planet Hunter9」(since 2007-, copyright c⃝)Visual Basic6.0で製造・開発中)*22 http://exoplanetarchive.ipac.caltech.edu/cgi-bin/ExoTables/nph-exotbls?dataset=cumulative*23 惑星の質量は, 質量下限値. トランジット法により軌道面傾斜角を決めることで質量が確定する.

17

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Kepler/KOIの惑星は離心率 e = 0, 軌道傾斜角 88 ≤ i < 90(deg)の範囲で公開されている.

MP

M⊕= 1.08

(RP

R⊕

)3.45

(RP < 1.5R⊕)(10)

MP

M⊕= 3.17

(RP

R⊕

)0.87

(RP > 1.5R⊕)(11)

3.3 使用したソフトウェア・参考Webサイト

3.3.1 使用したソフトウェア

1. 自作ソフトウェア「Planet Hunter9」

2. gnuplot

3.3.2 参考Webサイト

本研究で利用したWebサイトは以下のとおりである.

• NASA Exoplanet Archive http://exoplanetarchive.ipac.caltech.edu/index.html *24

• Kepler Mission http://kepler.nasa.gov/Mission/QuickGuide/

3.4 入力パラメータ

本研究で, ハビタブルゾーン及び惑星のハビタブル指数 *25 を計算するために入力したパラメー

タは以下のとおりである.

Planet Name Semi-major axis a[AU] Planet Radius RP [R⊕] Stellar Radius R⋆[R⊕] Effective Temperature Teff [K] Period P [day] Inclination i [deg]

表 2 ソフトウェア「Planet Hunter9」に入力したパラメータ

*24 Kepler/KOIのみ*25 33ページを参照.

18

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下の図は, 地球に関して計算したサンプルである.

図 8 地球 (ハビタブル惑星)

自作ソフトウェア「Planet Hunter9」(開発中) の

画面である. 地球を計算した例である. 上部は惑星

の基本データ *26 で中央の「habitability」という枠

内に軌道距離と暴走温室効果, 湿潤温室効果, 最大

温室効果領域との距離, 惑星表面での液体の水の推

定質量, ハビタブル指数 (未完成の数量), 惑星のフ

ラックスなど詳細の情報を表示している.

海の推定質量を示している. これはあくまで「惑星

表面にもし, 海があるとしたら」という仮定の下で

の計算である.

下部は中心星のパラメータで, 質量, 有効温度, ス

ペクトル型を示している.

*26 質量, 半径, 密度, 平衡温度, アルベド

19

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4 結果

1000個超の系外惑星のうち, Kopparapu et al.(2013)を基にして自作のソフトウェアで計算し

たハビタブル惑星候補は以下のとおりである. 選んだ惑星数は地球を含めて全部で 46個 *27 で, そ

の内訳は Kepler/KOIが 44個, その他の惑星が 29個 + 地球である.

4.1 自作ソフトウェアによる結果

4.1.1 F型星周りのハビタブル惑星候補 Kepler-69c

Kepler-69c Kepler-69c(提供:NASA)

図 9 F型星周りのハビタブル惑星候補 Kepler-69c

F型星周りの惑星は非常に数が少ない. これは観測バイアスもあるが, 星が高温になるとハビタ

ブルゾーンも地球より以遠に展開され, また惑星が重く現在の観測技術では検出しにくい為である.

Kepler-69c は湿潤温室効果領域よりも-0.2[AU] ほど離れており, 湿潤温室効果の影響はほとんど

受けていないと推定される. フラックスは約 71%と少し弱いが大気が安定していると考えられる.

重力は地球の半分ほどで, 大気を保持できるかどうかは不明である.

表面積の 7%しか海を持たない可能性があり, この海の長さの値は懐疑的 *28 である. この惑星の

海の推定質量は 1019[kg]ぐらいである.

*27 2014年 1月現在では, 295個の候補がある.*28 この矛盾は問題点の一つ.

20

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4.1.2 G型星周りのハビタブル惑星候補 Kepler-22b

G型星周りのハビタブル惑星候補も非常に多い. 地球は唯一, 確認されているハビタブル惑星で

あるが G型星が作り出すハビタブルゾーンは惑星には適切な環境を与えやすい.

Kepler-22b は, 2011 年 12 月に NASA によってハビタブルゾーン内に周回軌道が在る惑星の候

Kepler-22b Kepler-22b(提供:NASA)

図 10 G型星周りのハビタブル惑星候補 Kepler-22b

補として公表された. フラックスを考慮しても条件が良い. この惑星も地球と同じようにハビタ

ブルゾーン内端付近にあり, 表面積の 45%の海を持つと推定される. フラックスは地球の約 93.5

%で大気の状態も穏やかであり温暖な気候にあると考えられる. この惑星の海の推定質量は 1018~

1019[kg]である.

4.1.3 K型星及びM型星周りのハビタブル惑星候補

宇宙空間に散らばる星の大半がM型星といわれているが, Kepler/KOIの惑星の大半もM型星

または K型星周りが占めている. M型星周りの惑星は主星から至近距離にあり, 小型で軽い惑星が

多くドップラー法を用いても検出しやすい利点がある. K型星周りの惑星も検出しやすい傾向にあ

る.

KOI 1408.02(図 11左)は表面積の約 67%を海が占めている. フラックスは地球の約 85%と考え

られ大気の状態が穏やかで安定していると推定される. この惑星の海の推定質量は 1017~1018[kg]

ぐらいである.

KOI 1686.01(図 11右)は地球半径の 1.33倍のM型星を周回するハビタブル惑星候補の一つで

ある. ハビタブルゾーン内端付近を公転し, 地球よりもやや広い海を持っていると推定される. M

21

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KOI 1408.02 KOI 1686.01

図 11 [左]K 型星周りのハビタブル惑星候補 KOI 1408.02/[右]M 型星周りのハビタブル惑星

候補 KOI 1686.01

型星周りの惑星の中では FIR の放射が強く, フラックスは地球の約 88.1%で大気の状態が安定し

温暖な気候にあると考えられる. この惑星は全体的に地球に類似した好条件の環境にあると期待さ

れる. この惑星の海の推定質量は 1018~1019[kg]ぐらいである.

全体として上に挙げた 4個の惑星は, いずれもハビタブル指数が地球よりも低いにも関わらず液

体の水の質量は地球の数倍持っていることが分かった. したがって, 平衡温度が 220~260Kにある

環境であればその惑星表面に液体の水が存在する可能性があると考えられる.

22

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5 考察

Kepler/KOIの 44個とそのほかの惑星 29個に対して, 特にハビタブルゾーンの両端からの距離

と惑星半径, 公転周期, 質量についての関係を調べた.

5.1 本研究から分かったこと

本研究で計算によって選出した有力候補 44個 *29 でかなり少ない (全体の 21%)ことが分かっ

てきた.

Kopparapuモデルに基づき, 2600 ≤ Teff ≤ 7200 [K]の範囲の主系列星を対象にして調べたとこ

ろ, 以下の図のようになった.

5.1.1 惑星質量・半径とハビタブルゾーンの両端からの距離との関係

惑星質量・半径と暴走温

室効果領域からの距離との関係

惑星質量・半径と湿潤温

室効果領域からの距離との関係

惑星質量・半径と最大温

室効果領域からの距離との関係

図 12 惑星質量・半径と [左]:暴走温室効果領域 [中央]:湿潤温室効果領域 [右]:最大温室効

果領域との関係

この分布図から言えることは, 暴走温室効果領域, 湿潤温室効果領域及び最大温室効果領域から

の距離の両方において, RP ≤ 3R⊕, M⊕ ≤ MP ≤ 10M⊕ の範囲に多数の惑星が密集していること

である.

湿潤温室効果からの距離と惑星半径では, 湿潤温室効果領域から 0.025~ − 0.1[AU]の範囲に地球

半径の 3倍以下の惑星が密集している. 地球質量の 10倍以下の惑星は全体に対して 18 : 4の比で

分布している.

*29 残りは中心星の有効温度が決まっていない為, ハビタブルゾーン内か否かが不明

23

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一方暴走温室効果領域から-0.1[AU]の範囲に質量・半径共に地球の 10倍以下の惑星が集中して

いる. 地球型惑星がハビタブルゾーンの内端付近に密集しやすい傾向にあることが分かる.

右図より, 湿潤温室効果領域からの距離に近い惑星ほど, 0 < MP ≤ 10M⊕ の範囲内の軽い惑星

が多い傾向にあることが分かる. 地球もその一例であり, 太陽系形成時に温室効果領域に落ち込ま

ずやや以遠にある為液体の水を保有できたのではないかと考えられる.

右の惑星半径との関係においては, ハビタブルゾーンの外端領域から離れてむしろ内端寄りに

RP ≤ 3R⊕ の小型の惑星が散らばっていることが分かる. これらの惑星は完全にハビタブルゾー

ンに入っていることが確認できる.

5.1.2 惑星の公転周期とハビタブルゾーンの両端からの距離との関係

惑星の公転周期と暴走温

室効果領域からの距離との関係

惑星の公転周期と湿潤温

室効果領域からの距離との関係

惑星の公転周期と最大温

室効果領域からの距離との関係

図 13 惑星の公転周期と [左]:暴走温室効果領域 [中央]:湿潤温室効果領域 [右]:最大温室効

果領域それそれからの距離との関係

暴走温室効果領域からの距離と公転周期の関係は, 150日以内の短周期惑星が 0~ − 0.1[AU]の

範囲に 18 : 43の比で集中している. 一方, 200日以上の長周期惑星は −0.1[AU]以内と −0.2[AU]

遠方で 17 : 26の比で分散していることが分かる.

湿潤温室効果領域からの距離と公転周期の関係は, 150日以内の短周期惑星が +0.05~− 0.05[AU]

の範囲に 19 : 70の比で集中している.周期が長いほど湿潤温室効果が弱まる傾向にあることが分

かる.

惑星の公転周期とハビタブルゾーンの外端からの距離については, ハビタブルゾーンの外端に 一

番近い惑星でも +0.01[AU ] の範囲内で, これ以下のハビタブルゾーンの外端に非常に近い惑星は

無い.

ハビタブルゾーンの外端付近に近い惑星ほど短周期であるが, ハビタブルゾーン内端方面に軌道を

24

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持つ惑星ほど長周期である傾向にあることが分かる.

25

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6 まとめ

本研究では, 地球を含めた 73個の惑星の質量, 半径, 公転周期とハビタブルゾーンとの関係につ

いて調べて考察した.

3500個以上の Kepler惑星の候補天体の中で,「ハビタブル惑星候補」は 180 < Teq ≤ 260[K]の範

囲に存在し本研究において取り扱った Kepler惑星だけでも 44個だった. 観測装置の向上に伴い,

ハビタブル惑星候補の数が増加することが強く期待されている.

地球の数倍から 10倍ぐらいの質量及び半径を持つ多くの惑星は, 特に湿潤温室効果領域付近に

軌道があることが分かった. 観測バイアスにより, 軽い惑星しか検出できていない為ハビタブル

ゾーンの内端付近の惑星が多いものと考えられる. ハビタブルゾーンの外端から内端寄りに軌道を

持つ惑星ほど周期が長くなる傾向にある.

惑星半径においては, 大きくても地球の 100倍が上限であるが, 質量は木星の 10倍ほどの惑星が

ハビタブルゾーン内の湿潤温室効果領域寄りに軌道を持っていることが分かった.

地球型惑星が湿潤温室効果領域付近に集中する原因は, 「重力」であると考えられる. 重力が小

さいと惑星系形成の段階で中心星の引力の影響を受け暴走温室効果領域付近に軌道を維持する傾向

にある.

但し, ホットジュピター *30 などのガス惑星は内部組成が大きく異なる為これに該当しない.

中心星から惑星への引力の強さとフラックスの強さ及び惑星の自己重力の相互バランスが, 地球の

ようなハビタブル惑星を生むのではないかと考えられる.

*30 木星サイズの巨大惑星が中心星の至近距離を公転している為こう呼ばれている. 初めて主系列星周りの系外惑星として 51Peg b(since 1995)がこれに該当する.

26

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図 14 太陽定数の導出

Appendix

放射フラックス

ここでは惑星の放射フラックス及びアルベドについて証明する.

太陽定数と太陽放射

太陽定数は,上の図より (太陽の放射)=(地球に届く放射フラックス)だから,

4πR2⊙σT

4⊙ = 4πa20S0 (12)

と表される. したがって,太陽定数 S0 は

S0 = σT 4⊙

(R⊙

a0

)2

(13)

と表される. ステファン・ボルツマン定数 σ = 5.6704 × 10−8[W/m2・K4],地球・太陽間の距離

a0=1.4959787 ×108[km],太陽半径R⊙ = 696000[km], 太陽の有効温度 T⊙ = 5780[K]を代入し計

算すると, S0 = 1370[W/m2]が得られる.

太陽以外の恒星定数は,

S = σT 4eff

(R⋆

a

)2

(14)

と表される.

27

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惑星の放射フラックスとアルベド

13ページのアルベドの式 (5)を導出する.

惑星は赤外放射する為,ステファン・ボルツマンの法則から

FIR = σT 4eq (15)

と表される. ここで Teq は惑星の平衡温度である.

惑星のアルベド AP は, (惑星が星から受ける放射)=(惑星の赤外放射)だから,

πR2P (1−AP )S = 4πR2

PσT4eq (16)

という関係が得られる. 式 (3)を使って,

AP = 1− 4FIR

S= 1− 4

(Teq

Teff

)4 (a

R⋆

)2

(17)

と表される. この式は Kasting et al.(1993)の式 (6)に他ならない.

惑星表面の液体の水の質量の導出

惑星は球形であり, またその表面を覆う液体の水が一様に分布していると仮定する.

惑星表面を覆う液体の水の質量は, 海の厚さを d, 液体の水の密度を ρwt = 1.03[g/cm3],惑星内部

のコア中心から海面までの距離をr=RP + dとして, 海の長さを l(θ) = rθ, 液体の水が覆う地表の

長さを lP (θ) = RP θ, 惑星と液体の水の合計の密度を ρsum = ρP × 5.515 + ρwt とすると, 海の長

さまで含めた外円から液体の水で覆う地表面までの円を差し引けばよいので,

Mwt(θ) =

∫ 2π

φ

4πρwtd2dθ =

∫ 2π

φ

4π(ρsumr2 − ρPR2P )dθ (18)

と表される. したがって, 惑星表面の液体の水の質量Mwt(θ)は,

Mwt(θ) =1

π[ρsuml(2π)− ρP lP (2π)] +

φ2[ρP lP (φ)− ρsuml(φ)] (19)

となる.

28

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ハビタブル惑星候補一覧

本研究では, 平衡温度が 180~260[K]の以下の 39個の Kepler/KOI のハビタブル惑星候補天

体を取り扱った. ハビタブル惑星候補は, 系外惑星 DATABASE*31 にて掲載している.

Kepler/KOIのハビタブル惑星候補一覧

Name a[AU] RP [R⊕] R⋆[R⊙] Spectrum Type Effective Temperature Teff [K] Orbital Period P [days] Inclination i[deg] DRG[AU ] Range of HZ[AU ] Habitable factor HP Planet Mass MP [M⊕]

KOI 1686.01 0.231 1.33 0.494 M 3815 56.8672 89.38 0.209929 0.229-0.431 0.86 2.89

Kepler-22b 0.805 2.1 0.85 G 5510 289.8622 89.95 0.753 0.7755-1.3486 0.46 6.045

KOI 2703.01 0.599 2.66 0.601 K 4504 213.2572 89.95 0.3559 0.380-0.6944 0.276 7.425

KOI 854.01 0.231 2.18 0.503 M 3893 56.05628 89.38 0.2225 0.2423-0.4546 0.422 6.244

KOI 1431.01 0.983 8.45 1.003 G 5649 345.1613 89.95 0.9345 0.956-1.6525 0.0235 20.3

KOI 1466.01 0.744 9.3 0.67 K 4803 281.5635 89.95 0.4512 0.477-0.8589 0.0192 22.06

KOI 1477.01 0.916 9.1 0.79 G 5482 339.0781 89.95 0.6932 0.7142-1.2437 0.02 21.64

KOI 1408.02 0.307 0.76 0.54 K 4166 82.3721 89.95 0.2736 0.2956-0.548 0.67 0.41

KOI 1209.01 0.8 7.6 0.81 G 5584 272.07 89.95 0.737 0.756-1.311 0.0295 18.5

KOI 1096.01 1.062 10.3 0.83 G 5632 414 89.95 0.7687 0.787-1.361 0.0154 24.1

KOI 1137.01 0.824 58 0.91 G 5407 302.3885 89.95 0.7768 0.802-1.403 0.00039 108.453

KOI 1298.02 0.337 2.09 0.566 K 4327 92.7388 89.38 0.3094 0.333-0.612 0.462 6.02

KOI 1356.01 1.024 9.1 1 G 5891 384.026 89.38 1.013 1.027-1.755 0.02 21.65

KOI 595.01 0.545 4.7 0.623 K 3946 199.9929 89.95 0.283 0.308-0.576 0.082 224.99

KOI 1902.01 0.424 20 0.513 K 3968 137.8649 89.95 0.236 0.256-0.48 0.0037 49.95

KOI 518.03 0.652 2.22 0.61 K 4565 247.3503 89.95 0.3711656 0.396-0.721 0.406 6.344

KOI 490.02 0.854 9.4 0.7 K 4909 341 89.95 0.4925 0.519-0.929 0.0188 22.268

KOI 2770.01 0.583 2.18 0.59 K 4473 205.3831 89.95 0.347 0.371-0.6786 0.422 6.244

KOI 771.01 1.502 15.7 1.03 G 5517 670.65 89.38 0.915376 0.941-1.6373 0.0063 34.79

KOI 2686.01 0.608 2.8 0.65 K 4722 211.0351 89.95 0.4231 0.4489-0.81 0.248 7.764

KOI 1026.01 0.328 0.83 0.51 K 3952 94.1063 88.24 0.2325 0.25284-0.473 0.695 0.568

KOI 1772.01 0.399 13.2 0.557 K 4271 120.0018 89.95 0.29667 0.3195-0.58945 0.009 29.92

KOI 2418.01 0.313 1.66 0.52 K 4013 86.8299 89.38 0.2445 0.26537-0.4951 0.755 4.93

KOI 2762.01 0.445 1.93 0.586 K 4535 132.9955 89.95 0.351813 0.356-0.6848 0.5478 5.617

KOI 1421.01 1.193 9.4 0.96 G 5853 485 89.95 0.96 0.974-1.6684 0.0188 22.268

KOI 1411.01 1.296 10.7 1.097 G 5753 508 89.95 1.0612 1.08-1.86 0.0142 24.92

KOI 179.02 1.369 5 1.04 F 6081 572.3979 89.38 1.122 1.1295-1.9143 0.0721 12.86

KOI 881.02 0.682 4.41 0.722 G 5207 226.8897 89.38 1.122 1.1295-1.9143 0.0942 11.53

KOI 1463.01 1.382 16.29 1.093 F 6020 580 89.95 0.571 0.5954-1.05 0.0058 35.928

KOI 2570.01 0.297 2.2 0.522 K 4049 79.9186 88.81 1.156564 1.166-1.9816 0.414 6.295

KOI 3080.01 0.606 1.3 0.73 K 4928 185.137 89.95 0.5176 0.545-0.975 0.852 2.67

KOI 231.01 0.407 31 0.597 K 4485 119.8398 89.38 0.35 0.375-0.685 0.00148 62.88

KOI 682.01 1.367 10.8 1.29 G 5592 562.1424 89.95 1.177 1.208-2.093 0.0014 25.13

KOI 1422.04 0.249 1.64 0.5 M 3862 63.33828 89.38 0.2177 0.237-0.445 0.775 4.875

KOI 3118.01 0.58 1.9 0.73 K 4879 174.9566 89.95 0.50738 0.5352-0.594 0.566 5.54

KOI 2020.01 0.391 2.6 0.618 K 4580 110.9655 88.81 0.3785 0.403-0.733 0.29 7.28

KOI 2834.01 0.457 2.26 0.667 K 4786 136.2089 89.95 0.446 0.4721-0.85 0.391 6.443

KOI 701.03 0.417 1.54 0.601 K 4807 122.3874 89.95 0.4055 0.429-0.7715 0.886 4.615

KOI 3076.01 0.668 1.9 0.82 G 5241 225.565 89.95 0.6576 0.6841-1.2052 0.566 5.54

表 3 NASA Exoplanet Archive (from http://exoplanetarchive.ipac.caltech.edu/index.html )

ハビタブルゾーンの範囲は, 湿潤温室効果領域から最大暴走温室効果領域までを距離で示してい

る.

*31 http://iar145.no-ip.biz/astron/318dome/db/ (2014 年 1 月現在) にて掲載中. 尚, この URL は今後予告なく変わる可能性がある.

29

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その他のハビタブル惑星候補一覧

Name Flux at MoistGreenhouse SMoist Planet Flux FP [F⊕] Flux at OHZ SOHZ Spectrum Type Effective Temperature Teff Radius R⋆[R⊙] Semi-major axis a [AU] Planetary Albedo Planetary Equilibrum Temperature Teq[K]

HD 16175 b 1.038 0.367 0.361 F 6080 1.20 2.119 0.261 202

HD 5388 b 1.056 0.749 0.374 F 6297 1.295 1.763 0.271 222

HD 187085 b 1.038 0.517 0.361 F 6075 1.312 2 0.261 185

HD 10647 b 1.040 0.422 0.363 F 6105 1.186 2.022 0.263 167

HD 153950 b 1.04 0.972 0.36 F 6076 1.151 1.280 0.261 253

HD 92788 b 1.02 0.750 0.35 G 5836 0.814 0.951 0.181 223

HD 23079 b 1.03 0.578 0.35 G 5927 1.162 1.595 0.255 195

HD 10180 g 1.02 0.654 0.35 G 5911 1.109 1.423 0.183 208

HD 7199 b 0.98 0.500 0.32 G 5386 1.118 1.362 0.167 182

HD 4203 b 1.00 0.921 0.94 G 5702 1.158 1.165 0.177 247

HD 188015 b 1.02 0.725 0.35 G 5746 1.033 1.190 0.178 219

HD 28185 b 1.00 0.875 0.34 G 5656 1.007 1.023 0.176 240

HD 222582 b 1.01 0.686 0.34 G 5727 1.137 1.337 0.178 213

HD 63765 b 1.00 0.839 0.32 G 5432 0.940 0.94 0.167 234

HD 82943 b 1.03 0.986 0.36 G 5997 1.097 1.18 0.258 255

HD 16760 b 1.00 0.617 0.33 G 5620 0.910 1.087 0.174 202

HD 100777 b 0.998 0.933 0.332 G 5582 1.079 1.034 0.173 248

HD 141937 b 1.02 0.518 0.35 G 5847 1.064 1.501 0.181 185

HD 125612 b 1.02 0.617 0.35 G 5900 1.043 1.373 0.183 202

mu Ara b 1.01 0.662 0.344 G 5784 1.250 1.527 0.179 209

55Cnc f 0.97 0.983 0.31 K 5196 0.943 0.774 0.321 251

HD 114783 b 0.96 0.33 0.31 K 5135 0.838 1.160 0.159 145

HD 99109 b 0.97 0.53 0.31 K 5272 0.973 1.108 0.163 186

HD 137388 b 0.971 0.82 0.312 K 5240 0.978 0.889 0.162 231

HD 215497 c 0.96 0.46 0.31 K 5113 1.107 1.282 0.158 172

GJ 581 d 0.87 0.268 0.24 K 3498 0.31 0.218 0.037 133

GJ 667 Cc 0.87 1.06 0.24 M 3350 0.348 0.1251 0.389 238

GJ 667 Ce 0.864 0.31 0.23 M 3350 0.348 0.213 0.79 140

GJ 667 Cf 0.864 0.57 0.23 M 3350 0.348 0.156 0.61 191

表 4 Other planet candidates

30

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本研究に併せて取り組んだ副研究

Kopparapu+(2013)の中で液体の水の保有率について, 「地球の場合暴走温室効果領域に達しそ

の影響を受けると完全に液体の水を消失する」と論じられていたことから, この部分をヒントとし

て, 「ハビタブル指数 *32」という新しいバロメータを提案した.

先行研究

副研究に一番近いと思われる先行研究について取り上げる.

Linsenmeier et al.(2014)では Kopparapu et al.(2013)でのフラックスの定義に基づき, 軌道面傾

斜角と離心率に着目し, General circulation modelによって惑星表面の液体の水の保有率を論じて

いる.

地球類似惑星のハビタビリティー *33 は,

H(φ, t) =

∫ 2π

0

σ(φ, λ, t)dλ (20)

と表される. φ, λはそれぞれ惑星内部の緯度, 経度である.

表面の氷の海を考え,

f(φ) =

∫ T

t=0H(φ, t)dt

T(21)

と表している. T は 1年の長さを表す.

研究の背景

Kasting et al.(1993)を基にして温室効果の種類によりハビタブルゾーンを構成し, その構造が

明確化されてきたが, ハビタブルゾーンの定義がただ漠然として「惑星表面に液体の水が存在しう

る領域」と抽象的である.

先行研究では軌道傾斜と離心率を考慮して惑星表面におけるハビタビリティーを論じている.

研究の目的と意義

以下では惑星の質量を基本として海の長さを推定している. 海の長さと水量は関係があり, これ

らを考慮することにより目指している「海の質量と水量の関係」を示すことができるのではないか

と考えている.

*32 現時点 (2014年 1月)では議論中であり, 未完成である.*33 以下のハビタブル指数に対応

31

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将来のハビタブル惑星検出に向けて, 惑星の液体の保有率を推定できるようにするために「ハビタ

ブル指数」という新しい概念を導入する.

以下では未完成であるがその経過を報告する.

惑星の内部構造

次節でハビタブル指数を考える為, 以下のような惑星の内部構造を考える.

図 15 惑星の内部構造

惑星の中心から対流圏界面までの半径を

Rconv, 惑星の質量を MP , 惑星表面の液体の

水の質量をMwt とすると, 静水圧平衡におけ

る連続の式より

∂r

∂Mr=

1

4πr2ρ(22)

と表される. この両辺を積分し, r について解

くと,r3

3=

Mr

4πρ(23)

となるから, r → Rconv, Mr = Min として,

Rconv =

(MP

4πρP

)1/3

(24)

と表される.ρP は惑星の密度である.

また, 球形を成す惑星表面に一様に広がる液体の水の質量Mwt(θ)は,

Mwt(θ) = 4πR2P ρwtKl(θ) = 4πR2

P ρwtKRconvθ (25)

と表される. K は陸に対する海の比である. 地球は海 : 陸 = 7 : 3で知られている.

これとは別に, 海の厚さ (深さ)dを用いて,

Mwt(θ) =

∫ 2π

φ

4πρwtd2dθ =

1

π[ρsuml(2π)− ρP lP (2π)] +

φ2[ρP lP (φ)− ρsuml(φ)] (26)

となる. ρsum[g/cm3]は液体の水と惑星の密度の合計,ρP [g/cm3],ρwt[g/cm

3]はそれぞれ惑星の密

度と液体の水の密度,lP = Rconvθ[m]は液体の水が覆う地表の長さ, l(θ) = dθ[m]は海の長さであ

32

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る. 式 (25) 及び式 (26)を使って比較することで, 海の質量を推定している.

また他の惑星は海の広さなど明確な情報が得られていない為, 推定値に過ぎない. 上記の式 (25)ま

たは式 (26)から地球の液体の水の質量は, M⊕wt(θ) = 1.48× 1018[kg]である.

6.1 新提案:ハビタブル指数

ハビタブル指数 *34 とは, 惑星が表面でどれだけの液体の水を保有しているかを表す指標 *35 で

ある. 上記の式 (25)及び式 (26)から θ = α,f = FP のときの惑星の潜在的な habitabilityを次の

数式で定義する.

H(α, FP ) =Mwt(α)

MP× FP

SRG× FP

SOHZ[µ] (27)

θ = α, f = FP のときのハビタブル指数である. 地球のハビタブル指数 H(α) = 0.343µ *36 であ

る. 液体の水の密度は ρwt = 1.03[g/cm3] を計算に用いた.Mwt(α)/MP は惑星表面での液体の水

の有無または軽重を表し, FP

SRG× FP

SOHZは惑星のフラックスの度合いを表す. 先ず惑星の軌道がハ

ビタブルゾーン内またはその付近に存在するかどうかを判定すると共に, 特に暴走温室効果領域

でのフラックスに対する惑星のフラックス FP

SRG> 1のとき, 惑星表面の液体の水は完全に消失す

ることを表している. これは Kopparapu+(2013) の考えに基づき, 暴走温室効果領域または系に

よっては湿潤温室効果領域での液体の水の保有可能性は 0と仮定している. これは Linsenmeier et

al.(2014)では f(φ) = 0を意味している. つまり惑星表面における液体の水の保有率が 0 である.

また, FP

SOHZ< 1のときも, 逆に惑星表面が凍りついていることを表す為, 液体の水が存在しない.

惑星が表面で液体の水を保有する条件として,

1. 32ページの図 15において, 表面を海が覆う惑星コア中心からの角度が 0 < θ ≤ 2π であり,

2. FP

SRG< 1, FP

SOHZ> 1

3. FP

SRG< FP

SOHZ

を満たすことである. 大気の比はフラックス比で表しこれだけでも惑星のハビタブルゾーンに対す

る位置が推定できる. 残りは質量比で表し, 地球のように観測事実から海の長さが判れば, より正確

な惑星のハビタブル指数が分かる.

*34 このハビタブル指数は未完成で, 現在議論中である. 第 4章に掲載の画像に出ている非公式の数量である.*35 先行研究では, HZに対する天体表面の液体の水の有無を論じている.*36 µ = 10−6

33

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KOI 2469.01 KOI 435.02

図 16 [左]K型星周りのハビタブル惑星候補 KOI 2469.01/[右]G型星周りのハビタブル惑星候

補 KOI 435.02

ハビタブル指数が 0の場合は原因が 2種類ある. 惑星表面のフラックスが強すぎて 0なのか *37,

逆にフラックスが弱すぎて 0なのか *38 を惑星のフラックス強度から判別し, これによって惑星表

面の液体の水の状態が推定できる. その例を 2つ挙げる.

KOI 2469.01(図 16.1 左) はハビタブルゾーンの内端よりも星に近い方に軌道を持つため, 暑すぎ

て表面の液体の水が消失したことによる赤文字の「0」を表している. 一方 KOI 435.02(図 16.1右)

はハビタブルゾーンの外端よりもフラックスが弱いことを青文字の「0」で表現している為, 液体の

水が氷になっている可能性がある.

先行研究との違い

上述したハビタブル指数と先行研究の違いは,

1. 先行研究では「habitability」という表現を用いているが, 「ハビタブル指数 (habitable

factor)」という指標を導入していること.

2. 軌道面傾斜と離心率を基礎として「habitability」を表現しているが, 「ハビタブル指数」は

惑星の質量や液体の水の質量及び惑星大気の状態を表すフラックスを基礎としていること.

の 2点が挙げられる.

*37 HotZoneにある為*38 ColdZoneにある為

34

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ハビタブル指数論の今後の方針と問題点

系外惑星が検出されて, その数が 1000個を超えているがハビタブル惑星候補は非常に少なく, ま

た観測事実が無いという壁に直面している為解明されていないことが多い. ハビタブル指数自体は

現時点で未完成であるが, 今後これを考える上で以下の 2点が重要になる.

1. 惑星質量と惑星表面での液体の水の量の関係

2. Habitability

(a)をクリアすることが先決であると考えられる. 惑星質量と液体の水の量の関係を得ることがで

きれば, さらにこれを系外惑星に応用することで最終的に (b)へ繋がるのではないかと考えている.

また, Linsenmeier et al.(2014)に基づいて海及び氷のエンベロープと質量の関係を考える必要が

ある. (b)については観測によって事実を確認するしか方法が無い.

現時点でのハビタブル指数は未完成であり,

1. 惑星内部のコア中心から惑星表面を覆う液体の水の角度 θ = 48[deg]が固定されている為に,

海の長さも l(θ = α = 48[deg]) = 3662.832[m]で固定されてしまっている.

2. この 2つのパラメータを推定しているはずなのに常に固定された値で計算されてしまう.

という問題点を残しているが, この 2つを固定のパラメータとして計算した.

現時点では観測事実がないため, 惑星表面での液体の水の量を推定すること自体が困難ではあるが,

今回の副研究においてはこれからじっくりと時間をかけて研究を進め上記 2点の問題点を解決して

いく方針であるという報告に留めたい.

35

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謝辞

お忙しい中, 本研究の指導をして頂き, 特に私の未完成の「ハビタブル指数論」の為に数回議論

の場を提供して頂いた東京大学及び国立天文台系外惑星探査プロジェクト室室長の田村元秀先生,

別途議論の場を作って頂いた成田憲保さんが率いるトランジットプロジェクトの皆さん, この場を

お借りして感謝の言葉と致します. またアドバイスを頂いた明星大学大学院理工学研究科物理学専

攻の祖父江義明先生, 小野寺幸子先生, 日比野由美先生, 温かく見守って頂いた天文学研究室の皆さ

ん, 大変お世話になりました. 本当にありがとうございました.

参考Webサイト

本研究で利用したWebサイトは以下のとおりである.

• NASA Exoplanet Archive http://exoplanetarchive.ipac.caltech.edu/index.html

• Kepler Mission http://kepler.nasa.gov/Mission/QuickGuide/

前者は Kepler/KOIの惑星候補天体のデータを使って計算を行った. 後者はケプラー計画の説明に

用いた.

参考文献

[1] 地球外生命体を探せ, NHK「サイエンス ZERO」取材班 + 田村元秀 [編著](2011)

[2] シリーズ現代の天文学第 9巻 太陽系と惑星, 渡部潤一他編 (2009)

[3] 異形の惑星, 井田茂 (2003)

[4] 系外惑星, 井田茂 (2007)

[5] 大気放射学の基礎, 浅野正二 (2010)

[6] Habitable Zones Around Main Sequence Star, Kasting et al.(1993)

[7] Habitable Zones Around Main Sequence Star:New Estimate, Ravi kumar Kopparapu et

al.(2013)

[8] Habitability of Earth-like planets with high obliquity and eccentricity orbits: results

from a general circulation model, Manuel Linsenmeier, Salvatore Pascale, Valerio Lu-

carini(2014)

[9] THE MASS-RADIUS RELATION BETWEEN 60 EXOPLANETS SMALLER THAN 4

36

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EARTH RADII, Weiss and Marcy(2014)

[10] WATER CYCLING BETWEEN OCEAN AND MANTLE: SUPER-EARTHS NEED

NOT BE WATERWORLDS, Cowan and Abbot(2014)

[11] 実践 Fortran95プログラミング + gnuplot, 田辺誠・平山弘著 (2008)

[12] VisualBasic 初級プログラミング入門 [上], 河西朝雄 技術評論社 (1999)

[13] VisualBasic 逆引き大全 500の極意, 秀和システム (2006)

[14] VisualBasic6.0 300の技,技術評論社, 松田猛著 (1999)

[15] VisualBasic6 応用編, 川口輝久・河野勉著 (1999)

37