レアメタル2007(2) レアアース(希土類)の需要・供給・...

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レアアース(希土類)とは、元素周期律表第Ⅲ族に 属する原子番号 57 番から 71 番のランタノイド 15 元素 (ランタン〈La〉、セリウム〈Ce〉、プラセオジム〈Pr〉、 ネオジム〈Nd〉、プロメチウム〈Pm〉、サマリウム 〈Sm〉、ユウロピウム〈Eu〉、ガドリニウム〈Gd〉、テ ルビウム〈Tb〉、ジスプロシウム〈Dy〉、ホルミウム 〈Ho〉、エルビウム〈Er〉、ツリウム〈Tm〉、イッテル ビウム〈Yb〉、ルテチウム〈Lu〉)に、同じ第Ⅲ族の 21 番のスカンジウム〈Sc〉及び 39 番のイットリウム 〈Y〉の 2 元素を加えた 17 元素の総称である。 レアアースは、1794 年にフィンランドの学者 J.Gadolin が、1787 年に発見されていた新しい鉱物中に 未知の元素の酸化物の“新しい土”を発見し、それを “希な土 → rare earth”と名付けたことが語源となっ ている。この酸化物は 1797 年にイットリヤと名付けら れ、また、1803 年には同じくスウェーデンでセリヤと 呼ばれる新しい土が発見された。これらの新しい土は、 最初のうちはそれ自体純粋な元素の酸化物と考えられ ていたが、その後の研究の結果、実はそれぞれ非常に 化学的性質の似ているいくつかの元素の混合物である ことがわかってきたので、このような化学的性質の似 ている一群の元素を総称して「レアアース(希土類)」 と呼ぶようになったものである。なお、研究によりレ アアースの個々の元素がすべて発見されたのは 20 世紀 半ばであり、最初の発見から約 150 年の歳月を要して いる。 レアアース元素は、それぞれの化学的性質が類似し ており、高融点で熱伝導性が高い。また、原子核を周 回する電子の軌道が特殊なため他の金属にはない独特 の機能を発揮する。そのため、用途は、永久磁石(希 土類磁石)、ガラス研磨剤・添加剤、触媒、蛍光体等と 幅広く、最先端産業、特に日本の技術優位性を生かし ているハイテク産業分野で用途が拡大している。 また、レアアース 17 元素は、その発見された経緯や 元素ごとに分離する際の状況によって、軽希土(ラン タン、セリウム、プラセオジム、ネオジム)と中重希 土(サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テル ビウム、ジスプロシウム、イットリウム、他)に分類 されている。 1. 需要・供給 1-1. 世界の需給状況 表 1 に世界のレアアース需給を示す。 2 0 0 7 (2) 2007.7 金属資源レポート 127 227レアメタル 2007(2) レアアース(希土類)の需要・供給・価格動向等 希少金属備蓄部 企画課 課長代理 [email protected] 南 博志  はじめに 本シリーズは、現代産業に必要不可欠なレアメタルのうち、JOGMEC が動向を注視し、次の備蓄の可能性を検討 している 7 鉱種(プラチナ、レアアース(希土類)、インジウム、ニオブ、タンタル、ストロンチウム、ガリウム) について、順次需給動向等をとりまとめていくものです。 本号では、第 2 回としてレアアース(希土類)を取り上げています。 <レアメタル備蓄制度についての詳細は、レアメタル備蓄のページ (http://www.jogmec.go.jp/mric_web/organization/japan/g3/index.html) からご覧になることができます。> 供 給  合 計 需 要  合 計 需給バランス 出典:Mineral Commodity Summaries(USGS)、The Economics of Rare Earths & Yttrium (Roskill)、 平成18年度レアメタルの備蓄検討調査報告書(日本メタル経済研究所) (注) 1997、 2000、 2003、 2005年以外の需要量はデータ無し。 レアアース酸化物量;推定、単位: 表1 世界のレアアース需給 53,300 66.9% 2,700 220 2,000 20,000 1,400 120 79,700 66,000 13,700 1997年 65,000 84.9% 2,700 350 2,000 5,000 1,400 120 76,600 1998年 70,000 85.4% 2,700 350 2,000 5,000 1,400 120 82,000 1999年 73,000 87.4% 2,700 450 2,000 5,000 200 120 83,500 79,000 4,500 2000年 73,000 87.4% 2,700 450 2,000 5,000 200 120 83,500 2001年 88,000 89.5% 2,700 450 2,000 5,000 120 98,300 2002年 92,000 92.8% 2,700 250 2,000 2,200 99,100 84,000 15,100 2003年 95,000 93.1% 2,700 250 2,000 2,200 102,000 2004年 119,000 96.7% 2,700 750 400 123,000 95,262 27,738 2005年 120,000 97.6% 2,700 200 400 123,000 2006年 中国 〈生産シェア〉 インド マレーシア CIS諸国 タイ アメリカ ブラジル スリランカ その他

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レアアース(希土類)とは、元素周期律表第Ⅲ族に属する原子番号 57 番から 71 番のランタノイド 15 元素

(ランタン〈La〉、セリウム〈Ce〉、プラセオジム〈Pr〉、ネオジム〈Nd〉、プロメチウム〈Pm〉、サマリウム

〈Sm〉、ユウロピウム〈Eu〉、ガドリニウム〈Gd〉、テルビウム〈Tb〉、ジスプロシウム〈Dy〉、ホルミウム

〈Ho〉、エルビウム〈Er〉、ツリウム〈Tm〉、イッテルビウム〈Yb〉、ルテチウム〈Lu〉)に、同じ第Ⅲ族の21 番のスカンジウム〈Sc〉及び 39 番のイットリウム

〈Y〉の 2 元素を加えた 17 元素の総称である。レアアースは、1794 年にフィンランドの学者

J.Gadolin が、1787 年に発見されていた新しい鉱物中に未知の元素の酸化物の“新しい土”を発見し、それを

“希な土 → rare earth”と名付けたことが語源となっている。この酸化物は 1797 年にイットリヤと名付けられ、また、1803 年には同じくスウェーデンでセリヤと呼ばれる新しい土が発見された。これらの新しい土は、最初のうちはそれ自体純粋な元素の酸化物と考えられていたが、その後の研究の結果、実はそれぞれ非常に化学的性質の似ているいくつかの元素の混合物であることがわかってきたので、このような化学的性質の似ている一群の元素を総称して「レアアース(希土類)」

と呼ぶようになったものである。なお、研究によりレアアースの個々の元素がすべて発見されたのは 20 世紀半ばであり、最初の発見から約 150 年の歳月を要している。

レアアース元素は、それぞれの化学的性質が類似しており、高融点で熱伝導性が高い。また、原子核を周回する電子の軌道が特殊なため他の金属にはない独特の機能を発揮する。そのため、用途は、永久磁石(希土類磁石)、ガラス研磨剤・添加剤、触媒、蛍光体等と幅広く、最先端産業、特に日本の技術優位性を生かしているハイテク産業分野で用途が拡大している。

また、レアアース 17 元素は、その発見された経緯や元素ごとに分離する際の状況によって、軽希土(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム)と中重希土(サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、イットリウム、他)に分類されている。

1. 需要・供給1-1. 世界の需給状況

表 1 に世界のレアアース需給を示す。

シリーズ

レアメタル2007(2)

レアアース(希土類)の需要・供給・価格動向等

2007.7 金属資源レポート 127(227)

レアメタル2007(2)

レアアース(希土類)の需要・供給・価格動向等

希少金属備蓄部 企画課 課長代理[email protected] 南 博志 

はじめに本シリーズは、現代産業に必要不可欠なレアメタルのうち、JOGMEC が動向を注視し、次の備蓄の可能性を検討

している 7 鉱種(プラチナ、レアアース(希土類)、インジウム、ニオブ、タンタル、ストロンチウム、ガリウム)について、順次需給動向等をとりまとめていくものです。

本号では、第 2 回としてレアアース(希土類)を取り上げています。<レアメタル備蓄制度についての詳細は、レアメタル備蓄のページ

(http://www.jogmec.go.jp/mric_web/organization/japan/g3/index.html)からご覧になることができます。>

供 給  合 計

需 要  合 計

需給バランス

出典:Mineral Commodity Summaries(USGS)、The Economics of Rare Earths & Yttrium (Roskill)、 平成18年度レアメタルの備蓄検討調査報告書(日本メタル経済研究所)

(注) 1997、 2000、 2003、 2005年以外の需要量はデータ無し。

レアアース酸化物量;推定、単位: t 表1 世界のレアアース需給

53,300

66.9%

2,700

220

2,000

20,000

1,400

120

79,700

66,000

13,700

1997年

65,000

84.9%

2,700

350

2,000

5,000

1,400

120

76,600

1998年

70,000

85.4%

2,700

350

2,000

5,000

1,400

120

82,000

1999年

73,000

87.4%

2,700

450

2,000

5,000

200

120

83,500

79,000

4,500

2000年

73,000

87.4%

2,700

450

2,000

5,000

200

120

83,500

2001年

88,000

89.5%

2,700

450

2,000

5,000

120

98,300

2002年

92,000

92.8%

2,700

250

2,000

2,200

99,100

84,000

15,100

2003年

95,000

93.1%

2,700

250

2,000

2,200

102,000

2004年

119,000

96.7%

2,700

750

400

123,000

95,262

27,738

2005年

120,000

97.6%

2,700

200

400

123,000

2006年

中国

    〈生産シェア〉

インド

マレーシア

CIS諸国

タイ

アメリカ

ブラジル

スリランカ

その他

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世界のレアアース生産は、その 90 %以上を中国が占

めており、この供給寡占状況は近年ますます強まって

いる。特に、西側最大のレアアース鉱山であったアメ

リカ・ Mountain Pass 鉱山が環境問題等により 1998

年に生産量を大きく減少させた(2002 年休止)ことに

より、中国による寡占は加速度的に進んだ。このよう

に、レアアースは、タングステンと同様に、圧倒的な

生産シェアを持つ中国の動向が世界の動向に大きく影

響を及ぼすという異例の供給構造となっている。従っ

て、中国以外の供給源を求める動きが世界で様々に行

われている。今後開発が期待されるプロジェクトとし

ては、オーストラリア・ Mt .We ld プロジェクト

(Lynas 社: 2008 年に生産を開始する計画)、カナダ・

Hoidas Lake プロジェクト(Great Western Minerals

Group 社: 2009 ~ 10 年頃に生産を開始する意向)、カ

ナダ・ Thor Lake プロジェクト(Avalon Ventures

社: 2010 ~ 11 年頃に生産を開始する意向)があり、

また、休止中のアメリカ・ Mountain Pass 鉱山でも、

2008 年をめどに再開が計画されている。その他にも、

ベトナム、タイ等で探査が進められているほか、独立

行政法人産業技術総合研究所が「層状鉄マンガン鉱床

にはレアアースが多く含まれていることを確認。今後

調査研究を進めていく。」との研究成果を発表し今後が

期待されている。

世界全体の生産量は、中国の生産増によりほぼ単調

増加の傾向にある。中国国内最大のレアアース鉱山は

内蒙古自治区にある包頭の白雲鄂博(Baiyun Obo)鉱

山で、軽希土を中心に生産、現在世界で生産されるレ

アアースの約 50 %を供給している。一方、需要面では、

ネオジム・鉄・ボロン(Nd-Fe-B)磁石の需要が日本、

中国を中心に伸びており、増加傾向にあると見込まれ

ている。

圧倒的な生産シェアを持つ中国では、レアアースを

国家戦略物資と位置付け、この重要な国内資源を守り、

内需を優先し、さらには輸出の高付加価値製品へのシ

フト(国内で加工度の高い製品にして輸出する)を推

進するために、様々な政策を実施している。具体的に

は、外国企業や合弁企業(中国企業と海外企業)のレ

アアース産業への参入の禁止< 2002 年>、輸出増値税

還付制度の撤廃< 2004 年 1 月に鉱石について撤廃、

2005 年 5 月に酸化物について撤廃>、委託加工貿易の

禁止< 2005 年 5 月、「海外から鉱石を中国に持ち込ん

で中間製品に加工して輸出する貿易」を禁止>、輸出

税の増税< 2006 年 11 月から鉱石・酸化物について

10 %を課税した。2007 年 6 月 1 日から金属にも 10 %

課税する予定>及び輸出許可枠の削減<近年では毎年

削減>を実施してきている。これらの中国の動向は世

界の需給・価格動向に多大なる影響を及ぼしており、

日本をはじめとするレアアース消費国にとってはレア

アース安定供給における最大の懸念材料となっている。

また、Nd-Fe-B 磁石の需要増により、ネオジムのみ

ならず、添加されることによってその高温域での保磁

力・磁束密度を高める性質を有するジスプロシウム及

びテルビウムの重要度が増してきている。これら 2 元

素は中重希土であり、中重希土の量が多く含有されて

いるのは、現在では中国華南地域で生産されるイオン

吸着型鉱床(江西省、湖南省、広東省、福建省等に散

在している)のみである。従って、新たな鉱山開発と

して最も期待されているのは、中重希土に富む鉱床の

鉱山開発である。

1-2. 日本の需給状況日本は、レアアース全量を、酸化物、塩化物等の化

合物、合金、金属の形態で輸入している。表2にレア

アースの主要対日輸出国の推移を示す。レアアースの

対日輸出国の上位 5 か国集中度は 1999 年の 99.1 %か

ら 2005 年は 98.9 %となっており、その寡占化は非常

に高いレベルで推移しているといえる。生産における

中国への寡占状況と同様に、中国 1 か国への集中度が

1999 年の 72.4 %から 2005 年は 90.2 %とより一層高ま

っており、日本の中国への依存度はかなり進行してい

る状況となっている。

表3に日本のレアアース品目別需要を示す。日本の

レアアース需要においては、前述のとおり Nd-Fe-B 磁

石の需要(ネオジム、ジスプロシウム、テルビウム)

が好調であるほか、フラットパネルディスプレイ関連

(ガラス研磨剤→セリウム、蛍光体→セリウム、イット

リウム他)及び自動車排ガス浄化触媒(ランタン、セ

リウム)が堅調で、今後も需要を牽引していくと期待

されている。また、今後需要の伸びが期待できる分野

として、Nd-Fe-B 磁石以外に水素吸蔵合金(ハイブリ

ッド電気自動車搭載のニッケル水素二次電池向け)や

石油精製用接触分解触媒を挙げている予測も見られる。

いずれにせよ、需要はさらに拡大していくと考えられ

る。

シリーズ

レアメタル2007(2)

レアアース(希土類)の需要・供給・価格動向等

2007.7 金属資源レポート128(228)

中国

フランス

エストニア

インド

フィリピン

その他計

 合  計

上位5か国計

25,819

1,422

617

325

118

326

28,628

28,302

90.2%

5.0%

2.2%

1.1%

0.4%

1.1%

98.9%

2005年(酸化物量t) 国  名

中国

フランス

台湾

エストニア

インド

その他計

 合  計

上位5か国計

15,185

4,411

570

411

194

199

20,970

20,771

72.4%

21.0%

2.7%

2.0%

0.9%

0.9%

99.1%

1999年(酸化物量t) 国  名

表2 レアアース主要対日輸出国の推移

← 出典:財務省貿易統計よりJOGMEC換算

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シリーズ

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レアアース(希土類)の需要・供給・価格動向等

2007.7 金属資源レポート 129(229)

使用済み製品からのレアアースのリサイクルは、コ

スト面の理由からほとんどなされていない。ただし、

ニッケル水素二次電池の分野では 77 %の電池が回収さ

れており、この中でニッケルだけでなくレアアースも

ある程度の量がリサイクルされていると考えられるが、

この部材リサイクル率は企業秘密とされている。また、

製造工程の発生屑からのリサイクルについては、Nd-

Fe-B 磁石の分野で行われている。磁石メーカーにおけ

る工程屑の約 50 %は、磁石組成合金のメーカーが有償

で買い取ってリサイクルしているが、残り約 50 %は海

外に輸出されリサイクルされている。また、近年では

磁石組成の多様化に伴いリサイクルの困難さが増して

きているという問題もある。これらを踏まえると、日

本としては経済性のあるリサイクルプロセスの開発・

整備が今後のレアアースのリサイクルにおける課題と

して挙げられる。なお、国内 Nd-Fe-B 磁石メーカーの

うち、唯一、信越化学工業だけが組成合金からの一貫

生産を行っており、日立金属(旧 NEOMAX : 2007

年 4 月 1 日に親会社であった日立金属が吸収合併)と

TDKは組成合金を外部から購入している。また、組

成合金のメーカーとしては三徳、昭和電工、住金モリ

コープがある。

2. 価格レアアースに関する国際的な価格決定機構は存在し

ない。他の多くのレアメタルにおいてその掲載価格が

指標として用いられている Metal Bulletin 誌及び

Metals Week 誌にも、レアアースの価格は掲載されて

いない。実際の取引価格は、需給動向を鑑みて需要側

と供給側の相対取引で決まっているものと思われる。

レアアースの価格は、1980 年代まで、限られた数の

生産者のもとで安定的に推移してきた。しかし、1980

年代に入ってから中国が参入、その中国では 1990 年代

まで乱立した鉱山企業や分離・製錬メーカーが無秩序

に乱売競争をくり返し、圧倒的な安値での輸出を続け、

その輸出量を増加させてきた。このため、価格は低迷

し、ほとんどの西側企業が撤退に追い込まれることと

なった。2000 年代に入ってからは、中国が環境問題へ

本格的に取り組みはじめ規制を強化したほか、ITバ

ブルの影響によって、価格は上昇に転じた。その後、

ITバブルの崩壊(IT不況)により再度価格は低迷

したが、前述のとおりの中国の資源保護・内需優先の

政策実施、Nd-Fe-B 磁石等の需要増により、2003 年頃

から回復しはじめた。さらに、2005 年に入ってからは

Nd-Fe-B 磁石関連する元素(品目)の価格高騰が目立

っている。

なお、アルム出版社発行のレアメタルニュース・工

業レアメタルは、業界関連企業からの情報として金属

レアアースの月ごとの価格推移を掲載している(デー

タは 2004 年以降しか存在しない)。図1にこの価格推

移を示す。

表3 日本のレアアース品目別需要

主要用途

 合  計

出典:新金属協会、レアメタルニュース(アルム出版社)、平成18年度レアメタルの備蓄検討調査報告書(日本メタル経済研究所)

酸化イットリウム(Y2O3) 酸化ランタン(La2O3) 酸化セリウム(CeO2) 酸化ネオジム(Nd2O3) 酸化サマリウム(Sm2O3) 酸化ユウロピウム(Eu2O3) ミッシュメタル その他

1997年

5,3001,80020015

1,060280

9,745

1998年

5,5002,00020015

1,200295

10,350

1999年

6,0002,30020016

1,400310

11,426

2000年

7,0002,70020020

2,000350

13,690

2001年

6,0001,80012014

1,300280

10,474

2002年

6,0001,90012015

1,200290

10,605

2003年

5,5002,10012015

1,200320

10,655

2004年

5,7002,70010014

1,700350

12,064

2005年

5,9004,00010014

1,900370

13,884

8,2005,00012015

2,800420

18,855

2006年 (予測)

蛍光体(赤色)、光学ガラス 等 光学レンズ、セラミックコンデンサー、触媒 等 ガラス研磨剤、触媒、紫外線吸収ガラス添加剤 等 ネオジム・鉄・ボロン(Nd-Fe-B)磁石 他 サマリウム・コバルト(Sm-Co)磁石 他 蛍光体(赤色) 等 水素吸蔵合金(ニッケル水素電池) 他 ※ ジスプロシウム → Nd-Fe-B磁石添加物

レアアース酸化物量、単位:t

※「その他」は、フッ化希土、酸化プラセオジム(Pr6O11)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化ジスプロシウム(Dy2O3) 等の合計

380 380 400 520 360 380 500 500 500 500710 760 800 900 600 700 900 1,000 1,100 1,800

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シリーズ

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レアアース(希土類)の需要・供給・価格動向等

2007.7 金属資源レポート130(230)

これによると、Nd-Fe-B 磁石関連品目である金属ネ

オジム、ジスプロシウム鉄(Dy 純分当たりの価格)、

金属テルビウムの価格動向は、それ以外の 3 品目の価

格動向と明らかに異なる。後者 3 品目の価格が徐々に

上昇しているのに対し、前者磁石関連 3 品目は 2004 年

の価格の 2 ~ 3 倍に高騰している。特に、前者 3 品目

の 2005 年以降の価格上昇傾向は相似しており、これは

Nd-Fe-B 磁石需要増が大きく影響を及ぼして高騰して

いると思われる。また、レアアースは各元素が同時に

採掘されるため、元素により品位のばらつきはあるも

ののバランスして採掘されるという特徴がある。その

ため、一部の元素の需要が増大しても、他の元素は残

ってしまう場合がある。従って、このことにより後者

3 品目が前者 3 品目に比べて供給過剰気味になってい

ることも価格がそれほど上昇していない原因と考えら

れる。

3. 用途図2にレアアースのマテリアルフロー図(日本)を

示す。

単位:$/kg、CIF価格

300

400

500

600

700

30

50

70

90

110

0

10

20

30

※ ジスプロシウム(Dy)の価格  は、ジスプロシウム鉄(DyFe)  のDy純分ベースの価格

2004年 2005年 2006年 2007年

2004年 2005年 2006年 2007年

2004年 2005年 2006年 2007年

ランタン

セリウム ネオジム

テルビウム

ジスプロシウム イットリウム

図 1 金属レアアースの価格推移

出典:レアメタルニュース(アルム出版社)、一部 JOGMEC推定

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レアメタル2007(2)

レアアース(希土類)の需要・供給・価格動向等

2007.7 金属資源レポート 131(231)

リサイクルなし

リサイクルなし

生産量

輸入量

リサイクルなし

  中国

フランス

リサイクルなし

  エストニア

インド

リサイクルなし

その他

リサイクルなし

リサイクルなし

生産量

輸入量

リサイクルなし

輸入量

5,738

  中国

  中国

5,140

フランス

磁石工程くずのみリサイクル

  フランス

304

オーストラリア

  その他

294

リサイクルなし

リサイクルなし

生産量

輸入量

リサイクルなし

  中国

  その他

リサイクルなし

部分回収

リサイクルなし

輸入量

  アメリカ

リサイクルなし

  中国

  その他

鋼材くずとしてリサイクル

磁石工程くずのみリサイクル

生産量

輸入量

リサイクルなし

  中国

  その他

電極工程くずのみリサイクル

生産量

鋼材くずとしてリサイクル

リサイクルなし

図2 レアアースのマテリアルフロー図(日本)<2005年>

 希土金属

 希土化合物

 (粗塩化希土を含む)

<リサイクル>

<原   料>

<中間製品>

<最終製品>

<主応用製品>

8,387

8,386 2

13,363

10,523

1,551

615

340

344

1,801

1,758 40 3

1,226

1,211 15 592

200

262

130

それぞれ、レアアース酸化物量、化合物量、金属量 ; (  )内は粗い推定値  単位:t

 水素吸蔵合金

 製鋼原料

 永久磁石

 蛍光体

 排ガス浄化三元触媒

出典:財務省貿易統計、工業レアメタル2006(アルム出版社)、新金属協会、鉱物資源マテリアルフロー2006(JOGMEC)

 ミッシュメタル

 金属Nd、 Sm、 Dy、 La、 他

 フェロセリウム

 酸化イットリウム

 塩化ランタン

 酸化ランタン

 酸化セリウム・セリウム化合物

 希土研磨剤

 研磨剤

 ガラス研磨剤

 TVブラウン管、液晶ガラス等

 蛍光体

 蛍光灯、CRT

 紫外線吸収ガラス添加剤

 自動車フロントガラス等

 排ガス浄化三元触媒

 自動車

 FCC触媒

 触媒

 自動車

 光学レンズ

 光学機器・携帯電話

 フェライト磁石(La-Co系)

 永久磁石

 セラミックコンデンサー誘電体

 電気機器部品

 蛍光灯、CRT、プラズマディスプレイ

 光学ガラス

 (業務用)ビデオカメラ、デジカメ

 コンデンサー誘電体

 携帯電話、パソコン等高周波数用

 電池極板

 Ni水素電池、燃料電池用極板

 ジルコニア焼結助剤

 自動車エンジン酸素センサー

 フェルール

 光ファイバコネクタ

 SmCo、NdFeB磁石(焼結、ボンド)

 RE成分調整原料

 各種REメタル

 Ni水素電池

 製鋼原料

鉄鋼材料

 発火石

 ライター

鉄鋼材料

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シリーズ

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レアアース(希土類)の需要・供給・価格動向等

2007.7 金属資源レポート132(232)

レアアース各元素は様々に使用され、それらの用途

は多岐にわたっている(表3の主要用途も参照)。

現在、最も注目されている用途は、ここまでに幾度

も述べているように Nd-Fe-B 磁石である。Nd-Fe-B 磁

石は、その名のとおりネオジム、鉄、ホウ素を主成分と

しており、永久磁石のうちでは最も強力とされている

(この分野では、代替として同じ性能を発現できる材料

は無い)。また、前述のとおり、ジスプロシウム及びテ

ルビウムも、添加されることによって Nd-Fe-B 磁石の

高温域での保磁力・磁束密度を高める性質を有してい

るので重要度が増してきている。Nd-Fe-B 磁石の日本

における需要で最も多いとされているのは HDD(ハー

ドディスクドライヴ)向けで、磁気ヘッドの位置決め

に用いる VCM(ボイスコイルモータ)磁気回路にレ

アアース磁石を使用している。これは、日本製のほぼ

全ての HDD に使用されている。また、ハイブリッド

電気自動車(HEV)のモータやエアコンの室外機の駆

動素子にも用いられる。特に、ハイブリッド電気自動

車モータ向け需要は、日本で今後最も有望な分野と予

測されている。他には、自動車パワーステアリング用

のアシストモータ、小型の MRI(Magnetic Resonance

Imaging :磁気共鳴画像診断装置(医療機器の一つ))、

CD-DVD 用ピックアップ、携帯電話のスピーカー、バ

イブレーターの振動モータ等にも用いられている。な

お、携帯電話用途には、性能は劣るが安価な Sm-Co 磁

石、フェライト磁石が用いられることも多い。

その他の用途には、Sm-Co 磁石、ガラス研磨剤、紫

外線吸収ガラス添加剤、水素吸蔵合金(ニッケル水素

二次電池向け)、自動車排ガス浄化触媒、石油精製用接

触分解触媒(FCC 触媒)、蛍光体、携帯電話・パソコ

ン用コンデンサー、フィルター・センサー等のセラミ

ック製品等がある。前述のとおり、中でも、フラット

パネルディスプレイに用いられるガラス研磨剤、蛍光

体、環境分野で今後も重要な自動車排ガス浄化触媒、

ハイブリッド電気自動車ニッケル水素二次電池向けの

水素吸蔵合金等が今後需要の伸びが期待される分野と

して挙げられている。

4. 生産・製錬レアアースの生産は、まず鉱石を選鉱、レアアース

鉱物(バストネサイト、モナザイト、ゼノタイム、イ

オン吸着型鉱等)の精鉱としてから、分解処理を行い

混合希土の化合物(塩化希土等)を生成する。そして、

その化合物を分離・精製することにより各元素の酸化

物が精製され、さらにはそこから金属レアアースが製

造される、という方式で行われる。

選鉱においては、バストネサイトでは浮遊選鉱等、

モナザイトでは湿式比重選鉱、磁力選鉱等が用いられ

る。分解処理には、硫酸法、アルカリ分解法がある。

硫酸法は、熱濃硫酸で鉱石を分解する方法で、現在で

はほとんど使われていない。アルカリ分解法は、精鉱

からまずレアアースに次いで多いリン成分を苛性ソー

ダを用いて分離し、次にウランとトリウムを濃塩酸を

用いて分離、最後にレアアースを塩化物として回収す

る方法で、鉱石中の有用成分の全部と使用薬品のほと

んどが回収できる経済性に富んだ方法である。分離は

溶媒抽出法により行われる。有機溶媒を用いて、まず

軽希土グループと中重希土グループに分離する。次い

で、中重希土をサマリウム、ユーロピウム、ガドリニ

ウム(中希土と呼ぶこともある)とそれ以外(重希土

と呼ぶこともある)に分離する。そして、それぞれか

ら、分別沈殿法、溶媒抽出法、イオン交換法を組み合

わせて、各元素ごとに分離し酸化物を精製していく。

金属レアアースの製造では、一般的に、軽希土グルー

プには溶融塩電解法、サマリウムには蒸留還元法、テ

ルビウム、ホルミウム等の少量生産には金属熱還元法

が用いられている。

なお、レアアースにおいては、放射性物質を含む鉱

物が生産される場合があるため、その場合レアアース

を分離精製した後の残渣(廃棄物)をいかに貯蔵する

かが問題となってくる可能性がある。近年、世界各国

で環境規制はより厳しくなっており、環境対策を講じ

ることがレアアース生産のコストアップにつながる可

能性は大きい。また、環境対策をクリアして政府等の

承認を得るのに、多くの時間と労力を費やすこともあ

ると考えられる。さらに、近年では、環境問題に関す

る関係団体の動きも活発になっており、その対応も重

要となっている。

5. 資源表 4 に世界のレアアース埋蔵量を示す。

レアアースの世界の埋蔵量は、レアアース酸化物に

して 8,800 万tと推定されている。このうち、中国は

全世界の 30.7 %を占めており、偏在性は比較的高いと

は言えるものの、生産量ほどの極端な偏りは見られな

い。このことにより、中国以外の供給源の開発の可能

性は決して少なくないと言える。

レアアースの鉱床タイプは、カーボナタイト鉱床、

鉄希土類鉱床、イオン吸着型鉱床、漂砂鉱床、アルカ

リ岩鉱床の 5 種類である。これら鉱床は、主にアメリ

カ、中国、オーストラリア等の大陸地域に分布してい

る。

国 名

合 計

埋蔵量(千t)(レアアース酸化物量)

中国

CIS諸国

アメリカ

オーストラリア

インド

マレーシア

その他

27,000

19,000

13,000

5,200

1,100

30

22,000

88,000

30.7%

21.6%

14.8%

5.9%

1.3%

0.0%

25.0%

出典:Mineral Commodity Summaries(USGS)

表4 世界のレアアース埋蔵量

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カーボナタイト鉱床は、方解石またはドロマイトか

らなる炭酸塩岩の貫入岩を母岩とし、アルカリ複合岩

体の形成と成因的に密接な関係があるため、アルカリ

岩に随伴し、その組成は軽希土に富んでいる。鉄希土

類鉱床には、マグマから直接鉱物が沈殿した「マグマ

性鉱床」と高塩濃度熱水から鉱物が沈殿した「熱水性

鉱床」とがある。鉱床の規模は比較的大きく、どちら

かというと軽希土に富んでいる。イオン吸着型鉱床は、

花崗岩の風化殻の鉱床であり、鉱物の分解に伴って放

出されたレアアースが風化によって形成された粘土鉱

物に吸着し濃縮されたものである。品位は低く、鉱床

規模は比較的小さいが、中重希土に富む場合が多く、

放射性元素を含まない鉱床が多い。漂砂鉱床は、花崗

岩や変成岩類を後背地とする大陸の海岸に沿った砂鉱

として存在しているが、現在ではほとんど採掘されて

いない。鉱床規模は大きく、主に軽希土に富んでいる。

アルカリ岩鉱床は、アルカリ岩火成岩に随伴し、アル

カリ岩体、熱水性鉱床等の中にレアアースを含有して

いる。熱水性鉱床は比較的規模が大きく、中には中重

希土に富む場合もある。

主な鉱石鉱物としては、バストネサイト、モナザイ

ト、ゼノタイム、イオン吸着型鉱が挙げられる。また、

中国には、バストネサイトとモナザイトが共生してい

る複雑鉱も存在する。このうち、バストネサイト、モ

ナザイトは軽希土に富んでおり、ゼノタイム、イオン

吸着型鉱は中重希土に富んでいる。

現在のレアアース鉱山には軽希土を主体として生産

している鉱山が多く、前述のとおり今後さらに重要と

なる中重希土は、現在のところ中国華南地域のイオン

吸着型鉱からの生産のみとなっている。従って、中重

希土に富む新たな鉱山開発も含めて、中重希土の安定

供給の確保が重要となってくる。

6. まとめレアアースは、日本のみならず世界全体が供給のほ

とんどを中国 1 か国に依存している。そのような状況

下で、中国は、国内資源を守り内需を優先する様々な

政策を実施しており、需給面、価格面に大きな影響を

及ぼしている。従って、レアアースについては、中国

の動向を常に把握し供給上のリスクを常に考えておか

ねばならず、なおかつ、中国以外への供給源の分散、

国内リサイクル率の向上、代替材料の開発を考えてい

く必要がある。特に、中国以外への供給源の分散とい

う観点では、アメリカ・ Mountain Pass 鉱山の再開、

オーストラリア・ Mt.Weld プロジェクトの開発、そし

て中重希土に富む新たな鉱山開発に注目することが必

要である。

(2007.5.25)

〈参考文献等〉1.総合資源エネルギー調査会鉱業分科会レアメタル対

策部会資料

「今後のレアメタルの安定供給確保について(とり

まとめの方向)」

2007 年 5 月 経済産業省資源エネルギー庁

2.The Economics of Rare Earths & Yttrium〈10th

~ 12th Edition〉Roskill

3.レアアース(新版(改訂 4 版))1989 年 12 月

(社)新金属協会

4.希土類物語(先端材料の魔術師)1991 年 4 月 足

立吟也監修、足立研究室編著

5.新金属データブック 2002 2002 年 8 月(株)ホーマ

ットアド・金属時評編集部

6.工業レアメタル 2006 ANNUAL REVIEW 2006 年

7 月 アルム出版社

7.レアメタルニュース〈過年度分~現在〉アルム出版社

8.金属資源レポート 2004 年 11 月号 森川市参「世

界のレアアース需給」

9.金属資源レポート 2006 年 3 月号 山岡幸一

「中国レアアース産業の現状と動向及び日本レアア

ース産業への影響」

シリーズ

レアメタル2007(2)

レアアース(希土類)の需要・供給・価格動向等

2007.7 金属資源レポート 133(233)

10.平成18年度レアアース資源開発調査報告書 2007 年

3 月 住鉱コンサルタント株式会社

11.平成 18 年度レアメタルの備蓄検討調査報告書

2007 年 3 月 (社)日本メタル経済研究所

12.第 17 回日中レアアース交流会議報告書 2005 年

11 月 JOGMEC 金属資源開発調査企画グループ

13.非鉄金属のしおり= 40 鉱種の紹介= 2006 年

JOGMEC 金属資源開発調査企画グループ