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2014.9 金属資源レポート 65 284レアアース問題の整理 —供給リスクは減少?— 金属企画部 鉱種戦略チームリーダー 馬場 洋三 1. はじめに 前号「レアメタル・レアアースの今」で、鉱種別サプ ライチェーンを把握して内在する供給リスクを認識し て対応することが重要であると報告した。今号では、 レアアースについて「大生産国である中国の政策動向」 を中心に整理した。 レアアース(RE、希土類、稀土*)は、磁性、光学、 蛍光など様々な特性を有しており、日本の産業、環境 対策技術に不可欠な資源となっている。しかし、2010 年9月、尖閣諸島海域で中国漁船と海上保安庁艦船と の衝突事件が発生、大きな政治問題化により、9月中 旬以降、日本向けレアアースが中国税関で厳しい検査 を受け、実態上は日本向け禁輸という事態にまで発展 したことは記憶に新しい。日本ユーザは、レアアース を供給不安な原料として、急速に使用量を減らす、代 替材料を使用するなどで対応し、日本のレアアース需 要は大きく減少している。 しかし、レアアースは、電気自動車、燃料電池、風 力発電など低炭素化社会の実現に向けてグリーン・エ ネルギーや省エネルギー用途で欠かせない原料、また、 日本の産業競争力の維持・発展に欠かせない原料であ る。そこで、1980年頃からの大生産国中国の政策動向 を振り返り、また、レアアース資源そのものが持つ問 題などをも併せて整理した。 世界貿易機関(WTO)は、今年8月、中国の輸出数量 制限、輸出税賦課を協定違反として是正勧告を行って いる。大生産国の中国が持つレアアースに関する供給 リスクは潜在的に有るものの、以前よりは減少してい ると考えられる。 中長期的な視点に立って、様々な特性を持つレアア ースの安定した調達を検討される際の参考になれば幸 いである。 *) 中国ではレアアースを「稀土」と呼んでいることから、 中国に関係するところでは稀土を使うこととする2. レアアースの用途(用途開発の歴史) レアアースは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Yにランタノイド15元素【ランタン(La)からルテチウム Lu)】を加えた17元素の総称で、18世紀末にスウェー デンで発見され、最後のプロメチウム(Pm)が核分裂 生成物から発見されるまで約150年の歳月を要した。 レアアースの利用には長い歴史がある。19世紀末、 ガスマントルに初めて利用された後、フッ化希土が映 写機用のアークカーボンの発光剤として、混合希土金 属(ミッシュメタル)がライター石として、酸化希土が 板ガラスの研磨材として、酸化セリウム(Ce)が光学 ガラスの研磨剤として、1960年代には高屈折率、低分 散性の特性から高純度酸化ランタンが光学ガラス用に 利用されていった。1964年には米国でイットリウム 図1. レアアースの用途

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2014.9 金属資源レポート 65(284)

レアアース問題の整理—供給リスクは減少?—

金属企画部鉱種戦略チームリーダー 馬場 洋三

1. はじめに 前号「レアメタル・レアアースの今」で、鉱種別サプライチェーンを把握して内在する供給リスクを認識して対応することが重要であると報告した。今号では、レアアースについて「大生産国である中国の政策動向」を中心に整理した。

 レアアース(RE、希土類、稀土*)は、磁性、光学、蛍光など様々な特性を有しており、日本の産業、環境対策技術に不可欠な資源となっている。しかし、2010年9月、尖閣諸島海域で中国漁船と海上保安庁艦船との衝突事件が発生、大きな政治問題化により、9月中旬以降、日本向けレアアースが中国税関で厳しい検査を受け、実態上は日本向け禁輸という事態にまで発展したことは記憶に新しい。日本ユーザは、レアアースを供給不安な原料として、急速に使用量を減らす、代替材料を使用するなどで対応し、日本のレアアース需要は大きく減少している。 しかし、レアアースは、電気自動車、燃料電池、風力発電など低炭素化社会の実現に向けてグリーン・エネルギーや省エネルギー用途で欠かせない原料、また、日本の産業競争力の維持・発展に欠かせない原料である。そこで、1980年頃からの大生産国中国の政策動向を振り返り、また、レアアース資源そのものが持つ問題などをも併せて整理した。

 世界貿易機関(WTO)は、今年8月、中国の輸出数量制限、輸出税賦課を協定違反として是正勧告を行っている。大生産国の中国が持つレアアースに関する供給リスクは潜在的に有るものの、以前よりは減少していると考えられる。 中長期的な視点に立って、様々な特性を持つレアアースの安定した調達を検討される際の参考になれば幸いである。*) 中国ではレアアースを「稀土」と呼んでいることから、中国に関係するところでは稀土を使うこととする。

2. レアアースの用途(用途開発の歴史) レアアースは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)にランタノイド15元素【ランタン(La)からルテチウム(Lu)】を加えた17元素の総称で、18世紀末にスウェーデンで発見され、最後のプロメチウム(Pm)が核分裂生成物から発見されるまで約150年の歳月を要した。 レアアースの利用には長い歴史がある。19世紀末、ガスマントルに初めて利用された後、フッ化希土が映写機用のアークカーボンの発光剤として、混合希土金属(ミッシュメタル)がライター石として、酸化希土が板ガラスの研磨材として、酸化セリウム(Ce)が光学ガラスの研磨剤として、1960年代には高屈折率、低分散性の特性から高純度酸化ランタンが光学ガラス用に利用されていった。1964年には米国でイットリウム

図1. レアアースの用途

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2014.9 金属資源レポート66(285)

(Y)とユーロピウム(Eu)を赤色蛍光体として用いたカラーテレビが発売、1968年には日立キドカラーが発売、1970年代には3波長蛍光ランプも発売され、レアアースの蛍光体として利用が拡大していった。磁石用途としては、サマリウム(Sm)―コバルト磁石が1960年代後半から1970年代にかけて商品化され、1979年にソニーのウォークマンが発売された。その後、磁石開発競争の中、日本の佐川博士が1982年にネオジ磁石【ネオジム(Nd)/鉄/ボロン磁石、Nd磁石】を発明、1997年モータ等にネオジ磁石が、ニッケル-水素電池が蓄電池として利用されたハイブリッドカー(HV)・プリウスが発売された。 このように、レアアースは長年に渡って多くの研究者、企業で用途が開発され、需要が拡大してきたという歴史を持っている。

 レアアースは、化学的特異性や物理的特異性(磁性、光学、蛍光など)を利用した多種多様の部材・製品に利用され、自動車産業、電機産業、精密機器産業、窯業、鉄鋼業、一般機械産業、エネルギー産業などありとあらゆる産業における付加価値の源泉となる資源、さらに、環境対策技術に不可欠な資源となっている。 例えば、ハイブリッドカーのモータやエアコン等の家電製品にはネオジ磁石が使用され省エネルギー・小型化に寄与している。ネオジ磁石は、現在も最強の磁石として産業用モータ、ロボット等、多くの分野で利用されている。 ニッケル水素電池の負極材にはミッシュメタルが、自動車廃棄ガス浄化触媒やガラス等の研磨材にCeが利用されている。光学ガラスにLa、FCC石油触媒にLa, Ceなど、LED蛍光体に【ガドリニウム(Gd)や Eu】、カラーテレビなどの蛍光体に【緑色はテルビウム(Tb)、赤色はYとEu、青色はEu】など、産業・生活の様々

なところでその特性を発揮している。

3. 中国の稀土に係る政策動向の変遷 中国は、改革開放後、外貨獲得のため金属資源等を安値輸出してきた。その結果、それまで世界第一の生産を誇っていた米国カリフォルニア州のマウンテン・パス(Mt. Pass)鉱山は休山に追い込まれ、中国が世界の9割以上のレアアースを供給する構造となった。また、ジスプロシウム(Dy、ネオジ磁石の高温域での特性低下を緩めるため添加 などに使用)、TbやYなどの重希土類は中国南部のイオン吸着鉱といわれる特殊な鉱床からしかほとんど産出されない構造となっている。 このため、中国の稀土に係る生産動向や輸出等の貿易管理政策の変更(輸出数量割当制度、増値税還付率の引き下げ・撤廃、輸出関税の新設など)は、世界のレアアース市場に大きな影響を与えることになった。 中国のこれまでの稀土に係る動きを振り返って整理することとする。

3-1. 1980年代から2002年頃の政策動向(輸出奨励) 1980年代半ばに内モンゴル自治区バイユン・オボ鉄鉱山から稀土が副産物として生産を開始、また、同じ頃に江西省の竜南や尋烏でイオン吸着鉱(*)と呼ばれる特異な稀土鉱床が発見された。1991年に国務院が「タングステン(W)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、イオン型稀土鉱物を国家保護性採掘鉱種に指定することに関する通達」を発表し、選鉱、製錬、加工、販売・輸出において許可制(精鉱生産量割当、輸出数量割当制等)を採用して計画的に国家管理を実施するようになった。特に、イオン型稀土鉱については、外国人による採掘禁止、鉱区内への受け入れ禁止、地質資料、サンプル及び生産プロセス技術を提出することも禁止された。

図2. 世界のレアアース生産推移

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2014.9 金属資源レポート 67(286)

 1992年、鄧小平の「中東有石油、中国有稀土、一定把我国稀土的優勢発揮」(中東には石油があるが、中国には稀土類がある。中国は稀土類で優勢を発揮できるだろう。)との「南巡講和」は有名で、戦略鉱種と位置付けられたが、その後10年以上にわたり、その他金属鉱物などと同様に外貨獲得のため安値で輸出されていった。このため、米国のMt. Pass鉱山や世界各地の海浜重砂型レアアース鉱山は価格競争力を失い休山・閉山し、中国が世界の9割以上を生産する構造となった。 *) イオン吸着鉱:風化した花崗岩中のレアアース

が粘土に吸着した鉱床。    低品位(<0.05-0.2%)ではあるが硫酸アンモニウ

ムにより容易に抽出される。一部の鉱床では重希土類に富む。また、放射性元素を含まない(又は、少ししか含まない)特徴がある。中国南部(江西省、福建省、広東省など)でのみ開発されている。

3-2. 2002年頃から2009年頃の政策動向(内需優先、国内資源保護)

 第10次5ヶ年計画(2001年~2005年)では、主題を発展の堅持、主路線を構造調整の堅持、動力を改革開放と科学技術の進歩の堅持とし、経済と社会の調和のとれた発展を目指している。この指導方針の下、有色金属工業第10次5ヶ年計画(2001年~2005年)においては、国家保護性鉱種は、国内消費と合理的な輸出需要に基づき「資源保護と合理的な開発を強化し、鉱山能力、製錬能力と生産量を厳格に管理し、資源の優越を確実に産業の優越に転化」するとしている。

 中国の稀土産業は、2000年頃の日本のITバブルによりレアアース需要が増加したため、稀土が乱掘され、疲弊していったと言われている。この状況を受け、中国・国家発展改革委員会(稀土弁公室:稀土を所掌)は、2002年に「外資の稀土産業への投資に関する暫定規定」を発布し、中国国内で外国資本が稀土鉱山企業を設立することを禁止、外国企業の単独資本による稀土分離・製錬プロジェクトを不許可、同時に、外国資本が稀土の高度加工・新材料・応用製品に投資することは奨励し、国内稀土産業の立て直し、稀土に付加価値を高める政策を推進するようになった。また、稀土産業の立て直しのため、数百の稀土関連企業を南北2大稀土企業集団へ再編指導するとともに2005年末までの新規鉱山開発を禁止した。 国家発展改革委員会、国土資源部など稀土産業に関係する部局が共同して、「全国稀土企業集団に関する設立(北方稀土集団と南方稀土集団を設立)」を国務院に照会し採択された。内モンゴル自治区、甘粛省、四川省及び山東省の稀土企業を内モンゴル稀土類集団公司(現包頭鋼鉄集団)を元に北方稀土集団に統合、イオン吸着鉱を産出する江西省、湖南省、広東省の鉱山企業や分離・精製企業、さらに、上海、江蘇省などのイオン吸着鉱を原料として金属等を製造する企業を、中国アルミ業公司と五鉱集団の元に統合しようとする計画であった。しかし、南方の鉱山企業、分離・精製企業の数は多く、また、省・市政府関係の企業も多く、中央政府が考えるようには進まなかった。

図3. 中国の稀土に係る政策動向略図(2000年頃~2009年頃)

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2014.9 金属資源レポート68(287)

 経済発展に伴い、国内需要も大きく増加(2002年24,900t→2005年51,900t→2009年73,000t)、また、電力不足や環境汚染も深刻化したことなどから、輸出奨励から国内需要を優先する方向に大きく転換していった。 輸出数量割当枠を年々減少させるととともに、輸出奨励策であった増値税(消費税に相当)の輸出者への還付率を2004年1月から順次引き下げ2005年5月には撤廃

した。(増値税の還付は、輸出した際に増値税分が輸出者に還付される制度で、国内販売より輸出奨励されることになる。)さらに、2006年11月からは輸出関税が賦課され、その後、数度にわたり関税率がアップされ、磁石原料の金属ネオジム、金属ジスプロシウムやジスプロシウム鉄合金は25%に、蛍光体材料のユーロピウム酸化物やテルビウム酸化物も25%になった。

対象品目 2004年1月1日施行 2005年5月1日施行

稀土鉱石 13%→0%金属酸化物 13%→5% 5%→0%塩化物 13%→5% 5%→0%

対象品目 2006 年 11 月施 行

2007年6月施 行

2008年1月施 行

2009年1月施 行

2011年1月施 行

金属ネオジム金属ジスプロシウムミッシュメタル

0%→10%0%→10%0%→10%

10%→15%15%→25%15%→25%

15%→25%

ランタン酸化物等セリウム酸化物等ユーロピウム酸化物テルビウム酸化物

0%→10%0%→10%0%→10%0%→10%

10%→15%10%→15%10%→25%10%→25%

フェロアロイ(REが重量10%以上、ジスプロシウム鉄合金) 0%→20% 20%→25%

3-3. 2009年頃からの政策動向(環境規制強化) 第11次5ヶ年計画(2006年~2010年)では、①都市と農村の発展、②地域社会の発展、③社会と経済の発展、④人と自然の調和的発展 及び ⑤国内の発展と対外開放 の5つの面を調和しながら、更に「資源節約型・環境配慮型社会」を強調して経済と社会の調和のとれた発展を目指していくと提起されており、環境汚染対策の強化を図っている。 第12次5ヶ年計画(2011年~2015年)では、経済構造を転換(内需主導の経済構造、所得分配の平等化、都市と農村の格差縮小)を目指し、①内需拡大、②農業近代化の推進、③産業構造の高度化と国際競争力の強化、④均衡のとれた地域開発、⑤資源節約・環境保護型社会への転換、⑥科学技術・教育立国と人材戦略の強化、⑦社会サービスと社会インフラの整備、⑧文化の発展の促進、⑨社会主義市場経済の構築 及び ⑩市場開放の促進が10大任務とされている。戦略的新興産業としては、省エネ・環境保護、バイオテクノロジー、次世代情報技術、新エネルギー、新素材など7分野を指定している。新素材には高性能レアアース材料などが含まれている。

 中国の稀土に関する政策については、国土資源部が鉱山開発・採掘量について、工業信息化部が稀土関連産業について、商務部が輸出数量割当枠について所管しており、国家発展改革委員会と連携を取りながら、

資源保護、環境・安全対策の強化及び稀土産業の発展の観点から各種施策を進めている。 国土資源部は、2010年5月中旬に「稀土など鉱産資源開発の秩序に関する特別整頓行動計画案」を採択した。稀土、タングステン、錫、アンチモン、モリブデン、耐火粘土、蛍石などの鉱物資源は許可を得ないで探査・採掘されており、また、乱掘問題が一部の地域では依然として目立っているとして、稀土などの鉱物資源の保護、合理的な開発及び利用を重視し、探査・開発を整理、違法採掘の取り締まり強化を図ろうとしている。この流れの一環として、2011年1月には「第一期稀土国家計画鉱区と鉄鉱石国家計画鉱区の指定に関する公告」を公表し、資源をこれまでの省、市、自治区など行政区毎の分け方から、鉱床生成地域による分け方に変更し、鉱区名とその範囲を示した。稀土については、イオン吸着鉱として有名な龍南、尋烏、信豊など贛州市周辺の11か所を稀土国家計画鉱区に指定した。 工業信息化部は、2010年5月中旬に、鉱山の生産規模、技術と設備、エネルギー消費状況、資源の総合利用状況、環境保護などの観点から、稀土関連産業への参入条件を厳しくしている。 財政部は、2011年4月からは稀土鉱石の資源税を3元/tから軽稀土類鉱石は60元/tに、中重稀土類鉱石は30元/tと10~20倍に引き上げ、資源保護を強化し、商務部は、稀土含有量10%以上の合金鉄を5月20日より輸出数量割当規制の対象に加えた。

表1. 増値税還付率(稀土関係)の引き下げ状況

表2. 輸出関税率(稀土関係)の推移

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2014.9 金属資源レポート 69(288)

 環境保護部は、「稀土工業汚染物資排出基準」を2011年2月に発布した。

 2011年2月16日、温家宝首相は国務院常務会議を主催し、稀土産業の持続的かつ健全な発展のための政策を検討、5月10日に国務院は「稀土業界の持続的かつ健全な発展に関する若干の意見」を、各省・自治区・直轄市人民政府、国務院各部委員会、各直属機関宛て通知した。

 『稀土は再生不可能な重要戦略資源であり、新エネルギー、新素材、省エネ・環境保護、宇宙航空、電子情報等の分野において、広く応用されている。稀土資源を有効に保護し、合理的に利用することは、環境を保護し、戦略的新興産業の発展育成を加速させ、伝統的産業を改造・グレードアップさせ、稀土産業の持続的で健全な発展を促進することに対して、充分に重要な意義を有している。長年の発展を経て、わが国の稀土採掘、製錬分離、及び応用技術研究開発は比較的大きな進歩を遂げ、産業規模は不断に拡大している。しかし、稀土産業の発展において、幾度禁止しても後を絶たない不法採掘、製錬分離生産能力の急速過ぎる拡大、深刻な生態環境破壊と資源浪費、ハイレベル応用研究開発の遅れ、輸出秩序の相対的混乱等の問題が依

然存在している。稀土資源を有効に保護し、合理的に利用する重要性に対する認識を更に向上させ、有効な措置を採って、稀土産業管理を適切に強化し、稀土産業の発展パターンの転換を加速させて、稀土産業の持続的で健全な発展を促進しなければならない。そのために現在、以下の意見を提起するものである。』 主要な目標等は以下のとおり。* 1~2年の期間で以って、規範的で秩序のある稀土資源採掘、製錬分離、市場流通秩序を確立し、無秩序な資源採掘、生態環境の悪化、盲目的な生産拡張や密輸出の跋扈といったような状況を有効に抑制する。* 大型企業を主導とする稀土産業構造を基本的に形成し、南方のイオン型稀土産業におけるベスト3の企業グループの産業集中度を80%以上にまで高める。* 新製品開発と新技術の拡張応用の動きを加速させ、稀土新素材が川下産業に対して支援し保障するという役割を明確に発揮させる。* 統一的、規範的、高効率な稀土産業の管理システムを初歩的に確立し、関連する政策や法律法規を更に改善する。更に3年前後の時間を用いて、体制メカニズムを更に改善し、合理的開発・秩序ある生産・高効率利用・先進的技術・集約的発展を持つ稀土産業の持続的で健全な発展構造を形成する。

図4. 国務院「若干の意見」概略図

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2014.9 金属資源レポート70(289)

 中国政府各部のその後の動き等も、この「若干の意見」に沿った方向で動いており、違法採掘の取締まり強化、南方のイオン吸着鉱の生産地域(江西、広東、福建など)では、贛州稀土集団や広東省稀土産業集団が設立されている。 合併や再編などにより、包鋼稀土集団、五鉱集団、中国アルミ業、贛州稀土集団、広東省稀土産業集団及び厦門タングステン業の6大稀土企業集団が中国の稀土産業を担い、包鋼稀土集団は内モンゴル自治区、甘粛省、さらには四川省で、五鉱集団は湖南省で、中国アルミ業は広西で、贛州稀土集団は贛州で、広東省稀土産業集団は広東省で、厦門タングステン業は福建省で、採掘・分離・精錬・製品企業を統合していくものと予想されている。

3-4. レアアース・ショック 中国稀土関係者は、稀土が不当に廉価に日本企業に買われていると思っていた。また、日本企業は、中国稀土生産企業が環境対策や安全対策が必要なことから生産コストが高くなっていると言っても、所詮値段を釣り上げる口実だと取り合わなかった。日本企業が調達したい重希土類には数十~百$/kgの“プレミアム”が上乗せされたり、このプレミアム目的に輸出数量割当枠が中国稀土関係者の間で売買されたりしていた。過去から積み上げられてきた日中レアアース関係者の良好な関係は、このように段々と双方に不信感が芽生えてきていた。また、新華社なども「稀土が不当な廉価で日本に輸出されている。」と報道し、中国国民も稀土への関心が大きくなってきていた。

 日本のレアアース関係企業の多くは、レアアースをほぼ全量を中国に依存していることについて常々危機意識を持っていた。そのため、レアアース在庫は他の素材の適正在庫水準以上に常時保有するよう努めてきていた。 2008年秋のリーマンショックは、日中双方の経済に大きな影響を与えた。日本経済はリーマンショックにより予想以上に影響を受け生産活動が低下したことから、レアアース在庫は過剰状態となり適正在庫に向けて輸入することを控え在庫消化に走ったため、中国からのレアアース輸入は前年より大幅に減少した。 一方、中国経済は4兆元の公共投資などにより世界で最もリーマンショックの影響が少なかったと言われるが、やはり国内需要は落ち込んだ。国内需要の減少、日本、米国及びEUへの輸出の減少から、中国の稀土鉱山、分離・精製業及び合金等金属製造業は、操業率を半減、更には操業を中止する企業も出ていた。

 2010年7月8日、中国政府商務省は「2010年第二回目の稀土輸出数量枠」発表した。中国企業25社に対し7,976t(対前年同期比約72%減)、外資企業10社に対し1,768t(同約83%減)と予想しない大幅な減少だった。この削減発表を受け、日本からは様々なハイレベルの場で中国政府に「レアアースの輸出規制の見直し」を要望する事態になった。中国では過去から「稀土」を戦略物資と考えていたが、「稀土」が日本の産業にこれほどまで影響を与える物として、特に中国首脳部に改めて印象づける結果となった。

図5. 中国稀土産業を巡る最近の動き(2009年頃~)

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2014.9 金属資源レポート 71(290)

 このような状況下、2010年9月7日、尖閣諸島海域で中国漁船と海上保安庁艦船との衝突事件が発生、領海問題という日中間の大きな政治問題となった。9月中旬以降、日本向けレアアースが中国税関で厳しい検査を受け、実質禁輸(公式には認めていない)という事態にまで発展し、日本産業界は世界中に少量でもいいからとレアアースを求め廻るという異常事態になったことは記憶に新しい。その後、価格は2011年7月に最高値、それまでの数十倍まで高騰した。また、中国国内価格と輸出価格の差も大きな問題となっていった。

暦年 2006 2007 2008 2009 2010第一期 第二期 合計 第一期 第二期 合計

輸出数量枠 61,560 60,173 47,449 21,728 28,417 50,145 22,283 7,976(▲72%)

30,259(▲40%)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年中国からの輸出合計量 53,313 45,415 30,921 36,074 34,552

日本向け輸出量 25,884 25,561 14,923 13,882 17,852

表3. 中国の稀土輸出数量枠の推移

表4. 中国の稀土精錬分離製品の輸出推移 (単位:REOt)

(単位:REOt)

 現在、La, Ce価格は国内価格2$台/kg、輸出価格5$台/kgと元の相場まで下落したが、磁石用途のNdは輸出価格85$程度/kg、Dyは輸出価格475$程度/kgと未だ元の相場まで下落していない。中国でもCeなどの需要は大きく減少していることから、中国の稀土産業は、価格が高止まりしているNdとDy(磁石需要)に大きく頼っていると言われている。

3-5. 世界貿易機関(WTO)紛争処理 中国と日本で、世界のレアアースの9割以上を使用している。中国と日本以外では、米国が約5%程度(主としてFCC触媒)、欧州が2~3%程度を使用しているに過ぎない。

 レアアースの問題は、正に中国と日本の間での問題であった。

 しかし、2010年の実質禁輸により、中国政府によるレアアース輸出規制などの問題が、日本、米国及びEUで共有されることになった。 2012年3月、米国、EU、日本は、中国によるレアアース、タングステン、モリブデンの輸出規制(輸出数量制限、輸出関税賦課)に関して、WTOに対して協定に基づく協議を要請した。しかし、中国との協議では解決に至らず、2012年5月に米国、EU、日本は紛争処

図6. レアアースの価格推移

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2014.9 金属資源レポート72(291)

理委員会(パネル)の設置を要請し、これを受け、2012年6月にパネルが設置され、2年弱にわたる審理後、2014年3月、パネルは報告書を公表し、以下のように中国の反論は正当化できないとして、中国に対してWTO協定に従って措置を是正するよう勧告した。* 中国の輸出数量制限はGATT 11条1項に規定される数量制限の禁止に抵触する。

   当該輸出数量制限は、GATT 20条(g)項に規定される有限天然資源の保全に関する措置とはいえず、正当化されない。* 中国の輸出税は、中国加盟議定書11条3項に規定される輸出税の賦課禁止に抵触する。中国は、中国加盟議定書11条3項との関係ではGATT 20条(正当化事由)を援用することはできない。仮に援用できたとしても、中国の輸出税はGATT 20条(b)項に規定される環境保護のために必要な措置とはいえず、正当化されない。

 中国は、このパネルの判断を不服として2014年4月に上訴(WTO上級委員会への申し立て)を行ったが、上級委員会は2014年8月7日に報告書を公表し、パネル報告書を支持し、中国の輸出数量制限、輸出税賦課がWTO協定に違反することが確定した。

 中国では、生産数量(採掘、製品等)の管理、違法採掘の取締まり、環境規制の強化、南部での大企業への統合、備蓄など「若干の意見」に沿った政策が実行されている。 今後、「資源税アップ」や「環境税新設」なども噂されている。引き続き、中国の稀土政策動向には注視していく必要がある。 しかし、中国は、WTO是正勧告を受け、早晩、輸出数量制限及び輸出税賦課を是正せざるを得なくなることから、大生産国の中国が持つレアアースに関する供給リスクは潜在的に有るものの、以前よりは減少していると考えられるのではないだろうか。

4. 日本のレアアース需要動向 レアアースは、「4f電子」という特徴的な電子軌道に起因する特性や化学的性質から、化学工業、光学精密機器産業、電機産業、自動車産業、窯業など多くの産業で、レアアースが原料となっている素材・部材(研磨材、光学レンズ、磁石、触媒等)に利用されている。1990年には5,000t程度であったレアアース需要は、2007年、2008年には32,000t程度まで増加した。しかし、2010年の中国の実質禁輸や2011年7月にかけての価格高騰などから、代替品の使用、リサイクルも進み、更に、多くのユーザは「レアアースはリスクが高く、可能な限り使用したくない原料」との意識も強くなり、2012年には14,500t程度、2013年は13,200t程度まで大幅に減少してしまった。

 Laの主要用途は、光学レンズ添加、FCC触媒等であるが、光学レンズ添加需要は製造工場の海外移転により減少したことにより、La需要は2007年の3,000tから2013年には2,000tまで減少した。Ceの主要用途は、研磨材、自動車排気ガス浄化助触媒であるが、自動車排気ガス助触媒用需要は堅調であるものの、研磨材需要は代替品の使用やリサイクルにより大幅に減少したことから、Ce需要は2007年の16,100t(日本のレアアース需要の約半分)から2013年には4,200tまで大幅に減少した。 Eu, Tb, Yなどの蛍光体需要は、電機産業の国際競争力が弱くなったこと、製造工場が海外に移転したこと、東日本大震災による省エネ意識の高まりやLED商品の低価格化により、テレビのバックライトや三波長蛍光灯が予想以上の速さでLED化したことから大幅に減少した。Y需要は2007年の1,750tから2013年には680tに、Eu需要は2007年の40tから2013年には17tまで減少した。 一方、HV自動車に搭載されているNi-水素電池負極材に使用されるミッシュメタル需要は、HV自動車生産台数の増加により2007年2,900tから2013年には3,350tに増加している。 ネオジ磁石に使用されるジジム【Di(Pr+Nd)】やNdの需要も回復したと言われている。

主要用途 1990年 2005年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年イットリウム 蛍光体等 290 1,000 1,750 1,670 580 1,500 1,300 800 680ユウロピウム 蛍光体等 12 14 40 44 18 35 30 20 17

ランタン FCC触媒、光学レンズ等 440 1,800 3,300 3,300 2,450 3,850 3,200 2,000 2,000

セリウム 研磨材、自動車触媒等 3,350 10,300 16,100 16,100 9,300 11,500 7,200 5,200 4,200

ミッシュメタル Ni-水素電池等 230 2,400 2,900 2,800 3,200 3,200 2,950 3,350 3,350サマリウム 磁石 340 100 100 100 70 80 80 80 80

ジジム+ネオジム 磁石等 650 5,700 7,100 7,000 4,200 5,500 5,500 2,500 2,300

その他の希土類 120 1,000 1,100 1,050 700 1,000 820 520 570合計 5,432 22,314 32,390 32,064 20,518 26,665 21,080 14,470 13,197

表5. 日本のレアアース需要推移 (単位:REOt(MM 除く))

(出典 新金属協会)注) 2005 年以降は新金属協会非会員分も含む

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レアアース問題の整理

―供給リスクは減少?―

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2014.9 金属資源レポート 73(292)

RE鉱物 バストネサイト イオン吸着鉱 バストネサイト モナザイト

産地 中  国バイユン・オボ

中  国竜南

中  国尋烏

米  国Mt. Pass

豪  州Mt.Weld

La 26.50 7.8 43.4 33.20 25.50Ce 50.80 2.4 2.4 49.10 46.74Pr 4.96 2.4 9.0 4.34 5.32Nd 15.40 9.0 31.7 12.00 18.50小計 97.66 21.6 86.5 98.6 96.06Sm 1.10 3.0 3.9 0.8 2.27Eu 0.21 0.03 0.51 0.1 0.44Gd 0.60 4.4 3.00 0.2 0.75Tb 0.03 0.9 trace  trace 0.05Dy 0.10 5.3 trace  trace 0.12Ho  trace 1.4 trace trace  traceEr  trace 3.6 trace  trace  traceTm  trace trace trace  trace  traceYb  trace 2.7 0.3  trace traceLu trace 0.3 0.1 trace  traceY 0.20 56.2 8.00 0.1 0.25

表6. 世界の代表的なレアアース鉱床の元素構成 (単位:%)

5. レアアースを巡る問題点の整理<レアアース資源固有の問題> レアアースを含む鉱床は、米国の地質調査所(USGS)データベースでは世界に約800鉱床と数多く賦存している。一般的には軽希土類(La~Eu)を多く含む鉱床(La,Ce, Pr及びNd合計で95%~99%、Sm, Euなどを少量含む)が多く、中国・内モンゴル自治区のバイユン・オボ鉱山(鉄鉱石の副産物)や、米国のMt.

Pass鉱山、豪州で生産を開始したマウント・ウェルド(Mt. Weld)鉱山などが代表的であり、トリウムなどの放射性元素を多少含む。一方、中国南部の江西省の竜南鉱床や尋烏鉱床などはイオン吸着鉱と呼ばれ、重希土類(Gd~Lu及びY)を多く含む世界でも特異な鉱床で、トリウムなどの放射性元素をあまり含まないことが特徴的である。

<バランス商品>(Ce等の新たな用途開発の必要性) 従来からレアアースは“バランス商品”と言われてきた。レアアースは17元素から構成されており、欲しい元素のみ(例えば、「Dy」だけ、牛肉で言えば「フィレ」だけ)を生産することは不可能であり、他の多くの元素が同時に生産されることから全ての元素をどうやって上手く販売していくかが重要となっている。また、技術開発等により元素毎の需要が大きく変動するという問題もある。 今回のレアアース・ショックにより、日本のレアアースユーザは素早く反応した。例えば、研磨材分野ではCeが安価なことから一度研磨するとこれまで廃棄していたが使用済み研磨材を再度使用、代替が可能な

工程では代替品を使用、最終工程のみCe研磨材を使用するに留めたことから、研磨材需要は大幅に減少してしまった。多くのレアアース鉱床ではCeが約半分含有されており、生産されたCeは需要の減少のため販売できない状況に陥っている。また、急速にLED化が進んだため蛍光体分野のレアアース需要も大幅に減少した。このように既存の用途で大幅に需要が減少しバランスが崩れた状態になっている。 Nd やDyなどを含めレアアース元素全般のバランスをとって安定的な供給を継続していくためには、Ce、さらには、EuやYについても新たな用途開発を進めることが必要となっている。

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2014.9 金属資源レポート74(293)

6. 最後に レアアースは、原子を構成する電子軌道に「4f電子軌道」に起因する特性、イオン半径、電荷、外殻電子の状態、化学的性質等に起因する特性から、他の金属材料と違った種々の特性を有しており、研磨材、光学レンズ、磁石、触媒、蛍光体、水素吸蔵合金などの素材・部材として、化学工業、光学精密機器産業、電機産業、自動車産業、窯業など多くの産業で利用されてきている。

 さらに、低炭素化社会の実現に向けてグリーン・エネルギーや省エネルギー用途で、固体酸化物型燃料電池(SOFC, ScやYが電解質などで使用)、磁気冷凍(ヒートポンプや蓄冷材、Gdなどが使用)、高温超電導(Y系とBi系が技術開発、実証試験中)などの利用拡大が期待されている。

図7. レアアース問題の整理

図8. 今後のレアアース需要概観

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2014.9 金属資源レポート 75(294)

<レアアースの安定確保に向けて―競争力ある資源の確保―> 近年、レアアース需要は大幅に減少した。技術開発・製品開発の動きは早く、元素毎の需要を予測することは非常に難しいが、レアアースが持つ特性を考慮すれば、今後とも日本の産業にとって、レアアースは必須の原料である。 豪州のMt. Weld鉱山が生産を開始、また、休山中であった米国のMt. Pass鉱山も生産再開(?)し、中国外の供給源は多角化されつつある。RE価格の大幅下落やCe需要の急減から、両鉱山とも苦しい状況と考えられるが、軽希土類については中期的には中国に大きく依存する構造は改善されるだろう。 しかし、Dyなどの重希土類については、上記2鉱山には少量しか含まれておらず、中長期視点から、重希土類を多く含むレアアース鉱床の探鉱・開発は引き続き推進すべきと考える。その際には、RE価格の大幅下落、Ce需要や蛍光体需要の減少なども考慮して進める必要があろう。経済性の観点から、開発はこれまで以上に難しくなっており、“非常に優良な鉱床”、“副産物として安価にREが生産できる鉱床(例えば、錫やニオブなどの副産物)”など、生産コストが安価な鉱床を対象に進めることになろう。

 国内やベトナムにリサイクル拠点も設立され、磁石製造工程時の切削屑などのリサイクルはかなり進んでいる。引き続き、HV等モータなどの使用済み製品からのリサイクルを可能にするべく努力していくべきであろう。

 自動車などの最終ユーザは、今後とも重希土類が原料として必要であるならば、資金力のない素材・部材会社や商社にその安定供給を全て任せるのではなく、自らも応分のリスクを負担するなど積極的に関与していくことが望まれる。

 “安く高品質な原料”を簡単に調達できる時代は終わった。 企業にとって、「国際競争力の源泉は何か」、「それを支える技術・素材は何か」、「素材を構成する原料は何か」を引き続き検討されるべきであろう。必ず不純物や有害な金属なども付随して生産されるなどの金属鉱物資源固有の問題を認識し、マテリアルフローからサプライチェーン上の供給課題を、(鉱山や製錬所の偏在度、主産物か副産物、資源国や資源企業の動向、新規需要や省資源化動向、リサイクルや代替材開発動向などを考慮し)長期的な視点、かつ、冷静に対処していくべきではないだろうか。そうすれば、徒に慌てまわることなく、また、不必要な代替に走ることもなくなるであろう。

機構では、鉱種毎のサプライチェーンを詳細に検討し、内在する供給課題を抽出しその供給課題を解消すべく、探鉱、金融支援、技術開発や備蓄など機構が持つ機能を総合的・効率的・最大限に活用して、ベースメタル・レアメタル・レアアースの安定供給に貢献していきたいと考えている。引き続き、ご指導、ご鞭撻の程、お願い致します。

(2014.8.19)

(参考文献)1. 馬場 洋三:「21世紀の日本経済を支えるハイテ

ク産業への素材(レアメタル)の安定供給は?」  金属資源レポート 2005年7月号2.馬場 洋三:「レアメタル・レアアースの今」  金属資源レポート 2014年7月号3. 馬場 洋三:「レアアースの最新技術動向と資源

戦略」  シーエムシー出版,2011年12月4. 土屋 春明:「激動の中国レアアース -新たな夜明け-」

  金属資源レポート 2009年7月号5.渡邊 美和:「中国レアアース産業の再編動向」  金属資源レポート 2011年3月号6. 廣川 満哉:「レアアースの需要・供給及び価格

の動向」  金属資源レポート 2011年7月号7. 篠田 邦彦:「習近平政権下の中国の金属・鉱物

資源産業の現状と課題」  金属資源レポート 2014年3月号8. 土居 正典:「2011年中国レアアース産業動向」  カレント・トピックス 2012年12~39号9. 土居 正典・渡邊 美和,ニュースフラッシュ (201113号)

10. 小西  功:「温故知新 希土類産業黎明期の人たち」

  レアメタル研究会 第57回講演資料11.中村 英次:「日本の希土類の技術」  希土類会議シリーズ講演資料 第2回、2012年6月12.工業レアメタルNo.130,2014 アルム出版社 13.Mineral Commodity Summaries, U.S. Geological Survey14.経済産業省ニュース・リリース:平成24年3月13日、  平成26年3月26日、平成26年8月8日

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