機械式コーン貫入試験のJIS改正における留意点と...

4
機械式コーン貫入試験の JIS 改正における留意点と 電気式コーン貫入試験について 寒地地盤チーム 1.まえがき 2013年3月に地盤調査関係の日本工業規格(JIS)の 改正が行われた。また、それに関連して、「地盤調査 の方法と解説 1) 」(公益社団法人地盤工学会)が改訂さ れた。このうち、泥炭地盤の強度定数の決定などに広 く利用されている「オランダ式二重管コーン貫入試験」 に関しては、対応する国際規格(ISO規格)が制定され たことを受けて大幅に改正され、名称も「機械式コー ン貫入試験」に改まった。 本解説では、機械式コーン貫入試験に関する規格改 正の概要を説明するとともに、泥炭地盤における利用 の留意点について述べる。さらに、機械式コーン貫入 試験と類似の方法で、比較的新しい地盤調査法である 電気式コーン貫入試験の泥炭地盤における活用に関す る最近の研究成果を紹介する。 2.JIS「機械式コーン貫入試験」改正の概要 2.1 機械式コーン貫入試験とは 機械式コーン貫入試験は、先端部がコーン形状の貫 入装置(先端コーン)を地盤へ静的に圧入し、その際の コーン貫入抵抗を測定する地盤調査である(写真-1、 )。貫入用ロッドを二重管構造にすることで、ロッ ドに作用する周面摩擦を分離し、コーン貫入抵抗のみ を測定できる特長を持っている。また、オランダで開 発された調査法であることから、オランダ式二重管コ ーン貫入試験(通称:ダッチコーン)と呼ばれてきた。 簡便で経済的な方法であるとともに、軟弱な地盤の 強さを標準貫入試験よりも詳細に測定できることか ら、標準貫入試験などを補完する地盤調査法として広 く普及している。特に、北海道の泥炭地盤においては、 その非排水せん断強さ(いわゆる、粘着力 C)を決定す る方法として定着しており 2) 、泥炭地盤の調査に「ダ ッチコーン」はなくてはならないものとなっている。 写真-1 機械式コーン貫入試験の実施状況 写真-2 先端コーン 上:電気式コーン 下:機械式コーン(マントルコーン) 2.2 JIS 改正の概要 機械式コーン貫入試験は、JIS A 1220に規定されて いる。2009年に本試験に対応する試験方法が国際規格 ISO 22476-12:2009として制定されたのを受け、ISO 規 格との整合を図るため、名称も含めて全面的に JIS が 解 説 24 寒地土木研究所月報 №734 2014年7月

Transcript of 機械式コーン貫入試験のJIS改正における留意点と...

機械式コーン貫入試験の JIS 改正における留意点と電気式コーン貫入試験について

寒地地盤チーム

1.まえがき

 2013年3月に地盤調査関係の日本工業規格(JIS)の改正が行われた。また、それに関連して、「地盤調査の方法と解説1)」(公益社団法人地盤工学会)が改訂された。このうち、泥炭地盤の強度定数の決定などに広く利用されている「オランダ式二重管コーン貫入試験」に関しては、対応する国際規格(ISO 規格)が制定されたことを受けて大幅に改正され、名称も「機械式コーン貫入試験」に改まった。 本解説では、機械式コーン貫入試験に関する規格改正の概要を説明するとともに、泥炭地盤における利用の留意点について述べる。さらに、機械式コーン貫入試験と類似の方法で、比較的新しい地盤調査法である電気式コーン貫入試験の泥炭地盤における活用に関する最近の研究成果を紹介する。

2.JIS「機械式コーン貫入試験」改正の概要

2.1 機械式コーン貫入試験とは

 機械式コーン貫入試験は、先端部がコーン形状の貫入装置(先端コーン)を地盤へ静的に圧入し、その際のコーン貫入抵抗を測定する地盤調査である(写真-1、

2)。貫入用ロッドを二重管構造にすることで、ロッドに作用する周面摩擦を分離し、コーン貫入抵抗のみを測定できる特長を持っている。また、オランダで開発された調査法であることから、オランダ式二重管コーン貫入試験(通称:ダッチコーン)と呼ばれてきた。 簡便で経済的な方法であるとともに、軟弱な地盤の強さを標準貫入試験よりも詳細に測定できることから、標準貫入試験などを補完する地盤調査法として広く普及している。特に、北海道の泥炭地盤においては、その非排水せん断強さ(いわゆる、粘着力 C)を決定する方法として定着しており2)、泥炭地盤の調査に「ダッチコーン」はなくてはならないものとなっている。

写真-1 機械式コーン貫入試験の実施状況

写真-2 先端コーン

上:電気式コーン  下:機械式コーン(マントルコーン)

2.2 JIS 改正の概要

 機械式コーン貫入試験は、JIS A 1220に規定されている。2009年に本試験に対応する試験方法が国際規格ISO 22476-12:2009として制定されたのを受け、ISO 規格との整合を図るため、名称も含めて全面的に JIS が

解 説

24 寒地土木研究所月報 №734 2014年7月

 しかし、旧 JIS の方法(ダッチコーン)は、我が国において長い間、設計定数の決定に広く活用されてきた背景があり、このままでは実務に大きな混乱が起きると予想された。特に、前述した泥炭地盤における非排水せん断強さの決定に対する適用は、盛土の破壊事例と原位置ベーンせん断試験結果との関係など十分に信頼できる調査結果から確立されたもの3)であり、北海道の泥炭地盤の設計において既に定着している。 そこで、ISO 規格にはない記述ではあるが、「十分に信頼できる相関関係が確立している場合、(中略)地盤構成、土の種類及び地盤定数の推定ができる」(下線は、筆者による)というただし書きを新 JIS に加えて、不必要な混乱の回避が図られている。 つまり、機械式コーン貫入試験の新 JIS は、旧 JISから大幅な改正がなされたが、引き続き泥炭地盤の非排水せん断強さの決定に利用できる。この点については、地盤調査の方法と解説1)において根拠が明記されているので、誤解のないようにして頂きたい。

改正された。以下の項目が主な改訂点である1)。 ①従来から用いられてきたマントルコーン(写真-

2)に加えて、新たな貫入先端のタイプであるフリクションスリーブマントルおよびシンプルコーンが追加された。

 ②連続貫入試験などの試験方法や測定項目が、全面的に改正された。

 ③試験結果から推定できる地盤定数や地盤構成が、装置や試験の方法ごとに細かく規定された。

 なお、地盤調査に関する JIS の ISO 規格との整合化は、機械式コーン貫入試験に限ったことではなく、標準貫入試験(JIS A 1219)などの他の方法についても実施された。

2.3 泥炭地盤における機械式コーン貫入試験の利

    用

 泥炭地盤に限らず、軟弱地盤上に道路盛土や河川堤防などの土構造物を建設する場合の安定性は、円弧すべり計算によるすべり安全率によって評価されるのが一般的である(図-1)。この計算には、地盤の非排水せん断強さが不可欠であり、その値が結果を大きく左右する重要な定数である。 一般的な土の場合は、不攪乱試料を採取して、一軸圧縮試験などの室内力学試験を実施して、非排水せん断強度を決定するのが通常である。しかし、泥炭地盤は極めて不均質に堆積していることから、数少ない室内力学試験結果(一軸圧縮試験など)をもって強度を決定するよりも、簡便に連続的な情報が得られる原位置試験結果から推定する方が合理的である。また、泥炭の一軸圧縮試験などにおいて、応力-ひずみ関係に明瞭なピークが現れることはまれであり、試料の破壊の見極めが難しい。以上の理由から、北海道の泥炭地盤では、機械式コーン貫入試験から非排水せん断強さを決定することが標準的であり、機械式コーン貫入試験の重要度は高い。

2.4 泥炭地盤に対する適用上の留意点

 機械式コーン貫入試験に関する ISO 規格では、我が国で広く用いられてきた試験方法(旧 JIS の方法:いわゆるダッチコーン)は認められているものの、その結果の利用は「他に情報がある場合、地盤構成の推定が可能」に限定されている。今回の地盤調査法に関する JIS 改訂では、ISO 規格の内容と整合をとることが原則的に求められたことから、新 JIS でも ISO 規格と同様な記述となっている。

図-1 円弧すべり破壊の模式図

図-2 電気式コーンの先端抵抗 qt と機械式コーン

の先端抵抗 qcd の関係

寒地土木研究所月報 №734 2014年7月 25

25

30

35

40

45

1 10 100 1,000 10,000

U(k

Pa)

t (s)

Uf=28.1kPa

U50=34.9kPa

t50=70s

1.E-08

1.E-07

1.E-06

1.E-05

1.E-04

0.1 1 10 100 1000

k in-

situ

(m/s

)

t50 (min)

kin-situ= 5.3x10-6 t50-0.75

             (2)

したがって、電気式コーン貫入試験によって、泥炭の非排水せん断強さ Su を決定する場合、Su = qt /20を適用できると判断された。この方法は、泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル(平成23年版)2)から採用されている。

3.2 電気式コーン貫入試験による泥炭地盤の透水

    係数の推定7)

 泥炭地盤の変形解析として、弾塑性や弾粘塑性モデルを用いた FEM 解析が実施される事例が増えている。ところが、解析に用いる透水係数は、地盤変形の時間依存性に密接な関連を持つ重要なパラメータであるにもかかわらず、泥炭地盤における決定法が確立し

図-3 代表的な消散試験結果

図-4 t50と原位置透水係数の関係

3.泥炭地盤に対する電気式コーン貫入試験の利用に

  関する最近の研究成果

 機械式コーン貫入試験に類似した地盤調査法で、比較的新しいものに電気式コーン貫入試験がある。電気式コーン貫入試験は、コーン貫入抵抗の他にコーンが貫入する際に発生する地盤の間隙水圧やスリーブの周面に働く摩擦力などを電気的に同時測定できることから、多くの地盤情報を得ることが可能である。さらに、深度方向により細かく測定が可能であり、薄い砂層の介在を把握できるなど、その活用の範囲は機械式コーン貫入試験より広いと考えられる。そこで、寒地地盤チームでは、泥炭地盤に対する電気式コーン貫入試験の利用に関する研究を実施してきた。ここでは、その成果を紹介したい。 なお、今回の一連の改訂作業において、電気式コーン貫入試験に関する地盤工学会基準(JGS 1435)4)の見直しも実施されている。

3.1 電気式コーン貫入試験による泥炭地盤の非排

    水せん断強さの決定5)

 泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル(平成14年版)6)においては、泥炭地盤の非排水せん断強さ Su(kN/m2)を機械式コーン貫入試験から式(1)を用いて推定することとしていた。ここで、qcd は機械式コーン貫入試験の貫入抵抗(kN/m2)である。

           (1)

 機械式コーン貫入試験と電気式コーン貫入試験を比較すると、貫入抵抗を支配すると言われているコーン先端角(60°)や底面積(10cm2)、貫入速度(2cm/min.)はほぼ同じであるが、コーン背後の形状が異なる。つまり、機械式コーンでは、コーンの背後が逆テーパ型であるのに対し、電気式コーンはコーン底部から背後への外径が一定である(写真-2)。このコーン形状の違いが貫入抵抗に与える影響、さらに電気式コーン試験によって泥炭地盤の非排水せん断強さを求める際のコーン係数を明らかにする必要がある。そこで、北海道の2箇所の泥炭地盤において、両者の比較を行った。図-2に土質別の電気式コーン貫入試験の先端抵抗 qt

と qcd の関係を示す。泥炭については、ばらつきが大きいものの、巨視的に見れば、式(2)の関係が認められる。

26 寒地土木研究所月報 №734 2014年7月

3) 佐々木晴美、能登繁幸:サウンディングによる泥炭のセン断強さの決定について、土と基礎、Vol.

  24、No.7、pp.13-18、1976.4) 地盤工学会:地盤調査の方法と解説、pp.366-403、

2013.5) 林宏親、西本聡:電気式静的コーン貫入試験によ

る泥炭地盤の非排水せん断強さの決定法、寒地土木研究所月報、No.699、pp.23-28、2011.

6) (独)北海道開発土木研究所:泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル、pp.47-50、2002.

7) 林宏親、山梨高裕、橋本聖、山木正彦:電気式コーン貫入試験を用いた泥炭地盤の透水係数の推定法、土木学会第69回年次学術講演会講演概要集、2014(投稿中).

8) Robertson, P., Sully, J., Woeller, D., Lunne, T., Powell, J. and Gillespie, D., Estimating Coefficient of Consolidation from Piezocone Tests, Canadian Geotechnical Journal, Vol.29, pp.539-550, 1992.

9) 田中洋行、榊原基生、後藤建次、鈴木耕司、深沢健:我が国の正規圧密された海性粘性土のコーン貫入から得られる特性、港研報告、Vol.31、No.4、pp.61-92、1992.

(文責:林 宏親)

ておらず、結果として信頼性の高い FEM 解析結果を得ることができない場合も少なくない。そこで、電気式コーン貫入試験を用いた間隙水圧消散試験(以下、消散試験)による透水係数の推定法を検討した。 コーンを粘性土や泥炭地盤に貫入すると比較的大きな過剰間隙水圧が発生する。調査対象深度までコーンを貫入させた後、そのまま放置すると、過剰間隙水圧が徐々に消散し、静水圧まで戻る。この特性を利用して、透水係数などを推定する方法を消散試験という。粘性土地盤に対しては、過剰間隙水圧が最大値の50%まで消散する時間(t50)を使った推定法が提案されている8)9)。既往の研究7)では、北海道内の泥炭地盤5箇所で消散試験とボーリング孔を利用した原位置透水試験を実施した。そのうちの代表的な消散試験結果を図

-3に示す。コーン貫入によって生じた過剰間隙水圧が、時間の経過とともに徐々に消散し、経過時間1000秒付近で定常状態に達した。この時の間隙水圧 uf は28.1kPa であり、測定深度の静水圧とほぼ一致した。t50は70秒であった。 他の調査箇所の結果も同様な整理を行い、各地点での t50を読み取った。その結果と原位置透水試験から得た透水係数の両対数における関係を図-4に示す。t50が大きくなるに伴い透水係数が比例的に小さくなる関係が認められることから、泥炭地盤においても消散試験から得た t50をインデックスとすることで両者の近似関係である式(3)を用いて透水係数が推定できる。ここで、kin-situ は透水係数(m/s)、t50の単位は min である。

                   (3)

4.あとがき

 寒地地盤チームでは、現在、泥炭地盤における道路盛土の合理的な維持管理や盛土の耐震性に関する研究を実施している。その成果については、機会を改めて報告したい。また、最終的には、泥炭性軟弱地盤対策工マニュアルの改訂などに反映させる予定である。

参考文献

1) 地盤工学会:地盤調査の方法と解説、pp.345-365、2013.

2) (独)土木研究所 寒地土木研究所:泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル、pp.47-50、2011.

寒地土木研究所月報 №734 2014年7月 27