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アマモ場再生ガイドブック (造成 年後のアマモ場の様子・御殿場海域) 1 平成 20 3 三重県農水商工部 水産基盤室 資料3 参考資料

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アマモ場再生ガイドブック

(造成 年後のアマモ場の様子・御殿場海域)1

平成 年 月20 3

三重県農水商工部 水産基盤室

資料3 参考資料

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目 次

……………………………………………………………………1はじめに

……………………………………………2第1編 アマモ場の基礎知識

……………………………………………1.1 アマモ場の定義と分類 2

………………………………………………(1) 藻場の定義と分類 2

…………………………………………(2) アマモ場の定義と分類 3

………………………………………………1.2 アマモ場の形成場所 4

……………………………………………(1) アマモ場の形成場所 4

…………………………………………(2) 日本のアマモ場の分布 4

……………………………………………………1.3 アマモ場の機能 5

……………………………………………………(1) 物質循環機能 6

…………………………………………………(2) 生物の共存機能 6

……………………………………………………(3) 環境保全機能 9

……………………………10第2編 アマモ場を取り巻く状況の変遷

……………………………………………………2.1 社会環境の変遷 10

……………………………2.2 県下におけるアマモ場の分布の変遷 11

…………………………………………(1) 日本のアマモ場の変遷 11

……………………………………(2) 三重県のアマモ場分布調査 12

………………………………………(3) 三重県のアマモ場の変遷 12

…………………………………(4) 三重県のアマモ場の減少要因 13

…………………………………………2.3 アマモ場再生事業の変遷 17

………………………………(1) 日本のアマモ場再生事業の変遷 17

………………………………………(2) アマモ場再生技術の変遷 17

……………………………………(3) 三重県のアマモ場再生事業 18

……………………21第3編 県下に分布する主な海草と環境条件

………3.1 県下に分布する主な海草(アマモ場構成種)の生活史 21

…………………………………………………(1) アマモの生活史 22

………………………………………(2) 三重県のアマモの生活史 24

………………………………………………(3) コアマモの生活史 25

……………………………………………(4) ウミヒルモの生活史 25

………………………3.2 アマモ場の分布に影響を及ぼす環境条件 26

……………………………………………………………(1) 底 質 26

…………………………………………………………(2) 砂面変動 26

………………………………………………………(3) 水温・光量 27

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…………………………3.3 アマモにとっての競合生物、食害生物 28

…………………………………………………………(1) 競合生物 28

…………………………………………………………(2) 食害生物 28

……………………………………………………(3) 漁業との競合 28

……………………………29第4編 アマモ場再生計画・設計フロー

…………………………………4.1 アマモ場再生の基本的な考え方 29

………………………………………4.2 アマモ場再生への計画手順 30

………………………………………………………(1) 計画・準備 31

……………………………………………(2) 基本設計・実施設計 32

……………………………………………………………(3) 施 工 33

………………………………………(4) モニタリング・維持管理 33

…………………………………………4.3 再生規模及び場所の選定 34

………………………………………(1) 再生規模及び場所の選定 34

……………………………(2) 競合生物・食害生物及び漁業対策 37

……………………………………4.4 種子の確保・供給方法の検討 39

……………………………………(1) 種子確保における配慮事項 39

…………………………………(2) 種子の発芽における生育環境 41

………………………………………………42第5編 施工と維持管理

…………………………………………………5.1 種子の準備・供給 42

……………………………5.2 施工時の留意点(再生技術の選定) 45

…………………………………………………(1) 再生技術の選定 45

………………………(2) 三重県で採用されたアマモ場再生技術 46

……………………………………………(3) 三重県での主な実績 50

………………………………5.3 施工後のモニタリングと維持管理 53

………………………………………………(1) モニタリング調査 53

…………………………………………………………(2) 維持管理 54

………………………………………………………………5.4 評 価 55

………………………56第6編 漁業者・地域住民等との協働体制

……………………………………………………………………参考文献 61

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はじめに

伊勢湾・英虞湾等の砂泥域にあるアマモ場は、水産生物の産卵や稚仔魚の生育の場であ

るとともに、海中の窒素やリンなどの栄養塩を吸収・固定し水質を浄化するなど、水産資

源の維持・増殖に重要な役割を果たしている。

しかし、近年海岸線の開発等により、干潟やアマモ場が埋め立てられ、消失し、その植

生面積は減少している。そこで三重県では消失・減少した干潟やアマモ場の再生及び造成

を目的として、平成 年度より現存するアマモ場の現況調査、生育環境条件の研究、現12地再生実験等の事業を実施している。

本業務においては、これまでの県下での調査・研究成果を踏まえて、伊勢湾、英虞湾等

でのアマモ場の分布、消長傾向とその要因等を取りまとめるとともに、アマモに関する各

種知見とアマモ場保全再生技術に関する過去の調査等の情報を整理し、今後の県下におけ

るアマモ場再生事業の実施、漁業者等の各地先での取り組みを啓発するためのガイドブッ

クを作成するものである。

ガイドブックは、地域の環境特性や海草の生理生態を踏まえ、アマモ場再生事業の計画

・設計・施工の各段階においての指針となり、また漁業者、地域住民等に対しアマモ場保

全・再生の取り組みへの啓発を図るためのガイドラインになるものとする。

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第1編 アマモ場の基礎知識

1.1 アマモ場の定義と分類

( )藻場の定義と分類1海中に生育する大型海藻もしくは海草の群落と、それを基礎とする生物群集や環境は、

「藻場」と呼ばれている。「藻場」は、海草或いは海藻が、かなりの密度である程度の

規模(面積)で優占的に群落を形成しているような場所の呼び名である。

藻場は、表 に示すように、藻場を構成する主要な種によって区分され、それぞれ1.1の呼称も異なっている。これらの藻場のうち代表的なものは、アマモ場、ガラモ場、ア

ラメ・カジメ場である(図 参照)。1.1

表1.1 藻場の区分

藻場タイプの区分 構 成 種

アマモ場 アマモ科などの海草類(花を咲かせ種子を形成する植物)ガラモ場 ホンダワラ科(ヤツマタモク、マメタワラ等)アラメ・カジメ場 コンブ科(アラメ・カジメ等)コンブ場 コンブ科(マコンブ、ミツイシコンブ等)ワカメ場 チガイソ科(ワカメ、ヒロメ等)コンブ科(アントクメ等)テングサ場 テングサ科(マクサ、オバクサ等)アオサ・アオノリ場 アオサ科(アナアオサ、スジアオノリ等)その他 その他の藻場

アマモ場

ガラモ場 アラメ・カジメ場

図1.1 代表的な藻場

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( )アマモ場の定義と分類2世界に分布する海草種は、 科 属 種が確認されており、そのうち我が国では表5 12 59のように 科 属 種が知られている 。アマモ科は、全世界でも 種に分類さ1.2 3 8 16 182)

れているが、そのうち 種が分布する日本列島は、世界で最もアマモ科の多様性が高い7地域とされている。また、全 種のアマモ類のうち、絶滅危惧種( )として 種、16 VU 4準絶滅危惧種( )として 種がレッドデータブック に掲載されている。三重県 でNT 9 3 4) )

は、コアマモが絶滅危惧種( )として選定されている。VU一般に、これらの海草種を総称してアマモ類と呼称し、その群落が形成されている場

所を「アマモ場」と呼んでいる。これらの海草種の中で、我が国沿岸に広範囲に分布し、

大規模な群落を形成しているのはアマモ( )である。Zostera marinaアマモは、三重県では地域により「アジモ」「アマジ」と呼ばれている 。

5)

) )表1.2 アマモ類の種類 1 2

) )科 属 種 名(カテゴリー ) 分布域区分*1 *2

TEアマモ科 アマモ属 アマモDD AR,TE,TRコアマモ ( )

VU TEタチアマモ ( )VU TE,ARオオアマモ ( )NT TE,TRスゲアマモ ( )

TE,ARスガモ属 スガモNT TEエビアマモ ( )

NT TRシオニラ科 ウミジグサ属 ウミジグサ ( )NT TR(ベニアマモ科) マツバウミジグサ ( )

NT TRボウバアマモ属 ボウバアマモ ( )

NT TRリュウキュウアマモ属 リュウキュウアマモ ( )NT TRベニアマモ ( )

NT TR,TEトチカガミ科 ウミヒルモ属 ウミヒルモ ( )VU TRヒメウミヒルモ ( )

NT TRリュウキュウスガモ属 リュウキュウスガモ ( )

VU TRウミショウブ属 ウミショウブ ( ))*1)カテゴリー区分

3

・絶滅危惧Ⅱ類( ):絶滅の危惧が増大している種VU・準絶滅危惧種( ):現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件によってはNT

「絶滅危惧」(絶滅のおそれのある種)に移行する可能性のある種・情 報 不 足( ):評価するだけの情報が不足している種DD

)分布域*2・ :熱帯から亜熱帯TR・ :温帯TE・ :亜寒帯AR

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1.2 アマモ場の形成場所

( )アマモ場の形成場所1日本の沿岸域において、海草・海藻が生育できる水深 以浅の海域面積は約20m

であり、 年における現存する海草藻場と海藻藻場の総面積は3,088,000ha 1991である。このように、海草及び海藻の分布範囲は、生育可能面積の を占201,212ha 6.5%1)

めるにすぎず、沿岸域のごく一部の範囲に限られている。特にアマモ場は、地理的に、

人為的な影響を受けやすい場所にあるため、埋立や干拓等による消滅の危機にさらされ

やすい。

図 に示す代表的な藻場のうち、ガラモ場とアラメ・カジメ場は、岩礁等の基質上1.1に形成されるのに対し、アマモ場は(図 )、主に内湾沿岸の比較的静穏な浅海域で、1.2砂泥質の海底に形成される。ただし、スガモ、エビアマモは岩礁性である。

( )日本のアマモ場の分布2アマモ場は、図 に示すように、日本各地沿岸に分布している。1.2日本に分布するアマモ類(表 参照)のうちアマモ科 種は、主に温帯から亜寒帯1.2 7

に分布し、シオニラ科の全種とトチカガミ科のほとんどの種は、熱帯から亜熱帯に分布

する熱帯種で、南西諸島以南に分布する。

)図1.2 現存アマモ場の分布状況(1991年)6

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1.3 アマモ場の機能

アマモ場の機能は、その構造と密接に関係しており、表 に示すように物質循環、生1.3物の共存、環境保全の つの機能に大別される。3

表1.3 アマモ場の機能

物質循環機能

生物の共存機能 生物多様性の維持機能

幼稚魚育成機能

餌料供給機能

産卵場形成機能

環境保全機能 水質浄化機能

底質安定化機能

環境形成・維持機能

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( )物質循環機能1アマモ場における物質循環機能の概要を図 に示す。1.3アマモ及びその葉上に生育する付着藻類は、光合成により有機物を生産する「一次生

産」を行う。また、枯死したアマモは海底や砂浜で分解されてデトリタスとなり、底質

中に有機物を供給し、動物プランクトン、ゴカイ類、貝類等の餌として利用され、食物

連鎖により高次消費者を支えている。また、可溶性のものは再びアマモの葉や根から吸

収される。このようにアマモ場は、沿岸生態系における物質循環で重要な機能を果たし

ている。

図1.3 物質循環機能

( )生物の共存機能2アマモ場における生物の共存機能の概要を図 に示す。1.4

図1.4 生物の共存機能

枯死・堆積アマモ

砂 浜

窒素・リン等吸収

枯死・堆積

アマモ

溶出

栄養塩

付着藻類

吸収窒素・リンCO2

砂 浜

産 卵イカ類

付着藻類葉上動物

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①生物多様性の維持・餌料供給

アマモ場の複雑な空間構造は、多様な生物の生息場所となっている。アマモ自身に

珪藻や小型海藻が生育し、これらを餌とするヨコエビ・ワレカラ類等の小型生物が葉

上や葉の間に生息する。また、砂浜に打ち上げられたアマモは、分解される過程でバ

クテリアやヨコエビ、ウミセミ等の甲殻類やイソミミズ、ゴカイ類の餌料として利用

される。さらに、これらの小動物や分解過程の有機物を求めてメバルやスズキ等の魚

類が集まり、また、アマモ場周辺の底質中には、アサリ、ハマグリ、バカガイ等の二

枚貝が生息する。アマモ場では、水産上重要な魚介類にも利用され、漁場として高い

価値を有している。

岡山県牛窓町沿岸 では、図 のように年間の魚類捕獲状況とアマモの現存量に7) 1.5

比例関係が見られ、アマモ場の漁場としての機能を裏付けている。

このようにアマモ場は、多様な生物の生息場であるとともに、餌料供給の役割を果

たし、複雑な食物網が構成されている(図 )。1.6現在、国立環境研究所において、松名瀬海岸のアマモ場における食物連鎖網につい

て、解析調査が進められている。

図1.5 アマモ場における)年間魚類捕獲状況 7

図1.6 アマモ場における魚類を)中心とした食物連鎖 8

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②幼稚魚育成

アマモ場内に形成された複雑な空間は、外敵からの隠れ場所になり、また、餌も豊

富なことから、メバルやウミタナゴ、クロダイ、マダイ等の稚仔魚やイカの子の生息

場所となっている(図 参照)。また、アマモ場は流れを弱くする役割をし、アサ1.7リ浮遊幼生などの貝類の沈着場所であるとも言われている。

③産卵場形成

アマモ場内に形成された複雑で静穏な空間は、そこを産卵場するアオリイカやコウ

イカ等の魚介類によって利用されている(図 参照)。1.8

アオリイカの卵塊 コウイカの卵塊

図1.8 アマモ場における産卵場形成機能

メバル幼魚 ウミタナゴ幼魚

図1.7 アマモ場における幼稚魚育成機能

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( )環境保全機能3アマモ場における環境保全機能の概要を図 に示す。1.9

図1.9 環境保全機能

①水質浄化

アマモは、生育に伴い海中や土壌中から窒素やリンなどの栄養塩を吸収し、富栄養

化を防ぐ役割を果たしている。また、アマモ場の繁茂により流れが弱められ、海中の

懸濁物質の沈降を促し、水質浄化に貢献している。

②底質安定化

アマモ場は沖からの波浪を弱くし、また、地下茎と根束の伸長により海底基盤を安

定化させる(図 参照)。ま1.10た、漂砂などを抑制すること

で、砂浜や干潟の縮小を防止す

る。

③環境形成・維持

アマモ場内の静穏な空間は、

地上部が波浪を弱めることによ

って形成される。また、光合成

により を吸収し、酸素を供CO2

給することによって、アマモ場

内の環境形成や維持に貢献して

いる。図1.10 アマモ場の存否による

)海岸性状の相違 7

砂浜・干潟の縮小防止

吸収

CO2

吸収酸素CO2 懸濁物質

栄養塩吸収栄養塩の除去

波高の減少

流速の減少

沈降

底質の安定化

漁 獲

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第2編 アマモ場を取り巻く状況の変遷

2.1 社会環境の変遷

年代後半からの高度経済成長期には、開発と工業化の波がどっと押し寄せ、沿岸1960域に人口が集中し、大量の生活排水が海へ流入するとともに、沿岸域では埋立や海岸のコ

ンクリート化により自然環境が改変もしくは消失し、また、工場排水による水質汚濁など、

環境の悪化が進行した。その頃、三重県においても、四日市地域における石油化学コンビ

ナートが本格的に稼働し始めると、いわゆる四日市ぜんそくが発生し、硫黄酸化物やばい

じん等による大気汚染が社会問題となった。いわゆる「大量生産・大量消費・大量廃棄」

型の社会は、各地に公害や環境改変をもたらし、その対策が急務とされる時代であった。

年代までは、公害による人身被害の防止を目的に環境行政は進められ、産業活動1980を原因とする公害問題は、国や自治体の規制や事業者の努力により収束傾向に向かった。

これ以降、被害者と加害者がはっきりしない環境問題に対処するために、予防的な対応あ

るいは環境管理へと環境政策が方向転換してきた。また、自治体や民間企業でアマモ場再

生の研究が進められるようになった。

年の「地球サミット」から、国際的な潮流として「持続的発展」が重視されるよ1992うになり、我が国でも 年には環境基本法が制定された。翌 年には第一次環境基1993 1994本計画が策定され、「循環・共生・参加・国際的取り組み」をキーワードに、行政だけで

なく企業や市民もそれぞれの立場で環境への取り組みを求められるようになった。これは、

大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式が定着し、都市化の一層の進

展が見られる社会状況への反省と対応している。

その後、 年以降、第二次環境基本計画や自然再生推進法の制定もあり、過去に損2000なわれた自然環境を取り戻すため、関係省庁、地方公共団体、地域住民、 、専門家等NPOの地域の多様な主体による地域主導型の自然再生事業を進めることが求められている。

三重県では、平成 年に「三重県環境基本計画」が策定されたが、その後の状況の変化9により平成 年に改訂され、自治体が主体となって施策を展開し、率先して環境保全に16努めることを明らかにした。

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2.2 県下におけるアマモ場の分布の変遷

( )日本のアマモ場の変遷1日本沿岸におけるアマモ場は、明治以降衰退の一途をたどり、特に、高度経済成長期

には埋立などにより急速に衰退した。

環境庁による自然環境保全基礎調査 によると、 年から 年の間に消滅した6) 1978 1991

6,403ha 2,077ha海草及び海藻藻場の総面積は であり、このうちアマモ場の消滅面積は

であった(表 )。 年間でのアマモ場の消滅の比率は であり、約 のガラ2.1 13 4.0% 2.5%モ場やアラメ場より高い割合であった(図 )。2.1

)表2.1 現存藻場と消滅藻場面積 6

図2.1 現存藻場面積と消滅比率

現存面積(ha) 消滅面積(ha) 消滅比率(%)

藻場の区分 a:(1991年時点) b:(1978~1991年) b/(a+b)

アマモ場 49,464 2,077 4.0%

ガラモ場 85,682 2,315 2.6%

コンブ場 35,724 507 1.4%

アラメ・カジメ場 64,483 1,687 2.5%

ワカメ場 31,381 1,550 4.7%

テングサ場 19,024 1,388 6.8%

アオサ・アオノリ場 9,109 489 5.1%

その他 21,009 403 1.9%

注:同一の藻場が複数の区分で報告・計上されている場合があるため、  合計面積は実際の面積よりも多くなっている

0

25,000

50,000

75,000

100,000

アマモ場

ガラモ場

コンブ場

アラメ・カジメ場

ワカメ場

テングサ場

アオサ・アオノリ場

その他

面積(ha)

0%

2%

4%

6%

8%比率(%)

現存面積(ha) 消滅比率(%)

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( )三重県のアマモ場分布調査2三重県に関するアマモ場分布の調査は、愛知県水産試験場が 年当時の伊勢湾・1955

三河湾全体のアマモ場の分布について、漁業者に対する聞き取り調査を行っている。そ

の後は、三重県水産試験場による藻場保護水面調査、環境庁による 年の自然環境1978保全基礎調査、平賀による 年の三重県沿岸の藻場分布調査、日本水産資源保護協1990会による 年の中部新国際空港の漁業に関する調査、三重県による 年の航空写1993 2000真からの藻場分布判読や現地目視観察調査等が挙げられる。近年では、三重県地域結集

型共同事業(英虞湾再生プロジェクト)による ~ 年の英虞湾のアマモ場分布2004 2005調査が行われた。

( )三重県のアマモ場分布の変遷3環境庁の自然環境保全

基礎調査 によると、6)

年の三重県の藻場の1991総面積は であっ8,279haた。内訳を見ると (表

)、アラメ場が最も多2.2く 、次いでテング6,408haサ場が 、アマモ場5,051haは を示し、三重県321haの藻場面積の であった。1.5%

年当時の伊勢湾及び三河湾のアマモ場分布を見ると(図 )、伊勢湾沿岸の全1955 2.2域で が分布し、二見までの三重県沿岸域には が分布し、南北に伸びる11,500ha 4,500haアマモ場が広範囲に存在していた。その後 年には に半減し(図 )、1965 2,200ha 2.3

年以降は松阪市以南に点状に見られる程度に急激に減少し、木曽川から二見まで1970に限って言えば、 年の分布面積は となり、 年頃の僅か 程度に減2000 38ha 1955 1/100注 )1

少している 。9)

三重県全体のアマモ場については、 年の から、 年の 年間に消滅し1978 342ha 1991 13た面積は であった(表 )。また、三重県 による 年の長島から大王地区ま21ha 2.2 20005)

での調査では(図 、表 、図 )、主に五主、松名瀬、池の浦で大規模なアマモ2.4 2.3 2.5が確認され、合計面積は となった。また、 ~ 年の英虞湾の調査 では108ha 2004 2005 10)

(表 、図 )、アマモ場の合計面積は であった。英虞湾全体の面積は、干潮2.3 2.5 171ha時には であることから、湾全体の がアマモ場であると推定された 。調査2,700ha 6% 11)

年は異なるが、長島から大王までのアマモ場( 年)と英虞湾内( ~ 年)2000 2004 2005のアマモ場の面積の合計は、 となり、 年の と比較して、ここ 数年279ha 1991 321ha 10間で消滅したアマモ場は ( )であった。42ha 13%また、 年の調査では、熊野灘の紀伊長島(城ノ浜、三浦)でアマモが確認され2006

ている 。12)

注 )航空写真からの藻場分布域の判読のみのデータのため、現地目視観察による藻場分布面積を含まず1

)表2.2 三重県の現存藻場面積(1991)6

現存面積(ha) 消滅面積(ha) 消滅比率(%)

藻場の区分 a:(1991年時点) b:(1978~1991年) b/(a+b)

アマモ場 321 21 6.1%

ガラモ場 3,836 0 0.0%

アラメ・カジメ場 6,408 0 0.0%

ワカメ場 1,381 0 0.0%

テングサ場 5,051 0 0.0%

その他 3,718 0 0.0%注:同一の藻場が複数の区分で報告・計上されている場合があるため、  合計面積は実際の面積よりも多くなっている

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( )三重県のアマモ場の減少原因4アマモ場が 年代までに伊勢湾全体で減少した原因として、湾奥部についてはア1970

マモ場のあった浅海域が干拓等により消失したためと考えられる。

湾央部・湾口部については、水質や底質の悪化、採貝漁業による海底の掘り起こし、

ノリ養殖網による海底への太陽光の減少などが挙げられる。

伊勢湾口部から志摩半島沿岸域では、特に的矢湾や英虞湾奥部のアマモ場で、減少傾

向が著しく、生活排水等による水質の悪化や土砂流入などによる底質の変化などが原因

と考えられている 。13)

)図2.2 昭和30年当時の伊勢・三河湾アマモ類繁茂状況 13

「愛知県水産試験場聞き取り調査」より

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表2.3 三重県における)アマモ場面積 5 10)

伊勢湾(長島~大王・2000年)地区名 面積(ha) 備考

松 阪 地 区 24.2 多 年 生

明 和 地 区 27.8

二 見 地 区 20.7

答志島地区 2.4

鳥羽北地区 4.0

鳥羽南地区 1.5

的 矢 地 区 24.6

阿 児 地 区 2.9

合  計 108.1

英虞湾(2004~2005年)地区名 面積(ha) 備考

浜 島 地 区 29.8 多 年 生

深 谷 地 区 1.2

鵜 方 地 区 15.8 一 年 生

神 明 地 区 16.8

立 神 地 区 101.3

片 田 地 区 1.6

布施田地区 4.8

合  計 171.3

)図2.3 伊勢湾のアマモ場面積の変遷(二見まで)9

( 年は航空写真からの藻場分布域の判読のみ)2000

8km

1970年 1978年

8km

1965年

1979年

8km

2000,1995年

8km

1993年

8km

1990年

8km

1955年

71ha

141ha二見まで

38ha

66ha191ha

394ha二見まで

愛知県側

三重県側

愛知県側

三重県側 三重県側

愛知県側

6,900ha*

4,500ha*

愛知県側

三重県側 三重県側

2,200ha*

愛知県側

200ha*

三重県側

60ha*三重県側

82ha

愛知県側

159ha

三重県側

190ha*

1) 1)2) 3)

4) 5,6) 7) 8,9)

図2.4 三重県内の主なアマモ場分布場所

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(三雲~松名瀬・2000年)

(池の浦・2000年))図2.5(1) 三重県の主なアマモ場の分布状況 5

松名瀬

三雲町

75-100%

50-74%

25-49%

1-24%

凡例(百分率被度)

75-100%

50-74%

25-49%

1-24%

凡例(百分率被度)

池の浦

今一色

松下

75-100%

50-74%

25-49%

1-24%

凡例(百分率被度)

75-100%

50-74%

25-49%

1-24%

凡例(百分率被度)

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(的矢湾湾奥 ・2000年)5)

(英虞湾 ・2004~2005年)10)

図2.5(2) 三重県の主なアマモ場の分布状況

的矢湾

伊雑ノ浦

飯浜下之郷

坂崎

三ヶ所

穴川

的矢

安乗

75-100%

50-74%

25-49%

1-24%

凡例(百分率被度)

75-100%

50-74%

25-49%

1-24%

凡例(百分率被度)

鵜方神明

立神

深谷

片田布施田

浜島

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2.3 アマモ場再生事業の変遷

( )日本のアマモ場再生事業の変遷1日本沿岸域におけるアマモ場は、海岸構造物の建設や干拓事業などに伴う埋立や海へ

流入する無機塩類や有機物などの増加や富栄養化がもたらす透明度の低下などが主な消

滅原因として挙げられたが、原因不明とされたものもあった。アマモ場の消滅は、生息

場、産卵場としてアマモ場に依存する有用な魚介類の漁獲量減少などの影響をもたらし

たことから、水産資源増殖対策としてアマモ場再生が望まれるようになった。

アマモ場再生事業は、当初はアマモ場消滅に伴う漁獲量減少を背景に漁場整備を目的

として実施された事例が多く見られた。 年代頃までは愛知県、大分県、山口県等1970の自治体の水産試験研究機関などで試験的に実施した。 年代には、アマモ場の消1980滅原因や制限要因についての研究が盛んになり、広島県尾道で人工干潟浅海域上への移

植をはじめ、瀬戸内海沿岸自治体による小規模な再生事業が増加した。 年代には、1990アマモの消滅原因や制限要因の解明が進み、事前の環境調査に基づくアマモの生育阻害

条件の緩和や改善策を講じた上で、埋立等に伴う代償処置として大規模なアマモ場再生

事業が実施されるようになった。近年では、行政や 、漁業者、地域住民など多様NPOな主体によるアマモ場再生活動の活発に行われるようになってきている。

( )アマモ場再生技術の変遷2アマモ場再生技術の変遷を表 に示す。2.4アマモ場の生育に適した環境条件の場所を選定する際には、かつては干出しない場所

に限定して、底質等の生育環境条件を個別に評価した結果をもとに行っていた。現在で

は、光条件と水温条件が生育下限水深を規定し、波浪条件と底質の粒径から算定される

シールズ数が生育上限水深を規定していることが理解され、これらの生育限界値を用い

た評価手法が適用されるようになってきた。

アマモ場再生適地の生育環境改善対策としては、水中光量不足を解消するため、浚渫

土やカキ殻投入などの嵩上げ、海砂などを用いた覆砂等の底質改善が行われ、波浪条件

の緩和のため防波堤や離岸堤、消波堤等の設置等が行われている。

アマモ場再生技術については、マットやシートの中に種子を封入して海底に設置する

方法や、ゲル化したコロイダルシリカに種子を混入して播く方法など播種技術による実

績が多い。移植技術は、かつては小石結着など様々な手法が検討されていたが、現在で

は竹串や粘土で地下茎を固定して移植する方法が採用されている。

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)表2.4 アマモ場再生技術の変遷 2

( )三重県におけるアマモ場再生事業3三重県は、伊勢湾沿岸の砂浜、志摩半島から紀州にかけて点在する岩礁や砂利浜など

20 17豊かな海洋環境に恵まれ、古くから漁業が営まれている。現在年間 万トン(平成

年度)の漁獲量があり、全国でも有数の水産県となっている。

閉鎖性内湾である伊勢湾や英虞湾では、陸域からの汚染負荷等により海洋環境が悪化

し、漁業生産に大きな影響を与えている。

アマモ場をはじめとする藻場は、水産動物の産卵や幼稚魚の生育する再生産の場のみ

ならず、窒素やリンを取り込むことにより、水質浄化の機能を有するなど、重要かつ多

面的な機能を有しているものの、木曽川河口から二見までに限って言えば、アマモ場面

積は、 年前の 分の 程度に減少している。英虞湾を含む三重県内全体でも、こ50 100 1の 数年間で のアマモ場の減少が見られる。三重県におけるアマモ場の消失原因10 13%は、先述のように海岸線の開発等による干潟やアマモ場の埋め立て、底質や水質の悪化、

採貝による海底の掘り起こし、ノリ網の設置による海底に届く太陽光の減少など様々な

理由が指摘されている。アマモ場の消失は、沿岸漁業の衰退の原因にもなっている。

そこで、三重県では、伊勢湾内のアマモ場の保全・回復、水質の浄化能力の向上、水

産資源の維持増大、生産の安定を図る目的で、平成 年度よりアマモ場造成事業に積12極的に取り組み始めた。以下に各年度における事業実施状況を記す(図 参照)。2.6平成 ~ 年度は、伊勢湾地区のアマモ場造成の事業化に向けての基本計画策定の12 13

ための基礎資料として、松名瀬と池の浦でアマモ場形成等の制限要因を抽出するための

調査が実施され、アマモ場の分布と環境要因との相互関係について調査・検討がなされ

た結果、事業実施候補地として、二見浦周辺海域が選定された。

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平成 年度には、二見沖の事業候補海域における詳細な環境調査や実証試験が実施14され、アマモの生育制限要因は波浪による砂面変動であることが判明した。

平成 年度は、二見沖の試験マットのモニタリングとともに、波浪調査が実施され、15漂砂対策のための構造物の設置が提案された。また、新たな造成候補地である御殿場沖

を中心とした実証試験が実施され、今後の事業実施に向けた検討を行い、造成手法等が

提案された。留意すべき点としては、砂面変動、底質、漁業実態、塩分の 項目が挙げ4られた。

平成 年度は、二見沖の漂砂対策工法として、人工リーフが提案され、事業実施計16画が策定された。御殿場沖では、試験マットのモニタリングとともに新たな実証試験が

実施され、制限要因の解明・対策により造成の可能性が高まった。

平成 年度は、二見沖の人工リーフの工事が開始され、御殿場沖では新たに中規模17造成試験が実施された。また試験マットのモニタリングの結果、アマモの増殖が確認さ

れ、世代交代や周辺への広がりが期待された。

平成 年度からは、二見沖で潜堤の建設による波浪低減とアマモ場造成による魚介18類の育成場を確保するとともに、潜堤を利用した食用海藻類の生育を促進させ、採藻漁

業の創出を図る複合藻場造成による事業が カ年計画で実施された。この事業は、水産3物の供給や海洋環境の保全だけでなく、漁業者を主体とした地域と協働して進めていく

ことで、自立した地域社会を形成することを目的とした。

この他、三重大学や大阪大学とも連携し、アマモの発芽や生育環境に関する試験研究

や種子の採取や保存に関する試験研究、波浪解析研究等が実施されている。

このようにして事業が進められた結果、平成 年 月現在、両海域とも小規模なが20 3らアマモ場が定着し、メバルやガザミといった水産有用種の蝟集が確認され、御殿場沖

ではアオリイカによる産卵場としての利用も確認されている。

一方、閉鎖度の極めて高い英虞湾において、海底に堆積した汚泥の浄化と人工干潟、

浅場、藻場の造成による自然浄化能力の向上を目的とし、産学官民による地域結集型共

同研究として、平成 年から平成 年まで 年間事業が継続された。この事業では、15 19 5三重大学が主体となって様々なアマモ場造成工法が実施され、有効性が確かめられた。

また、アマモ場造成の一連の作業を、地域住民や漁業者と共同で行うことで、地域への

技術移転を図ることができた。

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図2.6 三重県におけるアマモ場再生事業の変遷

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第3編 県下に分布する主な海草と環境条件

3.1 県下に分布する主な海草(アマモ場構成種)の生活史

アマモ場再生事業を計画・検討するに当たっては、アマモ場構成種の生活史(成熟-生

殖-発芽-生長-枯死)を把握しておくことが必要である。中でも分布水深、成熟時期は

事業実施に当たって考慮すべき重要な要因である。

三重県には、アマモ、コアマモ、ウミヒルモ(図 )が生育し、これら 種について3.1 3の生活史、生育環境等について以下に記す。

(写真は三重大学藻類学研究室ホームページ より引用)14)

アマモ

コアマモ ウミヒルモ

図3.1 三重県に生育するアマモ類

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( )アマモの生活史1①多年生アマモ

アマモは、水中照度の高いところを好み、顕花植物として表層で開花する必要性か

ら、分布深度限界は最大 前後、多くの場合 ~ とされている。このため、10m 3 4m湾全体が極めて浅い場合を除くと、大小の斑状群落を形成し、海岸沿いに帯状に分布

することが多い 。日本各地沿岸に分布するが、奄美大島以南には分布しない。8)

アマモの生活史は、地域により差があるものの、およそ図 に示す通りであり、3.2種子による有性繁殖と地下茎の分枝による栄養繁殖の 通りの繁殖方法がある。2アマモは、春先に草体(栄養株)の一部が花枝(生殖株)に変化し、春から初夏

( ~ 月・ ~ ℃)にかけて花枝の先端の花穂に種子が作られる。海底に落ち3 6 13 21か す い

7 9 1 2た種子は、夏の高温期( ~ 月)を種子のまま過ごし、水温の低下する冬( ~

月・ ~ ℃)に発芽し、冬から春( ~ 月・ ~ ℃)にかけて生長する。15 12 2 6 12 21また、地下茎は、秋から春にかけて枝分かれを繰り返しながら伸長する。春から夏に

かけて繁殖・成熟した後、衰退期( ~ 月・ ℃以上)を迎え、枯死して堆積する7 9 22か流出し、秋になると草丈の短い草体のみとなる。

)図3.2 アマモの生活史 10

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②一年生アマモ

北半球に生育するアマモは、花枝と栄養株からなる多年生アマモが主流であるが、

地域によっては、成熟期に花枝のみからなり、発芽後一年以内に種子を作って枯死す

る一年生アマモの存在が報告されている。一年生の派生条件は明らかになっていない

が、共通点として、高水温、夏季の海水貧酸素、汽水域、光透過率が上げられるが、

実際に野生のアマモ場で、多年生と一年生を判別するのは難しい。現時点で一年生の

個体群が存在すると報告されている海域は、三重県の英虞湾奥部をはじめ、静岡県:

浜名湖、岡山県:備前市片上湾、高知県:土佐市竜漁港内、須崎市鳴無、鹿児島県:

錦江湾である 。2)

一年生及び多年生アマモの形態的な違いとしては、以下の 点が挙げられる。2

一年生アマモは花枝からなる

多年生アマモは時期によって一個体に栄養株と花枝がついているが、一年

生アマモのほとんどは、成熟期に花枝のみとなり、種子放出後の夏から秋に

かけて全て枯死・流出する。一年を通じてアマモが見られる藻場は、多年生

アマモが生育していると考えられる。

草本に違いがある

多年生アマモは一年生に比べ全長が大きく、地下茎がよく発達している。

一年生アマモは全体的に小さく、地下茎はほとんど発達しない。

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( )三重県のアマモの生活史2三重県のアマモは、先述の通り、松阪から阿児地区までの伊勢湾沿岸部と英虞湾口か

ら湾奥にかけての砂泥底及び熊野灘では紀伊長島の砂底で確認されている。

①松名瀬の多年生アマモ

3.3 3 10 3三重県の松名瀬でのアマモの生活史(図 )は、主に つに分けられた。 ~

月の水温が ~ ℃に低下する時期は、地下茎の分枝による新生株と種子の発芽に20 10よる幼体が出現し、草体長も高くなる分枝・発芽・伸長期であった。 ~ 月の水温3 6が ~ ℃と上昇していく時期は、成熟株が形成され、種子が成熟・放出される開10 20花・結実期であった。 ~ 月の水温が ℃以上となる時期は、現存量及び草体長6 9 25が減少する衰退期であった 。

15)

②英虞湾の一年生アマモ

三重県では、伊勢湾のアマモは多年生であるが、英虞湾には、一年生と多年生のア

マモが存在する(表 参照)。英虞湾口部の浜島や海水交換の良い深谷水道では、2.3多年生アマモが分布し、湾奥部(鵜方、神明、立神、片田、布施田)では、一年生ア

マモが分布している。

英虞湾の立神浦における一年生アマモは、 月下旬に種子が十分に成熟し、放出さ6れる。種子放出後、まず生殖株が枯死・流出する。 ~ 月にかけて栄養株も衰退し、7 9その後全ての草体は消失する。 ~ 月にかけて種子が一斉に発芽し、多量の発芽10 11体が加入する。 月以降分枝・伸長生長を繰り返し、 月には生殖株が見られるよう2 3になる。

)図3.3 松名瀬におけるアマモの生活史 15

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( )コアマモの生活史3コアマモは、アマモと近縁種であり、生育水深はアマモより浅く、干潟域に生育する

ことが可能な唯一の海草である。大潮干潮時には、干出したコアマモが観察されること

から、高温や乾燥などの厳しい環境条件にも耐える性質を持つ 。水深 ~ の干潮16) 1 2m

線上に多く、根茎は細くて堅い。種子や根茎で越冬する 。17)

一般的にコアマモは多年生草本で、アマモと同様に種子による有性繁殖と分枝による

栄養繁殖の 通りの繁殖方法を行う(図 参照)。有性繁殖では夏に草体が成熟して2 3.4花穂を持つ成熟株を形成し、秋になると種子が放出される。放出された種子は休眠後、

晩冬から初春にかけて発芽・伸長する。栄養繁殖では地下茎から新しい株が次々と形成

され、特に春から夏にかけて盛んに分枝が行われる。アマモが大きく連続した群落を形

成することが多いのに対し、コアマモは局所的で密な群落を作り、それらがパッチ状に

点在する傾向がある。 。18)

三重県では、英虞湾奥部や池の浦で確認されているが、池の浦のコアマモは、潮間帯

に生育し、潮間帯下部から漸深帯までアマモが群落を形成し 、生育場所は明確に棲み12)

分けられている。

( )ウミヒルモの生活史4ウミヒルモは、能登半島と東京湾以西の海岸で、水深 ~ の砂質底にやや群生す1 2m

る小型の常緑沈水性の多年生海草である。まばらに分枝しながら砂中を匍匐横走する。

花期は ~ 月で、雌花だけをつけた枝を見かけることが多いが、普通は雌雄同株 。7 8 19)

三重県では、英虞湾奥部や熊野灘の紀伊長島で確認されている 。12)

)図3.4 コアマモの生活史 18

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3.2 アマモ場の分布に影響を及ぼす環境条件

アマモ場再生の計画・設計を進めるに当たっては、アマモの生育・繁殖に及ぼす要因を

把握しておくことが重要である。

アマモの生育には様々な環境要因(図 )が関与しており、①物理的、②化学的、③3.5生物的環境条件に大別される。物理的環境条件としては、水深や水中光量、砂面変動、水

温等が挙げられ、化学的環境条件としては、塩分や底質等が挙げられる。また、生物的環

境条件としては、競合海藻、植食動物、漁業者によるによる漁業が挙げられる。

ここでは、研究事例の多いアマモの環境条件について、目安とされる参考値を表 に3.1示す。この中でも、主に底質、波・流れ、光量・水温、競合生物(「 アマモにとって3.3の競合生物、食害生物」参照)が重要であると考えられている。

( )底 質1アマモは、細かい砂に泥が少し混じった場所に生育しており、粗すぎる砂では地下茎

や根を伸ばすことができず、泥分が多すぎると根を支える力が弱く、根腐れを起こして

しまうため、再生地としては不適である。

( )砂面変動2アマモは、波浪や潮流により砂が流されて、地盤高が急に下がると、地下茎や根が露

出して流されやすくなり、反対に砂が堆積して地盤高が急に上がると、短い発芽体が埋

もれるなど、砂面変動による影響を受けやすい。

)図3.5 アマモの生育に影響を与える環境条件の関係 20

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( )水温・光量3アマモは、海水が濁って水中光量が少なくなる場所や水温が高くなる季節は、光合成

でできるエネルギーよりも、呼吸によって消費するエネルギーが大きくなり、枯死して

しまう。また、夏場の高水温には弱く、 月の平均水温が ℃を越えるような場所で8 28は適さない。

) )表3.1 アマモ場の環境条件 2 7

環境要因 項 目 参 考 値

物理的環境 水深(干出) 低潮時にアマモが干出しない場所1 2 10m→水深 ~ m(干出しないところ)から約

水中光量 アマモの生育には水中光量の絶対量が必要→ μ 以上が 日に ~ 時間以上100 mol/m /sec 1 6 82

→相対照度は ~ %程度、約 %以上あれば30 50 10生育可能

砂面変動 波浪や潮流によって底質が動き、アマモ地下部が洗われて流出したり砂に埋まったりしない波静かな砂底→ 以下、通常 ~ 以下10cm/day 2 3cm/day→掃流力(シールズ数ψ)は 以下0.2

水 温 アマモの地理的分布域は水温が最も重要な要因→ 月の平均水温 ℃以下8 28

透明度 透明度の 倍以内の水深水域が広域に存在すること22.3m 1.0m→年平均の最低値が 、最小測定値が

化学的環境 塩 分 アマモは塩分の大きな変動にも耐性がある→ 以上17

底 粒度組成 →砂泥分が ~ 、泥分が 以下80 100% 30%0.14 0.39mm中央粒径 ~

質→通常は 以下COD 10mg/gアマモの濃・密生場所では ~ 程度4 8mg/g

強熱減量 →通常 以下、濃・密生場所では 以下5% 4.4%生物的環境 競合生物 アオサ等の海藻が集積して底面を覆わない場所であること( 参照)3.3

植食動物 アイゴ、ブダイ、アメフラシ、巻貝等による食害イシガニやテッポウエビ類による株の切断

漁業の状態 底曳網漁によるアマモの引き抜きアサリ、ハマグリ漁での引き抜きや地下部の損傷

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3.3 アマモにとっての競合生物、食害生物

( )競合生物1富栄養化の進んだ内湾の浅い水域で

は、繁殖力の強いアオサの集積し、アマ

モが覆われてしまうため、水中光量不足

となり、生長が抑制されることがある

(図 )。3.6また、アマモの葉体表面に付着藻類が

多量に着生したり、ゴカイ類、コケムシ

類、ホヤ類等の無脊椎動物が付着するこ

とがあり、付着藻類が多量に付着する

と、アマモ自体の光合成が阻害された

り、付着物の重みでアマモ株が倒された

り(図 )することもある。3.7

( )食害生物2アマモの株や発芽した幼体を、付着珪

藻とともに摂餌するアメフラシ、ウニ、

巻貝等の匍匐性の動物や、アイゴ、ブダ

イ、カワハギ等の遊泳性の魚類によって

食害が起こる場合がある。

隠岐の島町のある地点では、初夏から

秋にかけて、アマモ場がアイゴに食われ

(図 )、草長が極端に短くなる現象が3.8観察されている。アイゴによる被食率

(=食われた葉の数/全葉数× )は、100若い葉で に達し、付着生物の多くな100%った古い葉でも高い被食率を示した 。21)

三重県においても、浜島でアイゴによ

る食害の痕跡が確認されている。

( )漁業との競合3アマモ場に対し、競合関係にある漁業としては、桁網漁業、採貝漁業(アサリ、ハマ

グリなど)、ナマコ漁業、ノリ養殖及び釣り等が挙げられる。桁網や採貝漁業は、海底

を掘り起こすため、アマモの生育基盤を損傷する。また、ノリ養殖では、ノリ網を張る

ことで海底への光量の低下を招く。

三重県では、伊勢湾のほとんどの海域は、ノリ及び採貝漁場となっており、アマモ場

の減少原因としても、採貝漁業やノリ養殖網による影響が挙げられている。

図3.6 アオサの集積する場所に生育するアマモの様子

図3.7 付着生物により垂れ下がるアマモの様子

図3.8 アイゴの食害によって葉が)短くなったアマモ場の様子 21

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第4編 アマモ場再生計画・設計フロー

4.1 アマモ場再生の基本的な考え方

以下に示す基本的な考え方に沿って、アマモ場再生の計画・設計、さらには事業の実施

に努める。

①アマモ場再生は、県・市町及び漁業者が一体となって取り組むべき事業である。

②アマモ場再生を効果的に進めるためには、海域環境の保全・修復に加え、山(森)・

川・海を一体的に捉えた環境への取り組みが必要である。

③アマモ場再生は、あくまでもアマモの繁殖を助けるための人為的な行為であり、アマ

モに適した生育条件を創出することが不可欠である。

④アマモの生活史を踏まえ、生長時期や成熟時期に応じた最適なタイミングで事業を実

施することが重要である。

⑤アマモ場の造成技術は発展途上であるため、実験的な取り組み並びにモニタリングに

基づく方法の修正(順応的管理)が必要である。そのためにも事業後にモニタリング

調査を実施し、その結果を当該事業や他の事業にフィードバックする必要がある。

⑥アマモの時間スケール(成熟・繁殖時期、生長・遷移期間)で事業を捉える必要があ

り、場合によっては、年度をまたぐような柔軟な事業の取り組みが必要となる。

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4.2 アマモ場再生への計画手順

図 に示すフローに沿って、アマモ場再生の計画・設計を進める。4.1

図4.1 アマモ場再生の検討フロー

施 工

モニタリング 維持管理

計画・準備

基本設計 実施設計

①再生候補地の設定

④アマモ場衰退・消失原因の考察

  ⑧詳細調査 ・地形測量・波浪調査・底質調査 ・水温・塩分調査・透明度・流況 ・水中光量 ・アマモ場分布

⑭施 工

⑮モニタリング

⑯維持管理

③概略調査

⑦試験造成・モニタリング

⑥アマモ場成立条件の整理詳細調査の計画

原因不明もしくは原因解消困難

原因解消可能

既存資料の整理と評価聞き取り調査・生育環境条件調査

⑤再生計画地の検討計画地の選定

【物理・化学的環境】水深・水温・塩分・水中光量砂面変動・流況・波浪・透明度底質(粒度組成・IL・硫化物・ORP)

【生物的環境】アマモ場分布競合生物漁業実態

⑨再生規模・場所の決定

⑪再生方法・技術の検討

   ⑫補助対策の検討     ・波浪制御     ・生育場の再生・造成     ・砂の補給対策等

計 画 断 念

②地元漁業者等との合意形成

合意形成困難

合意成立

原因不明もしくは原因解消困難

 ⑬種子の準備・供給

 ⑩種子の確保・供給方法の検討  ・採取地への影響  ・生活史(一年生と多年生)  ・遺伝的分化の保護  ・種子の採取・供給体制

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以下に記す計画手順は、図 に示す検討フローに沿うものであるが、各段階において、4.1専門家、県・市町、漁協等により十分協議し、その都度合意形成を図り、意識を共有する

ことが重要である。

( )計画・準備1①再生候補地の設定

地元の要望、社会的立地条件等の諸条件を勘案し、再生候補地を検討し、設定する。

本ガイドブックに示したアマモ場分布図の他、県や市町が有するデータに基づき、

アマモ場の変遷や現況を把握した上で(「第 編 県下におけるアマモ場分布の変2 2.2遷」参照)、アマモ場再生候補地を設定する。

【参考資料】

・三重県の藻場分布(農水商工部水産基盤室、 )2000・英虞湾のアマモ場分布(英虞湾再生プロジェクト、 )2007・三重県沿岸の藻場の分布(平賀、 )1993・第 回自然環境保全基礎調査(環境庁、 )2 1978

②地元漁業者等との合意形成

再生候補地の設定に対し、地元漁業者との合意形成を図る。この時点で、合意形成

が困難と判断された場合、その候補地での再生事業計画は断念する。

③概略調査

アマモ場再生事業の設計に先立ち、生育環境条件などの既存の資料を整理する。ま

た、計画地域の地形や海底地盤の状態、アマモ場の状態について、船上から目視観察

(箱メガネ、水中ビデオ等)によって概略を把握する。できれば潜水調査を行うこと

が望ましい。

また、伊勢湾内のほとんどの海域はノリ及び採貝漁場となっており、対象候補地の

漁業実態及び漁業形態の変化について聞き取りによって把握しておく必要がある。併

せて、航路位置やレクリエーション利用区域等を把握しておく。

④アマモ場衰退・消失原因の考察

かつては計画地域内もしくは近接してアマモ場が存在し、現在は衰退・消失してい

る場合には、既存資料や聞き取り調査の結果(表 参照)から、その原因について4.1考察する。

例えば、直接的にアサリ貝採取などの漁業によってアマモが引き抜かれるなどして

消失した場合、アマモ場造成によってアマモ場が再生される可能性を有すると判断で

きる。これに対し、海域の水質や底質が変化し、アマモの生育に適さない状態になっ

た結果、アマモ場が衰退・消失した場合には、水質や底質改善のための措置が必要で

あり、沿岸域の環境に対する広域的・根本的な取り組みが必要と判断される。

その他の原因でアマモ場が衰退・消失した場合、その原因を改善することができる

かどうかについて検討する。

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アマモ場がなかった場合及びアマモ場衰退・消失原因の不明もしくは解消困難であ

る場合、①再生候補地を再度検討する、或いは再生事業計画を断念する。

)表4.1 アマモ場衰退・消失原因の例 22

原 因 内 容

地形の変化 アマモの生育適正水深地形の消滅底質の変化 アマモの生育適正底質の変化波浪の変化 波浪上昇に伴う底泥堆積環境の変化水質(濁り)の変化 濁りの増大に伴う到達光量の減少水質(栄養塩)の変化 富栄養化による濁りの増大漁業活動の変化 漁具、漁法、漁場の変化人為的活動の変化 レジャーボートの航行、潮干狩り等のレジャー活動等の変化その他複合原因 上記原因の複合

⑤再生計画地の検討・計画地の選定

④までの検討をもとに、再生計画地を選定する。

( )基本設計・実施設計2⑥アマモ場成立条件の整理・詳細調査の計画

③におけるアマモ場に関する既存の知見、概略調査の結果を踏まえ、アマモの生育

に適した条件を整理する(表 参照)。また、それを基に詳細調査の計画を立てる。3.1

⑦試験造成・モニタリング

③概略調査を踏まえ、再生計画地において水深別に複数箇所で試験造成を行い、そ

の後の発芽・生育状況を定期的に観察する。発芽した実生株は、季節的な消長を繰り

返しながら、数年以内に安定した季節変動を示すが、不適地であれば、年を追うごと

に減少していく。

⑧詳細調査

⑥の調査計画をもとに、再生計画地において、アマモ場の地形測量や波浪調査、底

質、水温・塩分・透明度、流況、水中光量、アマモ場分布等について詳細な調査を行

い、アマモ場再生のための現時点での生育制限要因を定量的に解明し、抽出する。

⑨再生規模・場所の決定

再生計画地における⑦試験造成、⑧詳細な底質等の生育環境調査、アマモ場の分布

状況の確認等の調査結果を踏まえ、再生規模・場所、水深を絞り込む。(「第 編4造成規模及び場所の選定」参照)4.3

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⑩種子の確保・供給方法の検討

再生方法の検討に基づき、天然のアマモ場で自然に落下する種子を用いる方法を採

用する場合には、種子の確保の必要はない。その他の方法を採用する場合には人為的

な確保・供給が必要となる。

人為的に種子を確保する必要があると判断された場合、確保・供給方法を検討する。

(「第 編 種子の確保・供給方法の検討」参照)4 4.3

⑪再生方法・技術の検討

⑦の試験造成や⑧の再生計画地の詳細な地形や波浪条件を踏まえ、アマモ場再生に

用いる方法・技術を選定する。再生方法の種類は、種子を播く播種法、栄養株を移植

する栄養株移植、種から苗に育苗して移植する苗移植の つに大別される。再生技術3についても様々なタイプが提案されており、それらの中から海域の特性に応じたもの

を選定する。(「第 編 施工時の留意点」参照)5 5.2

⑫補助対策の検討

⑦の試験造成や⑧の詳細調査によって得られた知見により、再生計画地がアマモ場

の生育場として適していないと判断された場合、アマモ場の制限要因を抽出し、対策

を検討する。波浪の制御や、生育基盤の再生・造成等が挙げられる。

( )施工3⑬種子の準備・供給

⑩の種子の確保・供給方法の検討に基づき、種子や栄養株の供給が可能な時期等に

留意し、再生事業に必要な量の種子確保し、準備する。

⑭施工

アマモの発芽時期等に留意し、施工時期を決定する。

( )モニタリング・維持管理4⑮モニタリング

事業実施後、一定期間のモニタリングを行い、アマモ場再生の効果を検証する。ア

マモ場が良好に形成された場合には、その原因を取りまとめ、他の事業への参考とし

て活用する。アマモ場が形成されない場合には、その原因の解明・解消に努めるとと

もに、その結果を同様に他の事業への参考として活用する。(「第 編 モニタリ5 5.3ングと維持管理」参照)

⑯維持管理

モニタリングの結果から、再生場所に何らかの影響が見られる場合に、漁業者への

啓発や生育基盤の補修などの維持管理が必要となる。(「第 編 モニタリングと5 5.3維持管理」参照)

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4.3 再生規模及び場所の選定

再生計画地における試験造成やモニタリング、詳細な底質や波浪等の生育環境条件調査

で得られた結果をもとに、漁業者との協議・調整を踏まえ、再生規模・場所、水深を絞り

込む。場所の選定に当たっては、表 (再掲)の環境条件を参考とする。4.2再生規模及び場所の選定は、過大な作業負担にならないように現実的な規模とする必要

がある。また、場所によっては、競合生物や食害生物及び漁業対策が必要となる。

( )再生規模及び場所の選定1再生適地の水深については、波浪条件と底質の粒径などから生育上限水深を、水中光

量から生育下限水深を決定する。

また、現在大阪大学において、アマモ場の波浪減衰効果を考慮した適地選定モデルに

ついての研究が進められている。

①上限水深の決定

波浪や潮流の状況と砂の粒径や密度との関係を把握し、長時間地盤が安定する条件

にあるかを検討しておく必要がある。

再生計画地において、アマモの地下茎や芽が露出しない条件(底質の安定性)、発

芽時に種子が埋没し、流出しない条件を把握するためにシールズ数を用いて評価する。

シールズ数とは、砂の動きやすさ(図 )の指標であり、波浪が底質に作用する力4.2と底質粒子の自重による抵抗力の比で表される(図 )。計画地の平面水深データ、4.3月或いは四季別の最大有義波・平均有義波の波高・周期等の波浪条件と海水密度、底

質密度、粒径等の関係によって算出され、アマモの生育適地は 以下の場所が目安0.2とされている。図 のように、砂が浮遊して砂レンできるような場所では、アマモ4.2場再生は不適とされる。

図4.2 シールズ数別の砂の移動形態

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[シールズ数]

砂の移動形態が分類可能な無次元パラメータで、海岸工学の漂砂分野では通常よく

用いられている。

2砂を動かそうとする力 1 ρ f( )w wu= ×

摩擦抵抗 2 (ρ -ρ )gds w

= ψ (シールズ数)

図4.3(1) シールズ数(ψ)の概念

ここで、ρ :海水の密度、ρ :底質の密度、g:重力加速度、d、底質の粒径w s

:軌道流速振幅(図2参照)、f:摩擦係数を示す。uw

図4.3(2) 軌道流速振幅波による水粒子の軌道運動速度の底面境界層外縁での最大値

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②下限水深の決定

三重大学での生育環境条件試験 によると、アマモの生育下限水深は、主に水中の15)

光条件によって制限されているとされた。したがって、以下に示すモデル式によって

生育下限水深を推定することが可能であると考えられた。

再生計画地における水深及び水中光量子数の測定が必要とされ、光環境を把握する

指標として消散係数を求め、その最大値が生育限界水深と考えられる(図 参照)。4.4

[消散係数]

海水中に光線が透入するときに、深くなるにしたがって光が弱められる。その弱ま

り方を示す量を消散係数と呼ぶ。

の法則によれば、 (消散係数)、 (水深( ))、 (水面の光量子Beer-Lumbert k D m I0

数)、 (水深 の光量子数)の間には下式のような関係式が成り立つ。I DD

-kDI I eD 0=

したがって、 / = 、 ( / )=- 、 =( - )/ となI I e log I I kD k log I log I DD 0 D 0 e 0 e D-kD

り、 (水深 光量子数)が大きいほど、 (消散係数)は小さくなり、 が小さいI D k ID D

ほど、 (消散係数)は大きくなる。すなわち、消散係数が小さいほど、光の到達すkる水深が深くなり、消散係数が大きいほど、光の到達水深が浅くなる。

)図4.4 アマモ幼体の生育下限水深と吸光係数(消散係数)との関係 15

(m )

吸光係数(消散係数)

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( )競合生物・食害生物及び漁業対策2再生計画地においてアマモの生育の妨げとなるアオサ等の競合生物や食害生物に対し

ては、詳細調査によってできる限り把握し、予想される被害をなるべく避けるように再

生場所を選定する必要がある。

三重県内では、アイゴによる食害について確認されているが、大規模な被害は見られ

ていない。現在のところ対応策はなく、漁獲による海域からの取り上げに期待する。

三重県では、競合生物より漁労活動によるアマモ場への被害が大きいと言われている。

三重県内のアマモ場の形成される砂泥域は、海底の掘り起こしなど生育基盤を脅かす桁

網などの底曳漁場やアサリ、ハマグリなどの採貝漁場となっている場合が多い。

したがって、再生場所及び規模を設定する前に、地元漁業者と十分に協議し、合意形

成を図る必要があり、場合によっては漁業規制等の対策を検討しておく必要がある。ま

た、必要に応じて、単管パイプ等で再生場所を囲うなどの安全対策施設の設置を検討す

る(図 )。4.4

図4.4 安全対策施設の設置状況(御殿場海域)

海底面

小型標識灯

支柱

海面

播種シート

11m

ゾステラマット

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表4.2 アマモ場の環境条件(再掲)

環境要因 項 目 参 考 値

物理的環境 水深(干出) 低潮時にアマモが干出しない場所1 2 10m→水深 ~ m(干出しないところ)から約

水中光量 アマモの生育には水中光量の絶対量が必要→ μ 以上が 日に ~ 時間以上100 mol/m /sec 1 6 82

→相対照度は ~ %程度、約 %以上あれば30 50 10生育可能

砂面変動 波浪や潮流によって底質が動き、アマモ地下部が洗われて流出したり砂に埋まったりしない波静かな砂底→ 以下、通常 ~ 以下10cm/day 2 3cm/day→掃流力(シールズ数ψ)は 以下0.2

水 温 アマモの地理的分布域は水温が最も重要な要因→ 月の平均水温 ℃以下8 28

透明度 透明度の 倍以内の水深水域が広域に存在すること22.3m 1.0m→年平均の最低値が 、最小測定値が

化学的環境 塩 分 アマモは塩分の大きな変動にも耐性がある→ 以上17

底 粒度組成 →砂泥分が ~ 、泥分が 以下80 100% 30%0.14 0.39mm中央粒径 ~

質→通常は 以下COD 10mg/gアマモの濃・密生場所では ~ 程度4 8mg/g

強熱減量 →通常 以下、濃・密生場所では 以下5% 4.4%生物的環境 競合生物 アオサ等の海藻が集積して底面を覆わない場所であること

植食動物 アイゴ、ブダイ、アメフラシ、巻貝等による食害イシガニやテッポウエビ類による株の切断

漁業の状態 底曳網漁によるアマモの引き抜きアサリ、ハマグリ漁での引き抜きや地下部の損傷

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4.4 種子の確保・供給方法の検討

人為的に種子や栄養株を確保する必要があると判断された場合、確保・供給方法を検討

する必要がある。

種子確保についての配慮すべき事項と三重大学において実施された種子の発芽環境に関

する実験結果を以下に記す。

( )種子確保における配慮事項1①種苗採取地への影響

種子の採取で最も配慮しなければならないのは、種苗採取地でアマモ場に与える影

響を最小限に留めなければならない。

1 21 176単位面積当たりの花枝株数とアマモの花枝 株当たり得られる種子数( ~

粒)から、アマモ場全体の種子現存量を推定できる。アマモ種子現存量のうち、生態

系に影響を及ぼさない採取量は 以下と考えられる。三重県内の主なアマモ場にお1%)ける種子採取許容量は表 のように表される。5.1 23

伊勢湾でアマモ場再生を行う場合、年によって花枝株数及び種子の数は異なるが、

三雲~松名瀬での採取許容量は 万粒、池の浦では 万粒と推定され、英虞湾の369 90一年生アマモの種子については 万粒と推定された。なお、英虞湾口部では多年生491のアマモ場は極めて成熟率が低く、花枝はほとんどない。また、深谷水道は船舶の航

行が多いため、アマモの状況を把握することが困難である。船越の約 のアマモ場4haのみ種子採取が可能である。

表5.1 三重県におけるアマモ種子現存量及び採取適期

海 域 三雲~松名瀬 池の浦 英虞湾ア マ モ 場 規 模 約40ha 約10ha 約130ha生 活 史 多年生 多年生 一年生調 査 年 度 平成13年度 平成14年度 平成16年度

花枝株数(株/m2) 44~172株 44~52株 18~63株

種 子 現 存 量 3億6,900万粒以上 9,000万粒以上 4億914万粒以上種子採取許容量 369万粒 90万粒 491万粒採 取 適 期 5月中旬~6月上旬 6月上旬~下旬 5月中旬~6月上旬注:アマモの花枝1株から種子21~176粒が採捕  種子採取許容量は現存量の1%以下とされる  三重県・芙蓉海洋開発㈱(2005)を参考

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②採取時期

表 によると、三重県における主なアマモ場での種子採取適期は、年によって異5.1なるであろうが、三雲~松名瀬にかけての地区では 月中旬~ 月上旬、池の浦では5 6月上旬~下旬、英虞湾では 月中旬~ 月上旬とされている。6 5 6成熟期は 年間のうちの一時期に限られるため、失敗を防ぐためには、時期をずら1

して 回以上採取するが望ましいと考えられる。2

③遺伝的分化の保護

遺伝的多様性を基に設定した種苗の移動禁止ラインを見ると(図 )、三重県の5.1場合、県内産の種苗を移動する場合、遺伝的撹乱はないと考えられるが、基本的には

当該海域から採集した種子を基に、これを確実に種苗として増殖させて移植すること

が、生態系の保全の面からも必要と考えられている。

図5.1 アマモの遺伝的多様性を基に設定した)種苗の移動禁止ライン(2006年現在)2

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④生活史の確認

同一海域や周囲にアマモ場が分布している場合でも、生活史の異なるアマモ(多年

生、一年生)を混在させないことが重要である。

北半球に生息するアマモは、花枝と栄養株からなる多年生アマモが主流であるが、

地域によっては、成熟期に花枝のみからなる一年生アマモの存在が報告されており、

三重県においても立神をはじめ英虞湾奥部で確認されている(表 参照)。2.3多年生アマモの群落に一年生の遺伝情報が混入した場合、夏期から冬期の衰退期に

アマモ場が一旦消滅することにより、アマモ場の機能が低下し、その結果による環境

変化で一年生の群落形成さえ困難になることも考えられる。反対に一年生アマモの群

落に多年生の遺伝情報が混入した場合、開花、結実率の低下や実生の加入量の低下、

栄養株での越夏も困難になり、アマモ場が急速に衰退することも予想される。

以上のことから、アマモ場再生計画地及び種子採取地において、生活史の異なる集

団を混在させることは、厳に抑制されるべきである。

)( )種子の発芽における生育環境2 24

①アマモ種子の発芽に与える温度の影響

種子の保存期間と発芽温度の関係の実験によると、最大発芽率は ℃で ~10 47の発芽率を示し、 ℃でも ~ と高い値を示したが、 ℃、 ℃ではほ57% 15 35 41% 20 25

とんど発芽しなかった。高い発芽率を示した ~ ℃の温度範囲は、松名瀬海岸に10 15おける発芽時期( 月終わり~ 月)の平均水温( ~ ℃)に一致した。12 3 8 14種子は、発芽までに通常 週間~ ヶ月程度かかり、 ~ 日で発芽率が飽和に2 1 40 60

達した。種子の保存期間は、発芽開始に必要な日数にある程度の関係はあるが、発芽

率にはほとんど関係しない。

②アマモ種子の塩分濃度変化に対する発芽条件の検討

0 28.2アマモ種子の発芽と塩分濃度との関係の実験によると、発芽の開始は、 ~

( ~ )の低塩分濃度下に播種した場合に ~ 日目と早くなった。発芽数は、0 80% 7 1028.2 80% 27.2 32.2塩分濃度 ( )で最も多く、松名瀬海岸における発芽期の塩分濃度 ~

に近い。

7.06また、種子の発芽に対して最も効率の良い前処理の方法は、播種前に塩分濃度

( )の海水に種子を ヶ月間保存することであった。20% 1

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第5編 施工と維持管理

5.1 種子の準備・供給

種子の確保・供給方法の検討に基づき、種子や栄養株の供給が可能な時期等に留意し、

再生事業に必要な量の種子確保し、準備する。

種子の準備・供給方法としては、表 のような方法が挙げられる。5.1

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) )表5.1 種子の確保・供給 2 7

作業項目 作業内容及び注意点

花枝の採取 花枝の採取期間は、表層の海水温が ℃になり、種子の成熟が進む20月下旬から 月上旬を目安に行う(図 )。5 6 5.1成熟度の判定は、図 の判定図に従い、花穂内の種子が膨らみ始め5.2

たⅦの段階のものを採集する。

花枝の運搬 採取したアマモ花枝は、乾燥や温度上昇を防ぐため、注意して運搬す

・保管 る。(濡れ新聞紙をかぶせるなど)

アマモ花枝は、 本程度50に束ねて培養水槽や生け簀

に投入し、種子が放出され

るまで培養する。培養水槽

は、海水流水式の通気条件

で行い(図 )、海水交5.3換を良くするため、アマモ

の丈以上の水深が望まし

い。

図5.1 アマモ場と花枝採取の様子

図5.2 種子成熟度判定

図5.3 花枝保管の様子

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種子の回収 保管した花枝が全て枯れ、底に沈んだら、枯

・選別 れた枝や葉などをフルイ等で取り除き、回収し

た種子は、飽和食塩水で洗浄する。

発芽能力を有する種子は、比重が 以上と1.20大きくなるため、飽和食塩水中で沈んだ種子を

選別する(図 )。5.4花枝 本当たりから得られる良質な種子は、1~ 粒(平均 粒)とされる。20 40 30アマモの種子は乾燥したり高塩分の海水中に

長く漬けておくと発芽能力を失う。

種子の保管 良質な種子は、播種時期まで健全な状態で保管する必要がある。アマ

モ種子の発芽抑制や死亡率には、主に水温と塩分が関与している事が明

らかになっている。

20回収した種子は、水温

~ ℃、塩分 ~ の海23 30 35水中で活性炭を被覆して保

存する方法及び水温 ℃以5下で冷蔵保存する方法があ

る(図 )。海水と活性炭5.5は ヶ月に 回程度交換す1 1る。

保管中に白い綿状のカビ

が発生した場合は、速やかに腐敗した種子を取り除き、残った種子を海

水で洗浄するとともに、容器内の海水を交換する。

図5.4 種子の選別

図5.5 種子保管の様子

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5.2 施工時の留意点(再生技術の選定)

( )再生技術の選定1アマモ場の再生に用いる方法・技術の選定に当たっては、以下の事項に配慮する。

アマモ場再生計画地には、何らかの生育制限要因があり、その要因が改善されない限

り、アマモ場の再生はできないと考えられる。そのため、生育基盤の整備を優先的に検

討し、その上で播種や移植などの技術の必要性を検討する。

過去の実績や施工性、規模、コスト、その他それぞれの特徴や利点などを総合的に比

較した上で、再生技術を選定する。

アマモ場再生の方法は、種子を播く播種法、栄養株を移植する栄養株移植、種から苗

に育苗して移植する苗移植の つに大別される。その中でも主に表 に示すような再3 5.2生技術が挙げられ、その適正が評価されている。

技術の選定に際しては、先述のように(「 種子の確保・供給方法の検討」参照)、4.4種苗採取地への影響を最小限に留める配慮が必要である。種苗採取地で充分な量の栄養

株の確保ができる場合、栄養株移植は可能であるが、粘土結着法や竹串法などダイバー

作業に非常に手間がかかる。また、大量に移植する場合には、周辺に大規模なアマモ場

が存在することが前提となる。その点、自然繁殖工法は、天然アマモ場への負担が少な

い。また、種子の確保・供給に手間がかかり、発芽率は低いとされるが、天然アマモ場

への負担が少なく、確実に大規模に再生が可能なのは、播種による技術である。苗移植

は、育苗等の作業に手間がかかるが、市民が家庭でできる点で有効である。

表5.2 主なアマモ場再生技術環  境 規模

波 浪 底 質 小 中 大

アマモ場再生技術 強 弱 砂 砂泥多年生

一年生

0.1ha未満

1ha未満

1ha以上

国・

公共団体

NPO・

漁業者・

一般市民

児 童

播種 * ゾステラマット法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

* 播種シート法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

* シーダーテープ工法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

コロイダルシリカ法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

栄養株移植 粘土結着法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

竹串法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △

芝植え法・ポット法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △

* 自然繁殖工法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ △

苗移植 種苗生産と苗移植 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △注:表は「アマモ類の自然再生ガイドライン」(2007)を一部改変表中の凡例  環境/周辺のアマモ生態/規模・・・「○」:適正あり、空欄:適正なし  作業者・・・「○」:作業可能、「△」:一部作業可能、空欄:作業不可「*」は、これまでに三重県で採用された主な技術

周辺のアマモ生態

作業者

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( )三重県で採用されたアマモ場再生技術2以下に、三重県で採用された主な再生技術について記す。

①ゾステラマット(図 )5.6まず天然アマモ場で生殖株を採取し、追熟させて種子を得る。次いで、アマモ種子

をヤシ繊維のマットにはさみ、金網で固定する。マットをロープで連結し、船上から

海域に投入し、両端を固定する手法である。

本工法の特徴は、①全て腐食分解する天然素材でできている、②水中でも陸上でも

一人で移動可能なサイズである、③水槽などでアマモの苗を育成後も運搬可能、④ロ

ープで連結することで大規模なアマモ場再生が可能、⑤大規模なアマモ場再生を行う

前に小規模な試験設置にも対応できる、⑥海底面を大きく覆わないため、他の生物に

大きな影響はない、⑦重機を使用しないため、漁業者や でも利用できること、NPO等が挙げられる。

図5.6 ゾステラマットによるアマモ場再生工法

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②播種シート(図 )5.7播種シートの製作は、アマモ種子を生分解性不織布とヤシマットの間に (カCMC

ルボキシ・メチル・セルロース)で付着させ、菱形金網で固定する。播種シートの敷設

は、ロール状にしたシートを海底で展開し、U字杭の打ち込みによりシートの舞上り

防止をはかる。

本工法の特徴は、①アマモ種子や幼芽体の流出を防ぐ、②生分解性繊維や菱形金網

は生鉄を用い、腐食分解する、③ダイバー作業が少なく、大幅なコストダウンが可能、

等が挙げられる。

また、播種シートにより効果的に種子を固定できるため、再生適地の目安( 以0.2下)を越える 前後のシールズ数の場所でも実績を残している(兵庫県明石市) 。0.5 25)

播種シートの構造

播種シートの巻き取り(完成) 海底で播種シートを展開

図5.7 播種シートによるアマモ場再生工法

菱形金網(網目75mm、線径2.6mm、裸加工)

10m

2m

生分解性不織布(30g/m2)

ヤシマット(3mm)

シート捲き取り機

アマモ種子

約50cm

ホックリング50cm間隔

ホックリング

※アマモ種子は生分解性不織布とヤシマットの間に CMC(カルボキシ・メチル・セルロース)で付着※敷設時にシート舞上り防止策としてU型杭を シート上から砂に約1m間隔で打込み固定

D9 U型50㎝

10㎝

アマモ播種シート

舞上り防止杭

シート舞上り防止杭

2.0m

2.0m

アマモ播種シート

舞上り防止杭

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③自然繁殖工法(図 )5.8天然アマモ場の近くに移植用マットを設置し、マット上で自然発芽することでマッ

トにアマモを定着させ、移植地へ移設する。本工法は、天然アマモ場の自然発芽・増

殖力を利用した工法である。また、移植作業がマットの敷設と移設のみで効率的であ

り、かつ既存のアマモ場破壊の懸念もない。

三重県では、英虞湾で実施され、天然アマモ場に対し、 ~ の定着率で良好40 60%な移植が可能であることが実証された。

概念図

移植マットの構造

移植マット

図5.8 自然繁殖によるアマモ場再生工法

ヤシ繊維製マット

生分解性ネット

おもり用鎖

ヤシ繊維製マット

生分解性ネット

生分解性ネット

おもり用鎖断面図

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④シーダーテープ工法(図 )5.9簡易で機動性に富むことから、住民参加型のアマモ播種に適した工法として、実用

性が確認されている。本工法では、畑に作物の種を蒔くための「シーダー」と呼ばれ

る機械を使用し、あらかじめ種を織り込んだ「シーダーテープ」を、好きな深さに埋

めることができる。

アマモ播種は晩秋期に行うのが一般的で、低水温期における海中作業を伴うシーダ

ーテープ播種に住民参加を求めるのは難しい。三重県では、水温が上昇し、浅場での

作業で済む春季大潮の干潮時の播種の可能性について検討している。

シーダー テープシーダー シーダーテープ取り付け

播種機下部構造 施工試験

施工イメージ

図5.9 シーダーテープによるアマモ場再生工法

アマモ種子

テープシーダー(綿)

4cm

施工直後 2週間後

不織布は2週間後には分解され、種のみ海底に残る

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( )三重県での主な実績3上記の①ゾステラマット及び②播種シート法に関しては、御殿場や二見沖でのアマモ

場再生事業で主に採用されている。両海域におけるアマモ場の分布状況を以下に記す。

なお、三重県でのモニタリングなどの調査事例集は参考資料として巻末に添付する。

【御殿場海域】

平成 年度から中規模に開始された御殿場海域では、基盤外へのアマモ場の拡大15や世代交代も確認されている(図 )。また、アオリイカの産卵やメバル、クロダ5.10イ、カレイ幼魚の蝟集が確認され、周辺にはアサリやバカガイが生息するなど生物生

息の場として、また漁場としての機能を果たしていると考えられる(図 )。5.11

平成15年・平成16年度敷設海域(敷設後2年4ヶ月)

平成17年度敷設海域(敷設後1年4ヶ月))図5.10 アマモ場分布(平成19年3月・御殿場海域)26

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ゾステラマット 播種シート

平成16年度敷設海域(平成19年3月・敷設後2年4ヶ月)

平成17年度敷設海域(平成19年3月・敷設後1年4ヶ月)

アオリイカの産卵(平成19年6月) メバル幼魚群(平成18年12月))図5.11 ゾステラマット及び播種シートの様子(御殿場海域)26

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【二見沖海域】

平成 年 月に敷設した二見沖海域では、敷設後 ヶ月で、両種の間に発芽状況18 12 3の違いが見られた(図 )。5.12しかし、平成 年 月の観察では、播種シートの一部を除いて基盤上でアマモの19 6

繁茂が観察され、一部では基盤外に地下茎が伸長し、マット外への広がりが確認され

た。

また、平成 年 月以降の観察では、天然アマモ場と同様に再生アマモ場の被度19 10が大きく低下し、また、播種シートに関しては、大半の基盤が流出していることが観

察され、これらの原因の解明と対策が必要と考えられている。

ゾステラマット 播種シート

)図5.12 ゾステラマット及び播種シートの様子とアマモ被度(二見沖海域)27

(平成19年3月・敷設後3ヶ月)

A B C D E F G H I J

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

75~100%50~75%25~50%5~25%1~5%0%

潜  堤

K L M N O P Q R S T

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

潜  堤

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5.3 施工後のモニタリングと維持管理

( )モニタリング調査1事業実施後、一定期間のモニタリングを行い、アマモ場再生の効果を検証する。アマ

モ場が良好に形成された場合には、その原因を取りまとめ、他の事業への参考として活

用する。アマモ場が形成されない場合には、その原因の解明・解消に努めるとともに、

その結果を同様に他の事業への参考として活用する。

①アマモ場の分布状況及び機能

再生したアマモ場において、アマモの生育株数や葉長、分布状況を把握し(図

)、周辺に出現する魚類や底生生物、競合生物についても同時に観察する。また、5.13生殖株の出現状況や地下茎による基盤外への伸長などを調査し、アマモ場の拡大や世

代交代について把握する。 また、潜水観察や水中ビデオ撮影及び定量採集(刺網や

坪刈り調査など)を実施し、再生したアマモ場に蝟集する魚類や小動物の種類や個体

数をできる限り定量的に把握する。周辺に天然アマモ場がある場合には、同時に観察

を行い、比較対象とする。

アマモ場が形成されない場合、或いは再生したアマモ場が再び衰退した場合には、

写真やビデオなどによって状況を整理する

図5.13 アマモ分布状況の観察

水中カメラ撮影

目視観察

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②環境条件

再生したアマモ場に影響を及ぼす生育環境条件を把握するため、透明度、水温、塩

分、光量子量、濁度、流向・流速などの生育環境調査や簡易なレベル計による漂砂や

砂面変動の測定し(図 )、今後の事業の参考として、アマモ場の成立や衰退の要5.14因を比較検討しておくことが望ましい。

( )維持管理2上記モニタリング調査の結果を踏まえ、アマモ場再生地に何らかの影響が見られる場

合には、漁業者や関係機関などが協議し、アマモの生育を阻害する生物のコントロール

や生育基盤の補修などの維持管理が必要となる。

例えば、底曳網などの漁労活動によるアマモ場再生基盤の流出などに対しては、再生

地の周囲にポールを立てるなどして、基盤の存在を周知する。

図5.14 アマモ場での環境条件調査

水温計 光量子計

流速計

レベル計

この距離を読み取る

【砂面変動の測定方法】

50cm

レベル計

水温・塩分計 光量子計

流向・流速計

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5.4 評 価

再生したアマモ場を定量的に評価することは、今後のアマモ場再生事業にとっても漁業

者や地域住民等との協議を進める上で重要なことである。

アマモ場再生に伴い期待される主な効果として、稚仔魚の育成場や産卵場(水産資源増

殖)、水質浄化効果等が挙げられる(表 )。実際に先述の再生事例のように、御殿場5.3海域では、イカの産卵やメバル幼魚等の蝟集が確認されている。

モニタリング調査によって、近隣の天然のアマモ場とアマモの生育株数を比較すること

で、再生アマモ場を評価できる。

また、潜水観察や水中ビデオ撮影及び定量採集などにより、水産資源となる魚介類や餌

料生物となる葉上動物などをできる限り定量的に把握し、近隣のアマモ場と比較すること

でアマモ場の効果を評価できる。事前調査との比較によっても、再生による効果を比較す

ることができる。

表5.3 アマモ場に期待される主な効果

効 果 対象種等

資源増殖効果 ・イカ類の産卵の場や稚仔魚の隠れ家となる空間が存在する。

餌料供給効果 ・メバルやスズキ等の有用水産資源の餌料となる葉上動物や底生生物が存在する。

水質浄化効果 ・窒素やリンなどの栄養塩を吸収・固定し、除去する。

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第6編 漁業者・地域住民等との協働体制

アマモ場をはじめとした砂浜、磯、干潟、河口域は、様々な海岸動物や植物の生息地、

ある種の海洋動物の繁殖地、鳥類などの休息地などとして、沿岸生態系の重要な位置を

占めている。このような生物群集を有する沿岸生態系のうち、アマモ場は漁業などを通

じて人間にとっても昔から有用な環境として認識されてきた。

まず、アマモはそれ自身と付着する微細藻類による一次生産によって、海中では枯死

・分解後のデトリタスとして、また、枯死し砂浜に打ち上げられて砂中のバクテリアの

よって分解される。そして、海底上や砂の中の小さな生物がバクテリアや海藻を食べる。

近年、アマモ場近くの砂浜の砕波帯には、砂中小動物を求め多くの稚魚が集まっている

ことが知られ、アマモ場は餌料供給の元となっている。アマモは沿岸生態系における物

質循環で重要な役割を果たしている。また、アマモ場は、生物群集の生息場としての空

間を形成しており、葉上に生息する動物群やそれを目当てにアマモ場内に自由に出入り

する動物群、海底上または海底内に生息する底生動物など多様な生物群集によって利用

されている。従来より漁業者は、魚類がアマモ場によく集まってくることを経験的に知

っており、そのためアマモ場を大切な漁場とみなしてきた。また、アマモ場は魚類や無

脊椎動物の産卵場、そしてそれらの幼稚魚の餌場や育成場となっており、水産上大きな

役割を果たしていることが明らかとなってきている。さらに、アマモ場内に静穏な環境

を作り出すと同時に水中の懸濁物を堆積しやすくし、水質浄化や底質の安定化などの役

割も果たしている。

このようにアマモ場には、物質循環、生物の共存、環境保全機能が備わっている。

海の生物や環境に重要な役割を果たしているアマモ場を、水産物の安定供給の確保と

いう面から見ると、漁業生産に重要な役割を果たしている藻場・干潟を再生させること

は、地域住民のみならず国全体の課題でもある。

以上のことから、アマモ場の再生は、健全な沿岸生態系の回復への道であり、それは

また、近年顕著に見られる沿岸の漁業生産力の低下を向上させ、水産物の安定供給の確

保のための手段でもある。受益者及び利害関係者(ステークホルダー)は漁業者のみでな

いことを広く認識する必要がある。

そこで、「誰のためにのアマモ場再生か」「誰が行うのか」を十分検討・認識し、行

政、漁業者、地域住民の協働していくことが重要である。本来、受益者及び利害関係者

が地域の環境創造計画を立案し、維持管理も含めた計画を行うべきで、行政が各種計画

を代行していることを認識して、受益者及び利害関係者との意志疎通や理解を図ってい

くことが重要である。今後は、漁業者・地域住民が主体となって、県や市町等の関係機

関等と協力してアマモ場再生に取り組むことが重要であり、それによって、地域の共有

財産としての価値の向上に繋がるものと考えられる。

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[市民参加によるアマモ場再生の取り組み]

一口に「アマモ場再生」といっても、愛着のないアマモに対しては積極的になれない。

アマモ場再生事業は、県・市町や事業者だけで行うのではなく、地元漁業者を中心とし

て地域住民が一体となって取り組むべきであり、水産資源の維持増殖や水質浄化などの

アマモ場の重要性を知り、積極的にアマモ場再生活動に参加することが重要である。

ここでは、全国的な市民参加の取り組みを行っている事例を紹介する。

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①市民啓発

アマモについて市民の興味と関心を引き起こすため、 団体のアマモ種子バNPOンクでは、栽培用キット(アマモ種子、砂、生分解性袋、人工海水の素)を配布

し、空き瓶を用いて各家庭で育苗した苗を実海域に移植するという活動をしてい

る。この活動は が実施するというよりも、「地元の海は地元の手で」と地NPO元の市民活動団体が主体となり、 は協働、支援をし、継続的な事業となるよNPOう働きかけている。また、この事業は小中学校での総合学習、環境学習としても

取り上げられている。

この活動は、市民が家庭などで育苗を行うことで、播種、芽生え、生長などの過程

を観察することにより、アマモ場再生に密接に係わり、協働意識の向上が期待される。

育苗は、まず、アマモ栽培キットから、アマモ栽培ベッドを作成する(写真参照)。

ペットボトルに約 の水道水を入れ、人工海水の素を約 ~ %入れた後、よく300cc 2 3撹拌し、アマモ栽培ベッドを静かに入れ、ラップ又はポリ袋で蓋をする。窓際では光

が強すぎて生育不良となるため、若干暗い壁際の方が良好に育つ。

アマモ種子 人工海水の素 海 砂 栽培容器(生分解性)アマモ栽培キット

①容器に海砂を敷く → ②種子を播く → ③種子を砂で覆う → ④栽培ベッド完成(5mm程度)

⑤海水8分目の容器に入れ 作成の様子 アマモの発芽アマモ栽培キット完成

注:アマモ栽培キットや写真は 法人アマモ種子バンク 提供NPO28)

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②小浜湾アマモマーメイドプロジェクト

小浜水産高校ダイビングクラブでは、かつて湾内に群生していた環境浄化に効果の

あるアマモを復元する活動を行っている。小浜には人魚伝説があり、人魚伝説のモデ

ル「ジュゴン」はアマモを餌としている。このアマモを増やし、小浜湾を昔のような

澄んだきれいな海にし、再び人魚を呼び戻そうということを目標に「小浜湾アマモマ

ーメイドプロジェクト」が開始された。活動内容は以下の通り。

①地域への啓蒙活動(小学校・公民館等での勉強会・環境改善 活動)PR②定植活動(播種シート、育苗キット)

③アマモの研究活動(種子の発芽率向上を目指した研究活動)

活動は住民、小学校、商店街、企業、報道機関が協力し、成り立っている。地域の

支援者の中からは「アマモサポーターズ」という活動を支援する市民団体もでき、地

域の大きな動きとなっている。活動の成果として、定植の結果、一部でアマモ場の修

復をすることができた。また、平成 年度の発芽率が あったのに対し、研究の16 4%結果、約 にまで上げる方法を確立した。今後は山や川など小浜湾全体を考えた20%活動を展開していくことが考えられている。

高校生による地元小学校での説明 自宅で育てたアマモ苗

高校生による定植作業

注:写真は 法人アマモ種子バンク 提供NPO 28)

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③金沢八景-東京湾アマモ場再生会議による活動

豊かな東京湾の再生には、一部行政のみのアマモ場再生事業では困難であり、一般

市民の行動意欲を高め、参加することが必要である。そこで、金沢八景沿岸部周辺の

市民、 、企業、大学、研究機関、小中高校、漁業・遊魚船組合など多様なセクタNPOーによる協働によって、金沢八景の海にアマモ場を再生しようという活動が開始され

た( 年)。2003神奈川県におけるアマモ種苗生産は、県水産技術センターの施設を用い、多くの市

民が生産に参画していることに特色がある。特に、種子生産には、花枝の採取や成熟

種子の選別などの特定の期間に多くの人手を必要とする工程があり、作業をイベント

に仕立てて、多くの一般市民の参加を募る市民協働型の生産方式を確立した。同じく

造成作業についても、特殊な技能と機材を必要とする潜水作業は潜水士が担い、陸上

作業には子どもを含めた市民の直接参加を積極的に進めている。一般市民については、

水中の作業を実感し経験を共有させるために交代で船に乗せ、潜水作業の様子を海上

から箱眼鏡で見学するなどの工夫を図っている。

東京湾の造成適地の大半は潮干狩り場と重なっており、 年度は造成区画の半2003数以上がアサリ採取の大きな漁具(ジョレン)によって掘り取られてしまった。そこ

で、 年1月から海上にアマモ場の保護を呼びかける看板付きのブイを設置する2004一方、ゴールデンウィーク中には市民とともにビラ配りによる啓発活動を実施してい

る。 年 月からは、金沢区の横浜ベイサイドマリーナに隣接する人工浅場に、2006 4神奈川海区漁業調整委員会指示によるアマモ場保護区が設けられた。また、 年2005月に横浜港で開催された第 回全国豊かな海づくり大会では、東京湾再生のシン11 25

ボルとして天皇皇后両陛下から環境保全に取り組む市民にアマモの苗のお手渡しがな

された。

このようにして、神奈川県では、多様な集まりを巻き込み、またメディアに注目さ

れることにより、アマモ場再生活動の意義を多くの漁業者、市民に実感してもらうこ

とに成功し、アマモ場は播種・移植場所(写真)を中心に分布域を拡大している。

野島海岸におけるアマモ生育状況注:写真は金沢八景-東京湾アマモ場再生会議ホームページ より引用

29)

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参考文献

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14 15 3験結果、「平成 年度 伊勢湾地区藻場造成事業調査委託業務報告書平成 年

月」

)金澤剛・森鐘一( ):現地アマモ場造成試験と適地評価に関する研究、海岸工学25 200350 pp1266-1270論文集、第 巻

)三重県・芙蓉海洋開発株式会社( ):「平成 年度 伊勢湾地区沿岸漁場整備事26 2007 18業藻場造成調査委託業務報告書平成 年 月」19 3)三重県・いであ株式会社( ):「平成 年度 二見地区複合藻場造成等試験調査27 2007 18業務委託報告書平成 年 月」19 3)特定非営利法人アマモ種子バンクホームページ28

http://www10.ocn.ne.jp/^amamo.bk/)金沢八景-東京湾 アマモ場再生会議ホームページ29

http://www.amamo.org/